説明

油圧式テンショナ

【課題】ハウジング本体内の高圧状態を維持し易く、ハウジング本体内が負圧状態になった場合のみ、ハウジング本体内に混入した混入空気を簡便に脱気できるとともに、ハウジング本体内に簡便かつ強固に組み付けることができる部品耐久性に優れた油圧式テンショナを提供すること。
【解決手段】油圧式テンショナ100の脱気弁ユニットが、高圧油室R内の圧油の流出を阻止して混入空気を脱気するチェックボール弁151と、このチェックボール弁151を内包状態で遊動させるボールガイド152と、このボールガイド152に固着されてチェックボール弁151をボールガイド152内に封止する円板状のリテーナ153と、ボールガイド152に固着されてチェックボール弁151の着座で高圧油室R内の圧油の流出を阻止するボールシート154と、このボールシート154に向けてチェックボール弁151を付勢するボール弁付勢用ばね155とで構成されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両用エンジンのタイミングベルト、またはタイミングチェーン等に適正な張力を付与するための油圧式テンショナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用エンジンのクランクシャフトとカムシャフトとの間で回転を伝達するタイミングベルトやタイミングチェーンには、走行時の張力変動によるバタツキを抑制するためのボールチェック弁機構を備えた油圧式テンショナが広く用いられている。
【0003】
従来、このようなボールチェック弁機構を備えた油圧式テンショナとして、ハウジング510の穴内にスライド自在に挿入された中空のプランジャ520を突出方向に付勢するスプリングとプランジャ520の内部において先端部側に一体的に組み込まれたプレッシャーリリーフバルブ組立体540およびエアベントディスク550とを設けて、ハウジング510内に混入した混入空気をプランジャ520の先端部の開孔を介してテンショナ外に排気するようにした液圧テンショナ500がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−21011号公報(第1頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかながら、前述したような特開2001−21011号公報に開示された従来の液圧テンショナ500は、ハウジング510内に混入した混入空気がプランジャ520の内周面とプレッシャーリリーフバルブ組立体540およびエアベントディスク550の外周面との間の間隙を経た後にこのエアベントディスク550に形成された螺旋状溝551を通ってプランジャ520の先端部からテンショナ外に排気するように構成されているため、プランジャ520の先端部の底面と螺旋状溝551との間に形成される混入空気が適度に流通するに足りる最適なクリアランスの設定が極めて困難であり、また、プレッシャーリリーフバルブ組立体540を構成するボール541がハウジング510内に向けて付勢されて弁機構を構成しているため、例えば、過剰に押し戻されるプランジャ520に対してハウジング510内の高圧状態が要求される場合に、ハウジング510内の高圧油がテンショナ外に過剰流出してハウジング510内の高圧状態を維持することができないという問題があり、また、プレッシャーリリーフバルブ組立体540およびエアベントディスク550を部品製造工程やハウジング510への組み付け工程において別体として取り扱わなければならないため、その製造コストが高く、液圧テンショナ500の組立性にも問題があった。
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題、すなわち、本発明の目的は、上述したような問題を解決するものであって、ハウジング本体内の高圧状態を維持し易く、ハウジング本体内が負圧状態になった場合のみ、ハウジング本体内に混入した混入空気を簡便に脱気できるとともに、ハウジング本体内に簡便かつ強固に組み付けることができる部品耐久性に優れた油圧式テンショナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
まず、本請求項1に係る発明は、ハウジング本体内に形成されたプランジャ摺動穴から走行チェーンに向けて摺動自在に突出する円筒状のプランジャと、前記プランジャ摺動穴とプランジャ内に形成されたプランジャ内部穴との間に介在してプランジャを突出させる方向に付勢するプランジャ付勢手段と、前記プランジャ内部穴の先端側底部に組み込まれて前記プランジャ摺動穴とプランジャ内部穴との間で構成される高圧油室内の混入空気を先端側底部の排気口から脱気する脱気弁ユニットとを備えた油圧式テンショナにおいて、前記脱気弁ユニットが、高圧油室内の圧油の流出を阻止して混入空気を脱気するチェックボール弁と、該チェックボール弁を内包状態で遊動させるボールガイドと、該ボールガイドに固着されてチェックボール弁をボールガイド内に封止する円板状のリテーナと、前記ボールガイドに固着されてチェックボール弁の着座で高圧油室内の圧油の流出を阻止するボールシートと、該ボールシートに向けてチェックボール弁を付勢するボール弁付勢用ばねとで構成されていることにより、前記課題を解決するものである。
【0007】
そして、本請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の構成に加えて、前記高圧油室内の圧油の逆流を阻止する逆止弁ユニットが、プランジャ摺動穴の底部に組み込まれていることにより、前記課題を解決するものである。
【0008】
また、本請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に係る発明の構成に加えて、
前記脱気弁ユニットのリテーナとボールシートが、合成樹脂からなるボールガイドの外周壁部分に加熱下でカシメにより固着されていることにより、前記課題をより一段と解決するものである。
【0009】
また、本請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに係る発明の構成に加えて、前記脱気弁ユニットのボールガイドが、ボールシート組み付け側からリテーナ組み付け側に向けてテーパー状に大径化した外周壁部分を備えてプランジャ内部穴に圧入されていることにより、前記課題をより一段と解決するものである。
【0010】
さらに、本請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに係る発明の構成に加えて、前記プランジャ付勢手段が、ボールガイドに当接する外側ばねと該外側ばねに同軸状に内包配置されてリテーナに当接する内側ばねとで構成されていることにより、前記課題をより一段と解決するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の油圧式テンショナは、ハウジング本体内に形成されたプランジャ摺動穴から走行チェーンに向けて摺動自在に突出する円筒状のプランジャと、前記プランジャ摺動穴とプランジャ内に形成されたプランジャ内部穴との間に介在してプランジャを突出させる方向に付勢するプランジャ付勢手段と、前記プランジャ内部穴の先端側底部に組み込まれて前記プランジャ摺動穴とプランジャ内部穴との間で構成される高圧油室内の混入空気を先端側底部の排気口から脱気する脱気弁ユニットとを備えていることにより、車両用エンジンのタイミングベルト、タイミングチェーン等の過度の張力変動に伴うバタツキ、特に、エンジン始動時に高圧油室内に存在する混入空気の影響によるチェーンのバタツキを抑制することができるばかりでなく、以下のような構成を備えていることによって、特有の効果を奏することができる。
【0012】
すなわち、本請求項1に係る油圧式テンショナの脱気弁ユニットは、高圧油室内の圧油の流出を阻止して混入空気を脱気するチェックボール弁と、該チェックボール弁を内包状態で遊動させるボールガイドと、該ボールガイドに固着されてチェックボール弁をボールガイド内に封止する円板状のリテーナと、前記ボールガイドに固着されてチェックボール弁の着座で高圧油室内の圧油の流出を阻止するボールシートと、該ボールシートに向けてチェックボール弁を付勢するボール弁付勢用ばねとで構成されていることにより、脱気弁ユニット内のチェックボール弁がプランジャ内部穴の先端側底部に向けてボール弁付勢用ばねで付勢されているため、従来の液圧テンショナのようなプランジャ先端部の底面と螺旋状溝との間に形成される設定困難なクリアランス構造を採用することなく、過剰に押し戻されるプランジャに対してハウジング本体内の高圧状態が要求される場合にハウジング本体内における高圧油のテンショナ外への流出を阻止してハウジング本体内の高圧状態を維持できるとともに、ハウジング本体内が負圧状態になった場合のみ、ハウジング本体内に混入した混入空気をチェックボール弁を介してプランジャ内部穴の先端側底部に設けられた排気口から簡便に脱気することができる。
【0013】
そして、本請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明が奏する効果に加えて、前記高圧油室内の圧油の逆流を阻止する逆止弁ユニットが、プランジャ摺動穴の底部に組み込まれていることにより、車両用エンジンのタイミングベルト、タイミングチェーン等の走行時に生じた過度な張力変動でプランジャが急激に後退動作した場合であっても、高圧油室内の圧油を逆流させることなく、このようなプランジャの後退動作に伴う衝撃力に対抗することができる。
【0014】
また、本請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に係る発明が奏する効果に加えて、前記脱気弁ユニットのリテーナとボールシートが、合成樹脂からなるボールガイドの外周壁部分に加熱下でカシメにより固着されていることにより、ボールガイドに対してリテーナとボールシートを脱落させることなく簡便にかつ強固に一体化して組み立てることができるので、部品組み立て工程におけるチェックボール弁、ボール弁付勢用ばねなどとの一連の組み立て作業負担を著しく軽減することができるともに、このようにして一体化された脱気弁ユニットをプランジャ内部穴の先端側底部に容易に組み付けることができるので脱気弁ユニットの組み付け工程の作業負担も著しく軽減することができる。
【0015】
また、本請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに係る発明が奏する効果に加えて、前記脱気弁ユニットのボールガイドが、ボールシート組み付け側からリテーナ組み付け側に向けてテーパー状に大径化した外周壁部分を備えてプランジャ内部穴に圧入されていることにより、脱気弁ユニットをプランジャ内部穴の先端側底部に脱落させることなく確実にかつ強固に組み付けることができる。
【0016】
さらに、本請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに係る発明が奏する効果に加えて、前記プランジャ付勢手段が、ボールガイドに当接する外側ばねと該外側ばねに同軸状に内包配置されてリテーナに当接する内側ばねとで構成されていることにより、逆止弁ユニットがプランジャ摺動穴の底部により強固に固定することができ、車両用エンジンのタイミングベルト、タイミングチェーン等の走行時に生じた過度な張力変動でプランジャが急激に後退動作した場合であっても、この後退動作に伴う衝撃力に対抗できる充分な弾発力を発揮してタイミングベルト、タイミングチェーン等のバタツキを大幅に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の油圧式テンショナは、高圧油室内の圧油の流出を阻止して混入空気を脱気するチェックボール弁と、該チェックボール弁を内包状態で遊動させるボールガイドと、該ボールガイドに固着されてチェックボール弁をボールガイド内に封止する円板状のリテーナと、前記ボールガイドに固着されてチェックボール弁の着座で高圧油室内の圧油の流出を阻止するボールシートと、該ボールシートに向けてチェックボール弁を付勢するボール弁付勢用ばねとで構成された脱気弁ユニットを備えていることを特徴とするものであって、ハウジング本体内の高圧状態を維持し易く、ハウジング本体内が負圧状態になった場合のみ、ハウジング本体内に混入した混入空気を簡便に脱気できるとともに、ハウジング本体内に簡便かつ強固に組み付けることができる部品耐久性に優れたものであれば、その具体的なテンショナ形態は如何なるものであっても良く、例えば、ハウジング本体のプランジャ摺動穴から走行チェーンに向けて摺動自在に突出するプランジャと前記プランジャ摺動穴とプランジャ内に形成されたプランジャ内部穴との間に介在してプランジャを突出させる方向に付勢するプランジャ付勢手段と前記プランジャ摺動穴の底部に組み込まれて高圧油室内の圧油の逆流を阻止する逆止弁ユニットと高圧油室内の混入空気を脱気する脱気弁ユニットとを備えた油圧式テンショナや、このような油圧式テンショナやばね式テンショナにプランジャの形成したラックとハウジングに軸支されたラチェット機構を付加したものであっても何ら差し支えない。
【0018】
ここで、前記脱気弁ユニットを構成するボールガイドの素材については、加熱下でカシメによりリテーナとボールシートを固着することができるものであれば、合成樹脂製のものであってもそれ以外のものであっても良く、合成樹脂製のものである場合にはその組み立て負担が著しく軽減されて簡便となる。
【実施例】
【0019】
本発明の実施例である油圧式テンショナを図1乃至図5を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施例である油圧式テンショナを用いた使用態様図であり、図2は、図1に示す油圧式テンショナの断面図であり、図3は、図2に示す逆止弁ユニットを一部破断して拡大した斜視図であり、図4は、図3に示す逆止弁ユニットの分解組み立て図であり、図5は、図2に示す脱気弁ユニットを一部破断して拡大した斜視図であり、図6は、図5に示す脱気弁ユニットの分解組み立て図であり、図7は、本発明の第2実施例である油圧式テンショナの断面図であり、図8は、本発明の第3実施例である油圧式テンショナの断面図である。
【0020】
まず、図1乃至図2に示すように、本発明の第1実施例である油圧式テンショナ100は、エンジンのクランクシャフトで回転される駆動側スプロケットS1とカムシャフトに固定されている被駆動側スプロケットS2、S2の間に掛け渡されているタイミングチェーンCの弛み側でエンジン本体に取り付けられて、そのハウジング本体110の前面からプランジャ120が出没自在に突出しており、プランジャ120がエンジン本体側に揺動自在に支持されている可動レバーL1の揺動端近傍の背面を押圧することにより、可動レバーL1を介してタイミングチェーンCの弛み側に張力を付与している。なお、タイミングチェーンCの張り側にはタイミングチェーンCの走行を案内する固定ガイドL2がエンジン本体側に取り付けられている。
【0021】
そして、前記駆動側スプロケットS1と被駆動側スプロケットS2とは、駆動側スプロケットS1が矢印の方向に回転すると、タイミングチェーンCが矢印の方向に走行し、次いで、このタイミングチェーンCの走行によって被駆動側スプロケットS2が矢印の方向に回転し、駆動側スプロケットS1の回転が被駆動側スプロケットS2に伝達するようになっている。
【0022】
図2に示す本実施例の油圧式テンショナ100は、ハウジング本体110に形成されたプランジャ摺動穴111内に円筒状のプランジャ120が摺動自在に嵌挿され、このプランジャ摺動穴111とプランジャ120内に形成されたプランジャ内部穴121との間に高圧油室Rが介在して形成され、また、この高圧油室Rには、プランジャ120を突出方向に付勢するコイルスプリングからなるプランジャ付勢手段130が収容されている。
そして、前記プランジャ摺動穴111の底部には、高圧油室R内の圧油の逆流を阻止する逆止弁ユニット140が組み込まれている。
さらに、前記プランジャ内部穴121の先端側底部には、高圧油室R内の混入空気を先端側底部の排気口122から脱気する脱気弁ユニット150が組み込まれている。
【0023】
そこで、本実施例の油圧式テンショナ100に組み込んだ逆止弁ユニット140について、図3乃至図4に基づいて詳しく説明する。
すなわち、前記逆止弁ユニット140は、圧油の流動を規制するチェックボール弁141と、このチェックボール弁141を内包状態で遊動させる合成樹脂製のボールガイド142と、該ボールガイド142の高圧油室R側外周壁部分に加熱下でカシメにより固着されてチェックボール弁141をボールガイド142内に封止する円板状のリテーナ143と、前記ボールガイド142の流入側外周壁部分に加熱下でカシメにより固着されてチェックボール弁141の着座で圧油の逆流を阻止する金属製のボールシート144と、該ボールシート144に向けてチェックボール弁141を付勢するボール弁付勢用ばね145とで構成された組立体となっており、高圧油室R内の圧油の逆流を阻止するようになっている。
【0024】
なお、図3乃至図4の符号142aは、チェックボール弁141を内包状態で遊動させるためのボールガイド142に設けたボールガイド孔であり、符号142bは、プランジャ摺動穴111の底部に圧入固定するためのボールガイド142に設けた外周舌片であり、符号143aは、リテーナ143に穿孔した圧油の連通孔であり、符号144aは、供給源側から圧油を逆止弁ユニット140内に流入させるためのボールシート144に設けた流入孔である。また、本実施例の油圧式テンショナ100では、ボール弁付勢用ばね145を用いたが、チェックボール弁141のボールガイド孔142aとのクリアランスとチェックボール弁141とボールシート144とリテーナ143との間のクリアランスを適宜設定すれば、無くても何ら構わない。
【0025】
そこで、本実施例の油圧式テンショナ100が最も特徴とする脱気弁ユニット150は、図5乃至図6に示すように、圧油と混入空気の流動を規制するチェックボール弁151と、このチェックボール弁151を内包状態で遊動させる合成樹脂製のボールガイド152と、該ボールガイド152の高圧油室R側外周壁部分に加熱下でカシメにより固着されてチェックボール弁151をボールガイド152内に封止するとともに高圧油室R内の混入空気をボールガイド152内に誘い込む円板状のリテーナ153と、前記ボールガイド152の排気側外周壁部分に加熱下でカシメにより固着されてチェックボール弁151の着座で圧油の流出を阻止するとともに金属製のボールシート154と、このボールシート154に向けてチェックボール弁151を付勢するボール弁付勢用ばね155とで構成された組立体となっており、高圧油室R内の混入空気のみを先端側底部の排気口122に向けて排気するようになっている。
【0026】
そして、前記脱気弁ユニット150のボールガイド152は、ボールシート154の組み付け側からリテーナ153の組み付け側に向けてテーパー状に大径化した外周壁部分152aを備えてプランジャ内部穴121に圧入されていることにより、脱気弁ユニット150をプランジャ内部穴121の先端側底部に脱落させることなく確実にかつ強固に組み付けている。
なお、図5乃至図6の符号152bは、チェックボール弁151を内包状態で遊動させるためのボールガイド152に設けたボールガイド孔であり、符号153aは、高圧油室R内の混入空気を取り込むためのリテーナ153の3ヶ所に穿孔した連通孔であり、符号154aは、高圧油室R内の混入空気を先端側底部の排気口122に向けて排気するためのボールシート154に設けた通気孔である。
【0027】
そして、前記円板状のリテーナ153は、合成樹脂からなるボールガイド152の高圧油室側R外周壁部分に加熱下でカシメにより固着され、プランジャ内部穴121の底部へ逆止弁ユニット150を組み付ける際にリテーナ153を脱落させることなく簡便にかつ強固に組み付けることができるようになっている。
その結果、前記コイルスプリングからなるプランジャ付勢手段130の先端部分がボールガイド152の高圧油室R側に確実に当接して位置決めされ、プランジャ内部穴121内で異常接触することなく伸縮して付勢作用を発揮することができるので、このようなコイルスプリングからなるプランジャ付勢用ばね130の異常接触に起因する磨損や接触騒音が解消できるようになっている。
【0028】
さらに、前記ボールシート154は、ボールガイド152の排気側外周壁部分に加熱下でカシメにより固着されて、プランジャ内部穴121の底部へ脱気弁ユニット150を組み付ける際に、前述したリテーナ153と同様に、ボールシート154を脱落させることなく、簡便にかつ強固に組み付けらるようになっている。
【0029】
なお、本実施例における合成樹脂製のボールガイド142、152は、エンジン駆動時の高温下で使用するため、優れた耐熱性を発揮するナイロン46、ナイロン66、ガラス繊維強化ナイロン等のポリアミド樹脂を使用するのが好ましく、この合成樹脂からなるボールガイド142、152の外周壁部分をカシメる場合には、加熱軟化した状態で行っているため、固着時に優れた保形性を発揮することができる。
また、前記リテーナ143、153は、チェックボール弁141、151をボールガイド142、152内にそれぞれ封止するとともに、コイルスプリングからなるプランジャ付勢手段130の両端がリテーナ143、153にそれぞれ確実に位置決めされた当接状態で組み付けられるため、金属製とするのが好ましい。
さらに、前記チェックボール弁141、151は、金属製、セラミック製、あるいは合成樹脂製のいずれかでできており、合成樹脂製のボールガイド142、152内で移動が可能な直径を有しており、後者のチェックボール弁151は、脱気弁ユニット150がプランジャ摺動穴111より小径のプランジャ内部穴121に組み込まれる関係上、チェックボール弁141より幾分か小径となっている。
【0030】
このようにして得られた本実施例の油圧式テンショナ100は、常時、高圧油室R内が、逆止弁ユニット140を介して外部からオイルポンプ等による圧油で満たされており、走行するタイミングチェーンCが緩むと、プランジャ付勢手段130で常時付勢されているプランジャ120が突出し、逆止弁ユニット140が開放し油が高圧油室R内に流入するようになっている。
【0031】
そして、タイミングチェーンCから衝撃力を受けてプランジャ120がプランジャ付勢手段130の付勢力に抗してハウジング本体110のプランジャ摺動穴111内に押し込まれて後退すると、高圧油室R内の圧油の圧力が上昇して逆止弁ユニット140のチェックボール弁141がボールシート144に押し付けられて、高圧油室Rからボールシート144の油通路144aへの圧油の逆流が阻止される。
【0032】
その結果、高圧油室R内の油圧がさらに高くなり、圧油はプランジャ120の外周面とプランジャ摺動穴111の内周面との間の僅かな隙間からリークしてハウジング本体110の外部へ排出され、その際に生じる圧油の粘性による流動抵抗によってプランジャ120に作用する衝撃力が緩和され、衝撃力によるプランジャ120の振動が速やかに減衰されるようになっている。
【0033】
したがって、本実施例の油圧式テンショナ100は、車両用エンジンのタイミングベルト、タイミングチェーン等の過度の張力変動に伴うバタツキを抑制することができるばかりでなく、脱気弁ユニット150内のチェックボール弁151がプランジャ内部穴121の先端側底部に向けてボール弁付勢用ばね155で付勢されているため、過剰に押し戻されるプランジャ120に対してハウジング本体110内の高圧状態が要求される場合にハウジング本体110内における高圧油のテンショナ外への流出を阻止してハウジング本体110内の高圧状態を維持できるとともに、ハウジング本体110内が負圧状態になった場合のみ、ハウジング本体110内に混入した混入空気をチェックボール弁151を介してプランジャ内部穴121の先端側底部に設けられた排気口122から簡便に脱気することができ、しかも、従来の液圧テンショナ500のようなプランジャ先端部の底面と螺旋状溝との間に形成される設定困難なクリアランス構造を採用することもなく、その効果は甚大である。
【0034】
つぎに、本発明の第2実施例である油圧式テンショナ200について、図7に基づいて説明する。
まず、図7に示す油圧式テンショナ200も、前述した油圧式テンショナ100と同様に、図1に示すようなエンジン本体に取り付けて使用される。
本実施例の油圧式テンショナ200は、前述した油圧式テンショナ100と対比すると、逆止弁ユニット240のリテーナ243と脱気弁ユニット250のボールガイド252とに当接する外側ばね231と、この外側ばね231に同軸状に内包配置されて逆止弁ユニット240のリテーナ243とリテーナ253に当接する内側ばね232とで構成されるプランジャ付勢手段230を備えている点が異なっており、その他の具体的な構成は、前述した油圧式テンショナ100と同じである。
したがって、図7に示す油圧式テンショナ200は、油圧式テンショナ100と同一の部材について対応する200番代の符号を付して重複する説明を省略する。
【0035】
そこで、本実施例の油圧式テンショナ200は、逆止弁ユニット240のリテーナ243と脱気弁ユニット250のボールガイド252とに当接する外側ばね231と、この外側ばね231に同軸状に内包配置されて逆止弁ユニット240のリテーナ243とリテーナ253に当接する内側ばね232とを備えていることにより、車両用エンジンのタイミングベルト、タイミングチェーン等の走行時に生じた過度な張力変動でプランジャが急激に後退動作した場合であっても、この後退動作に伴う衝撃力に対抗できる充分な弾発力を発揮してタイミングベルト、タイミングチェーン等のバタツキを大幅に抑制するとともに、逆止弁ユニット240をプランジャ摺動穴111の後端底部に押し付けると同時に脱気弁ユニット250をプランジャ内部穴121の先端側底部にそれぞれ押し付けるため、逆止弁ユニット240と脱気弁ユニット250がタイミングベルト、タイミングチェーン等の走行振動に影響されることなく、油圧の逆流防止作用と混入空気の脱気作用とを安定して発揮する。
【0036】
このようにして得られた本実施例の油圧式テンショナ200は、プランジャ220の急激な後退動作に伴う衝撃力に対抗できる充分な弾発力を発揮してタイミングチェーン等のバタツキを大幅に抑制することができるとともに、脱気弁ユニット250内のチェックボール弁251がプランジャ内部穴221の先端側底部に向けてボール弁付勢用ばね255で付勢されているため、過剰に押し戻されるプランジャ220に対してハウジング本体210内の高圧状態が要求される場合にハウジング本体210内における高圧油のテンショナ外への流出を阻止してハウジング本体210内の高圧状態を維持できるとともに、ハウジング本体210内が負圧状態になった場合のみ、ハウジング本体210内に混入した混入空気をチェックボール弁251を介してプランジャ内部穴221の先端側底部に設けられた排気口222から簡便に脱気することができ、その効果は甚大である。
【0037】
つぎに、本発明の第3実施例である油圧式テンショナ300について、図8に基づいて説明する。
図8に示す油圧式テンショナ300も、前述した油圧式テンショナ100や油圧式テンショナ200と同様に、図1に示すようなエンジン本体に取り付けて使用される。
本実施例の油圧式テンショナ300は、前述した油圧式テンショナ200と対比すると、プランジャ320に形成したラック323とハウジング本体310に軸支されたラチェット爪体360が噛み合うことによりプランジャ320の後退が阻止されるラチェット機構を備えている点が異なっており、その他の具体的な構成は、前述した油圧式テンショナ200と同じである。なお、図8に示す符号370は、ラチェット爪体360をプランジャ320のラック323に向けて付勢するためのラチェット付勢用ばねである。
したがって、図8に示す油圧式テンショナ300は、油圧式テンショナ100や油圧式テンショナ200と同一の部材について対応する300番代の符号を付して重複する説明を省略する。
【0038】
このようにして得られた本実施例の油圧式テンショナ300は、前述したラチェット機構が奏する効果に加えて、油圧式テンショナ200と同様に、プランジャ320の急激な後退動作に伴う衝撃力に対抗できる充分な弾発力を発揮してタイミングチェーン等のバタツキを大幅に抑制することができるとともに、脱気弁ユニット350内のチェックボール弁351がプランジャ内部穴321の先端側底部に向けてボール弁付勢用ばね355で付勢されているため、過剰に押し戻されるプランジャ320に対してハウジング本体310内の高圧状態が要求される場合にハウジング本体310内における高圧油のテンショナ外への流出を阻止してハウジング本体310内の高圧状態を維持できるとともに、ハウジング本体310内が負圧状態になった場合のみ、ハウジング本体310内に混入した混入空気をチェックボール弁351を介してプランジャ内部穴321の先端側底部に設けられた排気口322から簡便に脱気することができ、その効果は甚大である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1実施例である油圧式テンショナを用いた使用態様図。
【図2】図1に示す油圧式テンショナの断面図。
【図3】図2に示す脱気弁ユニットを一部破断して拡大した斜視図。
【図4】図3に示す脱気弁ユニットの分解組み立て図。
【図5】図2に示す逆止弁ユニットを一部破断して拡大した斜視図。
【図6】図5に示す逆止弁ユニットの分解組み立て図。
【図7】本発明の第2実施例である油圧式テンショナの断面図。
【図8】本発明の第3実施例である油圧式テンショナの断面図。
【図9】従来の油圧式テンショナの断面図。
【図10】図9に示す逆止弁ユニットの拡大図。
【符号の説明】
【0040】
100,200,300 ・・・油圧式テンショナ
110,210,310 ・・・ハウジング本体
111,211,311 ・・・プランジャ摺動穴
120,220,320 ・・・プランジャ
121,221,321 ・・・プランジャ内部穴
122,222,322 ・・・排気口
130,230,330 ・・・プランジャ付勢手段
140,240,340 ・・・逆止弁ユニット
141,241,341 ・・・チェックボール弁
142,242,342 ・・・ボールガイド
142a ・・・ボールガイド孔
143,243,343 ・・・リテーナ
143a ・・・圧油の連通孔
144,244,344 ・・・ボールシート
144a ・・・ボールシートの流入孔
145,245,345 ・・・ボール弁付勢用ばね
150,250,350 ・・・脱気弁ユニット
151,251,351 ・・・チェックボール弁
152,252,352 ・・・ボールガイド
152a ・・・外周壁部分
152b ・・・ボールガイド孔
153,253,353 ・・・リテーナ
153a ・・・圧油の連通孔
154,254,354 ・・・ボールシート
154a ・・・ボールシートの通気孔
155,255,355 ・・・ボール弁付勢用ばね
231,331 ・・・外側ばね
232,332 ・・・内側ばね
322 ・・・ラック
360 ・・・ラチェット爪体
370 ・・・ラチェット付勢用ばね
500 ・・・液圧テンショナ
510 ・・・ハウジング
520 ・・・プランジャ
540 ・・・プレッシャーリリーフバルブ組立体
541 ・・・ボール
550 ・・・エアベントディスク
551 ・・・螺旋状溝
S1 ・・・駆動側スプロケット
S2 ・・・被駆動側スプロケット
C ・・・タイミングチェーン
L1 ・・・可動レバー
L2 ・・・固定ガイド


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング本体内に形成されたプランジャ摺動穴から走行チェーンに向けて摺動自在に突出する円筒状のプランジャと、前記プランジャ摺動穴とプランジャ内に形成されたプランジャ内部穴との間に介在してプランジャを突出させる方向に付勢するプランジャ付勢手段と、前記プランジャ内部穴の先端側底部に組み込まれて前記プランジャ摺動穴とプランジャ内部穴との間で構成される高圧油室内の混入空気を先端側底部の排気口から脱気する脱気弁ユニットとを備えた油圧式テンショナにおいて、
前記脱気弁ユニットが、高圧油室内の圧油の流出を阻止して混入空気を脱気するチェックボール弁と、該チェックボール弁を内包状態で遊動させるボールガイドと、該ボールガイドに固着されてチェックボール弁をボールガイド内に封止する円板状のリテーナと、前記ボールガイドに固着されてチェックボール弁の着座で高圧油室内の圧油の流出を阻止するボールシートと、該ボールシートに向けてチェックボール弁を付勢するボール弁付勢用ばねとで構成されていることを特徴とする油圧式テンショナ。
【請求項2】
前記高圧油室内の圧油の逆流を阻止する逆止弁ユニットが、プランジャ摺動穴の底部に組み込まれていることを特徴とする請求項1記載の油圧式テンショナ。
【請求項3】
前記脱気弁ユニットのリテーナとボールシートが、合成樹脂からなるボールガイドの外周壁部分のカシメにより固着されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の油圧式テンショナ。
【請求項4】
前記脱気弁ユニットのボールガイドが、ボールシート組み付け側からリテーナ組み付け側に向けてテーパー状に大径化した外周壁部分を備えてプランジャ内部穴に圧入されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか記載の油圧式テンショナ。
【請求項5】
前記プランジャ付勢手段が、ボールガイドに当接する外側ばねと該外側ばねに同軸状に内包配置されてリテーナに当接する内側ばねとで構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか記載の油圧式テンショナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−132587(P2006−132587A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−319597(P2004−319597)
【出願日】平成16年11月2日(2004.11.2)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】