説明

油中水型乳化化粧料

【課題】塗布時の感触が軽く、保存安定性に優れた油中水型乳化化粧料を提供する。
【解決手段】(A)レシチンを0.02〜0.2質量%、(B)HLB値6以下であり、25℃で液状の多価アルコール脂肪酸エステル型界面活性剤を0.3〜3.0質量%、(C)ベヘン酸とグリセリンからなるエステル構造を持ち、融点が50〜70℃である固形油分を0.4〜2.5質量%含有する油中水型乳化化粧料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中水型乳化化粧料に関し、詳しくは、塗布時の感触が軽く、保存安定性に優れた油中水型乳化化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
油中水型乳化化粧料の大きな特長として化粧持ちの良さがあり、近年ファンデーションやサンスクリーンで多用されている。しかし、油中水型は水中油型に比べ保存安定性の点で劣るのが一般的である。これは、前者においては電気二重層による安定化効果がほとんど働かないことなどによると考えられている。そこで種々の界面活性剤による保存安定性の改良が試みられており、その一つがレシチンを用いるものである(特許文献1〜2参照)。しかし、塗布時の軽い感触と優れた保存安定性を併せ持たせるためには、十分満足の得られる結果とはなっていない。
【特許文献1】特開2001−181180号公報
【特許文献2】特開2006−241038号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明の目的とするところは、塗布時の感触が軽く、保存安定性に優れた油中水型乳化化粧料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的は、(A)レシチンを0.02〜0.2質量%、(B)HLB値6以下であり、25℃で液状の多価アルコール脂肪酸エステル型界面活性剤を0.3〜3.0質量%、(C)ベヘン酸とグリセリンからなるエステル構造を持ち、融点が50〜70℃である固形油分を0.4〜2.5質量%含有する油中水型乳化化粧料により達成される。
【発明の効果】
【0005】
本発明の油中水型乳化化粧料は、塗布時の感触が軽く、保存安定性に特に優れているが、化粧持ち、仕上がりの均一さ、保湿性、安全性(低刺激性)といった利点も持っている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明に用いられる(A)レシチンは、大豆や卵黄などから得られるものであり、ホスファチジルコリンを含む数種のリン脂質の混合物である。水素添加により、酸化安定性を高めたものも利用できる。その配合量は油中水型乳化化粧料の総量を基準として0.02〜0.2質量%であり、特に好ましいのは0.05〜0.15質量%である。0.02質量%未満では保存安定性の点で満足の得られる結果とはならない。0.2質量%を超える場合、油相成分中での相溶性によっては結晶として析出してしまう場合がある。
【0007】
本発明に用いられる(B)HLB値6以下であり、25℃で液状の多価アルコール脂肪酸エステル型界面活性剤は、ソルビタン脂肪酸エステルやグリセリン脂肪酸エステルなどである。特に好ましいものは、モノイソステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、モノイソステアリン酸ジグリセリル、モノオレイン酸ジグリセリルである。その配合量は油中水型乳化化粧料の総量を基準として0.3〜3.0質量%であり、特に好ましいのは0.5〜2.5質量%である。0.3質量%未満では保存安定性の点で満足の得られる結果とはならない。3.0質量%を超えると、液状の界面活性剤自体のべたつきを強く感じるようになり、塗布時の感触が重くなる。尚、本発明におけるHLB値は、下記の
川上式(I)により算出されるものを意味する。
HLB=7+11.7log(Mw/Mo) ・・・(I)
ここで、式(I)においてMwは親水性基部の分子量、Moは親油性基部の分子量をそれぞれ表す。
【0008】
本発明に用いられる(C)ベヘン酸とグリセリンからなるエステル構造を持ち、融点が50〜70℃である固形油分としては、トリベヘン酸グリセリル、トリ(ベヘン酸/イソステアリン酸/エイコサン二酸)グリセリル、(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリルなどであり、特に好ましいのはトリベヘン酸グリセリルである。その配合量は油中水型乳化化粧料の総量を基準として0.4〜2.5質量%であり、特に好ましいのは0.6〜2.0質量%である。0.4質量%未満では、油相の粘度を上げて保存安定性を向上させるには量が足りない。2.5質量%を超えると油相を固くし過ぎてしまい、塗布時の軽い感触が得られない。
【0009】
本発明の油中水型乳化化粧料には、上記の必須成分に加えて、必要に応じて油性成分、保湿剤、乳化剤、香料、紫外線吸収剤、防腐剤、植物エキス、顔料等を配合することができる。
【0010】
本発明の油中水型乳化化粧料は、常法に従って調製することができ、たとえばファンデーション、化粧下地、サンスクリーン等のメイクアップ化粧料や、クリーム、乳液等のスキンケア化粧料に適用することが可能である。
【実施例】
【0011】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0012】
実施例1(スキンケアクリーム)
(質量%)
1.卵黄由来レシチン 0.05
2.モノオレイン酸ソルビタン 2.0
3.トリベヘン酸グリセリル 1.5
4.環状5量体シリコーン *1 20.0
5.C50を主成分とするα−オレフィンオリゴマー 5.0
6.ジカプリル酸プロピレングリコール 3.0
7.ジプロピレングリコール 5.0
8.マルチトール 3.0
9.クロルフェネシン 0.2
10.精製水 to 100.0
11.フェノキシエタノール 0.2
12.レンゲソウエキス 0.5
13.オタネニンジンエキス 0.5
14.ローヤルゼリーエキス 0.5
*1;TSF405(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)
【0013】
製造方法
成分1〜6を加温溶解し、それに成分7〜10を加温溶解したものを加え分散した。さらに成分11〜14を加え分散後、室温まで冷却した。
【0014】
比較例1
実施例1の卵黄由来レシチンを0.01質量%、環状5量体シリコーンを20.04質
量%とした他は実施例1と同様にしてスキンケアクリームを調整した。
【0015】
実施例2(サンスクリーン)
(質量%)
1.卵黄由来水素添加レシチン 0.08
2.モノオレイン酸ジグリセリル 2.5
3.トリベヘン酸グリセリル 2.0
4.分岐状4量体シリコーン *2 15.0
5.環状5量体シリコーン *1 5.0
6.パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル 7.0
7.植物性スクワラン 3.0
8.シリコーン処理微粒子酸化亜鉛 2.0
9.グリセリン 3.0
10.クロルフェネシン 0.2
11.デヒドロ酢酸ナトリウム 0.1
12.精製水 to 100.0
13.魚由来コラーゲン 0.1
14.セージエキス 0.5
15.加水分解シルク 0.1
*2;TMF−1.5(信越化学工業社製)
【0016】
製造方法
成分1〜7を加温溶解後、成分8を加え分散した。これに成分9〜12を加温溶解したものを加え分散、さらに成分13〜15を加え分散後、室温まで冷却した。
【0017】
比較例2
実施例2のモノオレイン酸ジグリセリルに代えて、HLB値4で25℃において固形状のモノステアリン酸グリセリル(NIKKOL MGS−AMV 日光ケミカルズ社製)を用いた他は実施例2と同様にしてサンスクリーンを調整した。
【0018】
実施例3(メイクアップベース)
(質量%)
1.大豆由来レシチン 0.1
2.モノイソステアリン酸ジグリセリル 0.5
3.トリベヘン酸グリセリル 1.0
4.環状5量体シリコーン *1 15.0
5.アルキル変性直鎖状3量体シリコーン *3 10.0
6.C30を主成分とするα−オレフィンオリゴマー 5.0
7.ジエチルヘキサン酸ネオペンチルグリコール 2.0
8.ポリエーテル変性シリコーン *4 0.03
9.1,3−ブチレングリコール 5.0
10.ソルビトール 3.0
11.精製水 to 100.0
12.酸化チタン 0.5
13.ベンガラ、酸化チタン、酸化アルミニウム被覆マイカ 0.1
14.タルク 1.0
15.フェノキシエタノール 0.5
16.ジュズダマエキス 0.3
17.チャエキス 0.3
18.紅茶エキス 0.3
*3;SS−3408(東レ・ダウコーニング社製)
*4;KF−6028(信越化学工業社製)
【0019】
製造方法
成分12〜14を混合粉砕し、成分1〜8を加温溶解したものに加え分散させた。これに成分9〜11を加温溶解して加え分散、さらに成分15〜18を加え分散後、室温まで冷却した。
【0020】
比較例3
実施例3のトリベヘン酸グリセリルに代えて、セタノールを用いた他は実施例3と同様にしてメイクアップベースを調整した。
【0021】
実施例4(ファンデーション)
(質量%)
1.大豆由来水素添加レシチン 0.15
2.モノイソステアリン酸ソルビタン 1.0
3.トリベヘン酸グリセリル 0.6
4.ポリエーテル変性シリコーン混合物 *5 0.3
5.環状5量体シリコーン *1 10.0
6.イソノナン酸イソノニル 5.0
7.リンゴ酸ジイソステアリル 1.0
8.マルチトール 5.0
9.ジプロピレングリコール 2.0
10.デヒドロ酢酸ナトリウム 0.1
11.精製水 to 100.0
12.酸化チタン 8.0
13.酸化鉄 1.0
14.タルク 3.0
15.ナイロン−12粉末 1.5
16.フェノキシエタノール 0.2
17.加水分解コンキオリン 0.1
18.オリーブ葉エキス 0.1
19.ラミナリアオクロロイカエキス 0.1
*5;BY22−008M(ポリエーテル変性シリコーンを10%、環状5量体シリコーンを88%、水を2%含有、東レ・ダウコーニング社製)
【0022】
製造方法
成分12〜15を混合粉砕し、成分1〜7を加温溶解したものに加え分散させた。これに成分8〜11を加温溶解して加え分散、さらに成分16〜19を加え分散後、室温まで冷却した。
【0023】
比較例4
実施例4のトリベヘン酸グリセリルを0.3質量%、環状5量体シリコーンを10.3質量%とした他は、実施例4と同様にしてファンデーションを調整した。
【0024】
本発明で行った(1)使用特性評価試験、(2)保存安定性試験の各試験方法は下記の通りである。
(1)使用特性評価試験
女性パネラーメンバー20名に、実施例、比較例の各試料を塗布してもらい、「塗布時の感触が軽い」と回答した人数に従って使用特性を評価した。
(2)保存安定性試験
化粧料を0℃、25℃、45℃の恒温槽内で3ヶ月間保存し、水相成分と油相成分の分離が起こるかどうかを調べた。
どの温度で保存しても分離しない :◎
25℃以下の保存では分離せず、45℃保存では分離する:○
25℃以下での保存でも分離する :×
実施例1〜4、比較例1〜4の各試料に上記試験を行った結果を以下に示す。
【0025】
実施例 比較例
1 2 3 4 1 2 3 4
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
使用特性評価試験 19 16 18 17 19 12 3 17
保存安定性試験 ◎ ◎ ◎ ◎ × × ○ ×

本発明の実施例1〜4の試料は使用特性、保存安定性の総合評価において比較例1〜4の試料より優れていた。
【0026】
実施例5(ファンデーション)
以下の処方のファンデーションを常法に従い調製し、上記使用特性評価試験、保存安定性試験を行ったところ、いずれにおいても優れた結果が得られた。
(質量%)
1.大豆由来水素添加レシチン 0.1
2.モノイソステアリン酸ソルビタン 0.5
3.トリベヘン酸グリセリル 1.0
4.ポリエーテル変性シリコーン混合物 *5 10.0
5.環状5量体シリコーン *1 10.0
6.植物性スクワラン 5.0
7.パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル 3.0
8.マルチトール 5.0
9.ジプロピレングリコール 2.0
10.デヒドロ酢酸ナトリウム 0.1
11.塩化ナトリウム 0.5
12.精製水 to 100.0
13.酸化チタン 8.0
14.酸化鉄 1.0
15.タルク 3.0
16.ポリアクリル酸アルキル *6 1.5
17.フェノキシエタノール 0.2
18.ローズ水 0.1
19.ユビキノン 0.03
*5;BY22−008M(ポリエーテル変性シリコーンを10%、環状5量体シリコーンを88%、水を2%含有、東レ・ダウコーニング社製)
*6;マイクロスフェアーS−102(松本油脂製薬社製)
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の油中水型乳化化粧料は、塗布時の感触が軽い、保存安定性に特に優れているが、化粧持ち、仕上がりの均一さ、保湿性、安全性(低刺激性)といった長所も備えている。そのため整肌および美容の為に用いる医薬品、医薬部外品または化粧品分野での応用が可能であり、産業上極めて有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)レシチンを0.02〜0.2質量%、(B)HLB値6以下であり、25℃で液状の多価アルコール脂肪酸エステル型界面活性剤を0.3〜3.0質量%、(C)ベヘン酸とグリセリンからなるエステル構造を持ち、融点が50〜70℃である固形油分を0.4〜2.5質量%含有する油中水型乳化化粧料。

【公開番号】特開2010−1259(P2010−1259A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−162451(P2008−162451)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】