説明

油圧式走行装置の制御装置

【課題】油圧式走行装置における減速力を増強すると共に、ブレーキ不要時における走行抵抗の発生を抑制する。
【解決手段】制御装置は、油圧モータ13の下流位置における作動油の流量を変化させる可変式絞り弁3と、可変式絞り弁3を制御する制御部41と、ブレーキ必要時か否かを判断する判断部42と、を備える。制御部41は、判断部42における判断結果に基づき、(i)ブレーキ必要時においては、下流位置における作動油の流量を低下させ、(ii)ブレーキ不要時においては、下流位置における作動油の流量を変化させない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧式走行装置を制御するための制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
HST(Hydraulic Static Transmission;静油圧式無断変速機)においては、エンジンの動力によって油圧ポンプが作動し、この油圧ポンプで発生した作動油の油圧は、油圧モータを用いて回転力に変換される。
【0003】
特許文献1には、HSTを用いた技術が開示されている。特許文献1の閉回路用制御弁は、一対の主管路を介して閉回路接続される可変容量型の油圧ポンプと、走行モータとの間に配置された切換弁と、を含む。この切換弁のスプールは、駆動位置、中立位置、及び被駆動位置に移動できる。また、この切換弁のスプールには、中立位置、及び、被駆動位置に対応する位置に、絞り弁が形成されている。
【0004】
上記の技術を用いた油圧式走行装置(走行車両)においては、例えば降坂時に、エンジンが油圧ポンプの回転抵抗となって、機関ブレーキによる減速力が発生する。しかし、例えば、大きく傾斜した坂を下りるときには、機関ブレーキを使ったとしても、減速力としては不足する場合がある。
【0005】
機関ブレーキによる減速力を補うために、走行装置の主ブレーキ(フットブレーキ)を使用することもできる。しかし、主ブレーキは摩擦を利用するものであり、使用に伴って主ブレーキは磨耗する。そのため、その負荷を低減するため、主ブレーキの使用頻度はできるだけ低いことが望ましい。
【0006】
そして、上記の技術においては、(i)比較的緩やかな坂道降坂時(油圧ポンプへの流入管における作動油の圧力と、油圧ポンプからの流出管における作動油の圧力とがほぼ同圧であるとき)、及び、(ii)傾斜の大きい坂道降坂時・急停止時(油圧ポンプへの流入管における圧力が、油圧ポンプからの流出管における圧力よりも大きいとき)には、スプールが、それぞれ、中立位置、及び、被駆動位置に移動する。これにより、絞り弁の作用によって、油圧モータからの流出管における作動油にブレーキ圧力が生じ、走行装置に減速力が生じる。すなわち、この技術においては、主ブレーキ以外の機構(絞り弁の作用によるブレーキ)によって、ブレーキ力が増強されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−89708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の技術においては、例えば、平地走行中に、開かれていたアクセルを閉じた場合(すなわちアクセルを戻した場合)、エンジンの回転数が低下し、油圧ポンプへの流入管における圧力が、油圧ポンプからの流出管における圧力よりも大きくなる。その結果、切換弁におけるスプールの位置が、駆動位置から被駆動位置へ切り換えられ、絞り弁の作用による減速力が発生する。
【0009】
例えば、慣性を利用して油圧式走行装置を走行させるような場合には、ブレーキは不要となる。しかし、上記の技術においては、ブレーキが不要なとき(ブレーキ不要時)においても、ブレーキ圧力(すなわち走行抵抗)が発生する。
そのため、上記の技術では、ブレーキ不要時(標準運転時)における走行フィーリングが悪化してしまう。また、必要以上に減速力が作用することにより、走行装置の燃費が悪化(低下)してしまう。
【0010】
(課題)
本発明が解決しようとする課題は、油圧式走行装置における減速力を増強すると共に、ブレーキ不要時における走行抵抗の発生を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記の課題を解決するために、本発明に係る制御装置は、油圧ポンプと、当該油圧ポンプを駆動する動力源と、当該油圧ポンプから流出する作動油によって作動する油圧モータと、当該油圧モータの回転力を車輪に伝達する伝達装置と、前記油圧ポンプ及び前記油圧モータを接続する油路で構成される閉回路と、を有する油圧式走行装置を制御するための装置である。
当該制御装置は、前記閉回路において、前記油圧モータ及び前記油圧ポンプの間であって、且つ、前記油圧モータの下流位置に設けられ、当該下流位置における前記作動油の流量を変化させる流量調整手段と、前記流量調整手段を制御する制御手段と、ブレーキ必要時か否かを判断する判断手段と、を備える。
前記制御手段は、前記判断手段における判断結果に基づき、(i)前記ブレーキ必要時においては、前記下流位置における前記作動油の流量を低下させ、(ii)ブレーキ不要時においては、前記下流位置における前記作動油の流量を変化させない。
【0012】
この構成によると、ブレーキ必要時においては、流量調整手段を通過した作動油の流量が、通過前の流量よりも低下する。このときに、流量調整手段の前後で圧力損失が生じ、作動油の前進エネルギーの一部が、熱や音となって失われる。その結果、油圧モータに減速力が生じて、油圧モータの回転数[rpm]が低下する。すなわち、作動油の流量の調整により、油圧式走行装置における減速力が増強される。
また、ブレーキ不要時には、油圧モータの下流位置における作動油の流量が変化しない。そのため、ブレーキ不要時における走行抵抗の発生が抑制される。
【0013】
以下の説明では、油圧モータの下流位置での圧力損失に起因して発生する減速力を「流量ブレーキ力」と記し、流量ブレーキ力を発生させるブレーキ機構を「流量ブレーキ」と記す。
【0014】
なお、「伝達装置」には、モータに直結している軸と、車輪に直結しているドライブシャフトと、が含まれる。また、伝達装置には、ディファレンシャル・ギアや、ファイナル・ギアが含まれていてもよい。
【0015】
「動力源」には、エンジン(原動機)などが含まれ、具体的には、内燃機関(火花点火機関、ディーゼル機関など)が含まれる。また、動力源は、電動機であってもよい。
【0016】
「流量」とは、単位時間当たりに流路を移動する作動油の量のことである。流量の制御においては、「流量」として、体積流量[m/s]を用いてもよいし、質量流量[kg/s]を用いてもよい。
【0017】
「流量調整手段」は、流路に設けられ、(流量調整手段の下流側における)作動油の流量を低下させることが可能なものであり、流量調整手段の通過前後では、作動油に圧力損失が生じる。「流量調整手段」には、(a)可変式絞り弁(variable throttle;バルブ開度が可変の絞り弁)、(b)可変式リリーフ弁(逃がし圧力の設定値が可変のリリーフ弁)、(c)流量調整弁(flow control valve)などが含まれる。
【0018】
「ブレーキ必要時」とは、走行時において、減速力を必要とするときのことであり、例えば、次のような場合がこれに該当する。
(i)傾斜面(坂)を下りているとき
(ii)開かれていたアクセルが閉じられたとき(すなわち、アクセルが戻されたとき)
(iii)主ブレーキ(フットブレーキなど)が使用されているとき
(iv)主ブレーキの他に、減速力増大のための被操作部(スイッチなど)が設けられており、且つ、この被操作部が手動で操作されたとき
【0019】
また、上記の(i)乃至(iv)の少なくとも一つの場合に該当したときを、「ブレーキ必要時」としてもよいし、いずれか二つ以上の場合に該当したときを、「ブレーキ必要時」としてもよい。また、上記の(i)乃至(iv)のうち、所定の一つの場合に該当したときのみを、「ブレーキ必要時」としてもよい。
【0020】
ブレーキ必要時に「作動油の流量を低下させる」とは、流量調整手段が、作動油の流量を、全開状態(流量調整手段が機能していない状態;流量調整手段における流量が最大の状態)における流量よりも低下させることを意味している。
また、流量調整手段が流量を低下させる対象となるのは、(a)油圧モータの下流位置であって、且つ、(b)流量調整手段の下流位置における作動油である。
【0021】
ブレーキ不要時において、「作動油の流量を変化させない」とは、流量調整手段が、作動油の流量に対して影響を与えない(すなわち、作動油の流量を増減させず、流路を全開状態にする)ことを意味している。また、「ブレーキ不要時」は、標準運転時に相当する。
【0022】
(2)また、本発明に係る上記(1)の制御装置において、前記流量調整手段が、可変式絞り弁であってもよい。
【0023】
この構成では、絞り弁の「バルブ開度(絞り量)の調整」により、油圧モータの下流位置における作動油の流量が調整される。
また、制御手段は、(i)ブレーキ必要時においては、「バルブ開度を、全開状態よりも小さくする」ことにより、油圧モータの下流位置における作動油の流量を低下させ、また、(ii)ブレーキ不要時においては、「バルブ開度を全開にする」ことにより、当該下流位置における作動油の流量を変化させない。
【0024】
(3)また、本発明に係る上記(1)の制御装置において、前記流量調整手段が、可変式リリーフ弁であってもよい。
【0025】
この構成では、リリーフ弁の「逃がし圧力(作動油が弁を通過可能となる圧力:解除圧力)の設定値の調整」により、油圧モータの下流位置における作動油の流量が調整される。
また、制御手段は、(i)ブレーキ必要時においては、「逃がし圧力の設定値を、標準運転時の圧力値よりも高く設定する」ことにより、油圧モータの下流位置における作動油の流量を低下させ、また、(ii)ブレーキ不要時においては、「逃がし圧力の設定値を低くする(逃がし圧力の設定値を0 Pa程度にする;すなわち弁を全開状態にする)こと」ことにより、当該下流位置における作動油の流量を変化させない。
【0026】
(4)また、本発明に係る上記(1)乃至(3)のいずれかの制御装置は、水平面に対する、前記油圧式走行装置の設置面の傾斜角度を検知する傾斜角度センサをさらに備えていてもよく、前記判断手段は、(i)前記傾斜角度センサで検知された傾斜角度と、(ii)前記油圧式走行装置の進行方向と、に基づいて、前記油圧式走行装置が、所定角度を超えて傾斜した傾斜面を下降しているときを、前記ブレーキ必要時と判断してもよい。
【0027】
この構成によると、オペレータが、流量ブレーキ力を発生させるための操作をわざわざ行なわなくても、油圧式走行装置が傾斜面を下降しているときに、流量ブレーキ力が自動的に得られる。
【0028】
なお、「所定角度」は、0度(水平角度)であってもよいし、0度よりも大きい角度であってもよい。
また、本構成による流量ブレーキは、主ブレーキと併用されてもよいし、併用されなくてもよい。
【0029】
本構成における、傾斜角度に基づいた流量調整については、傾斜角度に閾値が設けられており、この閾値を境として、油圧モータの下流位置における作動油の流量が、不連続的に変化してもよい。また、傾斜角度の閾値が設けられておらず、傾斜角度の増大に伴って、油圧モータの下流位置における作動油の流量が、連続的に変化してもよい。
【0030】
本構成における、傾斜角度に基づいた流量調整について、図10を用いて、流量調整手段として可変式絞り弁を用いた場合の例で説明する。この場合には、バルブ開度によって、作動油流量が変化する。
(i)傾斜角度の閾値として、第1傾斜角度θ1、及び、第2傾斜角度θ2を設定してもよい。そして、傾斜角度が、0度以上かつ第1傾斜角度θ1以下の場合には、バルブ開度を最大開度Amax(全開状態となる開度)とし、傾斜角度が、第1傾斜角度θ1を超えかつ第2傾斜角度θ2以下である場合には、バルブ開度を、最大開度Amaxより小さな第2開度A2とし、傾斜角度が、第2傾斜角度θ2を越える場合には、バルブ開度を第2開度A2よりも小さな第1開度A1としてもよい(図10(a)参照)。すなわち、傾斜角度の二つの閾値を境として、バルブ開度を、不連続的に変化させてもよい。
(ii)また、傾斜角度が第1傾斜角度θ1を超えている場合に、傾斜角度が増大するに伴い、バルブ開度を、最大開度Amaxから、第1開度A1まで連続的に変化させてもよい。このときに、傾斜角度が、第3傾斜角度θ3のときに、バルブ開度が第1開度A1に達し、それを超える傾斜角度では、バルブ開度が第1開度A1のままであってもよい(図10(b)参照)。
(iii)また、傾斜角度の閾値として、三つ以上の値が設定されていてもよい(図10(c)参照)。
(iv)また、傾斜角度が、0度以上かつ第2傾斜角度θ2以下の場合には、バルブ開度を最大開度Amaxとし、傾斜角度が、第2傾斜角度θ2を超える場合には、バルブ開度を、第1開度A1としてもよい(図10(d)参照)。すなわち、傾斜角度の、一つの閾値を境として、バルブ開度を不連続的に変化させてもよい。
上記の(i)乃至(iii)の場合には、第1傾斜角度θ1が、上記の「所定角度」となり、傾斜角度が第1傾斜角度θ1を超えるときが、「ブレーキ必要時」となる。また、上記(iv)の場合には、第2傾斜角度θ2が、上記の「所定角度」となり、傾斜角度が第2傾斜角度θ2を超えるときが、「ブレーキ必要時」となる。
上記(i)乃至(iv)は例示であり、これらに準ずる他の制御が行なわれてもよい。
【0031】
本構成における、傾斜角度に基づいた流量調整について、図11を用いて、流量調整手段として可変式リリーフ弁を用いた場合の例で説明する。この場合には、逃がし圧力設定値によって、作動油流量が変化する。
(i)傾斜角度の閾値として、第1傾斜角度θ1、及び、第2傾斜角度θ2を設定してもよい。そして、傾斜角度が、0度以上かつ第1傾斜角度θ1以下の場合には、逃がし圧力設定値を、最小値の0Pa(全開状態となる設定値)とし、傾斜角度が、第1傾斜角度θ1を超えかつ第2傾斜角度θ2以下である場合には、逃がし圧力設定値を、最小値よりも大きな第1圧力C1とし、傾斜角度が、第2傾斜角度θ2を超える場合には、逃がし圧力設定値を、第1圧力C1よりも大きな第2圧力C2としてもよい(図11(a)参照)。すなわち、傾斜角度の二つの閾値を境として、逃がし圧力設定値を、不連続的に変化させてもよい。
(ii)また、傾斜角度が第1傾斜角度θ1を超えている場合に、傾斜角度が増大するに伴い、逃がし圧力設定値を、最小値(0Pa)から、第3圧力C3まで連続的に変化させてもよい。このときに、傾斜角度が、第3傾斜角度θ3のときに、逃がし圧力設定値が第3圧力C3に達し、それを超える傾斜角度では、設定値が第3圧力C3のままであってもよい(図11(b)参照)。
(iii)また、傾斜角度が第2傾斜角度θ2以下である場合については、上記(i)と同様であり、傾斜角度が第2傾斜角度θ2を超える場合には、傾斜角度が増大するに伴い、逃がし圧力設定値を、第2圧力C2から、第2圧力C2よりも大きい第3圧力C3まで、連続的に変化させてもよい(図11(c)参照)。このときに、傾斜角度が、第3傾斜角度θ3のときに、逃がし圧力設定値が第3圧力C3に達し、それを超える傾斜角度では、設定値が第3圧力C3のままであってもよい。
(iv)また、傾斜角度が、0度以上かつ第2傾斜角度θ2以下の場合には、逃がし圧力設定値を、最小値の0Paとし、傾斜角度が、第2傾斜角度θ2を越える場合には、逃がし圧力設定値を、第3圧力C3としてもよい。すなわち、傾斜角度の一つの閾値を境として、逃がし圧力設定値を、不連続的に変化させてもよい(図11(d)参照)。
上記の(i)乃至(iii)の場合には、第1傾斜角度θ1が、上記の「所定角度」となり、傾斜角度が第1傾斜角度θ1を超えるときが、「ブレーキ必要時」となる。また、上記(iv)の場合には、第2傾斜角度θ2が、上記の「所定角度」となり、傾斜角度が第2傾斜角度θ2を超えるときが、「ブレーキ必要時」となる。
上記(i)乃至(iv)は例示であり、これらに準ずる他の制御が行なわれてもよい。
【0032】
(5)また、本発明に係る上記(4)のいずれかの制御装置において、前記油圧式走行装置が、前記所定角度を超えて傾斜した傾斜面を下降しているときに、前記制御手段は、前記傾斜角度センサで検知された前記傾斜角度の増大に伴い、前記下流位置における前記作動油の流量の低下量を大きくしてもよい。
【0033】
油圧式走行装置においては、降坂時に機関ブレーキが機能するが、大きく傾斜した坂を下りるときには、機関ブレーキを使ったとしても、減速力としては不足する場合がある。この構成によると、降坂時の傾斜角度の増大に伴って、流量ブレーキ力が大きくなるので、傾斜した坂においても、十分な減速力が得られ、安定した走行が可能となる。
【0034】
なお、「作動油の流量の低下量」は、作動油の流量の、「全開状態における流量からの低下量(全開状態における流量との差)」に相当する。また、「作動油の流量の低下量を大きくする」とは、作動油の流量の、全開状態における流量との差を大きくする、ということである。
作動油の流量の低下量を大きくするほど、流量調整手段の前後での圧力損失が大きくなるため、流量ブレーキ力は大きくなる。また、作動油の流量の低下量を小さくするほど、流量ブレーキ力は小さくなる。
【0035】
「傾斜角度の増大に伴う、作動油流量の低下量の増大」については、傾斜角度に閾値が設けられており、この閾値を境として、油圧モータの下流位置における作動油の流量が、不連続的に変化してもよい。また、傾斜角度の閾値が設けられておらず、傾斜角度の増大に伴って、油圧モータの下流位置における作動油の流量が、連続的に変化してもよい。
【0036】
流量調整手段として可変式絞り弁を用いた場合における、本構成の「傾斜角度の増大に伴う、作動油流量の低下量の増大」については、図10を用いて説明すると、図10(a)、図10(b)、及び図10(c)の場合がこれに該当する。すなわち、本構成では、ブレーキ必要時に、傾斜角度の増大に伴い、バルブ開度が(連続的に又は段階的に)小さくなる。
【0037】
流量調整手段として可変式リリーフ弁を用いた場合における、本構成の「傾斜角度の増大に伴う、作動油流量の低下量の増大」については、図11を用いて説明すると、図11(a)、図11(b)、及び図11(c)の場合がこれに該当する。すなわち、本構成では、ブレーキ必要時に、傾斜角度の増大に伴い、逃がし圧力設定値が(連続的に又は段階的に)大きくなる。
【0038】
また、「傾斜角度の増大に伴う、作動油流量の低下量の増大」とは、傾斜角度と作動油流量との関係を表わしたグラフにおける傾向を示したものである。
【0039】
(6)また、本発明に係る上記(1)乃至(5)のいずれかの制御装置は、摩擦を利用して前記車輪の回転を制動する主ブレーキと、前記主ブレーキを作動させるブレーキペダルと、をさらに備えていてもよく、前記判断手段は、前記ブレーキペダルがオペレータによって操作されているときを、前記ブレーキ必要時と判断してもよい。
【0040】
この構成によると、オペレータが、減速力増強(主ブレーキによる減速力を流量ブレーキ力で補うこと)のための操作をわざわざ行なわなくても、ブレーキペダルが操作されているときに(踏み込まれたときに)、流量ブレーキ力が自動的に得られる。
【0041】
なお、「主ブレーキ」には、ディスクブレーキ、ドラムブレーキなどが含まれる。また、ブレーキペダルの入力状態は、ON/OFFの二種類のみであってもよいし、プレーキペダルの入力状態として、三種類以上の状態が存在していてもよい。
【0042】
(7)また、本発明に係る上記(6)の制御装置において、前記ブレーキペダルがオペレータによって操作されているときに、前記制御手段は、前記ブレーキペダルの踏み込み量の増大に伴い、前記下流位置における前記作動油の流量の低下量を大きくしてもよい。
【0043】
油圧式走行装置において、ブレーキペダルがオペレータによって操作されているときは、ブレーキが必要なときであるといえる。この構成によると、ブレーキペダルの踏み込み量の増大に伴って、流量ブレーキ力が大きくなるので、ブレーキが必要なときに、十分な減速力が得られる。
【0044】
なお、「作動油の流量の低下量」は、作動油の流量の、「全開状態における流量からの低下量(全開状態における流量との差)」に相当する。また、「作動油の流量の低下量を大きくする」とは、作動油の流量の、全開状態における流量との差を大きくする、ということである。
図13を用いて、この「作動油の流量の低下量」について説明する。図13は、流動調整手段として可変式絞り弁を用いた場合における、油圧モータの下流位置での作動油の流量を、バルブ開度に対応させて示したグラフである。
図中のRmaxが、「全開状態における作動油の流量」に相当する。バルブ開度がA1のときには、「作動油の流量の低下量」は、図のF1に相当し、バルブ開度がA2(A2>A1)のときには、「作動油の流量の低下量」は、図のF2に相当する。
作動油の流量の低下量を大きくするほど、流量ブレーキ力は大きくなり、作動油の流量の低下量を小さくするほど、流量ブレーキ力は小さくなる。
【0045】
「ブレーキペダル踏み込み量の増大に伴う、作動油流量の低下量の増大」については、踏み込み量に閾値が設けられており、この閾値を境として、油圧モータの下流位置における作動油の流量が、不連続的に変化してもよい。また、踏み込み量の閾値が設けられておらず、踏み込み量の増大に伴って、油圧モータの下流位置における作動油の流量が、連続的に変化してもよい。
【0046】
また、「ブレーキペダル踏み込み量の増大に伴う、作動油流量の低下量の増大」とは、ブレーキペダル踏み込み量と作動油流量との関係を表わしたグラフにおける傾向を示したものである。
【0047】
(8)また、本発明に係る上記(1)乃至(7)のいずれかの制御装置は、オペレータによって操作される被操作部をさらに備えていてもよく、前記判断手段は、前記被操作部がオペレータによって操作されているときを、前記ブレーキ必要時と判断してもよい。
【0048】
この構成によると、オペレータの直接の操作により、流量ブレーキ力が発生する。
【0049】
なお、「被操作部」は、ブレーキペダルとは異なるものである。被操作部は、手動で操作されてもよいし、ペダル操作式のものであってもよい。
また、本構成による流量ブレーキは、主ブレーキと併用されてもよいし、併用されなくてもよい。
【0050】
被操作部の入力状態は、ON/OFFの二種類のみであってもよいし、被操作部の入力状態として、三種類以上の状態が存在していてもよい。
【0051】
(9)また、本発明に係る上記(8)の制御装置において、前記被操作部がオペレータによって操作されているときに、前記制御手段は、前記被操作部の操作量の増大に伴い、前記下流位置における前記作動油の流量の低下量を大きくしてもよい。
【0052】
油圧式走行装置において、被操作部がオペレータによって操作されているときは、減速力が必要なときであるといえる。この構成によると、被操作部の操作量の増大に伴って、流量ブレーキ力が大きくなるので、減速力が必要なときに、十分な減速力が得られる。
【0053】
なお、「操作量の増大に伴う、作動油流量の低下量の増大」については、操作量に閾値が設けられており、この閾値を境として、油圧モータの下流位置における作動油の流量が、不連続的に変化してもよい。また、操作量の閾値が設けられておらず、操作量の増大に伴って、油圧モータの下流位置における作動油の流量が、連続的に変化してもよい。
【0054】
また、「操作量の増大に伴う、作動油流量の低下量の増大」とは、操作量と作動油流量との関係を表わしたグラフにおける傾向を示したものである。
【0055】
(10)また、本発明に係る上記(1)乃至(9)のいずれかの制御装置において、前記油圧モータは、可変容量型モータであってもよく、当該制御装置は、前記ブレーキ必要時に、前記油圧モータの容量を、前記ブレーキ不要時における前記油圧モータの容量よりも増大させる、モータ容量制御手段(43)をさらに備えていてもよい。
【0056】
この構成では、ブレーキ必要時の油圧モータの容量が、標準運転時に比べて大きくなる。その結果、流量調整手段に送られる作動油の流量が増大し、流量調整手段の前後の圧力損失が大きくなる。そのため、油圧式走行装置における減速力がより増強される。
【0057】
(11)また、本発明に係る上記(1)乃至(10)のいずれかの制御装置において、前記油圧ポンプは、可変容量型ポンプであってもよく、当該制御装置は、前記ブレーキ必要時に、前記油圧ポンプの容量を、前記ブレーキ不要時における前記油圧ポンプの容量よりも減少させる、ポンプ容量制御手段(44)をさらに備えていてもよい。
【0058】
この構成では、ブレーキ必要時の油圧ポンプの容量が、標準運転時に比べて小さくなる。その結果、油圧ポンプに取り込まれる作動油の量が少なくなり、油圧ポンプが油圧モータの回転抵抗となる。そのため、油圧ポンプが機関ブレーキとして機能し、油圧式走行装置における減速力がより増強される。
【0059】
(12)また、本発明に係る上記(1)乃至(11)のいずれかの制御装置は、前記閉回路における前記作動油の温度を検知する油温センサをさらに備えていてもよく、前記制御手段は、前記ブレーキ必要時において、前記油温センサで検知された温度が所定温度を超えた場合には、前記下流位置における前記作動油の流量の低下量を、前記温度が前記所定温度以下である場合よりも、小さくしてもよい。
【0060】
作動油の温度が高くなると、オーバーヒートが生じやすくなり、また、それが原因で、流量制御手段が損傷を受けやすくなる。
この構成では、ブレーキ必要時において、作動油の温度が、所定温度を超えて高くなった場合に、油圧モータの下流位置における、作動油の流量の低下量が、(油温が所定温度以下である場合に比べて)小さくなる。そのため、油圧式走行装置内のオーバーヒートを防止でき、また、熱による流量制御手段の損傷を防止できる。
【0061】
なお、「作動油の流量の低下量」は、作動油の流量の、「全開状態における流量からの低下量(全開状態における流量との差)」に相当する。また、「作動油の流量の低下量を大きくする」とは、作動油の流量の、全開状態における流量との差を大きくする、ということである。
作動油の流量の低下量を大きくするほど、流量ブレーキ力は大きくなり、作動油の流量の低下量を小さくするほど、流量ブレーキ力は小さくなる。
【0062】
本構成における、油温(作動油の温度)に基づいた流量調整については、油温に閾値が設けられており、この閾値を境として、油圧モータの下流位置における作動油の流量が、不連続的に変化してもよい。また、油温の閾値が設けられておらず、油温の上昇に伴って、油圧モータの下流位置における作動油の流量が、連続的に変化してもよい。これは、流量調整手段にどのようなものを用いた場合についても同様である。
【0063】
本構成における、油温に基づいた流量調整について、図12を用いて、流量調整手段として可変式絞り弁を用いた場合の例で説明する。
(i)油温の閾値として、第1温度T1及び第2温度T2を設定してもよい。そして、油温が第1温度T1以下の場合には、バルブ開度を、あるバルブ開度(第1開度A1)とし、油温が第1温度T1を超える場合には、バルブ開度を、最大開度Amax(全開状態となる開度)としてもよい(図12(a)参照)。すなわち、油温の一つの閾値を境として、バルブ開度を、不連続的に変化させてもよい。また、油温の閾値として複数の値を設定し、それぞれの閾値を境として、バルブ開度を、不連続的に変化させてもよい。
(ii)また、油温が第1温度T1以下の場合には、バルブ開度を第1開度A1とし、油温が第1温度T1を超える場合には、油温が上昇するに伴い、バルブ開度を、第1開度A1から、最大開度Amax(開度100%)まで連続的に変化させてもよい(図12(b)参照)。このときに、油温が、第2温度T2のときに、バルブ開度が最大開度Amax(全開状態となる開度)に達し、それを超える傾斜角度では、バルブ開度が最大開度Amaxのままであってもよい。
(iii)また、油温が第1温度T1以下の場合には、バルブ開度を第1開度A1とし、油温が第1温度T1を越える場合には、油温が上昇するに従い、バルブ開度を、第2開度A2(第1開度A1よりも大きい開度)から、最大開度Amaxまで連続的に変化させてもよい。このときに、油温が、第2温度T2のときに、バルブ開度が最大開度Amax(全開状態となる開度)に達し、それを超える傾斜角度では、バルブ開度が最大開度Amaxのままであってもよい(図12(c)参照)。
(iv)また、油温が第1温度T1以下の場合には、バルブ開度を、あるバルブ開度(第1開度A1)とし、油温が第1温度T1を越える場合には、バルブ開度を、第2開度A2としてもよい(図12(d)参照)。
上記の(i)乃至(iv)の場合には、第1温度T1が、上記の「所定温度」となる。上記(i)乃至(iv)は例示であり、これらに準ずる他の制御が行なわれてもよい。
【0064】
また、「油温上昇に伴う、作動油流量の低下量の減少」とは、油温と作動油流量との関係を表わしたグラフにおける傾向を示したものである。
【0065】
「油温センサ」は、流体の温度を測定できるものであればよく、接触式のセンサであってもよいし、非接触式のセンサであってもよい。
接触式のセンサとしては、膨張式センサ、電気式センサ(白金抵抗温度計、熱電対、半導体温度センサなど)、計数式センサ(水晶温度センサなど)、サーモペイント、液晶などを利用できる。
非接触式のセンサとしては、量子型赤外線センサ、熱型赤外線センサを利用できる。
【0066】
「作動油の温度」については、閉回路の複数位置における温度の平均としてもよいし、ある一つの位置(例えば、油圧モータの下流位置)における温度としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の第1実施形態に係る走行体の油圧回路を示す概略図である。
【図2】(a)は図1の流量調整手段の近傍を示す拡大図、及び、この範囲における作動油の流量を示すグラフであり、(b)は設置面の傾斜を示す概略図である。
【図3】第1実施形態の制御装置における制御例(第1制御例)を示すフローチャートである。
【図4】他の制御例(第2制御例)を示すフローチャートである。
【図5】他の制御例(第3制御例)を示すフローチャートである。
【図6】他の制御例(第4制御例)を示すフローチャートである。
【図7】他の制御例(第5制御例)を示すフローチャートである。
【図8】第2実施形態に係る走行体の油圧回路を示す概略図である。
【図9】第2実施形態の制御装置における制御例を示すフローチャートである。
【図10】流動調整手段として可変式絞り弁を用いた場合における、「傾斜角度の増大に伴う、作動油流量の低下量の増大」の例を示すグラフである。
【図11】流動調整手段として可変式リリーフ弁を用いた場合における、「傾斜角度の増大に伴う、作動油流量の低下量の増大」の例を示すグラフである。
【図12】「油温(作動油の温度)上昇に伴う、作動油流量の低下量の減少」の例を示すグラフである。
【図13】「作動油流量の低下量」を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0068】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について説明する。本実施形態に係る走行体8は、油圧式走行装置1と、制御装置2とを備える、自走可能な建設機械である(図1及び図2(b)参照)。以下、図1及び図2を用いて、それぞれについて具体的に説明する。
【0069】
(油圧式走行装置)
油圧式走行装置1は、静油圧式無段変速機(HST;Hydraulic Static Transmission)を備えている。具体的に説明すると、油圧式走行装置1は、油圧ポンプ11、エンジン(動力源)12、油圧モータ13、伝達装置14、四つのタイヤ、及び閉回路15を有する。エンジン12は、油圧ポンプ11を駆動する動力源であり、油圧モータ13は、油圧ポンプ11から流出する作動油によって作動するものである。また、油圧モータ13及び油圧ポンプ11は、可変容量型のものである。
油圧式走行装置1においては、エンジン12によって油圧ポンプ11が動作し、ここで発生させた油圧は、油圧モータ13で回転力に変換される。
【0070】
伝達装置14は、油圧モータ13の回転力を二つのタイヤ(車輪)14tに伝達するものである。伝達装置14は、モータ軸14wと、ドライブシャフト14sとを有する。モータ軸14wは、油圧モータ13に直接接続され、ドライブシャフト14sは、二つのタイヤ14tに接続される。
【0071】
また、油圧式走行装置1には、二つの主ブレーキ61が含まれる。主ブレーキ61のそれぞれは、タイヤ14tに取り付けられている。主ブレーキ61は、フットブレーキであり、具体的にはディスクブレーキである。主ブレーキ61は、摩擦を利用してタイヤ14tの回転を制動する。
【0072】
閉回路15は、油圧ポンプ11及び油圧モータ13を接続する油路で構成されている。閉回路15において、作動油が前進する場合には、作動油が流れる方向(前進方向)は、図の矢印G方向で表わされる。また、作動油が後退する場合には、作動油が流れる方向は、G方向とは逆の方向となる。
【0073】
閉回路15は、第1流路15f及び第2流路15sを備える。第1流路15fは、油圧モータ13からの流出路であって、且つ、油圧ポンプ11への流入路である。すなわち、第1流路15fは、作動油の戻り流路といえる。また、第2流路15sは、油圧ポンプ11からの流出路であって、且つ、油圧モータ13への流入路である。
【0074】
また、閉回路15には、作動油の流路である、流路16a、流路16b、流路16c、流路16d、及び流路16eが接続されている。これらの流路は、閉回路15の内部に配置されている。
【0075】
流路16a及び流路16cは、第1流路15fに接続されている。また、流路16b及び流路16dは、第2流路15sに接続されている。流路16a及び流路16bは直接接続されており、また、流路16c及び流路16dは直接接続されている。
【0076】
流路16c及び第1流路15fの連結位置は、流路16a及び第1流路15fの連結位置よりも上流側である。また、流路16b及び第2流路15sの連結位置は、流路16d及び第2流路15sの連結位置よりも上流側である。また、流路16a、流路16b、流路16c、及び流路16dは、流路16eに接続されている。
【0077】
流路16cの途中には、チェック弁(逆止弁)16iが設けられており、流路16dの途中には、チェック弁16jが設けられている。流路16cの作動油は、流路16eから第1流路15fの方向にのみ流れ、流路16dの作動油は、流路16eから第2流路15sの方向にのみ流れる。流路16eは、チャージングポンプ11cに接続されている。チャージングポンプ11cから供給された作動油は、流路16c及び流路16dへ流入して、第1流路15f及び第2流路15sへと送られる。
【0078】
流路16aの途中には、高圧リリーフ弁16fが設けられており、流路16bの途中には、高圧リリーフ弁16gが設けられている。また、流路16eの端部は、低圧リリーフ弁16h及び作動油タンクに接続されている。高圧リリーフ弁16f及び高圧リリーフ弁16gの設定圧力は、低圧リリーフ弁16hの設定圧力よりも高い。
【0079】
第1流路15fの作動油の圧力が、高圧リリーフ弁16fの設定圧力に達すると、作動油は、流路16aを通って流路16eへ送られる。また、第2流路15sの作動油の圧力が、高圧リリーフ弁16gの設定圧力に達すると、作動油は、流路16bを通って流路16eへと送られる。
【0080】
また、流路16eの作動油の圧力が、低圧リリーフ弁16hの設定圧力に達すると、作動油は、低圧リリーフ弁16hを通って作動油タンクへ送られる。流路16eの作動油の圧力が、低圧リリーフ弁16hの設定圧力よりも低いと、作動油は、流路16c及び流路16dを通って、閉回路15に送られる。
【0081】
また、油圧式走行装置1には、ブレーキスイッチ(被操作部)7、傾斜角度センサ51、油温センサ52、ブレーキペダル62、走行モード切替スイッチ63が含まれる。
【0082】
ブレーキスイッチ(被操作部)7は、オペレータによって手動で切り換え操作されるものであり、ブレーキスイッチ7においては、流量ブレーキのON/OFFの切り替えが可能となっている。ブレーキスイッチ7をON状態にすると、流量ブレーキが作用し、OFF状態にすると、流量ブレーキが作用しない。ブレーキスイッチ7の状態は、電圧値としてコンピュータ4(後述)に伝えられる。
【0083】
傾斜角度センサ51は、水平面(図2(b)の面H参照)に対する、油圧式走行装置1の設置面(図2(b)の面S参照))の傾斜角度θ(図2(b)参照)を検知するセンサである。傾斜角度センサ51によって検知された傾斜角度は、電圧値としてコンピュータ4(後述)に伝えられる。
【0084】
油温センサ52は、第1流路15fに設けられている。油温センサ52は、閉回路15における作動油の温度を検知する、接触式のセンサである。油温センサ52によって検知された作動油の温度(油温)は、電圧値としてコンピュータ4(後述)に伝えられる。
【0085】
ブレーキペダル62は、二つの主ブレーキ61を作動させるものである。また、ブレーキペダル62には、踏み込み量センサ62sが接続されている。踏み込み量センサ62sによって検知されたブレーキペダル62の踏み込み量(操作量;ペダル角度)は、電圧値としてコンピュータ4(後述)に伝えられる。
【0086】
走行モード切替スイッチ63は、油圧式走行装置1の進行方向(前進及び後退)を切り換えるためのスイッチである。走行モード切替スイッチ63によって、油圧式走行装置1の「前進モード」及び「後退モード」が切り換えられる。走行モード切替スイッチ63の状態は、電圧値としてコンピュータ4(後述)に伝えられる。
【0087】
(制御装置)
次に、制御装置2について説明する。制御装置2は、可変式絞り弁(流量調整手段)3と、コンピュータ4とを有する。以下、各部の詳細について説明する。
【0088】
(流量調整手段)
可変式絞り弁3は、油圧モータ13の下流位置における作動油の流量を変化させる、流量調整手段として機能する。また、可変式絞り弁3においては、バルブ開度の調整が可能となっている。
【0089】
可変式絞り弁3は、閉回路15において、油圧モータ13から油圧ポンプ11の間であって、且つ、油圧モータ13の下流位置に設けられている。すなわち、可変式絞り弁3は、第1流路15fに設けられている。また、可変式絞り弁3の位置は、油圧モータ13の下流側であって、且つ、第1流路15f及び流路16cの連結位置よりも上流側である。
【0090】
可変式絞り弁3のバルブ開度が全開である場合には、作動油に圧力損失が生じない。可変式絞り弁3のバルブ開度を調整して、バルブ開度を小さくすることにより、可変式絞り弁3を通過した後の作動油の流量が低下し、可変式絞り弁3の通過前後で、作動油に圧力損失が生じる。そして、この圧力損失に起因して流量ブレーキ力が発生する。
【0091】
図2(a)は、図1の可変式絞り弁3の近傍を示す拡大図、及び、この範囲における作動油の流量Rを示すグラフである。なお、図2(a)は、可変式絞り弁3のバルブ開度が、全開状態よりも小さく調整された状態を示している。図に示すように、可変式絞り弁3の出口側の流量(図のR2)は、入口側の流量(図のR1)よりも少ない。そして、R1及びR2の差をΔRとすると、ΔRを作動油の圧力に換算したものが、可変式絞り弁3における作動油の圧力損失となる。
【0092】
(コンピュータ)
コンピュータ4には、制御部(制御手段)41と、判断部(判断手段)42と、モータ容量制御部(モータ容量制御手段)43と、ポンプ容量制御部(ポンプ容量制御手段)44と、記憶部(記憶手段)45と、が含まれる。
【0093】
コンピュータ4には、ブレーキスイッチ7、傾斜角度センサ51、油温センサ52、踏み込み量センサ62s、走行モード切替スイッチ63が、信号線を介して、電気的に接続されている。
【0094】
また、コンピュータ4は、油圧ポンプ11、油圧モータ13、可変式絞り弁3、及び二つの主ブレーキ61に対して、信号線を介して電気的に接続されている。また、コンピュータ4には、CPU(CentralProcessing Unit)が含まれている。以下、コンピュータ4の各部について説明する。
【0095】
(記憶部)
記憶部45は、(i)RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)などの一次記憶装置、及び、(ii)ハードディスクドライブなどの二次記憶装置、から構成される。
【0096】
記憶部45には、コンピュータ4のCPUを、制御部41、判断部42、モータ容量制御部43、及びポンプ容量制御部44として機能させる制御プログラムが保存されている。
【0097】
また、記憶部45には、(a)各種のバルブ開度(第1開度A1、第2開度A2、最大開度Amaxなど)の値、(b)制御周期Zの値、(c)作動油の設定温度T1の値、(d)設定角度θ1の値、(e)設定踏み込み量X1の値などの、制御に必要な値が保存されている。
【0098】
(判断部)
判断部42は、現在の油圧式走行装置1の状態が、ブレーキ必要時(後述)であるか否かの判断処理を行なう。判断部42においては、与えられた条件に基づき、現在の状態が、ブレーキ必要時、及び、ブレーキ不要時、のいずれの状態に該当するかが決定される。ブレーキ不要時とは、ブレーキ必要時以外のことである。
【0099】
(ブレーキ必要時)
ここで、ブレーキ必要時について説明する。「ブレーキ必要時」とは、走行体8の運転時(走行時)において、減速力を必要とするときのことである。
本実施形態においては、判断部42は、次の(i)乃至(iii)のうち、少なくともいずれか一つの場合に該当したときに、「ブレーキ必要時」であると判断する。
(i)油圧式走行装置1が、設定角度θ1を超えて傾斜した傾斜面を下降しているとき
(ii)ブレーキペダル62がオペレータによって操作されているとき
(iii)ブレーキスイッチ7がオペレータによって操作されているとき
【0100】
なお、「ブレーキ必要時」は、これら(i)乃至(iii)には限られず、判断手段は、例えば、アクセルペダルのペダル角度センサからの信号に基づき、開いていたアクセルが閉じられらたときを、「ブレーキ必要時」として判断してもよい。
また、上記の(i)乃至(iii)のいずれか二つ以上の場合に該当したときを、「ブレーキ必要時」としてもよいし、また、上記の(i)乃至(iii)のうち、所定の一つの場合に該当したときのみを、「ブレーキ必要時」としてもよい。
【0101】
また、判断部42において、(i)傾斜角度の値、(ii)ブレーキペダル62の踏み込み量の値、及び、(iii)ブレーキスイッチ7の操作量の値、のうち、
(A)三つ(全て)に基づいてブレーキ必要時の判断を行なうこと、又は、
(B)これらのうち一つ又は二つに基づいてブレーキ必要時の判断を行なうこと、
については、切り換えスイッチ(図示せず)を用いて選択できる。
【0102】
(制御部)
制御部41は、可変式絞り弁3のバルブ開度の制御を行なう。具体的には、制御部41は、判断部42における判断結果に基づき、(i)ブレーキ必要時においては、油圧モータ13の下流位置における作動油の流量を低下させ、(ii)ブレーキ不要時においては、当該下流位置における作動油の流量を変化させない。
【0103】
また、制御部41は、(i)ブレーキ必要時においては、「バルブ開度を、全開状態よりも小さくする」ことにより、油圧モータ13の下流位置における作動油の流量を低下させ、また、(ii)ブレーキ不要時においては、「バルブ開度を全開にする」ことにより、当該下流位置における作動油の流量を変化させない。
【0104】
また、制御部41は、ブレーキ必要時において、油温センサ52で検知された油温Tが設定温度T1を超えた場合には、油圧モータ13の下流位置における作動油の流量の低下量を、油温Tが設定温度T1以下である場合よりも、小さくする。なお、油温に基づいて可変式絞り弁3の制御を行なうか否かは、切り換えスイッチ(図示せず)を用いて切り換えられる。
【0105】
また、制御部41において、(i)傾斜角度の値、(ii)ブレーキペダル62の踏み込み量の値、及び、(iii)ブレーキスイッチ7の操作量の値、のうち、
(A)三つ(全て)に基づいて可変式絞り弁3の制御を行なうこと、又は、
(B)これらのうち一つ又は二つに基づいて可変式絞り弁3の制御を行なうこと、
については、切り換えスイッチ(図示せず)を用いて選択できる。
【0106】
(モータ容量制御部、ポンプ容量制御部)
モータ容量制御部43は、ブレーキ必要時に、油圧モータ13の容量を、ブレーキ不要時における油圧モータ13の容量よりも増大させる。
ポンプ容量制御部44は、ブレーキ必要時に、油圧ポンプ11の容量を、ブレーキ不要時における油圧ポンプ11の容量よりも減少させる。
【0107】
なお、ブレーキ必要時に、油圧モータ13の容量、及び、油圧ポンプ11の容量を制御するか否か(モータ容量制御部43及びポンプ容量制御部44による制御を行なうか否か)は、切り換えスイッチ(図示せず)を用いて切り換えられる。
【0108】
(第1制御例)
次に、制御装置2における制御例について説明する。まず、図3を用いて、第1制御例について説明する。当初、バルブ開度は最大開度Amaxであるとする。
【0109】
まず、制御部41は、走行モード切替スイッチ63の入力状態に関する情報から、現在の状態が、前進モードかどうかを判断する(S101)。現在が後退モードであれば(S101;NO)、制御部41は、可変式絞り弁3を制御して、可変式絞り弁3のバルブ開度を、最大開度Amax(全開状態となる開度)とする(S106;ブレーキ不要時)。
【0110】
現在が前進モードであれば(S101;YES)、次に、判断部42は、ブレーキスイッチ7がONかどうかを判断する(S102)。ブレーキスイッチ7がOFFであれば(S102;NO)、判断部42は、現在がブレーキ不要時であると判断し、その情報を受けて、制御部41は、可変式絞り弁3のバルブ開度を、最大開度Amaxとする(S106;ブレーキ不要時)。
【0111】
S102において、ブレーキスイッチ7がONであれば(S102;YES)、判断部42は、現在が「ブレーキ必要時」であると判断する。そして、S102において、ブレーキスイッチ7がONであれば(S102;YES)、制御部41は、現在の油温T(油温センサ52で検知された温度[℃])が、設定温度T1(記憶部45に保存されている設定温度[℃])以下であるかどうかを判断する(S103)。
ここで、油温Tが設定温度T1以下である場合には(S103;YES)、制御部41は、可変式絞り弁3のバルブ開度を、第1開度A1とする(S104)。また、油温Tが設定温度T1を超えている場合には(S103;NO)、制御部41は、可変式絞り弁3のバルブ開度を、第2開度A2とする(S105)。なお、第1開度A1、第2開度A2、及び最大開度Amaxの大きさの関係は、第1開度A1<第2開度A2<最大開度Amaxとなっている。
【0112】
S104、S105、及びS106の処理の後は、再び、S101の処理に戻る。また、S101から、S104、S105、又はS106までの処理は、Z秒を制御周期として、繰り返し実行される。以上が、第1制御例である。
【0113】
第1開度A1と第2開度A2とでは、第1開度A1の方が、第2開度A2よりも、作動油の流量の低下量が大きい。従って、本制御においては、油温センサ52で検知された油温Tが設定温度T1を超えた場合に、油圧モータ13の下流位置における作動油の流量の低下量(第2開度A2に対応する低下量)が、油温Tが設定温度T1以下である場合における流量の低下量(第1開度A1に対応する流量の低下量)に比べて、小さくなっている。
【0114】
また、第1開度A1及び第2開度A2では、最大開度Amaxに比べて、作動油の流量が低下する。また、本制御においては、オペレータによってブレーキスイッチ7が操作時されているときが、判断部42によって「ブレーキ必要時」と判断される。
そして、本制御においては、ブレーキスイッチ7が操作されたときに、油圧モータ13の下流位置における作動油の流量が低下している(すなわち、バルブ開度が、最大開度Amaxから、第1開度A1又は第2開度A2へ変化している)。
【0115】
上記のように、本制御例では、ブレーキ必要時には、バルブ開度は第1開度A1又は第2開度A2となり、ブレーキ不要時には、バルブ開度は最大開度Amaxとなる。
【0116】
(第2制御例)
次に、図4を用いて、第2制御例について説明する。当初、バルブ開度は最大開度Amaxであるとする。
【0117】
まず、制御部41は、現在の状態が、前進モードかどうかを判断する(S201)。現在が後退モードであれば(S201;NO)、制御部41は、可変式絞り弁3を制御して、可変式絞り弁3のバルブ開度を、最大開度Amax(全開状態となる開度)とする(S204;ブレーキ不要時)。
【0118】
現在が前進モードであれば(S201;YES)、次に、判断部42は、ブレーキスイッチ7がONかどうかを判断する(S202)。ブレーキスイッチ7がOFFであれば(S202;NO)、判断部42は、現在がブレーキ不要時であると判断し、その情報を受けて、制御部41は、可変式絞り弁3のバルブ開度を、最大開度Amaxとする(S204;ブレーキ不要時)。
【0119】
S202において、ブレーキスイッチ7がONであれば(S202;YES)、判断部42は、現在が「ブレーキ必要時」であると判断する。そして、S202において、ブレーキスイッチ7がONであれば(S202;YES)、制御部41は、可変式絞り弁3のバルブ開度を、第1開度A1とする(S203)。なお、第1開度A1、及び最大開度Amaxの大きさの関係は、第1開度A1<最大開度Amaxとなっている。
【0120】
S203、及びS204の処理の後は、再び、S201の処理に戻る。また、S201から、S203、又はS204までの処理は、Z秒を制御周期として、繰り返し実行される。以上が、第2制御例である。このように、油温Tを用いずに、可変式絞り弁3を制御してもよい。
【0121】
(第3制御例)
次に、図5を用いて、第3制御例について説明する。当初、バルブ開度は最大開度Amaxであるとする。
【0122】
まず、制御部41は、現在の状態が、前進モードかどうかを判断する(S301)。現在が後退モードであれば(S301;NO)、制御部41は、可変式絞り弁3を制御して、可変式絞り弁3のバルブ開度を、最大開度Amax(全開状態となる開度)とする(S304;ブレーキ不要時)。
【0123】
現在が前進モードであれば(S301;YES)、次に、判断部42は、設置面Sの傾斜角度θ(傾斜角度センサ51で検知された角度[°])が、設定角度θ1の値(記憶部45に保存されている設定角度[°]の値)を超えているかどうかを判断する(S302)。傾斜角度θが設定角度θ1以下であれば(S302;NO)、判断部42は、現在がブレーキ不要時であると判断し、その情報を受けて、制御部41は、可変式絞り弁3のバルブ開度を、最大開度Amaxとする(S304;ブレーキ不要時)。
【0124】
S302において、傾斜角度θが設定角度(所定角度)θ1を超えていれば(S302;YES)、判断部42は、現在が「ブレーキ必要時」であると判断する。そして、S302において、傾斜角度θが設定角度θ1を超えていれば(S302;YES)、制御部41は、可変式絞り弁3のバルブ開度を、第1開度A1とする(S303)。なお、第1開度A1、及び最大開度Amaxの大きさの関係は、第1開度A1<最大開度Amaxとなっている。
【0125】
S303、及びS304の処理の後は、再び、S301の処理に戻る。また、S301から、S303、又はS304までの処理は、Z秒を制御周期として、繰り返し実行される。以上が、第3制御例である。このように、傾斜角度を用いて、可変式絞り弁3を制御してもよい。
【0126】
第1開度A1では、最大開度Amaxに比べて、作動油の流量が低下する。また、本制御においては、油圧式走行装置1が、設定角度θ1を超えて傾斜した傾斜面を下降しているときが、判断部42によって「ブレーキ必要時」と判断される。
そして、本制御においては、油圧式走行装置1が、設定角度θ1を超えて傾斜した傾斜面を下降しているときに、油圧モータ13の下流位置における作動油の流量が低下している(すなわち、バルブ開度が、最大開度Amaxから、第1開度A1へ変化している)。
【0127】
(第4制御例)
次に、図6を用いて、第4制御例について説明する。当初、バルブ開度は最大開度Amaxであるとする。
【0128】
まず、制御部41は、現在の状態が、前進モードかどうかを判断する(S401)。現在が後退モードであれば(S401;NO)、制御部41は、可変式絞り弁3を制御して、可変式絞り弁3のバルブ開度を、最大開度Amax(全開状態となる開度)とする(S404;ブレーキ不要時)。
【0129】
現在が前進モードであれば(S401;YES)、次に、判断部42は、ブレーキペダル62がON状態かどうかを判断する(S402)。ブレーキペダル62がOFF状態であれば(S402;NO)、判断部42は、現在がブレーキ不要時であると判断し、その情報を受けて、制御部41は、可変式絞り弁3のバルブ開度を、最大開度Amaxとする(S404;ブレーキ不要時)。
【0130】
S402において、ブレーキペダル62がON状態であれば(S402;YES)、判断部42は、現在が「ブレーキ必要時」であると判断する。そして、S402において、ブレーキペダル62がON状態であれば(S402;YES)、制御部41は、可変式絞り弁3のバルブ開度を、第1開度A1とする(S403)。なお、第1開度A1、及び最大開度Amaxの大きさの関係は、第1開度A1<最大開度Amaxとなっている。
【0131】
S403、及びS404の処理の後は、再び、S401の処理に戻る。また、S401から、S403、又はS404までの処理は、Z秒を制御周期として、繰り返し実行される。以上が、第4制御例である。このように、ブレーキペダルルの状態に基づいて、可変式絞り弁3を制御してもよい。
【0132】
第1開度A1では、最大開度Amaxに比べて、作動油の流量が低下する。また、本制御においては、ブレーキペダル62がON状態のときが、判断部42によって「ブレーキ判断時」と判断される。
そして、本制御においては、ブレーキペダル62がオペレータによって操作されているときに、油圧モータ13の下流位置における作動油の流量が低下している(すなわち、バルブ開度が、最大開度Amaxから、第1開度A1へ変化している)。
【0133】
(第5制御例)
次に、図7を用いて、第5制御例について説明する。当初、バルブ開度は最大開度Amaxであるとする。
【0134】
まず、制御部41は、現在の状態が、前進モードかどうかを判断する(S501)。現在が後退モードであれば(S501;NO)、制御部41は、可変式絞り弁3を制御して、可変式絞り弁3のバルブ開度を、最大開度Amax(全開状態となる開度)とする(S508;ブレーキ不要時)。
【0135】
現在が前進モードであれば(S501;YES)、次に、判断部42は、ブレーキスイッチ7がONかどうかを判断する(S502)。
【0136】
S502において、ブレーキスイッチ7がONであれば(S502;YES)、判断部42は、現在が「ブレーキ必要時」であると判断する。そして、S502において、ブレーキスイッチ7がONであれば(S502;YES)、制御部41は、現在の油温Tが、設定温度T1以下かどうかを判断する(S503)。
【0137】
S503において、油温Tが設定温度T1以下である場合には(S503;YES)、制御部41は、可変式絞り弁3のバルブ開度を、第1開度A1とする(S506)。
S503において、油温Tが設定温度T1を超えている場合には(S503;NO)、制御部41は、可変式絞り弁3のバルブ開度を、第2開度A2とする(S507)。
【0138】
S502において、ブレーキスイッチ7がOFFであれば(S502;NO)、次に、次に、判断部42は、設置面Sの傾斜角度θが、設定角度θ1を超えているかどうかを判断する(S504)。
【0139】
S504において、傾斜角度θが設定角度θ1を超えていれば(S504;YES)、判断部42は、現在が「ブレーキ必要時」であると判断し、その情報を受けて、制御部41は、可変式絞り弁3のバルブ開度を、第1開度A1とする(S506)。
S504において、傾斜角度θが設定角度θ1以下であれば(S504;NO)、次に、判断部42は、ブレーキペダル62がON状態であるかどうかを判断する(S505)。
【0140】
S505において、ブレーキペダル62がON状態であれば(S505;YES)、判断部42は、現在が「ブレーキ必要時」であると判断し、制御部41は、可変式絞り弁3のバルブ開度を、第1開度A1とする(S506)。
S505において、ブレーキペダル62がOFF状態であれば(S505;NO)、判断部42は、現在がブレーキ不要時であると判断し、その情報を受けて、制御部41は、可変式絞り弁3のバルブ開度を、最大開度Amaxとする(S508;ブレーキ不要時)。
【0141】
S506、S507、及びS508の処理の後は、再び、S501の処理に戻る。また、S501から、S506、S507、又はS508までの処理は、Z秒を制御周期として、繰り返し実行される。以上が、第5制御例である。なお、第1開度A1、第2開度A2、及び最大開度Amaxの大きさの関係は、第1開度A1<第2開度A2<最大開度Amaxとなっている。
【0142】
以上のように、本実施形態の制御装置2においては、多様な制御が可能である。これらの制御例(第1乃至第5制御例)による制御パターンについては、切り換えスイッチを用いて、選択できるようにしてもよい。
【0143】
なお、これらの制御例では、傾斜角度、油温のそれぞれに着目した場合に、図10(d)、及び図12(a)に相当する制御(閾値を境とした、不連続的な開度制御)が行なわれている。しかし、可変式絞り弁3の制御は、それぞれに着目した場合において、このようなものには限られない。
【0144】
(効果)
次に、本実施形態に係る制御装置2により得られる効果について説明する。
本実施形態に係る制御装置2は、油圧ポンプ11と、当該油圧ポンプ11を駆動するエンジン(動力源)12と、当該油圧ポンプ11から流出する作動油によって作動する油圧モータ13と、当該油圧モータ13の回転力を二つのタイヤ(車輪)14tに伝達する伝達装置14と、油圧ポンプ11及び油圧モータ13を接続する油路で構成される閉回路15と、を有する油圧式走行装置1を制御するための装置である。
当該制御装置2は、閉回路15において、油圧モータ13から油圧ポンプ11の間であって、且つ、油圧モータ13の下流位置に設けられ、当該下流位置における作動油の流量を変化させる可変式絞り弁(流量調整手段)3と、可変式絞り弁3を制御する制御部41と、ブレーキ必要時か否かを判断する判断部42と、を備える。
制御部41は、判断部42における判断結果に基づき、(i)ブレーキ必要時においては、下流位置における作動油の流量を低下させ、(ii)ブレーキ不要時においては、下流位置における作動油の流量を変化させない。
【0145】
この構成によると、ブレーキ必要時においては、可変式絞り弁(流量調整手段)3を通過した作動油の流量が、通過前の流量よりも低下する。このときに、可変式絞り弁3の前後で圧力損失が生じ、作動油の前進エネルギーの一部が、熱や音となって失われる。その結果、油圧モータ13に減速力が生じて、油圧モータ13の回転数[rpm]が低下する。そのため、作動油の流量の調整により、油圧式走行装置1における減速力が増強される。
また、ブレーキ不要時には、油圧モータ13の下流位置における作動油の流量が変化しない。そのため、ブレーキ不要時における走行抵抗の発生が抑制される。
【0146】
また、本実施形態に係る制御装置2において、流量調整手段は、可変式絞り弁3である。
この構成では、絞り弁の「バルブ開度(絞り量)の調整」により、油圧モータ13の下流位置における作動油の流量が調整される。
【0147】
また、本実施形態に係る制御装置2は、水平面Hに対する、油圧式走行装置1の設置面Sの傾斜角度θを検知する傾斜角度センサ51をさらに備えている。また、判断部42は、(i)傾斜角度センサ51で検知された傾斜角度と、(ii)油圧式走行装置1の進行方向と、に基づいて、油圧式走行装置1が、設定角度(所定角度)θ1を超えて傾斜した傾斜面を下降しているときを、ブレーキ必要時と判断する。
【0148】
この構成によると、オペレータが、流量ブレーキ力を発生させるための操作をわざわざ行なわなくても、油圧式走行装置1が傾斜面を下降しているときに、流量ブレーキ力が自動的に得られる。
【0149】
また、本実施形態に係る制御装置2は、摩擦を利用して、二つのタイヤ(車輪)14tの回転を制動する二つの主ブレーキ61と、二つの主ブレーキ61を作動させるブレーキペダル62と、をさらに備えている。判断部42は、ブレーキペダル62がオペレータによって操作されているとき(ON状態のとき)を、ブレーキ必要時と判断する。
【0150】
この構成によると、オペレータが、減速力増強(主ブレーキによる減速力を流量ブレーキ力で補うこと)のための操作をわざわざ行なわなくても、ブレーキペダル62が操作されているときに(踏み込まれたときに)、流量ブレーキ力が自動的に得られる。
【0151】
また、本実施形態に係る制御装置2は、オペレータによって操作されるブレーキスイッチ(被操作部)7をさらに備えている。判断部42は、ブレーキスイッチ7がオペレータによって操作されているとき(ON状態のとき)を、ブレーキ必要時と判断する。
この構成によると、オペレータの直接の操作により、流量ブレーキ力が発生する。
【0152】
また、本実施形態に係る制御装置2において、油圧モータ13は、可変容量型モータであり、また、当該制御装置2は、ブレーキ必要時に、油圧モータ13の容量を、ブレーキ不要時における油圧モータ13の容量よりも増大させる、モータ容量制御部43を備える。
【0153】
この構成では、ブレーキ必要時の油圧モータ13の容量が、標準運転時に比べて大きくなる。その結果、可変式絞り弁3に送られる作動油の流量が増大し、可変式絞り弁3の前後の圧力損失が大きくなる。そのため、油圧式走行装置1における減速力がより増強される。
【0154】
また、本実施形態の制御装置2において、油圧ポンプ11は、可変容量型ポンプであってもよく、また、当該制御装置2は、ブレーキ必要時に、油圧ポンプ11の容量を、ブレーキ不要時における油圧ポンプ11の容量よりも減少させる、ポンプ容量制御部44を備える。
【0155】
この構成では、ブレーキ必要時の油圧ポンプ11の容量が、標準運転時に比べて小さくなる。その結果、油圧ポンプ11に取り込まれる作動油の量が少なくなり、油圧ポンプ11が油圧モータ13の回転抵抗となる。そのため、油圧ポンプ11が機関ブレーキとして機能し、油圧式走行装置1における減速力がより増強される。
【0156】
また、本実施形態に係る制御装置2は、閉回路15における作動油の温度を検知する油温センサ52を備えており、当該制御手段は、ブレーキ必要時において、油温センサ52で検知された温度Tが、設定温度(所定温度)T1を超えた場合には、下流位置における作動油の流量の低下量を、温度が設定温度T1以下である場合の低下量よりも小さくする。
【0157】
作動油の温度が高くなると、オーバーヒートが生じやすくなり、また、それが原因で、流量制御手段が損傷を受けやすくなる。
この構成では、ブレーキ必要時において、作動油の温度が、所定温度を超えて高くなった場合に、油圧モータ13の下流位置における、作動油の流量の低下量が、(油温が所定温度以下である場合に比べて)小さくなる。そのため、油圧式走行装置1の内部におけるオーバーヒートを防止でき、また、熱による可変式絞り弁3の損傷を防止できる。
【0158】
(その他の効果)
本実施形態の流量ブレーキを、エンジンブレーキと併用することにより、強力なブレーキ力が得られる。また、この流量ブレーキを使うことにより、走行体の主ブレーキ(フットブレーキ)61への負荷を減らすことができる。
【0159】
また、本実施形態においては、ブレーキ不要時には流量ブレーキが作用しない。そのため、例えば、慣性を利用して油圧式走行装置1を走行させたいようなとき(ブレーキ不要時)に、(i)走行フィーリングが悪化することがなく、また、(ii)油圧式走行装置1の燃費が悪化することがない。
【0160】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について、図8及び図9を用いて説明する。なお、上記の実施形態と同様の部分については、図に同一の符号を付してその説明を省略する。図8は、第2実施形態に係る走行体の油圧回路を示す概略図である。図9は、第2実施形態の制御装置における制御例を示すフローチャートである。以下、上記の第1実施形態とは異なる部分を中心に説明する。なお、図8において、符号104、141、145を付した部分は、第1実施形態において、符号4、41、45を付した部分に相当する。
【0161】
本実施形態においては、流量調整手段が、可変式絞り弁ではなく、可変式リリーフ弁103となっている。可変式リリーフ弁103においては、逃がし圧力の設定値の調整が可能となっている。この構成では、リリーフ弁の「逃がし圧力の設定値」を調整することにより、油圧モータ13の下流位置における作動油の流量が調整される。
【0162】
可変式リリーフ弁103の上流側の作動油の圧力が、可変式リリーフ弁103の逃がし圧力(解除圧力)以下の場合には、作動油は可変式リリーフ弁103を通過できない。可変式リリーフ弁103の上流側の作動油の圧力が、逃がし圧力を越えている場合には、作動油は可変式リリーフ弁103を通過できる。
そして、可変式リリーフ弁103を用いることにより、閉回路15における作動油の圧力が、一定値に維持される。
【0163】
可変式リリーフ弁103の逃がし圧力の設定値が、最小値(0 Pa)である場合には、弁が全開状態となり、作動油に圧力損失が生じない。可変式リリーフ弁103の逃がし圧力の設定値を調整して、逃がし圧力を大きくすることにより、可変式リリーフ弁103を通過した後の作動油の流量が低下し、可変式リリーフ弁103の通過前後で、作動油に圧力損失が生じる。そして、この圧力損失に起因して流量ブレーキ力が発生する。
【0164】
また、記憶部145には、(a)可変式リリーフ弁103の逃がし圧力の設定値(b)制御周期Zの値、(c)作動油の設定温度T1の値、(d)設定角度θ1、θ2の値、(e)設定踏み込み量X1の値などの、制御に必要な値が保存されている。また、記憶部145には、逃がし圧力の設定値として、複数の値が保存されている。
【0165】
制御部141は、(i)ブレーキ必要時においては、「逃がし圧力の設定値を、標準運転時の圧力値よりも高く設定する」ことにより、油圧モータ13の下流位置における作動油の流量を低下させ、また、(ii)ブレーキ不要時においては、「逃がし圧力の設定値を低くする(逃がし圧力の設定値を0 Pa程度にする)」ことにより、当該下流位置における作動油の流量を変化させない。
【0166】
制御部141による制御処理の内容については、ブレーキ必要時における制御対象が、可変式絞り弁3の「バルブ開度」ではなく、可変式リリーフ弁103の「逃がし圧力」であることを除き、制御部41と同様である。
【0167】
(制御例)
次に、本実施形態の制御装置における制御例について、図9を用いて説明する。当初、可変式リリーフ弁103の逃がし圧力設定値は、最小値0 [Pa](全開状態となる値)であるとする。
【0168】
まず、制御部141は、現在の状態が、前進モードかどうかを判断する(S601)。現在が後退モードであれば(S601;NO)、制御部141は、可変式リリーフ弁103を制御して、可変式リリーフ弁103の逃がし圧力を、最小値0 [Pa]に設定する(S604;ブレーキ不要時)。
【0169】
現在が前進モードであれば(S601;YES)、次に、判断部42は、傾斜角度θが、設定角度θ2の値を超えているかどうかを判断する(S602)。傾斜角度θが設定角度θ2以下であれば(S602;NO)、判断部42は、現在がブレーキ不要時であると判断し、その情報を受けて、制御部141は、可変式リリーフ弁103の逃がし圧力を、最小値0 [Pa]に設定する(S604;ブレーキ不要時)。
【0170】
S602において、傾斜角度θが設定角度θ2を超えていれば、(S602;YES)、判断部42は、現在が「ブレーキ必要時」であると判断する。そして、S602において、傾斜角度θが設定角度θ2を超えていれば(S602;YES)、制御部141は、可変式リリーフ弁103の逃がし圧力を、圧力C3[Pa]に設定する(S603)。なお、圧力C3[Pa] > 0 [Pa]である。
【0171】
S603、及びS604の処理の後は、再び、S601の処理に戻る。また、S601から、S603、又はS604までの処理は、Z秒を制御周期として、繰り返し実行される。
【0172】
上記のように、本制御例では、ブレーキ必要時には、逃がし圧力設定値は、圧力C3[Pa]となり(高圧設定)、ブレーキ不要時には、逃がし圧力設定値は、0 [Pa]となる(低圧設定)。
【0173】
また、本制御例では、傾斜角度、油温のそれぞれに着目した場合に、図11(d)に相当する制御(閾値を境とした、不連続的な開度制御)が行なわれている。しかし、可変式リリーフ弁103の制御は、それぞれに着目した場合において、このようなものには限られない。
【0174】
また、ここでは、一つの制御例として、傾斜角度θの値に基づいた制御について説明したが、第1実施形態と同様に、本実施形態に係る制御装置においても、ブレーキスイッチ7の操作量の値、及び油温Tの値に基づいた制御(図3参照)、ブレーキスイッチ7の操作量の値に基づいた制御(図4参照)、ブレーキペダル62の踏み込み量の値に基づいた制御(図6参照)、ブレーキスイッチ7の操作量の値、傾斜角度θの値、ブレーキペダル62の踏み込み量の値、及び油温Tの値に基づいた制御(図7参照)が行なわれてもよい。
【0175】
(効果)
次に、本実施形態に係る制御装置により得られる効果のうち、第1実施形態とは異なる部分について説明する。
本実施形態の制御装置においては、流量調整手段が、可変式リリーフ弁103である。
この構成では、リリーフ弁の「逃がし圧力(作動油が弁を通過可能となる圧力:解除圧力)の設定値の調整」により、油圧モータ13の下流位置における作動油の流量が調整される。
【0176】
なお、差圧型のリリーフ弁でなく、絶対圧型のリリーフ弁を用いれば、油圧モータ13の排出流量(吐出し流量)の大きさにかかわらず、また、走行体の車速にかかわらず、流量ブレーキ力を一定にすることができる。
【0177】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について、上記の第1実施形態とは異なる部分を中心に説明する。なお、上記の実施形態と同様の部分は同一符号で説明し、その詳細な説明を省略する。本実施形態においては、制御部(制御手段)が第1実施形態のものとは異なり、従って、制御装置での制御内容が、上記の第1実施形態とは異なる。以下、その詳細について説明する。
【0178】
第1実施形態の制御例では、傾斜角度、油温、ブレーキペダル62、走行モード切替スイッチ63、のそれぞれに関して、ブレーキ必要時に、一つの設定値(所定値;閾値)のみが設定されており、この設定値を境とした、非連続的な制御(例として、図10(d)、及び図12(a)に示す制御参照)を行なっている。
一方、本実施形態の制御例では、傾斜角度、油温、ブレーキペダル62、走行モード切替スイッチ63、のそれぞれに関して、ブレーキ必要時に入った後は、明確な閾値を設けず、連続的な制御を行なう(例として、図10(b)、図12(b)に示す制御参照)。なお、ブレーキ必要時かどうかを判断するための閾値は設けられている。
【0179】
本実施形態のブレーキスイッチ7においては、流量ブレーキのON/OFFの切り替えが可能であり、さらに、ON状態の中には、複数の入力状態が含まれる。すなわち、ブレーキスイッチ7の入力状態として、三種類以上の状態が存在する。
【0180】
本実施形態においては、判断部42は、次の(i)乃至(iii)のうち、少なくともいずれか一つの場合に該当したときに、「ブレーキ必要時」であると判断する。
(i)油圧式走行装置1が、設定角度θ1を超えて傾斜した傾斜面を下降しているとき
(ii)ブレーキペダル62がオペレータによって、少しでも操作されているとき
(iii)ブレーキスイッチ7がオペレータによって少しでも操作されているとき
【0181】
また、本制御例では、上記の「ブレーキ必要時」に、制御部において、次の(A)乃至(C)のうち、少なくともいずれかの制御が行なわれる。なお、次の(A)乃至(C)の各制御においては、判断部42における「ブレーキ必要時」に関する判断理由が異なる。
【0182】
(A)油圧式走行装置1が、設定角度θ1を超えて傾斜した傾斜面を下降しているときに(すなわちブレーキ必要時に)、制御部は、傾斜角度センサ51で検知された傾斜角度θの増大に伴い、油圧モータ13の下流位置における作動油の流量の低下量を大きくする(図10(b)参照)。
【0183】
(B)ブレーキペダル62がオペレータによって少しでも操作されているときに(すなわちブレーキ必要時に)、制御部は、ブレーキペダル62の踏み込み量の増大に伴い、油圧モータ13の下流位置における作動油の流量の低下量を大きくする。
【0184】
(C)ブレーキスイッチ7がオペレータによって少しでも操作されているときに(すなわちブレーキ必要時に)、制御部は、ブレーキスイッチ7の操作量の増大に伴い、下流位置における作動油の流量の低下量を大きくする。
【0185】
なお、上記の(A)乃至(C)の制御は、全てが行なわれてもよく、また、例えば、これらのうち、いずれか一つ、又は二つの制御のみが行なわれてもよい。
【0186】
また、制御部において、(i)傾斜角度の値、(ii)ブレーキペダル62の踏み込み量の値、及び、(iii)ブレーキスイッチ7の操作量の値、のうち、
(A)三つ(全て)に基づいて可変式絞り弁3の制御を行なうこと、又は、
(B)これらのうち一つ又は二つに基づいて可変式絞り弁3の制御を行なうこと、
については、切り換えスイッチ(図示せず)を用いて選択できる。
【0187】
また、制御部41は、ブレーキ必要時において、油温センサ52で検知された油温Tが設定温度T1を超えた場合には、油温センサ52で検知された温度の上昇に伴い、油圧モータ13の下流位置における作動油の流量の低下量を小さくする(図12(b)参照)。なお、油温に基づいて可変式絞り弁3の制御を行なうか否かは、切り換えスイッチ(図示せず)を用いて切り換えられる。
【0188】
本制御においては、ブレーキ必要時(傾斜角度θが設定角度θ1を超えているとき)に、傾斜角度θの増大に伴い、下流位置における作動油の流量の低下量が大きくなっている(すなわち、バルブ開度が、最大開度Amaxから減少している;図10(b)参照)。
【0189】
また、本制御においては、ブレーキペダル62が操作されているときに(すなわちブレーキ必要時に)、ブレーキペダル62の操作量の増大に伴い、下流位置における作動油の流量の低下量が大きくなっている(すなわち、バルブ開度が、最大開度Amaxから減少している)。
【0190】
また、本制御においては、ブレーキスイッチ7が操作されているときに(すなわちブレーキ必要時に)、ブレーキスイッチ7の操作量の増大に伴い、下流位置における作動油の流量の低下量が大きくなっている(すなわち、バルブ開度が、最大開度Amaxから減少している)。
【0191】
第1開度A1と第2開度A2とでは、第1開度A1の方が、第2開度A2よりも、作動油の流量の低下量が大きい。従って、本制御においては、ブレーキ必要時において、油温Tが設定温度T1を超えたときに、油温センサ52で検知された温度の上昇に伴い、油圧モータ13の下流位置における作動油の流量の低下量が小さくなっている(すなわち、バルブ開度が、第1開度A1から最大開度Amaxへ変化している)。
【0192】
(効果)
次に、本実施形態に係る制御装置により得られる効果について説明する。本実施形態に係る制御装置において、油圧式走行装置1が、設定角度(所定角度)θ1を超えて傾斜した傾斜面を下降しているときに、制御部は、傾斜角度センサ51で検知された傾斜角度の増大に伴い、下流位置における作動油の流量の低下量を大きくする。
【0193】
油圧式走行装置1においては、降坂時に機関ブレーキが機能するが、大きく傾斜した坂を下りるときには、機関ブレーキを使ったとしても、減速力としては不足する場合がある。この構成によると、降坂時の傾斜角度の増大に伴って、流量ブレーキ力が大きくなるので、傾斜した坂においても、十分な減速力が得られ、安定した走行が可能となる。
【0194】
また、本実施形態に係る制御装置において、ブレーキペダル62がオペレータによって操作されているときに、制御部は、ブレーキペダル62の踏み込み量の増大に伴い、下流位置における作動油の流量の低下量を大きくする。
【0195】
油圧式走行装置1において、ブレーキペダル62がオペレータによって操作されているときは、ブレーキが必要なときであるといえる。この構成によると、ブレーキペダル62の踏み込み量の増大に伴って、流量ブレーキ力が大きくなるので、ブレーキが必要なときに、十分な減速力が得られる。
【0196】
また、本実施形態に係る制御装置において、ブレーキスイッチ7がオペレータによって操作されているときに、制御部は、ブレーキスイッチ7の操作量の増大に伴い、下流位置における作動油の流量の低下量を大きくする。
【0197】
油圧式走行装置1において、ブレーキスイッチ7がオペレータによって操作されているときは、減速力が必要なときであるといえる。この構成によると、ブレーキスイッチ7の操作量の増大に伴って、流量ブレーキ力が大きくなるので、減速力が必要なときに、十分な減速力が得られる。
【0198】
なお、本実施形態の記憶部(記憶手段)には、(a)各種のバルブ開度(第1開度A1、第2開度A2、最大開度Amaxなど)の値、(b)制御周期Zの値、(c)作動油の設定温度T1の値、(d)各種の設定角度の値(θ1、θ2、θ3など)、(e)各種の設定踏み込み量の値、(f)ブレーキスイッチ7の操作量の値などの、制御に必要な値が保存されている。
【0199】
(他の実施形態について)
本発明の実施の形態は、上記の実施形態には限られない。例えば、上記の実施形態においては、油温センサ52が、第1流路15fに設置されているが、油温センサ52は、閉回路15に設定されていればよく、油温センサ52は、第2流路15sに設置されていてもよい。また、上記の実施形態において、「作動油の温度」は、油温センサ52が設定された一箇所のみで測定されているが、「作動油の温度」については、閉回路15の複数位置における温度の平均としてもよい。
【0200】
判断部においては、現在の状態が「ブレーキ必要時」に該当するかどうかを積極的に判断して、それ以外を「ブレーキ不要時」として扱ってもよいし、また、「ブレーキ必要時」、及び、「ブレーキ不要時」のそれぞれに関して、現在の状態がそれらに該当するかどうかを積極的に判断してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0201】
本発明は、例えば、ホイールショベル、ホイールクレーン、ホイールローダなどのホイール式作業機械を含む油圧式走行装置に適用できる。
【符号の説明】
【0202】
1 油圧式走行装置
11 油圧ポンプ
12 エンジン(動力源)
13 油圧モータ
14 伝達装置
14s ドライブシャフト
14t タイヤ(車輪)
14w モータ軸
15 閉回路
15f 第1流路
15s 第2流路
16a〜16e 流路
16f 高圧リリーフ弁
16g 高圧リリーフ弁
16h 低圧リリーフ弁
16i チェック弁
16j チェック弁
2 制御装置
3 可変式絞り弁(流量調整手段)
103 可変式リリーフ弁(流量調整手段)
4 コンピュータ
41 制御部(制御手段)
42 判断部(判断手段)
43 モータ容量制御部(モータ容量制御手段)
44 ポンプ容量制御部(ポンプ容量制御手段)
45 記憶部(記憶手段)
51 傾斜角度センサ
52 油温センサ
61 主ブレーキ
62 ブレーキペダル
62s 踏み込み量センサ
63 走行モード切替スイッチ
7 ブレーキスイッチ(被操作部)
8 走行体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ポンプ(11)と、当該油圧ポンプを駆動する動力源(12)と、当該油圧ポンプから流出する作動油によって作動する油圧モータ(13)と、当該油圧モータの回転力を車輪に伝達する伝達装置(14)と、前記油圧ポンプ及び前記油圧モータを接続する油路で構成される閉回路(15)と、を有する油圧式走行装置(1)を制御するための装置であって、
前記閉回路において、前記油圧モータ及び前記油圧ポンプの間であって、且つ、前記油圧モータの下流位置に設けられ、当該下流位置における前記作動油の流量を変化させる流量調整手段(3)と、
前記流量調整手段を制御する制御手段(41)と、
ブレーキ必要時か否かを判断する判断手段(42)と、を備え、
前記制御手段は、前記判断手段における判断結果に基づき、(i)前記ブレーキ必要時においては、前記下流位置における前記作動油の流量を低下させ、(ii)ブレーキ不要時においては、前記下流位置における前記作動油の流量を変化させないことを特徴とする制御装置(2)。
【請求項2】
前記流量調整手段が、可変式絞り弁(3)であることを特徴とする、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記流量調整手段が、可変式リリーフ弁(103)であることを特徴とする、請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
水平面に対する、前記油圧式走行装置の設置面の傾斜角度を検知する傾斜角度センサ(51)をさらに備え、
前記判断手段は、(i)前記傾斜角度センサで検知された傾斜角度と、(ii)前記油圧式走行装置の進行方向と、に基づいて、前記油圧式走行装置が、所定角度を超えて傾斜した傾斜面を下降しているときを、前記ブレーキ必要時と判断することを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項5】
前記油圧式走行装置が、前記所定角度を超えて傾斜した傾斜面を下降しているときに、前記制御手段は、前記傾斜角度センサで検知された前記傾斜角度の増大に伴い、前記下流位置における前記作動油の流量の低下量を大きくすることを特徴とする、請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
摩擦を利用して前記車輪の回転を制動する主ブレーキ(61)と、
前記主ブレーキを作動させるブレーキペダル(62)と、をさらに備え、
前記判断手段は、前記ブレーキペダルがオペレータによって操作されているときを、前記ブレーキ必要時と判断することを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項7】
前記ブレーキペダルがオペレータによって操作されているときに、前記制御手段は、前記ブレーキペダルの踏み込み量の増大に伴い、前記下流位置における前記作動油の流量の低下量を大きくすることを特徴とする、請求項6に記載の制御装置。
【請求項8】
オペレータによって操作される被操作部(7)をさらに備え、
前記判断手段は、前記被操作部がオペレータによって操作されているときを、前記ブレーキ必要時と判断することを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項9】
前記被操作部がオペレータによって操作されているときに、前記制御手段は、前記被操作部の操作量の増大に伴い、前記下流位置における前記作動油の流量の低下量を大きくすることを特徴とする、請求項8に記載の制御装置。
【請求項10】
前記油圧モータは、可変容量型モータであり、
前記ブレーキ必要時に、前記油圧モータの容量を、前記ブレーキ不要時における前記油圧モータの容量よりも増大させる、モータ容量制御手段(43)をさらに備えていることを特徴とする、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項11】
前記油圧ポンプは、可変容量型ポンプであり、
前記ブレーキ必要時に、前記油圧ポンプの容量を、前記ブレーキ不要時における前記油圧ポンプの容量よりも減少させる、ポンプ容量制御手段(44)をさらに備えていることを特徴とする、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項12】
前記閉回路における前記作動油の温度を検知する油温センサ(52)をさらに備え、
前記制御手段は、前記ブレーキ必要時において、前記油温センサで検知された温度が所定温度を超えた場合には、前記下流位置における前記作動油の流量の低下量を、前記温度が前記所定温度以下である場合よりも、小さくすることを特徴とする、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−270767(P2010−270767A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120467(P2009−120467)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(304020362)コベルコクレーン株式会社 (296)
【Fターム(参考)】