説明

水素充填システム、水素充填方法、移動体、および水素充填装置

【課題】水素充填時に水素タンク内の温度上昇を抑制する動作の信頼性を高める。
【解決手段】水素タンクに対して水素充填装置から水素ガスを補充する水素充填システムであって、水素充填装置側と水素タンクとを連通させて、水素タンクに対して水素ガスを供給する水素ガス充填路と、水素タンクと水素充填装置側とを連通させて、水素タンク内の水素ガスを水素充填装置側へと導く水素ガス戻し流路と、水素ガス戻し流路に設けられた開閉弁と、水素充填装置から水素タンクへの水素充填を行なう際に、水素タンク内が予め設定した高温状態に該当する場合には、水素ガス充填路を介した水素ガスの供給を継続する状態で、開閉弁を閉弁状態から開弁状態へと切り替えさせる戻り状態切り替え制御部と、を備える水素充填システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素充填システム、水素充填方法、移動体、および水素充填装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、環境負荷の低減のため、駆動用エネルギを発生するための燃料として水素を用いる車両、例えば、燃料電池を駆動用電源として搭載する電気自動車や、水素エンジンを駆動動力源として搭載する車両が、種々提案されている。このように、車両の駆動用燃料として水素を用いる場合には、水素を貯蔵する水素タンク、例えば、水素を高圧ガスの状態で貯蔵する高圧水素タンクを車両に搭載し、搭載した水素タンクに対して水素の補給を行なう必要がある。
【0003】
上記のような高圧水素タンクに対して水素ガスを充填する際には、いわゆる断熱圧縮の状態となり、水素タンク内の温度は上昇する。しかしながら、高圧水素タンクの温度については、例えば法規制が問題となる場合があり、温度上昇を抑えつつ水素充填を行なうことが望まれている。水素タンク内の温度上昇を抑えつつ水素を充填する方法の一つとして、従来、燃料電池車の水素タンクに水素を充填するための水素ステーションにおいて、燃料電池車への水素ガスの供給に先立って水素ステーション内において水素ガスを冷却する(予冷却する)構成が提案されている(例えば、特開2008−202619号公報など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−202619号公報
【特許文献2】特開2002−089793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、供給する水素を予冷却する場合であっても、水素タンク内に水素ガスを充填する際には、いわゆる断熱圧縮による水素タンク内の温度上昇は避けられず、より充分に水素タンク内の温度上昇を抑えて、水素充填の動作における温度上昇抑制の信頼性を高めることが望まれていた。また、水素タンクに水素ガスを充填するための水素ガス供給装置に係る構成の簡素化、低コスト化のため、水素ガスを予冷却するための冷却装置を小型化、あるいは削減したいという要請もある。
【0006】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、水素充填時に水素タンク内の温度上昇を抑制する動作の信頼性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実施することが可能である。
【0008】
[適用例1]
水素タンクに対して水素充填装置から水素ガスを補充する水素充填システムであって、
前記水素充填装置側と前記水素タンクとを連通させて、前記水素タンクに対して水素ガスを供給する水素ガス充填路と、
前記水素タンクと前記水素充填装置側とを連通させて、前記水素タンク内の水素ガスを前記水素充填装置側へと導く水素ガス戻し流路と、
前記水素ガス戻し流路に設けられた開閉弁であって、開弁することによって前記水素タンク内の水素ガスの前記水素充填装置側への流入を許容すると共に、閉弁することによって前記水素タンクから前記水素充填装置側への水素の流入を抑制する開閉弁と、
前記水素充填装置から前記水素タンクへの水素充填を行なう際に、前記水素タンク内が予め設定した高温状態に該当する場合には、前記水素ガス充填路を介した水素ガスの供給を継続する状態で、前記開閉弁を閉弁状態から開弁状態へと切り替えさせる戻り状態切り替え制御部と
を備える水素充填システム。
【0009】
適用例1に記載の水素充填システムによれば、水素充填装置から水素タンクへと水素充填を行なう際に、水素タンク内が予め設定した高温状態に該当すると判断される場合には、水素タンクへの水素ガスの供給を継続する状態で、水素ガス戻し流路の開閉弁が開弁状態に切り替えられる。このように、水素タンク内で昇温した水素ガスを水素充填装置側に回収しつつ、水素タンクに対して水素ガスの供給を継続することにより、水素タンク内の温度上昇を抑制することができる。これにより、水素充填時に水素タンク内の温度が望ましくない程度に上昇してしまうことを抑制する動作の信頼性を高めることができる。
【0010】
[適用例2]
適用例1記載の水素充填システムであって、さらに、前記水素タンク内の温度を検出する温度センサを備え、前記戻り状態切り替え制御部は、前記温度センサが検出した前記水素タンク内の温度が、予め定めた水素戻し基準温度を超える場合に、前記高温状態に該当すると判断する水素充填システム。適用例2に記載の水素充填システムによれば、検出した水素タンク内の温度に基づいて、水素ガス戻し流路に設けた開閉弁を開弁するため、水素タンク内の温度が望ましくない程度に上昇するのを抑制する動作の精度を向上させることができる。
【0011】
[適用例3]
適用例2記載の水素充填システムであって、前記戻り状態切り替え制御部が前記開閉弁を開弁させたときに、前記水素戻し流路を介して前記水素タンクから前記水素充填装置側へと流れる水素ガス流量は、前記水素ガス充填路を介して前記水素充填装置側から前記水素タンクへと供給される水素ガス流量と等しく、前記戻り状態切り替え制御部は、前記開閉弁を開弁させた後に、前記水素タンク内の温度が、前記水素戻し基準温度よりも低温である戻し停止基準温度以下となった場合に、前記開閉弁を閉弁させる水素充填システム。適用例3に記載の水素充填システムによれば、水素タンクから水素充填装置側に流れる水素ガス流量が、水素充填装置側から水素タンクへと供給される水素ガス流量に等しいため、水素タンク内の水素圧が、開閉弁を開弁したときの水素圧に維持される。したがって、水素タンク内の温度が戻し停止基準温度以下となった場合には、開閉弁を開弁したときの水素圧の状態から、水素タンク内の水素充填量を増加させる動作を行なえばよい。したがって、水素タンク内の温度を低下させた効果が損なわれることなく、更なる水素充填を行なうことができる。
【0012】
[適用例4]
適用例3記載の水素充填システムであって、前記水素充填装置は、前記水素ガスを、前記水素タンクの満充填時よりも高圧で貯蔵する高圧貯蔵部を備え、前記水素ガス充填路は、前記水素タンクに接続する下流側の圧力が一定となる状態で、水素ガスの供給を許容するレギュレータと、前記水素ガス充填路を流れる水素ガスを、前記レギュレータを迂回するように導く分岐路と、水素ガスが流れる経路を、前記レギュレータを経由する経路と、前記分岐路を経由する経路と、で切り替える切替弁と、を備え、前記水素充填システムは、さらに、前記開閉弁が閉弁しているときには、水素ガスが前記分岐路を経由し、前記開閉弁が開弁しているときには、水素ガスが前記レギュレータを経由するように、前記切替弁を駆動する供給流路切り替え制御部を備える水素充填システム。適用例4に記載の水素充填システムによれば、開閉弁を開弁するときには、レギュレータを経由するように水素ガスを導くことにより、水素タンクから水素充填装置側に流れる水素ガス流量と、水素充填装置側から水素タンクへと供給される水素ガス流量とを等しくすることができる。
【0013】
[適用例5]
適用例2記載の水素充填システムであって、さらに、前記水素タンクにおける充填量を反映する値を検出する充填量検出部を備え、前記戻り状態切り替え制御部は、前記充填量検出部が検出した前記水素タンクにおける充填量を反映する値が、満充填よりも少ない充填量に対応する基準値に達したときに、前記温度センサが検出した前記水素タンク内の温度が、前記基準値に応じて定めた前記水素戻し基準温度を超える場合に、前記開閉弁を開弁させる水素充填システム。適用例5に記載の水素充填システムによれば、水素タンクの充填量に応じて設定した水素戻し基準温度に基づいて開閉弁を開弁するため、水素タンクの充填量に応じて、水素タンクの温度上昇を抑えるために必要と判断される場合にだけ、水素タンクから水素供給装置側へと水素ガスを戻す動作が行なわれることになる。そのため、水素タンクから水素供給装置側へと水素ガスを戻す動作が過剰に行なわれることを抑制し、水素タンクへの水素充填の動作の効率低下を抑制することができる。
【0014】
[適用例6]
適用例5記載の水素充填システムであって、前記戻り状態切り替え制御部が前記開閉弁を開弁させたときに、前記水素戻し流路を介して前記水素タンクから前記水素充填装置側へと流れる水素ガス流量は、前記水素ガス充填路を介して前記水素充填装置側から前記水素タンクへと供給される水素ガス流量よりも少ない水素充填システム。適用例6に記載の水素充填システムによれば、開閉弁を開弁している間も、水素タンク内の水素充填量を増加させることができるため、水素タンク内の水素ガスを水素充填装置側に回収する動作を行なうことによる水素充填動作の遅れを抑制することができる。
【0015】
[適用例7]
適用例1ないし6いずれか記載の水素充填システムであって、前記水素充填装置は、前記水素ガス充填路を介して前記水素充填装置から前記水素タンクへと供給される水素ガスを冷却する冷却器を備える水素充填システム。適用例7に記載の水素充填システムによれば、水素充填装置から水素タンクに供給される水素ガスの温度をより低くすることができるため、水素充填時に水素タンク内の温度が望ましくない程度に上昇してしまうことを抑制する動作の信頼性をさらに高めることができる。
【0016】
[適用例8]
請求項1ないし7いずれか記載の水素充填システムであって、前記水素充填装置は、水素ガスを、前記水素タンクの満充填時よりも高圧で貯蔵する高圧貯蔵部と、水素ガスを蓄えることが可能なバッファタンクと、前記バッファタンク内の水素を昇圧して前記高圧貯蔵部に供給する昇圧供給部と、を備え、前記水素ガス充填路は、前記高圧貯蔵部と前記水素タンクとを接続して、前記高圧貯蔵部から前記水素タンクへと水素ガスを導き、前記水素ガス戻し流路は、前記水素タンクと前記バッファタンクとを接続し、前記水素タンクと前記バッファタンクとの内部の圧力差を利用して、前記水素タンクから前記バッファタンクへと水素ガスを導く水素充填システム。適用例8に記載の水素充填システムによれば、水素タンクから水素供給装置側へと回収した水素ガスを、再び水素タンクへの水素ガスの充填に用いることができる。
【0017】
[適用例9]
適用例1ないし8いずれか記載の水素充填システムであって、前記水素タンクは、移動体に搭載されて該移動体の駆動用燃料としての水素を蓄えるタンクである水素充填システム。適用例9記載の水素充填システムによれば、移動体に搭載された水素タンクに対して水素ガスを充填する際に、水素タンクの温度上昇の抑制を充分に確保することが可能になる。
【0018】
本発明は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、水素充填方法や、移動体、あるいは水素充填装置などの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】水素充填システム10の概略構成を模式的に表わす説明図である。
【図2】水素タンク20に係る構成を示す説明図である。
【図3】水素補充動作の工程を示す説明図である。
【図4】水素充填時の水素タンク内の温度および圧力の様子を表わす説明図である。
【図5】水素充填システム110の概略構成を模式的に表わす説明図である。
【図6】水素補充動作の工程を示す説明図である。
【図7】水素充填時の水素タンク内の温度および圧力の変化を表わす説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
A.装置の全体構成:
図1は、本発明の第1実施例としての水素充填システム10の概略構成を模式的に表わす説明図である。水素充填システム10は、駆動用エネルギを発生するためのエネルギ源として水素を用いる車両15と、この車両15に対して水素を補充する水素供給装置18と、を備えている。
【0021】
車両15は、駆動用電源として燃料電池を備える電気自動車であり、燃料電池のアノードに供給するための水素ガスを貯蔵する水素タンク20を搭載している。本実施例の車両15が備える燃料電池は、複数の単セルを積層したスタック構造を有しており、例えば、固体高分子型燃料電池や、固体酸化物型燃料電池とすることができる。車両15は、さらに、水素タンク20から水素の供給を受ける燃料電池の他、燃料電池のカソード側に酸化ガスとしての空気を供給するためのブロワや、燃料電池から電力を供給されて車両の駆動動力を発生するモータ、さらに2次電池等を備えている。本発明の要部は、水素タンク20に対する水素補充に係る構成にあるため、車両15の構成要素のうち、水素タンク20に対する水素補充に係る構成以外の構成については、図示および詳しい説明を省略する。
【0022】
水素タンク20には、この水素タンク20に水素ガスを供給するための第1水素ガス充填路22と、水素タンク20内に貯蔵された水素ガスの一部を車両15の外部へと導く第1水素ガス戻し流路24と、水素タンク20内から取り出された水素ガスを燃料電池に導くための燃料供給路26と、が接続されている。第1水素ガス充填路22および第1水素ガス戻し流路24は、それぞれ、一端は水素タンク20に接続されると共に、他端は車両15の外表面において、互いに近接して開口している。互いに近接して設けられた第1水素ガス充填路22の他端の開口部である開口部23と、第1水素ガス戻し流路24の他端の開口部である開口部25とは、コネクタ受け部30を構成している。コネクタ受け部30は、車両15の外表面に設けられており、水素供給装置18を用いて水素タンク20に対して水素を補充する際に、水素供給装置18と車両15との間で水素の流路を接続するための構造である。コネクタ受け部30には、コネクタ受け部30に水素供給装置18が接続されたときにこれを検知して検出信号を出力する接続センサ31が設けられている。また、第1水素ガス充填路22には、水素タンク20から開口部23側へ向かう水素ガスの流れを抑止する逆止弁33が設けられており、第1水素ガス戻し流路24には、開閉弁32が設けられている。この開閉弁32を開閉することにより、水素タンク20からコネクタ受け部30側への水素ガスの流れを許容する状態と、水素ガスの流れを遮断する状態とを切り替えることができる。なお、燃料供給路26は、一端は、水素タンク20に接続されると共に、他端は、燃料電池のアノードに水素を供給可能となるように燃料電池に接続されている。
【0023】
図2は、水素タンク20と、水素タンク20に対して水素を給排する流路に係る構成を示す説明図である。水素タンク20は、圧縮ガスの状態で水素ガスを貯蔵するガスボンベであり、ライナ40と、補強層42と、一対の口金44とを備えている。ライナ40は、略円柱状に形成され、水素を高圧で貯蔵するための空間が内部に形成された中空の容器である。本実施例では、ライナ40は、樹脂によって形成されている。補強層42は、ライナ40の外壁上に設けられている。この補強層42は、水素タンク20の強度を向上させるためのものであり、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)によって形成されている。補強層42は、例えば、エポキシ樹脂などを含浸させた炭素繊維をライナ40の外周に巻き付けた後に、上記含浸させた樹脂を硬化させることにより形成することができる。
【0024】
口金44は、補強層42が形成されたライナ40の両端部に形成された開口部の各々に嵌め込まれた金属製部材である。一方の口金44にはバルブ45が嵌め込まれており、他方の口金44にはバルブ46が嵌め込まれている。バルブ45,46は、金属製部材である。バルブ45には、燃料供給路26が接続されており、バルブ45を介して水素タンク20から燃料電池へと水素が供給可能となっている。さらに、バルブ45には、水素タンク20内部の温度および圧力を検出するための既述した温度センサ34および圧力センサ36が設けられている(図1参照)。温度センサ34および圧力センサ36は、水素タンク20内の温度あるいは圧力を検出可能であれば、水素タンク20のいずれの箇所に設けることとしても良いが、樹脂製のライナ40の壁面を介してではなく、金属製の口金44を介して各センサの配線を設けることにより、センサを設けることに起因する水素タンクにおけるシール性の低下を抑制することができる。また、バルブ46には、第1水素ガス充填路22および第1水素ガス戻し流路24が接続されており、バルブ46を介して、コネクタ受け部30側と水素タンク20との間で、水素ガスがやり取り可能となっている。
【0025】
車両15は、さらに、アンテナ部37と制御部38とを備えている(図1参照)。アンテナ部37は、水素供給装置18との間で通信、すなわち信号の送受信を行なう。制御部38は、マイクロコンピュータを中心とした論理回路として構成され、CPU、ROM、RAM、および、各種の信号を入出力する入出力ポート等を備える。この制御部38は、水素タンク20に対して水素を補充する際には、既述した温度センサ34や圧力センサ36あるいは接続センサ31からの検出信号を取得すると共に、開閉弁32に対して駆動信号を出力する。また、制御部38は、アンテナ部37との間で、水素供給装置18との通信に係る信号をやり取りする。水素タンク20に対して水素を補充する際に行なわれる動作については、後に詳しく説明する。
【0026】
なお、本実施例では、水素タンク20は、既述したように樹脂製のライナ40とCFRPから成る補強層42を備えるオールコンポジット製タンクとしたが、異なる構成としても良い。上記構成とすることで、水素タンク20の軽量化が容易となって有利であるが、例えば、ライナ40をアルミニウム等の金属によって形成しても良く、また、補強層を有しない金属製のライナのみによって水素タンク20を構成することとしても良い。
【0027】
水素供給装置18は、車両15が備える水素タンク20に対して水素を補充するための定置型の装置である。水素供給装置18は、車両15に供給するための水素ガスを貯蔵する水素ガス貯蔵部50と、車両15に供給するための水素ガスを冷却する冷却器54と、車両15から回収した水素ガスを貯蔵するバッファタンク55と、を備えている。また、水素供給装置18は、車両15に接続するための構造として、接続配管19を備えている。この接続配管19は、端部にコネクタ68を備えると共に、内部には、水素ガスが流れる第2水素ガス充填路62と、第2水素ガス戻し流路63と、が設けられている。
【0028】
水素ガス貯蔵部50は、車両15に搭載される水素タンク20が満充填となったときよりも高い圧力(例えば、90MPa程度)で、水素ガスを蓄えている。本実施例の水素供給装置18は、水素ガス貯蔵部50よりも水素圧が低く(例えば、20MPa程度)、より多くの水素を貯蔵することができる図示しない水素ガス貯蔵装置を備えている。水素ガス貯蔵部50は、コンプレッサによって昇圧された水素ガスが上記水素ガス貯蔵装置から供給されることによって、常に、内部の水素ガス圧力が充分に高く保たれている。
【0029】
第2水素ガス充填路62は、一端が、上記水素ガス貯蔵部50に接続されると共に、他端が、コネクタ68において開口部60として開口している。第2水素ガス充填路62には、水素ガス貯蔵部50との接続部において、開閉弁57が設けられており、開閉弁57を開弁することによって、水素ガス貯蔵部50から第2水素ガス充填路62へと水素ガスが流出可能となる。第2水素ガス充填路62は、その中ほどにおいて、第1分岐路64と第2分岐路65の二つの流路に分岐して、その後再び合流している。第1分岐路64と第2分岐路65の分岐部には、流路切替弁51が設けられており、この流路切替弁51を切り替えることによって、水素ガスが流れる経路を、第1分岐路64を経由する経路と、第2分岐路65を経由する経路との間で、切り替えることができる。第1分岐路64には、流量調整弁52が設けられており、この流量調整弁52を制御することによって、第1分岐路64を経由して車両15側へと供給される水素ガス流量を調節可能となっている。また、第2分岐路65には、レギュレータ53が設けられており、このレギュレータ53を経由させることにより、レギュレータ53の下流側における水素ガス圧が一定となるように、水素ガスを車両15側へと供給可能になる。
【0030】
第2水素ガス充填路62において、第1分岐路64と第2分岐路65との合流部よりも下流には、冷却器54が設けられている。これにより、水素ガス貯蔵部50からの水素ガスが、第1分岐路64と第2分岐路65とのいずれの経路を経由した場合であっても、予め冷却した上で、車両15側へと供給することが可能となっている。なお、本実施例では、車両15側へと供給する水素を、冷却器54によって、−20℃程度に冷却している。
【0031】
第2水素ガス戻し流路63は、一端が、コネクタ68において開口部61として開口すると共に、他端が、上記バッファタンク55に接続されている。バッファタンク55は、第2水素ガス戻し流路63を介して車両15側から供給される水素ガスを、一旦貯蔵するためのタンクである。また、バッファタンク55と水素ガス貯蔵部50とを接続する流路として、水素ガス回収流路66が設けられている。水素ガス回収流路66には、コンプレッサ56が設けられており、車両15側から回収してバッファタンク55に蓄えた水素ガスを、昇圧して水素ガス貯蔵部50へと供給可能となっている。
【0032】
コネクタ68は、車両15の外表面に設けられた既述したコネクタ受け部30に接続可能であって、水素供給装置18と車両15との間で水素の流路を接続するための、接続配管19の端部構造である。コネクタ68とコネクタ受け部30とを接続することにより、コネクタ68の開口部60,61は、それぞれ、コネクタ受け部30の開口部23,25と接続される。これにより、水素供給装置18側の第2水素ガス充填路62および第2水素ガス戻し流路63を、それぞれ、車両15側の第1水素ガス充填路22あるいは第1水素ガス戻し流路24に対して接続することができる。ここで、コネクタ68の開口部60,61と、コネクタ受け部30の開口部23,25とには、それぞれ、開口部の周囲にわたってシール部材が設けられており、水素ガス充填路と水素ガス戻し流路とを気密な状態で接続可能になっている。
【0033】
ここで、コネクタ68における第2水素ガス充填路62の開口部60および第2水素ガス戻し流路63の開口部61の配置は、コネクタ受け部30における第1水素ガス充填路22の開口部23および第1水素ガス戻し流路24の開口部25の配置に対応している。そのため、コネクタ68とコネクタ受け部30とを接続することにより、水素供給装置18と車両15との間で、水素ガス充填路および水素ガス戻し流路の接続を同時に行なうことができる。ここで、コネクタ68とコネクタ受け部30との接続は、例えば、コネクタ68が備える図示しない係合部を、コネクタ受け部30が備える図示しない係合受け部に係合させることにより行なえばよい。なお、コネクタ受け部30が備える既述した接続センサ31は、例えば、上記係合受け部が係合部に係合する際の変位を検知するセンサとすることができる。また、本実施例では、水素供給装置18と車両15との間で、水素ガス充填路および水素ガス戻し流路を、コネクタ68およびコネクタ受け部30を介して同時に接続することとしたが、異なる構成としても良い。すなわち、水素ガス充填路と水素ガス戻し流路とのそれぞれに対して異なる接続配管を設け、水素供給装置18と車両15との間で、水素ガス充填路と水素ガス戻し流路とを別々に接続することとしても良い。
【0034】
水素供給装置18は、さらに、アンテナ部59と制御部58とを備えている。アンテナ部59は、車両15が備える既述したアンテナ部37との間で信号の送受信を行なう。制御部58は、マイクロコンピュータを中心とした論理回路として構成され、CPU、ROM、RAM、および、各種の信号を入出力する入出力ポート等を備える。この制御部58は、水素タンク20に対して水素を補充する際には、流路切替弁51や、流量調整弁52や、レギュレータ53、あるいは開閉弁57に対して、駆動信号を出力する。また、制御部58は、アンテナ部59との間で、車両15との通信に係る信号をやり取りする。
【0035】
B.充填時の動作:
図3は、車両15に対して水素供給装置18から水素を補充する動作の工程を示す説明図である。なお、図3に示す工程図では、車両15および水素供給装置18に対する人の動作と、車両15における制御部38等の各部で実行される処理と、水素供給装置18の制御部58で実行される処理とを、合わせて継時的に示している。車両15に対して水素を補充する際には、まず、使用者が、水素供給装置18のコネクタ68を、車両15のコネクタ受け部30に取り付ける(ステップS100)。これにより、車両15の第1水素ガス充填路22および第1水素ガス戻し流路24が、水素供給装置18の第2水素ガス充填路62および第2水素ガス戻し流路63に、それぞれ接続される。
【0036】
コネクタ68がコネクタ受け部30に接続されると、両者が接続されたことが接続センサ31によって検出され(ステップS110)、接続センサ31の検出信号が、車両15の制御部38に入力される。接続センサ31の検出信号が制御部38に入力されると、コネクタ68がコネクタ受け部30に接続されたという情報が、車両15から水素供給装置18へと伝えられる(ステップS120)。すなわち、コネクタ68とコネクタ受け部30との接続に係る信号が、制御部38からアンテナ部37に伝えられ、アンテナ部37とアンテナ部59との間で通信が行なわれることによって、さらに水素供給装置18の制御部58へと伝えられる。なお、本実施例では、車両15と水素供給装置18との間で行なわれる通信は、アンテナ部37とアンテナ部59とを介して行なうこととしたが、このような無線による通信は、電波を用いる他、例えば赤外線を用いることとしても良い。
【0037】
コネクタ68とコネクタ受け部30との接続が伝えられると、水素供給装置18の制御部58は、開閉弁57と流路切替弁51と流量調整弁52とに対して、駆動信号を出力する(ステップS130)。これにより、開閉弁57が開弁されて、水素ガス貯蔵部50から水素ガスが流出可能となる。また、流路切替弁51を駆動することにより、第1分岐路64を経由するように水素ガスの経路が切り替わり、水素ガス貯蔵部50から、第2水素ガス充填路62の第1分岐路64および第1水素ガス充填路22を介して、水素タンク20へと水素ガスの充填が開始される。既述したように、水素ガス貯蔵部50内の圧力は、車両15が備える水素タンク20内の圧力よりも高いため、両者の圧力差によって、水素ガス貯蔵部50から水素タンク20への水素ガスの供給が行なわれる。なお、水素タンク20における水素ガスの充填量が少なく、水素タンク20内の圧力が低いときには、水素タンク20と水素ガス貯蔵部50との圧力差が許容できる値になるまで、流量調整弁52を絞ることによって水素ガスの流入量を抑える制御が行なわれる。なお、車両15の水素タンク20に対して水素充填を行なう際には、本実施例では車両15が搭載する燃料電池は発電を停止している。そのため、水素充填中に制御部38が消費する電力や、開閉弁32などの各部を駆動する際に要する電力は、車両15が搭載する既述した2次電池によって賄っている。
【0038】
コネクタ68とコネクタ受け部30との接続に係る信号をアンテナ部37に出力した後に、車両15の制御部38は、圧力センサ36の検出信号と、水素タンク20の内部温度Ta(タンク温度Ta)に係る温度センサ34の検出信号を取得する(ステップS140)。ここで、水素タンク20の充填率(あるいは充填量)は、水素タンク20の容積と、水素タンク20内の圧力と、水素タンク20の内部温度に基づいて求めることができる。水素タンク20の容積は一定であるため、ステップS140で取得した圧力と温度とを用いて、水素タンク20の充填率(あるいは充填量)を求めることができる。具体的には、例えば、気体の状態方程式に基づいて理論的に水素ガスの充填率(充填量)を算出することができる。あるいは、水素タンク20の圧力および内部温度と充填率との対応を示すマップを作成して制御部38内に記憶しておき、このマップを参照して水素ガスの充填率(充填量)を求めても良い。既述したように、コネクタ68とコネクタ受け部30との接続が検出されて、水素供給装置18から水素タンク20への水素の充填が開始されることにより、水素タンク20内の圧力は上昇を始める。圧力センサ36および温度センサ34の検出信号を取得すると、制御部38は、上記のように水素タンク20における充填率(充填量)を求めて、水素タンク20における水素の充填状態が、満充填の状態であるか否かを判断する(ステップS150)。
【0039】
ステップS150において、水素タンク20が満充填に達していないと判断されたときには、制御部38は、ステップS140で検出したタンク温度Taが、基準温度T1に達したか否かを判断する(ステップS190)。ここで、基準温度T1とは、水素タンク20の内部温度の上限値に基づいて、水素タンク20の内部温度が上限値を超えない制御が可能となるように予め定められた温度である。本実施例では、水素タンク20の内部温度の上限値を85℃としており、上記基準温度T1は、この上限値よりも5℃低い80℃に設定している。
【0040】
図4は、本実施例の水素充填システム10における水素タンク20内に水素を充填する際の、水素タンク20内の温度および水素タンク20内の圧力の変化の様子を表わす説明図である。図4では、第2水素ガス充填路62において、第1分岐路64と第2分岐路65のいずれの経路が用いられているかの別と、第1水素ガス戻し流路24の開閉弁32の開閉状態も併せて示している。なお、図4では、空の状態の水素タンク20を満充填状態にする様子を表わしている。水素ガスの充填を開始したときには、既述したように、第1分岐路64を介して水素ガスの供給が行なわれると共に、第1水素ガス戻し流路24の開閉弁32は、閉弁状態となっている。このとき、水素タンク20への水素ガスの供給に伴って、水素タンク20内の圧力が上昇する。水素供給装置18から供給される水素ガスは、既述したように冷却器54によって予め冷却されているが、水素タンク20に水素ガスを充填する際には、水素タンク20内はいわゆる断熱圧縮の状態となるため、水素タンク20内の温度も次第に上昇する。このような状態は、図4に示した期間Aにおける状態に該当する。
【0041】
ステップS190において、タンク温度Taが基準温度T1未満である場合には、タンク温度Taが、許容できる温度範囲であると判断することができる。そこで制御部38は、ステップS140に戻って圧力センサ36および温度センサ34の検出信号を取得して、水素タンク20が満充填状態であるか否かを判断する動作を再び行なう。水素タンク20が満充填ではなく、タンク温度Taが許容できる温度範囲である状態が続く間は、制御部38は、ステップS140、S150、S190の動作を繰り返す。すなわち、圧力センサ36および温度センサ34の検出信号を取得して、水素タンク20が満充填に達したか否かを判断すると共に、タンク温度Taが基準温度T1に達したか否かを判断する動作を繰り返す。
【0042】
上記の動作を繰り返すうちに、水素タンク20に対する水素の充填量が増加し、それに伴いタンク温度Taが上昇する。その後、ステップS190においてタンク温度Taが基準温度T1以上であると判断されると、制御部38は、タンク温度Taが基準温度T1以上であるという情報と、圧力センサ36が検出した水素タンク20の圧力に係る情報とを、アンテナ部37とアンテナ部59との通信を介して水素供給装置18の制御部58に伝える(ステップS200)。そして、制御部38は、開閉弁32に駆動信号を出力することによって開閉弁32を開弁させると共に、車両15側からの信号を受信した水素供給装置18の制御部58は、流路切替弁51およびレギュレータ53に対して駆動信号を出力する(ステップS210)。
【0043】
このように、開閉弁32を開弁することにより、水素タンク20内に蓄えられた水素ガスの一部が、第1水素ガス戻し流路24および第2水素ガス戻し流路63を介して、バッファタンク55へと供給されるようになる。このとき、水素タンク20からバッファタンク55へと供給される水素ガス流量は、開閉弁32の開度と、水素タンク20とバッファタンク55との間の圧力差と、に応じて定まる。また、流路切替弁51が切り替えられることによって、水素ガス貯蔵部50から供給される水素ガスの経路が、第2分岐路65を経由する経路へと切り替えられる。このとき、レギュレータ53は、通信によって伝えられた水素タンク20の内部圧力が2次側圧力となるように調節される。その結果、車両15の水素タンク20内の水素ガスの一部がバッファタンク55へと回収されつつ、水素タンク20の圧力が、水素の回収を開始したときの圧力を維持するように、水素供給装置18側からの水素ガスの供給が継続される。すなわち、水素タンク20から水素供給装置18側へと回収した水素ガスと等量の冷却した水素ガスの供給が行なわれる。このように、一旦水素タンク20内に充填されて昇温した水素ガスが取り出されて、等量の冷却された水素ガスが供給されることにより、水素タンク20内の温度は低下する。このような状態は、図4に示した期間Bにおける状態に該当する。以下、上記のように水素タンク20内の水素の一部を回収しつつ水素ガスの供給を継続する運転状態を、タンク冷却運転と呼ぶ。
【0044】
タンク冷却運転を開始すると、車両15の制御部38は、水素タンク20の内部温度Taに係る温度センサ34の検出信号を取得する(ステップS220)。そして、取得したタンク温度Taが、基準温度T2を下回ったか否かを判断する(ステップS230)。ここで、基準温度T2とは、タンク冷却運転を打ち切っても良い程度に水素タンク20内の温度が充分に低下したか否かを判断するために予め定められた温度である。制御部38は、ステップS230においてタンク温度Taが基準温度T2を下回ったと判断されるまで、タンク温度Taを取得して基準温度T2と比較するステップS220およびS230の動作を繰り返す。
【0045】
ステップS230において、タンク温度Taが基準温度T2を下回ったと判断されると、制御部38は、タンク温度Taが基準温度T2を下回ったという情報を、アンテナ部37とアンテナ部59との通信を介して水素供給装置18の制御部58に伝える(ステップS240)。そして、制御部38は、開閉弁32に駆動信号を出力することによって開閉弁32を閉弁させ、車両15側からの信号を受信した水素供給装置18の制御部58は、流路切替弁51に対して駆動信号を出力する(ステップS250)。
【0046】
このように、開閉弁32を閉弁することにより、水素タンク20内の水素ガスの一部が水素供給装置18側へと回収される動作が停止される。また、流路切替弁51が切り替えられることによって、水素ガス貯蔵部50から供給される水素ガスの経路が、第1分岐路64を経由する経路へと切り替えられる。その結果、水素タンク20内に充填された水素を増加させる動作が再開される。このような状態は、図4に示した期間Cにおける状態に該当する。水素タンク20への水素充填を再開することにより、水素タンク20内の温度は、再び上昇を始める。
【0047】
その後、車両15の制御部38は、ステップS140に戻り、ステップS140以降の工程を繰り返す。すなわち、ステップS140において、圧力センサ36の検出信号と、タンク温度Taに係る温度センサ34の検出信号とを取得して、水素タンク20の充填率(充填量)を求める。そして、ステップS150における満充填か否かの判断を行なう。水素充填システム10は、水素タンク20が満充填となるまで、水素タンク20内の温度が基準温度T1に達すると、タンク冷却運転を行なって水素タンク20内の水素充填量を維持した状態でタンク内の冷却を行ない、水素タンク20内の温度が基準温度T2を下回るとタンク冷却運転を停止する動作を繰り返す。
【0048】
ステップS150において水素タンク20が満充填となったと判断されると、満充填になったという情報が、車両15から、アンテナ部37およびアンテナ部59を介して水素供給装置18の制御部58へと伝えられる(ステップS160)。水素タンク20が満充填になったという情報が伝えられると、制御部58は、開閉弁57に対して駆動信号を出力して、これを閉弁させる(ステップS170)。これにより、水素ガス貯蔵部50からの水素ガスの供給が停止される。その後、コネクタ68をコネクタ受け部30から外すことにより(ステップS180)、水素充填の動作が終了する。なお、水素供給装置18のバッファタンク55に回収された水素ガスは、その後コンプレッサ56によって昇圧されて、水素ガス貯蔵部50へと供給され、再び水素充填のために用いられる。
【0049】
以上のように構成された本実施例の水素充填システム10によれば、水素タンク20の内部温度Taが基準値T1に達したときに、水素タンク20内の昇温した水素の一部を水素タンク20から回収しつつ、冷却した水素ガスの水素タンク20への供給を継続するため、水素タンク20の内部温度Taが望ましくない高温に達するのを抑制することができる。すなわち、本実施例では、タンク温度Taが基準値T1以上となるのを抑える制御が繰り返し行なわれるため、水素タンク20が満充填となるまで、水素充填を行なう間を通して、水素タンク20の内部温度の上限値への到達を抑制することができる。なお、本実施例では、水素充填の目標値を満充填としているが、ステップS150において、満充填よりも少ない充填量に達したか否かを判断することとして、満充填よりも少ない量を水素充填の目標値としても良い。このような構成としても、水素充填が終了するまでの間、水素タンク20の内部温度の上限値への到達を抑制する同様の効果が得られる。
【0050】
ここで、本実施例では、タンク冷却運転を行なう際に、水素タンク20内の水素圧を、タンク冷却運転開始時の圧力に維持している。したがって、タンク冷却運転を終了したときには、タンク冷却運転の開始時と同じ圧力の水素が充填された状態から、水素タンク20に水素を充填する動作を再開すればよい。ここで、タンク冷却運転の際に、水素ガスの供給量よりも水素ガスの回収量を多くする場合には、冷却運転中に水素タンク20内の圧力が低下して、水素タンク20内の充填量が少なくなってしまう。このような場合には、タンク冷却運転後に充填の動作を再開したときに、前回タンク冷却運転を開始したときの圧力(充填量)に戻すまでの間に水素タンク20内の温度が上昇し、タンク冷却運転の動作によりタンク内温度を低下させた効果の一部が失われてしまうことになる。本実施例では、タンク冷却運転中に水素タンク20内の圧力を維持しているため、このような無駄が生じることがなく、タンク冷却運転に起因する充填時間の延長を抑制することができる。
【0051】
また、上記のように、水素タンク20への水素充填時に、水素タンク20における望ましくない程度の温度上昇を抑える動作の信頼性が高まることにより、水素供給装置18においては、水素タンク20の内部温度の上昇を抑えるための特別な構成を不要とし、あるいは小型化する効果を得ることができる。具体的には、水素供給装置18において、車両15への供給に先立って水素ガスを冷却するための冷却器54を小型化することができ、あるいは不要とすることが可能となる。このように、冷却器54への依存を抑えることにより、水素供給装置18の構成を簡素化し、水素ガスの冷却に要するエネルギを削減あるいは不要とすることができる。冷却器54を小型化し、あるいは不要とすることにより、車両15に供給する水素ガス温度は比較的高くなるが、水素タンク20内に充填されることによって昇温した水素ガスより低い温度の水素ガスを水素タンク20に供給することができればよい。これにより、水素タンク20内の昇温したガスと入れ替えて水素タンク20内を冷却する同様の効果が得られる。
【0052】
なお、本実施例の水素充填システム10の構成を実現するためには、従来から存在する個々の水素供給装置(水素ステーション)において、車両側の水素タンクから水素ガスを回収するための配管を設け、車両における水素ガス戻し流路24の開口部25と接続可能な接続配管を設けるだけでよい。したがって、個々の水素ステーションにおける比較的小規模な構成の変更によって容易に実現可能であり、特別にインフラの整備を要することもない。
【0053】
また、上記のように本実施例では、水素タンク20への水素ガスの充填時に水素タンク20の内部温度が基準温度に達したときには、水素タンク20内部の昇温した水素ガスを、外部から供給される低温の水素ガスとを入れ替えるため、水素タンク20からの放熱に依存することなく、水素タンク20の内部温度の過剰な上昇を抑制できる。したがって、水素充填を行なう際に、放熱のための時間を確保する必要がなく、より短時間の内に水素充填の動作を終了することが可能になる。したがって、車両15に対する燃料補給のために要する時間を短縮することができ、車両15を使用する際の利便性が向上する。特に、水素タンク20のように樹脂製のライナとCFRPから成る補強層を備えるオールコンポジット製タンクは、熱量量が小さいことにより外部への放熱量が少なく内部が昇温し易いため、本実施例の構成を適用することにより、昇温を抑える顕著な効果を得ることができる。
【0054】
さらに、本実施例では、水素タンク20内の温度上昇を抑制するために、水素タンク20を冷却する冷媒として水素ガスを用いており、冷却した水素ガスを水素タンク20内に直接供給している。このように冷媒を直接水素タンク20内に供給するため、効率良く水素タンク20内の温度を抑えることができる。また、冷媒として水素ガスを用いることにより、用いた冷媒が水素タンク20内に貯蔵される水素ガスに影響して不都合を生じることもない。したがって、水素タンク内に冷媒流路を別途形成したり、水素タンク内に供給した冷媒を除去する必要が無く、水素タンクの冷却に起因する水素タンクの内部構造の複雑化を抑制することができる。また、このように水素タンクの構造の複雑化を抑制できることにより、水素タンクの製造工程を簡素化することができる。
【0055】
本実施例では、水素充填動作の開始に係る情報を、車両15側のコネクタ受け部30に設けた接続センサ31によって検知し、車両15と水素供給装置18との間で無線で通信を行なうことにより、水素供給装置18側の制御部58に伝え、水素供給装置18側の開閉弁57を開弁する構成としたが、異なる構成としても良い。例えば、接続センサ31が検知した水素充填動作の開始に係る情報を、車両15から水素供給装置18へと、有線にて伝達しても良い。この場合には、例えば、車両15においては制御部38とコネクタ受け部30との間に信号線を配設すると共に、水素供給装置18においては制御部58とコネクタ68との間に信号線を配設し、コネクタ68の接続の際に、信号線の接続も同時に行なうこととすればよい。あるいは、水素供給装置18のコネクタ68にも接続センサを設け、車両15と通信を行なうことなく水素供給装置18の開閉弁57を開弁させることとしても良い。
【0056】
また、実施例の車両15では、水素タンク20のバルブ46側の端部において、第1水素ガス充填路22と第1水素ガス戻し流路24との両方を接続しているが、異なる構成としても良い。例えば、第1水素ガス充填路22と第1水素ガス戻し流路24とは、水素タンク20における対向する端部にそれぞれ接続することとしても良い。このように、昇温した水素ガスが排出される出口と、冷却された水素ガスが流入する入り口とを、対向する端部にそれぞれ配置することにより、水素タンク20内を降温させる効率をさらに高めることができる。
【0057】
C.第2実施例:
第1実施例では、タンク冷却運転の際には、水素タンク20内の圧力を、タンク冷却運転開始時の圧力に維持することとしたが、異なる構成としても良い。以下に、第2実施例として、タンク冷却運転時に、水素タンク20から回収する水素ガス量よりも多くの水素ガスを、水素タンク20に対して供給して、タンク冷却運転時にも水素タンク20への水素充填を継続する構成を説明する。
【0058】
図5は、第2実施例の水素充填システム110の概略構成を模式的に表わす説明図である。水素充填システム110は、図1の水素供給装置18に代えて水素供給装置118を備えること以外は、第1実施例の水素充填システム10と同様の構成を備えている。そのため、第1実施例と共通する構成には同じ参照番号を付して、詳しい説明は省略する。水素供給装置118は、第2水素ガス充填路62が分岐路を有しておらず、流路切替弁51およびレギュレータ53が設けられていない点が、水素供給装置18とは異なっている。
【0059】
図6は、車両15に対して水素供給装置118から水素を補充する動作の工程を示す説明図である。なお、図6に示す工程図では、図3と同様に、車両15および水素供給装置118に対する人の動作と、車両15における制御部38等の各部で実行される処理と、水素供給装置118の制御部58で実行される処理とを、合わせて継時的に示している。図6において、図3と同様の工程には、対応する図3の工程の工程番号に200を加えた工程番号を付しており、詳しい説明を省略する。
【0060】
第2実施例では、ステップS300からステップS350までの工程は、図3のステップS100からステップS150までの工程と、ほぼ同様である。ただし、第2実施例の水素供給装置118は既述したように流路切替弁51およびレギュレータ53を備えていないため、ステップS330では、流路切替弁51に対する駆動信号の出力は行なわれず、開閉弁57および流量調整弁52に対してのみ制御部58から駆動信号が出力される。
【0061】
ステップS350において、制御部38が、水素タンク20が満充填ではないと判断すると、次に制御部38は、水素タンク20内の圧力が、最大基準圧力を超えたか否かを判断する(ステップS382)。本実施例では、ステップS320で取得される種々の水素タンク20の容量に応じて、満充填時に到達する圧力よりも低い複数の基準圧力が予め設定されて制御部38内に記憶されている。ステップS382では、タンク圧が、上記予め設定された複数の基準圧力のうちの最大値を超えたか否かが判断される。本実施例では、上記基準圧力の最大値を、最大基準圧力P2とする。
【0062】
ステップS382においてタンク圧力が最大基準圧力P2を超えていないと判断された場合には、制御部38は、基準圧力を選択する(ステップS384)。ステップS384では、上記予め設定した複数の基準圧力の内から、ステップS340で取得したタンク圧力以上であって最も小さい基準圧力が選択される。このステップ384で選択した基準圧力を、基準圧力P1として以下の説明を行なう。
【0063】
次に制御部38は、水素タンク20内の圧力が、ステップS384で選択した基準圧力P1に達したか否かを判断する(ステップS386)。ステップS340で取得したタンク圧が、ステップS384で選択した基準圧力P1と等しければ、基準圧力P1に達したと直ちに判断される。ステップS386において基準圧力P1に達していないと判断された場合には、制御部38は、再び圧力センサ36および温度センサ34からタンク圧およびタンク温度Taを取得する(ステップS388)。そして、タンク圧が設定した基準圧力P1に達するまで、ステップS388およびステップS386の動作を繰り返す。
【0064】
ステップS386においてタンク圧が選択した基準圧力P1に達したと判断されると、制御部38は、ステップS340あるいはステップS388において最も新しく検出したタンク温度Taが、基準温度以上であるか否かを判断する。本実施例では、既述した複数の基準圧力のそれぞれに応じて基準温度が予め設定されて制御部38に記憶されており、ステップS390では、ステップS384で選択した基準圧力P1に応じて設定されている基準温度との比較が行なわれる。このステップS390で用いる基準温度は、そのまま水素充填の動作を継続してタンク温度が上昇を続けた場合に、タンク圧が満充填になったときにタンク内温度が上限値を超えることが予測される温度として、基準圧力ごとに設定されている。本実施例では、基準圧力P1に対応して設定された基準温度を、基準温度3とする。
【0065】
図7は、本実施例の水素充填システム110における水素タンク20内に水素を充填する際の、水素タンク20内の温度および水素タンク20内の圧力の変化の様子を表わす説明図である。図7では、第1水素ガス戻し流路24の開閉弁32の開閉状態も併せて示している。なお、図7では、空の状態の水素タンク20を満充填状態にする様子を表わしている。水素ガスの充填を開始したときには、第1水素ガス戻し流路24の開閉弁32は閉状態となっている。このとき、水素タンク20への水素ガスの供給に伴って、水素タンク20内の圧力および温度が上昇する。このようにタンク圧力およびタンク温度が上昇して、タンク圧力が基準圧力P1に達すると共に、このときタンク温度が基準温度T3に達した様子を、図7では、期間Aと表している。
【0066】
ステップS390において、水素タンク20の内部温度Taが基準温度T3以上であると判断されると、制御部38は、タンク圧力が基準圧力P1に達したときに、タンク温度が基準温度T3以上であったという情報を、アンテナ部37とアンテナ部59との通信を介して水素供給装置18の制御部58に伝える(ステップS400)。そして、制御部38は、開閉弁32に駆動信号を出力することによって開閉弁32を開弁させると共に、制御部58は、流量調整弁52を調節する(ステップS410)。
【0067】
このように、開閉弁32を開弁することにより、水素タンク20内に蓄えられた水素ガスの一部が、第1水素ガス戻し流路24および第2水素ガス戻し流路63を介して、バッファタンク55へと供給され、タンク冷却運転が開始される。ここで、第2実施例では、開閉弁32は、流量調整弁として機能しており、開閉弁32の開度は、水素タンク20から水素供給装置118側へと供給される水素ガス量が一定となるように調節される。また、第2実施例では、第1実施例とは異なり、ガス戻し流路を介して水素供給装置118側に回収される水素ガス量以上の量の水素ガスが、水素タンク20に対して供給され続けるように、制御部58によって流量調整弁52が調整される。このように、水素タンク20内の水素の一部が水素供給装置118側に回収されつつ、水素タンク20への水素充填が続行されることで、タンク圧力およびタンク温度の上昇の程度は、それまでより緩やかになる。このように、タンク冷却運転が開始されてからの状態を、図7では、期間Bとして表している。図7では、タンク圧力が基準圧力P1に達したときに、タンク温度がちょうど基準温度T3に達しているが、タンク温度が基準温度T3以上であれば同様の制御が行われる。
【0068】
ステップS410でタンク冷却運転を開始した後、制御部38は、再びステップS340に戻り、ステップS340以降の処理を繰り返す。ステップS350において満充填ではないと判断されると、ステップS384では、先に選択された基準圧力P1よりも高い基準圧力である基準圧力P2が選択されることになる。そして、ステップS390では、タンク温度が、基準圧力P2に対応して定められた基準温度T4以上となっているか否かが判断される。ステップS390においてタンク温度が基準温度T4以上であると判断されると、車両15と水素供給装置118との間で通信が行われた後(ステップS400)、ステップS410では、水素タンク20から水素供給装置118側へと回収される水素ガス量が、さらに多くなるように、開閉弁32に対する駆動制御が変更される。このように、水素タンク20からの回収水素量をさらに増加することにより、タンク圧力およびタンク温度の上昇の程度は、それまでよりもさらに緩やかになる。タンク圧力が基準圧力P2に達したときにタンク温度が基準温度T4に達していることによって、上記のように水素タンク20からの水素ガス回収量を増加させる制御が開始された後の状態を、図7では、期間Cとして表している。
【0069】
ステップS410で水素タンク20からの水素ガスの回収量を増加させる制御を開始した後、制御部38は、再びステップS340に戻り、ステップS340以降の処理を繰り返す。本実施例では、設定された複数の基準圧力の内、基準圧力P2が最大値である。そのため、ステップS350で満充填ではないと判断された後には、ステップS382において、タンク圧力が最大基準圧力を超えたと判断される。この場合には、ステップS350において満充填になったと判断されるまで、制御部38は、ステップS340、S350、S382の処理を繰り返し行なう。
【0070】
ステップS350において水素タンク20が満充填となったと判断されると、満充填になったという情報が、車両15から、アンテナ部37およびアンテナ部59を介して水素供給装置118の制御部58へと伝えられる(ステップS360)。水素タンク20が満充填になったという情報が伝えられると、制御部58は、開閉弁57に対して駆動信号を出力して、これを閉弁させる(ステップS370)。これにより、水素ガス貯蔵部50からの水素ガスの供給が停止される。その後、コネクタ68をコネクタ受け部30から外すことにより(ステップS380)、水素充填の動作が終了する。
【0071】
なお、ステップS390において、基準圧力P1に対して設定された基準温度T3と内部温度Taとを比較したときに、内部温度Taが基準温度T3に達していないと判断されると、制御部38はステップS340に戻るため、内部圧力が基準圧力P1を超えた状態であってもタンク冷却運転は行われない。このとき、後に実行されるステップS384では、基準圧力は基準圧力P2に設定され、ステップS390では、タンク温度Taと基準温度T4との比較が行われる。そして、タンク圧力が基準圧力P2に達したときに、タンク温度Taが基準温度T4以上であれば、初めてタンク冷却運転が開始されることになる。また、タンク圧力が基準圧力P1に達したときにタンク温度Taが基準温度T3に達していることによりタンク冷却運転が開始された場合であっても、タンク圧力が基準圧力P2に達したときにタンク温度Taが基準温度T4に達していなければ、水素ガスの回収量を増加させる制御は行われない。
【0072】
以上のように構成された第2実施例の水素充填システム110によれば、水素タンク20の内部温度Taが基準温度に達したときに、水素タンク20内の昇温した水素の一部を水素タンク20から回収しつつ、冷却した水素ガスの水素タンク20への供給を継続するため、水素タンク20の内部温度Taが望ましくない高温に達するのを抑制することができるという第1実施例と同様の効果が得られる。すなわち、第1実施例と同様に、水素タンクから水素供給装置側へと戻す水素ガス量を、水素供給装置から水素タンクに供給される水素ガス量以下にすることにより、効率良く、水素タンク内を冷却することができる。
【0073】
ここで、本実施例では、タンク冷却運転を行なう際に、水素タンク20内の水素圧を増加させる動作を継続している。したがって、水素タンク20内の水素ガスを回収する動作を行なうことによる水素充填動作の遅れを抑制することが可能になる。また、水素タンク20に対して、満充填よりも充填量が少ない状態に対応する複数の基準圧力および基準温度を用意して、水素タンク20から回収する水素ガス量を段階的に増加させることが可能となっているため、水素タンク20から回収する水素ガス量が、必要以上に増加することを抑制し、タンク冷却運転に起因する水素充填効率の低下を抑制できる。
【0074】
なお、第2実施例では、タンク冷却運転に係る判断を行なうための基準圧力および基準温度を、予め2種類用意したが、3以上の複数であってもよい。あるいは、単一の基準圧力および基準温度を用いることとしても良い。充填の途中で、タンク冷却運転に係る判断を行ない、必要に応じてタンク冷却運転を行なうことで、満充填に達するまでにタンク温度Taが上限値に達するのを抑制可能となる。ただし、判断となる基準点を、より多く用意する方が、満充填に達するまでにタンク温度が上限値に達することを抑える動作の信頼性を高めることができる。
【0075】
また、第2実施例では、タンク圧力の基準圧力と、タンク温度Taの基準温度との組み合わせによって、タンク冷却運転に係る判断を行なったが、異なる構成としても良い。水素タンク20内の充填率を反映する値と、これに対応する基準温度との組み合わせを用いることで、同様の制御を行なうことができる。例えば、タンク圧力とタンク温度Taから水素タンク20における充填率そのものを求め、充填率と、これに対応する基準温度との組み合わせによって、タンク冷却運転に係る判断を行なっても良い。
【0076】
また、第2実施例では、タンク温度Taが、タンク圧力(あるいはタンクの充填率)に応じて定めた基準温度以上であれば、水素タンク20への供給水素ガス量よりも少量の水素ガスを、水素タンク20から水素供給装置118側へと戻しているが、第1実施例と同様にして、水素タンク20に供給する水素ガス量と同量の水素ガスを戻すこととしても良い。この場合には、例えば、タンク圧力(あるいはタンクの充填率)ごとに、タンク圧力(タンク充填率)が低いほど低温の基準温度を設定しておき、タンク温度Taが上記基準温度以上であればタンク冷却運転を行なえば良い。そして、タンク冷却運転の開始後に、タンク温度Taが上記各々の基準温度よりも低温の基準温度に低下したときには、タンク冷却運転を停止すればよい。
【0077】
D.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0078】
D1.変形例1:
第1および第2実施例では、実測したタンク温度Taに基づいて、タンク冷却運転を行なうか否か、あるいは水素ガスの戻し量を増加させるか否かを判断したが、異なる構成としても良い。例えば、水素充填終了時の水素タンク20の内部温度を予測し、満充填時に水素タンク20の内部温度が基準値を超えると判断される場合には、水素タンク20から水素ガスの一部を回収するタンク冷却運転を行なうこととすることができる。水素充填終了時の水素タンク20の内部温度の予測は、例えば、水素タンク20の内部温度と水素タンク20の充填率とに基づいて満充填時の水素タンク20の内部温度を求めるためのマップを予め作成して制御部38内に記憶しておき、このマップを参照して行なうことができる。水素タンク20の容量は予め定まっているため、水素ガスの充填速度、すなわち、水素供給装置18から供給される水素ガスの流量が一定である場合には、初期条件としての水素タンク20の内部温度と水素タンク20の充填率とに応じて、満充填時の水素タンク20の内部温度を精度良く予測することができる。マップを参照する時に用いる水素タンク20の内部温度と水素タンクの充填率とは、ステップS140で圧力センサ36および温度センサ34から取得した検出信号に基づいて求めることができる。また、このとき、さらに外気温の検出値を用いて、水素タンク20からの放熱を考慮した補正を行なっても良い。マップを参照して求めた満充填時の水素タンク20の内部温度の予測値が基準値を超えたときには、その都度、例えば予め定めた一定時間だけタンク冷却運転を行なうことにより、実際に満充填となる時には、水素タンク20の内部温度を上記基準値よりも低く抑えることができる。また、水素充填終了時の水素タンク20の内部温度のマップとして、満充填よりも少ない充填量に対応したマップも同様に用意するならば、満充填よりも少ない量を目標値として水素充填を行なう際にも、同様の制御が可能になる。あるいは、満充填時の水素タンク20の内部温度の予測は、熱力学的な計算に基づいて理論的に行なうこととしても良い。
【0079】
D2.変形例2:
第1および第2実施例では、水素タンク20の温度センサ34および圧力センサ36の検出信号は車両15側の制御部38が取得し、水素供給装置側の弁等を制御する必要が生じた場合に、車両15と水素供給装置との間で通信を行なうこととしたが、異なる構成としても良い。例えば、各センサの検出信号を、その都度通信により水素供給装置側に伝えて、各部の制御に係る判断を、すべて水素供給装置の制御部58において行ない、制御部58から車両15側へと駆動信号を送ることとしても良い。実施例と同様の判断が行なわれ、同様の動作が行なわれるならば、判断に係る処理の一部または全部を、車両15側と水素供給装置側とでいかように分担しても良い。
【0080】
また、第1および第2実施例では、水素タンク20への水素充填の動作を制御する開閉弁57や流量調整弁52等は水素供給装置側に設け、水素タンク20から水素を回収する動作を制御する開閉弁32は車両15側に設けたが、異なる構成としても良い。水素タンク20への水素充填の動作を制御する開閉弁57や流量調整弁52等は、水素ガス充填路22、62のいずれかの場所に設ければ良く、水素タンク20から水素を回収する動作を制御する開閉弁32は、水素ガス戻し流路24、63のいずれかの箇所に設ければよい。
【0081】
また、第1および第2実施例では、水素タンク20は、単一のタンクから成ることとしたが、複数のタンクから成ることとしても良い。複数のタンクを設ける場合には、例えば、複数のタンクを並列に接続して、同じように水素が消費されると共に、同じように水素が充填される構成とすることができる。また、水素ガスを消費する際には複数のタンクを順次使用し、水素タンクを充填する際には、充填量が低下したタンクに対してだけ充填することとしても良い。
【0082】
また、第1および第2実施例では、車両15が搭載する水素タンク20は、高圧水素ガスを貯蔵する水素ガスボンベとしたが、異なる構成としても良い。例えば、水素吸蔵合金を内部に備える水素タンクであっても良い。水素吸蔵合金を備える水素タンクでは、水素吸蔵合金に水素を吸蔵させることにより水素を蓄えると共に、水素タンクの内壁と水素吸蔵合金の間の空間において、圧縮ガスとして水素ガスを蓄えることができる。水素吸蔵合金は、一般に、水素吸蔵時に発熱するため、このような水素タンクに水素を充填する際には、いわゆる断熱圧縮による発熱に加えて、水素吸蔵合金が水素を吸蔵することによる発熱によって、水素タンク内が昇温する。このような水素タンクを用いる場合にも、例えば水素タンク内の温度に応じて、水素タンク内の昇温した水素ガスの一部を回収すると共にタンク内の水素ガスよりも低温な水素ガスの供給を継続することにより、水素タンク内の温度上昇を抑える同様の効果を得ることができる。
【0083】
D3.変形例3:
実施例では、水素タンク20を搭載する車両15は、駆動用電源として燃料電池を搭載する電気自動車としたが、異なる構成としても良い。例えば、駆動動力源として水素エンジンを搭載する車両が備える水素タンクに対して水素ガスを補充する際にも、本発明を適用することができる。また、車両以外の移動体であっても良く、駆動エネルギを発生するためのエネルギ源である水素を貯蔵する水素タンクを搭載する移動体に対して、水素を補充するシステムにおいて、本願は広く適用可能である。
【0084】
また、移動体に搭載された水素タンクに対して水素を補充する以外の構成とすることもできる。例えば、移動体に搭載されていない単独の水素タンクに対して、水素ガス供給装置から水素ガスを充填する場合に、本願発明を適用しても良い。このような場合であっても、水素充填時に水素タンク内の温度上昇を抑制する動作の信頼性を高める同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0085】
10,110…水素充填システム
15…車両
18,118…水素供給装置
19…接続配管
20…水素タンク
22…第1水素ガス充填路
23,25…開口部
24…第1水素ガス戻し流路
26…燃料供給路
30…コネクタ受け部
31…接続センサ
32…開閉弁
33…逆止弁
34…温度センサ
36…圧力センサ
37,59…アンテナ部
38…制御部
40…ライナ
42…補強層
44…口金
45,46…バルブ
50…水素ガス貯蔵部
51…流路切替弁
52…流量調整弁
53…レギュレータ
54…冷却器
55…バッファタンク
56…コンプレッサ
57…開閉弁
58…制御部
60,61…開口部
62…第2水素ガス充填路
63…第2水素ガス戻し流路
64…第1分岐路
65…第2分岐路
66…水素ガス回収流路
68…コネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素タンクに対して水素充填装置から水素ガスを補充する水素充填システムであって、
前記水素充填装置側と前記水素タンクとを連通させて、前記水素タンクに対して水素ガスを供給する水素ガス充填路と、
前記水素タンクと前記水素充填装置側とを連通させて、前記水素タンク内の水素ガスを前記水素充填装置側へと導く水素ガス戻し流路と、
前記水素ガス戻し流路に設けられた開閉弁であって、開弁することによって前記水素タンク内の水素ガスの前記水素充填装置側への流入を許容すると共に、閉弁することによって前記水素タンクから前記水素充填装置側への水素の流入を抑制する開閉弁と、
前記水素充填装置から前記水素タンクへの水素充填を行なう際に、前記水素タンク内が予め設定した高温状態に該当する場合には、前記水素ガス充填路を介した水素ガスの供給を継続する状態で、前記開閉弁を閉弁状態から開弁状態へと切り替えさせる戻り状態切り替え制御部と
を備える水素充填システム。
【請求項2】
請求項1記載の水素充填システムであって、さらに、
前記水素タンク内の温度を検出する温度センサを備え、
前記戻り状態切り替え制御部は、前記温度センサが検出した前記水素タンク内の温度が、予め定めた水素戻し基準温度を超える場合に、前記高温状態に該当すると判断する
水素充填システム。
【請求項3】
請求項2記載の水素充填システムであって、
前記戻り状態切り替え制御部が前記開閉弁を開弁させたときに、前記水素戻し流路を介して前記水素タンクから前記水素充填装置側へと流れる水素ガス流量は、前記水素ガス充填路を介して前記水素充填装置側から前記水素タンクへと供給される水素ガス流量と等しく、
前記戻り状態切り替え制御部は、前記開閉弁を開弁させた後に、前記水素タンク内の温度が、前記水素戻し基準温度よりも低温である戻し停止基準温度以下となった場合に、前記開閉弁を閉弁させる
水素充填システム。
【請求項4】
請求項3記載の水素充填システムであって、
前記水素充填装置は、前記水素ガスを、前記水素タンクの満充填時よりも高圧で貯蔵する高圧貯蔵部を備え、
前記水素ガス充填路は、
前記水素タンクに接続する下流側の圧力が一定となる状態で、水素ガスの供給を許容するレギュレータと、
前記水素ガス充填路を流れる水素ガスを、前記レギュレータを迂回するように導く分岐路と、
水素ガスが流れる経路を、前記レギュレータを経由する経路と、前記分岐路を経由する経路と、で切り替える切替弁と、
を備え、
前記水素充填システムは、さらに、
前記開閉弁が閉弁しているときには、水素ガスが前記分岐路を経由し、前記開閉弁が開弁しているときには、水素ガスが前記レギュレータを経由するように、前記切替弁を駆動する供給流路切り替え制御部を備える
水素充填システム。
【請求項5】
請求項2記載の水素充填システムであって、さらに、
前記水素タンクにおける充填量を反映する値を検出する充填量検出部を備え、
前記戻り状態切り替え制御部は、前記充填量検出部が検出した前記水素タンクにおける充填量を反映する値が、満充填よりも少ない充填量に対応する基準値に達したときに、前記温度センサが検出した前記水素タンク内の温度が、前記基準値に応じて定めた前記水素戻し基準温度を超える場合に、前記開閉弁を開弁させる
水素充填システム。
【請求項6】
請求項5記載の水素充填システムであって、
前記戻り状態切り替え制御部が前記開閉弁を開弁させたときに、前記水素戻し流路を介して前記水素タンクから前記水素充填装置側へと流れる水素ガス流量は、前記水素ガス充填路を介して前記水素充填装置側から前記水素タンクへと供給される水素ガス流量よりも少ない
水素充填システム。
【請求項7】
請求項1ないし6いずれか記載の水素充填システムであって、
前記水素充填装置は、前記水素ガス充填路を介して前記水素充填装置から前記水素タンクへと供給される水素ガスを冷却する冷却器を備える
水素充填システム。
【請求項8】
請求項1ないし7いずれか記載の水素充填システムであって、
前記水素充填装置は、
水素ガスを、前記水素タンクの満充填時よりも高圧で貯蔵する高圧貯蔵部と、
水素ガスを蓄えることが可能なバッファタンクと、
前記バッファタンク内の水素を昇圧して前記高圧貯蔵部に供給する昇圧供給部と、
を備え、
前記水素ガス充填路は、前記高圧貯蔵部と前記水素タンクとを接続して、前記高圧貯蔵部から前記水素タンクへと水素ガスを導き、
前記水素ガス戻し流路は、前記水素タンクと前記バッファタンクとを接続し、前記水素タンクと前記バッファタンクとの内部の圧力差を利用して、前記水素タンクから前記バッファタンクへと水素ガスを導く
水素充填システム。
【請求項9】
請求項1ないし8いずれか記載の水素充填システムであって、
前記水素タンクは、移動体に搭載されて該移動体の駆動用燃料としての水素を蓄えるタンクである
水素充填システム。
【請求項10】
水素タンクに対して水素を補充する水素充填方法であって、
前記水素タンクに対して、水素ガスを供給する第1の工程と、
水素ガスの供給を受ける前記水素タンクの内部温度を検出する第2の工程と、
前記第1の工程で前記水素タンクに水素ガスを供給する際に、前記第2の工程で検出した前記内部温度が予め定めた水素戻し基準温度を超える場合に、前記第1の工程による水素ガスの供給を継続しつつ、前記水素タンクに充填した水素ガスの一部を前記水素タンクから回収する第3の工程と
を備える水素充填方法。
【請求項11】
請求項10記載の水素充填方法であって、
前記第3の工程で前記水素タンクから回収する水素ガス量は、前記第1の工程によって前記水素タンクに供給する水素ガス量と等しく、
前記水素充填方法は、さらに、
前記第3の工程における前記水素タンクから水素ガスを回収する動作を開始した後に、前記第2の工程で検出した前記内部温度が、前記水素戻し基準温度よりも低温である戻し停止基準温度以下となった場合に、前記水素タンクから水素ガスを回収する動作を停止する第4の工程を備える
水素充填方法。
【請求項12】
請求項10記載の水素充填方法であって、さらに、
前記水素タンクにおける充填量を反映する値を検出する第4の工程を備え、
前記第3の工程は、前記第1の工程で前記水素タンクに水素ガスを供給する際に、前記第4の工程で検出した前記充填量を反映する値が予め定めた基準値に達したときに、前記第2の工程で検出した前記内部温度が前記水素戻し基準温度を超える場合に、前記第1の工程による水素ガスの供給を継続しつつ、前記水素タンクに充填した水素ガスの一部を前記水素タンクから回収する
水素充填方法。
【請求項13】
請求項12記載の水素充填方法であって、
前記第3の工程で前記水素タンクから回収する水素ガス量は、前記第1の工程によって前記水素タンクに供給する水素ガス量よりも少ない
水素充填方法。
【請求項14】
請求項10ないし13いずれか記載の水素充填方法であって、
前記第1の工程は、前記水素タンクへの供給に先立って、水素ガスを冷却する工程を含む
水素充填方法。
【請求項15】
請求項10ないし14いずれか記載の水素充填方法であって、
前記水素タンクは、移動体に搭載されて該移動体の駆動用燃料としての水素を蓄えるタンクである
水素充填方法。
【請求項16】
駆動エネルギを発生するためのエネルギ源として水素を用いる移動体であって、
水素を蓄える水素タンクと、
前記移動体の外部に開口する第1の開口部を有し、前記第1の開口部から前記水素タンクへと水素ガスを導く水素ガス充填路と、
前記移動体の外部に開口する第2の開口部を有し、前記水素タンクから前記第2の開口部へと水素ガスを導く水素ガス戻し流路と
を備える移動体。
【請求項17】
請求項16記載の移動体であって、
前記水素タンクの内部温度を検出する温度センサと、
前記水素ガス戻し流路に設けられ、開弁することによって前記水素ガス戻し流路を介した前記水素タンクからの水素ガスの流出を可能にすると共に、閉弁することによって前記水素ガス戻し流路を介した水素タンクからの水素ガスの流出を抑制する開閉弁と、
前記水素ガス充填路を介して前記水素タンクへと水素ガスが充填される際に、前記温度センサが検出した前記内部温度が予め定めた水素戻し基準温度を超える場合に、前記開閉弁を閉弁状態から開弁状態に切り替えさせる制御部と
を備える移動体。
【請求項18】
移動体に搭載されて該移動体の駆動用燃料としての水素を蓄える水素タンクに対して、水素の補充を行なう水素充填装置であって、
前記水素タンクに連通して前記移動体の外部に開口する第1の開口部に接続可能な第2の開口部を有し、前記第2の開口部を介して前記第1の開口部に対して水素ガスを供給する水素ガス充填路と、
前記水素タンクに連通して前記移動体の外部に開口する第3の開口部に接続可能な第4の開口部を有し、前記第4の開口部を介して前記第3の開口部から水素ガスを供給される水素ガス戻し流路と、
前記水素ガス充填路および前記水素ガス戻し流路を内部に備える接続配管と、
前記接続配管の端部に設けられ、前記第2の開口部および前記第4の開口部を備え、前記第2の開口部および前記第4の開口部の配置が、前記移動体における前記第1の開口部および前記第3の開口部の位置にそれぞれ対応する配置となっており、前記移動体表面における前記第1の開口部および前記第3の開口部の近傍に設けられた移動体側係合部に係合可能な供給装置側係合部を有し、前記供給装置側係合部を前記移動体側係合部に係合させることにより、前記第1の開口部に対する前記第2の開口部の接続、および、前記第3の開口部に対する前記第4の開口部の接続を、同時に実現可能となる接続部と
を備える水素充填装置。
【請求項19】
水素タンクに対して水素の補充を行なう水素充填装置であって、
満充填状態の前記水素タンクよりも高圧で水素ガスを貯蔵する水素ガス貯蔵部と、
水素ガスを貯蔵可能なバッファタンクと、
一端が前記水素ガス貯蔵部に接続されると共に、他端に第1の開口部を有し、前記第1の開口部を介して前記水素タンクに連通可能となる水素ガス充填路と、
一端が前記バッファタンクに接続されると共に、他端に第2の開口部を有し、前記第2の開口部を介して前記水素タンクに連通可能となる水素ガス戻し流路と、
前記バッファタンクと前記水素ガス貯蔵部とを接続し、前記バッファタンク内の水素ガスを昇圧しながら前記水素ガス貯蔵部に供給する水素ガス回収流路と
を備える水素充填装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−17406(P2011−17406A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163352(P2009−163352)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】