説明

油で汚染されたビルジおよびスラッジ水を船上で浄化するための方法およびプラント、ならびにこのようなプラントを備えた船

本発明は、船のエンジンからの過剰な熱を用いて、15ppm未満の油汚染レベルまでビルジおよびスラッジ水を船上で、特に海上で浄化するための方法に関する。本発明はまた、上記方法を実行するためのプラント、このようなプラントを含む船舶、ならびに上記方法およびプラントの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、船のエンジンからの過剰な熱を用いて、ビルジおよびスラッジ水を15ppm未満の油汚染レベルまで船上で、特に海上で浄化する方法に関する。また、本発明は、上記方法を実行するためのプラント、このようなプラントを含む船舶、ならびに上記プラントおよび方法の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術
船上では、油で汚染された水が大量に得られる。この水は、たとえば水蒸気の凝縮、雨、または船舶に押し寄せる波により船の内部が湿ることが原因であり得る。このような水は清浄なビルジ水と呼んでもよい。しかしながら、船上の機械類および油を消費する他のユニットではしばしばある程度の漏れが生じる傾向がある。したがって、船上の水はある程度油で汚染されることになる。このような水は通常、ビルジ水と称される。重油浄化器および潤滑油浄化器などから、水で汚染された油も得られる。これらの結果として生じる油で汚染された水および水で汚染された油は、従来はスラッジ水タンクと称される共通の容器に集められていた。スラッジ水タンクでは、重力により、油と水とのいくらかの分離が起こる。油が分離された水は、ビルジ水タンクと称される別の容器に引き込まれる。ビルジ水は、たとえば油の含有量が5%であるなど、依然として油での汚染が深刻である。
【0003】
従来からの油で汚染された水の船上での浄化は、非常に時間のかかるプロセスであり、大型の沈殿タンクを必要とし、複雑なスキームに従って一方のタンクから別のタンクに大量の液体を送り込む必要がある。スラッジ水タンクからビルジ水タンクへの水の排出は通常、船舶機関士職員によって対処される。
【0004】
マルポール(MARPOL)条約などに記された現行の環境法によれば、15ppm以上の油で汚染された水を海に排出してはならない。現在のところ、この要件は、オイルタンカー以外の総トン数が400トン以上の如何なる船にも適用される。
【0005】
先行技術においては、油で汚染された水を浄化するプロセスを単純化し、水から油をおよび油から水を分離しようという数多くの試みがなされてきた。
【0006】
たとえば、DE 3206253 A1は、船のエンジンからの過剰な熱を用いて、減圧下でビルジ水から油を分離することを開示している。
【0007】
スウェーデンのマリンフロックAB社(Marinfloc AB)によって用いられているような凝集などの化学的手段によってビルジ水を浄化しようという試みがなされてきた。しかしながら、凝集による浄化においては、油と水とのエマルジョンを形成する洗浄剤を船上では避けることが必要である。なぜなら、そうしなければ、結果的に浄化すべきビルジ水になる油と水とのエマルジョンが、凝集プロセスを妨げることになるためである。
【0008】
今日船上で用いられているプロセスは、一般に、油で汚染されたビルジ水に化学物質を添加することによって油成分を析出することに基づいている。
【0009】
WO 2005/090151 A1は、ボイラー内で水を蒸発させることによりビルジ水を浄化するための方法、およびそのためのプラントを開示している。ここに開示されている方法では、油と水との分離の主要な部分が行なわれる初期の分離ステップが最初に実行される。初期の浄化ステップにおいて浄化された水は、ボイラーに供給される。加熱コイルによってボイラー内で加熱が達成される。煙道ガスボイラーからの蒸気余剰分などの、ボイラーを加熱するための船の推進力からの熱を用いることが好ましい。上記方法によれば、蒸発は通常大気圧で起こる。しかしながら、沸騰/蒸発はまた、大気圧を下回る圧力または大気圧を上回る圧力で起こってもよい。その結果、一実施形態では、蒸発は大気圧を下回る圧力でボイラー内で起こる。バルト海に排出される水における油汚染の最大許容上限が15ppmであることが記載されている。しかしながら、上記方法により達成可能な浄化の度合については明記されておらず、「ビルジ水の蒸発後に水が凝縮できるようにすることによって、その後船外に吐き出される水が許容限界以内であるようにオイルゲージによって制御することが容易であるという利点がとりわけ達成される」と記載されているに過ぎない。
【0010】
DE 3432210 A1およびDE 3344526 A1は両方とも、油スラッジ中の熱含有量を増やすために油スラッジ中の水分含有量を減らし、それによって、スラッジを焼却するためにさらなる燃料を追加する必要なく焼却炉において油スラッジを燃焼できる方法を開示している。減圧下でスラッジを加熱しながら、油スラッジから水が分離される。
【0011】
WO 2006/122560 A1は、水を含有する油スラッジを浄化するための方法、およびそのためのプラントについて記載している。上記方法の目的は、船のエンジンにおいて効果的に使われない船上の油の量を最小限に抑えることである。上記方法によれば、油スラッジは、その結果、油を船上で焼却できるだけでなく、船のエンジンに注入できるようなレベルまで浄化される。上記プロセスでは、油スラッジは熱交換器内で加熱され、次いで蒸発チャンバに送られる。状況によっては、ノズルによって油スラッジを注入して分散させることが得策であり得る。開示されているプラントは、異なる温度で水を油スラッジから分離できるという趣旨で、大気圧を変更するための手段を含んでいる。好ましくは蒸発チャンバ内に大気圧より低い圧力が広がり、それによって、油をチャンバに注入した時に水が油から蒸留される。上記プロセスは好ましくはバッチ単位で動作する。海に排出される水における油の許容上限が15ppmであることは冒頭に記載されており、清浄なビルジ水は、しばしば、このような理由で海に排出してはならないような程度まで油を含有しているという事実についても記載されている。蒸発容器から引出された水蒸気は、清浄ビルジタンクに搬送される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の目的は、荒海でも行なわれる傾向があり、同時に、海上にある船上でビルジおよびスラッジ水の量を減らすことができる方法を提供することである。好ましくは、上記方法は、経済的で、効率的で、環境面で有利でもあるべきである。
【0013】
大気圧より低い圧力下での蒸発によるビルジ水の浄化の際に加熱のために船のエンジンからの過剰な熱が用いられ、(a)油で汚染された水を加熱するステップと、(b)大気圧より低い圧力で当該水を蒸発させるステップと、(c)当該水を凝縮させるステップと、(d)ある特定の許容最大上限と比較して、ステップ(c)で得られた水における油汚染レベルを測定するステップと、(e)ステップ(b)で得られた油スラッジをプロセスから抜き取るステップと、(f)ステップ(d)において測定された上限を超えない水を海上で任意に排出するステップとを備える、WO 2005/090151 A1に開示されているような方法では、ステップ(d)における上限を超える水はいずれも再循環されてステップ(a)に戻され、ステップ(a)および(b)はプロセスにおける異なる場所で実行され、ステップ(b)において、ステップ(b)に入る油で汚染された水は液滴に細かく分割され、ステップ(b)で得られる粒子および/またはエアロゾルはいずれも、ステップ(b)で得られる水蒸気から分離されるという特徴によって、上記の目的が解決されていた。
【0014】
また、本発明の目的は、上記方法を実行するのに好適なプラントを提供することである。
【0015】
水を蒸発させるための蒸発チャンバと、油で汚染された水を注入するための蒸発チャンバ内の1つ以上のノズルと、蒸発チャンバの外側にある、油で汚染された水を加熱するための熱交換器と、蒸発チャンバの底部から、油で汚染された水を加熱するための上記熱交換器に戻るように液体を再循環させるための循環ポンプと、蒸発チャンバにおいて大気圧より低い圧力を作り出すための真空手段とを備える、WO 2005/090151 A1の発明よりも本発明により密接に関連していると考えられるWO 2006/122560 A1の図1に開示されているようなプラントでは、蒸発チャンバから取出された水蒸気を凝縮させるための凝縮器と、凝縮タンクと、蒸発チャンバ内であって上記1つ以上のノズルの上方に位置するデミスタと、凝縮器から得られた水における油汚染レベルを測定するためのオイルゲージと、油の濃度が最大限度よりも高い水を再循環させて蒸発チャンバに戻すための手段とを設けることによって、上記の目的が解決されていた。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明の概要
本発明者らは、油で汚染された水を船上で浄化するための先行技術の方法がすべて、油と水とを分離するための1つ以上の沈殿ステップを必要とすることを見出した。たとえば、WO 2005/090151 A1は、浄化すべきビルジ水の油含有量が既に比較的低い場合には初期の分離ステップを省略できることを教示しているが、ビルジ水自体が上述の分離ステップの結果である。沈殿ステップは沈殿タンクを用いる。適切な沈殿が起こるようにするためには、沈殿タンクの中身はそのままにしておかなければならない。したがって、沈殿による分離のプロセスは、沈殿タンクの動きに非常に敏感である。船が動いているときおよび/または船が多かれ少なかれ荒海にさらされるときには、沈殿は効率的ではない。
【0017】
本発明の方法は、如何なる初期の沈殿、沈降または分離ステップも全く必要とせず、その結果、船が動いている間に海上で行なうことができる。スラッジ水は、スラッジ水タンクから直接プロセスに送ることができ、すなわち、如何なる先立つ浄化も必要ない。
【0018】
結果として、スラッジ水タンクおよびビルジ水タンクを両方とも備えた既存の船では、ビルジ水タンクは省略でき、または好ましくは、最大油含有量が15ppmである、上記方法により浄化された水を入れるための清浄水タンクとして用いることができる。換言すると、本発明のプラントは、如何なる追加の保管または沈殿タンクも要求することなく、既存のスラッジ水タンクおよびビルジ水タンクを用いる既存の船上に都合よく設置でき、そのような船上で都合よく用いることができる。
【0019】
したがって、現在任意の追加の沈殿または保管タンクを用いている船では、上記プラントを設置することによって、トン数の改善に有利なようにこのようなタンクを取外すことができるようになる。
【0020】
上記プラントは、新しく建造された船にも都合よく設置できる。
本発明のプロセスは、如何なる添加化学薬品も用いないまたは必要としない。
【0021】
上記方法は、容易に自動化でき、連続的に行なうこともできる。
本発明は、ビルジおよび/またはスラッジ水における油汚染を15ppmを下回るレベル、より典型的には5ppmを下回るレベルまで減少させることができる。したがって、海に達するこのような減少した微量の油は、海における自然なプロセスによって容易に分解可能であると考えられる。
【0022】
本発明はまた、油で汚染された水における如何なる金属、特に重金属の含有量も実質的に減少させることができる。これは環境面での大きな利点であると考えられる。この点についての環境法も将来的に採択される可能性が高い。
【0023】
本発明の方法およびプラントはまた、凝集、化学的析出、遠心分離および重力分離などの先行技術の方法と比較して、油で汚染された水を船上で浄化するための運転コストを実質的に低減させる。
【0024】
また、著しく減少した量の汚染水は、海岸へ運んで陸上で処理する必要がある。したがって、特に過剰な熱を用いて海上で既に浄化を行なうことができるということは大きな利点である。
【0025】
第1の局面では、本発明は、必要な加熱を行なうための船のエンジンからの過剰な熱を用いて、スラッジおよび/またはビルジ水を船上で浄化するための方法であって、(a)油で汚染された水を加熱するステップと、(b)大気圧より低い圧力で当該水を蒸発させるステップと、(c)当該水を凝縮させるステップと、(d)ある特定の許容最大上限と比較して、ステップ(c)で得られた水における油汚染レベルを測定するステップと、(e)ステップ(b)で得られた油スラッジをプロセスから抜き取るステップと、(f)ステップ(d)において測定された上限を超えない水を海上で任意に排出するステップとを備え、ステップ(d)における上限を超える水はいずれも再循環されてステップ(a)に戻され、ステップ(a)および(b)は異なる場所で行なわれ、ステップ(b)において、ステップ(b)に入る油で汚染された水は液滴に細かく分割され、ステップ(b)で得られる粒子および/またはエアロゾルはいずれも、ステップ(b)で得られる水蒸気から分離される、方法に関する。
【0026】
別の好ましい実施形態では、蒸発チャンバの底部からの液相の抜き取りは、蒸発チャンバの内側面上への堆積の程度を最小限に抑えるほど迅速である。
【0027】
さらなる好ましい実施形態では、熱交換器を通る液体流の速度は、熱交換器の熱交換面上で乱流を達成するほど十分に高速であり、それによって熱交換面上への堆積の程度を最小限に抑える。
【0028】
さらなる好ましい実施形態では、熱交換器に供給される熱媒体は、船の高温(High Temperature)(HT)システムなどの船のエンジンからの冷却水である。
【0029】
別の局面では、本発明は、本発明の方法を実行するためのプラントであって、水を蒸発させるための蒸発チャンバと、油で汚染された水を注入するための蒸発チャンバ内の1つ以上のノズルと、蒸発チャンバの外側にある、油で汚染された水を加熱するための熱交換器と、蒸発チャンバの底部から、油で汚染された水を加熱するための上記熱交換器に戻るように液体を再循環させるための循環ポンプと、蒸発チャンバにおいて大気圧より低い圧力を作り出すための真空手段とを備え、蒸発チャンバから出た水蒸気を凝縮させるための凝縮器と、凝縮器において得られた凝縮水を保持するための凝縮物タンクと、蒸発チャンバ内であって上記1つ以上のノズルの上方に位置するデミスタと、凝縮器から得られた水における油汚染レベルを測定するためのオイルゲージとをさらに備える、プラントに関する。
【0030】
上記プラントの好ましい実施形態では、蒸発チャンバの底部は実質的に円錐形である。底部の円錐形状は、底部の壁の内側に堆積物が望ましくなく形成されることを最小限に抑える。
【0031】
上記プラントの別の好ましい実施形態では、熱交換器を出て1つ以上のノズルに送られる、加熱された、油で汚染された水の流れを制限するための制限器弁が、熱交換器から蒸発チャンバに繋がる導管に設けられている。弁を調整し、それによって弁を通る流れを調整することによって、熱交換器内での気泡の形成を回避できる。そうしなければ、気泡は、熱交換器の熱交換面上での堆積物の形成に繋がる可能性がある。
【0032】
さらなる利点および好ましい実施形態は、詳細な説明および添付の特許請求の範囲から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、船のHTシステムが凝縮器を加熱するために用いられ、船の低温(Low Temperature)(LT)システムが凝縮器を冷却するために用いられる本発明のプラントの実施形態を示す図である。図面は一定の比例に応じて描かれていない。
【発明を実施するための形態】
【0034】
詳細な説明
図1を参照して、本発明のプラントの主要な異なる部分は、その最も一般的な実施形態では、水を蒸発させるための蒸発チャンバ10;油で汚染された水を加熱するための熱交換器30および蒸発チャンバを出た水蒸気を凝縮させるための熱交換器60(熱交換器60は、以下では凝縮器とも称される);凝縮器において得られた凝縮水を保持するための凝縮物タンク70;油で汚染された水を加熱熱交換器30を通して循環させるための循環ポンプ40;蒸発チャンバ10において大気圧より低い圧力を作り出すための真空手段50;凝縮器60から得られた凝縮水における油の濃度を監視するためのオイルゲージ90;ならびに、油のレベルが高過ぎる水を三方弁95などを通してビルジおよび/またはスラッジタンク150を介して再循環させて加熱熱交換器および蒸発チャンバに戻し、さらに浄化するための手段である。
【0035】
蒸発チャンバ10における蒸発は、蒸発チャンバに注入される水の表面積対体積比率を増大させることによって蒸発プロセスを向上させるために、フラッシュシステム(flash system)を用いて、すなわち蒸発チャンバ内の1つ以上のノズル20を用いて大気圧より低い圧力で行なわれる。
【0036】
蒸発チャンバを出た水蒸気から粒子および/またはエアロゾルを目標以上に分離するために、蒸発チャンバ10内であって上記1つ以上のノズル20の上方にデミスタ80が位置している。粒子は、浄化すべき水の中の固体汚染物質または液体汚染物質から生じ得る。エアロゾルは、ノズルを通した注入および/または蒸発中に、たとえばチャンバに注入される水に存在するより軽質な炭化水素部分からチャンバ内で形成され得る。
【0037】
凝縮器60は、水蒸気を冷却して凝縮させるための熱交換器からなっている。凝縮物タンク70は、凝縮器と組合せることができるであろう。したがって、一実施形態では、凝縮器は、ある量の凝縮物をその底部に保持することができるようにされていてもよい。好ましくは、図1に示されるように、凝縮器60および凝縮物タンク70は別個のものである。好ましい実施形態では、別個の凝縮物タンク70は、凝縮水に含まれる如何なる軽油部分も重力分離できるように設計される。これは、含まれている水層の上に油層が形成されるように高さ対幅比率が十分に高い凝縮物タンク70によって達成可能である。このような十分に高い高さ対幅比率によって、軽油分離プロセスは動きおよび荒海に対して特に敏感ではなくなる。次いで、上部の油層が水層から引出されてプロセスから分離されてもよい。図1を参照して、これは、凝縮物タンク70から、下方の破線で記された導管を介して、弁124を介して、凝縮低密度油を分離するためのさらなる分離手段120へと油層を引出すことによって達成されてもよい。図1に示されるように、分離手段120は、たとえばそれぞれ4つの弁122,124,126および128と、低密度油タンク121とを備えていてもよい。タンク121は、弁122を介して凝縮物タンク70における大気圧より低い圧力に接続され、弁126を介して(「大気」で示される)大気に接続されている。次いで、凝縮低密度油は、弁128を介して排出できるであろう。
【0038】
好ましい実施形態では、浄化をさらに向上させるために、図1に示されるように活性炭フィルタ110がプラントに含まれている。凝縮物タンク70を出た水は、次いで、オイルゲージまたはppm制御装置90に入る前に、フィルタ110を通過する。
【0039】
蒸発は、大気圧より低い圧力下で、典型的には50〜700mbarの絶対圧力で、好ましくは約100〜300mbarの絶対圧力に対応する大気圧よりも約0.7〜0.9par低い絶対圧力で行なわれる。蒸発プロセスは典型的には、25〜90℃、好ましくは40〜70℃、より好ましくは50〜65℃の温度で行なわれてもよい。好ましくは、蒸発チャンバ内の温度は、蒸発チャンバに注入されるべき液体の蒸気圧曲線に追従する。一例として、60℃の沸点は、約200mbarの絶対圧力(または−0.8barゲージ圧力)に対応する。
【0040】
加熱熱交換器30に入る熱媒体は不可欠なものではなく、たとえば油、蒸気または水などの、船のエンジンから蒸発プロセスに過剰な熱を伝える傾向がある任意の媒体であり得る。好ましくは、熱交換器30が接続されてもよい船上の既存の冷却システムが用いられる。船のエンジンからの冷却水を用いることが現状では好ましい。熱交換器30に入る水の温度はたとえば約70〜105℃であってもよいが、熱交換器30を出る水の温度は50〜90℃であってもよい。好ましくは、熱交換器30は、船の高温(HT)システムに接続されている。
【0041】
また、水蒸気を凝縮させるための熱交換器60において用いられる冷却媒体は、不可欠なものではない。その結果、たとえば海水などの任意の好適な冷却剤を用いることができるであろう。好ましくは、熱交換器60が接続されてもよい船上の既存の冷却または低温システムが用いられる。水を用いることが現状では好ましい。熱交換器60に入る水の温度はたとえば約50℃未満であってもよいが、熱交換器60を出る水の温度は約45℃を上回る温度であってもよい。好ましい実施形態では、熱交換器60は、船の低温(LT)システムに接続されている。
【0042】
本発明者らは、ノズル20を通した油を含有する水の注入中に蒸発チャンバ10においてエアロゾルが形成される傾向があることを見出した。このようなエアロゾルを防ぐために、蒸発チャンバ内にデミスタを設ける必要がある。
【0043】
発明者らは、蒸発チャンバにおける好適な気体流速度が約3m/sまでであることを見出した。約4m/sを上回る速度では、デミスタ80を介した凝縮物までの粒子の同伴が必要以上に増大する傾向があり、それによって凝縮物中の不純物の含有量も増える傾向がある。デミスタを通る好適な気体流速度は、約4m/sまでであることがわかった。上記と同じ理由で、デミスタを通る気体流速度は好ましくは、約6m/sを超えないべきである。しかしながら、デミスタを通る10m/sまでの速度を許容できるであろう。これは、プラントが依然として十分に浄化された水を生成できるであろうという理由からであるが、これはあまり好ましくない。
【0044】
プロセスの好ましい実施形態では、動作中、蒸発チャンバ10を通る流れ、すなわち、注入された流れおよびチャンバの底部から抜き取られる流れは、油と水とのある程度の分離がチャンバの底部で液相状態で起こることができるように調節され、その結果、より高い濃度の油が液相の表層に含まれることになる。それによって、チャンバ10の底部から熱交換器30に再循環される流体はより高い水分含有量を示し、その結果、浄化プロセスがより効率的になる。
【0045】
本発明のプロセスは、要求に応じて動作させてもよい。すなわち、スラッジ水タンク150における水位コントローラ(図示せず)によって支配されるような、浄化すべき油で汚染された水が十分な量存在するたびに、上記プロセスを動作させてもよい。
【0046】
上記プロセスから得られた油スラッジは、たとえば20〜30%の水を含有していてもよく、たとえばWO 2006/122560 A1などに記載されているように船上で焼却されるかまたはさらに浄化されて、燃料として船のエンジンに注入されることができる。
【0047】
ここで、本発明のプロセスおよびプラントの動作についてさらに詳細に説明する。
一例として、上記プロセスは、以下のとおり開始し、動作することができるであろう。真空ポンプ50は、たとえば約100mbar(大気圧よりも0.9bar低い圧力)まで蒸発チャンバを排気する。500mbarなどシステム内のある特定の圧力に達すると、弁15が開き、蒸発チャンバ10において液体のある特定の所定の動作レベルに達するまで、油で汚染された水がビルジまたはスラッジタンク150からシステムに導かれる。この段階で、循環ポンプ40が開始される。このとき、動作は進行中である。真空ポンプ50は、蒸発チャンバ内の液体の温度に応じて、たとえば100〜250mbarの圧力までシステムを排気し続ける。熱媒体を循環させている加熱熱交換器30を通るときに、熱エネルギが油で汚染された水に伝えられる。油で汚染された水は、ノズル20を備えるフラッシュシステムを通過して、蒸発チャンバ10に入り、そこで、注入された液体は大気圧より低い圧力にさらされる。フラッシュシステムの後、圧力が降下すると、水の蒸発が起こる。水蒸気は、デミスタ80を通過して、凝縮器60に入る。凝縮水は、任意に活性炭フィルタ110を通して、凝縮器の底部からポンプ100によって汲み出される。ppm制御ユニット90は、水の純度を規定する。浄化水中の油の含有量が15ppmを下回っていれば、三方弁95が清浄水タンク(図示せず)に対して開く。浄化水中の油の含有量が15ppmを上回っていれば、その代わりに三方弁がビルジまたはスラッジ水タンク150に対して開く。水の蒸発が進むにつれて、蒸発チャンバ10の底部から循環ポンプ40を介して熱交換器30に出る液体中の油および他の非蒸発性の成分の濃度が上昇する。濃度が上昇すると、沸点が変化する。これは、液体中の油の濃度の程度についての情報を与えることになる。たとえば関連する圧力で水の沸点を2〜5℃上回る温度上昇の設定点に達すると、蒸発サイクルが中断され、結果として生じる濃縮物(スラッジ)が弁45を介してシステムから出て行く。一旦濃縮物が排出されると、新しいサイクルが開始してもよい。したがって、バッチ式の動作では、結果として生じるスラッジで所望のレベルの濃度に達するまで各バッチが行なわれてもよく、その後スラッジはプラントから排出され、新しいバッチが開始されてもよい。
【0048】
連続的な動作では、蒸発チャンバ10の底部における液相状態の油の濃度は、ある特定の予め設定された最大レベル付近に保たれる。濃縮物は、システムから弁45およびポンプ40を介して排出され、システムは、スラッジおよび/またはビルジタンク150から弁15を介して、油で汚染された水で再度満たされる。結果として、このモードでは、結果として生じる濃縮物(スラッジ)がシステムから出て行く必要はない。ここでも、蒸発システム中の液体の沸点の上昇を測定することによって濃度の程度が制御されてもよい。より高い値は、濃度がより高く濃縮物の量がより少ないことに対応する。
【0049】
蒸発チャンバの真空は、油で汚染された水をシステムに引き込むために用いられてもよい。好ましくは、蒸発チャンバは、蒸発チャンバ内の液体の適切な流れおよび水位を制御し維持するための水位センサ(図示せず)を備えている。それによって、プラントを連続的に監視することのない動作が可能である。
【0050】
好ましい実施形態では、蒸発チャンバ10は、上記チャンバにおける液相のはね散らし(splashing)またははね(swashing)を解消するための手段(図示せず)を備えている。このような手段は、たとえばチャンバの内周に沿って走るフランジを備えることができる。
【0051】
好ましくは、蒸発チャンバ10は、消泡剤を添加できるようにするための弁140を備えている。消泡剤は、蒸発チャンバ10において過剰な発泡が起こった場合に都合よく用いられてもよい。
【0052】
好ましくは、蒸発チャンバ10は、チャンバに大気への通気孔をつけるための弁130を備えている。
【0053】
蒸発システム温度は、たとえば熱交換器30に入る熱媒体の流れを制御することによって制御されてもよい。一実施形態では、バイパス弁および導管が設けられていてもよく(図示せず)、ポンプ40から出た液体流を直接蒸発チャンバ10に向け、それによって熱交換器30を迂回することができる。それによって、蒸発システムの冷却が行なわれる。
【0054】
真空手段は、不可欠なものではなく、減圧を提供するための任意の従来からの手段であり得る。たとえば、エジェクタポンプまたは液封ポンプなどの従来の真空ポンプを用いることができるであろう。また、真空は、船のエンジンからの過剰な熱を用いて与えられることができるであろう。
【0055】
プラントの容量は好ましくは、毎時約100リットルの凝縮物〜毎時約2000リットルの凝縮物である。一例として、100〜120 l/hの容量に合せて設計されたプラントは、約500mmの直径の蒸発チャンバ10を好適に用いてもよい。
【0056】
実施例
活性炭フィルタを含む図1に示される本発明のプラントを、以下に記載されているようにテストした。このプラントの蒸発チャンバ10の直径は500mmであった。約52℃の温度および100 l/hの容量で蒸発を行なった。テストした本発明のプラントの特定の実施形態では、約50〜65℃の蒸発温度および120 l/hまでの凝縮物割合で最良の浄化結果が得られる。
【0057】
テスト手順は、デット・ノルスケ・ベリタス社(Det Norske Veritas)(DNV)によって検証され、承認された。
【0058】
したがって、油で汚染された水(80リットルの水中に15リットルの重油)とともにプラントを動作させた。結果として生じた浄化水は、活性炭フィルタを用いなければ、5ppmを下回る油の濃度を示した。その後、残りの水に約15リットルのガスオイルを添加した。結果として生じた浄化水は、同様のレベルの油濃度を示すことがわかった。次いで、システムに80リットルのビルジ/スラッジ水を添加した。プラントを4時間に亘って動作させ、活性炭フィルタの上流および下流で連続的にサンプルを採取した。炭素フィルタの上流から1つのランダムなサンプルを選択し、炭素フィルタの下流から1つのランダムなサンプルを選択した。次いで、これらのサンプルをALSスカンジナビアAB社(ALS Scandinavia AB)に送って分析した。この分析により、これらのサンプルについてそれぞれ3.5ppmの油および0.9ppmの油が証明された。これは明らかに15ppmを十分に下回っており、5ppmの油さえ下回っている。
【0059】
Test Fluid C(TF−C)でプラントを動かしたときに結果として生じる浄化水に含まれるさまざまな金属の含有量を以下の表に列挙する。2003年7月18日に採択された決議MEPC.107(49)、MEPC49/22/Add.2という文書に、海洋環境保護委員会、国際海事機関(IMO)の条約の(MEPC)議定書第38条(a)によって規定されているように、テストが行なわれた。
【0060】
【表1】

【0061】
明らかにわかるように、浄化水中の重金属の含有量は極めて少ない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
必要な加熱を行なうための船のエンジンからの過剰な熱を用いて、スラッジおよび/またはビルジ水を船上で浄化するための方法であって、
(a) 油で汚染された水を加熱するステップと、
(b) 大気圧より低い圧力で当該水を蒸発させるステップと、
(c) 当該水を凝縮させるステップと、
(d) ある特定の許容最大上限と比較して、ステップ(c)で得られた水における油汚染レベルを測定するステップと、
(e) ステップ(b)で得られた油スラッジをプロセスから抜き取るステップと、
(f) ステップ(d)において測定された上限を超えない水を海上で任意に排出するステップとを備え、
ステップ(d)における上限を超える水はいずれも再循環されてステップ(a)に戻され、ステップ(a)および(b)は異なる場所で行なわれ、ステップ(b)において、ステップ(b)に入る油で汚染された水は液滴に細かく分割され、ステップ(b)で得られる粒子および/またはエアロゾルは、ステップ(b)で得られる水蒸気から分離されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
熱交換器を通る液体流の速度は、熱交換器の熱交換面上で乱流を達成するほど十分に高速であり、それによって、熱交換面上への堆積物の形成の程度を最小限に抑える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
蒸発チャンバの底部からの液相の抜き取りは、蒸発チャンバの内側面上への堆積物の形成の程度を最小限に抑えるほど十分に迅速である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
船のエンジンからの冷却水が熱媒体として熱交換器に供給される、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
プロセスに送られる油で汚染された水は、如何なる先立つ浄化ステップもなしに、スラッジおよび/またはビルジ水タンクから直接採取される、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ステップ(c)の後、ステップ(d)において測定が行なわれる前に、当該水は活性炭フィルタを通過する、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
凝縮低密度油がステップ(c)においてプロセスから分離される、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法を実行するためのプラントであって、水を蒸発させるための蒸発チャンバ(10)と、油で汚染された水を注入するための蒸発チャンバ内の1つ以上のノズル(20)と、蒸発チャンバの外側にある、油で汚染された水を加熱するための熱交換器(30)と、蒸発チャンバの底部から、油で汚染された水を加熱するための前記熱交換器に戻るように液体を循環させるための循環ポンプ(40)と、蒸発チャンバにおいて大気圧より低い圧力を作り出すための真空手段(50)とを備え、蒸発チャンバから取出された水蒸気を凝縮させるための凝縮器(60)と、凝縮器において得られた凝縮水を保持するための凝縮物タンク(70)と、蒸発チャンバ内であって前記1つ以上のノズルの上方に位置するデミスタ(80)と、凝縮器から得られた水における油汚染レベルを測定するためのオイルゲージ(90)と、油の濃度が高過ぎる凝縮水を再循環させて、油で汚染された水を加熱するための熱交換器に戻すための手段とをさらに備えることを特徴とする、プラント。
【請求項9】
蒸発チャンバ(10)の底部は実質的に円錐形である、請求項8に記載のプラント。
【請求項10】
活性炭フィルタ(110)をさらに備える、請求項8または9に記載のプラント。
【請求項11】
凝縮低密度油を分離するための分離手段(120)をさらに備える、請求項8から10のいずれかに記載のプラント。
【請求項12】
蒸発チャンバ(10)は、前記チャンバにおける液相のはね散らしまたははねを解消するための手段を備えている、請求項8から11のいずれかに記載のプラント。
【請求項13】
熱交換器を出て1つ以上のノズルに送られる、加熱された、油で汚染された水の流れを制限するための制限器弁(130)が、熱交換器から蒸発チャンバに繋がる導管に設けられている、請求項8から12のいずれかに記載のプラント。
【請求項14】
請求項8から13のいずれかに記載のプラントを備えた船舶。
【請求項15】
船舶内の既存のビルジ水タンクは、油汚染レベルが15ppm以下の水を保持するために用いられる、請求項14に記載の船舶。
【請求項16】
荒海の海上にある船上で、油で汚染された水を浄化するための、請求項1から7のいずれかに記載の方法または請求項8から13のいずれかに記載のプラントの使用。
【請求項17】
油で汚染された水を15ppmを下回る油含有量まで船上で浄化するため、および/または、油で汚染された水における重金属の含有量を船上で減少させるための、請求項1から7のいずれかに記載の方法または請求項8から13のいずれかに記載のプラントの使用。

【図1】
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【公表番号】特表2013−500203(P2013−500203A)
【公表日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522778(P2012−522778)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【国際出願番号】PCT/SE2009/050913
【国際公開番号】WO2011/014107
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(512021586)ピー・ピー・エム・クリーン・アクチボラゲット (1)
【氏名又は名称原語表記】PPMCLEAN AB
【Fターム(参考)】