説明

汚泥乾燥機の運転制御方法

【課題】汚泥乾燥機に投入される下水脱水汚泥の性状が変動した場合にも、乾燥品含水率を一定に維持することができる汚泥乾燥機の運転制御方法を提供する。
【解決手段】脱水汚泥を熱風により乾燥させる汚泥乾燥機の内部に温度計13を設置して乾燥品の温度を直接計測し、計測された乾燥品の温度が一定となるように乾燥条件を制御することにより、乾燥品の温度と乾燥品の含水率との間の強い相関を利用して、乾燥品含水率を一定に維持する。汚泥乾燥機が熱風回転乾燥機であることが好ましく、その場合の乾燥条件の制御は、汚泥乾燥機の入口熱風温度T1、出口排ガス温度T2、熱風供給量V、脱水汚泥供給量Wの何れかを操作することにより行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水脱水汚泥などを熱風乾燥する汚泥乾燥機の運転制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下水汚泥の処分方法として、従来は焼却法が主流を占めていた。しかし焼却灰の埋設処分場が次第に減少しているうえに、乾燥すれば可燃物となる下水脱水汚泥を単に焼却することは、エネルギー資源確保の観点からも、地球温暖化防止の観点からも好ましくないため、近年においては下水脱水汚泥の有効利用法が種々検討されている。そのひとつが下水脱水汚泥を原料として炭化品を製造する方法である。
【0003】
この方法は下水脱水汚泥を乾燥させたうえで汚泥炭化炉に投入し、空気比が1未満の低酸素雰囲気中で加熱して熱分解させ、可燃物含有量が10〜50%程度の炭化品を製造する方法である。このようにして製造された炭化品は、可燃物含有量が低いものは金属溶融炉の溶湯表面の保温材として、また可燃物含有量が多いものはアーク炉の加熱促進剤などとして既に工業的に利用されている。
【0004】
この場合には、汚泥炭化炉に投入される下水脱水汚泥の乾燥品含水率を一定に維持することが、汚泥炭化炉の運転条件を安定化させ、品質ばらつきの小さい炭化品を製造するうえで重要である。また下水脱水汚泥を原料として炭化品を製造する以外にも、下水脱水汚泥を造粒して骨材を製造するような場合、あるいは下水脱水汚泥を溶融してスラグ化するような場合、さらには下水脱水汚泥を焼却するような場合にさえも、下水脱水汚泥の乾燥品含水率を一定に維持することが、その後段の工程を安定化させるために重要である。
【0005】
そこで下水脱水汚泥を乾燥させるためにこれまでに各種の汚泥乾燥機が開発されているが、乾燥品含水率を5〜15%程度にまで低下させたい場合には、回転ドラムにより脱水汚泥を回転させながら熱風を吹き込んで乾燥させる熱風回転乾燥機が用いられている。この構造の熱風回転乾燥機は、汚泥を細かく破砕しながら乾燥できる利点があるので、粉粒状の乾燥品を得たい場合に適している。
【0006】
ところがこのような汚泥乾燥機を用いても、汚泥乾燥機に投入される下水脱水汚泥の性状が一定ではないため、乾燥品含水率を一定に維持することは容易ではない。なぜならば、汚泥乾燥機は目的の乾燥品含水率が得られるように運転制御を行っているが、乾燥品含水率を正確に測定するには、乾燥品のサンプルを電気炉に入れて水分を完全に蒸発させ、重量減少量を測定するという方法を取るために測定に長時間を必要とする。このため乾燥品含水率を測定して汚泥乾燥機の運転条件をオンライン制御することは困難である。
【0007】
そこで特許文献1に示されるように、乾燥機出口の排ガス温度を測定し、この温度が一定になるように乾燥条件を制御する方法が一般的である。また特許文献2には、乾燥機の後段に設置された造粒機の電流値を計測し、この電流値が一定になるように乾燥条件を制御する方法が開示されている。これらの方法においては測定をリアルタイムで行えるので、汚泥乾燥機の運転条件をオンライン制御することは可能である。
【0008】
しかし特許文献1に示される乾燥機出口の排ガス温度を測定する方法では、乾燥品含水率を一定に制御することは不可能であり、ばらつきが生じることが避けられなかった。これは乾燥機出口の排ガス温度と乾燥品含水率との間の相関性が低いためである。また特許文献2に示される方法は、乾燥機の後段に造粒機がない場合にしか実施することができないため、粉末状の炭化物を製造したいような場合には実施不可能である。
【特許文献1】特開平7−243764号公報
【特許文献2】特開2006−263662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って本発明の目的は上記した従来技術の持つ問題点を解決し、汚泥乾燥機に投入される下水脱水汚泥の性状が変動した場合にも、乾燥品含水率を一定に維持することができる汚泥乾燥機の運転制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するためになされた本発明の汚泥乾燥機の運転制御方法は、脱水汚泥を熱風により乾燥させる汚泥乾燥機の内部に温度計を設置して乾燥品の温度を直接計測し、計測された乾燥品の温度が一定となるように乾燥条件を制御することにより、乾燥品含水率を一定に維持することを特徴とするものである。
【0011】
なお請求項2のように、汚泥乾燥機が、回転ドラムにより脱水汚泥を回転させながら熱風を吹き込んで乾燥させる熱風回転乾燥機であることが好ましい。また請求項3のように、乾燥条件の制御が、汚泥乾燥機の入口熱風温度、出口排ガス温度、熱風供給量、脱水汚泥供給量の何れかとすることができる。また請求項4のように、温度計を汚泥乾燥機の出口部分に設置して乾燥品の温度を直接計測することが好ましい。さらに請求項5のように、汚泥乾燥機を汚泥炭化炉の前段に設置されたものとし、汚泥炭化炉に供給される乾燥品の水分を一定に維持することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、汚泥乾燥機の内部に温度計を設置して乾燥品の温度を直接計測し、計測された乾燥品の温度が一定となるように乾燥条件を制御する。後述するように、乾燥品の温度と乾燥品含水率との間には高い相関性があることが確認されたので、投入される下水脱水汚泥の性状が変動した場合にも、乾燥品含水率を一定に維持することができる。この相関性は請求項2に記載の熱風回転乾燥機において高いことが確認されているので、特に熱風回転乾燥機に適用するに適している。
【0013】
また請求項3のように、乾燥条件の制御対象を、汚泥乾燥機の入口熱風温度、出口排ガス温度、熱風供給量、脱水汚泥供給量の何れか1以上とすれば、リアルタイムでの制御が可能となり、投入される下水脱水汚泥の性状変動に迅速に対応することができる。
【0014】
また請求項4のように温度計を汚泥乾燥機の出口部分に設置して乾燥品の温度を直接計測するようにすれば、温度計測が容易かつ正確となる。さらに請求項5のように本発明により汚泥炭化炉に供給される乾燥品の水分を一定に維持するようにすれば、炭化品の品質安定に大きく寄与することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図1と図2は、本実施形態における汚泥乾燥機である熱風回転乾燥機の概略的な断面図である。1は円筒状の回転ドラムであって、下部に配置された複数の支持ローラ2,2によってほぼ水平に支持され、駆動用モータ3によって一定速度で回転されている。回転ドラム1は金属製の缶体の内面に耐火物を内張りした構造であり、図2に示されるように内部には撹拌用突条4が設けられている。回転ドラム1の入口側端部と出口側端部には、それぞれ円形の固定構造体5,6が配置されている。脱水汚泥はスクリュー式の汚泥供給装置7により入口側の固定構造体5を通じて回転ドラム1の内部に投入される。
【0016】
回転ドラム1の中心部には回転軸8が貫通して設けてあり、この回転軸8には半径方向に延びる多数の腕9が設けられている。さらにそれぞれの腕9には、図示されるように撹拌翼10が取付けられている。回転軸8は回転ドラム1と同方向に回転ドラム1の回転速度よりも高速で回転し、撹拌翼10によって汚泥を撹拌・壊砕する。また汚泥は回転ドラム1の内面の撹拌用突条4によって持ち上げられ、落下する動きを繰り返すことによっても壊砕される。
【0017】
図3に示されるように、回転ドラム1の内部には熱風炉11から熱風が吹き込まれ、脱水汚泥を乾燥させる。回転ドラム1の内部を通過した熱風および汚泥から発生した水蒸気を含む排ガスは、出口側の固定構造体6の上部からブロワ12によって吸引され、再び熱風炉11に循環される。このようにして回転ドラム1の内部では汚泥が壊砕されると同時に乾燥され、乾燥品は出口側の固定構造体6の下部の出口13から取り出される。
【0018】
本発明では、汚泥乾燥機の内部に温度計14を設置して乾燥品の温度を直接計測する。この実施形態では図3に示すように、固定構造体6の下部の出口13の部分に温度計14を挿入し、乾燥品の温度を直接計測している。出口部分における温度測定が好ましいのは、出口温度が乾燥結果をよく表しているためである。また固定構造体6の部分に温度計14を設置できるので、温度計の出力を外部に取り出し易いためである。温度計としては、例えば熱電対式温度計を用いることができる。
【0019】
本発明者が確認した結果、図4のグラフに示すように、乾燥機の出口で測定された乾燥品の温度と乾燥品の含水率との間には、強い相関があることが確認された。このため、計測された乾燥品の温度が常に一定となるように乾燥条件を制御すれば、乾燥品含水率を一定に維持することができる。
【0020】
乾燥条件としては様々なものがあるが、図3に示す汚泥乾燥機の入口熱風温度T1、出口排ガス温度T2、熱風供給量V、脱水汚泥供給量Wの何れか1以上を計測して操作することが好ましい。これらはいずれもリアルタイムで測定可能であり、かつ制御し易いファクターである。例えば乾燥品の温度が低下傾向を示したときには、熱風炉11への燃料供給量を増加させて入口熱風温度T1を高めるか、出口排ガス温度T2を高める。また熱風供給量Vを増加させても、汚泥供給装置7からの汚泥供給量を減少させてもよい。これらの条件操作は単独で行ってもよいが、2以上を組み合わせて操作することもできる。このような演算制御は、制御装置15によってリアルタイムで行われる。
【0021】
この結果、汚泥乾燥機に投入される下水脱水汚泥の性状が変動した場合にも、乾燥品含水率を一定に維持することができる。このため、図5に示すように汚泥乾燥機の後段に汚泥炭化炉20を配置し、乾燥品を炭化させるプロセスに適用した場合にも、炭化品の性状(可燃物含有率)を安定させることができる。また後段に焼却炉等が接続される場合にもその安定運転が可能となる。また乾燥品の温度を直接測定することによって、異常発火の危険性を事前にキャッチして防止することができるうえ、乾燥品含水率の上昇に伴って発生する移送装置内部の閉塞を回避することもできる。
【実施例】
【0022】
以下に本発明の実施例を示す。
使用した汚泥乾燥機は、直径600mm、長さ2000mmの処理能力が125kg/hの熱風回転乾燥機である。この乾燥機には熱風炉から300℃の熱風が供給され、180〜200℃の排ガスが排出されている。熱電対式温度計を汚泥乾燥機の出口部分に挿入し、乾燥品の温度と含水率との関係を観察した結果、温度が75℃の場合には乾燥品含水率は10%、80℃の場合には9%、90℃の場合には6.5%、95℃の場合には5%であった。そこで入口熱風温度T1を操作して乾燥品温度が常に85±1℃に維持されるように制御したところ、乾燥品含水率を7〜8%の範囲に維持することができた。なお、汚泥の種類によっては乾燥品の温度に対応する含水率の絶対値は常に一定ではないが、両者の関係が崩れることはないので、ほとんどの下水脱水汚泥に本発明を適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】熱風回転乾燥機の軸線方向の概略的な断面図である。
【図2】熱風回転乾燥機の軸線に垂直方向の概略的な断面図である。
【図3】制御系統図である。
【図4】乾燥品の温度と乾燥品の含水率との関係の一例を示すグラフである。
【図5】本発明を汚泥炭化プロセスに適用した場合のブロック図である。
【符号の説明】
【0024】
1 回転ドラム
2 支持ローラ
3 駆動用モータ
4 撹拌用突条
5 固定構造体
6 固定構造体
7 汚泥供給装置
8 回転軸
9 腕
10 撹拌翼
11 熱風炉
12 ブロワ
13 温度計
15 制御装置
20 汚泥炭化炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱水汚泥を熱風により乾燥させる汚泥乾燥機の内部に温度計を設置して乾燥品の温度を直接計測し、計測された乾燥品の温度が一定となるように乾燥条件を制御することにより、乾燥品含水率を一定に維持することを特徴とする汚泥乾燥機の運転制御方法。
【請求項2】
汚泥乾燥機が、回転ドラムにより脱水汚泥を回転させながら熱風を吹き込んで乾燥させる熱風回転乾燥機であることを特徴とする請求項1記載の汚泥乾燥機の運転制御方法。
【請求項3】
乾燥条件の制御が、汚泥乾燥機の入口熱風温度、出口排ガス温度、熱風供給量、脱水汚泥供給量の何れかであることを特徴とする請求項2記載の汚泥乾燥機の運転制御方法。
【請求項4】
温度計を汚泥乾燥機の出口部分に設置して乾燥品の温度を直接計測することを特徴とする請求項1記載の汚泥乾燥機の運転制御方法。
【請求項5】
汚泥乾燥機が汚泥炭化炉の前段に設置されたものであり、汚泥炭化炉に供給される乾燥品の水分を一定に維持することを特徴とする請求項1記載の汚泥乾燥機の運転制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−233563(P2009−233563A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−82575(P2008−82575)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】