説明

水晶基板の処理方法

【課題】 水晶基板をキューリー点を超える高温から冷却する場合であっても、結晶の転移に起因するクラックや破損が生じさせないようにするめの水晶基板の処理方法を提供する。
【解決手段】 予め表面に金属アルミニウム膜を形成した水晶基板を867℃以上に加熱し、β水晶に転移させて結晶内に空隙を生じさせたあと、電圧を印加させて上記空隙にアルミニウムをドーピングすることにより、空隙を保持した状態でβ水晶のまま冷却することが可能となり、転移にともなう熱歪みが解消される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物半導体デバイスなどに用いられる水晶基板の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体発光素子として窒化ガリウム等を用いて青色発光ダイオードやレーザを製造する際の基板として、サファイア基板が使用されるのが一般的である。サファイア基板の上にMOCVDにより窒化ガリウムを結晶成長されるが、格子不整合を小さくして欠陥を少なくするためにa面またはc面サファイア基板を用いている。これにより基板表面に多結晶または非晶質のAlNバッファ層や低温成長GaNバッファ層を形成している。
しかしサファイア基板は値段が高く、コスト高となる。またサファイア結晶には欠陥が多く、これを引き継ぐ結晶膜に欠陥を生じやすい欠点があった。そこでサファイア基板に代わって、水晶基板を用いた例もある。水晶基板を用いることにより安価な基板を用いてコストダウンを実現しようとしている。
【0003】
しかし、ダイオードの製造工程では、摂氏千度を超える温度まで上昇するので、水晶板を用いた場合、低温型水晶は、一般的にα水晶と呼ばれるが、摂氏573度(キューリー点)でβ水晶に転移する。そしてβ水晶に転移した水晶板は、再び冷却され、α水晶に転移する。
水晶結晶には熱による可逆性があり、α水晶からβ水晶、β水晶からα水晶へと転移できる性質がある。しかしα水晶からβ水晶、またβ水晶からα水晶に戻るときに摂氏573度(キューリー点)でクラックが入り易く、水晶板が割れてしまう。
このように低温型水晶ではα水晶からβ水晶へ、そしてβ水晶からα水晶へ戻る際に、クラックを生じ易い。
そこで熱を加えてβ水晶になっても、温度を下げる際に熱ストレスに耐える水晶結晶板が求められている。
【0004】
また、金(Au)膜を水晶板に直接付けると膜強度が弱い欠点があり、直接水晶板に金膜を付けても膜強度の強い水晶板が求められていた。
【0005】
【特許文献1】特開平11−79897号公報
【特許文献2】特開2000−58912号公報
【特許文献3】特開2002−185042号公報
【0006】
なお出願人は前記した先行技術文献情報で特定される先行技術文献以外には、本発明に関連する先行技術文献を、本件出願時までに発見するに至らなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、キューリー点を超える際、さらに高温の熱により歪んだ水晶結晶が低温に下げたときに熱ストレスで破壊されないよう工夫することにある。
【0008】
特許文献1には、窒化ガリウム厚膜(GaN)の結晶成長方法で、基板にZカット水晶板を用いた例が示されている。図4は、一般的な窒化ガリウムを用いた発光ダイオードの構造の断面図である。
水晶基板上にバッファ層、さらに窒化ガリウム結晶を積層し、さらにInGaNを積層している。
特許文献2、特許文献3には、Zカット水晶板を用いた「半導体発光素子」が示されている。
上記従来技術の水晶結晶板は、いずれもZカット水晶を使用しており、摂氏573度(キューリー点)を通過するときに熱歪みで水晶板が破壊されることは免れない。
そこでα水晶からβ水晶へ、またβ水晶からα水晶へ転移する際の熱歪みによるクラック、破損を生じない水晶結晶、水晶板が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、水晶に金属イオンをドーピングさせる水晶基板の処理方法で、水晶基板を摂氏867度以上に加熱しながら、水晶基板表面の電極金属に高圧の電圧を印加させる水晶基板の処理方法である。また電極金属がアルミニウムである水晶基板の処理方法である。
さらに電極金属を蒸着又はスパッタリングにより成膜されている水晶基板の処理方法の例である。
α水晶に摂氏867度以上の温度を加えるとβ2トリジマイトになり結晶内の空隙が最大約2.5倍になることに注目し、β2トリジマイトのときに、結晶内の空隙にAlやCu等の金属イオンを注入することにより、常温でもβ2トリジマイトと同じ結晶構造を維持できるようにするため、α水晶を高温にし、温度を867度以上にして、金属イオンを注入している。
金属イオンを注入する方法としては、上記以外に金属イオンを電子銃やプラズマでドーピングするイオン注入装置やイオンドーピング装置による方法がある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって、キューリー点を超え、更に摂氏1000度を超える温度になっても、冷却の際に生じる結晶転移しても熱ストレスで破壊しない水晶結晶を提供することができた。これは加熱して高温から常温に戻ってもα水晶に戻らず、β2トリジマイトのままの状態にあるからである。
また本発明によって、例えばNi、CrやNi−Crをドーピングすることにより、金膜を直接水晶に蒸着やスパッタリングしてもドーピングした金属イオンに金が食いつき、膜強度を強くすることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、摂氏867度以上にした際に、金属イオンを注入して結晶の分子間の隙間を埋めることにより、β水晶からα水晶へ転移せず、β水晶の構造のまま常温に冷却できるようになった。
【実施例】
【0012】
以下、図面を参照しながら実施例を説明する。図4が一般的なα水晶の分子構造で珪素(Si)に酸素(O)が結合しており、安定な状態を示している。一般的には純粋な水晶の場合には、この結晶構造である。
図1は、本発明の処理方法によりできる結晶構造を示す結晶構造図である。α水晶を867度以上に加熱することにより、図2のように六方晶系のハニカム構造の結晶となり、結晶内に約3.5オングストロームの空隙が生じる。この空隙は、温度が867度以下になると縮まり、約1.45オングストロームの空隙になるので、空隙を約3.5オングストロームに維持させる必要がある。
【0013】
そこで本発明では、図3の装置を使用し、金属イオンを空隙に注入し、この3.5オングストロームの空隙のままにしている。図3の電気炉は、水晶を常温から徐々に加熱して867度以上に加熱するための装置である。水晶は予め表面を平坦にし、本実施例ではアルミニウムを蒸着やスパッタリングで金属膜を形成し、更にその上に白金電極で挟む。水晶を電気炉に入れ、温度を徐々に上げ、867度以上に加熱する。温度が867度以上になったら、白金電極に接続された電源に接続し、電圧を印加させる。この場合、直流電圧約300〜5000Vを印加している。電圧値と電圧印加時間は、温度、電極の金属材料により異なるが、適宜調整される。この方法によって、水晶結晶内の空隙にアルミニウムがドーピングされる。本発明ではアルミニウム(Al)をドーピングさせたが、空隙半径にあわせて約1.75オングストローム以下のイオンでもよく、Fe,Ni,Na,K,Mg,Ti,Bi,Li,Cu等が挙げられる。
【0014】
本発明において、加熱及び加熱後の冷却は緩やかに温度を低下させている。本発明の方法を用いて水晶板に電極を形成し、金属イオンをドーピングさせるが、水晶のカット角によりドーピングの速度が異なるが、温度、電圧、時間を適宜調整して、どのようなカット角でもドーピングは可能である。
本発明によって、水晶結晶でβ水晶を常温において得られるようになり、β水晶からα水晶への変移における熱歪みを解消し、クラックのない水晶板を提供することができるようになった。これにより発光ダイオードの基板や液晶プロジェクトの放熱板に利用することができるようになった。
【0015】
また本発明の処理方法によって、金電極など直接付きにくい金属膜が金属ドーピングによって、膜の固着強度を上げられるようになった。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、発光ダイオードの基板としてサファイア基板の代わりとして利用でき、また高温に晒される雰囲気で使用される基板として使用しても熱歪みによる基板割れを防止できたので、例えば放熱板として水晶を用いられる液晶プロジェクタに使用する場合も利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の水晶結晶に金属イオンをドーピングしたときの結晶構造を示す。
【図2】図2は、金属イオンを注入する前のβトリジマイト結晶構造を示す。
【図3】図3は、本発明の処理を行うための装置を示す。
【図4】図4は、α水晶結晶の構造図である。
【図5】図5は、青色ダイオードの構造を示す構造図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶に金属イオンをドーピングさせる水晶基板の処理方法において、該水晶基板を摂氏867度以上に加熱しながら、該水晶基板表面の電極金属に高圧の電圧を印加させることを特徴とする水晶基板の処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の該金属イオンが、イオン半径が1.75オングストローム以下であることを特徴とする水晶基板の処理方法。
【請求項3】
請求項1記載の該金属イオンが、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル、リチウム、ナトリウム、カリウム、ビスマス、マグネシウム、チタンのいずれかであることを特徴とする水晶基板の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−240891(P2006−240891A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−54431(P2005−54431)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000104722)京セラキンセキ株式会社 (870)
【Fターム(参考)】