説明

油中水型乳化組成物

【課題】多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルを用いた油中水型乳化組成物を増粘させる。
【解決手段】成分(A)として多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステル、成分(B)としてトコフェリルリン酸ナトリウムを含有する油中水型乳化組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油中水型乳化組成物の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルは、低粘度の化粧料を調製でき、それ自身は軽い感触でべたついたりしないので、とかく油っぽく重たい使用感になりがちな油中水型乳化組成物の乳化剤として広く使用されている。
しかしながら、特徴である「低粘度」は、ともすると高温安定性を損なう場合や、剤型のバリエーション化が出来ずに単調な製品になる場合があった。
一般的に、組成物の粘度を高めるために親水性や親油性の増粘剤を配合することが知られており、多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルを用いた油中水型乳化組成物にも配合されている。
例えば、ジポリヒドロキシステアリン酸ポリオキシエチレンと、1,1−メチレン−ビス(4−イソシアネートシクロヘキサン)ポリプロピレングリコール共重合体とを組み合わせる技術が開示されている(特許文献1:特開2002−308962号公報)。しかしながら、1,1−メチレン−ビス(4−イソシアネートシクロヘキサン)ポリプロピレングリコール共重合体は塗布した皮膚に被膜を形成するので、組成物の粘度は高くなるものの使用感が悪くなる場合があった。
また、油中水型乳化組成物に電解質を配合すると、安定性が良好になることが知られている(特許文献:特開2003−286125号公報)。しかしながら、電解質では粘度を高める効果は低く、電解質の配合は補助的な手段であった。
一般に液体の粘度は,温度によって大きく変化するものであるが、温度変化に対する粘度変化が小さいことは、使用時の環境(外気温が低い、或いは高い)に影響されずに、常に一定の使い心地を提供できるので好ましいことである。
多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルを使用した油中水型乳化組成物の粘度を高め、しかも温度変化に対する粘度変化が小さい組成物を作製する技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−308962号公報
【特許文献2】特開2003−286125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルを用いた油中水型乳化組成物を増粘させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の主な構成は、次のとおりである。
(1)成分(A)として多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステル、成分(B)としてトコフェリルリン酸ナトリウムを含有することを特徴とする油中水型乳化組成物。
(2)成分(A)の多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルが、ジポリヒドロキシステアリン酸PEG−30であることを特徴とする(1)に記載の油中水型乳化組成物。
(3)さらに成分(C)として、キレート剤を含有することを特徴とする(1)又は(2)に記載の油中水型乳化組成物。
(4)測定温度25℃において、B型粘度計、4号ローター、12rpm、30秒間撹拌による粘度が、5000〜22000mPa・sの範囲にあることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の油中水型乳化組成物。
(5)成分(A)多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルの配合量は0.1〜5質量%、成分(B)トコフェリルリン酸ナトリウムの配合量は0.1〜10質量%であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の油中水型乳化組成物。
【発明の効果】
【0006】
多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルで乳化した油中水型乳化組成物に、トコフェリルリン酸ナトリウムを含有させることで、その組成物の粘度を特異的に著しく高めることができる。したがって、多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルで乳化した油中水型乳化組成物の、処方のバリエーション化が容易となる。
すなわち、さっぱりとしたべたつかない使用感を維持しながら、粘性を高め、製剤を塗布する際の、高級なクリーム状の使用感を実現することができる。
本発明の油中水型乳化組成物は、保存安定性に優れる。
本発明の構成をとる油中水型乳化組成物の、各保存温度(5℃〜50℃)における粘度の差は、製品化した時の品質上、問題のないレベルである。
さらに任意にキレート剤を含有させることにより、保存温度による粘度の差を著しく小さくすることが可能である。
したがって、使用時の環境(外気温が低い、或いは高い)に影響されずに、常に一定の使用感(粘度)の皮膚外用剤を提供できる。本発明の油中水型乳化組成物はごわつきなどのない優れた使用感である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の(A)成分である多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルは、多価アルコールをアルカリ存在下、ポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)に、塩化チオニル等のハロゲン化剤を反応させて調製した、酸クロライドを反応させることにより得ることができる。
多価アルコ−ルとしては、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、(ポリ)グリセリン、(ポリ)プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどが好ましく例示でき、ポリエチレングリコールが特に好ましい。この場合のポリエチレングリコールのサイズは、平均分子量で400〜6000が好ましい。一方、疎水基となるポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)は、そのサイズが平均分子量1000〜3000であることが好ましい。
ポリエチレングリコールのジ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルを用いることが好ましく、INCI名がジポリヒドロキシステアリン酸PEG−30と収載されているものが好ましく、市販品としては、ユニケマ社製のアラセルP−135、クローダジャパン(株)社製のシスロールDPHS等が挙げられる。
本発明の(A)成分である多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルの配合量は、0.1〜5質量%が好ましく、特に好ましくは1〜5質量%である。0.1質量%に満たないと、乳化が不十分になる場合ある。5質量%を超えると、べたついた使用感になる場合がある。
【0008】
本発明の(B)成分であるトコフェリルリン酸ナトリウムは、トコフェロール(ビタミンE)のリン酸エステルのナトリウム塩である。白色から微黄色の粉末状で、室温で水に容易に溶解する。溶液の性状は、2質量%水溶液でPH9.0〜10.0、粘度は100mPa・s以下(B型粘度計、1号ローター、12rpm、30秒、25℃測定)である。
ビタミンEは脂溶性ビタミンとして有用なビタミンであり、ビタミンCなどの水溶性抗酸化化合物と協同して紫外線などにより惹起される酸化ストレスから皮膚を守る働きを持つ。トコフェリルリン酸ナトリウムは、ビタミンEそれ自体が化学的に不安定なことから誘導体化したものである。トコフェリルリン酸ナトリウムは、皮膚内の脱リン酸化酵素によりビタミンEに変換され、抗酸化作用や抗炎症作用を発揮して肌荒れを改善するので、その美容効果を期待して化粧料などの皮膚外用剤に配合される。
市販されている昭和電工株式会社製の「ビタミンEリン酸ナトリウム」を用いることができる。
本発明において、トコフェリルリン酸ナトリウムは、美容効果を発揮するだけでなく、多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルで乳化した油中水型乳化組成物の粘度を調節する働きをする。これは特異的な現象である。
多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルで乳化した油中水型乳化組成物の粘度を高めるためには、油中水型乳化組成物に対して0.1〜10質量%含有させることが好ましく、より好ましくは0.5〜6質量%含有させることが好ましい。
0.1質量%に満たないと、本発明の乳化組成物の増粘効果に十分寄与することができない恐れがある。10質量%を超えると不経済である。
【0009】
本発明の油中水型乳化組成物の粘度は5000〜22000mPa・s(B型粘度計、4号ローター、12rpm、30秒、25℃測定)の範囲にあることが好ましい。
【0010】
本発明の油中水型乳化組成物に、さらに成分(C)としてキレート剤を含有させると、油中水型乳化組成物の保管温度による粘度の差をより小さくすることが出来るので好ましい。
キレート剤としては、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、エデト酸四ナトリウム、エデト酸二カリウムを例示することができる。エデト酸三ナトリウムを用いることが好ましい。市販されているキレスト株式会社製のキレスト2C-SDを用いることができる。
油中水型乳化組成物は、キレート剤を0.0001質量%〜0.2質量%含有することが好ましい。
【0011】
本発明の油中水型乳化組成物には、任意成分として本発明の効果を損なわない範囲で、化粧料に通常用いられている成分、例えば、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、油剤、多価アルコール等の保湿剤、増粘剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、塩類、PH調整剤、防腐剤、抗菌剤、着色剤、香料等を配合することができる。また、アスコルビン酸誘導体、セラミド、植物抽出液等の美容成分を配合することができる。
【0012】
油剤としては、エステル油、植物油のような油脂類、炭化水素類、高級脂肪酸、高級アルコール、シリコ−ン油などが例示できる。
エステル油としては、例えば、エチルヘキサン酸セチル、ジイソノナン酸1,3−ブチレングリコール、ジ2−エチルヘキサン酸1,3−ブチレングリコール、ジイソノナン酸ジプロピレングリコール、ジ2−エチルヘキサン酸ジプロピレングリコール、イソノナン酸イソノニル、トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル、トリカプリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、パルミチン酸エチルヘキシル、ネオペンタン酸イソステアリル等が挙げられる。
油脂類としては、例えば、ツバキ油、月見草油、マカデミアナッツ油、オリーブ油、ナタネ油、トウモロコシ油、ゴマ油、ホホバ油、胚芽油、小麦胚芽油、等の液体油脂、カカオ脂、ヤシ油、硬化ヤシ油、パーム油、パーム核油、モクロウ、モクロウ核油、硬化油、硬化ヒマシ油等の固体油脂、ミツロウ、キャンデリラロウ、綿ロウ、ヌカロウ、ラノリン、酢酸ラノリン、液状ラノリン、サトウキビロウ等のロウ類が挙げられる。
炭化水素類としては、例えば、流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられる。
高級脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)等が挙げられる。
高級アルコールとしては、例えば、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、セチルアルコール、セトステアリルアルコール等の直鎖アルコール、モノステアリルグリセリンエーテル、ラノリンアルコール、コレステロール、フィトステロール、オクチルドデカノール等の分枝鎖アルコール等が挙げられる。
シリコ−ン油として、例えば、鎖状ポリシロキサンのジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等、環状ポリシロキサンのデカメチルシクロペンタシロキサン、シクロペンタシロキサン、(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマー等が挙げられる。
保湿剤としては、グリセリン、ジグリセリン、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、ペンチレングリコール等が挙げられる。
増粘剤としては、(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマー等が挙げられる。
塩類としては、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウム等が挙げられる。
PH調製剤としては、クエン酸、クエン酸ナトリウム、リン酸、リン酸ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
防腐剤としては、フェノキシエタノール、パラベン等が挙げられる。
アスコルビン酸誘導体としては、L−アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム塩、L−アスコルビン酸リン酸エステルナトリウム塩、2−O−α−D−グルコピラノシル−L−アスコルビン酸等が挙げられる。
セラミドとしては、セチルPGヒドロキシエチルパルミタイド、セレブロシド等が挙げられる。
【0013】
本発明の油中水型乳化組成物は乳液、クリーム、美容液、日焼け止め、リキッドファンデーション等の化粧料や、皮膚外用剤として医薬部外品や医薬品として使用することができる。
【0014】
〔実施例〕
表1、2、3の組成にて、実施例1〜10、比較例1〜17の油中水型乳化組成物を、下記調製方法により調製した。
【0015】
(調製方法)
油相と水相をそれぞれ別に80℃に加熱して、十分に攪拌後、水相を油相へ添加し、ホモミキサーで6000rpm、2分攪拌して乳化し、その後、室温まで攪拌冷却する。尚、本発明の(A)成分は油相に、(B)成分は水相に配合する。
【0016】
〔油中水型乳化組成物の評価〕
実施例1〜10、比較例1〜17の油中水型乳化組成物について粘度を測定し、乳化状態を顕微鏡で観察した。測定方法などの詳細を以下に示す。
【0017】
(試作翌日の粘度)
得られた油中水型乳化組成物を直径約3cmのガラス容器に充填し25℃に保存して、調製翌日の粘度を測定(B型粘度計、4号ローター、12rpm、30秒)した。
【0018】
(保管温度における粘度)
得られた油中水型乳化組成物を直径約3cmのガラス容器に充填し、5℃、25℃、40℃、50℃に7日間保存し、各温度の保管庫から取り出した直後に粘度を測定(B型粘度計、4号ローター、12rpm、30秒)した。
【0019】
(保管温度から室温にもどした場合の粘度)
得られた油中水型乳化組成物を直径約3cmのガラス容器に充填し、5℃、25℃、40℃、50℃に7日間保存し、各温度の保管庫から取り出したのち、室温(25℃)にもどしてから粘度を測定(B型粘度計、4号ローター、12rpm、30秒)した。
【0020】
室温(25℃)と各保管温度(5℃、40℃、50℃)での粘度の差が小さいと、使用時の環境(外気温)に影響されずに常に一定の使用感(粘度)の油中水型乳化組成物を提供できると判断した。
保管温度による粘度の変化を評価するために、下記式により室温(25℃)に対する各保管温度(5℃、40℃、50℃)の粘度の比を計算した。値が1に近いほど粘度の変化が小さい優れた乳化組成物であることになる。
粘度比A=各保管温度での粘度÷25℃の粘度
【0021】
また、保管温度から室温(25℃)に戻した場合の粘度についても同様に、下記式により粘度の比を計算した。値が1に近いほど保管温度により組成物が変化しない優れた乳化組成物であることになる。
粘度比B=各保管温度から室温に戻した時の粘度÷25℃の粘度
【0022】
(顕微鏡観察)
OLYMPUS社製のシステム偏光顕微鏡BX-50-33P-Dを用いて25℃に1日間保存した油中水型乳化組成物を倍率400で観察し、下記の基準で判定した。
◎;粒子径が細かく均一である
○;粒子径が細かくはないが均一である
△;粒子径が不揃である
×;粒子径が揃っておらず、合一が見られる
【0023】
尚、表1〜3の組成において、成分名の横に*マークが付与されたものは、下記の市販品を用いたことをあらわしている。
*1 クローダジャパン株式会社製の「シスロールDPHS」
*2 昭和電工株式会社製の「ビタミンEリン酸ナトリウム」
*3 味の素株式会社製の「エルデュウAPS−307」
*4 信越化学工業株式会社製の「KSG−15」
*5 チバ・ジャパン株式会社「Tinocare Gl」
*6 キレトス株式会社製の「キレトス2C−SD」
*7 エボニックデグサジャパン株式会社製の「ISOLAN GPS」
*8 日光ケミカルズ株式会社製の「NIKKOL Hexaglyn PR-15」
*9 日光ケミカルズ株式会社製の「NIKKOL DGMIS」
*10成和化成株式会社製の「プロテシル FN」
*11花王株式会社製の「ペネトール GE−IS」
*12花王株式会社製の「エキセパール IS−CE−A」
【0024】
本発明の油中水型乳化組成物を評価した結果を表1に示す。
尚、表中のマイナス(−)とは、測定していないことを表しており、×とは乳化できなかったことを表している。
【0025】
【表1】

【0026】
(A)成分であるジポリヒドロキシステアリン酸PEG−30で乳化した比較例1の乳化組成物は粘度が2100mPa・sであり、低めの粘度であった。
(A)成分であるジポリヒドロキシステアリン酸PEG−30で乳化した油中水型乳化組成物に、化粧料の増粘剤として一般的に用いられる親油性増粘剤(水添ポリイソブテン、パルミチン酸デキストリン、(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリル、(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマー、親水性増粘剤(キサンタンガム、スクレロチウムガム)を配合してみたが、増粘効果はいずれも低かった(比較例4、5、7〜13)。
親油性増粘剤である(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマーを配合した比較例5、親油性増粘剤である(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマーと(ベヘン酸/エイコサン二酸)グリセリルを配合した比較例9は、本試験の中では比較的増粘した組成であるが、得られた油中水型乳化組成物の粘度は4500mPa・sであり、増粘剤を含まない比較例1の組成物の2100mPa・sの約2倍程度までしか増粘できなかった。
【0027】
比較例3および比較例6は、親水性増粘剤、親油性増粘剤のどちらも含まず、電解質として硫酸マグネシウム、L−アスコルビルリン酸マグネシウム塩、クエン酸および水酸化カリウムを含んでいる。
これは、油中水型乳化組成において、電解質を含ませると増粘するという知見に基づいて行った試験である。
硫酸マグネシウムを配合した比較例3の粘度は2850mPa・s、L−アスコルビルリン酸マグネシウム塩および水酸化カリウムを配合した比較例6の粘度は4500mPa・sであり、期待したほどの増粘効果は得られなかった。
これに対して、トコフェリルリン酸ナトリウムを配合した実施例1〜5は、それぞれ14550mPa・s、11400mPa・s、21600mPa・s、7600mPa・s、16750mPa・sと高い粘度が得られている。
共通の油剤を用いた実施例1と比較例3〜12を比較すると、トコフェリルリン酸ナトリウムを配合することによって、粘度が3〜10倍に増大することがわかる。
実施例1〜5は、比較例1〜5、11,12と同様に、べたつかず、さっぱりとした使用感を有するが、その使用感を維持したまま粘度が増大しており、使用感に優れ、高級感に優れるクリームが実現された。さらに、粘性に劣る比較例6〜8は親油性増粘剤の影響により、かえって、べたつきの大きい使用感であった。
【0028】
(A)成分を含まない比較例2は乳化しなかった。(B成分)を含まない比較例1の油中水型乳化組成物は14日目に観察すると50℃で保存したものが分離していた。
実施例1〜5は30日保存後もすべての保管温度(5℃、25℃、40℃、50℃)で分離がみられず安定であった。
本発明の構成に、さらに、成分(C)のキレート剤であるエデト酸三ナトリウムを含ませた実施例2の油中水型乳化組成物は、保管温度による粘度の差が最も小さかった。
使用時の環境が過酷(外気温が低い、或いは高い)であることが想定される場合には、使用環境に影響されずに常に一定の使用感(粘度)の皮膚外用剤を提供するために、本発明の構成に、さらに、キレート剤を含有させることが有効であることが分かった。
【0029】
次に、比較例1の組成に、(B)成分であるトコフェリルリン酸ナトリウムを追加配合した表2の組成にて、実施例6〜10の油中水型乳化組成物を調製した。これは、(B)成分であるトコフェリルリン酸ナトリウムの配合量の違いが粘度にどのように影響するか調べた実験である。結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
トコフェリルリン酸ナトリウムの配合量を増加させると、それに応じて粘度が高くなった(実施例6〜10)。
【0032】
表3の組成にて、比較例14〜17の油中水型乳化組成物を調製した。
本試験は、(A)成分であるジポリヒドロキシステアリン酸PEG−30を含まずに、その他の界面活性剤と(B)成分であるトコフェリルリン酸ナトリウムを組み合わせた油中水型乳化組成物の粘度を確認するために行った。本試験で用いた界面活性剤は、油中水型乳化組成物調製用として市販されているものである。
結果を表3に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
ジポリヒドロキシステアリン酸PEG−30を含まずに、他の界面活性剤とトコフェリルリン酸ナトリウムを組み合わせた比較例14、15の油中水型乳化組成物は、乳化したが粘度が低く1日後に分離した。
比較例16、17は乳化しなかった。
【0035】
以上のことから、本発明のジポリヒドロキシステアリン酸PEG−30とトコフェリルリン酸ナトリウムとを組み合わせることでべたつきのないさっぱりとした使用感を維持しながら、油中水型乳化組成物の粘度を増大させることが出来ることがわかった。
また、この増粘作用は、ジポリヒドロキシステアリン酸PEG−30とトコフェリルリン酸ナトリウムとの組み合わせによる特異な現象であることがわかった。
本発明のジポリヒドロキシステアリン酸PEG−30とトコフェリルリン酸ナトリウムとを組み合わせた油中水型乳化組成物は、ごわついた皮膜感のない優れた使用感であり、粘度の高い高級感のあるクリームを実現できた。
本発明により粘度を上昇させた油中水型乳化組成物は、保管温度による粘度の差が小さいので、乳液やクリームなどの皮膚外用剤として有用である。
表1、表2の結果から、実施例では翌日粘度が7500〜22000mPa・sであり、7日室温経過後6200〜22000であって、大きな変動は認められない。輸送や保管を考慮した温度環境変化を経た後、使用温度である室温(25℃)に戻した場合の粘度変化は、1.5〜0.8であって、安定している。
低温ヒステリシスは、粘度増の傾向が見られ、高温ヒステリシスは低粘度化の傾向がある。5℃経過後25℃に戻した場合、8000〜22850mPa・sであり、50℃から25℃に戻した場合、6300〜18900mPa・sであるので、十分小さな粘度変化範囲にある。この範囲であれば、需要者に対して一定の品質を提供することができる。
これに対して、比較例では5000mPa・sであって、且つ、恒温7日間保存では2.7〜0.5、室温に戻した状態では1.9〜0.4と粘度変化が大きく、温度変化による粘度の安定性に欠くことが分かる。
【0036】
処方例1 乳液
(配合成分) (質量%)
1. ジポリヒドロキシステアリン酸PEG−30 1
2. ミリストイルメチル−β−アラニン(フィトステリル
/デシルテトラデシル) 2
3. オリーブ油 5
4. ホホバ油 4
5. パルミチン酸エチルヘキシル 3
6. セチルPGヒドロキシエチルパルミタミド 0.5
7. トリエチルヘキサノイン 1
8. (ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマー 1
9. グリセリン 5
10.ペンチレングリコール 2
11.フェノキシエタノール 0.2
12.トコフェリルリン酸ナトリウム 3
13.精製水 残余

(製法)
油相(1〜8)と水相(9〜13)をそれぞれ別に80℃に加熱して、十分に攪拌後、水相を油相へ添加し、ホモミキサーで6000rpm、2分攪拌して乳化し、その後、室温まで攪拌冷却する。
【0037】
処方例1の乳液は、心地よい使用感であり、保存安定性に優れていた。
【0038】
処方例2 クリーム
(配合成分) (質量%)
1. ジポリヒドロキシステアリン酸PEG−30 2
2. ミリストイルメチル−β−アラニン(フィトステリル
/デシルテトラデシル) 2
3. オリーブ油 3
4. ホホバ油 1
5. パルミチン酸エチルヘキシル 2
6. セチルPGヒドロキシエチルパルミタミド 0.5
7. 2−エチルヘキサン酸セチル 1
8. ジメチコン 1
9. ジグリセリン 5
10.ペンチレングリコール 2
11.フェノキシエタノール 0.2
12.トコフェリルリン酸ナトリウム 3
13.精製水 残余

(製法)
油相(1〜8)と水相(9〜13)をそれぞれ別に80℃に加熱して、十分に攪拌後、水相を油相へ添加し、ホモミキサーで6000rpm、2分攪拌して乳化し、その後、室温まで攪拌冷却する。
【0039】
処方例2のクリームは、心地よい使用感であり、保存安定性に優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)として多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステル、成分(B)としてトコフェリルリン酸ナトリウムを含有することを特徴とする油中水型乳化組成物。
【請求項2】
成分(A)の多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルが、ジポリヒドロキシステアリン酸PEG−30であることを特徴とする請求項1に記載の油中水型乳化組成物。
【請求項3】
さらに成分(C)として、キレート剤を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の油中水型乳化組成物。
【請求項4】
測定温度25℃において、B型粘度計、4号ローター、12rpm、30秒間撹拌による粘度が、5000〜22000mPa・sの範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の油中水型乳化組成物。
【請求項5】
成分(A)多価アルコールのポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)エステルの配合量は0.1〜5質量%、成分(B)トコフェリルリン酸ナトリウムの配合量は0.1〜10質量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の油中水型乳化組成物。


【公開番号】特開2012−131733(P2012−131733A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284659(P2010−284659)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】