説明

水素製造用触媒、水素製造用触媒の製造方法、水素製造方法、水素製造装置及び燃料電池システム

【課題】水蒸気の添加がなくとも水素発生が図られるとともに、反応起動に際し外部からの加熱を必要としない触媒は、燃料電池システム中では酸化によって自己発熱能を失活する場合がある。その際には燃料電池システム内で自己発熱能を復活させなければならないが、還元活性化処理に高い温度が必要であると、停止中の燃料電池システムでは復活が困難である。
【解決手段】CeとR(RはZr又はSi)の複合酸化物に活性金属を坦持させたものを触媒は、100℃乃至200℃という低い温度で自己発熱能を回復させることができ、これを使用した水素発生装置とそれを用いた燃料電池システムは、起動停止が頻繁に発生する用途での信頼性の高い完全自立型燃料電池システムを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素の酸化的改質反応により水素を得るための触媒及び該触媒を用いた水素製造方法、水素製造装置ならびに該水素製造装置を用いた燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、その燃焼時に大気汚染物質を発生しないため、次世代のエネルギー資源として広く検討されている。また、水素は各種の水素源から回収することができるため、石油代替燃料として期待されてきた。
【0003】
また、水素そのものの化学活性が高いことにより、様々な用途へ検討がなされている。例えば、エネルギー変換効率が高いことを利用した燃料電池用原料、燃焼による高温の燃焼ガスの圧力を回転力や推力に変換して内燃機関やガスタービンの動力源としての使用が挙げられる。今後も、そのクリーンさに着目した用途が拡大していくと期待される。
【0004】
しかし、水素を容易に供給するインフラ設備がないことなどに起因して、広範な用途に使用できる可能性は指摘されていたものの、実際に日常生活に使用される機会はそれほど多くはなかった。
【0005】
ところが、最近では触媒を使用することで炭化水素を水蒸気で改質し、オンサイトで水素を製造する方法が提案されている。このような方法を利用することで、中小規模の水素製造設備にも利用されるようになってきた。
【0006】
こうした趨勢から、より広汎に各種水素供給源から水素を取り出すための触媒の検討が進められているようになってきている。例えば、特許文献1や2にはペロブスカイト型複合酸化物を利用して炭化水素から改質反応により水素を合成する技術が開示されている。また、本願発明者は特許文献3において、酸素欠陥を有する希土類酸化物に対して、活性金属を担持させた物質にも同様の触媒活性効果があることを先に提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−046808号公報
【特許文献2】特開2001−224963号公報
【特許文献3】国際公開2009/028113号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び2に開示された技術は、あくまでも水蒸気改質反応を利用してなされることを想定したものであり、水蒸気の添加が必須である。また、この水蒸気による改質反応そのものが吸熱反応であることから、この改質反応を継続的に進行させるためには、反応層を常に加熱する必要がある。即ち、必要な熱を外部からヒーターなどで加える代わりに適量の酸素を導入し、酸素と炭化水素の燃焼反応により発生する熱を利用することが必要である。
【0009】
今後、利用が拡大することが見込まれる家庭用、自動車用のような常時駆動することが必要とされない用途では、装置の起動、停止のサイクルが頻発するような場合が想定される。そうした場合、従来型の触媒では冷却により一旦低下した触媒の温度を活性点まで再上昇させる必要があるため、必ずしもエネルギー効率が高いとは言えなかった。
【0010】
このため、触媒の活性温度に達するまでの時間間隔が短く、あるいは外部からの熱エネルギーの添加がなくとも、炭化水素を改質可能な活性温度に達することができるような物質があれば、元来よりも容易に水素を得ることができるので、水素エネルギーの普及にも貢献できると考えられる。また、そういった触媒があれば、自立型燃料電池システムの構築を図ることも期待できる。特許文献3では、自己発熱機能を有するCe系触媒を開示しているが、まさにこの目的に適合する触媒であるといえる。
【0011】
しかし、実際の使用にあたっては、このような触媒であっても、酸化などの原因で自己発熱機能が失活する場合もある。そうした場合、燃料電池システムに組み込まれた状態で自己発熱機能を回復させる必要がある。自己発熱機能の回復には、高温下での水素による還元処理が有効であるとされている。従って、この機能を回復するための温度が低くければ、燃料電池システム全体に対する負荷が低減できるため、優れた触媒であると言える。
【0012】
しかしながら、現状ではこのような触媒活性温度に加熱することなく到達し、かつそのような温度に至るまでの時間が極めて短く、かつ再生性能を有するといった性能を有する触媒は得られていない。本発明の目的は、上述の課題を克服するため、還元処理温度が低温であっても自己発熱機能を発現するような性質を有する触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記課題に鑑み、CeOに所定の元素を添加し、活性金属を担持させた触媒が、比較的低温であっても、自己発熱機能を発現できる点を見いだして想到するに至った。即ち、活性金属と、一般式がCe(X+Y=1.0:RはZr又はSi)で表わされ、Xが0.80以上、即ちその構成の大部分がセリウムにより構成されているCe系酸化物(以後「CeR系酸化物」という)とを含んでなる、水素製造用触媒である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると活性金属とそれを担持するCeR系酸化物からなる水素製造用触媒は、酸素を含む原料ガスを通気することによって、常温(本発明では15〜40℃をいう。)から触媒活性が発揮できる温度まで自己発熱を生じる。したがって水蒸気改質や部分改質といった従来の改質方法と異なり、起動の際に外部から熱を加える必要のない構成とすることができる。従って、本発明の水素製造用触媒を用いれば、起動−停止のサイクルが頻繁に発生する用途であっても、信頼性の高い完全自立型燃料電池システムが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の水素製造用触媒を用いた燃料電池システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の水素製造用触媒(以下単に「触媒」とも呼ぶ)は、CeとZr又はSiとを含むCeR系酸化物(以下「起動材」とも呼ぶ。)と、活性金属の混合体である。ここで活性金属とは、所定の温度下で炭化水素の改質反応を進めることができる金属である。具体的には、貴金属であるRu、Rh、Pd、Os、Ir、Pt等がある。また、非貴金属であるNi、Co、Cuであってもよい。更にこれらの混合物であってもよい。
【0017】
また、望ましくは起動材が活性金属の担持体となっていることが好ましいが、別の材料に活性金属を担持したものと起動材を混合して用いることもできる。また、供給ガスの上流側に起動材を設置し、後側に別の材料に活性金属を担持したものを設置してもよい。
【0018】
起動材の備える物理的性質としては、比表面積が大きいことが好ましい。このことには大きく分けて二つの利点がある。その一つは、起動材の比表面積が大きいと、起動時に酸素と触れる面積が大きくなり、起動材の昇温レートを大きくすることができる点である。もう一つは、炭化水素も高温となった触媒との接触面積が広くなることから、短時間で反応温度まで昇温することができる点である。
【0019】
以下、起動材であるCeR系複合酸化物を、活性金属の担体粒子として説明する。
<起動材の製造>
本発明で用いるCeR系複合酸化物を構成する元素の割合は、Ce、Rのモル比をCe:R=X:Yとするとき、X+Y=1.0を満たすようにする。Ceは、RがSiであればXが0.60以上、ZrであればXが0.20以上で触媒能の回復効果を奏するが、本発明では、双方の元素で顕著な効果が見られるX≧0.80の範囲とする。この範囲内であれば、触媒作製後に被毒などで触媒能が失活した際に、比較的低温での処理により触媒能を回復できるからである。Xは0.90以上とするのが好ましい。特に好ましくは、0.90≦X≦0.93であることがよい。
【0020】
また、ここでRはZr又はSiのいずれかである。Ceに対しての組成比では、どちらも上記の範囲であって構わない。
【0021】
なお、複合酸化物の中には酸化セリウム構造体のCeを置換していないRが不純物相として存在する場合がある。しかし、本発明の効果が阻害されない限りその不純物相の存在は許容される。また、許容される量の不純物相が存在する場合は、不純物相中のCeとRを含めた複合酸化物全体としてのモル比が上記を満たしていればよい。
【0022】
本発明で用いるCeR系酸化物は、自己発熱機能を発現させるため、還元処理を必要とする。こうした処理を経ることで、Ceの酸素のサイトに欠損を生じるようになる。この酸素の欠損サイトを有しているため、周囲より酸素を取り込むことができるようになる。そして、その酸素の取り込みの際に生じる発熱量は、常温から一気に触媒能が発現することのできる温度まで触媒自体の温度を上昇させるのに十分な量である。したがって、従来型の触媒では必須であった外部からの加熱が必要ではなくなる。
【0023】
本発明で用いるCeR系酸化物は、湿式法で得られた沈殿生成物質を焼成する方法により好適に合成することができる。例えば、Ceの水溶性塩とR(Zr又はSi)の水溶性塩を沈殿剤により沈殿させる。その沈殿物を乾燥させることによりCeR系酸化物を合成できる。
【0024】
具体的には、Ceの水溶性塩(例えば硝酸塩)とRの水溶性塩を溶解させた水溶液に、沈殿剤としてアルカリ性の物質を加えて反応させ沈殿物を生成させる。得られた沈殿生成物を濾過、洗浄・乾燥、焼成することによってCeR系複合酸化物を得ることができる。沈殿を生成させる液中のCe、Rのイオン濃度は、溶解度によって上限が決まる。しかし、あまり液中濃度が濃すぎると、撹拌時に均一に反応が生じず不均一になる可能性があり、また撹拌時に装置の負荷が過大になる場合があるので、好ましくない。
【0025】
沈殿物を得るためには水酸化アルカリ、炭酸アルカリのいずれか一方又は双方を用いることが好ましい。具体的に例示すると、水酸化アルカリとしては水酸化ナトリウム、アンモニア水などを使用することが好ましく、炭酸アルカリとしては炭酸水、炭酸ガス、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウムなど炭酸を主成分とするものと、アンモニア水もしくはアンモニウムの各水溶性塩を混合して使用すること、あるいはその双方の機能を併せ持つ炭酸アンモニウム化合物、具体的には炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムなどを使用することが好ましい。水酸化アルカリを使用する場合には沈殿物に空気を吹き込み酸化させ酸化物の混合物を生成させることが好ましい。
【0026】
原料塩溶液に尿素を含有させておき、この原料塩溶液を加熱して尿素を分解し、アンモニアを発生させ、それによって塩溶液をアルカリ性にして沈殿物を得ることも可能である。沈殿物を生成させるときの液のpHは6〜11の範囲に制御するのがよい。pHが6未満の領域では、Rが共沈しない場合があるので好ましくない。
【0027】
また、Ce化合物、R化合物として、それぞれ加水分解が可能な化合物を用意し、これらを水に添加して加水分解することによって、混合ゾルを形成し、凝集・沈殿させることもできる。ここでこの加水分解可能化合物としては、例えば各金属元素のアルコキシド、β−ケト酸塩を挙げることができる。
【0028】
得られた沈殿物は必要に応じて濾過、水洗され、真空乾燥や通風乾燥などによる乾燥や、焼成処理して、CeR系酸化物とする。この際、乾燥による脱水効果を高めるため、濾過した直後の形態のまま乾燥処理するか、所定の形状に造粒した後に乾燥処理させることができる。その後、この前駆体を、粉末形状あるいは造粒した状態のまま、例えば400〜1000℃、好ましくは500〜850℃で熱処理(焼成)することにより、目的とするCeR系酸化物を合成できる。焼成時の雰囲気はCeR系酸化物が生成できるような条件であれば特に制限されず、例えば、空気中、窒素中、アルゴン中及びそれらに水蒸気を組み合わせた雰囲気を使用できる。
【0029】
<活性化金属の担持>
得られたCeR系酸化物の表面は、炭化水素の酸化的改質の触媒活性成分として用いる活性金属で被覆される。活性金属は具体的には、貴金属あるいは遷移金属である。より具体的には、貴金属元素である、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)や、非貴金属であるニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)等が好適に用いられる。これらの活性金属原料を溶媒中に溶解させ、上記のCeR系酸化物を溶液中に投入し、溶媒を蒸発させることで、CeR系酸化物に活性金属を担持させる。
【0030】
なお、本明細書中で「被覆」と「担持」は同様の趣旨を示すものとして用いる。従って、CeR系酸化物表面に活性金属が存在していない部分があっても「被覆された状態」と呼んで構わない。また逆にCeR系酸化物表面の全面を活性金属が覆っていても「担持している」と呼んで構わない。
【0031】
<還元活性化処理>
活性金属を担持させたCeR系酸化物を還元活性化処理して、CeR系酸化物に酸素欠損サイトを作る。このようにCeR系酸化物に酸素欠損サイトを生じさせることで、起動材となる。活性金属と起動材によって本発明の水素製造用触媒となる。なお、活性金属を担持後であって、還元活性化処理を行う前の活性金属を担持させたCeR系酸化物を説明の都合上「触媒前駆体」とも呼ぶ。但し、一度還元活性化処理を行った本発明の触媒は、CeR系酸化物が酸化されて酸素欠損サイトがなくなり、自己発熱能を失っても水素製造用触媒と呼ぶ。還元活性化処理を行うことで自己発熱能を回復するからである。
【0032】
還元活性化処理は具体的には、次のように行える。まず、内側に不活性処理をした金属反応管を有する常圧固定床流通式反応装置内に、上記の活性金属担持複合酸化物(触媒前駆体)を充填し、触媒層とする。そして、純水素(H)を流通させながら100〜200℃まで昇温保持する。
【0033】
かかる加熱温度は、本発明の触媒を得るために必要であるが、より低い方がコストなどの点で有利であるのは言うまでもない。触媒前駆体の還元活性化処理が終了すると本発明の水素製造用触媒が得られる。
【0034】
本発明の触媒は、触媒温度が常温の状態からでも、原料ガスに酸素が含まれれば、その酸素によって自己酸化により発熱を行う。この熱によって触媒中の活性金属が原料ガスの改質反応を行い、水素を含有するガスを発生させる。また、この発熱反応は昇温レートが高いため、わずかな時間で水素含有ガスを発生させることができる。
【0035】
次に図1を用いて本発明の水素製造用触媒を用いた燃料電池システムについて簡単に説明する。本実施の形態の説明では、固体電解質形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:以下「SOFC」と呼ぶ。)システムを例にするが、これに限定されるものではない。本発明の燃料電池システム10は、炭化水素ガス供給器12、酸素供給器13、改質器14、SOFC30を含む。
【0036】
炭化水素ガス供給器12は、改質器14に流入させる炭化水素ガスを供給する。炭化水素ガス供給器12には、脱硫装置が含まれていてもよい。酸素供給装置13は炭化水素ガス供給器12から供給される炭化水素ガスに酸素を混合する。混合は混合弁16で行われる。酸素供給装置13が供給する酸素は純酸素であってもよいが、窒素等が含まれていてもよく、空気であってよい。
【0037】
酸素を含有した炭化水素ガス11はバルブ17を経て、改質器14に供給される。改質器14には、本発明の水素製造用触媒が充填されている。なお、炭酸ガス供給器12と、酸素供給装置13と、混合弁16と、改質器14で水素製造装置を構成する。改質器14からは主として水素及び一酸化炭素を含む改質ガス15が排出され、バルブ18を介してSOFC30に通気される。SOFCは特にタイプを限定することなく、何れのタイプを用いてもよい。ここでは、一般的なウエスティングハウス円筒縦縞形セルの場合で説明を続ける。
【0038】
SOFC30には、シールレス仕切り板31によって、アノード領域32とカソード領域33に分けられている。固体電解質34は、一端が閉じた円筒形をしており、閉端側をシールレス仕切り板31からアノード領域32に配置し、開端側をカソード領域33に配置されている。開端には、SOFC30のカソード領域33側から挿入された酸素供給パイプ35の先端が、固体電解質34の中に挿入されている。酸素供給パイプ35から供給される酸素も、純酸素ばかりでなく、空気であってよい。
【0039】
これによって、固体電解質34の筒外側は、アノード領域32で改質ガスと接し、燃料極となる。また、固体電解質34の筒内側は、酸素と接し、空気極となる。そして、固体電解質34の筒外側には負極36が配置され、筒内側には正極37が配置される。これらの電極から導線によって負荷38が接続されると、電流を取り出すことができる。
【0040】
また、SOFC30のカソード領域33には、燃焼後の排気ガス排出口39が配設されている。
【0041】
次にこの燃料電池システム10の動作について説明する。燃料電池システム10が最初停止状態であるとする。ここで停止状態とは、改質器14、SOFC30が共に常温状態になっている場合をいう。
【0042】
本発明の燃料電池システム10には、後述するように水素製造用触媒を再活性させるための熱源41を装備しているが、システムの起動時にはこれを用いない。起動時には炭化水素ガス供給器12と酸素供給器13からの炭化水素ガスと酸素の混合ガスを改質器14に通気させる。改質器14中の水素製造用触媒は、混合ガス中の酸素によって酸化し、自己発熱する。この発熱によって水素製造用触媒自身が、改質反応を行う起動温度まで上昇し、混合ガス中の炭化水素から高温のCOとHを生成する。このCOとHを含有するガスが改質ガス15となる。改質ガス15を供給されたSOFC30は発電を開始する。
【0043】
本発明の燃料電池システム10には、更に改質器14で発生させた水素を含む改質ガス15を一時貯留するタンク40と、改質器14を加熱する熱源41と、熱源41を駆動する電源42、電源を充電する充電制御器43が配設される。タンク40には、改質器14が発生する改質ガス15を所定量だけ蓄積する。また、負極36と正極37からは電源42に充電するための配線が充電制御器43に接続されており、燃料電池システム10が稼働中に電源42を充電する。
【0044】
本発明の燃料電池システム10は、起動・停止を繰り返して行えるが、停止時に触媒が酸化された場合は触媒能及び自己発熱能も失活する。その場合は、以下のようにして触媒を再復活させる。
【0045】
まず、バルブ17をタンク40から改質器14へ開通するように切り替える。バルブ18は外気側に開通するように切り替える。次にタンク40から水素を含む改質ガスを流しながら電源42から熱源41に電流を流し、改質器14を加熱する。熱源41はニクロムなどの熱線でよく、改質器14を200乃至300℃に加熱することができる。
【0046】
所定時間この状態を維持し、バルブ17、18を閉じ、熱源41への通電を停止する。本発明の水素製造用触媒は300℃の温度があれば、十分に再復活することができ、上記の手続きで改質器14内の触媒を復活させることができる。
【実施例】
【0047】
以下実施例について説明を行う。
【0048】
(実施例1)
Ce源として硝酸セリウム六水和物(Ce(NO・6HO)と、オキシ硝酸ジルコニウム二水和物(ZrO(NO・2HO)をZrに対するCeが19原子%になる量を溶解した0.4mol/L水溶液2.0L(原料液)を、1.0mol/L炭酸アンモニウム((NHCO)水溶液2.0Lに対して投入し、室温条件下30分間攪拌させつつ混合することでCe−Zr酸化物前駆体を得た。
【0049】
得られた沈殿物をろ過、水洗し、100℃で12時間乾燥して、前駆体の乾燥粉末を得た。次に、この乾燥粉末を大気雰囲気下800℃で2時間焼成してCeを主成分とするCe−Zrの酸化物を得た。
【0050】
得られた粉末はBET法による比表面積測定では39.2m/gと算出された。また、X線回折パターンから酸化セリウムを主成分とする複合酸化物であることが確認された。
【0051】
次に活性金属としてRhを上記のCeR系酸化物の表面に被覆させた。具体的には以下のとおりである。0.30リットルビーカーでRhCl・3HO(添川理化学株式会社製)0.26gを蒸留水に溶解し全量を0.15リットルとした。これをRh前駆体水溶液とした。
【0052】
次に上述の方法により作成したCeR系酸化物10gを、Rh前駆体水溶液の入っているビーカーに加えた後、室温で12時間攪拌して、溶液と複合酸化物を完全になじませた。
【0053】
その後、ビーカーを加熱型ホットスターラー上で加熱攪拌し、水分を蒸発させることで複合酸化物上にRhを被覆し、60℃で24時間乾燥機中にて乾燥し、CeZr系酸化物を得た。
【0054】
CeZr系酸化物を磁性乳鉢で粉砕した後、パイレックス(登録商標)ガラス製の容器に挿入し、縦型管状炉中で空気中450℃5時間の加熱処理を施した。このときの昇温速度は2℃/分であった。熱処理後、室温まで自然に冷却し得られた粉末を錠剤成形器により、528kg/mの加圧圧力にてディスク成形した。得られた成形体は金属メッシュを用いて解粒し、ふるいを用いて0.18〜0.25mmの粒径にそろえることで、本発明に従う触媒前駆体の粉末を得た。この加熱処理は必ずしも行わなくてもよいが、行うことでRhを担持させた際に付着した不純物の除去やCeR系酸化物の焼結度が向上するので好ましい。
【0055】
得られた触媒前駆体の粉末に、次の還元活性化処理を行った。
まず、内側に不活性処理をした金属反応管を有する常圧固定床流通式反応装置内を用意し、この金属反応管に、触媒前駆体粉末を0.1g充填した触媒層を設けた。金属反応管は、外径9.9mm、内径7.0mmのものを用いた。
【0056】
金属反応管内に、純水素(H)を通過速度:20mL/分、圧力0.1MPaで流通させ還元活性化処理を行った。このときの昇温速度は10℃/分とし、100℃での保持時間を1時間とした。これにより本例の水素製造用触媒を得た。
【0057】
<触媒活性評価>
Arを流通させて触媒層を常温まで冷却した後の触媒活性を測定した(反応起動試験)。まず、得られた水素製造用触媒について、還元活性化処理で用いた常圧固定床流通式反応装置を用い、上述した還元活性化処理後(100℃で1時間保持)、引き続き流通ガスをAr(流通速度:50mL/分)に切り替え、触媒層を常温(25℃)まで冷却した。
【0058】
その後、ブタン(n−C10)、酸素(O)、窒素(N)、アルゴン(Ar)をn−C10/O/N/Ar=37/74/14/282(cm)の割合で混合したガス(「疑似原料ガス」と呼ぶ。)を用いて、n−C10、転化率、H生成速度、水素、CH、CO,CO収率を測定した。これらの値は、次の数式1〜8に示す計算式を用い、Nを内部標準として求めた。
【0059】
【数1】

【0060】
【数2】

【0061】
【数3】

【0062】
【数4】

【0063】
【数5】

【0064】
【数6】

【0065】
【数7】

【0066】
【数8】

【0067】
活性測定の条件は、活性測定開始時の触媒層入口温度を常温(25℃)とし、反応圧力0.1MPaとし、全ガス供給速度555mL/分、空間速度(SV)333L/時間・gとなるように調整した。
【0068】
また、活性測定を開始してから30分後に反応生成物(触媒層で改質された出口ガス)をTCD検出器付きガスクロマトグラフ(6890N(Agilent Techinologies製)、HP−PLOT Moleshieve及びHP−PLOT Q)により分析した。
【0069】
なお、還元活性化処理を行い、次に流通ガスをArに切り替えて、触媒層が常温まで冷却された後、活性測定を開始してからは、触媒自身が酸素との反応で生成した熱により触媒が加熱されるため、電気炉による加熱は行っていない。
【0070】
また、上記の疑似原料ガスは、活性測定を行う際に用いた改質反応の原料であり、実際に用いる原料ガスは炭化水素と酸素が含まれていれば、その比率や他のガスの存在は限定されるものではない。
【0071】
表1に示すように、実施例1で得られた水素製造用触媒は、100℃という低い還元活性化処理温度(H還元温度)であっても、n−C10の転化率は97%という高い転化率を示した。また、H、CH、CO、COの収率はそれぞれ80%、13%、82%、5%を示した。
【0072】
(実施例2)
Ce源として硝酸セリウム六水和物(Ce(NO・6HO)を溶解した0.4mol/L水溶液2.0L(原料液)を、1.0mol/L炭酸アンモニウム((NHCO)水溶液2.0Lに対して投入し、室温条件下30分間攪拌させつつ混合することで沈殿物を得た。
【0073】
この中和物に対して被覆する物質として、TEOS(CO)Siを用い、その中和物にCeが19原子%になる量添加し1時間攪拌を継続して、中和物にSiを被覆させ、Ce−Si酸化物前駆体を得た。その後、実施例1と同様の操作を行い、本例のCeS i系酸化物を得た。その後、還元温度を200℃とした以外は、実施例1と同様の評価を行い、表1に示す結果を得た。
【0074】
(比較例1)
R源を添加せずに、Ceだけの硝酸溶液を用意し、沈殿剤としてアンモニア水を用いた以外は実施例1と同様の操作を繰り返して本例のCe酸化物を得た。
【0075】
(比較例2)
沈殿剤を炭酸アンモニウム水溶液とした以外は比較例1と同様の操作を繰り返して本例のCe酸化物を得た。
【0076】
比較例1、2とも得られたCe酸化物を実施例1と同様の方法でRhを被覆し、それぞれの比較例の触媒を得た。それぞれの触媒はその後、還元温度を600℃とした以外は、実施例1と同様の評価を行い、得られた結果を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
以上のように、実施例1及び2は還元活性化処理温度(表1では「H還元温度」と記載した)が100℃、200℃と非常に低い温度であった。これは数アンペアの電流を電熱線に流しただけで実現できる程度の温度である。また、Hの収率も80%、76%と高かった。これが複数回の繰り返し回数の平均値であることを考慮すると、実施例1及び2の触媒は、一度失活したとしても、低い温度で復活させることができる。
【0079】
特に100℃や200℃程度の温度であれば、復活させるために必要な装置は小さくてよく、自立型燃料電池システムには非常に好適に利用できる。
【0080】
一方、Ce酸化物と活性金属からなる比較例の触媒は、Hの収率は80%以上と高いものの、還元活性化温度が600℃と高く、触媒能や自己発熱能が失活した後に再復活させるためには、規模の大きな装置が必要となる。
【0081】
なお、実施例及び比較例ともに起動に際して外部から熱を加えることはなかった。即ち、単に原料ガスを流すだけで、触媒のうちの複合酸化物が自己酸化反応で発熱を行い、わずか10秒足らずで、活性金属の起動温度まで温度が上がり、改質反応を進めることができた。
【産業上の利用可能性】
【0082】
該触媒を使用することで水素発生装置の小型化が図れるようになるため、燃料電池用の移動電源、純水素型の燃料電池、水素を燃料として使用する水素自動車及び各種交通手段や移動体、エンジンなどの熱機関といった広範なものに使用することができると考えられる。
【符号の説明】
【0083】
10 燃料電池システム
12 炭化水素ガス供給器
13 酸素供給器
14 改質器
15 改質ガス
16 混合弁
17 バルブ
18 バルブ
20 水蒸気発生器
21 混合弁
22 バルブ
23 燃料ガス
30 固体電極形燃料電池(SOFC)
31 シールレス仕切り板
32 アノード領域
33 カソード領域
34 固体電解質
35 酸素供給パイプ
36 負極
37 正極
38 負荷
39 排気ガス排出口
40 タンク
41 熱源
42 電源
43 充電制御器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性金属と、一般式がCe(X+Y=1.0:RはZr又はSi)で表わされ、Xは0.8以上であるCeR系酸化物とを含んでなる水素製造用触媒。
【請求項2】
前記活性金属は、白金系元素、ニッケルのうちから選択される少なくとも一種である請求項1に記載された水素製造用触媒。
【請求項3】
前記活性金属は、前記CeR系酸化物上に被覆する請求項1又は2の何れかの請求項に記載された水素製造用触媒。
【請求項4】
以下の工程を行い水素製造用触媒を製造する方法であって、
(1)炭酸アルカリ又はアンモニウムイオンを含む炭酸塩からなる沈殿剤を作製する工程、
(2−1)CeとZrを用いる場合、CeとZrとを含む混合溶液を作製する工程と、この混合溶液を前記沈殿剤に添加し、CeとZrの沈殿物を得る工程、
(2−2)CeとSiを用いる場合、Ceの溶液を作製する工程とこの溶液を前記沈殿剤に添加しCe沈殿物を得る工程と、更にこの沈殿物をSiを含む溶液に添加した後に、前記沈殿物を添加してCeとSiの沈殿物を得る工程、
(3)これら前記の沈殿物を大気中で焼成しCeとZr又はSiとを含む複合酸化物を得る工程、
(4)前記CeとZr又はSiとを含む複合酸化物に活性金属を被覆して触媒前駆体を得る工程、
(5)前記触媒前駆体に還元雰囲気中で100℃乃至200℃に加熱する還元活性化処理を行う工程、
を有する水素製造用触媒の製造方法。
【請求項5】
炭化水素と酸素を含む原料ガスを水素製造用触媒と接触させて水素含有ガスを発生させる方法であって、
請求項1乃至3の何れか一の請求項に記載の水素製造用触媒を常温の状態で、前記原料ガス中の酸素に接触させ、前記水素製造用触媒が発生する自己発熱により、前記原料ガス中に含まれる炭化水素と酸素との燃焼反応が生じる温度まで前記原料ガスを昇温させる昇温工程と、前記昇温工程で高温になった前記水素製造用触媒にて前記原料ガスを改質する工程とを有する水素含有ガスの製造方法。
【請求項6】
炭化水素ガスを含有する気体を供給する炭化水素ガス供給器と、
酸素を含有する気体を供給する酸素供給器と、
前記炭化水素ガス供給器と前記酸素供給器に接続された混合弁と、
前記混合弁に接続され、請求項1乃至3の何れか一の請求項に記載された水素製造用触媒が配置された改質器を有する、水素含有ガスの製造装置。
【請求項7】
請求項6に記載された水素含有ガスの製造装置と、
前記水素含有ガスの製造装置に接続された燃料電池を有する燃料電池システム。

【図1】
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【公開番号】特開2011−183284(P2011−183284A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49818(P2010−49818)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000224798)DOWAホールディングス株式会社 (550)
【出願人】(304028726)国立大学法人 大分大学 (181)
【Fターム(参考)】