説明

水晶発振回路および時計装置および計測装置

【課題】 低消費電力で低コストな水晶発振器を用いて、周波数安定度の高い高精度な周波数出力が得られ、発振周波数を校正する作業の必要がない小型でかつ低消費電力で低コストな水晶発振回路および時計装置および計測装置を提供する。
【解決手段】 水晶発振器1の公称周波数12.8MHzの1/50000のカウント数(256)で一巡するカウンタ2が、GPS受信部3からの秒パルスに応じて水晶発振器1からの周波数出力のパルス数を1秒間カウントする。上記カウンタ2のカウント値の平均値に基づいて、CPU4により電圧発生器(第1,第2D/A変換器DAC1,DAC2と加算器5)から出力される制御電圧を制御する。そして、上記電圧発生器から出力された制御電圧が水晶発振器1の制御電圧入力端子に入力されて、発振周波数が公称周波数12.8MHzになるように補正される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、水晶発振回路および時計装置および計測装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、水晶発振回路としては、水晶発振器を恒温槽に入れて高安定化したものがある。この水晶発振回路では、恒温槽内の温度をヒータにより一定に保つことによって、水晶発振器の周波数変動を抑えて、高い周波数安定度を有する周波数出力を得ることができる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところが、上記恒温槽を用いた水晶発振回路は、大型でかつ高価であると共に、恒温槽のために消費電力が多いという欠点がある。また、時間の経過と共に発振周波数が目標周波数(公称周波数)からずれて、周波数精度が低下し、定期的に周波数の校正をしなければならないという問題がある。さらに、発振停止した後に周波数を校正する場合には、十分なエージングにより発振周波数を安定させてから発振周波数を校正しなければならず、校正作業に手間がかかるという欠点がある。
【0004】そこで、この発明の目的は、低消費電力で低コストな水晶発振器を用いて、周波数安定度の高い高精度な周波数出力が得られ、発振周波数を校正する作業の必要がない小型でかつ低消費電力で低コストな水晶発振回路および時計装置および計測装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、請求項1の水晶発振回路は、発振周波数が制御電圧入力により調整可能な水晶発振器と、上記水晶発振器からの周波数出力のパルス数をカウントし、上記水晶発振器の公称周波数の1/n(nは正の整数)のカウント数で一巡するカウンタと、上記カウンタのカウント動作を制御する秒パルスを出力するGPS(Global Positioning Satellite)受信部と、上記水晶発振器の制御電圧入力端子に入力される制御電圧を出力する電圧発生器と、上記カウンタのカウント値に基づいて、上記水晶発振器の発振周波数が上記公称周波数になるように上記電圧発生器から出力される上記制御電圧を制御する制御手段とを備えたことを特徴としている。
【0006】上記請求項1の水晶発振回路によれば、上記水晶発振器の公称周波数の1/n(nは正の整数)のカウント数で一巡するカウンタが、上記GPS受信部からの秒パルスに応じて水晶発振器からの周波数出力のパルス数をカウントする。上記GPS受信部からの秒パルスは、平均化された周波数特性としては高い周波数安定度と高い周波数精度を有する。上記カウンタのカウント値の平均値に基づいて、上記制御手段により電圧発生器から出力される制御電圧を制御し、上記電圧発生器から出力された制御電圧が水晶発振器の制御電圧入力端子に入力されて、水晶発振器の発振周波数が公称周波数になるように補正される。例えば、水晶発振器の公称周波数を12.8MHzとし、カウンタのカウント数を公称周波数の1/500000に相当する256(=12800000/50000)とし、GPS受信部からの秒パルスにより1秒間カウンタが水晶発振器からの周波数出力のパルス数をカウントすると、カウンタは0〜255を50000周する。そして、水晶発振器の発振周波数が公称周波数に一致している場合は、カウンタのカウント値はゼロとなり、水晶発振器の発振周波数が公称周波数よりも高いか低いと、カウンタのカウント値が0〜255の前半(1〜127)か後半(128〜255)かで進み遅れが分かる。このように、上記カウンタのカウント値が発振周波数と公称周波数との誤差を表し、このカウント値を上記電圧発生器の制御に用いる。つまり、上記カウント値が進み側を表すとき、水晶発振器の発振周波数が低くなるように上記電圧発生器から制御電圧を出力させ、上記カウント値が遅れ側を表すとき、水晶発振器の発振周波数が高くなるように上記電圧発生器から制御電圧を出力させるのである。
【0007】このように、上記水晶発振器の発振周波数を公称周波数に補正する自動校正により、校正作業をすることなく、周波数誤差が累積しないで高い周波数精度が維持され、極めて高い周波数安定度が得られる。また、従来大型かつ高価で消費電力の大きな恒温槽入りの水晶発振回路と同等以上の周波数精度を、小型かつ安価で低消費電力の水晶発振器を使用して得ることができ、特に低消費電力が要求される電池駆動の機器において高精度な基準クロックを提供することができる。また、この水晶発振回路の周波数出力を基準クロックとして用いた時計を備えた複数の機器では、各機器の時刻を正確に一致させることが可能になる。また、この水晶発振回路の周波数出力をA/D(アナログ/デジタル)変換のサンプリングクロックとして用いた複数の計測装置では、各計測装置がサンプリングするタイミングを正確に一致させることが可能になる。
【0008】また、請求項2の水晶発振回路は、請求項1の水晶発振回路において、上記制御手段は、上記カウンタのカウント値の平均値に基づいて、上記電圧発生器から出力される上記制御電圧を制御することを特徴としている。
【0009】上記請求項2の水晶発振回路によれば、上記カウンタの複数回のカウント値の平均値を求めることで、水晶発振器の発振周波数と公称周波数との誤差がより正確に得られ、その誤差に応じて上記制御手段が上記電圧発生器から出力される制御電圧を制御するので、上記GPS受信部の秒パルスのジッターによる影響を除去できる。
【0010】また、請求項3の水晶発振回路は、請求項1または2の水晶発振回路において、上記制御手段は、上記GPS受信部の受信品位情報に基づいて、上記電圧発生器から出力される上記制御電圧を制御することを特徴としている。
【0011】上記請求項3の水晶発振回路によれば、上記GPS受信部は、GPS衛星から得られる高精度の時間情報を利用して上記秒パルスを出力するが、上記制御手段は、GPS受信部の受信品位情報に基づいて、受信品位が低下したら上記電圧発生器の制御電圧を受信品位が低下する前の良好なときの電圧値に維持し、その後、受信品位が良くなったら再び上記カウンタのカウント値に基づいて電圧発生器の制御電圧を制御することが可能になる。したがって、GPS衛星が受信できなくなった場合でも、GPS衛星からの受信が良好なときの上記電圧発生器の制御電圧を維持することにより高い周波数精度の周波数出力を提供できる。
【0012】また、請求項4の水晶発振回路は、請求項1乃至3のいずれか1つの水晶発振回路において、上記水晶発振器の発振周波数が上記公称周波数に略一致したときの上記電圧発生器から出力される上記制御電圧を設定する設定値を格納する格納部を備えたことを特徴としている。
【0013】上記請求項4の水晶発振回路によれば、上記水晶発振器の発振周波数が公称周波数に略一致したときの上記電圧発生器から出力される上記制御電圧を設定する設定値を上記格納部に格納することによって、例えば電源オフ後に再び電源をオンしたとき、上記格納部に格納された設定値を電圧発生器に設定することにより、電源再投入後の発振周波数が目標の公称周波数に収束するのが早くなり、校正時間を短縮できる。
【0014】また、請求項5の水晶発振回路は、請求項1乃至4のいずれか1つの水晶発振回路において、上記電圧発生器は、粗調整用の第1電圧発生器と、微調整用の第2電圧発生器と、上記第1電圧発生器の出力電圧と上記第2電圧発生器の出力電圧とを加算して、上記水晶発振器の制御電圧入力端子に上記制御電圧を入力する加算器とを有することを特徴としている。
【0015】上記請求項5の水晶発振回路によれば、上記第1電圧発生器の制御電圧の設定分解能よりも第2電圧発生器の制御電圧の設定分解能を小さくして、発振周波数を公称周波数に補正する周波数校正時に、まず粗調整用の第1電圧発生器の制御電圧を調整して速やかに目標の公称周波数近傍まで近づけた後、微調整用の第2電圧発生器の制御電圧を細かく調整することが可能になる。そうすることによって、目標の公称周波数への収束が早くでき、校正時間を短縮できる。また、上記電圧発生器として制御電圧を出力する分解能の高い高価なD/A変換器が不用となり、安価な2つのD/A変換器と加算器を用いて上記制御電圧を調整できる。
【0016】また、請求項6の水晶発振回路は、請求項1乃至5のいずれか1つの水晶発振回路において、省電力モード時に、上記水晶発振器,上記電圧発生器のみに電源を供給する電源供給部を備えたことを特徴としている。
【0017】上記請求項6の水晶発振回路によれば、上記電源供給部により上記水晶発振器,上記電圧発生器のみに電源を供給することによって、発振周波数を公称周波数に補正する周波数校正を止めて省電力モードにするので、電池駆動の携帯型装置等に適した水晶発振回路を提供できる。
【0018】また、請求項7の時計装置は、請求項1乃至6のいずれか1つの水晶発振回路を用いたことを特徴としている。
【0019】上記請求項7の時計装置によれば、上記水晶発振回路の高精度で高安定度の周波数出力を基準クロックに用いることによって、正確な時刻を計時できる。また、上記水晶発振回路の周波数出力を基準クロックとして用いた時計を備えた複数の機器では、互いに離れた場所に設置された各機器の時刻を正確に一致させることが可能になる。
【0020】また、請求項8の計測装置は、請求項1乃至6のいずれか1つの水晶発振回路を用いたことを特徴としている。
【0021】上記請求項8の計測装置によれば、上記水晶発振回路の高精度で高安定度の周波数出力をA/D変換のサンプリングクロックに用いることによって、例えば、上記水晶発振回路を用いた複数の計測装置が異なる場所に離れて設置されていても、同じように時間精度の高い計測を行うことができ、複数箇所で同時に計測する地震波等のサンプリングデータの時間精度を向上でき、計測データの解析精度を高めることができる。
【0022】
【発明の実施の形態】以下、この発明の水晶発振回路および時計装置および計測装置を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0023】図1はこの発明の実施の一形態の水晶発振回路の概略ブロック図であり、1は公称周波数が12.8MHzの水晶発振器、2は上記水晶発振器1の周波数出力のパルス数をカウントするカウンタ、3は上記カウンタ2のカウント動作を制御する秒パルス(1PPS;1パルス/秒)を出力するGPS受信部、4は上記カウンタ2のカウント値およびGPS受信部3からの測位情報信号を読み込むCPU(中央処理装置)である。上記測位情報信号には受信品位を表す受信品位情報が含まれている。
【0024】また、DAC1は上記CPU4により出力電圧が設定される粗調整用の第1電圧発生器としての第1D/A(デジタル/アナログ)変換器、DAC2は上記CPU4により出力電圧が設定される微調整用の第2電圧発生器としての第2D/A変換器、5は上記第1,第2D/A変換器DAC1,DAC2の出力電圧を加算して、加算された電圧を制御電圧信号として水晶発振器1の制御電圧入力端子に入力する加算器、6は上記水晶発振器1からの周波数出力を分周する分周器、7は上記CPU4により第1D/A変換器DAC1の設定値が格納される格納部としての不揮発性のメモリである。上記第1,第2D/A変換器DAC1,DAC2と加算器5とで電圧発生器を構成している。
【0025】上記水晶発振器1には、加算器5からの制御電圧信号によって出力周波数の微調整が可能なものを用いており、公称周波数である12.8MHz付近の周波数の信号を出力し、制御電圧が基準値よりも高いときは発振周波数が高くなり、反対に制御電圧が基準値よりも低いときは発振周波数が低くなる。また、上記GPS受信部3は、GPS衛星から時刻情報を含んだ電波をアンテナ8により受信し、GPS衛星は、10-11以上の高い周波数精度を有する原子時計を搭載し、その原子時計の基準周波数に基づいて時刻情報と測位情報を含む信号を送信しており、受信側のGPS受信部3において周期1秒の標準時刻に同期した秒パルスが得られる。この秒パルスは、長い測定時間(数十秒〜数分)で平均化した場合は、10-10以上の高い周波数精度を有している。
【0026】また、上記カウンタ2は、256(水晶発振器1の公称周波数12.8MHzの1/50000)のカウント数で一巡し、水晶発振器1の周波数出力のパルスをカウント(0,1,…,255,0,1,…,255,0,1,…)する。そして、上記水晶発振器1の周波数出力がカウンタ2に入力された状態で、GPS受信部3の秒パルスの立ち上がりでカウントを開始し、次の秒パルスの立ち上がりで停止させて、1秒毎にカウント動作を行う。そして、上記カウンタ2のカウント値を読み取った後、カウンタ2のカウント値を0にクリアする。
【0027】そうすると、1秒間のカウント動作でカウンタ2は約50000周して、0付近の値を指して止まる。このときのカウント値が1から50のときは、水晶発振器1の発振周波数が12.8MHzよりも高くカウントが進み、カウント値が206から255のときは、水晶発振器1の発振周波数が12.8MHzよりも低くカウントが遅れているものと判断する。また、このときカウンタ2のカウント値が51から205のときは、誤差が大きいので、進み遅れを判定しないようにする。ここで、カウンタ2の1カウントは、1/12800000秒(約78ナノ秒)に相当する。
【0028】上記GPS受信部3の秒パルスにはジッター(ゆらぎ成分)が含まれる。この影響を除外するため、カウンタ2の読み取りをある期間(たとえば30秒間,30回)連続して行ない、進みの場合はカウント値を加算し、遅れの場合は遅れ分を減算する(カウント値が206〜255では−49〜−1)。
【0029】そうして、30秒後からは過去30秒間(30回分)におけるカウント値について平均値を求める演算を行う。この結果に基づき演算結果である平均値が正の場合は第1,第2D/A変換器DAC1,DAC2に出力するディジタル値を下げて制御電圧を下げ、水晶発振器1の発振周波数を低くする一方、上記平均値が負の場合はディジタル値を上げて制御電圧を上げ、水晶発振器1の発振周波数を高くする。
【0030】こうして、上記水晶発振器1の周波数出力のカウントを繰り返し行ない、周波数を制御し続ける。そうすると、水晶発振器1の周波数出力はGPS受信部3の秒パルスに追従(同期)するようになり、ある時間を経過するとカウンタ2のカウント値はほぼ0となって一定の周波数(公称周波数)に収束する。上記水晶発振器1に、12.8MHzの水晶を使用した場合、12.8MHzの1カウントに相当する約78ナノ秒の分解能で進み/遅れを判別することになる。
【0031】このようにして得た周波数出力を分周器6により分周することにより、所望の正確な周波数出力を得ることができる。上記分周器6の分周比は、CPU4からの分周比設定信号により設定されている。
【0032】以上は、この発明の水晶発振回路の基本的な動作説明であるが、さらに次の点についても考慮してある。
【0033】また、GPS衛星は周回衛星であるため、受信状況は刻々と変化するので、GPS受信部3の秒パルスの精度は、受信状況に左右されて、常に良好とは限らない。上記GPS受信部3の秒パルスに基づく周波数補正を無条件に続けると、水晶の精度が劣化する場合があるので、GPS受信部3から得られる受信品位情報(測位情報信号)により常時衛星波の品質を監視し、秒パルスによる補正が不適当な場合は、発振周波数の補正を行わないようにする。具体的には、GPS受信部3の受信が不安定かまたは困難になったと判断した場合、直ちに第1,第2D/A変換器DAC1,DAC2に出力するディジタル値の更新を中止して制御電圧を一定に保ち、水晶発振器1の発振周波数を保持するようにする。そして、受信状況が回復すれば、第1,第2D/A変換器DAC1,DAC2に出力するディジタル値の更新を再開して、水晶発振器1の発振周波数を適切に制御し、周波数精度を維持するようにしている。
【0034】さらに、周波数が安定したときのディジタル値を不揮発メモリに格納し、装置の電源を入れたときに読み出して、第1,第2D/A変換器DAC1,DAC2に出力するように構成しておき、GPS受信部3が全く受信できない場合であっても、ある程度精度の高い周波数が得られるようにする。
【0035】また、上記第1D/A変換器DAC1を粗調整用、第2D/A変換器DAC2を微調整用として動作するので、水晶発振器1の発振周波数が目標の公称周波数から大きく外れている場合、まず先に粗調整用の第1D/A変換器DAC1を制御して誤差の少ない範囲に追い込み、目的の公称周波数に近づいたら、第1D/A変換器DAC1の制御電圧を保ったまま微調整用の第2D/A変換器DAC2の制御電圧を制御する。このようにすれば(CPUに内蔵されているような)安価で低分解能のDACであっても高分解能のDACと等価の効果が得られるので、きめ細かな制御が可能になり高精度な周波数出力が提供できる上、発振周波数の調整が完了する時間も短縮することができる。
【0036】図2,図3は上記水晶発振回路のCPU4の動作を示すフローチャートであり、以下、図2,図3に従ってCPU4の周波数補正処理を説明する。
【0037】図2において、まず、処理がスタートすると、ステップS1でメモリ7の保存値を第1D/A変換器DAC1に設定し、初期値を第2D/A変換器DAC2に設定する。
【0038】次に、ステップS2に進み、GPS受信可能か否かを判定して、GPS受信可能であると判定すると、ステップS3に進む一方、GPS受信不可であると判定すると、ステップS2を繰り返す。
【0039】次に、ステップS3で積算値Sをクリアする。
【0040】そして、ステップS4でカウンタ2のカウント終了か否かを判定して、カウント終了であると判定すると、ステップS5に進む一方、カウント終了していないと判定すると、ステップS4を繰り返す。
【0041】次に、ステップS5でカウンタ2のカウント値を読み込む。そして、読み込んだ後、次のカウント動作をゼロから開始させるため、カウンタ2をクリアする。
【0042】次に、ステップS6に進み、そのカウント値(差分)を積算値Sに加算する。
【0043】次に、ステップS7に進み、30回加算したか否かを判定して、30回加算したと判定すると、ステップS8に進む一方、30回加算していないと判定すると、ステップS4に戻り、ステップS4〜S7を繰り返す。
【0044】そして、ステップS8で積算値Sより補正値Hを算出する。すなわち、30回分のカウント値を積算した積算値Sを30で割って平均値を求めるのである。
【0045】次に、図3に示すステップS11に進み、補正値Hの判定を行う。そして、補正値Hがしきい値a(>0)を越えると判定すると、ステップS12に進み、第1D/A変換器DAC1の値を−1して、ステップS20に進む。
【0046】また、ステップS11で補正値Hがしきい値a(>0)以下でかつしきい値b(<0)以上であると判定すると、ステップS13に進み、第1D/A変換器DAC1の値を保持し、ステップS15に進む。
【0047】さらに、ステップS11で補正値Hがしきい値b(<0)未満であると判定すると、第1D/A変換器DAC1の値を+1して、ステップS20に進む。
【0048】次に、ステップS15で第1D/A変換器DAC1に設定された値をメモリ7に格納する。
【0049】次に、ステップS16に進み、補正値Hの判定を行う。そして、補正値Hがゼロでなく正の値であると判定すると、ステップS17に進み、第2D/A変換器DAC2の値を−1して、ステップS20に進む。
【0050】また、ステップS16で補正値Hがゼロであると判定すると、ステップS18に進み、第2D/A変換器DAC2の値を保持して、ステップS20に進む。
【0051】さらに、ステップS16で補正値Hがゼロでなく負の値であると判定すると、ステップS19に進み、第2D/A変換器DAC2の値を+1して、ステップS20に進む。
【0052】そして、ステップS20でカウンタ2のカウント終了か否かを判定して、カウント終了であると判定すると、ステップS21に進む一方、カウント終了していないと判定すると、ステップS20を繰り返す。
【0053】次に、ステップS21でカウンタ2のカウント終了か否かを判定して、カウント終了であると判定すると、ステップS22に進む一方、カウント終了していないと判定すると、ステップS21を繰り返す。
【0054】次に、ステップS22でカウンタ2のカウント値を読み込み、ステップS23に進み、積算値Sを更新する。すなわち、過去30回分のカウント値のうち最初のカウント値(読み込みが最も古いもの)を除外し、新たにステップS22で読み込んだカウント値を加えて、更新された30回分のカウント値を積算した積算値Sを算出する。
【0055】そして、ステップS24で、ステップS23において更新された積算値S積算値Sより補正値Hを算出する。すなわち、カウンタ2のカウント値を読み込む毎に更新される過去30回分のカウント値が積算された積算値Sを30で割って、カウンタ値の平均値を求める移動平均を行うのである。
【0056】その後、ステップS11に戻り、周波数補正を繰り返す。
【0057】なお、ステップS12,S14において、第1D/A変換器DAC1の値を±1補正しているが、例えば、しきい値a,bと補正値Hとの差の絶対値に応じて第1D/A変換器DAC1の補正量を増加させてもよい。この場合、発振周波数の目標の公称周波数への収束が早くなる。
【0058】図4(A)は上記周波数補正処理における第1D/A変換器DAC1の出力電圧V1の変化を示す図であり、図4(B)は第2D/A変換器DAC2の出力電圧V2の変化を示す図である。図4(A),図4(B)において、縦軸は時間(任意目盛)、横軸は電圧(任意目盛)である。また、この水晶発振器1の発振周波数は、図4(A),図4(B)の出力電圧V1+V2の制御電圧の変化と同様に収束する。
【0059】上記水晶発振回路では、周波数補正が1回も行われていない場合は、第1,第2D/A変換器DAC1,DAC2の初期値がメモリ7に格納されている。
【0060】まず、図4(A)において、粗調整用の第1D/A変換器DAC1の初期出力電圧Vintが出力された状態から粗調整が行われ、出力電圧V1がV1mに徐々に収束し、積算値Sから算出した補正値Hがa≦H≦bの条件を満足すると、V1mをメモリ7に格納した後、次の図4(B)に示す微調整に処理が移る。なお、図4(A)において、“A”は第1D/A変換器DAC1の微調整の範囲を示している。
【0061】そして、図4(B)において、微調整用の第2D/A変換器DAC2の出力電圧V2がV2mに徐々に収束し、V2mで補正値Hがゼロとなり、水晶発振器1の周波数出力が目標の公称周波数となる。
【0062】上記構成の水晶発振回路によれば、水晶発振器1(周波数安定度10-6)の発振周波数の安定度を10-8程度に100倍程度にすることができる。上記実施の形態では、常時GPS受信部3を動作させ、発振周波数の校正を行っていたが、所望する周波数の精度と電力事情に鑑み、適宜定期的にGPS受信部3を動作させ、発振周波数の校正を行ってもよい。
【0063】また、上記水晶発振回路を時計装置に用いた場合、上記水晶発振回路の高精度で高安定度の周波数出力を基準クロックに用いることによって、正確な時刻を計時できる。
【0064】また、上記水晶発振回路を計測装置に用いた場合、高精度で高安定度の周波数出力をサンプリングクロックに用いた複数の計測装置を異なる場所に離れて設置しても、同じように時間精度の高い計測を行うことができ、複数箇所で同時に計測する地震波や送電線電圧の位相角等の様々な計測対象の解析精度を高めることができる。
【0065】また、上記電源供給部10により水晶発振器1,第1D/A変換器DAC1,第2D/A変換器DAC2,加算器5および分周器6のみに電源を供給し、他のGPS受信部3等には電源を供給しない省電力モードにすることができ、電池駆動の携帯型装置等に適した水晶発振回路を提供することができる。
【0066】上記実施の形態では、30回分のカウント値を積算したが、積算回数はこれに限らず、適宜な回数分のカウント値を平均して補正値としてもよい。
【0067】また、上記実施の形態では、第1,第2電圧発生器としての第1,第2D/A変換器DAC1,DAC2と加算器5とで電圧発生器を構成したが、電圧発生器はこれに限らず、高分解能のD/A変換器を1つ用いてもよい。
【0068】また、上記実施の形態では、第1電圧発生器としての第1D/A変換器DAC1の設定値を格納部としてのメモリ7に格納したが、第2電圧発生器の設定値も格納部に格納し、電源投入時に初期値の代わりに格納部に格納した設定値を第2電圧発生器に設定してよい。
【0069】
【発明の効果】以上より明らかなように、請求項1の発明の水晶発振回路は、上記水晶発振器の公称周波数の1/n(nは正の整数)のカウント数で一巡するカウンタが、GPS受信部からの秒パルスに応じて水晶発振器からの周波数出力のパルス数をカウントして、カウンタのカウント値の平均値に基づいて、制御手段により電圧発生器から水晶発振器の制御電圧入力端子に入力される制御電圧を制御して、水晶発振器の発振周波数が公称周波数になるように補正するものである。
【0070】したがって、請求項1の発明の水晶発振回路によれば、上記水晶発振器の発振周波数を公称周波数に補正する自動校正により、校正作業をすることなく、高い周波数安定度の高精度な周波数出力を得ることができる。また、大型で高価な消費電力の大きい恒温槽入りの水晶発振回路と同等以上の周波数安定度を、小型で安価な低消費電力の水晶発振器を用いて得ることができ、特に低消費電力が要求される電池駆動の機器において高精度な基準クロックを提供することができ、この水晶発振回路の周波数出力を基準クロックとして用いた時計を備えた複数の機器では、各機器の時刻を正確に一致させることができる。また、この水晶発振回路の周波数出力をA/D変換のサンプリングクロックとして用いた複数の計測装置では、各計測装置のサンプリングデータの時間を正確に一致させることができる。
【0071】また、請求項2の発明の水晶発振回路は、請求項1の水晶発振回路において、上記制御手段は、上記カウンタのカウント値の平均値に基づいて、上記電圧発生器から出力される制御電圧を制御するので、上記GPS受信部の秒パルスのジッターによる影響を容易に除去することができる。
【0072】また、請求項3の発明の水晶発振回路は、請求項1または2の水晶発振回路において、上記制御手段は、上記GPS受信部の受信品位情報に基づいて、上記電圧発生器から出力される制御電圧を制御するので、GPS衛星が受信できなくなった場合でも、GPS衛星からの受信が良好なときの上記電圧発生器の制御電圧を維持することにより高い周波数精度の周波数出力を提供することができる。
【0073】また、請求項4の発明の水晶発振回路は、請求項1乃至3のいずれか1つの水晶発振回路において、上記水晶発振器の発振周波数が上記公称周波数に略一致したときの上記電圧発生器から出力される制御電圧を設定する設定値を格納部に格納するで、例えば電源オフ後に再び電源をオンしたとき、上記格納部に格納された設定値を電圧発生器に設定することによって、電源再投入後の発振周波数の目標の公称周波数への収束が早くなり、校正時間を短縮することができる。
【0074】また、請求項5の発明の水晶発振回路は、請求項1乃至4のいずれか1つの水晶発振回路において、上記電圧発生器の第1電圧発生器の制御電圧の設定分解能よりも電圧発生器の第2電圧発生器の制御電圧の設定分解能を小さくし、上記第1電圧発生器の出力電圧と第2電圧発生器の出力電圧とを加算器により加算して水晶発振器の制御電圧入力端子に入力し、周波数校正時に粗調整用の第1電圧発生器の制御電圧を調整して速やかに目標の公称周波数近傍まで近づけた後、微調整用の第2電圧発生器の制御電圧を細かく調整することによって、目標の公称周波数への収束が早くでき、校正時間を短縮することができる。また、上記電圧発生器として制御電圧を出力する分解能の高い高価なD/A変換器が不用となり、安価な2つのD/A変換器と加算器を用いて上記電圧発生器の制御電圧を調整することができる。
【0075】また、請求項6の発明の水晶発振回路は、請求項1乃至5のいずれか1つの水晶発振回路において、電源供給部により上記水晶発振器と電圧発生器のみに電源を供給して、発振周波数を公称周波数に補正する周波数校正を止めて、省電力モードにするので、定期的に周波数校正をしてもよい電池駆動の携帯型装置等に適した水晶発振回路を提供することができる。
【0076】また、請求項7の発明の時計装置は、請求項1乃至6のいずれか1つの上記水晶発振回路の高精度で高安定度の周波数出力を基準クロックに用いることによって、正確な時刻を計時でき、上記水晶発振回路の周波数出力を基準クロックとして用いた時計を備えた複数の機器では、互いに離れた場所に設置された各機器の時刻を正確に一致させることができる。
【0077】また、請求項8の発明の計測装置は、請求項1乃至6のいずれか1つの上記水晶発振回路の高精度で高安定度の周波数出力をA/D変換のサンプリングクロックに用いることによって、上記水晶発振回路を用いた複数の計測装置が異なる場所に離れて設置されていても、同じように時間精度の高い計測を行うことができ、複数箇所で同時に計測する地震波等のサンプリングデータの時間精度を向上でき、計測データの解析精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1はこの発明の実施の一形態の水晶発振回路の概略ブロック図である。
【図2】 図2は上記水晶発振回路のCPUの周波数校正処理の動作を示すフローチャートである。
【図3】 図3は図2に続くフローチャートである。
【図4】 図4(A)は周波数校正処理における第1D/A変換器の出力電圧の変化を示す図であり、図4(B)は図4(A)に続く第2D/A変換器の出力電圧の変化を示す図である。
【符号の説明】
1…水晶発振器、
2…カウンタ、
3…GPS受信部、
4…CPU、
DAC1…第1D/A変換器、
DAC2…第2D/A変換器、
5…加算器、
6…分周器、
7…メモリ、
8…アンテナ、
10…電源供給部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 発振周波数が制御電圧入力により調整可能な水晶発振器と、上記水晶発振器からの周波数出力のパルス数をカウントし、上記水晶発振器の公称周波数の1/n(nは正の整数)のカウント数で一巡するカウンタと、上記カウンタのカウント動作を制御する秒パルスを出力するGPS受信部と、上記水晶発振器の制御電圧入力端子に入力される制御電圧を出力する電圧発生器と、上記カウンタのカウント値に基づいて、上記水晶発振器の発振周波数が上記公称周波数になるように上記電圧発生器から出力される上記制御電圧を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする水晶発振回路。
【請求項2】 請求項1に記載の水晶発振回路において、上記制御手段は、上記カウンタのカウント値の平均値に基づいて、上記電圧発生器から出力される上記制御電圧を制御することを特徴とする水晶発振回路。
【請求項3】 請求項1または2に記載の水晶発振回路において、上記制御手段は、上記GPS受信部の受信品位情報に基づいて、上記電圧発生器から出力される上記制御電圧を制御することを特徴とする水晶発振回路。
【請求項4】 請求項1乃至3のいずれか1つに記載の水晶発振回路において、上記水晶発振器の発振周波数が上記公称周波数に略一致したときの上記電圧発生器から出力される上記制御電圧を設定する設定値を格納する格納部を備えたことを特徴とする水晶発振回路。
【請求項5】 請求項1乃至4のいずれか1つに記載の水晶発振回路において、上記電圧発生器は、粗調整用の第1電圧発生器と、微調整用の第2電圧発生器と、上記第1電圧発生器の出力電圧と上記第2電圧発生器の出力電圧とを加算して、上記水晶発振器の制御電圧入力端子に上記制御電圧を入力する加算器とを有することを特徴とする水晶発振回路。
【請求項6】 請求項1乃至5のいずれか1つに記載の水晶発振回路において、省電力モード時に、上記水晶発振器,上記電圧発生器のみに電源を供給する電源供給部を備えたことを特徴とする水晶発振回路。
【請求項7】 請求項1乃至6のいずれか1つに記載の水晶発振回路を用いたことを特徴とする時計装置。
【請求項8】 請求項1乃至6のいずれか1つに記載の水晶発振回路を用いたことを特徴とする計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2002−16438(P2002−16438A)
【公開日】平成14年1月18日(2002.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−198026(P2000−198026)
【出願日】平成12年6月30日(2000.6.30)
【出願人】(592061599)株式会社近計システム (14)
【Fターム(参考)】