説明

治療用タンパク質の有効性の向上

本発明は、哺乳動物の体内または体表面上における、少なくとも1つの治療用哺乳動物タンパク質の吸収、分散、および放出を向上させる製剤であって、マイクロエマルジョン中の少なくとも1つの治療用哺乳動物タンパク質からなり、脂肪酸ベースの構成物のベジクルまたはマイクロスポンジがキャリア中に分散した分散物によって構成され、該キャリアは、亜酸化窒素を溶解させた、水溶性キャリアまたは他の薬理学的に許容されるキャリアであり、脂肪酸ベース構成物は、遊離脂肪酸および遊離脂肪酸の誘導体から選択される少なくとも1つの長鎖脂肪酸ベースの物質を含む、少なくとも1つの上記タンパク質を哺乳動物に投与するための製剤、ならびに該製剤中の少なくとも1つの治療用哺乳動物タンパク質を哺乳動物に投与する工程を含む、上記タンパク質を哺乳動物に効果的に送達し、少なくとも1つの治療用哺乳動物タンパク質の治療効果を向上させる方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔発明の技術分野〕
本発明は概して薬剤投与の分野に関するものである。より具体的には、ベジクルまたはマイクロスポンジの形態のペプチド薬剤またはタンパク質薬剤を、脂肪酸(以降、FAとも記載)ベースの亜酸化窒素浸透マトリクスに捕捉させることにより、該ペプチド薬剤またはタンパク質薬剤を経口投与、経鼻投与、局所投与、または非経口投与することに関する。更に、本発明は、ペプチド薬剤またはタンパク質薬剤を本発明の脂肪酸ベースのベジクルおよびマイクロスポンジに捕捉させることにより、該ペプチド薬剤またはタンパク質薬剤の効能を向上することに関する。また更に、本発明は投与されたペプチド薬剤またはタンパク質薬剤の治療時間の向上に関する。
【0002】
〔本発明の定義および背景技術〕
ペプチドおよびタンパク質は、両者ともにアミド結合またはペプチド結合により結合したアミノ酸残基で構成されている。これら2種類の化合物間は様々な定義により区別されているが、これらの定義は一般に納得されてはいない。従って、本明細書において、用語「タンパク質」および「ペプチド」は、アミド結合により結合した複数のアミノ酸残基を含む化合物を意味するものとして、置換え可能に使用されている。
【0003】
本明細書において、「タンパク質」は天然タンパク質(天然に生じるタンパク質)や完全長タンパク質に限定されず、任意の活性またはその他の望ましい生物学的特徴を有するタンパク質断片、およびそのようなタンパク質またはタンパク質断片の突然変異体または誘導体であって、任意の活性またはその他の望ましい生物学的特徴を保持する突然変異体または誘導体を含むことを意図する。突然変異タンパク質は、由来する天然タンパク質に対して変更されたアミノ酸配列を有するタンパク質を含む。ここで、該変更はアミノ酸の置換(保存的または非保存的)、欠失、または付加(例:融合タンパク質における)を含み得る。タンパク質の誘導体は、炭水化物のような他の分子が結合することにより修飾されたタンパク質を含む。本明細書において、「ペプチド」という記載は、これに対応する意味を持つことが意図される。
【0004】
また、本明細書において、「治療用哺乳動物タンパク質」および「治療用哺乳動物ペプチド」という表現が、本明細書で開示される発明に関する文脈で使用されるとき、該表現は、天然に生じる形態において哺乳動物の体で産生され、哺乳動物に投与されると治療特性を有するタンパク質またはペプチド(上記定義による)を意味することを意図する。よって、該表現は、微生物によって産生されるタンパク質やペプチド(例:抗原特性を有し、ワクチンの生成に使用できるタンパク質およびペプチド)を除外することを意図し、また、サケカルシトニンおよびヒト成長ホルモンと同様に、WO9717978(発明の名称「ADMINISTRATION MEDIA FOR ANALGESIC, ANTIINFLAMMATORY AND ANTI-PYRETIC DRUGS CONTAINING NITROUS OXIDE AND PHARMACEUTICAL COMPOSITIONS CONTAINING SUCH MEDIA AND DRUGS」)、WO0205850(発明の名称「ENHANCEMENT OF THE ACTION OF ANTI-INFECTIVE AGENTS」、(ラモプラニン、テイコプラニン、バンコマイシンおよびインターフェロンアルファを含む))、またはWO0205851(発明の名称「ENHANCEMENT OF THE ACTION OF CENTRAL AND PERIPHERAL NERVOUS SYSTEM AGENTS」)において具体的に挙げられたタンパク質剤またはペプチド剤を除外することを意図する。また、更に、該表現は、投与形態に存在する治療活性を有する薬剤(therapeutically active agent)(またはこのような成分の前駆体またはこのような成分をコードする核酸物質)が送達される特定のレセプタを標的とするために、このような投与形態に組み込まれたタンパク質およびペプチドを除外する。上述したWO特許公報は、参照によって本記載に組み込まれる。
【0005】
本発明が関連するタンパク質は、具体的には、インスリン、上皮小体ホルモン、上皮小体様ホルモン、グルコガン、インスリン分泌性ホルモン、バソプレシン、生殖器官のホルモン、ケモタクチン、ならびにインターロイキン1、インターロイキン2およびRAを含むサイトカインからなる群であって、インターフェロン、ケモカイン、プロテアーゼおよびプロテアーゼ阻害剤を含む酵素、酸性および塩基性線維芽細胞増殖因子、上皮増殖因子、腫瘍壊死因子、血小板由来増殖因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、神経成長因子およびインスリン様増殖因子−1を含む増殖因子、ゴナドトロピンおよびソマトメジン(somatomedians)を含むホルモン、免疫グロブリン、脂質結合タンパク質および可溶性CD4、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ、L−アスパラキナーゼ、ペプシン、ウリカーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カルボキシペプチターゼ、ラクターゼ、スクラーゼ、毛様体神経栄養因子(ciliary neurite transforming factor;CNTF)、凝固因子VIII、エリスロポエチン、トロンボポエチン、インスリントロピン、コレシストキニン、グルカゴン様ペプチドI、内因子、Ob遺伝子産物、組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)、脳由来神経因子、フェニルアラニントランスポータ、刷子縁膜酵素ならびにトランスポータを含まない群から選択される。
【0006】
タンパク質は、代謝、成長、複製、および免疫など、ほぼ全ての生物学的機能に必須である。よって、タンパク質は、人間の様々な病気の治療における医薬品としての潜在的な役割を持っている。実際、タンパク質は既に癌、血友病、貧血および糖尿病などの病気の治療に使用され、成功を収めており、タンパク質治療は、多くの病気にとって唯一の有効的な治療である。多くの先天的および後天的内科的疾患は様々な遺伝子産物の産生が不十分であることから引き起こされるため、タンパク質治療またはペプチド治療(例:ホルモン補充治療)は、それらを患者に補充することにより上記の病気を治療する手段を提供する。ほとんど全ての治療と同様に、最も投与が容易で、最も安価で、最も患者が薬剤服用順守できそうであるものが、治療として一般に好まれる。
【0007】
タンパク質薬剤は非常に大きな治療可能性を有しているが、いくつかの制限的な技術的要因によって、より一層の普及が制限されている。その制限的な技術的要因とは、以下の懸念である:
・タンパク質は依然として他の調合薬より製造が難しく高価である。生体活性形態のタンパク質の大規模な精製がタンパク質薬剤の商品化における制限的なステップとなり得る。タンパク質薬剤の製造は発展途上国では法外な費用がかかり得る。
・多くのタンパク質は体内で代謝されるため、循環半減期が短く、頻繁に服用することが必要となる。
・タンパク質薬剤の親水性と分子の大きさとが原因で、タンパク質薬剤は経細胞的(transcellularly)にも傍細胞的に(paracellularly)にも粘膜上皮に吸収されにくく、そのために生体利用効率が低い。
・経口投与後、タンパク質は胃の中の厳しい環境においてしばしば劣化する。劣化に対して保護すれば、タンパク質薬剤の経口投与が可能となる。
・タンパク質の体内での存在期間は概して短く、患者の体内から除去されるのが速い。そのため、再投与を頻繁に行う必要があり、コスト高を招く。したがって、治療濃度のペプチドの循環半減期を延ばすことは有利となる。
・一般的に、タンパク質薬剤は注射によって投与される。そのため、治療の複雑さや費用が増大する。また、投与の不快さにより、潜在的な臨床応用を制限し、患者の薬剤服用順守を低下させる。
【0008】
従って、これらの薬剤の吸収または効能のいずれを向上させても、より費用効果が高く手ごろなペプチド薬剤またはタンパク質薬剤に寄与するはずである。
【0009】
治療用タンパク質製品(例:ホルモン、増殖因子、シグナル分子、神経伝達物質、サイトカイン、またはタンパク質置換治療用ペプチド)を非経口経路以外の投与経路によって投与することが、哺乳動物の各種病気を治療する方法として広く注目を集めてきた。上述したその他の投与経路が有する問題のため、代替投与経路を介してこれらの薬剤を投与するための薬剤投与システムまたは浸透促進剤を用いることが必要である。低い生体利用効率は、タンパク質薬剤の調合において吸収促進剤を含めることにより部分的に解決できるが、必ずしも最良の解決策ではない。
【0010】
ヒト遺伝子解析機構(HUGO)の出現により、速いペースで新規タンパク質が発見されるようになり、既知のタンパク質を治療薬として利用できるようになった。これらの分子について、利用の実現可能性および利便性を向上させて薬剤としての応用を拡大する新しい手段や方法が、現在望まれている。本発明はまさにそのような試みに取り組んでいる。
【0011】
従来の活性を有する化合物を投与するにあたり、経口経路が最も一般的で、簡易で、便利で、生理学的な方法である。しかし、上述した問題により、経口経路は概してタンパク質薬剤の投与には適していない。タンパク質の治療用経口投薬を実現するために、様々な投薬システムが開発されてきた(Chang et al 1994 Gastroenterol 106 1076-84、Morsey et al 1993 JAMA 270 2338-45、およびLedley 1992 J Pediatr Gastroenterol Nutr 14 328-37参照)。
【0012】
経口経路、その他の内腔経路、経鼻経路、または局所経路を介した投薬は容易であり、そのためペプチドを非侵襲的な手順で投与することができる。これらの経路は、多くの重要な生理学的特徴を共有している。
(a)薬剤の解剖学的受容器は、連続した生物学的障壁によって、循環系から分離されているため、投薬部位は体の「外側」に存在するとみなすことができる。
(b)上記部位は、経口投与の場合は腸上皮、経鼻投与の場合は鼻上皮およびその下の各層、局所投与の場合は表皮および真皮(ある程度まで)といった、細胞の連続的な層による循環から分離されている。このように、該層は、様々な浸透性レベルを有する連続した生物学的障壁を形成している。
(c)このように薬剤は投薬されると外側の空間に残り、上記した細胞層を通過しない限り、完全に体内および血流に入ることができない。しかし、薬剤が鼻道や胃腸内腔の上皮細胞に吸収される、または表皮に浸透すると、該薬剤は血流に運ばれ、そこで治療用タンパク質は現在の注射可能な形態による薬剤と同じように作用すると考えられる。
(d)上述した生物学的障壁を覆う細胞は、全て液体(粘液または汗)を分泌し、この液体は薬剤の安定性を阻害したり、薬剤の吸収を困難にしたりし得る。いずれの場合でも、このような液体中に存在するプロテアーゼがタンパク質の劣化の原因となる。
【0013】
このように、経口、経鼻、または局所経路を介してタンパク質を投与するための過去の取り組みには、困難な障害があった。既存の投薬システムの多くは固有の欠点を有しているか、タンパク質の投与には全く適していない。更に、個体の血流を介して薬剤を投与することにより、タンパク質やそれに関連するキャリアの免疫システムへの曝露をもたらし、結果として免疫学的副作用を引き起こす。
【0014】
(治療用哺乳動物タンパク質:インスリン)
インスリン治療は、依然としてタイプ1およびタイプ2の糖尿病の治療の中心となっており、最も広く使用されているタンパク質薬剤である。インスリン治療はこのように発展しているにも関わらず、皮膚の断裂を引き起こす皮下注射またはマイクロニードルにより投与されている。皮下投与またはマイクロニードルによる投与には、ピークインスリンレベルと食後の血糖値との間のタイムラグ、低血糖、体重増加、末梢性高インスリン血症、および患者のコンプライアンスが低いという欠点がある。インスリンを過剰摂取すると、著しい低血糖の結果、グルカゴン、成長ホルモン、カテコールアミンおよびコルチコステロイドの放出などの副作用を引き起こすことがある。これらの問題を回避する、または少なくとも軽減するための投薬形態を開発するための取り組みが、現在続けられている。
【0015】
インスリンは通常プロインスリンとして膵臓内分泌部のランゲルハンス島のβ細胞によって合成される。加工処理された形態において、インスリンはA鎖およびB鎖の結合から成り、分子量は5807.7であり、アミノ酸の数は51である。インスリンはランゲルハンス島のβ細胞内の分泌顆粒から、低い基礎速度で血流に直接放出される。グルコース、糖、特定のアミノ酸および迷走神経活性などの様々な刺激がインスリンの放出を促す。通常の空腹状態において、膵臓は時間当たり約40μg(1IU)のインスリンを肝門静脈に分泌する。門脈血のインスリン濃度は平均2〜4ng/mlであり、末梢血では0.5ng/ml(12μlU/ml)である。インスリンの血中濃度半減期は健康な人で約5〜6分であり、主に肝臓、腎臓、および筋肉でインスリンの劣化が起こる。肝門静脈によって肝臓に到達するインスリンのうち50%が劣化し、全身循環に到達しないと推定される。
【0016】
現在利用可能な市販のインスリン製剤は、主に以下に分類される。
・超短期間作用インスリン(速やかに発現し、作用期間が短い)
・短期間作用インスリン(速やかに発現する)
・中期間作用インスリン
・長期間作用インスリン(発現が遅く、作用期間が長い)
上記の製剤はすべて亜鉛および/またはプロタミンを添加して安定化されている。従来の皮下インスリン治療は主に短期間作用製剤と中期間作用製剤との混合物に長期間作用インスリンを添加したものを分割投与注射することから成り、それによって作用期間を延ばして夜間基礎レベルを維持している。
【0017】
経口経路は、実用的および生理学的理由の両方から、インスリン治療にとって魅力的である。実用面では、簡易性および快適性に関連している。注射の不快さに加えて、注射針の再利用には感染の危険性がある。経口用の製剤においては無菌でなくてもよいため、概して安価に製造できる。生理学的な利点としては、インスリンの内因性分泌をより正確に模倣するという事実が挙げられる。つまり、インスリンは腸から吸収されて肝門静脈を介して肝臓に到達し、肝臓のグルコース産生および肝臓によるエネルギーレベルの調節に直接影響する。それにより、高インスリン血症の影響を回避することができる。一方、非経口で投与されたインスリンは、内因性インスリン分泌の通常のダイナミクスを模倣しない。これらの経口インスリンの利点にも関わらず、経口投与のうち消化管から吸収されるのが0.5%未満であり、損なわれることなく中心の血流に到達するのが0.1%未満であることから、この経路の利用は成功していなかった。ホルモンなどの複雑な薬剤分子の経口投与は、このような大きい分子および生体利用効率が低いことが知られている分子の腸透過性増加に対する関心と共に、現在注目を集めている。
【0018】
〔本発明の目的〕
本発明の第1の目的は、本明細書で定義された治療用哺乳動物タンパク質および特定の前述のタンパク質を、非侵襲的手段によって投与する方法を提供することである。該第1の目的は、投与された該治療用哺乳動物タンパク質および特定の前述のタンパク質の効能を向上させ、活性を有する高価な薬剤の必要量を低減させる方法を提供することまで拡張される。
【0019】
第2の目的は、a)治療用哺乳動物タンパク質および特定の前述のタンパク質をプロテアーゼ作用に対して遮蔽し、b)それに伴い後述のようにプロテアーゼ阻害剤を取り込むことにより、該タンパク質を劣化に対して安定させることである。本発明は、治療用哺乳動物タンパク質薬剤および特定の前述のタンパク質薬剤を酵素作用から保護するのに使用できるという点で有利である。
【0020】
〔本発明の説明〕
本発明は、1つまたは複数の治療用哺乳動物タンパク質を哺乳動物に投与するための製剤であって、該哺乳動物の体内または体表面上における、投与された物質の吸収、分散、および放出を向上させる製剤を提供する。該製剤は、マイクロエマルジョン中の少なくとも1つの治療用哺乳動物タンパク質からなり、上記マイクロエマルジョンは、脂肪酸ベースの構成物のベジクルまたはマイクロスポンジがキャリア中に分散した分散物によって構成されており、該キャリアは、亜酸化窒素を溶解させた、水溶性キャリアまたはその他の薬理学的に許容されるキャリアであり、上記脂肪酸ベースの構成物は、遊離脂肪酸および遊離脂肪酸の誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの長鎖脂肪酸ベースの物質を含む、上記少なくとも1つの治療用哺乳動物タンパク質を哺乳動物に投与するための製剤である。
【0021】
本発明は、また、インスリン、上皮小体ホルモン、上皮小体様ホルモン、グルコガン、インスリン分泌性ホルモン、バソプレシン、生殖器官のホルモン、ケモタクチン、ならびにインターロイキン1、インターロイキン2およびRAを含むサイトカインからなる群であって、インターフェロン、ケモカイン、プロテアーゼおよびプロテアーゼ阻害剤を含む酵素、酸性および塩基性線維芽細胞増殖因子、上皮増殖因子、腫瘍壊死因子、血小板由来増殖因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、神経成長因子およびインスリン様増殖因子−1を含む増殖因子、ゴナドトロピンおよびソマトメジン(somatomedians)を含むホルモン、免疫グロブリン、脂質結合タンパク質および可溶性CD4、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ、L−アスパラキナーゼ、ペプシン、ウリカーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カルボキシペプチターゼ、ラクターゼ、スクラーゼ、毛様体神経栄養因子(ciliary neurite transforming factor;CNTF)、凝固因子VIII、エリスロポエチン、トロンボポエチン、インスリントロピン、コレシストキニン、グルカゴン様ペプチドI、内因子、Ob遺伝子産物、組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)、脳由来神経因子、フェニルアラニントランスポータ、刷子縁膜酵素ならびにトランスポータを含まない群から選択される少なくとも1つのタンパク質を哺乳動物に投与するための製剤であって、該哺乳動物の体内または体表面上における、少なくとも1つのタンパク質の吸収、分散、および放出を向上させる製剤を提供する。該製剤は、マイクロエマルジョン中の少なくとも1つのタンパク質からなり、上記マイクロエマルジョンは、脂肪酸ベースの構成物のベジクルまたはマイクロスポンジがキャリア中に分散した分散物によって構成されており、該キャリアは、亜酸化窒素を溶解させた、水溶性キャリアまたはその他の薬理学的に許容されるキャリアであり、上記脂肪酸ベースの構成物は、遊離脂肪酸および遊離脂肪酸の誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの長鎖脂肪酸ベースの物質を含む、製剤である。
【0022】
本発明によると、少なくとも1つの治療用哺乳動物タンパク質を様々な投与経路によって哺乳動物に効果的に投与し、そのような治療用哺乳動物タンパク質の治療効果を向上させる方法であって、該少なくとも1つの治療用哺乳動物タンパク質を該哺乳動物に投与する工程を含み、該投与する工程は、マイクロエマルジョン中の少なくとも1つの治療用哺乳動物タンパク質からなる製剤を投与することによって行われ、上記マイクロエマルジョンは、脂肪酸ベースの構成物のベジクルまたはマイクロスポンジがキャリア中に分散した分散物によって構成されており、該キャリアは、亜酸化窒素を溶解させた、水溶性キャリアまたはその他の薬理学的に許容されるキャリアであり、上記脂肪酸ベースの構成物は、遊離脂肪酸および遊離脂肪酸の誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの長鎖脂肪酸ベースの物質を含む、方法も提供される。
【0023】
さらに、本発明は、インスリン、上皮小体ホルモン、上皮小体様ホルモン、グルコガン、インスリン分泌性ホルモン、バソプレシン、生殖器官のホルモン、ケモタクチン、ならびにインターロイキン1、インターロイキン2およびRAを含むサイトカインからなる群であって、インターフェロン、ケモカイン、プロテアーゼおよびプロテアーゼ阻害剤を含む酵素、酸性および塩基性線維芽細胞増殖因子、上皮増殖因子、腫瘍壊死因子、血小板由来増殖因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、神経成長因子およびインスリン様増殖因子−1を含む増殖因子、ゴナドトロピンおよびソマトメジン(somatomedians)を含むホルモン、免疫グロブリン、脂質結合タンパク質および可溶性CD4、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ、L−アスパラキナーゼ、ペプシン、ウリカーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カルボキシペプチターゼ、ラクターゼ、スクラーゼ、毛様体神経栄養因子(ciliary neurite transforming factor;CNTF)、凝固因子VIII、エリスロポエチン、トロンボポエチン、インスリントロピン、コレシストキニン、グルカゴン様ペプチドI、内因子、Ob遺伝子産物、組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)、脳由来神経因子、フェニルアラニントランスポータ、刷子縁膜酵素ならびにトランスポータを含まない群から選択される、少なくとも1つのタンパク質を哺乳動物に効果的に投与し、該哺乳動物の体内または体表面上における少なくとも1つのタンパク質の吸収、分散、および放出を向上させる方法を提供する。本方法は、少なくとも1つのタンパク質を該哺乳動物に投与する工程を含み、該投与工程においては、マイクロエマルジョン中の少なくとも1つのタンパク質からなる製剤を投与することによって行われ、上記マイクロエマルジョンは、脂肪酸ベースの構成物のベジクルまたはマイクロスポンジがキャリア中に分散した分散物によって構成されており、該キャリアは、亜酸化窒素を溶解させた、水溶性キャリアまたはその他の薬理学的に許容されるキャリアであり、上記脂肪酸ベースの構成物は、遊離脂肪酸および遊離脂肪酸の誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの長鎖脂肪酸ベースの物質を含む。
【0024】
好ましい実施形態において、本発明で使用されるベジクルまたはマイクロスポンジは、治療用哺乳動物タンパク質または上記の前述のタンパク質の吸収および体内循環時間を向上させる一方で、同時にその劣化を低減するようになっている。この組み合わせにより、必然的に治療効果の向上がもたらされる。
【0025】
経口経路、局所経路、または経鼻経路などの非侵襲的経路において、治療活性を有する化合物(therapeutically active compound)は、完全に体内およびその血流に入る前に、まずは1つまたは複数の細胞の層からなる(更に線維組織も含まれる場合がある)連続的な生物学的障壁を通過する必要がある。上述した通り、本発明において、治療用哺乳動物タンパク質、上記の前述のタンパク質、または薬剤は、FAベースの亜酸化窒素浸透粒子内に封入または捕捉されている。FAの組成を変化させることにより、様々な種類の粒子が得られる。そのうち少なくとも2種類を下記に説明する実施例で具体的に取り上げる。
【0026】
好ましくは、上記組成物は、酸化防止剤dl−α−トコフェロール、またはこの酸化防止剤の安定的な誘導体も含む。したがって、製剤は、市販の酸化防止剤のほかに、α−トコフェロールまたはその誘導体のうちの1つを、0.1%以上5%以下の濃度で含んでもよい。例えば、前記製剤は、特に薬剤分子の安定性が不十分である場合に、対象の治療用哺乳動物タンパク質または上記の前述のタンパク質の増進の程度を増加できるTBHQ(tert−ブチルヒドロキノン)、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)またはBHT(ブチルヒドロキシトルエン)などの酸化防止剤を1つまたは複数含むことができる。
【0027】
貯蔵寿命を延ばすために、前記上記組成物は、市販のプロテアーゼ阻害剤(例:ベスタチン)も含んでいてもよい。
【0028】
前記分散物において、前記ベジクルは、その少なくとも50%が直径80nm〜3μmであり、前記マイクロスポンジは、その少なくとも50%が直径1.5μm〜6.0μmであることが好ましい。ベジクルの大きさおよび形状ともに再現可能である。該分散物中のベジクルまたはマイクロスポンジは弾性を有し、必ずしも完全な球体でなくてもよいことが理解される。従って、「直径」という用語は幾何学的精度を意図する用語であるとは理解されない。さらに、高度な機器類を使用せずに、このような直径を三次元的に測定することは、実現可能でないことが理解される。このような直径は、顕微鏡観察によって二次元的に測定されるべきであり、観察されるベジクルまたはマイクロスポンジを二次元的に見たときの最大測定値のことを指す。
【0029】
本発明によれば、様々な脂肪酸および変性した脂肪酸(例:エチル化脂肪酸)を使用することができる。脂肪酸を変性する技術は当該技術分野において公知である(Villeneuve et al, 2000 Journal of Molecular Catalysis Enzymatic, 9:113-148; Demirbas A; 2007; Energy Conversion and Management(出版準備中)、www.sciencedirect.comからオンラインで入手可能。これらは、脂肪酸ベースの媒体の製剤についての、方法および組成物に関して、参照によって本明細書に組み込まれる)。例えば、ポリエチレングリコール(PEG)分子、小ペプチドまたは炭水化物分子が、脂肪酸のカルボキシル基に結合してもよい。該変性は、生物学的に機能的であり、かつ所望の特徴を支持することが好ましい。いくつかの変性した脂肪酸が市販されている。
【0030】
脂肪酸として、そのカルボニル基にエチル基およびポリエチレン基が結合した脂肪酸の両方を使用することが好ましい。このような変性した脂肪酸の多くは、当該分野において公知であり、市販されている。一般的に、このような市販の調製物は、様々な変性した脂肪酸からなる。
【0031】
前記脂肪酸ベースの構成物は、オレイン酸、リノール酸、αリノレン酸、γリノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸[C20:5ω3]、ドコサヘキサエン酸[C22:6ω3]、リシノール酸、およびその誘導体からなる群から選択され、該誘導体は、そのC1〜C6アルキルエステル、そのグリセロール−ポリエチレングリコールエステル、ならびに主にリシノール酸ベースの油(例:ヒマシ油)から構成される水素化天然油、および非水素化天然油とエチレンオキシドとの反応生成物からなる群から選択されてもよい。本発明の1つの形態において、前記マイクロエマルジョンの脂肪酸の構成物は、エステル化脂肪酸の混合物から構成されてもよいし、該混合物を含んでいてもよい。その際、ビタンミンFエチルエステルとして知られる市販の製品を使用してもよい。エステル化脂肪酸の組み合わせを含む市販の製品が利用できるが、該脂肪酸ベースの構成物は、本発明の細胞の標的または細胞内の標的に応じて選択された、単一の脂肪酸または変性した脂肪酸からなるものであってよい。
【0032】
マイクロスポンジには、超長鎖多価不飽和脂肪酸を使用することが好ましい。該長鎖脂肪酸は、当該分野において公知の様々な脂肪酸のいずれから選択されてもよい。従って、上記脂肪酸の構成物は、エイコサペンタエン酸[C20:5ω3]およびドコサヘキサエン酸[C22:6ω3]として知られる長鎖脂肪酸を含むものであってもよいし、該長鎖脂肪酸からなるものであってもよい。このような生成物の組み合わせとしては、Roche社製の「Ropufa ‘30’ n−3 oil(登録商標)」を入手可能である。この目的に使用できる代替製品としては、Croda社から入手可能なlncromega製品群のうちの1つが挙げられる。
【0033】
前記脂肪酸の構成物は、上述の物質または物質の混合物に加えて、主にリシノール酸ベースの油により構成される水素化天然油とエチレンオキシドとの反応生成物を含んでもよい。この物質は、その脂肪酸含有分の大部分をリシノール酸が占めることが知られているヒマシ油から産生されるものであることが好ましい。この生成物は、水素化およびエチル化の程度、およびポリエチレングリコール基などの基の付加に関して、変性していてもよい。このような様々な生成物は、Cremophorという商品表示で各種等級のものがBASF社から市販されている。特定の応用に対する本発明の好ましい形態では、リシノール酸分子が、35〜45のエチレンオキシド単位を有するポリエチレングリコール基の付加により変性する。
【0034】
FAベースのベジクルの代表的な脂肪酸プロファイルは以下の通りである:
エチル化C16.0脂肪酸 0.2324%
エチル化C18.0脂肪酸 0.098%
エチル化C18.1脂肪酸 0.6076%
エチル化C18.2脂肪酸 0.9744%
エチル化C18.4脂肪酸 0.784%
グリシノール酸のグリセロール−ポリエチレングリコールエステル 1.00%
FAベースのマイクロスポンジの代表的な脂肪酸プロファイルは以下の通りである:
エチル化C16.0脂肪酸 0.2324%
エチル化C18.0脂肪酸 0.098%
エチル化C18.1脂肪酸 0.6076%
エチル化C18.2脂肪酸 0.9744%
エチル化C18.4脂肪酸 0.784%
リシノール酸のグリセロール−ポリエチレングリコールエステル 1.00%
エチル化C20.3脂肪酸 0.25%
エチル化C22.3脂肪酸 0.25%
前記媒体は前記脂肪酸混合物に溶解した亜酸化窒素ガスを更に含むことで、ベジクルに必要な大きさを付与し、マイクロエマルジョンに必要な安定性を付与する。該亜酸化窒素ガスは、本発明の前記治療用哺乳動物タンパク質または上記の前述のタンパク質を含む脂肪酸相、水相、または最終製剤に散布される。
【0035】
好ましい形態において、FAベースの粒子は、亜酸化窒素と共存する油相および水相によりなる。亜酸化窒素と共存する油相のみによってなるこの粒子の前駆体の形態が、一般的に経口投与に使用される。水相は、捕捉される薬剤の性質に応じて、滅菌水または滅菌バッファによりなるものであってもよい。一方、油相は変性した脂肪酸の組み合わせによりなる。該脂肪酸をコントロールすることで、著しく高い捕捉能や、極めて高速の送達速度および細胞内送達が確保される。
【0036】
本発明の別の局面によると、上記で定義した本発明の送達媒体を産生する方法であって、前記脂肪酸ベースの構成物と水とを混合してマイクロエマルジョンを得る工程と、該混合物に亜酸化窒素ガスを導入してベジクルに必要な大きさを付与し、該マイクロエマルジョンに必要な安定性を付与する工程と、を含む方法が提供される。自己乳化マイクロエマルジョンの生成技術は、当該分野において公知である(例えば、Gursoy and Benita; Biomedicine & Pharmacotherapy, Volume 58, Issue 3, April 2004, 173-182ページ参照)。この際、前記脂肪酸組成物の前記混合は、攪拌しながら、加熱を伴い行われることが好ましく、高速剪断機を使用して行われることが好ましい。
【0037】
本発明の別の局面によると、前記治療用哺乳動物タンパク質、前述のタンパク質、または薬剤は、捕捉される特定の治療用哺乳動物タンパク質または前述のタンパク質の疎水性および極性に応じて、油相または水相に前もって混合してもよい。この場合、製剤の混合は、脂肪酸組成物を50℃未満に冷却した後で、いくらか攪拌して行われることが好ましく、亜酸化窒素ガスの存在下で低速剪断機を使用することが好ましい。この混合は、前記粒子の形成後に行う緩やかな混合であってもよい。
【0038】
前記マイクロエマルジョンの脂肪酸ベースの構成物と水とを混合する前または後に、前記亜酸化窒素ガスを水に導入してもよい。このように、本発明の1つの形態において、亜酸化窒素ガスを水に溶解して亜酸化窒素ガスと水の飽和溶液を得てもよい。また、その後、亜酸化窒素ガスの該飽和溶液は、生成されたマイクロエマルジョンの脂肪酸の構成物と混合される。亜酸化窒素ガスと水との飽和溶液は、亜酸化窒素ガスで水をスパージングするか、水が亜酸化窒素ガスで飽和するのに必要な時間より長く、大気圧より高い圧力で、水を亜酸化窒素ガスに露出して生成してもよい。本発明の本局面の別の形態では、水と脂肪酸の構成物とのエマルジョンを最初に生成し、その後で該エマルションを亜酸化窒素ガスに露出すことによりガス処理してもよい。この処理は、スパージングによって行うのが好ましい。
【0039】
製剤は、一般に、投与装置または経口、経鼻、もしくは局所投与で使用できる形態で利用可能である。このような形態には、有効性、安定性、または応用の容易さを更に向上させる、あらゆる添加物(例:浸透促進剤、増粘剤、その他アジュバンド)および溶媒、キャリア、または染料を含む原料が含まれる。処理される応用方法および応用の種類によって、好ましい製剤が決定される。
【0040】
本発明は、治療用哺乳動物タンパク質または上記の前述のタンパク質を、生物学的障壁を通過させて送達するための効果的な方法に焦点を当てている。送達媒体に捕捉された対象の治療用哺乳類タンパク質または上記の前述のタンパク質を含む製剤は、外部から投与されると、解剖学的受容器(鼻腔、胃腸内腔、または皮膚)を覆う細胞に吸収される。対象の治療用哺乳類タンパク質または上記の前述のタンパク質は、送達媒体に安定的に捕捉されていることが好ましい。その後、治療用哺乳類タンパク質または上記の前述のタンパク質は、治療効果のある量が体循環系に送達されることが好ましい。一旦循環すると、治療用哺乳類タンパク質、治療用哺乳類タンパク質の代替または補助として機能する上記の前述のタンパク質、または上記の前述のタンパク質による治療は、対象によって自然に発現するのと同様に作用する。更に、治療用哺乳類タンパク質または上記の前述のタンパク質が、任意の治療効果をもたらす外因性の治療用哺乳動物タンパク質または上記の前述のタンパク質である場合、薬剤は従来の注射法によってもたらされるのと同一の活性を示す。
【0041】
好ましい実施形態においては、対象の治療用哺乳類タンパク質または上記の前述のタンパク質が十分なレベルで血液に吸収され、治療用哺乳類タンパク質または上記の前述のタンパク質による治療が効果的となる。治療用哺乳類タンパク質または上記の前述のタンパク質の治療効果の向上は、標的アミノ酸配列、モチーフ、またはペプチドの共有結合によって脂肪酸のカルボニル基を脂肪酸マトリクスの標的としたり、特定の器官の選択を媒介するその他の要素に結合したりすることによりなされる。
【0042】
(治療用哺乳動物タンパク質、およびタンパク質治療またはペプチド治療による治療の影響を受けやすい状態)
本発明の粒子に取り込まれた治療用哺乳動物タンパク質、または前述のタンパク質は、特定の治療用哺乳動物タンパク質または前述のタンパク質の欠乏に関連して遺伝的または後天的な疾病を引き起こす治療用哺乳動物タンパク質または前述のタンパク質を置換または補充するために使用される、治療用哺乳動物タンパク質または前述のタンパク質のいずれかであることが好ましい。本発明の目的は、不十分な治療用哺乳動物タンパク質、または前述のタンパク質を、少なくとも体循環系において、好ましくは、適用可能な臓器、組織、または細胞においても、正常なレベルにまで修復することである。置換、または補充により治療されうる、治療用哺乳動物タンパク質、または前述のタンパク質の欠乏によって引き起こされる状態は、糖尿病、血友病、貧血症、免疫不全、栄養吸収欠乏症、および、ステロイドホルモン置換を含む。
【0043】
また、治療用哺乳動物タンパク質、または前述のタンパク質は、体内における特定の経路を調整、連結、または切断する治療用哺乳動物タンパク質、または前述のタンパク質のいずれかにもなりうる。タンパク質治療に望ましい膨大な数の治療用哺乳動物タンパク質、または前述のタンパク質は、当該分野において、公知である。一般的に治療に用いられるタンパク質は、本発明を用いて、様々な投与経路により、供給される。このような治療用哺乳動物タンパク質、または、前述のタンパク質は、例えば、the Physician’s Desk Reference (1994 Physicians’Desk Reference、第48版、Medical Economics Data Producation社、モントベール、ニュージャージー、参照により本明細書に含まれる)に開示されており、Harrison‘s Principles of Internal Medicine and/or the AMA “Drug Evaluations Annual”の1993年版に記載の方法を用いて投与できる。これらの、文献のすべては参照により本明細書に含まれる。
【0044】
タンパク質は、完全に欠失している、または不完全であるかのどちらかであり得、これらの場合、完全置換する必要がある。また、上記タンパク質は低発現する場合もあり、この場合、本発明を補助的な治療に用いることができる。タンパク質は、過剰発現する場合があり、治療において、治療用哺乳動物タンパク質、または前述のタンパク質を供給することによって、過剰発現タンパク質を調整、または低下させる必要がある。
【0045】
好ましい治療用哺乳動物タンパク質、または前述のタンパク質の例には、インスリン、上皮小体ホルモン、上皮小体様ホルモン、グルカゴン、インスリンノトロピックホルモン、バソプレシン、生殖器官に関わるホルモンなどのホルモンやペプチドホルモンが含まれる。
【0046】
本発明において特に用いられる治療用哺乳動物タンパク質、または前述のタンパク質の具体的な分類は、ケモタクチン、インターロイキン1、インターロイキン2およびRA(インターフェロンαを除く)を含むサイトカイン、ケモカイン、プロテアーゼおよびタンパク質分解酵素抑制剤を含む酵素、酸性および塩基性繊維芽細胞増殖因子、表皮増殖因子、腫瘍壊死因子、血小板由来増殖因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、神経成長因子、インスリン様増殖因子−1を含む増殖因子、ゴナドトロピンおよびソマトメジンを含むホルモン、免疫グロブリン、脂質結合タンパク質、ならびに可溶性CD4である。
【0047】
治療用哺乳動物タンパク質または前述のタンパク質の薬剤分類の1つとして例示された酵素も、治療効果を高めるために、本発明のベジクルまたはマイクロスポンジに包含させることができる。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者は、本発明が以下の酵素の供給に役立つことを理解する。これらの酵素とは、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ、L−アスパラキナーゼ、ペプシン、ウリカーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カルボキシペプチターゼ、ラクターゼ、およびスクラーゼである。
【0048】
含有される特定の治療用哺乳動物タンパク質または前述のタンパク質には、毛様体神経栄養因子(CNTF)、凝固因子VIII、エリスロポエチン、トロンボポエチン、インスリン分泌性ホルモン、コレシストキニン、グルカゴン様ペプチドI、内因子、Ob遺伝子産物、組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)、または脳由来神経因子である。治療の対象が、例えば、ラクターゼ、内因子、スクラーゼ、またはトランスポータを含む消化酵素の欠乏のような、栄養の吸収不良に起因する状態を患う患者である場合、経口経路を用いて治療用哺乳動物タンパク質または前述のタンパク質を投与することが望ましい。
【0049】
タンパク質治療の対象が消化管である場合、捕捉された治療用哺乳動物タンパク質または前述のタンパク質は、(フェノールケトン尿症用の)フェニルアラニントランスポータ、ラクターゼ欠乏症用のラクターゼ、内因子、または他の刷子縁膜酵素およびトランスポータであってもよい。
【0050】
このタンパク質をコードする遺伝子の翻訳後修飾、もしくは適切な変異、またはこのタンパク質に炭水化物基を合成付加することによって、上記治療用哺乳動物タンパク質または前述のタンパク質を、変性してもよい。
【0051】
本発明に関連するタンパク質治療は、ウシ、イヌ、ネコ、ウマ、またはヒトのような哺乳動物の対象、または齧歯動物の対象の治療を目的とする。本治療で用いられる上記治療用哺乳動物タンパク質または前述のタンパク質は、例えば、遺伝子組み換え生成や化学的合成によって得られる、ヒトに特有のものであることが好ましい。しかし、この条件は絶対的なものではない。特に、上記治療用哺乳動物タンパク質または前述のタンパク質のアミノ酸配列が高度に保存されており、かつ非免疫原性のものである場合には、上記条件は絶対的なものではない。また、哺乳動物の対象は、その哺乳動物の対象に無関係のタンパク質による治療が効きやすい状態にある場合もあるが、例えば、通常の代謝過程を高める場合もある。
【0052】
以下に、上記本発明を用いた治療が効きやすい病気の例、およびこれらの病気を治療するのに使用可能な、適切な上記治療用哺乳動物タンパク質または前述のタンパク質の例を検討する。
【0053】
腸管上皮は動物において主要な吸収面であり、それ自体、腸管の管腔から血液に物質を優先的に送達する。より大きな分子も吸収されることが、文献には以下のように記載されている。生まれたばかりの動物において、免疫反応は、抗体タンパク質、膵臓からの様々な消化酵素、およびインスリンのような、腸管上皮を超えて現れる治療用哺乳動物タンパク質または前述のタンパク質を吸収した結果として起こる。タンパク質の浸透性は、十二指腸および回腸終端部で主に見られる。しかし、タンパク質はまた、大腸の下方部位から吸収されることが知られている。そのため、座薬が、治療用に用いられている。
【0054】
消化管で生成され、血液中に分泌することを目的とし、また、本発明の範囲に含まれるタンパク質には、CCK(コレシストキニン)のようなホルモン、胃抑制ペプチド(GIP)、グルカゴン様ペプチドI(GLPI)、腸グルカゴン、膵島アミロイドポリペプチド(IAPP)、神経ペプチドY(NPY)、ポリペプチドY(PPY)、セクレチン、血管作動性腸管ペプチド(VIP)、および脂質代謝に重要な様々なリポタンパク質が含まれる。
【0055】
本発明においては、複数のペプチドによって構成される活性を有する治療用哺乳動物タンパク質または前述のタンパク質が使用されることが好ましい。同様に、通常、特定の細胞で起こるが、治療の対象となる細胞では起こらない場合がある、翻訳後修飾およびプロセッシングを含む治療用哺乳動物タンパク質もしくはペプチド、または、前述のタンパク質もしくはペプチドが含まれることが好ましい。本発明においては、変性が治療上の利点を有する場合に、変性された形態の上記治療用哺乳動物タンパク質または前述のタンパク質が使用される。このような変性は、野生型タンパク質に関連するプロテアーゼ耐性、または活性の向上のような特徴を得ることを目的としている。
【0056】
(タンパク質治療の評価)
本発明の脂肪酸ベースの媒体は、投与しようとする如何なる治療用哺乳動物タンパク質に対しても使用することができる。上記FAマトリクスは、静脈投与治療における効能が調査されていない治療用哺乳動物タンパク質または前述したタンパク質に使用することもできるが、その効能が既によく認められている治療用哺乳動物タンパク質または前述したタンパク質(例えば、インスリン等)にも使用可能である。さらに、下記の実施例にて示すように、投与後、FAマトリクスが、効果的に実験動物の血流中へのインスリンの吸収とその効果を向上させることから、当業者には、本発明の、特許請求の範囲に記載のFAマトリクスを使用すれば、その他の治療用哺乳動物タンパク質または前述したタンパク質の治療効果を向上させることが可能であることが容易に理解できる。
【0057】
特許請求の範囲に記載された本発明は、様々な治療製品の効能を向上させることができる。治療効果の向上は様々な方法で確認することができる。一般に治療の効果の向上の評価は、本発明を使用した場合と使用しなかった場合とについて、被験体を、同様の濃度の同じ治療用分子で処理し、その被験体の血液試料の特異的分析を行い、比較することで行わる。
【0058】
この分野において、治療用哺乳動物タンパク質または前述したタンパク質を検出する適切な方法は様々なものが知られている。例えば、RIA(放射性免疫分析)により、上記治療用哺乳動物タンパク質または前述したタンパク質に対して特異的に結合する抗体を用いて、血液試料中の該タンパク質の有無を検出することができる。このような分析により、どれくらい向上したかを定量的に求めることができる。例として、酵素免疫測定法(ELISA)、一抗体放射性免疫分析法(RIA)、二抗体放射性免疫分析法(IRMA)、または免疫化学発光分析が挙げられる。通常、RIA法は、IRMA法よりも感度が低い。IRMA法の有効範囲は通常0.5〜200mIUである。ELISA法で感度を100倍に上げることができる。試料中の治療用哺乳動物タンパク質または前述したタンパク質を検出するのに用いられるELISA法またはその他の免疫分析法は、Antibodies: A Laboratory Manual (1988, Harlow and Lane eds Cold Spring Harbor Laboratory、コールドスプリングハーバー、ニューヨーク)に記載されている。
【0059】
下記に例示するように、生物学的障壁を通過した治療用哺乳動物タンパク質または前述したタンパク質薬剤の量は、高速液体クロマトグラフィなどの分析方法を用いて求めることができる。
【0060】
または、上記の方法に加えて、上記治療用哺乳動物タンパク質または前述したタンパク質の活性を測定することで、タンパク質治療の効果を評価することもできる。上記治療用哺乳動物タンパク質または前述したタンパク質がインスリンの場合、治療の効果は、哺乳動物の血糖値を調べる、またはインスリンの量を測定する(例えば、ヒトインスリン放射免疫測定キット、Linco Research社、セントルイス、Mo)ことで評価することができる。
【0061】
(好ましい実施形態の説明)
下記に説明する調製と実施例とに基づいて本発明を説明する。なお、ここに挙げる調製および実施例は単なる一例であり、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の効果は、上記治療用哺乳動物タンパク質または前述したタンパク質について、通常行われている非経口投与以外のルートで上記治療用哺乳動物タンパク質または前述したタンパク質を投与し、これらの効能を向上させることにある。下記に上記治療用哺乳動物タンパク質または前述したタンパク質を、経鼻、口周囲、および局所での投与に特有の事情や問題の背景を説明する。
【0062】
特に記載がない限り、ここで使用する全ての技術的および科学的用語は、この発明が属する分野の当業者が通常使用する意味で使用している。本発明の実施または実験、好ましい方法、製剤、および材料については、ここに記載するものと同様または同等の方法、装置、および材料を使用することができる。
【0063】
(調製1:治療用哺乳動物タンパク質や前述したタンパク質の哺乳動物への投与に使用する送達媒体として、好適に使用される製剤の調製) 本発明の製剤は下記の方法で調製されうる。
【0064】
工程1:スパージャーと圧力容器とを用いて、大気圧下にて任意量の水を亜酸化窒素で飽和させる。該圧力容器は、流量調整バルブと圧力調整器とを備えた亜酸化窒素源に接続されている。該圧力容器を密閉し、2barの圧力で96時間亜酸化窒素を供給する。上記の圧力下で上記の時間、前述の温度をかけると、水を亜酸化窒素で飽和することができる。基本的なまたは保管用の製剤を調製する場合、ベジクルを分散させるキャリア媒体として、脱塩素処理された水を使用する。該水はリン酸バッファによりpH5.8に調整されている。
【0065】
工程2:下記の脂肪酸ベース組成物を調製した。まず、CLR Chemicals LaboratoriumのKurt Richter博士(GmbH ベルリン、ドイツ)から提供されたビタミンFエチルエステル CLR 110 000 Sh.L.U./g(主成分:21%オレイン酸、34%リノレン酸、および28%リノール酸であり、それぞれカルボキシ末端側のエチレン基をエステル化することによって変性している)を75℃にまで加熱した。次に、ペグ化および水素化した脂肪酸であるリシノール酸(PEG−n−hydrogenated Castor OilのようなINCI名でも知られている)を80℃に加熱したものを、70℃の前述の第1のグループの脂肪酸に基づくビタミンFエチルエステルと混合した。第1のグループの脂肪酸と後者の脂肪酸との比率は通常2.8:1である。
【0066】
工程3:様々な濃度のdl−α―トコフェロール(通常の抗酸化剤として使用される場合、終濃度は0.1%の間)を、上記加熱した脂肪酸混合物に添加した。
【0067】
工程4:上記pH調整した水を73℃まで加熱し、高速撹拌器で撹拌しながら上記脂肪酸混合物と混合した。生成物の具体的用途によるが、終濃度は3.2%と4%との間の範囲内である。この脂肪酸混合物は、ナノメートルサイズのベジクルを含む基本組成物を形成する。粒子径はMalvern sizerにて確認した。
【0068】
工程5:この基本調製物に、さらに、エチル化した脂肪酸DHA(decahexonoic acid)とEPA(eicosapentanoic acid)を追加してもよい。本発明において、この2つの脂肪酸の好ましい添加量は0.5%である。これらの脂肪酸を添加すると、ベジクルよりもむしろマイクロスポンジの形態が形成される。該マイクロスポンジの粒子径は、Malvern sizerによれば、2〜5μmである。
【実施例1】
【0069】
インスリンを捕捉した本発明のFAベースの粒子による、インスリンの血漿濃度およびインスリンの有効性の向上
(動物実験)
体重が240gから336gのオスのsparague dawleyラットを実験用の生体モデルとして使用して、本発明によりインスリンの吸収性と有効性が向上するか否かを調査した。この動物は生体モデルとしていくつかの長所を有するが、中でも生理学的および生化学的見地から、この動物の胃腸および鼻がヒトのそれと解剖学的に同様の順序で並んでおり、その形態も似通っている点が上げられる。
【0070】
本実施例では、インスリンを動物の胃、回腸、および小腸に直接投与した。この生体実験方法の手順は文献において詳細に説明されている。本実施例では、それぞれ6個体からなるグループを用いて実験を行った。投与前に、水を任意に飲める環境下で各ラットを18時間断食させた。ラットの飼育は、ラットの成長と健康を最高の状態する理想的な環境を作り出す人工的な状態下で行われた。病原菌への感染も最小限に押さえ、変動値も一定の状態に保った。温度21℃および相対的湿度55%下において、床から1メートルの地点から350luxから400luxの光強度で12時間光を照射する明状態と、12時間光を照射しない暗状態とを反復する光サイクルを繰り返し、1分間に18回空気交換を行う環境下で、ラットを育成および飼育した。
【0071】
実験はパラレル状態で行った。すなわち、実験動物を処理の違いにより複数のテストグループに分け、各個体について1種類の処理を行った。基準グループにはインスリンの食塩水溶液を投与し、吸収向上剤(enhancing agent)を投与しない状態での吸収率を測定した。インスリンの皮下注射を1グループについて行い、分析手順の有効性を確認した。正常なラットについてのグルコースおよびインスリンプロファイルを、1グループに食塩水のみを与えて求め、このグループを生物学的基準とした。
【0072】
シグマアルドリッチ社(南アフリカ)製の遺伝子組み換えヒトインスリンを使用した。このインスリンを、上記のように製造した本発明のFAベースのベジクル生成物またはFAベースのマイクロスポンジ生成物によって捕捉し、各濃度および量で製剤を準備した。捕捉を行う前に、上記FAベースの生成物を、水槽を用いて31℃まで加熱した。インスリンの添加後、該製剤を穏やかに30分間撹拌し、該FAベースの生成物にインスリンを捕捉させた。捕捉後、投与するまで該製剤を4℃の状態で保存した。実験グループおよび基準グループに、製剤をそれぞれ50IU/kgを投与した。ただし、静脈注射によりインスリンを投与するグループについては、各個体につき投与量を0.5IU/kgとし、皮下注射するグループについては、投与量を4IU/kgとした。
【0073】
頚動脈に挿管を施し、当該ラットから異なる間隔で十分な血液量を確保して、実験に使用した。ラットにハロタンにて麻酔をかけ、±3時間昏睡状態にした。総頚動脈への挿管に必要な全ての外科的な処置は、ラットが麻酔にかかっている状態で行った。殺菌したPVCカニューレ(穴あきのポリエチレン細管、0.58mm ID(0.96mmOD) REF 800/100/200/100、UK)に、体温に保たれた食塩水−ヘパリン溶液を充填し、注射器に接続して動脈に繋げた。カニューレ内での血液の凝固を防止するために、5.0%のヘパリン溶液を使用して実験を行った。各ラットへの麻酔は、密閉したガラス容器内で4.0%V/Vの液体ハロタン(Fluothane(登録商標)Zebeca SA 社、Woodmead、RSA)を吸入させることによって行った。意識喪失後ラットを容器から取り出した。2.0%または4.0%のハロタンと医療用酸素との混合ガスを使用して麻酔状態を維持し、実験を行っている間、小さい電気毛布上に各ラットを置くことでラットの体温を37℃で一定に保った。実験終了後、覚醒する前に各ラットを安楽死させた。安楽死は、呼吸が止まるまで4.0%のハロタンを使用して麻酔状態をさらに深くすることで行った。
【0074】
上記と同様の条件下で、腹部の外科的な処置を行った。腹部の皮膚を剃り、殺菌した後、腹部の中線に沿って約2センチほどを、腸は切らず、白線の端部から胸鎖までを切るように切開(開腹)した。胃、回腸、または大腸を確認し、開腹部から持ち上げて上記インスリン製剤で処理した。処理後、該胃、回腸、または大腸を腹部中で空洞になっているその内臓の解剖学的に正しい位置に戻した。開腹部を殺菌済みのガーゼで覆い、食塩水−ヘパリン溶液にて湿った状態に保って、その乾燥を防いだ。
【0075】
該製剤を特定の位置に直接注射した。胃内への注射は、該胃の内腔に対して行った。注射後、十二指腸の入り口部分で該胃を結紮し、ぜん動運動によって上記製剤が小腸に運ばれないようにした。回腸内への投与は、胃の出口から7センチほど腸に入った地点の小腸内腔に直接行った。通常の腸通過時間でインスリンを通常通り吸収させるため、小腸は結紮しなかった。大腸内への投与は大腸に直接行った。大腸を近接端部にて結紮し、製剤が回腸へ戻らないようにした。製剤をこぼさないように、各投与は穏やかかつゆっくりと行った。
【0076】
静脈注射を行うグループには、各ラットの尾に対して0.5IU/kgを含む、体重あたり200μlの量を投与した。これにより遺伝子組み換えヒトインスリンのラットに対する効果を確認した。さらに、このグループにおいて、実験した上記製剤の生物学的有効性を、基準として測定した。体重250gあたり300μlの量で皮下注射を腹部の皮膚の直下に対して行った。これにより、投与量は4IU/kgとなった。この量は市販の製品の値とほぼ同様である。
【0077】
1mlの血液試料を、該製剤の投与から0、5、10、15、30、60、120、および180分の時点で採取し、血糖値とインスリンの血漿濃度を測定した。血糖値は、各製剤の治療効果を示す。血糖値の測定は、Glucometer(登録商標)II反射率計を用いておこなった。Glucostix(登録商標)試薬紙(Bayer、南ア)上に血液を1滴たらし、30秒間にじませると、その20秒後にグルコース量(ミリモル/L)がわかる。
【0078】
血漿試料の血漿インスリンレベルは、LINCO Research社(米国)製のヒト特異的放射免疫測定(RIA)キットを使用して、採取した血漿中のヒトインスリンを定量して求めた。ヒトインスリン用RIAは、ヒトに対して100%、ラットインスリンに対して0.1%というヒト特異性を有し、ヒトプロインスリンに対して交叉反応性を有しないものである。該キットの検出限界は、2μIU/mlであった。
【0079】
(結果)
胃内への投与
本発明の製剤を構成するベジクルに捕捉されたインスリンの吸収性の向上を、表1に示す。表1に、ラット6匹からなる2つの動物グループに対する実験で得られた平均血漿インスリン濃度を示す。各ラットには、表1に示す形態によって50IU/kgの製剤を1回投与した。各血液試料の採取のタイミングを表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
本発明の製剤を構成するベジクルは、上記のようにインスリンの吸収を助け、3時間に及ぶ実験の間、血液中のインスリンを高濃度に保った。各グループにおけるインスリンの初期吸収については、投与5分後に現れたTmaxに反映されている。この結果によれば、インスリンのレベルは3時間後もまだ上昇していることから、ベジクル中にインスリンを捕捉することで、血液中のインスリンの分解を防ぎ、徐々にインスリンを放出することができると考えられる。一方、ベジクルを用いない場合、インスリンレベルは基準レベルに留まっている。このようにインスリンレベルの上昇が続く傾向が見られるので、インスリンの皮下投与後の絶対的生物学的有効性を正確に求めることができなかったが、投与量を考慮にいれても、ベジクルに捕捉することで、絶対的生物学的有効性は少なくとも2倍になった。AUC及びCmaxが上昇しており、これにより相対的生物学的有効性および治療レベルについては、本発明の製剤により向上することが理解される。
【0082】
治療効果の向上を、各投与形態による血糖値への影響を調査することで測定した。
【0083】
【表2】

【0084】
表2に示す結果によれば、本発明による治療効果の向上率は、本発明による相対的な吸収率および生物学的有効性の向上率より顕著であった(表1のAUCの向上率は96.8762%であるのに対して、表2のAUCの向上率は122.68%)。この結果は、ベジクル中にインスリンを捕捉することにより、インスリンが血漿中においてタンパク質分解されることを防ぐことができるという仮説を支持するものである。
【0085】
(回腸内への投与)
表3に、0・9%食塩水に溶解したインスリンとベジクルにより捕捉したインスリンとを、回腸に投与した後に得られた血漿インスリン濃度の結果を示す。この結果から、回腸はインスリンの吸収を行うには理想的な性質を持つことがわかる。回腸と比較すると、胃におけるインスリンの吸収率は高くはない。ベジクルに捕捉したインスリンを投与してから5分経過時点で、血液血漿インスリンレベルは非常に大きく上昇し、243.8μIU/mlまで達する。一方、食塩水中の同量のインスリンについては、該インスリンレベルは39.3μIU/mlまでしか到達しない。
【0086】
【表3】

【0087】
表4によれば、ベジクルに捕捉したインスリンの胃内への投与により生じた治療効果の向上効果は、回腸への投与後も引き続き残存している。この結果は、本発明による治療効果の向上率は、相対的吸収率および生物学的有効性の向上率よりも顕著(表3のAUCの向上率は634.1416%であるのに対して、表2のAUCの向上率は42774.73%)であるということを再確認するものである。血漿中でのインスリンのタンパク質分解は、インスリンを製剤で捕捉することにより防止できることが明らかになった。
【0088】
【表4】

【0089】
ベジクルに捕捉することにより、治療効果は437.7倍に向上した。静脈インスリン投与後のAUCと回腸内へのインスリン投与とを比較することによって、絶対的な治療効果の比率を求めることができる。ベジクルに捕捉されたインスリンを静脈投与した場合における絶対的治療効果は、0.69倍であり、該インスリンを皮下投与した場合は0.72倍であった。非経口投与した場合と比較すると、ベジクルに捕捉されたインスリンの治療効果は以前低いものの、この実験中において、この治療によってグルカゴン反応が引き起こされることはなく、血糖値(%)は100%を超えなかった。一方、両方の経口投与ルートでは、グルカゴン反応と血糖上昇反応が見られた。
【0090】
(大腸内への投与)
食塩水に溶かしたインスリンを投与した場合と比較して、ベジクルにインスリンを捕捉することにより、インスリンの血漿濃度は向上し(1.63倍)、治療効果も向上する(7.8倍)。
【0091】
(結論)
本発明の製剤中のベジクルにインスリンを捕捉することにより、理想に近いインスリン反応を得ることができ、血糖上昇反応を引き起こすことなく治療効果を十分に向上させることができる。
【実施例2】
【0092】
(比較例としてのインスリンの経鼻投与)
本実施例においては、インスリンを、実施例1と同様の方法で、経鼻にて投与した。麻酔及び麻酔状態の維持については実施例1と同様に行った。血液採取のための総頚動脈へカニューレを実施例1と同様の方法にて挿管し、血漿インスリン濃度と血糖値を求めた。
【0093】
(結果)
表5に、インスリンの経鼻投与後の血漿インスリン濃度を示す。該投与は体重1キロ当たり8IUという投与量と、体重1キロ当たり12IUという投与量とにおいてて行った。
【0094】
【表5】

【0095】
AUCが示すように、体重1キロ当たりの投与量8IUを経鼻にて投与した後の血漿インスリンレベルは、本発明の製剤中のベジクルまたはマイクロスポンジを用いることで上昇した。AUCは、ベジクルを使用した場合では29.27倍向上し、マイクロスポンジを使用した場合では28.54倍向上した。この投与量に対して本発明を使用した場合、インスリンの吸収及び血漿への移動が、同様に向上すると考えられる。より大きな投与量(体重1キロあたり12IU)では、本発明の2つのタイプの粒子間で、向上効果に差が見られた。(ベジクルでは8.9倍向上したが、マイクロスポンジでは18.04倍向上した)。ベジクルを用いて低い投与量を投与した場合、インスリンの血漿濃度は上昇し続ける。つまり、インスリンの血漿への移動および放出速度は遅い。よって、上記のような差が生じる。本発明を用いてインスリンを投与したグループでは、血液中の製剤濃度が基準レベルに戻らなかったので、実際の向上率はこの実験結果よりも高いものである。
【0096】
【表6】

【0097】
表6に、投与されたインスリンの治療効果を示す。この結果によれば、本発明の粒子による治療効果は、この薬剤の血漿濃度よりも顕著に向上する。体重1キロ当たり8IU投与した場合、ベジクルを使用すると治療効果は92.98倍に向上し、マイクロスポンジを使用すると141.7倍向上した。一方、体重1キロ当たり12IU投与した場合、ベジクルを使用すると治療効果は147.23倍に向上し、マイクロスポンジを使用すると189.47倍141.7倍向上した。表6を見ても、血漿濃度は低いものの(表5)、マイクロスポンジはベジクルよりも治療効果をより一層向上することができることがわかる。全く同じ試料を使用して血漿濃度と血糖値を測定したので、この差異は試料間でのバラツキや個体間でのバラツキによるものではない。この差異は、おそらく、RIAの抗体は放出されていない捕捉状態のインスリンを認識しないが、捕捉状態のインスリンにより治療効果は向上するためであると考えられる。
【実施例3】
【0098】
(本発明のFAベースのベジクルによるアルギニン バソプレシンの経皮投与)
角質層は、物質が殆ど透過不可能な障壁として知られており、殆どの物質について経皮的に吸収することは非常に困難である。タンパク質および薬剤は分子サイズが大きく、親水性であるため角質層に対する透過性は低い。
【0099】
高分子の経皮投与が可能か否かを調べるため、ペプチドホルモン アルギニン バソプレシン(AVP)(MW=1084.23Da)を基準化合物として使用した。AVPは比較的「小さい」高分子と見なされており、分子量が1000から1500Daのペプチドを代表するものである。AVPは内生的に生ずる「脳下垂体」のナノペプチドホルモンであり、通常、尿崩病および夜尿の診断および治療に、l−deamino−8−D−arginine−vasopressin(DDAVPまたはデスモプレシン)という合成物の形態で用いられる。
【0100】
アルギニン バソプレシンの経皮的な吸収、および経皮投与についてのこれまでの研究では、低電圧および少量の化学的促進剤によるイオン導入を用いて、拒絶反応、毒性、および非可逆的な構造変化が起こらないようにしながら行っていた。そのような研究のうち、3例ではラットスキンが使用されている。その他の例ではそれまでの研究を参照しながら、AVPの皮膚透過における電気的な物性および物理化学的な点について研究がなされた。AVPを基準物質に用いたその他の研究は、ラットおよびヒトの死体皮膚においてバッファのpHおよび濃度、そしてタンパク質分解酵素抑制剤がAVPの安定性および分解に与える影響について調べたものである。
【0101】
ベスタチンは、強力で競争力がある阻害剤であり、特異性を有する。また、ベスタチンは、ロイシン アミノペプチダーゼ(LAP)、アミノペプチダーゼB(APB)およびトリアミノペプチダーゼに親和性を有する。ベスタチンは抗腫瘍性かつ抗菌性であるが、エンカファリナーゼを抑制して免疫反応調節剤や鎮痛剤としても機能する。本実施例では、皮膚の内部や表面に存在し、研究対象の活性を阻害する可能性があるアミノペプチダーゼを抑制するために、ベスタチン塩酸塩を使用した。
【0102】
経皮的な拡散についての実験では、pH5.5のHepes(4-2-Hydroxyethyl)piperazine-1-ethanesulfonic acid)を受容体相として、また、全ての溶液を作る際の溶剤として使用されてきた。pH5.5のHepes(4-2-Hydroxyethyl)piperazine-1-ethanesulfonic acid)は、本発明の粒子の製造においても水相として使用されている。この実施例ではヒトの皮膚を使用して、擬似的なAVPの生体外での経皮移送を調査した。
【0103】
(実験方法)
整形手術後の白人女性から腹部の皮膚を採取した。この皮膚は元々の厚さを有しており、採取後24時間を越えない時間の間、−20℃で冷凍した。実験を準備する前に、この皮膚を室温で解凍した。残っていた血液はティッシュペーパーで拭き取り、余分な脂肪組織は全て、解剖刀を使用して細心の注意を払って取り除いた。皮膚を60℃の水に1分間浸し、皮膚から表皮層を分離した。ピンセットを使い、該表皮層をその下の層から注意深く剥がした。角質層が完全な状態で得られるように細心の注意を払った。このようにして得られた皮膚片を、表皮の角質層側が上側になるようにしてWhatoman(商標登録)ろ紙上に浮かべた。そして該皮膚片を自然乾燥させた。このようにして得られた皮膚試料をアルミニウムにて包み、プラスチック袋内に密封した。該試料は使用前まで−20℃にて冷凍した。拡散実験を実施するまでに、該冷凍した皮膚片を室温で解凍し、欠陥がないかチェックした。10mmの円状の切片に切りとり、拡散装置に供した。
【0104】
該表皮層を、その角質層が供与用ハーフセルに向くようにして、vertical Franz拡散セル(PermeGear社、ベツレヘム、PA、米国)の下半分上に置いた。該拡散セルの受容能力は、約2mlであり、その拡散面積は1075cmである。各拡散実験で使用した皮膚試料は同じ皮膚から採取して試料間のバラツキを最小限に留めた。実験中、各受容相を継続して攪拌した。攪拌には小さい攪拌棒磁石を用いた。供与側の小室を上記セルの下半分上に設置し、該皮膚がセルの両半分の間の仕切りとなるようにした。該セルの上下半分は金属クランプで接合され、真空グリーズで密閉されている。該拡散セルの両側に生理食塩水を充填した後、該セルを、1時間水槽につけて平衡状態を得た。該水槽の温度を37±0.5℃に一定にして、薄膜温度を32±1.0℃に保った。
【0105】
該皮膚が完全かどうかの確認は、Model 6401 LCR Databridege(H.Tinsley社、クロイドン、サリー、英国)を用いて、抵抗モード(R)および並列等価回路モード(PAR)にて1000ヘルツ(HZ)の交流(AC)を印加することで行った(Fasano et al., 2004)。供与側小室と受容側小室の両方で同時にインピーダンスを測定した。該インピーダンスにより皮膚試料の相対的な完全性がわかる。このインピーダンス測定を拡散実験後に再び行った。皮膚試料の完全性の確認においては、Hepesバッファの代わりに生理食塩水を用いたが、これは電離療法時においてHepesバッファは、主な対イオンである塩素イオンと比較して、皮膚に対する移動性が非常に低いためである。電離治療時においてHepesが電荷を輸送できないのであれば、インピーダンス測定時においてもHepesは電荷を輸送できないであろうという仮説を立てた。Hepesを供与相と受容相とに使用してインピーダンス測定を行うという予備的な試験を行い、この仮説を立証した(データは示さず)。インピーダンス測定後の小室は空にした。
【0106】
受容相である。Hepesバッファ(0.025 mM、PH=5.5±0.5)を15分間超音波処理して気泡を除き、エアポケットが生じないようにした後、37℃まで加熱した。このバッファを受容用側小室に充填し、それから供与側小室に製剤を含む溶液を仕込んだ。受容側小室や皮膚の下に気泡が生じないように注意して作業した。各セルの供与側小室に、どの実験をするかによって異なるが、Hepesバッファの活性物資もしくは本発明のFAベジクルに捕捉された製剤の水溶液1000μl(1ml)を充填し、液体の蒸発防止のため充填後すぐにパラフィン(登録商標)にてカバーをして実験を開始した。所定のタイミング(0.5、1、1.5、2、4、6、8、10、および12時間後)で受容側小室の内容物を取り出し、37℃の新しいHepesバッファで置換した。これにより実験が行われている間、受容状態を維持した。各試料の100μlを高速液体クロマトグラフィにより直接測定して、受容側液体中の製剤の濃度を求めた。
【0107】
Arg]バソプレシン(AVP)(アセテート塩、MW=1084.23)は、本発明のベジクルと共に150μg/ml濃度で室温にて30分間放置することで捕捉処理をした後冷蔵庫中にて2〜8℃で24時間保存してから実験に使用した。ベジクル中にこのペプチドが捕捉されたかどうかは、共焦レーザー走査顕微鏡観察(CLSM)をニコンPCM2000 CLSMを使って行い確認した。該CLSMは、中型(10μm)孔と60倍率の1.4D ApoAplanar 油浸対物レンズを使用して行われた。該顕微鏡には、クリプトンレーザー(波長:励起488mm、放射515mm)と、ヘリウム/ネオンレーザー(波長:励起505mm、放射564mm)を備えていた。このため、該AVPを反応性染料であるAlexa Flouor(登録商標)430でラベルし、本発明の粒子をNile redにてラベルした。ラベリングは製造者(Invitrogen社、 レイデン、オランダ)のマニュアルに従って行われた。Alexa Fluor(登録商標)は、蛍光物質であり、最大発光は540nmである。Nile Redでラベルされた粒子の発光波長は、640nmから650nmの範囲である。このようにして、捕捉効率を測定した。基準溶液は25mMのHepesバッファに150μg/mlのAVPを溶解したものである。ベステイン塩酸塩を含む場合、その濃度は、基準溶液についても実験する製剤についても300μg/mlである。
【0108】
AVPの表皮透過量は、受容相中のAVPを高速液体クロマトグラフィ(HPLC)を使って測定することにより求めた。勾配ポンプ、自動試料採取器、およびダイオードアレイUV検知器を備えたAgilent1100型HPLCにChemstation Rev. A.08.03 データ取得分析ソフトを組み合わせたものを使用した。カラムは、逆位相クロマトグラフィカラム(Machery−Nagel LiChrospher (登録商標)100 RP18 ec カラム:4mm×250mm、5μm粒子径、孔径100Å、エンドキャップ)を使用し、移動相には100%アセトニトリル(ACN)、水相にはトリフルオロ酢酸(TFA)をHPCL用水で0.1%に希釈したものを用いた。初期の注入量は100μlに設定した。下記の勾配溶離を行った:2分後までACN濃度を5%に保ち、その後8分かけてACN濃度を80%まで線形増加させた。10分後に停止し、その後4分をかけて装置のACN濃度を初期濃度まで下げた。AVPの滞留時間は約7.3分から7.5分であり、ベスタチンの滞留時間は約8.2分から8.5分であった。流量は1ml/分に一定にし、分析温度は周囲の室温(25±1℃)であった。DA検知器を使って210nmで流出物の吸光度を測定した。単位時間当たりに皮膚領域を透過したAVPの累積量を時間に対してプロットした。受動的な流量が反映されていない可能性があるが、プロットは2相性を示した。つまり、ゼロ時間から2時間まで、および2時間から12時間までのプロットの線部の傾斜によれば、流量は2つの時間帯で違う定常状態を示すことがわかる。各セルの全透過率は使用した濃度と上記の値の百分率にて示した。データにはアルギニン バソプレシンについては全透過率が2%以下のセルのデータを、ベスタチンについて全透過率が20%以下のデータを選択し、データセットに含めた。全ての結果は平均±SDにて示した。
【0109】
(結果および考察)
CLSM分析によりアルギニン バソプレシンが本発明のベジクルに捕捉されていることが確認できた。FAベースのベジクルにより促進されたAVPの生体外透過をアミノペプチダーゼ阻害剤であるベスタチンがある場合とない場合とで調べた。また、対照(ベスタチンのHepesバッファ溶液とAVPの透過)と受動的な流量(AVPのHepesバッファ溶液)と比較した。表7に、様々な状況下でのAVPの体外透過プロファイルの平均を示す。各実験グループの流量は少なくとも6の拡散セルから得たものであり、その平均のみを示している。例えば、表7中のFAベジクル中のAVPは18個のセルから得た平均流量でり、AVP(+ベスタチン)のHepesバッファ溶液のグループについては6個のセルから、FAベジクルに捕捉されたAVP(+ベスタチン)のグループについては、21個のセルから得たものである。 上記のように準備した皮膚を通過するAVPの移動は、0時間から2時間までの第1相と2時間から12時間までの第2相からなる2相性をした。第1相と第2相とのそれぞれにおいて、流量を表7に示す。流量は、2つの異なる時間帯において求めた。(T=0−2時間およびT=2−12)AVPの殆どは拡散の始めの2時間において移動している。
【0110】
【表7】

【0111】
実験で得られた受動的な流量と比較して、本発明のベジクルは、AVPの流量を顕著に増加させた。ベスタチンを含む場合、AVPの流量はより顕著に増加した。ベスタチンを含まない場合、AVPの流量は一定に近づいた。これは、AVPの透過が減少したことを意味する。流量が2相性を示すのは、2時間後、AVPが徐々に少なくなることと、ベスタチンを含む場合はベスタチンも少なくなることにより、移動するAVPが少なくなるためである。また、タンパク質分解酵素、アミノペプチダーゼやトリプシンがAVPと同じように皮膚を通過し、この活性体を受容相にて劣化させた可能性もある。
【0112】
この結果によれば、本発明のベジクルにAVPを捕捉させることにより、生体外における皮膚へのペプチドの投与を少なくとも2.4倍向上できることが分かる。
【0113】
本発明の重要な効果の1つとして、哺乳動物由来の治療用哺乳動物タンパク質、または上記のタンパク質薬剤を注射によらず別の方法で投与することが可能になることが挙げられる。従来、消化器官中のタンパク質は(胃酸や腸の酵素による)消化作用により速やかに破壊されるとされ、また、上記の薬剤の分子サイズは経鼻投与や局所投与を行うには大きすぎるとされているが、本発明によれば、治療用哺乳動物タンパク質または前述したタンパク質を脂肪酸ベース基質により捕捉し、細胞内で該治療用哺乳動物タンパク質または前述したタンパク質を該基質からリリースすることが可能になった。この本発明による治療用哺乳動物タンパク質または前述したタンパク質を使用すると:
(a)上記で動物のプラズマ中の定量測定にて確認したように、血液の循環中への高い吸収率が得られ、
(b)抗体解析にて確認したように、劣化を避けることができ、そして
(c)治療効果が向上したことが示すように、高い効能を得ることができる、
ことが示された。
【0114】
本発明の技術は適応性が高いので、治療用哺乳動物タンパク質または前述したタンパク質の非常に多くの種類について、そのタンパク質を全身にまたは局所的に吸収、分散、および放出することを可能にし、広い分野の治療に好適に応用可能である。投与する薬剤分子の種類や大きさ、治療する疾患、要求される循環中での薬剤半減期により、本発明のFAベースの粒子の構造、大きさ、形態、および機能については適宜変更することができる。
【0115】
本発明の効果としてその他には、上記の治療用哺乳動物タンパク質または前述したタンパク質の循環中の半減期を長くすることができる点が挙げられる。これは下記に挙げる要因による:
(a)酵素による分解が防止される。
【0116】
(b)免疫細胞が上記の治療用哺乳動物タンパク質を認識して免疫反応を起こすことを減少するので、経口、経鼻、局所、皮下投与後に本発明により体液性の免疫反応が起こることがない。
【0117】
(c)本発明のFAベースの基質に捕捉されているので、上記の治療用哺乳動物タンパク質または前述したタンパク質は、立体化学的に安定している。
【0118】
上記は本発明の作用として更に次の点があることを意味する:治療用哺乳動物タンパク質をマスクすることにより、免疫反応による有害な副作用を防ぐことができる。
【0119】
本発明の最も顕著な効果として、本発明と必須脂肪酸やその他の治療用脂肪酸とを一緒に使用できる点が挙げられる。これらの脂肪酸は、とりわけ、細胞膜の健全性の維持、免疫システムの調整、エネルギー恒常性、および細胞の抗酸化物質の状態に貢献する。FA成分は本発明の粒子とこの粒子に捕捉されている薬剤を細胞膜を通過して移送することに貢献する。該FAベースの粒子のこれらの性質により、本発明は他の投与方法よりはるかに優れた方法である。
【0120】
様々な投与ルートの中で、本発明を経鼻投与に利用できる点を本発明の効果の1つとしてあげることができる。経口投与される薬剤と比較して、経鼻投与される薬剤は、吸収されるまえに移動する距離が非常に短いものである必要がある。また、経鼻投与される薬剤は非常に低いpHや分解酵素にさらされることもない。初回通過代謝もこのルートなら存在しない。経鼻投与される薬剤は、脂肪酸ベースの滴剤もしくはスプレー剤であってもよい。経鼻投与される薬剤の透過は、様々な因子により相乗効果的に向上可能である。鼻腔は非常に血管が多い上皮や、細孔を有する内皮を有し、また、微繊毛があるため比較的大きな表面積を有する。薬剤リリースを長期に亘って行いたい場合、脂肪酸ベースのジェルとすることもできる。
【0121】
同様に、本発明は局所的な投与にも利用可能である。薬剤の経皮投与には多くの長所がある。例えば、肝臓による初回通過代謝を回避することができ、消化器官による分解も起こらず、また経皮投与は侵略的な投与ではない。脂肪酸ベースの亜酸化窒素で飽和した粒子をクリーム、ローション、軟膏、貼材に含有させることができる。これにより、該粒子は、非常に様々な目的に使用できることができ、薄膜や、経皮貼布の薬剤含有部として非常に好適になる。
【0122】
本発明の目的、効果、および特徴は、ここに記載したものも記載しなかったものも含め、ここに記載した製剤や方法の詳細な説明を読めば、当業者には明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の体内または体表面上における、少なくとも1つの治療用哺乳動物タンパク質の吸収、分散、および放出を向上させる製剤であって、
マイクロエマルジョン中の上記少なくとも1つの治療用哺乳動物タンパク質からなり、
上記マイクロエマルジョンは、脂肪酸ベースの構成物のベジクルまたはマイクロスポンジがキャリア中に分散した分散物によって構成されており、該キャリアは、亜酸化窒素を溶解させた、水溶性キャリアまたはその他の薬理学的に許容されるキャリアであり、
上記脂肪酸ベースの構成物は、遊離脂肪酸および遊離脂肪酸の誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの長鎖脂肪酸ベースの物質を含む、
上記少なくとも1つの治療用哺乳動物タンパク質を哺乳動物に投与するための製剤。
【請求項2】
哺乳動物の体内または体表面上における、少なくとも1つのタンパク質の吸収、分散、および放出を向上させる製剤であって、
マイクロエマルジョン中の上記少なくとも1つのタンパク質からなり、
上記少なくとも1つのタンパク質は、インスリン、上皮小体ホルモン、上皮小体様ホルモン、グルコガン、インスリン分泌性ホルモン、バソプレシン、生殖器官のホルモン、ケモタクチン、ならびにインターロイキン1、インターロイキン2およびRAを含むサイトカインからなる群であって、インターフェロン、ケモカイン、プロテアーゼおよびプロテアーゼ阻害剤を含む酵素、酸性および塩基性線維芽細胞増殖因子、上皮増殖因子、腫瘍壊死因子、血小板由来増殖因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、神経成長因子およびインスリン様増殖因子−1を含む増殖因子、ゴナドトロピンおよびソマトメジン(somatomedians)を含むホルモン、免疫グロブリン、脂質結合タンパク質および可溶性CD4、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ、L−アスパラキナーゼ、ペプシン、ウリカーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カルボキシペプチターゼ、ラクターゼ、スクラーゼ、毛様体神経栄養因子(ciliary neurite transforming factor;CNTF)、凝固因子VIII、エリスロポエチン、トロンボポエチン、インスリントロピン、コレシストキニン、グルカゴン様ペプチドI、内因子、Ob遺伝子産物、組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)、脳由来神経因子、フェニルアラニントランスポータ、刷子縁膜酵素ならびにトランスポータを含まない群から選択され、
上記マイクロエマルジョンは、脂肪酸ベースの構成物のベジクルまたはマイクロスポンジがキャリア中に分散した分散物によって構成されており、該キャリアは、亜酸化窒素を溶解させた、水溶性キャリアまたはその他の薬理学的に許容されるキャリアであり、
上記脂肪酸ベースの構成物は、遊離脂肪酸および遊離脂肪酸の誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの長鎖脂肪酸ベースの物質を含む、
上記少なくとも1つのタンパク質を哺乳動物に投与するための製剤。
【請求項3】
少なくとも1つの治療用哺乳動物タンパク質を哺乳動物に効果的に送達し、上記少なくとも1つの治療用哺乳動物タンパク質の治療効果を向上させる方法であって、
上記少なくとも1つの治療用哺乳動物タンパク質を哺乳動物に投与する工程を含み、
上記投与する工程は、マイクロエマルジョン中の上記少なくとも1つの治療用哺乳動物タンパク質からなる製剤を投与することによって行われ、
上記マイクロエマルジョンは、脂肪酸ベースの構成物のベジクルまたはマイクロスポンジがキャリア中に分散した分散物によって構成されており、該キャリアは、亜酸化窒素を溶解させた、水溶性キャリアまたはその他の薬理学的に許容されるキャリアであり、
上記脂肪酸ベースの構成物は、遊離脂肪酸および遊離脂肪酸の誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの長鎖脂肪酸ベースの物質を含む、方法。
【請求項4】
少なくとも1つのタンパク質を哺乳動物に効果的に送達し、哺乳動物の体内または体表面上における、上記少なくとも1つのタンパク質の吸収、分散、および放出を向上させる方法であって、
上記少なくとも1つのタンパク質を哺乳動物に投与する工程を含み、
上記投与する工程は、マイクロエマルジョン中の上記少なくとも1つのタンパク質からなる製剤を投与することによって行われ、
上記少なくとも1つのタンパク質は、インスリン、上皮小体ホルモン、上皮小体様ホルモン、グルコガン、インスリン分泌性ホルモン、バソプレシン、生殖器官のホルモン、ケモタクチン、ならびにインターロイキン1、インターロイキン2およびRAを含むサイトカインからなる群であって、インターフェロン、ケモカイン、プロテアーゼおよびプロテアーゼ阻害剤を含む酵素、酸性および塩基性線維芽細胞増殖因子、上皮増殖因子、腫瘍壊死因子、血小板由来増殖因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、神経成長因子およびインスリン様増殖因子−1を含む増殖因子、ゴナドトロピンおよびソマトメジン(somatomedians)を含むホルモン、免疫グロブリン、脂質結合タンパク質および可溶性CD4、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ、L−アスパラキナーゼ、ペプシン、ウリカーゼ、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カルボキシペプチターゼ、ラクターゼ、スクラーゼ、毛様体神経栄養因子(ciliary neurite transforming factor;CNTF)、凝固因子VIII、エリスロポエチン、トロンボポエチン、インスリントロピン、コレシストキニン、グルカゴン様ペプチドI、内因子、Ob遺伝子産物、組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)、脳由来神経因子、フェニルアラニントランスポータ、刷子縁膜酵素ならびにトランスポータを含まない群から選択され、
上記マイクロエマルジョンは、脂肪酸ベースの構成物のベジクルまたはマイクロスポンジがキャリア中に分散した分散物によって構成されており、該キャリアは、亜酸化窒素を溶解させた、水溶性キャリアまたはその他の薬理学的に許容されるキャリアであり、
上記脂肪酸ベースの構成物は、遊離脂肪酸および遊離脂肪酸の誘導体からなる群より選択される少なくとも1つの長鎖脂肪酸ベースの物質を含む、方法。
【請求項5】
請求項1もしくは2に記載の製剤、または請求項3もしくは4に記載の方法であって、
上記組成物は、さらに酸化防止剤dl−α−トコフェロールまたはその安定的な誘導体を含む、製剤または方法。
【請求項6】
請求項1もしくは2に記載の製剤、または請求項3もしくは4に記載の方法であって、
上記組成物は、さらにプロテアーゼ阻害剤を含む、製剤または方法。
【請求項7】
請求項1もしくは2に記載の製剤、または請求項3もしくは4に記載の方法であって、
上記分散物において、
上記ベジクルは、その少なくとも50%が、直径80nm〜3μmであり、
上記マイクロスポンジは、その少なくとも50%が、直径1.5μm〜6.0μmである、製剤または方法。
【請求項8】
請求項1もしくは2に記載の製剤、または請求項3もしくは4に記載の方法であって、
上記脂肪酸ベースの構成物は、オレイン酸、リノール酸、αリノレン酸、γリノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸[C20:5ω3]、ドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid)[C22:6ω3]、リシノール酸、およびその誘導体からなる群より選択され、
上記誘導体は、そのC〜Cアルキルエステル、そのグリセロール−ポリエチレングリコールエステル、および主にリシノール酸ベースの油により構成されている水素化および非水素化天然油とエチレンオキシドとの反応生成物からなる群より選択される、
製剤または方法。
【請求項9】
請求項1もしくは2に記載の製剤、または請求項3もしくは4に記載の方法であって、
前記マイクロエマルジョン中の上記脂肪酸ベースの構成物は、ビタミンFエチルエステルとして知られるエステル化脂肪酸の混合物によって構成されている、製剤または方法。
【請求項10】
請求項1もしくは2に記載の製剤、または請求項3もしくは4に記載の方法であって、
上記分散物はマイクロスポンジの形態であり、エイコサペンタエン酸[C20:5ω3]およびドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid)[C22:6ω3]から選択される超長鎖多価不飽和脂肪酸、またはこれらの混合物の超長鎖多価不飽和脂肪酸によって構成されている、製剤または方法。
【請求項11】
請求項10に記載の製剤または方法であって、
上記脂肪酸ベースの構成物は、主にリシノール酸ベースの油により構成されている水素化天然油と、エチレンオキシドまたはその変性した誘導体との反応生成物をさらに含む、製剤または方法。
【請求項12】
請求項1もしくは2に記載の製剤、または請求項3もしくは4に記載の方法であって、上記タンパク質がインスリンである、製剤または方法。
【請求項13】
経鼻投与用に適応された、請求項12に記載の製剤。
【請求項14】
経口投与用に適応された、請求項12に記載の製剤。


【公表番号】特表2010−532343(P2010−532343A)
【公表日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−514237(P2010−514237)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【国際出願番号】PCT/IB2008/052692
【国際公開番号】WO2009/004595
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(506061794)ノース−ウエスト ユニヴァーシティ (9)
【Fターム(参考)】