説明

油圧調整弁

【課題】油圧調整弁1の軸方向の長さを短縮する。
【解決手段】スプール7の大径ランド部7aは、スリーブ6内において、電磁アクチュエータ8の磁気力により軸方向一端側に移動することで、入力室11と出力室12との連通状態を閉側に移行させ、スプリング力により軸方向他端側に移動することで、連通状態を開側に移行させる。また、大径ランド部7aは、出力室12の油圧により軸方向一端側に付勢されるように出力室12に露出し、出力室12の油圧は、連通状態を閉側に移行させるようにスプール7に作用する。これにより、出力室12の油圧によって連通状態が微修正されるので、一旦、スリーブ6外に出力された油圧を、再度、スリーブ6内に導入しなくても、連通状態を微修正することができる。このため、F/Bポートを設ける必要がなくなるので、油圧調整弁1の軸方向の長さを短縮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状のスリーブと、スリーブ内で軸方向に摺動自在に支持されるスプールとを備え、電磁アクチュエータの磁気力によりスプールを軸方向に駆動して油圧を調整する油圧調整弁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、油圧調整弁は、例えば、車両に搭載される自動変速機等に組み込まれ、変速要素に供給すべき油圧を制御するために利用されている。
ここで、油圧調整弁は、スリーブに各種のポートを有しており、スリーブ内でスプールを駆動して油圧の入力ポートと油圧の出力ポートとの連通状態を変化させることで入力した油圧を目標圧まで調整して出力する。
【0003】
また、油圧の調整に関し、主に、電磁アクチュエータの磁気力により、スプールをスプリングの付勢力に抗して軸方向に駆動することで連通状態を変化させる。さらに、出力された油圧の一部を、入力ポートおよび出力ポートとは別に設けられたフィードバックポート(以下、F/Bポートと呼ぶ。)からスリーブ内に導くとともに、連通状態が閉側に移行するようにスプールに作用させている(例えば、特許文献1、2参照。)。これにより、F/Bポートから入力した油圧がスプールに及ぼす力(以下、F/B力と呼ぶ。)によって連通状態が微修正され、より高精度かつ迅速に目標圧まで調整することができる。
【0004】
また、スリーブは、入力ポート、出力ポートおよびF/Bポートとは別に、大気圧に通じる排出ポートを有し、スリーブ内においてリークした作動油は、排出ポートを通過してオイルパン等の大気圧下の領域まで排出される。
以上により、油圧調整弁は、入力ポート、出力ポート、F/Bポートおよび排出ポートの4つのポートを有するため、軸方向に長いものとなっている。このため、油圧調整弁には、軸方向の長さを短縮する要請が高い。
【0005】
さらに、油圧調整弁には、電磁アクチュエータが非通電状態であるときに(電磁アクチュエータが磁気力を発生していないときに)連通状態が閉となる常閉型(例えば、特許文献1参照。)と、電磁アクチュエータが非通電状態であるときに連通状態が開となる常開型(例えば、特許文献2参照。)とが存在する。そして、常閉型の油圧調整弁と常開型の油圧調整弁とは、入力ポート、出力ポート、F/Bポートおよび排出ポートの軸方向の配置順序が異なるため、常閉型、常開型の油圧調整弁を、両方とも自動変速機等に組み込む場合に、次のような問題が生じる。
【0006】
すなわち、常閉型、常開型の油圧調整弁では、4つのポートの軸方向の配置順序が異なるため、油圧調整弁が組み込まれる自動変速機等のバルブボディにおいて、出力用の油路、入力用の油路および排出用の油路には、互いにねじれの配置を取る必要がある油路の組合せが存在してしまう。このため、バルブボディにおける出力用、入力用および排出用の油路に関し、ねじれの配置を取る必要がない油圧調整弁が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−046640号公報
【特許文献2】特開2004−060806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、第1に油圧調整弁の軸方向の長さを短縮することにあり、第2に自動変速機等のバルブボディにおける油路に関してねじれの配置を取る必要がない油圧調整弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〔請求項1の手段〕
請求項1の手段によれば、油圧調整弁は、油圧の入力ポートおよび油圧の出力ポートを有する筒状のスリーブと、スリーブ内で軸方向に摺動自在に支持されるスプールと、電力の供給を受けることで、スプールを軸方向一端側に駆動する磁気力を発生する電磁アクチュエータと、スプールを、常時、軸方向他端側に付勢する付勢手段とを備え、入力ポートが開口する入力室、および出力ポートが開口する出力室をスプール内に形成するとともに、スプールを軸方向に移動させてスプール内における入力室と出力室との連通状態を変化させることで、出力室の油圧を調整する。
【0010】
また、スプールは、スリーブ内において入力室と出力室との間を開閉するランド部を有し、ランド部は、電磁アクチュエータの磁気力によりスプールが軸方向一端側に移動することで、入力室と出力室との間を閉鎖するとともに、付勢手段の付勢力によりスプールが軸方向他端側に移動することで、入力室と出力室との間を開放する。さらに、ランド部は、出力室の油圧により軸方向一端側に付勢されるように出力室に露出し、出力室は、出力室の油圧がランド部を軸方向一端側に付勢することでスプールが軸方向一端側に移動することができるように形成されている。
【0011】
これにより、常開型の油圧調整弁において、出力室の油圧は、入力室と出力室との連通状態を閉側に移行させるようにスプールに作用するので、出力室の油圧によって連通状態が微修正される。このため、常開型の油圧調整弁において、一旦、出力ポートからスリーブ外に出力された油圧を、再度、スリーブ内に導入しなくても、連通状態を微修正することができるので、F/Bポートを設ける必要がなくなる。
以上により、常開型の油圧調整弁に関し、軸方向の長さを短縮することができる。
【0012】
〔請求項2の手段〕
請求項2の手段によれば、スリーブは、大気圧に通じる作動油の排出ポートを有し、スリーブ内において出力室からリークした作動油は、排出ポートを通過して大気圧の領域まで排出される。そして、入力ポートは、出力ポートの軸方向一端側に設けられ、排出ポートは、出力ポートの軸方向他端側に設けられている。
【0013】
これにより、軸方向一端から他端側に向かって入力ポート、出力ポート、排出ポートが順に並ぶ常開型の油圧調整弁を提供することができる。また、常閉型の油圧調整弁には、例えば、特許文献2に記載のように、軸方向一端から他端側に向かってF/Bポート、入力ポート、出力ポート、排出ポートが順に並ぶものが存在する。
【0014】
このため、請求項2の常開型の油圧調整弁と、特許文献2に記載の常閉型の油圧調整弁とを自動変速機等に組み込むことにより、自動変速機等のバルブボディにおいて、入力ポート、出力ポート、排出ポートの軸方向の配置順序を常閉型、常開型の油圧調整弁間で揃えることができる。
以上により、自動変速機等のバルブボディにおいて、出力用、入力用および排出用の油路に関してねじれの配置を取る必要がなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(a)は高圧側不感領域にある油圧調整弁をバルブボディに組み込んだ状態を示す全体構成図であり、(b)は高圧側不感領域にある油圧調整弁の弁部を示す構成図であり、(c)はスプールに軸方向に作用する力を示す説明図である。
【図2】(a)は高圧側臨界値にある油圧調整弁の全体構成図であり、(b)は低圧側臨界値にある油圧調整弁の全体構成図である。
【図3】低圧側不感領域にある油圧調整弁を示す全体構成図である。
【図4】ストローク量と出力室の油圧との相関特性を示す特性図である。
【図5】常閉型の油圧調整弁と常開型の油圧調整弁とをバルブボディに組み込んだ状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施形態の油圧調整弁は、油圧の入力ポートおよび油圧の出力ポートを有する筒状のスリーブと、スリーブ内で軸方向に摺動自在に支持されるスプールと、電力の供給を受けることで、スプールを軸方向一端側に駆動する磁気力を発生する電磁アクチュエータと、スプールを、常時、軸方向他端側に付勢する付勢手段とを備え、入力ポートが開口する入力室、および出力ポートが開口する出力室をスプール内に形成するとともに、スプールを軸方向に移動させてスプール内における入力室と出力室との連通状態を変化させることで、出力室の油圧を調整する。
【0017】
また、スプールは、スリーブ内において入力室と出力室との間を開閉するランド部を有し、ランド部は、電磁アクチュエータの磁気力によりスプールが軸方向一端側に移動することで、入力室と出力室との間を閉鎖するとともに、付勢手段の付勢力によりスプールが軸方向他端側に移動することで、入力室と出力室との間を開放する。さらに、ランド部は、出力室の油圧により軸方向一端側に付勢されるように出力室に露出し、出力室は、出力室の油圧がランド部を軸方向一端側に付勢することでスプールが軸方向一端側に移動することができるように形成されている。
【0018】
さらに、スリーブは、大気圧に通じる作動油の排出ポートを有し、スリーブ内において出力室からリークした作動油は、排出ポートを通過して大気圧の領域まで排出される。そして、入力ポートは、出力ポートの軸方向一端側に設けられ、排出ポートは、出力ポートの軸方向他端側に設けられている。
【実施例】
【0019】
〔実施例の構成〕
実施例の油圧調整弁1の構成を、図面を用いて説明する。
油圧調整弁1は、例えば、車両に搭載される自動変速機のバルブボディ2に組み込まれ、変速要素(図示せず)に供給すべき油圧を制御するために利用されるものである。
【0020】
油圧調整弁1は、油圧の入力ポート3、油圧の出力ポート4および作動油の排出ポート5を有する筒状のスリーブ6と、スリーブ6内で軸方向に摺動自在に支持されるスプール7と、電力の供給を受けることで、スプール7を軸方向一端側に駆動する磁気力を発生する電磁アクチュエータ8と、スプール7を、常時、軸方向他端側に付勢する付勢手段としてのコイルスプリング9とを備える。
【0021】
そして、油圧調整弁1は、入力ポート3が開口する入力室11、および出力ポート4が開口する出力室12をスリーブ6内に形成するとともに、スプール7を軸方向に移動させてスリーブ6内における入力室11と出力室12との連通状態を変化させることで、出力室12の油圧を目標圧まで調整する。
【0022】
スリーブ6およびスプール7は、油圧調整弁1の弁部13をなすものであり、バルブボディ2に設けられた装着穴14に挿入されて組み込まれる。また、弁部13は、スリーブ6の外周に、適宜、Oリング15が装着された状態で装着穴14に挿入されて組み込まれ、作動油の液密性が確保されている。
【0023】
電磁アクチュエータ8は、通電により磁束を発生するコイル17、コイル17が発生する磁束を通すプランジャ18、ステータ19およびヨーク20等からなる周知の構造を有し、プランジャ18を軸方向一端側に磁気的に吸引することでロッド21を介してスプール7を軸方向一端側に駆動する。また、電磁アクチュエータ8は、弁部13の軸方向他端側に配置され、ヨーク20の軸方向一端をスリーブ6の軸方向他端にかしめることで弁部13に一体化されている。
【0024】
そして、油圧調整弁1は、以下に示す大径ランド部7aにより、入力室11と出力室12との連通状態を変化させることで、出力室12の油圧を目標圧まで調整するものである。また、大径ランド部7aは、電磁アクチュエータ8の磁気力によりスプール7が軸方向一端側に移動することで、入力室11と出力室12との間を閉鎖するとともに、コイルスプリング9の付勢力(以下、スプリング力と呼ぶ。)によりスプール7が軸方向他端側に移動することで、入力室11と出力室12との間を開放する。このため、油圧調整弁1は、電磁アクチュエータ8が非通電状態であるときに入力室11と出力室12との連通状態が開となる常開型である。
【0025】
以下、油圧調整弁1の特徴的構成を詳述する。
スリーブ6は、軸方向に貫通する貫通穴23を有し(図1(a)参照)、貫通穴23にスプール7を軸方向に摺動自在に支持して収容する。ここで、貫通穴23を形成する内周面(スリーブ6の内周面)は、軸方向の位置に応じて径方向の寸法、形状等が異なり、スプール7の外周面も、軸方向の位置に応じて径方向の寸法、形状等が異なっている。このため、スリーブ6の内周面とスプール7の外周面とは、以下に説明するように、径方向に離間して作動油が流出入する入力室11や出力室12等の空間を形成したり、形成された空間を互いに摺接し合って閉鎖したりする。
【0026】
すなわち、スプール7は、スリーブ6の内周面に摺接する2つの大径ランド部7a、7b、大径ランド部7a、7bを軸方向に連結する軸部7c、大径ランド部7aの他端側に接続して他端部においてスリーブ6の内周面に摺接する摺動軸部7d、ロッド21の当接を受けて電磁アクチュエータ8の磁気力が伝達され、スリーブ6の内周面に摺接する摺動軸部7e、摺動軸部7d、7eを軸方向に連結する軸部7fを有する。
【0027】
ここで、大径ランド部7a、7b、摺動軸部7d、7eおよび軸部7c、7fは同軸である。また、大径ランド部7a、7bは同径であり、摺動軸部7d、7eは同径であり、かつ、大径ランド部7a、7bよりも小径である。さらに、軸部7cは摺動軸部7d、7eよりも小径であり、軸部7fは軸部7cよりも小径である。
そして、スリーブ6は、大径ランド部7a、7bおよび摺動軸部7d、7eが内周面に摺接するようにスプール7を貫通穴23に収容することで、軸方向一端から他端側に向かってスプリング室24、入力室11、出力室12および排出室25を順次に形成する。
【0028】
スプリング室24は、コイルスプリング9を軸方向に伸縮自在に収容する空間であり、貫通穴23の最も軸方向一端側を占めている。また、スプリング室24の軸方向一端は、コイルスプリング9の軸方向一端を支持してスプリング力を調整するスクリュアジャスタ27により閉鎖されている。
【0029】
また、スプリング室24の軸方向他端側の内周面は、スプリング室24よりも径小に設けられており、大径ランド部7bの外周面が摺接する摺接面28を形成している。そして、スプリング室24の軸方向他端は、大径ランド部7bが摺接面28に摺接することにより閉鎖されている。なお、コイルスプリング9の軸方向他端は、大径ランド部7bの軸方向一端に、スプリング座29を介して支持されている。
【0030】
入力室11は、貫通穴23において主に軸部7cを収容する空間として形成されており、入力ポート3を介して作動油が流入する空間である。また、入力ポート3は、スリーブ6がバルブボディ2の装着穴14に挿入されたときに、バルブボディ2側の入力用の油路31と入力室11とが連通することができる位置に開口している。
【0031】
さらに、入力室11は、軸方向一端側で大径ランド部7bが常に摺接面28に摺接することで閉鎖されている。そして、大径ランド部7bは、スプール7の軸方向他端側への移動に応じて入力室11に突出したり、スプール7の軸方向一端側への移動に応じて入力室11から引っ込んだりする。
【0032】
なお、入力室11に供給される作動油は、油圧ポンプ等により所定の供給圧Psに加圧され、入力用の油路31を通って油圧調整弁1に供給され、入力室11の油圧は供給圧Psに略一致している。また、入力ポート3には、作動油に含まれる異物を除去して、スリーブ6内への異物の進入を阻止するフィルタ32が装着されている。
そして、入力室11は、次に説明するように、軸方向他端側で大径ランド部7aにより出力室12との連通状態を操作される。
【0033】
出力室12は、貫通穴23において主に大径ランド部7aおよび摺動軸部7dを収容する空間として形成されており、入力室11から作動油が流入するとともに、流入した作動油が出力ポート4を介して流出する空間である。ここで、出力ポート4は、スリーブ6がバルブボディ2の装着穴14に挿入されたときに、バルブボディ2側の出力用の油路33と出力室12とが連通することができる位置に開口している。また、出力室12は、大径ランド部7aにより軸方向一端において入力室11との連通状態を操作されるように形成されている。
【0034】
すなわち、入力室11の軸方向他端部を形成する内周面は、大径ランド部7aの外周面が摺接する摺接面34であり、大径ランド部7aは、スプール7の軸方向一端側への移動に応じて、摺接面34と軸方向に重複して摺接面34に摺接することで、自身の外周面と摺接面34との間に、クリアランスC1(図2(b)および図3参照。)を形成する。これにより、入力室11の作動油は、クリアランスC1を通じて絞られながら出力室12に流入し、出力室12の油圧は、入力室11の作動油がクリアランスC1を通過して絞られることで供給圧Psよりも低くなる。
【0035】
そして、大径ランド部7aは、摺接面34との軸方向に関する重複長さs1(図2(b)および図3参照。)に応じて、入力室11と出力室12との連通状態を変化させる。
つまり、スプール7の軸方向一端側への移動に伴って重複長さs1が大きくなるほど、クリアランスC1における作動油の通過抵抗が大きくなるので、作動油は入力室11から出力室12に向かって流れにくくなり、クリアランスC1における油圧の低下量ΔP1は大きくなる。このため、重複長さs1が大きくなるほど、入力室11と出力室12との連通状態は閉側に移行する。
【0036】
また、スプール7の軸方向他端側への移動に伴って重複長さs1が小さくなるほど、クリアランスC1における作動油の通過抵抗が小さくなるので、作動油は入力室11から出力室12に向かって流れやすくなり、低下量ΔP1は小さくなる。このため、重複長さs1が小さくなるほど、入力室11と出力室12との連通状態は開側に移行する。
【0037】
そして、スプール7の軸方向他端側への移動により、大径ランド部7aが摺接面34から軸方向他端側に離間して摺接面34と軸方向に重複しなくなると入力室11と出力室12との間が開放される(図1および図2(a)参照。)。このとき、クリアランスC1は形成されておらず、油圧の低下は生じないので、出力室12の油圧は入力室11の油圧と略一致して供給圧Psに等しくなる。
【0038】
さらに、大径ランド部7aの他端面36は、出力室12の油圧により軸方向一端側に付勢されるように常に出力室12に露出している。このため、他端面36には、常に出力室12の油圧が軸方向一端側に向かって作用する。
そして、出力室12は、次に説明するように、軸方向他端側で摺動軸部7dにより排出室25との連通状態を操作される。
【0039】
排出室25は、貫通穴23において主に軸部7fが収容される空間として形成されており、出力室12から作動油がリークして流入するとともに、流入した作動油が排出ポート5を介して流出する空間である。ここで、排出ポート5は、スリーブ6がバルブボディ2の装着穴14に挿入されたときに、バルブボディ2側の排出用の油路37と排出室25とが連通することができる位置に開口しており、排出用の油路37は大気圧P0の雰囲気にあるオイルパン(図示せず。)に通じている。
【0040】
このため、排出ポート5から流出した作動油は、排出用の油路37を通じてオイルパンに戻る。また、排出室25の圧力は、大気圧P0に略一致しており、出力室12から排出室25にリークした作動油の油圧は大気圧P0相当まで低下する。そして、排出室25は、摺動軸部7dにより軸方向一端において出力室12との連通状態を操作されるように形成されている。
【0041】
すなわち、出力室12の軸方向他端側の内周面は、摺動軸部7dの外周面が摺接する摺接面38であり、摺動軸部7dは、スプール7の軸方向他端側への移動に応じて、摺接面38と軸方向に重複して摺接面38に摺接することで、自身の外周面と摺接面38との間に、クリアランスC2(図1および図2(a)参照。)を形成する。これにより、出力室12の作動油は、クリアランスC2を通じて絞られながら油圧の低下を伴って排出室25に流入する。
【0042】
そして、摺動軸部7dは、摺接面38との軸方向に関する重複長さs2(図1および図2(a)参照。)に応じて、出力室12と排出室25との連通状態を変化させる。
つまり、スプール7の軸方向他端側への移動に伴って重複長さs2が大きくなるほど、クリアランスC2における作動油の通過抵抗が大きくなるので、作動油は出力室12から排出室25に向かって流れにくくなり、クリアランスC2における油圧の低下量ΔP2は大きくなる。このため、重複長さs2が大きくなるほど、出力室12と排出室25との連通状態は閉側に移行する。
【0043】
また、スプール7の軸方向一端側への移動に伴って重複長さs2が小さくなるほど、クリアランスC2における作動油の通過抵抗が小さくなるので、作動油は入力室11から排出室25に向かって流れやすくなり、低下量ΔP2は小さくなる。このため、重複長さs2が小さくなるほど、出力室12と排出室25との連通状態は開側に移行する。
【0044】
そして、スプール7の軸方向一端側への移動により、摺動軸部7dが摺接面38から軸方向一端側に離間して摺接面38と軸方向に重複しなくなると出力室12と排出室25との間が開放される(図2(b)および図3参照。)。このとき、クリアランスC2は形成されておらず、出力室12の作動油は、ほぼ全量、排出室25および排出用の油路37を通じてオイルパンまで戻され、出力室12は排出室25と同様に大気圧P0相当になる。
【0045】
ここで、図1(b)に示すように、大径ランド部7aの軸方向一端と摺動軸部7dの軸方向他端との軸方向距離を第1設定長さL1、摺接面34の軸方向他端と摺接面38の軸方向一端との軸方向距離を第2設定長さL2と定義すれば、第1設定長さL1は第2設定長さL2よりも長くなるように設定されている。また、第1設定長さL1と第2設定長さL2との差分ΔLは、大径ランド部7aの軸方向一端と摺接面34の軸方向他端とが軸方向に一致しているときの重複長さs2(図2(a)参照。)、および、摺動軸部7dの軸方向他端と摺接面38の軸方向一端とが軸方向に一致しているときの重複長さs1(図2(b)参照。)に等しい。
【0046】
さらに、差分ΔLは、大径ランド部7aが摺接面34に摺接し、かつ、摺動軸部7dが摺接面38に摺接して重複長さs1、s2が両方とも発生しているとき(つまり、スプール7のスリーブ6に対するストローク量が、図2(a)と図2(b)との間の遷移領域(図4参照。)にあるとき、)、重複長さs1、s2の和に等しい。
【0047】
そして、第1、第2設定長さL1、L2、スプリング力、および電磁アクチュエータ8の磁気力等は、クリアランスC1、C2による油圧の低下量ΔP1、ΔP2に関し、次のような推移を実現できるように設定されている。
【0048】
すなわち、低下量ΔP1、ΔP2の和は、遷移領域において常に供給圧Psと大気圧P0との差であるPs−P0に略一致する(以下、設定条件1と呼ぶ。)ように設定されている。また、低下量ΔP1、ΔP2は、それぞれ、重複長さs1、s2がゼロから差分ΔLまで増加するのに比例して、ゼロからPs−P0まで増加する(以下、設定条件2と呼ぶ。)ように設定されている。
【0049】
このため、油圧調整弁1に供給された作動油は、入力室11からクリアランスC1を通過して出力室12に流入することで、重複長さs1に応じて定まる低下量ΔP1だけ供給圧Psから油圧を下げる。さらに、出力室12の作動油は、クリアランスC2を通過して排出室25に達したときに急激に大気圧P0まで油圧を下げるのではなく、クリアランスC2に流入してから排出室25に流入する直前までの間に連続的かつ緩やかに、重複長さs2に応じて定まる低下量ΔP2だけ油圧を下げて大気圧P0になる。
【0050】
また、重複長さs1が差分ΔLよりも大きくなると、重複長さs2がなくなってクリアランスC2が形成されなくなるので、出力室12と排出室25との間が開放される。そして、クリアランスC1を通過して入力室11から出力室12に流入する作動油はごく微量となり、出力室12に流入する微量の作動油は排出室に流入する。
【0051】
また、重複長さs2が差分ΔLよりも大きくなると、重複長さs1がなくなってクリアランスC1が形成されなくなるので、入力室11と出力室12との間が開放され、出力室12の油圧が供給圧Psに略一致する。そして、クリアランスC2を通過して出力室12から排出室25に流入する作動油はごく微量となる。
【0052】
〔実施例の作用〕
実施例の油圧調整弁1の作用を図面に基づいて説明する。
まず、油圧調整弁1の作用の説明に際し、スプール7のストローク量を以下のように定義する。すなわち、電磁アクチュエータ8のコイル17に通電が行われておらず、スプール7がスプリング力により付勢されて最も軸方向他端に存在するときに、ストローク量をゼロとする。そして、コイル17への通電により、通電量ゼロであるときの位置からスプール7が軸方向一端側へ軸方向に移動したときの軸方向移動量をストローク量とする。
【0053】
また、ストローク量と出力室12の油圧との相関特性Xは、スプール7のスリーブ6に対する軸方向の位置関係に応じて、図4に示すように、高圧側不感領域、遷移領域および低圧側不感領域の3つの領域に区分することができる。
【0054】
高圧側不感領域は、ストローク量に係わらず出力室12の油圧が供給圧Psに略一致している領域であり、遷移領域は、ストローク量の増加に合わせて出力室12の油圧が低下する領域である。また、低圧側不感領域は、ストローク量に係わらず出力室12の油圧が大気圧P0に略一致している領域である。
なお、高圧側不感領域と遷移領域との境界となるストローク量を高圧側臨界値と呼び、遷移領域と低圧側不感領域との境界となるストローク量を低圧側臨界値と呼ぶ。
【0055】
まず、高圧側不感領域では、ストローク量が小さく、図1に示すように大径ランド部7aが摺接面34から軸方向他端側に離間しているので、入力室11の作動油は、油圧を供給圧Psから下げることなく出力室12に流入している。また、高圧側不感領域では、摺動軸部7dが摺接面38に大きく重複してクリアランスC2を形成しており、クリアランスC2において重複長さs2が差分ΔLよりも大きいので、クリアランスC2を通過して出力室12から排出室25に流入する作動油はごく微量となる。このため、出力室12の油圧は入力室11の油圧に略一致して供給圧Psに等しい。
【0056】
そして、ストローク量が高圧側臨界値に達すると、図2(a)に示すように大径ランド部7aの軸方向一端が摺接面34の軸方向他端に一致し、クリアランスC2において重複長さs2が差分ΔLに一致する。
【0057】
これにより、ストローク量が高圧側臨界値より僅かでも大きくなると、クリアランスC1が形成されて重複長さs1が発生するので、出力室12の油圧は、作動油のクリアランスC1の通過により供給圧Psよりも低くなる。また、ストローク量が高圧側臨界値より僅かでも大きくなると、クリアランスC2において重複長さs2が差分ΔLよりも小さくなるので、出力室12の作動油は、クリアランスC2を通じて絞られながら排出室25に流入するようになる。
【0058】
遷移領域では、大径ランド部7aの軸方向一端が摺接面34の軸方向他端よりも軸方向一端側にあり、クリアランスC1が形成されて重複長さs1が発生し、クリアランスC2では重複長さs2が差分ΔLよりも小さくなる。
【0059】
これにより、入力室11の作動油は、重複長さs1に応じて定まる低下量ΔP1だけ油圧を供給圧Psから下げて出力室12に流入する。また、出力室12の作動油は、重複長さs2に応じて定まる低下量ΔP2だけ油圧を下げ、油圧が大気圧P0になった状態で排出室25に流入する。このとき、作動油の油圧は、クリアランスC2を通過して排出室25に達したときに急激に大気圧P0まで下がるのではなく、クリアランスC2に流入してから排出室25に流入する直前までの間に連続的かつ緩やかに大気圧P0まで下がる。
【0060】
そして、遷移領域では、ストローク量の増加に伴って重複長さs1が大きくなり、かつ、重複長さs2が小さくなる。このため、設定条件1、2に従って、出力室12の油圧は、ストローク量が高圧側臨界値から低圧側臨界値まで増加するのに伴い、供給圧Psから大気圧P0まで直線的に減少する。
【0061】
そして、ストローク量が低圧側臨界値に達すると、図2(b)に示すように摺動軸部7dの軸方向他端が摺接面38の軸方向一端に一致してクリアランスC2が形成されなくなり、クリアランスC1において重複長さs1が差分ΔLに一致する。また、出力室12の油圧は大気圧P0に等しくなる。
【0062】
これにより、ストローク量が低圧側臨界値より僅かでも大きくなると、摺動軸部7dが摺接面38から軸方向一端側に離間して摺接面38と軸方向に重複しなくなる。このため、出力室12と排出室25との間が開放され、出力室12の作動油は絞られることなく排出室25へ流入するようになる。また、ストローク量が低圧側臨界値より僅かでも大きくなると、クリアランスC1において重複長さs1が差分ΔLよりも大きくなるので、クリアランスC1を通過して入力室11から出力室12に流入する作動油はごく微量となる。
【0063】
なお、ストローク量が高圧側臨界値に達してから低圧側臨界値に達するまでのスプール7の軸方向移動量は差分ΔLに等しいので、遷移領域におけるストローク量の幅はΔLに等しくなる(図4参照。)。
【0064】
低圧側不感領域では、ストローク量が大きく、図3に示すように大径ランド部7aが摺接面34に大きく重複してクリアランスC1を形成しており、クリアランスC1において重複長さs1が差分ΔLよりも大きいので、クリアランスC1を通過して入力室11から出力室12に流入する作動油はごく微量となる。また、低圧側不感領域では、摺動軸部7dが摺接面38から軸方向一端側に離間しているので、出力室12の作動油は、ほぼ全量、排出室25および排出用の油路37を通じてオイルパンまで戻されており、出力室12は排出室25とともに大気圧P0相当の圧力となっている。
【0065】
そして、油圧調整弁1による油圧制御では、主に遷移領域における相関特性Xを利用して供給圧Psを目標圧まで下げて調整する。
まず、油圧制御では、目標圧に応じて、相関特性Xに従ってストローク量の目標値が求められ、さらに、ストローク量の目標値に応じて電磁アクチュエータ8への通電量の目標値が求められる。
【0066】
そして、求められた目標値に従って電磁アクチュエータ8への通電が行われ、電磁アクチュエータ8は通電量の目標値に応じた磁気力を発生する。これにより、スプール7は、電磁アクチュエータ8の磁気力により、スプリング力に抗してストローク量の目標値だけ軸方向一端側に移動する。このため、大径ランド部7aにより、入力室11と出力室12との連通状態が目標圧に応じたものに変化し、供給圧Psが目標圧まで調整される。
【0067】
なお、油圧制御に係わる各種の演算等は、例えば、自動変速機を制御するための電子制御ユニット(TCU)により行われ、電磁アクチュエータ8への給電はTCUからの指令に基づいて実行される。
ここで、大径ランド部7aによる入力室11と出力室12との連通状態の操作において、出力室12の油圧は、連通状態を閉側に移行させるように大径ランド部7aを軸方向一端側に付勢している。
【0068】
つまり、スプール7には、図1(c)に示すように、電磁アクチュエータ8の磁気力および出力室12の油圧による付勢力(以下、出力室12の油圧力と呼ぶ。)が軸方向一端側(閉側)に向かって作用し、スプリング力が軸方向他端側(開側)に向かって作用している。これにより、スプール7は、電磁アクチュエータ8の磁気力および出力室12の油圧力とスプリング力とが拮抗することで、ストローク量の目標値だけ軸方向一端側に移動して停止する。
【0069】
そして、スプール7は、大径ランド部7aにおいて出力室12の油圧力を軸方向一端側(閉側)に向かって受けることで、出力室12の油圧を微修正する。
すなわち、入力室11と出力室12との連通状態が開側に片寄って出力室12の油圧が大きいとき、スプール7に作用する軸方向の合力は、出力室12の油圧力が大きいことにより軸方向一端側(閉側)向かって作用する力が軸方向他端側(開側)向かって作用する力よりも大きくなる。このため、連通状態が閉側に移行して出力室12の油圧が下がる。
【0070】
逆に、連通状態が閉側に片寄って出力室12の油圧が小さいとき、スプール7に作用する軸方向の合力は、出力室12の油圧力が小さいことにより軸方向他端側(開側)向かって作用する力が軸方向一端側(閉側)向かって作用する力よりも大きくなる。このため、連通状態が開側に移行して出力室12の油圧が上がる。
このように、スプール7は、大径ランド部7aにおいて出力室12の油圧のフィードバックを受けて、出力室12の油圧を目標値まで微修正する。
【0071】
〔実施例の効果〕
実施例の油圧調整弁1によれば、スプール7は、スリーブ6内において入力室11と出力室12との間を開閉する大径ランド部7aを有し、大径ランド部7aは、電磁アクチュエータ8の磁気力によりスプール7が軸方向一端側に移動することで、入力室11と出力室12との間を閉鎖するとともに、スプリング力によりスプール7が軸方向他端側に移動することで、入力室11と出力室12との間を開放する。また、大径ランド部7aは、出力室12の油圧により軸方向一端側に付勢されるように出力室12に露出し、出力室12は、出力室12の油圧が大径ランド部7aを軸方向一端側に付勢することでスプール7が軸方向一端側に移動することができるように形成されている。
【0072】
これにより、常開型の油圧調整弁1において、出力室12の油圧は、入力室11と出力室12との連通状態を閉側に移行させるようにスプール7に作用するので、出力室12の油圧によって連通状態が微修正される。このため、常開型の油圧調整弁1において、一旦、出力ポート4からスリーブ6外に出力された油圧を、再度、スリーブ6内に導入しなくても、連通状態を微修正することができるので、F/Bポートを設ける必要がなくなる。
以上により、常開型の油圧調整弁1に関し、軸方向の長さを短縮することができる。
【0073】
また、実施例の油圧調整弁1は常開型であって、入力ポート3、出力ポート4および排出ポート5が軸方向一端から他端側に向かって順に並んでいる。
これにより、例えば図5に示すように、軸方向一端から他端側に向かってF/Bポート、入力ポート3、出力ポート4、排出ポート5が順に並ぶ常閉型の油圧調整弁1Aと、常開型の油圧調整弁1とをバルブボディ2に組み込む場合、入力ポート3、出力ポート4、排出ポート5の軸方向の配置順序を常閉型の油圧調整弁1Aと常開型の油圧調整弁1との間で揃えることができる。このため、バルブボディ2において、入力用、出力用および排出用の油路31、33、37に関してねじれの配置を取る必要がなくなる。
【0074】
〔変形例〕
油圧調整弁1の態様は、実施例に限定されず種々の変形例を考えることができる。例えば、スリーブ6内において入力室11と出力室12とを連通させる構造や、出力室12の油圧をランド部に作用させてスプール7の全体を軸方向一端側に移動可能とする構成は、実施例以外に様々な変形例を考えることができる。
【符号の説明】
【0075】
1 油圧調整弁
3 入力ポート
4 出力ポート
5 排出ポート
6 スリーブ
7 スプール
7a 大径ランド部(ランド部)
8 電磁アクチュエータ
9 コイルスプリング(付勢手段)
11 入力室
12 出力室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧の入力ポートおよび油圧の出力ポートを有する筒状のスリーブと、
このスリーブ内で軸方向に摺動自在に支持されるスプールと、
電力の供給を受けることで、前記スプールを軸方向一端側に駆動する磁気力を発生する電磁アクチュエータと、
前記スプールを、常時、軸方向他端側に付勢する付勢手段とを備え、
前記入力ポートが開口する入力室、および前記出力ポートが開口する出力室を前記スプール内に形成するとともに、前記スプールを軸方向に移動させて前記スプール内における前記入力室と前記出力室との連通状態を変化させることで、前記出力室の油圧を調整する油圧調整弁において、
前記スプールは、前記スリーブ内において前記入力室と前記出力室との間を開閉するランド部を有し、
このランド部は、前記電磁アクチュエータの磁気力により前記スプールが軸方向一端側に移動することで、前記入力室と前記出力室との間を閉鎖するとともに、前記付勢手段の付勢力により前記スプールが軸方向他端側に移動することで、前記入力室と前記出力室との間を開放し、
さらに、前記ランド部は、前記出力室の油圧により軸方向一端側に付勢されるように前記出力室に露出し、
前記出力室は、前記出力室の油圧が前記ランド部を軸方向一端側に付勢することで前記スプールが軸方向一端側に移動することができるように形成されていることを特徴とする油圧調整弁。
【請求項2】
請求項1に記載の油圧調整弁において、
前記スリーブは、大気圧に通じる作動油の排出ポートを有し、前記スリーブ内において前記出力室からリークした作動油は、前記排出ポートを通過して大気圧の領域まで排出され、
前記入力ポートは、前記出力ポートの軸方向一端側に設けられ、前記排出ポートは、前記出力ポートの軸方向他端側に設けられていることを特徴とする油圧調整弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−122609(P2012−122609A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211388(P2011−211388)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】