説明

水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリマー膜、その製造及び使用

本発明の水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜を:100部の水溶性ポリマー、30〜500部の疎水性モノマー、0〜200部の親水性モノマー及び1〜5部の開始剤を共重合してポリマーコロイドエマルジョンにし、ポリマーコロイドエマルジョンの固形分100%基準で0〜100%の無機フィラー及び20〜100%の可塑剤を添加して、スラリーを得、このスラリーを表面修飾された微孔性ポリオレフィン膜の片面又は両面上にコーティングし、次いで乾燥するステップによって得る。水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜は、熱シャットダウン効果を有し、熱収縮がほとんどなく、高温での微孔性ポリオレフィン膜の収縮の主な問題を改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水性電解質電池などのエネルギー蓄積装置に使用される、水性ポリマーによって修飾された膜材料、並びにその調製法及び使用に関し、電池、キャパシタなどのエネルギー蓄積装置製造の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
微孔性ポリマー膜は、リチウムイオン電池、充電式リチウム金属電池及びスーパーキャパシタなどの非水性電解質エネルギー蓄積装置を製造するために不可欠な材料の1つである。非水性電解質エネルギー蓄積装置に用いられる市販の膜は、主に微孔性ポリオレフィン膜、微孔性ポリフッ化ビニリデン膜及び微孔性ポリオレフィン/ポリフッ化ビニリデン複合膜である。
【0003】
機械的二方向延伸法(乾式法)及び溶媒抽出法(湿式法)によって製造される微孔性ポリオレフィン膜は、主にポリエチレン膜、ポリプロピレン膜及びポリエチレン−ポリプロピレン複合膜である。ポリオレフィンは非極性物質であるので、ポリオレフィンと電解質溶液(極性有機溶媒)との相溶性は不十分である。ポリオレフィンは、アノードとカソード間の機械的隔離の役割のみを果たす。膜は電解質に固定されず、このために電解質溶液のほとんどは電池において遊離状態で存在する。充放電サイクルの間、遊離電解質とアノード及びカソード材料との間にレドックス副反応が必ず起こって、電池中の電解質が消費され、その結果、プア液(poor liquid)となる。これにより、電池の分極が増大し、充放電サイクル中のリチウム沈殿結晶により形成されるリチウムデンドライトが生じやすくなり、その結果、膜穿孔現象が起こる。電池のプア液により生じる乾燥部分とリチウムデンドライトのために、電池における静電破壊現象及びアノードとカソード間の直接短絡が起こり易くなり、その結果、リチウムイオン電池の燃焼及び爆発などの潜在的な安全上の問題をもたらす。リチウムイオン電池の潜在的な安全上の問題のために、高出力かつ大容量の電源において用いられる開発空間が限定される。
【0004】
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)及びその誘導体は、可塑剤の存在下でのみ膜形成能を有する。可塑剤を含むPVDF膜は、自己接着性及び比較的低い機械的強度という深刻な欠点のために、プロセス操作性が悪い。これは、独立して微孔性ポリマー膜に調製することができない。このような微孔性ポリマー膜の調製法は、基本的に次の手順を用いる。可塑剤を含むPVDF膜並びにアノード及びカソードの電池電極を熱結合によって乾電池に調製する。次いで、有機溶媒を用いて乾電池を抽出して、アノード及びカソードと結合したPVDF微孔性ポリマー膜を形成する。PVDF微孔性ポリマー膜の調製に関する技術的問題を解決して、独立して微孔性ポリオレフィン膜などの膜を調製できるようにするため、及び電池の調製における操作性を向上させるために、PVDF溶液を微孔性ポリオレフィン膜上にコーティングし、次いで溶媒抽出法又は相反転法を用いて、微孔性ポリオレフィン/ポリフッ化ビニリデン複合膜を調製する。
【0005】
微孔性ポリオレフィン膜、微孔性ポリフッ化ビニリデン膜及び微孔性ポリオレフィン/ポリフッ化ビニリデン複合膜の主な欠点は、それらの耐熱性が比較的低いことである。電池の内部温度が150℃を越えた時点で、ポリオレフィン系物質は融解し、微小孔が消失し、これによりイオン伝導をブロック(いわゆるヒューズ保護効果)するが、微孔性ポリマー膜は融解しながら大幅に収縮し、サイズが小さくなるので、電池のアノードとカソード間で直接短絡が起こる可能性があり、燃焼及び爆発などの電池の安全性の問題を引き起こす。
【0006】
微孔性ポリオレフィン膜の耐熱性の問題を克服し、高温でのその収縮を軽減し、電池の安全性を改善するために、CN101250276は、微孔性ポリオレフィン膜を修飾する方法を開示している。この方法は、液体リチウムイオン電池の膜を、有機溶媒(アセトンなど)と化学架橋剤モノマー(二官能性アクリル酸エステルモノマー)と架橋機能を有するポリマー(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)とを含む溶液中に浸漬する。モノマーの重合反応は、修飾において修飾された膜の性能に直接影響を及ぼし、条件を制御するのは困難である。0.0001%〜0.1%の熱開始剤を電池コアに添加することが必要とされ、ある量の化学架橋モノマーをアノード部分とカソード部分との間に添加することが必要とされる。このために、電池の製造法が複雑になる。
【0007】
一般的に、高温でのその収縮を軽減するために新規修飾ポリオレフィン膜が現在緊急に必要とされ、簡単な製造法により非水性電解質エネルギー蓄積装置に用いられる低コストの膜も必要とされる。
【0008】
本発明者は、多数の実験により水性ポリマーコロイドエマルジョンから微孔性ポリマー膜を合成し、これに基づいて水性ポリマーコロイドエマルジョンを不織布上にコーティングして、より高い耐熱性及び機械的強度を有する膜CN101226994を調製する。調製法は、水を溶媒として使用するクリーンで環境に優しい製造技術である。非極性微孔性ポリオレフィン膜を極性水性ポリマーによって修飾できるかどうかによらず、本発明者は大胆な試みを行った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明によって解決されるべき第1の技術的課題は、熱収縮がほとんどない水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の技術的提案は次のとおりである:微孔性ポリオレフィン膜及びその表面上の水性ポリマーコーティングからなる。水性ポリマーコーティングは次のステップによって得られる:100(重量)部の水溶性ポリマー、30〜500部の疎水性モノマー、0〜200部の親水性モノマー及び1〜5部の開始剤を共重合することによってポリマーコロイド状エマルジョンを調製する。0〜100%の無機フィラー、0〜50%の有機フィラー及び20〜100%の可塑剤(ポリマーコロイド状エマルジョンの固形分100%基準)をエマルジョンに添加して、スラリーを得る。スラリーを微孔性ポリオレフィン膜の表面上にコーティングし、次いで乾燥して、修飾膜を得る。
【0011】
本発明の水溶性ポリマーは、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン又はポリビニルピロリドンの水溶性コポリマーである。ポリビニルアルコールの重合度は1700〜2400であり、加水分解度は50〜99である。ポリエチレンオキシドは、100,000〜2,000,000の範囲の分子量を有し、ポリビニルピロリドン又はポリビニルピロリドンの水溶性コポリマーは、500〜100,000、好ましくは10,000〜30,000の範囲の分子量を有する。
【0012】
疎水性モノマーの構造式はCH=CRであり、式中:
=−H又は−CHであり、
=−C、−OCOCH、−COOCH、−COOCHCH、−COOCHCHCHCH、−COOCHCH(CHCH)CHCHCHCH又は−CNである。疎水性モノマーは、前記疎水性モノマーから選択される少なくとも1つである。
【0013】
親水性モノマーの構造式はCHR=CRであり、式中:
=−H、−CH又は−COOLiであり、
=−H、−CH又は−COOLiであり、
=−COOLi、−CHCOOLi、−COO(CHSOLi、−CONH、−CONHCH
【化1】


−CONHCHCH、−CON(CH又は−CON(CHCHである。親水性モノマーは、前記親水性モノマーから選択される少なくとも1つである。
【0014】
記載する微孔性ポリオレフィン膜は、微孔性ポリプロピレン膜(PP膜)、微孔性ポリエチレン膜(PE膜)又は3層複合膜PP/PE/PPである。ポリオレフィン膜の空隙率は20%〜90%、好ましくは35%〜85%である。
【0015】
本発明によって解決されるべき第2の技術的課題は、環境に優しい調製技術を提供することであり、非水性電解質エネルギー蓄積装置用の低コストで優れた性能を有する修飾膜を得ることができる。
【0016】
前述の水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜の調製法は次のステップを含む:
【0017】
(a)ポリマーコロイドエマルジョンの調製
【0018】
水溶性ポリマー及び親水性モノマーを水に添加し、固体が完全に溶解するまで撹拌する。疎水性モノマー及び開始剤を重合反応用リアクターに添加して、ポリマーコロイドエマルジョンを得る。
【0019】
(b)ポリマーコロイドスラリーの調製
【0020】
0〜100%の無機フィラー、0〜50%の有機フィラー及び20−100%の可塑剤をポリマーコロイドエマルジョンに添加し(その固形分100%基準)、撹拌し、粉砕し、濾過して、水性ポリマースラリーを得る。及び
【0021】
(c)コーティングにより水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜の調製
【0022】
水性ポリマースラリー(ステップbで得られる)を微孔性ポリオレフィン膜の片面または両面上にコーティングし、乾燥して、水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜を得る。
【0023】
微孔性ポリオレフィン膜の表面エネルギー及び粗さを改善して微孔性ポリオレフィン膜及び水性ポリマースラリーを結合させるために、記載された微孔性ポリオレフィン膜を次の方法によって表面修飾する。
【0024】
本発明において、本発明者は次の方法によって微孔性ポリオレフィン膜の表面を修飾する:(1)熱処理(コロナ)、プラズマ処理、高エネルギー放射線処理又は光処理のうちの少なくとも1つにより微孔性ポリオレフィン膜を前処理し、(2)カップリング剤又はボンダーのうちの少なくとも1つにより微孔性ポリオレフィン膜の表面をプレコーティングし、(3)(1)と(2)との両方によって微孔性膜の表面を修飾する。処理法は、微孔性膜の表面特性のみを変え、膜の固有特性は維持することができ、微孔性構造などに影響を及ぼさない。
【0025】
本発明によって解決されるべき第3の技術的課題は、リチウムイオン電池、スーパーキャパシタ及び電池/スーパーキャパシタエネルギー蓄積装置を調製するための、水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜の使用を提供することである。
【0026】
本発明の利点は次のとおりである:
【0027】
水性ポリマーによって修飾されたポリオレフィン膜は、熱シャットダウン効果を有し(ポリオレフィン膜は高温で融解して、その結果、微小孔が閉鎖される)、熱収縮がほとんどなく、したがって高温でのポリオレフィン膜の収縮の主な問題を解決することができ、電池の安全性を改善することができる。また膜の破裂温度が上昇し、かくして高温での膜の結合性が保証され、電池の安全性がさらに改善される。加えて、その高い極性のために、コーティング材料は、膜の液体吸収性及び保持性を改善することができ、かくしてより良好に充放電性能、電池の速度性能、サイクル寿命及び安全性能が改善される。
【0028】
本発明において、膜の調製において化学反応は起こらず、従って制御が容易である。また、スラリー及びポリオレフィン膜は優れた密着性を有し、安定かつ均一な界面結合が保証される。加えて、スラリー及び電極は良好な適合性を有するので、電池の良好な性能が保証される。電池の他の調製技術は、既存の技術と完全に一致する。一方、コーティング材料の難燃性は次の3つの面:1.膜の熱シャットダウン性能、2.本発明では修飾膜の収縮がほとんどないのでアノードとカソード間の短絡(直接的接触)がないこと、及び3.膜の自己難燃性のために安全性の事故の場合に電池のさらなる燃焼を回避すること、から膜による電池の安全保護を保証する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の水性ポリマーによって修飾したポリオレフィン膜は次のステップによって得られる:ポリマーコロイド状エマルジョンは、100(重量)部の水溶性ポリマー、30〜500部の疎水性モノマー、0〜200部の親水性モノマー及び1〜5部の開始剤を共重合することによって調製する。0〜100%の無機フィラー及び20〜100%の可塑剤(ポリマーコロイド状エマルジョンの固形分100%基準)をエマルジョンに添加して、スラリーを得る。スラリーを微孔性ポリオレフィン膜の表面上にコーティングし、次いで乾燥して、修飾膜を得る。
【0030】
記載された微孔性ポリオレフィン膜は、微孔性ポリプロピレン膜(PP膜)、微孔性ポリエチレン膜(PE膜)又は3層複合膜PP/PE/PPである。ポリオレフィン膜の空隙率は20%〜90%、好ましくは35%〜85%である。
【0031】
ポリオレフィン材料は非極性高ポリマーであり、極性基を有さないので、その表面エネルギーは比較的低い。ポリオレフィン材料は化学的に不活性であり、湿潤性、ボンディング特性、可染性及び生体適合性などの機能化特性が比較的不良であるので、その結果、この膜材料とほとんどのポリマーとの適合性が低くなり、実際の用途でのポリマーコロイドとの結合強度が低くなる。従って、本発明を円滑に実施するためには、ポリオレフィン膜を表面修飾して、極性基を導入するか、またはプレコーティング層を微孔性ポリオレフィン膜の表面上にコーティングして、膜材料の表面エネルギーを改善し、膜表面の粗さを改善し、表面結合性を増大させ、表面の弱い境界層を除去し、かくして膜と水性ポリマースラリーとの結合を達成することが必要である。
【0032】
現在のところ、ポリオレフィン膜の表面修飾法としては、主に、化学修飾、物理修飾、ブレンディング修飾、界面活性剤法、プラズマ処理、光グラフティング修飾、高エネルギー放射線グラフティング修飾等が挙げられる。化学酸化、物理的サンドブラスティング、ポリッシング等は、厚さの制御が困難であり、膜材料の後処理が複雑であるなどの欠点を有し、従って大規模生産が困難である。しかし、プラズマ、照明及び高エネルギー放射線などの本発明の技術によってポリオレフィン膜上でポリマーモノマーをグラフト修飾する場合、グラフティング反応の制御は困難であるため、修飾膜の均一性は不十分である。また、グラフティング反応が膜の微小孔中で起こり、その結果、孔容積及び空隙率が減少し、グラフティング後に孔が変形し、ねじれる。このことは、膜の性質に影響を及ぼし、さらに電池の性能に影響を及ぼす。
【0033】
本発明では、本発明者は、次の方法によって微孔性ポリオレフィン膜を前処理する:(1)熱処理(コロナ)、プラズマ処理及び高エネルギー放射線処理又は光処理、(2)カップリング剤又はボンダーのうちの少なくとも1つによる微孔性ポリオレフィン膜の表面のプレコーティング、(3)2つの方法の組み合わせによる微孔性膜の表面の修飾。処理法は、微孔性膜の表面特性のみを変え、膜の固有特性を維持することができ、微孔性構造などに影響を及ぼさない。
【0034】
好ましくは、微孔性膜を、熱処理(コロナ)、プラズマ処理、照明、高エネルギー放射線などのうちの少なくとも1つによって前処理し、次いでカップリング剤又はボンダー、たとえばアクリロニトリル修飾EVA(エチレン−ビニルアセテートコポリマー)及び官能化シラン(ビニルシラン、オクチルシラン、アミノシラン、エポキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、イソシアネートシランなど)のうちの少なくとも1つによってコーティングする。
【0035】
本発明の水溶性ポリマーは、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン又はポリビニルピロリドンの水溶性コポリマーであり、ポリビニルアルコールの重合度は1700〜2400であり、加水分解度は50〜99である。ポリエチレンオキシドは100,000〜2,000,000の範囲の分子量を有し、ポリビニルピロリドン又はポリビニルピロリドンの水溶性コポリマーは500〜100,000、好ましくは10,000〜30,000の範囲の分子量を有する。
【0036】
疎水性モノマーの構造式はCH=CRであり、式中
=−H又は−CHであり、
=−C、−OCOCH、−COOCH、−COOCHCH、−COOCHCHCHCH、−COOCHCH(CHCH)CHCHCHCH又は−CNである。疎水性モノマーは、前記疎水性モノマーから選択される少なくとも1つである、
【0037】
親水性モノマーの構造式はCHR=CRであり、式中:
=−H、−CH又は−COOLiであり、
=−H、−CH又は−COOLiであり、
=−COOLi、−CHCOOLi、−COO(CHSOLi、−CONH、−CONHCH
【化2】


−CONHCHCH、−CON(CH又は−CON(CHCHである。親水性モノマーは前記親水性モノマーから選択される少なくとも1つである。
【0038】
本発明の水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜の調製法は、環境に優しく、生産コストが低く、修飾微孔性ポリオレフィン膜の性能が優れている。この調製法は以下のステップを含む:
【0039】
(a)ポリマーコロイドエマルジョンの調製
水溶性ポリマー及び親水性モノマー並びに助剤を水に添加し、固体が完全に溶解するまで撹拌し、加熱する。リアクター温度を30〜90℃の必要とされる反応温度に維持し、疎水性モノマーをリアクターに(一度に、バッチごとに、または滴下により)添加し、そして開始剤を添加して、4〜35時間の重合反応を開始して、ポリマーコロイドエマルジョンを得、この場合、開始剤は反応中に滴加することもできるし、またはバッチごとに添加することもできる。
【0040】
開始剤は、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素若しくはアゾビスイソブチルアミジン又は前記開始剤とNaSO及びFeSOから構成されるレドックス開始系である。
【0041】
コロイドエマルジョンをある程度安定化させるために、乳化剤として3重量部以上の助剤も添加することができる。助剤は、ドデシルスルホネート、ドデシルベンゼンスルホネート及びビニルスルホネートから選択することができる。
【0042】
(b)ポリマーコロイドスラリーの調製
0〜100%の無機フィラー、0〜50%の有機フィラー及び20〜100%の可塑剤をポリマーコロイドエマルジョンに添加し(その固形分100%基準)、撹拌し、そして均一に分散させ、そして2〜10時間、好ましくは3〜5時間粉砕する。次いで、スラリーを200メッシュ未満の篩によって濾過して、粉砕されない大きな粒子の物質を除去する。
【0043】
可塑剤は、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、n−ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、ジエチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリブチルホスフェート、イソアミルアセテート、エチルラクテート、メチルラクテート、エチルブチレート、ジエチルカーボネート、トリブチルプロピオネート、アミルメチルアセテート、イソプロピルアセテート、ジイソブチルケトン、メチルエチルケトン、ジプロピルケトン、エチルブチルケトン又はメチルアミルケトンのうちの少なくとも1つである。
【0044】
微孔性ポリマー膜の耐熱性、空隙率及び膜剛性を改善するために、無機フィラーを水性ポリマーコロイドエマルジョンに添加することができる。通常、無機フィラーは、より大きな比表面積及びより強力な表面吸着能を有する微粉末であり、このことは、電解質の吸着及び電解質塩の溶解にプラスになり、かくして膜のイオン伝導率を改善する。無機フィラーは、ヒュームコロイダルシリカ、アルミナ、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、マグネシア、炭酸カルシウム又はガラス繊維である。
【0045】
無機フィラーのポリマーコロイドエマルジョン中の分散性を改善するために、シランカップリング剤を添加することができる。カップリング剤は、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン又はビニルトリ(2−メトキシエトキシ)シランから選択することができる。シランカップリング剤の添加量は、無機フィラーの0.5〜5.0重量%である。
【0046】
修飾微孔性ポリオレフィン膜の安全性を向上させるために、ミクロンサイズの有機フィラーをも添加して膜を修飾することができる。その理由は、有機フィラーが膜のイオン伝導をブロックするために良好であるからである。従って、電池の使用温度が100〜130℃内で制御不能になった時点で、修飾微孔性ポリオレフィン膜はイオンが連続して流れるのを防止して、電池の安全性を保証する。ミクロンサイズの有機フィラーは、超微細ポリエチレンワックス、酸化ワックス粉末及び超微細ポリエチレンワックス粉末から選択される少なくとも1つであり得る。添加される有機フィラーの量は、ポリマーコロイドエマルジョンの固形分100%基準で5.0〜20%である。
【0047】
(c)ポリオレフィン膜の表面修飾
ポリオレフィン材料は非極性高ポリマーであるので、このような微孔性膜は表面エネルギーが低く、ほとんどのポリマーとの適合性が不良であり、ポリマーコロイドとの結合強度が低い。欠点を克服し、微孔性膜の表面エネルギーを改善するために、ポリオレフィン膜を次の方法によって表面修飾する:
【0048】
1)熱処理、プラズマ処理、高エネルギー放射線処理又は光処理のうちの少なくとも1つによる微孔性ポリオレフィン膜の処理、
2)アクリロニトリルによって修飾されたEVA若しくは官能化シラン(ビニルシラン、オクチルシラン、アミノシラン、エポキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、イソシアネートシラン等)のうちの少なくとも1つによる微孔性ポリオレフィン膜表面のコーティング、又は
3)熱処理、プラズマ処理、高エネルギー放射線処理若しくは光処理のうちの少なくとも1つによる微孔性ポリオレフィン膜の前処理と、次いでアクリロニトリルによって修飾されたEVA若しくは官能化シランのうちの少なくとも1つによる微孔性ポリオレフィン膜表面のコーティング。
【0049】
(d)コーティングにより水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜の調製
水性ポリマースラリー(ステップbで得たもの)を、ステップcで表面修飾した微孔性ポリオレフィン膜の片面又は両面上にコーティングする。コーティング厚さ(湿潤)は2〜600μm、好ましくは5〜400μmである。
【0050】
コーティング法は、プリンティング、マイクロ凹版プリンティング、ディップコーティング、リバース・ローラー・コーティング、ダイレクト・ローラー・コーティング、ローラー・スクレープ・コーティング、コンマ・ナイフ・コーティング、精密ダイレクト・マイクロローラー・コーティング、精密リバース・マイクロローラー・コーティング、スライドコーティング、押出コーティング、スロットコーティング、カーテンコーティングなどを含む。
【0051】
微孔性膜を、前記方法のうちのいずれか1つ、複数の前記方法の組み合わせ、又はワン・マシン・マルチポイント(one−machine multi−point)コーティング法、例えばコーティング1−乾燥1、コーティング2−乾燥2などの方法によって一度にコーティングする。すなわち1つの基材を連続して異なる材料でコーティングするか、1つの基材の異なる地点をコーティングする。こうすることで、1つのコーターによって複数の方法により連続してコーティングすることができる。
【0052】
(e)乾燥
ステップdでコーティングした湿潤膜を熱風、温風、赤外線放射及び他の技術の加熱法によって乾燥する。乾燥温度は30〜160℃、好ましくは40〜100℃である。10〜100μm、好ましくは12〜50μmの厚さの最終膜を得る。
【0053】
前記水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜を用いてリチウムイオン電池、スーパーキャパシタ及び電池/スーパーキャパシタエネルギー蓄積装置を調製することができる。
【0054】
本発明を以下の好適な実施例とあわせてさらに記載する。
【実施例1】
【0055】
本発明の水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜の調製
【0056】
a ポリマーコロイドエマルジョンの調製
親油性モノマーであるスチレン(St)/ブチルアクリレート(BA)/アクリロニトリル(AN)を水性相中での三元共重合のためにペリストン水溶液に添加した。コポリマー組成は、PVP:St:BA:AN=10:2:4:2(重量基準、以下同様)であり、コポリマー含有量は15%である。
【0057】
ポリマーエマルジョンを次のステップによって調製した:1000gの蒸留水を、凝縮水を含む四口反応容器に添加した。次いで、100gのペリストンを反応容器に添加し、反応容器を撹拌しながら90℃まで加熱した。物質が透明になったら、20gのスチレン(St)モノマー及び2gの過硫酸アンモニウム開始剤を添加した。20時間反応後、混合物は白色エマルジョンになった。次に、40gのブチルアクリレート(BA)を添加した。2時間反応後、20gのアクリロニトリルモノマー及び1.5gの開始剤を反応容器に添加した。12時間の重合後にポリマーコロイドエマルジョンを得た。
【0058】
b ポリマーコロイドスラリーの調製
19gの二酸化ジルコニウムフィラー、5gのポリエチレンワックス粉末及び160gのベンジルアルコール可塑剤を前段で得られたポリマーコロイドエマルジョンに添加した。6時間の高速撹拌及び5時間のボールミル粉砕後、ポリマーコロイドスラリーを得た。スラリーの粘度を20.6℃の周囲温度及びRH=64%で測定した:Tスラリー=35℃及び粘度=2500mpa・s。
【0059】
c ポリオレフィン膜の表面修飾
ポリオレフィンの表面修飾は、主に、湿潤性及びポリオレフィンと水性ポリマースラリーとの結合性を改善するためである。大規模生産に簡便な方法は、前処理とプレコーティング法との組み合わせである。すなわち、微孔性膜を、コロナ、プラズマ、照明及び高エネルギー放射線などの処理方法によって前処理し、次いでカップリング剤又はボンダーによってコーティングする。かくして、微孔性ポリオレフィン膜及び水性ポリマースラリーと優れた結合強度を有するコーティングを微孔性膜と水性スラリーとの間に導入する。
【0060】
この実施例において、厚さ16μm、基本重量10.8g/mの微孔性ポリプロピレン(PP)膜を、20m/分の速度でコロナ処理した(400wのコロナ出力)。次いで、20部のアクリロニトリルによって修飾したEVAゴム(固形分は20%であった)及び200部の酢酸エチルを固形分1.8%のスラリーに調製した。スラリーを前処理したポリプロピレン微孔性膜上にプリンティングによってコーティングした。コーティング厚さ(前処理膜上の片面)をグラビアローラー、速度、ゴムローラー圧などのパラメータに基づいて2μm未満に制御した。
【0061】
d コーティングにより水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜の調製
調製した水性スラリーをプレコーティングした微孔性PP膜上に連続ローラーコーティングプロセスによってコーティングした(ベルト速度は5m/分である)。ローラーコーティングプロセスにおいて、スラリー厚さをスクレーパーによって制御した。コーティングを実施し、反対方向に動くフィーディングローラーを有するベルトを接触させることによってコーティング層を制御することができる。続いて、コーティングされた湿潤膜を乾燥のために熱風循環炉に送り、厚さ25μmの修飾ポリプロピレン膜を得た。
【0062】
前段で調製した膜の空気透過性は約40(sec/in・100ml・1.22kPa)であり、これは1.22kPaの圧力で1平方インチあたり100mlの空気が通過する時間である(以下の実施例についても同様)。様々な温度での膜の収縮性及び空気透過性を表1及び表2に記載した。
【表1】

【0063】
注:下記実施例での収縮性についての試験条件はこの実施例と同様であった。膜をそれぞれの温度で2時間真空に供した。この実施例での膜(PP、PE又は複合膜)は、25±1μmの同じ厚さを有していた。
【0064】
表1は、実施例1で様々な温度での修飾ポリプロピレン膜の収縮性データである。ポリプロピレン(PP)膜と比較して、修飾ポリプロピレン膜は160℃でより良好な形状を保持する。耐温度性は電池の安全性にとって非常に有益である。加えて、本発明の実施例において膜の収縮性は自由状態で試験し、電池の収縮性はより小さく、これは以下の電池の熱ボックス試験と一致する。
【表2】

【0065】
注:下記実施例において高温での空気透過性の試験条件は実施例1と同じであった。膜を各温度で10分間処理した。
【実施例2】
【0066】
本発明の水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜の調製
【0067】
a ポリマーコロイドエマルジョンの調製
この実施例では、親水性高分子ポリビニルアルコール(PVA)1750及び親油性モノマーであるビニルアセテート(VAc)/エチルアクリレート(EA)/アクリロニトリル(AN)を水性相においてグラフト共重合して、リチウム電池膜に用いられる水性ポリマーコロイドエマルジョンを調製し、コポリマー組成はPVA:VAc:EA:AN=10:2:2:5(重量基準、以下同様)であり、コポリマー含有量は17%であり、得られた生成物は白色の不透明エマルジョンであった。
【0068】
ポリマーコロイドエマルジョンの具体的な調製法は以下のステップを含んでいた:1000gの蒸留水及び100gのポリビニルアルコール(PVA)1750を、凝縮水を含む四口反応容器に添加し、反応容器を100rpmの速度で撹拌しながら75℃まで加熱し、3時間後、得られた物質が透明になったら溶解が完了したと見なし、加熱をやめ、物質を55℃まで放冷し、次いで40gの親油性モノマーであるビニルアセテート(VAc)とエチルアクリレート(EA)との混合物(1:1比)を一度に添加し、撹拌して10分間分散させ、0.5gの水性開始剤ペルオキシ硫酸(aps)を添加し、約20分後に薄青色として物質を得、これは30分後に乳白色に変わり、2時間の共重合によって反応中間体を得た。
【0069】
反応溶液及び50gの親油性モノマーであるアクリロニトリル(AN)を混合し、分散させ、さらに1.5gの開始剤及び0.5gの弱酸性のビニルスルホン酸リチウム(SVSLi)を10時間の乳化重合のために添加して、ポリマーコロイドエマルジョンを得た。
【0070】
b ポリマーコロイドスラリーの調製
19gの二酸化ケイ素フィラー及び160gのアミルメチルアセテート可塑剤をポリマーコロイドエマルジョンに添加し、高速で6時間撹拌し、次いで5時間ボールミル粉砕した。スラリーの粘度を20.6℃の周囲温度及びRH=64%で測定した:Tスラリー=35℃及び粘度=2800mpa・s。
【0071】
c ポリオレフィン膜の表面修飾
この実施例でのポリオレフィン膜が厚さ16μm及び基本重量9.8g/mのポリエチレン微孔性膜である以外、ステップは基本的に実施例1と同じであった。使用したボンダーはオクタントリエトキシシランであった。
【0072】
d コーティングにより水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜の調製
【0073】
スラリーをステップcで前処理したポリエチレン微孔性膜上にローラー押出法(ベルト速度は約2m/分であった)によってコーティングし、その上に水蒸気及び可塑剤を、必要とされる温度の熱風及び赤外線を照射した乾燥トンネルによって蒸発させた。最終的に、厚さ約25μmの修飾ポリエチレン微孔性膜を得た。調製された膜の空気透過性は約30(sec/in・100ml・1.22kPa)であった。様々な温度での膜の収縮性及び空気透過性を表3及び表4に記載する。
【表3】

【表4】

【0074】
表4は、様々な温度での実施例2の修飾ポリエチレン膜の空気透過性データである。表4で示すように、温度が130℃まで上昇した場合、膜を透過する空気が急増した。すなわち、空気透過性は明らかに減少した。主な理由は、温度が130℃まで上昇した場合に膜材料の融点に達し、その結果、融解し、張力及び空隙率が急に減少し、さらには消失するために微小孔が閉塞したためで、したがって空気透過性が急速に減少した。このような性能は、電池の安全性にとって非常に有益であり、温度が130℃を越えて上昇した電池の異常事態の場合に、膜は閉塞し、かくしてさらなる反応を阻害し、電池の爆発及び燃焼を回避する。
【実施例3】
【0075】
本発明の水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜の調製
【0076】
a ポリマーコロイドエマルジョンの調製
この実施例では、ポリビニルアルコール1799(PVA)及び疎水性モノマーであるエテニルトリエチルオキシシランカップリング剤(151)/アクリロニトリル(AN)を水性相中でグラフト重合して、水性ポリマーエマルジョンを調製し、コポリマー組成は、PVA:(151):AN=10:4:5(重量基準)であった。
【0077】
ポリマーコロイドエマルジョンの具体的な調製法は次のステップを含んでいた:1000g蒸留水及び100gの親水性モノマーポリビニルアルコール(PVA)1799を、凝縮水を含む四口反応容器に添加し、得られる物質が透明になるまで反応容器を90℃まで加熱し、40gのエテニルトリエチルオキシシラン151、50gのアクリロニトリル(AN)及び1.9gのペルオキシ硫酸開始剤を添加して12時間グラフト共重合して、ポリマーコロイドエマルジョンを得た。
【0078】
b ポリマーコロイドスラリーの調製
トリエチルホスフェートによって分散させたアルミナフィラーをポリマーエマルジョンに添加し、使用した具体的な量は20%のアルミナフィラー及び100%のトリエチルホスフェート可塑剤を含んでいた。得られた混合物を高速で4時間撹拌し、5時間ボールミル粉砕し、スラリーの粘度を2500mpa・sに調節した。
【0079】
c ポリオレフィン膜の表面修飾
この実施例で用いられる微孔性ポリオレフィン膜が3層複合膜PP/PE/PPであり、厚さ16μm及び基本重量10.7g/mである以外は、ステップは実施例1と同じであった。微小孔に2,350,000rad/hの線量率で5Mrad高エネルギーによりCo60高エネルギー照射した。
【0080】
d コーティングにより水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜の調製
スラリーを、スライドコーティング(ベルト速度は約12m/分であった)によって、ステップcで前処理したポリエチレン微孔性膜上にコーティングし、その上に水蒸気及び可塑剤を必要とされる温度の温風及び赤外線により照射された乾燥トンネルによって蒸発させた。最終的に、厚さ約25μmの修飾微孔性膜を得た。調製された膜の空気透過性は約34(sec/in・100ml・1.22kPa)であった。様々な温度での膜の収縮性及び空気透過性を表5及び表6に記載する。
【表5】

【表6】

【実施例4】
【0081】
本発明の水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜の調製
【0082】
a ポリマーコロイドエマルジョンの調製
スラリーを合成するためのステップ:125.0gのアクリルアミド(AM)を撹拌することによって1800.0mlの水中に溶解させ、75.0mlのビニルアセテート(VAc)及び15.0mlのイソプロピルアルコール(IPA)を添加し、Nを60℃で添加して40分脱酸素し、次いで2.0gの開始剤である過硫酸アンモニウム(AP)を添加して、系の粘度を徐々に増加させ、約40分の反応後、得られた混合物が乳白色に変わったら125.0mlアクリロニトリル(AN)を滴加し、混合物を共重合させて、ポリマーコロイドエマルジョンを得た。
【0083】
b ポリマーコロイドスラリーの調製
10%のアルミナ、20%の二酸化ケイ素フィラー、120%のメチルアミルケトン可塑剤及び35%のポリエチレンワックス粉末を調製したポリマーコロイドエマルジョンに添加し、高速で8時間撹拌し、2時間ボールミル粉砕し、スラリーの粘度を2500mpa・sに調節した。
【0084】
c ポリオレフィン膜の表面修飾
オクタンシランカップリング剤を、厚さ20μm及び基本重量11.2g/mでPE微孔性膜上に修飾のためにプレコーティングした。
【0085】
d コーティングにより水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜の調製
厚さ25μmの修飾されたPE微孔性膜を実施例1で記載するようにして得た。空気透過性は42(sec/in・100ml・1.22kPa)である。様々な温度での膜の収縮性及び空気透過性を表7及び表8に記載する。
【表7】

【表8】

【実施例5】
【0086】
本発明の水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜の調製
【0087】
a ポリマーコロイドエマルジョンの調製
乳化重合に関して、親油性モノマービニルアセテート(VAc)及びエチルアクリレート(EA)の混合物を2.5部の親水性メタクリル酸(MAA)及び5部の親油性モノマーアクリロニトリル(AN)と置換し、弱酸性ビニルスルホン酸リチウム(SVSLi)を強酸性ドデシルスルホン酸リチウム(DsLi)で置換する以外は、ステップは基本的に実施例2と同じであった。ポリマーコロイドエマルジョンのコポリマー組成はPVA:MAA:AN=10:2.5:5であり、コポリマー含有量は11%であり、生成物は白色で半透明のコロイドであった。
【0088】
b ポリマーコロイドスラリーの調製
その固形分100%基準で2%のカップリング剤で処理された15%の二酸化ケイ素フィラー、及び15%の酪酸エチル可塑剤を、調製したポリマーコロイドエマルジョンに添加し、スラリーの粘度を2500mpa・sに調節した。
【0089】
c ポリオレフィン膜の表面修飾
この実施例では厚さ18μm及び基本重量10g/mの3層複合膜PP/PE/PPをプラズマによって前処理する以外は、ステップは基本的に実施例1と同じであり、次にイソシアネートトリエトキシシランを、実施例1の方法によって前処理された複合膜上にプレコーティングした。
【0090】
d コーティングにより水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜の調製
ステップは実施例1と同じであり、この実施例のステップbで得られたスラリーをステップcで微孔性膜上にコーティングして、最終膜を得た。空気透過性は3642(sec/in・100ml・1.22kPa)と測定された。様々な温度での膜の収縮性及び空気透過性を表9及び表10に記載する。
【表9】

【表10】

【0091】
試験例1:本発明の水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜の電気性能試験
【0092】
電池アノードの調製
92重量部のリチウムコバルト酸化物(LiCoO)を5部のアセチレンブラック、3部のLA水性バインダー及び90部の脱イオン水と混合[90重量部のリチウムマンガン酸化物(LiMn)を7部のアセチレンブラック、3部のLA水性バインダー及び90部の脱イオン水と混合するか、又は85重量部のリチウム鉄酸化物(LiFePO)を7部のアセチレンブラック、8部のLA水性バインダー及び90部の脱イオン水と混合]して、アノードの混合スラリーを得、スラリーを100メッシュのスクリーンにより濾過して、より大きな固体粒子を除去し、次いでスラリーを20μmのアルミ箔の両面上に均一にコーティングし、最後にアルミ箔を巻いてアノード部分を得、アノード部分をサイズに基づいて切断し、末端を溶接した。
【0093】
電池カソードの調製
95重量部の人工グラファイトを5部のLA132水性バインダー及び100部の脱イオン水と混合して、カソードの混合スラリーを得、このスラリーを100メッシュのスクリーンによって濾過して、大きな固体粒子を除去し、次いでスラリーを12μmの銅箔の両面上に均一にコーティングし、最後にアルミ箔を巻いてカソード部分を得、このカソード部分をサイズに基づいて切断し、末端溶接した。
【0094】
電池膜
電池膜は、実施例1〜5で調製した膜であった。
【0095】
電解質
電解質はエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/メチルエチルカーボネート及びLiPF6から構成されていた。
【0096】
電池作製
電極部分及びアルミニウム−プラスチック複合膜を当業者に既知の巻き取り法によって圧縮し、電解質を添加して密封し、24時間真空乾燥後に電池コアを形成した。
【0097】
充放電及び寿命試験
1c電流を4.2V(コバルト酸リチウムに関して)[マンガン酸リチウムに関しては4.3V、リチウム鉄酸化物に関しては3.6V]まで充電し、4.2V(コバルト酸リチウムに関して)[マンガン酸リチウムに関しては4.3V、リチウム鉄酸化物に関しては3.6V]の一定電圧に保持し、次いで1c電流で2.75V(コバルト酸リチウムに関して)[マンガン酸リチウムに関しては3.0V、リチウム鉄酸化物に関しては2.2V]まで放電し、このようにして1サイクルを完了する。
【0098】
熱ボックス試験
前記ステップで作製した完全に充電した電池を温風乾燥ボックス中に入れ、次いで電池を6℃/分の加温速度で強制的に加熱し、乾燥ボックスの最終温度を150℃に設定し、150℃の温度を30分間保持し、電池の内部抵抗の変化をACオーム計によって検出した(検出はリチウムイオン二次電池GB/T18287−2000の中国国家基準に基づいた)。
【0099】
過充電試験
前記ステップで作製した電池を完全に充電し、次いで、電池の設計容量の過充電電流3C(すなわち3C)を用いて25±3℃の定電流及び定電圧源により過充電について検出し(コンダクタクランプの内部抵抗は50mΩ未満であった)、電池を10Vまで充電し、30分間保持するか、又は電流が0.05C未満の場合に試験を完了した(電池の内部抵抗はこのプロセスではACオーム計により検出した)。検出は、リチウムイオン二次電池GB/T18287−2000)に関して中国国家基準に基づいた。
【0100】
実施例1〜5で調製された修飾微孔性ポリオレフィン膜をリチウムイオン電池に組みたて、アノードはそれぞれLiMn、LiCoO、LiFePO、LiCoO及びLiMnであり、カソードはアノードと適合するグラファイトカソードであった。試験は、前記方法によって実施した。熱ボックス試験及び過充電試験の結果を表11及び表12に示す。
【表11】

【0101】
前記表に記載した結果は、熱ボックス試験において電池の過熱環境での修飾微孔性ポリオレフィン膜の安全性利点を示し、本発明の修飾微孔性ポリオレフィン膜の高耐熱性及び低収縮率を示す。結果は、前記実施例で試験した様々な修飾膜の熱収縮結果と一致する。高耐熱性により膜は150℃までの高温に耐え、収縮率の低下によりアノード部分とカソード部分との間の直接接触が回避され、かくして電池安全性を改善することができる。
【表12】

【0102】
電池の過充電試験において、電解質、アノード及びカソード等は、多量の熱が放射された場合に電池の内部で酸化還元反応を起こした。したがって、試験によって膜の次の3つの主な態様が見いだされた:1.過熱に対する反応、すなわち熱シャットダウン効果、2.過熱条件における膜の熱収縮:低収縮性により、膜の収縮に起因するアノードとカソードとの間の直接短絡を回避することができる、そして3.膜、電解質並びにアノード及びカソード間の界面適合性及び安定性。前記修飾微孔性ポリオレフィン膜の特性並びに熱ボックス試験及び過充電試験の結果は、修飾微孔性ポリオレフィン膜が、高温耐性、低収縮性及び電解質、アノード及びカソードとの良好な適合性を有し、従って電池の安全性を十分に改善できることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜であって、微孔性ポリオレフィン膜及び表面コーティングされた水性ポリマーコーティングからなることを特徴とし、前記水性ポリマーコーティングが:100(重量)部の水溶性ポリマー、30〜500部の疎水性モノマー、0〜200部の親水性モノマー及び1〜5部の開始剤をポリマーコロイドエマルジョンに共重合し、その固形分100%基準で、0〜100%の無機フィラー、0〜50%の有機フィラー及び20〜100%の可塑剤をポリマーコロイドエマルジョンに添加して、水性ポリマースラリーを形成し、そして微孔性ポリオレフィン膜の表面上にスラリーをコーティングし、次いで乾燥して、修飾膜を得るステップによって得られる、水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜。
【請求項2】
前記水溶性ポリマーがポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド及びポリビニルピロリドン又はポリビニルピロリドンの水溶性コポリマーであることを特徴とし、ポリビニルアルコールの重合度が1700〜2400であり、加水分解度が50〜99であり、前記ポリエチレンオキシドの分子量が100,000〜2,000,000であり、前記ポリビニルピロリドン又はポリビニルピロリドンの水溶性コポリマーの分子量が500〜100,000であり、そして
疎水性モノマーの構造式がCH=CR(式中:
=−H又は−CHであり、
=−C、−OCOCH、−COOCH、−COOCHCH、−COOCHCHCHCH、−COOCHCH(CHCH)CHCHCHCH又は−CN)であり、
前記疎水性モノマーが、前記疎水性モノマーから選択される少なくとも1つであり、そして
前記親水性モノマーの構造式が、CHR=CR(式中:
=−H、−CH又は−COOLiであり、
=−H、−CH又は−COOLiであり、
=−COOLi、−CHCOOLi、−COO(CHSOLi、−CONH、−CONHCH
【化1】


−CONHCHCH、−CON(CH又は−CON(CHCH)であり、
前記親水性モノマーが前記親水性モノマーから選択される少なくとも1つである、請求項1記載の水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜。
【請求項3】
前記微孔性ポリオレフィン膜が、微孔性ポリプロピレン膜(PP)、微孔性ポリエチレン膜(PE)又は3層複合膜PP/PE/PPであることを特徴とする、請求項1記載の水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜。
【請求項4】
次の方法:
(1)熱処理、プラズマ処理及び高エネルギー放射線処理若しくは光処理の少なくとも1つにより前記微孔性ポリオレフィン膜を前処理するか、又は
(2)アクリロニトリルによって修飾されたEVAゴム又は官能化シランの少なくとも1つにより微孔性ポリオレフィン膜の表面をコーティングするか、又は
(3)熱処理、プラズマ処理及び高エネルギー放射線処理又は光処理の少なくとも1つにより微孔性ポリオレフィン膜を前処理し、次いでアクリロニトリルによって修飾されたEVAゴム又は官能化シランの少なくとも1つをコーティングすることにより表面前処理することを特徴とする、請求項3記載の水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜。
【請求項5】
アクリロニトリルによって修飾されたボンダーEVAゴム又は官能化シランを水性ポリマースラリーに添加することにより特徴づけられる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜。
【請求項6】
前記官能化シランが、ビニルシラン、オクチルシラン、アミノシラン、エポキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン又はイソシアネートシランであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜。
【請求項7】
請求項1記載の水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜の調製法であって:
a ポリマーコロイドエマルジョンの調製
水溶性ポリマー及び親水性モノマーを水に添加し、撹拌して、完全に溶解させ、次いで疎水性モノマー及び重合反応の開始剤を添加して、ポリマーコロイドエマルジョンを得、
b ポリマーコロイドスラリーの調製
その固形分100%に基づいて0〜100%の無機フィラー、0〜50%の有機フィラー及び20〜100%の可塑剤をポリマーコロイドエマルジョンに添加し、撹拌し、粉砕し、濾過して、水性ポリマースラリーを得、そして
c コーティングにより水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜の調製
ステップbで得られた水性ポリマースラリーを微孔性ポリオレフィン膜の片面又は両面上にコーティングし、乾燥する
ステップを含むことを特徴とする、方法。
【請求項8】
請求項7記載の水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜を調製する方法であって、アクリロニトリルによって修飾されたボンダーEVAゴム及び官能化シランを水性ポリマースラリーに添加することを特徴とする、方法。
【請求項9】
請求項7または8記載の水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜を調製する方法であって、前記微孔性ポリオレフィン膜を次の方法:
(1)熱処理、プラズマ処理及び高エネルギー放射線処理若しくは光処理のうちの少なくとも1つによって前記微孔性ポリオレフィン膜を前処理するか、又は
(2)アクリロニトリルによって修飾されたEVAゴム若しくは前記官能化シランの少なくとも1つによって前記微孔性ポリオレフィン膜の表面をコーティングするか、又は
(3)熱処理、プラズマ処理及び高エネルギー放射線処理若しくは光処理の少なくとも1つによって前記微孔性ポリオレフィン膜を前処理し、次いでアクリロニトリルによって修飾されたEVAゴム又は前記官能化シランの少なくとも1つでコーティングすることによって表面を修飾することを特徴とする、方法。
【請求項10】
請求項7記載の水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜を調製する方法であって、ステップaにおいて前記重合反応温度が30〜90℃であり、前記重合反応時間が4〜35時間であることを特徴とする、方法。
【請求項11】
請求項7記載の水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜を調製する方法であって、反応中に、前記疎水性モノマーをリアクターに一度に添加するか、又は複数回で添加するか、又は滴下し、前記開始剤を一度に添加するか、又は滴加するか、又は複数回で添加することを特徴とする、方法。
【請求項12】
請求項7記載の水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜を調製する方法であって、コーティング後に、前記湿潤コーティングが厚さ2〜600μmであり、前記乾燥膜が厚さ10〜100μmであり、乾燥温度が30〜160℃であることを特徴とする、方法。
【請求項13】
請求項7記載の水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜を調製する方法であって、ステップaで記載する開始剤が、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素若しくはアゾビスイソブチルアミジン、又は前記開始剤とNaSO及びFeSOとから構成されるレドックス開始剤系であることを特徴とする、方法。
【請求項14】
請求項7記載の水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜を調製する方法であって、前記可塑剤が、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、n−ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、ジエチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリブチルホスフェート、イソアミルアセテート、エチルラクテート、メチルラクテート、エチルブチレート、ジエチルカーボネート、トリブチルプロピオネート、アミルメチルアセテート、イソプロピルアセテート、ジイソブチルケトン、メチルエチルケトン、ジプロピルケトン、エチルブチルケトン又はメチルアミルケトンのうちの少なくとも1つであることを特徴とする、方法。
【請求項15】
請求項7記載の水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜を調製する方法であって、前記無機フィラーが、ヒュームコロイダルシリカ、アルミナ、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、マグネシア、炭酸カルシウム又はガラス繊維であることを特徴とする、方法。
【請求項16】
請求項8記載の水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜を調製する方法であって、前記カップリング剤が、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルトリメトキシシラン、ビニルトリエチルオキシシラン、ビニルトリメトキシシラン又はビニルトリ(2−メトキシエトキシ)シランであり、前記シランカップリング剤の添加量が無機フィラーの0.5〜5.0重量%であることを特徴とする、方法。
【請求項17】
請求項7記載の水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜を調製する方法であって、ステップaで記載した前記有機フィラーが、超微細ポリエチレンワックス、酸化ワックス粉末及び超微細ポリエチレンワックス粉末のいずれか1つであり、前記有機フィラーの添加量がポリマーコロイドエマルジョンの固形分100%基準で5.0〜20%であることを特徴とする、方法。
【請求項18】
請求項7記載の水性ポリマーによって修飾される微孔性ポリオレフィン膜の調製法であって、3重量部以上の助剤を、前記ステップaにおいて親水性モノマーを添加した後にも添加し、前記助剤が、ドデシルスルホネート、ドデシルベンゼンスルホネート及びビニルスルホネートから選択されることを特徴とする、方法。
【請求項19】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜又は請求項7〜18のいずれか1項に記載の方法によって得られる水性ポリマーによって修飾された微孔性ポリオレフィン膜の、リチウムイオン電池、スーパーキャパシタ又は電池/スーパーキャパシタエネルギー蓄積装置に対する非水性電解質膜としての適用。

【公表番号】特表2012−510543(P2012−510543A)
【公表日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−538821(P2011−538821)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【国際出願番号】PCT/CN2009/073955
【国際公開番号】WO2010/069189
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(509239587)チャンゾウ ゾンケ ライファン パワー ディベロプメント カンパニー リミテッド (4)
【Fターム(参考)】