説明

水素貯蔵容器および水素吸放出装置

【課題】水素吸放出のための水素貯蔵体の加熱の効率が高く、ガスの流通性を損なうことなく、構造が単純で軽量である水素貯蔵容器および水素貯蔵装置を提供する。
【解決手段】水素貯蔵体30を流動可能に充填した水素貯蔵容器100であって、容器内に可動に充填された水素貯蔵体の一部を攪拌しながらこれを所定方向に移動させる攪拌翼41と攪拌軸42を含む流動化部40と、水素貯蔵体を加熱する加熱部60と、加熱部に隣接して、外部と通気可能に装着された水素出入部50と、貯蔵体を流動化部から加熱部へ導き、その後さらに、流動化部に導く流路形成の仕切り板80と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を吸蔵放出する水素貯蔵体を含む水素貯蔵容器および水素吸放出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、容器に充填された水素吸蔵合金等の水素貯蔵体を容器の外から加熱して、水素の吸蔵および放出を行なう水素貯蔵容器が知られている。水素貯蔵体とは、一定の温度以上に加熱して活性化させると、水素を吸蔵または放出させることのできる粉体である。
一方で、水素吸蔵体への熱の伝導性を向上させるため、熱媒管と熱媒管から延出するフィン部とを容器に嵌めこんだ水素貯蔵タンクが提案されている(たとえば、特許文献1)。このような貯蔵タンクでは、外筒部材、熱媒管、およびフィンにより画定される空間に水素吸蔵金属が収納され、熱媒が容器内部の熱媒管を流れ、熱媒管からフィンを介して水素吸蔵金属に熱が伝達される。
又、特許文献2には、水素再吸蔵時に水素が十分に接触できるように、水素貯蔵体周囲に熱媒配管を配した発明が開示されている。
【特許文献1】特開平6−281097号公報
【特許文献2】特開2002−364943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、一般的な水素貯蔵体は粉体であり、容器の外から加熱しても熱伝導性が悪く、容器内の水素貯蔵体を均一に加熱することは困難である。特に、容器の容量が大きくなればなるほど、水素貯蔵体の均一な加熱が困難となる。
【0004】
一方、特許文献1に例示される容器のように、水素貯蔵容器の内部に熱媒管を配管し、熱媒管内に熱溶媒を流し、その熱媒管に連結して設けた熱伝導フィンにより熱拡散を促す方式があるが、この場合には容器の構造が複雑になり、水素貯蔵体の粉体を効率充填に不向きである。また、熱媒管およびこれに連結される熱伝導フィンを設けると、そのために容器全体の重量が大きくなる。
【0005】
また、水素貯蔵容器では、水素貯蔵体へ水素を吸蔵させ、水素貯蔵体から水素を放出させるため、ガスの流通性を確保する必要があるが、上記のように熱媒管や熱伝導フィンが設けられると、ガスの流通性が阻害される。特に、無機錯体系の水素貯蔵体は、従来の合金系の水素貯蔵体に比べて、熱伝導率が悪いために水素吸放出のための水素貯蔵体の加熱の効率は、更に低下している。ここに、粉体系の水素貯蔵体は、La−Ni系、Ti−Cr−V系などの水素吸蔵合金、MgH2、AlH3などのなどの金属水素化物、NaAlH4などアラネート系材料、リチウム−窒素系あるいはリチウム−ボロン系材料や、グラファイトやカーボンナノチューブなどのカーボン系材料が利用でき、特に限定されない。更に、無機錯体系粉体の水素貯蔵体は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の金属アミドと前記金属水素化物との混合部及び反応物が用いられるが、その吸蔵、放出の熱履歴により、粉体が固結しやすく、効率的な熱伝達を阻害し、水素貯蔵体の本来の水素吸蔵・放出能力を十分に引き出せない欠点があった。
【0006】
本発明は、水素吸放出のための水素貯蔵体の加熱の効率が高く、水素吸蔵及び放出の時間短縮が可能で、構造が比較的簡単な水素貯蔵容器および水素吸放出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明に係る水素貯蔵容器は、容器内に可動に充填された水素貯蔵体の一部を攪拌しながらこれを所定方向に移動させる攪拌翼と攪拌軸を含む流動化部と、前記水素貯蔵体を加熱する加熱部と、前記加熱部に隣接して、外部と通気可能に装着された水素出入部と、前記水素貯蔵体を前記流動化部から前記加熱部へ導き、その後さらに、流動化部に導く流路形成の仕切り板と、を備えることを特徴とする。
【0008】
更に、容器内には、蓄熱混合媒体を水素貯蔵体とともに可動に充填したことを特徴とする請求項1記載の水素貯蔵容器である。
【0009】
更にまた、温度制御可能な加熱部により所定温度で、前記流動化部を駆動させながら、水素を吸収し、更に、所定温度で、前記水素出入部から水素を放出する請求項1又は2記載の水素貯蔵容器を含み、流動部の駆動に、前記水素燃焼エネルギー又は、水素電極を用いた化学反応エネルギーを用いることを特徴とする水素吸放出装置である。
【0010】
本発明の水素貯蔵容器は、容器内に流動可能に充填された水素貯蔵体を攪拌する攪拌翼と攪拌軸を含む流動化部を備える。流動化された水素貯蔵体は、更に熱媒パイプ等の加熱部へ向けて一定方向に移動し、更に流動化部に戻るように、容器内部には、仕切り板を設ける。横置きタイプの水素貯蔵容器では、仕切り板を水平に設け、容器内を複数に分割し、分割した一つ又は複数の部分に流動化部を設けて、容器全体に循環する水素貯蔵体の流れをつくるのが好ましい。全体の流れの一部に加熱部と接触させて、熱交換をおこない、水素貯蔵体への水素の吸収、貯蔵、放出を円滑にすることができる。水素貯蔵体は、流動状態におかれるため、固結することなく、水素気体の流入を円滑にし、水素貯蔵体との接触を密にすることができる。さらに水素出入部を焼結フィルター、流通管等を加熱部近辺に設けることにより、水素放出を更に容易にすることができる。
【0011】
容器内には、蓄熱混合媒体を水素貯蔵体とともに可動に充填したことを特徴とする水素貯蔵容器にあっては、熱伝導率の悪い粉体系水素貯蔵体であっても、蓄熱体を介して、熱伝達が可能となり、より効率の良い加熱が可能となる。
【0012】
仕切り板に水素貯蔵体のみを通過させ、蓄熱媒体を通過させないフィルター機能を付加し、水素放出後の水素貯蔵体と蓄熱媒体を選択的に分離し、放出後の水素貯蔵媒体には、水素吸蔵をおこなわせ、蓄熱媒体のみを速やかに流動させることもできる。
【0013】
温度制御可能な加熱部により所定温度で、前記流動化部を駆動させながら、水素を吸蔵し、更に、所定温度で、前記水素出入部から水素を放出する水素貯蔵容器を含み、流動部の駆動に、前記水素燃焼エネルギーを用いることを特徴とする水素吸放出装置では、放出水素から得られるエネルギーの一部を流動化部の駆動力とすることにより、全体として、コンパクトな構成で、効率の良い水素吸放出装置を構成することができる。
【0014】
本発明の蓄熱媒体は、通常、カプセル構造を有し、その表面の熱伝導が良く、内部に蓄熱可能である。蓄熱媒体を介して加熱部から水素貯蔵体への熱伝導を向上させることができる。また、容器内に充填された水素貯蔵体及び前記蓄熱媒体を攪拌する攪拌翼と攪拌軸を含む流動化部により、前記水素貯蔵体を、蓄熱媒体とともに、容器内を循環するため、水素貯蔵体全体を均一に混合することができる。本混合によって、熱伝導は、より効率的となる。水素貯蔵体は、蓄熱媒体が混合媒体の役割を担うため、水素貯蔵体全体に効率よく熱が伝わりやすい。さらに、全体が流動化しているので、固結防止も可能で、固結による水素吸蔵放出反応阻害を防止することができる。また、これにより、高い熱伝導性を維持しつつ水素ガスの通気性を良くすることができる。
【0015】
また、熱媒管を容器内部全体に通すような内部加熱方式の構成に比べ、簡易な構成とすることができる。また、加熱方法が、熱媒管等を用いる内部加熱ではなく、外部加熱方式を採用することができ、衝撃を受けた場合にも、熱媒管が損傷し、加熱媒体がもれる不都合が生じない。
【0016】
また、水素貯蔵容器は、外形を概略円柱、概略多角柱に形成することが好適である。これにより、複数の水素貯蔵容器を並べて集合体にして用いることができ、必要な容量に応じて水素貯蔵装置を作製することができる。また、外形が多角柱であると、水素貯蔵容器をコンパクトに並置することができる。また、ユニットとして量産することにより、製造コストを低くすることができる。
【0017】
また、本発明の水素貯蔵装置は、外部と通気可能に装着された水素出入部を備え、その加熱部の温度制御を行なう温度制御部とを備えることが好ましい。また、水素を流通させる流路を形成する流路形成部を、容器外部に備えている。
【発明の効果】
【0018】
本発明の水素貯蔵容器は、流動・循環する水素貯蔵体に加熱部から熱を効率良く水素貯蔵体に伝達可能で、水素吸放出反応阻害を防止することができる。
【0019】
また、外部加熱方式または容器内の一部に加熱部を設ける方式を採用することもできるので、このときは、熱媒管を容器内部全体に通すような内部全体加熱方式の構成に比べ、簡易な構成とすることができる。また、加熱方法が、熱媒管等を用いた内部加熱方式でも、加熱部を容器内の一部に限定して設けることができ、この部分を堅固にすれば、なんらかの衝撃を受けたときも、加熱媒体がもれる不都合が生じない。
【0020】
また、水素貯蔵容器は、外形を概略円柱、概略多角柱に形成されていることが好適である。これにより、複数の水素貯蔵容器を並べて集合体にして用いることができ、必要な容量に応じて水素貯蔵装置を作製することができる。また、外形を概略多角柱とすると、密に充填することができる。また、ユニットとして量産することにより、製造コストを低くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0022】
図1は、水素貯蔵容器100の断面図である。水素貯蔵容器100は、蓄熱媒体10を充填容器20内に流動可能に水素貯蔵体30とともに充填し、水素貯蔵容器を2分する略矩形の水平の仕切り板80で容器を仕切っている。水素貯蔵体30と蓄熱媒体を攪拌する攪拌翼41と攪拌軸42を含む流動化部40を2分割された一方の分割部に備える横型置きタイプである。攪拌軸42が、充填容器20と接する部分は、水素吸蔵圧力や放出圧力でもガス漏れの生じないメカニカルシール機構、ウィルソンシール機構や軸シール機構などを有するものが好ましい。仕切り板80と流動化部40により、水素貯蔵体30は、容器内を一定方向に循環する。他方の分割部に、熱媒体を有するパイプ型等の加熱部60を設ける。更に、外部と通気可能に装着された水素出入部50を設ける。水素出入部50は、加熱部60近傍に設けることが好ましい。また、その加熱部60の温度制御を行なう温度制御部(図示せず)を備えることが好ましい。水素を流通させる流通管51を、フィルター52からの水素を流通するように充填容器20と連結し水素出入部50としている。蓄熱媒体10及び水素貯蔵体30の充填口90は、容器蓋21、容器側面に設けることが好ましい。特別に充填口を設けず、容器蓋21の一部をはずした状態で、これらを充填容器に充填しても良い。更に、水素出入部は複数個を設けて、出部と入部に機能を分けて、水素の流路を整えることもできる。
【0023】
充填容器20及び仕切り板80は、外部から加熱する場合は熱伝導の良い金属製の容器が良く使用圧力および温度により、アルミニウム製やSUS製の容器を適時選択可能である。容器の材料および形状は、水素貯蔵体30に水素を吸蔵させる際の圧力に耐える材料および形状であれば、特に限定はされない。水素放出の際に急激な放出による圧力上昇を伴う場合であっても、容器の強度としては十分であり、安全を確保できる。また、充填容器20及び仕切り板80は、加熱されることから、使用温度における温度上昇、降下の繰返しにも、変形や変質の少ないものが使用される。金属であれば限定されず、2種以上の合金であってもよい。特に外部加熱方式であるときは、熱伝導の面から検討すると、銅の熱伝導率は403W/mK、アルミニウムの熱伝導率は236W/mKであり、銅およびアルミニウムは、熱伝導率が高い。また、アルミニウムの密度は2.70×10-3kg/m3、マグネシウムの密度は1.74×10-3kg/m3で、アルミニウムおよびマグネシウムは密度が小さい。これらの優れた特性から、特に、銅、アルミニウム、またはマグネシウムを主成分とする金属であっても良い。さらには、銅の密度が8.96×10-3kg/m3と高く、一方、マグネシウムの熱伝導率は157W/mKと低いことから、熱伝導性および密度のバランスを考慮すると、アルミニウムを主成分とする金属であることも好ましい。
【0024】
図1に示す充填容器20の形状は、円柱形状としている。攪拌翼は、ヘリカル翼、パドル翼、マリンプロペラ翼、押出成形機に利用されているオーガスクリュ翼等を用いることができる。ヘリカル翼、パドル翼、マリンプロペラ翼、オーガスクリュ翼は、被攪拌物である蓄熱媒体と水素貯蔵体を広範囲に混合し、接触を密にする効果がある。また、これらを一定方向に流動化する機能があり、特に本発明には、好適に用いられる。これらは一軸で用いても良いし、更に推進力を増すために二軸で用いても良い。ヘリカル翼、パドル翼、マリンプロペラ翼、オーガスクリュ翼でも、いわゆる「邪魔板」を備えて、流路を一部遮断して、乱流をつくることにより、混合を促進しながら、容器内の循環流れを形成できる。なお、水素貯蔵媒体、蓄熱媒体の充填時には、これらを混合して、またはそれぞれ単独に、攪拌軸を低速回転しながら、充填容器内に充填するとスムースに充填できる。
【0025】
水素出入部50は、充填容器の底面又は側面の開口部と、必要に応じて、フィルター52及び流通管51とを備える。150〜200℃と加熱温度が高い場合には、フィルター52には耐熱性が必要とされるので、金属性の焼結フィルターが好適に用いられる。フィルターは、容器外へ水素貯蔵体及び蓄熱媒体が排出されることを防止し、水素ガスである気体のみを通過させる。また、水素吸蔵時の不純物等の固形物の充填容器中への持ち込みを防止することができる。流通管51は、弁がとりつけられ、安全弁を取り付けることができる。
【0026】
加熱部60は、温度制御部(図示せず)が接続される。さらに電源(図示せず)が接続されている。加熱部60には、このように充填容器内にヒータに連結した熱伝導のための固定部材を設け、固定部材を加熱することにより、水素貯蔵体を加熱するもの、或いは、熱媒体を封入・循環させる熱媒パイプ、充填容器の外側から充填容器の外壁を通して水素貯蔵体30を加熱するものも含む。また、加熱部60は、80℃以上の温度に加熱可能な機能を有しており、300℃まで加熱可能であることが好ましい。効率よく水素の吸蔵および放出を行なうために、使用される水素貯蔵体の特性に応じて100℃〜300℃の温度に調整される。
【0027】
加熱部60で水素貯蔵体30が加熱された場合には、水素貯蔵体30の水素を吸蔵または放出する機能が活性化するため、速やかに水素の吸蔵・放出を行なうことができる。更に、加熱部30は、充填容器20に装着され、内部の温度測定のための熱電対(図示せず)、熱電対の一般的な温度コントローラを含む温度制御部を備えることができる。
【0028】
蓄熱媒体10は、蓄熱材を封入するカプセル構造のもの、或いは、金属製球体であることが好ましい。蓄熱媒体10の形状等について、その外形の例を図4に例示する。図4(a)は、コア−シェルカプセル型の蓄熱媒体を示す。外殻(シェル)に蓄熱材が封入されている。図4にその製造工程を模式的に示す。これは、半球状や上部が開いた球状のシェル図4(a)に、コアとなる蓄熱材を充填して(図4(b)に示す。)開口部を封入して(図4(c),図4(d))作製する。この場合、蓄熱材を融点以上の温度で加熱して融液状として充填しても良いし、粉末状、塊状とした物を充填しても良い。この時、コア部の相変化に伴う体積膨張がある場合はこれを吸収できるように、シェルの上部には空間を設けておくことが好ましい。次に、蓄熱材の充填後、シェル部の開いた部分をロウ材や半田などを使用して塞ぐ。カプセルの上部を蓋で閉める場合には、シェルの蓋部と本体部とをロウ材などで接合する。
【0029】
図4(b)は、薬剤カプセル型の蓄熱媒体を示す。その製造工程の概略を、図6に図示する。工程順を矢印であらわす。シェル形成にパイプを使用し、蓄熱体をあらかじめ充填する。パイプの切断部分の圧縮、絞り、両側からの引っ張りなどによって、蓄熱体を封入する。パイプの該当部位の径をあらかじめ細くしておき、コアとなる蓄熱体を充填しても良い。次に、径を細くした部分を切断し、孔をロウ材や半田などで封止する。
【0030】
なお、コアおよびシェルの厚さは、適時変えても良い。図4(a)のコアーシェルカプセル型では、例えば、直径5〜50mmの球形で厚さ1〜10mm程度のものが好適に用いられる。図4(b)は、薬剤カプセル型では、直径5〜50mmの円形底面で長さ20〜50mmの概略円柱状のものが好適に用いられる。図4(C)の球状型では、アルミニウムやその合金、銅などの金属球が用いられる。
【0031】
蓄熱媒体10の材質は、水素貯蔵体の加熱温度が100℃以下であるか、100℃以上であるかにより、シェルの材質を適時使い分ける。加熱温度が、100℃以下の場合は、合成樹脂製のシェルを用いることが可能である(冷暖房用など)。しかし、例えば、Li-Mg-N-H系水素貯蔵体(150〜200℃加熱)を用いた場合は、100℃以上を必要とするので、合成樹脂は、耐熱性に問題がある。アルミニウム、Al合金、銅などの金属製シェルが耐熱性、熱伝導率の点で好ましい。また、コアに充填する充填材は、低融点合金(融点160〜210℃程度)を用いることが好ましい。例えば、150℃で使用する場合は、Sn-Pb42-Cd18合金(融点160℃)、200℃で使用する場合は、Sn-Ag3.5-Bi0.5-In8合金(融点204℃)を用いることができる。シェル封止に用いる接合材は、アルミニウム・ロウ、アルミニウム用半田、銅ロウなどが好適に用いられる。
【0032】
Li-Mg-N-H系水素貯蔵体は、熱伝導率が0.2W/mK(水素1MPa中:0.5W/mK)であり、金属アルミニウム:236W/mK、金属銅:390W/mKであり、水素貯蔵体の熱伝導率はシェルの金属に比べて非常に小さいため、熱交換器からの熱エネルギーを効率良く伝達できない。しかしながら、水素貯蔵体より熱伝導率の良い蓄熱媒体を用いれば、加熱部からの熱エネルギーを熱伝導の良い材料のシェルで一旦吸熱し、コア部の相転移物質(ここでは固体・液体の相転移、水素吸放出温度より高い相転移温度が良い)へ蓄熱させ、流動させながらこの熱を水素貯蔵体に伝達させることで、水素貯蔵体全体に効率的に熱エネルギーを伝達させることができる。相転移物質は、低融点合金(例えば、Sn-Pb42-Cd18合金)である。潜熱が大きいパラフィン系(例えば、炭素数14〜16のもの)などの炭化水素類や無機水和塩(例えば、CaCl2・6H2OやNH4Al(SO4)2・12H2O)などを好適に用いることができる。
【0033】
次に、図1の水素貯蔵容器100の動作について説明する。水素貯蔵体30及び蓄熱部材10は、流動可能に充填容器20に充填され、容器上部には、空隙部があることが好ましい。水素ガスを水素貯蔵容器100に貯蔵する場合には、加熱部60を吸蔵の所定温度に制御し、攪拌軸42を回転させながら攪拌翼41で水素貯蔵体30及び蓄熱部材10を混合攪拌し、更に流動線に示す反時計回りの流れを発生させる流動化をおこなう。水素貯蔵体は、加熱部に達すると、加熱部60、加熱部との接触で蓄熱した蓄熱部材10から直接、間接に受熱して、水素吸蔵に最適な温度まで速やかに昇温する。攪拌・流動化により均一に且つ速やかに容器内全体の水素貯蔵体30に伝えられることとなる。蓄熱体の蓄熱作用については上述した。これと並行し、或いは、この処理の後、流通管に連結されるコンプレッサ(図示せず)により、水素ガスを水素流通管から水素貯蔵容器100内部へ水素出入部50等から圧送し、水素貯蔵体30に吸蔵させる。一方、水素ガスを水素貯蔵容器100から放出する場合には、まず加熱部60を水素放出の所定温度に制御し、蓄熱部材10を介して水素貯蔵体30を加熱し、十分に水素の放出機能を発揮する温度に維持して、上記吸蔵時と同様な流動化をおこなう。このとき、前記加熱部に隣接して、外部と通気可能に装着された水素出入部を設けることが好ましい。こうして、水素貯蔵体から水素ガスが放出され、ガス流通管51へ水素ガスが送られる。なお、水素貯蔵体30、蓄熱媒体10を混合して、またはそれぞれ単独に、充填容器20に仕込むときは、攪拌軸42を低速で逆回転しながら、充填容器内に充填するとスムースにこれらを充填できる。
【0034】
図2には、横置タイプの別の水素貯蔵容器の実施例の断面図を示す。本発明に係る水素貯蔵容器の別の実施形態となる。本タイプでは、図1の実施形態において、加熱部60を設けた側の仕切り板80による分割部にも、流動化部40´を備えている。流動化部40´の回転方向を流動化部40と逆にすることにより、流動化をより円滑にし、効率的な容器内循環と熱交換を実現でき、速やかな蓄熱体10の温度上昇を実現できる。
【0035】
図3には、横置タイプの更に別の水素貯蔵容器の実施例の断面図を示す。図2の容器において、更に下部に水素貯蔵体30のみを通過させ、蓄熱媒体10を通過させないフィルター機能を有する仕切り板80´を備えた。水素放出後の水素貯蔵体30と蓄熱媒体10を選択的に分離し、放出後の水素貯蔵媒体には、水素吸蔵をおこなわせ、仕切り板中のフィルター81により、水素貯蔵体30のみを通過させ、通過させない蓄熱媒体のみを速やかに流動させることもできる。
【0036】
更に、水素貯蔵容器を水素エンジン又は燃料電池を用いた自動車等の移動体に搭載した場合には、前述の通り、温度制御可能な前記加熱部により所定温度で、前記流動化部を駆動させながら、水素を吸蔵し、更に、所定温度で、前記水素出入部から水素を放出する水素吸放出装置であり、流動部の駆動に、移動体からの駆動エネルギーを用いる。例えば図7に示すように、自動車の車輪軸からの回転力を一部取り出し、流動部の攪拌軸を駆動することができる。こうして、前記水素燃焼エネルギー又は、水素と酸素との電極での化学反応による電気エネルギーを用いることを特徴とする水素吸放出装置を実現することができる。このように、水素貯蔵容器を搭載する移動体は、燃料電池自動車に限られず水素エンジン自動車であってもよく、移動体には、自動車、バイク等の車両、船および飛行機も含まれる。
【0037】
なお、水素貯蔵容器100を燃料電池自動車などに搭載される水素供給装置、定置式燃料電池用のバッファータンクや水素ステーションの貯蔵容器システムにも利用することができ、今後期待される水素エネルギー社会における水素貯蔵装置全般に、応用することができる。
【実施例1】
【0038】
実施態様1(図1)の本発明の水素吸蔵放出性能の例を以下に示す。円柱状の充填容器20(内容積2.3L、内径10cm、長さ30cm、SUS製)の、容器底面の直径を含む中央部の長さ方向に略矩形の仕切り板80を取付け、仕切り板端部は、開放して流通可能とした。容器の一方の仕切部分には、流動化部40を設けた。攪拌翼41は、ヘリカル翼(直径4cm、有効長20cm)である。他方の仕切られた部分には、熱媒パイプ(外径1cm、有効長90cm)からなる加熱部60およびフィルター52及び水素流通管51を有する水素出入部及び水素貯蔵体の出し入れの充填口90を取付けた。次に、この充填容器20内を真空引きし、高純度のアルゴンガスを大気圧まで導入した。水素貯蔵体には、Li-Mg-N-H系水素貯蔵体の粉体250gを用いた。アルゴングローブボックス中で、前記水素貯蔵体を充填しておいたバルブ付きの試料移動容器を充填口に接続し、充填容器20内の攪拌翼を低速で回転させながら水素貯蔵体を充填した。
【0039】
一方、比較例として、実施例と同様の加熱部、水素出入部、充填口を有するが、仕切り板及び攪拌流動化部を欠く構成の水素貯蔵容器(外形寸法は同一)の水素吸蔵放出性能を測定した。これに、実施例と同様に、Li-Mg-N-H系水素貯蔵体を250g充填した。これらの作業は、水素貯蔵体が空気や水分と接触し劣化するのを防ぐために、アルゴングローブボックス中で行った。
【0040】
(水素放出量の測定方法)
これら貯蔵容器からの水素放出量を評価する前に、水素出入部より充填容器内のアルゴンガスを真空ポンプで真空引きし、バルブを閉めた。次に、水素出入部入り口にバルブが付いたマスフローメーターを接続し、このマスフローメーターの出口に逆止弁を取り付け、これを大気開放し出口圧力がほぼ大気圧となるようにした。なお、水素出入部とマスフローメーターの間には充填容器の内圧をモニタリングするための連成計を取付けた。水素貯蔵体を加熱するために、貯蔵容器外部にあるヒーターにより熱媒として用いたシリコーンオイルを215℃に加熱しておき、貯蔵容器の熱媒パイプ(加熱部)に送液ポンプを使って循環させた。連成計の指示値が大気圧を上回った後、マスフローメーター入り口のバルブを開放し、水素放出量を測定した。
【0041】
(水素放出量の測定結果)
その結果、熱媒循環開始から30分後における水素放出量の積算値は、実施例(図1)においては約12Lとなり、比較例では約7Lであった。
【実施例2】
【0042】
実施態様1(図1)の本発明で、更に蓄熱媒体10を使用した例を示す。上述の実施例の装置に、蓄熱媒体10を約0.2L分充填した。蓄熱媒体の充填は、水素貯蔵体を充填する前に、充填容器内に充填しておいた。蓄熱媒体10としては、コアーシェルカプセル型で、シェルは、直径約150mm、厚さ1.5mm程度の球殻アルミニウム製とし、コア部には、Sn-Ag3.5-Bi0.5-In8の低融点合金(融点204℃)を用いた。前述と同様に運転し、215℃に加熱しておいた熱媒を循環させ、循環開始から30分後における水素放出量の積算値を測定した結果、15Lであった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る水素貯蔵容器の実施形態を示す断面図。
【図2】本発明に係る水素貯蔵容器の別の実施形態を示す断面図。
【図3】本発明に係る水素貯蔵容器の更に別の実施形態を示す断面図。
【図4】3種の蓄熱媒体の模式図。
【図5】コア−シェルカプセル型蓄熱媒体の製造方法を示す模式図。
【図6】薬剤カプセル型蓄熱媒体の製造方法を示す模式図。
【図7】本発明に係る水素吸放出装置の実施形態を示す模式図。
【符号の説明】
【0044】
100,110,120;水素貯蔵容器
130;水素吸放出装置
200;移動体
210;駆動部
220;燃料電池
10;蓄熱媒体
20;充填容器
21;容器蓋
30;水素貯蔵体
40,40´,40´´;流動化部
41;攪拌翼
42;攪拌軸
50;水素出入部
51;水素流通管
52;フィルター
53;水素出入部バルブ
60;加熱部
80,80´;仕切り板
81;仕切り板中のフィルター
90;充填口
91;充填口バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に可動に充填された水素貯蔵体の一部を攪拌しながらこれを所定方向に移動させる攪拌翼と攪拌軸を含む流動化部と、
前記水素貯蔵体を加熱する加熱部と、
外部と通気可能に装着された水素出入部と、
前記水素貯蔵体を前記流動化部から前記加熱部へ導き、その後さらに、流動化部に導く流路形成の仕切り板と、
を備えることを特徴とする水素貯蔵容器。
【請求項2】
更に、容器内には、蓄熱混合媒体を水素貯蔵体とともに可動に充填したことを特徴とする請求項1記載の水素貯蔵容器。
【請求項3】
温度制御可能な加熱部により所定温度で、前記流動化部を駆動させながら、水素を吸収し、更に、所定温度で、前記水素出入部から水素を放出する請求項1又は、請求項2記載の水素貯蔵容器を含み、前記放出水素の燃焼エネルギーや化学反応エネルギーを用いることを特徴とする水素吸放出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−327534(P2007−327534A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157951(P2006−157951)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】