説明

水素製造用触媒、及び水素含有ガスの製造方法

【課題】優れた耐熱劣化性を有し高活性な水素製造用触媒、及び当該水素製造用触媒を使用した水素含有ガスの製造方法を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される複合酸化物を含む無機担体に触媒成分を担持してなる水素製造用触媒、及び当該水素製造用触媒を使用した水素含有ガスの製造方法。


(上記式(1)中のA及びBは互いに異なる元素であり、AとBとの合計価数は8価である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素製造用触媒、及び当該水素製造用触媒を用いた水素含有ガスの製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、特定の複合酸化物を含む無機担体に触媒成分を担持させてなる水素製造用触媒、及び当該水素製造用触媒を用いた水素含有ガスの製造方法、特に燃料電池用の水素含有ガスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題から新エネルギー技術が脚光を浴びており、この新エネルギー技術の一つとして燃料電池が注目を集めている。この燃料電池は、水素と酸素を電気化学的に反応させることにより、化学エネルギーを電気エネルギーに変換させるものであって、エネルギーの利用効率が高いという特徴を有しており、民生用、産業用又は自動車用等として、実用化研究が積極的になされている。
この燃料電池には、使用する電解質の種類に応じて、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型及び固体高分子型等のタイプが知られている。一方、水素源としては、メタノール及びメタンを主体とする液化天然ガス、この天然ガスを主成分とする都市ガス、天然ガスを原料とする合成液体燃料、更には、石油系のLPG、ナフサ及び灯油等の石油系炭化水素の使用の研究がなされている。
これらの石油系炭化水素を用いて水素を製造する場合、一般に、同炭化水素に対して、触媒の存在下に水蒸気改質処理、自己熱改質処理、部分酸化改質処理等がなされている。
【0003】
このような炭化水素の改質触媒として、従来ルテニウム系触媒やニッケル系触媒が知られている。しかしながら、改質反応は、一般に500℃以上の高温で行われるために、触媒の熱劣化が進行し易く、これらの触媒は、長時間使用すると、熱劣化が進行してしまい活性が大きく低下してしまう問題を有する。
触媒の熱劣化を軽減させるため、ABO3構造に代表されるペロブスカイト担体を経由して調製された触媒や、ハイドロタルサイト(多孔性複合水酸化物の水和物)を経由して調製された触媒は、高耐熱性が期待できることが知られている。
特許文献1では、ペロブスカイト担体にRhを含浸させた改質触媒が高活性を有する旨が示されており、特許文献2では、ペロブスカイト構造の酸素が欠損又は過剰にあるペロブスカイト担体にPt等の白金族元素を担持させた改質触媒が高活性を有する旨が示されている。
また、特許文献3では、ハイドロタルサイトを経由して得られた改質触媒が優れた耐熱劣化性を有する旨が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−346598号公報
【特許文献2】特開2005−46808号公報
【特許文献3】特開2008−94665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2には、アルミナの種類が明確に記載されていない。α−アルミナとγ−アルミナでは触媒活性に影響が大きい比表面積が著しく異なるため、特許文献1、2の改質触媒が、真に従来型のRh/Al23触媒より高活性かは判断できない。加えて、特許文献1においては、活性が高い実施例は、反応温度が550℃の場合のみであり、本当に従来よりも低い温度条件下にて水蒸気改質反応を促進しうる改質触媒であるかどうか不明であり、触媒の熱劣化に影響が大きい炭素析出量の低減に関しても示されていない。そのため、特許文献1の改質触媒が、要求する耐熱劣化性を有しているかは不明である。また、特許文献2においては、改質対象のガスがメタン1質量%、水蒸気3質量%と、実用時の約1/25程度の希釈ガスであり、より触媒の活性、寿命が低下し易い実用時の環境下で、どの程度の活性が発揮されるかを判断することができない。
なお、特許文献3に示された改質触媒は、優れた耐熱劣化性を有することは認められるが、更に活性を向上させる余地がある。
【0006】
本発明は、上記問題の解決を鑑みたものであり、優れた耐熱劣化性を有し、高温使用下での活性の低下を抑え、触媒寿命をより長くすることができる水素製造用触媒、及び当該水素製造用触媒を使用した水素含有ガスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記問題点を解決するために鋭意検討したところ、特定の複合酸化物を含む無機担体に触媒成分を担持させてなる水素製造用触媒が、ペロブスカイト系触媒と同等もしくはそれ以上の優れた改質活性を有すると共に、耐熱劣化性にも優れ高温使用下での活性の低下を抑えることができることを見出した。
【0008】
即ち、本発明は、下記[1]及び[2]を提供するものである。
[1]下記式(1)で表される複合酸化物を含む無機担体に触媒成分を担持してなる水素製造用触媒。
【化1】

(上記式(1)中のA及びBは互いに異なる元素であり、AとBとの合計価数は8価である。)
[2]上記[1]に記載の水素製造用触媒を使用し、天然ガス、都市ガス、LPG、ガソリン、灯油、軽油、及び酸素を含む炭化水素系燃料から選ばれる少なくとも1種の燃料を改質処理する水素含有ガスの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水素製造用触媒によれば、ペロブスカイト系触媒と同等もしくはそれ以上の優れた改質活性を有すると共に、優れた耐熱劣化性を有し、触媒の熱劣化が進行し難く、高温使用下での触媒の活性の低下を抑えることができる。また、本発明の水素製造用触媒は、触媒寿命をより長くすることができるため、当該水素製造用触媒を用いた水素含有ガスの製造方法によれば、従来の触媒に比べ、経済的に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】反応温度400℃、500℃、550℃におけるプロパン転化率の変化を示した図である。
【図2】2−5時間経過したときにおけるプロパン転化率を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔無機担体〕
本発明の水素製造用触媒は、無機担体、及び当該無機担体に担持された触媒成分よりなる。はじめに、本発明の水素製造用触媒の無機担体について説明する。本発明の水素製造用触媒の無機担体は、以下の式(1)に表される複合酸化物を含む。
【0012】
【化2】

(上記式(1)中のA及びBは互いに異なる元素であり、AとBとの合計価数は8価である。)
【0013】
当該無機担体が上記式(1)に示された構造を有しているか否かは、例えば、X線回折(XRD)法により判定可能である。また、上記式(1)に示された構造は、酸素欠損又は過剰が±0.4の間であれば、欠損又は過剰が無いときと同等の以下に示す性能を有していると期待できるため、本発明の範囲に含まれる。
上記式(1)中のA及びBは互いに異なる元素であり、AとBとの合計価数は8価である。AとBとの合計価数が8であることで、触媒の耐熱性を高くすることができ、熱劣化が進行し難くなるため、高温使用下での触媒寿命をより長くすることができる。
【0014】
上記式(1)のAは、例えば金属元素であり、具体的には、Mg、Ba、Sr、Ca(2価)等のアルカリ土類金属元素、La(3価)、Ce(3,4価)等の希土類元素、遷移金属元素等が挙げられる。上記式(1)のAとして、好ましくはアルカリ土類金属元素又は希土類元素から選択される元素であり、更に好ましくは希土類元素から選択される元素であり、特に好ましくはLaである。
一方、上記式(1)のBは、例えば金属元素であり、具体的には、V(3,5価、5価が安定)、Nb(3,5価)、Ta(5価)等の周期表律第5族元素、Cr(2,3,4,6価、3価が安定)、Mo(2−6価、6価が安定)、W(2−6価、6価が安定)等の周期表律第6族元素、遷移金属元素等が挙げられる。上記式(1)のBとして、好ましくは周期律表第5族又は6族元素から選択される元素であり、更に好ましくは6族元素から選択される元素であり、特に好ましくはNb、Taである。
このようなAとBの組み合わせは、AとBとの合計価数が8価であれば限定されない。例えば、Aが周期表律第1族〜3族元素のうち1つの典型元素を選択した場合、Bは合計価数が8価になるように遷移元素を選択すればよい。また、CrVO4(Crは3価、Vは5価)やMnMoO4(Mnは2価、Moは6価)等のように、A、Bともに遷移元素から選択されてもよい。
このようなA、Bの組み合わせからなる複合酸化物の中でも、他の組み合わせと比較して触媒活性が優れているという点から、LaNbO4とLaTaO4が好ましい。
【0015】
本発明の複合酸化物の生成方法としては、例えば、Aを含む酸化物と、Bを含む酸化物を、モル比1:1で混合し、焼成する方法が挙げられる。ただ、この際、酸化物中においてAとBとの合計価数が8になるようにA、Bを含む酸化物を選択すべきであり、特に、元素の最大価数や最も安定する価数を考慮する必要がある。例えば、CrO(Cr:2価)とMoO3(Mo:6価)を1:1で燃成し組み合わせをした場合、焼成前の2つの酸化物中の元素の価数の和は8であっても、酸素存在下で焼成すると、Cr、Moともに最も安定する価数になるものが発生する。つまり、Moの安定価数(6価)が優先された場合、Crの価数はそれに追従し、CrMoO4が得られるが、一方でCrの安定価数(3価)が優先された場合、Moの価数はそれに追従し、CrMoO3が生成してしまう。
確実に上記式(1)で表される複合酸化物を得るために、先にAとして価数の安定した元素を選んだ上で、Aの価数を考慮してBの元素を選択すれば、容易に上記式(1)で表される複合酸化物を得ることができる。つまり、AとしてLa(3価で安定)の酸化物を選んだ場合、Bとしては5価で安定するV、Nb、Mo、W等の酸化物を選択すれば、容易に上記式(1)で表される複合酸化物を生成できる。
【0016】
なお、本発明の複合酸化物の生成方法は、上述のような酸化物の焼成による方法以外にも、例えば、各構成元素の硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、塩酸塩、クエン酸塩等を、所望する複合酸化物の組成比に混合し、仮焼成後、粉砕して、本焼成する固相法や、各構成元素の硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、塩酸塩、クエン酸塩等を所望する組成比にて混合し、水に溶解させ、アルカリ溶液を滴下して沈殿物を生成し、ろ過、乾燥、焼成する共沈法等(液相法の一種)が挙げられる。また、一方の構成元素の酸化物に、所望する組成比となるようもう一方の構成元素の各種金属塩水溶液を含浸し、乾燥、焼成することでも得られる(含浸法の一種)。つまり、本発明の複合酸化物の生成方法は、上述の各構成元素の安定価数、さらには出発原料中の価数に注意を払えば、ペロブスカイト複合酸化物の調製に用いられる従来から公知の方法を適用することができる。
このような本発明の複合酸化物の生成方法の中でも、より均一な上記式(1)で表される複合酸化物を得る観点から、1000〜1500℃で、前述した酸化物の焼成、前記固相法、前記液相法、前記含浸法で行う本焼成(焼成)を行うことが好ましい。
【0017】
本発明の複合酸化物は、1種のみが単独で無機担体に含まれてもよいし、当該2種以上が無機担体に含まれてもよい。また、本発明の無機担体は、上記式(1)に表される複合酸化物の他、アルミナ、シリカ、チタニア、マグネシア、ジルコニア、セリア等の一般的な無機酸化物と併用されてもよい。本発明の複合酸化物と一般的な無機酸化物を併用することで、高表面積化し活性金属が高分散化することで活性が向上する他、高い水素収率が得られるなどの効果が期待出来る。
本発明の複合酸化物の含有量は、無機担体の全量に対して、好ましくは3〜70質量%であり、より好ましくは3〜30質量%であり、特に好ましくは3〜15質量%である。複合酸化物の含有量が、3質量%以上あることで、当該複合酸化物が有する優れた改質活性と触媒の耐熱性向上効果を発揮することができ、また、70質量%以下であることにより、上述の無機酸化物を添加する効果を得ることができる。
【0018】
〔触媒成分〕
次に、上記無機担体に担持される触媒成分について説明する。本発明で用いられる触媒成分は、炭化水素を改質して水素含有ガスを製造できる性質を持つものであれば特に制限は無い。例えば、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Osの貴金属元素や、Ni、Co、Cu等の金属元素等が挙げられる。本発明の触媒成分は、これらの金属元素のうち、1種のみ選択され無機担体に担持してもよいし、2種以上の金属元素が選択され無機担体に担持されてもよい。
このような触媒成分の金属元素の中でも、触媒の活性の観点から、Ru、Rh、Pt、Pd、Ni、Coからなる群から選択される1種以上の金属元素からなることが好ましい。
触媒成分の金属元素の無機担体への担持量は、水素製造用触媒の全量(前記触媒成分+本発明の複合酸化物を含む前記無機担体の総和)に対して、好ましくは0.1〜30質量%であり、より好ましくは0.3〜20質量%であり、更に好ましくは0.5〜15質量%であり、特に好ましくは1〜10質量%である。金属元素の担持量が0.1質量%以上であれば、水素含有ガスの製造に充分な触媒活性が得られるため好ましい。一方、金属元素の担持量が30質量%以下であれば、反応の活性の上昇と製造コストとのバランスがよいため好ましい。
【0019】
上記触媒成分を構成する各金属元素源としては、以下に示す化合物を挙げることができる。
Ru元素源であるルテニウム化合物としては、例えば、RuCl3・nH2O、Ru(NO33、Ru2(OH)2Cl4・7NH3・3H2O、K2(RuCl5(H2O))、(NH42(RuCl5(H2O))、K(RuCl5(NO))、RuBr3・nH2O、Na2RuO4、Ru(NO)(NO33、(Ru3O(OAc)6(H2O)3)OAc・nH2O、K4(Ru(CN)6)・nH2O、K2(Ru(NO24(OH)(NO))、(Ru(NH36)Cl3、(Ru(NH36)Br3、(Ru(NH36)Cl2、(Ru(NH36)Br2、(Ru32(NH314)Cl6・H2O、(Ru(NO)(NH35)Cl3、(Ru(OH)(NO)(NH34)(NO32、RuCl2(PPh33、RuCl2(PPh34、RuClH(PPh33・C78、RuH2(PPh34、RuClH(CO)(PPh33、RuH2(CO)(PPh33、(RuCl2(cod))n、Ru(CO)12、Ru(acac)3、(Ru(HCOO)(CO)2n、Ru24(p−cymene)2、[Ru(NO)(edta)]-等のルテニウム塩を挙げることができる。
これらの成分を1種単独でも、2種以上を併用してもよい。
上記の中でも、取扱い上の観点から、RuCl3・nH2O、Ru(NO33、Ru2(OH)2Cl4・7NH3・3H2Oが好ましい。
Rh元素源であるロジウム化合物としては、例えば、Na3RhCl6、(NH42RhCl6、Rh(NH35Cl3、Rh(NO33、RhCl3等を挙げることができる。
Pt元素源である白金化合物としては、例えば、PtCl4、H2PtCl6、Pt(NH34Cl2、(MH42PtCl2、H2PtBr6、NH4[Pt(C24)Cl3]、Pt(NH34(OH)2、Pt(NH32(NO22等を挙げることができる。
Pd元素源であるパラジウム化合物としては、例えば、(NH42PdCl6、(NH42PdCl4、Pd(NH34Cl2、PdCl2、Pd(NO32等を挙げることができる。
Ni元素源であるニッケル化合物としては、例えば、Ni(NO32・6H2O、NiO、Ni(OH)2、NiSO4・6H2O、NiCO3、NiCO3・2Ni(OH)2・nH2O、NiCl2・6H2O、(HCOO)2Ni・2H2O、(CH3COO)2Ni・4H2O等を挙げることができる。
Co元素源であるコバルト化合物としては、例えば、Co(NO32・6H2O、CoO、Co(OH)2、CoSO4・6H2O、CoCl2、CoCl2・6H2O等を挙げることができる。
【0020】
〔水素含有ガスの製造方法〕
次に、本発明の水素含有ガスの製造方法について説明する。本発明の水素含有ガスの製造方法は、上記の本発明の水素製造用触媒を使用し、燃料を改質処理するものである。燃料としては、天然ガス、都市ガス、LPG、ガソリン、灯油、軽油、及び酸素を含む炭化水素系燃料等が挙げられる。これらの燃料は、単独でもよく、2種以上が混合された燃料であってもよい。
また、酸素を含む炭化水素系燃料としては、例えば、バイオ資源から製造されるバイオディーゼル燃料や植物油等が挙げられる。
本発明で用いられる上記の燃料成分としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等の直鎖状又は分岐状の飽和脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロオクタン等の脂環式飽和炭化水素、単環又は多環芳香族炭化水素、エタノール、メタノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル等のエーテル類等が挙げられる。上記燃料は、これらの燃料成分が1種のみから構成されるものでもよく、2種以上の成分を含有するものでもよい。
【0021】
上記の燃料の改質処理としては、水蒸気改質、自己熱改質、部分酸化改質のいずれかであることが好ましい。以下、それぞれの改質処理について説明する。
<水蒸気改質>
反応条件としては、通常、スチーム/カーボン比(モル比)が1.5〜10、好ましくは1.5〜5、より好ましくは2〜4となるように炭化水素量と水蒸気量を決定すればよい。このようにスチーム/カーボン比(モル比)を調整することにより、水素含有量の多い生成ガスを効率よく得ることができる。
反応温度は、通常、200〜900℃、好ましくは250〜900℃、更に好ましくは300〜800℃である。反応圧力は、通常0〜3MPa・G、好ましくは0〜1MPa・Gである。
改質触媒層の入口温度は630℃以下、好ましくは600℃以下に保って水蒸気改質を行うのがよい。入口温度が630℃以下であれば、炭化水素の熱分解が抑制され、ラジカルを経由して触媒又は反応管壁に析出される炭素を抑えることができる。
触媒層出口温度は特に制限はないが、650〜800℃の範囲が好ましい。出口温度が650℃以上であれば、水素の生成量が充分であり、また、800℃以下であれば、反応装置は耐熱材料を用いなくてもよく、経済的に好ましい。
なお、水蒸気改質反応に使用する水蒸気としては特に制限はない。
【0022】
<自己熱改質>
自己熱改質反応は炭化水素の酸化反応と炭化水素と水蒸気の反応が同一リアクター内又は連続したリアクター内で起こり、通常、反応温度は200〜1,300℃、好ましくは400〜1,200℃、より好ましくは500〜900℃である。
スチーム/カーボン比(モル比)は、通常、0.1〜10、好ましくは0.4〜4である。酸素/カーボン比(モル比)は、通常、0.1〜1、好ましくは0.2〜0.8である。
反応圧力は、通常、0〜10MPa・G、好ましくは0〜5MPa・G、より好ましくは0〜3MPa・Gである。
【0023】
<部分酸化改質>
部分酸化改質反応は炭化水素の部分酸化反応が起こり、通常、反応温度は350〜1,200℃、好ましくは450〜900℃である。酸素/カーボン比(モル比)は、通常、0.4〜0.8、好ましくは0.45〜0.65である。
反応圧力は、通常、0〜30MPa・G、好ましくは0〜5MPa・G、より好ましくは0〜3MPa・Gである。
【0024】
以上の改質反応の反応方式としては、連続流通式、回分式のいずれの方式であってもよいが、連続流通式が好ましい。
連続流通式を採用する場合、炭化水素の液時空間速度(LHSV)は、通常、0.1〜10/h、好ましくは、0.25〜5/hである。
反応形式としては、特に制限はなく、固定床式、移動床式、流動床式いずれも採用できるが、固定床式が好ましい。
反応器の形式としても特に制限はなく、例えば、管型反応器等を用いることができる。
上記のような条件で、改質触媒を用いて、炭化水素の水蒸気改質反応、自己熱改質反応、部分酸化改質反応を行わせることにより水素を含む混合物を得ることができ、特に、燃料電池の水素製造プロセス用の水素含有ガスとして好適に使用される。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されない。
【0026】
〔実施例1 3質量%Ni/LaNbO4の調製〕
室温下、1M酢酸水溶液300ml(氷酢酸17.17ml)に、酢酸ランタン・1.5水和物(La(CH3COO)3・1.5H2O)4.6388gを溶解し、その後、Nb251.7971gを添加し、攪拌した。次に、150℃で蒸発乾固を行い、得られたLaNbO4前駆体粉末を、マッフル炉にて、10℃/minにて400℃まで昇温し、1時間保持し、仮(排気)焼成を行った。室温まで冷却後、一度取り出し、粉砕・混合した。その後、3.33℃/minにて、1200℃まで昇温し、6時間保持して本焼成を行い、LaNbO4を得た。
次に、蒸留水300mlに、硝酸ニッケル・6水和物(Ni(NO33・6H2O)0.4594gを溶解させた後、本焼成で得られたLaNbO4を2.91g加え、攪拌した。そして、150℃で蒸発乾固を行い、3質量%のNiを担持した。その後、マッフル炉にて400℃6時間、焼成した。
【0027】
〔実施例2 3質量%Ni/LaTaO4の調製〕
室温下、1M酢酸水溶液300ml(氷酢酸17.17ml)に、酢酸ランタン・1.5水和物(La(CH3COO)3・1.5H2O)3.5749gを溶解し、その後、Ta252.3024gを添加し、攪拌した。次に、150℃で蒸発乾固を行い、得られたLaTaO4前駆体粉末を、マッフル炉にて、10℃/minにて400℃まで昇温し、1時間保持し、仮(排気)焼成を行った。室温まで冷却後、一度取り出し、粉砕・混合した。その後、3.33℃/minにて、1200℃まで昇温し、6時間保持して本焼成を行い、LaTaO4を得た。
次に、蒸留水300mlに、硝酸ニッケル・6水和物(Ni(NO33・6H2O)0.4594gを溶解させた後、本焼成で得られたLaTaO4を2.91g加え、攪拌した。そして、150℃で蒸発乾固を行い、3質量%のNiを担持した。その後、マッフル炉にて400℃6時間、焼成した。
【0028】
〔実施例3 3質量%Ni/LaNbO4/Al23(1:1) (複合割合(質量比) LaNbO4:Al23=1:1)の調製〕
室温下、1M酢酸水溶液300ml(氷酢酸17.17ml)に、Al23(商品名:AEROXIDE(登録商標)AluC、日本アエロジル社製)4.00g加えた後、酢酸ランタン・1.5水和物(La(CH3COO)3・1.5H2O)4.6388gを溶解し、その後、Nb251.7971gを添加し、攪拌した。次に、150℃で蒸発乾固を行い、得られたLaNbO4/Al23前駆体粉末を、マッフル炉にて、40℃/minにて400℃まで昇温し、6時間保持し、仮(排気)焼成を行った。室温まで冷却後、一度取り出し、粉砕・混合した。その後、3.33℃/minにて、1000℃まで昇温し、6時間保持して本焼成を行い、LaNbO4/Al23を得た。
次に、蒸留水300mlに、硝酸ニッケル・6水和物(Ni(NO32・6H2O)0.4459gを溶解させた後、本焼成で得られたLaNbO4/Al23を2.91g加え、攪拌した。そして、150℃で蒸発乾固を行い、3質量%のNiを担持した。その後、マッフル炉にて400℃6時間、焼成した。
【0029】
〔実施例4 3質量%Ni/LaNbO4/Al23(1:3) (複合割合(質量比) LaNbO4:Al23=1:3)の調製〕
所望するLaNbO4/Al23割合となるように各試薬、Al23の使用量を変更した以外は、上記実施例3と同様の調製操作により該触媒を得た。
【0030】
〔実施例5 3質量%Ni/LaNbO4/Al23(1:10) (複合割合(質量比) LaNbO4:Al23=1:10)の調製〕
所望するLaNbO4/Al23割合となるように各試薬、Al23の使用量を変更した以外は、上記実施例3と同様の調製操作により該触媒を得た。
【0031】
〔実施例6 3質量%Ni/LaNbO4/Al23(1:20) (複合割合(質量比) LaNbO4:Al23=1:20)の調製〕
所望するLaNbO4/Al23割合となるように各試薬、Al23の使用量を変更した以外は、上記実施例3と同様の調製操作により該触媒を得た。
【0032】
〔比較例1 3質量%Ni/LaAlO3の調製〕
室温下、蒸留水300mlに、酢酸ランタン・1.5水和物(La(CH3COO)3・1.5H2O)20.2586g、及び硝酸アルミニウム・9水和物(Al(NO33・9H2O)21.4746gを溶解し、攪拌した。その後、150℃で蒸発乾固を行った。これ以降は、実施例1と同様の調製操作を行い、3質量%Ni/LaAlO3を得た。
【0033】
〔比較例2 3質量%Ni/SrTiO3の調製〕
室温下、蒸留水300mlに、硝酸ストロンチウム(Sr(NO32)14.5697gを溶解し、その後、TiO2(商品名:P−25、石原産業製)を5.2771g添加し、攪拌した。その後、150℃で蒸発乾固を行った。これ以降は、実施例1と同様の調製操作を行い、3質量%Ni/SrTiO3を得た。
【0034】
〔比較例3 3質量%Ni/Al23の調製〕
蒸留水300mlに、硝酸ニッケル・6水和物(Ni(NO33・6H2O)0.4594gを溶解させた後、Al23(商品名:AEROXIDE(登録商標)AluC、日本アエロジル社製)を2.91g加え、攪拌した。その後、150℃で蒸発乾固を行い、3質量%のNiを担持した。その後、マッフル炉にて、400℃6時間、焼成した。
【0035】
〔評価方法1 触媒物性及び初期反応の評価〕
上記実施例1〜2、及び比較例1〜2で得られた触媒粉末を、圧縮成型により整粒し、触媒0.1gを反応評価に用いた。
流通式反応装置を用い、前処理として、水素流量40cc/min、10℃/minにて600℃まで昇温し、5時間保持して還元処理を行った。続いて、プロパン水蒸気改質反応を、プロパン流量6.82cc/min、N2流量67.0cc/minで流通させ、スチーム/カーボン(モル比)=2.5、GHSV=4100h-1、圧力0.64MPa・Gの条件下で行った。プロパン流通開始後、2時間後の改質ガスの組成を、TCDガスクロマトグラフ(Shimadzu)を用いて、プロパン及び水素のモル量を求めた。
触媒の水素吸着量測定には、全自動触媒ガス吸着量測定装置(大倉理研製、R−6015)を使用した。測定前処理として、水素流通下、10℃/minで600℃まで昇温し、1時間保持して水素還元処理を行った。その後、Heで15分間パージし、室温まで冷却後、パルス方式による水素吸着量測定を行った。
【0036】
実施例1〜2、及び比較例1〜2の触媒について、上記測定により得た結果を表1に示す。
なお、表1における評価項目の算出方法は以下のとおりである。
(1)(触媒上の)表面Ni原子数
2とNiとが1:2で解離吸着すると仮定し、下記式より算出した。
【数1】

(2)比表面積
Bel−Mini(日本ベル製)を使用し、窒素吸着によるBET比表面積測定により算出した。測定前処理として500℃,3hの真空排気処理を行った。
(3)プロパン転化率(以下、「転化率」という場合もある)
上記の測定により得た入口側及び出口側のプロパンモル流量を基に、下記式より算出した。
【数2】

(4)TOF(ターンオーバー数)
下記式より算出した。
【数3】

上記式中の「反応速度」は、下記式より算出される。
【数4】

【0037】
【表1】

【0038】
表1に示す結果から、本発明の3質量%Ni/LaNbO4触媒(実施例1)、及び3質量%Ni/LaTaO4触媒(実施例2)は、高性能で知られる代表的なペロブスカイト触媒である3質量%Ni/LaAlO3(比較例1、2)と同等の転化率を示す。本発明の実施例1、2の触媒は、比較例1、2のペロブスカイト触媒と触媒構成は類似するが、触媒活性に大きな影響を与える比表面積が、比較例1、2の触媒に比べて、約30%〜80%程度しかないため、触媒活性は比較例よりかなり低いと考えるのが通常である。よって、表1で示した結果は、最近接の従来技術(比較例1,2)から予測できない効果と言え、それは、実施例の触媒が比較例の触媒に比べ、1活性点あたりの活性値を表すTOFが同等か大きいことにも起因すると考える。又、実施例1、2の触媒は、比較例1、2の触媒よりも比表面積が小さく、表面Ni原子数も少ないために、比較例1,2の触媒よりも熱劣化が進行し難く、高耐熱性が期待できる。
【0039】
〔評価方法2 温度依存性評価〕
実施例1、2、及び比較例1の触媒について、温度を変化させた以外は、上記評価方法1に記載の評価方法と同様に評価した。
図1は、反応温度400℃、500℃、550℃におけるプロパン転化率の変化を示した図である。
図1より、実施例1、2の触媒は、低温側においても比較例1のペロブスカイト触媒を超える活性を示すことが分かる。
【0040】
〔評価方法3 触媒の熱劣化評価〕
実施例1、及び比較例2の触媒について、プロパン流通開始時から2、3、4、5時間目ごとに、ガスクロマトグラフィで改質ガスの組成を求めた以外は、上記評価方法1に記載の評価方法と同様に評価した。
図2は、2−5時間経過したときにおけるプロパン転化率を示した図である。
図2より、LaAlO3と同じく代表的なペロブスカイト複合酸化物担体である比較例2のSrTiO3では、経時的な触媒の熱劣化挙動が見られたが、実施例1のLaNbO4では、熱劣化は認められなかった。これより、本発明の触媒は、優れた高耐熱性を有していることがわかる。
【0041】
〔評価方法4 複合化割合の評価〕
実施例1、3〜6、及び比較例3の触媒について、上記評価方法1に記載の評価方法と同様に測定し、プロパン転化率(転化率)及び水素収率を算出した。結果を表2に示す。なお、表2におけるプロパン転化率の算出方法は上述の同様であり、水素収率は以下のように算出した。
【0042】
(5)水素収率
下記式より算出した。なお、実際の水供給量は、S/C=2.5に相当する量であるが、水素収率の算出においては、S/C=2としたため、下記式における「入口側水モル流量」に0.8を乗じている。
【数5】

【0043】
【表2】

【0044】
表2より、無機担体に、複合化合物LaNbO4の他に、無機酸化物であるAl23を併用することで、プロパン転化率の向上し、水素収率の向上が可能であることがわかる。一方、比較例3においては、水素収率が低い。Al23は、自身が有する高表面積が高転化率に寄与していると推察されるが、一方耐熱性に問題があると予想される。実施例3〜6の複合化したLaNbO4/Al23無機担体各種は、調製時に、Al23表面上にLaNbO4を合成させているため、LaNbO4が有する高耐熱性と、Al23が有する高転化率を有する触媒となった。
なお、当該効果は、Al23以外の一般的な無機担体においても期待出来るものであり、Al23のみに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の水素製造用触媒、当該水素製造用触媒を用いた水素含有ガスの製造方法は、炭化水素系燃料等から水素含有ガス、特に燃料電池用の水素を製造できる点において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される複合酸化物を含む無機担体に触媒成分を担持してなることを特徴とする水素製造用触媒。
【化1】

(上記式(1)中のA及びBは互いに異なる元素であり、AとBとの合計価数は8価である。)
【請求項2】
上記式(1)において、Aはアルカリ土類金属元素又は希土類元素から選択される元素であり、Bは周期律表第5族又は6族元素から選択される元素である請求項1に記載の水素製造用触媒。
【請求項3】
前記複合酸化物が、LaNbO4又はLaTaO4である請求項1又は2に記載の水素製造用触媒。
【請求項4】
前記複合酸化物の含有量が、無機担体の全量に対して3〜70質量%である請求項1〜3のいずれか1項に記載の水素製造用触媒。
【請求項5】
前記触媒成分が、Rh、Pt、Ru、Pd、Ni、及びCoからなる群から選択される1種以上の金属元素からなり、該金属元素の無機担体への担持量が、水素製造用触媒の全量に対して、0.1〜30質量%である請求項1〜4のいずれか1項に記載の水素製造用触媒。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の水素製造用触媒を使用し、天然ガス、都市ガス、LPG、ガソリン、灯油、軽油、及び酸素を含む炭化水素系燃料から選ばれる少なくとも1種の燃料を改質処理する水素含有ガスの製造方法。
【請求項7】
前記燃料の改質処理が、水蒸気改質、自己熱改質、又は部分酸化改質のいずれかである請求項6に記載の水素含有ガスの製造方法。
【請求項8】
前記水素含有ガスが、燃料電池用の水素含有ガスである請求項6又は7に記載の水素含有ガスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−194340(P2011−194340A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65002(P2010−65002)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】