説明

水蒸気バリア性フィルムの製造方法

【課題】 水蒸気バリア性を向上できる水蒸気バリア性フィルムの製造方法の提供。
【解決手段】 脂肪族ポリエステル樹脂を含む生分解性樹脂と水蒸気バリア性付与剤を含有する樹脂組成物を、押出機を用いた成形法による水蒸気バリア性フィルムの製造方法であり、下記(a)及び(b)の要件を具備することにより、透湿度(JIS Z0208)が制御されたフィルムを得る、水蒸気バリア性フィルムの製造方法。
(a)前記樹脂組成物を溶融混練するとき、前記押出機の押出温度が150℃以上であること
(b)前記押出機から押し出した後のフィルムの引取速度が20m/min以上であること

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用マルチフィルムとして好適な水蒸気バリア性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自然環境中で生分解可能なプラスチックの開発が求められている。汎用性の高い生分解性樹脂として脂肪族ポリエステルが注目されており、最近ではポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリカプロラクトン(PCL)およびそれらの共重合体などが上市されている。
【0003】
これら生分解性脂肪族ポリエステルの用途の一つとして、包装用、農業用、食品用などのフィルム分野があり、ここでは成形品に対して高い強度と実用的な耐熱性および生分解性の制御を同時に実現することが重要な課題となる。
【0004】
上記脂肪族ポリエステルの中で、PLAは、高いものでは170℃付近に融点を持ち高耐熱性であるが、脆い性質のため成形品の強度は低く、また土中で分解せずコンポスト化設備が必要である。PBSおよびPESは融点が100℃付近で十分な耐熱性を有するが、生分解速度が小さく、実用的には不充分であり、また機械的性質では柔軟性に欠ける。PCLは柔軟性に優れるものの、融点60℃と耐熱性が低いために用途が限定されているが、生分解速度は非常に速い。
【0005】
このように、脂肪族ポリエステルのホモポリマー単独では上記課題を解決するのは困難であるが、例えば特許文献1記載のポリブチレンサクシネート−ポリカプロラクトン共重合体(PBSC)のように、脂肪族ポリエステル共重合体中にカプロラクトンユニットを導入することにより、実用的な柔軟性と適度な生分解性を実現することができ、また、カプロラクトンユニットの含有量を制御することにより、融点を80℃以上として十分な耐熱性を保持することと、生分解性を制御することが可能であり、上記課題が解決可能なことが確認されている。また、2種以上の脂肪族ポリエステル樹脂を適切にブレンドすることによっても実用的な機械的性質と耐熱性を付与し適度な生分解性を実現することが可能である。
【0006】
生分解性高分子材料に関しては、例えば、特許文献2には、生分解性を有する高分子材料、特に乳酸単位を含む重合体を使用した生分解性マルチング材が開示されている。しかしこの技術によるマルチング材は、ポリ乳酸が主体であり、農業用のマルチング材としては固すぎて、また生分解速度が遅すぎ、制御されたものではない。
【0007】
特許文献3には、ポリ乳酸系重合体とガラス転移点Tgが0℃以下である脂肪族ポリエステルからなる生分解性プラスチックフィルムあるいはシート、特に、生分解性脂肪族ポリエステルの含有量がポリ乳酸系重合体100質量部に対して7〜60質量部である熱成形用フィルムあるいはシートが開示されている。しかしこの技術によるものもポリ乳酸が主体であり、上記と同様に生分解速度が制御されたものではない。
【0008】
生分解性農業用マルチフィルムは、近年その有用性が徐々に認識されてきており、それに伴い市場も立ち上がりつつある。生分解性農業用マルチフィルムを使用した場合、作物の生長や雑草の生長の抑制などに影響が出るため新たに水蒸気バリヤー性をコントロールすることが課題としてあげられてきた。特に作物の播種から1〜2ヶ月間におけるフィルムの水蒸気バリヤー性が作物の生長に影響を与えることが指摘されるようになってきた。生分解性フィルムの水蒸気バリヤー性に関しては、いくつかの報告がなされている。
【0009】
特許文献4には脂肪族ポリエステル樹脂に特定の分子構造をもたせることにより、農業用マルチフィルム等のフィルムに水蒸気バリヤー性を付与することが記載されている。
【0010】
農業用マルチフィルムではなく、分野の異なる食品包装用フィルムの水蒸気バリヤー性に関する技術は、特許文献5に開示されている。具体的には、脂肪族ポリエステルフィルムに酸化ケイ素の薄膜をコーティングすることにより、水蒸気バリヤー性を改善している。そのコーティング被膜のひび割れ防止を目的として、脂肪酸アミドを樹脂に対して0.001〜10質量%添加してフィルムに成形することが記載されている。
【0011】
また、脂肪酸アミドを樹脂に添加してフィルムに成形したものとしては、特許文献6や特許文献7に開示されているものがあるが、それらはいずれも脂肪酸アミドを滑剤として添加してフィルムを成形した事例である。特許文献8には、生分解性樹脂に対して、脂肪酸アミド等の水蒸気バリア性付与剤を添加して得た生分解性フィルムが記載されている。
【特許文献1】特許2997756号公報
【特許文献2】特開平8−259823号公報
【特許文献3】特開平9−111107号公報
【特許文献4】特表2002−523603号公報
【特許文献5】特開平9−300522号公報
【特許文献6】特開平11−157601号公報
【特許文献7】WO02/44249号公報
【特許文献8】特開2004−352987号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の水蒸気バリア性を有する生分解性フィルムは、原料組成を改変することで水蒸気バリア性を向上させようとするものであった。
【0013】
そこで本発明は、製造方法自体を改変することにより、水蒸気バリア性を向上させることができる、生分解性を有する水蒸気バリア性フィルムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、課題の解決手段として、
脂肪族ポリエステル樹脂を含む生分解性樹脂と水蒸気バリア性付与剤を含有する樹脂組成物を、押出機を用いて成形する水蒸気バリア性フィルムの製造方法であり、
下記(a)及び(b)の要件を具備することにより、透湿度(JIS Z0208)が制御されたフィルムを得る、水蒸気バリア性フィルムの製造方法を提供する。
(a)前記樹脂組成物を溶融混練するとき、前記押出機の押出温度が150℃以上であること。
(b)前記押出機から押し出した後のフィルムの引取速度が20m/min以上であること。
【発明の効果】
【0015】
本発明の水蒸気バリア性フィルムの製造方法によれば、製造条件を適宜設定することにより、水蒸気バリア性(透湿度)が制御された水蒸気バリア性フィルムを得ることができる。更に、本発明の水蒸気バリア性フィルムの製造方法によれば、同一組成の樹脂組成物を用いた場合であっても、水蒸気バリア性をより向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<樹脂組成物>
〔生分解性樹脂〕
生分解性樹脂は、脂肪族ポリエステル樹脂を含むものであり、脂肪族ポリエステル樹脂単独からなるものでもよいし、脂肪族ポリエステル樹脂と他の樹脂とを併用したものでもよい。但し、生分解性樹脂中の脂肪族ポリエステル樹脂の含有量が70質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上である。
【0017】
脂肪族ポリエステル樹脂としては、特許文献8(特開2004−352987号公報)の段落番号10〜段落番号32、及び製造例1に記載された公知の生分解性脂肪族ポリエステル(共)重合体を用いることができる。
【0018】
脂肪族ポリエステル樹脂と併用できる他の樹脂としては、特許文献8の段落番号33に記載された公知の重合体(b)、段落番号34に記載された公知の芳香族ポリエステル系共重合体(c)を用いることができる。
【0019】
例えば、重合体(b)としてポリ乳酸を用いる場合には、生分解性樹脂中の含有量が30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以下である。30質量%以下である場合には、上記脂肪族ポリエステル樹脂からなるフィルムの優れた伸度を損なうことがない。
【0020】
また、芳香族ポリエステル系共重合体(c)を用いる場合には、生分解性樹脂中の含有量が30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは20質量%以下である。30質量%以下である場合には、上記脂肪族ポリエステル樹脂の優れた生分解性を損なうことがない。
【0021】
本発明で使用する生分解性樹脂のうち、脂肪族ポリエステルの製造原料には原料多塩基酸類(例えばコハク酸)や添加剤に由来するリンゴ酸を含む場合があるが、その場合下記式(i)に示すような三叉分岐構造が生じる。
【0022】
−O−C(=O)−CH〔O−C(=O)−〕CH2−C(=O)O− (i)
本発明で使用する生分解性樹脂中、(直鎖状の)高分子量(脂肪族)ポリエステルにおいて、式(i)で示される分岐構造が混入し、その混入比率が高くなると、延性という成形品の機械的特性上の特徴の低下を招き、直鎖状、すなわち低分岐度の脂肪族ポリエステルの特徴である耐衝撃性、引張破断点伸度のような重要な物性に影響を与える。
【0023】
本発明では、脂肪族ポリエステル中の上記式(i)で表される三叉分岐構造の含有量はできるだけ少ないこと(0質量%が最も好ましい)が好ましく、具体的には、15.0×10−6mol/g以下が好ましく、より好ましくは10×10−6mol/g以下(例えば8.4×10−6mol/g以下)、更に好ましくは8.0×10−6mol/g以下、特に好ましくは6.0×10−6mol/g以下(例えば5.6×10−6mol/g以下)である。
【0024】
脂肪族ポリエステル中の上記式(i)で表される三叉分岐構造の含有量が15.0×10−6mol/g以下であると、フィルムの柔軟性が良く(弾性率が低く、伸びが増加する)、例えば、農業用マルチフィルムとして好適となる。15.0×10−6mol/gを超える場合には、フイルムとしては硬く、裂けやすいものになる。
【0025】
〔水蒸気バリア性付与剤〕
水蒸気バリア性付与剤としては、脂肪酸アミド、ビス脂肪酸アミド、パラフィンワックス、カルナバワックス蝋、モンタンワックス、ポリエチレンワックス、石油樹脂から選ばれる少なくとも1種を用いることができ、これらの中でも脂肪酸アミドが好ましい。
【0026】
脂肪酸アミドとしては、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、高純度パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、精製ステアリン酸アミド、高純度ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、高純度ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、オレイン酸アミド等の飽和脂肪酸モノアミド類;
メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N’−ジステアリルセバシン酸アミド等の飽和脂肪酸ビスアミド類;
オレイン酸アミド、精製オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、精製エルカ酸アミド、リシノール酸アミド等の不飽和脂肪酸モノアミド類;
エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミド等の不飽和脂肪酸ビスアミド類;N−ステアリルステアリン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド等の置換アミド類;
メチロールステアリン酸アミド類;メチロールベヘン酸アミド等のメチロールアミド類等の脂肪酸アミド類を挙げることができ、N,N−ジステアリルイソフタール酸アミド、メタキシリレンビスステアリン酸アミド等の芳香族ビスアミド類も同様に用いることができる。
【0027】
水蒸気バリア性付与剤を選択する場合には、脂肪族ポリエステル共重合体等の融点に応じて、その融点以下の水蒸気バリヤー性付与剤を選択する必要がある。例えば、生分解性樹脂の融点を考慮して、水蒸気バリヤー性付与剤としては融点が160℃以下の水蒸気バリヤー性付与剤が選ばれる。
【0028】
水蒸気バリア性付与剤としては、フィルム製造時における白粉発生を抑制する観点から、炭素数18以上の飽和又は不飽和脂肪酸アミドから選ばれるものを用いることができ、水蒸気バリア性をより高める観点から、炭素数18以上の飽和脂肪酸アミドから選ばれるものを用いることができる。
【0029】
また、白粉発生を抑制する観点からは、水蒸気バリア性付与剤として、170℃における重量減少速度(下記測定法により求められる)が0.25%/min以下のものが好ましく、より好ましくは0.20%/min以下、さらに好ましくは0.15%/min以下のものである。
【0030】
(重量減少速度)
以下に示す装置及び条件での熱重量減少測定において、170℃到達後にサンプルを同温度に保持した状態での一分あたりの重量減少量をサンプル初期重量で割った値を重量減少速度として用いた。
【0031】
装置:エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製 示差熱熱重量同時測定装置,EXSTAR6000 TG/DTA6300
室温→170℃昇温→170℃ホールド
雰囲気:N(300ml/min)
昇温速度:20℃/min.(〜170℃)
サンプル量:6〜10mg
炭素数18以上の不飽和脂肪酸アミドとしてはエルカ酸アミドが好ましく、炭素数以上の飽和脂肪酸アミドとしてはステアリン酸アミド及びベヘン酸アミドが好ましい。
【0032】
フィルム製造時における白粉発生を抑制する観点からは、本発明で用いる水蒸気バリア性付与剤中、炭素数18以上の飽和又は不飽和脂肪酸アミドから選ばれるものの含有量は40質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上である。
【0033】
樹脂組成物中の水蒸気バリア性付与剤の含有量は、水蒸気バリア性を高める観点から、生分解性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.2〜3.0質量部、より好ましくは0.3〜2.0質量部、さらに好ましくは0.4〜1.5質量部特に好ましくは0.5〜1.0質量部である。
【0034】
<その他の添加剤>
本発明で用いる樹脂組成物には、必要に応じて、可塑剤、熱安定剤、滑剤、光分解促進剤、生分解促進剤、充填剤、着色防止剤、酸化防止剤、有機又は無機顔料等を添加することができる。
【0035】
可塑剤としては、脂肪族二塩基酸エステル、フタル酸エステル、ヒドロキシ多価カルボン酸エステル、ポリエステル系可塑剤、脂肪酸エステル、エポキシ系可塑剤、又はこれらの混合物を挙げることができる。
【0036】
具体的には、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DOP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)等のフタル酸エステル、アジピン酸−ジ−2−エチルヘキシル(DOA)、アジピン酸ジイソデシル(DIDA)等のアジピン酸エステル、アゼライン酸−ジ−2−エチルヘキシル(DOZ)等のアゼライン酸エステル、アセチルクエン酸トリ−2−エチルヘキシル、アセチルクエン酸トリブチル等のヒドロキシ多価カルボン酸エステル、ポリプロピレングリコールアジピン酸エステル等のポリエステル系可塑剤であり、これらは1種又は2種以上を使用できる。
【0037】
可塑剤の添加量は、フィルムの用途によって異なるが、生分解性樹脂100質量部に対して3〜30質量部が好ましく、5〜15質量部がより好ましい。3質量部以上であると、破断伸びや衝撃強度が良くなり、また30質量部以下であると、破断強度や衝撃強度が良くなる。
【0038】
熱安定剤としては、脂肪族カルボン酸塩がある。脂肪族カルボン酸としては、特に脂肪族ヒドロキシカルボン酸が好ましい。脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、ヒドロキシ酪酸等の天然に存在するものが好ましい。塩としては、ナトリウム、カルシウム、アルミニウム、バリウム、マグネシウム、マンガン、鉄、亜鉛、鉛、銀、銅等の塩を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を使用できる。
【0039】
熱安定剤の添加量は、生分解性樹脂100質量部に対して0.5〜10質量部が好ましい。上記範囲で熱安定剤を用いると、衝撃強度(アイゾット衝撃値)が向上し、破断伸び、破断強度、衝撃強度のばらつきが小さくなる効果がある。
【0040】
滑剤としては、内部滑剤、外部滑剤として一般に用いられるもの、例えば、脂肪酸エステル、炭化水素樹脂、パラフィン、高級脂肪酸、オキシ脂肪酸、脂肪族ケトン、脂肪酸低級アルコールエステル、脂肪酸多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル、脂肪族アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリクリセロール、金属石鹸、変性シリコーン又はこれらの混合物を挙げることができ、これらの中でも脂肪酸エステル、炭化水素樹脂が好ましい。
【0041】
滑剤の添加量は、生分解性樹脂100質量部に対して0.05〜5質量部が好ましい。0.05質量部以上であると効果が発現され、5質量部以下であるとフィルムの物性が良くなる。
【0042】
光分解促進剤としては、ベンゾイン類、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン等のベンゾフェノンとその誘導体;アセトフェノン、α,α−ジエトキシアセトフェノン等のアセトフェノンとその誘導体;キノン類;チオキサントン類;フタロシアニン等の光励起材、アナターゼ型酸化チタン、エチレン/一酸化炭素共重合体、芳香族ケトンと金属塩との増感剤等を挙げることができる。これらの光分解促進剤は1種又は2種以上を併用できる。
【0043】
生分解促進剤としては、オキソ酸(例えば、グリコール酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸等の炭素数2〜6程度のオキソ酸)、飽和ジカルボン酸(例えば、修酸、マロン酸、コハク酸、無水コハク酸、グルタル酸等の炭素数2〜6程度の低級飽和ジカルボン酸等)等の有機酸;これらの有機酸と炭素数1〜4程度のアルコールとの低級アルキルエステルが含まれる。好ましい生分解促進剤には、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸等の炭素数2〜6程度の有機酸、及び椰子殻活性炭等が含まれる。これらの生分解促進剤は1種又は2種以上を使用できる。
【0044】
充填剤(増量剤を含む)としては、炭酸カルシウム、マイカ、珪酸カルシウム、タルク、微粉末シリカ(無水物)、ホワイトカーボン(含水物)、石綿、陶土(焼成)、麦飯石、各種の酸化チタン、ガラス繊維等の無機添加剤(無機充填剤ともいう。)や、天然素材の粒子等の有機添加剤(有機充填剤ともいう。)を挙げることができる。無機充填剤としての微粉末シリカは、湿式法でつくられたシリカや、四塩化ケイ素の酸水素焔中での高温加水分解により製造されたシリカでもよいが、粒径が50nm以下のものがよい。有機充填剤としては、直径が50ミクロン以下の、紙より製造した微粉末粒子を挙げることができる。増量剤としては、木粉、ガラスバルーン等を挙げることができる。
【0045】
充填剤としては、炭酸カルシウム及び/又はタルクが好ましい。充填剤を添加することにより、形状崩壊速度が向上するとともに溶融粘度及び溶融張力が大きくなるので、溶融成形時のドローダウンが防止され、真空成形、ブロー成形、インフレーション成形等の成形性が向上する。また、タルクを併用すると水蒸気バリヤー性がさらに改善される傾向を示す。
【0046】
充填剤の添加量は、充填剤/生分解性樹脂の質量比が5〜30/95〜70が好ましく、より好ましくは5〜15/95〜85である。前記範囲内であると、樹脂が粉を吹くこともなく、成形時にドローダウン、ネッキング、厚みむら、目やにの発生が抑制される。
【0047】
着色防止剤としては、フェノール系のアデカスタブAO−70、ホスファイト系のアデカスタブ2112(共に旭電化(株)社製)等を挙げることができる。着色防止剤の添加量は、生分解性樹脂100質量部に対して0.02〜3質量部が好ましく、より好ましくは0.03〜2質量部である。酸化防止剤としては、アミン系、フェノール系、リン系、硫黄系等を挙げることができ、添加量は生分解性樹脂100質量部に対して0.02〜3質量部が好ましい。
【0048】
本発明で用いる樹脂組成物は、例えば、上記した各成分をヘンシェルミキサーやリボンミキサーで乾式混合し、単軸押出機や2軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロール等の公知の溶融混合機に供給して溶融混練して、ペレット状等に成形して得ることができる。
【0049】
<水蒸気バリア性フィルムの製造方法>
本発明の製造方法では、上記の樹脂組成物を用い、押出機にて押出成形して水蒸気バリア性フィルムを製造する。
【0050】
押出機を用いたフィルムの成形法としては、公知のインフレーション法、T−ダイ法、カレンダー成形法等を適用して得ることができ、用途に応じては、ラミネート加工法を適用することができる。また、無延伸でもよいし、必要に応じて、一軸又は二軸延伸してもよい。
【0051】
本発明の製造方法では、押出成形する際に、下記の要件(a)及び(b)の両方を具備することが必要である。
【0052】
要件(a)
押出機により樹脂組成物を溶融混練するとき、押出温度が150℃以上であること。本発明における押出温度とは、押出成形する際の樹脂温度である。一般に、押出機成形における樹脂温度は、押出機入口から押出機内及びアダプターを経てダイにいたるまでの範囲で一定でないことがあるが、ここでは、この範囲における最高温度を指す。
【0053】
樹脂組成物の組成が同じで、他の製造条件が同じであれば、押出温度が高い方が、透湿度の低いフィルム(水蒸気バリア性の高いフィルム)を得ることができる。このため、押出温度を調整することにより、得られるフィルムの透湿度を増減させることができる。
【0054】
要件(a)の押出温度は150℃以上である。好ましくは160℃以上である。更に好ましくは170℃以上、特に好ましくは180℃を超える温度(例えば、182℃以上)で、上限は200℃が好ましい。、
押出温度が150℃以上であると、押出温度が150℃未満の場合のように、押出機の混練不良による成形不良や機械物性のバラツキが起こることがない。ここで、バラツキとは、成形品の箇所により、十分伸びるところもあるが、伸びずに裂けやすい箇所が出ることをいう。また、押出温度が150℃未満になると水蒸気バリア性が十分でないフィルムが得られることがある。
【0055】
押出温度が200℃以下であると、押出温度が200℃を超える場合のように、成形時の冷却不足による成形不良(バブルが振らつく)やバリヤ付与剤の揮発量増加による白粉発生を起こし易くなるという問題が生じない。
【0056】
要件(b)
押出機から押し出した後のフィルムの引取速度が20m/min以上であること。通常、引取速度は、引き取り前のニップロールの速度で測定される。
【0057】
引取速度が20m/min以上であると、引取速度が20m/min未満の場合のように、生産性が悪くなったり、成形性が劣る(バブルが不安定になりやすい)という問題が生じない。
【0058】
引取速度は、フィルムの機械物性、特に伸度を高く維持する観点から、40m/min以下が好ましい。引取速度が40m/min以下であると、引取速度が40m/minを超える場合のように、速度が高くなって延伸配向が多くかかる分、硬く伸び難いフィルムになり耐衝撃性(落球高さ)が落ちたり、展張時に破れやすくなったりするという問題が生じない。また、引取速度が40m/min以下であると、引取速度が40m/minを超える場合のように、厚み不良の製品ができるという問題が生じない。
【0059】
更に本発明では、上記要件(a)、(b)に加えて、下記の要件(c)、(d)も満たすことが好ましい。
【0060】
要件(c)
押出機のダイのリップ開度が、好ましくは0.5〜3.0、より好ましくは1.5〜3.0であること。リップ開度が0.5以上であると、生産性が良く、樹脂圧の上昇が抑制されるため、白粉が発生し難くなる。リップ開度が3.0以下であると、配向バランスが良く、得られたフィルムの物性が良くなり、伸び、柔軟性、引裂強度が良くなる。
【0061】
要件(d)
フィルムの成形法としてブロー成形法を適用したときのブロー比が、好ましくは2.5以上であり、より好ましくは3以上であること。ブロー比が2.5以上であると、配向のバランスが良く、物性が良くなり、伸び、柔軟性、引裂強度が良くなる。
【0062】
なお、要件(a)、(b)と共に、水蒸気バリア性付与剤の量を関連づけることもでき、樹脂組成物中における水蒸気バリア性付与剤の量を増加させると透湿度が低下し、減少させると透湿度が増加する。
【0063】
以下に、インフレーション法によるフィルムの製造例について説明する。初めに、環状ダイを備えた押出機に原料となる樹脂組成物(或いは樹脂組成物の構成成分でもよい)を供給し、所定温度で溶融混練して環状のダイスリットよりチューブ状に押出す。例えば、このときの押出機の押出径は30〜200mm程度で、長さ/直径の比率(L/D)が26〜32であり、環状ダイの直径は50〜1000mmのものを採用でき、ダイスリットのギャップは0.5〜3.0mmの範囲がよい。
【0064】
押出されたチューブ状のフィルムは、ダイを貫通して挿入された気体吹込管より導入した気体の圧力によって、所定のブロー比(チューブ径/ダイ径)まで膨張し、次いでニップロールにより一定速度で引き取る。
【0065】
本発明の製造方法で得られた水蒸気バリア性フィルムは、水蒸気バリア性フィルムのみからなる単層のフィルムでもよいし、用途に応じて、本発明の水蒸気バリア性フィルムと公知の他のフィルムとの複合フィルムにしてもよい。
【0066】
本発明の水蒸気バリア性フィルムは、厚みが10μmから100μmであり、本発明の方法によれば、この厚みの範囲で、優れた水蒸気バリア性を有するフィルムが得られる。本発明の水蒸気バリア性フィルムは、透湿度が、温度40℃、湿度90%RHの測定(JIS Z0208)において500g/m/24hr以下であることが好ましく、より好ましくは400g/m/24hr以下、さらに好ましくは300g/m/24hr以下特に好ましくは200g/m/24hr以下である。
【0067】
本発明の水蒸気バリア性フィルムは、フィルム表面と水との接触角が65°以上のものが好ましく、より好ましくは70°以上、さらに好ましくは75°以上のものである。
【0068】
本発明の水製造方法で得られた蒸気バリア性フィルムは、水蒸気バリア性が必要な用途全般に適用することができるが、特に畑等の土壌に敷いて使用したり、農業用ハウスに使用したりする農業用マルチフィルムとして好適である。
【実施例】
【0069】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例における各種測定方法は、以下のとおりである。
【0070】
(1)分岐点濃度
1H−NMRにより、使用した各モノマーに由来するピークの面積から、ポリマー中に含まれる各モノマー単位のモル分率を算出し、それらからポリマー組成を決定した。また、水酸基末端、分岐構造、及びエーテル結合に由来するピークから、分岐点濃度を算出した。
【0071】
本発明の脂肪族ポリエステルの1H−NMRスペクトルの1例を図1に示す。図1は、1,4−ブタンジオール、コハク酸、εーカプロラクトンを主原料とした脂肪族ポリエステルである。
【0072】
図1中、水酸基末端に由来するピークcは、垂直方向100倍、水平方向2倍の倍率で拡大して示した。同様にコハク酸中に不純物として混入していたリンゴ酸由来の下記式(i)の分岐構造:
−O−C(=O)−CH〔O−C(=O)−〕CH2−C(=O)O− (i)
に基づくピークeは、垂直方向500倍、水平方向2倍の倍率で拡大して示した。また同様に副生エーテル結合に由来するピークfは、垂直方向200倍、水平方向2倍の倍率で拡大して示した。
【0073】
図1から読み取れるように、1,4−ブタンジオール残基の酸素原子に隣接するメチレン基2つ分のピークとε−カプロラクトン残基の酸素原子に隣接するε−メチレン基のピークは、重なって4.07ppmにピークd(triplet)として観測される。一方、ε−カプロラクトン残基のカルボニル基に隣接するα−メチレン基のピークは、2.28ppmにピークa(triplet)として観測される。また、コハク酸残基の2つの等価なメチレン基のピークは、2.57ppmにピークb(triplet)として観測される。
【0074】
ピークa、ピークb、ピークdの面積をそれぞれS,S,Sとすると、脂肪族ポリエステル(a)1分子あたりの1,4−ブタンジオール残基、ε−カプロラクトン残基、及びコハク酸残基の各モル数(MBG,MCL,MSA)について、下記式(I)〜(III):
【0075】
【数1】

【0076】
の関係が成り立つので、各残基のモル分率(rBG,rCL,rSA)は下記式(IV)〜(VI)で計算することができる。
【0077】
【数2】

【0078】
従って、ポリマー組成を表すブチレンサクシネート単位のモル分率RBS、及びεーカプロラクトン単位のモル分率RCLは、下記式(VII)、(VIII)によって計算することができる。
【0079】
【数3】

【0080】
上記式(i)の分岐構造 上記式(i)の分岐構造については、メチン基のピークが5.43ppmにピークe(triplet)として観測される。 図1の例における脂肪族ポリエステル中の分岐構造のモル濃度(mbr)は、下記式IXで計算することができる。
【0081】
【数4】

【0082】
(2)フィルムの水蒸気バリア性
JIS Z0208に基づいて40℃、湿度90%RHにおける透湿度を測定した。透湿度が小さいほど水蒸気バリア性に優れる。
【0083】
(3)引張試験
JIS K7113に基づき、試験片の引張弾性率、伸度及び強度を求めた。試験片は5号試験片を使用し、引張速度は500m/minで測定した。
【0084】
使用機器:オリエンテック社製テンシロン万能試験機UCT−5
(4)引裂強度(引裂荷重)
JIS7128トラウザー引裂法に基づいて測定した。但し、試験片サイズは長さ100mm、幅25mmにカットし、幅の一端に真ん中から長さ方向に50mmの切込みを入れたものを用いた。
【0085】
(5)落球試験
フイルムをφ15cmの枠に固定し、23℃、50%RH雰囲気下で、φ19mm(28g)の剛球を落下させた時の試験片の50%が破れる時の球の落下高さを測定する。繰返し試験数n=20である。以下の実施例では、「落球高さ(cm)」と表示した。
【0086】
(6)フィルムの表面接触角
接触角測定機(協和界面科学(株)製、FACE自動接触角計CA−Z型)を用い、25℃にて、蒸留水に対するフィルムの接触角θを求めた。
【0087】
実施例及び比較例
表1に示す各成分を混合し、L/D=28、スクリュー径40mmの一軸押出し機を用いて樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を用い、下記の押出機とインフレーションフィルム成形機により、下記条件でフィルムを得た。
【0088】
【表1】

【0089】
表1に示す各成分は、下記のとおりである。
・脂肪族ポリエステル共重合体:ダイセル化学工業(株)社製の1,4−ブタンジオール−コハク酸−カプロラクトン三元共重合体、CBS171(ポリスチレン換算Mw228000、MFR(190℃)1.7、Tm94℃)
・ポリ乳酸:三井化学(株)製、レイシアH−100
・タルク:竹原化学工業(株)社製、ハイトロンA(平均粒径3μm)
・ステアリン酸アミド:脂肪族アマイドAP−1、日本化成(株)
(i)押出機仕様
スクリュー径:40mm、一軸
シリンダーL/D:28
ダイ径:50mm
ダイリップ開度:表2、表3に示す
(ii)押出条件
押出温度:表2、表3に示す
ブロー比(TD延伸倍率):表2、表3に示す
引取速度:表2、表3に示す
得られたフィルムについて、上記した各測定を行った。結果を表2、表3に示す。
【0090】
【表2】

【0091】
【表3】

【0092】
実施例1〜22に示すように、押出温度150℃〜200℃、引取速度20m/minの条件では、バリア性付与剤を所定量添加することにより、水蒸気バリア性に優れたフィルムを安定して成形することが可能であり、ポリ乳酸のような他の樹脂や、タルクのような無機添加剤を添加することにより、農業用マルチフィルムをはじめとする用途に適した機械的物性を有するフィルムが得られた。
【0093】
それに対し、比較例1〜3及び比較例8〜9に示すように、バリア性付与剤を所定量添加しない場合は、好ましい範囲の押出温度及び引取り速度で成形しても、水蒸気バリア性に優れたフィルムは得られなかった。
【0094】
また、比較例4〜5に示すように、引取速度が好ましい範囲にない場合は、バブルが不安定になったり、得られたフィルムの厚みムラが大きくなる等、優れた性能のフィルムを安定して製造することが困難であった。
【0095】
さらに、比較例6に示すように、押出温度が200℃より高い場合は、バブルが不安定になるとともに、成形時の白粉発生が激しくなり、良好なフィルムを安定して製造することが困難であった。また、比較例7に示すように、押出温度が150℃より低い場合は、引裂荷重や落球高さが小さくなり、十分な性能を有するフィルムが得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】分岐点濃度の説明のための脂肪族ポリエステルの1H−NMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステル樹脂を含む生分解性樹脂と水蒸気バリア性付与剤を含有する樹脂組成物を、押出機を用いて成形する水蒸気バリア性フィルムの製造方法であり、
下記(a)及び(b)の要件を具備することにより、透湿度(JIS Z0208)が制御されたフィルムを得る、水蒸気バリア性フィルムの製造方法。
(a)前記樹脂組成物を溶融混練するとき、前記押出機の押出温度が150℃以上であること
(b)前記押出機から押し出した後のフィルムの引取速度が20m/min以上であること
【請求項2】
要件(a)の押出機の押出温度が180℃を超える温度であり、要件(b)の押出機から押し出した後のフィルムの引取速度が20m/min以上である、請求項1記載の水蒸気バリア性フィルムの製造方法。
【請求項3】
樹脂組成物中の水蒸気バリア性付与剤の含有量が0.2〜2.0質量%である、請求項1又は2記載の水蒸気バリア性フィルムの製造方法。
【請求項4】
水蒸気バリア性付与剤が、脂肪酸アミド、ビス脂肪酸アミド、パラフィンワックス、カルナバワックス蝋、モンタンワックス、ポリエチレンワックス、石油樹脂から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の水蒸気バリア性フィルムの製造方法。
【請求項5】
透湿度(JIS Z0208)が、500g/m/24hr以下である請求項1〜4のいずれかに記載の水蒸気バリア性フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法で得られた水蒸気バリア性フィルムからなる農業用マルチフィルム。




【図1】
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【公開番号】特開2007−176000(P2007−176000A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−377027(P2005−377027)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】