説明

水性インク、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、インクジェット記録装置及び画像形成方法

【課題】 顔料インクにおいて、少ないインク液滴量であっても十分に大きなエリアファクターを有し、且つ印字濃度の高い画像を得ることができ、更に保存安定性に優れた水性インクの提供。
【解決手段】 少なくとも、水、複数の水溶性有機溶剤及び色材を含有する水性インクにおいて、該色材が、顔料粒子表面に少なくとも1つのイオン性基が直接若しくは他の原子団を介して結合している顔料であり、該複数の水溶性有機溶剤が、前記顔料に対する良溶媒と、前記顔料に対する貧溶媒を含有し、該貧溶媒が前記顔料に対して完全に若しくは実質的に溶媒和せず、且つ、前記イオン性基が前記貧溶媒中において完全に若しくは実質的にイオン解離せず、且つ、ブリストウ法によって求められる、前記複数の水溶性有機溶剤の各々のKa値のうち最大のKa値を示す水溶性有機溶剤が前記貧溶媒であることを特徴とする水性インク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水、水溶性有機溶剤、及び顔料を含有する水性インクに関し、より詳しくは、インクジェット法を用いた記録方法や記録装置、更には、インクジェット記録方法(画像形成方法又は記録方法)に好適な水性インク、それを用いたインクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット、インクジェット記録装置及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、着色剤として顔料を含むインク(顔料インク)は、耐水性や耐光性等の堅牢性に優れた画像を与えることが知られている。近年、このようなインクによって形成されてなる画像の印字濃度をより一層向上すること、及び互いに異なる色の領域が隣接しているカラー画像記録を行った場合に、各色画像の境界部における混色(ブリード)をより有効に抑制することを目的として、種々の技術が提案されている。
【0003】
例えば、自己分散型カーボンブラックと特定の塩とを含有させてなるインクを用いることにより、より一層の画像濃度の向上を達成することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。又、顔料、ポリマー微粒子、水溶性有機溶剤及び水を含む組成物であるインクジェット記録用インクと、多価金属塩含有水溶液とを記録媒体に付着させ、該インク組成物と多価金属塩水溶液とを反応させて、高品位な画像を形成する技術の提案がある(例えば、特許文献2参照)。これらの技術では、何れの場合も、インク中に分散状態で存在している顔料を、記録媒体表面で強制的に凝集させることによって記録媒体中への顔料の浸透を抑制し、より一層濃度が高く、ブリードが抑制された画像を得ている。
【0004】
又、顔料インクは記録媒体上で顔料を凝集させているため、顔料が記録媒体の表面に残りやすい。特に、普通紙に顔料インクを用いて印字を行うと、印字後に十分な時間が経過した後であっても、印字面を強く擦ると汚れが生じたり、印字後の画像上に水性マーカーで筆記を行うと印字汚れが生じたりすることがある。つまり、顔料インクには、耐擦過性や耐マーカー性が乏しいという課題がある。
【0005】
これまでに耐擦過性の向上を目的としていくつかの取り組みが行われている。例えば、自己分散型顔料インクに水溶性エマルジョンを添加することにより耐擦過性の向上を試みる提案がある。(例えば、特許文献3〜5参照)
【特許文献1】特開2000−198955号公報
【特許文献2】特開2000−63719号公報
【特許文献3】特開平3−56573号公報
【特許文献4】特開2001−329199号公報
【特許文献5】特開2001−329200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、前記した技術では、記録媒体上で顔料粒子を凝集させているために、インク滴の体積に比較して、記録媒体表面を色材で被覆することのできる面積(いわゆる、エリアファクター)が十分でない場合があることがわかった。このことは、前記した技術では、従来の顔料を高分子分散剤等によって分散させた顔料インクと比較して、同じ画像濃度を得るために必要となるインクの付与量が多くなることを意味しており、この点で改善の余地があった。又、インクの記録媒体に対する浸透性を高めることにより、少ない体積のインク滴でも大きなエリアファクターを得る方法は存在する。しかし、インクの浸透性を高めた場合、当該インクは記録媒体の表面ばかりでなく、記録媒体の深さ方向へも浸透してしまい、十分な画像濃度が得られない場合があった。
【0007】
本発明者らが、従来のインクそれぞれの利点や欠点を追求し、画像自体の特徴を解析した。その結果、インク中の色材が高濃度であるほど、記録媒体表面に余分な色材が多く存在したり、視覚的に形状がばらついたドットを形成していたり、又、記録媒体中においては、発色に関与しない、無駄な色材が生じていたりすることが判明した。
【0008】
本発明者らは前記の技術課題の少なくとも1つを解決することで、従来よりも優れた画像を形成できることを見出した。本発明者らが見出した課題を以下に挙げるが、本発明は以下の課題の少なくとも一つを解決するものである。
(1)インク中に分散状態で存在している顔料を、記録媒体表面で強制的に凝集させる場合には、インク滴の体積に比較して、記録媒体表面を色材で被覆することのできる面積(いわゆる、エリアファクター)が十分でない場合がある。従って、同じ画像濃度を得るために必要となるインクの付与量が多くなるという課題。
(2)インクの浸透性を高める場合には、当該インクは記録媒体の表面ばかりでなく、記録媒体の厚み方向へも浸透してしまい、記録媒体の表面近傍に高濃度で色材を分布させることができず、高画像濃度を達成できないという課題。
【0009】
従って、本発明の目的は、顔料インクにおいて、少ないインク液滴量であっても十分に大きなエリアファクターを有し、且つ印字濃度の高い画像を得ることができ、更に保存安定性に優れた水性インクを提供することにある。
【0010】
又、本発明の他の目的は、前記構成の水性インクに、水溶性ポリマーを添加することで、耐擦過性に優れた水性インクを提供することにある。
【0011】
又、本発明の他の目的は、顔料を含有する水性インクを記録媒体に付与する工程と、該水性インクと接触することによって該水性インク中の顔料の分散状態を不安定化させる反応液を記録媒体に付与する工程とを有する画像形成方法(以後、2液システムと呼ぶこともある)においても、少ないインク液滴量であっても十分に大きなエリアファクターを有し、且つ印字濃度の高い画像を得ることができる水性インクを提供することにある。
【0012】
又、本発明の他の目的は、上記構成の水性インクを用いた、水性インクと反応液のセット、インクジェット記録方法、インクカートリッジ、記録ユニット及びインクジェット記録装置を提供することにある。
【0013】
更に、本発明の他の目的は、普通紙に互いに異なる色の領域が隣接しているカラー画像記録を行った場合に、各色画像の境界部における混色(ブリード)を有効に抑制することができる画像形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的は以下の本発明によって達成される。即ち、本発明の一実施態様にかかる水性インクは、少なくとも、水、複数の水溶性有機溶剤及び色材を含有する水性インクにおいて、該色材が、顔料粒子表面に少なくとも1つのイオン性基が直接若しくは他の原子団を介して結合している顔料であり、該複数の水溶性有機溶剤が、前記顔料に対する良溶媒と、前記顔料に対する貧溶媒を含有し、該貧溶媒が前記顔料に対して完全に若しくは実質的に溶媒和せず、且つ、前記イオン性基が前記貧溶媒中において完全に若しくは実質的にイオン解離せず、且つ、ブリストウ法によって求められる、前記複数の水溶性有機溶剤の各々のKa値のうち最大のKa値を示す水溶性有機溶剤が前記貧溶媒であることを特徴とする。
【0015】
又、本発明の別の実施態様にかかる水性インクは、少なくとも、水、複数の水溶性有機溶剤及び色材を含有する水性インクにおいて、該色材が、顔料粒子表面に少なくとも1つのイオン性基が直接若しくは他の原子団を介して結合している顔料であり、該複数の水溶性有機溶剤が、前記顔料に対する良溶媒と、前記顔料に対する貧溶媒を含有し、該貧溶媒が前記顔料に対して完全に若しくは実質的に溶媒和せず、且つ、前記イオン性基が前記貧溶媒中において完全に若しくは実質的にイオン解離せず、且つ、ブリストウ法によって求められる、前記複数の水溶性有機溶剤の各々のKa値のうち最大のKa値を示す水溶性有機溶剤が貧溶媒であり、且つ、水溶性ポリマーを含有し、該水溶性ポリマーが前記顔料に対して完全に若しくは実質的に吸着しないことを特徴とする。
【0016】
又、本発明の一実施態様にかかる水性インクは、顔料を含有する水性インクを記録媒体に付与する工程と、該水性インクと接触することによって該水性インク中の顔料の分散状態を不安定化させる反応液を記録媒体に付与する工程とを有する画像形成方法に用いる水性インクにおいて、前記水性インクとして上記構成の水性インクを用いることを特徴とする。
【0017】
又、本発明の一実施態様にかかる画像形成方法は、ブラックインクと少なくとも1色のカラーインクとを用いて記録媒体にインクジェット記録方式で記録を行う画像形成方法において、ブラックインクに上記構成の水性インクを用い、且つ、前記ブラックインクによって形成される画像と、カラーインクによって形成される画像とが隣接してなる画像を形成する際に、ブラックインクを付与する走査を行って画像を形成した後、該画像が形成された領域にカラーインクを付与する走査を行うことを特徴とする画像形成方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、顔料インクにおいて、少ないインク液滴量であっても十分に大きなエリアファクターを有し、且つ印字濃度の高い画像を得ることができ、更に保存安定性に優れた水性インクを提供することができる。又、本発明の別の実施態様によれば、前記効果に加えて更に、耐擦過性に優れた水性インクを提供することができる。又、本発明の別の実施態様によれば、水性インク中の顔料の分散状態を不安定化させる反応液が、記録媒体に定着した後に、該反応液が付与された部分に水性インクを付与し画像形成を行うシステムにおいても、少ないインク液滴量であっても十分に大きなエリアファクターを有し、且つ印字濃度の高い画像を得ることができる水性インクを提供することができる。又、本発明によれば、かかる水性インクを用いることで、少ないインク付与量で、印字濃度が高く、高品位な画像を形成することのできるインクジェット記録方法を提供することができる。又、本発明によれば、かかる水性インクを用いたインクカートリッジ、記録ユニット及びインクジェット記録装置を提供することができる。更に、本発明によれば、普通紙に互いに異なる色の領域が隣接しているカラー画像記録を行った場合に、各色画像の境界部における混色(ブリード)を有効に抑制することができる画像形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0020】
まず、本発明における貧溶媒、及び良溶媒について説明する。その定義の詳細については後述するが、色材として顔料粒子表面に少なくとも1つのイオン性基を直接若しくは他の原子団を介して結合している顔料を用いた場合、当該水溶性有機溶剤に対する前記顔料の分散安定性が良いものを良溶媒とし、悪いものを貧溶媒としている。又、前記顔料と前記貧溶媒とが、該貧溶媒が前記顔料に対して完全に若しくは実質的に溶媒和せず、且つ前記イオン性基が前記貧溶媒中において完全に若しくは実質的にイオン解離しない関係を有している。
【0021】
本発明の特徴は、顔料と共に水性インク中に含有させる水溶性有機溶剤に着目し、顔料を分散させる機能を有する水溶性有機溶剤を、当該顔料に対して、前記した貧溶媒としての挙動を示すもの、及び良溶媒としての挙動を示すものに分類した。そして、かかる構成とすることで、従来水性インクによる画像形成において種々の課題があった普通紙に対しても、ブリードが有効に抑制された画像が得られ、更に、付与するインク液滴量が少なくても十分に大きなエリアファクターを有し、且つ印字濃度の高い画像の形成が可能な水性インクが得られる。又、かかる水性インクを用いることで、高速印字、記録装置の小型化、消耗品を含めたコストダウンが図られ、しかも、堅牢性に優れ、より一層高い画像濃度を実現でき、高品位な画像の形成が可能となる、という顕著な効果が得られることを見出し、本発明に至ったものである。
【0022】
本発明にかかる水性インクは、少なくとも、水と、種類の異なる複数の水溶性有機溶剤と、色材、を含有する水性インクにおいて、該色材が顔料粒子表面に少なくとも1つのイオン性基を直接若しくは他の原子団を介して結合している顔料であり、該複数の水溶性有機溶剤が、前記顔料に対する良溶媒と、前記顔料に対する貧溶媒を含有し、該貧溶媒が該色材に対して完全に若しくは実質的に溶媒和せず、且つ前記イオン性基が前記貧溶媒中において完全に若しくは実質的にイオン解離しない。かかる水性インクがインクの状態であるときには、水と、顔料の良溶媒及び貧溶媒を含む水溶性有機溶剤と、顔料とは所定の比率で混合され、顔料の分散安定性が保たれている。
【0023】
[画像形成のメカニズム]
ここで、本発明における画像形成のメカニズムについて例を挙げて説明する。本発明にかかる水性インクが、記録媒体、特に普通紙上に印字された場合には、以下に述べるような理由によって、非常に優れた印字濃度及び印字品位をもたらすことが可能になると考えられる。
【0024】
即ち、図14(a)に示したように、本発明にかかるインク滴1301が、記録媒体1300、例えば普通紙上、に印字された場合には、インクが記録媒体上に着弾した瞬間から、インク中の水、顔料に対する良溶媒及び貧溶媒、顔料の比率は変化していく。つまり、図14(a)及び(b)に示したように、インク滴1301の記録媒体1300表面への着弾後に、インクが記録媒体へと定着していくにつれて、水の蒸発と共に、まず、インク中の水溶性有機溶剤のうちKa値が高い貧溶媒1307が、Ka値の低い良溶媒よりも記録媒体表面近傍で真円に近い形で拡散し、インクドットが形成されていくと考えられる。
【0025】
図14の(b)〜(d)は、インクが記録媒体1300上へ着弾してから後に定着するまでのインクの様子を示した模式図である。この場合におけるインクドットの広がり状態に着目すると、ドットの中心部1303と比べてインクと紙の接触部分におけるドットの外周1302において貧溶媒の濃度が高くなっていると考えられる。この結果、インクドットが記録媒体表面近傍で真円に近い形で拡散し、その拡散の過程で、顔料に対して貧溶媒1307の濃度が急激に増加する。この結果、浸透液体外周部1302において顔料に対する貧溶媒の比率が急激に増加し、該貧溶媒が顔料に対して実質的に溶媒和せず、且つ顔料のイオン性基が水溶性有機溶剤中で実質的にイオン解離していないため、顔料の分散が急激に不安定化し、顔料の凝集若しくは分散破壊が起こる。この際、記録媒体表面上に真円形に近い縁取りを取りつつ拡散し(図14(b)参照)、顔料1304が記録媒体1300の表面に留まることが起こり、ドットの外縁部分に、あたかも顔料の土手が形成されたかのようになる。このようにして、顔料のドットが真円形に形成され、その状態で記録媒体表面に固定化されると考えられる(図14(c)参照)。この時点において、顔料のドット形成は完了するが、インク中の水溶性有機溶剤及び水1306は更に拡散しながら放射状に広がっていく。つまり、顔料のドット形成後も、水溶性有機溶剤及び水1306は記録媒体表面近傍を拡散していく。それに引き続き、良溶媒リッチな中央部1303の水溶性有機溶剤の蒸発や浸透により、この部分においても顔料が析出してドット1305が形成される(図14(c)参照)。上記したようなプロセスによって形成される画像は、少ないインク液滴量であっても十分に大きなエリアファクターを有し、印字濃度が高く、ブリードが有効に抑制された高品位なものとなる。
【0026】
[良溶媒・貧溶媒の判別方法]
上記したような想定メカニズムの下で、本発明に用いる良溶媒及び貧溶媒は、顔料の分散状態を良好に維持できるか否かによって決定される。従って、本発明にかかる水性インクの調製にあたって、良溶媒と貧溶媒とを選択する場合には、使用する顔料の分散状態の安定度を観察し、その結果から求めることが好ましい。そして本発明者らは、本発明の効果をもたらす良溶媒と貧溶媒との判定の基準を、本発明の効果との関連の下で種々検討した結果、下記のような判定方法が有効であることを見出した。
【0027】
まず、判定対象の水溶性有機溶剤50質量%、及び水45質量%を含有し、且つ当該インクに用いる顔料5質量%を含有する、顔料の分散液を調製する。そして、調製した分散液を60℃で48時間保存したときの、当該分散液の顔料の平均粒径が、5質量%の上記顔料、及び水95質量%を含有する水分散液の顔料の平均粒径と比較して増加しているものを貧溶媒とし、又、当該分散液の顔料の平均粒径が、同じか、或いは減少しているものを良溶媒と規定した。
【0028】
より具体的には、下記の方法で、ある顔料に対して、使用される水溶性有機溶剤が良溶媒となっているか、或いは貧溶媒となっているかの判定を行った。まず、下記に挙げた、判定対象の水溶性有機溶剤を含有する、ある顔料の分散液A、及び該顔料の水分散液B、の2種類の分散液を調製する。
【0029】
分散液A:判定対象としての水溶性有機溶剤の濃度が50質量%、顔料の濃度が5質量%、水の濃度が45質量%である組成の顔料分散液。
【0030】
水分散液B:顔料の濃度が5質量%、水の濃度が95質量%である組成の水不溶性色材の水分散液。
【0031】
次に、前記分散液Aを60℃で48時間保存した後に常温に冷ました分散液Aの顔料の平均粒径を、濃厚系粒径アナライザー(商品名:FPAR−1000;大塚電子製)等を用いて測定した。又、前記水分散液Bは、加温保存を行わない状態の顔料の平均粒径を、上記と同様にして濃厚系粒径アナライザーを用いて測定した。そして、前記分散液A及び水分散液Bにおけるそれぞれの顔料の平均粒径値を、粒径(A)、粒径(B)としたときに、これらの値を次の定義に従って良溶媒と貧溶媒とに判別した。
・貧溶媒:粒径(A)が粒径(B)よりも大きい場合、当該判定対象の水溶性有機溶剤を貧溶媒として定義した。
・良溶媒:粒径(A)と粒径(B)と同じか、或いは粒径(A)が粒径(B)よりも減少した場合、当該判定対象の水溶性有機溶剤を良溶媒として定義した。
【0032】
このようにして判定された良溶媒と貧溶媒とを用いて本発明の構成を有するインクを調製したところ、前記したような優れた効果が得られることが確認できた。
【0033】
[溶媒和・イオン解離の定義]
次に、顔料と貧溶媒とが、該貧溶媒が該顔料に対して完全に若しくは実質的に溶媒和せず、且つ前記顔料粒子表面に直接若しくは他の原子団を介して結合している少なくとも1つのイオン性基が前記貧溶媒中において完全に若しくは実質的にイオン解離していないという現象に関して説明する。
【0034】
顔料粒子を分散させる一つの因子としてイオン解離から生じる静電反発がある。顔料粒子表面に少なくとも1つのイオン性基が直接若しくは他の原子団を介して結合している顔料においては、媒体中でイオン性基がイオン解離を生じることにより顔料粒子が帯電し、その結果生じる静電反発力が、顔料粒子を媒体中に分散させる一つの因子となる。このイオン解離の指標となるものの一つとして、媒体中におけるイオン間の吸引力が考えられる。互いに極性の異なる二つの電荷qとqが、真空の誘電率εに対する比誘電率εの媒体中で距離r離れたところに置かれたとした場合に、二つの電荷に働く吸引力Fは、下記式(1)で表されることが知られている。
【0035】
【数1】

【0036】
ここで、顔料粒子表面に結合しているイオン性基においても前記式(1)が適用されると考えられ、この吸引力Fが増大すると、イオンとそのカウンターイオン間の距離は短くなる、若しくは完全にイオン同士がイオン結合してしまい、顔料粒子の帯電量が減少若しくは電気二重層が圧縮されるために静電反発力が弱まり、顔料粒子の分散が不安定化する。そして前記式(1)から、真空の誘電率εに対する比誘電率εが小さい水溶性有機溶剤を用いた場合において、顔料粒子表面に結合しているイオン性基のイオン間吸引力が増大し、顔料のイオン性基が水溶性有機溶剤中で実質的にイオン解離していなく、静電反発力による顔料粒子の分散性が低下することが明らかである。
【0037】
しかしながら、顔料の分散性をイオン性基の溶媒に対する解離度だけで説明することは困難であった。
【0038】
そこで、本発明者らは、顔料粒子の分散に影響を与えるもう一つの因子として、媒体の顔料に対する溶媒和に注目した。本発明における溶媒和とは、顔料と溶媒の親和性であり、顔料が媒体と親和性のある部位をどの程度有しているかに依存する。媒体と親和性のある部位の一例は、イオン性基が結合されていない顔料粒子表面部位が挙げられる。例えば、イオン性基を有する基が高密度で顔料粒子表面に結合している場合、媒体と親和性のある顔料粒子表面部位の露出面積は小さくなり、更に高密度で顔料粒子表面を覆っているイオン性基による立体障害の影響との相乗効果により、媒体は顔料に対して溶媒和しにくくなり、顔料の分散性が低下すると推測される。
【0039】
前記イオン性基のイオン解離から生じる静電反発による分散、及び媒体の顔料に対する溶媒和による分散が完全に若しくは実質的に起こらないような顔料と水溶性有機溶剤の組み合わせを水性インクに適用した時、記録媒体において前述したプロセスによって画像が形成されるため、印字濃度が高く、ブリードが有効に抑制された高品位な画像が得られる。
【0040】
以下に、水溶性有機溶剤が顔料に対して完全に若しくは実質的に溶媒和せず、且つ顔料のイオン性基が水溶性有機溶剤中で完全に若しくは実質的にイオン解離しない、実質的に顔料が水溶性有機溶剤に対して分散しないことを判定する方法の一例を説明する。
【0041】
まず、顔料粒子表面に少なくとも1つのイオン性基が直接若しくは他の原子団を介して結合している顔料のイオン性基が、イオン解離していない状態の顔料を準備する。顔料を調製する過程において前記条件に適合するものがあればそれを用い、イオン解離を生じて分散している顔料分散液やインクの形態であれば、媒体等の顔料以外の成分を洗浄や蒸発等によって除去し、イオン性基がイオン解離していない固体状態の顔料を調製する。具体的には限外濾過や遠心分離、減圧・高温環境下による乾燥等が有効である。得られた顔料は、乳鉢等により粉末状に粉砕しておくことが望ましい。
【0042】
次に、上記のようにして得た顔料の粉砕物を、各種水溶性有機溶剤中に0.05質量%の濃度で加え、1時間程度撹拌する。この時点で、明確な固液相分離が目視により確認できる顔料と水溶性有機溶剤との組み合わせもある。これらの固液相分離を生じた組み合わせは、水溶性有機溶剤が顔料に対して完全に若しくは実質的に溶媒和せず、且つ顔料のイオン性基が水溶性有機溶剤中で完全に若しくは実質的にイオン解離しない、実質的に顔料が水溶性有機溶剤に対して分散しないものであると判断できる。
【0043】
更に、判定を確実に行うには以下のようにする。水溶性有機溶剤に対して実質的に分散していない顔料をある程度沈降させるために、前記顔料と水溶性有機溶剤の混合物を静置する。この際の静置条件は溶剤の粘度等にも依存するが、目安として常温で約100時間である。その後、液相の上部50質量%を静かに採取し、採取した液相の濾過を行い、浮遊している粗大粒子を除去する。濾過に用いるミクロフィルターのポアサイズは顔料の粒径に依存して決定するが、目安は水分散液における顔料の平均粒径の約10倍程度が挙げられる。その後、得られたろ液(色材溶剤分散液)中に含まれる顔料濃度を測定する。
【0044】
顔料濃度の測定方法の一例として、吸光度による測定が挙げられる。具体的には下記のようにして測定する。既知濃度(Ck質量%)の色材が水中に分散された色材の水分散液に、所定量の純水を加えて所定倍率に希釈し、550nmにおける吸光度を測定する。この吸光度の測定値を(ABS1)とする。次に濃度を求めたい色材溶剤分散液を上記と同様の倍率に純水で希釈し、同様に550nmにおける吸光度を測定する。この吸光度の測定値を(ABS2)とする。その結果、色材溶剤分散液中の色材濃度は以下の式(2)により算出される。
【0045】
【数2】

【0046】
上記のようにして求めた色材溶剤分散液中の色材濃度と、色材と水溶性有機溶剤の混合物中の初期色材濃度(上記の例では0.05質量%)の比率を用いて、色材溶剤分散率(%)を以下の式(3)のように定義する。
【0047】
【数3】

【0048】
上記のようにして求めた色材溶剤分散率が例えば16以下、好ましくは10以下、更に好ましくは5以下といった非常に小さいものに関しては、実質的に色材が水溶性有機溶剤に対して分散していないと判断でき、水溶性有機溶剤が色材に対して完全に若しくは実質的に溶媒和せず、且つ色材のイオン性基が水溶性有機溶剤中で完全に若しくは実質的にイオン解離していないと考えられる。
【0049】
上記した判定方法に加えて使用できる、顔料が水溶性有機溶剤と完全に若しくは実質的に溶媒和しない顔料であることを判定する方法や、顔料のイオン性基が水溶性有機溶剤中で完全に若しくは実質的にイオン解離していないことを判定する方法の一例について説明する。
【0050】
まずは、顔料が水溶性有機溶剤と完全に若しくは実質的に溶媒和しない顔料であることを判定する方法の一例についてであるが、これは顔料に対して界面活性剤がどの程度吸着するかを測定することにより判定が可能である。前記したように、溶媒和の程度は顔料が水溶性有機溶剤等の媒体と親和性のある部位をどの程度有しているかに依存し、前記部位の多少・大小は界面活性剤の吸着量と相関があるといえる。つまり、水溶性有機溶剤等の媒体と実質的に溶媒和する顔料では、前記親和性のある部位が多く又は大きく、界面活性剤の吸着量も大きくなる。逆に、水溶性有機溶剤等の媒体と完全に若しくは実質的に溶媒和しない顔料では、前記親和性のある部位が少なく又は小さく、界面活性剤の吸着量も非常に小さくなる。
【0051】
界面活性剤はその濃度によって液体の表面張力が顕著に変化するという特性を有するため、顔料に対して界面活性剤がどの程度吸着しているかを見積もる1つの指標として、表面張力の測定は有効な手段であると考えられる。例えば、ある一定濃度の界面活性剤を含有する水溶液の表面張力と、同濃度の界面活性剤と一定濃度の顔料及び水からなる液体の表面張力を比較したとき、顔料に対して界面活性剤がほとんど吸着しない場合、表面張力の低下に寄与する界面活性剤の有効濃度は両方の液体でほぼ等しくなるため、液体の表面張力もほぼ等しくなる。逆に、顔料に対する界面活性剤の吸着量が大きい場合は、顔料を含有する液体において界面活性剤の有効濃度が低下するため、顔料を含有しない界面活性剤水溶液に比べて表面張力の低下の度合いは小さくなる。つまり、顔料に液体の表面張力を顕著に低下させる効果が無い限り、ある一定濃度の界面活性剤を含有する水溶液の表面張力と、同濃度の界面活性剤と一定濃度の顔料及び水からなる液体の表面張力の差から、顔料に対して界面活性剤がどの程度吸着しているかを見積もることが可能である。
【0052】
具体的には、まず界面活性剤と水からなり、界面活性剤の濃度が2mmol/kgである液体(液体1)と、該界面活性剤、顔料及び水からなり、界面活性剤の濃度が2mmol/kgで、顔料の濃度が5質量%である液体(液体2)を調製する。界面活性剤は、その濃度によって液体の表面張力を顕著に変化させるものであれば特に制限はなく、前記(液体1)の表面張力が50mN/m以下となるものが好適である。具体的には、下記構造式(1)や構造式(2)で示される構造を有する界面活性剤が好ましい。
【0053】
【化1】

【0054】
【化2】

【0055】
前記(液体2)を調製する際に、顔料をインク形態から採取する場合には、限外濾過や遠心分離、減圧・高温環境下による乾燥等を用いて、顔料以外の成分を極力除去しておくことが好ましい。顔料以外の成分、例えばインク中に含有される溶剤や界面活性剤や添加剤等が多く残っていると、それらの成分によって液体の表面張力が変化したり、顔料に対する界面活性剤の吸着度合いが変化したりする可能性があるため、正確な判定結果が得られないおそれがあるからである。インクから採取された顔料と水からなり、顔料の濃度が5質量%である液体の表面張力が65mN/m以上となることが好ましい。
【0056】
上記の手順で調製した(液体1)及び(液体2)を十分撹拌した後、それぞれの表面張力を測定する。(液体1)の表面張力をA(mN/m)、(液体2)の表面張力をB(mN/m)としたとき、B−A≦10、好ましくはB−A≦5の関係が満たされる時、顔料に対して界面活性剤は完全に若しくは実質的に吸着していないと判断される。そして、このような顔料は水溶性有機溶剤等の媒体とも完全に若しくは実質的に溶媒和しない顔料であると判定される。
【0057】
次に、顔料のイオン性基が水溶性有機溶剤中で完全に若しくは実質的にイオン解離していないことを判定する方法の一例について説明する。例えば、かかる判定は、粒子の電気泳動測定やゼータ電位の測定により可能である。
【0058】
顔料のイオン性基が水溶性有機溶剤中で解離を生じる場合、顔料は電荷を帯びるため電場の存在化においてその極性に応じた特定の方向への移動、いわゆる電気泳動が起こる。又、このような電気泳動を起こす、電荷を帯びた顔料は、該水溶性有機溶剤中においてゼータ電位の絶対値として一定以上の値を有している。逆にいえば、イオン性基を有しているにもかかわらず、電場の存在化で特定方向への移動が完全に若しくは実質的にない、つまり完全に若しくは実質的に電気泳動が起こらず、ゼータ電位の絶対値としても(非常に)小さい値を有する顔料は、該水溶性有機溶剤中において完全に若しくは実質的に電荷を帯びていない、即ち顔料のイオン性基が完全に若しくは実質的にイオン解離していないと考えられる。
【0059】
具体的には、まず顔料若しくは顔料を含有するインクを各種水溶性有機溶剤で希釈する。顔料を含有するインクを用いた場合には、水や媒体等の顔料以外の成分も希釈液中に含まれてしまうわけであるが、非常に薄い濃度にまで希釈を行うため、それらの影響はほとんどなく、大過剰に存在する該水溶性有機溶剤と該顔料との相互作用が支配的であるとみなすことができる。
【0060】
この希釈液を、実際の粒子の動きが観察可能な顕微鏡方式ゼータ電位測定器(商品名:ZEECOM;マイクロテック・ニチオン製)を用い、電圧を加えたときに粒子が特定の方向へ完全に若しくは実質的に移動せず、完全に若しくは実質的に電気泳動しないと判断される場合、若しくは測定されたゼータ電位の絶対値が(非常に)小さい場合、該顔料のイオン性基が該水溶性有機溶剤中で完全に若しくは実質的にイオン解離していないと判断する。
【0061】
本発明にかかる水性インクは、水溶性有機溶剤を上記した特定の構成とする以外は、従来の顔料を含む水性インクと同様の構成とすればよい。即ち、本発明にかかる水性インクの第1の特徴は、少なくとも水、複数の水溶性有機溶剤、色材とからなるが、該色材が表面に少なくとも1つのイオン性基を直接若しくは他の原子団を介して結合している顔料であり、水溶性有機溶剤として、上記で述べたような判定方法によって判別された少なくとも1種の良溶媒である水溶性有機溶剤と、少なくとも1種の貧溶媒である水溶性有機溶剤とを含み、該貧溶媒が前記顔料に対して完全に若しくは実質的に溶媒和せず、且つ前記イオン性基が前記貧溶媒中において完全に若しくは実質的にイオン解離せず、且つ、ブリストウ法によって求められる、前記複数の水溶性有機溶剤の各々のKa値のうち最大のKa値を示す水溶性有機溶剤が前記貧溶媒である点にある。この結果、インク中における顔料の分散安定性が非常に優れたものとなると同時に、記録媒体、特に普通紙上に印字した場合に、少ないインク液滴量であっても十分に大きなエリアファクターを有し、且つ高い印字濃度を示す、非常に優れた印字品位をもたらす画像形成が可能になる。
【0062】
[水溶性有機溶剤のKa値]
本発明においては、水性インクに含まれる、複数の水溶性有機溶剤の各々のKa値において、最大のKa値を示す水溶性有機溶剤が貧溶媒あることが必須である。
【0063】
ここで、ブリストウ法によって求められるKa値について説明する。該値は、液体の記録媒体への浸透性を表わす尺度として用いられる。以下、インクを例に挙げて説明する。インクの浸透性を1mあたりのインク量Vで表わすと、インク滴を吐出してから所定時間tが経過した後における、インクの記録媒体への浸透量V(mL/m=μm)は、下記に示すブリストウの式(式(4))によって示される。
【0064】
【数4】

【0065】
記録媒体に付与された直後のインクは、そのほとんどが記録媒体表面の凹凸部分(記録媒体表面の粗さの部分)に吸収され、記録媒体の内部(深さ方向)へはほとんど浸透していない。この間の時間がコンタクトタイム(tw)であり、コンタクトタイムに記録媒体の凹凸部に吸収されたインク量がVrである。そして、インクが記録媒体に付与された後に、コンタクトタイムを超えると、該コンタクトタイムを超えた時間、即ち、(t−tw)の1/2乗べきに比例するインク量が記録媒体の内部(深さ方向)へ浸透し、浸透量が増加する。Kaは、この増加分の比例係数であり、浸透速度に応じた値を取る。尚、Ka値は、ブリストウ法による液体の動的浸透性試験装置(例えば、商品名:動的浸透性試験装置S;東洋精機製作所製)等を用いてすることが可能である。
【0066】
尚、本発明におけるブリストウ法によるKa値は、普通紙(例えば、電子写真方式を用いた複写機やページプリンタ(レーザビームプリンタ)やインクジェット記録方式を用いたプリンタ用として用いられるPB紙(キヤノン製)や、電子写真方式を用いた複写機用の紙であるPPC用紙等)を記録媒体として用いて測定した値である。又、測定環境は、通常のオフィス等の環境、例えば、温度20℃〜25℃、湿度40%〜60%を想定している。
【0067】
更に、本発明者らの検討によれば、形成された記録画像の品質をより一層向上させる観点からは、インクにおけるKa値が1.5(ml/m/msec1/2)未満となるように調整することが好ましく、更には、Ka値が0.2(ml/m/msec1/2)以上1.5(ml/m/msec1/2)未満となるように調整することが好ましい。即ち、インクのKa値が1.5(ml/m/msec1/2)未満となるように構成すれば、インクが記録媒体へと浸透していく過程の早い段階で固液分離が起こり、高品質な画像を形成することが可能となる。
【0068】
[水溶性ポリマー]
上記でも述べたように、顔料が記録媒体の表面に多く存在する場合、印字後に十分な時間が経過した後であっても、印字面を強く擦ると汚れが生じたり、印字後の画像上に水性マーカーで筆記を行うと印字汚れが生じたりすることがある。つまり、顔料インクには、耐擦過性や耐マーカー性が乏しいという課題がある。
【0069】
本発明にかかる水性インクは、上記構成の水性インクに、更に、顔料に対して完全に若しくは実質的に吸着しない水溶性ポリマーを含有させることで、耐擦過性を向上させることができる。優れた耐擦過性が得られる理由は、以下のように考えられる。インクに含有されている水溶性ポリマーは、溶液の状態では顔料との相互作用が非常に小さい。しかし、インクが記録媒体上に付与されて水分の蒸発が進行すると、顔料が凝集する過程において、該水溶性ポリマーが顔料間に入り込むことで、顔料同士の結着力を高めることができる。従って、記録媒体への顔料の固定がより一層強固になり、耐擦過性が向上する。
【0070】
[水溶性ポリマーの顔料への吸着]
本発明で用いる顔料は、当該顔料に対する貧溶媒と、完全に若しくは実質的に溶媒和しないことを特徴とする。更に、前記顔料は水溶性ポリマーとも相互作用しない、つまり水溶性ポリマーが実質的に顔料表面に吸着しないことを特徴とする。水溶性ポリマーが顔料表面に吸着すると、顔料表面のイオン性基が水溶性ポリマーで覆われる。これにより、貧溶媒により顔料の凝集が促進されるという本発明の効果が得られにくくなり、画像性能に大きな影響を与えると考えられる。従って、本発明における水溶性ポリマーは、インクにおいて、顔料に吸着せず、フリーポリマーとして存在するものが好ましい。
【0071】
上記で述べたように、顔料と貧溶媒が溶媒和しないことを判断する方法には、界面活性剤が顔料表面にどの程度吸着するかを測定する方法がある。これと同様に、顔料に水溶性ポリマーが吸着しないことを判断する方法に、水溶性ポリマーを含有する水溶液の表面張力と、水溶性ポリマー、顔料及び水を含有する水溶液の表面張力を比較し、顔料に対して水溶性ポリマーがどの程度吸着しているのかを判断する方法がある。
【0072】
具体的には、まず水溶性ポリマーと水を含有し、水溶性ポリマーの濃度が0.1質量%である液体(液体3)と、該水溶性ポリマー、顔料及び水を含有し、水溶性ポリマーの濃度が0.1質量%、顔料の濃度が5質量%である液体(液体4)、及び、顔料及び水を含有し、顔料の濃度が5.0質量%である液体(液体5)を調製する。
【0073】
上記の手順で調製した(液体3)、(液体4)及び(液体5)をそれぞれ十分撹拌した後、それぞれの常温(25℃)における表面張力を測定する。(液体3)の表面張力をC(dyne/cm)、(液体4)の表面張力をD(dyne/cm)及び(液体5)の表面張力をE(dyne/cm)としたとき、D−C≦10、好ましくはD−C≦5であり、且つ、下記式(5)の関係が満たされるとき、水溶性ポリマーは顔料に完全に若しくは実質的に吸着していないと判断される。
【0074】
【数5】

【0075】
水溶性ポリマーが顔料に全く吸着していない状態、つまり、水溶性ポリマーが液体の表面張力の変化に何ら影響を及ぼさない状態の表面張力が(液体5)の表面張力Eである。又、水溶性ポリマーが水溶液中でフリーな状態にある場合の表面張力、つまり、水溶性ポリマーと顔料の吸着が飽和に達し、水溶液中にフリーポリマーが存在する状態を想定した表面張力が(液体3)の表面張力Cである。従って、(E−C)は吸着開始から完了に至るまでの表面張力の変化量を表している。
【0076】
これに対し、顔料と水溶性ポリマーが混在している状態の表面張力が(液体4)の表面張力Dである。(液体4)中での水溶性ポリマーは、(1)顔料に吸着している状態、(2)水溶液中でフリーポリマーとして存在している状態、の2通りが考えられる。(液体4)に添加した水溶性ポリマー全量に対する(1)又は(2)の内訳を正確に求めることは難しいが、前記式(5)によりある程度見積もることが可能である。従って、(D−C)は吸着開始から完了に至るまでの水溶性ポリマーが寄与した表面張力の変化量を表している。
【0077】
例えば、表面張力Dと表面張力Cの差が小さい、つまり(D−C)/(E−C)が0.3以下値を示す場合には、表面張力Dと表面張力Cの状態は非常に近く、表面張力Dの状態は、表面張力Cを示すために必要なフリーポリマーの濃度に近くなっていると考えられる。逆に、表面張力Dと表面張力Cの差が大きい、つまり(D−C)/(E−C)が0.3より大きい値を示す場合には、表面張力Dと表面張力Cの状態が異なっていると考えられ、表面張力Cを示すために必要なフリーポリマーの濃度にはならず、水溶性ポリマーが顔料へ吸着していると考えられる。
【0078】
[2液システム]
本発明の水性インクは、顔料を含む水性インクを記録媒体に付与する工程と、該水性インクと接触することによって該水性インク中の色材の分散状態を不安定化させる反応液を記録媒体に付与する工程とを有する画像形成方法(2液システム)に用いられる水性インクとする場合、従来の2液システムで画像形成を行う場合と比較して、少ないインク液滴量で十分に大きなエリアファクターを有し、且つ、印字濃度の高い画像を得ることが可能となる。上記のような効果が得られる理由は、以下のように考えられる。
【0079】
従来の2液システムは、より多くの色材を記録媒体表層部に残すことで印字濃度の高い画像を得ることを目的としている。よって、水性インク及び反応液を記録媒体に付与する直前、又は付与するのと同時に、水性インクと反応液を接触させ、反応を終了させる。その結果、インク液滴量が多い割には、エリアファクターが小さくなる場合がある。
【0080】
しかしながら、本発明のように、記録媒体に反応液を付与してから、水性インクを付与するまでに時間差を設けることで、反応液中の反応性成分は記録媒体の表層部よりも、記録媒体の表層部よりやや深さ方向に浸透した箇所にその多くが存在する形となる。このような状態の記録媒体に本発明の水性インクを付与すると、顔料と反応性成分との反応が起きる前に、図14の(a)〜(c)に示す現象が起きる。その後、記録媒体表層部よりややの深さ方向に浸透した色材の残りが、記録媒体表層部よりやや深さ方向に浸透した箇所に存在する多くの反応性成分と急速に反応を起こす。従って、記録媒体の表層部においては十分に大きなエリアファクターを有しながら、且つ、色材の記録媒体の深さ方向への浸透が抑制されることで、印字濃度の高い画像を得ることができる。
【0081】
一方、本発明に該当しない水性インクを記録媒体に付与した場合、液媒体の浸透速度と色材の凝集速度のバランスを工夫しない限り、所望の位置に色材の凝集体を形成させることが非常に困難となる。従って、本発明に該当しない水性インクを用いた場合、ブリード性能が低下する場合や、インク液滴量が多い割にはエリアファクターが小さくなる場合や、印字濃度の高い画像が得られない場合がある。
【0082】
[水性インク]
本発明にかかる水性インクは、インク成分中の水溶性有機溶剤を、使用する顔料との関連において、上記で説明した構成とすることを必須とするが、それ以外は、従来の水性インクと同様の構成とすればよい。下記に、本発明の水性インクを構成する水性媒体、色材、水溶性ポリマー及びその他の成分について説明する。
【0083】
<水性媒体>
本発明にかかる水性インクを構成する水性媒体について説明する。前記水性媒体は、水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である。本発明においては、先に述べた方法で、水溶性有機溶剤を、当該顔料に対する良溶媒と貧溶媒とに判別する。そして、かかる判定結果を踏まえて、水性インクにおいて少なくとも良溶媒と貧溶媒とが混在し、且つ、各水溶性有機溶剤の含有量が本発明で規定する範囲内となるように、水溶性有機溶剤を選択して適宜に配合し、インクを調製することが必要となる。
【0084】
水溶性有機溶剤は、具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の低級アルキルエーテルアセテート;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。又、水は、脱イオン水を使用することが好ましい。
【0085】
本発明にかかる水性インク中の水溶性有機溶剤の含有量は特に限定されないが、インク全質量に対して、3質量%〜50質量%の範囲とすることが好ましい。又、水性インク中の水の含有量は、インク全質量に対して、50質量%〜95質量%の範囲とすることが好ましい。
【0086】
本発明の好ましい形態では、水性インクにおけるの良溶媒の含有量の合計(質量%)をX、インク中の貧溶媒の含有量の合計(質量%)をYとしたときに、X:Yの比率[良溶媒の含有量の合計(質量%):貧溶媒の含有量の合計(質量%)]が、X:Y=10:5以上10:30以下の範囲内となるように、好ましくは、X:Y=10:5以上10:10以下の範囲内となるように、更に好ましくは、X:Y=10:6以上10:10以下の範囲内となるように、水性インクを構成する水溶性有機溶剤の種類と含有量とを調整する。尚、「X:Yの比率が、X:Y=10:5以上10:30以下」とは、Xを10としたときにYが5以上30以下ということを意味する。
【0087】
本発明者らの検討によれば、水性インク中に含まれる良溶媒の含有量が多い場合は、保存安定性に優れる水性インクとなるが、高い印字濃度を得ることが難しい。又、逆に水性インク中に含まれる良溶媒の含有量が少ない場合には、高い印字濃度を得ることができるが、水性インクの保存安定性が不十分になることがある。これに対して、インク中の水溶性有機溶剤における良溶媒と貧溶媒との比率を上記のように制御すれば、インクの保存安定性と、高い印字濃度の実現との両立を図ることが可能となる。更には、先に述べたように、本発明においては、インク中に含有させる各水溶性有機溶剤を決定する際に、記録媒体への浸透性を表わす尺度であるブリストウ法によって求められるKa値の値を制御することで、少ないインク液滴量であっても十分に大きなエリアファクターを有し、しかも高い印字濃度を実現できる、という従来得ることのできなかった効果の達成を図ることができる。
【0088】
<色材>
本発明にかかる水性インクを構成する色材について説明する。本発明の水性インクを構成する色材は、顔料表面に少なくとも1つのイオン性基が直接若しくは他の原子団を介して結合している顔料が使用される。この条件を満たす限りであれば、特に限定されず、ジアゾカップリング法を用いてイオン性基を有する化合物を顔料粒子表面に結合させた顔料、次亜塩素酸ソーダや水中オゾン処理等による表面酸化処理でイオン性基を顔料粒子表面に導入した顔料、イオン性基を有する分散剤、界面活性剤、樹脂分散剤等が吸着された顔料等が使用可能である。これらの顔料は単独では勿論のこと、2種類以上を混合して用いることも可能である。
【0089】
とりわけ、ジアゾカップリング法を用いて、−COOM1、−SOM1及び−POH(M1)(式中のM1は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表わす)からなる群から選ばれる少なくとも1種を、顔料粒子表面に直接若しくは他の原子団を介して化学的に結合された顔料を好適に用いることができる。更に、前記他の原子団が、炭素原子数1〜12のアルキレン基、置換若しくは未置換のフェニレン基又は置換若しくは未置換のナフチレン基であるもの等を好適に用いることができる。前記イオン性基の中でも、−COOM1が顔料粒子表面に直接若しくは他の原子団を介して化学的に結合された顔料においては、比較的耐水性が発現し易いため、より好適に用いることができる。
【0090】
又、より具体的には、顔料粒子表面に−C−COOM1基や−C−(COOM1)基(式中のM1は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は有機アンモニウムを表わす)を導入したものが好ましい。とりわけ、−C−(COOM1)基が導入されたものは、本発明の構成において好ましい効果が発揮される。
【0091】
前記−C−COOM1基や−C−(COOM1)基の顔料粒子表面への導入量に関しては、顔料粒子の単位表面積当たりの導入量が多い方が、本発明の構成において好ましい効果が発揮される。これは前述したように、顔料に対する水溶性有機溶剤の溶媒和の程度が、イオン性基の増加と共に立体障害等によって減少するためであると考えられる。
【0092】
本発明にかかる水性インクにおいて使用することのできる顔料は特に限定されず、下記に挙げるようなものを何れも使用することができる。
【0093】
ブラックインクに使用される顔料は、カーボンブラックが好適である。例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラックを何れも使用することができる。具体的には、例えば、レイヴァン(Raven)7000、レイヴァン5750、レイヴァン5250、レイヴァン5000ULTRA、レイヴァン3500、レイヴァン2000、レイヴァン1500、レイヴァン1250、レイヴァン1200、レイヴァン1190ULTRA−II、レイヴァン1170、レイヴァン1255(以上、コロンビア製)、ブラックパールズ(Black Pearls)L、リーガル(Regal)400R、リーガル330R、リーガル660R、モウグル(Mogul)L、モナク(Monarch)700、モナク800、モナク880、モナク900、モナク1000、モナク1100、モナク1300、モナク1400、モナク2000、ヴァルカン(Valcan)XC−72R(以上、キャボット製)、カラーブラック(Color Black)FW1、カラーブラックFW2、カラーブラックFW2V、カラーブラックFW18、カラーブラックFW200、カラーブラックS150、カラーブラックS160、カラーブラックS170、プリンテックス(Printex)35、プリンテックスU、プリンテックスV、プリンテックス140U、プリンテックス140V、スペシャルブラック(Special Black)6、スペシャルブラック5、スペシャルブラック4A、スペシャルブラック4(以上、デグッサ製)、No.25、No.33、No.40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上、三菱化学製)等の市販品を使用することができる。又、本発明のために別途新たに調製されたカーボンブラックを使用することもできる。しかし、本発明は、これらに限定されるものではなく、従来公知のカーボンブラックを何れも使用することができる。又、カーボンブラックに限定されず、マグネタイト、フェライト等の磁性体微粒子や、チタンブラック等をブラック顔料として用いてもよい。
【0094】
ブラックインク以外に使用される顔料粒子は各種の有機顔料粒子が挙げられる。有機顔料は、具体的には、例えば、トルイジンレッド、トルイジンマルーン、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、ピラゾロンレッド等の不溶性アゾ顔料、リトールレッド、ヘリオボルドー、ピグメントスカーレット、パーマネントレッド2B等の溶性アゾ顔料、アリザリン、インダントロン、チオインジゴマルーン等の建染染料からの誘導体、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系顔料、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンタ等のキナクリドン系顔料、ペリレンレッド、ペリレンスカーレット等のペリレン系顔料、イソインドリノンイエロー、イソインドリノンオレンジ等のイソインドリノン系顔料、ベンズイミダゾロンイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ベンズイミダゾロンレッド等のイミダゾロン系顔料、ピランスロンレッド、ピランスロンオレンジ等のピランスロン系顔料、インジゴ系顔料、縮合アゾ系顔料、チオインジゴ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、フラバンスロンイエロー、アシルアミドイエロー、キノフタロンイエロー、ニッケルアゾイエロー、銅アゾメチンイエロー、ペリノンオレンジ、アンスロンオレンジ、ジアンスラキノニルレッド、ジオキサジンバイオレット等が挙げられる。勿論、これらに限定されず、その他の有機顔料であってもよい。
【0095】
又、本発明で使用することのできる有機顔料を、カラーインデックス(C.I.)ナンバーにて示すと、例えば、下記のものが挙げられる。
C.I.ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、74、83、86、93、97、109、110、117、120、125、128、137、138、147、148、150、151、153、154、166、168、180、185等
C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、71等
C.I.ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、122、123、149、168、175、176、177、180、192、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、255、272等
C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50等
C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、60、64等
C.I.ピグメントグリーン7、36等
C.I.ピグメントブラウン23、25、26等
本発明においては、顔料の含有量が、インク全質量に対し0.1質量%〜15質量%であることが好ましく、特には、1質量%〜10質量%であることが好ましい。
【0096】
<水溶性ポリマー>
本発明にかかる水性インクに添加することができる水溶性ポリマーについて説明する。本発明においては、先に述べた方法で、水溶性ポリマーを、当該顔料に対して完全に若しくは実質的に吸着していないかどうかを判別する。そして、かかる判定結果を踏まえて、顔料と完全に若しくは実施的に吸着しない水溶性ポリマーを選択して適宜に配合し、インクを調製することが必要となる。
【0097】
本発明に用いられる水溶性ポリマーは、親水性基を有するイオン性ポリマー又はノニオン性ポリマーが好ましい。イオン性ポリマーはイオン性モノマーからなるホモポリマー、又は、疎水性モノマーとイオン性モノマーのコポリマーが好ましい。ノニオン性ポリマーはノニオン性モノマーからなるホモポリマー、又は、疎水性モノマーとノニオン性モノマーのコポリマーが好ましい。又、本発明ではこれらのポリマーを組み合わせて用いることもできる。以下に、具体的なモノマー群を挙げて説明する。
【0098】
(イオン性モノマー)
イオン性モノマーは、アニオン性モノマーが好ましい。具体的には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、スチレンスルホン酸等が挙げられる。これらは、単独或いは数種類を適宜組み合わせて使用することができる。勿論、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0099】
(ノニオン性モノマー)
ノニオン性ポリマーは、具体的には、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルエチルエーテル、ポリビニルイソブチルエーテル等のポリビニルエーテル誘導体、セルロース、メチルセルロース、エチルオキシエチルセルロース等の多糖類、アルギン酸多価アルコールエステル、水溶性尿素樹脂、デキストリン誘導体、カゼイン、ポリビニルエーテル化合物、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、又は両者のコポリマーを含むポリアルキレンオキサイド等が挙げられる。これらは、単独或いは数種類を適宜組み合わせて使用することができる。勿論、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0100】
(疎水性モノマー)
疎水性モノマーは、具体的には、例えば、スチレン、ビニルナフタレン、メチルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート、メタクリロニトリル、2−トリメチルシロキシエチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、p−トリルメタクリレート、ソルビルメタクリレート、メチルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、アクリロニトリル、2−トリメチルシロキシエチルアクリレート、グリシジルアクリレート、p−トリルアクリレート及びソルビルアクリレート等が挙げられる。これらは、単独或いは数種類を適宜組み合わせて使用することができる。勿論、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0101】
(ポリマー)
本発明にかかる水溶性ポリマーは、イオン性モノマーからなるホモポリマー、ノニオン性モノマーからなるホモポリマー、イオン性モノマーと疎水性モノマーからなるコポリマー、ノニオン性モノマーと疎水性モノマーからなるコポリマー等、又はこれらを組み合わせて用いることができる。又は、ブロックコポリマー、ランダムコポリマー、その他グラフトコポリマーに代表される分岐ポリマー、又はこれらの塩等を用いることができる。尚、前記塩の具体例は、ナトリウム、リチウム、カリウム等のアルカリ金属塩の他に、アンモニウム塩、アルキルアミン塩、アルカノールアミン塩等が挙げられ、これらを単独或いは数種類を適宜組み合わせて使用できる。
【0102】
前記コポリマーがアニオン性である場合の酸価は、100〜500の範囲であることが好ましく、且つ、酸価のばらつきが、平均酸価の20%以内であることが好ましい。前記範囲とすることにより、インクにおいて顔料を安定に分散することができる。
【0103】
水溶性ポリマーの重量平均分子量は、1,000〜30,000の範囲、更には、3,000〜15,000の範囲が好ましく、且つ、分子量分布Mw/Mn(Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)が、3以下であることが好ましい。又、イオン性のポリマーセグメントの重量平均分子量(Mw)は、1,000〜20,000の範囲、更には、3,000〜20,000の範囲が好ましい。水溶性ポリマーにおけるイオン性ポリマーセグメントの含有率を上記範囲内とすることで、インクの高粘度化の抑制と顔料の分散安定性とを高いレベルで両立させることができる。又、水溶性ポリマーの分子量分布が広くなると、上記した水溶性ポリマーの分子量に基づく性質が発現しにくくなるため、水溶性ポリマーの分子量分布はそろっている方が好ましい。これらの水溶性ポリマーは、インク全質量に対して、0.1質量%〜5.0質量%の範囲で含有させることが好ましい。更に、インクに含有される顔料と水溶性ポリマーの含有量(質量%)の比率は(P/B比)は、0.02〜150であることが好ましい。
【0104】
水性インクに水溶性ポリマーを添加する実施態様においては、高い印字濃度、ブリード抑制及び高い耐擦過性、という3つの性能を同時に満足することができる水性インクの実現を目的としている。特に耐擦過性を向上するためには、水溶性ポリマーの添加量を増加させることが有効な手法であることは知られている。しかし、アニオン性ポリマーの添加量を増やすと、インクにおける顔料の分散が塩析効果により不安定となり、凝集しやすくなる。
【0105】
本発明の概念は、塩析の考え方に基づいて説明することができる。塩析とは、当初、溶液中で水和して安定に溶解していた溶質が、新たな電解質の添加により溶液中に多量のイオンが発生し、水和のバランスが崩れることにより、より水和しにくい溶質から水和している水が除かれるため、溶質の溶解度が低下し、溶質が析出する現象である。
【0106】
イオン性基により分散している顔料は、溶液中で大量の水分子により水和し、安定に分散している。この溶液にアニオン性ポリマーの塩を添加すると、ポリマーの溶解の際に発生したイオンにも水和が起こるため、水分子が不足する傾向になる。この場合、顔料に水和していた水分子が奪われ、その結果、顔料の分散安定性が著しく低下することになる。
【0107】
尚、アニオン性ポリマーの添加量を増やすと、インクの増粘や保存安定性にも悪影響が出やすくなる。更に、インク中に大量のアニオン性ポリマーが存在すると、インクの記録媒体への浸透性が大きくなり、文字品位が悪化することが知られている。
【0108】
本発明者らが検討を行った結果、イオン性基を持たず、顔料の分散安定性への寄与が少ないと考えられるノニオン性ポリマーをインクに添加することにより、印字物の耐擦過性を向上させ、且つ、顔料の分散安定性が良いインクが得られることを見出した。インクに、ノニオン性ポリマーのみを添加する場合は、アニオン性ポリマーのみを添加する場合と比較してより多量のポリマーを添加することが可能であり、更に、耐擦過性が著しく向上することが明らかとなった。しかし、ブリードに関しては、ノニオン性ポリマーのみを用いる場合は、アニオン性ポリマーを用いる場合よりも性能が劣ることがわかった。これは、イオン性基を持たないノニオン性ポリマーをインクに添加しても、インク中のイオン濃度が増加せず、塩析効果による顔料の凝集が促進されないためである。
【0109】
そこで、本発明は、顔料の凝集を促進し、印字濃度の向上及びブリードの抑制に効果のあるアニオン性ポリマーと、耐擦過性の向上に効果のあるノニオン性ポリマーを組み合わせて用いることにより、上記した3点の技術課題を解決できることを見出し、添加する水溶性ポリマーの機能分離を図った。実際の画像評価においても、アニオン性ポリマー及びノニオン性ポリマーをを組み合わせて用いた場合、高い印字濃度、ブリードの抑制及び高い耐擦過性を同時に満足できることがわかった。
【0110】
本発明者らは、高い耐擦過性が得られる理由を以下のように推察している。記録媒体上に顔料インクが付与された後に、インク中の水分が蒸発する過程において、記録媒体表面に水溶性ポリマーが析出或いは吸着することで凝集力が働き、顔料の凝集がより強固になる。従って、記録物の印字面を強く擦ることや、画像上に水性マーカー等で筆記を行うこと等、外部環境と顔料との接触があっても、顔料が記録媒体表面から擦り落ちることが軽減されるため、耐擦過性が向上すると考えられる。顔料同士の凝集力をより高め、耐擦過性を向上するためには、顔料同士の結着力を増加させ、顔料表面と水溶性ポリマーの吸着力を高めることができると考えられるアニオン性モノマー及び疎水性モノマーのコポリマーや、ノニオン性モノマー及び疎水性モノマーのコポリマー等を用いることがより一層好ましい。
【0111】
<その他の成分>
本発明にかかる水性インクは、保湿性維持のために上記した成分の他に、尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の保湿性化合物をインク成分として用いてもよい。尿素、尿素誘導体、トリメチロールプロパン等の保湿性化合物のインクにおける含有量は、一般には、インク全質量に対して0.1質量%〜20.0質量%、更には3.0質量%〜10.0質量%の範囲が好ましい。
【0112】
更に、本発明にかかる水性インクには、上記した成分以外にも必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤等の、種々の添加剤を含有させてもよい。
【0113】
本発明に用いられる界面活性剤は、下記構造式(1)又は構造式(2)で示される構造を有する化合物が好ましい。
【0114】
【化3】

【0115】
【化4】

【0116】
<カラーインク>
本発明にかかる画像形成方法は、ブラックインクと少なくとも1色のカラーインクとを用いて普通紙に記録を行うインクジェット記録方法であって、ブラックインクに、上記で説明した構成を有する水性インクを用い、且つ、該ブラックインクによって形成される画像と、カラーインクによって形成される画像とが隣接してなる画像を形成する際に、ブラックインクを付与する走査を行って画像を形成した後、該画像が形成された領域にカラーインクを付与する走査を行うことを特徴とする。
【0117】
ここで、ブラックインクのみに本発明のインクを用いた場合のカラーインクについて説明する。本発明にかかる画像形成方法においては、従来公知のインクジェット記録用の水性カラーインクを何れも使用できる。
【0118】
カラーインクの色材は、水溶性染料が挙げられ、特に、可溶化基としてアニオン性基を有する水溶性染料を用いることが好ましい。本発明において用いるカラーインクの色は、例えば、シアン、マゼンタ、イエロー、レッド、グリーン、ブルー、オレンジから適宜に選択して使用できる。
【0119】
本発明で使用されるアニオン性基を有する水溶性染料は、カラーインデックス(COLOUR INDEX)に記載されている水溶性の酸性染料、直接染料、反応性染料であれば特に限定はない。又、カラーインデックスに記載のない染料であっても使用可能である。特に、アニオン性基、例えばスルホン基を有するものが好適に用いられる。これらの染料は、インク中に1質量%〜10質量%、好ましくは1質量%〜5質量%の範囲で用いる。
【0120】
具体的な染料は、下記のものが挙げられる。
C.I.ダイレクトイエロー:8、11、12、27、28、33、39、44、50、58、85、86、87、88、98、100、110等
C.I.ダイレクトレッド:2、4、9、11、20、23、24、31、39、46、62、75、79、80、83、89、95、197、201、218、220、224、225、226、227、228、230等
C.I.ダイレクトブルー:1、15、22、25、41、76、77、80、86、90、98、106、108、120、158、163、168、199、226等
C.I.アシッドイエロー:1、3、7、11、17、23、25、29、36、38、40、42、44、76、98、99等
C.I.アシッドレッド:6、8、9、13、14、18、26、27、32、35、42、51、52、80、83、87、89、92、94、106、114、115、133、134、145、158、198、249、265、289等
C.I.アシッドブルー:1、7、9、15、22、23、25、29、40、43、59、62、74、78、80、90、100、102、104、117、127、138、158、161等
カラーインクの色材は、上記の水溶性染料以外に、下記の1〜3のものを挙げることができる。これらの色材は、記録媒体に付与された場合に、優れた耐水性を発揮するものが多いので、好ましい。
【0121】
1.可溶化基として、カルボキシル基を持つ染料
2.油溶性染料
3.顔料
油溶性染料は、カラーインデックスに記載されているものであれば特に限定はない。又、カラーインデックスに記載のない新規の染料であっても、特に制限はない。具体的には、下記のものが挙げられる。これらの染料は、インク中に1質量%〜10質量%、更には、1質量%〜5質量%の範囲で用いることが好ましい。
C.I.ソルベントイエロー:1、49、62、74、79、82、83、89、90、120、121、151、153、154等
C.I.ソルベントレッド:25、31、86、92、97、118、132、160、186、187、219等
C.I.ソルベントブルー:33、38、42、45、53、65、67、70、104、114、115、135等
カラーインクの色材として顔料を用いる場合、顔料の含有量は、インク全質量に対して1質量%〜20質量%、更には2質量%〜12質量%の範囲が好ましい。本発明において使用することのできる顔料は、下記のものが挙げられる。勿論、本発明は、これらに限られるものではない。又、本発明のために新たに製造された顔料も勿論使用することが可能である。
C.I.ピグメントイエロー:1、2、3、13、16、74、83、128等
C.I.ピグメントレッド:5、7、l2、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、ll2、l22等
C.I.ピグメントブルー:1、2、3、l5:3、l6、22等
C.I.バットブルー:4、6等が挙げられる。
【0122】
又、カラーインクの色材として顔料を使用する場合に、顔料をインク中に分散させるための分散剤は、水溶性樹脂であれば特に限定はないが、重量平均分子量が1,000〜30,000の範囲、更には、3,000〜15,000の範囲のものが好ましい。このような分散剤は具体的には、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、アクリルアミド、及びその誘導体等から選ばれた少なくとも2つの単量体(このうち少なくとも1つは親水性単量体)からなるブロック共重合体、或いはランダム共重合体、グラフト共重合体、又はこれらの塩等が挙げられる。又、ロジン、シェラック、デンプン等の天然樹脂も好ましく使用することができる。これらの樹脂は、塩基を溶解させた水溶液に可溶であり、アルカリ可溶型樹脂である。尚、これらの水溶性樹脂の含有量は、インク全質量に対して0.1質量%〜5.0質量%の範囲が好ましい。
【0123】
カラーインクに用いられる水性媒体は、水、或いは水及び水溶性有機溶剤の混合溶媒である。水は種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用することが好ましい。
【0124】
水溶性有機溶剤の具体例は、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。これらの水溶性有機溶剤の中でも、ジエチレングリコール等の多価アルコール、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテルが特に好ましい。
【0125】
水溶性有機溶剤のカラーインク中における含有量は、インク全質量の3質量%〜50質量%の範囲、更には3質量%〜40質量%の範囲が好ましい。又、水の含有量は、インク全質量に対して10質量%〜90質量%の範囲、更には30質量%〜80質量%の範囲が好ましい。
【0126】
又、本発明で使用されるカラーインクには、上記の成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つインクとするために、界面活性剤、消泡剤、防腐剤等を適宜に添加することができる。
【0127】
<インクの物性>
上記で説明したような構成成分からなる、本発明で使用するブラック及びカラーインクは、インクジェット記録ヘッドから良好に吐出できる特性を有することが好ましい。インクジェット記録ヘッドからの吐出性という観点からは、インクの特性が、例えば、その粘度が1〜15mPa・s、表面張力が25mN/m以上、更には、粘度が1〜5mPa・s、表面張力が25〜50mN/mとすることが好ましい。又、ブラックインクとカラーインクとを併用する場合には、ブラックインクの表面張力よりもカラーインクの表面張力が低いことが更に好ましい。具体的には、ブラックインクの表面張力が35〜50mN/m、カラーインクの表面張力が25〜35mN/mであることが好ましい。
【0128】
[反応液]
本発明で用いることができる反応液は、インク中の色材の分散状態を不安定化させる機能を有する反応性成分を含有する。前記反応性成分は、水性媒体中で色材がイオン性基の作用によって分散又は溶解されているインクと、前記反応液が記録媒体上で接触した際に、該色材の分散安定性を低下させ、色材を凝集させる。尚、本発明における、インク中の色材の分散状態が不安定化されることとは、記録媒体上でインクと反応液が混合した際に、凝集やゲル化といった状態が引き起こされることを指す。
【0129】
反応性成分の具体例は、金属塩(特には多価金属のイオン及びその塩)、低分子カチオン性化合物、及びカチオン性高分子等が挙げられる。以下、反応性成分について説明する。
【0130】
<多価金属のイオン及びその塩>
多価金属イオンは、具体的には、例えば、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+、Sr2+及びBa2+等の二価の金属イオンや、Al3+、Fe3+、Cr3+及びY3+等の三価の金属イオンが挙げられる。前記の多価金属イオンを反応液中に含有させる方法には、反応液中に多価金属の塩を添加する方法が挙げられる。前記塩とは、上記に挙げた多価金属イオンと、これらのイオンに結合する陰イオンで構成される金属塩のことであるが、水に可溶であることを要する。塩を形成するための好ましい陰イオンは、例えば、Cl、NO、I、Br、ClO、SO2−、CO2−、CHCOO及びHCOO等が挙げられる。勿論、本発明はこれに限定されるものではない。本発明においては、水性インクと反応液の反応性や着色性、更には、反応液の取り扱いの容易さ等の点から、多価金属イオンは、Ca2+、Mg2+、Sr2+、Al3+及びY3+が好ましく、更には、Ca2+が特に好ましい。又、陰イオンは、溶解性等の点から、NOが特に好ましい。
【0131】
反応液における多価金属イオンの含有量は、本発明にかかる効果を考慮すると、反応液全質量に対して、0.01質量%以上10質量%以下、更には1.0質量%以上5質量%以下であることが好ましい。特に、水性インクに含有される水不溶性色材の分散状態を不安定化させる機能を充分に発揮し、高いレベルの画像濃度を得るためには、多価金属イオンの含有量が、反応液全質量に対して、2.0質量%以上4.0質量%以下であることが好ましい。尚、反応液における多価金属イオンの含有量は10質量%を超えてもかまわない。しかし、含有量が10質量%よりも多くなっても、水不溶性色材の分散状態を不安定化させる機能の著しい増大は望めないこと、等の理由から、通常は過剰に含有させる必要はない。
【0132】
反応液は、色材を含まず、透明であることが好ましい。しかし、必ずしも可視域に吸収を示さないものである必要はない。即ち、可視域に吸収を示すとしても、実質上、画像に影響を与えない範囲であれば可視域に吸収を示すものであってもかまわない。
【0133】
<反応液の付与手段>
反応液を記録媒体に付与する方法には、ローラーコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法等の塗布方法が挙げられる。又、インクと同様にインクジェット記録方法を用い、インクが付着する画像形成領域及び画像形成領域の近傍のみに反応液を選択的に付着せしめる付与方法も可能である。本発明者らが、反応液の記録媒体への付与方法を検討した結果、ローラーコーティング法が最も優れているという見解に至った。これは、反応液の付与量が少ない場合においても、記録媒体表層部近傍における反応性成分の分布状態が他の手段よりも均一であり、更に、インク付与後のベタ部のムラ、更には裏抜け性等の画質が優れているためである。
【0134】
又、2液システムを用いて画像形成を行う場合、反応液と水性インクを記録媒体上で接触させる手段には様々な方法がある。しかし、本発明の効果をより顕著に得るためには、記録媒体に対する反応液の定着が終了した後、即ち、反応液の液滴が記録媒体に吸収された後に、水性インクを記録媒体に付与する方法が最も優れているという結論に至った。
【0135】
尚、本発明における、定着が終了した時点とは、前記ブリストウの式によって示されるKa(t−tw)1/2の値が、実際に記録媒体に付与した反応液量よりも大きくなった時点を意味する。これは、反応液の液滴が記録媒体に吸収された時点を意味し、ブリストウ法によるKa値と反応液量より計算されるt秒後を意味する。
【0136】
<反応液の物性及び塗布量>
反応液の記録媒体への浸透性は、ブリストウ法によって求められるKa値で、1.3mL・m−2・msec−1/2以上6.0mL・m−2・msec−1/2以下であることが好ましく、更には、3.0mL・m−2・msec−1/2より大きく6.0mL・m−2・msec−1/2以下であることが好ましい。又、反応液の塗布量は、0.5g/m以上5g/m以下であることが好ましく、更には、2.0g/mより大きく3.0g/m以下であることが好ましい。
【0137】
尚、反応液の塗布量は、反応液の物性及び塗布装置に使用されているローラーの回転速度及びローラーの記録媒体への接触圧等により適宜調整可能である。
【0138】
[画像形成方法]
以下、本発明にかかる画像形成方法について具体例を挙げて説明する。本発明にかかる画像形成方法は、ブラックインクと少なくとも1色の水性カラーインクとを用いて普通紙等の記録媒体にインクジェット記録方式で記録を行う画像形成方法であるが、ブラックインクとして先に述べた本発明の水性インクを用い、該ブラックインクによって形成される画像と、前記したようなカラーインクにより形成される画像とが隣接してなる画像を形成する際に、ブラックインクを付与する走査を行って画像を形成した後、該画像が形成された領域にカラーインクを付与する走査を行うことを特徴とする。以下に具体的な手法について説明する。
【0139】
図8は、本発明にかかる画像形成方法を実施する際に使用する記録ヘッドの一例である。該記録ヘッドは、図8に示したように、ブラックインクを吐出するための吐出口列(Bk)と、カラーインクであるシアン(C)、マゼンタ(M)、及びイエロー(Y)の3色のインクをそれぞれ吐出するための吐出口列とを備えている。
【0140】
本発明の画像形成方法では、フルカラーの画像を形成する場合には、ブラックインクを吐出させるためのブラックインク用吐出口列と、カラーインクを吐出させるためのカラーインク用吐出口列が副走査方向にずれて配置した記録ヘッドを用いることが好ましい。具体的には、例えば、図8に示した記録ヘッドを用いて画像形成を行う際には、ブラックのみの画像を形成する場合には、ブラックインク用の吐出口列全域を使用し、ブラックの画像とカラーの画像が混在したフルカラーの画像の形成を行う場合には、ブラックインクは、ブラックインク用吐出口列のa部分、C、M及びYのカラーインクは、カラーインク用吐出口列のb部分、を用いて画像を形成することが好ましい。以下、ブラックの画像とカラーの画像が混在した画像の形成を行う場合について、更に詳細に説明する。
【0141】
図8は、本発明に用いることができる記録ヘッドの一例である。記録ヘッドは、ブラックインクを吐出するための吐出口列(Bk)と、シアン(C)、マゼンタ(M)、及びイエロー(Y)の3色のカラーインクをそれぞれ吐出するための吐出口列とを備えている。まず、ブラックインク用吐出口列のa部分を用いて、プリントヘッドを図の横方向(主走査方向)に走査することで、ブラックの画像を1パス印字で記録媒体上に形成する。次に、図の縦方向(副走査方向)に距離aだけ記録媒体の搬送を行い、次のプリントヘッドにおける主走査の往方向の過程で、カラーインク用吐出口列のb部分を用いて、先程のブラックインク用吐出口列のa部分で形成された画像領域にカラーの画像を1パス印字で記録媒体上に形成する。このとき、ブラックインク用吐出口列のa部分は、次の領域に画像を形成している。この繰り返しにより、ブラックの画像及びカラーの画像が混在した画像の形成を行う。
【0142】
図9は、本発明に用いることができる記録ヘッドの別の一例である。図9においても、図8の場合と同様に、ブラックインクは、ブラックインク用吐出口列のa部分、C、M及びYのカラーインクは、カラーインク用吐出口列の全領域にあたるb部分を使用し、上記と同様にして、ブラックの画像及びカラーの画像が混在した画像の形成を行う。
【0143】
図10は、本発明に用いることができる記録ヘッドの別の一例である。図10においても、図8の場合と同様に、ブラックインクは、ブラックインク用吐出口列のa部分、C、M及びYのカラーインクは、カラーインク用吐出口列の全領域にあたるb部分を使用し、ブラックの画像及びカラーの画像が混在した画像の形成を行う。ここで、図10に示される記録ヘッドにおいては、ブラックインク用吐出口列のa部分とカラーインク用吐出口列のb部分との間に、1回分の紙送り量a’分だけ距離が置かれている。このため、かかる構成の記録ヘッドにおいては、ブラックの画像が形成されてからカラーの画像が形成されるまでの間に、往復で1回の走査分の時間差が余分に生じることになる。従って、図10に示される記録ヘッドにおいては、図9に示される記録ヘッドの構成よりも、ブラックの画像及びカラーの画像の間におけるブリーディングの抑制に対して、より有利な構成となる。
【0144】
図11は、本発明に用いることができる記録ヘッドの別の一例である。図11に示される記録ヘッドのように、副走査方向に順に、ブラックインク用吐出口列及びカラーインク用吐出口列が一列に配置された記録ヘッドを用いた場合は、紙送りに応じて、ブラックの画像が形成されてからカラーの画像が形成される。
【0145】
図12は、本発明に用いることができる記録ヘッドの別の一例である。図12に示される記録ヘッドでは、主走査の往方向と復方向とで、カラーインクの打ち込み順序が等しくなるように、カラーインク用吐出口列が、シアンインク(C1、C2)、マゼンタインク(M1、M2)、イエローインク(Y1、Y2)についてそれぞれ2列ずつ、主走査方向に対称に設けられている。この結果、ブラックの画像及びカラーの画像が混在した画像の形成において、双方向印字が可能となる。この場合には、先ず、ブラックインク用吐出口列のa部分を用いてブラックの画像が形成され、次に、副走査方向に距離aだけ記録媒体の搬送を行い、次のプリントヘッドにおける主走査の復方向の過程で、カラーインク用吐出口列のb部分を用いて、先程のブラックインク用吐出口列のa部分で形成された画像領域にカラーの画像を1パス印字で記録媒体上に形成する。このとき、ブラックインク用吐出口列のa部分は、次の領域に画像を形成している。この繰り返しにより、ブラックの画像及びカラーの画像が混在した画像の形成を行う。
【0146】
図12に示されるような双方向印字に対応した記録ヘッドにおいても、図10において説明した記録ヘッドと同様に、ブラックインク用吐出口列のa部分とカラーインク用吐出口列のb部分との間に、1回分の紙送り量a’分だけ距離が置かれた配置とし(図13参照)、ブラックの画像が形成されてからカラーの画像が形成されるまでの間に、往復で1回の走査分の時間差を設け、ブラックの画像及びカラーの画像の間におけるブリーディングの抑制に対して、より有利な構成としてもよい。
【0147】
以上、本発明にかかる画像形成方法について説明した。勿論、本発明にかかる画像形成方法用いることができる記録ヘッドの形態は、図8〜13に限定されるものではない。又、パス数は使用する記録装置によって異なるため、1パス印字に限られるものではない。
【0148】
普通紙上に、ブラックとカラーとが混在した画像を形成する場合において、本発明にかかる水性インクをブラックインクに用いる構成とすれば、上記で述べたように、紙面上でブラックインクを構成している顔料の凝集若しくは分散破壊が、他のインクと比べて比較的早く進行すると考えられる。本発明における画像形成方法では、本発明にかかる水性インクをブラックインクに用い、且つカラーインクによる画像形成をブラックインクの画像形成後に行うことで、より好ましくは、ブラックインクを付与する走査を行った後に、少なくとも1走査以上、間をおいた後にカラーインクを付与する走査を行う構成とすることで、カラーインクと接触しても紙面上でのブラック、カラー間の混色滲みが起こらず、ブリードが有効に抑制された画像形成が可能となる。即ち、ブラックインクとカラーインクの各色インクによる画像形成を時間差をもって行うことのみで、複数回の走査で印字を完成する印字時間を要するマルチパス印字を行う方法や、ブラックインクとカラーインクとで回復系を別々にするといった機器の大型化を招く方法を必要とすることなく、上記の優れた効果が得られる。
【0149】
又、本発明にかかる水性インクを用いれば、インク中の顔料が先に説明した理由によって効率的に記録媒体上に残るので、従来のインクの吐出量(液滴体積)よりも少ないインク量で、濃度の高い印字を行うことが可能となる。更に、少ないインク量で印字可能なことから、画像形成におけるコストの削減、従来のインクよりも定着時間が速くなるといった効果も期待できる。
【0150】
[インクジェット記録方法、記録ユニット、カートリッジ及び記録装置]
次に、本発明に好適なインクジェット記録装置の一例について以下に説明する。まず、熱エネルギーを利用したインクジェット記録装置の主要部である記録ヘッドの構成の一例を図1及び図2に示す。図1は、インク流路に沿った記録ヘッド13の断面図であり、図2は図1のA−B線での切断面図である。記録ヘッド13はインクを通す流路(ノズル)14を有するガラス、セラミック、シリコン又はプラスチック板等と発熱素子基板15とを接着して得られる。
【0151】
発熱素子基板15は、酸化シリコン、窒化シリコン、炭化シリコン等で形成される保護層16、アルミニウム、金、アルミニウム−銅合金等で形成される電極17−1及び17−2、HfB、TaN、TaAl等の高融点材料から形成される発熱抵抗体層18、熱酸化シリコン、酸化アルミニウム等で形成される蓄熱層19、シリコン、アルミニウム、窒化アルミニウム等の放熱性のよい材料で形成される基板20より構成される。
【0152】
上記記録ヘッド13の電極17−1及び17−2にパルス状の電気信号が印加されると、発熱素子基板15のnで示される領域が急速に発熱し、この表面に接しているインク21に気泡が発生し、その圧力でメニスカス23が突出し、インク21がヘッドのノズル14を通して吐出し、吐出オリフィス22よりインク小滴24となり、記録媒体25に向かって飛翔する。
【0153】
図3には、図1に示した記録ヘッドを多数並べたマルチヘッドの一例の外観図を示す。このマルチヘッドは、マルチノズル26を有するガラス板27と、図1に説明したものと同じような発熱ヘッド28を接着して作られている。
【0154】
図4に、このヘッドを組み込んだインクジェット記録装置の一例を示す。図4において、61はワイピング部材としてのブレードであり、その一端はブレード保持部材によって保持固定されており、カンチレバーの形態をなす。ブレード61は記録ヘッド65による記録領域に隣接した位置に配置され、又、図示した例の場合、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。
【0155】
62は記録ヘッド65の突出口面のキャップであり、ブレード61に隣接するホームポジションに配置され、記録ヘッド65の移動方向と垂直な方向に移動して、インク吐出口面と当接し、キャッピングを行う構成を備える。更に、63はブレード61に隣接して設けられるインク吸収体であり、ブレード61と同様、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。上記ブレード61、キャップ62及びインク吸収体63によって吐出回復部64が構成され、ブレード61及びインク吸収体63によって吐出口面の水分、塵埃等の除去が行われる。
【0156】
65は、吐出エネルギー発生手段を有し、吐出口を配した吐出口面に対向する記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録ヘッド、66は記録ヘッド65を搭載して記録ヘッド65の移動を行うためのキャリッジである。キャリッジ66はガイド軸67と摺動可能に係合し、キャリッジ66の一部はモーター68によって駆動されるベルト69と接続(不図示)している。これによりキャリッジ66はガイド軸67に沿った移動が可能となり、記録ヘッド65による記録領域及びその隣接した領域の移動が可能となる。
【0157】
51は記録媒体を挿入するための紙給部、52は不図示のモーターにより駆動される紙送りローラーである。これらの構成により記録ヘッド65の吐出口面と対向する位置へ記録媒体が給紙され、記録の進行につれて排紙ローラー53を配した排紙部へ排紙される。以上の構成において記録ヘッド65が記録終了してホームポジションへ戻る際、吐出回復部64のキャップ62は記録ヘッド65の移動経路から退避しているが、ブレード61は移動経路中に突出している。その結果、記録ヘッド65の吐出口がワイピングされる。
【0158】
尚、キャップ62が記録ヘッド65の吐出面に当接してキャッピングを行う場合、キャップ62は記録ヘッドの移動経路中に突出するように移動する。記録ヘッド65がホームポジションから記録開始位置へ移動する場合、キャップ62及びブレード61は上記したワイピングのときの位置と同一の位置にある。この結果、この移動においても記録ヘッド65の吐出口面はワイピングされる。上述の記録ヘッドのホームポジションへの移動は、記録終了時や吐出回復時ばかりでなく、記録ヘッドが記録のために記録領域を移動する間に所定の間隔で記録領域に隣接したホームポジションへ移動し、この移動に伴って上記ワイピングが行われる。
【0159】
図5は、記録ヘッドにインク供給部材、例えば、チューブを介して供給されるインクを収容したインクカートリッジの一例を示す図である。ここで40は供給用インクを収納したインク収容部、例えば、インク袋であり、その先端にはゴム製の栓42が設けられている。この栓42に針(不図示)を挿入することにより、インク袋40中のインクをヘッドに供給可能にする。44は廃インクを受容するインク吸収体である。インク収容部はインクとの接液面がポリオレフィン、特にポリエチレンで形成されているものが好ましい。
【0160】
本発明で使用されるインクジェット記録装置は、上述のようにヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、図6に示すようなそれらが一体になったものにも好適に用いられる。図6において、70は記録ユニットであり、この中にはインクを収容したインク収容部、例えば、インク吸収体が収納されており、かかるインク吸収体中のインクが複数オリフィスを有するヘッド部71からインク滴として吐出される構成になっている。インク吸収体の材料はポリウレタンを用いることが好ましい。又、インク吸収体を用いず、インク収容部が内部にバネ等を仕込んだインク袋であるような構造でもよい。72はカートリッジ内部を大気に連通させるための大気連通口である。この記録ユニット70は図4に示す記録ヘッド65に換えて用いられるものであって、キャリッジ66に対して着脱自在になっている。
【0161】
次に、力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置の好ましい一例について説明する。力学的エネルギーを利用したインクジェット記録装置は、複数のノズルを有するノズル形成基板と、ノズルに対向して配置される圧電材料と導電材料からなる圧力発生素子と、この圧力発生素子の周囲を満たすインクを備え、印加電圧により圧力発生素子を変位させ、インクの小液滴をノズルから吐出させるオンデマンドインクジェット記録ヘッドを挙げることができる。その記録装置の主要部である記録ヘッドの構成の一例を図7に示す。
【0162】
ヘッドは、インク室(不図示)に連通したインク流路80と、所望の体積のインク滴を吐出するためのオリフィスプレート81と、インクに直接圧力を作用させる振動板82と、この振動板82に接合され、電気信号により変位する圧電素子83と、オリフィスプレート81、振動板82等を支持固定するための基板84とから構成されている。
【0163】
図7において、インク流路80は、感光性樹脂等で形成され、オリフィスプレート81は、ステンレス、ニッケル等の金属に電鋳やプレス加工による穴あけ等により吐出口85が形成され、振動板82はステンレス、ニッケル、チタン等の金属フィルム及び高弾性樹脂フィルム等で形成され、圧電素子83は、チタン酸バリウム、PZT等の誘電体材料で形成される。以上のような構成の記録ヘッドは、圧電素子83にパルス状の電圧を与え、歪み応力を発生させ、そのエネルギーが圧電素子83に接合された振動板を変形させ、インク流路80内のインクを垂直に加圧しインク滴(不図示)をオリフィスプレート81の吐出口85より吐出して記録を行うように動作する。このような記録ヘッドは、図4に示したものと同様のインクジェット記録装置に組み込んで使用される。インクジェット記録装置の細部の動作は、先述と同様に行うもので差しつかえない。
【実施例】
【0164】
次に、実施例、比較例及び参考例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、下記実施例によって限定されるものではない。尚、文中「部」、及び「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。
【0165】
[顔料分散液の調製]
(顔料分散液Aの調製)
5.5gの水に5gの濃塩酸を溶かした溶液に、5℃に冷却した状態でp−アミノ安息香酸1.55gを加えた。次に、この溶液が入った容器をアイスバスに入れて液を撹拌することにより溶液を常に10℃以下に保った状態とし、これに5℃の水9gに亜硝酸ナトリウム1.8gを溶かした溶液を加えた。この溶液を更に15分間撹拌後、比表面積が220m/gでDBP吸油量が105mL/100gであるカーボンブラック6gを撹拌下で加えた。その後、更に15分間撹拌した。得られたスラリーをろ紙(商品名:標準用濾紙No.2;アドバンテック製)でろ過した後、粒子を十分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥させ、自己分散型カーボンブラックAを調製した。更に、上記で得られた自己分散型カーボンブラックAに水を加えて顔料濃度が10質量%となるように分散させ、分散液を調製した。上記の方法により、カーボンブラック粒子表面に−C−COONa基が導入されてなる自己分散型カーボンブラックA(顔料A)が水中に分散された状態の顔料分散液Aを得た。
【0166】
尚、上記で調製した自己分散型カーボンブラックAのイオン性基密度を測定したところ、2.6μmol/mであった。この際に用いたイオン性基密度の測定方法は、上記で調製した顔料分散液A中のナトリウムイオン濃度をイオンメーター(東亜DKK製)を用いて測定し、その値から自己分散型カーボンブラックAのイオン性基密度に換算した。
【0167】
(顔料分散液Bの調製)
5.5gの水に5gの濃塩酸を溶かした溶液に、5℃に冷却した状態で4−アミノフタル酸1.5gを加えた。次に、この溶液が入った容器をアイスバスに入れて液を撹拌することにより溶液を常に10℃以下に保った状態とし、これに5℃の水9gに亜硝酸ナトリウム1.8gを溶かした溶液を加えた。この溶液を更に15分間撹拌後、比表面積が220m/gでDBP吸油量が105mL/100gであるカーボンブラック6gを撹拌下で加えた。その後、更に15分間撹拌した。得られたスラリーをろ紙(商品名:標準用濾紙No.2;アドバンテック製)でろ過した後、粒子を十分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥させ、自己分散型カーボンブラックBを調製した。更に、上記で得られた自己分散型カーボンブラックBに水を加えて顔料濃度が10質量%となるように分散させ、分散液を調製した。上記の方法により、カーボンブラック粒子表面に−C−(COONa)基が導入されてなる自己分散型カーボンブラックB(顔料B)が水中に分散された状態の顔料分散液Bを得た。
【0168】
尚、上記で調製した自己分散型カーボンブラックBのイオン性基密度を、自己分散型カーボンブラックAと同様の方法で測定したところ、3.1μmol/mであった。
【0169】
(顔料分散液Cの調製)
5.5gの水に2.5gの濃塩酸を溶かした溶液に、5℃に冷却した状態でp−アミノ安息香酸0.8gを加えた。次に、この溶液が入った容器をアイスバスに入れて液を撹拌することにより溶液を常に10℃以下に保った状態とし、これに5℃の水9gに亜硝酸ナトリウム0.9gを溶かした溶液を加えた。この溶液を更に15分間撹拌後、比表面積が220m/gでDBP吸油量が105mL/100gであるカーボンブラック9gを撹拌下で加えた。その後、更に15分間撹拌した。得られたスラリーをろ紙(商品名:標準用濾紙No.2;アドバンテック製)でろ過した後、粒子を十分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥させ、自己分散型カーボンブラックCを調製した。更に、上記で得られた自己分散型カーボンブラックCに水を加えて顔料濃度が10質量%となるように分散させ、分散液を調製した。上記の方法により、カーボンブラック粒子表面に−C−COONa基が導入されてなる自己分散型カーボンブラックC(顔料C)が水中に分散された状態の顔料分散液Cを得た。
【0170】
尚、上記で調製した自己分散型カーボンブラックCのイオン性基密度を、自己分散型カーボンブラックAと同様の方法で測定したところ、1.0μmol/mであった。
【0171】
(顔料分散液Dの調製)
5.5gの水に2.5gの濃塩酸を溶かした溶液に、5℃に冷却した状態で4−アミノフタル酸0.7gを加えた。次に、この溶液が入った容器をアイスバスに入れて液を撹拌することにより溶液を常に10℃以下に保った状態とし、これに5℃の水9gに亜硝酸ナトリウム0.9gを溶かした溶液を加えた。この溶液を更に15分間撹拌後、比表面積が220m/gでDBP吸油量が105mL/100gであるカーボンブラック10gを撹拌下で加えた。その後、更に15分間撹拌した。得られたスラリーをろ紙(商品名:標準用濾紙No.2;アドバンテック製)でろ過した後、粒子を十分に水洗し、110℃のオーブンで乾燥させ、自己分散型カーボンブラックDを調製した。更に、上記で得られた自己分散型カーボンブラックDに水を加えて顔料濃度が10質量%となるように分散させ、分散液を調製した。上記の方法により、カーボンブラック粒子表面に−C−(COONa)基が導入されてなる自己分散型カーボンブラックD(顔料D)が水中に分散された状態の顔料分散液Dを得た。
【0172】
尚、上記で調製した自己分散型カーボンブラックDのイオン性基密度を、自己分散型カーボンブラックAと同様の方法で測定したところ、1.4μmol/mであった。
【0173】
[水溶性有機溶剤の良溶媒・貧溶媒の判定]
上記顔料分散液中の顔料に対して、良溶媒又は貧溶媒として作用する水溶性有機溶剤を選択するために以下の実験を行った。まず、上記顔料分散液A〜Dの固形分濃度10質量%水溶液を調製し、これと各水溶性有機溶剤を用いて、以下の配合比にて良溶媒・貧溶媒の判定用分散液A、判定用水分散液Bを調製した。
【0174】
(良溶媒・貧溶媒の判定用分散液の配合比)
[判定用分散液A]
・各顔料分散液の固形分濃度10質量%水溶液 50部
・表1に記載の各水溶性有機溶剤 50部
[判定用水分散液B]
・各顔料分散液の固形分濃度10質量%水溶液 50部
・純水 50部
(判定方法)
次に、上記のようにして調製した良溶媒・貧溶媒の判定用分散液A10gを、透明なガラス製フタつきサンプルビンに入れ、蓋をした後、充分撹拌し、これを60℃のオーブン内に48時間静置した。その後、60℃オーブンから取り出した分散液を測定用サンプルとして、当該分散液中の顔料の平均粒径を、濃厚系粒径アナライザー(商品名:FPAR−1000;大塚電子製)を用いて測定した。60℃、48時間保存後の判定用分散液A中の顔料の平均粒径(希釈せずに測定した顔料の平均粒径)とした。一方、判定用水分散液Bは加温保存を行わずに、上記と同様に、当該分散液中の顔料の平均粒径を、濃厚系粒径アナライザーを用いて測定した。そして、判定用分散液A及び判定用水分散液B中の顔料の平均粒径が、判定用分散液Aの方が判定用水分散液Bより大きくなる水溶性有機溶剤を貧溶媒と判定し、判定用分散液Aの平均粒径が、判定用水分散液Bと同等又はそれ以下になる水溶性有機溶剤を良溶媒と判定した。
【0175】
[水溶性有機溶剤についてのKa値の測定]
まず、各水溶性有機溶剤のKa値測定を行うにあたり、下記に示す組成を有する染料濃度0.5質量%の染料水溶液を調製した。かかる染料水溶液を使用するのは、無色透明の試料を着色することにより可視化して、Ka値の測定を容易にするためである。
・水溶性染料C.I.ダイレクトブルー199 0.5部
・純水 99.5部
次いで、この0.5質量%染料水溶液と、測定対象の各水溶性有機溶剤により、下記に示す組成を有する着色された水溶性有機溶剤の20%水溶液をそれぞれ調製した。
・上記0.5質量%染料水溶液 80部
・表1に記載の水溶性有機溶剤 20部
上記で調製した各水溶性有機溶剤の20質量%水溶液を測定用の試料として、動的浸透性試験装置(商品名:動的浸透性試験装置S;東洋精機製作所製)を用い、ブリストウ法により各水溶性有機溶剤の20質量%水溶液のKa値をそれぞれ求めた。
【0176】
[判定及び測定結果]
上記のようにして測定した、インクに使用しうる水溶性有機溶剤について、顔料分散液A〜Dに対して良溶媒であるか貧溶媒であるかを判定した結果と、各水溶性有機溶剤の20質量%水溶液におけるKa値の測定結果を表1に示した。尚、表中の、○、×はそれぞれ良溶媒、貧溶媒を表す。
【0177】
【表1】

【0178】
[顔料の水溶性有機溶剤に対する分散性の判定]
本発明にかかる水性インクを構成する顔料と水溶性有機溶剤との組み合わせ、つまり、水溶性有機溶剤が、顔料に対して完全に若しくは実質的に溶媒和せず、且つ、顔料粒子表面のイオン性基が、水溶性有機溶剤に対して完全に若しくは実質的にイオン解離しない組み合わせ、即ち、実質的に顔料が水溶性有機溶剤に対して分散しないと判断できる組み合わせを判定するにあたり、以下の実験を行った。
【0179】
先に述べた方法で得られた自己分散型カーボンブラックA〜Dと、各種の水溶性有機溶剤との組み合わせについて検討した。顔料分散液A〜Dを110℃のオーブンで乾燥させた後、得られた自己分散型カーボンブラックA〜Dをそれぞれ乳鉢等で粉末状にした粉砕物を作製した。そして、この顔料をそれぞれ検討対象である各水溶性有機溶剤に顔料濃度が0.05%となるように加えた後、1時間程度撹拌した。得られた混合物を観察したところ、この時点で明確な固液相分離が目視によって確認できる顔料と水溶性有機溶剤の組み合わせが存在した。当該組み合わせにおいては、水溶性有機溶剤が顔料に対して、完全に若しくは実質的に溶媒和せず、且つ顔料粒子表面のイオン性基が水溶性有機溶剤中でイオン解離せず、顔料が水溶性有機溶剤に対して実質的に分散しないと判断できる。
【0180】
更に、以下の測定を行って、顔料が水溶性有機溶剤に対して実質的に分散しないと判断できる組み合わせを判定した。まず、上記で得られた各顔料と各水溶性有機溶剤の混合物を常温で約100時間静置した後、液相の上部50質量%を採取し、ポアサイズ1.2μmのミクロフィルターを用いてろ過した。そして、得られたろ液(色材溶剤分散液)について、ろ液中に含まれる色材濃度を下記の方法によって測定した。尚、下記の方法は測定方法の一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0181】
ろ液の色材濃度を、下記の方法で測定した。まず、既知濃度(Ck質量%)の色材を水中に分散した色材分散液に、所定量の純水を加えて所定倍率に希釈した混合物の、550nmにおける吸光度を測定し、この吸光度の測定値を(ABS1)とする。次に、色材濃度を求めたい色材溶剤分散液(ろ液)を上記と同様の倍率に純水で希釈し、同様に550nmにおける吸光度を測定し、この吸光度の測定値を(ABS2)とする。その結果、色材溶剤分散液(ろ液)中の色材濃度は以下の式(2)により算出される。
【0182】
【数6】

【0183】
上記のようにして求めた色材溶剤分散液(ろ液)中の色材濃度と、色材と水溶性有機溶剤の混合物中の初期色材濃度(初期に設定されている濃度;上記の例では0.05質量%)の比率を用いて、特定の色材の、特定の水溶性有機溶剤に対する分散率(以下、色材溶剤分散率という)(%)を以下の式(3)ように定義した。
【0184】
【数7】

【0185】
以上の測定により得られた色材溶剤分散率の値と、先に述べた固液相分離の目視による確認結果とを、下記表2に示した。尚、表中の顔料A〜Dは、自己分散型カーボンブラックA〜Dのことである(以下、顔料A〜Dと呼ぶ)。
【0186】
【表2】

【0187】
上記表2に示した結果から、顔料Aとポリエチレングリコール600、顔料Bとポリエチレングリコール600の組み合わせにおいて固液相分離が生じていることから、水溶性有機溶剤が顔料に対して完全に若しくは実質的に溶媒和せず、且つ顔料のイオン性基が水溶性有機溶剤中で完全に若しくは実質的にイオン解離せず、顔料が水溶性有機溶剤に対して実質的に分散しないと判断できる。
【0188】
更に、上記の判定に加えて、上記で用いた各顔料が、対象とする水溶性有機溶剤と完全に若しくは実質的に溶媒和しない顔料であることの判定や、更に、顔料粒子表面のイオン性基が、対象とする水溶性有機溶剤に対して完全に若しくは実質的にイオン解離しないことの判定を、それぞれ以下に説明する各方法で行った。
【0189】
具体的には、まず下記構造式(1)や構造式(2)で示される構造を有する界面活性剤と水を含有し、界面活性剤の濃度が2mmol/kgである液体(液体1)と、前記界面活性剤、顔料(顔料A〜Dの何れかひとつ)及び水を含有し、界面活性剤の濃度が2mmol/kgで、顔料の濃度が5質量%である液体(液体2)を各種用意した。(液体1)及び(液体2)は、各成分を混合し、常温で約30分撹拌して調製した。
【0190】
【化5】

【0191】
【化6】

【0192】
尚、水に前記顔料A〜Dをそれぞれ加えて、水中における顔料濃度が5質量%となるようにした液体を調製し、前記液体の常温(25℃)における表面張力を測定した。その結果、顔料A〜Dの全てについて、水の常温における表面張力(72mN/m)と同等であり、顔料A〜D自身には液体の表面張力を低下させる効果がないことが確認された。
【0193】
表3に、常温における前記した(液体1)及び(液体2)のそれぞれについての表面張力の測定結果A及びB、並びに(液体2)と(液体1)の表面張力の差B−Aを示した。
【0194】
【表3】

【0195】
上記表3の結果から明らかなように、顔料A及び顔料Bにおいては(液体2)の表面張力Bと(液体1)の表面張力Aとの差B−Aは、顔料C及び顔料Dの場合と比較して小さな値を示した。このことから、顔料A及び顔料Bでは、液体の表面張力の低下に寄与する界面活性剤の有効濃度は、顔料の有無に関係なくほぼ等しいことを意味している。つまり顔料A及び顔料Bに対して界面活性剤は、完全に若しくは実質的に吸着していないと判断され、前述した理由により顔料A及び顔料Bは、水溶性有機溶剤等の媒体とも完全に若しくは実質的に溶媒和しない顔料であると判定できる。
【0196】
引き続き、上記水溶性有機溶剤等の媒体と完全に若しくは実質的に溶媒和しない顔料に対して、該顔料のイオン性基が水溶性有機溶剤に対して完全に若しくは実質的にイオン解離しないことの判定を、以下の方法によって行った。上記顔料Bを例にとって説明する。
【0197】
具体的には、まず、顔料Bを各種の水溶性有機溶剤で非常に薄い濃度になるように希釈して評価液を調製する。希釈の目安は、後述する顕微鏡式ゼータ電位測定器を用いた際に顔料粒子が十分認識出来るレベルとする。上記のようにして調製した評価液に対して、実際に粒子の動きが観察可能な顕微鏡式ゼータ電位測定器(商品名:ZEECOM;マイクロテック・ニチオン製)を用いて、電圧を加えた時に粒子が特定の方向に移動するか否かの観測を行う。顔料粒子の移動が確認される場合は更に、そのゼータ電位の測定を行う。尚、前記ゼータ電位の測定を行う際には、使用する水溶性有機溶剤の、測定温度における粘度及び比誘電率の値が必要となるため、事前に調査もしくは測定しておくことが好ましい。
【0198】
上記観測及び測定によって得られた結果を、表4に示す。
【0199】
【表4】

【0200】
上記表4から明らかなように、水溶性有機溶剤としてグリセリンを用いた評価液中では明確な電気泳動が確認されたのに対して、ポリエチレングリコール600等の水溶性有機溶剤を用いた評価液中では粒子の特定方向への移動は確認されず、実質的に電気泳動しないと判断できる。つまり、粒子が実質的に電気泳動しないような水溶性有機溶剤中においては、前述した理由により、顔料Bの粒子表面のイオン性基が、該水溶性有機溶剤に対して完全に若しくは実質的にイオン解離しないと判断できる。
【0201】
[顔料の水溶性ポリマーに対するの吸着の判定]
本発明にかかる水性インクに水溶性ポリマーを添加する場合の、顔料と水溶性ポリマーとの組み合わせ、つまり、水溶性ポリマーが、顔料表面に対して完全に若しくは実質的に吸着しないと判断できる組み合わせを判定するにあたり、以下の実験を行った。尚、顔料に対して水溶性ポリマーがどの程度吸着しているのかを判断するために用いた水溶性ポリマーは、一例であり、本発明は下記水溶性ポリマーに限られるものではない。
【0202】
吸着の有無の判定は、スチレン−アクリル酸共重合体、ポリビニルピロリドン、アクリル酸エチル−アクリル酸共重合体の3種の水溶性ポリマーを選択して行った。アニオン性ポリマーであるスチレン−アクリル酸共重合体及びアクリル酸エチル−アクリル酸共重合体の平均酸価は約150程度、重量平均分子量は何れの水溶性ポリマーとも10,000程度であった。
【0203】
具体的には、まず上記した水溶性ポリマーと水からなり、水溶性ポリマーの濃度が0.1質量%である液体(液体3)と、該水溶性ポリマー、顔料(顔料B・Cの何れかひとつ)及び水からなり、水溶性ポリマーの濃度が0.1質量%で、顔料の濃度が5質量%である液体(液体4)、及び、顔とからなり、顔料の濃度が5.0質量%である液体(液体5)を調製した。(液体3)、(液体4)及び(液体5)は、各成分を混合し、常温条件下で約30分撹拌して調製した。尚、前記(液体5)の常温(25℃)における表面張力を測定したところ、全て水の常温における表面張力(72mN/m)と同等であり、顔料B・Cそのものには液体の表面張力を低下させる効果がないことが確認された。
【0204】
表5に、常温における前記した(液体3)及び(液体4)のそれぞれについての表面張力の測定結果C及びD、(液体4)と(液体3)の表面張力の差D−C、及び(D−C)/(E−C)の値を表記した。
【0205】
【表5】

【0206】
上記表5の結果から明らかなように、顔料Bにおいては、(D−C)/(E−C)の値は0.3以下と小さな値を示し、液体の表面張力の低下に寄与する水溶性ポリマーの有効濃度は、顔料の有無に関係なくほぼ等しいことを意味している。つまり、顔料Bに対して水溶性ポリマーは、完全に若しくは実質的に吸着しないと判定できる。尚、表5中には記載していないが、アニオン性及びノニオン性成分の両方を1分子中に含むスチレン−アクリル酸−ヒドロキシアクリレート共重合体(重量平均分子量=15,000、酸価=160)も上記の条件を満たし、顔料Bに対して完全に若しくは実質的に吸着しないことが確認された。
【0207】
[インクの調製]
(実施例1〜9)
下記表6に示した各成分を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧濾過を行い、実施例1〜9のインクを調製した。
【0208】
この際、水溶性有機溶剤が、インク中における顔料に対する良溶媒と、前記顔料に対する貧溶媒を有し、前記顔料と前記貧溶媒とが、前記貧溶媒が前記顔料に対して完全に若しくは実質的に溶媒和せず、且つ、顔料粒子表面のイオン性基が前記貧溶媒中において完全に若しくは実質的にイオン解離しない関係を有し、且つ、ブリストウ法によって求められる、前記複数の水溶性有機溶剤の20質量%水溶液の各々のKa値において、最大のKa値を示す水溶性有機溶剤が貧溶媒であるように調製した。
【0209】
【表6】

【0210】
(比較例1〜5及び参考例1)
下記表7に示した各成分を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ3.0μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧濾過を行い、比較例1〜5及び参考例1のインクを調製した。
【0211】
【表7】

【0212】
[組成が未知であるインクの検証]
上記で述べた判定方法を用いて、組成が未知であるインク(溶剤検証用インク)が本発明の対象物であるか否かを識別することが可能である。組成が未知であるインクの検証方法について下記に説明する。
【0213】
具体的には、まず(溶剤検証用インク)中に含まれている水溶性有機溶剤の種類及び含有量の同定を行う。例えば、メタノールで所定濃度に希釈した(溶剤検証用インク)を、GC/MS(商品名:TRACE DSQ;サーモクエスト(ThermoQuest)製)を用いて分析することにより、(溶剤検証用インク)中に含まれている水溶性有機溶剤の種類を同定する。
【0214】
更に、該同定された水溶性有機溶剤が良溶媒であるか、貧溶媒であるかを判定する。前記した良溶媒・貧溶媒の判定方法では、当該水溶性有機溶剤と水とに対し、顔料を分散させた分散液を調製したが、インクからそのような分散液を調製するためには、インクから顔料や分散剤を抽出する必要がある。しかし、この場合には抽出処理の過程で顔料や分散剤が変質してしまう可能性を否定できない。
【0215】
これに対して本発明者らは、組成が未知であるインクそのものを用いた良溶媒・貧溶媒の判定方法であって、且つ、先に説明した良溶媒・貧溶媒の判定方法と結果が整合する方法について種々の検討を行った。その結果、下記の方法が検証方法として好適であることを見出した。
【0216】
まず、組成が未知であるインク100部に対して、検証対象である水溶性有機溶剤を100部加えたインク希釈液を調製し、該インク希釈液を用いることで判定を行った。即ち、検証対象である水溶性有機溶剤の含有量が約50質量%となるインク希釈液(以下、溶剤検証用インクとする)を調製した。次に、前記溶剤検証用インクを温度60℃で48時間加温保存したものについて、濃厚系粒径アナライザー(商品名:FPAR−1000;大塚電子製)を用いて顔料の平均粒径を測定した。一方、レファレンスとして、組成が未知であるインク100部に対し、水を100部加えた良溶媒・貧溶媒判定用のインク希釈液(以下、検証用インク希釈液とする)を調製し、加温保存をしない状態で顔料の平均粒径を測定した。そして、溶剤検証用インクの顔料の平均粒径測定値が、検証用インク希釈液の顔料の平均粒径測定値と比較して、顔料の平均粒径が増加している場合には貧溶媒、顔料の平均粒径が同じか若しくは減少している場合には良溶媒とする基準に従って、良溶媒・貧溶媒の判定を行った。
【0217】
上記実施例で調製したインクについて、その組成が未知のものであると仮定し、当該インクが本発明の対象物であることを前記の方法により検証した。ここでは、実施例1のインクを例にとって説明する。
【0218】
具体的には、実施例1のインクを分取し、メタノールで希釈したサンプルをGC/MS(商品名:TRACE DSQ;サーモクエスト(ThermoQuest)製)を用いて分析した結果、グリセリン、ポリエチレングリコール600の存在が確認された。次に、実施例1のインク100部に対し、同量の、検証対象である上記2種の水溶性有機溶剤を各々100部加えた2種の溶剤検証用インクを調製し、該溶剤検証用インクを用いて良溶媒・貧溶媒の判定を行った。即ち、検証対象である水溶性有機溶剤の含有量が約50質量%となるように、表8に示した組成を有する2種のインク希釈液(表8に、溶剤検証用インク1・2と表示)を調製した。次に、これらを温度60℃で48時間加温保存したものについて、濃厚系粒径アナライザー(商品名:FPAR−1000;大塚電子製)を用いて顔料の平均粒径を測定した。一方、レファレンスとして、実施例1のインク100部に対し、水を100部加えた良溶媒・貧溶媒判定用のインク希釈液(以下、検証用インク希釈液とする)を調製し、加温保存をしない状態で顔料の平均粒径を測定した。そして、溶剤検証用インクの顔料の平均粒径測定値が、検証用インク希釈液の顔料の平均粒径測定値と比較して、顔料の平均粒径が増加している場合には貧溶媒、顔料の平均粒径が同じか若しくは減少している場合には良溶媒とする基準に従って、良溶媒・貧溶媒の判定を行った。
【0219】
【表8】

【0220】
先に述べたようにして測定した検証用インク希釈液中の顔料の平均粒径、及び溶剤検証用インク1・2(60℃で48時間の加温保存後)の顔料の平均粒径をそれぞれ測定した。そして、溶剤検証用インク1・2の顔料粒径の測定値が、検証用インク希釈液の顔料粒径と比較し、顔料粒径が増加している場合は貧溶媒と、顔料粒径が同じか若しくは減少している場合は良溶媒とする判定を行った。判定結果を表9に示す。尚、表中の、○、×はそれぞれ良溶媒、貧溶媒を表す。
【0221】
【表9】

【0222】
表9に示した通り、実際のインクを希釈して得た溶剤検証用インクを用いての良溶媒・貧溶媒の判定方法による結果においても、前記の表1に示した判定方法と同様に、グリセリン(溶剤検証用インク1で使用)は良溶媒、ポリエチレングリコール600(溶剤検証用インク2で使用)は貧溶媒となり、両者の結果が一致することが確認できた。これにより、以上説明した実際のインクから、インクに使用されている水溶性有機溶剤が、該インク中の顔料に対して良溶媒であるか、貧溶媒であるかを判定する方法が、有効なものであることが確認できた。従って、本発明における良溶媒・貧溶媒の判定方法として、上記した、インクを希釈したサンプルを使用しての判定方法も、有効に利用することができるものとする。
【0223】
[評価]
上記で得られた、実施例1〜9、比較例1〜5及び参考例1の各インクを用いて、下記1〜5の評価を行った。評価結果を表10に示す。
【0224】
1.印字濃度(通常インク量)
実施例1〜9、比較例1〜5及び参考例1の各インクを用いて、インク1ドット当たりの吐出量を30ng±10%以内に設定し、2cm×2cmのベタ部を含む文字を印字した印字物を作製した。印字物を1日保存した後のベタ部の印字濃度を測定した。印字濃度の測定には、反射濃度計(商品名:マクベスRD−918;マクベス製)を用いた。印字濃度(通常インク量)の評価基準は下記の通りである。
【0225】
尚、印字物の作製には、記録信号に応じて熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出させる、オンデマンド型マルチ記録ヘッドを有するインクジェット記録装置BJS700(キヤノン製)を改造したものを用いた。プリンタドライバは、デフォルトモードを選択した。デフォルトモードの設定条件は下記の通りである。
・用紙の種類:普通紙
・印刷品質:標準
・色調整:自動
又、記録媒体は、下記のコピー用紙(1)〜(5)を用いた。
(1)PPC用紙PB Paper(キヤノン製)
(2)PPC用紙SC250(キヤノン製)
(3)PPC用紙4024(ゼロックス製)
(4)PPC用紙プローバーボンド(フォックスリバー製)
(5)キヤノン用PPC用紙(ノイジドラ製)
・評価基準
A:5紙の印字濃度の平均が1.4以上であり、最低の印字濃度の紙における印字濃度が1.25以上である
B:5紙の印字濃度の平均が1.4以上であり、最低の印字濃度の紙における印字濃度が1.25未満である
C:5紙の印字濃度の平均が1.4未満である
2.印字濃度(少インク量)
インク1ドット当たりの吐出量を24ng±10%以内に設定した以外は上記と同様にして印字物を作製し、印字濃度を測定して、上記同様の基準で評価を行った。
【0226】
3.保存安定性
実施例1〜9、比較例1〜5及び参考例1の各インクをそれぞれショット瓶に入れて密栓し、60℃のオーブンで2週間保存した後にインクの状態を観察した。保存安定性の評価基準は下記の通りである。
【0227】
・評価基準
A:顔料がインク中で均一に、安定して分散している
C:インクがゲル状に変化している、又はインクの上部が透明になっている、若しくはインクが明らかに増粘している
4.ブリード
ブリードの評価を行うに当たり、カラーインク(シアンインク、マゼンタインク、イエローインク)を調製した。下記に示した各成分を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ0.2μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧濾過を行い、各カラーインクを調製した。
【0228】
(シアンインク)
C.I.ダイレクトブルー199 3.5部
グリセリン 7.5部
ジエチレングリコール 7.5部
アセチレノールE−100 1.0部
純水 80.5部
(マゼンタインク)
C.I.アシッドレッド289 2.5部
グリセリン 7.5部
ジエチレングリコール 7.5部
アセチレノールE−100 1.0部
純水 81.5部
(イエローインク)
C.I.ダイレクトイエロー86 2.5部
グリセリン 7.5部
ジエチレングリコール 7.5部
アセチレノールE−100 1.0部
純水 81.5部
実施例1〜9、比較例1〜5及び参考例1の各ブラックインク、及び上記で得られたカラーインクを用いて、ブラックとカラー各色(イエロー、マゼンタ、シアン)のベタ部、及びカラー各色の2次色(レッド、グリーン、ブルー)のベタ部を隣接して印字した印字物を作製した。得られた印字物のブラックとカラー各色の境界部におけるブリードの程度を目視により観察した。ブリードの評価基準は下記の通りである。尚、印字物の作製には、インクジェット記録装置BJS700(キヤノン製)、及び、PB Paper(キヤノン製)を用いた。
【0229】
・評価基準
AA:ブリードを視認できない
A:ブリードは殆ど目立たない
B:ブリードはしているが、実質上問題のないレベルである
C:色の境界線がはっきりしないほどブリードしている
5.耐擦過性
実施例1〜9、比較例1〜5及び参考例1の各インクを用いて、1inch×0.5inchのブラックのベタ画像及び文字を印字した印字物を作製した。得られた印字物のベタ部の上に、シルボン紙及び面圧40g/cmの分銅を置き、普通紙とシルボン紙を擦り合わせた。その後、シルボン紙及び分銅を取り除き、ベタ画像の汚れ具合や白地部への転写を目視により観察した。耐擦過性の評価基準は下記の通りである。尚、印字物の作製には、インクジェット記録装置BJS700(キヤノン製)、及び、スーパーホワイトペーパー(商品名:SW−101;キヤノン製)を用いた。
【0230】
・評価基準
AA:白地部の汚れ、黒ベタ部の削れがない
A:白地部の汚れ、黒ベタ部の削れが若干見られる
B:白地部の汚れ、黒ベタ部の削れが若干見られる
C:白地部の汚れ及び黒ベタ部の削れが見られる
【0231】
【表10】

【0232】
[2液システムで得られる画像の評価]
上記で得られた、実施例1及び2、比較例1〜4の各インクを用いて、下記1及び2の評価を行った。評価結果を表11に示す。
【0233】
(反応液の調製)
下記に示した各成分を混合し、十分撹拌した後、ポアサイズ0.2μmのミクロフィルター(富士フィルム製)にて加圧濾過を行い、反応液を調製した。
硝酸マグネシウム(6水和物) 15.0質量%
トリメチロールプロパン 25.0質量%
アセチレノールEH 1.0質量%
(アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物;川研ファインケミカル製)
純水 59.0質量%
[評価]
1.印字濃度
実施例1及び2、比較例1〜4の各インク、及び上記で得られた反応液を用いて、2cm×2cmのベタ部を含む文字を印字した印字物を作製した。印字物を1日保存した後のベタ部の印字濃度を測定した。印字濃度の測定には、反射濃度計(商品名:マクベスRD−918;マクベス製)を用いた。印字濃度の評価基準は下記の通りである。
【0234】
尚、印字物の作製には、記録信号に応じて熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出させる、オンデマンド型マルチ記録ヘッドを有するインクジェット記録装置BJS600(キヤノン製)に、図15で示す、反応液を塗布ローラーにより記録媒体に付与する機構を有するように改造したものを用いた。反応液及びインクは、反応液が記録媒体に定着した直後に、インク1ドット当たりの吐出量が30ng±10%以内となるようにインクを付与した。又、反応液は、塗布量が2.4g/mになるように、ローラーの速度及びローラーの記録媒体への接触圧を調整した。
【0235】
プリンタドライバは、デフォルトモードを選択した。デフォルトモードの設定条件は下記の通りである。
・用紙の種類:普通紙
・印刷品質:標準
・色調整:自動
記録媒体は、下記のコピー用紙(1)〜(7)を用いた。
(1)PB Paper(キヤノン製)
(2)SC250(キヤノン製)
(3)PPC用紙4200(ゼロックス製)
(4)PPC用紙4024(ゼロックス製)
(5)スーパーホワイトペーパーSW−101(キヤノン製)
(6)フォックスリバー製、PPC用紙プローバーボンド(フォックスリバー製)
(7)PPC用紙ハンマーミルジェット(インターナショナルペーパー製)
・評価基準
AA:5紙の印字濃度の平均が1.45以上である、又は、最低の印字濃度の紙における印字濃度が1.3以上である
A:5紙の印字濃度の平均が1.4以上1.45未満であり、最低の印字濃度の紙における印字濃度が1.25以上1.3未満である
B:5紙の印字濃度の平均が1.4以上1.45未満であり、最低の印字濃度の紙における印字濃度が1.25未満である
C:5紙の印字濃度の平均が1.4未満である
2.ブリード
実施例1及び2、比較例1〜4の各ブラックインク、上記と同様のカラーインク(シアンインク、マゼンタインク、イエローインク)、及び上記で得られた反応液を用いて、印字物を作製した。反応液を2.4g/mで塗布した記録媒体に、ブラックとカラー各色(イエロー、マゼンタ、シアン)のベタ部、及びカラー各色の2次色(レッド、グリーン、ブルー)のベタ部を隣接して印字した。得られた印字物のブラックとカラー各色の境界部におけるブリードの程度を目視により観察した。ブリードの評価基準は下記の通りである。
【0236】
尚、印字物の作製には、インクジェット記録装置BJS600(キヤノン製)に、図15で示す、反応液を塗布ローラーにより記録媒体に付与する機構を有するように改造したもの、及び、PB−Paper(キヤノン製)を用いた。
【0237】
・評価基準
AA:ブリードを視認できない
A:ブリードは殆ど目立たない
B:ブリードはしているが、実質上問題のないレベルである
C:色の境界線がはっきりしないほどブリードしている
【0238】
【表11】

【図面の簡単な説明】
【0239】
【図1】記録ヘッドの縦断面図である。
【図2】記録ヘッドの縦断面図である。
【図3】図1の記録ヘッドをマルチ化した記録ヘッドの外観斜視図である。
【図4】インクジェット記録装置の一例を示す斜視図である。
【図5】インクカートリッジの縦断面図である。
【図6】記録ユニットの一例を示す斜視図である。
【図7】記録ヘッドの構成の一例を示す図である。
【図8】記録ヘッドの構成の一例を示す図である。
【図9】記録ヘッドの構成の一例を示す図である。
【図10】記録ヘッドの構成の一例を示す図である。
【図11】記録ヘッドの構成の一例を示す図である。
【図12】記録ヘッドの構成の一例を示す図である。
【図13】記録ヘッドの構成の一例を示す図である。
【図14】本発明にかかるインク滴が記録媒体表面に着弾したときの様子を模式的に説明するための図である。
【図15】インクジェット記録装置の一例を示す概略側断面図である。
【符号の説明】
【0240】
13 記録ヘッド
14 インクノズル
15 発熱素子基板
16 保護層
17−1、17−2 電極
18 発熱抵抗体層
19 蓄熱層
20 基板
21 インク
22 吐出オリフィス(微細孔)
23 メニスカス
24 インク滴
25 記録媒体
26 マルチノズル
27 ガラス板
28 発熱ヘッド
40 インク袋
42 栓
44 インク吸収体
45 インクカートリッジ
51 紙給部
52 紙送りローラー
53 排紙ローラー
61 ブレード
62 キャップ
63 インク吸収体
64 吐出回復部
65 記録ヘッド
66 キャリッジ
67 ガイド軸
68 モーター
69 ベルト
70 記録ユニット
71 ヘッド部
72 大気連通口
80 インク流路
81 オリフィスプレート
82 振動板
83 圧電素子
84 基板
85 吐出口
1300 記録媒体
1301 インク滴
1302 ドット外周
1303 ドット中心部
1304 顔料
1305 ドット
1306 水溶性有機溶剤及び水
1307 貧溶媒
1 記録ヘッド
2 キャリッジ
3 排紙ローラー
4 拍車
5 排紙トレイ
6 塗布ローラー
7 主搬送ローラー
8 ピンチローラー
9 ガイド軸
10 給紙ローラー
11 プラテン
12 中間ローラー
13 供給ローラー
14 フロート
15 反応液
16 給紙カセット
17 給紙トレイ
18 スプリング
19 記録媒体(記録紙)
20 注入口
21 残量表示窓
22 補充タンク
23 注入機具
27 ペーパーガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、水、複数の水溶性有機溶剤及び色材を含有する水性インクにおいて、
該色材が、顔料粒子表面に少なくとも1つのイオン性基が直接若しくは他の原子団を介して結合している顔料であり、
該複数の水溶性有機溶剤が、前記顔料に対する良溶媒と、前記顔料に対する貧溶媒を含有し、
該貧溶媒が前記顔料に対して完全に若しくは実質的に溶媒和せず、且つ、前記イオン性基が前記貧溶媒中において完全に若しくは実質的にイオン解離せず、
且つ、ブリストウ法によって求められる、前記複数の水溶性有機溶剤の各々のKa値のうち最大のKa値を示す水溶性有機溶剤が前記貧溶媒であることを特徴とする水性インク。
【請求項2】
前記水性インクにおける、良溶媒の含有量の合計(質量%)をX、貧溶媒の含有量の合計(質量%)をYとしたときに、X:Yの比率が、X:Y=10:5以上10:30以下である請求項1に記載の水性インク。
【請求項3】
前記顔料が、
界面活性剤と水からなり、界面活性剤の濃度が2mmol/kgである液体の表面張力をA(mN/m)とし、前記界面活性剤、顔料及び水からなり、界面活性剤の濃度が2mmol/kgで、顔料の濃度が5質量%である液体の表面張力をB(mN/m)としたときに、B−A≦10の関係を満たすものである請求項1又は2に記載の水性インク。
【請求項4】
前記界面活性剤が、下記構造式(1)で示される構造を有する請求項3に記載の水性インク。
【化1】

【請求項5】
前記界面活性剤が、下記構造式(2)で示される構造を有する請求項3に記載の水性インク。
【化2】

【請求項6】
前記貧溶媒中において、前記顔料が完全に若しくは実質的に電気泳動しないものである請求項1〜5の何れか1項に記載の水性インク。
【請求項7】
前記イオン性基が、−COOM1、−SOM1及び−POH(M1)(式中のM1は、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム及び有機アンモニウムの何れかを表わす)からなる群から選ばれるものである請求項1〜6の何れか1項に記載の水性インク。
【請求項8】
前記他の原子団が、炭素原子数1〜12のアルキレン基、置換若しくは未置換のフェニレン基、及び置換若しくは未置換のナフチレン基からなる群から選ばれるものである請求項1〜7の何れか1項に記載の水性インク。
【請求項9】
ブリストウ法によって求められるKa値が、1.5(ml/m/msec1/2)未満である請求項1〜8の何れか1項に記載の水性インク。
【請求項10】
ブリストウ法によって求められるKa値が、0.2(ml/m/msec1/2)以上である請求項1〜9の何れか1項に記載の水性インク。
【請求項11】
前記顔料の含有量(質量%)が、インク全質量に対して0.1質量%〜15質量%である請求項1〜10の何れか1項に記載の水性インク。
【請求項12】
前記顔料の含有量(質量%)が、インク全質量に対して1質量%〜10質量%である請求項1〜11の何れか1項に記載の水性インク。
【請求項13】
少なくとも、水、複数の水溶性有機溶剤及び色材を含有する水性インクにおいて、
該色材が、顔料粒子表面に少なくとも1つのイオン性基が直接若しくは他の原子団を介して結合している顔料であり、
該複数の水溶性有機溶剤が、前記顔料に対する良溶媒と、前記顔料に対する貧溶媒を含有し、
該貧溶媒が前記顔料に対して完全に若しくは実質的に溶媒和せず、且つ、前記イオン性基が前記貧溶媒中において完全に若しくは実質的にイオン解離せず、
且つ、ブリストウ法によって求められる、前記複数の水溶性有機溶剤の各々のKa値のうち最大のKa値を示す水溶性有機溶剤が貧溶媒であり、
且つ、水溶性ポリマーを含有し、該水溶性ポリマーが前記顔料に対して完全に若しくは実質的に吸着しないことを特徴とする水性インク。
【請求項14】
前記水溶性ポリマーの親水性基がイオン性である請求項13に記載の水性インク。
【請求項15】
前記水溶性ポリマーの親水性基がノニオン性である請求項13又は14に記載の水性インク。
【請求項16】
前記水溶性ポリマーを複数含有する請求項13〜15の何れか1項に記載の水性インク。
【請求項17】
前記水溶性ポリマーが、分子内にイオン性親水性基を有するモノマーとノニオン性親水性基を有するモノマーとを共重合した水溶性ポリマーである請求項13〜16の何れか1項に記載の水性インク。
【請求項18】
顔料を含有する水性インクを記録媒体に付与する工程と、該水性インクと接触することによって該水性インク中の顔料の分散状態を不安定化させる反応液を記録媒体に付与する工程とを有する画像形成方法に用いる水性インクにおいて、前記水性インクが請求項1〜17何れか1項に記載の水性インク。
【請求項19】
顔料を含有する水性インクを記録媒体に付与する工程と、該水性インクと接触することによって該水性インク中の顔料の分散状態を不安定化させる反応液を記録媒体に付与する工程とを有する画像形成方法に用いる水性インクと反応液とのセットにおいて、前記水性インクが、請求項1〜17何れかに記載の水性インクであることを特徴とする水性インクと反応液とのセット。
【請求項20】
(i)顔料を含有する水性インクを記録媒体に付与する工程、(ii)該水性インクと接触することによって該水性インク中の顔料の分散状態を不安定化させる反応液を記録媒体に付与する工程、を有する画像記録方法において、
前記水性インクが請求項1〜18の何れか1項に記載の水性インクであり、
且つ、前記工程(ii)において、反応液が記録媒体に対して定着が終了した後に、前記工程(i)を行うことを特徴とする画像形成方法。
【請求項21】
前記水性インクが、インクジェット用である請求項1〜18の何れか1項に記載の水性インク。
【請求項22】
インクをインクジェット法で吐出する工程を有するインクジェット記録方法において、前記インクが、請求項1〜18の何れか1項に記載の水性インクであることを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項23】
インクを収容するインク収容部を備えたインクカートリッジにおいて、前記インクが、請求項1〜18の何れか1項に記載の水性インクであることを特徴とするインクカートリッジ。
【請求項24】
インクを収容するインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドを備えた記録ユニットにおいて、前記インクが、請求項1〜18の何れか1項に記載の水性インクであることを特徴とする記録ユニット。
【請求項25】
インクを収容するインク収容部と、インクを吐出するための記録ヘッドを備えたインクジェット記録装置において、前記インクが、請求項1〜18の何れか1項に記載の水性インクであることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項26】
ブラックインクと少なくとも1色のカラーインクとを用いて記録媒体にインクジェット記録方式で記録を行う画像形成方法において、ブラックインクに請求項21に記載の水性インクを用い、且つ、前記ブラックインクによって形成される画像と、カラーインクによって形成される画像とが隣接してなる画像を形成する際に、ブラックインクを付与する走査を行って画像を形成した後、該画像が形成された領域にカラーインクを付与する走査を行うことを特徴とする画像形成方法。
【請求項27】
ブラックインクを付与する走査を行った後、少なくとも1走査分、間を空けた後にカラーインクを付与する走査を行う請求項26に記載の画像形成方法。
【請求項28】
ブラックインクを吐出させるための吐出口列と、カラーインクを吐出させるための吐出口列が副走査方向にずれて配置されている記録ヘッドを用いてインクの付与を行う請求項26又は27に記載の画像形成方法。
【請求項29】
水、複数の水溶性有機溶剤、及び顔料を含有する水性インクにおいて、
該複数の水溶性有機溶剤が、前記顔料に対する良溶媒と、前記顔料に対する貧溶媒を含有し、
且つ、ブリストウ法によって求められる、前記複数の水溶性有機溶剤の各々のKa値のうち最大のKa値を示す水溶性有機溶剤が貧溶媒であり、
且つ、該貧溶媒が前記良溶媒よりも先行して記録媒体に浸透し、記録媒体表面側での前記良溶媒中の前記顔料の凝集を補助することを特徴とする水性インク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−45514(P2006−45514A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−186575(P2005−186575)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】