説明

水素製造装置

【課題】システム停止時に大気中の水分が分離膜の微細孔に凝縮することによる水素分離性能の低下を低減させつつ、残留ガスを大量に放出することを防止することが可能な水素製造装置及び方法を提供すること。
【解決手段】混合ガス中の水素を選択的に分離する水素分離膜(121)を備える分離膜モジュール(12)と、分離膜モジュールに、混合ガスを供給する混合ガス供給手段(221、721)と、分離膜モジュールを排気する排気ライン(231、251)を有する排気手段(773、771)と、分離膜モジュールを置換するためのパージガスを供給するパージガス供給手段(24a、24b)と、分離膜モジュールに混合ガスの供給を停止する際に、パージガス供給手段にパージガスの供給を開始させて、分離膜モジュールに残留するガスを置換させる制御手段と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合ガスから水素を分離する水素製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の石油や石炭といった化石燃料による発電システムでは、化石燃料の燃焼により二酸化炭素等の温室効果のあるガスが大量に放出され、地球全体の環境への影響が大きいことから、なるべく地球環境への影響の少ない方法による発電システムが望まれている。
【0003】
そこで、化石燃料を使用しない、地球環境や経済性を考慮した水素をエネルギー源とした発電システムが考えられ、水素の製造技術に関する開発が鋭意進められている。その中の一つに、メタンを主成分とする天然ガスを水蒸気改質によって水素と一酸化炭素の合成ガスを得て、さらに水素のみを得るために分離膜を利用する方法が知られている。
【0004】
水蒸気改質法は、触媒を充填させた反応器において、炭化水素燃料と高温水蒸気を反応させて水素と一酸化炭素を得る方法である。炭化水素燃料としては、メタンを主成分とした天然ガスやメタノール等が多く使用されている。
【化1】

【0005】
水蒸気改質反応は、上記の反応式に示したように、かなり大きな吸熱反応のため、反応に必要な750度から900度の熱を供給する必要があるが、水素や炭酸ガスなどの生成物を反応域から取り除くことにより、低い温度でも反応するようになる。そこで、分離膜を用いて水素を選択的に除去しつつ通常よりも低い温度で反応を進行させる方法が研究された。分離膜を用いた場合、反応を促進しつつ、得られた水素は高純度であるため、そのまま発電システムや燃料電池で使用することができる。
【特許文献1】特開2003−10658号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような場合、分離膜としては、アルミナ等の多孔質セラミックス管の外側表面に、微細孔を有する、シリカを主成分とした薄膜をコーティングした、多層構造のものが知られている。このような分離膜は、水分が付着すると、微細孔の緻密化が進行し水素分離性能が劣化してしまう。しかも、分離膜の劣化は、付加逆的な反応であり、分離膜の劣化が生じた場合には、分離膜の交換が必要であった。
【0007】
また、システム停止時に大気開放等をした場合には、大気中の水分によって分離膜の性能が劣化してしまうという問題があった。さらに、単に他のガスによって反応器の残留ガスをパージすることも考えられるが、大規模発電システムにおいては、残留ガスをパージすることにより、パージガスと水素の混合ガスが大量に大気に放出されることにより、爆発の危険性や、反応によって生成される一酸化炭素ガスも含まれるため、一酸化炭素中毒による窒息等の危険性が存在する。
【0008】
本発明は、システム停止時に大気中の水分が分離膜の微細孔に凝縮することによる水素分離性能の低下を低減させつつ、残留ガスを大量に放出することを防止することが可能な水素製造装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下のような水素製造装置及び方法を提供する。
【0010】
(1) 水素を含む混合ガスから水素を分離して製造する水素製造装置であって、前記混合ガス中の水素を選択的に分離する水素分離膜(例えば、分離膜121など)を備える分離膜モジュール(例えば、分離膜モジュール12など)と、前記分離膜モジュールに、前記混合ガスを供給する混合ガス供給手段(例えば、混合ガス供給ライン221、バルブ721など)と、前記分離膜モジュールを排気する排気ラインを有する排気手段(例えば、水素排出ライン251、排出ライン231など)と、前記分離膜モジュールを置換するためのパージガスを供給するパージガス供給手段(例えば、パージガスタンク13、パージガス供給ライン24a、24bなど)と、前記分離膜モジュールに前記混合ガスの供給を停止する際に、前記パージガス供給手段にパージガスの供給を開始させて、前記分離膜モジュールに残留するガスを置換させる制御手段(例えば、制御部71)と、を備える水素製造装置。
【0011】
(1)に記載の発明によれば、水素製造装置の制御手段は、混合ガスから水素を分離させる水素分離膜を備える分離膜モジュールへの混合ガスの供給を混合ガス供給手段に停止させる際に、パージガス供給手段にパージガスの供給を開始させて、分離膜モジュール内を置換させることができる。
【0012】
このことにより、混合ガスの供給が停止された後でも、分離膜モジュール内がパージガスで充たされた状態となるので、当該分離膜モジュール内に空気等が混入して、大気中の水分により、水素分離膜が劣化する可能性を低くすることが可能となる。
【0013】
(2)前記制御手段は、前記排気ライン中に設けられた計測手段(例えば、圧力計761など)による排気ガスの計測値が所定の値に達した場合に、前記置換を開始する(1)記載の水素製造装置。
【0014】
(2)に記載の発明によれば、制御手段は、排気ライン中に設けられた計測手段により、計測値が所定の値に達したことに応じて、パージガス供給手段にパージガスの供給を開始させることができる。
【0015】
このことにより、計測値が所定の値に達したことに応じて、膜モジュール内をパージガスによる置換を開始することができる。このため、例えば、当該計測値を膜モジュール内のガスがある程度排気されたことを示す値とした場合に、膜モジュール内のガスを排気してからパージガスによって置換することが可能となる。
【0016】
(3)前記水素分離膜は、筒状の形態であり、前記混合ガス供給手段は、前記筒状の水素分離膜の内外のうち、一方に混合ガスを供給し、前記排気手段は、最初に前記筒状の水素分離膜の内外のうち、他方から水素を排気する水素排気ライン(例えば、水素排出ライン251、252など)と、前記水素排気ラインからの排気が開始された後に前記筒状の水素分離膜の内外のうちの一方の残留ガスを排気する残留ガス排気ガスライン(例えば、排出ライン231など)と、を有し、前記パージガス供給手段は、前記筒状の水素分離膜の内外のうち他方から前記パージガスを供給する、(1)又は(2)に記載の水素製造装置。
【0017】
(3)に記載の発明によれば、筒状の水素分離膜の内側と外側のガスを排気する排気ラインをそれぞれ設け、パージガス供給手段は当該水素分離膜の内側にパージガスを供給することができる。
【0018】
このことにより、水素分離膜の内側と外側に排気ラインを設け、分離膜の内側にパージガスを供給するので、水素と他のガスを別々に排気することができ、かつ分離膜の内側にパージガスを供給することによって、劣化しやすい分離膜から優先的にパージをすることができる。また、パージガスの種類が分離膜を透過できるものであるときは、パージガス供給ラインが1系統ですむため、接続部が少なくてすみ、接続部からのリークの可能性を低減することができる。
【0019】
(4)前記パージガス供給手段は、前記水素分離膜の内側と外側に前記パージガスを供給する、(3)に記載の水素製造装置。
【0020】
(4)に記載の発明によれば、水素分離膜の内側と外側にパージガスを供給することができる。このことにより、パージガスの種類が水素分離膜を透過できない場合に、膜モジュール内を全体にわたってパージガスで置換することが可能となる。
【0021】
(5) 前記パージガスは、不活性ガスである、(1)から(4)のいずれかに記載の水素製造装置。
【0022】
(5)に記載の発明によれば、パージガスは不活性ガスであるので、パージガスの供給中に残留ガスや水素分離膜の反応を抑えることが可能となる。
【0023】
(6) 前記不活性ガスは、ヘリウムである、(5)に記載の水素製造装置。
【0024】
(6)に記載の発明によると、不活性ガスがヘリウムである。ヘリウムは、標準状態で単原子として存在し、水素よりも小さいため、水素分離膜を通過することができるので、パージガスとして使用することで、水素分離膜の内側も外側にも効率的にパージすることができる。また、例えば、内側若しくは外側のみにヘリウムを供給するだけでも水素分離膜モジュールをパージすることが可能となり、パージガス供給ラインを1系統にすることもできる。
【0025】
(7) 水素を含む混合ガスから水素を分離して製造する水素製造装置の運転方法であって、前記水素製造装置は、前記混合ガス中の水素を選択的に分離する水素分離膜(例えば、分離膜121など)を備える分離膜モジュール(例えば、分離膜モジュール12など)を備え、前記分離膜モジュールに、前記混合ガスを供給する工程と、前記分離膜モジュールに前記混合ガスの供給を停止する工程(例えば、ステップS110など)と、前記供給を停止する際に、前記分離膜モジュールにパージガスを供給して、前記分離膜モジュールに残留するガスの置換をする工程(例えば、ステップS130、ステップS150など)と、前記残留するガスを排気ラインに排気する工程(例えば、ステップS120、ステップS140など)と、を含む前記水素製造装置の運転方法。
【0026】
(7)に記載の発明によれば、(1)と同様の効果を奏することが可能となる。
【0027】
(8) 前記排気ラインに設けられた計測手段による排気ガスの計測値が所定の値に達した場合に、前記置換を開始する工程(例えば、ステップS110、S120など)と、を含む(7)記載の水素製造装置の運転方法。
【0028】
(8)に記載の発明によれば、(2)と同様の効果を奏することが可能となる。
【0029】
(9) 筒状の前記水素分離膜の内外のうち、一方に混合ガスを供給する工程と、最初に前記筒状の水素分離膜の内外のうち、他方から水素を排気する工程(例えば、ステップS120)と、前記水素の排気が開始された後に、前記筒状の水素分離膜の内外のうちの一方の残留ガスを排気する工程(例えば、ステップS140)と、前記筒状の水素分離膜の内外のうち他方から前記パージガスを供給する工程(例えば、ステップS130)と、を含む(7)又は(8)に記載の水素製造装置の運転方法。
【0030】
(9)に記載の発明によれば、(3)と同様の効果を奏することが可能となる。
【0031】
(10) 前記パージガスを前記水素分離膜の内側と外側に供給する工程を含む、(9)に記載の水素製造装置の運転方法。
【0032】
(10)に記載の発明によれば、(4)と同様の効果を奏することが可能となる。
【0033】
(11) 前記パージガスは、不活性ガスである、(7)から(10)に記載の水素製造装置の運転方法。
【0034】
(11)に記載の発明によれば、(5)と同様の効果を奏することが可能となる。
【0035】
(12) 前記不活性ガスは、ヘリウムである、(11)に記載の水素製造装置の運転方法。
【0036】
(12)に記載の発明によれば、(6)と同様の効果を奏することが可能となる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、システム停止時に大気中の水分が分離膜の微細孔に凝縮することによる水素分離性能の低下を低減させつつ、残留ガスを大量に放出することを防止することが可能な水素製造装置及び方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下に、本発明の好適な実施形態の一例について説明する。
【0039】
図1は、本発明の好適な実施形態の一例における、水素製造装置の概略を示したブロック図である。
【0040】
水素製造装置7は、水蒸気改質反応によって水素と一酸化炭素を生成し、分離膜によって水素を選択的に取り出す水素製造部1と、メタンを主成分とする天然ガスを供給する原料タンク2、水蒸気を発生させる水蒸気発生部3、水蒸気発生部3に水を供給する水タンク4、水素製造部1から排気される一酸化炭素等の排気ガスを処理する排気ガス処理部5、で構成され、水素製造部1から得られた水素は、水素をエネルギーとして発電する発電システム6に供給される。
【0041】
水素製造部1は、水蒸気改質反応部11及び分離膜モジュール12で構成される。具体的には、例えば、図2に示される。
【0042】
図2は、本発明の好適な実施形態の一例に係る、水素製造部1の概念図である。この図に示すように、水素製造部1は、筒状の金属製のチャンバ21によって覆われており、分離膜121を備えた多孔質支持体122とで構成される分離膜モジュール12と、改質触媒111と、から構成されている。また、別に、チャンバ21には、主成分とした天然ガスと水蒸気の混合ガスを当該水素製造部1に供給する混合ガス供給ライン22、排出ライン23、チャンバ21内をパージするためのパージガス供給ライン24a、24b、水素を排出する水素排出ライン25が設けられている。さらに、チャンバ21の外側には、ヒータモジュール75(後述、図3参照)が備えられており、チャンバ21の内部の温度をコントロールすることができる。尚、改質触媒111は、多孔質支持体122とチャンバ21との空間26に充填される。
【0043】
分離膜モジュール12は、多孔質支持体122の表面部に形成されたセラミック膜(分離膜121)で構成される。多孔質支持体122は、筒型に形成されており、その内表面にセラミック膜が形成されている。本実施例においては、多孔質支持体122は、直管状で示されているが、U字状や渦状、波状等の形態であってよい。セラミック膜は、ガス透過率及びガス選択透過性が相互に異なる少なくとも二つの部分があり、多孔質支持体の表面上に、所定の方向に沿って配列するようにしてもよく、また、層状に重なるようにしてもよい。
【0044】
チャンバ21内は、ヒータモジュール75で加熱された状態である。多孔質支持体122は、急激な温度変化による熱衝撃によって、割れ等が発生し、破壊される恐れがあるため、加熱する際には、急激に加熱せずに、一定の昇温速度で昇温することが望ましい。また、加熱する間は、室温により生じた水分による劣化を防ぐために、パージガス供給ライン24a、24bよりパージガスを供給することが望ましい。
【0045】
そして、天然ガスと水蒸気の混合ガスが混合ガス供給ライン22から供給されると、混合ガスは、空間26に充填された改質触媒111によって、水蒸気改質反応が行われる。水蒸気改質反応によって生成された水素と一酸化炭素は、さらに、分離膜121によって水素のみを選択的に分離され、水素は水素排出管25により発電システム6に供給され、一酸化炭素は排出ライン23により排出される。
【0046】
図3は、本発明の好適な実施形態の一例に係る、水素製造装置7の全体の概念図である。
【0047】
水素製造装置7は、バス80によって接続された、水素製造装置7を制御する制御部71、各ガス配管に備えられるバルブ72の圧力を制御するバルブ制御部73、ヒータ74の温度を制御するヒータモジュール75、配管にかかる圧力を測定する圧力センサ76、装置の停止時にポンプ77を駆動させてチャンバ21内に残留するガスを排気させるポンプ制御部78、チャンバ21内の温度を測定する温度センサ79を有する。また、発電システム6と連動するために、発電システム6と通信回線で接続可能であってよい。
【0048】
バルブ72は、配管を通過するガスの流量及び/又は圧力を制御するものであり、又はストップバルブであってもよく、必要に応じて使用される。そして、制御部71からの指令に従って、バルブ制御部73により、電子制御される。そして、バルブ72の数は複数でもよく、数は任意であってよい。
【0049】
ポンプ77は、チャンバ21内に残留するガスを排気するためのものであり、真空ポンプが望ましいが、通常の排気用ポンプであってもよい。また、真空ポンプは、ターボ分子ポンプ、分子拡散ポンプ、ロータリーポンプ、イオンポンプ等、規模や排気量に応じて任意のポンプを選択可能である。また、複数のポンプを組み合わせてより高真空を得るようにしてもよい。
【0050】
制御部71は、情報の演算や処理を行なう、いわゆるCPU(Central Proccesing Unit)を備えたコンピュータであって、メモリに記憶される処理プログラムに従って、水素製造装置7全体の制御を行なう。各部の機能を実現するためのプログラムをメモリにロードして実行することによりその機能を実現させるものであってもよいし、また、専用のハードウェアにより実現されるものであってもよい。そして、制御部71は、メモリに記憶された各種プログラムを適宜読み出して実行することにより、各種のハードウェアと協働し、本発明に係る各種機能を実現している。
【0051】
具体的には、例えば、制御部71は以下のような制御を行なう。図4は、本発明の実施形態の一例に係る、制御部71が行なう処理のフローを示した図である。また、図5は、本発明の好適な実施形態の一例に係る、水素製造システムの全体を示す概略図である。以下に、図4及び図5を参照して説明する。
【0052】
図5において、システムが定常状態であるときは、以下の状態である。原料タンク2からメタンを主成分とする天然ガスが供給され、水蒸気発生部3は、水タンク4から供給される水から水蒸気を発生させる。そして、天然ガスと水蒸気との混合ガスが混合ガス供給ライン221を通って水素製造部1に供給する。このとき、バルブ721は、流路の開閉を行なうことにより、混合ガスの圧力及び流量を制御することになる。制御部71は、このバルブ721を制御するバルブ制御部73に信号を送信し、バルブ制御部73は、バルブ721を動作させて混合ガスの供給を行う。
【0053】
一方で、パージガスは供給されない。具体的には、例えば、パージガスを供給するパージガスタンク13に連通するパージガス供給ライン24a及び24bは、パージガスバルブ722、723を閉じていることによって閉塞状態となっている。尚、パージガス供給ライン24aは、分離膜モジュール12の内側にパージガスを供給するラインであり、パージガス供給ライン24bは、分離膜モジュール12の外側(すなわち、空間26に充填された改質触媒111部分)にパージガスを供給するラインである。パージガス供給ラインを2系統備えることにより、パージガスが分離膜を通過できない種類のガスであっても、効率よく内部をパージすることが可能となる。また、パージガスの種類が分離膜と通過できるガスである場合には、パージガス供給ラインは1系統であってもよい。
【0054】
水素製造部1は、チャンバ21の外側に配置されるヒータモジュール75により、加熱されている。そして、混合ガス供給ライン221から供給された混合ガスは、水素製造部1内の空間26に導入される。そして、充填されている改質触媒111によって起こされる水蒸気改質反応により、水素と一酸化炭素が生成される。
【0055】
さらに、分離膜121により、水素が選択的に分離され、分離された水素は、水素排出ライン251により、水素分離膜モジュール12から排出される。排出された水素は、例えば、図5に示すように、水素排出ライン251を発電システム6に接続することにより、発電システム6に供給するようにしてもよい。供給する場合は、水素排出ライン251の途中にあるバルブ724は開いた状態である。また、水素製造部1からバルブ724の間で分岐され、システムを停止する際に水素製造部1内の水素を処理するための水素処理部772に排出する水素排出ライン252にあるバルブ726は閉じた状態となっている。すなわち、分離膜モジュール12から排出された水素は、水素排出ライン251、252において、バルブ724のみが開いており、発電システム6に供給する状態となっている。
【0056】
システムを停止させる際には、まず、制御部71は、発電システム6から発電停止の旨の信号を受信すると(ステップS100)、天然ガスと水蒸気との混合ガスの供給を停止する(ステップS110)。具体的には、例えば、制御部71は、水蒸気発生部3における水蒸気の生成を停止させ、バルブ721を閉塞状態にして、原料タンク2からの天然ガスの供給を停止させる。さらに、制御部71は、発電システム6に水素の供給を停止させるため、水素排出ライン251のバルブ724を閉じる。このとき、分離膜モジュール12の劣化を防ぐために、制御部71は、パージガスバルブ722、723を開けさせて少量のパージガスを供給するようにしてもよい。パージガスを供給しない場合には、制御部71は、パージガスバルブ722、723を閉じた状態に制御する。
【0057】
次に、制御部71は、水素を排出する。具体的には、例えば、水素排出ライン252にあるバルブ726を開けた状態にすると共に、水素を強制的に排出するためにポンプ771を稼動させて、分離膜モジュール12内の圧力を低下させ、水素を排出する。水素排出ライン252は、分離膜モジュール12内のみに接続されているが、分離膜121は水素のみを通過させるので、分離膜モジュール12内の圧力を低下させることで、改質触媒111に残存する水素も同時に引き込むことにより、水素のみを選択的に排出することができる。
【0058】
そして、排出された水素は、水素処理部772に導入される。この水素処理部772は、水素を安全にシステム外に放出するためのものである。例えば、酸素と反応させて水として放出させることが考えられる。水とした場合には、再度、水タンク4に還流させて再利用できるようにしてもよい。また、パージガスを分離膜モジュール12内に供給しないでステップS120の処理を行なう場合には、排出される水素は、高純度であるので、水素を貯蔵する貯蔵タンク(図示せず)を設けて、貯蔵タンクに排出するようにしてもよい。
【0059】
制御部71は、水素排出ライン252のバルブ726の下流からポンプ771の間にある圧力計761の測定値が所定の値となったことに応じて、パージガスバルブ722を開放して分離膜モジュール12の内側のパージを開始する(ステップS130)。
【0060】
また、制御部71は、排出ライン231のバルブ725を開放し、ポンプ773を稼動させて、分離膜モジュール12の外側に残る残留ガスの排気を開始する(ステップS140)。残留ガスは、主として一酸化炭素が多く含まれており、少量の水素も含まれる可能性があるため、このまま大気に放出せず、排気したガスを排気ガス処理部5に導入して二酸化炭素に改質して回収し、処理を行なう。水素とは別に残留ガスを排出することにより、このままでは排気できない残留ガスを効率的に収集し、処理を行なうことができる。さらに、パージガスが排気ガス処理部5に流入することを少なくすることができ、かつ水素もステップS120において大部分を別に排気しているので、残留ガス(主として一酸化炭素)の処理に焦点を当てた処理設備を備えればよいことになる。
【0061】
分離膜モジュール12の外側に残る残留ガスの排気の終了後、制御部71は、パージガス供給ライン24bのパージガスバルブ723を開放し、分離膜モジュール12の外側部分のパージを開始する(ステップS150)。そして常にパージすることにより、発電システム等を大気開放した場合でも、大気がチャンバ21内に流入することを防ぐことができ、大気中の水分によって劣化する分離膜121を保護することができる。
【0062】
[実施例2]
図6は、本発明の好適な実施形態の一例に係る、水素製造システムの全体を示す第2の概略図である。この形態は、例えば、ヘリウム等のように、使用するパージガスが分離膜121を透過できる場合の形態である。そして、チャンバ21内をパージするパージラインが1系統のみであり、分離膜モジュール12の内側をパージするべく接続されている。
【0063】
この形態の場合であっても、定常状態及び発電を停止させる際の処理のフローのステップS100からステップS130までは先に述べたことと同様である。
【0064】
この形態の場合に、ステップS140では、制御部71は、排出ライン231のバルブ725を開放し、ポンプ773を稼動させて、分離膜モジュール12の外側に残る残留ガスの排気を開始する。この場合、分離膜モジュール12の内側に供給されているパージガスは、分離膜モジュール12を透過することができるので、ポンプ773を稼動させておくことにより、分離膜モジュール12の内側のパージガスが引き出され、同時に分離膜モジュール12の外側もパージすることができる。ポンプ773で引き出すことにより、パージガスがチャンバ21内に充満するために要する時間と短縮することができる。さらに、パージガスラインを2系統設けることをしなくてもよく、経済的である。
【0065】
本発明においては、分離膜モジュール12において、多孔質支持体122の内側に分離膜121があるとして説明したが、逆の構成であってもよい。すなわち、多孔質支持体122の外側に分離膜121があってもよい。
【0066】
以上、本発明の実施形態を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定しない。また、本発明の実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施形態に記載された効果に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の好適な実施形態の一例における、水素製造装置7の概略を示したブロック図である。
【図2】本発明の好適な実施形態の一例に係る、水素製造部1の概念図である。
【図3】本発明の好適な実施形態の一例に係る、水素製造装置7の全体の概念図である。
【図4】本発明の実施形態の一例に係る、制御部71が行なう処理のフローを示した図である。
【図5】本発明の好適な実施形態の一例に係る、水素製造装置7の全体を示す概略図である。
【図6】本発明の好適な実施形態の一例に係る、水素製造装置7の全体を示す第2の概略図である。
【符号の説明】
【0068】
1 水素製造部
2 原料タンク
3 水蒸気発生部
4 水タンク
5 排気ガス処理部
6 発電システム
7 水素製造装置
11 水蒸気改質反応部
12 分離膜モジュール
13 パージガスタンク
21 チャンバ
22 混合ガス供給ライン
24a、24b パージガス供給ライン
25 水素排出管
26 空間
71 制御部
73 バルブ制御部
75 ヒータモジュール
78 ポンプ駆動部
111 改質触媒
121 分離膜
122 多孔質支持体
221 混合ガス供給ライン
231 排出ライン
251 水素排出ライン
252 水素排出ライン
721 バルブ
722 パージガスバルブ
723 パージガスバルブ
724 バルブ
725 バルブ
726 バルブ
761 圧力計
771 ポンプ
772 水素処理部
773 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を含む混合ガスから水素を分離して製造する水素製造装置であって、
前記混合ガス中の水素を選択的に分離する水素分離膜を備える分離膜モジュールと、
前記分離膜モジュールに、前記混合ガスを供給する混合ガス供給手段と、
前記分離膜モジュールを排気する排気ラインを有する排気手段と、
前記分離膜モジュールを置換するためのパージガスを供給するパージガス供給手段と、
前記分離膜モジュールに前記混合ガスの供給を停止する際に、前記パージガス供給手段にパージガスの供給を開始させて、前記分離膜モジュールに残留するガスを置換させる制御手段と、を備える水素製造装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記排気ラインに設けられた計測手段による排気ガスの計測値が所定の値に達した場合に、前記置換を開始する請求項1記載の水素製造装置。
【請求項3】
前記水素分離膜は、筒状の形態であり、
前記混合ガス供給手段は、前記筒状の水素分離膜の内外のうち、一方に混合ガスを供給し、
前記排気手段は、最初に前記筒状の水素分離膜の内外のうち、他方から水素を排気する水素排気ラインと、
前記水素排気ラインからの排気が開始された後に前記筒状の水素分離膜の内外のうちの一方の残留ガスを排気する残留ガス排気ガスラインと、を有し、
前記パージガス供給手段は、前記筒状の水素分離膜の内外のうち他方から前記パージガスを供給する、請求項1又は2に記載の水素製造装置。
【請求項4】
前記パージガス供給手段は、前記水素分離膜の内側と外側に前記パージガスを供給する、請求項3に記載の水素製造装置。
【請求項5】
前記パージガスは、不活性ガスである、請求項1から4のいずれかに記載の水素製造装置。
【請求項6】
前記不活性ガスは、ヘリウムである、請求項5に記載の水素製造装置。
【請求項7】
水素を含む混合ガスから水素を分離して製造する水素製造装置の運転方法であって、
前記水素製造装置は、前記混合ガス中の水素を選択的に分離する水素分離膜を備える分離膜モジュールを備え、
前記分離膜モジュールに、前記混合ガスを供給する工程と、
前記分離膜モジュールに前記混合ガスの供給を停止する工程と、
前記供給を停止する際に、前記分離膜モジュールにパージガスを供給して、前記分離膜モジュールに残留するガスの置換をする工程と、
前記残留するガスを排気ラインに排気する工程と、を含む前記水素製造装置の運転方法。
【請求項8】
前記排気ラインに設けられた計測手段による排気ガスの計測値が所定の値に達した場合に、前記置換を開始する工程と、を含む請求項7記載の水素製造装置の運転方法。
【請求項9】
筒状の前記水素分離膜の内外のうち、一方に混合ガスを供給する工程と、
最初に前記筒状の水素分離膜の内外のうち、他方から水素を排気する工程と、
前記水素の排気が開始された後に、前記筒状の水素分離膜の内外のうちの一方の残留ガスを排気する工程と、
前記筒状の水素分離膜の内外のうち他方から前記パージガスを供給する工程と、を含む請求項7又は8に記載の水素製造装置の運転方法。
【請求項10】
前記パージガスを前記水素分離膜の内側と外側に供給する工程を含む、請求項9に記載の水素製造装置の運転方法。
【請求項11】
前記パージガスは、不活性ガスである、請求項7から10に記載の水素製造装置の運転方法。
【請求項12】
前記不活性ガスは、ヘリウムである、請求項11に記載の水素製造装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−261917(P2007−261917A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92453(P2006−92453)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】