説明

水系着色組成物

【課題】本発明が解決しようとする課題は、バラつきの大きいウコン色素を特殊加工せずに、低粘度で安定したウコン色素を含有する水系着色組成物およびその分散体製剤を提供することであり、経済性と品質を両立することにある。
【解決手段】ウコン色素と分散剤と水とを含有する水系の着色組成物であって、分散剤が、HLB16.0〜13.0、5.9〜4.1、3.4〜2.5である少なくとも3種類の分散剤を含有する事を特徴とする水系着色組成物。
水系着色組成物全量を100重量部とした場合、HLB16.0〜13.0の分散剤が4〜12重量部、HLB5.9〜4.1の分散剤が2〜8重量部、HLB3.4〜2.5の分散剤が4〜12重量部である事を特徴とする上記水系着色組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系着色組成物およびそれを用いた分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の食文化、ひいてはフードコーディネート等の分野において、食品や飲料の色調が食品素材として食膳を華やかに彩り、高級感や味、素材を連想させる等の表現する重要なポイントとされてきた。
色素は大きく合成色素と天然色素に別れ、安全性イメージや抗酸化などの機能性があるため天然色素を用いることが付加価値となり、価格や価値等を決定しているため、天然色素を好んで用いる。
中でも黄色の天然色素を見てみると、ベニバナ黄色素、クチナシ黄色素、マリーゴールド色素など数多く存在しているが、近年のブームによりウコン色素の対する付加価値認知が一般化し、ウコン色素を用いた様々な企画や商品が生まれている。
【0003】
ウコンの代表的な特徴として、他の黄色色素に比べて青みの黄色である、色濃度がとても高い、耐熱性や耐侯性に優れる点等の特徴があるが、デメリットとして水に溶解しない点や、天然であるため色素自体の、たとえば粒子系や粒度分布などのばらつきが大きく、ロットによって違う点がある。
食品や飲料に用いる場合は水系であることが望ましいため、水に溶解しない場合は大きく2つの製剤化方法をとる。
1つは、ウコン色素に対して加工処理を施し水溶性化する方法。もう1つは、水にウコン色素を分散する方法である。
また、色素製剤に求められる代表的な条件として、経時において色素の沈殿や分離、色相に変化がなく、粘度も安定していることがあげられる。
【0004】
特許文献1には、ウコン色素に対してシクロデキストリン加工処理を施し水溶性化する方法が記載されている。しかし、この方法は、ウコン色素を水溶性化するが、重量あたりの発色成分が少なくなり薄くなり、また、処理工程に時間がかかり経済性がないというデメリットがあり最善の方法であるとはいえない。
【0005】
特許文献2には、水にウコン色素を分散する方法が記載されている。
しかしこの方法は、ウコン色素で水系分散体を作ることが出来るが、分散粘度が非常に高く分散効率性が悪くなり、また、平均粒径をコントロールする工程でモニタリングするため生産性が悪いというデメリットがあり、最善の方法であるとはいえない。
【0006】
特許文献3には、水にウコン色素をガティガムで分散する方法が記載されている。
しかしこの方法は、ウコン色素で水系分散体を作ることが出来るが、分散粘度が非常に高く分散効率性が悪くなり、また、特定の粒径のウコン色素を選別する過程で効率が悪いというデメリットがあり、最善の方法であるとはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−195198号公報
【特許文献2】特開2009−201371号公報
【特許文献3】特開2009−263638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、バラつきの大きいウコン色素を特殊加工せずに、低粘度で安定したウコン色素を含有する水系着色組成物およびその分散体製剤を提供することであり、経済性と品質を両立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ウコン色素と分散剤と水とを含有する水系の着色組成物であって、分散剤が、HLB16.0〜13.0、5.9〜4.1、3.4〜2.5である少なくとも3種類の分散剤を含有する事を特徴とする水系着色組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、水系着色組成物全量を100重量部とした場合、HLB16.0〜13.0の分散剤が4〜12重量部、HLB5.9〜4.1の分散剤が2〜8重量部、HLB3.4〜2.5の分散剤が4〜12重量部である事を特徴とする上記水系着色組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、ウコン色素が、Natural Yellow 3である上記水系着色組成物に関する。
【0012】
また、本発明は、上記水系着色組成物を含有する分散体製剤に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、ウコン色素自体のバラつきを無視でき、低粘度で安定したウコン色素を含有する水系着色組成物を提供することが出来るため、安価で高品質な製剤となる。当該製剤は、食品、飲料、化粧品などに好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず色素について説明をする。
本発明に用いられるウコン色素は、C.I. Natural Yellow 3に代表される、クルクミンを主成分とする色素である。クルクミンは、ポリフェノールの一種であるクルクミノイドに分類され、鮮やかな黄色を持つことから、天然の食用色素として用いられる。
本発明の水系着色組成物中のウコン色素の含有量は特に制限はされないが、好ましい含有量は1重量%以上である。1重量%未満では組成物中のクルクミン濃度が薄くなってしまうため実用的ではないからである。
本発明において、色相を調整する意味合いでウコン色素以外の色素を併用することができる。
ウコン色素以外に併用できる色素として、天然色素、合成色素を問わない。
天然色素である場合、例えば、フラボノイド系色素、カロチノイド系色素、アントシアニン系色素など用いることができる。
合成色素である場合、例えば、食用青色1号、食用青色2号、食用黄色4号、食用黄色5号、食用赤色3号、食用赤色40号、食用赤色102号、食用赤色106号、前記アルミレーキ色素など用いることができる。
【0015】
本発明に用いられる分散剤は、HLBの異なる3種類を含有し、それぞれ、HLBとして、16.0〜13.0、5.9〜4.1、3.4〜2.5である事を特徴とする。
HLBとは、HLB値(エイチエルビーち)とは界面活性剤の水と油(水に不溶性の有機化合物)への親和性の程度を表す値である。 HLBはHydrophile-Lipophile Balanceの頭文字を取ったものである。HLB値は0から20までの値を取り、0に近いほど親油性が高く20に近いほど親水性が高くなる。本願においてHLB値はGrrifinの経験式(式1)から算出される値を用いる。
【0016】
(式1)HLB=20×(1−SV/NV)
ただし、SV=エステルの鹸化価、NV=脂肪酸の中和価。
【0017】
HLBの異なる3種類用いることでウコン色素と水との良好な親和性を与えることができた。まず、ウコン色素は、HLBの低い親油性の分散剤に強い吸着を示し、非常に効果的に分散される。しかし、分散雰囲気が水であるため、HLBの低い分散剤自体は水に分散しない。そこで水自体の雰囲気を親水性の高い2種類目の分散剤によって親油方向へ変える。そして、やや親油の水と分散剤吸着色素を親和させる、HLBが中程度の3種類目の分散剤が両者のバランスを取ることが、良好な親和性を与えたメカニズムであろうと、推定される。
HLBの各規定範囲は、上記メカニズムを支持する最適範囲であることを本発明者らは突き止めた。
よって、それぞれの役割に応じたHLBの範囲が規定されるため、HLBが3.4〜2.5である分散剤がない場合は、ウコン色素が沈殿する。HLBが5.9〜4.1である分散剤や、16.0〜13.0である分散剤がない場合は、水と油の分離が起こるため水系着色組成物として使えない。
【0018】
本発明に用いられる分散剤の量は、水系着色組成物全量を100重量部とした場合、好ましくは、HLB16.0〜13.0の分散剤が4〜12重量部、HLB5.9〜4.1の分散剤が2〜8重量部、HLB3.4〜2.5の分散剤が4〜12重量部である。
より好ましくは水系着色組成物全量を100重量部とした場合、HLB16.0〜13.0の分散剤が6〜10重量部、HLB5.9〜4.1の分散剤が3〜7重量部、HLB3.4〜2.5の分散剤が6〜10重量部である。
この範囲内であれば、より保存安定性の優れた水系着色組成物を得ることができる。
【0019】
本発明に用いられる分散剤の種類として、アラビアゴム、シェラック、グリセリン脂肪酸エステル、ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合物、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルなどがあげられる。好ましくは、グリセリン脂肪酸エステルである。
【0020】
本発明の水系着色組成物を得るための分散は、三本ロールミル、二本ロールミル、サンドミル、ニーダー、アトライター、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル、picoミル等の各種分散手段を用いて行うことができる。2種以上の色素を含む着色組成物は、色素を予め混合し、得られた色素混合物を微細に分散して製造することができる。また、2種以上の色素を含む着色組成物は、各々の色素を別々に微細に分散したものを混合して製造することもできる。
【0021】
本発明に用いるメイン溶媒は水である。表面張力の調整として、表面張力調整剤を用いることができる。
表面張力調整剤は、食品用途において使用することができるものであれば好ましく、例えば、シリコーン樹脂系調整剤が使用することが出来る。シリコーン樹脂系調整剤の市販品としては例えば、液状オイル型シリコーン樹脂系調整剤であるKF96ADF、オイルコンパウンド型シリコーン樹脂系調整剤であるKS66、KS69、エマルジョン型シリコーン樹脂系調整剤であるKM72、KM72F(以上、信越化学工業株式会社製)等が挙げられる。消泡剤は単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
さらに多価アルコールを用いることでき、例えば、プロピレングリコール、グリセリン、マルチトール、還元水あめ、ラクチトール、パラチニット、エリスリトール、マンニトール、ソルビトール等が挙げられ、これらは単独あるいは2種以上を組み合わせて添加することができる。その中でもエタノールが組成物の防腐性を確保するうえで最も好ましい。
本発明の水系着色組成物には本発明の効果を妨げない範囲において、食品に用いることのできる、pH調整剤、安定剤、保存料などを配合することもできる。
【0022】
本発明の水系着色組成物は、分散体製剤としては、食品、飲料、化粧品などに好適に用いられる。
本発明の分散体製剤は、そのまま食品として経口摂取することも出来るが、果汁飲料や茶、コーヒー、牛乳、乳飲料、乳酸菌飲料及びアルコール飲料などの飲料類、ゼリーやグミ、アイスクリーム、ヨーグルト、ジャム、飴、ガム、チョコレート、クッキー、ビスケット及びケーキなどの菓子類、砂糖や蜂蜜、水飴などの糖類、醤油やソース、マヨネーズ及びドレッシングなどの調味料類、コーンスープやコンソメスープなどのスープ類、ハム・ソーセージや蒲鉾などの加工食品、漬物や麺類、パン及び米などの種々の食品に配合することも可能である。
さらに、ファンデーション、アイメイク、シャンプーなどの種々の化粧品に配合することも可能である。
【実施例】
【0023】
以下に、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は、「重量部」を表す。
【0024】
(ウコン色素A)
日本スタンゲ社製クルクミンパウダー(色価14,463)をウコン色素Aとする。
平均粒度分布測定を日機装社製マイクロトラックMT3100IIで測定し、2.5μmであった。
(ウコン色素B)
ウコン色素Aを、アイシンナノテクノロジーズ社製ナノジェットマイザーを用いて乾式粉砕を行い、平均粒度分布が1.0μmとなるよう調整して粉砕し、ウコン色素Bを得た。
(ウコン色素C)
ウコン色素A50部、ウコン色素B50部を均一になるように混合し、ウコン色素Cを得た。
【0025】
(水)
共栄製薬社製精製水を水とする。
(エタノール)
ヤエガキ酒造社製95度一般アルコールをエタノールとする。
(グリセリン)
ADEKA社製食品添加物グリセリンをグリセリンとする。
(消泡剤A)
信越化学工業社製KM-72Fを5部、水を95部、計量混合し、消泡剤Aを得た。
【0026】
(分散剤)
MCA-750は坂本薬品工業社製、SYグリスターMCA-750でHLBは16.0である。
MCA-500は坂本薬品工業社製、SYグリスターMCA-500でHLBは14.6である。
MS-750は坂本薬品工業社製、SYグリスターMS-750でHLBは13.4である。
MO-750は坂本薬品工業社製、SYグリスターMO-750でHLBは12.9である。
TS-500は坂本薬品工業社製、SYグリスターTS-500でHLBは7.0である。
PO-500は坂本薬品工業社製、SYグリスターPO-500でHLBは4.9である。
TS-310は坂本薬品工業社製、SYグリスターTS-310でHLBは4.5である。
PS-500は坂本薬品工業社製、SYグリスターPS-500でHLBは4.4である。
DAO-750は坂本薬品工業社製、SYグリスターDAO-750でHLBは3.5である。
HB-750は坂本薬品工業社製、SYグリスターHB-750でHLBは3.5である。
DAS-750は坂本薬品工業社製、SYグリスターDAS-750でHLBは3.1である。
レシチンCLOはJ-オイルミルズ社製、レシチンCLOでHLBは3.0である。
PS-310は坂本薬品工業社製、SYグリスターPS-310でHLBは2.6である。
CR-310は坂本薬品工業社製、SYグリスターCR-310でHLBは2.0である。
【0027】
(実施例)(比較例)
表1に示す配合組成で、混合物を均一に撹拌混合し、直径0.5mmのジルコニアビーズを用いて、picoミルで30分間分散した後、5μmのフィルタで濾過し、水系着色組成物を作製した。
【0028】
【表1】

【0029】
実施例1〜22、比較例1〜12で得られた水系着色組成物を、製造直後の初期粘度と25℃7日間静置の経時粘度を、E型粘度計(東機産業社製「R110」)で測定した。
さらに、25℃7日間静置後の水系着色組成物を目視にて、分離・沈殿の状態を確認した。
判定として、◎は保存安定が良好で、とても扱い易い。○はやや不安定ではあるが、扱い易い。△は使用前に強い撹拌を必要とする等、とても不安定で扱いにくい。×は不安定すぎて製品価値がない。としている。
評価結果を表2に記載する。
【0030】
【表2】

【0031】
実施例12と比較例1〜11において、3つの分散剤うちどれか1つでも欠けると、分散安定に対して大きく影響が出ており、製品として価値を失うと言える。
比較例12は特許文献2を参考に作製したが、期待した効果は得られなかった。
実施例5、実施例10、実施例11において、ウコン色素の粒度にばらつきがあっても、問題なく水系着色組成物が得られると言える。
実施例12と実施例15〜22において、3つの分散剤添加量のバランスを取ることで、さらに分散安定性に効果があると言える。
実施例1〜9において、HLBの範囲であれば種類に影響なく、分散安定性が良好であると言える。
【0032】
実施例12で得られた水系着色組成物を、パン生地、うどん生地、無着色清涼飲料それぞれに対し5%程度添加し、状態を確認した。
さらに、無着色のアイメイク用化粧品組成物に対し1%程度添加し、状態を確認した。
結果、食品、飲料、化粧品すべてに置いて、むらが無く着色できたこと、その後の製品状態においても保存安定性に悪影響を及ぼさないことが確認された。
【0033】
Natural Yellow 3で表されるウコン色素の安定した水系着色組成物を得るためには、3種の異なるHLBの分散剤が効果的である。また、添加量をコントロールすることで、よりその後の使用時の負担を減らすことができる。
ウコン色素自体を加工することなく、ウコン色素自体のバラつきを無視でき、低粘度で安定したウコン色素の水系分散体を提供することが出来るため、安価で高品質な製剤となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウコン色素と分散剤と水とを含有する水系の着色組成物であって、分散剤が、HLB16.0〜13.0、5.9〜4.1、3.4〜2.5である少なくとも3種類の分散剤を含有する事を特徴とする水系着色組成物。
【請求項2】
水系着色組成物全量を100重量部とした場合、HLB16.0〜13.0の分散剤が4〜12重量部、HLB5.9〜4.1の分散剤が2〜8重量部、HLB3.4〜2.5の分散剤が4〜12重量部である事を特徴とする請求項1に記載の水系着色組成物。
【請求項3】
ウコン色素が、Natural Yellow 3である請求項1または2記載の水系着色組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の水系着色組成物を含有する分散体製剤。

【公開番号】特開2011−157517(P2011−157517A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21920(P2010−21920)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】