説明

油脂からの脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法

【課題】油脂類とアルコールとを反応させて脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンを製造する際に、触媒を繰り返し用いたり、長期間用いたりしても、主たる触媒活性金属成分等の構造変化が充分に抑制され、しかも水の存在下でも優れた触媒活性を長時間維持でき、油脂中に含まれるグリセリド類のエステル交換と遊離脂肪酸のエステル化の両反応に高活性を発揮でき、油脂中に含まれる遊離脂肪酸(FFA)等の不純物の存在下でも高い触媒活性を発揮することができることから、長期にわたり高い活性を維持し、触媒を更に長寿命化し、反応系の更なる安定化を達成して、製品の生産性、品質等を向上させることができる、触媒の回収工程等の煩雑な工程を簡略化又は不要とし、高効率に食用や燃料等の用途に好適な脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンを製造する方法及びその触媒を提供することを目的とする。
【解決手段】油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させる工程を含んでなる脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法であって、該触媒は、マンガン元素、アルミニウム元素、及び、第3成分元素からなる酸化物を含み、該第3成分元素は、周期表の第8〜12族に属する元素より選択される少なくとも1つの元素である脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法に関する。より詳しくは、燃料、食品、化粧品、医薬品等の用途に有用な脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法、並びに、それに用いる触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪酸アルキルエステルは、植物油脂から得られるものが食用油として用いられ、その他にも、化粧品、医薬品等の分野に用いられている。また、近年では、軽油等に添加される燃料用としても注目されており、例えば、COの排出削減の目的から、植物由来のバイオディーゼル燃料として軽油に数%添加されることになる。また、グリセリンは、主にニトログリセリンの製造原料として用いられており、その他にも、アルキド樹脂等の原料、医薬品、食料品、印刷インキ、化粧品等の様々な分野に用いられている。このような脂肪酸アルキルエステルやグリセリンの製造方法としては、油脂の主成分であるトリグリセリドをアルコールとエステル交換して製造する方法が知られている。
このような製造方法においては、一般に、均一系アルカリ触媒を用いる方法が工業的に用いられているが、煩雑な触媒の分離除去工程が必要となる。また、油脂に含まれる遊離の脂肪酸がアルカリ触媒によってけん化されるため石鹸が副生することになり、多量の水で洗浄する工程が必要であるばかりでなく、石鹸の乳化作用により脂肪酸アルキルエステルの収率が低下し、また、その後のグリセリンの精製プロセスも煩雑となる場合がある。
【0003】
このような中、エステル交換反応による脂肪酸エステル等の製造方法に関して、不均一系触媒の検討が進められている。例えば、多価アルコールと、動物由来油脂、植物由来油脂、及び、脂肪酸メチルエステルからなる群より選択される化合物とをエステル交換させて脂肪酸モノエステル及び多価アルコールを製造する方法であって、該エステル交換反応を下記の群から選択される酸化物である塩基性固体触媒の存在下で行う技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
(1)1種若しくは複数種の1価金属及び1種若しくは複数種の3価金属の混合酸化物
(2)1種若しくは複数種の2価金属及び1種若しくは複数種の3価金属の混合酸化物
(3)これら混合酸化物の任意の混合物
この技術は、特定の元素を含む固体塩基触媒を用いて脂肪酸モノエステル及び多価アルコールを製造しようとするものである。触媒調製における焼成温度は、750℃以下とされ、実施例においては、焼成温度450℃でLi−Al、Mg−Alからなる触媒が用いられている。
【0004】
またマンガン化合物及び3価の金属元素の酸化物を触媒として用いる技術が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。この技術は、油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させる工程を含んでなる脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法であって、該触媒は、マンガン化合物及び3価の金属元素の酸化物を有することを特徴とするものである。触媒調製における焼成温度は、マンガンの酸化物とアルミニウムの酸化物とを含んでなる混合酸化物及び/又は複合酸化物を調製する場合、500℃以上、1500℃以下が好ましいとれ、実施例においては、焼成温度600〜1500℃でMn−Al、Mn−Zr−Al、Mn−Si−Alからなる触媒が用いられている。
【0005】
更に、アルミン酸亜鉛を含有する触媒を用いる技術が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。この技術は、脂肪酸エステルと、グリセリンの製造方法であって、ZnAl、xZnO、yAl(x,yは0〜2)を含む触媒を用いるものである。触媒調製における焼成温度は、400℃以上とされ、実施例においては、焼成温度600℃でZn−Alからなる触媒が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2005/35479号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2009/66539号パンフレット
【特許文献3】仏国特許出願公開第2752242号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術においては、反応中に触媒成分が溶出してしまい、寿命が短いという問題があり、活性成分の溶出による活性低下を抑制する等の工夫の余地があった。
このような課題を解決する従来の方法としては、例えば、収率が低下して製品の純度が低下することを回避するために、活性の低下した触媒と新しい触媒を頻繁に交換することが考えられるが、触媒の交換頻度が増えると、装置を停止することによる生産性の低下や、触媒コストの増加といった理由から、工業的な製造にとって望ましくない。また、生成物から溶出した活性成分を除去するために、水洗や蒸留等の煩雑な精製工程が必要となり、製造装置に新たな工程を追加する必要が生じる点においても、工業的な製造にとって望ましくない。したがって、特許文献1に記載の触媒においては、触媒を活性成分が溶出しにくいものとし、かつ、水及び遊離脂肪酸(FFA)等の不純物の存在下で優れた触媒活性を長時間維持できるものとするための工夫の余地があった。
特許文献3に記載の技術においては、触媒の活性が十分とは言えず、触媒の使用量の増加やそれによる反応器サイズの増大が必要となり、工業的な製造においてはそれらを回避するための工夫の余地があった。
【0008】
一方で、特許文献2に記載の技術においては、マンガン元素及び3価の金属元素を有する触媒を用いることによって、活性金属成分の溶出がより抑制されたものとなり、触媒寿命が長く、油脂中に含まれる遊離脂肪酸(FFA)、鉱酸、金属成分、及び、水の存在下においても高活性を維持することができ、かつ、原料のアルコールが分解しないといった効果を奏することになる。更に、3価の金属元素が酸化物の形態であると、原料中に水が含まれるか否かによらず高い活性が長期間維持される効果がより発揮され、また、触媒が含む3価の金属元素の酸化物をアルミニウムの酸化物とすることによって、この効果が更に発揮されることとなる。
このように、特許文献2に記載の技術によって、油脂類とアルコールとから触媒の存在下で脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンを製造する方法において、触媒の長寿命化、高活性の維持といった点で、当該技術分野における当業者がこれまでに長期にわたって達成し得なかった問題が改善されることとなった。
【0009】
ただ、更なる改善の余地も残されており、例えば、油脂の転化率や触媒の長寿命化等が従来よりもかなり改善されてはいるが、更に反応系が安定化されるようにすれば、製品の生産性が向上すると共に、品質の向上にも寄与することとなる。そのような更なる改善を達成することにより、COの排出削減を達成するために注目されている、植物由来のバイオディーゼル燃料の添加剤としての工業的な有用性を大いに増すことが期待されるところである。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、油脂類とアルコールとを反応させて脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンを製造する際に、触媒を繰り返し用いたり、長期間用いたりしても、主たる触媒活性金属成分等の構造変化が充分に抑制され、しかも水の存在下でも優れた触媒活性を長時間維持でき、油脂中に含まれるグリセリド類のエステル交換と遊離脂肪酸のエステル化の両反応に高活性を発揮でき、油脂中に含まれる遊離脂肪酸(FFA)等の不純物の存在下でも高い触媒活性を発揮することができる、触媒の回収工程等の煩雑な工程を簡略化又は不要とし、高効率に食用や燃料等の用途に好適な脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンを製造する方法及びその触媒を提供することを目的とするものである。これによって、長期にわたり高い活性を維持し、触媒を更に長寿命化し、反応系の更なる安定化を達成して、製品の生産性、品質等を向上させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、油脂類とアルコールとを固体触媒の存在下に接触させて脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンを製造する方法について種々検討したところ、マンガン元素及び3価の金属元素を有する触媒を用いることによって、他の固体触媒と比較して、触媒の長寿命化、高活性の維持といった点で改善効果が認められるが、触媒を再利用することによって反応回数が増えると、Mnの価数が徐々に変化して触媒構造の不安定化を引き起こすという新たな課題が生じることを見出した。
そして、マンガン元素と共に、3価の金属元素としてアルミニウム元素を選択して触媒成分とすると共に、これらに加えて第3成分元素として、周期表の第8〜12族に属する元素の中から少なくとも1つの元素を選択し、該触媒を酸化物の形態とすると、マンガン元素及び3価の金属元素を有する触媒を用いることによる有利な効果に加えて、更に長期にわたり高い活性を維持でき、触媒の更なる長寿命化、反応系における転化率の更なる安定化が可能となるため、製品の生産性、品質等を向上させることができることを見出したものである。第3成分を加えたことにより、特に第3成分を複合化させることにより、主たる活性種であるマンガン元素(Mn)の触媒中での安定性が増したことが原因と推察される。これによって、例えば、油脂転化率を高い値で安定化させることができ、脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリン製品のより安定的な供給が可能となる。
【0012】
すなわち、本発明は、油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させる工程を含んでなる脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法であって、上記触媒は、マンガン元素、アルミニウム元素、及び、第3成分元素からなる酸化物を含み、上記第3成分元素は、周期表の第8〜12族に属する元素より選択される少なくとも1つの元素である脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法である。
本発明はまた、油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させる工程を含んでなる脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法に用いられる触媒であって、上記触媒は、組成式が下記一般式(1);
MnAl (1)
(式中、Xは、周期表の第8〜12族に属する元素より選択される少なくとも1つの元素を表す。a、b、c、dはそれぞれ、Xの原子数、Mnの原子数、Alの原子数、Oの原子数を表し、Xの価数、Mnの価数、Alの価数をそれぞれα、β、γと表すと、d=(aα+bβ+cγ)/2である。)で表される化合物を含む脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造用触媒でもある。
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0013】
本発明の製造方法においては、油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させる工程を必須とし、脂肪酸アルキルエステル及びグリセリンの両方又は少なくとも一方を製造することになる。好ましくは、脂肪酸アルキルエステル及びグリセリンの両方を産出する製造方法とすることである。
本発明の製造方法に係る一側面においては、上記製造方法において、触媒として、マンガン元素、アルミニウム元素、及び、第3成分元素(本明細書中、これらを必須元素ともいう)からなる酸化物を含み、上記第3成分元素は、周期表の第8〜12族に属する元素より選択される少なくとも1つの元素である触媒を必須に用いることになる。
また本発明の脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造用触媒に係る一側面においては、上記一般式(1)で表される化合物を必須とするものである。該触媒は、上記製造方法において、従来の触媒と比較して高い活性の維持、触媒の更なる長寿命化、反応系における転化率の更なる安定化を可能とするものであり、それによって上記製造方法に最も有利な触媒として好適に適用することができるものである。
本発明では、上記触媒において、周期律表第7族のMn、第13族のAlと共に、それらの間の族である8〜12族に属する元素の少なくとも1種を含むことになる。
【0014】
上記触媒において、アルミニウム元素を含むことについては、アルミニウム元素に代えて、又は、アルミニウム元素と共に、アルミニウム元素及び第3成分元素以外の3価の金属元素1種又は2種以上を含むとすることも可能である。すなわち、マンガン元素、3価の金属元素、及び、第3成分元素からなる酸化物を含む触媒を用いることも可能である。
ただ、本発明においては、アルミニウム元素の酸化物を含むと、触媒の安定性において有利であるため、3価の金属元素としてアルミニウム元素を選択し、これを必須とするものである。該3価の金属元素としては、例えば、ガリウム、インジウム、タリウム、スカンジウム、イットリウム、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ランタノイド元素が挙げられる。
【0015】
上記触媒を構成する必須元素の組成比としては、マンガン元素を基準としたモル比によって好ましい範囲を特定することができる。なお、該組成比は、生成物中の必須元素のモル数によって算出することが可能である。
すなわち、上記触媒は、(アルミニウム元素のモル数)/(マンガン元素のモル数)をAl/Mn(mol)と表すと、0.01<Al/Mn(mol)<300であることが好ましい。より好ましくは、0.15<Al/Mn(mol)<150であり、更に好ましくは、0.5<Al/Mn(mol)<75である。これらの範囲を外れると、マンガン元素とアルミニウム元素とを組み合わせることによる本発明の効果が充分に発揮されないおそれがある。上記モル比は、マンガン元素と3価の金属元素とに適用することができるが、本発明においては、3価の金属元素としてアルミニウムを選択することから、上記モル比をマンガン元素とアルミニウム元素との組み合わせにおいて適用するものである。
【0016】
また上記触媒は、(第3成分元素のモル数/マンガン元素のモル数)をX/Mn(mol)と表すと、0.01<X/Mn(mol)<100であることが好ましい。より好ましくは、0.1<X/Mn(mol)<10であり、更に好ましくは、0.2<X/Mn(mol)<5である。これらの範囲を外れると、第3成分を加えたことにより主たる活性種であるマンガン元素の触媒中での安定性が増すという効果が充分に発揮されないおそれがある。
また上記モル比としては、上記Al/Mn(mol)と上記X/Mn(mol)とを同時に満たすことが好ましい。すなわち、上記Al/Mn(mol)の好ましい範囲のうちの1つの範囲を満たし、かつ、上記X/Mn(mol)の好ましい範囲のうちの1つの範囲を満たすのが好ましい。
【0017】
本発明の脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造用触媒における上記一般式(1)で表される化合物においては、aがXの原子数、bがMnの原子数、cがAlの原子数であり、Xが第3成分元素に相当することになる。これらa、b、cの好ましい比率については、上述したのと同様にマンガン元素の原子数bを基準として設定することができる。なお、該比率は、上記組成比と同様に生成物中の必須元素のモル数によって算出することが可能である。
すなわち、上記一般式(1)において、a/bは、0.01<a/b<100であることが好ましい。より好ましくは、0.1<a/b<10であり、更に好ましくは、0.2<a/b<5である。また、c/bは、0.01<c/b<300であることが好ましい。より好ましくは、0.15<c/b<150であり、更に好ましくは、0.5<c/b<75である。
また上記モル比としては、上記a/bと上記c/bとを同時に満たすことが好ましい。すなわち、上記a/bの好ましい範囲のうちの1つの範囲を満たし、かつ、上記c/bの好ましい範囲のうちの1つの範囲を満たすのが好ましい。
なお、上述した触媒中の元素比率については、結晶構造を解析できるX線回折(XRD)や蛍光X線分析法(XRF)により測定することができる。
【0018】
本発明の触媒において、上記第3成分元素は、第8〜12族の第4周期に属する元素より選択される少なくとも1つの元素であることが好ましい。第8〜12族の第4周期に属する元素とは、鉄元素(Fe)、コバルト元素(Co)、ニッケル元素(Ni)、銅元素(Cu)、亜鉛元素(Zn)である。
このような好ましい形態によって、周期律表の第4周期において、第7族の元素であるマンガン元素(Mn)と共に、同じ第4周期であり、第7族に続く族である第8〜12族の元素のうち少なくとも1つの元素を含むことによって、第3成分元素を介して、マンガン元素とアルミニウム元素との相互作用がより強くなり、マンガン元素の価数の変化が更に抑制されると考えられ、その結果、第3成分を加えたことにより主たる活性種であるマンガン元素の触媒中での安定性が増すという効果がより充分に発揮されることになる。
上記第8〜12族の第4周期に属する元素のうち、より好ましくは、コバルト元素、ニッケル元素及び亜鉛元素のうちの少なくとも1種を選択することであり、更に好ましくは、コバルト元素及び/又は亜鉛元素を選択することであり、最も好ましくは、コバルト元素を選択することである。
本発明においては、マンガン元素とアルミニウム元素と第3成分元素とが複合酸化物の形態となっていることが好ましい。より好ましくは、マンガン元素とアルミニウム元素、第8〜12族の第4周期に属する元素より選択される少なくとも1つの元素とが複合酸化物の形態となっていることである。これによって、マンガン元素とアルミニウム元素、第3成分元素の3成分の間での相互作用がより効果的に発揮され、マンガン元素の価数の変化が更に抑制されることになる。
【0019】
本発明における触媒としては、1種又は2種以上用いてもよく、本発明の作用効果を奏する限り、触媒調製工程で生じる不純分や他の成分を含有していてもよく、上記触媒に他の触媒を併用して用いてもよいが、本発明の効果を充分に発揮させるためには、上記マンガン元素、アルミニウム元素、及び、第3成分元素からなる酸化物が本発明における触媒の主成分であることが好ましい。本発明における触媒の全質量を100質量%としたとき、マンガン元素、アルミニウム元素、及び、第3成分元素からなる酸化物の質量%が50質量%以上であることが好ましい。より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは85質量%以上、特に好ましくは、90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上である。
【0020】
上記触媒における必須元素の存在形態としては、例えば、単体、合金、錯体、有機金属、塩類、ハロゲン化物、硫化物、シアン化物、及び、酸化物等の形態が挙げられるが、本発明においては、触媒の安定性において有利であることから、酸化物を必須に含むものである。なお、酸化物を主体的に含んだ触媒であることが好ましく、他の形態を含むことを排除するものではない。
なお、酸化物の形態としては、単一酸化物、複合酸化物、及び、混合酸化物の形態が挙げられる。単一酸化物とは、同一結晶構造内に酸素以外の原子が1種類である酸化物であり、複合酸化物とは、同一結晶構造内に酸素以外の原子が2種類以上ある酸化物であり、混合酸化物とは、単一酸化物及び/又は複合酸化物が2種類以上混合されたものである。
【0021】
本発明において、上記酸化物としては、混合酸化物であっても複合酸化物であってもよい。
言い換えれば、本発明の製造方法に用いる触媒は、マンガン元素、アルミニウム元素、及び、第3成分元素が必須成分となる混合酸化物及び/又は複合酸化物からなる触媒である。
また本発明の脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造用触媒は、一般式(1)で表される化合物が必須成分となる混合酸化物及び/又は複合酸化物からなる触媒である。
【0022】
上記混合酸化物は、上記のように2種以上の酸化物を混合したものであり、それぞれの酸化物は、マンガン元素、アルミニウム元素、及び、第3成分元素からなる群より選択される元素を少なくとも1種含むものであることが好ましい。上記複合酸化物は、マンガン元素、アルミニウム元素、及び、第3成分元素の3種を含むもの、マンガン元素、アルミニウム元素、及び、第3成分元素からなる群より選択される元素を2種以上含むものであることが好ましい。
したがって、上記混合酸化物及び/又は複合酸化物としては、例えば、(1)マンガン元素の単一酸化物、アルミニウム元素の単一酸化物及び第3成分元素の単一酸化物を混合した形態、(2)マンガン元素、アルミニウム元素、及び、第3成分元素からなる群より選択される元素を2種含む複合酸化物、並びに、マンガン元素、アルミニウム元素、及び、第3成分元素からなる群より選択される1種以上の元素の単一酸化物を混合した形態、(3)マンガン元素、アルミニウム元素、及び、第3成分元素のうちの2種の元素を含む複合酸化物、並びに、該2種の元素とは異なる組み合わせの2種の元素を含む複合酸化物を混合した形態、(4)マンガン元素、アルミニウム元素及び第3成分元素の3種を含む複合酸化物、並びに、マンガン元素、アルミニウム元素、及び、第3成分元素からなる群より選択される1種以上の元素の単一酸化物を混合した形態等を挙げることができる。なお、上記(4)に関して、3成分が複合酸化物となった場合でも通常では担体成分は単一酸化物として残ることとなる。
このように、上記必須元素は別々の化合物(結晶構造)中に含まれていてもよく、同一の化合物(結晶構造)中に含まれていてもよい。すなわち、本発明において、触媒がマンガン元素、アルミニウム元素、及び、第3成分元素からなる酸化物を含むと記載する場合、当該触媒においても、上記元素は別々の化合物(結晶構造)中に含まれていてもよく、同一の化合物(結晶構造)中に含まれていてもよい。
また上記マンガン元素、アルミニウム元素、及び、第3成分元素からなる酸化物においては、上記必須元素以外の元素が含まれていてもよく、その場合は、上記複合酸化物中に含まれていてもよく、上記必須元素以外の元素の酸化物が含まれていてもよい。また、上記単一酸化物に必須元素以外の元素が含まれることにより複合酸化物となっていてもよい。
好ましくは、混合酸化物及び/又は複合酸化物中に、酸素以外の元素として、マンガン元素、アルミニウム元素、及び、第3成分元素が主体的に含まれている形態である。
【0023】
本発明の触媒が含むことができる他の成分としては、すなわち上記必須元素以外の元素としては、触媒の作用を妨げないものであれば特に制限されず、ジルコニウム、ハフニウム、スズ、鉛、ケイ素、ゲルマニウム、チタン等の4価の金属元素、2価の金属元素、又は、半金属元素等が挙げられる。
【0024】
上記マンガン元素の単一酸化物とは、すなわち、MnO(式中、xは、1以上、7/2以下の数である。)で表される単一酸化物である。上記マンガンの単一酸化物は、MnO、MnO4/3、MnO3/2、MnO、MnO7/2であることが好ましい。より好ましくは、MnO、MnO4/3、MnO3/2、MnOである。ここでいうMnO4/3は、Mnと同義であり、MnO3/2はMnと同義であり、MnO7/2はMnと同義である。
【0025】
上記マンガン元素の酸化物が複合酸化物の形態であるものとしては、結晶化されたものであっても、非晶質のものであってもよいが、結晶化された形態のものを用いることが好ましく、結晶格子内にマンガン元素と他の金属元素とを有するものが好適である。より好ましくは、結晶格子内にマンガン元素と上記第3成分元素とを有する複合酸化物である。更に好ましくは、結晶格子内にマンガン元素と上記第3成分元素とアルミニウム元素とを有する複合酸化物である。
すなわち、他の金属元素としては、周期律表の第8〜12族に属する元素の1種又は2種以上が好ましく、周期律表第4周期の第8〜12族に属する元素である鉄元素、コバルト元素、ニッケル元素、銅元素、亜鉛元素の1種又は2種以上がより好ましい。これら以外の他の金属元素としては、例えば、チタン元素、ニオブ元素、ランタノイド元素等の1種又は2種以上が好適である。
【0026】
上記アルミニウム元素の酸化物としては、アルミニウム元素の単一酸化物であってもよく、他の金属元素との複合酸化物であってもよい。アルミニウム元素の単一酸化物とは、すなわちAlで表される化合物である。この酸化物は、α、γ、δ、η、θ、κ等の結晶性のアルミニウム元素の単一酸化物でも、非晶質のアルミニウム元素の単一酸化物のいずれの構造でもよいが、安定性の面で、結晶性のα、γ−Al、又は、非晶質のアルミニウム元素の単一酸化物が好ましい。より好適には、γ−Alである。
アルミニウム元素の酸化物が、他の元素との複合酸化物である場合、アルミニウム元素と複合酸化物を形成する元素としては、マンガン、第3成分元素が挙げられるが、他には、ジルコニウム、ハフニウム、スズ、鉛、ケイ素、ゲルマニウム、チタン等の4価の金属元素、2価の金属元素、又は、半金属元素等が挙げられる。これらの中でも、ジルコニウム、ケイ素、チタンが好適に用いられる。
【0027】
上記触媒が混合酸化物及び/又は複合酸化物の形態であれば、触媒の活性成分が溶出しにくいものとしたり、水及び遊離脂肪酸(FFA)等の不純物の存在下で優れた触媒活性を長時間維持したりする効果が更に顕著に発揮されることになる。この効果により、この触媒を固定床流通式反応装置に用いると、連続的かつ長期間の反応を行うことができるようになり、工業的にきわめて有利なものとなる。
【0028】
上記触媒としては、マンガンの単一酸化物、アルミニウムの単一酸化物及び第3成分元素の単一酸化物の混合酸化物、又は、マンガンと第3成分元素との複合酸化物及びアルミニウムの単一酸化物の混合酸化物、又は、マンガンと第3成分元素とアルミニウムとの複合酸化物及びアルミニウムの単一酸化物の混合酸化物であることが好ましい。より好ましくは、マンガンと第3成分元素との複合酸化物及びアルミニウムの単一酸化物の混合酸化物、又は、マンガンと第3成分元素とアルミニウムとの複合酸化物及びアルミニウムの単一酸化物の混合酸化物である。更に好ましくは、マンガンと第3成分元素とアルミニウムとの複合酸化物及びアルミニウムの単一酸化物の混合酸化物である。これにより、第3成分元素を介して、マンガン元素とアルミニウム元素との相互作用がより強くなり、特にマンガン元素、第3成分元素、アルミニウム元素の3成分からなる複合酸化物を含む場合は、3元素が複合化され、マンガンの価数が徐々に変化しておこる触媒構造の不安定化が更に抑制されるものと考えられる。
上記混合酸化物である場合、マンガン化合物をアルミニウム化合物に担持させ、第3成分元素化合物(第3成分元素を有する化合物)を混合し、焼成するか、又は、マンガン化合物と第3成分元素とをアルミニウム化合物に担持させ、焼成して得ることができる。このようにして得られる触媒は、本発明の好ましい実施形態である。
【0029】
上記混合酸化物の調製において、マンガン化合物をアルミニウム化合物に担持させるには、マンガン化合物の水溶液をアルミニウム化合物に含浸させることで行うことができる。
またマンガン化合物と第3成分元素化合物とをアルミニウム化合物に担持させるには、マンガン化合物と第3成分元素化合物との水溶液をアルミニウム化合物に含浸させることで行うことができる。
これらの場合、アルミニウム化合物は、通常、酸化物か水酸化物の粉末か粒子で供給され、これにマンガン化合物の水溶液、又は、マンガン化合物と第3成分元素化合物とを含む水溶液を含浸担持させることになる。マンガン化合物と第3成分元素化合物とを含む水溶液をアルミニウム化合物に含浸担持させる場合は、マンガン元素、第3成分元素の単一酸化物のほかに、マンガン元素と第3成分元素との複合酸化物、及び/又は、マンガン元素と第3成分元素とアルミニウム元素との複合酸化物も生成することになる。
【0030】
なお、上記触媒調製の原料となるマンガン化合物としては、硝酸マンガン、硫酸マンガン、塩化マンガン、酢酸マンガン等を用いることができる。第3成分元素化合物としても、第3成分元素の硝酸塩、硫酸塩、塩化物、酢酸塩等を用いることができる。
上記混合酸化物の調製において、アルミニウム化合物に担持させる場合、マンガン化合物、第3成分元素化合物は、上記のようなアルミニウム化合物に含浸させることができる化合物であればよい。このような化合物を用いて含浸担持させた後は、乾燥後に焼成処理を行うことが好ましい。焼成処理を行った後に、マンガンの酸化物、アルミニウムの酸化物及び第3成分元素の酸化物の混合酸化物、及び/又は、上述した複合酸化物、若しくは、上述した複合酸化物を含む混合酸化物となる。このような混合酸化物及び/又は複合酸化物触媒の調製方法もまた本発明の好ましい実施形態である。
【0031】
上記混合酸化物の調製において、アルミニウム化合物に担持させる場合の好ましい形態としては、次のようである。
担体組成としては、Alで表される、結晶性のα、γ−Al、又は、非晶質のアルミニウム元素の単一酸化物であり、γ−Alが好適である。
担体形状としては、粉末、粒子状であることが好ましい。
上記水溶液をアルミニウム化合物に含浸させた後、乾燥させて焼成工程を行うことが好ましく、乾燥温度としては、40℃以上、200℃以下とすることが好ましい。より好ましくは、40℃以上、120℃以下である。
【0032】
上記焼成工程においては、例えば、下記のようにして行うことが好ましい。
焼成の温度としては、例えば、300℃以上、1500℃以下とすることが好ましい。300℃未満であると、複合酸化物が充分に得られない可能性があり、1500℃を超えると、充分な触媒表面積を得られず脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンを高効率で製造できないおそれがある。より好ましい下限温度としては、600℃であり、より好ましい上限温度としては、好ましい順に1300℃、900℃、850℃である。例えば、より好ましくは、300℃以上、900℃以下、更に好ましくは、300℃以上、850℃以下、更に好ましくは、600℃以上、850℃以下である。
また、焼成の時間は、30分以上、24時間以内が好ましい。より好ましい下限時間としては、好ましい順に1時間、2時間、3時間であり、より好ましい上限時間としては、好ましい順に15時間、12時間である。例えば、より好ましくは、1時間以上、15時間以内、更に好ましくは、3時間以上、12時間以内である。
焼成中の気相雰囲気は、空気、窒素、アルゴン、酸素等による雰囲気とすることができる。
好ましくは、酸素10質量%以下の気相雰囲気、又は、不活性ガス雰囲気下である。酸素を低減した雰囲気下で焼成を行うことにより、複合酸化物を調製しやすくなる。
【0033】
本発明の製造方法は、反応条件下において、油脂類及びアルコールと、生成物(脂肪酸アルキルエステルやグリセリン等)とのいずれにも不溶性の触媒(以下、「不溶性触媒」ともいう。)であることが好適である。油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させる反応を施した後、触媒の非存在下にアルコールを留去すると、脂肪酸アルキルエステルを主に含む相(エステル相)と、副産物であるグリセリンを主に含む相(グリセリン相)とに相分離することになるが、この場合、両方の相にアルコールが含まれることになり、その結果、相分離が不充分になる。このとき、触媒の非存在下にアルコールを留去すると、脂肪酸アルキルエステルを主に含む上層とグリセリンを主に含む下層との相互溶解度が低下して、脂肪酸アルキルエステルとグリセリンの分離が向上し、生成物である脂肪酸アルキルエステルとグリセリンを高純度で得ることができるようになる。このとき、触媒の活性金属成分が溶出していると、エステル交換反応が可逆反応であることに起因して、上記の工程において逆反応が進行して脂肪酸アルキルエステルの収率が低下することになる。このように、触媒の非存在下に反応液からアルコールを留去した後に相分離を行うことにより、脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法において精製が容易になり、収率を向上することができる。すなわち上記製造方法が、油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させる工程を含んでなり、該触媒は、反応条件下において、油脂類及びアルコールと、生成物(脂肪酸アルキルエステルやグリセリン等)とのいずれにも不溶性のものであり、反応生成液であるエステル相とグリセリン相を相分離するより先に、触媒の非存在下にアルコールを留去する形態は、本発明の好ましい形態の1つである。なお、微量の水を添加することにより、脂肪酸アルキルエステルとグリセリンとの分離や精製を更に向上することが可能となる。
【0034】
上記触媒の非存在下とは、不溶性固体触媒をほとんど含まず、かつ反応後液中に該触媒から溶出した活性金属成分の合計の濃度が、1000ppm以下であることである。また、溶出した活性金属成分とは、操作条件下において、エステル交換反応及び/又はエステル化反応に活性を有する均一系触媒として作用し得る、反応液中に溶解した不溶性固体触媒由来の金属成分を意味する。溶出した活性金属成分の濃度が1000ppmを超えると、上述したアルコールの留去工程において逆反応を充分には抑制できないことになり、製造におけるユーティリティーの負荷を充分には低減できないことになる。好ましくは800ppm以下であり、より好ましくは600ppm以下であり、更に好ましくは300ppm以下である。特に好ましくは、実質的に活性金属成分が含有されないことである。
上記反応液中の触媒の活性金属成分の溶出量は、反応後の反応液を、溶液状態のまま蛍光X線分析法(XRF)により測定することができる。また、より微小量の溶出量を測定する場合には、高周波誘導プラズマ(ICP)発光分析法により測定することが好ましい。
【0035】
上記触媒として、本発明における触媒を用いた場合には、上記不溶性触媒として好適であり、また、エステル化反応とエステル交換反応とを同時に行うことができる性能を有し、油脂中に含まれる鉱酸や金属成分の影響を受けず、かつアルコールが分解しない等の作用効果を発揮するものであることから、本発明の製造方法において脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンを高効率に製造することを可能とするものである。
【0036】
上記油脂中においては、通常では、遊離脂肪酸(FFA)及び/又は水が存在することになり、また、天然油脂由来の不純物を取り除くために使用された鉱酸、天然油脂由来の金属成分やステロール等の不純物が存在することになる。したがって、本発明の実施形態においては、通常は、鉱酸、金属成分、ステロール、リン脂質、水、及び、遊離脂肪酸(FFA)等が含まれ、そのような実施形態においても、本発明における触媒を用いる形態が好ましい形態である。
もちろん、本触媒は、種々の反応条件においても触媒活性を高く保つことができることから、例えば、反応系中に遊離脂肪酸(FFA)及び/又は水が実質的に存在しない場合、又は、遊離脂肪酸(FFA)及び/又は水の影響を実質的に受けない場合でも、好適に用いることができる。
【0037】
本発明の脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法は、油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させる工程を含んでなるものである。
上記接触工程においては、例えば、下記式に示すように、トリグリセリドとメタノールとのエステル交換反応により、脂肪酸メチルエステルとグリセリンとが生成することになる。
【0038】
【化1】

【0039】
式中、Rは、同一若しくは異なって、炭素数7〜23のアルキル基又は1つ以上の不飽和結合を有する炭素数7〜23のアルケニル基を表す。これらの炭素数としては、より好ましくは、炭素数9〜21であり、更に好ましくは、炭素数11〜21である。
上記製造方法においては、上述した触媒を用いることによりエステル交換反応とエステル化反応とを同時に行うことができることから、原料である油脂類が遊離脂肪酸を含むものであっても、エステル交換反応工程で同時に遊離脂肪酸のエステル化反応が進行するため、エステル交換反応工程とは別にエステル化反応工程を設けなくても脂肪酸アルキルエステルの収率を向上することができる。
上記製造方法においてはまた、上記式に示すように、エステル交換反応により脂肪酸アルキルエステルと共にグリセリンが得られることになる。本発明においては、精製されたグリセリンを工業的に簡便に得ることができるが、このようなグリセリンは、化学原料として各種の用途に好適に用いることが可能である。
【0040】
上記接触工程において、油脂類としては、グリセリンの脂肪酸エステルを含有するものであって、アルコールと共に脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの原料となるものであればよく、一般的に「油脂」と呼ばれるものを使用することができる。通常では、トリグリセリド(グリセリンと高級脂肪酸とのトリエステル)を主成分として、ジグリセリド、モノグリセリドやその他の副成分を少量含有する油脂を用いることが好ましいが、トリオレインやトリパルミチン等を用いてもよい。
上記油脂としては、ナタネ油、ゴマ油、ダイズ油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、パーム油、パーム核油、ベニバナ油、アマニ油、綿実油、キリ油、ヒマシ油、ココナツ油等の植物油脂;牛脂、豚油、魚油、鯨脂等の動物油脂;各種の食用油の使用済み油(廃食油)等が好適であり、これらは、1種又は2種以上を用いることができる。さらに、これらの油脂に有機酸を含んでいるものでもよく、また脱酸、脱ガム等の前処理をしたものでもよい。
【0041】
上記油脂類が不純物としてリン脂質やタンパク質等を含む場合、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等の鉱酸を添加して、不純物を除去する脱ガム工程を行ったものを用いることが好ましい。本発明の脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法は、触媒が鉱酸によって反応阻害を受けにくいものであるので、脱ガム工程を行った後、油脂類に鉱酸が含まれていても、脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンを効率よく製造することができる。
【0042】
上記接触工程において、アルコールとしては、バイオディーゼル燃料の製造を目的にする場合には、炭素数1〜6のアルコールであることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜3のアルコールである。炭素数1〜6のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブチルアルコール、1−ペンタノール、3−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール等が挙げられる。特に、メタノール又はエタノールが好ましい。これらは、1種又は2種以上を混合して用いてもよい。
上記アルコールとしてはまた、食用油、化粧品、医薬等の製造を目的とする場合には、ポリオールであることが好ましい。上記ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が好適である。中でも、グリセリンが好ましい。これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。このように上記アルコールとしてポリオールを用いる場合、本発明の脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、グリセリドを得る方法において好適に用いることができることとなる。
上記脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法においては、油脂類、アルコール及び触媒以外のその他の成分が存在してもよい。
【0043】
上記アルコールの使用量としては、油脂類とアルコールとの反応における理論必要量の1〜30倍であることが好ましい。1倍未満であると、油脂類とアルコールとが充分には反応しないおそれがあり、転化率を充分には向上できないおそれがある。30倍を超えると、余剰アルコールの回収やリサイクル量が大きくなるためコストがかかるおそれがある。1.2〜20倍とすることがより好ましく、1.5〜15倍とすることが更に好ましく、2〜10倍とすることが特に好ましい。
なお、本発明でいうアルコールの理論必要量は、油脂類のけん化価に対応するアルコールのモル数を意味しており、下記式で算出することができる。
アルコールの理論必要量(kg)=アルコールの分子量×[油脂の使用量(kg)×けん化価(g−KOH/kg−油脂)/56100]
【0044】
上記アルコールとしてポリオールを用いる場合には、上述したように本発明の脂肪酸アルキルエステルの製造方法により、ジグリセリド類を好適に得ることができ、このような形態は、本発明の好ましい実施形態の1つである。このようにして得られるジグリセリド類は、油脂の可塑性改良用添加剤等として食品分野等で好適に用いることができる。また、ジグリセリド類を食用の油脂とし、各種の食品に配合すると、肥満防止、体重増加抑制作用等を発揮することから、本発明により得られるジグリセリド類を食用の油脂として使用する形態もまた、本発明の好ましい実施形態の1つである。
上記ジグリセリド類を得る形態において、例えば、ポリオールとしてグリセリンを用いる場合、下記式に示すような反応が進行することとなる。
【0045】
【化2】

【0046】
式中、Rは、同一若しくは異なって、炭素数7〜23のアルキル基又は1つ以上の不飽和結合を有する炭素数7〜23のアルケニル基を表す。
【0047】
本発明の脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法において、反応温度としては、下限が100℃、上限が300℃であることが好ましい。100℃未満であると、反応速度を充分には向上できないおそれがあり、300℃を超えると、アルコールが分解する等の副反応を充分には抑制できないおそれがある。より好ましくは、下限が120℃、上限が270℃であり、更に好ましくは、下限が150℃、上限が235℃である。
なお、上記脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法に用いる触媒としては、上記範囲内の反応温度で用いる場合に、活性金属成分が実質的に溶出しないものであること、また、主たる触媒活性金属成分等の構造変化が充分に抑制されるものであることが好ましい。このような触媒を用いることにより、反応温度が高温であっても触媒の活性を充分に維持することができ、反応を良好に行うことができる。したがって、本発明における触媒が好適に適用されることになる。
【0048】
上記脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法において、反応圧力としては、下限が0.1MPa、上限が10MPaであることが好ましい。0.1MPa未満であると、反応速度を充分に向上できないおそれがあり、10MPaを超えると、副反応が進行しやすくなるおそれがある。また、高圧に耐え得る特殊な装置が必要になり、ユーティリティーコストや設備費を充分には低減できなくなる場合がある。より好ましくは、下限が0.2MPa、上限が9MPaであり、更に好ましくは、下限が0.3MPa、上限が8MPaである。
【0049】
このような反応温度や圧力を設定した場合においても、本発明の脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法においては、上述したように高活性の触媒を用いるため、反応を良好に実施することが可能となる。
なお、上記触媒(マンガン元素、アルミニウム元素及び第3成分元素からなる酸化物を含む触媒、一般式(1)で表される化合物を含む触媒)は、使用するアルコールの超臨界条件で用いることもできる。超臨界条件とは、物質固有の臨界温度及び臨界圧力を超えた領域をいい、アルコールとしてメタノールを使用する場合、温度が239℃以上であり、圧力が8.0MPa以上の条件を指す。該触媒を用いることにより、超臨界条件下においても効率的に脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンを製造することができる。
【0050】
上記脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法において、反応に用いる触媒量としては、バッチ式の場合、油脂、アルコール及び触媒の総仕込み質量に対し、下限が0.5質量%、上限が20質量%であることが好ましい。0.5質量%未満であると、反応速度を充分に向上できないおそれがあり、20質量%を超えると触媒コストを充分には低減できなくなる場合がある。より好ましくは、下限が1.5質量%、上限が10質量%である。また、固定床流通式の場合、下記式により算出される単位時間あたりの触媒に対する接触液量(LHSV)が、下限が0.1hr−1、上限が5hr−1であることが好ましい。より好ましくは、下限が0.2hr−1、上限が3hr−1である。
LHSV(hr−1)={1時間あたりの油脂の流量(L・hr−1)+1時間あたりのアルコールの流量(L・hr−1)}/触媒容量(L)
【0051】
本発明の製造方法においてはまた、上記触媒を用いることにより容易にリサイクルプロセスを構築することができるため、反応終了後に未反応原料や中間体グリセリド等を含んでいてもよい。この場合には、例えば、反応終了後の混合液から触媒の非存在下、アルコール及び水等の軽沸分を留去した後、未反応のグリセリド類及び遊離脂肪酸(FFA)を含むエステル相を、相分離によってグリセリン相と分離して回収し、2段目以降の反応の原料として用いることが好ましい。これにより、高純度の脂肪酸アルキルエステルやグリセリンをより高収率で得ることが可能となり、精製コストを更に充分に削減することができる。
【0052】
本発明の製造方法により得られる脂肪酸アルキルエステルは、工業原料や医薬品等の原料、燃料等として様々な用途に好適に用いられることとなる。中でも、上記製造方法により、植物性油脂や廃食油を原料として得られる脂肪酸アルキルエステルを用いたディーゼル燃料は、その製造工程においてユーティリティーコストや設備費を充分に低減できると共に、触媒回収工程が不要で触媒を繰り返し利用できるため、製造段階から環境保全効果を充分に発揮することが可能となり、各種の燃料として好適に利用することができる。このような上記製造方法により得られる脂肪酸アルキルエステルを含有するディーゼル燃料もまた、本発明の1つである。
【0053】
本発明の脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法における製造工程の好ましい形態を図1及び2に示す。なお、本発明は、これらの形態に限られるものではない。
図1においては、バッチ式により、油脂類と、アルコールとを用いて、これらを触媒の存在下に接触させる工程が示されている。このような形態では、油脂類とアルコールとを触媒と共に混合して、反応を行うことになる。この反応液からろ過等の工程により固体触媒を液相から分離除去した後、アルコールを留去し、静置して脂肪酸アルキルエステルとグリセリド類とを主に含むエステル相と、グリセリンとアルコールとを主に含むグリセリン相とに分離する。グリセリン相を分離して得られたエステル相にアルコールと触媒とを添加して更に反応を行い、エステル相とグリセリン相とに分離して、脂肪酸アルキルエステルとグリセリンとを得ることになる。このようにして得られた脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンは、目的に応じて、蒸留等の操作により、更に精製してもよい。
【0054】
図2においては、固定床連続流通式反応装置により、油脂類と、アルコールとを用いて、これらを固体触媒を固定相とした充填反応管内で触媒と接触させる工程が示されている。触媒充填反応管内で反応した反応後液をセトラー内で静置して、エステル相とグリセリン相とに分離する。この際、反応後液をセトラー内で静置する前に、アルコールを留去するほうが、エステル相とグリセリン相の分離効率を上げる面で好ましい。グリセリン相を分離して得られたエステル相を、更に触媒充填反応塔内でアルコールと反応させて得られた反応後液からアルコールを留去した後に、セトラー内で静置してエステル相とグリセリン相とに分離して、脂肪酸アルキルエステルとグリセリンを得る。このようにして得られた脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンは、目的に応じて、蒸留等の操作により、更に精製してもよい。
【0055】
本発明の脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法において、触媒と反応溶液とを接触させる接触工程の形態としては、バッチ式(回分式)又は連続流通式が挙げられ、バッチ式の好ましい形態としては、触媒を油脂類とアルコールとの混合系に投入する形態が挙げられる。
本発明の脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法においては、これらの中でも、触媒分離の工程が不要となることから、固定床流通式で接触工程が行われることが好適である。すなわち、上記接触工程は、固定床流通反応装置を使用して行われることが好ましい。固体触媒を固定相とした反応管内で触媒と反応原料とを接触させるようにすると、バッチ式反応を行った場合に比べ、反応の収率をより高くすることができ、また、繰り返し反応に用いても、触媒のリーチング(溶出)がなく、また、主たる触媒活性金属成分等の構造変化が充分に抑制され、より長期間使用することができるため、触媒の寿命も長くなる。
なお、本発明の製造方法は、上述したように、分離工程、精製工程等のその他の工程を含むものであってもよい。
【発明の効果】
【0056】
本発明の脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法は、上述のような構成よりなるため、以下のような点で作用効果を発揮することができる。
反応プロセスを簡略化する点に関して、
(1)触媒の分離除去工程を簡略化又は不要とすることができる。
(2)遊離脂肪酸の中和除去工程と酸触媒によるエステル化工程のいずれの工程も不要とすることができる。
(3)遊離脂肪酸のけん化が起こらない。
(4)油脂類のエステル交換反応だけでなく、油脂類中の遊離脂肪酸のエステル化が同時に進行する。
精製プロセスを簡略化する、すなわち精製グリセリンを容易に得ることができる点に関して、
(1)触媒分離後に触媒的な逆反応が起こらないので、アルコールを充分留去することができ、液−液二相の分配平衡が向上(相互溶解度が低下)して生成物の分離を良好に行うことができる。
(2)触媒表面に強い酸点又は塩基点を持たないのでアルコールの分解(脱水やコーキング等)が少なく、高選択的に脂肪酸アルキルエステルを得ることができる点、また、油脂中に含まれる微量金属成分や、前処理に用いる鉱酸の影響を受けにくい点が挙げられる。
上述した有利な効果に加えて、更に長期にわたり高い活性を維持でき、触媒の更なる長寿命化、反応系における転化率の更なる安定化が可能となるため、製品の生産性、品質等を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、本発明の脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法における製造工程の好ましい形態の一つを示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法における製造工程の好ましい形態の一つを示す模式図である。
【図3】図3は、触媒調製例1で調製した触媒のXRDパターンを示すチャートである。
【図4】図4は、触媒調製例2で調製した触媒のXRDパターンを示すチャートである。
【図5】図5は、触媒調製例3で調製した触媒のXRDパターンを示すチャートである。
【図6】図6は、触媒調製例4で調製した触媒のXRDパターンを示すチャートである。
【図7】図7は、触媒調製例5で調製した触媒のXRDパターンを示すチャートである。
【図8】図8は、触媒調製比較例1で調製した触媒のXRDパターンを示すチャートである。
【図9】図9は、実施例6及び比較例2の各バッチでのパーム油転化率を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0059】
(触媒調製例1)
50%硝酸マンガン(II)水溶液23.6gに硝酸コバルト(II)六水和物19.3gを加え、さらに純水7.1gを加えて水溶液を調製した。調製した水溶液を活性アルミナ100gに含浸した。湯浴上で乾燥後、800℃で5時間焼成した。触媒調製例1で得られた触媒のXRDパターンを図3に示す。また、この触媒を蛍光X線分析法(XRF)で測定した結果、各元素のモル比はAl/Mn=29、Co/Mn=1.0であった。
【0060】
(触媒調製例2)
50%硝酸マンガン(II)水溶液21.4gに硝酸鉄(III)九水和物24.3gを加え、さらに純水4.3gを加えて水溶液を調製した。調製した水溶液を活性アルミナ100gに含浸した。湯浴上で乾燥後、800℃で5時間焼成した。触媒調製例2で得られた触媒のXRDパターンを図4に示す。また、この触媒を蛍光X線分析法(XRF)で測定した結果、各元素のモル比はAl/Mn=33、Fe/Mn=0.8であった。
【0061】
(触媒調製例3)
50%硝酸マンガン(II)水溶液23.7gに硝酸ニッケル(II)六水和物19.2gを加え、さらに純水7.1gを加えて水溶液を調製した。調製した水溶液を活性アルミナ100gに含浸した。湯浴上で乾燥後、800℃で5時間焼成した。触媒調製例3で得られた触媒のXRDパターンを図5に示す。また、この触媒を蛍光X線分析法(XRF)で測定した結果、各元素のモル比はAl/Mn=28、Ni/Mn=0.9であった。
【0062】
(触媒調製例4)
50%硝酸マンガン(II)水溶液25.3gに硝酸銅(II)三水和物17.1を加え、さらに純水7.6gを加えて水溶液を調製した。調製した水溶液を活性アルミナ100gに含浸した。湯浴上で乾燥後、800℃で5時間焼成した。触媒調製例4で得られた触媒のXRDパターンを図6に示す。また、この触媒を蛍光X線分析法(XRF)で測定した結果、各元素のモル比はAl/Mn=27、Cu/Mn=0.8であった。
【0063】
(触媒調製例5)
50%硝酸マンガン(II)水溶液24.6gに硝酸亜鉛(II)六水和物20.4gを加え、さらに純水5.0gを加えて水溶液を調製した。調製した水溶液を活性アルミナ100gに含浸した。湯浴上で乾燥後、800℃で5時間焼成した。触媒調製例5で得られた触媒のXRDパターンを図7に示す。また、この触媒を蛍光X線分析法(XRF)で測定した結果、各元素のモル比はAl/Mn=28、Zn/Mn=1.1であった。
【0064】
(触媒調製例6)
50%硝酸マンガン(II)水溶液10.0gに硝酸コバルト(II)六水和物8.2gを加え、さらに純水31.8gを加えて水溶液を調製した。調製した水溶液を活性アルミナ100gに含浸した。湯浴上で乾燥後、800℃で5時間焼成した。この触媒を蛍光X線分析法(XRF)で測定した結果、各元素のモル比はAl/Mn=60、Co/Mn=0.9であった。
【0065】
(触媒調製比較例1)
23.6%硝酸マンガン(II)水溶液50gを活性アルミナ100gに含浸した。湯浴上で乾燥後、800℃で5時間焼成した触媒調製比較例1で得られた触媒のXRDパターンを図8に示す。また、この触媒を蛍光X線分析法(XRF)で測定した結果、各元素のモル比はAl/Mn=27であった。
【0066】
(触媒調製比較例2)
10%硝酸マンガン(II)水溶液50.0gを活性アルミナ100gに含浸した。湯浴上で乾燥後、800℃で5時間焼成した。この触媒を蛍光X線分析法(XRF)で測定した結果、各元素のモル比はAl/Mn=61であった。
これら触媒調製例、触媒調製比較例において、図8に示したように触媒調製比較例においては、Mnに帰属するピークを確認することができるが、触媒調製例においては、Mnに帰属するピークが消失していることが確認できる。また、触媒調製例においては、Mnが他の元素と複合化等した形態となっていると予想される。
【0067】
(実施例における定義、反応条件)
(1)1段目反応液脂肪酸メチル相とは、固定床管型流通反応装置でパーム油とメタノールを以下反応条件で反応させた際の反応液を相分離して得た脂肪酸メチル相を表す。
(2)反応条件:反応温度 200℃、反応圧力 5MPa、LHSV=1hr−1、触媒 触媒調製例、触媒調製比較例で合成したもの、パーム油に対するメタノールの供給量は、理論必要量の4.5倍とした。
(3)実施例中の転化率、収率は下記式により算出した。
転化率(モル%)=(反応終了時の油脂類又は脂肪酸類の消費モル数)/(油脂類又は脂肪酸類の仕込みモル数)×100(%)
・脂肪酸メチル収率(モル%)=(反応終了時の脂肪酸メチル生成モル数)/(仕込み持の有効脂肪酸類のモル数)×100(%)
・グリセリン収率(モル%)=(反応終了時の遊離グリセリン生成モル数)/(仕込み持の有効グリセリン成分のモル数)×100(%)
【0068】
なお、有効脂肪酸類とは、油脂類に含まれる脂肪酸のトリグリセリド類、ジグリセリド類、モノグリセリド類、遊離脂肪酸類のことをいう。すなわち、仕込み時の有効脂肪酸類のモル数は、下記式で算出される。
仕込み時の有効脂肪酸類のモル数(mol)=[油脂類の仕込み量(g)×油脂類のけん化価(mg−KOH/g−油脂)/56100]+脂肪酸類の仕込みモル数(mol)
また、有効グリセリン成分とは、本発明の方法によってグリセリンを生成することができる成分をいい、具体的には、油脂類中に含まれる脂肪酸のトリグリセリド類、ジグリセリド類、モノグリセリド類をいう。有効グリセリン成分の含有量は、油脂類(反応原料)をけん化することによって遊離するグリセリンの存在量をガスクロマトグラフィーによって定量することにより算出される。
【0069】
(実施例1)
パーム油(30g)、メタノール(30g)及び触媒調製例1で合成した触媒3gを容量200mLのオートクレーブ内に仕込んだ。窒素置換後、内部を撹拌しながら反応温度190℃で3時間反応させたところ、転化率は88.1%、脂肪酸メチルの収率は66.8%であり、グリセリンの収率は57.5%であった。
【0070】
(実施例2)
触媒を触媒調製例2としたほかは、実施例1と同様の条件で反応を行った。転化率は77.8%、脂肪酸メチルの収率は55.2%であり、グリセリンの収率は39.2%であった。
【0071】
(実施例3)
触媒を触媒調製例3としたほかは、実施例1と同様の条件で反応を行った。転化率は92.8%、脂肪酸メチルの収率は78.0%であり、グリセリンの収率は66.9%であった。
【0072】
(実施例4)
触媒を触媒調製比較例4としたほかは、実施例1と同様の条件で反応を行った。転化率は78.1%、脂肪酸メチルの収率は54.3%であり、グリセリンの収率は26.9%であった。
【0073】
(実施例5)
触媒を触媒調製比較例5としたほかは、実施例1と同様の条件で反応を行った。転化率は85.7%、脂肪酸メチルの収率は64.6%であり、グリセリンの収率は49.8%であった。
【0074】
(実施例6)
1B(バッチ)目:パーム油(30g)、メタノール(30g)及び触媒調製例6で合成した触媒3gを容量200mLのオートクレーブ内に仕込んだ。窒素置換後、内部を撹拌しながら反応温度200℃で3時間反応させたところ、転化率は74.1%、脂肪酸メチルの収率は46.4%であり、グリセリンの収率は29.7%であった。反応後、洗浄、乾燥した触媒3gと、1段目反応液脂肪酸メチル相(60g)、メタノール(30g)を容量200mLのオートクレーブ内に仕込んだ。窒素置換後、内部を撹拌しながら反応温度200℃で15時間反応させ、洗浄、乾燥した。
【0075】
2B目:上記1B目乾燥後の触媒3g、パーム油(30g)、メタノール(30g)を容量200mLのオートクレーブ内に仕込んだ。窒素置換後、内部を撹拌しながら反応温度200℃で3時間反応させたところ、転化率は71.6%、脂肪酸メチルの収率は46.1%であり、グリセリンの収率は29.9%であった。反応後、洗浄、乾燥した触媒3gと、1段目反応液脂肪酸メチル相(60g)、メタノール(30g)を容量200mLのオートクレーブ内に仕込んだ。窒素置換後、内部を撹拌しながら反応温度200℃で15時間反応させ、触媒を洗浄、乾燥した。
【0076】
3B目:上記2B目乾燥後の触媒3g、パーム油(30g)、メタノール(30g)を容量200mLのオートクレーブ内に仕込んだ。窒素置換後、内部を撹拌しながら反応温度200℃で3時間反応させたところ、転化率は65.9%、脂肪酸メチルの収率は39.1%であり、グリセリンの収率は23.9%であった。
反応後、洗浄、乾燥した触媒3gと、1段目反応液脂肪酸メチル相(60g)、メタノール(30g)を容量200mLのオートクレーブ内に仕込んだ。窒素置換後、内部を撹拌しながら反応温度200℃で15時間反応させ、触媒を洗浄、乾燥した。
【0077】
4B目:上記3B目乾燥後の触媒3g、パーム油(30g)、メタノール(30g)を容量200mLのオートクレーブ内に仕込んだ。窒素置換後、内部を撹拌しながら反応温度200℃で3時間反応させたところ、転化率は61.8%、脂肪酸メチルの収率は39.6%であり、グリセリンの収率は23.2%であった。
【0078】
5B目:上記4B目乾燥後の触媒3g、パーム油(30g)、メタノール(30g)を容量200mLのオートクレーブ内に仕込んだ。窒素置換後、内部を撹拌しながら反応温度200℃で3時間反応させたところ、転化率は60.1%、脂肪酸メチルの収率は40.5%であり、グリセリンの収率は23.7%であった。
【0079】
6B目:上記5B目乾燥後の触媒3g、パーム油(30g)、メタノール(30g)を容量200mLのオートクレーブ内に仕込んだ。窒素置換後、内部を撹拌しながら反応温度200℃で3時間反応させたところ、転化率は54.5%、脂肪酸メチルの収率は34.9%であり、グリセリンの収率は19.2%であった。
【0080】
7B目:上記6B目乾燥後の触媒3g、パーム油(30g)、メタノール(30g)を容量200mLのオートクレーブ内に仕込んだ。窒素置換後、内部を撹拌しながら反応温度200℃で3時間反応させたところ、転化率は53.1%、脂肪酸メチルの収率は34.8%であり、グリセリンの収率は18.5%であった。
【0081】
8B目:上記7B目乾燥後の触媒3g、パーム油(30g)、メタノール(30g)を容量200mLのオートクレーブ内に仕込んだ。窒素置換後、内部を撹拌しながら反応温度200℃で3時間反応させたところ、転化率は49.9%、脂肪酸メチルの収率は33.5%であり、グリセリンの収率は18.0%であった。
実施例6における各バッチでのパーム油転化率を図9に示す。
【0082】
(比較例1)
触媒を触媒調製比較例1としたほかは、実施例1と同様の条件で反応を行った。転化率は90.9%、脂肪酸メチルの収率は67.4%であり、グリセリンの収率は54.2%であった。
【0083】
(比較例2)
触媒を触媒調製比較例2としたほかは、実施例6と同様の条件で反応を行った。
1B目:転化率は82.3%、脂肪酸メチルの収率は54.2%であり、グリセリンの収率は38.5%であった。
2B目:転化率は73.4%、脂肪酸メチルの収率は45.1%であり、グリセリンの収率は31.4%であった。
3B目:転化率は69.9%、脂肪酸メチルの収率は38.5%であり、グリセリンの収率は25.3%であった。
4B目:転化率は57.7%、脂肪酸メチルの収率は32.8%であり、グリセリンの収率は17.5%であった。
5B目:転化率は56.3%、脂肪酸メチルの収率は34.2%であり、グリセリンの収率は19.0%であった。
6B目:転化率は49.9%、脂肪酸メチルの収率は31.1%であり、グリセリンの収率は16.2%であった。
7B目:転化率は45.5%、脂肪酸メチルの収率は28.9%であり、グリセリンの収率は13.0%であった。
8B目:転化率は41.3%、脂肪酸メチルの収率は25.6%であり、グリセリンの収率は10.9%であった。
比較例2における各バッチでのパーム油転化率を図9に示す。
【0084】
図9から次のようなことがいえることがわかった。すなわち、Mn−Al触媒にMn,Al以外の第3成分元素を加えて3成分系から成る触媒とすることで、初期のパーム油転化率こそMn−Al触媒より低いものの、バッチ反応を繰り返していく毎のパーム油転化率の低下は緩やかであり、バッチ反応を継続していくと途中Mn−Al触媒に対してパーム油転化率は逆転し、結果としてMn−Al触媒よりも長期にわたり高い活性を維持して反応を行うことが可能となる。また、脂肪酸メチル及びグリセリンの収率に着目しても同様なことがいえる。
なお、実施例6及び比較例2については、実際の長期にわたる生産工程よりも短期評価で触媒活性の低下を確認するために、マンガン、コバルト元素の仕込み量を少なくして調製した触媒(触媒調製例6、触媒調製比較例2の触媒)を用いて評価しているが、実際の長期にわたる生産工程においても同様の傾向にあるものと考えられる。
これより、マンガン元素及び3価の金属元素を有する触媒としてアルミニウム元素を用いることによる有利な効果に加えて、第3成分元素を追加することによって更に長期にわたり高い活性を維持でき、触媒の長寿命化、反応系の更なる安定化が可能となるため、更に製品の生産性が向上すると共に、品質の向上にも寄与することとなる。
【0085】
なお、マンガン元素及びアルミニウム元素を有する触媒を用いる比較例1と比較して、第3成分元素を有する触媒を用いる実施例2−5においても、初期の転化率等が若干低くなる場合もあるが、バッチ反応を継続した長期にわたる触媒活性の維持性能がCo−Mn−Al系触媒によって実証されているように同様に優れたものとなる。すなわち、周期律表第7族のMn、第13族のAlと共に、第3成分元素として、それらの間の族である8〜12族に属する元素を含む酸化物とすることにより、また、一般式(1)で表される化合物を含むことにより、特に、第3成分元素として、Mnと同じ第4周期であり、第7族に続く族である第8〜12族の元素のうち少なくとも1つの元素を含むことにより、MnとAlと第3成分元素との間での相互作用により主たる活性種であるマンガン元素の触媒中での安定性が増すという作用機序はすべて同様であるものと考えられる。
したがって、上記触媒調製例及び実施例の結果から、本発明の技術的範囲全般において、また、本明細書において開示した種々の形態において本発明が適用でき、有利な作用効果を発揮することができるといえる。
【符号の説明】
【0086】
1−a:油脂、アルコール、触媒
1−b:グリセリン相(グリセリン)
1−c:第1の分離
1−d:アルコールを留去
1−e:エステル相(脂肪酸アルキルエステル、グリセリド類)
1−f:アルコール、触媒
1−g:第2の分離
1−h:エステル相(脂肪酸アルキルエステル)
1−i:グリセリン相(グリセリン)
1−j:アルコールを留去
2−a:油脂、アルコール
2−b:触媒
2−c:グリセリン相(グリセリン)
2−d:セトラー
2−e:アルコールを留去
2−f:エステル相(脂肪酸アルキルエステル、グリセリド類)
2−g:アルコール
2−h:触媒
2−i:セトラー
2−j:エステル相(脂肪酸アルキルエステル)
2−k:グリセリン相(グリセリン)
2−m:アルコールを留去

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させる工程を含んでなる脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法であって、
該触媒は、マンガン元素、アルミニウム元素、及び、第3成分元素からなる酸化物を含み、
該第3成分元素は、周期表の第8〜12族に属する元素より選択される少なくとも1つの元素であることを特徴とする脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法。
【請求項2】
前記触媒は、マンガン元素と第3成分元素とのモル比が、(アルミニウム元素のモル数)/(マンガン元素のモル数)をAl/Mn(mol)と表すと、0.01<Al/Mn(mol)<300であることを特徴とする請求項1に記載の脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法。
【請求項3】
油脂類とアルコールとを触媒の存在下に接触させる工程を含んでなる脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造方法に用いられる触媒であって、
該触媒は、組成式が下記一般式(1);
MnAl (1)
(式中、Xは、周期表の第8〜12族に属する元素より選択される少なくとも1つの元素を表す。a、b、c、dはそれぞれ、Xの原子数、Mnの原子数、Alの原子数、Oの原子数を表し、Xの価数、Mnの価数、Alの価数をそれぞれα、β、γと表すと、d=(aα+bβ+cγ)/2である。)で表される化合物を含むことを特徴とする脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造用触媒。
【請求項4】
前記一般式(1)において、a/bは、0.01〜100であり、かつ、c/bは、0.01〜300であることを特徴とする請求項3に記載の脂肪酸アルキルエステル及び/又はグリセリンの製造用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−72071(P2013−72071A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214440(P2011−214440)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】