説明

水系電極インクおよびその製造方法

【課題】水系の電極インクでは比重の大きな金属粒子の含有率高く、且つ沈降させずに分散させることが難しいという課題を有していた。
【解決手段】金属粉末の含有量を25〜40重量%含有し、水溶性樹脂から選ばれる少なくとも2種以上の平均分子量の異なる水溶性樹脂を金属粉末100重量部に対して3〜6重量部含有し、水系可塑剤を水溶性樹脂に対して重量比で1.5〜1.9倍含有し、残りが水からなる水系電極インクにおいて、一つの水溶性樹脂の平均分子量を5000〜10000とし、もう一つの水溶性樹脂の平均分子量を15万〜36万とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極形成に用いられる水系電極インクおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子部品などの電極パターン形成は広範囲におよび、これに使用される金属粉を主成分とする導電ペーストは有機溶剤系のものが多く、これらの導電ペーストを用いた印刷方法としてはスクリーン印刷、グラビア印刷およびオフセットグラビア印刷等が多用されている。
【0003】
しかしながら、これらの電子部品は小型化が進み、電子部品の電極形成はより微細になるとともに、より高精度が要求されており、これらの要求に対応するためにはスクリーン印刷、グラビア印刷およびオフセットグラビア印刷等に代わって、インクジェット印刷技術を応用した印刷方法が提案されている。このインクジェット印刷法はスクリーン版、グラビア版などを必要とせず、電極パターンの電子データをパソコン制御などによって直接インクジェットヘッドから電極インクを吐出させることにより微細な電極パターンを形成することができ、リードタイムの短縮、少量多品種に対応した生産システムに活用することができるという利点を有している。
【0004】
また、積層セラミックコンデンサなどのように薄層化されたセラミックグリーンシートを用いるような場合において、非接触式のインクジェット印刷法は薄層化されたセラミックグリーンシートにダメージを与えることなく電極パターンの印刷が可能となる。
【0005】
また、最近では環境に対して影響を与える有機溶剤系に代えて水系のインクなどに関する技術が開示されている。
【0006】
なお、これらについての先行文献情報としては、例えば特許文献1、特許文献2などが知られている。
【特許文献1】特開平11−102834号公報
【特許文献2】国際公開第99/38176号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来の構成では、低粘度が不可欠であるインクジェット印刷用の電極インクでは比重の大きな金属粒子を含有率高く、且つ沈降させずに安定して分散させることが非常に難しいという課題を有していた。特に、電極インク中の凝集体、沈殿物によるインクジェットヘッドのノズル詰まり、電極パターンの掠れなどが発生するという課題があった。
【0008】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、電極パターンを安定して印刷することができる水系電極インクおよびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記従来の課題を解決するために、本発明は水系電極インクの総重量に対して金属粉末の含有量を25〜40重量%含有し、水溶性樹脂から選ばれる少なくとも2種以上の平均分子量の異なる水溶性樹脂を金属粉末100重量部に対して3〜6重量部含有し、水系可塑剤を水溶性樹脂に対して重量比で1.5〜1.9倍含有し、残りが水からなる水系電極インクにおいて、一つの水溶性樹脂の平均分子量を5000〜10000とし、もう一つの水溶性樹脂の平均分子量を15万〜36万とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水系電極インクおよびその製造方法は、沈降による分散の安定性が増大することから電子部品を構成する被印刷物の上にインクジェット印刷法を用いて電極パターンを安定して印刷することができる水系電極インクおよびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1における水系電極インクおよびその製造方法について説明する。
【0012】
本発明の実施の形態1における金属粉末として、平均粒径0.2μmのニッケル粉を用い、このニッケル粉100重量部に対して(表1)に示すような水溶性樹脂を5重量部、水系可塑剤としてグリセリンを水溶性樹脂に対して重量比で1.8倍である9重量部、水を13重量部の割合にて配合し、これらの材料を3本ロールで混練しながらニッケル粉を混合分散した。
【0013】
その後、水158重量部を徐々に加えながら高速ディスパーミルで混合分散することにより(表1)に示す水系電極インクを作製した。この水系電極インクをインクの粘度と分散性を評価するために5μmフィルタでの濾過性、試験管に静置した状態で5時間後の金属粒子の沈降分離状態を観察した。また粘度の測定はねじれ振動式粘度計(ビスコメイトVM−1G)を用いて25℃における粘度を測定した。これらの測定評価結果を(表1)に示す。
【0014】
【表1】

【0015】
(表1)の結果より、比較的高分子量の樹脂の方がフィルタ濾過性、沈降分離安定性が良いが、これら単独ではインクジェット印刷用インクに望まれる35mP・sec以下の粘度を実現するためには大幅に希釈しなければならない。印刷形成する電極パターンには所定の電極厚みが必要であり、この厚みを確保するためには電極インク中の金属粒子の含有率を上げておく必要があることから、粘度を下げるための大幅な希釈は不都合である。これに対して、本発明のインク組成を有する水系電極インクは低粘度と沈降分離の安定性を両立することができ、実施例1〜5の水系電極インクは分散性が良く、5μmフィルタでの濾過性についても目詰まりが無く、インク粘度が低いにもかかわらず金属粒子の沈降分離も少ないことがわかる。これは金属粉末の表面に平均分子量の大きな水溶性樹脂が付着し、この平均分子量の大きな水溶性樹脂を含んだ状態で一個の粉体粒子として振る舞うことから見掛けのストークス径が大きくなった状態となり、その結果、溶媒中における見掛けの比重が小さくなることから沈降による分散の安定性が増大するものと考えられる。さらに、平均分子量の小さな水溶性樹脂を添加することにより電極インクの粘度を低減する作用を発揮することによりインクジェット印刷に必要な35mP・sec以下の粘度を実現することができる。
【0016】
このように、金属粉末に対して平均分子量が5000〜10000の水溶性樹脂と15万〜36万の水溶性樹脂を組み合わせた水溶性樹脂を含有し、さらに水系可塑剤と水からなる水系電極インクとすることにより、金属粉末の分散を安定化させるとともにインクジェット印刷に不可欠な低粘度の水系電極インクを実現することができる。
【0017】
また、イソブチレン・無水マレイン酸共重合体のアンモニウム塩(例えばクラレ製水溶性樹脂:イソバンなど)あるいはポリビニルピロリドンを用いることにより、より分散安定性の良い水系電極インクを実現することができるとともに、水溶性可塑剤、アルコール類、アミン類との組み合わせで加熱により架橋反応を起こして水に不溶な塗膜を形成することができる。
【0018】
また、水系可塑剤を水溶性樹脂に対して重量比で1.5倍から1.9倍の範囲で添加されることで適度な被印刷物に対する接着性を向上できる。
【0019】
なお、これらの金属粉末に用いる水溶性樹脂としては、具体的にはメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチル・ヒドロキシ・エチルセルロース等のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール樹脂、水溶性ブチラール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、水溶性アクリル共重合樹脂、ゼラチン、カゼインなどのタンパク質、デンプン、グルコース等の糖類等の中から選ぶことができ、そのなかでもノニオン、カチオンタイプの水溶性樹脂がより望ましい。
【0020】
次に、金属粉末の含有量の検討を行った。基本的な水系電極インクの組成は実施例3を基本とし、(表2)に示すような金属含有量のみを変化させてインク特性の評価を行った。その時の評価結果を(表2)に示す。
【0021】
【表2】

【0022】
(表2)の結果より、金属粉末の含有量としては25〜40重量%が好ましい。ここで、電極パターンの形成において電極の導体抵抗を低くしておくためには電極厚みが必要となり、金属粉末の含有量が少なくなると電極の厚みを実用上十分に厚くすることが困難となる。一方、金属粉末の含有量が多くなりすぎると金属粉末の沈降分離が起こりやすくなり、連続印刷性における安定性に課題を有することになる。
【0023】
次に、金属粉末の種類と平均粒径の検討を行った。(表3)に示したような金属粉末を準備し、前記と同様の方法により水溶性樹脂として実施例3と同様の組成とし、水系可塑剤をグリセリン/トリエタノールアミン=1/1の組成とし、その添加量を水溶性樹脂に対して1.8倍の重量比で添加し、さらに水を13重量部の割合にて配合し、これらの材料を3本ロールで混練しながら各種の金属粉末を混合分散した。
【0024】
その後、水158重量部を徐々に加えながら高速ディスパーミルで混合分散することにより(表3)に示すようなそれぞれの水系電極インクを作製した。この水系電極インクの粘度と分散性を評価するために試験管に静置した状態で5時間後の金属粒子の沈降分離状態とインクジェット印刷方法における印刷性について評価した。その結果について(表3)に示す。
【0025】
【表3】

【0026】
(表3)の結果より、金属粉末を金、銀、白金、パラジウムおよび銀/パラジウム合金などの貴金属、および銅、ニッケルおよびこれらの合金の卑金属とした高導電率を有する金属を電極材料として用いてインクジェット印刷に適した水系電極インクとすることができる。
【0027】
なお、卑金属材料としては導体抵抗が若干高くなるが、高温で焼成することができるタングステン、モリブデンなどの高融点金属材料もセラミックパッケージなどの多層基板に用いることができる。
【0028】
また、卑金属の合金材料としてはNi−Cr合金などが同様の方法によって水系電極インクとすることができる。
【0029】
また、その金属粉末の平均粒径を0.05〜0.4μmとすることにより、詰まり、掠れなどの発生しない印刷性に適した水系電極インクを実現することができる。
【0030】
次に、水溶性樹脂の添加量についての検討を行った。
【0031】
平均粒径0.2μmのニッケル粉を用い、このニッケル粉末100重量部に対して水溶性樹脂を(表4)に示すような組成になるように添加し、水系可塑剤としてグリセリンを水溶性樹脂に対して重量比で1.8倍である9重量部、水を13重量部の割合にて配合し、これらの材料を3本ロールで混練しながらニッケル粉を混合分散した。
【0032】
その後、水158重量部を徐々に加えながら高速ディスパーミルで混合分散することにより(表4)に示す水系電極インクを作製した。この水系電極インクをインクの粘度と分散性を評価するために5μmフィルタでの濾過性、試験管に静置した状態で5時間後の金属粒子の沈降分離状態を観察した。粘度は粘度計を用いてインク特性の評価を行った。その時の評価結果を(表4)に示す。
【0033】
【表4】

【0034】
(表4)の結果より、水溶性樹脂の添加量は金属粉末100重量部に対して重量比で3〜6重量部の範囲が好ましい。
【0035】
次に、水系可塑剤についての検討を行った。(表1)ではこの水系可塑剤としてグリセリンを使用していたが、ここでは(表5)に示す水系可塑剤とその添加量について検討した。この電極インクの作製方法は前記と同様の方法で行い、これらの水系電極インクの濾過性、沈降安定性について評価した。
【0036】
水溶性樹脂は一般的に非常に硬くなり、例えば積層セラミックコンデンサを製造する場合、セラミックグリーンシートの上に電極パターンを印刷した後熱圧着により順次積層していくとき、この水系可塑剤を混合しなければうまく接着性が得られないことがある。このようにセラミックグリーンシートの積層性については水系可塑剤を選択することが重要である。このセラミックグリーンシートの積層性はチタン酸バリウムを主体としたセラミックグリーンシート上(誘電体層約4〜5μmで焼成後約2〜3μm)にそれぞれの水系電極インクをインクジェット印刷法により所定の内部電極パターンを印刷し、作製した電極形成済みセラミックグリーンシートを用い、90℃−85Kg/cm2で熱転写することにより100枚の積層を行った。そして、それらを切断してその切断面を観察することにより積層接着性を確認した。
【0037】
これらの評価結果を(表5)に示す。
【0038】
【表5】

【0039】
(表5)の結果より、水系可塑剤の添加量が水溶性樹脂の1.5倍より少なくなれば接着性が発現せず、1.9倍より多くなれば誘電体グリーンシートに電極パターンを印刷した後、巻き取った場合にセラミックグリーンシートどうしの貼り付きが見られた。
【0040】
また、水系可塑剤の中でもトリエタノールアミンは水溶液でアルカリ性を示すため、後述するインク製造時のpHのコントロールに用いることができ、金属粒子の分散安定にもよりその効果を発揮することができる。この他にも、水系可塑剤としてはエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール類、トリエタノールアミン等から選ぶことが可能である。
【0041】
(実施の形態2)
以下、本発明の実施の形態2における水系電極インクおよびその製造方法について説明する。
【0042】
実施例1の水系電極インク組成を基本にして、(表6)に示すように所定量のチタン酸バリウムを実施例1の水系電極インク100重量部に対して添加し、前記と同様の方法によってインク化してインクジェット印刷用の水系電極インクを作製した。この水系電極インクをチタン酸バリウムを主体としたセラミックグリーンシート上(誘電体層約4〜5μmで焼成後約2〜3μm)にインクジェット印刷法で所定の内部電極パターンを印刷した。このように作製した内部電極形成済みセラミックグリーンシートを用い、90℃−85Kg/cm2で熱転写により積層を行った。なお、積層体作製時には上下に約200μmの誘電体層(無効層)を積層形成した。次に、積層の後、切断して個片化することによりグリーンチップを作製した。
【0043】
次に、このグリーンシートの脱バインダを行う。この脱バインダの熱処理条件は空気中、350℃で4時間保持の条件を有する熱風循環式のオーブンで行い、その後放冷した。次に、脱バインダ後のグリーンチップの焼成は管状炉を用いて雰囲気焼成を行った。この焼成の雰囲気は一定量の窒素ガスをキャリアーとした上で、焼成温度での酸素濃度がNiの平衡酸素分圧に対して約1桁還元側雰囲気となるように水素と水蒸気を用いた雰囲気制御により調節した。
【0044】
次に、焼成された積層チップの外部電極の形成は積層チップの焼結体を遠心バレルにより研磨した後、市販のCuペーストを積層チップの両端面に塗布した後、900℃で焼き付けて形成した。
【0045】
次に、実装性を高めるために、外部電極としてのめっき電極を形成する。このめっき工程は下地処理としてNiメッキを行い、さらにその上はんだ濡れ性を高めるためにはんだめっきを施した。
【0046】
以上のようにして作製した積層セラミックコンデンサについて、焼成後のクラック、静電容量、tanδを市販のLCRメータで測定した。
【0047】
また、温度特性についてはJIS−C6429−1989に準拠した方法で、1KHz、信号電圧1Vrms.で測定し、規格温度範囲(−25℃〜85℃)の中の最大容量変化率(20℃の容量を基準)を求めた。これらの積層セラミックコンデンサの評価結果を(表6)に示す。
【0048】
【表6】

【0049】
(表6)の結果より、実施例27〜実施例29の水系電極インクを用いて内部電極パターンを印刷形成した積層セラミックコンデンサは焼成によるクラックも抑えられ、積層セラミックコンデンサの電気特性についても良好な結果が得られた。
【0050】
このように、セラミックグリーンシート上に印刷された内部電極パターンを多層積層して焼結させるとき、金属粉末のみでは金属粉末の焼結時の収縮タイミング等で電極層と誘電体層の間で焼成によるクラックが入りやすい場合、このような構成とすることにより焼結によるクラックを防止するという効果を発揮することができる。
【0051】
また、このチタン酸バリウム粉末の添加量は10〜25重量部が好ましい。添加量が少なくなるとクラックなどを防止する効果が少なくなり、多すぎると積層セラミックコンデンサの電気特性等が悪化する。
【0052】
(実施の形態3)
以下、本発明の実施の形態3における水系電極インクについて説明する。
【0053】
ここでも実施の形態2と同じように、実施例1の水系電極インク組成を基本にし、金属粉末を平均粒径0.3μmの銀粉末を用いて(表7)に示すような所定量のガラス粉(平均粒径:0.07μm)と酸化マンガン(平均粒径:0.25μm)をそれぞれ添加して前記と同様にインクジェット印刷用の水系電極インクを作製した。
【0054】
次に、これらの水系電極インクを用いてアルミナ基板上に所定の配線パターンをインクジェット印刷法で印刷した。次にそれらを870℃、N2気流中で焼き付けた。このようにして作製した配線パターンの剥離強度と抵抗値を測定した。その評価結果を(表7)に示す。
【0055】
【表7】

【0056】
(表7)の結果より、ガラス粉または酸化マンガンを添加した水系電極インクではガラス粉または酸化マンガンがアルミナ基板との密着性を高めることから、剥離強度に優れた電極パターンを形成することができる。また、その添加量としてはガラス粉が0.5〜10重量部が好ましく、酸化マンガンは0.5〜5重量部が好ましい。その添加量が少なくなると密着性が低下し、多くなりすぎると電極としての電気特性が劣化する。さらに、ガラス粉、酸化マンガンは混合して用いても良い。
【0057】
(実施の形態4)
以下、本発明の実施の形態4における水系電極インクの製造方法について説明する。
【0058】
実施例3の水系電極インクを以下に示すような手順にて作製した。
【0059】
まず第1の工程として、ニッケル金属粉、樹脂A(平均分子量15万)および水をプラネタアリーミキサーにより1時間混合分散した。
【0060】
次の工程として、樹脂B(平均分子量0.5万)、グリセリンおよび水を加えて30分プラネタリーミキサーで混合分散後、さらに3本ロールで分散した。その後、高速ディスパーで撹拌しながら水158重量部を加えて希釈してインクジェット用水系電極インクを作製した(実施例36)。
【0061】
次に、実施例28の組成を有する水系電極インクについて以下に示すように変更して作製した。
【0062】
第1の工程として、ニッケル金属粉(平均粒子径0.2μm):、樹脂A(平均分子量15万)、水9.5重量部をプラネタリーミキサーにより0.5時間混合した。この状態のpHを推定するために蒸留水100gに上記ニッケル粉10gを添加し、その上澄み液のpHを測定したところ、pH=6.5であった。
【0063】
次に第2の工程として、チタン酸バリウム粉:20重量部、樹脂B:4重量部、水:0.5重量部を添加した後30分間混合した。この状態のpHを推定するために前記と同様の方法により上澄み液のpHを測定したところ、pH=8.6であった。
【0064】
次に、グリセリン:9重量部、水:3重量部をさらに加えて、30分間プラネタリーミキサーで混合した後、3本ロールで分散した。その後、高速ディスパーで撹拌しながら水158重量部を加えて希釈してインクジェット用インクを作製した(実施例37)。
【0065】
以上のように作製したこれらの水系電極インクの分散性を評価するため5μmフィルタでの濾過性、試験管における5時間後の金属粒子の沈降分離の状態を観察した。またこれらの水系電極インクの粘度についても評価した。
【0066】
その結果について(表8)に示す。
【0067】
【表8】

【0068】
実施例36〜実施例37は比較のために同時に全ての材料を添加混合して作製したインクと比較して5μmフィルタの濾過性については良好であり、特に沈降分離の安定性が良好であった。
【0069】
このように、分散を安定化させるために水系電極インクの作製工程において、溶質中に金属粉末などの粒子を安定して分散させるためには粒子表面に樹脂を吸着させ、この樹脂の吸着層による立体障害で粒子どうしの凝集力を働かせないようにする必要がある。そのためには水溶性樹脂の吸着層は厚い方が良く、また比重の大きな金属粒子ではその沈降速度を遅くするためには吸着層をより厚くし、見かけの比重を小さく、沈降ストークス径を大きくすることが有効になる。ここで吸着層を厚くするためには、金属粒子表面に吸着させる樹脂の平均分子量は大きくすることが効果的である。従って、平均分子量の異なる同種の樹脂を同時に金属粒子と混合した場合、平均分子量の小さい方が早く吸着することになるため、平均分子量の大きな樹脂を先に混合することで金属粒子の表面の樹脂吸着層の厚みを厚くすることができる。
【0070】
しかしながら、平均分子量の大きな樹脂のみを使うことで分散性は安定化し、金属粒子の沈降は抑制することはできるが、インクジェット印刷用の電極インクではインク粘度が低くないとインクジェットヘッドから吐出することができない。これに対して、金属粒子の表面に平均分子量の大きな樹脂で被覆分散した後、平均分子量の小さな樹脂を添加するという方法で分散安定性とインク粘度の低下を両立させることができる水系電極インクの製造方法を実現することができる。
【0071】
さらに、特筆すべきは実施例37のインクについてはNi粉とチタン酸バリウム粉の分離が非常に起こりにくい水系電極インクとすることができるということである。
【0072】
ここで重要なことは、金属粒子と平均分子量の大きな樹脂を混合する溶液のpH状態において金属粒子の表面に付着する樹脂層の厚みが変化するということである。一般に、平均分子量の大きな樹脂は貧溶媒中では分子鎖は糸鞠状に凝集し、良溶媒中では広がるとされている。
【0073】
従って、金属粒子の表面への樹脂の吸着量は貧溶媒中で吸着させる方法が多くなることが分かっている。
【0074】
特に、金属粒子への樹脂の吸着が完了するインク製造過程の初期に溶液のpHを酸性側のpH=5〜7にし、インク製造過程の終了時点ではpHをアルカリ性側にするというものである。
【0075】
以上の点から、インク製造過程の初期段階でのpHを5〜7とすることにより水溶性樹脂は糸鞠状に凝集した状態で金属粒子の表面に吸着完了する。この状態は水溶性樹脂が糸鞠状に丸まっており、高分子鎖が広がる良溶媒中で吸着する場合より専有面積が小さいことから金属粒子の水溶性樹脂の吸着量はより多くなる。本実施の形態4で使用しているニッケル粉を含んだ水は酸性側の溶液であるので貧溶媒となる。
【0076】
次に、貧溶媒中で吸着完了した時点でチタン酸バリウムを添加することによりpHをアルカリ側にして良溶媒の溶液雰囲気にすると、高分子鎖は隣に吸着した高分子との立体障害で金属粒子の表面から放射状に分子鎖を伸ばすことになり、水溶性樹脂の吸着層が厚くなる。このことにより前述したように分散安定・沈降のより少ない水系電極インクの製造方法を実現することができる。
【0077】
また、インク製造過程の初期にpHを酸性側にするには、材料の添加順序でも変化できる場合があるが、強制的に少量の有機酸例えばクエン酸、シュウ酸、リンゴ酸を添加してpHを変化させても良い。
【0078】
さらに、水系可塑剤であるトリエタノールアミンはアルカリ性を示すため、このトリエタノールアミンをインク作製の最終段階で添加することで最終的なインクのpHをアルカリ性にすることができる。
【0079】
また、インクジェット印刷用のインクの場合、インクジェットヘッド内部のインクと接する電極等の腐食防止のためには最終的なインクのpHはアルカリ性の方が望ましいことからも、最終的にはインクのpHがアルカリ性であるのが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0080】
以上のように、本発明にかかる水系電極インクおよびその製造方法は、微細な電極パターンを電子部品などを構成する被印刷物上に非接触で、しかもコンピュータ制御によるオンデマンド印刷が可能となるので電子部品の用途として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系電極インクの総重量に対して金属粉末の含有量を25〜40重量%含有し、水溶性樹脂から選ばれる少なくとも2種以上の平均分子量の異なる水溶性樹脂を金属粉末100重量部に対して3〜6重量部含有し、水系可塑剤を水溶性樹脂に対して重量比で1.5〜1.9倍含有し、残りが水からなる水系電極インクにおいて、一つの水溶性樹脂の平均分子量を5000〜10000とし、もう一つの水溶性樹脂の平均分子量を15万〜36万とした水系電極インク。
【請求項2】
水溶性樹脂をノニオン系あるいはカチオン系樹脂とした請求項1に記載の水系電極インク。
【請求項3】
水溶性樹脂をイソブチレン・無水マレイン酸共重合体のアンモニウム塩あるいはポリビニルピロリドンのうちの少なくとも一つを含んだ請求項1に記載の水系電極インク。
【請求項4】
水系可塑剤として少なくともトリエタノールアミンを含んだ請求項1に記載の水系電極インク。
【請求項5】
金属粉末を金、銀、白金、パラジウムおよびこれらの合金の貴金属とした請求項1に記載の水系電極インク。
【請求項6】
金属粉末を銅、ニッケルおよびこれらの合金の卑金属とした請求項1に記載の水系電極インク。
【請求項7】
金属粉末の平均粒径を0.05〜0.4μmとした請求項1,5または6のいずれか一つに記載の水系電極インク。
【請求項8】
水系電極インクの総重量に対してニッケル粉末の含有量を25〜40重量%含有し、チタン酸バリウム粉末をニッケル粉末100重量部に対して10〜25重量部含有し、水溶性樹脂から選ばれる少なくとも2種以上の平均分子量の異なる水溶性樹脂をニッケル粉末100重量部に対して3〜6重量部含有し、水系可塑剤を水溶性樹脂に対して重量比で1.5〜1.9倍含有し、残りが水からなる水系電極インクにおいて、一つの水溶性樹脂の平均分子量を5000〜10000とし、もう一つの水溶性樹脂の平均分子量を15万〜36万とした水系電極インク。
【請求項9】
水系電極インクの総重量に対して銀粉末の含有量を25〜40重量%含有し、ガラス粉末を銀粉末100重量部に対して0.5〜10重量部を含有または酸化マンガン粉末を銀100重量部に対して0.5〜5重量部を含有し、水溶性樹脂から選ばれる少なくとも2種以上の平均分子量の異なる水溶性樹脂を金属粉末100重量部に対して3〜6重量部含有し、水系可塑剤を水溶性樹脂に対して重量比で1.5〜1.9倍含有し、残りが水からなる水系電極インクにおいて、一つの水溶性樹脂の平均分子量を5000〜10000とし、もう一つの水溶性樹脂の平均分子量を15万〜36万とした水系電極インク。
【請求項10】
請求項1に記載の水系電極インクは、金属粉末、平均分子量の大きな水溶性樹脂、および水を混合分散する工程と、前記混合分散した後に平均分子量の小さな水溶性樹脂および水系可塑剤を添加してさらに混合分散する工程により製造する水系電極インクの製造方法。
【請求項11】
請求項8に記載の水系電極インクは、ニッケル粉末、平均分子量の大きな水溶性樹脂、および水を混合分散する工程と、前記混合分散した後に平均分子量の小さな水溶性樹脂、水系可塑剤、およびチタン酸バリウム粉末を添加してさらに混合分散する工程により製造する水系電極インクの製造方法。

【公開番号】特開2006−28320(P2006−28320A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−208149(P2004−208149)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】