説明

水素処理システム

【課題】電極構造体での水素処理の停止を、燃焼器が高温になることを防止すると共に、無駄な運転によるエネルギー損失を抑制して行う水素処理システムを提供する。
【解決手段】電極構造体20をイオンポンプとして機能させる水素精製モードでの運転の実行中に、STEP1でシステム停止指示がなされたときに、運転制御手段61は、STEP2,3で改質装置30の熱交換器31への原燃料と改質空気の供給を停止して、STEP4でタイマをスタートし、STEP5〜STEP7のループを実行して水素精製モードでの運転を継続する。STEP6で電極構造体20の電極間電圧Vcellの変化率がVRth以下となり、且つSTEP7でタイマがタイムアップしたときに、STEP8に進んで、運転制御手段61は水素精製モードでの運転を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質装置により生成した改質ガス中の水素を処理する水素処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、炭化水素を主体とする原燃料を改質して水素リッチな改質ガスを生成する改質装置と、アノード電極とカソード電極の間に電解質膜を配置して構成された電極構造体(DMS:Dual Mode Stack)とを備えて、改質装置から電極構造体に改質ガスを供給し、電極構造体で改質ガス中の水素を処理する水素処理システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載された水素処理システムにおいては、電極構造体をイオンポンプとして機能させて、改質装置により得られる改質ガスから水素を精製する水素精製モードでの運転と、電極構造体を燃料電池として機能させて、改質ガス中の水素と酸化剤ガスとの反応により電流を出力する発電モードでの運転とが行なわれている。
【0004】
水素精製モード或いは発電モードでの運転時には、電極構造体での精製又は発電の処理に伴なって改質ガスの水素が消費されるが、改質ガス中の全ての水素が消費されるわけではなく、消費されなかった水素が残存するオフガスが改質装置の燃焼器に排気される。
【0005】
そして、燃焼器でオフガス中の水素が燃焼し、その燃焼熱により、原燃料と水が供給される熱交換器が加熱されて原燃料と水蒸気との混合燃料が生成され、この混合燃料が改質器に送出されて水蒸気改質により改質ガスが生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−120421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した水素精製モード或いは発電モードでの運転を停止するときには、改質装置に対する原燃料の供給を停止するが、原燃料の供給を停止しても直ちには改質装置での改質処理が終了しないため、ある程度の間は電極構造体に改質ガスが供給される状態が継続する。
【0008】
そして、このように、電極構造体に改質ガスが供給された状態で水素精製モード或いは発電モードでの運転を停止すると、電極構造体で水素が消費されなくなるため、水素濃度が高いオフガスが燃焼器に供給されて燃焼器での燃焼量が増大する。この場合、燃焼器が高温になることにより、燃焼器自身の劣化や燃焼器の周辺デバイスの破損等が生じるおそれがある。
【0009】
そこで、燃料量の増大に対応できる能力を有する大型の燃焼器(大容量の触媒燃焼器等)を備えることも考えられるが、この場合には、水素処理システムのサイズが大きくなってしまうという不都合がある。
【0010】
また、小型の燃焼器で対処するには、改質装置に対する原燃料の供給量を徐々に減少させてから水素精製モード或いは発電モードでの運転を停止し、これにより、水素濃度が高いオフガスが燃焼器に排気されることを防止することが考えられる。しかし、この場合には、改質装置を停止するまでの時間が長くなり、また、水素精製モードでの運転又は発電モードでの運転を停止するまでの時間も長くなる。そのため、無駄な運転を行なうことによるエネルギー損失が生じるという不都合がある。
【0011】
そこで、本発明は、電極構造体での水素処理の停止を、改質装置の燃焼器が高温になることを防止すると共に、無駄な運転によるエネルギー損失を抑制して行うことができる水素処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記目的を達成するためになされたものであり、原燃料を改質して改質ガスを生成すると共に、改質処理の熱源として燃焼器を有する改質装置と、ガス流路を有するアノード電極及びカソード電極を、電解質膜を挟んで配置して構成された電極構造体と、前記アノード電極のガス流路と前記燃焼器間を接続したアノードオフガス流路と、前記アノード電極と前記カソード電極間に所定電圧を印加した状態で、前記アノード電極に前記改質ガスを供給することにより、前記電極構造体をイオンポンプとして機能させて、前記改質ガス中の水素を電解質膜を透過させてカソード電極側に移送する水素精製モードでの運転と、前記アノード電極に前記改質ガスを供給すると共に、前記カソード電極に酸化剤ガスを供給することにより、前記電極構造体を燃料電池として機能させて、前記アノード電極と前記カソード電極間に接続された電気負荷に電力を供給する発電モードでの運転とのうちの少なくともいずれか一方を含む水素処理運転を行う運転制御手段とを備えた水素処理システムの改良に関する。
【0013】
そして、本発明の第1の態様は、前記運転制御手段は、前記水素処理運転の実行中に、所定の運転停止条件が成立したときには、前記改質装置に対する原燃料の供給を停止した後、所定時間が経過したときに前記水素処理運転を停止することを特徴とする。
【0014】
かかる本発明によれば、前記水素処理運転の実行中に前記運転停止条件が成立したときに、前記運転制御手段は、前記改質装置に対する原燃料の供給を停止した後、所定時間が経過したときに前記水素処理運転を停止する。この場合、前記改質装置に対する原燃料の供給が停止した後も、前記水素処理運転が継続して前記電極構造体で水素が消費される。そのため、前記アノードオフガス流路を介して前記燃焼器に水素濃度が高いオフガスが排気され、燃焼量の増加により前記燃焼器が高温になることを防止することができる。そして、改質装置に対する原燃料の供給停止により、前記電極構造体への改質ガスの供給量が急速に減少して、前記燃焼器に排気されるオフガス中の水素濃度が急速に低下するため、前記所定時間は短時間に設定することができる。そのため、前記水素処理運転を停止するときの前記改質装置及び前記電極構造体と、前記電極構造体に接続された機器での無駄なエネルギー損失を抑制することができる。
【0015】
また、上記第1の態様において、前記電極構造体のアノード電極とカソード電極間の電圧を検出する電極間電圧検出手段を備え、前記運転制御手段は、前記水素処理運転の実行中に、所定の運転停止条件が成立したときには、前記改質装置に対する原燃料の供給を停止した後、前記電極間電圧検出手段の検出電圧が所定の電圧安定条件を満たし、且つ、前記所定時間が経過したときに、前記水素処理運転を停止することを特徴とする。
【0016】
かかる本発明において、前記電極間電圧検出手段により検出される前記電極構造体のアノード電極とカソード電極間の電圧が、前記電圧安定条件を満たしているときは、前記改質装置の各構成要素の温度が、性能を維持できる適正な温度範囲に入っていると判断することができる。そこで、前記改質装置に対する原燃料の供給を停止した後、前記電極間電圧検出手段の検出電圧が前記電圧安定条件を満たし、且つ、前記所定時間が経過したときに、前記水素処理運転を停止することによって、前記燃焼器を含めて前記改質装置が適正な状態となっているときに前記水素処理運転を停止して、前記燃焼器に水素濃度が高いオフガスが排気されることをより確実に防止することができる。
【0017】
次に、本発明の第2の態様は、前記燃焼器の温度を検出する燃焼器温度検出手段を備え、前記運転制御手段は、前記水素処理運転の実行中に、所定の運転停止条件が成立したときには、前記改質装置に対する原燃料の供給を停止した後、前記燃焼器温度検出手段の検出温度が所定温度以下になったときに、前記水素処理運転を停止することを特徴とする。
【0018】
かかる本発明によれば、前記水素処理運転の実行中に前記運転停止条件が成立したときに、前記運転制御手段は、前記改質装置に対する原燃料の供給を停止した後、前記燃焼機器温度検出手段の検出温度が前記所定温度以下になったときに、前記水素処理運転を停止する。この場合、前記改質装置に対する原燃料の供給が停止した後も、前記水素処理運転が継続して前記電極構造体で水素が消費される。そのため、前記アノードオフガス流路を介して前記燃料器に水素濃度の高いオフガスが排気され、燃焼量の増加により前記燃焼器が高温になることを防止することができる。そして、前記改質装置に対する原燃料の供給停止により、前記電極構造体への改質ガスの供給量が急速に減少して、前記燃焼器に排気されるオフガス中の水素濃度が急速に低下するため、前記燃焼器の温度は短時間で前記所定温度以下になる。そのため、前記水素処理運転を停止するときの前記改質装置及び前記電極構造体と、前記電極構造体に接続された機器での無駄なエネルギー損失を抑制することができる。
【0019】
また、上記第2の態様において、前記電極構造体のアノード電極とカソード電極間の電圧を検出する電極間電圧検出手段を備え、前記運転制御手段は、前記水素処理運転の実行中に、所定の運転停止条件が成立したときには、前記改質装置に対する原燃料の供給を停止した後、前記電極間電圧検出手段の検出電圧が所定の電圧安定要件を満たし、且つ、前記燃焼器温度検出手段の検出温度が前記所定温度以下になったときに、前記水素処理運転を停止することを特徴とする。
【0020】
かかる本発明において、前記電極間電圧検出手段により検出される前記電極構造体のアノード電極とカソード電極間の電圧が、前記電圧安定条件を満たしているときは、前記改質装置の各構成要素の温度が、性能を維持できる適正な温度範囲に入っていると判断することができる。そこで、前記改質装置に対する原燃料の供給を停止した後、前記電極間電圧検出手段の検出電圧が前記電圧安定条件を満たし、且つ、前記燃焼器温度検出手段の検出温度が前記所定温度以下になったときに、前記水素処理運転を停止することによって、前記燃焼器を含めて前記改質装置が適正な状態となっているときに前記水素処理運転を停止することで、前記燃焼器に水素濃度が高いオフガスが排気されることをより確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】水素処理システムの水素精製モードでの作動状態を示した説明図。
【図2】水素処理システムの発電モードでの作動状態を示した説明図。
【図3】水素処理システムの停止処理の第1実施形態によるフローチャート。
【図4】原燃料の供給停止と電極構造体での水素消費の停止を同じタイミングで行った場合の触媒燃焼器の温度変化を示した説明図。
【図5】原燃料の供給停止後に、電極構造体での水素消費を停止した場合の触媒燃焼器の温度変化を示した説明図。
【図6】水素処理システムの停止処理の第2実施形態によるフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態について、図1〜6を参照して説明する。図1を参照して、本実施形態の水素処理システム10は、燃料電池及びイオンポンプとして機能する電極構造体20(以下、DMS(Dual Mode Stack)20という)、炭化水素を主体とする原燃料(都市ガス等)と水蒸気との混合燃料を改質して改質ガスを生成する改質装置30、DMS20に酸化剤ガスとして空気を供給するブロワ50、DMS20により精製された水素ガスを除湿してさらに精製する水素高純度化処理器55、及び、水素処理システム10の全体的な制御を行うコントローラ60を備えている。なお、水素高純度化処理器55で精製された水素ガスは、図示しない圧縮部により圧縮され、図示しない充填部により燃料電池車両の水素ボンベ等に充填される。
【0023】
改質装置30は、原燃料に含まれるメタン(CH)、エタン(C)、プロパン(C)、ブタン(C10)等の炭化水素に、水蒸気を混合して混合燃料を生成する熱交換器(蒸発器)31、熱交換器31に水蒸気発生用の熱を付与する触媒燃焼器35(本発明の燃焼器に相当する)、混合燃料を水蒸気改質することにより改質ガスを生成する改質器32、シフト反応により改質ガス中の一酸化炭素(CO)及び水蒸気を二酸化炭素(CO)及び水素(H)に変換するCO変成器(シフト反応器)33、及び、少量の空気を改質ガスに付加し、選択的に吸収した一酸化炭素と空気中の酸素を反応させて二酸化炭素に変換するCO除去器(選択酸化反応器)34を備えている。
【0024】
熱交換器31には、原燃料と水と改質用の空気(以下、改質空気という)が供給され、熱交換器31内で加熱されることによって、原燃料と水蒸気との混合燃料が改質空気と混ざった状態で、改質器32に供給される。
【0025】
改質器32は、内部に改質触媒としてパラジウム(Pd)系の貴金属触媒を備えたオートサーマル式の改質器であり、熱交換器31で生成された混合燃料を改質空気によって部分酸化させて、水素リッチな改質ガスを生成する。
【0026】
触媒燃焼器35には、触媒燃焼器35の温度を検出する温度センサ35a(本発明の燃焼器温度検出手段に相当する)が設けられている。同様に、改質器32、CO変成器33、及びCO除去器34にも、これらの温度を検出する温度センサ32a,33a,34aが個別に設けられている。また、DMS20のアノード電極22とカソード電極23間の電圧を検出する電極間電圧センサ65(本発明の電極間電圧検出手段に相当する)が設けられている。
【0027】
DMS20は、固体高分子電解質膜21をアノード電極22とカソード電極23で挟んだ電解質膜・電極構造部を有し、この電解質膜・電極構造部を図示しないセパレータと交互に積層したスタックを構成している。この場合、電解質膜・電極構造部とセパレータの間にガス流路が形成される。
【0028】
DMS20は、改質ガスをアノード電極22に供給するためのアノード入口24、アノード電極22から使用済みの改質ガス(アノードオフガス)を排出するためのアノード出口25、カソード電極23に酸化剤ガスとして空気を供給するためのカソード入口27、及び、カソード電極23から使用済みの空気(カソードオフガス)を排出し、又、改質ガスから精製された水素を排出するためのカソード出口26を備えている。
【0029】
アノード入口24とCO除去器34は、改質ガス流路40により接続され、アノード出口25と触媒燃焼器35は、アノードオフガス流路44により接続されている。改質ガス流路40には、三方電磁弁41が配置されている。三方電磁弁41には、アノードオフガス流路44と連通したアノードバイパス流路42が接続されている。
【0030】
三方電磁弁41は、改質ガス流路40がアノード入口24と連通すると共にアノードバイパス流路42から遮断されたガス流通状態と、改質ガス流路40がアノードバイパス流路42に連通すると共にアノード入口24から遮断されたガス遮断状態とを切換える。
【0031】
アノードオフガス流路44のアノードバイパス流路42との合流箇所の上流側には、電磁弁43が設けられている。カソード入口27には、カソード入口流路52が接続されている。カソード入口流路52には、電磁弁51とブロワ50が設けられている。
【0032】
カソード出口26にはカソードオフガス流路45が接続され、カソードオフガス流路45には電磁弁48が設けられている。また、カソードオフガス流路45は、電磁弁48の上流側でカソードパージ流路46と連通し、カソードパージ流路46は電磁弁47を介してアノードオフガス流路44に連通している。カソードオフガス流路45には、水素ガス流路53が接続されており、水素ガス流路53の下流側は、電磁弁54を介して水素高純度化処理器55に接続されている。
【0033】
コントローラ60は、CPU(Central Processing Unit)やメモリ等により構成された電子ユニットであり、温度センサ32a,33a,34a,35aの温度検出信号と、電極間電圧センサ65の電圧検出信号が、コントローラ60に入力される。また、コントローラ60から出力される制御信号によって、三方電磁弁41、電磁弁43,47,48,51,54、ブロワ50の作動と、熱交換器31への原燃料及び改質空気の供給/停止が制御される。
【0034】
また、CPUに水素処理システム10の制御用プログラムを実行させることによって、コントローラ60が、運転制御手段61として機能する。運動制御手段61は、本発明の水素処理運転として、DMS20をイオンポンプとして機能させる水素精製モードでの運転と、DMS20を燃料電池として機能させる発電モードでの運転とを切換えて実行する。
【0035】
以下、水素精製モード及び発電モードでの水素処理システム10の動作について説明する。
【0036】
先ず、水素精製モードでの運転を行なうときの水素処理システムの動作について、図1を参照して説明する。運転制御手段61は、電磁弁47,48,51を閉弁状態にすると共に、電磁弁43,54を開弁状態とする。また、運転制御手段61は、三方電磁弁41を、改質ガス流路40がアノード入口24に連通すると共にアノードバイパス流路42から遮断されたガス流通状態として、改質装置30からアノード電極22に改質ガスを供給する。
【0037】
そして、運転制御手段61は、DMS20のアノード電極22とカソード電極23間に、アノード電極22を高電位側として、所定電圧を印加する。これにより、アノード電極22では、以下の式(1)の反応が起こって水素イオン(H)が発生する。
【0038】
→ 2H+2e・・・・・ (1)
そして、水素イオンは、固体高分子電解質膜21を透過してカソード電極23に移動し、カソード電極23では、以下の式(2)の反応が惹起されると共に昇圧される。
【0039】
2H+2e → H・・・・・ (2)
このようにして、アノード電極22からカソード電極23に、水素イオンが移動することにより、改質ガスから高純度の水素ガスが精製される。この水素ガスは、水素ガス流路53を介して水素高純度化処理器55に送出され、水素高純度化処理器55により除湿と精製の処理が施される。
【0040】
また、アノード電極22で水素イオンが抽出された後の改質ガス(抽出されなかった水素を含む)は、アノードオフガスとして、アノード出口25からアノードオフガス流路44を経由して触媒燃焼器35に送出される。アノードオフガス中の水素は触媒燃焼器35で燃焼し、その燃焼熱が熱交換器31に与えられる。
【0041】
次に、発電モードでの運転を行うときの水素処理システム10の動作について、図2を参照して説明する。発電モードでは、DMS20のアノード電極22とカソード電極23の間に接続される電気負荷70が利用される。
【0042】
運転制御手段61は、電磁弁47,54を閉弁状態とすると共に、電磁弁43,48,51を開弁状態とする。また、運転制御手段61は、三方電磁弁41を、改質ガス流路40がアノード入口24に連通されると共にアノードバイパス流路42から遮断されたガス供給状態として、改質装置30からアノード電極22に改質ガスを供給する。
【0043】
また、運転制御手段61は、ブロワ50を作動させて、カソード入口流路52を介してカソード入口27に空気(酸化剤ガス)を供給する。これにより、DMS20では、アノード電極22で、以下の式(3)の反応が起こり、水素ガス(H)が電子eを放出して水素イオン(H)となる。
【0044】
→ 2H+2e・・・・・ (3)
水素イオンは、固体高分子電解質膜21中を透過し、カソード電極23において、カソード入口27から供給される空気中の酸素ガス(O)と、カソード電極23に供給される電子eとにより、以下の式(4)の反応が起こって水が生成される。
【0045】
1/2O+2H+2e→ HO ・・・・・ (4)
そして、上記式(3)、(4)に示したように、アノード電極22から電気負荷70を介してカソード電極23に電流が流れ、DMS20から電気負荷70に電力が供給される。
【0046】
また、アノード電極22で水素イオンが抽出された後の改質ガス(抽出されなかった水素を含む)は、アノードオフガスとして、アノード出口25からアノードオフガス流路44を経由して触媒燃焼器35に送出される。アノードオフガス中の水素は、触媒燃焼器35で燃焼してその燃焼熱が熱交換器31に与えられる。
【0047】
次に、図3に示したフローチャートに従って、水素精製モードでの運転実行中に、水素処理システム10の停止指示がなされたときの運転制御手段61による処理の第1実施形態について説明する。
【0048】
[第1実施形態]
水素精製モードでの運転実行中に、STEP1でシステム停止指示がなされると、STEP2に進む。そして、運転制御手段61は、STEP2,3で熱交換器31への原燃料と改質空気の供給を停止する。
【0049】
次のSTEP4で、運転制御手段61はタイマをスタートさせ、続くSTEP5〜STEP7のループを、STEP7でタイマがタイムアップするまで繰り返し実行する。STEP5〜STEP7のループにおいて、運転制御手段61は、STEP5で水素精製モードでの運転(DMS20のアノード電極22とカソード電極23間に、所定電圧が印加された状態)を継続しながら、STEP6で電極間電圧センサ65により検出されるDMS20のアノード電極22とカソード電極23間の電圧Vcellの変化率(所定時間あたりの電圧Vcellの変化幅)が所定値VRth以下(本発明の所定の電圧安定条件に相当する)であるか否かを判断する。
【0050】
ここで、所定値VRthは、DMS20における水素の精製が安定的に行われており、その前提として、触媒燃焼器35の温度及び改質器32の温度が、規定性能を維持できる温度範囲に入っていると判断することができる値に設定されている。
【0051】
なお、本発明の所定の電圧安定条件を、DMS20のアノード電極22とカソード電極23間の電圧Vcellが、予め設定された所定時間内で予め設定された電圧範囲内に維持されることに設定してもよい。
【0052】
そして、STEP6で、DMS20のアノード電極22とカソード電極23間の電圧Vcellの変化率がVRth以下であるときはSTEP7に進み、この変化率がVRthよりも高いときにはSTEP5に分岐する。
【0053】
STEP7で、運転制御手段61は、タイマがタイムアップしているか否かを判断し、タイマがタイムアップしているときはSTEP8に進み、タイマがタイムアップしてないときにはSTEP5に分岐する。ここで、タイマがタイムアップするまでの設定時間(本発明の所定時間に相当する)は、熱交換器31への原燃料と改質空気の供給を停止した時点から、DMS20のアノード極に供給される改質ガスの量が減少して、水素精製モードでの運転を停止しても、触媒燃焼器35の温度が閾値Tth(触媒燃焼器35の劣化や周辺デバイスの劣化が生じることを防止し得る温度)以下になるまでに要する時間を想定して設定される。
【0054】
STEP8で、運転制御手段61は、DMS20のアノード電極22とカソード電極23間への所定電圧の印加を停止して水素精製モードでの運転を停止し、STEP9に進んで水素処理システム10の停止処理を終了する。
【0055】
次に、図4,5を参照して、図3に示した水素処理システム10の停止処理による効果について説明する。図4,5は、横軸を時間(t)に設定し、縦軸を触媒燃焼器35の温度(Tcat),DMS20での水素消費量(水素の精製量),及び熱交換器31への原燃料の供給量に設定して、触媒燃焼器35の温度変化と、熱交換器31への原燃料の停止タイミング及び水素精製モードでの運転停止のタイミングを示したものである。
【0056】
先ず、図4は、水素精製モードでの運転停止の停止処理を、熱交換器31への原燃料と改質空気の供給停止のタイミングと、DMS20の水素精製モードでの運転停止のタイミングを同一にして行った場合を示している。この場合は、t10で熱交換器31への原燃料と改質空気の供給が停止すると共に、DMS20の水素精製モードでの運転が停止して、DMS20での水素消費量がゼロになっている。
【0057】
ここで、t10で熱交換器31への原燃料と改質空気の供給を停止しても、改質装置30での改質処理が停止するまでには、ある程度の遅れ時間が生じる。そのため、t10でDMSでの水素消費量がゼロになると、DMS20のアノード電極22に供給された水素リッチな改質ガスが、水素の精製処理がなされずにそのままアノードオフガス流路44を経由して、触媒燃焼器35に排気される。
【0058】
そのため、触媒燃焼器35での燃焼量が急増して、触媒燃焼器35の温度Tcatが急速に上昇し、触媒燃焼器35の温度Tcatが上限閾値Tthを超えている。この場合には、触媒燃焼器35の劣化や、触媒燃焼器35の周辺デバイスの劣化が生じるおそれがある。
【0059】
それに対して、図5は、図3に示したフローチャートの処理により、水素精製モードでの運転の停止処理を、熱交換器31への原燃料と改質空気の供給停止のタイミングよりも、DMS20の水素精製モードでの運転停止のタイミングを遅くした場合を示している。この場合は、t20で熱交換器31への原燃料の供給が停止しているが、DMS20の水素精製モードでの運転は、水素の精製量を減少させて継続している。なお、DMS20の水素精製モードでの運転を、水素の精製量を減少させずに継続してもよい。
【0060】
そして、t21(図3のSTEP6,STEP7の条件が共に成立した時点)で、DMS20の水素モードでの運転が停止して、DMS20での水素の消費量がゼロになっている。このように、t20〜t21の間は、水素精製モードでの運転が継続されて、DMS20のアノード電極22に供給される改質ガス中の水素が、精製処理により消費される。
【0061】
そのため、アノードオフガス流量44を経由して、触媒燃焼器35に排気されるアノードオフガス中の水素濃度が低下し、触媒燃焼器35での燃焼量の増加が抑制されて、触媒燃焼器35の温度Tcatが閾値Tth以下に維持されている。これにより、触媒燃焼器35の温度Tcatが閾値Tthを超える高温となって、触媒燃焼器35の劣化や、触媒燃焼器35の周辺デバイスの劣化が生じること防止することができる。
【0062】
次に、図6に示したフローチャートに従って、水素精製モードでの運転実行中に、水素処理システム10の停止指示がなされたときの運転制御手段61による処理の第2実施形態について説明する。
【0063】
[第2実施形態]
図6のSTEP20〜STEP22の処理は、上述した図3のSTEP1〜STEP3の処理と同様であり、STEP20でシステム停止指示がなされたときにSTEP21に進み、運転制御手段61は、STEP21,22で熱交換器31への原燃料と改質空気の供給を停止する。
【0064】
そして、運転制御手段61は、次のSTEP23〜STEP25のループを、STEP25で、温度センサ35aによって検出される触媒燃焼器35の温度TcatがTth(本発明の所定温度に相当する)以下になるまで、繰り返し実行する。
【0065】
STEP23〜STEP25のループにおいて、運転制御手段61は、STEP23で水素精製モードでの運転(DMS20のアノード電極22とカソード電極23間に、所定電圧が印加された状態)を継続しながら、STEP24で電極間電圧センサ65により検出されるDMS20のアノード電極22とカソード電極23間の電圧Vcellの変化率が、上述したVRth以下(本発明の所定の電圧安定条件に相当する)であるか否かを判断する。
【0066】
そして、STEP24で、DMS20のアノード電極22とカソード電極23間の電圧Vcellの変化率がVRth以下であるときはSTEP25に進み、この変化率がVRthよりも高いときにはSTEP23に分岐する。
【0067】
STEP25で、運転制御手段61は、触媒燃焼器35の温度TcatがTth以下であるか否かを判断する。そして、燃焼触媒器35の温度TcatがTth以下であるときはSTEP26に進み、触媒燃焼器35の温度TcatがTthを超えているときにはSTEP23に分岐する。ここで、Tthは、触媒燃焼器35の劣化や、触媒燃焼器35の周辺デバイスの劣化を抑制するための上限温度に設定されている。
【0068】
このように、STEP25で触媒燃焼器35の温度TcatがTth以下となるまで、水素精製モードでの運転を継続することによって、上述した第1の実施形態と同様に、改質装置30からDMS20のアノード電極22に供給される改質ガス中の水素が消費される。そのため、アノード電極22からアノードオフガス流路44を経由して、触媒燃焼器35に排気されるアノードオフガス中の水素濃度が低下する。そして、これにより、水素濃度の高いアノードオフガスが触媒燃焼器35に排気されて、触媒燃焼器35の燃焼量が急増し、触媒燃焼器35の温度上昇による触媒燃焼器35自体の劣化や触媒燃焼器35の周辺デバイスの劣化を抑制することができる。
【0069】
なお、図4,6に示したフローチャートでは、水素精製モードでの運転を停止する場合の処理を示したが、発電モードでの運転実行中に、水素処理システム10の運転を停止する場合についても、同様の処理により本発明を適用することができる。この場合には、運転制御手段61は、図3のSTEP5及び図6のSTEP23で発電モードでの運転を継続し、図3のSTEP8及び図6のSTEP26で、DMS20と電気負荷70との接続を遮断して発電モードでの運転を停止すればよい。
【0070】
また、本実施の形態では、図3のSTEP6及び図6のSTEP24で、DMS20のアノード電極22とカソード電極23間の電圧Vcellが安定していることを、DMS20の運転(水素精製モードでの運転、及び発電モードでの運転)を停止する条件として設定しているが、この条件を設定しない場合であっても、本発明の効果を得ることができる。
【0071】
また、本実施形態では、電極構造体(DMS20)について、水素精製モードでの運転と発電モードでの運転を行なう水素処理システムを示したが、水素精製モードでの運転のみ、或いは発電モードでの運転のみを行なう水素処理システムに対しても、本発明の適用が可能である。
【0072】
また、本実形態では、本発明の燃焼器として触媒燃焼器35を示したが、バーナを用いてもよい。
【符号の説明】
【0073】
10…水素処理システム、20…電極構造体(DMS:Dual Mode Stack)、21…固体高分子電解質膜、22…アノード電極、23…カソード電極、30…改質装置、31…熱交換器、35…触媒燃焼器、35a…(触媒燃焼器の)温度センサ、41…三方電磁弁、60…コントローラ、61…運転制御手段、65…電極間電圧センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原燃料を改質して改質ガスを生成すると共に、改質処理の熱源として燃焼器を有する改質装置と、
ガス流路を有するアノード電極及びカソード電極を、電解質膜を挟んで配置して構成された電極構造体と、
前記アノード電極のガス流路と前記燃焼器間を接続したアノードオフガス流路と、
前記アノード電極と前記カソード電極間に所定電圧を印加した状態で、前記アノード電極に前記改質ガスを供給することにより、前記電極構造体をイオンポンプとして機能させて、前記改質ガス中の水素を電解質膜を透過させてカソード電極側に移送する水素精製モードでの運転と、前記アノード電極に前記改質ガスを供給すると共に、前記カソード電極に酸化剤ガスを供給することにより、前記電極構造体を燃料電池として機能させて、前記アノード電極と前記カソード電極間に接続された電気負荷に電力を供給する発電モードでの運転とのうちの少なくともいずれか一方を含む水素処理運転を行う運転制御手段とを備えた水素処理システムにおいて、
前記運転制御手段は、前記水素処理運転の実行中に、所定の運転停止条件が成立したときには、前記改質装置に対する原燃料の供給を停止した後、所定時間が経過したときに前記水素処理運転を停止することを特徴とする水素処理システム。
【請求項2】
請求項1記載の水素処理システムにおいて、
前記電極構造体のアノード電極とカソード電極間の電圧を検出する電極間電圧検出手段を備え、
前記運転制御手段は、前記水素処理運転の実行中に、所定の運転停止条件が成立したときには、前記改質装置に対する原燃料の供給を停止した後、前記電極間電圧検出手段の検出電圧が所定の電圧安定条件を満たし、且つ、前記所定時間が経過したときに、前記水素処理運転を停止することを特徴とする水素処理システム。
【請求項3】
原燃料を改質して改質ガスを生成すると共に、改質処理の熱源として燃焼器を有する改質装置と、
ガス流路を有するアノード電極及びカソード電極を、電解質膜を挟んで配置して構成された電極構造体と、
前記アノード電極のガス流路と前記燃焼器間を接続したアノードオフガス流路と、
前記アノード電極と前記カソード電極間に所定電圧を印加した状態で、前記アノード電極に前記改質ガスを供給することにより、前記電極構造体をイオンポンプとして機能させて、前記改質ガス中の水素を電解質膜を透過させてカソード電極側に移送する水素精製モードでの運転と、前記アノード電極に前記改質ガスを供給すると共に、前記カソード電極に酸化剤ガスを供給することにより、前記電極構造体を燃料電池として機能させて、前記アノード電極と前記カソード電極間に接続された電気負荷に電力を供給する発電モードでの運転とのうちの少なくともいずれか一方を含む水素処理運転を行う運転制御手段とを備えた水素処理システムにおいて、
前記燃焼器の温度を検出する燃焼器温度検出手段を備え、
前記運転制御手段は、前記水素処理運転の実行中に、所定の運転停止条件が成立したときには、前記改質装置に対する原燃料の供給を停止した後、前記燃焼器温度検出手段の検出温度が所定温度以下になったときに、前記水素処理運転を停止することを特徴とする水素処理システム。
【請求項4】
請求項3記載の水素処理システムにおいて、
前記電極構造体のアノード電極とカソード電極間の電圧を検出する電極間電圧検出手段を備え、
前記運転制御手段は、前記水素処理運転の実行中に、所定の運転停止条件が成立したときには、前記改質装置に対する原燃料の供給を停止した後、前記電極間電圧検出手段の検出電圧が所定の電圧安定要件を満たし、且つ、前記燃焼器温度検出手段の検出温度が前記所定温度以下になったときに、前記水素処理運転を停止することを特徴とする水素処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−40259(P2011−40259A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185980(P2009−185980)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】