説明

油圧クラッチ駆動装置

【課題】クラッチ作動機構と、油圧室を有するとともに該油圧室への油圧作用に応じて前記クラッチ作動機構にその断・接を切換える制御力を及ぼすクラッチ断・接制御機構と、アクチュエータと、該アクチュエータの作動に応じて油圧を発生する油圧発生機構と、前記油圧室および油圧発生機構間を結ぶ油圧管路とを備える油圧クラッチ駆動装置において、クラッチ作動機構の断・接応答性を高める。
【解決手段】油圧発生機構86Aは、アクチュエータ85Aで駆動される小径ピストン88を小径シリンダ孔89に摺動自在に嵌合せしめるとともに油圧管路87Aに通じる出力ポート90を有する小径シリンダ91と、アクチュエータ85Aで駆動される大径ピストン92を大径シリンダ孔93に摺動自在に嵌合せしめる大径シリンダ94と、油圧管路87Aおよび大径シリンダ94の接続・遮断を切換え可能な切換え弁手段96とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動回転部材および被動回転部材間に設けられるクラッチ作動機構と、油圧室を有するとともに該油圧室への油圧作用に応じて前記クラッチ作動機構にその断・接を切換える制御力を及ぼすクラッチ断・接制御機構と、アクチュエータと、該アクチュエータの作動に応じて油圧を発生する油圧発生機構と、前記油圧室および前記油圧発生機構間を結ぶ油圧管路とを備える油圧クラッチ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータの作動によってピストンを駆動することでシリンダで発生する油圧を、クラッチ断・接制御機構の油圧室に作用せしめるようにした油圧クラッチ駆動装置が、特許文献1によって既に知られている。
【特許文献1】特開2003−294062号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上記特許文献1で開示された油圧クラッチ駆動装置では、電動モータによって単一のシリンダを駆動するようにしており、その単一のシリンダの出力油圧で油圧クラッチの全域制御を行うようにしているので、油圧室およびシリンダ間を結ぶ油圧管路の作動油充填に時間がかかり、クラッチ作動機構の断・接応答性が低くなる。
【0004】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、クラッチ作動機構の断・接応答性を高め得るようにした油圧クラッチ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、駆動回転部材および被動回転部材間に設けられるクラッチ作動機構と、油圧室を有するとともに該油圧室への油圧作用に応じて前記クラッチ作動機構にその断・接を切換える制御力を及ぼすクラッチ断・接制御機構と、アクチュエータと、該アクチュエータの作動に応じて油圧を発生する油圧発生機構と、前記油圧室および前記油圧発生機構間を結ぶ油圧管路とを備える油圧クラッチ駆動装置において、前記油圧発生機構は、前記アクチュエータで駆動される小径ピストンを小径シリンダ孔に摺動自在に嵌合せしめるとともに前記油圧管路に通じる出力ポートを有する小径シリンダと、前記アクチュエータで駆動される大径ピストンを前記小径シリンダ孔よりも大径である大径シリンダ孔に摺動自在に嵌合せしめて前記小径シリンダに並列配置される大径シリンダと、前記油圧管路および前記大径シリンダの出力ポートの接続・遮断を切換え可能な切換え弁手段とを備えることを特徴とする。
【0006】
また請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成に加えて、前記油圧発生機構は、少なくとも前記大径シリンダに作動油を供給可能なリザーバを備え、前記切換え弁手段は、前記油圧管路および前記リザーバへの前記大径シリンダの出力ポートの連通・遮断を択一的に切換え可能であることを特徴とする。
【0007】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明の構成に加えて、前記アクチュエータは、駆動源と、クランクピンを有するとともに前記駆動源によって回転駆動されるクランク軸と、前記小径ピストンおよび前記大径ピストンに前端がそれぞれ一体に連なるピストンロッドの後端に当接して前記クランクピンに回転可能に軸支される一対の回転部材とを備え、前記小径ピストンおよび前記大径ピストンが、前記両ピストンロッドの後端を前記両回転部材に当接させる側に付勢されることを特徴とする。
【0008】
請求項4記載の発明は、請求項2記載の発明の構成に加えて、前記切換え弁手段が、前記油圧室の油圧を解放する際に前記大径シリンダの出力ポートおよび前記油圧管路を前記リザーバに連通することを特徴とする。
【0009】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明の構成に加えて、前記大径シリンダを前記油圧管路に連通させた状態で前記油圧発生機構から出力される油量が所定値以上となったか否かを検出するセンサを備え、前記切換え弁手段は、前記センサが所定量以上の油量を検出するのに応じて大径シリンダを前記リザーバに連通させることを特徴とする。
【0010】
さらに請求項6記載の発明は、請求項1記載の発明の構成に加えて、前記油圧発生機構に通じる油圧発生機構側油圧室と、前記油圧室に通じるとともに油圧発生機構側油圧室とは隔絶されたクラッチ側油圧室とを有するとともに、油圧発生機構側油圧室の油圧変化に応じてクラッチ側油圧室の油圧を変化させるようにしたセパレータが、前記油圧管路の途中に介設されることを特徴とする。
【0011】
なお実施例の第1メインシャフト7および第2メインシャフト8が本発明の「被動回転部材」に対応し、実施例の電動モータ144が本発明の「駆動源」に対応する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の発明によれば、アクチュエータによる油圧発生機構の駆動初期に小径シリンダおよび大径シリンダの出力ポートを油圧管路にともに連通させておくことにより、油圧管路に作動油を速やかに充填することが可能であり、充填時間の短縮ができ、クラッチ作動機構の断・接応答性を高めることができる。また立ち上がり後には、油圧管路および大径シリンダ間を遮断することにより、小径シリンダの出力油圧だけで油圧室に作用する油圧を昇圧することができる。
【0013】
また請求項2記載の発明によれば、小径シリンダだけによる油圧の昇圧時に、大径シリンダから出力される作動油をリザーバに戻すようにしてアクチュエータでの動力損失を低減し、アクチュエータの小型化を図ることができる。
【0014】
請求項3記載の発明によれば、小径および大径シリンダのピストンロッドをアクチュエータに直接連結しないようにして、油圧発生機構の組付けを容易とすることができる。
【0015】
請求項4記載の発明によれば、油圧クラッチの油圧を解放する際に油圧管路、小径シリンダおよび大径シリンダをリザーバに連通することで油圧解除の応答性が向上する。
【0016】
請求項5記載の発明によれば、センサによって切換え弁手段の切換え作動タイミングを定めるので、外乱の影響を考慮しながら適切に油量を制御することができる。
【0017】
さらに請求項6記載の発明によれば、油圧発生機構側の作動油ならびにクラッチ断・接制御機構側の作動油の種類を分けることができ、油圧発生機構側の作動油を応答性の高いものとしてセパレータをクラッチ断・接制御機構近傍に配置することによってクラッチ作動機構の応答性を高めることができ、またクラッチ断・接制御機構の作動油を該クラッチ断・接制御機構周辺の部材に用いる作動油と同種のものとすることにより油圧室周辺のシール構造を単純化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。
【0019】
図1〜図6は本発明の第1実施例を示すものであり、図1はエンジンの一部を示す縦断面図、図2は図1の要部拡大図、図3は油圧クラッチ駆動装置の構成を示す図、図4は図3の要部拡大図、図5は図4の5−5線断面図、図6は図5の6−6線断面図である。
【0020】
先ず図1において、たとえば自動二輪車に搭載されるエンジンが備えるクランクケース5内には、選択的に確立可能な複数変速段の歯車列たとえば第1〜第4速用歯車列G1,G2,G3,G4を備える変速機6が収納されており、第1速用歯車列G1は、第1メインシャフト7に一体に設けられる第1速用駆動歯車10と、第1メインシャフト7と平行なカウンタシャフト9に回転自在に支承されて第1速用駆動歯車10に噛合する第1速用被動歯車11とから成り、第2速用歯車列G2は、第1メインシャフト7と同軸である第2メインシャフト8に一体に設けられる第2速用駆動歯車12と、前記カウンタシャフト9に回転自在に支承されて第2速用駆動歯車12に噛合する第2速用被動歯車13とから成り、第3速用歯車列G3は、第1メインシャフト7に固定される第3速用駆動歯車14と、前記カウンタシャフト9に回転自在に支承されて第3速用駆動歯車14に噛合する第3速用被動歯車15とから成り、第4速用歯車列G4は、第2メインシャフト8に固定される第4速用駆動歯車16と、前記カウンタシャフト9に回転自在に支承されて第4速用駆動歯車16に噛合する第4速用被動歯車17とから成る。
【0021】
第1および第3速用被動歯車11,15間でカウンタシャフト9には第1シフタ18がスプライン結合されており、第1シフタ18の軸方向移動により第1および第3速用被動歯車11,15をカウンタシャフト9に対して自由に回転させる状態および第1および第3速用被動歯車11,15のいずれかをカウンタシャフト9に相対回転不能に結合する状態を切換可能である。また第2および第4速用被動歯車13,17間でカウンタシャフト9には、第2シフタ19がスプライン結合されており、第2シフタ19の軸方向移動により第2および第4速用被動歯車13,17をカウンタシャフト9に対して自由に回転させる状態および第2および第4速用被動歯車13,17のいずれかをカウンタシャフト9に相対回転不能に結合する状態を切換可能である。
【0022】
円筒状に形成される第2メインシャフト8の中間部は、前記クランクケース5を回転自在に貫通するものであり、クランクケース5および第2メインシャフト8間にはボールベアリング22が介装される。また円筒状である第1メインシャフト7は、第2メインシャフト8との軸方向相対位置を一定としつつ第2メインシャフト8を相対回転可能に貫通するものであり、第1メインシャフト7および第2メインシャフト8間には複数のローラベアリング23…が介装される。しかも第1メインシャフト7の一端部は、クランクケース5に結合されるカバー24との間に一対のボールベアリング75…を介在させて該カバー24を貫通し、前記カバー24から突出した第1メインシャフト7の一端を覆う蓋部材76が液密にかつ着脱可能にしてカバー24に取付けられる。また第1メインシャフト7の他端部はクランクケース5にローラベアリング77を介して回転自在に支承される。
【0023】
カウンタシャフト9の一端部はローラベアリング78を介してクランクケース5に回転自在に支承され、カウンタシャフト9の他端部は、ボールベアリング79および環状のシール部材80を前記クランクケース5との間に介在させて該クランクケース5を回転自在に貫通し、クランクケース5からのカウンタシャフト9の突出端部には、図示しない後輪に動力を伝達するためのチェーン81が巻き掛けられるようにして駆動スプロケット82が固定される。
【0024】
ところでエンジンが備えるクランクシャフト25の動力は、一次減速装置26およびダンパスプリング27を介して駆動回転部材28に入力されるものであり、この駆動回転部材28と、第1の被動回転部材である第1メインシャフト7ならびに第2の被動回転部材である第2メインシャフト8との間にツインクラッチ装置29が設けられる。
【0025】
図2を併せて参照して、一次減速装置26は、前記クランクシャフト25に一体に設けられる駆動歯車30と、第2メインシャフト8に相対回転可能に支承されて駆動歯車30に噛合する第1被動歯車31と、駆動歯車30および第1被動歯車31間のバックラッシを吸収すべく第1被動歯車31との制限された範囲での相対回転を可能として第1被動歯車31に支承されるとともに前記駆動歯車30に噛合される第2被動歯車32とから成る。
【0026】
前記駆動回転部材28は、第2被動歯車32とは反対側から第1被動歯車31に当接するものであり、この駆動回転部材28の周方向複数箇所に突設される連結ボス28a…が、周方向に長く延びるようにして第1および第2被動歯車31,32に設けられる長孔33…に挿通される。また第1被動歯車31とは反対側で第2被動歯車32に対向する保持板21が前記連結ボス28a…の端面に当接されており、各連結ボス28a…を貫通するリベット34…で保持板21が連結ボス28a…の端面に当接される。しかも保持板21および第2被動歯車32間には前記駆動回転部材28を第1被動歯車31に当接させるばね力を発揮する皿ばね35が設けられる。
【0027】
また前記各長孔33…とは周方向にずれた複数箇所で第1および第2被動歯車31,32には、周方向に長く延びる保持孔36…が設けられており、各保持孔36…には、第1および第2被動歯車31,32を相対回転させるばね力を発揮するダンパスプリング27が、前記駆動回転部材28および保持板21と第1および第2被動歯車31,32との間に介装されるようにして収容される。
【0028】
ツインクラッチ装置29は、交互に重なって配置される複数枚ずつの第1および第2摩擦板37…,38…を有して駆動回転部材28および第1メインシャフト7間の動力伝達の断・接を切換える第1クラッチ作動機構41と、交互に重なって配置される複数枚ずつの第3および第4摩擦板39…,40…を有して前記駆動回転部材28および第2メインシャフト8間の動力伝達の断・接を切換える第2クラッチ作動機構42と、第1クラッチ作動機構41の断・接を切換える制御力を第1クラッチ作動機構41に及ぼす第1クラッチ断・接制御機構43と、第2クラッチ作動機構42の断・接を切換える制御力を第2クラッチ作動機構42に及ぼす第2クラッチ断・接制御機構44とを備える。
【0029】
第1クラッチ作動機構41は、前記駆動回転部材28に一端が一体に連なって円筒状に形成されるとともに第1および第2メインシャフト7,8と同軸にして一次減速装置26とは反対側に延びるクラッチアウタ45と、第1メインシャフト7に固定されるクラッチインナ46と、前記クラッチアウタ45に相対回転不能に係合される複数枚の第1摩擦板37…と、前記クラッチインナ46に相対回転不能に係合されるとともに第1摩擦板37…と交互に配置される複数枚の第2摩擦板38…と、相互に重なって配置される第1および第2摩擦板37…,38…のうち前記駆動回転部材28側の端部に配置される摩擦板(この実施例では第1摩擦板37)に対向して前記クラッチインナ46に相対回転不能に係合される受圧板47と、第1および第2摩擦板37…,38…を前記受圧板47との間に挟む押圧板48とを備え、前記クラッチインナ46には、第1および第2摩擦板37…,38…とは反対側から受圧板47の内周に当接、係合する止め輪49が装着される。
【0030】
第2クラッチ作動機構42は、その回転軸線に沿う方向で第1クラッチ作動機構41と並ぶように配置されるものであり、この実施例では、第1クラッチ作動機構41および駆動回転部材28間に配置される。
【0031】
而して第2クラッチ作動機構42は、第1クラッチ作動機構41と共通である前記クラッチアウタ45と、第2メインシャフト8に固定されるクラッチインナ50と、前記クラッチアウタ45に相対回転不能に係合される複数枚の第3摩擦板39…と、前記クラッチインナ50に相対回転不能に係合されるとともに第3摩擦板39…と交互に配置される複数枚の第4摩擦板40…と、相互に重なって配置される第3および第4摩擦板39…,40…のうち前記駆動回転部材28側の端部に配置される摩擦板(この実施例では第3摩擦板39)に対向して前記クラッチインナ50に相対回転不能に係合される受圧板51と、第3および第4摩擦板39…,40…を前記受圧板51との間に挟む押圧板52と、クラッチアウタ45に摺動可能に嵌合されるとともに第3および第4摩擦板39…,40…とは反対側から押圧板52に当接する複数の腕部53a…を一体に有する伝動部材53とを備え、第2メインシャフト8および前記クラッチインナ50とともに回転する受け板54が、第3および第4摩擦板39…,40…とは反対側から受圧板52に当接する。
【0032】
前記クラッチアウタ45の周方向複数箇所には、クラッチアウタ45の軸方向中間部から駆動回転部材28とは反対側の端部まで延びるスリット55…が設けられており、前記伝動部材53が一体に備える腕部53a…は前記各スリット55…に挿通される。また各スリット55…への前記腕部53a…の挿通が完了した状態で、クラッチアウタ45の外周には補強筒56が嵌装される。
【0033】
第1クラッチ断・接制御機構43は、第1メインシャフト7の回転軸線に沿う方向の移動は可能とするものの非回転状態でカバー24に支承される段付き円筒状の制御作動部材60を備え、第1および第2クラッチ作動機構41,42を覆う前記カバー24との間に環状である第1油圧室61を形成するようにして前記制御作動部材60がカバー24の内周に液密にかつ摺動可能に嵌合される。
【0034】
前記制御作動部材60は、第1クラッチ作動機構41の押圧板48に第1クラッチベアリング62を介して連結されるものであり、制御作動部材60が第1油圧室61への油圧作用によって第1油圧室61の容積を増大する側に移動したときに、押圧板48は第1クラッチベアリング62を介して押圧され、第1および第2摩擦板37…,38…が受圧板47および押圧板48間に挟圧されることになり、第1および第2摩擦板37…,38…が摩擦係合することでクラッチアウタ45およびクラッチインナ46間、すなわち駆動回転部材28および第1メインシャフト7間で動力が伝達されることになる。
【0035】
また第1クラッチ断・接制御機構43は、第1油圧室61の容積を減少する方向に前記制御作動部材60を付勢するようにして前記カバー24および前記制御作動部材60間に介設される付勢部材であるばね63…を備えるものであり、該ばね63…は、カバー24の内面に装着される止め輪65で受けられたリング状のリテーナ64と前記制御作動部材60との間の周方向複数箇所に介設される。
【0036】
而して第1油圧室61の油圧が解放されている状態では、制御作動部材60は前記ばね63…のばね力により、第1油圧室61の容積を縮小する側に移動しており、この状態では、第1および第2摩擦板37…,38…は摩擦係合せず、駆動回転部材28および第1メインシャフト7間の動力伝達は遮断されている。
【0037】
第2クラッチ断・接制御機構44は、第2メインシャフト8の回転軸線に沿う方向の移動は可能とするものの非回転状態で前記カバー24に支承される段付き円筒状の制御作動部材66を備え、前記カバー24との間に環状である第2の油圧室67を形成するようにして前記制御作動部材66がカバー24の内周に液密にかつ摺動可能に嵌合される。
【0038】
前記制御作動部材66は、第2クラッチ作動機構42の伝動部材53に第2クラッチベアリング68を介して連結されるものであり、制御作動部材66が第2油圧室67への油圧作用によって第2油圧室67の容積を増大する側に移動したときに、押圧板52は第2クラッチベアリング68を介して押圧され、第3および第4摩擦板39…,40…が受圧板51および押圧板52間に挟圧されることになり、第3および第4摩擦板39…,40…が摩擦係合することでクラッチアウタ45およびクラッチインナ50間、すなわち駆動回転部材28および第2メインシャフト8間で動力が伝達されることになる。
【0039】
また第2クラッチ断・接制御機構44は、第2油圧室67の容積を減少する方向に前記制御作動部材66を付勢するようにして前記カバー24および前記制御作動部材66間に介設される付勢部材であるばね69…を備えるものであり、該ばね69…は、カバー24に固定されるリング状のリテーナ70と前記制御作動部材66との間の周方向複数箇所に介設される。
【0040】
而して第2油圧室67の油圧が解放されている状態では、制御作動部材66は前記ばね69…のばね力により、第2油圧室67の容積を縮小する側に移動しており、この状態では、第3および第4摩擦板39…,40…は摩擦係合せず、駆動回転部材28および第2メインシャフト8間の動力伝達は遮断されている。
【0041】
ところで第1および第2クラッチ作動機構41,42は,第1および第2メインシャフト7,8と同軸上に配置されるのであるが、第1および第2メインシャフト7,8の回転軸線に直交する方向で、第1および第2クラッチ断・接制御機構43,44の少なくとも一部は、第1および第2クラッチ作動機構41,42に重なって配置されるものであり、この実施例では、第1および第2クラッチ断・接制御機構43,44の一部が第1および第2クラッチ作動機構41,42に重なって配置される。
【0042】
しかも第1および第2クラッチ作動機構41,42がそれらの回転軸線に沿う方向に並列配置されるのに対し、第1および第2クラッチ断・接制御機構43,44も前記回転軸線に沿う方向に並んで配置されている。
【0043】
前記カバー24には、第1クラッチ断・接制御機構43の油圧室61に通じるオイル通路71と、第2クラッチ断・接制御機構44の油圧室67に通じるオイル通路72とがカバー24に設けられる。
【0044】
このようなツインクラッチ装置29によれば、第1クラッチ作動機構41の断・接を切換える制御力を第1クラッチ作動機構41に及ぼす第1クラッチ断・接制御機構43、ならびに第2クラッチ作動機構42の断・接を切換える制御力を第2クラッチ作動機構42に及ぼす第2クラッチ断・接制御機構44が、第1および第2メインシャフト7,8の回転軸線に沿う方向の移動は可能とするものの非回転状態でカバー24に支承される制御作動部材60,66をそれぞれ備えるものであり、それらの制御作動部材60,66が第1および第2クラッチ作動機構41,42にクラッチベアリング62,68を介してそれぞれ連結されている。
【0045】
したがって第1および第2クラッチ断・接制御機構43,44は非回転部に配設されることになり、回転部の重量を軽減してツインクラッチ装置29の慣性マスを低減し、それにより駆動回転部材28からの動力を第1および第2メインシャフト7,8側に効率よく伝達することができる。
【0046】
ところで変速段の切換時には、第1および第2クラッチ作動機構41,42の断・接状態を交互に切換えるとともに、変速機6における第1〜第4速用歯車列G1〜G4の確立状態を第1および第2シフタ18,19の移動によって順次切換えるものであり、たとえば第1変速段の変速時には、第1クラッチ作動機構41が接続状態にあるのに対して第2クラッチ作動機構42は遮断状態にある。この際、第1変速段から第2変速段に切換えるためには、第2シフタ19を第2速用被動歯車13に係合する側に移動させるのであるが、第2シフタ19は、カウンタシャフト9とともに回転しているのに対し、第2速用被動歯車13は、第2クラッチ作動機構42が遮断状態にあるので第1クラッチ作動機構41の回転に伴うつれ回りの状態にあり、第2シフタ19および第2速用被動歯車19間には回転数差が生じている。このため第2クラッチ作動機構42の慣性マスが大きいと、第2シフタ19の第2速用被動歯車13への係合時に発生するエネルギーが大きく、変速ショックが生じるのであるが、上述のように、ツインクラッチ装置29における回転部の重量を軽減して慣性マスを低減しているので、第1および第2シフタ18,19の移動に伴う変速ショックを低減することができる。
【0047】
また同軸上に配置される第1および第2メインシャフト7,8の回転軸線に直交する方向で、第1および第2クラッチ断・接制御機構43,44の少なくとも一部が、第1および第2クラッチ作動機構41,42に重なって配置されるので、ツインクラッチ装置29をその回転軸線方向でコンパクトに構成することができる。さらに第1および第2クラッチ作動機構41,42がそれらの回転軸線に沿う方向に並列配置され、第1および第2クラッチ断・接制御機構43,44が前記回転軸線に沿う方向に並んで配置されるので、ツインクラッチ装置29をその半径方向でコンパクトに構成することができる。
【0048】
また第1および第2クラッチ断・接制御機構43,44は、カバー24との間に油圧室61,67を形成する制御作動部材60,66と、前記油圧室61,67の容積を減少する方向に制御作動部材60,66を付勢するようにして前記カバー24および前記制御作動部材60,66間に介設されるばね63,69とをそれぞれ備えるものであり、第1および第2クラッチ断・接制御機構43,44が備える第1および第2油圧室61,67が非回転部に設けられることにより、油圧室61,67内のオイルに遠心力が作用することはなく、したがって遠心力によって生じる油圧をキャンセルするための機構を設けることが不要となるだけでなくばね63,69も非回転部に設けられるので、回転部の重量をより一層軽減し、慣性マスをさらに低減することができる。
【0049】
さらに第1および第2クラッチ作動機構41,42を覆うカバー24および制御作動部材60,66間に第1および第2油圧室61,67が形成されることにより、油圧室61,67にオイルを導くオイル通路71,72をカバー24に容易に形成することができ、回転部材内にオイル通路を形成する場合に比べると、オイル通路71,72の経路の簡略化および短縮化が可能となり、油圧損失の低減および加工工数の削減を達成することができる。
【0050】
図3において、第1クラッチ断・接制御機構43の第1油圧室61に通じるオイル通路71には、油圧発生機構86Aが油圧管路87Aを介して接続され、第2クラッチ断・接制御機構44の第2油圧室67に通じるオイル通路72には、油圧発生機構86Bが油圧管路87Bを介して接続される。
【0051】
図4〜図6を併せて参照して、油圧発生機構86Aは、アクチュエータ85Aの作動に応じて油圧を発生するものであり、アクチュエータ85Aで駆動される小径ピストン88を小径シリンダ孔89に摺動自在に嵌合せしめるとともに前記油圧管路87Aに通じる第1出力ポート90を有する小径シリンダ91と、前記アクチュエータ85Aで駆動される大径ピストン92を前記小径シリンダ孔89よりも大径である大径シリンダ孔93に摺動自在に嵌合せしめて前記小径シリンダ91に並列配置される大径シリンダ94と、前記大径シリンダ94の第2出力ポート95および前記油圧管路87A間の接続・遮断を切換え可能な切換え弁手段96とを備える。
【0052】
小径シリンダ91および大径シリンダ94は共通のシリンダボディ97に設けられており、小径シリンダ孔89および大径シリンダ孔93がそれぞれ有底にしてシリンダボディ97に並列に設けられ、小径シリンダ孔89および大径シリンダ孔93にそれぞれ摺動可能に嵌合される小径ピストン88および大径ピストン92に前端を同軸にかつ一体に連設されるピストンロッド88a,92aが、前記小径シリンダ孔89および大径シリンダ孔93の開口端から突出される。
【0053】
小径シリンダ孔89の閉塞端および小径ピストン88間には小径ピストン88の前端を臨ませる小径油圧発生室98が形成され、また大径シリンダ孔93の閉塞端および大径ピストン92間には大径ピストン92の前端を臨ませる大径油圧発生室99が形成される。また小径油圧発生室98内に収容される第1戻しばね100が小径シリンダ孔89の閉塞端および小径ピストン88間に縮設されており、大径油圧発生室99内に収容される第2戻しばね101が大径シリンダ孔93の閉塞端および大径ピストン92間に縮設されており、小径ピストン88および大径ピストン92は、小径油圧発生室98および大径油圧発生室99の容積を増大する側すなわち後退側に付勢される。しかも小径シリンダ孔89および大径シリンダ孔93の開口端内面には止め輪102,103がそれぞれ装着されており、小径ピストン88および大径ピストン92の後端外周部に当接して小径ピストン88および大径ピストン92の後退限を規制するリング状のストッパ104,105が前記止め輪102,103でそれぞれ受けられる。
【0054】
前記シリンダボディ97の上部にはリザーバ106が設けられる。このリザーバ106は、シリンダボディ97の上部側壁に一体に連設される円筒部107と、該円筒部107の上端開口部を閉じるようにして円筒部107に締結されるキャップ108とから成るものであり、円筒部107およびキャップ108間には、気液分離ブラダー109が挟持され、前記円筒部107の中間部内面にはフィルタ110が装着される。
【0055】
また小径ピストン88および大径ピストン92が後退限まで後退したときに、小径油圧発生室98および大径油圧発生室99をリザーバ106内に通じさせるプライマリーポート111,112が前記シリンダボディ97に設けられる。
【0056】
また小径ピストン88の外周には第1および第2カップシール113,114が装着されており、第1および第2カップシール113,114間で小径ピストン88の外周および小径シリンダ孔89の内周間に形成される小径環状室115を前記リザーバ106内に通じさせるセカンダリーポート116がシリンダボディ97に設けられ、第1および第2カップシール113,114のうち小径油圧発生室98側の第1カップシール113は小径環状室115から小径油圧発生室98側への作動油の流通を許容する。
【0057】
また大径ピストン92の外周には第3および第4カップシール117,118が装着されており、第3および第4カップシール117,18間で大径ピストン92の外周および大径シリンダ孔93の内周間に形成される大径環状室119を前記リザーバ106内に通じさせるセカンダリーポート120がシリンダボディ97に設けられ、第3および第4カップシール117,118のうち大径油圧発生室99側の第3カップシール117は大径環状室119から大径油圧発生室99側への作動油の流通を許容する。
【0058】
前記シリンダボディ97には、前記小径シリンダ孔89および大径シリンダ孔93の軸線を通る平面上に配置される第1および第2出力ポート90,95が、第1出力ポート90の一端を小径シリンダ孔89の軸線から偏心した位置で小径油圧発生室98に通じさせるとともに、第2出力ポート95の一端を大径シリンダ孔93の軸線から偏心した位置で大径油圧発生室99に通じさせるようにして設けられ、前記第1出力ポート90の他端は、前記シリンダボディ97に設けられた有底の接続孔121の閉塞端に開口する。
【0059】
而して前記接続孔121には、前記油圧管路87Aがジョイント122を介して接続されるものであり、該ジョイント122は、シリンダボディ97との間にワッシャ123を介在させたバンジョーアダプタ124と、該バンジョーアダプタ124との間にワッシャ125を介在させた係止頭部126aを有してバンジョーアダプタ124を貫通するとともに前記接続孔121にねじ込まれるバンジョーボルト126とから成り、バンジョーアダプタ124に前記油圧管路87Aが接続される。しかも第1出力ポート90およびバンジョーボルト126間で接続孔121内にはフィルタ127が装着される。
【0060】
前記切換え弁手段96は、第2出力ポート95および第1出力ポート90間に介設される第1常開型電磁弁130と、第2出力ポート95およびリザーバ106間に介設される第2常開型電磁弁131とで構成される。
【0061】
第1常開型電磁弁130が備える第1弁ハウジング132は、第1および第2出力ポート90,95の軸線と直交する軸線を有してシリンダボディ97に設けられる有底の第1装着孔133に装着されるものであり、第1装着孔133の内面および第1弁ハウジング132の外面間には、第2出力ポート95に通じる環状の第1入口室134と、第1出力ポート95の中間部に通じる環状の第1出口室135とが形成される。而して第1常開型電磁弁130は、そのソレノイド136の非通電時には前記第1入口室134および前記第1出口室135間すなわち第2および第1出力ポート95,90間を連通し、前記ソレノイド136の通電時には前記第1入口室134および前記第1出口室135間すなわち第2および第1出力ポート95,90間を遮断する。すなわち小径シリンダ91の第1出力ポート90は、油圧管路87Aに常時連通しているのに対し、大径シリンダ94の第2出力ポート95は、前記油圧管路87Aとの間の連通・遮断を第1常開型電磁弁130によって択一的に切換えられることになる。
【0062】
前記シリンダボディ97には、第2出力ポート95に通じた前記第1入口室134に通じる第1通路137が、第2出力ポート95と直交するようにして設けられており、第2常開型電磁弁131の第2弁ハウジング138は、第1装着孔133と平行な軸線を有してシリンダボディ97に設けられる有底の第2装着孔139に装着される。而して第2装着孔139の内面および第2弁ハウジング138の外面間には、前記第1通路137に通じる環状の第2入口室140と、環状の第2出口室141とが形成される。而してシリンダボディ97には、第2出口室141をリザーバ106に通じさせる第2通路142が設けられており、第2常開型電磁弁131は、そのソレノイド143の非通電時には前記第2入口室140および前記第2出口室141間すなわち第2出力ポート95およびリザーバ106間を連通し、前記ソレノイド143の通電時には前記第2入口室140および前記第2出口室141間すなわち第2出力ポート95およびリザーバ106間を遮断することになる。
【0063】
前記アクチュエータ85Aは、駆動源である電動モータ144と、第1および第2クランクピン148,149を有するとともに前記電動モータ144によって回転駆動されるクランク軸145と、小径ピストン88および大径ピストン92に一体に連なるピストンロッド88a,92aの後端に当接して第1および第2クランクピン148,149に回転可能に軸支される第1および第2回転部材150,151とを備え、電動モータ144は正逆回転自在である。
【0064】
前記シリンダボディ97には、小径シリンダ孔89および大径シリンダ孔93の開口端を覆うカバー152がシリンダボディ97との間に作動室154を形成するようにして複数のボルト153…で締結される。また前記電動モータ144は、前記小径シリンダ孔89および大径シリンダ孔93の軸線と平行な回転軸線を有しており、前記作動室154の一端を閉じるようにして前記カバー152に締結されるモータ支持ケース155で支持される。
【0065】
前記クランク軸145は、一端を前記モータ支持ケース155内に突入させる第1回転軸146と、第1回転軸146の他端偏心位置に一端が一体にかつ平行に連設される第1クランクピン148と、第1クランクピン148の他端に一端を対向させて同軸に配置される第2クランクピン149と、第2クランクピン149の他端偏心位置に一端が一体にかつ平行に連設されて第1回転軸146と同軸に配置される第2回転軸147と、第1および第2クランクピン148,149間を同軸に連結する連結部材155とを備える。
【0066】
第1回転軸146は、前記カバー152およびモータ支持ケース155に第1ボールベアリング156を介して回転自在に支承される。また前記モータ支持ケース155とは反対側で前記カバー152にはベアリング支持筒157が嵌合、固定されており、ベアリング支持筒157を同軸に貫通する第2回転軸147および前記ベアリング支持筒157間に第2ボールベアリング158が介装される。
【0067】
前記クランク軸145の一端すなわち第1回転軸146の一端には、電動モータ144の出力軸159に設けられるウォームギヤ160と、第1回転軸146の一端に設けられて前記ウォームギヤ160に噛合するウォームホイル161とによって、前記電動モータ144の回転動力が伝達される。また前記ベアリング支持筒157には、アクチュエータ85Aの作動量を検出して電動モータ144の作動を制御するための回転角センサ162のセンサケース163が締結されており、該回転角センサ162は、クランク軸145の他端すなわち第2回転軸147の他端に同軸に連結される。
【0068】
またクランク軸145の第1および第2クランクピン148,149には、第1および第2回転部材150,151が第1および第2ニードルベアリング164,165を介して装着されており、第1回転部材150は、第1戻しばね100によって後退方向に付勢された小径ピストン88に前端が一体に連なるピストンロッド88aの後端に当接し、第2回転部材151は、第2戻しばね101によって後退方向に付勢された大径ピストン92に前端が一体に連なるピストンロッド92aの後端に当接する。
【0069】
而して電動モータ144の作動によってクランク軸145が角変位するのに応じて小径シリンダ91における小径ピストン88の軸方向位置ならびに大径ピストン94における大径ピストン92の軸方向位置が定まることになる。
【0070】
さらに前記油圧管路87Aの途中にはセンサ166Aが設けられており、このセンサ166Aは、大径シリンダ94を油圧管路87Aに連通させた状態で油圧発生機構86から出力される油量が所定値以上となったか否かを検出する。
【0071】
ところで、前記切換え弁手段96の第1常開型電磁弁130は、油圧管路87Aおよび大径シリンダ94の第2出力ポート95の接続・遮断を切換え可能であり、クラッアクチュエータ85Aによる油圧発生機構86の駆動初期には第1常開型電磁弁130を開弁状態に保持するとともに第2常開型電磁弁131を閉弁することによって小径シリンダ91および大径シリンダ94の出力ポート90,95を油圧管路87Aにともに連通させる。それにより小径シリンダ91および大径シリンダ94から出力される油圧がともに油圧管路87Aから第1油圧室61に導かれる。
【0072】
而して油圧油圧発生機構86から出力される油量が所定値以上となったことを前記センサ166が検出するのに応じて切換え弁手段96の第1常開型電磁弁130は閉弁し、第2常開型電磁弁131が開弁するものであり、それにより油圧管路87Aおよび大径シリンダ94間が遮断されるとともに大径シリンダ94の第2出力ポート95がリザーバ106に連通することになる。この状態で小径シリンダ91の第1出力ポート90は油圧管路87Aに連通したままであり、第1油圧室61の油圧は小径シリンダ91の作動に応じて制御され、大径シリンダ94の第2出力ポンプ95はリザーバ106に連通したままである。
【0073】
さらに第1油圧室61の油圧を解放する際には、電動モータ144を逆転作動せしめて小径ピストン88および大径ピストン92を後退作動せしめるとともに、前記切換え弁手段96の第1および第2常開型電磁弁130,131を開弁する。
【0074】
前記油圧発生機構86Aにおけるシリンダボディ97の複数箇所には、該シリンダボディ97を支持する部材にマウントするためのマウントゴム167…が取付けられる。
【0075】
再び図3において、第2クラッチ断・接制御機構44の第2油圧室67に通じるオイル通路72には、前記油圧発生機構86Aと同様に構成される油圧発生機構86Bが油圧管路87Bを介して接続されており、この油圧発生機構86Bは、前記アクチュエータ85Aと同様に構成されるアクチュエータ85Bの作動に応じて油圧を発生する。また油圧管路87Bの途中には、油圧発生機構86から出力される油量が所定値以上となったか否かを検出するためのセンサ166Bが設けられる。
【0076】
次にこの第1実施例の作用について説明すると、油圧発生機構86A,86Bは、アクチュエータ85A,85Bで駆動される小径ピストン88を小径シリンダ孔89に摺動自在に嵌合せしめるとともに油圧管路87Aに通じる出力ポート90を有する小径シリンダ91と、アクチュエータ85A,85Bで駆動される大径ピストン92を小径シリンダ孔91よりも大径である大径シリンダ孔93に摺動自在に嵌合せしめて小径シリンダ91に並列配置される大径シリンダ94と、油圧管路87Aおよび大径シリンダ94の第2出力ポート95の接続・遮断を切換え可能な切換え弁手段96とをそれぞれ備えている。
【0077】
したがってアクチュエータ85A,85Bによる油圧発生機構86A,86Bの駆動初期に小径シリンダ91および大径シリンダ94の出力ポート90,95を油圧管路87A,87Bにともに連通させておくことにより、油圧管路87A,87Bに作動油を速やかに充填することが可能であり、充填時間の短縮ができ、第1および第2クラッチ作動機構41,42の断・接応答性を高めることができる。また立ち上がり後には、油圧管路87A,87Bおよび大径シリンダ94間を遮断することにより、小径シリンダ91の出力油圧だけで油圧室61,67に作用する油圧を昇圧することができる。
【0078】
また油圧発生機構86A,86Bは、少なくとも大径シリンダ94に作動油を供給可能なリザーバ106をそれぞれ備え、切換え弁手段96は、油圧管路87A,87Bおよびリザーバ106への大径シリンダ94の第2出力ポート95の連通・遮断を択一的に切換え可能であるので、小径シリンダ91だけによる油圧の昇圧時に、大径シリンダ94から出力される作動油をリザーバ106に戻すようにしてアクチュエータ85A,85Bでの動力損失を低減し、アクチュエータ85A,85Bの小型化を図ることができる。
【0079】
またアクチュエータ85A,85Bは、電動モータ144と、第1および第2クランクピン148,149を有するとともに前記電動モータ144によって回転駆動されるクランク軸145と、小径ピストン88および大径ピストン92に前端がそれぞれ一体に連なるピストンロッド88a,92aの後端に当接して前記第1および第2クランクピン148,149に回転可能に軸支される第1および第2回転部材150,151とをそれぞれ備えており、小径ピストン88および大径ピストン92が、前記両ピストンロッド88a,92aの後端を第1および第2回転部材150,151に当接させる側に付勢されているので、小径および大径シリンダ91,94のピストンロッド88a,92aをアクチュエータ85A,85Bに直接連結しないようにして、油圧発生機構86A,86Bの組付けを容易とすることができる。
【0080】
また切換え弁手段96が、第1および第2油圧室61,67の油圧を解放する際に大径シリンダ94の第2出力ポート95および油圧管路87A,87Bをリザーバ106に連通するので、油圧を解放する際に油圧管路87A,87B、小径シリンダ91および大径シリンダ94をリザーバ106に連通することで油圧解除の応答性が向上する。
【0081】
さらに大径シリンダ94を油圧管路87A,87Bに連通させた状態で油圧発生機構86A,86Bから出力される油量が所定値以上となったか否かがセンサ166A,166Bで検出され、切換え弁手段96は、前記センサ166A,166Bが所定量以上の油量を検出するのに応じて大径シリンダ94をリザーバ106に連通させるので、センサ166A,166Bによって切換え弁手段96の切換え作動タイミングを定めることになり、外乱の影響を考慮しながら適切に油量を制御することができる。
【0082】
図7および図8は本発明の第2実施例を示すものであり、図7は油圧クラッチ駆動装置の構成を示す図、図8はセパレータの拡大断面図である。
【0083】
なお図1〜図6の第1実施例に対応する部分には同一の参照符号を付して図示するのみとし、操作な説明は省略する。
【0084】
第1クラッチ断・接制御機構43の第1油圧室61に通じるオイル通路71および油圧発生機構86A間を結ぶ油圧管路87Aの途中には、油圧発生機構86Aに通じる油圧発生機構側油圧室171と、第1油圧室61に通じるとともに油圧発生機構側油圧室171とは隔絶されたクラッチ側油圧室172とを有するとともに、油圧発生機構側油圧室171の油圧変化に応じてクラッチ側油圧室172の油圧を変化させるようにしたセパレータ170が介設される。
【0085】
前記セパレータ170のケーシング173は、相互に対向する側を開放した有底円筒状の第1および第2ケース半体174,175が相互に締結されて成り、前記油圧発生機構86Aに通じる油圧発生機構側油圧室171を第1ケース半体174の閉塞端との間に形成する第1ピストン176が第1ケース半体174に液密にかつ摺動可能に嵌合され、第1油圧室61に通じるクラッチ側油圧室172を第2ケース半体175の閉塞端との間に形成する第2ピストン177が第2ケース半体175に液密にかつ摺動可能に嵌合される。また第2ケース半体175の閉塞端および第2ピストン177間にはクラッチ側油圧室172の容積を増大する側に第2ピストン177を付勢するばね178が縮設されており、第2ケース半体175の開口端内面には、クラッチ側油圧室172の容積を増大する側への第2ピストン177の移動端を規制する止め輪179が装着される。
【0086】
而して第1および第2ケース半体174,175を相互に締結してケーシング173を構成したときに、第1ケース半体174に摺動可能に嵌合される第1ピストン176に、第2ケース半体175に摺動可能に嵌合される第2ピストン177が当接される。すなわち第1および第2ピストン176,177は、油圧発生機構側油圧室171およびクラッチ側油圧室172を相互に隔絶するととともに、油圧発生機構側油圧室171の油圧変化に応じてクラッチ側油圧室172の油圧を変化させるようにして連動、連結されることになる。
【0087】
ケーシング173内で第1および第2ピストン176,177間には解放室180が形成されており、この解放室180を外部に連通させる解放孔181が、第1および第2ケース半体174,175の結合面間に形成される。
【0088】
第2ピストン177には、衝撃吸収ピストン182が液密にかつ摺動可能に嵌合されており、第2ピストン177および衝撃吸収ピストン182間に形成される衝撃吸収室183をクラッチ側油圧室172に通じさせる複数の連通孔184…が第2ピストン177に設けられる。また第2ピストン177の第1ピストン176側内面に装着された止め輪185で受けられるばね受け板186と、衝撃吸収ピストン182間には衝撃吸収ばね187が縮設される。
【0089】
而してクラッチ側油圧室172の油圧が急激に変化するのは衝撃吸収ピストン182が軸方向に作動して、クラッチ側油圧室172に通じた衝撃吸収室183の容積を変化させることによって回避され、第1油圧室61の油圧の急激な変化を抑制することが可能となる。
【0090】
さらに第1ケース半体174には油圧発生機構側油圧室171から空気を抜くためのエアブリーダ188が取付けられ、第2ケース半体175にはクラッチ側油圧室172から空気を抜くためのエアブリーダ189が取付けられる。
【0091】
この第2実施例によれば、油圧発生機構86A側の作動油ならびに第1クラッチ断・接制御機構43側の作動油の種類を分けることができ、油圧発生機構86A側の作動油を応答性の高いもの(たとえばATFオイルやブレーキ液)としてセパレータ170を第1クラッチ断・接制御機構43の近傍に配置することによって第1クラッチ作動機構41の応答性を高めることができ、また第1クラッチ断・接制御機構43の作動油を該クラッチ断・接制御機構43周辺の部材に用いる作動油と同種のもの(たとえばエンジンオイル)とすることにより第1油圧室61の周辺のシール構造を単純化することができる。
【0092】
第2クラッチ断・接制御機構44の第2油圧室67に通じるオイル通路72および油圧発生機構86B間を結ぶ油圧管路87Bの途中にも、図示はしないが、上記セパレータ170と同様のセパレータを介設することにより、上述と同様に、油圧発生機構86B側の作動油ならびに第2クラッチ断・接制御機構44側の作動油の種類を分けることができ、油圧発生機構86B側の作動油を応答性の高いものとして第2クラッチ作動機構42の応答性を高めることができ、また第2クラッチ断・接制御機構44の作動油を該クラッチ断・接制御機構44周辺の部材に用いる作動油と同種のものとすることにより第2油圧室67の周辺のシール構造を単純化することができる。
【0093】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】第1実施例のエンジンの一部を示す縦断面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】油圧クラッチ駆動装置の構成を示す図である。
【図4】図3の要部拡大図である。
【図5】図4の5−5線断面図である。
【図6】図5の6−6線断面図である。
【図7】第2実施例の油圧クラッチ駆動装置の構成を示す図である。
【図8】セパレータの拡大断面図である。
【符号の説明】
【0095】
7・・・被動回転部材である第1メインシャフト
8・・・被動回転部材である第2メインシャフト
28・・・駆動回転部材
41,42・・・クラッチ作動機構
43,44・・・クラッチ断・接制御機構
61,67・・・油圧室
85A,85B・・・アクチュエータ
86A,86B・・・油圧発生機構
87A,87B・・・油圧管路
88・・・小径ピストン
88a,92a・・・ピストンロッド
89・・・小径シリンダ孔
90,95・・・出力ポート
91・・・小径シリンダ
92・・・大径ピストン
93・・・大径シリンダ孔
94・・・大気シリンダ
96・・・切換え弁手段
106・・・リザーバ
144・・・駆動源である電動モータ
145・・・クランク軸
148,149・・・クランクピン
150,151・・・回転部材
166A,166B・・・センサ
170・・・セパレータ
171・・・油圧発生機構側油圧室
172・・・クラッチ側油圧室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動回転部材(28)および被動回転部材(7,8)間に設けられるクラッチ作動機構(41,42)と、油圧室(61,67)を有するとともに該油圧室(61,67)への油圧作用に応じて前記クラッチ作動機構(41,42)にその断・接を切換える制御力を及ぼすクラッチ断・接制御機構(43,44)と、アクチュエータ(85A,85B)と、該アクチュエータ(85A,85B)の作動に応じて油圧を発生する油圧発生機構(86A,86B)と、前記油圧室(61,67)および前記油圧発生機構(86A,86B)間を結ぶ油圧管路(87A,87B)とを備える油圧クラッチ駆動装置において、前記油圧発生機構(86A,86B)は、前記アクチュエータ(85A,85B)で駆動される小径ピストン(88)を小径シリンダ孔(89)に摺動自在に嵌合せしめるとともに前記油圧管路(87A,87B)に通じる出力ポート(90)を有する小径シリンダ(91)と、前記アクチュエータ(85A,85B)で駆動される大径ピストン(92)を前記小径シリンダ孔(91)よりも大径である大径シリンダ孔(93)に摺動自在に嵌合せしめて前記小径シリンダ(91)に並列配置される大径シリンダ(94)と、前記油圧管路(87A,87B)および前記大径シリンダ(94)の出力ポート(95)の接続・遮断を切換え可能な切換え弁手段(96)とを備えることを特徴とする油圧クラッチ駆動装置。
【請求項2】
前記油圧発生機構(86A,86B)は、少なくとも前記大径シリンダ(94)に作動油を供給可能なリザーバ(106)を備え、前記切換え弁手段(96)は、前記油圧管路(87A,87B)および前記リザーバ(106)への前記大径シリンダ(94)の出力ポート(95)の連通・遮断を択一的に切換え可能であることを特徴とする請求項1記載の油圧クラッチ駆動装置。
【請求項3】
前記アクチュエータ(85A,85B)は、駆動源(144)と、クランクピン(148,149)を有するとともに前記駆動源(144)によって回転駆動されるクランク軸(145)と、前記小径ピストン(88)および前記大径ピストン(92)に前端がそれぞれ一体に連なるピストンロッド(88a,92a)の後端に当接して前記クランクピン(148,149)に回転可能に軸支される一対の回転部材(150,151)とを備え、前記小径ピストン(88)および前記大径ピストン(92)が、前記両ピストンロッド(88a,92a)の後端を前記両回転部材(150,151)に当接させる側に付勢されることを特徴とする請求項1または2記載の油圧クラッチ駆動装置。
【請求項4】
前記切換え弁手段(96)が、前記油圧室(61,67)の油圧を解放する際に前記大径シリンダ(94)の出力ポート(95)および前記油圧管路(87A,87B)を前記リザーバ(106)に連通することを特徴とする請求項2記載の油圧クラッチ駆動装置。
【請求項5】
前記大径シリンダ(94)を前記油圧管路(87A,87B)に連通させた状態で前記油圧発生機構(86A,86B)から出力される油量が所定値以上となったか否かを検出するセンサ(166A,166B)を備え、前記切換え弁手段(96)は、前記センサ(166A,166B)が所定量以上の油量を検出するのに応じて大径シリンダ(94)を前記リザーバ(106)に連通させることを特徴とする請求項4記載の油圧クラッチ駆動装置。
【請求項6】
前記油圧発生機構(86A,86B)に通じる油圧発生機構側油圧室(171)と、前記油圧室(61,67)に通じるとともに油圧発生機構側油圧室(171)とは隔絶されたクラッチ側油圧室(172)とを有するとともに、油圧発生機構側油圧室(171)の油圧変化に応じてクラッチ側油圧室(172)の油圧を変化させるようにしたセパレータ(170)が、前記油圧管路(87A,87B)の途中に介設されることを特徴とする請求項1記載の油圧クラッチ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−315572(P2007−315572A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−148518(P2006−148518)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】