説明

油性汚水処理用浮体並びに油性汚水処理方法

【課題】曝気ユニットを使用することなく、油性汚水の浄化、脱臭処理を行う汚水処理用浮体および処理方法を提供する。
【解決手段】グリストラップ2内に停留された油性汚水を処理する際に、天然の通気性材料からなる外装体15と、外装体内部に充填されると共に、好気性菌及び嫌気性菌を担持した多孔質材料からなる微生物担体12とを備える油性汚水処理用浮体1につき、外部空気と接触する空気接触面が形成されるように油性汚水面に浮かせ、少なくとも空気接触面から取り入れた外部空気と微生物担体とにより外装体内部に好気的環境を作り出し、この作り出した好気的環境に基づいて好気性菌による油性汚水の分解を促進させ、好気性菌による分解に基づいて外装体内部に嫌気的環境を作り出し、この作り出した嫌気的環境に基づいて嫌気性菌による油性汚水の分解を促進させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性汚水処理用浮体並びに油性汚水処理方法に関し、特に浄化槽内に停留された油性汚水を処理する際に好適な油性汚水処理用浮体並びに油性汚水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道法では、一般にグリストラップと呼ばれる浄化槽の設置を飲食業者に義務付けている。浄化槽に油脂類を含んだ汚水が流入し、浄化槽内に溜まった廃食油中の油脂類や汚泥は浄化槽内に滞留し、残りの汚水はトラップ管を経て排水されている。浄化槽の表面に滞留した油脂類等は、時間の経過に応じて嫌気性菌の活動に伴って腐敗する。油脂類の分解性生物であるアンモニアや硫化水素は悪臭の原因ともなる。このように、浄化槽のスラッジをそのまま放置すると、厨房内環境が悪化し、衛生面においても深刻な問題となり得る。
【0003】
このため、従来においては、この浄化槽内のスラッジを、手作業で定期的に汲み取り、これを廃棄していた。しかしながら、かかる廃棄に伴う作業員の労力は過大なものであり、またこれに伴うコストも増加してしまうという問題点があった。
【0004】
このような問題点を解消するため、微生物を用いたグリストラップ中の廃油脂を処理する処理装置が提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。この提案された処理装置では、いずれも廃油脂分解用に好気性微生物を使用するものであり、かかる好気性微生物の活動を高めるべく、曝気ユニットを備えている。
【0005】
また、親油性及び多孔質の発泡シート等を加工した袋に、好気性微生物(汚水処理用種菌)を封入した汚水処理用容器も提案されている(例えば、特許文献3参照。)。この汚水処理用容器の表面に、複数の小孔を設け、そこから汚水が浸入する構成とされている。このとき、悪臭の抑制や廃油脂の分解を効率よく実行すべく、曝気ユニットによる曝気を同時に実行するようにしてもよい。
【特許文献1】特開2000−325938号公報
【特許文献2】特開2002−86173号公報
【特許文献3】特開2000−355634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような曝気を同時に実行するための曝気ユニットの配設ために、コストが増大し、また設置場所を確保しなければならないという問題点があった。
【0007】
即ち、曝気を実行することなく好気性菌による油性汚水の分解を効果的に促進させ、グリストラップ内の浄化度をより向上させることが可能な油性汚水処理方法が従来より望まれていた。
【0008】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、曝気ユニットを使用することなく、効果的に油性汚水の浄化、脱臭処理を行うことが可能な油性汚水処理用浮体並びに油性汚水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述した課題を解決するために、天然の通気性材料からなる外装体内に好気性菌及び嫌気性菌を担持した多孔質材料からなる微生物担体を充填した油性汚水処理用浮体を発明した。
【0010】
即ち、本発明を適用した油性汚水処理用浮体は、天然の通気性材料からなる外装体と、外装体内部に充填されると共に好気性菌及び嫌気性菌を担持した多孔質材料からなる微生物担体とを備える。
また、上記微生物担体には、上記好気性菌及び上記嫌気性菌が吸着されていることが望ましい。
【0011】
また、上記外装体及び/又は微生物担体には、さらに油脂分解性の酵素が吸着されていることことが望ましい。
【0012】
即ち、本発明を適用した油性汚水処理方法は、処理槽内に停留された油性汚水を処理する油性汚水処理方法において、上記油性汚水処理用浮体につき、外部空気と接触する空気接触面が形成されるように油性汚水面に浮かせ、少なくとも空気接触面から取り入れた外部空気と微生物担体とにより上記外装体内部に好気的環境を作り出す。
【発明の効果】
【0013】
天然の通気性材料からなる外装体内に好気性菌及び嫌気性菌を担持した多孔質材料からなる微生物担体を充填した油性汚水処理用浮体につき、外部空気と接触する空気接触面が形成されるように油性汚水面に浮かせ、少なくとも空気接触面から取り入れた外部空気と微生物担体とにより上記外装体内部に好気的環境を作り出し、この作り出した好気的環境に基づいて好気性菌による油性汚水の分解を促進させ、好気性菌による活性により汚水中の溶存酸素が減少し装体内の浸水部に嫌気的環境を作り出し、この作り出した嫌気的環境に基づいて嫌気性菌による油性汚水の分解を促進させる。
【0014】
当該外装体内に多孔質性の微生物担体が充填することにより、浮体に浮力を適度に持たせ、長期に亘り水面に留まらせることができる。さらに、浮体中央部に膨らみができることにより浮体と空気の接触面が増幅され好気的環境が確保することができる。また、この充填材には、微生物が定着し、充填材における油脂類の分解および悪臭の除去、さらに汚水表面の油脂類を吸着する効果も期待できる。
【0015】
本発明では、好気性菌と嫌気性菌とを同時および連続的に作用させることにより、従来の如く曝気ユニットを使用して曝気させることなく、油性汚水の浄化及び脱臭を効果的に行うことが可能となり、システム全体を低コスト化させることが可能となる。
【0016】
水面に浮いた油脂類は、浮体内部に担持された微生物が分泌する又は浮体内部に含められた加水分解酵素、例えばリパーゼによりグリセリンおよび脂肪酸に分解される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、浄化槽内に停留された油性汚水を処理する油性汚水処理用浮体について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
図1(a)は、本発明を適用した油性汚水処理用浮体1の構成を示す斜視図である。また図1(b)は、この油性汚水処理用浮体1の断面構成を示す図である。この油性汚水処理用浮体1は、天然の通気性材料からなる外装体11と、この外装体11内部に充填される微生物担体12とを備えている。この外装体11の周囲は、止め具13で縫い合わされている。
【0019】
外装体11は、環境に配慮し、天然に存在する通気性材料をそのまま使用したものであり、例えばヤシガラ繊維等の自然界に存在する生物によって構成されるものである。外装体11は、例えば表1に示されるような麻、竹、炭素繊維等、(例えば、綿、麻、棕櫚、竹繊維の植物繊維、羊毛、絹、等の動物繊維である天然繊維)が用いられることが望ましい。
【0020】
【表1】

【0021】
この外装体11を構成する通気性材料は、空気が通過可能な空隙を有するものである。この外装体11は、浄化槽内における油性汚水に浮遊可能され、また浄化槽内のサイズに応じて最適な形状、大きさに成形加工されてなる。以下の例においては、幅約25cm、長さ約50cm、厚み7mmのヤシガラ繊維を2つ折りにしてたたみ、略正方形状で外装体11を構成した場合を例にとり説明をする。
【0022】
ちなみに、この外装材11を例えば図2に示すようなグリストラップ2に浮遊させた場合には、外部空気と接触する空気接触面15が形成され、また油性汚水中に浸漬する汚水接触面16とが形成されることになる。この空気接触面15を介して外部空気が外装体11内部に取り入れられることになり、またこの汚水接触面16を介してグリストラップ2中の油性汚水が浸入可能となる。
【0023】
ちなみに、この外装体11は、油性汚水になじみやすくなるように表面を親油性及び/又は吸油性処理されていることが望ましい。
【0024】
また外装体11は、油性汚水処理用浮体1の浮力を高めるべく、その表面に対して撥水処理を施すようにしてもよい。これにより、油性汚水表面における浮き性を調整することが可能となり、ひいては、空気接触面15と汚水接触面16との面積比を調整することが可能となる。このような撥水処理は、従来におけるいかなる撥水処理の手段を使用してもよい。
【0025】
止め具13は、外装体11から微生物担体12が油性汚水処理中に外部へ放出されないように、外装体11の周囲を止着するものであり、例えば、麻紐、タコ糸等である。この止め具13を構成する材料は、環境に配慮した天然素材で構成される方が望ましい。ちなみに、図1に示す例では、外装体11の周囲全体を止め具13で止着しているが、これに限定されるものではなく、外装体11の形状及び微生物担体12の種類に応じて、その部数や止着位置を適宜変更するものであってもよい。
【0026】
微生物担体12は、空気を担持可能な多孔質材料からなる。この微生物担体12は、微生物の生育、増殖を促進させる観点から外装体11内に充填されるものである。微生物担体12を構成する多孔質材料は、廃棄時に環境を配慮する観点から、また良好な微生物の繁殖の場を提供する観点から、このような性質を具備する天然素材で構成されることが望ましい。この微生物担体12を構成する多孔質材料は、例えば、おが屑、消し炭、木材チップ片、備長炭、炭素繊維等が(おが屑、炭、多孔質石、多孔質溶岩)が適用される。
【0027】
ちなみに、油性汚水処理用浮体1全体の脱臭作用を向上させることが可能となる。また、この微生物担体12は、軽量でありかつ適度な細孔を有し、外装体11の内部に配置されて封入される際に浮体中央部に膨らみを作ることにより、浮体内部は空気を取り込むことができる。
【0028】
微生物担体12を構成する多孔質材料に担持される微生物は、好気性菌及び嫌気性菌の組み合わせで構成される。これらの微生物は、多孔質材料における細孔に保持されているため、多くは使用中に流出することがない。
【0029】
これらの微生物は、油性汚水に含まれる廃食用油脂の発酵分解能力を有する細菌類、真菌類、放線菌類等に属する種又はその変異種である好気性菌並びに嫌気性菌であればよい。この好気性菌と嫌気性菌の最適な組み合わせは、何れとも1種類ずつ組み合わせてもよいし、複数種ずつ組み合わせるようにしてもよい。また、BFT剤を利用するようにしてもよい
(BFT剤:http://www5.famille.ne.jp/~baioston/biostone2.html)
【0030】
上述の構成からなる油性汚水処理用浮体1は、外装体11そのものにつき空隙率が高い上に、これに充填される微生物担体12についても空隙率が高く、さらに、この外装体11と微生物担体12との間隙においても空気を内包することができ、適度な空隙が存在する。しかも、この油性汚水処理用浮体1を構成する各材質は、いずれも軽い素材で構成されている。このため、油性汚水処理用浮体1全体の空隙率はいきおい高くなり、油性汚水上に容易に浮遊させることが可能となる。
【0031】
次に、本発明を適用した油性汚水処理用浮体1による油性汚水の処理方法につき、説明をする。
【0032】
先ず、上述の構成からなる油性汚水処理用浮体1を図2に示すようなグリストラップ2に停留された油性汚水に浮かばせる。このグリストラップ2は、食品工場や飲食店を始めとした業務用厨房から管3を介して流れてくる排水を一時的に停留させ、これを浄化した上で管4を介して下水へと流すための、いわゆる浄化槽である。このグリストラップ2において停留される油性汚水は、例えば動物性油脂、植物性油脂および鉱油からなる廃食油を含む水である。
【0033】
油性汚水処理用浮体1は、グリストラップ2に停留された油性汚水に浮遊する結果、形成される空気接触面15から外部空気が取り込まれ、また形成される汚水接触面16から油性汚水が浸入してくることになる。
【0034】
このとき、空気接触面15を介して取り込まれた空気と、微生物担体12中に保持された空気、さらには外装体11と微生物担体12との間隙にある空気等により、良好な好気的環境が形成されることになる。この好気的環境下においては、微生物担体12中に担持された微生物のうち、特に好気性菌等の活動を促進させることができ、油性汚水中の油脂等が好気性菌等によって分解されることになり、グリストラップ2中の油性汚水が浄化されることになる。ちなみに、この好気性菌は、水温約38℃程度において最も分解作用が促進されることになるが、レストランの厨房から流れてくる油性汚水は、一般に38〜40℃であることから、かかる作用が水温により阻害されることはない。
【0035】
なお、油脂分解性酵素を添加した場合は、当該酵素により油脂類は早期にグリセリンおよび脂肪酸の低分子に分解される、微生物はその分解性生物であるグリセリンおよび脂肪酸をさらに分解するため、油脂類の分解時間が短縮される。
【0036】
また、好気性菌による活動が促進されるにつれて、外装体11内部の空気、ひいては微生物担体12に保持された空気が消費されると、外装体11内部(微生物担体12内部)の浸水部における溶存酸素が減少して嫌気的環境が作り出されることになる。この嫌気的環境下においては、微生物担体12中に担持された微生物のうち、特に嫌気性菌の活動を促進させることができる。これにより、油性汚水中の油脂が嫌気性菌によっても分解されることになり、グリストラップ2中の油性汚水の浄化がさらに促進されることになる。即ち、好気性菌と嫌気性菌の双方を外装体内部において混在させることにより、それぞれの分解力を高めることが可能となる。
【0037】
このように、本発明は、好気性菌と通性嫌気性菌とを同時におよびこれらの菌と偏性嫌気性菌を連続的に作用させることにより、従来の如く曝気ユニットを使用して曝気させることなく、グリストラップ2中の油性汚水の浄化及び脱臭を効果的に行うことが可能となる。特に本発明では、外部空気を積極的に取り入れる構成とすることにより、好気性菌等を効率よく活性化させる点に構成上の重点を置き、偏性嫌気性菌は、好気性菌の浄化作用により得られる嫌気的環境に基づいて自然に分解していくことになる。従って、偏性嫌気性菌の活性化に寄与するための構成が特段設けられていなくても、かかる偏性嫌気性菌を効果的に活動させることが可能となる。換言すれば、好気性菌の分解活動に基づいて偏性嫌気性菌を活性化させることが可能となる。
【0038】
実際に、上述したヤシガラ繊維からなる略正方形状の外装体11におが屑を挟んで、麻糸からなる止め具13で外装体11周囲を止着し、これをグリストラップ2に停留された油性汚水へ浮遊させて放置した。その後の排水浄化の様子を観察したところ、浮遊開始日から1週間後には、油性汚水表面に浮かぶ油脂類のうち、グリストラップ内部において動植物油量はn-ヘキサン抽出量値で73000mg/L含有しているのに対し、グリストラップ出口では、89mg/Lとなっていた。即ち、グリストラップ内部における動植物油は、この油性汚水処理用浮体1によって分解され、グリストラップ出口に至るまでに殆ど浄化されていることを意味している。同様に、浮遊開始日から2週間後には、グリストラップ内部において動植物油量はn-ヘキサン抽出量値で190000mg/L含有しているのに対し、グリストラップ出口では、93mg/Lとなっていた。これは、グリストラップに油性汚水処理用浮体1を浮遊させることにより、油性汚水が殆ど透明化させることができ、またグリストラップからの悪臭も、油性汚水処理用浮体1を浮遊させてから5〜8時間後には、殆どしなくなった。
【0039】
この点において、従来の曝気により好気性菌の分解作用を増加させる方法と比較して、好気性菌と嫌気性菌とを互いに連動させて作用させる本発明では、5時間〜8時間程度で油性汚水を透明化させることが可能となり、浄化速度を促進させることが可能となる。
【0040】
因みに、この油性汚水処理用浮体1は、油性汚水を浄化した後、数週間で交換する必要が出てくる。しかし、この油性汚水処理用浮体1は、天然素材で構成されているため、これを処理する際においても可燃物として分別廃棄することができることから、より環境にやさしい構成とすることが可能となる。
【0041】
なお、本発明を適用した油性汚水処理用浮体1は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、微生物担体12に、好気性菌及び嫌気性菌を吸着させるようにしてもよい。これにより、油性汚水の浄化及び脱臭効果をさらに向上させることが可能となる。
【0042】
また、外装体11及び/又は微生物担体12には、さらにアミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ等に代表される酵素が吸着されていてもよい。即ち、吸着された酵素により、好気性菌及び嫌気性菌の分解作用を助長させることが可能となり、油性汚水の浄化及び脱臭の効果をより向上させることが可能となる。
【0043】
これらの酵素の固定化は、従来より実用化されている方法に基づいて実行してもよいし、外装体11及び/又は微生物担体12の何れに対して、また双方に対して吸着されていてもよい。外装体11に酵素を固定化させる場合には、外装体11の表面に吸着させるようにしてもよいし、またその内部に吸着させるようにしてもよい。望ましくは油脂が効果的に接触する表面に酵素を吸着させる。
【0044】
次に、本発明を適用した油性汚水処理用浮体における他の構成例について説明をする。
【0045】
図3は、他の構成例としての油性汚水処理用浮体7の断面構成を示している。この油性汚水処理用浮体7は、天然の通気性材料からなる外装体11と、この外装体11内部に充填される充填材22と、外装体内部に含められる好気性菌及び嫌気性菌と、好気性菌及び嫌気性菌を含む微生物を担持させるための多孔質材料からなる微生物担体23と、外装体内部に封入されている油脂分解性の酵素とを有する。ちなみに、この図3において、上述した実施の形態と同一の構成要素並びに部材は、同一の番号を付すことにより以下での説明を省略する。
【0046】
充填材22は、おが屑、木材チップ片、籾殻、炭素繊維、ピートモス等である。また、この充填材22は、適度な細孔を有していてもよい。この充填材22は、水に浮かせるために、(浮水性)軽比重性材料で構成するようにしてもよい。
【0047】
この充填材22は、外装体11の内部に配置されて封入される際に浮体中央部に膨らみを作ることにより、浮体内部は空気を取り込むことができる。この浮体中央部に膨らみを作る際には、外装体11内への充填材22の充填量や充填密度、充填分布を最適化する必要がある。充填材22は、油性汚水処理浮体が上面面積125cm2に対して高さが1cmとなるように充填されるか、又は上面における縦および横の長さ1に対して高さが1/5となるように充填させるようにしてもよい。
【0048】
微生物担体23は、空気を担持可能な多孔質材料からなる。この微生物担体23は、微生物の生育、増殖を促進させる観点から外装体11内に充填されるものである。微生物担体23を構成する多孔質材料は、廃棄時に環境を配慮する観点から、また良好な微生物の繁殖の場を提供する観点から、このような性質を具備する天然素材で構成されることが望ましい。この微生物担体23を構成する多孔質材料は、例えば炭(消し炭や備長炭を含む)又は軽石である。
【0049】
外装体11に含められる好気性菌並びに嫌気性菌は、タブレットに圧縮されていてもよいし、また、カプセル等の充填容器24内に充填されていてもよい。この充填容器24は、水溶性であり、油性汚水処理用浮体7をグリストラップ2に浮遊させた場合に、その内部に貯水された液体によって溶け出す。その結果、充填容器24に充填された好気性菌や嫌気性菌は、外装体11内に徐々に拡散し、場合によっては外装体11外部にも拡散していくことになる。
【0050】
ちなみに、これら好気性菌および嫌気性菌は、製造および運搬時には、休眠状態であることが望ましい。製造段階において、粉状もしくは液状物質に含まれる休眠状態の菌体を、微生物担体に散布し担持させてもよい。または、粒状、包装した粉状もしくは液状物質に含まれる休眠状態の菌体を微生物担体と併せて外装体内部に封入してもよい。
【0051】
使用する菌には、好気性菌として、酢酸菌、枯草菌(納豆菌)等の好気性Bacillus属細菌、好気性シュードモナス属細菌、イースト菌(サッカロミセス、トルロプシス)、硝酸菌、亜硝酸菌を、嫌気性菌として乳酸菌、メタン菌、鉄細菌、硫酸還元菌、酵母菌、嫌気性シュードモナス属細菌、嫌気性Clostridium属細菌等、嫌気性Bacillus属細菌等、放線菌、酵母菌を利用してもよい。
【0052】
嫌気性菌は、酸素存在下では発育できない偏性嫌気性菌と、酸素存在下では発育が促進される通性嫌気性菌とに分けられるが、上記好気的環境に基づいて好気性菌および通性嫌気性菌(以下、好気性菌等)による油性汚水の分解を促進させ、好気性菌等による分解に基づいて外装体内部に嫌気的環境を作り出し、この作り出した嫌気的環境に基づいて偏性嫌気性菌による油性汚水の分解を促進させる。
【0053】
油脂分解性の酵素は、加水分解酵素、例えばリパーゼ等に代表されるものであり、図中で示されるような紙類で構成される包装帯25により包装された状態で外装体11内に充填される。
【0054】
次に、本発明を適用した油性汚水処理用浮体7の作用について説明をする。
【0055】
先ず、油性汚水処理用浮体7をグリストラップ2に浮遊させると上述の如く充填容器24内の好気性菌や嫌気性菌が外部へ拡散する。その結果、これら好気性菌や嫌気性菌の一部は、上記微生物担体23としての多孔質材料の細孔内に保持されることになる。
【0056】
また、油性汚水処理用浮体7に充填される充填材22の充填量や充填密度、充填分布を最適化することにより浮体中央部に膨らみを作った場合には、油性汚水処理用浮体7に浮力を適度に持たせることが可能となり、長期に亘り水面に留まらせることができる。さらに、浮体中央部に膨らみができることにより浮体と空気の接触面積を増加させることが可能となり、好気性菌が活動する際に好適な好気的環境を作り出すことが可能となる。
【0057】
また、充填材22をおが屑等で構成し、これを外装体11内部に大量に充填することにより、油性汚水との接触面積が増加し、ひいてはそれに含まれている油脂の吸着面積自体を増加させることが可能となる。その結果、油性汚水処理用浮体7をグリストラップ2内に浮遊させた後、しばらくの間は、この充填材22による油脂の吸着能力を向上させることができる。即ち、充填材22の油脂吸着能力の増加に伴い、この油性汚水処理用浮体7をグリストラップ2内に浮遊させることで、その周囲にある油性汚水中の油脂の外装体11内への吸収能力を向上させることができる。また、この充填材22に油脂を吸着させることができれば、臭気も同様に吸着させることも可能となり、これによってグリストラップ2における悪臭の除去に寄与させることも可能となる。
【0058】
次に、酵素は、この外装体11内に大量に流入してきた油脂を、グリセリン及び脂肪酸へ加水分解する。ちなみに酵素が外装体11外へと流出した場合においても、その外装体11外に浮遊している油脂を順次分解していくことも可能となる。
【0059】
油脂(分解されたグリセリン並びに脂肪酸を含む低分子の有機物を含む)は、上記好気性菌及び上記嫌気性菌を含む微生物により二酸化炭素等にまで分解される。また、硫化水素およびアンモニア等の悪臭成分は好気性菌により、それぞれ水素と硫黄および硝酸へと、硝酸は嫌気性菌により窒素へと分解される。
【0060】
即ち、好気性菌は、下記化学式で例示されるプロセスに基づいて有機化合物は順次分解されていくことになる。
有機化合物(C, H, O, N, S, P等) +O2 + H2O → CO2 + H2O +SO4+ PO4
2H2S + 2S → 2H2 + 2S
NH3→ NO → NO2 → NO3
また、嫌気性菌は、下記化学式で例示されるプロセスに基づいて有機化合物は順次分解されていくことになる。
有機化合物(C,H,O,N,S,P等) + H2 → CH4 + CO2 + H2+ NH3 + S2
NO3-→ NO2- → NO → N2O → N2
【0061】
例えば、嫌気性菌であるメタン菌は低級脂肪酸をメタンおよび二酸化炭素にまで分解する。
【0062】
脂肪酸のうち飽和脂肪酸は白濁した沈殿物となり浄化槽排水管の目詰まりの原因ともなり、油脂類分解性生物であるアンモニアや硫化水素は悪臭の原因ともなるが、微生物により脂肪酸は分解され、悪臭も沈殿物も解消することができる。未分解の脂肪酸についても、浮体に吸着するため、浮体と併せて槽内から取り出すことができる。
【0063】
よって、浄化槽内に停留した油脂類は微生物により水溶性基にまで分解されるため、除去作業が不要となる。また、悪臭成分も同様に非悪臭成分にまで分解されるため、厨房等の環境悪化を防止することができる。
【0064】
なお、充填材22は、上述の如く〜 充填量や充填密度、充填分布が最適化されているため、浮体中央部に膨らみが作られている。これにより、外部から外装体11内へ空気が積極的に取り入れられることになる。また充填材22をおが屑等で構成することにより、充填材22の間隙を多数作り出すことが可能となり、その間隙において空気を保持することが可能となる。場合によっては、微生物担体23内部においても空気を保持することが可能となる。その結果、外装体11内部において好気性環境を作り出すことが可能となる。
【0065】
その結果、酵素による分解により生成された分解生成物を、この作り出した好気的環境に好適な上記好気性菌によりさらに分解させることが可能となる。また、好気性菌による分解に基づいて上記外装体内部に嫌気的環境を作り出し、分解性生物の分解を、この作り出した嫌気的環境に好適な嫌気性菌により促進させることも可能となる。
【0066】
ちなみに、ここでいう好気性菌並びに嫌気性菌は、予め充填容器24内に充填されているものに限定されず、グリストラップ2内に存在していた好気性菌、嫌気性菌をも含む趣旨である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明を適用した油性汚水処理用浮体の構成を示す図である。
【図2】本発明を適用した油性汚水処理用浮体をグリストラップ内で浮遊させる場合につき説明するための図である。
【図3】油性汚水処理用浮体の他の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
1 油性汚水処理用浮体
2 グリストラップ
・ 管
11 外装体
12 微生物担体
13 止め具
15 空気接触面
16 汚水接触面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然の通気性材料からなる外装体と、
上記外装体内部に充填されると共に、好気性菌及び嫌気性菌を担持した多孔質材料からなる微生物担体とを備えること
を特徴とする油性汚水処理用浮体。
【請求項2】
上記微生物担体には、上記好気性菌及び上記嫌気性菌が吸着されていること
を特徴とする請求項1記載の油性汚水処理用浮体。
【請求項3】
上記外装体及び/又は上記微生物担体には、さらに酵素が吸着されていること
を特徴とする請求項1又は2記載の油性汚水処理用浮体。
【請求項4】
天然の通気性材料からなる外装体と、
上記外装体内部に充填される充填材と、
上記外装体内部に含められる好気性菌および嫌気性菌と
上記好気性菌及び上記嫌気性菌を含む微生物を担持させるための多孔質材料からなる微生物担体と、
を備えることを特徴とする油性汚水処理用浮体。
【請求項5】
上記外装体内部には、油脂分解性の酵素がさらに封入されてなることを特徴とする請求項4記載の油性汚水処理用浮体。
【請求項6】
上記外装体は、ヤシガラ繊維であることを特徴とする請求項4または請求項5記載の油性汚水処理用浮体。
【請求項7】
上記充填材は、おが屑又は籾殻であることを特徴とする請求項4または請求項5記載の油性汚水処理用浮体。
【請求項8】
上記微生物担体は、炭又は軽石であることを特徴とする請求項4または請求項5記載の油性汚水処理用浮体。
【請求項9】
上記充填材は、
油性汚水処理浮体が上面面積125cm2に対して高さが1cmとなるように充填される、又は上面における縦および横の長さ1に対して高さが1/5となるように充填させることにより、外部空気と接触する空気接触面が形成されるように上記油性汚水面に浮遊可能とされていることことを特徴とする請求項4〜8のうち何れか1項記載の油性汚水処理浮体。
【請求項10】
処理槽内に停留された油性汚水を処理する油性汚水処理方法において、
上記請求項1〜9のうち何れか1項記載の油性汚水処理用浮体につき、外部空気と接触する空気接触面が形成されるように上記油性汚水面に浮かせ、
少なくとも上記空気接触面から取り入れた外部空気と上記微生物担体とにより上記外装体内部に好気的環境を作り出し、この作り出した好気的環境に基づいて上記好気性菌による油性汚水の分解を促進させ、
上記好気性菌による分解に基づいて上記外装体内部に嫌気的環境を作り出し、この作り出した嫌気的環境に基づいて上記嫌気性菌による油性汚水の分解を促進させること
を特徴とする油性汚水処理方法。
【請求項11】
処理槽内に停留された油性汚水を処理する油性汚水処理方法において、
上記請求項5項記載の油性汚水処理用浮体につき、外部空気と接触する空気接触面が形成されるように上記油性汚水面に浮かせ、
少なくとも水面近傍に浮遊してきた油脂を上記酵素により分解し、
少なくとも上記空気接触面から取り入れた外部空気と、上記微生物担体及び/又は上記充填材とにより上記外装体内部に好気的環境を作り出し、上記酵素による分解により生成された分解生成物を、この作り出した好気的環境に好適な上記好気性菌によりさらに分解させ、
上記好気性菌による分解に基づいて上記外装体内部に嫌気的環境を作り出し、上記分解性生物の分解を、この作り出した嫌気的環境に好適な上記嫌気性菌により促進させること
を特徴とする油性汚水処理方法。
【請求項12】
上記水面近傍に浮遊してきた油脂を上記充填材により吸着させること
を特徴とする請求項10又は11記載の油性汚水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−44685(P2007−44685A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−111191(P2006−111191)
【出願日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【特許番号】特許第3875258号(P3875258)
【特許公報発行日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(502131453)株式会社有機醗酵 (2)
【Fターム(参考)】