説明

水性エマルジョン組成物

【課題】無機塩類が混入されても、凝集やゲル化が生じにくく、耐塩性に優れ、かつ、得られる塗膜が耐水性や耐アルカリ性に優れたものとなる水性エマルジョン組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】ノニオン反応性乳化剤、又はこれとアニオン性乳化剤との混合乳化剤からなり、混合比(重量比)がアニオン性乳化剤/ノニオン反応性乳化剤=0/10〜2.5/7.5である乳化剤の存在下、アルコキシシリル基含有ビニル単量体(A)、及びこれと共重合可能な重合性単量体(B)を含む単量体混合物を乳化共重合して得られる共重合体粒子を含む水性エマルジョン組成物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水性エマルジョン組成物に関する。より詳しくは、耐塩性が良好で、得られる塗膜が、耐水性や耐アルカリ性に優れた水性エマルジョン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水性エマルジョンは、水性塗料、水性接着剤、水性粘着剤、水性インク等の用途に広く用いられている。このような水性エマルジョンは、水性媒体中に粒子を分散された状態が界面活性剤によって保持され、安定化されている。そのため、界面活性剤に影響を及ぼすものが水性エマルジョンと接触すると、分散状態が不安定となって、水性エマルジョンの凝集やゲル化を生じさせることがある。
【0003】
ところで、水性エマルジョンから形成される塗料組成物は、用途によっては、そのまま塗布するだけではなく、水溶性樹脂等の他の樹脂との複合化が図られたり、無機塩類等、特に、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム等の多価金属の塩と混和したりして使用する場合があり、水性エマルジョンの安定性が問題となる場合がある。
【0004】
特に近年、環境等の観点から、塗料の分野において、溶剤系から水系への転換が検討されている。しかし、水性塗料組成物に用いられる水性エマルジョン組成物には、無機塩類の混和時のエマルジョンの安定性、すなわち、耐塩性が、また、この組成物から得られる塗膜には耐水性や耐アルカリ性が要求される。
【0005】
これに対し、上記水性エマルジョン組成物として、多量のノニオン性乳化剤を含有させたものや、親水性モノマーを共重合させたもの、または、ポリビニルアルコールを保護コロイドとして添加したもの等を用いることによって、無機塩類が混和されても安定性を得ること、すなわち耐塩性を向上させることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の各組成物を用いて得られた塗膜は、耐水性が著しく低下する問題がある。これに対し、耐水性を向上させる方法として、親水性成分の少ない領域で、反応性の乳化剤を使用する方法が知られている。この反応性の乳化剤を使用する場合、アニオン系の反応性乳化剤を用いることにより、反応性の乳化剤の使用量が少量でも重合安定性が得られることが知られているが、無機塩類の混入により、凝集やゲル化が生じてしまうことがある。
【0007】
すなわち、耐塩性の向上と、生成する塗膜の耐水性や耐アルカリ性の向上とは、相反する傾向を有している。このため、その両者の性能を併せ持つ水性エマルジョン組成物の開発が望まれている。
【0008】
そこで、この発明は、無機塩類が混入されても、凝集やゲル化が生じにくく、耐塩性に優れ、かつ、得られる塗膜が耐水性や耐アルカリ性に優れたものとなる水性エマルジョン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、ノニオン反応性乳化剤、又はこれとアニオン性乳化剤との混合乳化剤からなり、混合比(重量比)がアニオン性乳化剤/ノニオン反応性乳化剤=0/10〜2.5/7.5である乳化剤の存在下、アルコキシシリル基含有ビニル単量体(A)、及びこれと共重合可能な重合性単量体(B)を含む単量体混合物を乳化共重合して得られる共重合体粒子を含む水性エマルジョン組成物を用いることにより、上記課題を解決したのである。また、上記の単量体混合物に、水酸基を有する重合性単量体を含有させてもよい。
【発明の効果】
【0010】
アルコキシシリル基含有ビニル単量体(A)を用いることで、得られる組成物を用いて塗膜を形成した場合に、耐水性及び耐アルカリ性を向上させることができる。また、ノニオン反応性乳化剤を用いるので、得られる組成物の耐塩水性を向上させることができる。さらに、アニオン性乳化剤を併用することにより、重合安定性を向上させることができ、安定的に目的の組成物を製造することができる。
【0011】
また、上記の単量体混合物に、水酸基を有する重合性単量体を含有させることにより、得られる水性エマルジョン組成物を用いて塗膜を形成した場合、形成される塗膜の耐水性をより向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明にかかる水性エマルジョン組成物は、所定の乳化剤の存在下、アルコキシシリル基含有ビニル単量体(A)、及びこれと共重合可能な重合性単量体(B)を含む単量体混合物を乳化共重合して得られる共重合体粒子を含む組成物である。
【0013】
上記のアルコキシシリル基含有ビニル単量体(以下、「(A)成分」と称する。)は、アルコキシシリル基を有するビニル単量体であり、例として、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等があげられる。
【0014】
この(A)成分に含まれるアルコキシシリル基中のアルコキシ基の置換数は、1〜3の範囲であれば、特に限定されず、また、アルコキシ基は全て同じであっても、一部又は全てが異なっていてもよい。また、このアルコキシ基中のアルキル基の炭素原子数は、通常、1〜8程度であればよい。
【0015】
上記の(A)成分は、1種類のものを単独で使用してもよく、また、2種以上の複数種類のものを併用してもよい。
【0016】
上記(A)成分を用いることにより、上記乳化共重合で得られる共重合体粒子の骨格にアルコキシシリル基を導入することができる。アルコキシシリル基は加水分解縮合により、架橋構造が形成されるが、アルカリ成分があると、さらに、その加水分解縮合が促進される。この加水分解縮合により、架橋反応が進行するので、得られる共重合体粒子を含む組成物を用いて塗膜を形成した場合に、耐水性及び耐アルカリ性を向上させることが可能となる。
【0017】
上記の共重合可能な重合性単量体(以下、「(B)成分」と称する。)は、上記(A)成分と共重合可能な単量体をいい、(メタ)アクリル酸鎖状アルキルエステル類、(メタ)アクリル酸脂環式アルキルエステル類等の(メタ)アクリル系化合物、芳香族基を有する重合性単量体、ビニルエステル類、複素環式ビニル化合物、ハロゲン化ビニリデン化合物、α−オレフィン類、ジエン類、ハロゲン化ビニル化合物、シアノ基含有単量体、ビニルエーテル類等の疎水性単量体や、カルボキシル基を有する重合性単量体、水酸基を有する重合性単量体等の親水性単量体等があげられる。これらの中でも、特に、水酸基を有する重合性単量体を上記(B)成分の一部又は全部として用いると、得られる水性エマルジョン組成物から形成される塗膜の耐水性がさらに向上するという特徴を発揮できる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、「アクリル又はメタクリル」を意味する。
【0018】
上記(メタ)アクリル酸鎖状アルキルエステル類としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等の炭素数1〜8のアルキル基残基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル等があげられる。さらに、(メタ)アクリル酸脂環式アルキルエステル類としては、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等があげられる。
【0019】
また、上記芳香族基を有する重合性単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン等があげられる。さらにまた、上記ビニルエステル類としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸と、メチルアルコール、エチルアルコール、アリルアルコール等との各種不飽和ジカルボン酸エステル類や、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等があげられる。
【0020】
また、上記複素環式ビニル化合物としては、ビニルピロリドン等があげられ、上記ハロゲン化ビニリデン化合物としては、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等があげられ、上記α−オレフィン類としては、エチレン、プロピレン等があげられる。
【0021】
さらに、上記ジエン類としては、ブタジエン等があげられ、上記ハロゲン化ビニル化合物としては、塩化ビニル等があげられ、上記シアノ基含有単量体としては、(メタ)アクリロニトリル等があげられ、ビニルエーテル類としては、メチルビニルエーテル等があげられる。
【0022】
さらにまた、上記カルボキシル基を有する重合性単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、2−アクリロイルオキシプロピオン酸等があげられる。
【0023】
また、水酸基を有する重合性単量体としては、ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシイソプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル系単量体、グリセリンモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンモノアリルエーテル、アリルアルコール等が挙げられる。これらの中でも、ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシイソプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0024】
上記水酸基含有(メタ)アクリル系単量体の含有割合は、上記単量体混合物に含有される単量体の全量を100重量%としたとき、1重量%以上がよく、3重量%以上が好ましい。1重量%より少ないと、得られる水性エマルジョン組成物から形成される塗膜の耐水性が十分に向上しない傾向がある。一方、含有割合の上限は、20重量%がよく、15重量%が好ましい。20重量%より多いと、重合中にゲル化しやすくなり、重合が困難となる場合が生じやすい。
【0025】
上記単量体混合物中には、上記(A)成分及び(B)成分以外に、必要に応じて、アルキルアルコキシシラン、又は部分的に加水分解縮合したアルキルアルコキシシラン(以下、「アルキルアルコキシシラン等」と称する。)を含有させてもよい。これを含有させることにより、得られる組成物から形成される塗膜の耐アルカリ性及び耐候性が向上するという特徴を発揮することができる。このようなアルキルアルコキシシラン等の例としては、モノアルコキシシランとして、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルエトキシシラン等が、ジアルコキシシランとして、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン等が、また、トリアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン等があげられる。これらのアルコキシシランは、さらにアミノ基やメルカプト基等の置換基を有していてもよい。
【0026】
上記アルキルアルコキシシラン等の添加効果を発揮させるための含有量は、上記単量体混合物に対して、20重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましい。20重量%を超えると、重合安定性の面で問題を生じる場合がある。一方、上記アルキルアルコキシシラン等の添加効果を発揮させるための含有量の下限は、0.5重量%がよく、1重量%が好ましい。0.5重量%より少ないと、耐候性の面で、上記アルキルアルコキシシラン等の添加効果が十分に発揮し難くなる傾向がある。
【0027】
さらに、上記アルキルアルコキシシラン等以外に、この発明の効果を阻害しない範囲で、上記単量体混合物に他の単量体や添加物を加えてもよい。
【0028】
上記単量体混合物中の上記(A)成分の含有量は、上記単量体混合物全体に対して、0.05重量%以上がよく、0.1重量%以上が好ましい。0.05重量%より少ないと、得られる組成物を用いて塗膜を形成した場合に、耐水性及び耐アルカリ性を十分に向上させることが困難となる傾向がある。一方、上記(A)成分の含有量の上限は、10重量%がよく、5重量%が好ましい。10重量%より多いと、上記の乳化共重合の際、凝集物やゲル化物が発生しやすくなり、重合安定性に劣る傾向がある。
【0029】
上記水性エマルジョン組成物は、上記単量体混合物を、所定の乳化剤を用いて、常法によって乳化共重合を行なうことによって製造される。例えば、あらかじめ適量の水や上記乳化剤を仕込んだ反応容器内に、上記重合成分及び重合開始剤、連鎖移動剤等を一括、分割又は連続して仕込み、撹拌しながら乳化状態下、所定の反応条件で重合させることにより、製造することができる。
【0030】
このようにして得られる水性エマルジョン組成物中には、上記の単量体混合物から得られる共重合体が、通常、0.01〜1μmの粒子として含まれる。そして、上記水性エマルジョン組成物中には、このような共重合体粒子が、上記所定の乳化剤によって分散されてエマルジョン状態となっている。
【0031】
上記重合時における重合成分の濃度を、15〜60重量%、好ましくは30〜50重量%とすると、得られる水性エマルジョン組成物の粘度が低くなり、取扱い性の面から好ましい。
【0032】
上記の所定の乳化剤とは、ノニオン反応性乳化剤からなる乳化剤、又はノニオン反応性乳化剤とアニオン性乳化剤との混合乳化剤をいう。
【0033】
上記ノニオン反応性乳化剤としては、α−ヒドロ−ω−(1−アルコキシメチル−2−(2−プロペニルオキシ)エトキシ)−ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル))(旭電化工業(株)製:アデカリアソープER−10,ER−20,ER−30,ER−40)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル(第一工業製薬(株)製:アクアロンRN−20,RN−30,RN−50)、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル(花王(株)製:ラテムルPD−420,PD−430,PD−450)等があげられる。このノニオン反応性乳化剤を用いることにより、乳化共重合時に、このノニオン反応性乳化剤が共重合体内に取り込まれ、得られる組成物の耐塩水性の向上に寄与することができる。
【0034】
また、上記アニオン性乳化剤の例としては、アルキルサルフェート、アルキルベンゼンスルホネート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム等があげられる。
【0035】
また、アニオン性乳化剤に反応性を付与したアニオン性反応性乳化剤としては、アルキルアリルスルホコハク酸塩(例えば三洋化成(株)製:エレミノール(登録商標)JS−2、例えば花王(株)製:ラテムル(登録商標)S−180A、S−180等があげられる)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(例えば第一工業製薬(株)製:アクアロン(登録商標)HS−10,HS−5,BC−10,BC−5等があげられる)、α−スルホ−ω−(1−(ノニルフェノキシ)メチル−2−(2−プロペニルオキシ)エトキシ)−ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル)アンモニウム塩(例えば旭電化工業(株)製:アデカリアソープ(登録商標)SE−10,SE−1025A等があげられる)、ポリオキシエチレン−1−(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(例えば第一工業製薬(株)製:アクアロン(登録商標)KH−10等があげられる)、α−スルホ−ω−(1−(アルコキシ)メチル−2−(2−プロペニルオキシ)エトキシ)−ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル)アンモニウム塩(例えば旭電化工業(株)製:アデカリアソープ(登録商標)SR−10,SR−1025等があげられる)、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩(例えば花王(株)製:ラテムル(登録商標)PD−104等があげられる)等があげられる。このアニオン性反応性乳化剤を所定量用いることにより、重合安定性を向上させることができ、安定的に目的の組成物を製造することができる。
【0036】
上記ノニオン反応性乳化剤の上記単量体混合物100重量部あたりの使用量は、3重量部以上がよく、5重量部以上が好ましい。3重量部未満だと、重合安定性が不良になったり、得られる組成物から形成される塗膜の耐水性が低下したりする傾向がある。一方、使用量の上限は、30重量部がよく、15重量部が好ましい。使用量が多すぎると、耐水性が低下する傾向がある。
【0037】
上記のノニオン反応性乳化剤とアニオン性乳化剤との混合乳化剤を用いる場合、このノニオン反応性乳化剤とアニオン性乳化剤との混合比は、重量比で、アニオン性乳化剤/ノニオン反応性乳化剤=2.5/7.5以下がよく、2/8以下が好ましい。2.5/7.5より大きいと、ノニオン反応性乳化剤の含有割合が少なくなりすぎて、得られる組成物から形成される塗膜の耐水性が低下する傾向がある。なお、この混合比の下限は、特に限定されないが、アニオン性乳化剤の添加効果、特に重合安定性の面から見て、0.4/9.6が好ましい。
【0038】
上記重合開始剤としては、一般に用いられるラジカル重合開始剤を用いることができ、その代表例としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシアノ吉草酸、2,2−アゾビス(2,4−ジメチル)バレロニトリル等のアゾ化合物、t−ブチルヒドロキシルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の過酸化物等があげられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。この重合開始剤の使用量は、上記単量体混合物100重量部に対して0.01〜3重量部が好ましい。
【0039】
上記乳化共重合反応の反応温度は、20〜95℃が好ましく、また、反応時間は、2〜8時間が好ましい。
【0040】
上記の乳化共重合によって製造された共重合体粒子を含む組成物には、必要に応じて、顔料などの着色剤、ワックス、消泡剤、可塑剤、成膜助剤などを、この発明の効果を阻害しない範囲内で添加することができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。まず、実施例及び比較例で行った試験及び評価方法並びに使用した原材料について説明する。
【0042】
[試験及び評価方法]
<耐温水性>
耐温水性は、塗膜の耐水性を評価するための促進試験であり、その試験方法は、下記の通りである。
実施例や比較例で得られた組成物に、テキサノール(チッソ(株)製:CS12)を、7重量%となるように添加した。そして、これを、アプリケーター(0.15mm)を用いて、ガラス板に塗布し、常温で24時間、乾燥させた。その後、このガラス板を60℃の温水に8時間浸漬して、皮膜の白化の程度を色彩色差計(ミノルタカメラ(株)製:CR−300)を用いて、明暗度(ΔL)を測定し、下記の基準で評価した。
5…ΔL≦0.15
4…0.15<ΔL≦0.3
3…0.3<ΔL≦0.5
2…0.5<ΔL≦1.0
1…1.0<ΔL
【0043】
<耐アルカリ温水性>
耐アルカリ温水性は、塗膜をアルカリ条件下に曝した際に、白化現象が生じるか否かを確かめる試験である。これは、塗膜がセメント等のアルカリ性成分を含む基材上に形成される場合、この塗膜が水と接触することにより、白化現象が生じることがあるからである。その試験方法は以下の通りである。
実施例や比較例で得られた組成物に、テキサノール(チッソ(株)製:CS12)を、7重量%となるように添加した。そして、これを、アプリケーター(0.2mm)を用いて、試験板(黒塗料を塗布したスレート板)に塗布し、常温で24時間、乾燥させた。その後、このスレート板を、pH11.5に調整した60℃の温水に8時間浸漬して、皮膜の白化の程度を下記の基準で目視判定した。
5…白化なし
4…白化部分の面積が、浸漬部分の面積の25%以下
3…白化部分の面積が、浸漬部分の面積の25%を超え50%以下
2…白化部分の面積が、浸漬部分の面積の50%を超え75%以下
1…白化部分の面積が、浸漬部分の面積の75%を超える
【0044】
<耐塩析性>
耐塩析性は、水性エマルジョン組成物を、多価金属の塩と混合したときの、凝集物の生成量に基づいて評価したものである。その試験方法は以下の通りである。
実施例や比較例で得られた組成物10g(有姿)に、35重量%塩化カルシウム水溶液1.3gを添加し、凝集物を200メッシュの金網でろ過し、その残渣を測定した。乾燥後のろ過残量より、塩析率(重量%、対仕込固形分量)を算出した。
【0045】
<貯蔵安定性>
実施例や比較例で得られた組成物を80℃の乾燥機中に7日間静置した。その後、ゲル化の状態を目視で観察し、下記の基準で評価した。
○:ゲル化・増粘がみられない
△:若干、増粘がみられる
×:ゲル化した
【0046】
<耐候性>
実施例や比較例で得られた組成物に、テキサノール(チッソ(株)製:CS12)を、7重量%となるように添加した。そして、これを、アプリケーター(0.2mm又は1.0mm)を用いて、白下地試験板(スレート板)に塗布し、常温で24時間、乾燥させた。その後、耐候性試験機(アトラス社製:ユーブコンQUV)を用いて、200時間処理(1サイクル:UV照射4時間+加湿時間4時間、25サイクル)した。そして、色彩色差計(ミノルタカメラ(株)製:CR−300)を用いて、処理前後のb値の差を黄変度(Δb)として測定した。
【0047】
[使用原材料]
(1)アルコキシシリル基含有ビニル単量体((A)成分)
・メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン…東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製:SZ6030、以下、「SZ6030」と略する。
【0048】
(2)重合性単量体((B)成分)
・シクロヘキシルメタクリレート…旭化成(株)製、以下、「CHMA」と略する。
・ブチルアクリレート…三菱化学(株)製、以下、「BA」と略する。
・ブチルメタクリレート…三菱レイヨン(株)製、以下、「BMA」と略する。
・ヒドロキシエチルメタクリレート…扶桑化学工業(株)製、以下、「HEMA」と略する。
【0049】
(3)アルキルアルコキシシラン
・アルコキシシロキサン…信越化学工業(株)製:KC−89S、以下、「KC−89S」と略する。
【0050】
(4)乳化剤
・旭電化工業(株)製:アデカリアソープER−30(ノニオン型反応性)(α−ヒドロ−ω−(1−アルコキシメチル−2−(2−プロペニルオキシ)エトキシ)−ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル))、以下、「ER−30」と略する。
・旭電化工業(株)製:アデカリアソープSR−10(アニオン型反応性)(α−スルホ−ω−(1−アルコキシメチル−2−(2−プロペニルオキシ)エトキシ)−ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル)アンモニウム塩)、以下、「SR−10」と略する。
・花王(株)製:1118S−70(ノニオン型非反応性)(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)、以下、「1118S−70」と略する。
【0051】
(実施例1〜17、比較例1〜7)
攪拌機、還流冷却機及び原料投入口を備えた1Lフラスコ内に、イオン交換水106.6重量部、及び表1〜3に記載の乳化剤を、表1〜3に記載の量だけ仕込み、その内温を75℃に保ちながら、重合開始剤として、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.3重量部を添加した後、イオン交換水50.0重量部、及び表1〜3に記載の量の乳化剤の混合液に、表1〜3に記載のシラン系の化合物及び重合性単量体を、表1〜3に記載の量ずつ混合した乳化混合液を滴下液として、3時間かけて滴下した。
滴下終了後、内温を80℃に昇温し、1時間後に、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル(ADVN)0.1重量部を添加した後、引き続き内温80℃で2時間熟成した。得られた乳化物を30℃に冷却し、pH3.9、固形分39.3%の水分散性樹脂乳化物を得た。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノニオン反応性乳化剤、又はこれとアニオン性乳化剤との混合乳化剤からなり、混合比(重量比)がアニオン性乳化剤/ノニオン反応性乳化剤=0/10〜2.5/7.5である乳化剤の存在下、アルコキシシリル基含有ビニル単量体(A)、及びこれと共重合可能な重合性単量体(B)を含む単量体混合物を乳化共重合して得られる共重合体粒子を含む水性エマルジョン組成物。
【請求項2】
上記ノニオン反応性乳化剤の使用量が、上記単量体混合物100重量部あたり3〜30重量部である請求項1に記載の水性エマルジョン組成物。
【請求項3】
上記単量体混合物中の上記アルコキシシリル基含有ビニル単量体(A)の含有量が、0.05〜10重量%である請求項1又は2に記載の水性エマルジョン組成物。
【請求項4】
上記単量体混合物が、水酸基を有する重合性単量体を含有する請求項1乃至3のいずれかに記載の水性エマルジョン組成物。
【請求項5】
上記の水酸基を有する重合性単量体が、水酸基含有(メタ)アクリル系単量体である請求項4に記載の水性エマルジョン組成物。
【請求項6】
上記単量体混合物に対する、上記水酸基を有する重合性単量体の含有割合が1〜20重量%である請求項4又は5に記載の水性エマルジョン組成物。
【請求項7】
上記単量体混合物に加えて、アルキルアルコキシシラン、又は部分的に加水分解縮合したアルキルアルコキシシランを、上記単量体混合物に対して、1〜20重量%含有してなる請求項1乃至6のいずれかに記載の水性エマルジョン組成物。

【公開番号】特開2006−265516(P2006−265516A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−209692(P2005−209692)
【出願日】平成17年7月20日(2005.7.20)
【出願人】(000211020)中央理化工業株式会社 (65)
【Fターム(参考)】