説明

水素の貯蔵のためのナノ結晶化合物

【解決手段】本発明は、水素の可逆貯蔵に適合される材料の作製方法に関し、マグネシウムに基づく材料の第1粉末を供給するステップと、第1粉末の少なくとも一部を金属水素化物に転換するために第1粉末を水素化するステップと、水素化された第1粉末を、チタンとバナジウムとクロム又はマンガンから選択された少なくとも1つの他の金属とに基づく体心立方構造を有する合金から形成されている第2粉末添加物と混合するステップとを備え、得られた混合物の第2粉末の質量比が1質量%と20質量%との間にあり、更に、第1粉末及び第2粉末の混合物を粉砕するステップを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素の可逆的貯蔵に用いられる材料に関する。より具体的には、本発明は水素の結合貯蔵に用いられるマグネシウムに基づいた材料に関する。本発明は、更にこのような材料を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素(H2)は、多くの工業的分野で、特に(例えば、熱機関又は燃料電池の)燃料として或いは(例えば、水素化反応のための)反応物として用いられる。この状況では、水素の気体状態での体積及び爆発性により、体積が低く、安全な閉じ込めを保証する手法で水素が貯蔵されることが望ましい。
【0003】
ひとつの可能性として、水素を金属水素化物の形で貯蔵することがある。この場合、貯蔵されるべき水素は、原子状の水素の結晶格子への結合を引き起こす圧力条件及び温度条件下で金属又は金属合金に接して置かれる(吸着反応又はローディング反応)。このように貯蔵された水素を取り出すために、より低い圧力条件及び/又はより高い温度条件が、逆反応(脱着反応又はアンローディング反応)を促進するために適用される。一旦水素がロードされたならば、材料によってアンロードされ得る水素の最大量に相当する、質量比で表現される「可逆的貯蔵容量」が決定され得る。水素化物の形での水素の貯蔵に関する更なる詳細については、特に、エル.シュラバッハ(L.Schlapbach),スプリンガー−ベルラグ(Springer-Verlag)著,「金属間化合物内の水素 I及びII(Hydrogen in Intermetallic Compounds I and II)」,1988年を参照してもよい。
【0004】
多くの実験研究が、水素の貯蔵のための金属水素化物の能力を最適化するために現在続行されており、特に、貯蔵材料の工業利用と適合する高い可逆的貯蔵容量と吸脱着反応速度とを同時に有する貯蔵材料を得るために続行されている。
【0005】
例えば研究は、例えば、ジルコニウム金属ZrM2(ここで、金属M はバナジウム、クロム、マンガン等であってもよい)又はランタン・ニッケルLaNi5 の合金から誘導された化合物である従来の複数群の金属間化合物から生じており、吸着/脱着反応速度を減少させずに、可逆的貯蔵容量を増加させることを可能にする置換要素を含む合金の取得に関する。
【0006】
他の研究は、新たなマグネシウムに基づいたナノ結晶化合物に関する。ナノ結晶化合物は、1ナノメートルに近い特有の寸法のクリスタライトを有する材料である。純マグネシウムの可逆的貯蔵容量は、約7.6 %であり、現在公知である材料で得られる最高値に略相当する。しかしながら、純マグネシウムでは、条件に合う吸着及び脱着反応速度が300 ℃を越える温度でのみ得られるため、このような材料の利点を制限する。マグネシウムを1又は複数の添加物と組み合わせることによって、純マグネシウムの可逆的貯蔵容量に対して減少しないか又はわずかだけ減少する可逆的貯蔵容量を有するが、低温での水素の吸着及び脱着反応速度が改善されたナノ結晶化合物の取得が、達成され得る。一般に、マグネシウムは添加物によって「活性化される」と言われている。
【0007】
欧州特許出願公開第1024918号明細書は、マグネシウム(Mg)と、例えばバナジウム(V) 、チタン(Ti)又はニオブ(Nb)から選択された少数の他の要素とに本質的に基づいたナノ結晶化合物を述べている。バナジウムは、現在、吸着/脱着反応速度と可逆的貯蔵容量との最良の折衷案の内の1つを提供する添加物である。このような材料は、純マグネシウムに対して水素の吸着及び脱着反応速度が改善されている。しかしながら、等価であるか又は更により大きな可逆的貯蔵容量を有し、吸着脱着反応速度が改善された材料を得ることが望ましい。更に、バナジウムは比較的高価な材料である。
【特許文献1】欧州特許出願公開第1024918号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、マグネシウムに基づき、改善された吸着脱着反応速度と、公知のマグネシウムに基づいた水素貯蔵材料の可逆的貯蔵容量と少なくとも等価な可逆的貯蔵容量とを有する、水素の貯蔵のための化合物材料を得ることを目的とする。
【0009】
本発明は、更に、工業規模での製造方法と適合する、マグネシウムに基づいた水素貯蔵材料を製造する方法を得ることを目的とする。
【0010】
本発明の別の目的によれば、前記方法は、活性化されたマグネシウム化合物材料に関して同様に、簡易であり、従来通りに実施され得る。
【課題を解決するための手段】
【0011】
他の目的と同様にこれらの目的の全て又は一部を達成するために、本発明は、水素の可逆的貯蔵に適合される材料を作製する方法において、連続的に行われる、マグネシウムに基づいた材料の第1粉末を供給するステップと、第1粉末の少なくとも一部を金属水素化物に転換するために、第1粉末を水素化するステップと、水素化された第1粉末を、チタンとバナジウムとクロム及びマンガンから選択された少なくとも1つの他の金属とに基づく体心立方構造の合金(a1)から形成されている添加物の第2粉末と混合し、結果として生じる混合物の第2粉末の質量比が1質量%から20質量%までの範囲にあるようになすステップと、第1粉末及び第2粉末の混合物を粉砕するステップとを備えることを特徴とする方法を提供する。
【0012】
本発明は、更に、既に述べられた方法に応じて得られた、水素の可逆的貯蔵を意図した金属化合物材料において、マグネシウムに基づいた材料の第1粒子と、第1粒子の表面に少なくとも部分的に分配されて、チタンと、バナジウムと、クロム、マンガン及びこれらの合金から選択された少なくとも1つの金属とに基づいた少なくとも1つの相を含む第2粒子とを備えることを特徴とする材料を提供する。
【0013】
本発明の実施形態によれば、第2粒子の少なくともいくつかは、チタンと、バナジウムと、クロム、マンガン及びこれらの合金から選択された少なくとも1つの金属とに基づいた多相と、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン及びこれらの金属の合金から選択された第1金属、並びにニッケル、銅及びこれらの金属の合金から選択された第2金属に基づいた少なくとも1つの粒間相とを含む。
【0014】
本発明の前述及び他の目的、特徴及び利点が、添付図面を参照して本発明を限定するものではない特定の実施形態について以下に詳細に説明される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、水素貯蔵材料として、特定の添加物によって活性化された、マグネシウムに基づいた材料を用いることを目的とし、添加物の割合は、1質量%から20質量%までの範囲であり、例えば約5質量%である。貯蔵材料は、マグネシウムに基づいた材料の粉末と添加物の粉末とから得られる。貯蔵材料は、使用及び/又は操作をより容易にするためにキャリヤと混合されてもよい。一例として、キャリヤは、膨張黒鉛、炭素に基づいたナノ化合物又は金属発泡体に相当してもよい。
【0016】
マグネシウムに基づいた材料は、純マグネシウム、又は、例えばマグネシウムとニッケルとの合金(Mg2Ni) であるマグネシウムに基づいた合金であってもよい。
【0017】
本発明の第1実施形態によれば、添加物は、チタン(Ti)とバナジウム(V) とクロム(Cr)及び/又はマンガン(Mn)から優先的に選択された他の材料とに基づいた体心結晶構造の合金(a1)に相当する。合金(a1)は、単相タイプ(定義された金属間化合物タイプの合金)又は多相タイプであってもよい。言うまでもなく、合金(a1)は小さな割合で他の要素を含んでもよい。
【0018】
本発明の第1実施形態によれば、合金(a1)は以下の一般式を満たす。
TiaVbMcM'd
ここで、
M は、クロム、マンガン、又はクロムとマンガンとの合金を示し、
M'は、Ti、V 、Cr又はMn以外であり、例えば、鉄、コバルト、ニッケル又はこれらの金属の混合物から選択された金属又は金属の合金を示し、
a は、0.05乃至2.5 の範囲にある数であり、典型的には0.1 と2との間にあり、例えば0.2 と1.5 との間にあり、
b は、0.05乃至2.9 の範囲にある数であり、典型的には0.1 と2.2 との間にあり、
c は、0.05乃至2.9 の範囲にある数であり、典型的には0.5 と2.5 との間にあり、
d は、0であってもよく、0乃至0.5 の範囲にある数であり、この数は、好ましくは0.2 未満であり、例えば0.1 未満であり、
合計(a+b+c+d) は、3に等しい。
【0019】
より具体的には、以下の一般式を満たす合金(a1)を用いることが有利であってもよく、
TixVyCr3-(x+y)
ここで、
x は、0.1 乃至1の範囲にある数であり、典型的には0.2 以上であり、
y は、0.1 乃至2.5 の範囲にある数であり、
合計(x+y) は、典型的には1.5 を越えて、一般には2.9 未満である。
【0020】
以下の一般式を満たす合金は、添加物として用いられるために特によく適した合金(a1)の制限しない一例として述べられてもよい。
TiV0.8Cr1.2
Ti0.9V0.7Cr1.4
Ti0.833V0.826Cr1.334
Ti0.7V0.9Cr1.4
Ti0.66VCr1.33
Ti0.5V1.9Cr0.6
Ti0.5V2Cr0.5
Ti0.25V2.5Cr0.25
【0021】
図1は、本発明に係る水素貯蔵材料を作製する方法の一例のステップを概略的に示す。
【0022】
ステップ10では、マグネシウムに基づいた材料の粉末が形成される。マグネシウムに基づいた材料は、例えば、熱還元処理(ピジョン(PIDGEON ))又は塩化マグネシウムの電気分解によって生成されたマグネシウムである。材料は、更に再蒸留されてもよい。マグネシウム粉末は、粉砕されたマグネシウム・インゴットから得られてもよい。得られたマグネシウム粒子の平均直径は、10μm 乃至200 μm の範囲にあり、好ましくは10μm と100 μm との間にあり、例えば約40μm である。
【0023】
ステップ11では、マグネシウム粉末が水素化される。水素化ステップは、例えば、数十バール、例えば約30バール(30*105Pa)の圧力であり、数百度、例えば400 ℃を越える温度での水素雰囲気下で、数時間実行される。99重量%の水素化マグネシウムを含み、残りの量は金属マグネシウム及び酸化マグネシウムに相当する粉末が、ステップ11の終わりに得られる。方法はステップ14へと続き、以下に述べられるステップ12及びステップ13は、ステップ10及びステップ11から独立して実行される。
【0024】
ステップ12では、添加物粉末がマグネシウム粉末とは別々に形成される。
【0025】
本発明に係る添加物の第1実施例によれば、合金(a1)は、例えば約1300℃乃至1700℃の温度で、特に、チタン、バナジウム及びクロム及び/又はマンガンを含む混合物の融解によって作製されてもよい。融解は、特に合金が酸化することを回避するために、中性ガス雰囲気(例えば、アルゴン)下で、誘導電気炉又は高温で融解を可能にする他の炉で行なわれてもよい。
【0026】
本発明の第2実施形態によれば、添加物が、以下の金属混合物の共融解後に冷却することにより、又は以下の金属混合物の共粉砕によるメカノシンセシス(mechano-synthesis)ステップを行なうことにより得られ、金属混合物は、
第1合金(a1)に相当してもよい第1合金、又は該合金(a1)を前記合金の割合で形成する金属の混合物に相当してもよく、これらの金属は単一の(合金されていない)金属及び/又は金属合金として前記混合物内に存在する金属混合物(m1)と、
以下に示す第2合金又は混合物(m2)と
ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)及びこれらの金属の混合物から選択された38モル%から42モル%までの第1金属M1、及び
ニッケル(Ni)、銅(Cu)及びこれらの金属の合金又は混合物から選択された56モル%から60モル%までの第2金属M2を含む
- 合金(a2)、又は
- 前記合金(a2)を前記合金の割合で形成する金属の混合物であり、これらの金属は単一の(合金されていない)金属及び/又は金属合金として混合物内に存在する金属の混合物
であり、質量比(m2)/(m1+m2)が、共融解又はメカノシンセシス(mechano-synthesis)ステップで、0.1 質量%から20質量%までの範囲にある。質量比(m2)/(m1+m2)は、好ましくは0.5 質量%乃至20質量%の範囲にあり、好ましくは0.5 質量%と15質量%との間にあり、好ましくは1質量%と10質量%との間にある。
【0027】
特定の実施形態によれば、第2合金(a2)は以下の式を満たす。
M17-mM210-nM3p
ここで、
M1は、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)及びこれらの金属の混合物から選択された第1金属を示し、M1は好ましくはZrであり、
M2は、ニッケル(Ni)、銅(Cu)及びこれらの金属の混合物から選択された第2金属を示し、M2は好ましくはNiを示し、
M3は、合金に存在してもよく、M1及びM2とは異なる金属又は金属の混合物を示し、
m は、-0.1乃至+0.1の範囲にある正数、負数又はゼロであり、
n は、-0.1乃至+0.1の範囲にある正数、負数又はゼロであり、
p は、0乃至0.2 の範囲にある正数又はゼロである。
【0028】
優先的にやはり、第2合金(a2)は以下の式を満たす。
M17M210
ここで、M1及びM2は既に定義されている。
【0029】
第2合金(a2)は、例えば式Zr7Ni10 に相当する。
【0030】
その構成が何であれ、第2合金(a2)は、第1合金(a1)と同様に作製されてもよく、典型的には第2合金の構成要素の共融解によって、一般には1100℃と1500℃との間で、特には合金が酸化することを回避するために、例えば、有利にはアルゴンのような中性ガス雰囲気下の誘導によって作製されてもよい。第2合金は、共粉砕によるメカノシンセシス(mechano-synthesis)によって作製されてもよい。
【0031】
添加物を製造する方法の一例が、シーエヌアールエス(CNRS)の名のもとに出願された特許出願仏国特許出願公開第0601615号明細書に更に詳細に述べられている。
【0032】
第2実施形態に係る添加物は、非常に明確な二重性構造又は多相構造を有し、一般に微細であり均質であり、
典型的には10ミクロン乃至100 ミクロンの範囲にあり、特に20ミクロンと80ミクロンとの間であり、例えば40ミクロンと50ミクロンとの間の寸法を有する粒状に散在されたチタンと、バナジウムとクロム及び/又はマンガンとに基づいた多相、及び
ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン又はこれらの金属の混合物から選択された第1金属と、ニッケル、銅又はこれらの金属の混合物から選択された第2金属とに基づいた少なくとも1つの粒間相
を含む。
【0033】
相(a1)及び相(a2)から形成されたこの特定の多相化合物材料では、多相の粒は、1又は複数の相を含む粒間媒体内で散在する。このようにして、1又は複数の粒間相は、散在した粒間に壁を形成する。これらの壁は、一般に数ミクロン(典型的には1ミクロンと5ミクロンとの間)程度の平均的な厚みを有する。
【0034】
この多相材料では、多相(又は「粒内」相)が初めの合金(a1)の構成に比較的近い構成を一般に有する。1又は複数の粒間相は、ほとんどの場合第2合金(a2)を形成する材料に基づいている。しかしながら、共融解が合金間のいくつかの原子の拡散現象を引き起こす可能性があることは注目すべきであり、それによって、粒内相及び粒間相の構成が、第1合金(a1)及び第2合金(a2)の初めの構成に対して著しく異なってもよい。同様に、粒内相及び粒間相の結晶構造が最初の合金の結晶構造と異なってもよい。しかしながら、化合物材料の粒内多相は、最初の合金(a1)の体心結晶構造を系統的に維持する。方法はステップ13へと続く。
【0035】
ステップ13では、粉末が添加物から形成される。第1実施形態又は第2実施形態に係る添加物の粉末は、融解ステップで得られた金属材料の水素化によって得られてもよく、存在する合金の少なくとも一部の金属水素化物への転換を可能にして、直接粉末状の材料の分解という結果になる。添加物粉末の粒子は、例えば、約1μm から500 μm までの平均直径、例えば略40μm の平均直径を有する。変形例によれば、添加物粉末は、共融解ステップ後に得られる材料の粉砕により得られてもよい。ステップ12が共粉砕によるメカノシンセシス(mechano-synthesis)のステップに相当するとき、添加物は粉末状で直接得られる。その後、ステップ12及びステップ13は併合される。方法はステップ14へと続く。
【0036】
ステップ14では、水素化マグネシウム粉末、又はマグネシウムに基づいた水素化物相粉末が、添加物粉末と混合される。方法はステップ16へと続く。
【0037】
ステップ16では、水素化マグネシウム粉末の粒子、又はマグネシウムに基づいた水素化物相粉末の粒子が、添加物粉末と共に粉砕される。粉砕は、中性雰囲気又は還元性雰囲気下で、例えば、大気圧又は(0.2MPaまでの)わずかにより高い圧力での水素化されたアルゴン雰囲気下で実行される。粉砕は、ブレードの有無にかかわらずボールミルシステムによって、室温又はわずかにより高い温度で行なわれてもよい。一例として、粉砕は、メカノシンセシス(mechano-synthesis)に通常用いられる強力な粉砕機で4時間行なわれる。粉砕機は冷却される。
【0038】
ステップ16で得られた材料に基づいた水素ローディング操作を行なうために、ステップ16で得られた粉末材料の完全脱水素の事前のステップを備えることが必要である。このようなステップは、ステップ11でのマグネシウム粒子(及び場合によってはステップ14での添加物粒子)に貯蔵された水素の脱着を可能にする。その後、最後に得られた材料は、水素の貯蔵に用いられ得る。
【0039】
図2は、最後の脱水素ステップを含む既に述べられた作製方法の終わりに得られた貯蔵材料の構造を非常に概略的に示す。例えば、1マイクロメータ乃至20マイクロメータの範囲にあり、好ましくは1マイクロメータと10マイクロメータとの間の平均直径を有するマグネシウム又はマグネシウムに基づいた粒子20の存在が、観察され得る。添加物粒子22が各マグネシウム粒子20の周りに分配されている。添加物粒子22は、例えば20ナノメートル乃至1μm の範囲にある平均直径を有する。最終生成物のマグネシウム粒子の平均直径は、ステップ10で形成されたマグネシウム粉末の粒子の平均直径より小さい。これは、本発明が、マグネシウム粉末を添加物粉末と混合する(ステップ14)前に、マグネシウム粉末の水素化ステップ(ステップ11)を備えるという事実による。水素化マグネシウムは純マグネシウムより更にもろい材料であり、粉砕ステップ16が、水素化マグネシウム粒子の分解を引き起こす。粉砕ステップ16は、更に、ステップ13で形成された添加物粉末の粒子の平均直径に対して添加物粒子の平均直径の減少を引き起こす。
【0040】
図3は、貯蔵材料ローディング操作での本発明に係る貯蔵材料に貯蔵された(質量比での)水素の量の変動の曲線30を示す。貯蔵材料は、本発明の第2実施形態に係るマグネシウムに基づいた材料及び添加物から形成された金属化合物に相当し、添加物の質量比は10質量%である。添加物は、合金(a1)Ti0.25V2.5Cr0.25及び合金(a2)Zr7Ni10 から形成され、質量比(m2)/(m1+m2)は4%である。貯蔵材料の作製では、ステップ11のマグネシウム粉末の水素化が、30*105Pa(30バール)の圧力及び440 ℃の温度での水素雰囲気下で12時間実行されている。比較として、曲線32が、質量比が10質量%であるバナジウムのみによって活性化されたマグネシウムに基づいた参照貯蔵材料に含まれた水素量の変動を示す。240 ℃の温度で10*105Pa(10バール)の水素圧力下で行なわれたローディング操作では、水素の質量貯蔵容量が、20分後、本発明に係る貯蔵材料については略5.2 %であり、比較材料については略4.5 %である。このようにして本発明は、例えばバナジウムによって活性化されたマグネシウムに基づいた従来の貯蔵材料に関して得られた可逆的貯蔵容量と等価であるか、又は更により大きい可逆的貯蔵容量を有する貯蔵材料を提供する。本発明に応じて作製された材料のローディング反応速度は、従来のバナジウムで活性化された貯蔵材料より大きい。
【0041】
図4は、アンローディング操作の間に図3と関連して既に述べられた本発明に係る貯蔵材料に含まれた水素量の変動の曲線40を示す。比較として、曲線42は、図3と関連して既に述べられたバナジウムによって活性化されたマグネシウムに基づいた貯蔵材料に含まれた水素量の変動を示す。アンローディング操作は、260 ℃の温度で15-kPaの水素圧力下で行われている。本発明に係る貯蔵材料に含まれた水素の脱着速度は、バナジウムによって活性化された従来のマグネシウムに基づいた貯蔵材料に関して得られた脱着速度より大きい。
【0042】
本発明は、バナジウムによって活性化された従来のマグネシウムに基づいた貯蔵材料に対してローディング及びアンローディング反応速度が改善された貯蔵材料を提供する。更に、本発明は、添加物によって活性化された従来のマグネシウムに基づいた貯蔵材料の可逆的貯蔵容量と等価であるか、又は更により大きい可逆的貯蔵容量を提供する。更に本発明は、貯蔵材料のコストを減少させることを可能にする。実際、バナジウムは比較的高価な材料である。更に、本発明に係る貯蔵材料を作製する方法は、材料を処理する方法の公知のステップである金属融解ステップ、粉砕ステップ及び水素化ステップを実行する。本発明に係る作製方法は、このようにして容易に工業規模で実行され得る。最後に、アンローディング操作では高純度水素が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係るマグネシウムに基づいた水素貯蔵材料を作製する方法の一例のステップを示すフローチャートである。
【図2】本発明に係る水素貯蔵材料の一例の構造を概略的に示す図である。
【図3】本発明に係る水素貯蔵材料及び従来の水素貯蔵材料の一例のローディングの曲線を示すグラフ図である。
【図4】本発明に係る水素貯蔵材料及び従来の水素貯蔵材料の一例のアンローディングの曲線を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素の可逆的貯蔵に適合される材料を作製する方法において、
連続的に行われる、
(a) マグネシウムに基づいた材料の第1粉末を供給するステップ
(b) 第1粉末の少なくとも一部を金属水素化物に転換するために、第1粉末を水素化するステップ
(c) 水素化された第1粉末を、チタンとバナジウムとクロム及びマンガンから選択された少なくとも1つの他の金属とに基づく体心立方構造の合金(a1)から形成されている添加物の第2粉末と混合し、結果として生じる混合物の第2粉末の質量比が1質量%から20質量%までの範囲にあるようになすステップ、及び
(d) 第1粉末及び第2粉末の混合物を粉砕するステップ
を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記添加物は、金属混合物の共融解後の冷却又は共粉砕によるメカノシンセシス(mechano-synthesis)により得られ、前記金属混合物は、
- チタン(Ti)と、バナジウム(V) と、クロム(Cr)、マンガン(Mn)及びこれらの金属の合金から選択された他の金属M とに基づいた体心結晶構造の金属合金又は混合物(a1)、又は
- 前記合金(a1)の割合で前記合金(a1)を形成する金属の混合物であり、これらの金属は、単一の金属及び/又は金属合金として前記混合物内に存在する金属の混合物
である金属混合物(m1)と、
ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)及びこれらの金属の混合物から選択された38モル%から42モル%までの第1金属M1、及び
ニッケル(Ni)、銅(Cu)及びこれらの金属の合金から選択された56モル%から60モル%までの金属M2を含む
- 合金(a2)、又は
- 前記合金(a2)の割合で前記合金(a2)を形成する金属の混合物であり、これらの金属は、単一の金属及び/又は金属合金として前記混合物内に存在する金属の混合物
である混合物(m2)と
であり、質量比(m2)/(m1+m2)が、共融解ステップで、0.1 質量%から20質量%までの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1合金(a1)は以下の一般式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の方法。
TiaVbMcM'd
ここで、
M は、クロム、マンガン、又はクロムとマンガンとの合金を示し、
M'は、Ti、V 、Cr又はMn以外であり、例えば、鉄、コバルト、ニッケル及びこれらの金属の混合物から選択された金属又は金属の合金を示し、
a は、0.05乃至2.5 の範囲にある数であり、
b は、0.05乃至2.9 の範囲にある数であり、
c は、0.05乃至2.9 の範囲にある数であり、
d は、0であってもよく、0乃至0.5 の範囲にある数であり、
合計(a+b+c+d) は、3に等しい
【請求項4】
前記第2合金(a2)は以下の式を満たすことを特徴とする請求項2に記載の方法。
M17-mM210-nM3p
ここで、
M1は、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)及びこれらの金属の混合物から選択された第1金属を示し、
M2は、ニッケル(Ni)、銅(Cu)及びこれらの金属の混合物から選択された第2金属を示し、
M3は、前記合金に存在してもよく、M1及びM2とは異なる金属又は金属の混合物を示し、
m は、-0.1乃至+0.1の範囲にある正数、負数又はゼロであり、
n は、-0.1乃至+0.1の範囲にある正数、負数又はゼロであり、
p は、0乃至0.2 の範囲にある正数又はゼロである
【請求項5】
前記第2合金(a2)は以下の式に相当することを特徴とする請求項2に記載の方法。
Zr7Ni10
【請求項6】
前記質量比(m2)/(m1+m2)は、0.5 質量%乃至20質量%の範囲にあり、好ましくは1質量%と10質量%との間にあることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(a) では、前記第1粉末の粒子が10μm 乃至200 μm の範囲の平均直径を有し、前記第1粉末の粒子が、ステップ(d) の終わりでは、1μm 乃至20μm の範囲の平均直径を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかの方法によって得られた、水素の可逆的貯蔵を意図した金属化合物材料において、
マグネシウムに基づいた材料の第1粒子(20)と、
該第1粒子の表面に少なくとも部分的に分配されて、チタンと、バナジウムと、クロム、マンガン及びこれらの合金から選択された少なくとも1つの金属とに基づいた少なくとも1つの相を含む第2粒子(22)と
を備えることを特徴とする材料。
【請求項9】
前記第2粒子(22)の少なくともいくつかは、
チタンと、バナジウムと、クロム、マンガン及びこれらの合金から選択された少なくとも1つの金属とに基づいた多相と、
ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン及びこれらの金属の合金から選択された第1金属、並びにニッケル、銅及びこれらの金属の合金から選択された第2金属に基づいた少なくとも1つの粒間相と、
を含むことを特徴とする請求項8に記載の材料。
【請求項10】
前記第1粒子(20)の平均直径が1μm 乃至20μm の範囲にあり、前記第2粒子の平均直径が20nm乃至1μm の範囲にあることを特徴とする請求項8に記載の材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−534542(P2009−534542A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−507132(P2009−507132)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【国際出願番号】PCT/FR2007/051171
【国際公開番号】WO2007/125253
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(500531141)セントレ・ナショナル・デ・ラ・レシェルシェ・サイエンティフィーク (84)
【出願人】(309011354)エム.セー.ピー. テクノロジーズ (1)
【Fターム(参考)】