説明

治具、薄膜形成装置、薄膜形成方法及び光学部材

【課題】スピンコート法により基材の表面に薄膜を形成する場合に、均一に成膜することができる治具、薄膜形成装置及び薄膜形成方法並びに当該薄膜形成方法により薄膜が形成された光学部材を提供することを目的とする。
【解決手段】表面21aの少なくとも一部に塗布液が塗布された基材21を保持して回転する治具10を用いて、表面に塗布液の薄膜22を形成する場合において、治具は、基材の外周部21bを当接させて保持するテーパ面11を有し、該テーパ面は、外周部との間に、該外周部に到達した塗布液が通過可能な空隙Kを形成しており、表面が上側になるようにして外周部をテーパ面に当接させて、基材を治具に保持する基材保持工程と、表面に塗布液を塗布して、基材を保持した治具を回転させ、表面に薄膜を形成する薄膜形成工程と、を有し、薄膜形成工程で、外周部に到達した塗布液が、空隙を通過するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面に塗布液を塗布して当該基材を回転させて薄膜を形成するための治具、薄膜形成装置、薄膜形成方法及び当該薄膜形成方法により薄膜が形成された光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材の表面に薄膜を形成する方法として、蒸着法やスパッタリング法等の乾式法と、スピンコート法等の湿式法とが存在する。このうち、湿式法の中の、基材の表面に塗布した塗布液を回転による遠心力によって広げて薄膜を形成するスピンコート法(例えば、特許文献1参照)によって成膜を行えば、乾式の方法よりも均一な膜厚の形成が可能であり、また、大きな面積の薄膜を短時間かつ低コストにて形成することが可能であるという利点がある。
【特許文献1】特開2003−154304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来のスピンコート法では、平らなスピナーテーブルの上に基材(例えば、レンズ等)を配置した後、基材の表面に塗布液を塗布し、スピナーテーブルを回転させて塗布液を外側に広げて、薄膜を形成する。そのため、広がった塗布液が基材の外側に溜まってしまい、基材の中心と外側とで膜厚が変わってしまうという不具合が生じる場合があった。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、スピンコート法により基材の表面に薄膜を形成する場合に、均一に成膜することができる治具、薄膜形成装置及び薄膜形成方法並びに当該薄膜形成方法により薄膜が形成された光学部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる課題を解決するために、本発明は、表面(21a)の少なくとも一部に塗布液が塗布された基材(21)を保持して回転し、前記表面に前記塗布液の薄膜(22)を形成するための治具(10)であって、前記基材の外周部(21b)を当接させて保持するテーパ面(11)を有し、該テーパ面は、前記外周部との間に、該外周部に到達した前記塗布液が通過可能な空隙(K)を形成する治具としたことを特徴とする。
【0006】
また、本発明は、前記治具(10)を備えた薄膜形成装置(1)であって、前記治具が着脱自在に構成された回転軸(3)と、該回転軸を通して前記排気経路(4)に接続される排気装置(6)と、を有する薄膜形成装置としたことを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、表面(21a)の少なくとも一部に塗布液が塗布された基材(21)を保持して回転する治具(10)を用いて、前記表面に前記塗布液の薄膜(22)を形成する薄膜形成方法において、前記治具は、前記基材の外周部(21b)を当接させて保持するテーパ面(11)を有し、該テーパ面は、前記外周部との間に、該外周部に到達した前記塗布液が通過可能な空隙(K)を形成しており、前記表面が上側になるようにして前記外周部を前記テーパ面に当接させて、前記基材を前記治具に保持する基材保持工程と、前記表面に前記塗布液を塗布して、前記基材を保持した前記治具を回転させ、前記表面に前記薄膜を形成する薄膜形成工程と、を有し、前記薄膜形成工程で、前記外周部に到達した前記塗布液が、前記空隙を通過するようになっている薄膜形成方法としたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、前記薄膜形成方法によって薄膜(22)が形成された光学部材(20)としたことを特徴とする。
【0009】
なお、ここでは、本発明をわかりやすく説明するため、実施の形態を表す図面の符号に対応付けて説明したが、本発明が実施の形態に限定されるものではないことは言及するまでもない。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スピンコート法により基材の表面に薄膜を形成する場合に、基材の外周部を当接させて保持するテーパ面を有し、当該テーパ面が、外周部との間に、当該外周部に到達した塗布液が通過可能な空隙を形成するように構成された治具を用いるようにしたため、膜厚を中心と外側で同じにすることができ、薄膜を均一に成膜することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態1に係る薄膜形成装置を示す断面図である。図2は、同実施の形態1に係る薄膜形成装置を示す上面図である。図3は、本発明の実施の形態2に係る薄膜形成装置を示す断面図である。
[発明の実施の形態1]
【0013】
以下、本発明の実施の形態1について説明する。
【0014】
まず、本実施の形態で薄膜が形成されて製造される薄膜付部材20について説明する。本実施の形態における薄膜付部材20は、図1に示すように、基材21として凸形状の表面21aを有する光学素子(例えば、レンズ)を有し、当該基材21の表面21aに塗布液(本実施の形態では、TEOS(テトラエトキシシラン))を塗布してそれを薄く広げることで、薄膜22として反射防止効果を備えた光学薄膜(本実施の形態では、SiO膜)を成膜した光学部材である。なお、本実施の形態における基材としての光学素子(レンズ)21は、半球形状の表面21aと略平面の底面21cを有する半球レンズとなっている。また、表面21aと底面21cとが交わる部位及びその付近を基材21の外周部21bと呼ぶこととする。
【0015】
次に、本実施の形態における薄膜形成装置1について説明する。本実施の形態における薄膜形成装置1は、図1及び図2に示すように、基材21を保持する治具10としてのスピナーテーブル、当該治具10を配置する回転ステージ2、回転ステージ2及び治具10に挿入して当該回転ステージ2及び治具10を回転させる回転軸3、当該回転軸3の中に形成されて後述する治具10の排気経路12に連通する排気通路4、当該排気通路4に連通する排気管5、当該排気管5に連通する排気装置6、図示しない塗布液塗布装置等を有している。
【0016】
治具10は、基材21を保持して回転するものであり、回転しやすいように平面視略円形の略円柱形状に構成されている。この治具10は回転ステージ2に配置、固定されるものであり、回転軸3及び回転ステージ2と共に回転するように構成されるものである。
【0017】
また、本実施の形態の治具10は、薄膜形成装置1の回転ステージ2に対して着脱自在となっており、後述するベーク工程の際には、表面21aに薄膜22を形成した基材21を保持した状態の治具10を回転ステージ2から取り外して、図示しないベーク装置に移動させることが可能となっている。さらに、本実施の形態の治具10は、ベーク工程における焼付処理の温度に耐え得る材質(金属又は耐熱樹脂)で形成されている。
【0018】
治具10の上面の中心部には、治具10の中心線Aを中心としたテーパ面11が形成されている。このテーパ面11は、基材21を保持する保持部の役割を果たす部位であり、当該テーパ面11で構成される略逆円錐形状の凹部の直径が、少なくとも保持する基材21の外周部21bの直径より大きくなるように構成されている。
【0019】
また、治具10のテーパ面11と基材21の外周部21bとの間には、複数の空隙Kが形成されている。後述するように、基材21の表面21aの少なくとも一部(例えば中心部分)に図示しない塗布液塗布装置から所定量の塗布液(図示省略)を塗布して、基材21を保持した治具10を回転させることにより、塗布された塗布液が外側に向かって広がって薄膜22を形成していくが、空隙Kは、このときに、基材21の外周部21bに到達した塗布液が、複数の空隙Kを通過してテーパ面11に沿って下方に流れるようにするものである。
【0020】
空隙Kが形成される箇所は、基材21の外周部21bと治具10のテーパ面11とが当接する部分のいずれの場所に形成されていても良いが、できるだけ多くの空隙Kが形成されている方が、塗布液をスムーズに通過させることができて好ましい。ただし、空隙Kが多過ぎたり大き過ぎたりして治具10のテーパ面11による基材21の保持力が損なわれないように、空隙Kの数及び大きさを調整する必要がある。
【0021】
また、本実施の形態では、治具10のテーパ面11における基材21の外周部21bを当接させる部分に粗面を有しており、これにより空隙Kが形成されるようになっているが、これに限るものではなく、基材21の外周部21bに粗面を有しており、これにより、この粗面と治具10のテーパ面11とが当接する部分に空隙Kが形成されるようになっていても良い。また、治具10のテーパ面11における基材21の外周部21bを当接させる部分と、基材21の外周部21bに粗面の双方に粗面を有しており、これにより空隙Kが形成されるようになっていても良い。
【0022】
空隙Kを形成するための粗面は、加工工具や加工条件を適切に選択することによって、治具10のテーパ面11や基材21の外周部21bを所定形状に加工する際に、同時に形成することができる。また、テーパ面11や外周部21bを所定形状に加工した後に、サンドブラスト等の手段によって、所望の表面粗さを有する粗面を形成しても良い。
【0023】
粗面の表面粗さはRaで1〜10μmであることが好ましい。表面粗さが1μmよりも小さくなると塗布液が空隙Kを通過しにくくなり、10μmよりも大きくなると薄膜形成の均一性が低下する傾向にある。
【0024】
また、本実施の形態の治具10は、排気経路12を有している。排気経路12は、回転軸3の中を通る排気通路4、排気管5を介して排気装置6に繋がっており、ここでは、テーパ面11による凹部の底部に形成されている。この排気経路12は、治具10のテーパ面11と、当該テーパ面11に当接した外周部21bを有する基材21とで形成される空間B内を減圧するためのものであり、排気装置6を作動させることにより、排気管5、排気通路4及び排気経路12を介して前記空間B内の空気を吸引して当該空間B内を減圧するようになっている(図1の白抜きの矢印参照)。そして、空間B内を減圧することにより、基材21の外周部21bを治具10のテーパ面11に圧接させるようになっている。
【0025】
また、本実施の形態の治具10は、前記した排気経路12、排気装置6等に起因する吸引による空間B内の減圧によって、基材21の外周部21bに到達した塗布液を空隙Kを通して空間B内に吸引するようになっている(図1の抜き無し矢印参照)。これにより、塗布液の自重により自然に塗布液が空隙Kを通過する場合よりも、確実に外周部21bに到達した塗布液を空隙Kを介して空間B内に通過させることができ、結果として基材21に、より均一な薄膜22を成膜することができるものである。
【0026】
また、本実施の形態では、治具10のテーパ面11と、当該テーパ面11に当接した外周部21bを有する基材21とで形成される空間B内に、空間B内に吸引した塗布液を空間B内からさらに吸引して排出するための排液経路を有している。本実施の形態では、排気経路12が排液経路を兼ねる構成となっている。
【0027】
なお、空間B内に吸引し、排液経路(ここでは、排気経路12)を介して排出する塗布液の量が多くて排気や排液に支障が出る場合は、排液経路の先に塗布液排出用の排出口や排液溜まり、スポンジフィルタ等を設けておくと良い。また、排液経路(ここでは、排気経路12)を介して排出する塗布液の量が少なくて排気や排液に支障がない場合は、特に塗布液排出用の排出口や排液溜まり、スポンジフィルタ等を設けなくても良い。
【0028】
また、本実施の形態の治具10の底面には、回転軸3を挿入して固定する回転軸固定部13を有している。この回転軸固定部13は、回転軸3が丁度挿入される径に形成されている。
【0029】
回転ステージ2は、治具10を固定して回転するものであり、平面視略円形の略平面状に形成されている。本実施の形態では、回転ステージ2への治具10の固定は、治具10との接触面で生じる摩擦力で十分であるように形成されているが、例えば、回転ステージ2(又は治具10)の所定位置から、治具10(又は回転ステージ2)に形成された固定穴に挿入される固定用突起が突出しており、固定穴に固定用突起が嵌合することで確実に固定される等、他の固定手段を有していても良い。また、回転ステージ2の中心には、回転軸3を通して固定する回転軸固定穴2aが形成されている。この回転軸固定穴2aは、回転軸3が丁度貫通できる径に形成されている。
【0030】
回転軸3は、図示しない回転装置の作動により治具10の中心線Aを軸として所定の回転速度で回転するものであり、回転ステージ2に形成された回転軸固定穴2aを貫通して治具10の底面に形成された回転軸固定部13に挿入され、これらを介して回転ステージ2及び治具10に固定されるようになっている。なお、回転軸3の回転軸固定穴2a、回転軸固定部13への固定方法は任意の固定方法で固定されていれば良い。この回転軸3の中心には、治具10の排気経路12に繋がる排気通路4が形成されており、本実施の形態の排気通路4は空間Bから排出された塗布液を通す排液通路を兼ねている。
【0031】
排気管5は、回転軸3の排気通路4と排気装置6を繋ぐ管であり、排気装置6の作動による圧力に耐え得る適宜の管で構成されていれば良い。
【0032】
排気装置6は、空間B内を減圧するためのポンプ等で構成されるものであり、当該排気装置6の作動により、排気経路12、排気通路4及び排気管5を介して空間B内の空気を吸引して、空間B内を減圧するようになっている。
【0033】
次に、本実施の形態の治具10を有する薄膜形成装置1を用いて、基材21に薄膜22を形成する薄膜形方法について、図1及び図2を用いて説明する。
【0034】
始めに、基材保持工程を行う。この工程では、回転ステージ2の所定位置に治具10を取り付けておき、当該治具10のテーパ面11に、表面21aが上側になるようにして基材21の外周部21bを当接させて、基材21を治具10に保持する。なお、治具10のテーパ面11に基材21の外周部21bを当接させる前後の所定のタイミングで、排気装置6を作動させることにより、テーパ面11に当接させた基材21の外周部21bを、テーパ面11に圧接させるようになっても良い。
【0035】
次に、薄膜形成工程を行う。この工程では、まず、排気装置6を作動させて、排気管5、排気通路4及び排気経路12を介して、治具10のテーパ面11と、当該テーパ面11に当接した外周部21bを有する基材21とで形成される空間B内の空気を吸引し、当該空間B内を減圧する(図1の白抜きの矢印参照)。これにより、基材保持工程でテーパ面11に当接させた基材21の外周部21bをテーパ面11に圧接させ、基材21を治具10に確実に保持させるようにする。
【0036】
それから、図示しない塗布液塗布装置から、基材21の表面21aの中心に対して、所定量の塗布液(図示省略)を塗布する。本実施の形態では、基材21の表面21aが凸形状であるため、その中心である頂部に塗布液を塗布するようになっている。
【0037】
その後、図示しない回転装置を作動させて回転軸3を回転させ、当該回転軸3に固定された回転ステージ2及び治具10を、治具10の中心線Aを軸として回転させる。これにより、基材21の表面21aの頂部に塗布した塗布液が基材21の表面21aの外側に向かって広がって、薄膜22を形成する。
【0038】
その際、基材21の表面21aの外側に向かって広がった塗布液のうち、最も外側の外周部21bに到達した塗布液は、塗布液の自重及び排気装置6の作動による吸引により、治具10のテーパ面11と基材21の外周部21bとの間に形成された空隙Kを通過して、テーパ面11と基材21とで形成された空間B内に吸い込まれるようになっている。空間B内に吸い込まれた塗布液は、テーパ面11に沿って下方に流れ、少量の場合はテーパ面11に付着した状態となる。また、空間B内に吸い込まれた塗布液が大量の場合は、塗布液はテーパ面11に沿って当該テーパ面11で構成される略逆円錐形状の凹部の底部まで流れ、当該底部に形成された排液経路を兼ねた排気経路12に吸引されて排出されるようになっている。
【0039】
このように基材21の表面21aの外周部21bに到達した塗布液を、空隙Kを介して空間B内に吸引することで、形成される薄膜の膜厚を基材21の表面21aの中心部(頂部)と外周部21bとで同じにすることができ、均一な膜厚の薄膜を成膜することができるものである。
【0040】
基材21の表面21aに薄膜を形成したら、次に、ベーク工程を行う。この工程では、まず、排気装置6の吸引を止め、薄膜形成装置1の回転ステージ2から、薄膜形成工程で表面21aに薄膜22を形成した基材21を保持した状態の治具10を取り外す。そして、当該治具10を図示しないベーク装置に搬送し、治具10に基材21を保持した状態のままベーク装置に入れて、基材21に対する薄膜22の焼付処理を行う。本実施の形態では、塗布液がTEOS(テトラエトキシシラン)であり、当該ベーク工程の焼付処理により、SiO膜が形成されるようになっている。
【0041】
以上により、薄膜22の成膜が完了し、薄膜付部材20としての光学部材に対する次の処理工程が行われるものである。
【0042】
なお、均一な膜厚の薄膜を実現するため、薄膜形成工程で形成された薄膜の膜厚分布の標準偏差は、20%以内であることが好ましい。
[発明の実施の形態2]
【0043】
次に、本発明の実施の形態2について、図3を用いて説明する。なお、本実施の形態において、前記した実施の形態1と同様の箇所については、同じ符号を付して、詳しい説明を省略する。
【0044】
本実施の形態では、前記した実施の形態1で製造される薄膜付部材20としての光学部材が薄膜付半球レンズであるのに対して、図3に示すように、基材31の形状が球体と半球の間の形状となったレンズ(以下、超半球レンズという)で、当該超半球レンズに薄膜32を形成した薄膜付部材(薄膜付超半球レンズ)30となっている。
【0045】
このような基材31の表面31aに塗布液を塗布してスピンコートを行う場合、底面31cが基材31の最大径より小さくなるため、基材31における外周部31b付近の表面31aは、上側又は斜め上側を向いておらず、斜め下側を向いた面となってしまう。そのため、通常のスピンコートを行うだけでは、基材31の頂部に塗布されて外側に広がってきた塗布液が、最大径の部分で遠心力によって外側に飛んでいき、塗布液が外周部31bに到達しないという状態が起こってしまう。
【0046】
そこで、スピンコートを行うに際して、前記した実施の形態1と同様に、排気装置6による吸引を行うことで、基材31の最大径の部分に到達した塗布液を外周部31bの方へ吸引することができ、この吸引により通常のスピンコートでは薄膜を形成することが難しかった、超半球レンズにおける表面31aの外周部31bに薄膜を形成することができるものである。
【0047】
なお、前記した実施の形態1と同様に、排気装置6による吸引を行うことで、治具10のテーパ面11と、当該テーパ面11に当接した外周部31bを有する基材31とで形成される空間C内を減圧することができる(図3の白抜き矢印参照)。そして、空間C内を減圧することにより、基材31の外周部31bを治具10のテーパ面11に圧接させることができるものである。
【0048】
さらに、排気装置6による吸引で、基材31の表面31aにおける最大径の部分から外周部31bに吸引されて薄膜を形成した塗布液が多くなり過ぎて、外周部31bに溜まってしまった場合、前記した実施の形態1と同様に、この塗布液を空隙Kを介して空間C内に吸引することができるようになっている(図3の抜き無し矢印参照)。
【0049】
なお、薄膜形成装置1の他の構成、治具10の他の構成及び薄膜形成方法の手順等については、前記した実施の形態1と同様である。
【0050】
次に、前記した実施の形態1及び前記した実施の形態2の具体的な実施例について、表1を用いて説明する。なお、ここでは、実施の形態1の実施例として実施例1を示し、実施の形態2の実施例として実施例2を示す。また、実施例1の比較例として比較例1を示し、実施例2の比較例として比較例2を示す。
【0051】
表1における実施例1では、底面21cが5〜7mm程度の半球レンズ(ここでは、顕微鏡用の対物レンズ)を基材21として用い、当該半球レンズを、治具10としてテーパ面11を形成した金属リングに載置した。そして、半球レンズの表面21aをメタノールで十分に洗浄して乾燥させた後、TEOS(テトラエトキシシラン(Tetraethoxysilane)、製品名:スミセファイン G200B、住友大阪セメント製)コート液をスピンコート法により塗布した。この際の振り切り回転数を6000rpmにして製膜を行った。その後、治具10ごと160℃1hrにてベーク処理(焼付処理)を行った。このようにして得られた薄膜22はSiO膜になり、当該薄膜22が屈折率1.43であった。
【0052】
表1における実施例2は、基材31を半球レンズから3/4球の超半球レンズに変更したこと以外は、実施例1と同じである。
【0053】
表1における比較例1は、図4に示すような薄膜形成装置100を用いており、治具としてテーパ面を有していない平坦な治具110を用いたこと以外は、実施例1と同じである。なお、比較例1に用いた、図4に示す薄膜形成装置100において、前記した実施の形態1と同様の箇所については、同じ符号を付して、詳しい説明を省略する。
【0054】
表1における比較例2は、治具として、図4に示すような、テーパ面を有していない平坦な治具110を用いたこと以外は、実施例2と同じである。すなわち、基材31を半球レンズから3/4球の超半球レンズに変更したこと以外は、比較例1と同じである。
【0055】
なお、他の構成や手順等は、前記した実施の形態1に準じるものとする。
【0056】
そして、当該4つの例について、薄膜を形成した後、表面の頂点(頂部)、中間箇所(半球レンズ及び超半球レンズの頂点と底面の間の丁度中間位置)の4点(90°毎に計測)、周辺箇所(半球レンズ及び超半球レンズの底面の外周部)の4点(90°毎に計測)の光学膜厚を計測し、その標準偏差を割り出した。
【0057】
【表1】

【0058】
表1に示すように、実施例1及び実施例2では、全体の標準偏差が10.9及び10.7と低い値を示し、全体として光学膜厚のばらつきが小さいのに対し、比較例1及び比較例2では、全体の標準偏差が24.1及び28.3と高い値を示し、全体として光学膜厚のばらつきが大きいことがわかった。また、中間部分、周辺部分のみの標準偏差についても、実施例1及び実施例2は値が小さいのに対し、比較例1及び比較例2は値が大きくなった。
【0059】
これらの結果により、スピンコート法においてテーパ面を有する治具を用いることで、平坦(平面)な治具を用いるよりも均一な膜厚の薄膜を形成することができることがわかった。
【0060】
以上のように、前記した各実施の形態の治具、薄膜形成装置及び薄膜形成方法によれば、スピンコート法により基材の表面に薄膜を形成する場合に、基材の外周部を当接させて保持するテーパ面を有し、当該テーパ面が、外周部との間に、当該外周部に到達した塗布液が通過可能な空隙を形成するように構成された治具を用いるようにしたため、膜厚を中心と外側で同じにすることができ、薄膜を均一に成膜することができる。その結果、均一な膜厚の薄膜を有する光学部材を得ることができる。
【0061】
また、特に、テーパ面を有する治具を用いると共に、薄膜を形成する際に吸引を行うことで、より一層、均一な薄膜を形成することができる。
【0062】
なお、以上説明した各実施の形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。
【0063】
例えば、前記した各実施の形態では、基材として半球レンズ及び超半球レンズを用いて説明したが、本発明はこれに限るものではなく、半球より底面が短いレンズに適用しても良いし、また、レンズ以外の基材に適用しても良い。
【0064】
また、前記した各実施の形態では、薄膜として反射防止効果を備えた光学薄膜を用いて説明したが、本発明はこれに限るものではなく、他の効果を備えた光学薄膜に適用しても良いし、また、光学薄膜以外の薄膜に適用しても良い。
【0065】
なお、薄膜を形成する物質としては、ビニル系、ポリエステル系、ナイロン系、レジスト類、有機シリコーン系などの有機物や、SiO、SiO、ZrO、TiO、TiO、Ti、Ti、Al、Ta、CeO、MgO、Y、SnO、WO等の金属酸化物や、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、クライオライト(NaAlF)、KMgFなどの金属フッ化物、などの無機物が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施の形態1に係る薄膜形成装置を示す断面図である。
【図2】同実施の形態1に係る薄膜形成装置を示す上面図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係る薄膜形成装置を示す断面図である。
【図4】比較例1に係る薄膜形成装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0067】
1 薄膜形成装置
2 回転ステージ
2a 回転軸固定穴
3 回転軸
4 排気通路
5 排気管
6 排気装置
10 スピナーテーブル(治具)
11 テーパ面
12 排気経路,排液経路
13 回転軸固定部
20 光学部材(薄膜付部材)
21 光学素子(基材)
21a 表面
21b 外周部
22 光学薄膜(薄膜)
30 光学部材
31 光学素子(基材)
31a 表面
31b 外周部
32 光学薄膜(薄膜)
A 中心線
B 空間
C 空間
K 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の少なくとも一部に塗布液が塗布された基材を保持して回転し、前記表面に前記塗布液の薄膜を形成するための治具であって、
前記基材の外周部を当接させて保持するテーパ面を有し、
該テーパ面は、前記外周部との間に、該外周部に到達した前記塗布液が通過可能な空隙を形成することを特徴とする治具。
【請求項2】
前記テーパ面は、前記外周部を当接させる部分に粗面を有し、
前記空隙が、前記外周部と前記粗面との間に形成されることを特徴とする請求項1に記載の治具。
【請求項3】
前記テーパ面と前記基材とで形成される空間内を減圧するための排気経路を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の治具。
【請求項4】
前記空間内に前記空隙を通して吸引された前記塗布液を排出するための排液経路を有することを特徴とする請求項3に記載の治具。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一つに記載の治具を備えた薄膜形成装置であって、
前記治具が着脱自在に構成された回転軸と、
該回転軸を通して前記排気経路に接続される排気装置と、
を有することを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項6】
表面の少なくとも一部に塗布液が塗布された基材を保持して回転する治具を用いて、前記表面に前記塗布液の薄膜を形成する薄膜形成方法において、
前記治具は、
前記基材の外周部を当接させて保持するテーパ面を有し、
該テーパ面は、前記外周部との間に、該外周部に到達した前記塗布液が通過可能な空隙を形成しており、
前記表面が上側になるようにして前記外周部を前記テーパ面に当接させて、前記基材を前記治具に保持する基材保持工程と、
前記表面に前記塗布液を塗布して、前記基材を保持した前記治具を回転させ、前記表面に前記薄膜を形成する薄膜形成工程と、を有し、
前記薄膜形成工程で、前記外周部に到達した前記塗布液が、前記空隙を通過するようになっていることを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項7】
前記基材が光学素子、前記薄膜が光学薄膜であることを特徴とする請求項6に記載の薄膜形成方法。
【請求項8】
前記塗布液がテトラエトキシシランであることを特徴とする請求項6又は7に記載の薄膜形成方法。
【請求項9】
前記薄膜形成工程の後、焼付処理を行うベーク工程を有しており、
前記治具は、薄膜形成装置に対して着脱自在で、かつ、前記ベーク工程における温度に耐え得る材質で形成されており、
前記ベーク工程に際し、
前記薄膜形成工程で前記表面に前記薄膜を形成した前記基材を保持した状態の前記治具を前記薄膜形成装置から取り外し、
前記治具に前記基材を保持した状態で前記ベーク工程を行うことを特徴とする請求項6乃至8の何れか一つに記載の薄膜形成方法。
【請求項10】
前記治具は、前記テーパ面と前記基材とで形成される空間内を減圧するための排気経路を有し、
薄膜形成装置は、前記排気経路に接続される排気装置を有しており、
前記薄膜形成工程で、前記排気装置及び前記排気経路により前記空間内を減圧することで、前記外周部を前記テーパ面に圧接させると共に、前記外周部に到達した前記塗布液を前記空間内に前記空隙を通して吸引することを特徴とする請求項6乃至9の何れか一つに記載の薄膜形成方法。
【請求項11】
前記治具は、前記空間内に前記空隙を通して吸引された前記塗布液を排出するための排液経路を有しており、
前記薄膜形成工程で、前記空間内に前記空隙を通して吸引した前記塗布液を、さらに前記排液経路に排出することを特徴とする請求項10に記載の薄膜形成方法。
【請求項12】
前記薄膜形成工程で形成された薄膜の膜厚分布の標準偏差が20%以内であることを特徴とする請求項6乃至11の何れか一つに記載の薄膜形成方法。
【請求項13】
前記基材が半球又は超半球であることを特徴とする請求項6乃至12の何れか一つに記載の薄膜形成方法。
【請求項14】
請求項6乃至13の何れか一つに記載の薄膜形成方法によって薄膜が形成されたことを特徴とする光学部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−12375(P2010−12375A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−172322(P2008−172322)
【出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】