説明

波長フィルタ、波長選択スイッチ、波長選択装置及び光学モジュール

【課題】アド・ドロップ機能、光路の切り換え機能を有し、多入力−多出力が可能な波長選択装置を実現する。
【解決手段】互いに交差して配置された2つの直線状光導波路109,110と、2つの直線状光導波路109,110にそれぞれ光学的に結合されて配置されたリング状光導波路108と、このリング状光導波路108に設けられリング状光導波路108の実効屈折率を変化させるためのヒーター112と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長分離合波技術を用いた光ネットワークノードにおいて、特定波長の信号光の合波・分波を行うアド・ドロップ機能や光路の変更を行う波長選択装置、光学モジュール、及び波長選択装置が備える波長フィルタ、波長選択スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の光通信市場におけるトラフィックの急速な増大により、通信速度の向上に加えて、ネットワークの利用効率を上げる技術と波長多重化(WDM:Wavelength Division Multiplexing)の技術が進展している。特に、波長多重化の技術とスイッチング技術とを組み合わせたROADM(Reconfigurable Optical Add/Drop Multiplexer)や、さらに進んだ光クロスコネクトの技術が盛んに研究されている。特に、多重化された光波を分離した後に、任意の組み合わせで再び多重化して、任意の出力ポートに経路を設定できる波長選択装置は、光クロスコネクトにおいて中心的な役割を果たす基幹部品である。
【0003】
従来は、AWG(Arrayed Waveguide Grating)やグレーティングを用いた波長の合分波素子と、平面光回路やMEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を用いた光スイッチとを組み合わせた光機能素子が用いられてきた。例えば、ROADM機能を有するノード素子としては、16チャンネルのAWGアド・ドロップ・マルチプレクサが提案されている(非特許文献1参照)。このAWGアド・ドロップ・マルチプレクサは、4組のAWGとマッハツェンダー型2×2TOスイッチの2種類の構成要素が、同一の光導波路基板上にモノリシック集積されてなる。
【0004】
この例のように、合分波器として、4つのAWGを集積してアド・ドロップ・マルチプレクサとして機能させるためには、各々のAWGの中心波長が一致している必要があり、それぞれのAWGを精密に管理する必要が生じる。一方で、合波及び分波の機能を1つのAWGに集約することによって、AWGの総数を減らす提案もされている(特許文献1参照)。
【非特許文献1】K.Okamoto,M.Okuno,A.Himeno and Y.Ohmori,“16−channel optical add/drop multiplexer consisting of arrayed−waveguide gratings and double−gate switches”,Electronics letters 1st August 1996 Vol.32 No.16,pp.1471−1472
【特許文献1】米国特許明細書5414548号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した、本発明に関連する提案は、ROADMの1つの典型的な形態を示しているが、光路の切り換えの機能を有しておらず、別途にその機能を付加する場合には、構成が複雑になるという不都合がある。この他にMEMSスイッチを用いることで、同様の機能を有するROADM素子も提案されている。しかしながら、ROADM素子は、内部に可動部分を持っているために、製造コストと信頼性の点から課題が残されている。いずれの提案もROADMの典型的な形態であるが、特定波長の光波の光路に切り換える機能を有しておらず、別途にその機能を付加する場合には、構成が複雑になるという問題点がある。
【0006】
上述のように、AWGと光スイッチの組み合わせで、多入力−多出力の波長選択装置を構成する場合には、複数のAWGが必要になり、これら複数のAWGと光スイッチとの組み合わせにおいてもその構成が複雑になるという問題点がある。
【0007】
一方、グレーティングやMEMSミラーを用いた場合には、比較的規模が大きな波長選択スイッチを実現できる可能性がある。しかしながら、この構成の場合には、可動部を有し、かつ、マイクロオプティクスによる実装工程が必要となるので、信頼性や製造コストの観点で課題が残っている。したがって、PLC(平面光回路)技術で波長選択スイッチが実現されれば、信頼性や製造コストの点から他の方式に比べて、優位な光素子の実現が可能となる。
【0008】
そこで、本発明は、このような視点から低コストで製造可能なPLC技術を用いて、上述した課題を解決し、アド・ドロップ機能を有し、多入力−多出力が可能な波長選択装置、光学モジュール、及び波長選択装置が備える波長フィルタ、波長選択スイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するため、本発明に係る第1の波長フィルタは、互いに交差して配置された2つの直線状光導波路と、2つの直線状光導波路にそれぞれ光学的に結合されて配置されたリング状光導波路と、リング状光導波路に設けられリング状光導波路の実効屈折率を変化させるための変化手段と、を備える。
【0010】
また、本発明に係る第2の波長フィルタは、第1の直線状光導波路と、第1の直線状光導波路に交差して配置され特定波長の信号光を合波及び分波するための複数の第2の直線状光導波路と、第1の直線状光導波路と第2の直線状光導波路との各交差部に第1及び第2の直線状光導波路にそれぞれ光学的に結合されて配置された複数のリング状光導波路と、各リング状光導波路に設けられリング状光導波路の実効屈折率を変化させるための複数の変化手段と、を備える。
【0011】
また、本発明に係る第1の波長選択スイッチは、複数の第1の直線状光導波路と、第1の直線状光導波路に交差して格子状に配置され特定波長の信号光の光路を切り換えるための複数の第2の直線状光導波路と、第1の直線状光導波路と第2の直線状光導波路との各交差部に第1及び第2の直線状光導波路にそれぞれ光学的に結合されて配置された複数のリング状光導波路と、各リング状光導波路に設けられリング状光導波路の実効屈折率を変化させるため複数の変化手段と、を備える。
【0012】
また、本発明に係る第2の波長選択スイッチは、複数の直線状光導波路と、直線状光導波路に交差して配置され特定波長の信号光の光路を切り換えるための複数の閉ループ状光導波路と、直線状光導波路と閉ループ状光導波路との各交差部に直線状光導波路と閉ループ状光導波路にそれぞれ光学的に結合されて配置された複数のリング状光導波路と、各リング状光導波路に設けられリング状光導波路の実効屈折率を変化させるため複数の変化手段と、を備える。そして、リング状光導波路は、閉ループ状光導波路が構成する閉ループの内側に配置されている。
【0013】
また、本発明に係る第1の波長選択装置は、第1の直線状光導波路と、第1の直線状光導波路に交差して配置され特定波長の信号光を合波及び分波するための複数の第2の直線状光導波路と、第1の直線状光導波路と第2の直線状光導波路との各交差部に第1及び第2の直線状光導波路にそれぞれ光学的に結合された複数の第1のリング状光導波路と、各第1のリング状光導波路に設けられ第1のリング状光導波路の実効屈折率を変化させるための複数の第1の変化手段と、を有する波長フィルタと、
第1の直線状光導波路の端部と光学的に接続された直線状光導波路を含む複数の第3の直線状光導波路と、第3の直線状光導波路に交差して格子状に配置され特定波長の信号光の光路を切り換えるための複数の第4の直線状光導波路と、第3の直線状光導波路と第4の直線状光導波路との各交差部に第3及び第4の直線状光導波路にそれぞれ光学的に結合されて配置された複数の第2のリング状光導波路と、各第2のリング状光導波路に設けられ第2のリング状光導波路の実効屈折率を変化させるため複数の第2の変化手段と、を有する波長選択スイッチと、を備える。
【0014】
また、本発明に係る第2の波長選択装置は、複数の第1の直線状光導波路と、第1の直線状光導波路に交差して格子状に配置され特定波長の信号光を合波及び分波するための複数の第2の直線状光導波路と、第1の直線状光導波路と第2の直線状光導波路との各交差部に第1及び第2の直線状光導波路にそれぞれ光学的に結合されて配置された複数の第1のリング状光導波路と、各第1のリング状光導波路に設けられ第1のリング状光導波路の実効屈折率を変化させるための複数の第1の変化手段と、を有する波長フィルタと、
複数の第1の直線状光導波路の端部にそれぞれ光学的に接続された複数の第3の直線状光導波路と、第3の直線状光導波路に交差して配置され特定波長の信号光の光路を切り換えるための複数の閉ループ状光導波路と、第3の直線状光導波路と閉ループ状光導波路との各交差部に直線状光導波路と閉ループ状光導波路にそれぞれ光学的に結合されて配置された複数の第2のリング状光導波路と、各第2のリング状光導波路に設けられ第2のリング状光導波路の実効屈折率を変化させるため複数の第2の変化手段と、を有し、第2のリング状光導波路は、閉ループ状光導波路が構成する閉ループの内側に配置されている波長選択スイッチと、を備える。
【0015】
また、本発明に係る光学モジュールは、上述した本発明に係る波長選択装置と、リング状光導波路の各変化手段を制御する制御回路と、波長選択装置の温度を調節する温度調節回路と、を備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、波長多重信号光における特定波長の信号光に対して分波、光路の切り換え、合波などの一連の機能をリング状光導波路によって行うことができる。また、本発明に係る波長選択装置によれば、入力された波長多重信号光の特定波長の信号光に対してアド・ドロップを行うのと同時に、特定波長の信号光を任意の出力ポートに出力するように制御する機能を有し、複数の出力ポートのみならず、複数の入力ポートからのROADM機能及び光路の切り換え機能を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0018】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態の3入力−3出力の波長選択装置の構成を示す模式図である。図1に示すように、本実施形態の波長選択装置は、特定波長の信号光を合波及び分波するアド・ドロップフィルタ114と、このアド・ドロップフィルタ114に光学的に接続され特定波長の信号光の光路を切り換える波長選択スイッチ115とを備えている。
【0019】
波長選択スイッチ115は、導波路アレイをなす直線状光導波路103と、この直線状光導波路103に交差するように配置されて導波路アレイをなす閉ループ状光導波路104と、これら直線状光導波路103及び閉ループ状光導波路104の両方に光学的に結合するように近接して導波路アレイをなして配置されたリング状光導波路105とを有しており、SOI(Silicon on Insulator)基板101上にチャンネル型光導波路として形成されている。また、リング状光導波路105の上部には、リング状光導波路105の実効屈折率を変化させるためのヒーター106が配置されており、特定波長の信号光の光路切り換え用のスイッチとして構成されている。また、波長選択スイッチ115の直線状光導波路103は、一端が、出力ポートアレイ102に光学的に接続されており、他端が、アド・ドロップフィルタ114の出力端に光学的に接続されている。
【0020】
アド・ドロップフィルタ114は、導波路アレイをなして形成され互いに直交する直線状光導波路109と直線状光導波路110とによってマトリクス状(格子状)に形成された直線状光導波路と、互いに交差する直線状光導波路109,110の両方に光学的に結合するように近接して配置されて導波路アレイをなすリング状光導波路108とを有している。アド・ドロップフィルタ114の直線状光導波路110は、入力ポートアレイ111に光学的に接続されている。また、リング状光導波路108の上部には、リング状光導波路108の実効屈折率を変化させるためのヒーター112が配置されている。
【0021】
また、アド・ドロップフィルタ114及び波長選択スイッチ115の各光導波路は半導体基板に形成され、各光導波路が、半導体からなるクラッド層によって、このクラッド層よりも屈折率が高い半導体からなるコア層を挟んで構成されている。ヒーター106,112は、リング状光導波路105,108に配置され、リング状光導波路105,108のコア層に電圧を印加するための陽極及び陰極の各電極(不図示)を有している。
【0022】
また、各光導波路は、誘電体からなるクラッド層によって、このクラッド層よりも屈折率が高い誘電体からなるコア層を挟んで構成されてもよい。この構成の場合、ヒーターは、リング状光導波路に配置され、リング状光導波路のコア層に電圧を印加するための陽極及び陰極の各電極を有している。そして、この構成の場合、リング状光導波路のコア層に電圧を印加して、電気光学効果によってコア層の屈折率を変化させる。
【0023】
また、上述した各光導波路は、チャンネル型光導波路として構成されたが、リブ型(リッジ型)光導波路として構成されてもよい。
【0024】
以下、本実施形態の波長選択装置における動作について説明する。図2Aは、2本の直線状光導波路と、これら直線状光導波路に光学的に接続されたリング状光導波路とからなる波長フィルタであって、本実施形態の波長選択装置の基本要素であるアド・ドロップフィルタ(リング状光導波路フィルタ)114の模式図を示している。
【0025】
図2Aに示すように、一方の直線状光導波路201に入力された波長多重信号光の中で、特定波長光(共振波長光λ2)のみが、他方の直線状光導波路202を伝搬して分波(Drop)され、その他の波長光は、直線状光導波路201をそのまま伝搬して通過(Thru(=through))される。図2Bは、アド・ドロップフィルタの波長透過特性を示している。ドロップ導波路203は、特定波長成分λ2のみが透過して、他の波長の透過率が十分に低く抑えられている。また、透過させる波長は、リング状光導波路208上のヒーターによって調整(チューニング)することができる。
【0026】
図1に示すように、入力ポートアレイ111の1つのポートから入力された波長多重信号光は、アド・ドロップフィルタ114によって、特定波長の信号光をドロップポート113から取り出す分波(ドロップ)と、特定波長の信号光をアドポート107から挿入して加える合波(アド)とが同時に行われ後に、波長選択スイッチ115に入力される。そして、この波長選択スイッチ115によって、波長毎に光路の切り換えが行われて、出力ポートアレイ102に出力される。
【0027】
図3A,3Bは、波長選択スイッチ115による4波多重の場合の光路切り換え状態の一例を示している。図3A,3Bにおいて、各リング状光導波路105の下部に示した数値は、共振波長光のチャンネル番号を表している。なお、数値が記載されていないリング状光導波路のフィルタは、どのチャンネル波長にも共振しない状態にあることを示している。
【0028】
図3Aは、ポートA1に入力された波長多重信号光を全てポートB3に出力し、ポートA3に入力された波長多重光を全てポートB1に出力し、また、ポートA2に入力された波長多重光を全てポートB2に出力する場合の各リング状光導波路の共振波長の組み合わせを示している。
【0029】
図3Bは、ポートA1に入力された波長多重光の1つのチャンネル波長λ2をポートB1に出力し、その他の波長をポートB3に出力し、ポートA2に入力された波長多重光の全てをポートB2に出力し、また、ポートA3に入力された波長多重光の1つのチャンネル波長λ2をポートB3に出力し、その他の波長をポートB1に出力する場合の各リング状光導波路の共振波長の組み合わせを示している。
【0030】
本実施形態の構成では、共振波長の組み合わせにより、入出力ポートの光路の切り換えが任意のチャンネル波長の組み合わせで可能である。
【0031】
上述したように、本実施形態の波長選択装置は、入力された波長多重信号光の任意の波長信号光を任意の出力ポートに出力制御する。波長選択装置の内部では、波長多重信号光の分波(分離)、光路の切り換え、合波などの一連の機能が格子状に配置されたリング状光導波路によって同時に行われる。2つの交差する直線状光導波路と、各直線状光導波路に近接したリング状光導波路とを有する波長フィルタは、共振する特定の波長光のみを一方の直線状光導波路へ導波させて、他の非共振波長成分の光波を、他方の直線状光導波路へ導波させる働きをする。さらに、リング状光導波路の実効屈折率を変化させることによって、共振波長を変えることができるので、特定波長の光波の光路を変えることが可能である。格子状に配置された波長フィルタの行数は、波長選択装置の出力ポート数に設定され、列数は多重化された波長チャンネル数に設定されており、格子状の光学回路内で波長多重光の分波、光路の切り換え、合波の機能が同時に行われる。このため、本実施形態の波長選択装置は、従来のようにAWGや光スイッチ等の別々の機能を集積する必要がないという利点がある。また、本実施形態の波長選択装置では、特定波長の信号光のアド・ドロップ機能をリング状光導波路の機能を使って同様に行うことができる。本実施形態の波長選択装置では、光波信号のアド・ドロップ及び波長信号光毎の出力ポートの割り当てが、格子状に配置されたリング状光導波路の共振波長の組み合わせで決定されるので、必要な動作が、各リング状光導波路の制御のみで行うことができる。
【0032】
すなわち、本実施形態の波長選択装置によれば、入力された波長多重信号光の特定波長の信号光に対してアド・ドロップを行うのと同時に、特定波長の信号光を任意の出力ポートに出力するように制御する機能を有し、複数の出力ポートのみならず、複数の入力ポートからのROADM機能及び光路の切り換え機能を実現することができる。
【0033】
本実施形態の波長選択装置の第1の効果は、多入力−多出力の光路切り換え機能とROADM機能とを同時に実現できることにある。すなわち、格子状に配置されたリング状光導波路の共振波長の組み合わせによって、上述の機能を容易に実現することが可能になる。これらの機能を従来の方式で実現する場合に必要であった多数のAWGや光スイッチが不要となり、大規模な装置構成が不要になる。
【0034】
本実施形態の波長選択装置の第2の効果としては、小型化、低コスト化にある。すなわち、光回路の構成要素は、リング状光導波路のみであり、平面光回路技術(PLC技術)で作製することが可能である。このため、本実施形態によれば、特性や機能が異なる複数の部品を組み合わせた従来の構成に比べて、小型化と低コスト化が容易に実現できる。
【0035】
本実施形態の波長選択装置の第3の効果としては、信頼性を向上することができる。すなわち、光学回路の構成要素はリング状光導波路のみであり、外部環境の変化に対する感度が異なる複数の部品を組み合わせた従来の構成に比べて、信頼性の向上を容易に実現できる。
【0036】
本実施形態の波長選択装置の第4の効果としては、消費電力の低減を図ることができる。本実施形態の波長選択装置の動作に必要な消費電力は、主にリング状光導波路の動作に伴う消費電力のみである。従来の構成で、本発明と同様の機能を実現する場合には、膨大な複合部品が必要となり、それら部品を制御駆動するために大きな電力が必要となる。すなわち、本実施形態の波長選択装置によれば、従来の構成に比べて、低消費電力化を実現することができる。
【0037】
(第2の実施形態)
第2の実施形態として、特に、多入力−多出力の光路切り換えに適した構成の波長選択装置の詳細を説明する。図4は、M入力−M出力で、Nチャンネルの波長多重に対応した波長選択装置の構成を示す模式図である。図4に示すように、本実施形態の波長選択装置は、特定波長の信号光を合波及び分波するアド・ドロップフィルタ314と、このアド・ドロップフィルタ314に光学的に接続されて特定波長の信号光の光路を切り換える波長選択スイッチ315とを備えている。
【0038】
波長選択スイッチ315は、SOI基板301上に形成されたM個の導波路アレイをなす直線状光導波路303と、この直線状光導波路303に交差して配置されて導波路アレイをなす(N+1)個の閉ループ状光導波路304と、これら直線状光導波路303及び閉ループ状光導波路304の両方に光学的に結合するように近接して配置されたリング状光導波路305と、直線状光導波路303とループ状光導波路304の閉ループの外側に近接して配置されて導波路アレイをなすリング状光導波路306と、を有する基本要素とする波長選択型のスイッチである。リング状光導波路305、306の上部には、それらの実効屈折率を変化させるためのヒーター307が配置されている。また、波長選択スイッチ315の直線状光導波路303は、一端が、出力ポートアレイ302に光学的に接続されており、他端が、アド・ドロップフィルタ314の出力端に光学的に接続されている。
【0039】
アド・ドロップフィルタ314は、導波路アレイをなして互いに直交する直線状光導波路308と直線状光導波路311によって格子状に形成された光導波路と、交差する直線状導波路308,311の両方に光学的に結合するように近接して配置されて導波路アレイをなすリング状光導波路309と、を有している。アド・ドロップフィルタ314の直線状光導波路311は、入力ポートアレイ312に光学的に接続されている。また、各リング状光導波路309の上部には、リング状光導波路309の実効屈折率を変化させるためのヒーター310が配置されている。
【0040】
本実施形態における基本的な動作は、上述した第1の実施形態と同様であるが、光路の切り換え動作部分において、閉ループ状光導波路の閉ループの内側だけでなく、閉ループの外側にもリング状光導波路が配置されたことによって、光路の切り換えの自由度が向上されている。この構成によれば、多入力−多出力の波長選択型の光路の切り換えが可能となる。また、光波信号のアド・ドロップ(合波及び分波)機能については、第1の実施形態と同様に動作する機能を有している。
【0041】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態として、簡易な構成をなす、1入力−多出力の波長選択装置の例を示す。図5は、1×Mの波長選択装置を示す模式図である。
【0042】
図5に示すように、本実施形態の波長選択装置は、特定波長の信号光を合波及び分波するアド・ドロップフィルタ423と、このアド・ドロップフィルタ423に光学的に接続されて特定波長の信号光の光路を切り換える波長選択スイッチ419とを備えている。
【0043】
波長選択スイッチ419は、SOI基板410上に形成された導波路アレイをなす直線状光導波路415と、直線状光導波路415と交差するように配置されて形成された直線状光導波路アレイ417と、これら各直線状光導波路415、417の両方に光学的に結合するように近接して配置されてアレイ状に形成されたリング状光導波路416と、を備え、チャンネル型光導波路として形成されている。各リング状光導波路416の上部には、そのリング状光導波路416の実効屈折率を変化させるためのヒーター420が配置されており、波長信号光の光路切り換え用のスイッチとして構成されている。また、波長選択スイッチ419の直線状光導波路415は、一端が、出力ポートアレイ418に光学的に接続されており、他端側は、導波路アレイをなす直線状光導波路415における第1の行の直線状導波路のみが、アド・ドロップフィルタ423の出力端に光学的に接続されている。
【0044】
アド・ドロップフィルタ423は、導波路アレイをなして互いに直交する直線状光導波路413と直線状導波路411とによって格子状に形成された導波路と、直線状導波路413と直線状導波路411との両方に光学的に結合するように近接して配置されて導波路アレイをなすリング状光導波路424とを有している。アド・ドロップフィルタ423の直線状光導波路413は、入力ポート412に光学的に接続されている。さらに、リング状光導波路424の上部には、このリング状光導波路424の実効屈折率を変化させるためのヒーター425が配置されている。
【0045】
以下、本実施形態における動作について説明する。入力ポート412に入力された波長多重信号光は、アド・ドロップフィルタ423で、任意の波長チャンネルが分波(ドロップ)されて取り出され、又は任意の波長チャンネルが合波(アド)されて挿入され、波長選択スイッチ419において波長多重光の分離、光路の切り換え、合波の操作を経て、出力ポート418に出力される。波長選択スイッチ419は、1入力−多出力であるので、第1及び第2の実施形態のような閉ループ状導波路が必ずしも必要ではなく、比較的簡易に構成することができる。
【0046】
また、図示しないが、上述した本実施形態の波長選択装置を備える光学モジュールとして構成されてもよい。この光学モジュールは、上述した本実施形態の波長選択装置と、波長選択装置のリング状光導波路のヒーターを制御する制御回路と、波長選択装置の温度を調節する温度調節回路と、を備えて構成される。温度調節回路は、例えば、波長選択装置の温度変化を検出するためのサーミスタを有しており、このサーミスタの作動に基づいて、制御回路がリング状光導波路のヒーターを駆動制御することで、温度の調節を行うように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】第1の実施形態の波長選択装置の構成を示す模式図である。
【図2A】リング状光導波路フィルタの動作を説明するための示す模式図である。
【図2B】リング状光導波路フィルタの波長透過特性を示す図である。
【図3A】波長選択装置における光路の切り換えを説明する第1の例を示す模式図である。
【図3B】波長選択装置における光路の切り換えを説明する第2の例を示す模式図である。
【図4】第2の実施形態の波長選択装置を示す模式図である。
【図5】第3の実施形態の波長選択装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0048】
101 SOI基板
102 出力ポートアレイ
103 直線状光導波路
104 閉ループ状光導波路
105 リング状光導波路
106 ヒーター
108 リング状光導波路
109 直線状光導波路ア
110 直線状光導波路
111 入力ポートアレイ
112 ヒーター
114 アド・ドロップフィルタ
115 波長選択スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに交差して配置された2つの直線状光導波路と、前記2つの直線状光導波路にそれぞれ光学的に結合されて配置されたリング状光導波路と、前記リング状光導波路に設けられ前記リング状光導波路の実効屈折率を変化させるための変化手段と、を備える波長フィルタ。
【請求項2】
第1の直線状光導波路と、前記第1の直線状光導波路に交差して配置され特定波長の信号光を合波及び分波するための複数の第2の直線状光導波路と、前記第1の直線状光導波路と前記第2の直線状光導波路との各交差部に前記第1及び第2の直線状光導波路にそれぞれ光学的に結合されて配置された複数のリング状光導波路と、前記各リング状光導波路に設けられ前記リング状光導波路の実効屈折率を変化させるための複数の変化手段と、を備える波長フィルタ。
【請求項3】
複数の前記第1の直線状光導波路を備え、
前記複数の第1の直線状光導波路と前記複数の第2の直線状光導波路とが格子状に配置され、前記第1の直線状光導波路と前記第2の直線状光導波路との各交差部に複数の前記リング状光導波路が設けられている、請求項2に記載の波長フィルタ。
【請求項4】
前記各光導波路はSOI基板に形成され、
前記変化手段は、前記リング状光導波路近傍に配置されたヒーターである、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の波長フィルタ。
【請求項5】
前記各光導波路は半導体基板に形成され、
前記各光導波路は、半導体からなるクラッド層によって、該クラッド層よりも屈折率が高い半導体からなるコア層を挟んで構成され、
前記変化手段は、前記リング状光導波路に配置され、前記リング状光導波路の前記コア層に電圧を印加するための陽極及び陰極の各電極を有している、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の波長フィルタ。
【請求項6】
前記各光導波路は、誘電体からなるクラッド層によって、該クラッド層よりも屈折率が高い誘電体からなるコア層を挟んで構成され、
前記変化手段は、前記リング状光導波路に配置され、前記リング状光導波路の前記コア層に電圧を印加するための陽極及び陰極の各電極を有している、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の波長フィルタ。
【請求項7】
前記各光導波路がチャンネル型光導波路である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の波長フィルタ。
【請求項8】
前記各光導波路がリブ型光導波路である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の波長フィルタ。
【請求項9】
複数の第1の直線状光導波路と、前記第1の直線状光導波路に交差して格子状に配置され特定波長の信号光の光路を切り換えるための複数の第2の直線状光導波路と、前記第1の直線状光導波路と前記第2の直線状光導波路との各交差部に前記第1及び第2の直線状光導波路にそれぞれ光学的に結合されて配置された複数のリング状光導波路と、前記各リング状光導波路に設けられ前記リング状光導波路の実効屈折率を変化させるため複数の変化手段と、を備える波長選択スイッチ。
【請求項10】
複数の直線状光導波路と、前記直線状光導波路に交差して配置され特定波長の信号光の光路を切り換えるための複数の閉ループ状光導波路と、前記直線状光導波路と前記閉ループ状光導波路との各交差部に前記直線状光導波路と前記閉ループ状光導波路にそれぞれ光学的に結合されて配置された複数のリング状光導波路と、前記各リング状光導波路に設けられ前記リング状光導波路の実効屈折率を変化させるため複数の変化手段と、を備え、
前記リング状光導波路は、前記閉ループ状光導波路が構成する閉ループの内側に配置されている、波長選択スイッチ。
【請求項11】
前記リング状光導波路は、前記閉ループ状光導波路が構成する閉ループの内側及び外側にそれぞれ配置されている、請求項10に記載の波長選択スイッチ。
【請求項12】
前記各光導波路はSOI基板に形成され、
前記変化手段は、前記リング状光導波路近傍に配置されたヒーターである、請求項9ないし11のいずれか1項に記載の波長選択スイッチ。
【請求項13】
前記各光導波路は半導体基板に形成され、
前記各光導波路は、半導体からなるクラッド層によって、該クラッド層よりも屈折率が高い半導体からなるコア層を挟んで構成され、
前記変化手段は、前記リング状光導波路に配置され、前記リング状光導波路の前記コア層に電圧を印加するための陽極及び陰極の各電極を有している、請求項9ないし11のいずれか1項に記載の波長選択スイッチ。
【請求項14】
前記各光導波路は、誘電体からなるクラッド層によって、該クラッド層よりも屈折率が高い誘電体からなるコア層を挟んで構成され、
前記変化手段は、前記リング状光導波路に配置され、前記リング状光導波路の前記コア層に電圧を印加するための陽極及び陰極の各電極を有している、請求項9ないし11のいずれか1項に記載の波長選択スイッチ。
【請求項15】
前記各光導波路がチャンネル型光導波路である、請求項9ないし14のいずれか1項に記載の波長選択スイッチ。
【請求項16】
前記各光導波路がリブ型光導波路である、請求項9ないし14のいずれか1項に記載の波長選択スイッチ。
【請求項17】
第1の直線状光導波路と、前記第1の直線状光導波路に交差して配置され特定波長の信号光を合波及び分波するための複数の第2の直線状光導波路と、前記第1の直線状光導波路と前記第2の直線状光導波路との各交差部に前記第1及び第2の直線状光導波路にそれぞれ光学的に結合された複数の第1のリング状光導波路と、前記各第1のリング状光導波路に設けられ前記第1のリング状光導波路の実効屈折率を変化させるための複数の第1の変化手段と、を有する波長フィルタと、
前記第1の直線状光導波路の端部と光学的に接続された直線状光導波路を含む複数の第3の直線状光導波路と、前記第3の直線状光導波路に交差して格子状に配置され特定波長の信号光の光路を切り換えるための複数の第4の直線状光導波路と、前記第3の直線状光導波路と前記第4の直線状光導波路との各交差部に前記第3及び第4の直線状光導波路にそれぞれ光学的に結合されて配置された複数の第2のリング状光導波路と、前記各第2のリング状光導波路に設けられ前記第2のリング状光導波路の実効屈折率を変化させるため複数の第2の変化手段と、を有する波長選択スイッチと、
を備える波長選択装置。
【請求項18】
複数の第1の直線状光導波路と、前記第1の直線状光導波路に交差して格子状に配置され特定波長の信号光を合波及び分波するための複数の第2の直線状光導波路と、前記第1の直線状光導波路と前記第2の直線状光導波路との各交差部に前記第1及び第2の直線状光導波路にそれぞれ光学的に結合されて配置された複数の第1のリング状光導波路と、前記各第1のリング状光導波路に設けられ前記第1のリング状光導波路の実効屈折率を変化させるための複数の第1の変化手段と、を有する波長フィルタと、
前記複数の第1の直線状光導波路の端部にそれぞれ光学的に接続された複数の第3の直線状光導波路と、前記第3の直線状光導波路に交差して配置され特定波長の信号光の光路を切り換えるための複数の閉ループ状光導波路と、前記第3の直線状光導波路と前記閉ループ状光導波路との各交差部に前記直線状光導波路と前記閉ループ状光導波路にそれぞれ光学的に結合されて配置された複数の第2のリング状光導波路と、前記各第2のリング状光導波路に設けられ前記第2のリング状光導波路の実効屈折率を変化させるため複数の第2の変化手段と、を有し、前記第2のリング状光導波路は、前記閉ループ状光導波路が構成する閉ループの内側に配置されている波長選択スイッチと、
を備える波長選択装置。
【請求項19】
前記波長選択スイッチの前記第2のリング状光導波路は、前記閉ループ状光導波路が構成する閉ループの内側及び外側にそれぞれ配置されている、請求項18に記載の波長選択装置。
【請求項20】
前記各光導波路はSOI基板に形成され、
前記各変化手段は、前記リング状光導波路近傍に配置されたヒーターである、請求項17ないし19のいずれか1項に記載の波長選択装置。
【請求項21】
前記各光導波路は半導体基板に形成され、
前記各光導波路は、半導体からなるクラッド層によって、該クラッド層よりも屈折率が高い半導体からなるコア層を挟んで構成され、
前記各変化手段は、前記リング状光導波路に配置され、前記リング状光導波路の前記コア層に電圧を印加するための陽極及び陰極の各電極を有している、請求項17ないし19のいずれか1項に記載の波長選択装置。
【請求項22】
前記各光導波路は、誘電体からなるクラッド層によって、該クラッド層よりも屈折率が高い誘電体からなるコア層を挟んで構成され、
前記各変化手段は、前記リング状光導波路に配置され、前記リング状光導波路の前記コア層に電圧を印加するための陽極及び陰極の各電極を有している、請求項17ないし19のいずれか1項に記載の波長選択装置。
【請求項23】
前記各光導波路がチャンネル型光導波路である、請求項17ないし22のいずれか1項に記載の波長選択装置。
【請求項24】
前記各光導波路がリブ型光導波路である、請求項17ないし22のいずれか1項に記載の波長選択装置。
【請求項25】
請求項17ないし24のいずれか1項に記載の波長選択装置と、
前記リング状光導波路の前記各変化手段を制御する制御回路と、
前記波長選択装置の温度を調節する温度調節回路と、
を備える光学モジュール。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−181426(P2010−181426A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−287283(P2007−287283)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】