説明

水溶性ビタミンの保存方法

【課題】食品や栄養剤からの離水の発生を抑制するとともに、離水への水溶性ビタミンの溶出を抑制することにより、食品や栄養剤中に添加される水溶性ビタミンを長期に亘って安定的に保存することができる水溶性ビタミンの保存方法を提供すること。
【解決手段】本発明の水溶性ビタミンの保存方法は、水溶性ビタミンを含有する食品または栄養剤中において、前記水溶性ビタミンを安定に保存するための方法であり、前記食品または栄養剤中において、前記水溶性ビタミンに、寒天と、アルギン酸および/またはその塩類とを共存させつつ保存することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品または栄養剤中における水溶性ビタミンの保存方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、水溶性ビタミンを容易に摂取する方法として、ゲル状またはゼリー状の食品や栄養剤中に水溶性ビタミンを含有させ、これら食品や栄養剤を定期的に摂取する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、食品や栄養剤から発生した離水中に水溶性ビタミンが溶出し、それにより、食品や栄養剤中に含有される水溶性ビタミンの量が前記溶出した分だけ減少してしまい、結果として、摂取者が所定量の水溶性ビタミンを摂取することができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−299297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、食品や栄養剤からの離水の発生を抑制するとともに、離水への水溶性ビタミンの溶出を抑制することにより、食品や栄養剤中に添加される水溶性ビタミンを長期に亘って安定的に保存することができる水溶性ビタミンの保存方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記(1)〜(7)の本発明により達成される。
(1) 水溶性ビタミンを含有する食品または栄養剤中において、前記水溶性ビタミンを安定に保存するための水溶性ビタミンの保存方法であって、
前記食品または栄養剤中において、前記水溶性ビタミンに、寒天と、アルギン酸および/またはその塩類とを共存させつつ保存することを特徴とする水溶性ビタミンの保存方法

【0007】
(2) 前記水溶性ビタミンとして、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2および葉酸のうちの少なくとも一種を含有する上記(1)に記載の水溶性ビタミンの保存方法。
【0008】
(3) さらに、前記水溶性ビタミンを、たん白質と共存させつつ保存する上記(1)または(2)に記載の水溶性ビタミンの保存方法。
【0009】
(4) 前記たん白質は、大豆たん白質である上記(3)に記載の水溶性ビタミンの保存方法。
【0010】
(5) 前記食品または栄養剤を40℃で3箇月間保存したとき、前記食品または栄養剤から発生する離水の量は、0〜10wt%である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の水溶性ビタミンの保存方法。
【0011】
(6) 前記食品または栄養剤を40℃で3箇月間保存したとき、前記食品または栄養剤から発生する離水にて、前記離水中に存在するビタミン量は、前記食品または栄養剤中に配合した全ビタミン量に対して0〜10wt%である上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の水溶性ビタミンの保存方法。
【0012】
(7) 前記食品または栄養剤は、経口栄養剤または経腸栄養剤である上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の水溶性ビタミンの保存方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、食品や栄養剤中に含まれている水溶性ビタミンに、寒天と、アルギン酸および/またはその塩類と共存させつつ保存することにより、食品や栄養剤からの離水の発生を抑制するとともに、離水への水溶性ビタミンの溶出を抑制することができ、水溶性ビタミンの安定性を長期に亘って向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の水溶性ビタミンの保存方法を好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
本発明の水溶性ビタミンの保存方法は、水溶性ビタミンを含有する食品または栄養剤において、前記水溶性ビタミンを安定に保存するための方法であり、前記食品または栄養剤中で、前記水溶性ビタミンを、寒天と、アルギン酸および/またはその塩類と共存させつつ保存することを特徴とする。これにより、食品または栄養剤中における水溶性ビタミンの安定性を長期に亘って向上させることができる。
【0015】
このような水溶性ビタミンの保存方法は、液状、ゲル状、または半固形状をなす、濃厚流動食、エネルギー補給食品、食物繊維補給食品、栄養機能食品、特定保健用食品、水溶性ビタミン補給用食品のような食品や、液状、ゲル状、または半固形状をなす経口経管用経口栄養剤のような医薬品栄養剤に適用し得るが以下では、ゲル状あるいは半固形状をなす経口栄養剤に適用した場合を一例に詳述する。
【0016】
本実施形態では、経口栄養剤は、たん白質と、水溶性ビタミンと、脂質と、糖質と、ミネラル類と、寒天と、アルギン酸および/またはその塩類とを含有している。
【0017】
寒天と、アルギン酸および/またはその塩類(以下、アルギン酸の塩類も併せて単に「アルギン酸」と言うこともある。)とは、経口栄養剤をゲル化させ、かつ、経口栄養剤からの離水の発生を抑制し、寒天およびアルギン酸以外に含まれる他の構成成分を経口栄養剤中に安定的に保持するためのものである。
【0018】
ここで、経口栄養剤をゲル化(半固形化)させるだけであれば、上述のような寒天とアルギン酸とを組み合わせたゲル化剤を用いる必要はなく、寒天、アルギン酸、全卵、ペクチンやカラギーナン等のイオン結合でゲル化する構造を構築する多糖類等のゲル化剤を用いれば十分である。
【0019】
しかしながら、ゲル化剤として、例えば、寒天や全卵を用いた場合、ゲル化した経口栄養剤は、保存時に振動や落下等の衝撃を付与すると顕著な離水現象が発生し、そのため、このような経口栄養剤は、胃食道逆流の防止効果が減弱もしくは消失するという問題がある。
【0020】
また、ペクチンやカラギーナン等のイオン結合でゲル化する構造を構築する多糖類を用いた場合、ゲル化した経口栄養剤は、pHの変動により崩壊または溶解する性質を有し、胃内での固形物の形状保持性が低いという問題とともに、加熱滅菌に対する耐性が弱く、レトルト滅菌により顕著な離水が生じるという問題がある。
【0021】
さらに、グアーガムやペクチン等の粘性の高いゲル化剤を用いた場合、ゲル化した経口栄養剤は、経管(PEG)チューブに対する通過性や付着性が著しく低下するという問題がある。
【0022】
寒天およびアルギン酸の組み合わせ以外のゲル化剤を用いた場合、以上のような問題点を有するが、これに対して、ゲル化剤として、前述したような寒天およびアルギン酸の双方を含有するものを用いると、(1)少量の添加量で高いゲル化強度(硬さ)を有する経口栄養剤を得ることができ、(2)胃内における形状保持能力に優れ、(3)離水が少なく、(4)チューブ通過性が良好であり、(5)耐熱性に優れ、(6)長期間の保存安定性に優れ、流通時においても品質劣化が起こり難い物性を有するため、上述したような他のゲル化剤が有する問題点を的確に解消することができる。
【0023】
寒天としては、特に限定されず、日本薬局方収載のカンテンやカンテン末、食品素材としての寒天末、棒寒天、即溶性寒天等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
経口栄養剤中の寒天の含有量は、特に限定されないが、経口栄養剤全体に対して、0.05〜0.5wt%であるのが好ましく、0.2〜0.4wt%程度であるのがより好ましい。かかる範囲内の寒天と、アルギン酸との存在(共存)下では、経口栄養剤からの離水の発生が的確に抑制される。また、かかる範囲内の寒天と、アルギン酸との存在(共存)下で、水溶性ビタミンを保存することにより、寒天とアルギン酸とで水溶性ビタミンを包含することができ、離水した水層への水溶性ビタミンの溶出を抑制することができる。すなわち、経口栄養剤からの離水の発生を抑制するとともに、離水した水層への水溶性ビタミンの溶出を抑制することができるため、経口栄養剤(発生した離水を除く経口栄養剤)内での水溶性ビタミンの存在比率の低下を的確に防止することができる。
【0025】
また、寒天とアルギン酸とで水溶性ビタミンを包含することができるため、経口栄養剤内での水溶性ビタミンの異性化が低減され、経口栄養剤内での水溶性ビタミンの存在比率を低下させることなく、水溶性ビタミンの安定性を長期に亘って向上させることができる。
【0026】
また、離水した水層への水溶性ビタミンの溶出を抑制することができるため、この水層中に含まれる水溶性ビタミンが、例えば空気と触れて酸化することによる水溶性ビタミンの異性化および前記異性化に伴う経口栄養剤の変色等を的確に抑制することができる。
【0027】
また、経口栄養剤を適度な硬度を有するゲル状のものとすることができる。
アルギン酸としては、特に限定されず、医薬品添加物規格のものや、食品添加物規格のものが使用できる。また、アルギン酸塩としては、その種類に特に限定されず、例えば、ナトリウム塩、カルシウム塩等が挙げられる。
【0028】
経口栄養剤中のアルギン酸および/またはその塩類の合計の含有量は、特に限定されないが、経口栄養剤全体に対して、0.05〜0.5wt%であるのが好ましく、0.2〜0.4wt%程度であるのがより好ましい。かかる範囲内のアルギン酸と、寒天との存在(共存)下では、経口栄養剤からの離水の発生が効果的に抑制される。また、かかる範囲内のアルギン酸と、寒天との存在(共存)下で、水溶性ビタミンを保存することにより、アルギン酸と寒天とで水溶性ビタミンを包含することができ、離水した水層への水溶性ビタミンの溶出を抑制することができる。すなわち、経口栄養剤からの離水の発生を抑制するとともに、離水した水層への水溶性ビタミンの溶出を抑制することができるため、経口栄養剤(発生した離水を除く経口栄養剤)内での水溶性ビタミンの存在比率の低下を的確に防止することができる。
【0029】
また、寒天とアルギン酸とで水溶性ビタミンを包含することができるため、経口栄養剤内での水溶性ビタミンの異性化が低減され、経口栄養剤内での水溶性ビタミンの存在比率を低下させることなく、水溶性ビタミンの安定性を長期に亘って向上させることができる。
【0030】
また、離水した水層への水溶性ビタミンの溶出を抑制することができるため、この水層中に含まれる水溶性ビタミンが、例えば空気と触れることで酸化することによる水溶性ビタミンの異性化および前記異性化に伴う経口栄養剤の変色等を的確に抑制することができる。
【0031】
また、経口栄養剤中の寒天の含有量とアルギン酸の含有量との比は、寒天の含有量をA[wt%]とし、アルギン酸の含有量をB[wt%]としたとき、B/Aは、0.25〜1.6程度であるのが好ましく、0.5〜1.5程度であるのがより好ましい。かかる関係を満足することにより、寒天を添加することにより得られる効果と、アルギン酸を添加することにより得られる効果とが相乗的に得られ、より的確に、経口栄養剤からの離水の発生を抑制するとともに、離水への水溶性ビタミンの溶出および水溶性ビタミンの異性化をそれぞれ抑制することができ、経口栄養剤中の水溶性ビタミンの存在比率が低下してしまうのが的確に防止される。
【0032】
さらには、経口栄養剤内での水溶性ビタミンの異性化が低減されるため、水溶性ビタミンの安定性をより長期に亘って向上させることができる。
【0033】
また、上記の両増粘剤の濃度であれば、経口栄養剤を適度な硬度を有するゲル状のものとすることができる。
【0034】
ここで、経口栄養剤に栄養素として含まれる後述するような水溶性ビタミンを、寒天と、アルギン酸および/またはその塩類と共存させつつ保存することにより、離水への水溶性ビタミンの溶出を抑制することができ、また、経口栄養剤内での水溶性ビタミンの異性化が低減されるのは、以下に示すような理由によるものと推察される。
【0035】
すなわち、水溶性ビタミンを寒天およびアルギン酸の共存下とすると、水溶性ビタミンは、ゲル状をなす寒天およびアルギン酸との架橋構造中で取り囲まれた状態となる。水溶性ビタミンをこのような状態とすると、水溶性ビタミンが架橋構造の中に取り込まれ、離水した水層への水溶性ビタミンの溶出が抑制されるものと推察される。
【0036】
このような状態で、水溶性ビタミンを保存すれば、たとえ保存中に、光、熱または酸化のような外的要因が水溶性ビタミンに加わったとしても、水溶性ビタミンが架橋構造の中でバリア化され、異性化されるのを的確に低減または防止することができると推察され、その結果水溶性ビタミンの存在比率が低下することなく経口栄養剤中において水溶性ビタミンを保存し得ることから、水溶性ビタミンの安定性が長期に亘って向上することとなる。
【0037】
ここで、水溶性ビタミンとしては、特に限定されず、例えば、チアミン(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ナイアシン(ビタミンB3)、パントテン酸(ビタミンB5)、ピリドキシン(ビタミンB6)、ビオチン(ビタミンB7)、葉酸(ビタミンB9)、シアノコバラミン(ビタミンB12)およびアスコルビン酸(ビタミンC)等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
これら水溶性ビタミンの中でも、特に、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2および葉酸の少なくとも1種を含有するのが好ましい。これらビタミンは、特に水に溶け易く(離水に溶出し易く)保存安定性が低いため、本願発明のように、寒天およびアルギン酸の双方と共存させつつ保存することにより、特に、離水への溶出が抑制され、経口栄養剤内での水溶性ビタミンの存在比率の低下を的確に防止することができることから、本発明の水溶性ビタミンの保存方法が適用される水溶性ビタミンとしてより好適に選択される。
【0039】
経口栄養剤中の水溶性ビタミンの含有量は、特に限定されないが、経口栄養剤全体に対して、0.0001〜0.5wt%程度であるのが好ましく、0.0001〜0.1wt%程度であるのがより好ましい。かかる範囲内の水溶性ビタミンを寒天およびアルギン酸の存在(共存)下で保存することにより、より確実に、水溶性ビタミンを寒天およびアルギン酸で包含することができる。その結果、水溶性ビタミンの離水への溶出が抑制され、経口栄養剤中の水溶性ビタミンの存在比率の低下を的確に抑制することができる。
【0040】
なお、これらの水溶性ビタミンは、天然物より公知の方法で抽出精製したものであってもよいし、公知の方法で化学合成して得たものであっても、微生物等を用いる発酵法により得たものであってよい。
【0041】
また、ビタミンとしては、このような水溶性ビタミンの他、脂溶性ビタミンが含まれていてもよい。
【0042】
脂溶性ビタミンとしては、特に限定されず、例えば、レチノール(ビタミンA1)、3−デヒドロレチノール(ビタミンA2)等のビタミンA、エルゴカルシフェロール(ビタミンD2)、コレカルシフェロール(ビタミンD3)等のビタミンD、α−トコフェロール、β−トコフェロール、γ−トコフェロール、δ−トコフェロール、α−トコトリエノール、β−トコトリエノール、γ−トコトリエノール、δ−トコトリエノール等のビタミンE、フィトナジオン(ビタミンK1)、メナキノン(ビタミンK2)、メナジオン(ビタミンK3)等のビタミンK等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
たん白質は、単に窒素源やアミノ酸供給のための栄養素としてばかりでなく、水溶性ビタミンの異性化を低減する安定化剤としての機能も発揮する。したがって、本実施形態のように、経口栄養剤中において水溶性ビタミンを、寒天と、アルギン酸および/またはその塩類との他に、さらに、たん白質との共存下で保存する構成とすることにより、これらの相乗効果により、経口栄養剤からの離水の発生がさらに抑制される。また、これに伴って、水溶性ビタミンの離水への溶出もさらに抑制させる。
【0044】
このようなたん白質としては、特に限定されず、大豆たん白質、乳カゼインのような乳たん白質、魚肉たん白質、鶏卵たん白質等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
たん白質は、これらの中でも、特に、大豆たん白質であるのが好ましい。大豆たん白質は、消化吸収性に優れるばかりでなく、例えば、脂質代謝促進、疲労回復促進、基礎代謝促進、筋肉増強促進および食事誘導性熱代謝促進等の生理活性促進作用を有していることから、前記栄養素として好適に選択される。
【0046】
さらに、大豆たん白質は、水溶性ビタミンの異性化を低減する安定化剤としての機能にも優れることから、かかる観点からも、たん白質として好適に選択される。
【0047】
なお、大豆たん白質としては、特に限定されず、例えば、豆乳、濃縮大豆たん白質、分離大豆たん白質等のうちの1種または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0048】
経口栄養剤中のたん白質の含有量は、特に限定されないが、経口栄養剤全体に対して、0.8wt%以上であるのが好ましく、0.8〜6.0wt%程度であるのがより好ましい。かかる範囲内のたん白質の存在(共存)下で、水溶性ビタミンを保存することにより、寒天およびアルギン酸と、たん白質とで水溶性ビタミンを保存することの効果が、相乗的に得られ、水溶性ビタミンの安定性をより向上させることができる。
【0049】
なお、窒素源やアミノ酸供給の栄養素としては、たん白質の他、上述したたん白質をプロテアーゼや酸により加水分解した、大豆たん白質ペプチドのような加水分解物(ペプチド)を用いることもできる。
【0050】
また、脂質としては、特に限定されず、大豆油、コーン油、パーム油、シソ油、サフラワー油および魚油等の天然脂質の他、トリカプリリン(トリカプリル酸グリセリル)のような炭素数6〜12程度の中鎖脂肪酸トリグリセリド等の合成脂質が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
経口栄養剤中の脂質の含有量は、特に限定されないが、経口栄養剤全体に対して、0.5〜5.0wt%程度であるのが好ましく、1.0〜4.0wt%程度であるのがより好ましい。
【0052】
糖質としては、特に限定されず、例えば、デンプン、デキストリン、マルトデキストリン、オリゴ糖、ショ糖およびグルコース等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、糖質としては、デキストリンやオリゴ糖、ショ糖のような2糖類、グルコースのような単糖類を適宜配合させて使用するのが好ましい。これにより、糖質が経口栄養剤のゲル化に関与するようになるのを確実に防止することができる。
【0053】
経口栄養剤中の糖質の含有量は、特に限定されないが、経口栄養剤全体に対して、2.5〜25.0wt%程度であるのが好ましく、5.0〜20.0wt%程度であるのがより好ましい。
【0054】
さらに、ミネラル類としては、特に限定されず、例えば、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、リン、塩素、鉄、マンガン、銅、ヨウ素、亜鉛および硫黄等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
これらミネラル類の含有量は、ミネラル類の種類に応じて適宜設定され、経口栄養剤全体に対して、例えば、カルシウムの場合、好ましくは0.025〜0.1wt%程度、マグネシウムの場合、好ましくは0.01〜0.05wt%程度に設定される。
【0056】
また、経口栄養剤には、寒天、アルギン酸および上述した各栄養素の他に、大豆レシチン、グリセリン脂肪酸エステルのような乳化剤、エリソルビン酸ナトリウムのような安定化剤、クエン酸、乳酸のようなpH調整剤、および、エチルバニリン、バニリン、プロピレングリコールのような香料等の添加剤が含まれていてもよい。
【0057】
かかる構成の経口栄養剤のpHは、好ましくは5.5〜7.0に、より好ましくは6.0〜6.5に設定される。かかる範囲内に経口栄養剤のpHを設定することにより、経口栄養剤中に含まれる各栄養素の変質・劣化を確実に防止することができる。
【0058】
また、かかる構成の経口栄養剤の粘度は、5000〜30000mPa・s程度であるのが好ましく、5000〜13000mPa・s程度であるのがより好ましい。かかる範囲内の粘度を有する経口栄養剤は、水溶性ビタミンを含む各種栄養素を、ゲル状をなす経口栄養剤中に確実に保持することができるとともに、離水が少なく、さらに長期保存安定性にも優れることから好ましい。
【0059】
さらに、かかる構成の経口栄養剤を40℃で3箇月間保存したとき、この経口栄養剤から発生する離水の量は、保存開始時における(すなわち、離水が発生していない)経口栄養剤200gに対して、0〜20g(0〜10wt%)であるのが好ましい。離水の量をかかる範囲内のものとすることにより、経口栄養剤が、離水がなく(または少なく)、かつ、均質なゲル状をなすものとなる。これにより、嚥下性(飲み込みやすさ等)が向上し、特に、嚥下障害患者の誤嚥および胃食道逆流が防止される。すなわち、離水の量を上記範囲内のものとすることにより、本実施形態の経口栄養剤を嚥下障害者用の経口栄養剤として好適に用いることができる。
【0060】
また、経口栄養剤を40℃で3箇月間保存したとき、この経口栄養剤から発生する離水中における水溶性ビタミンの含有率は、0〜10wt%であるもが好ましい。離水中の水溶性ビタミンの含有量を上記範囲内とすることにより、離水中への水溶性ビタミンの溶出が十分に抑えられたものとなり、経口栄養剤中の水溶性ビタミンの存在比率が低下することなく(または、ほとんど低下することがなく)経口栄養剤中において水溶性ビタミンを保存することができる。また、離水中に含まれる水溶性ビタミンが、例えば、空気との接触により酸化してしまったとしても、その量が極僅かであるため、経口栄養剤の変色が防止されることとなる。
【0061】
以上説明したような本実施形態のゲル状をなす経口栄養剤は、例えば、以下に示すような製造方法により製造される。
【0062】
まず、水を用意し、この水に、上述した水溶性ビタミン、たん白質、糖質、脂質およびミネラル類と、乳化剤とを添加した後、このものをホモジナイザー等を用いて乳化することにより液状の経口栄養剤を調製する。
【0063】
次に、予め加熱溶解した寒天とアルギン酸との混合溶液を、液状の経口栄養剤に、攪拌しつつ添加することにより、これら同士を混合する。
【0064】
次に、寒天とアルギン酸とが添加された液状の経口栄養剤を、アルミパウチのようなパウチやソフトバッグ等に充填した状態で、レトルト等を用いて加熱滅菌した後、冷却する。これにより、液状の経口栄養剤をゲル化させることができる。
【0065】
なお、寒天とアルギン酸との混合溶液を添加する時期は、上記のように液状の経口栄養剤に添加する場合に限定されるものではなく、例えば、ホモジナイザー等を用いて乳化することにより液状の経口栄養剤を調整するよりも前に、水中に前記混合溶液を添加するようにしてもよい。かかる構成とすれば、液状の経口栄養剤中に、寒天およびアルギン酸を、より均質に分散させることができ、色調や物性でむらのないゲル状をなす経口栄養剤を調製できる利点を有することから好ましい。
【0066】
なお、本実施形態では、ゲル状をなす経口栄養剤中に含まれる栄養素として、水溶性ビタミン、たん白質、糖質およびミネラル類を含有する場合について説明したが、このような場合に限定されず、必須成分として水溶性ビタミンを含んでいればよく、患者に投与(補給)すべき栄養素の種類に応じて、たん白質、糖質およびミネラル類のうちの少なくとも1種を省略するようにしてもよい。
【0067】
また、本実施形態では、本発明の栄養剤を経口栄養剤に適用したものについて説明したが、これに限定されず、例えば、本発明の栄養剤をチューブを介して胃に直接投与される経胃栄養剤に適用してもよいし、チューブを介して腸に直接投与される経腸栄養剤に適用してもよい。特に、経胃栄養剤に適用する場合には、上述した経腸栄養剤と同様に、胃食道逆流を防止することができる。
【0068】
以上、本発明の脂溶性ビタミンの保存方法を好適実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、本発明の水溶性ビタミンの保存方法が適用される食品および栄養剤に含まれる各種の栄養素は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の機能を有するものを付加することもできる。
【実施例】
【0069】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.経口栄養剤の作製
以下の実施例1〜15および比較例1〜3において、それぞれ、ゲル状の経口栄養剤を調製した。
【0070】
(実施例1)
表1に示す割合の栄養素(栄養成分)と、寒天およびアルギン酸とを含有するゲル状の経口栄養剤をアルミパウチ内に充填された状態で以下に示すような工程を経て調製した。
【0071】
<1A> まず、水にたん白質を添加した後、70℃まで加熱しながらTKホモジナイザー(特殊機化工業社製)を用いて分散させて分散液を得た。
【0072】
<2A> 次に、この分散液に、乳化剤を含有した脂質、糖質、ミネラル類、および水溶性ビタミンをこの順で添加した後、クエン酸ナトリウムを溶解補助剤として含む水に加熱溶解した寒天溶液とアルギン酸とを溶解した溶液を添加して、寒天およびアルギン酸が配合された水溶性ビタミンを含有する経口栄養剤を得た。
【0073】
<3A> 次に、この経口栄養剤を冷却することなく、そのままの温度(70℃)を維持した状態で、高圧ホモジナイザー(三和機械社製)を用いて乳化させた。
【0074】
<4A> 次に、乳化させた経口栄養剤200gをアルミパウチに充填し、レトルトを用いて121℃の温度で15分間レトルト殺菌を行った後に、冷却してこのものをゲル化させることにより、ゲル状をなす経口栄養剤をアルミパウチ内に充填した状態で得た。
なお、この経口栄養剤のpHは、6.5であった。
【0075】
(実施例2〜18、比較例1〜9)
経口栄養剤中に含まれる寒天およびアルギン酸の含有量および/または水溶性ビタミンの種類を表1〜表3に示すようにした以外は、前記実施例1と同様にして、ゲル状の経口栄養剤をアルミパウチ内に充填された状態で調製した。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
2.各種測定
上述のようにして得られた各実施例1〜18および各比較例1〜9の経口栄養剤について、それぞれ、以下の測定を行った。その結果を表4に示す。
【0080】
(2−1)離水量の測定
各実施例1〜18および各比較例1〜9の離水の発生量の測定は、各経口栄養剤を40℃、75%RHの条件で保存し、それぞれの経口栄養剤について、3箇月後に経口栄養剤からどれだけの量の離水が発生しているかを測定することにより行った。離水の量は、濾過により離水を分離し、この分離された離水の重さを図ることにより測定した。なお、各経口栄養剤の離水の発生量の測定は、5回ずつ行い、得られた測定値から平均値を求めた。
【0081】
(2−2)離水中における水溶性ビタミンの含有率
各経口栄養剤の離水中における水溶性ビタミンの含有率の測定は、5回ずつ行い、得られた測定値から平均値を求めた。
【0082】
(2−3)経口栄養剤の粘度の測定
各経口栄養剤の粘度の測定は、5回ずつ行い、得られた測定値から平均値を求めた。
【0083】
【表4】

【0084】
なお、表4中の「離水中に存在する水溶性ビタミンの含有率(wt%/全体)」とは、製品(経口栄養剤)全体のうちの離水中に存在するビタミン量を示し、「ビタミンCの残存量(%)」とは、実施例10を100%としたときの残存量を示すものである。
【0085】
第1に、表4から明らかなように、比較例1、2の経口栄養剤のような寒天およびアルギン酸のうちの一方を含むだけのものや、比較例3の経口栄養剤のような寒天およびアルギン酸を両方含んでいないものや、比較例4〜6の経口栄養剤のような寒天と他の増粘多糖類とを組み合わせたものや、比較例7〜9のようなアルギン酸と他の増粘多糖類とを組み合わせたものでは、経口栄養剤からの離水の発生を抑制することができなかった。これに対して、実施例1〜18の経口栄養剤では、比較例1〜3の経口栄養剤と比較して、3箇月後の離水の発生量が少なかった。これにより、寒天およびアルギン酸をゲル化剤として用いることにより、経口栄養剤からの離水の発生が抑制されることが判った。
【0086】
また、寒天およびアルギン酸の配合量が異なる以外は同様の実施例1〜6の経口栄養剤の中でも、実施例3〜6の経口栄養剤の3箇月後の離水の発生量が特に少なかった。これにより、寒天の含有量およびアルギン酸の含有量が、それぞれ、0.25〜0.6wt%の場合に、経口栄養剤から発生する離水の量が特に少なくなることが判った。
【0087】
第2に、表4から明らかなように、比較例1、2の経口栄養剤のような寒天およびアルギン酸のうちの一方を含むだけのものや、比較例3の経口栄養剤のような寒天およびアルギン酸を両方含んでいないものや、比較例4〜6の経口栄養剤のような寒天と他の増粘多糖類とを組み合わせたものや、比較例7〜9のようなアルギン酸と他の増粘多糖類とを組み合わせたものでは、離水中への水溶性ビタミンの溶出を抑制することができなかった。これに対して、実施例1〜18の経口栄養剤では、比較例1〜9の経口栄養剤と比較して、3箇月後の離水中における水溶性ビタミンの含有率が低かった。これにより、寒天およびアルギン酸をゲル化剤として用いることにより、水溶性ビタミンの離水への溶出が抑制されることが判った。
【0088】
また、寒天およびアルギン酸の配合量が異なる以外は同様の実施例1〜6の経口栄養剤の中でも、実施例3〜6の経口栄養剤の3箇月後の離水中における水溶性ビタミンの含有率が低かった。これにより、寒天の含有量およびアルギン酸の含有量が、それぞれ、0.25〜0.6wt%の場合に、特に、離水中における水溶性ビタミンの含有率が低くなることが判った。
【0089】
第3に、たん白質を配合しているか否かが異なる以外は同様の実施例3と実施例15を比較すると、たん白質を配合している実施例3の方が、離水量が少なく、さらに、離水中における水溶性ビタミンの含有率が低かった。これにより、水溶性ビタミンを、寒天、アルギン酸およびたん白質と共存させて保存することにより、離水量が少なくなり、さらに、離水中における水溶性ビタミンの含有率も低くなることが判った。
【0090】
また、たん白質に代えて、寒天およびアルギン酸とは異なる他の多糖類(カラギーナン、ローカストビーンガムまたはデンプン)が含まれる以外は同様の実施例3と実施例16〜18とを比較すると、たん白質を配合している実施例3の方が、離水量が少なく、さらに、離水中における水溶性ビタミンの含有率が低かった。これによっても、水溶性ビタミンを、寒天、アルギン酸およびたん白質と共存させて保存することにより、離水量が少なくなり、さらに、離水中における水溶性ビタミンの含有率も低くなることが判った。
【0091】
また、たん白質の種類が異なる以外は同様の実施例11と実施例14を比較すると、大豆たん白質を含んでいる実施例11の方が、離水量が少なく、さらに、離水中における水溶性ビタミンの含有率も低くなることが判った。これにより、たん白質として大豆たん白質を用いることにより、特に、離水の発生および離水への水溶性ビタミンの溶出がそれぞれ抑制されることが判った。
【0092】
また、たん白質の配合量が異なる以外は同様の実施例11、実施例12および実施例13を比較すると、たん白質の配合量を0.8wt%以上とすることにより、離水および離水中への水溶性ビタミンの溶出がそれぞれ抑制され、たん白質の配合量を1.6wt%以上とすることにより、さらに、離水および離水中への水溶性ビタミンの溶出がそれぞれ抑制されていることが判った。
【0093】
第4に、実施例1〜15の経口栄養剤では、比較例1〜3の経口栄養剤と比較して、その粘度が経口栄養剤として適した(嚥下障害者でも飲み込みやすい)粘度となることが判った。また、寒天の含有量およびアルギン酸の含有量が、それぞれ、0.25〜0.4wt%の場合に、特に、その粘度が経口栄養剤として適した粘度となることが判った。
【0094】
第5に、実施例1〜15の経口栄養剤では、比較例1〜3の経口栄養剤と比較して、ビタミンCの残存率が90%以上となり、安定であった。離水中のビタミンCが多いと、劣化が早かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ビタミンを含有する食品または栄養剤中において、前記水溶性ビタミンを安定に保存するための水溶性ビタミンの保存方法であって、
前記食品または栄養剤中において、前記水溶性ビタミンに、寒天と、アルギン酸および/またはその塩類とを共存させつつ保存することを特徴とする水溶性ビタミンの保存方法。
【請求項2】
前記水溶性ビタミンとして、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2および葉酸のうちの少なくとも一種を含有する請求項1に記載の水溶性ビタミンの保存方法。
【請求項3】
さらに、前記水溶性ビタミンを、たん白質と共存させつつ保存する請求項1または2に記載の水溶性ビタミンの保存方法。
【請求項4】
前記たん白質は、大豆たん白質である請求項3に記載の水溶性ビタミンの保存方法。
【請求項5】
前記食品または栄養剤を40℃で3箇月間保存したとき、前記食品または栄養剤から発生する離水の量は、0〜10wt%である請求項1ないし4のいずれかに記載の水溶性ビタミンの保存方法。
【請求項6】
前記食品または栄養剤を40℃で3箇月間保存したとき、前記食品または栄養剤から発生する離水にて、前記離水中に存在するビタミン量は、前記食品または栄養剤中に配合した全ビタミン量に対して0〜10wt%である請求項1ないし5のいずれかに記載の水溶性ビタミンの保存方法。
【請求項7】
前記食品または栄養剤は、経口栄養剤または経腸栄養剤である請求項1ないし6のいずれかに記載の水溶性ビタミンの保存方法。

【公開番号】特開2010−163408(P2010−163408A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−9322(P2009−9322)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【出願人】(502138359)イーエヌ大塚製薬株式会社 (56)
【Fターム(参考)】