説明

水素センサ

【課題】高速応答性及び検出精度をそれぞれ向上させることができる水素センサを提供することを目的としている。
【解決手段】水素に反応して性質が変化する特性を有する検出部2を備え、検出部2の性質変化を基に空気中の水素濃度を検出する水素センサ1であって、検出部2が、少なくとも一部が屈曲又は湾曲した線状部材22により構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中の水素を検出する水素センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、前記水素センサとして、特許文献1に開示されているように、ガラス基板上にマグネシウム・パラジウム合金層が形成され、そのマグネシウム・パラジウム合金層の上にパラジウムや白金等からなる第一層が形成された構成からなる検出部を有する水素センサが提案されている。この水素センサは、上記した検出部が水素ガスに接触したときにその接触部分の温度が上昇するという特性を利用したものであり、上記温度上昇を電気抵抗の変化として出力して水素を検出する。上記した水素センサによれば、常温作動が可能となる。
【特許文献1】特開2007−71547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記した従来の水素センサでは、高速応答性が不十分であり、検出精度も低いという問題が存在する。
【0004】
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、高速応答性及び検出精度をそれぞれ向上させることができる水素センサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る水素センサは、水素に反応して性質が変化する特性を有する検出部を備え、該検出部の性質変化を基に空気中の水素濃度を検出する水素センサであって、前記検出部が、少なくとも一部が屈曲又は湾曲した線状部材により構成されていることを特徴としている。
【0006】
このような特徴により、水素を含む空気が検出部の表面に接触すると、空気中の水素に反応して検出部が性質変化を起こす。例えば、水素に反応して検出部の電気抵抗や光透過率が変化したり検出部が変形したりする。この検出部の性質変化を例えば電気信号等に変換して出力することで空気中の水素が検出される。このとき、上記した検出部は、少なくとも一部が屈曲又は湾曲した線状部材からなるため、水素を含む空気に接触する表面積が大きくなり、水素との反応確率が高くなる。
【0007】
また、本発明に係る水素センサは、前記検出部が、ミアンダ形状の線状部材からなることが好ましい。
また、本発明に係る水素センサは、前記検出部が、螺旋状の線状部材からなる構成であってもよい。
さらに、本発明に係る水素センサは、前記検出部が、複数の線状部材によりメッシュ状に形成された構成にすることも可能である。
上記した構成により、水素を含む空気に接触する検出部の表面積が極めて大きくなり、水素との反応確率が一層高くなる。
【0008】
また、本発明に係る水素センサは、前記検出部が、水素に反応して発熱する第一層と、該第一層の熱的影響を受けて変形する第二層と、を積層した構成からなることが好ましい。
これにより、水素を含む空気が検出部の表面に接触すると、第一層が水素に反応して発熱し、その熱で第二層が変形する。このように検出部が変形すると電気抵抗が変化するので、電気抵抗値を計測することにより、空気中の水素が検出される。また、検出部の変化を光学等で直接計測してそれを出力することで、空気中の水素を検出することも可能である。
【0009】
また、本発明に係る水素センサは、前記検出部の少なくとも一方の端部が台座に支持され、前記検出部の少なくとも中間部が固体に接触しない状態で配置されていることが好ましい。
これにより、検出部の中間部では、検出部の全周に亘って空気に接触するので、水素との反応確率がより一層高くなる。
【0010】
また、本発明に係る水素センサは、前記検出部が、白金層を備えることが好ましい。
これにより、水素を含む空気が検出部の白金層に接すると、水素に反応して白金層の特性が変化する。
【0011】
また、本発明に係る水素センサは、前記検出部が、パラジウム層及びマグネシウム・パラジウム合金層のうちの少なくとも一方を備える構成であってもよい。
これにより、常温状態でも、水素を含む空気がパラジウム層やマグネシウム・パラジウム合金層に接すると、水素に反応して上記パラジウム層やマグネシウム・パラジウム合金層の特性が変化する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る水素センサによれば、水素を含む空気に接触する表面積が大きくなり、水素との反応確率が高くなるため、応答性を高速化することができるとともに、検出精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る水素センサの第1〜第3の実施の形態について、図面に基いて説明する。
【0014】
[第1の実施の形態]
図1は第1の実施の形態における水素センサ1を表した斜視図であり、図2は前記水素センサ1を模式的に表した断面図である。
【0015】
本実施の形態における水素センサ1は、図1、図2に示すように、検出部2の電気抵抗の変化を基に空気中に含まれる水素濃度を検出するセンサであり、検出部2と台座3と出力端子4,4とを備えている。
【0016】
台座3は、検出部2を支持するための部材であり、例えばガラス等からなる。台座3は、平面視矩形状の枠状部材であり、矩形の開口3aがあけられた形状を成している。具体的に説明すると、台座3は、互いに間隔をあけて平行に配設された一対の台座本体部30,30と、一対の台座本体部30,30間に架設され互いに間隔をあけて平行に配設された一対の横架部31,31と、を備えている。台座本体部30は、平板状の横架部31よりも厚く、断面形状台形を成している。これら一対の台座本体部30,30と一対の横架部31,31とによって囲まれて上記した開口3aが形成されている。
【0017】
検出部2は、水素に反応して電気抵抗が変化する特性を有するものであり、第二層21の上に第一層20が積層された積層構造になっている。第一層20は、水素に反応して発熱するものであり、例えばパラジウム(Pd)からなる薄膜層である。一方、第二層21は、第一層20の熱的影響を受けて変形するものであり、例えばマグネシウム・パラジウム合金(Mg-Pd)からなる薄膜層である。また、上記した第一層20と第二層21とは、それぞれ水素を吸蔵して膨張するものであり、その膨張率は互いに異なる。
【0018】
また、検出部2は、複数箇所で屈曲された非直線形状を成す1本の線状部材22からなる。具体的に説明すると、検出部2は、平面視ミアンダ形状、つまり矩形状に繰り返し屈曲させたジクザグ状の線状部材22からなる。この検出部2は、上記した台座3の開口3a内に配設されており、その両端がそれぞれ台座3に支持されている。すなわち、検出部2は、上記した一対の台座本体部30,30間に架設されており、検出部2の中間部が他の固体に接触しない状態、つまり宙に浮いた状態で配置されている。
【0019】
出力端子4,4は、上記した一対の台座本体部30,30上にそれぞれ形成された導電性を有する金属薄膜層であり、検出部2の両端にそれぞれ電気的に接続されている。これらの出力端子4,4は、電気抵抗を計測する図示せぬ計測器に電気的に接続される。
【0020】
次に、上記した構成からなる水素センサ1の作用について説明する。
水素を含む空気が検出部2の表面に接触すると、空気中の水素に反応して検出部2が性質変化を起こす。具体的に説明すると、第一層20が、水素に反応して発熱するとともに水素を吸蔵して膨張する。そして、第二層21が、水素吸蔵により膨張するとともに第一層20の熱により変形する。このとき、第一層20と第二層21の膨張率が異なるため、バイメタル効果により検出部2が変形し、検出部2の電気抵抗値が上昇する。この電気抵抗値の変化は上記した図示せぬ計測器で計測され、電気信号に変換されて出力される。これにより、空気中の水素濃度が検出される。
【0021】
このとき、検出部2が、複数箇所で屈曲されたミアンダ形状の線状部材22からなるため、出力端子4,4間を直線的に結んだ検出部(以下、直線的な検出部と記す。)と比べて、水素を含む空気に接触する表面積が大きくなる。したがって、水素との反応確率が高くなる。
また、ミアンダ形状の線状部材22からなる検出部2では、線状部材22の全長、つまり電流経路が長くなるため、直線的な検出部と比べて電気抵抗が大きくなる。したがって、検出部2に水素が接触したときの電気抵抗値の変化量も大きくなる。
さらに、上記した水素センサ1では、検出部2の中間部が、検出部2の全周に亘って空気に接触するので、水素との反応確率がより一層高くなる。
【0022】
上記した構成の水素センサ1によれば、検出部2における水素を含む空気に接触する表面積が大きい分、水素との反応確率が高くなるため、応答性を高速化することができるとともに、検出精度を向上させることができる。
【0023】
特に、ミアンダ形状の線状部材22からなる検出部2では、水素との反応確率が極めて高くなるため、応答高速性及び検出精度をさらに向上させることができる。
特に、電気抵抗の変化で水素を検出する水素センサ1においては、ミアンダ形状の線状部材22の全長が長い分だけ、電気抵抗の変化量が大きくなるため、水素検出の感度を向上させることができる。
【0024】
また、検出部2が第一層20と第二層21との積層構造になっており、バイメタル効果により水素が検出されるので、検出精度をより一層向上させることができる。
また、上記した構成の水素センサ1によれば、パラジウムからなる第一層20とマグネシウム・パラジウム合金からなる第二層21とからなる検出部2によって水素を検出しているため、常温で作動させることができる。
【0025】
[第2の実施の形態]
図3は第2の実施の形態における水素センサ101を表した斜視図である。なお、上述した第1の実施の形態と同様の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0026】
本実施の形態における水素センサ101は、螺旋状に湾曲された線状部材122からなる検出部102が備えられている。詳しく説明すると、線状部材122は、螺旋状に巻かれた三次元的形状を成し、台座3の開口3a内に配置され、一対の台座本体部30,30間に架設されている。すなわち、線状部材122の両端は、台座本体部30,30にそれぞれ支持され、線状部材122の中間部は、他の固体に接触しない状態で配置されている。また、線状部材122の両端は、台座本体部30,30上の出力端子4,4にそれぞれ接続されている。
【0027】
このような構成からなる水素センサ101では、水素を含む空気が検出部102の表面に接触すると、バイメタル効果により検出部102が変形して検出部102の電気抵抗値が上昇する。この電気抵抗値の変化を図示せぬ計測器で計測することにより、空気中の水素濃度が検出される。このとき、検出部102が、螺旋形状の線状部材122からなるため、直線的な検出部と比べて、水素を含む空気に接触する表面積が大きなって、水素との反応確率が高くなる。
また、螺旋形状の線状部材122からなる検出部102では、線状部材122の全長が長くなるため、直線的な検出部と比べて電気抵抗が大きくなり、検出部102に水素が接触したときの電気抵抗値の変化量も大きくなる。
【0028】
上記した構成の水素センサ101によれば、検出部102が螺旋形状の線状部材122からなり、水素との反応確率が極めて高くなるため、応答高速性及び検出精度を向上させることができる。
特に、電気抵抗の変化で水素を検出する水素センサ101においては、螺旋形状の線状部材122の全長が長い分だけ、電気抵抗の変化量が大きくなるため、水素検出の感度を向上させることができる。
【0029】
[第3の実施の形態]
図4は第3の実施の形態における水素センサ201を表した斜視図である。なお、上述した第1、第2の実施の形態と同様の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0030】
本実施の形態における水素センサ201は、複数の線状部材222によってメッシュ状に形成された検出部202が備えられている。詳しく説明すると、検出部202は、複数の稲妻形状の線状部材222が互い違いに並べられて平面視菱形の孔が複数形成された形状になっている。なお、メッシュ状の検出部202は、複数の線状部材を交差させて配置させることで形成することも可能である。
【0031】
このような構成からなる水素センサ201では、水素を含む空気が検出部202の表面に接触すると、バイメタル効果により検出部202が変形して検出部202の電気抵抗値が上昇する。この電気抵抗値の変化を図示せぬ計測器で計測することにより、空気中の水素濃度が検出される。このとき、検出部202が、メッシュ状に形成されているため、水素を含む空気に接触する表面積が大きなって、水素との反応確率が高くなる。
また、複数の線状部材222からなるメッシュ状の検出部202では、電流が流れる経路の全長が長くなるため、直線的な検出部と比べて電気抵抗が大きくなり、検出部202に水素が接触したときの電気抵抗値の変化量も大きくなる。
【0032】
上記した構成の水素センサ201によれば、検出部202がメッシュ状に形成されており、水素との反応確率が極めて高くなるため、応答高速性及び検出精度を向上させることができる。
特に、電気抵抗の変化で水素を検出する水素センサ201においては、メッシュ状の検出部202の電流経路が長くなり、電気抵抗の変化量が大きくなるため、水素検出の感度を向上させることができる。
【0033】
以上、本発明に係る水素センサの実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
具体的には、上記した実施の形態では、検出部2,102,202の電気抵抗を計測し、その電気抵抗値の変化を基に水素を検出しているが、本発明は、他の方法により水素を検出することも可能である。例えば、水素によって変形する検出部2,102,202の変位量を光学系の変位センサ等を用いて測定し、その変位量を基に水素を検出することも可能である。また、水素に反応して、光或いは特定の光線の透過率が変化する検出部を形成し、この検出部の透過光や反射光により検出部の透過率を計測し、その検出部の透過率の変化を基に水素を検出することも可能である。
【0034】
また、上記した実施の形態では、検出部2,102,202が、マグネシウム・パラジウム合金からなる第二層21の上にパラジウムからなる第一層20が積層された構成からなっているが、本発明は、上記した第一層20がマグネシウム・パラジウム合金からなり、第二層21がパラジウムからなる構成にすることも可能であり、或いは、上記した第一層20や第二層21を白金で形成することも可能であり、或いは、第一層20及び第二層21のうちの少なくとも一方を、水素に反応するパラジウムやマグネシウム・パラジウム合金、白金等で形成し、他方を水素に反応しないガラス等の他の材料で形成することも可能である。また、本発明の検出部は、上記したような2層構造のものに限定されず、マグネシウム・パラジウム合金、パラジウム、白金、若しくはガラス等の他の材料によって3層以上に積層させた構成であってもよい。さらに、マグネシウム・パラジウム合金やパラジウム、白金等の水素に反応する材料だけからなる単層構造の検出部であってもよい。
【0035】
また、上記した第1、第2の実施の形態では、検出部2が1本の線状部材22,122から構成されているが、本発明は、複数のミアンダ形状や螺旋形状の線状部材22,122からなる検出部が備えられた構成にすることも可能であり、例えば、螺旋形状の線状部材122が並列に複数配列された構成にすることも可能である。
【0036】
また、上記した実施の形態では、ミアンダ形状の線状部材22からなる検出部2や、螺旋形状の線状部材122からなる検出部102、複数の線状部材222によりメッシュ状に形成された検出部202が備えられているが、本発明の検出部は、上記した形状のものに限定されず、適宜変更可能である。例えば、本発明は、図5に示すような渦巻き形状の線状部材322からなる検出部302を備えた水素センサ301であってもよい。また、本発明は、波形状の線状部材からなる検出部を備えた水素センサであってもよい。
【0037】
また、上記した実施の形態では、検出部2,102,202の両端が台座本体部30,30に支持され、検出部2,102,202の中間部が固体に接触せず宙に浮いた状態で配置されているが、本発明は、検出部の一端が台座に支持され他端が張り出された片持ち状態にすることも可能である。また、本発明は、検出部の中間部が固体に接触した構成にすることも可能である。例えば、ガラス基板上にパラジウム等をミアンダ形状等にパターン印刷して検出部を形成することも可能である。
【0038】
その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1の実施の形態を説明するための水素センサの斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態を説明するための水素センサの模式断面図である。
【図3】本発明の第2の実施の形態を説明するための水素センサの斜視図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態を説明するための水素センサの斜視図である。
【図5】本発明の他の実施の形態を説明するための水素センサの斜視図である。
【符号の説明】
【0040】
1、101、201、301…水素センサ
2、102、202、302…検出部
3…台座
20…第一層
21…第二層
22、122、222、322…線状部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素に反応して性質が変化する特性を有する検出部を備え、該検出部の性質変化を基に空気中の水素濃度を検出する水素センサであって、
前記検出部が、少なくとも一部が屈曲又は湾曲した線状部材により構成されていることを特徴とする水素センサ。
【請求項2】
請求項1記載の水素センサにおいて、
前記検出部が、ミアンダ形状の線状部材からなることを特徴とする水素センサ。
【請求項3】
請求項1記載の水素センサにおいて、
前記検出部が、螺旋状の線状部材からなることを特徴とする水素センサ。
【請求項4】
請求項1記載の水素センサにおいて、
前記検出部が、複数の線状部材によってメッシュ状に形成されていることを特徴とする水素センサ。
【請求項5】
請求項1から4の何れか一項に記載の水素センサにおいて、
前記検出部が、水素に反応して発熱する第一層と、該第一層の熱的影響を受けて変形する第二層と、を積層した構成からなることを特徴とする水素センサ。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項に記載の水素センサにおいて、
前記検出部の少なくとも一方の端部が台座に支持され、前記検出部の少なくとも中間部が固体に接触しない状態で配置されていることを特徴とする水素センサ。
【請求項7】
請求項1から6の何れか一項に記載の水素センサにおいて、
前記検出部が、白金層を備えることを特徴とする水素センサ。
【請求項8】
請求項1から7の何れか一項に記載の水素センサにおいて、
前記検出部が、パラジウム層及びマグネシウム・パラジウム合金層のうちの少なくとも一方を備えることを特徴とする水素センサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−25229(P2009−25229A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−190678(P2007−190678)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】