説明

油圧シリンダ

【課題】シール部材のリップ先端を保護しつつ、リップ先端付近でのキャビテーションの発生を抑制することを可能とする油圧シリンダを提供する。
【解決手段】シリンダ31の軸孔の内周面とピストン32との間の環状隙間のうちリップ12a1よりも先端側に、リップ12a1のはみ出しを抑制せしめるべく微小隙間Sで構成される部分を有する油圧シリンダであって、微小隙間Sで構成された環状隙間部分を挟んで装着溝31bと反対側には、該環状隙間部分の軸方向距離を短くせしめるキャビテーション発生抑制用の環状隙間領域が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧シリンダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、油圧シリンダは、ピストンと、シリンダと、これらの間の環状隙間を封止するシール部材とを備えている。そして、かかる油圧シリンダにおいては、シリンダに設けられた軸孔の内周面に対して微小隙間を有するように、この軸孔にピストンが挿入される。
【0003】
ここで、例えばブレーカーのように、ピストンとシリンダが高速で相対的な往復移動を行い、かつ油圧が高圧となる環境下で用いられる油圧シリンダにおいては、上記微小隙間の部分で、キャビテーションが発生する。
【0004】
キャビテーションが発生すると、気泡の崩壊によるキャビテーション衝撃波などにより、キャビテーションが発生する付近に瞬間的に非常に高い圧力が発生する。そのため、軸孔の内周に設けられた環状の装着溝に装着されているシール部材のリップ付近でキャビテーションが発生すると、リップの先端付近に虫食い状の欠損が発生し、密封性能が低下してしまう問題がある。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1には、シール部材が装着される装着溝におけるリップ先端付近に切欠を設けることによって、キャビテーションが発生する位置からシール部材までの距離を長くした技術が開示されている。このような従来技術について、図6を参照して説明する。図6は従来例に係る油圧シリンダにおけるシール部材が設けられている付近の模式的断面図である。
【0006】
図示のように、油圧シリンダにおいては、シリンダ300の軸孔内にピストン200が挿入される。そして、シリンダ300の軸孔の内周に形成された環状の装着溝301内に、シール部材であるパッキン100が装着される。この従来例において、図中左側はオイルが密封されており、図中右側にはガスが密封されている。以下、図中左側をオイル側(O)、図中右側をガス側(G)と称する。そして、この従来例においては、パッキン100は、パッキン本体101と、パッキン本体101の低圧側の内周端部の微小隙間Sへのはみ出しを防止するバックアップリング102とを備えている。
【0007】
そして、この従来例では、パッキン本体101のリップ101aよりも先端側(オイル側(O))に、装着溝301に隣接した小径の溝302(切欠)が設けられている。上記の通り、キャビテーションは微小隙間Sの部分で発生するため、この溝302が設けられている分だけ、キャビテーションが発生する位置からパッキン100までの距離を長くすることが可能となる。従って、キャビテーションを起因とする密封性能の低下を抑制することが可能となる。
【0008】
しかしながら、この従来例に係る油圧シリンダの場合には、パッキン本体101のリップ101aの先端側に比較的隙間が大きな溝302が形成される。そのため、リップ101aの一部または全部が、この溝302内に嵌まり込んでしまうことがある。これにより、リップ101aの先端に亀裂が生じたり、一部が欠けたりするなど、リップ101aが損傷してしまうおそれがある。従って、仕様によっては、この従来例のように、溝302を設けることによるキャビテーション対策を採用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−2571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、シール部材のリップ先端を保護しつつ、リップ先端付近でのキャビテーションの発生を抑制することを可能とする油圧シリンダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0012】
すなわち、本発明においては、シール部材におけるリップよりも先端側の隙間は、リップのはみ出しが抑制されるように微小隙間で構成し、かつ、この微小隙間により構成された部分における軸方向の距離を、キャビテーションが発生しないように短くする構成を採用した。
【0013】
これについて、より詳細に説明する。キャビテーションは、流体の流速が非常に速くなり、液体の圧力が局部的に液温の飽和圧力よりも低くなることで、その一部が蒸発して気泡が生じ、その後崩壊する現象である。従って、微小隙間の部分では、流体の流速が速くなるために、この部分でキャビテーションが発生し易くなる。しかしながら、微小隙間により構成された部分における軸方向の距離を短くすれば、流体が微小隙間で構成された部分を流れる距離が短くなる。従って、流体が微小隙間で構成された部分を流れる過程で、気泡が生ずるまでには至らなくなる。これにより、キャビテーションの発生を抑制することが可能となる。
【0014】
また、この構成の場合には、シール部材におけるリップ先端側の隙間は、リップのはみ出しが抑制されるように微小隙間で構成されるので、リップ先端が隙間にはまり込んでしまうことを抑制できる。
【0015】
より具体的な本発明の油圧シリンダは、
軸孔を有するシリンダと、
前記軸孔内に挿入されるピストンと、
前記軸孔の内周に形成された環状の装着溝内に装着され、軸孔内周とピストンとの間の環状隙間を封止するシール部材と、を備え、
前記シール部材は、軸方向に伸び、かつ前記ピストンに摺動するリップを備えると共に、
前記軸孔の内周面と前記ピストンとの間の環状隙間のうち前記リップよりも先端側に、該リップのはみ出しを抑制せしめるべく微小隙間で構成される部分を有する油圧シリンダであって、
前記微小隙間で構成された環状隙間部分を挟んで前記装着溝と反対側には、該環状隙間部分の軸方向距離を短くせしめるキャビテーション発生抑制用の環状隙間領域が形成されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の他の油圧シリンダは、軸孔を有するシリンダと、
前記軸孔内に挿入されるピストンと、
前記軸孔の内周に形成された環状の装着溝内に装着され、軸孔内周とピストンとの間の環状隙間を封止するシール部材と、を備え、
前記シール部材は、軸方向に伸び、かつ前記ピストンに摺動するリップを備える油圧シリンダであって、
前記リップよりも先端側には、前記装着溝に隣接して、該装着溝よりも小径であって、前記ピストンとの間の環状隙間が、キャビテーションが発生しない間隔である小径溝が設けられると共に、
前記装着溝内の前記小径溝側には、前記ピストンとの間の環状隙間が、前記リップのはみ出しを抑制せしめるべく微小隙間となり、かつ該微小隙間の部分における軸方向距離が短く構成された環状部材が装着されることを特徴とする。
【0017】
更に、本発明の他の油圧シリンダは、軸孔を有するシリンダと、
前記軸孔内に挿入されるピストンと、
前記軸孔の内周に形成された環状の装着溝内に装着され、軸孔内周とピストンとの間の環状隙間を封止するシール部材と、を備え、
前記シール部材は、軸方向に伸び、かつ前記ピストンに摺動するリップを備える油圧シリンダであって、
前記装着溝内における前記リップよりも先端側には環状部材が装着されており、該環状部材の内周面と前記ピストンとの間の環状隙間のうち前記リップ先端付近の隙間は、該リップのはみ出しを抑制せしめるべく微小隙間で構成されると共に、
前記環状部材の内周側には、この微小隙間で構成された環状隙間部分を挟んで前記シール部材と反対側に、該環状隙間部分の軸方向距離を短くせしめるキャビテーション発生抑制用の環状隙間領域が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、シール部材のリップ先端を保護しつつ、リップ先端付近でのキャビテーションの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例に係る油圧シリンダの模式的断面図である。
【図2】本発明の実施例1に係る油圧シリンダにおけるシール部材が設けられている付近の模式的断面図である。
【図3】本発明の実施例1に係る油圧シリンダにおけるシール部材が装着される付近の模式的断面図である。
【図4】本発明の実施例2に係る油圧シリンダにおけるシール部材が設けられている付近の模式的断面図である。
【図5】本発明の実施例3に係る油圧シリンダにおけるシール部材が設けられている付近の模式的断面図である。
【図6】図6は従来例に係る油圧シリンダにおけるシール部材が設けられている付近の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0021】
まず、図1を参照して、本発明の実施例に係る油圧シリンダの全体構成等について説明する。なお、ここでは、一例として油圧シリンダがブレーカーに適用された場合を例にして説明する。
【0022】
ブレーカー30は、軸孔を有する筒状のシリンダ31と、このシリンダ31の軸孔内に、軸孔の内周面に対してクリアランス(微小隙間)を有するように挿入されるピストン32とを備えている。ピストン32の先端には、コンクリートや岩盤を粉砕するためのチゼ
ル(ロッド)33が設けられている。
【0023】
そして、シリンダ31の先端側には筒状のフロントヘッド34が同軸的に固定されている。このフロントヘッド34の内側に、チゼル33が往復移動自在に設けられており、フロントヘッド34の内部には、チゼル33からの衝撃を受けるため、スラストリングやスラストブッシュが組み込まれている。また、シリンダ31の後端側には有底筒状のバックヘッド35が同軸的に固定されている。このバックヘッド35には、油圧の取出口やガスの吸気弁が組み込まれており、内部には窒素ガスGが充填されている。
【0024】
また、ブレーカー30には、ピストン32の往復移動の制御を行うためのコントロールバルブ36や、シリンダ31内に設けられた油圧回路の圧力補償及び脈動防止を行い、その内部には高圧の窒素ガスが充填されたアキュムレータ37も備えられている。
【0025】
そして、シリンダ31に設けられた軸孔とピストン32との間の環状隙間を封止するために、後端側と先端側にそれぞれ第1シーリングシステム10と第2シーリングシステム20が設けられている。なお、図1においては、これら第1シーリングシステム10と第2シーリングシステム20は簡略的に示している。そして、これら第1シーリングシステム10と第2シーリングシステム20の間には、油Oが封じ込められている。第1シーリングシステム10は、この油Oの漏れを防止するとともに、上述した窒素ガスGの漏れを防止する役割を担うものである。また、第2シーリングシステム20は、油Oの漏れを防止すると共に、外部からのダストの侵入を防止する役割を担うものである。
【0026】
以上のように構成されたブレーカー30においては、油圧とガス圧により、ピストン32と共に杭状のチゼル33を軸方向に高速で往復移動させて、チゼル33の先端を破壊対象(コンクリートや岩盤など)に打ち付けることで、破壊対象を粉砕することができる。なお、油圧によりガスを圧縮し、ガスの反発力を利用することによって、ピストン32及びチゼル33を破壊対象に向けて高速(例えば、10m/s)で移動させることができる。
【0027】
次に、第1シーリングシステム10の実施例1〜3を説明する。
【0028】
(実施例1)
図2及び図3を参照して、本発明の実施例1に係る油圧シリンダにおける第1シーリングシステム10について説明する。なお、図2及び図3は油圧シリンダにおいて、第1シーリングシステムが設けられる付近の模式的断面図である。図2では各種シールが装着された状態を示し、図3では各種シールが装着されていない状態を示している。
【0029】
第1シーリングシステム10は、バッファリング11と、シール部材としてのパッキン12とを備えている。バッファリング11は、断面略U字形状のバッファリング本体11aと、このバッファリング本体11aの低圧側(ガス側(G))の内周端部の微小隙間S(クリアランス)へのはみ出しを防止するバックアップリング11bとを備えている。
【0030】
パッキン12も同様に、断面略U字形状のパッキン本体12aと、パッキン本体12aの低圧側の内周端部の微小隙間Sへのはみ出しを防止するバックアップリング12bとを備えている。パッキン本体12aは、軸方向であって油が密封されているオイル側(O)に伸び、ピストン32に摺動するリップ12a1を備えている。
【0031】
バッファリング11は、主として密封対象である油の圧力(油圧)を緩衝する機能を発揮し、パッキン12は、主として油の漏れを防止する機能を発揮する。そして、これらバッファリング11とパッキン12とを備える第1シーリングシステム10によって、窒素
ガスが充填されているガス側(G)への油漏れを防止すると共に、油が封止されているオイル側(O)への窒素ガスの漏れを防止する。
【0032】
また、これらバッファリング11とパッキン12は、シリンダ31に設けられた軸孔の内周に形成された環状の装着溝31a,31b内に、それぞれ装着される。
【0033】
ここで、装着溝31bに装着されたパッキン12におけるパッキン本体12aのリップ12a1の先端側において、シリンダ31の軸孔の内周面とピストン32との間にできる環状隙間は、リップ12a1がはみ出してしまわないように微小隙間Sにより構成されている。
【0034】
そして、バッファリング11が装着される装着溝31aと、パッキン12が装着される装着溝31bとの間には、キャビテーション発生抑制用の環状隙間領域を形成する環状溝31cが形成されている。すなわち、この環状溝31cを設けることによって、リップ12a1よりも先端側における微小隙間Sで構成される部分の軸方向距離Xを短くしている。この軸方向距離Xは、シリンダ31における装着溝31bと環状溝31cとの間の隔壁の強度を維持しつつ、キャビテーションが発生しない程度に短く設定される。
【0035】
この点について、更に詳細に説明する。上記の通り、微小隙間の部分では、流体の流速が速くなるために、この部分でキャビテーションが発生し易くなる。しかしながら、微小隙間により構成された部分における軸方向の距離を短くすれば、流体(ここでは、オイル)が微小隙間で構成された部分を流れる過程で、気泡が生ずるまでには至らなくなる。これにより、キャビテーションの発生を抑制することが可能となる。そのため、上記軸方向距離Xを短くすればするほど、キャビテーションの発生を抑制することができる。しかしながら、この軸方向距離Xを短くするほど、装着溝31bと環状溝31cとの間の隔壁が薄くなって強度が低下してしまうので、この隔壁が破損してしまうなどの支障が生じない範囲で、軸方向距離Xを短くする必要がある。
【0036】
ここで、キャビテーションが発生しない軸方向距離は、微小隙間Sを流れる流体の物性と、微小隙間Sの間隔と、流体の最大流速との関係によって定まる。なお、流体の最大流速は、シリンダ31とピストン32の相対的な移動速度と流体の粘度などによって定まる。
【0037】
以上のように、本実施例に係るブレーカー30(油圧シリンダ)における第1シーリングシステム10によれば、パッキン12の付近(パッキン本体12aのリップ12a1付近)で、キャビテーションが発生することを抑制できる。従って、キャビテーションに起因する密封性能の低下を抑制することができる。また、リップ12a1の先端側の隙間は、リップ12a1のはみ出しが抑制されるように微小隙間Sで構成されるので、リップ12a1の先端が、この微小隙間Sにはまり込んでしまうことが抑制される。これらのことから、パッキン12の品質低下を抑制でき、パッキン12の耐久性を向上させることができる。
【0038】
(実施例2)
図4を参照して、本発明の実施例2に係る油圧シリンダにおける第1シーリングシステムについて説明する。基本的な構成は、上記実施例1の場合と同様であり、基本的構成が実施例1と同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。また、バッファリング11とパッキン12の構成については、上記実施例1と同一であるので、図4では、これらは簡略的に示している。
【0039】
本実施例においても、シリンダ31に設けられた軸孔の内周には、環状の装着溝31a
,31b1が設けられている。そして、これらの装着溝31a,31b1に、それぞれバッファリング11とパッキン12が装着される。
【0040】
そして、本実施例の場合には、装着溝31b1に隣接して、この装着溝31b1よりも小径であって、ピストン32との間の環状隙間が、キャビテーションが発生しない間隔に設定された小径溝31dが設けられている。なお、この小径溝31dは、オイル側(O)、すなわち、パッキン12におけるパッキン本体12aのリップ12a1(図4では不図示)よりも先端側に、装着溝31b1に隣接して設けられる。
【0041】
また、装着溝31b1内における小径溝31d側には、樹脂製の環状部材13が装着されている。この環状部材13は、その外周面が装着溝31b1の内周面に密着し、かつ、そのオイル側(O)の側面が装着溝31b1のオイル側(O)の内壁面に密着するように構成されている。そして、この環状部材13の内周面とピストン32との間の環状隙間は、リップ12a1がはみ出してしまわないように微小隙間Sにより構成されている。また、この環状部材13の厚み(微小隙間Sで構成される部分の軸方向距離Xに相当)は、環状部材13の強度を維持しつつ、キャビテーションが発生しないように短く設定される。
【0042】
以上のように、本実施例における小径溝31dは、上記実施例1における環状溝31cに相当する。つまり、この小径溝31dと環状部材13によって形成される領域が、上記実施例1におけるキャビテーション発生抑制用の環状隙間領域に相当する。また、本実施例における環状部材13は、上記実施例1における装着溝31bと環状溝31cとの間の隔壁に相当する。従って、本実施例においても、上記実施例1の場合と同様の作用効果が得られる。
【0043】
(実施例3)
図5を参照して、本発明の実施例3に係る油圧シリンダにおける第1シーリングシステムについて説明する。基本的な構成は、上記実施例1の場合と同様であり、基本的構成が実施例1と同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。また、バッファリング11とパッキン12の構成については、上記実施例1と同一であるので、図5では、これらは簡略的に示している。
【0044】
本実施例においても、シリンダ31に設けられた軸孔の内周には、環状の装着溝31a,31b2が設けられている。そして、これらの装着溝31a,31b2に、それぞれバッファリング11とパッキン12が装着される。
【0045】
そして、本実施例においては、装着溝31b2内におけるオイル側(O)、つまりリップ12a1(図5では不図示)の先端側には、樹脂製の環状部材14が装着されている。この環状部材14は、その外周面が装着溝31b2の内周面に密着し、かつ、そのオイル側(O)の側面が装着溝31b2のオイル側(O)の内壁面に密着するように構成されている。
【0046】
また、この環状部材14の内周面とピストン32との間の環状隙間のうちパッキン12の付近(リップ12a1の付近)の隙間は、リップ12a1がはみ出してしまわないように微小隙間Sにより構成されている。更に、この環状部材14の内周側には、この微小隙間Sで構成された環状隙間部分を挟んでパッキン12とは反対側に、この環状隙間部分の軸方向距離Xを短くせしめるキャビテーション発生抑制用の環状隙間領域を形成する環状の切欠14aが設けられている。これにより、微小隙間Sで構成される部分の軸方向距離Xは、環状部材14における当該部分の付近の強度を維持しつつ、キャビテーションが発生しないように短く設定される。
【0047】
以上のように、本実施例における切欠14aは、上記実施例1における環状溝31cに相当する。つまり、この切欠14aと装着溝31b2のオイル側(O)の内壁面によって形成される領域が、上記実施例1におけるキャビテーション発生抑制用の環状隙間領域に相当する。また、本実施例における環状部材14のうち内周面側における切欠14aが設けられていない部位が、上記実施例1における装着溝31bと環状溝31cとの間の隔壁に相当する。従って、本実施例においても、上記実施例1の場合と同様の作用効果が得られる。
【0048】
(その他)
以上の実施例においては、キャビテーション発生抑制用の環状隙間領域を、シール部材が装着される装着溝から離れた位置に設けられた環状溝により形成する場合(実施例1)と、装着溝に隣接した小径溝により形成する場合(実施例2)と、装着溝に装着した環状部材に設けた切欠により形成する場合(実施例3)を示した。しかしながら、キャビテーション発生抑制用の環状隙間領域を形成する方法としては、これらに限定されない。例えば、実施例2で示したような小径溝と、実施例3に示した環状部材に設けた切欠とを組み合わせて、当該環状隙間領域を形成するようにしてもよい。
【0049】
また、上記実施例1〜3では、ブレーカー30に備えられた第1シーリングシステム10におけるシール部材(パッキン12)の付近で、キャビテーションの発生を抑制する構成を示した。しかしながら、第2シーリングシステム20にもシール部材は備えられており、このシール部材の付近で、キャビテーションの発生を抑制させるために、上記実施例1〜3に示した構成を採用することもできる。また、上記実施例では、油圧シリンダの一例としてブレーカーの場合を示したが、その他の油圧シリンダにおけるシール部材の付近でキャビテーションの発生を抑制するために、上記実施例1〜3に示したような構成を採用することができる。
【符号の説明】
【0050】
10 第1シーリングシステム
11 バッファリング
11a バッファリング本体
11b バックアップリング
12 パッキン
12a パッキン本体
12a1 リップ
12b バックアップリング
13 環状部材
14 環状部材
14a 切欠
20 第2シーリングシステム
30 ブレーカー
31 シリンダ
31a,31b,31b1,31b2 装着溝
31c 環状溝
31d 小径溝
32 ピストン
33 チゼル
34 フロントヘッド
35 バックヘッド
36 コントロールバルブ
37 アキュムレータ
S 微小隙間
X 軸方向距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸孔を有するシリンダと、
前記軸孔内に挿入されるピストンと、
前記軸孔の内周に形成された環状の装着溝内に装着され、軸孔内周とピストンとの間の環状隙間を封止するシール部材と、を備え、
前記シール部材は、軸方向に伸び、かつ前記ピストンに摺動するリップを備えると共に、
前記軸孔の内周面と前記ピストンとの間の環状隙間のうち前記リップよりも先端側に、該リップのはみ出しを抑制せしめるべく微小隙間で構成される部分を有する油圧シリンダであって、
前記微小隙間で構成された環状隙間部分を挟んで前記装着溝と反対側には、該環状隙間部分の軸方向距離を短くせしめるキャビテーション発生抑制用の環状隙間領域が形成されていることを特徴とする油圧シリンダ。
【請求項2】
軸孔を有するシリンダと、
前記軸孔内に挿入されるピストンと、
前記軸孔の内周に形成された環状の装着溝内に装着され、軸孔内周とピストンとの間の環状隙間を封止するシール部材と、を備え、
前記シール部材は、軸方向に伸び、かつ前記ピストンに摺動するリップを備える油圧シリンダであって、
前記リップよりも先端側には、前記装着溝に隣接して、該装着溝よりも小径であって、前記ピストンとの間の環状隙間が、キャビテーションが発生しない間隔である小径溝が設けられると共に、
前記装着溝内の前記小径溝側には、前記ピストンとの間の環状隙間が、前記リップのはみ出しを抑制せしめるべく微小隙間となり、かつ該微小隙間の部分における軸方向距離が短く構成された環状部材が装着されることを特徴とする油圧シリンダ。
【請求項3】
軸孔を有するシリンダと、
前記軸孔内に挿入されるピストンと、
前記軸孔の内周に形成された環状の装着溝内に装着され、軸孔内周とピストンとの間の環状隙間を封止するシール部材と、を備え、
前記シール部材は、軸方向に伸び、かつ前記ピストンに摺動するリップを備える油圧シリンダであって、
前記装着溝内における前記リップよりも先端側には環状部材が装着されており、該環状部材の内周面と前記ピストンとの間の環状隙間のうち前記リップ先端付近の隙間は、該リップのはみ出しを抑制せしめるべく微小隙間で構成されると共に、
前記環状部材の内周側には、この微小隙間で構成された環状隙間部分を挟んで前記シール部材と反対側に、該環状隙間部分の軸方向距離を短くせしめるキャビテーション発生抑制用の環状隙間領域が形成されていることを特徴とする油圧シリンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−286014(P2010−286014A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138584(P2009−138584)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】