説明

水素触媒部材

【課題】金属触媒を多孔質酸化膜に担持した触媒担体により、化学的に水素貯蔵・供給を繰り返す水素媒体を用いて、水素を取り出す脱水素または水素を取り込む水素付加を行う水素触媒部材において、この水素触媒部材を収納する水素反応容器の設計自由度が高く、水素反応容器の形状に合わせて収納可能で、熱交換効率が高く、軽量、小型、安価な水素触媒部材を提供する。
【解決手段】水素触媒部材として、表面に多孔質酸化皮膜を設けた、アルミニウム繊維、アルミニウム粉体、アルミニウム箔の粉砕体、または多孔質酸化皮膜の粉砕体またはアルミナナノチューブの何れかの選定触媒体を金属繊維、金属粉体、またはカーボンの何れか、またはこれらの任意の組み合わせにより形成される選定熱伝達体の隙間に分散させて水素反応容器内に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱水素及び水素付加の水素触媒部材に関し、特に、金属触媒を酸化皮膜に担持した触媒担体の水素触媒部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、安全性、運搬性及び貯蔵能力に優れた水素貯蔵方法として、シクロヘキサンやデカリンのような炭化水素を用いた水素媒体システム(有機ハイドライドシステム)が注目されている。これらの炭化水素は、常温で液体であるため、運搬性、貯蔵性に優れている。
【0003】
例えば、ベンゼンとシクロヘキサンは同じ炭素数を有する環状炭化水素であるが、ベンゼンは炭素同士の結合が二重結合である不飽和炭化水素であるのに対し、シクロヘキサンは二重結合を持たない飽和炭化水素である。ベンゼンの水素付加反応によりシクロヘキサンが得られ、シクロヘキサンの脱水素反応によりベンゼンが得られる。すなわち、これらの炭化水素の水素付加と脱水素反応を利用することにより、水素の貯蔵とその供給が可能となる。
【0004】
図1は、水素反応容器および水素反応ユニットの概略図の一例であり水素エンジンを示している。水素を付加した水素媒体1は、水素媒体タンク2から管により水素反応容器3へ送られる。この水素反応容器3内には白金などの金属触媒を多孔質酸化皮膜に担持した触媒担体が配置され脱水素反応が生じている。ところで、この脱水素反応は吸熱反応であり、熱を必要とするが、この熱をエンジン4からの燃焼排気ガスとの熱交換により得ている。水素反応容器3内に送られた水素を付加した水素媒体1はこの脱水素反応により水素5を放出する。次に、水素反応容器3を出た水素5とそれ以外の物質とは気液分離容器6で分離され、水素を放出した水素媒体及び未反応の水素媒体7は、廃液タンク8に貯蔵される。一方、水素5はエンジン4に送られ燃料となる。
【0005】
ところで、特許文献1には、アルミニウム平板表面を陽極酸化して、多孔質酸化皮膜を設け、その多孔質酸化皮膜に金属触媒を担持して触媒担体とし、化学的に水素貯蔵・供給を繰り返す水素媒体を用いて水素を取り出す脱水素の水素触媒部材を得ることが提案されている。また、このアルミニウム平板の脱水素の水素触媒部材を、スペーサを介して積み上げることにより、水素分離の効率を向上させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−326000公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
脱水素または水素付加のシステムに合わせて水素反応容器もそれにあった形状となり、その水素反応容器中に入れる水素触媒部材もまたそれに合わせて設計する必要がある。
酸化アルミニウムの多孔質酸化皮膜からなる触媒担持体は、アルミニウム基材の表面に陽極酸化により多孔質酸化皮膜を設けている。触媒金属の担持密度は(表面積/体積)に比例し、(表面積/体積)は、触媒担持体の寸法が大きくなるほど低下するが、特許文献1のようなアルミニウム平板は微細構造ではない為、水素触媒部材の触媒金属の担持密度を大きく出来ない。又、水素反応は水素媒体が反応容器を通過する際に水素触媒部材と反応することにより行われるが、水素触媒部材が特許文献1のような平板の平面構造の場合では、水素媒体の流れに層流を生じ、効率的な反応を阻害する。
又、脱水素反応は吸熱反応、水素付加は発熱反応であり、反応に合わせて熱交換を速やかに行う必要がある。アルミニウムは、比較的熱伝導良好な金属ではあるが、厚肉の場合十分低い熱抵抗とは言えない。エンジン廃熱を利用した水素発生装置では、エンジンの燃焼排ガスを主な熱源としている。そのため、熱伝導効率を高めるには、排ガス流路と水素触媒部材を内包した水素媒体が通る流路を隔離する仕切りが、薄い金属である必要があり、充分な熱伝導を得るには、接している長さを長くし、水素媒体の流路断面積を小さくする必要がある。しかしアルミニウム平板のような平面構造の水素触媒部材では水素発生装置内への収納が困難である。水素付加の場合も反応熱を速やかに放散させる必要があり同様である。
又、利用する廃熱温度が高い程、高性能な水素発生器となるが、その温度がアルミニウム融点(660℃)を超える場合において、特許文献1のようなアルミニウム平板は、構造支持体を兼ねていることより、機械的強度を確保できず、従ってアルミニウム融点より十分低い廃熱しか利用できない。
以上の通り従来技術では、触媒金属の担持密度を大きく出来ないことに加え、熱交換効率を大きくできないことより、小型、軽量の水素発生装置/水素付加装置を得ることが困難であると共に、適用温度の規制があった。
【0008】
本発明は、軽量、小型、安価な水素反応容器用の水素触媒部材の提供を目的としており、触媒金属の担持密度を大きくすることが可能であり、水素発生容器の設計自由度が高く、水素発生容器の形状に合わせて収納可能で、熱交換効率が高く、アルミニウム融点以上でも使用可能な水素触媒部材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するために、下記の水素触媒部材を提供するものである。
(1)金属触媒を多孔質酸化皮膜に担持した触媒担体により、化学的に水素貯蔵・供給を繰り返す水素媒体を用いて、水素を取り出す脱水素または水素を取り込む水素付加を行う水素触媒部材において、表面に多孔質酸化皮膜を設けた、アルミニウム繊維、アルミニウム粉体もしくはアルミニウム箔の粉砕体、またはアルミニウムの多孔質酸化皮膜の粉砕体、またはアルミナナノチューブの何れか、またはこれらの任意の組み合わせにより形成される選定触媒体を、金属繊維、金属粉体、またはカーボンの何れか、またはこれらの任意の組み合わせにより形成される選定熱伝達体の隙間に分散させて水素反応容器内に設けたことを特徴とした水素触媒部材。
(2)上記(1)において、少なくとも選定熱伝達体同士が焼結した状態であることを特徴とした水素触媒部材。
(3)上記(1)において、表面に多孔質酸化皮膜を設けたアルミニウム繊維を金属繊維の隙間に分散させ、全体的にねじりをかけて水素反応容器内に設けたことを特徴とした水素触媒部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、触媒金属の担持密度を大きくすることが可能であり、水素発生容器の設計自由度が高く、水素発生容器の形状に合わせて収納可能で、熱交換効率が高く、アルミニウム融点以上でも使用可能でそのため、軽量、小型、安価な水素反応容器用の水素触媒部材の提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】水素反応容器および水素反応ユニットの概略図の一例を示している。
【図2】本発明の水素反応容器内に設けた水素触媒部材の概略断面図である。
【図3】本発明に使用される表面に多孔質酸化皮膜を設けたアルミニウム繊維の斜視図を示している。
【図4】本発明に使用されるアルミナナノチューブの斜視図を示している。
【図5】本発明に使用される多孔質酸化皮膜を設けたアルミニウム箔の斜視図を示している。
【図6】本発明に使用される多孔質酸化皮膜の粉砕体の斜視図を示している。
【図7】本発明の形態のアルミワイヤからなる水素触媒部材の斜視図を示している。
【図8】本発明の水素触媒部材を使用した水素反応容器を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に述べる金属触媒は、水素触媒用の金属で、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、イリジウム、レニウム、ルテニウム、モリブデン、タングステン、バナジウム、オスミウム、クロム、コバルト、鉄などの金属及びこれらの合金触媒を用いることができる。金属触媒を多孔質酸化皮膜に担持する方法は、触媒金属をコロイド状に分散した液に浸漬したり、触媒金属を無電解めっきしたりして行う。
【0013】
本発明に述べる多孔質酸化皮膜は、アルミニウムを陽極酸化してできる酸化皮膜のうち、酸化皮膜が多孔質の皮膜からなる。陽極酸化法として、電解液は、例えば燐酸,クロム酸,蓚酸,硫酸水溶液等を使用することができる。陽極酸化により形成される細孔の径、細孔の間隔、皮膜厚は、印加電圧,処理温度,処理時間などの条件により、適宜設定することができる。
多孔質酸化皮膜の細孔径は、1nm以上とし、担持する金属触媒の大きさに合わせて調整する。但し化成条件だけで、細孔径を拡大しようとすると、細孔間隔が広がり最適な触媒担持密度が得られない場合があるので、陽極酸化での細孔径は小さいままとし、後の酸性溶液処理で細孔径を整えるのが良い。皮膜厚は、適用するアルミニウム粉体径や焼結密度により最適値が異なる。粉体径に対して皮膜厚が厚いと、粉体同士の焼結結合部が消失したり、空隙が皮膜で満たされたり、皮膜成長での応力によりクラックを生じる。陽極酸化の処理液温度は、0℃から50℃、特に30℃から40℃とすることが好ましい。また、この陽極酸化の処理時間は処理条件や形成したい膜厚によって異なるが、例えば20℃、4質量%の蓚酸水溶液で15V、40分とした場合には約1.5μmの陽極酸化層を形成できる。
さらに、燐酸あるいは蓚酸等を溶解した酸性水溶液を用いて陽極酸化皮膜表面を処理し、形成された細孔を拡大した後、ベーマイト処理するのが好ましい。上記酸性水溶液の濃度は、例えば燐酸の場合には5〜20質量%であることが好ましく、10℃から30℃で10分から2時間、細孔径が適度に拡大されるまで処理する。陽極酸化終了後、陽極酸化処理浴に、そのまま所定時間浸漬して孔拡大処理することもできる。ベーマイト処理は、pH6からpH8、好ましくはpH7からpH8の水中50℃〜200℃で処理し、乾燥した後焼成する。ベーマイト処理の処理時間はpHや処理温度によっても異なるが、1時間以上とすることが好ましい。例えばpH7の水中で処理する場合、約5時間処理する。また、焼成はγ―アルミナを形成させるものであり、通常は300℃から550℃で0.1時間から5時間行う。
ベーマイト処理により酸化皮膜の表面(細孔内壁を含む)に羽毛状の水酸化アルミニウムが形成される。この羽毛状水酸化アルミニウムはナノスケールの構造体である。金属触媒は、この羽毛状酸化アルミニウムに担持される。
【0014】
本発明に述べる水素媒体は、水素を放出し貯蔵する媒体で、水素を放出する水素供給体は、それ自体が安定であると共に脱水素されて安定な芳香族類となるものであれば特に制限されるものではないが、好ましくはシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン等の単環式水素化芳香族類や、テトラリン、デカリン、メチルデカリン等の2環式水素化芳香族類や、テトラデカヒドロアントラセン等の3環式水素化芳香族類等を挙げることができ、より好ましくはシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン等の単環式水素化芳香族類や、テトラリン、デカリン、メチルデカリン等の2環式水素化芳香族類である。
水素を貯蔵する物質は、上記の水素を放出した水素貯蔵体で、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ナフタレン、メチルナフタレン、アントラセンなどである。
これら水素媒体全体は有機ハイドライドと呼ばれ、炭素同士の二重結合に水素が付加することにより、水素を貯蔵する。水素付加後の水素供給体は、水素を放出して元の水素貯蔵体に戻る。すなわち、上述の燃料は、水素のリサイクルに適したキャリアとなる。一方、上述の燃料の水素付加反応及び脱水素反応に際して利用される水素触媒は、既に研究開発されて熟知されているものも適用可能であり、実用的なものである。本発明は、より低温で水素貯蔵,供給が可能な触媒を用いることが好ましく、システム全体の効率を向上することができる。
【0015】
本発明に述べる選定触媒体は、表面に多孔質酸化皮膜を設け金属触媒担持して、化学的に水素貯蔵・供給を繰り返す水素媒体を用いて、水素を取り出す脱水素または水素を取り込む水素付加反応用の材料で、表面に多孔質酸化皮膜を設けた、アルミニウム繊維、アルミニウム粉体もしくはアルミニウム箔の粉砕体、または多孔質酸化皮膜の粉砕体、またはアルミナナノチューブから選定される。
【0016】
本発明に述べるアルミニウム繊維は、柱状形状であり、長さがミリメートル単位のものから更に長い、例えば100メートル単位の所謂ワイヤも含める。
アルミニウム繊維による触媒担体は、例えば箔を巻き取ったコイルの側面を切削した断面が長方形のアルミニウム繊維や、溶融紡糸法によるアルミニウム繊維などの表面に多孔質酸化皮膜を設けたものである。
切削法によるアルミニウム繊維は、繊維直径0.1mm程度、長さ50mm程度であるが、繊維の状態では連続的な処理が困難なので、コイルの状態で多孔質酸化皮膜となる陽極酸化、酸水溶液処理、ベーマイト処理、焼成、そして触媒金属担持までを行い、切削しても良い。一方、ボンデングワイヤとして適用されているアルミニウムワイヤはワイヤ径0.08mm程度にて100m程度のものが市販されている。ワイヤは長いので、束ねて連続的に陽極酸化以降の工程を実施できる。
【0017】
アルミニウム粉体による触媒担体は、アルミニウム粉体の表面に多孔質酸化皮膜を設けたものである。多孔質酸化皮膜は陽極酸化により設けるが粉体では通電出来ないので、たとえば、アルミニウム粉体をバインダと混合し、加圧成型後加熱焼結し、表面に多孔質酸化皮膜を設けた後、粉砕する。
より具体的には例えば、ガスアトマイズ法により形成した平均粒径が10μm程度のアルミニウム粉体に、バインダとしてのアクリル樹脂、溶剤としてトルエンを混合し、水素反応容器の形状に合わせ、型を使用し加圧成型して焼結素体を作製する。次に、650℃程度の温度で焼結する。続いて化成処理、水洗、燐酸浸漬、水洗、ベーマイト処理、焼成、白金担持、乾燥の順で処理する。各工程の作製条件は例えば、化成処理は、20℃、4質量%の蓚酸水溶液で15V、30分の化成を行い、厚さ約0.5μmの表面にほぼ垂直方向の細孔を有する多孔質酸化皮膜を形成する。燐酸浸漬は、20℃、5質量%の燐酸水溶液であり10分程度行う。この後に焼結体を1mm程度に粉砕しベーマイト処理を行う。ベーマイト処理は98℃の純水での煮沸であり、5時間程度行う。焼成は550℃で行う。白金担持は白金コロイドを分散した液に浸漬し、白金触媒を多孔質酸化被膜に担持する。
【0018】
アルミニウム箔の粉砕体による触媒担体は、アルミニウム箔に多孔質酸化皮膜を設けた後、アルミニウム地金(酸化されずにアルミニウム金属そのものとして残った部分)を残したまま粉砕したものである。
【0019】
多孔質酸化皮膜の粉砕体による触媒担体は、アルミニウム基材(アルミニウムの箔や板)の表面に陽極酸化により多孔質皮膜を形成させ、酸水溶液処理で細孔径拡大後に、酸水溶液中で逆電圧の印加する或いは酸又はアルカリ水溶液に浸漬することでアルミニウム地金を溶解させて、多孔質酸化皮膜を剥離させ、粉砕したものである。
【0020】
アルミナナノチューブによる触媒担体は、中心に細孔を有する柱状であり、柱の断面形状は不定であるが、六角柱が代表形状である。例えば高濃度硫酸で多孔質酸化皮膜をアルミニウム地金側から溶解することにより、セルを分解し、アルミナナノチューブを得ることが出来る。また、その他の方法として二段化成処理としホウ酸アンモニウム水溶液での化成後、硫酸水溶液で化成することによりアルミナナノチューブが得られることが知られている。後工程として、燐酸浸漬、水洗、ベーマイト処理、焼成、白金担持、乾燥を行う。
【0021】
本発明に述べる選定熱伝達体は、多孔質酸化皮膜を設けてない金属繊維、金属粉体、またはカーボンの何れか、またはこれらの任意の組み合わせから選定され、熱良伝導性の金属の繊維、金属の粉体、またはカーボンで、熱伝達を目的としている。又、焼結の場合は水素触媒部材の形状維持体の目的もある。金属繊維又は金属粉体の材質は、適用温度に対応したものが選択され、適用温度が660℃より十分低い場合はアルミニウムが好適であり、高温の場合では高融点金属が選定される。本金属粉は高温の水素媒体及び水素に晒される為、必要に応じてめっき処理等の表面処理が施される。カーボンは、カーボン粉体、カーボン繊維、またはカーボンナノチューブなどの中から熱伝導が大きいものが選定される。特に、カーボンナノチューブは、なかでも高い熱伝導を持っていて好ましい。これらの大きさは限定されないが、例えば金属の粉体、またはカーボン粉体の平均粒径は5μmから100μm程度である。カーボン繊維、また金属繊維の大きさや断面形状は限定されないが、例えば断面が直径5μmから100μm、長さ1mmから50mm程度のものが使用される。カーボンナノチューブの直径は0.5nmから5nm程度、長さは10nmから10000nm程度のものが使用される。
【0022】
本発明に述べる脱水素の水素反応容器は、水素触媒部材を収納し、一方の口から水素を貯蔵しているメチルシクロヘキサンなどの水素媒体が注入され、水素触媒部材と反応し、もう一方の口から水素と水素を放出したトルエンなどの水素媒体が放出する、注入放出口のある容器である。この反応は吸熱反応なので、熱の供給が必要である。水素エンジンなど内燃機関に適用する場合では、エンジンからの燃焼排熱が利用される。燃焼排ガスからの熱を効率よく水素反応容器に与える為には、排ガスと水素反応容器が接している距離を長くする必要があるが、収納や蓄熱を考慮すると、水素反応容器形状は直管状よりも、幾重にも折り曲げられたり、螺旋状であったりすることが望ましい。
【0023】
本発明に述べる水素触媒部材は、金属触媒を多孔質酸化膜に担持した触媒担体により、化学的に水素貯蔵・供給を繰り返す水素媒体を用いて、水素を取り出す脱水素または水素を取り込む水素付加を行う部材で、水素反応容器内に設けるものである。
本発明では、選定熱伝達体と選定触媒体の混合体を水素触媒部材とし、水素反応容器内に収納する。
熱伝導を考慮すると選定熱伝達体は焼結により結合されることがより好ましい。但し水素反応容器内の形状が蛇行しているなど、焼結品では挿入できない場合では、水素反応容器内で焼結する。触媒密度、熱交換効率、水素媒体通過での圧力損失は、選定熱伝達体、選定触媒部材の大きさ、収納比、空隙率に依存するので、これらは適宜選定される。
【0024】
本発明の水素触媒部材は、表面に多孔質酸化皮膜を設けた、アルミニウム繊維、アルミニウム粉体、アルミニウム箔の粉砕体、または多孔質酸化皮膜の粉砕体またはアルミナナノチューブの何れかの選定触媒体を金属繊維又は金属粉体の選定熱伝達体の隙間に分散させて水素反応容器内に設けるので、いかなる立体構造の水素反応容器にも収納可能であり、反応容器設計の自由性により高熱交換効率を達成できる。
また、本発明の水素触媒部材は、微小構造体であるので、表面積を大きくとれ、担持する金属触媒の担持密度を大きく出来る。又、微小構造体の集合体の網目状の空隙が、空隙を通過する物質の層流による反応効率低下を防止できる。
また、本発明の水素触媒部材は、水素反応容器の構造支持体とは別であるため、アルミニウムを構造支持体とするようなアルミニウム平板タイプの水素触媒部材とは異なり、アルミニウムの融点を超える温度でも使用可能である。
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
図2は、本発明の水素反応容器内に設けた水素触媒部材の概略断面図である。図2(a)は、水素触媒部材を焼結した場合、図2(b)は、圧縮手段により、水素触媒部材を圧縮した場合を示している。水素触媒部材9には空隙13が存在し、水素反応容器3の入口14と出口15から出入りする水素媒体または反応物が通過する。いずれの場合にも、水素触媒部材9が水素反応容器3内に収まる形状となっている。また、水素触媒部材9の外表面は、できるだけ水素反応容器3内面に接することが熱伝達の点で好ましい。
【0027】
図2(a)のように、水素触媒部材9を焼結する場合、選定熱伝達体10をまず焼結しその後、隙間に金属触媒及びこれを担持する選定触媒体11を配置すれば良い。焼結後に、これら選定触媒体11材を隙間に配置することが困難な場合では、選定熱伝達体10と選定触媒体11を混合した後に選定熱伝達体10を焼結しても良い。この時の焼結温度がアルミニウム融点(660℃)を超える場合、選定触媒体11のアルミニウム地金は溶けるが、酸化皮膜で覆われている部分については流れ出さない。
いずれの焼結も、水素反応容器3外で、水素反応容器3内形と同様な金型で焼結を行い、その後水素反応容器3内に組み込んでもよいし、水素反応容器3内で焼結をおこなっても良い。
また、水素反応容器3を加熱などの手段により膨張させておいて、水素触媒部材9を挿入すると、水素触媒部材9と水素反応容器3との接触が良好になりやすい。
【0028】
水素触媒部材を焼結しない場合、重力により容器内で偏り、容器上部に隙間を生じてしまう。この場合水素媒体は水素触媒部材の隙間ではなく、上部隙間に多く流れ反応効率が低下する。
又、水素触媒部材間は接続されておらず、水素触媒部材と水素反応容器の接触も緩いため良好な熱交換効率を得難い。図2(b)は、焼結しない場合でのこれら問題点を解決するもので、選定熱伝達体10と選定触媒体11との混合物である水素触媒部材9を水素反応容器3内にいれて、両脇からフィルター12ではさみ、水素反応容器3の端面を凹ませ凹部16を形成することによる圧縮手段を示している。他の圧縮手段として水素反応容器3の側面を凹ませても良い。
圧縮により反応効率低下に繋がる隙間をなくし、熱抵抗も低減している。
また、別の圧縮手段として、線膨張率の差を利用する。たとえば、線膨張率が大きいものを水素触媒部材9にし、線膨張率がそれより小さいものを水素反応容器3とするとよい。
【0029】
図3は、本発明に使用される表面に多孔質酸化皮膜を設けたアルミニウム繊維29の斜視図である。図4は、本発明に使用されるアルミナナノチューブ30の斜視図である。
【0030】
図5は、本発明に使用される、表面に多孔質酸化皮膜を設けたアルミニウム箔の断面斜視図(図5(a))およびその粉砕品の斜視図(図5(b))である。17は多孔質酸化皮膜、18はアルミニウム地金を示している。アルミニウム地金18が薄いほうが、細かく砕くには好ましい。
例えばアルミニウム箔として厚さ20μmのものを使用し、陽極酸化はアルミニウム地金が5μm以下となるまで実施する。化成後、燐酸処理及び水洗を行い粉砕する。粉砕後、ベーマイト処理、焼成、白金担持、乾燥を行う。
ここで粉砕しない場合(図5(a))での表面積は、多孔質酸化皮膜の細孔内と細孔以外の表面であり、これら表面にはベーマイト処理により羽毛状水酸化皮膜が形成され、後の焼成にて酸化皮膜となる。白金は、これら表面の羽毛状形状に担持される。これに対し図5(b)のように粉砕した場合では、粉砕面にも羽毛状形状が形成され、表面積増加にて白金担持密度が高い。
【0031】
図6は、本発明に使用される、多孔質酸化皮膜の粉砕体の斜視図である。左図は多孔質酸化皮膜の細孔の開口部31側が上を、右図は多孔質酸化皮膜の細孔の開口部31側が下を向いているのを示している。
【0032】
前述、図4のアルミナナノチューブでは、更に白金担持密度を向上出来るが、図5または図6の粉砕体による方が安価である。これらの粉砕体の場合、より細かく砕いた方が表面積を拡大出来、好都合である。
【実施例1】
【0033】
純度99.9%、直径80μmのアルミニウムワイヤをアルゴン中で550℃、5時間の熱処理を行った後、無電解エッチングにより表面積比にて約10倍に粗面化する。純水洗浄、乾燥を行った後、このアルミニウムワイヤを束ね、蓚酸水溶液にて化成処理を行う。
化成処理は、20℃、4質量%の蓚酸水溶液で15V、30分の化成を行い、厚さ約0.5μmの表面にほぼ垂直方向の細孔を有する多孔質酸化皮膜を形成する。水洗後、20℃、5質量%の燐酸水溶液に10分間浸漬し細孔を拡大させる。
純水洗浄後、ベーマイト処理を行う。ベーマイト処理は98℃の純水にて5時間煮沸する。このベーマイト処理により、多孔質酸化皮膜表面には、羽毛状の水酸化アルミニウムが形成される。
次に550℃、2hの焼成を行い、白金コロイドを分散した液に浸漬と乾燥を繰り返すことで白金を担持させた。白金は多孔質酸化皮膜の細孔内及び表面に形成された羽毛状酸化アルミニウムに担持される。
次に、図7の通り、上記のように処理して製作した白金担持のアルミニウムワイヤと、上記の処理工程を経ていないアルミニウムワイヤとを、なるべく均一化するように供給しながら束ね、断面が円形の水素触媒部材9を作成する(図7(a))。
次に、この水素触媒部材を、水素反応容器3内に挿入する。(図7(b))、本手法では断面積の小さく長い水素反応容器に好適であり、熱交換効率が高い。
【0034】
本実施例1では、アルミニウムワイヤを使用していることから、連続生産に好適である。尚無処理のアルミニウムワイヤは、熱伝導を付与する為に設けるもので有り温度状況に応じて使用比率を決定する。又特に熱交換効率を高めたい場合では、アルミニウムワイヤの使用比率を高めると共に焼結にて結合させる。焼結はアルゴン及び水素の混合ガス中で800℃程度に加熱する。本実施例1の触媒部材は断面が丸なので丸管への収納に好適である。焼結しているが曲げ加工可能であり、直管に収納後、曲げ加工を行い水素反応容器をコンパクト化する。
また、表面に多孔質酸化皮膜を設けたアルミニウム繊維(ワイヤ)を金属繊維(ワイヤ)に分散させるときは、どちらも直線状のほうが分散しやすいが、束ねるときには図6(a)のように全体的にねじりをかけたほうが固定しやすい。また、その間隙を通る水素媒体の反応経路が長くなり、水素媒体が拡散しやすくなる。
【実施例2】
【0035】
(水素触媒部材の作成)
純度99.9%、平均粒径20μmのアルミニウム粉を焼結し、空隙率50%のブロック体を作成する。これを20℃、4質量%の蓚酸水溶液で15V、300分の化成を行い、厚さ約5μmの表面にほぼ垂直方向の細孔を有する多孔質酸化皮膜を形成する。水洗後、20℃、5質量%の燐酸水溶液に10分間浸漬し細孔を拡大させる。
純水洗浄後、ベーマイト処理を行う。ベーマイト処理は98℃の純水にて5時間煮沸する。このベーマイト処理により多孔質酸化皮膜表面には、羽毛状の水酸化アルミニウムが形成される。次に550℃、2時間の焼成を行い、白金コロイドを分散した液に浸漬と乾燥を繰り返すことで白金を担持させた。白金は多孔質酸化皮膜の細孔内及び表面に形成された羽毛状酸化アルミニウムに担持される。
このように製作した焼結体を粉砕し、平均粒径100μmの触媒担体とする。これと無処理の平均粒径100μmのアルミニウム粉を混合したものを使用して水素触媒部材とする。
【0036】
(水素発生装置の作成)
図8は、水素反応容器に、それを加熱する手段とともに一体化した水素発生装置の実施例である。図8(a)、図8(b)は、燃焼排ガス流路側、図8(c)、図8(d)、図8(e)は、その逆面の水素反応容器側を示している。
燃焼排ガス流路側には、蛇行した燃焼排ガス流路20と燃焼排ガス導入管21と燃焼排ガス排出管22が設けられている。燃焼排ガスは、燃焼排ガス導入管21から導入され、燃焼排ガス流路20を通り燃焼排ガス排出管22に抜けるが、この間の流れを乱し、流路長を伸ばし熱交換効率を増すことを目的として燃焼ガス流路20には複数の突起23が設けられている(図8(a))。
また、燃焼排ガス流路側は、蓋24aが被せられ、摩擦攪拌溶接にて溶接される(図8(b))。
一方、反対面の水素反応容器側には、蛇行した水素媒体流路25と水素媒体導入管26と水素及び水素媒体排出管27が設けられている(図8(c))。
まず、水素媒体流路25内には、前述のアルミニウム粉焼結体の粉砕体からなる触媒担持体とアルミニウム粉及びバインダを混合した混合粉28が挿入され(図8(d))、蓋24bが摩擦攪拌溶接にて溶接された後(図8(e))、水素媒体流路25内で焼結され、バインダが気化排出されることで水素触媒部材が構成される。
水素媒体は水素媒体導入管26から導入され、水素触媒部材の隙間を水素媒体流路25に沿って通過し燃焼排ガスの熱により、水素を発生する。水素及び脱水素した水素媒体が水素及び水素媒体排出管27から排出される。ここで水素媒体は水素媒体導入管26側から水素及び水素媒体排出管27に抜ける間に排ガス側からの熱を受けると共に脱水素の吸熱反応により熱を奪われる。ここで担持体、アルミニウム粉体、バインダ量は、使用条件/温度分布を考慮して決定される。水素媒体導入管26付近は反応に必要な温度(白金触媒では約300℃)に達しないので水素及び水素媒体排出管27付近には担持体を入れないで未処理のアルミニウム粉体による予熱とする。反応温度に達した領域では水素媒体導入管26側へ向かうに従い担持体の混入量を増やして行くが担持体の量を増やし過ぎると温度が下がり過ぎるので実験により使用条件に適した量とする。
【実施例3】
【0037】
実施例2と同様に製作した焼結体を粉砕し、平均粒径100μmの触媒担体とする。この触媒担体に、直径1nmで平均長さ8μmのカーボンナノチューブと無処理の平均粒径100μmのアルミニウム粉とを質量比1対3で、全体の10質量%になるように混合したものを使用して水素触媒部材とした。これ以外は、実施例2のようにして水素触媒部材を作成した。
【符号の説明】
【0038】
1…水素を付加した水素媒体、2…水素媒体タンク、3…水素反応容器、4…エンジン、5…水素、6…気液分離容器、7…水素を放出した水素媒体及び未反応の水素媒体、8…廃液タンク、9…水素触媒部材、10…選定熱伝達体、11…選定触媒体、12…フィルター、13…空隙、14…入口、15…出口、16…凹部、17…多孔質酸化皮膜、18…アルミニウム地金、20…燃焼排ガス流路、21…燃焼排ガス導入管、22…燃焼排ガス排出管、23…突起、24a、24b…蓋、25…水素媒体流路、26…水素媒体導入管、27…水素及び水素媒体排出管、28…混合粉、29…アルミニウム繊維、30…アルミナナノチューブ、31…開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属触媒を多孔質酸化皮膜に担持した触媒担体により、化学的に水素貯蔵・供給を繰り返す水素媒体を用いて、水素を取り出す脱水素または水素を取り込む水素付加を行う水素触媒部材において、表面に多孔質酸化皮膜を設けた、アルミニウム繊維、アルミニウム粉体もしくはアルミニウム箔の粉砕体、またはアルミニウムの多孔質酸化皮膜の粉砕体、またはアルミナナノチューブの何れか、またはこれらの任意の組み合わせにより形成される選定触媒体を、金属繊維、金属粉体、またはカーボンの何れか、またはこれらの任意の組み合わせにより形成される選定熱伝達体の隙間に分散させて水素反応容器内に設けたことを特徴とした水素触媒部材。
【請求項2】
少なくとも選定熱伝達体同士が焼結した状態であることを特徴とした請求項1の水素触媒部材。
【請求項3】
表面に多孔質酸化皮膜を設けたアルミニウム繊維を金属繊維の隙間に分散させ、全体的にねじりをかけて水素反応容器内に設けたことを特徴とした請求項1の水素触媒部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−16122(P2011−16122A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198115(P2009−198115)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(309035062)日立エーアイシー株式会社 (47)
【Fターム(参考)】