説明

水性インクジェットインク及びインクジェット記録方法

【課題】高いプリント濃度と画像の耐擦性を両立した高品位な画像を得ることであり、特に、非吸収性媒体にプリントした場合でも高光沢で斑の発生がなく、更に布にプリントした場合には繊維に沿った滲みが大幅に抑制されたインクジェットインク及びそれを用いたインクジェット記録方法を提供する。
【解決手段】比表面積200m/g以上、380m/g以下、かつJIS試験法で測定したpHが6から8の範囲であるカーボンブラック、高分子分散剤、定着樹脂、溶剤を少なくとも含有する水性インクジェットインクにおいて、定着樹脂がアミン中和型の水溶性樹脂または水分散性エマルジョンであり、溶剤がグリコールエーテルまたは炭素数4以上の1,2−アルカンジオールを少なくとも含有することを特徴とする水性インクジェットインク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な非吸水性記録媒体用の水性インクジェットインク及びそれを用いたインクジェット記録方法に関し、更に詳しくは、非吸水性記録媒体や布帛にプリントした場合でも良好な画質が得られ、更に高い画像耐擦性を有する水性インクジェットインク及びそれを用いたインクジェット記録方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェット記録方式は簡便かつ安価に画像作製できるため、写真、各種印刷、マーキング、カラーフィルター等の特殊印刷など、様々な印刷分野に応用されてきている。
【0003】
この様なインクジェット記録方式で用いられるインクジェットインクとしては、水と少量の有機溶剤からなる水性インクジェットインク、有機溶剤を用い実質的に水を含まない非水系インクジェットインク、室温では固体のインクを加熱溶融して印字するホットメルトインク、印字後、光等の活性光線により硬化する活性光線硬化性インクジェットインク等、複数のインクジェットインクがあり、用途に応じて使い分けられている。
【0004】
一方、長期の耐候性が求められる屋外掲示物や曲面を有する物体への密着性が求められる印字物等、広い用途でポリ塩化ビニル製などの非吸水性記録媒体が使用されている。ポリ塩化ビニルに印刷する方法は数多くあるが、版を作製する必要がなく、仕上がりまでの期間が短く、少量多品種の生産に適する方法として、インクジェット記録方法がある。
【0005】
前述のポリ塩化ビニル製の記録媒体に記録可能なインクジェットインク方式の例として、シクロヘキサノンを含有したインクジェットインクが開示されている(特許文献1参照)。シクロヘキサノンは、ポリ塩化ビニルに対する溶解能が高く、インクジェットインク中の顔料がポリ塩化ビニル中に入り込むため、良好な耐擦過性が得られる。また、シクロヘキサノンに比べ臭気が弱く、作業環境上好ましい有機溶剤として、N−メチルピロリドン、アミド等の有機溶剤を含有する非水系インクジェットインクが開示されている(特許文献2、3参照)。また、耐擦過性等の画像堅牢性を向上させる目的で塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体やアクリルなどの樹脂を添加した非水系インクジェットインクが開示されている(特許文献4、5参照)。
【0006】
これらのインクジェットインクにより、臭気はある程度抑制でき、ポリ塩化ビニルに対する優れた耐擦過性を示すインクジェットインクを得ることができたが、乾燥による多量の有機溶剤排出に伴う環境負荷が課題である。
【0007】
また、インクジェット方式を用いた布帛へのプリント、すなわちインクジェット捺染の応用も行われている。インクジェット捺染は従来の捺染とは異なり、版を作製する必要がなく、手早く階調性に優れた画像を形成できる。更に画像として必要な量のインクしか必要としないため、廃液が少ない等環境的にも優れた画像形成方法である。
【0008】
インクジェット捺染では、布帛に予め専用の前処理を施すのが一般的である。前処理をしないと繊維に沿ってインクが滲み画質が大幅に低下したり、また画像の定着性が不十分となる。
【0009】
しかしながら公知の前処理は、例えば、シリカやアルミナなどの微粒子、PVAやCMCのような水溶性高分子を含んだ溶液を布帛に浸漬後、搾って乾燥する方法が一般的であり、インクジェットの手軽さに比べ、作業が煩雑で作業時間を要する等生産性の課題がある。更に、布帛へのプリント後に繊維への定着を目的として後処理を行う必要があり、生産性の低下や廃液処理の問題など環境への配慮が必要である。
【0010】
このような前処理、後処理の煩雑さや、それに伴うコスト高がインクジェット捺染の大きな課題であり、これらを克服しなければ更なる市場拡大にはつながらない。
【0011】
顔料インクは染料インクに比べて色調や鮮明性の劣るものの、耐光性、耐水性に優れており、染料インクに比べ前処理が無い場合でも滲みにくく、繊維への定着性が優れていること、布帛に対する後処理が簡便なこと、更に布帛の種類に応じて顔料種を選ばないことなど種々の利点がある。
【0012】
このようなことから、現在顔料インクを用いるインクジェット捺染方法が注目されているが、前処理が施されていない布帛にプリントした場合、滲みや繊維への定着性を満足するものが得られていない現状がある。前処理の必要が無く、いろいろな布帛にプリントした場合でも滲みや定着性などの画質が良好で、生産性が高く、低コストのインクジェット捺染方法が望まれている。
【0013】
インクジェット捺染方法の例として、反応剤を含有する反応液を布帛に付着させる工程の後で、顔料インクを吐出させる方法が開示されている(特許文献6参照)。また、架橋構造を有する重合体で顔料を包含した着色剤をインクジェット捺染に用いる方法が記載されている(例えば、特許文献7参照)。更にワックス及び着色剤を含有させたホットメルトインクをインクジェット捺染に用いる方法が提案されている(例えば、特許文献8参照)。
【0014】
以上のようにインクジェット捺染については種々検討がなされているが、未だ十分な記録濃度と画質および画像の耐擦性を満足するには至っていない。また、より簡便な記録装置で高速にプリントできる捺染方法が望まれている。
【特許文献1】特表2002−526631号公報
【特許文献2】特開2005−15672号公報
【特許文献3】特開2005−60716号公報
【特許文献4】特開2005−36199号公報
【特許文献5】WO2004/007626号パンフレット
【特許文献6】特開2003−55886号公報
【特許文献7】特開2002−338859号公報
【特許文献8】特開平9−300606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は高いプリント濃度と画像の耐擦性を両立した高品位な画像を得ることであり、特に、非吸収性媒体にプリントした場合でも高光沢で斑の発生がなく、更に布にプリントした場合には繊維に沿った滲みが大幅に抑制されたインクジェットインク及びそれを用いたインクジェット記録方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0017】
1.比表面積200m/g以上、380m/g以下、かつJIS試験法で測定したpHが6から8の範囲であるカーボンブラック、高分子分散剤、定着樹脂、溶剤を少なくとも含有する水性インクジェットインクにおいて、定着樹脂がアミン中和型の水溶性樹脂または水分散性エマルジョンであり、溶剤がグリコールエーテルまたは炭素数4以上の1,2−アルカンジオールを少なくとも含有することを特徴とする水性インクジェットインク。
【0018】
2.カーボンブラックに対する定着樹脂の質量比(定着樹脂/カーボンブラック)が0.8以上、4.0以下であることを特徴とする前記1に記載の水性インクジェットインク。
【0019】
3.グリコールエーテルがジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテルから選択される少なくとも1種であることを特徴とする前記1または2に記載の水性インクジェットインク。
【0020】
4.カーボンブラックが多分散性指数0.18以上、0.40以下でインク中に分散されていることを特徴とする前記1〜3のいずれか一項に記載の水性インクジェットインク。
【0021】
5.前記1〜4のいずれか1項に記載の水性インクジェットインクを用いて非吸水性記録媒体または布帛上に画像記録することを特徴とするインクジェット記録方法。
【0022】
6.非吸水性記録媒体または布帛の記録面側の表面温度を、35℃以上、80℃以下に加熱して記録することを特徴とする前記5に記載のインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明により、高いプリント濃度と画像の耐擦性を両立した高品位な画像が得られ、特に、非吸収性媒体にプリントした場合でも高光沢で斑の発生がなく、更に布帛にプリントした場合には繊維に沿った滲みが大幅に抑制されたインクジェットインク及びそれを用いたインクジェット記録方法を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0025】
従来、水系の顔料インクジェットインクを用いて、ビニルフィルムなどの非吸水性記録媒体にプリントした場合、紙媒体に代表されるような高いインク吸収能を備えた記録媒体に比べ、インクジェットインクの浸透及び乾燥がない為、記録媒体上に着弾したインク滴が合一して、斑が発生したり十分な光沢性を得ることが困難であるのが現状であった。特に、塩化ビニル製の記録媒体のように、表面エネルギーが低い記録媒体を用いた場合、インクジェットインクが記録媒体に対する濡れ性が低く、インク液滴が合一して斑が発生しやすい状況にあった。一方、布においては、前記のように前処理をしないと繊維に沿ってインクが滲み画質が大幅に劣化する課題がある。
【0026】
上記課題に対し、高分子分散剤で分散された顔料分散物と、本発明の要件である定着樹脂および溶剤としてグリコールエーテルまたは炭素数4以上の1,2−アルカンジオールを少なくとも含有する水性インクジェットインクにおいて、非吸水性記録媒体上で発生する斑と布帛での滲みに対して大幅な抑制効果が得られることが本発明者らの検討により明らかとなった。この効果は上記構成のインクが乾燥時に高い粘度上昇を示すことに由来すると解釈している。しかしながら、その後の検討で、グリコールエーテルまたは炭素数4以上の1,2−アルカンジオールを少なくとも含有し、且つ顔料としてカーボンブラックを用いた場合、使用するカーボンブラックによりプリント濃度、光沢および耐擦性が大幅に劣化する課題があることが新たに判明した。
【0027】
この課題に対し鋭意検討した結果、比表面積200m/g以上、380m/g以下、かつJIS試験法で測定したpHが6から8の範囲であるカーボンブラックを用いることにより前記課題を大幅に改善できることを見出し、本発明に至った次第である。
【0028】
以下、水性インクジェットインク(以下、単にインクともいう)及びインクジェット記録方法について具体的に説明する。
【0029】
<カーボンブラック>
本発明に係るカーボンブラックは油や天然ガスなどの炭化水素を原料として、熱分解法や不完全燃焼させることで製造される。熱分解法は天然ガスを用いるサーマル法とアセチレンガスを用いるアセチレン分解法に分けられる。不完全燃焼法は、天然ガスを原料とするガスファーネス法と芳香族炭化水素油を原料とするオイルファーネス法、コンタクト法、ランプ・松煙法などに分けられる。現在主流のファーネス法で製造されたカーボンブラックは「ファーネスブラック」と呼ばれ、本発明において好ましく用いられる。
【0030】
本発明においてカーボンブラックの比表面積は200m/g以上、380m/g以下の範囲である必要がある。200m/g以上の比表面積を有することで、より高いプリント濃度と光沢を得やすく、比表面積の上限は本発明の効果を得る為に制限されないが安定にカーボンブラックを製造できることと、分散安定性を得やすい観点で380m/g以下であることが好ましい。なお、本発明で言う比表面積とは窒素吸着法により測定される値であり、JIS−K−6217(1997)に示される試験法に基づいて算出される。比表面積はカーボンブラックの一次粒子径と相関するファクターであり、本発明で規定する比表面積200m/g以上、380m/g以下の範囲は、現在製造されるカーボンブラックの中で一次粒子径が比較的小さい範囲にあるものであり、光散乱の影響を受けにくく高い濃度が求められる種々分野で好ましい。
【0031】
しかしながら先に述べたように、本発明の用件であるグリコールエーテルまたは炭素数4以上の1,2−アルカンジオールを溶剤として含む場合、この範囲の比表面積を有するカーボンブラックを用いてもプリント濃度と光沢が大きく劣化する場合がある課題があることが判明し、種々検討した結果JIS試験法で測定したpHが6から8の範囲であるカーボンブラックを用いることで高いプリント濃度と光沢が得られることが判った。
【0032】
この効果について、明確な解釈には至っていないが次のように推察している。すなわち、顔料表面に対する高分子吸着は、顔料表面と高分子間の疎水的相互作用とイオン的相互作用に大きく分けられ、一般に水系分散においては疎水相互作用が支配的といわれている。酸性カーボンブラックのように表面にカルボキシル基(−COOH)、フェノール性水酸基(−OH)、キノン基(>C=O)等の酸性官能基を有していると分散剤など高分子との疎水性相互作用が阻害されると考えている。特に、溶媒系にグリコールエーテルや1,2−アルカンジオールが存在すると、水やグリコールを含む系に比べて疎水的になって高分子の疎水部位が系に溶解しやすくなる結果、より顔料との相互作用が低下して顔料分散機能や定着機能が劣化するものと推定している。従い、このように疎水相互作用を阻害する酸性官能基が少ないpHが6から8の範囲であるカーボンブラックを用いることにより、顔料表面に対する高分子吸着性が高まる結果、擦過耐性が高まり、更にはプリント乾燥過程での凝集を抑制して光沢と濃度が向上するものと解釈している。
【0033】
ここで、JIS試験法(JIS K6221)で測定したpHとは次のように測定した値である。すなわち、カーボンブラック10gに蒸留水100mlを加え、ホットプレート上で15分煮沸し室温まで冷却後、遠心分離機で上澄液を取り除き泥状物のpHをガラス電極pHメーターで測定した値である。
【0034】
本発明のインクに含有するカーボンブラックの分散状態における平均粒子径は70nm以上、200nm未満であることが好ましい。平均粒子径が70nm以上であればインクの保存安定性を比較的安定に保ちやすく、200nm未満であれば高いプリント濃度と光沢を得やすい。顔料分散体の粒子径測定は、動的光散乱法、電気泳動法等を用いた市販の粒径測定機器により求めることが出来るが、動的光散乱法による測定が簡便でこの粒子径領域の精度が良く多用される。また、本発明のインクに含有するカーボンブラックの分散状態として、多分散性指数が0.18以上、0.40以下に調整することで、より高いプリント濃度が得られることがわかった。本発明でいう多分散性指数(PDI)とは、下記の定義によるものである。本発明でいう多分散性指数(PDI:polydispersity index)とは、分散体の粒径分布を定義する指数であり、これは下記式(1)により定義されるものである。
【0035】
式(1)
PDI=(D90−D10)/D50
式(1)において、D90、D50、D10は、それぞれ分布関数dG=F(D)×dDの積分が、分散染料微粒子の全質量の0.9(90質量%)、0.5(50質量%)及び0.1(10質量%)に等しい粒径を表す。なお、Gは分散染料微粒子質量、Dは分散染料微粒子の粒径を表す。
【0036】
上記関係式を更に図を用いて説明する。図1は、分散染料微粒子の体積粒子径(D)が横座標にプロットされ、与えられた寸法の各分散染料微粒子の粒子質量関数(G)が縦座標にプロットされている座標系において、分散染料微粒子の体積粒子径の分布関数の曲線を実線11として示す。さらに、同じ座標系において、10%、50%および90%粒子質量関数の点および体積粒子径の関連する点15(D10)、14(D50)および13(D90)がクロスにより表されている分布関数の積分を破線曲線12として示す。上記関係式において、粒径分布が狭いほど、PDIはゼロに近づき、逆に、粒径分布が広い、つまり多分散性が大きいほど、PDIは大きくなる。体積粒子径の測定は、例えば、光散乱法、電気泳動法、レーザードップラー法等を用いた市販の粒径測定機器により求めることができ、具体的粒径測定装置としては、例えば、島津製作所製のレーザー回折式粒径測定装置SLAD1100、粒径測定機(HORIBA LA−920)、マルバーン製ゼータサイザー1000等を挙げることができる。
【0037】
多分散性指数が小さい(粒度分布が狭い)ほど、高いプリント濃度が得られるものと考えていたが上記のように最適な範囲があることについては明確な解釈に至っていないが次のように考えている。すなわち、本発明のインクは前記のように乾燥時の増粘性が高い為、カーボンブラックが乾燥過程で疎に積層した構造を作りやすく、ある程度の粒度分布を持たないとカーボンブラックの充填率が低く粒子間の散乱がプリント濃度に影響するものと考えている。
【0038】
本発明に係るカーボンブラックは、高分子分散剤及びその他所望する諸目的に応じて必要な添加物と共に分散機により分散して用いることが好ましい。分散機としては従来公知のボールミル、サンドミル、ラインミル、高圧ホモジナイザー等が使用できる。中でもサンドミルによる分散により製造されるインクの粒度分布がシャープであり好ましい。また、サンドミル分散に使用するビーズの材質はビーズ破片やイオン成分のコンタミネーションの点から、ジルコニアまたはジルコンが好ましい。さらに、このビーズ径としては0.3mm〜3mmが好ましい。
【0039】
<高分子分散剤>
本発明に係る高分子分散剤は、分子量が5000以上、200000以下の高分子ポリマーが好ましい。
【0040】
高分子分散剤の種類としては、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン誘導体、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマル酸、フマル酸誘導体から選ばれた2種以上の単量体からなるブロック共重合体、ランダム共重合体及びこれらの塩、ポリオキシアルキレン、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等を挙げることができる。
【0041】
酸性の高分子分散剤の場合、中和塩基で中和して添加することが好ましい。ここで中和塩基は特に限定されないが、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン等の有機塩基であることが好ましい。
【0042】
また、本発明において、高分子分散剤の添加量としては、カーボンブラックに対し10〜100質量%であることが好ましい。
【0043】
本発明に用いる高分子分散剤の使用法として、カーボンブラックを高分子分散剤で被覆したいわゆるカプセル顔料も好ましく用いられる。カーボンブラックを高分子分散剤で被覆する方法としては公知の種々の方法を用いることができるが、好ましくは、展相乳化法や酸析法の他に、顔料を重合性界面活性剤を用いて分散し、そこへモノマーを供給し、重合しながら被覆する方法から選択することがよい。
【0044】
より好ましい方法としては、水不溶性樹脂をメチルエチルケトンなどの有機溶剤に溶解し、さらに塩基にて樹脂中の酸性基を部分的、もしくは完全に中和後、顔料及びイオン交換水を添加し、分散したのち、有機溶剤を除去、必要に応じて加水し調整する製造方法が好ましい。
【0045】
<定着樹脂>
本発明のインクにおいて、形成するインク皮膜の耐擦過性を得るため観点から、定着樹脂を含有することを特徴の一つとする。
【0046】
本発明に係る定着樹脂は、カーボンブラックに対する定着樹脂の質量比が0.8以上、4.0以下の範囲でインク中に含有量することが好ましく、より好ましくは、1.0以上、2.5以下の範囲であれば、耐擦過性と吐出安定性を両立しやすい。
【0047】
本発明において好ましい定着樹脂は、高湿環境下や水分が付着した場合でも画像の耐擦過性が得られる観点で、疎水モノマーを重合成分として有する水溶性共重合物、または水系分散型ポリマー微粒子であることが好ましい。
【0048】
以下、疎水モノマーを重合成分として有する水溶性共重合物について説明する。
【0049】
疎水モノマーを重合成分として有する水溶性共重合物(以下、水溶性共重合物と略記)は、インク中では安定に溶解しているが、記録媒体上での乾燥後は耐水性が付与される樹脂がより好ましい。
【0050】
このような樹脂としては、樹脂中に疎水性成分と親水性成分を有するものを設計して用いる。この際、親水性成分としては、イオン性のもの、ノニオン性のものどちらを用いても良いが、より好ましくはイオン性のものであり、さらに好ましくはアニオン性のものである。特にアニオン性のものを揮発可能な塩基成分で中和することで水溶性を付与したものが好ましい。
【0051】
特に、定着樹脂の少なくとも1種は、カルボキシル基を有する不飽和ビニルを少なくともモノマー成分として重合した共重合体であり、酸価は80以上、300未満の範囲が本発明の効果発現上好ましい。
【0052】
前記共重合体の疎水性モノマーは、例えば、アクリル酸エステル(アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチルなど)、メタクリル酸エステル(メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸グリシジルなど)、スチレンなどが挙げられる。
【0053】
親水性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミドなどが挙げられ、アクリル酸のような酸性基を有するものは、重合後に部分的あるいは完全に塩基成分で中和することが好ましい。この場合、中和塩基としては、アルカリ金属含有塩基、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等や、アミン類(例えば、アンモニア、アルカノールアミン、アルキルアミン等)を用いることができる。特に、沸点が200℃未満のアミン類で中和することは、画像堅牢性向上の観点から特に好ましい。
【0054】
前記共重合体の分子量としては、平均分子量で、3000〜30000のものを用いることができ、より好ましい分子量の範囲は7000〜20000である。また、Tgは−40℃から100℃程度のものを用いることができ、より好ましいTgの範囲は−20℃から80℃である。
【0055】
次に、本発明に係る定着樹脂として前記の疎水モノマーを重合成分として有する水溶性共重合物以外に好ましく用いられる水系分散型ポリマー微粒子について説明する。
【0056】
ポリマー微粒子は、水系で重合された分散物をそのまま、あるいは処理したものを用いてもよいし、溶媒系で重合されたポリマーを水系に分散したものを用いてもよく、例えば、アクリル系、ウレタン系、スチレン系、酢酸ビニル系、塩化ビニリデン系、塩化ビニル系、スチレン−ブタジエン系、スチレン−アクリロニトリル系、ポリブタジエン系、ポリエチレン系、ポリイソブチレン系、ポリエステル系等から選択することができる。
【0057】
インクの物性として、粘度に対するシェア依存性がないことが好ましく、この観点からポリマー微粒子の分散形態として、界面活性剤などの乳化剤を極力低濃度にするか、乳化剤を用いないソープフリー型の分散ポリマー粒子が好ましい。好ましい水系分散型ポリマー微粒子は、カルボキシル基を有する不飽和ビニルを少なくとも単量体成分として重合した共重合体の自己分散型ディスパージョンであり、例えば、アクリル酸エチルなどのアクリル系モノマー単独もしくはアクリル系モノマーと共重合し得るエチレン性の不飽和モノマーからなる組成物にカルボン酸モノマーとしてアクリル酸やマレイン酸などを乳化重合もしくは懸濁重合して得られた分散液をアルカリ性化合物で膨潤後、機械的せん断により粒子を分割して得られるアクリルヒドロゾルである。なお、アクリルヒドロゾルの中でも、樹脂の屈折率を高めて高い光沢感が得られる観点で、モノマー組成にスチレンを含有することが好ましい。
【0058】
前記アルカリ性化合物としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、2−ジメチルアミノエタノール、2−ジ−n−ブチルアミノエタノール、メチルジエタノールアミン、2−アミノー2−メチル−1−プロパノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−メチルアミノエタノールなどのアミンであることが好ましく、アンモニア、2−アミノー2−メチル−1−プロパノール及び2−メチルアミノエタノールが水系分散型ポリマー微粒子の分散安定性において得に好ましい。
【0059】
また、前記アクリルヒドロゾルは、例えば、ジョンソンポリマー株式会社のジョンクリルシリーズなどとして市販されている。
【0060】
水系分散型ポリマー微粒子の酸価は、44mgKOH/g以上、より好ましくは60mgKOH/g以上であることが、インク乾燥皮膜の良好な再分散・溶解性が得られる点で好ましい。酸価の上限は特に制限されるものではないが、より安定な分散物を得やすい観点で110mgKOH/g未満が好ましい。
【0061】
水系分散型のポリマー微粒子の平均粒子径は、ヘッドのノズルにおける目詰まりがなく、良好な光沢感が得られる点で300nm以下であることが好ましく、より好ましくは130nm以下である。平均粒子径の下限は、微粒子の製造安定性の観点から30nm以上が好ましい。なお、水系分散型ポリマー微粒子の平均粒子径は、光散乱方式やレーザードップラー方式を用いた市販の測定装置を使用して簡便に計測することが可能である。また、水系分散型ポリマー微粒子の分散物を凍結乾燥し、透過型顕微鏡で観察される粒子から平均粒子径を換算することもできる。
【0062】
本発明の定着樹脂として、前記の水溶性共重合物と水系分散型のポリマー微粒子を併用することも好ましく、画像の滲みと光沢をバランスよく改善することができる。
【0063】
<グリコールエーテルおよび1,2−アルカンジオール>
本発明に係わるグリコールエーテルおよび炭素数4以上の1,2−アルカンジオールについて説明する。
【0064】
本発明のインクには、斑や特に布帛にプリントした場合に生じる滲みが抑制された良好な画質を得る為に、少なくともグリコールエーテルまたは炭素数4以上の1,2−アルカンジオールから選ばれる水溶性有機溶剤を含有する必要がある。
【0065】
具体的には、グリコールエーテルとしてはエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0066】
また、炭素数4以上の1,2−アルカンジオールとしては、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオールなどが挙げられる。炭素数4以上の1,2−アルカンジオールとしては、炭素数は8以下であることが好ましい。
【0067】
これらのグリコールエーテルもしくは炭素数4以上の1,2−アルカンジオールは各々単独で用いても良く、またそれらを併用しても良い。
【0068】
添加量としては、5%から30%の範囲で用いることが好ましく、より好ましくは7%から20%の範囲である。この範囲で用いることによりプリント時の斑や特に布帛にプリントした場合に生じやすい滲みを有効に抑制することができる。特に好ましい溶剤は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテルである。
【0069】
本発明のインクには、グリコールエーテルもしくは炭素数4以上の1,2−アルカンジオール以外にも溶剤を添加することができる。
【0070】
具体的には、本発明に係る溶媒としては、水性液媒体が好ましく用いられ、例としては、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等)、複素環類(例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド)等が挙げられる。
【0071】
なお、本発明の要件である水は、乾燥性とインクの保存安定性を高める観点から40%以上含有することが好ましく、より好ましい含有量は50%以上である。
【0072】
<界面活性剤ほか>
本発明において、特に非吸水性記録媒体に対して、より高い濡れ性を付与する観点から界面活性剤を用いることが好ましい。濡れ性を付与する為にインクの表面張力は、30mN/m以下が好ましく、28mN/m以下に調整することがより好ましい。
【0073】
本発明に用いることができる界面活性剤は、インクの表面張力を30mN/m以下に調整できるものであれば、特に制限なく用いることができるが、インクの他の構成成分にアニオン性の化合物を含有することから、界面活性剤のイオン性はアニオン、ノニオンまたはベタイン型が好ましい。
【0074】
本発明において、好ましくは静的な表面張力の低下能が高いフッ素系またはシリコン系界面活性剤や、動的な表面張力の低下能が高い、ジオクチルスルホサクシネートなどのアニオン活性剤、比較的低分子量のポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アセチレングリコール類、プルロニック型界面活性剤、ソルビタン誘導体などのノニオン界面活性剤が好ましく用いられる。フッ素系またはシリコン系活性剤と、前記動的な表面張力の低下能が高い界面活性剤を併用して用いることも好ましい。
【0075】
本発明のインクでは、上記説明した以外に、必要に応じて、出射安定性、プリントヘッドやインクカートリッジ適合性、保存安定性、画像保存性、その他の諸性能向上の目的に応じて、公知の各種添加剤、例えば、多糖類、粘度調整剤、比抵抗調整剤、皮膜形成剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、防ばい剤、防錆剤等を適宜選択して用いることができ、例えば、流動パラフィン、ジオクチルフタレート、トリクレジルホスフェート、シリコンオイル等の油滴微粒子、特開昭57−74193号、同57−87988号及び同62−261476号に記載の紫外線吸収剤、特開昭57−74192号、同57−87989号、同60−72785号、同61−146591号、特開平1−95091号及び同3−13376号等に記載されている退色防止剤、特開昭59−42993号、同59−52689号、同62−280069号、同61−242871号及び特開平4−219266号等に記載されている蛍光増白剤等を挙げることができる。
【0076】
上記構成からなる本発明のインクは、インクの粘度としては、25℃で1〜40mPa・sであることが好ましく、より好ましくは5〜40mPa・sであり、更に好ましくは5〜20mPa・sである。
【0077】
<非吸水性記録媒体>
次に、本発明に係る非吸水性記録媒体について説明する。
【0078】
本発明のインクは、本発明の目的である塩ビシートなどの非吸水性媒体へのプリントはもとより、普通紙、コート紙、インクジェット専用紙などへのプリントにも適している。
【0079】
非吸水性記録媒体としては、高分子シート、ボード(軟質塩ビ、硬質塩ビ、アクリル板、ポリオレフィン系など)、ガラス、タイル、ゴム、合成紙などが挙げられる。
【0080】
低吸収もしくは吸収性メディアとしては、普通紙(コピー紙、印刷用普通紙)、コート紙、アート紙、インクジェット専用紙、インクジェット光沢紙、ダンボール、木材などが挙げられる。
【0081】
特に、良好な画像と高い画像堅牢性が得られる好ましい非吸水性記録媒体は、記録面側に少なくともポリ塩化ビニルを有する記録媒体である。
【0082】
ポリ塩化ビニルからなる記録媒体の具体例としては、SOL−371G、SOL−373M、SOL−4701(以上、ビッグテクノス株式会社製)、光沢塩ビ(株式会社システムグラフィ社製)、KSM−VS、KSM−VST、KSM−VT(以上、株式会社きもと製)、J−CAL−HGX、J−CAL−YHG、J−CAL−WWWG(以上、株式会社共ショウ大阪製)、BUS MARK V400 F vinyl、LITEcal V−600F vinyl(以上、Flexcon社製)、FR2(Hanwha社製)LLBAU13713、LLSP20133(以上、桜井株式会社製)、P−370B、P−400M(以上、カンボウプラス株式会社製)、S02P、S12P、S13P、S14P、S22P、S24P、S34P、S27P(以上、Grafityp社製)、P−223RW、P−224RW、P−249ZW、P−284ZC(以上、リンテック株式会社製)、LKG−19、LPA−70、LPE−248、LPM−45、LTG−11、LTG−21(以上、株式会社新星社製)、MPI3023(株式会社トーヨーコーポレーション社製)、ナポレオングロス 光沢塩ビ(株式会社二樹エレクトロニクス社製)、JV−610、Y−114(以上、アイケーシー株式会社製)、NIJ−CAPVC、NIJ−SPVCGT(以上、ニチエ株式会社製)、3101/H12/P4、3104/H12/P4、3104/H12/P4S、9800/H12/P4、3100/H12/R2、3101/H12/R2、3104/H12/R2、1445/H14/P3、1438/One Way Vision(以上、Intercoat社製)、JT5129PM、JT5728P、JT5822P、JT5829P、JT5829R、JT5829PM、JT5829RM、JT5929PM(以上、Mactac社製)、MPI1005、MPI1900、MPI2000、MPI2001、MPI2002、MPI3000、MPI3021、MPI3500、MPI3501(以上、Avery社製)、AM−101G、AM−501G(以上、銀一株式会社製)、FR2(ハンファ・ジャパン株式会社製)、AY−15P、AY−60P、AY−80P、DBSP137GGH、DBSP137GGL(以上、株式会社インサイト社製)、SJT−V200F、SJT−V400F−1(以上、平岡織染株式会社製)、SPS−98、SPSM−98、SPSH−98、SVGL−137、SVGS−137、MD3−200、MD3−301M、MD5−100、MD5−101M、MD5−105(以上、Metamark社製)、640M、641G、641M、3105M、3105SG、3162G、3164G、3164M、3164XG、3164XM、3165G、3165SG、3165M、3169M、3451SG、3551G、3551M、3631、3641M、3651G、3651M、3651SG、3951G、3641M(以上、Orafol社製)、SVTL−HQ130(株式会社ラミーコーポレーション製)、SP300 GWF、SPCLEARAD vinyl(以上、Catalina社製)、RM−SJR(菱洋商事株式会社製)、Hi Lucky、New Lucky PVC(以上、LG社製)、SIY−110、SIY−310、SIY−320(以上、積水化学工業株式会社製)、PRINT MI Frontlit、PRINT XL Light weight banner(以上、Endutex社製)、RIJET 100、RIJET 145、RIJET165(以上、Ritrama社製)、NM−SG、NM−SM(日栄化工株式会社製)、LTO3GS(株式会社ルキオ社製)、イージープリント80、パフォーマンスプリント80(以上、ジェットグラフ株式会社製)、DSE 550、DSB 550、DSE 800G、DSE 802/137、V250WG、V300WG、V350WG(以上、Hexis社製)、Digital White 6005PE、6010PE(以上、Multifix社製)等が挙げられる。
【0083】
<布帛>
本発明に係わる布帛としては、ポリエステル、綿、絹、麻、レーヨン、アセテート繊維からなる布帛が好ましい。特にポリエステル繊維を主体とする布帛が好ましく、ポリエステル繊維を主体とする繊維を織物、編物、不織物等いずれの形態にしたものでもよい。布帛としてはポリエステル繊維が100%であることが好ましいが、レーヨン、絹、ポリウレタン、アクリル、ナイロン及び羊毛等との混紡織物または混紡不織物等も使用することができる。また、前記のような布帛を構成する糸の太さとしては10〜100dの範囲が好ましい。
【0084】
<記録方法>
本発明のインクジェット記録方法においては、本発明に係るインクを用いて記録媒体上に画像記録する際に、記録媒体の記録面側の表面温度を、35℃以上、80℃以下に加熱して記録することが好ましい。
【0085】
記録媒体を加熱することにより、インクの乾燥及び増粘速度が著しく向上し、高画質が得られ、加えて、形成した画像の耐久性も向上する観点から好ましい。
【0086】
記録媒体の加熱温度として、35℃以上に加熱することにより、特に非吸収性記録媒体で発生しやすい斑と、布帛において発生しやすい滲みを有効に抑制でき、十分な画像耐久性を得やすいことに加え、乾燥時間も短縮でき好ましく、80℃以下であれば、インク射出に大きな影響が与えずに、安定に画像形成することができる。より好ましくは、記録媒体の記録表面温度を35℃以上、60℃以下に加熱することが好ましい。
【0087】
記録媒体の加熱方法としては、インクジェット記録装置の記録媒体搬送系もしくはプラテン部材に発熱ヒーターを組み込み、非吸水性記録媒体背面より接触式で加熱する方法や、ランプ等により下方、もしくは上方から非接触で加熱する方法を選択することができる。
【0088】
本発明のインクを吐出して画像形成を行う際に、使用するインクジェットヘッドはオンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。又吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)等など何れの吐出方式を用いても構わない。
【実施例】
【0089】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0090】
実施例1
《インクの調製》
〔インク−1の調製〕
(カーボンブラック分散液の調製)
高分子分散剤としてスチレン−アクリル酸共重合体(ジョンクリル678、分子量8500、酸価215mgKOH/g)5部、ジメチルアミノエタノール2.1部、イオン交換水77.9部を70℃で攪拌混合して溶解した。次いで、この溶液に、カーボンブラック(比表面積370m/g、pH6.5)を15部添加してプレミックスした後、0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、カーボンブラックの含有量が15%の分散液を調製した。
【0091】
(定着樹脂水溶液−1の合成)
滴下ロート、窒素導入管、還流冷却管、温度計及び攪拌装置を備えたフラスコにメチルエチルケトン50gを加え、窒素バブリングしながら、75℃に加温した。そこへ、メタクリル酸n−ブチル40g、スチレン40g、アクリル酸20g、メチルエチルケトン50g、開始剤(AIBN)500mgの混合物を滴下ロートより3時間かけ滴下した。滴下後さらに6時間、加熱還流した。放冷後、減圧下加熱しメチルエチルケトンを留去した。
【0092】
次いで、イオン交換水450mlに対して、モノマーとして添加したアクリル酸の1.05倍モル相当のジメチルアミノエタノールを溶解した液に上記重合物残渣を溶解した。イオン交換水で調整し、固形分20%の定着樹脂水溶液−1を得た。
【0093】
(インクの調製)
〔インク−1の調製〕
下記に示すインク組成物を混合攪拌して調製した後、0.8μmのフィルターによりろ過して、インク−1を得た。得られたインク−1について、25℃の条件で測定した粘度は9.3mPa・s、表面張力は27.6mN/mであった。また、調整したインク中に分散されたカーボンブラックの平均粒子径は117nmであり、多分散性指数は0.19であった。なお、粒径測定はマルバーン社製ゼータサイザ1000HSにより行った。
【0094】
カーボンブラック分散液 33.3質量%
定着樹脂水溶液−1(固形分濃度20%) 15.0質量%
定着樹脂−2 6.5質量%
(ジョンクリル390、BASF社製 水分散性エマルジョン 固形分46%)
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 15.0質量%
シリコン系界面活性剤(KF−351A、信越化学工業社製) 0.5質量%
イオン交換水 100質量%に仕上げるのに要する量
〔インク−2〜24の調製〕
インク−1の調製において、使用したカーボンブラックの比表面積とpH、溶剤、および定着樹脂を表1に記載のように変更した以外は同様にしてインク−2〜24を調製した。ただし、カーボンブラックの分散において使用した0.5mmジルコニアビーズを、インク−22、23、24については順に0.3mm、1.0mm、1.5mmのジルコニアビーズに変更した。なお、調製したインク−2〜24について、25℃の条件で測定した粘度は9〜10mPa・sの範囲であり、表面張力は27〜29mN/mの範囲であった。
【0095】
【表1】

【0096】
なお、表1に略称にて記載した各有機溶剤の詳細は、以下の通りである。
【0097】
DEGBE:ジエチレングリコールモノブチルエーテル
DPGPE:ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル
PGPE:プロピレングリコールモノプロピルエーテル
1,2−HDO:1,2−ヘキサンジオール
EG:エチレングリコール
PG:プロピレングリコール
Gly:グリセリン
1,5−PDO:1,5−ペンタンジオール
DEGEE:ジエチレングリコールモノエチルエーテル
《インクの評価》
上記調製した各インクセットについて下記の方法に従い評価を行った。
【0098】
〔画像のプリント〕
ノズル口径28μm、ノズル数512、最小液適量14pl、ノズル密度180dpi(dpiは2.54cm当りのドット数を表す。)であるピエゾ型ヘッドを搭載し、最大記録密度が720×720dpiであるシャトル型インクジェットプリンタに各インクを装填した。
【0099】
次いで、各インクをプリント解像度720dpi×720dpi、ヘッド搬送速度:200mm/sec、双方向走査の条件で記録媒体に出射し、10cm×10cmのベタ画像をプリントし記録画像とした。記録媒体には、ポリエステル繊維100%、糸の太さ50dの布帛とポリ塩化ビニル製の記録媒体であるJT5929PM(Mactac社製)を用いた。
【0100】
なお、プリント時に記録媒体を裏面から、プラテン部に設置したフラットパネルヒーターより加温して、画像記録時の記録媒体の表面温度が45℃になるようにヒーター温度で制御した。記録媒体の表面温度は、非接触温度計(IT−530N形 (株)堀場製作所社製)を用いて測定した。
【0101】
〔記録画像の評価〕
上記形成した各記録画像について、プリント後、23℃、湿度55%RHの環境下で12時間放置した後に下記の方法に従い各評価を行った。
【0102】
(斑の評価)
各記録画像について、斑の発生状態を目視評価し、下記の基準に従って斑耐性の評価を行った。
【0103】
○:斑の発生が全く認められず良好な品質である
△:部分的に斑が見られるが、実用上可能な範囲である
×:全面に斑が発生し、実用上許容範囲外の品質である
(反射濃度の評価)
各記録画像について反射濃度を反射濃度計(X−rite)を用いて測定した。
【0104】
(光沢性の測定)
上記の塩化ビニル製記録媒体を用いて作製した記録画像について、日本電色工業株式会社製の変角光沢度計(VGS−1001DP)を用いて光沢度を測定した。なお、入射及び反射角は20°で測定し、光沢度の値により以下の基準に従って光沢性の評価を行った。
【0105】
◎:91以上
○:75〜90
△:65〜74
×:65未満
上記評価ランクにおいて、◎〜△が実用上好ましいランクと判断した。
【0106】
(滲みの評価)
上記の布帛を用いて作製した記録画像部と非画像部の境界における滲みの発生を目視で下記基準にて評価。
【0107】
○:画像部と非画像部の境界で滲みが見られない
△:画像部と非画像部の境界で滲みがわずかに見られるが実用上問題なし
×:画像部と非画像部の境界で鑑賞に堪えないレベルの滲みが発生
(擦過性の評価)
各記録画像表面を乾いた木綿(カナキン3号)で擦り、下記基準に従って擦過性を評価した。
【0108】
◎:50回以上擦っても画像はほとんど変化しない
○:50回擦った段階でわずかに傷が残るが画像濃度にはほとんど影響しない
△:20〜50回擦る間に、画像濃度が低下する
×:20回未満擦る間に、画像濃度が低下する
上記評価ランクにおいて、△〜◎が実用上好ましいランクと判断した。
【0109】
以上により得られた各結果を、表2に示す。
【0110】
【表2】

【0111】
表2に記載の結果より明らかなように、本発明の要件を満たすインクは全評価項目において良好な結果を示した。一方、他のインクについてはいずれかの評価項目において実用上許容できない結果であった。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明に係るD10、D50、D90を表す粒径の分布関数曲線。
【符号の説明】
【0113】
11 顔料分散液の粒径分布関数
12 粒径の分布関数の積分曲線
13 D90の表示
14 D50の表示
15 D10の表示

【特許請求の範囲】
【請求項1】
比表面積200m/g以上、380m/g以下、かつJIS試験法で測定したpHが6から8の範囲であるカーボンブラック、高分子分散剤、定着樹脂、溶剤を少なくとも含有する水性インクジェットインクにおいて、定着樹脂がアミン中和型の水溶性樹脂または水分散性エマルジョンであり、溶剤がグリコールエーテルまたは炭素数4以上の1,2−アルカンジオールを少なくとも含有することを特徴とする水性インクジェットインク。
【請求項2】
カーボンブラックに対する定着樹脂の質量比(定着樹脂/カーボンブラック)が0.8以上、4.0以下であることを特徴とする請求項1に記載の水性インクジェットインク。
【請求項3】
グリコールエーテルがジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテルから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の水性インクジェットインク。
【請求項4】
カーボンブラックが多分散性指数0.18以上、0.40以下でインク中に分散されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性インクジェットインク。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の水性インクジェットインクを用いて非吸水性記録媒体または布帛上に画像記録することを特徴とするインクジェット記録方法。
【請求項6】
非吸水性記録媒体または布帛の記録面側の表面温度を、35℃以上、80℃以下に加熱して記録することを特徴とする請求項5に記載のインクジェット記録方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−249446(P2009−249446A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−96963(P2008−96963)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(305002394)コニカミノルタIJ株式会社 (317)
【Fターム(参考)】