説明

波長フィルタ及び短パルス成形装置

【課題】急峻な波長特性を持つ波長フィルタを、より簡易な構成でより小型化できるようにする。
【解決手段】シリコン細線光導波路115,1/4波長板117,及び偏光子118により波長フィルタが構成されている。この中で、シリコン細線コア102は、例えば、断面形状が下部クラッド101の平面方向の長さ(幅)460nm,下部クラッド101の平面の法線方向の長さ(高さ)200nmの長方形に形成されている。このように、シリコン細線コア102の断面が扁平に形成されていることが特徴でり、導波路長が2.2cm程度に形成されていれば、透過波長間隔Δλ=0.08nmのフィルタが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信の高速な光変調に用いられる波長フィルタ及びこの波長フィルタを用いた短パルス成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光通信の信号伝送速度に関する要求は増加の一途を辿っており、現在主流の10Gbpsから、次世代の標準である40Gbpsあるいは100Gbpsに対応するデバイスが求められている。伝送速度を上げるためには、送信側の変調速度及び受信側の復調速度を上げる必要がある。受信機の復調速度は、50Gbpsを超えるものが実用化されているが、40Gbpsを超える変調速度を持つ送信機は開発途上にある。
【0003】
これら高速伝送に必要な受信機及び送信機を実現するためのデバイスとしては、ニオブ酸リチウム結晶やInGaAsP混晶の電気光学効果を用いたマッハツェンダ干渉計により高速変調を行うものや、InGaAsP混晶を用いた多重量子井戸構造の電界吸収効果による高速消光デバイスなどがある。これらはいずれも、40Gbpsを超える電気信号を光信号に直接変調するものである。しかしながら、これらのデバイスは、高周波電気配線が必要となり、デバイスの小型化に限界があった。従って、40Gbpsを超える変調速度を持ち、かつ小型で安価なデバイスを得るためには、高周波電気配線を用いない構成が求められる。
【0004】
高周波電気配線を用いない構成とするためには、低速電気信号を多重化して高速電気信号にした後に光信号に変換するのではなく、低速光信号を時間領域で多重化すればよい。ただし、この多重化の際には、ビットレートが低速のままで光信号を短パルス化する必要がある。また、短パルス化の過程においては、光受動素子のみによる単純な構成でかつ小型で安価な構成で行えることが求められる。
【0005】
上述の要求を満たすために、チャープ特性を持つ低速光変調器からの変調光信号を、急峻な波長特性を持つ波長フィルタに透過させた後、遅延線を用いて時分割多重する方法がある。
【0006】
この方法について簡単に説明すると、先ず、チャープ特性を持つ低速光変調器から出力された低速光信号において、図6(a)に示すように、立ち上がり部分のある瞬間(時刻)をAとし、低速光信号がONの分のある瞬間をBとし、低速光信号の立ち下がり部分のある瞬間をCとする。すると、Aでの波長λA及びCでの波長λCは、チャープ特性を持つ低速光変調器のチャープδλのために、Bでの波長λBよりも±δλずれた位置になり、スペクトルは図6(a’)に実線で示すようになる。この光を、図6(a’)に点線で示すような波長λA及び波長λCで透過率が1となり波長λBで透過率が0となるフィルタXで処理すると、時間波形は図6(b)に示すようになり、A,Cに対応する2つの短パルスが成形できる。このときのスペクトルは、図6(b’)に実線で示すようになる。
【0007】
このように2つの短パルスに成形された光を、図6(b’)に点線で示すような、波長λAで透過率が1となり波長λCで透過率が0となるフィルタYで処理すると、得られた時間波形は図6(c)に示すようになり、単一の短パルスに成形できる。このようにして得られた短パルスの光信号を、遅延線を用いて時分割多重すれば、高速光信号を形成することができる。これらは、光受動素子のみによる単純な構成であり、上述した方法によれば、短パルスの光信号を成形する小型の光変調器を安価に実現することが見込める。
【0008】
なお、チャープ特性を持つ低速変調器は、ニオブ酸リチウムの電気光学効果を用いたマッハツェンダ型光変調器などの従来の光変調器を用いればよい。また、遅延線は、従来よりある光導波路を用いればよい。
【0009】
ところで、急峻な波長特性を持つ波長フィルタとしては、多層膜フィルタやアレイ導波路グレーティングなどが考えられるが、これらはデバイス寸法が数cm以上あり、これらを用いた構成では、小型化に限界がある。
【0010】
一方、簡易な方法で波長フィルタを実現する方法として、非対称マッハツェンダ干渉計を複数用いる方法や、複屈折を持つ光導波路と1/4波長板と偏光子とを組み合わせて用いる方法とがある。
【0011】
非対称マッハツェンダ干渉計を複数用いる方法では、マッハツェンダ導波路の2つのアームの長さ(導波路長)の差ΔL、伝搬する光の波長をλ、群屈折率をng、波長フィルタの透過波長間隔をΔλとすると、以下の式(1)の関係が満たされている。
【0012】
【数1】

【0013】
上記式(1)からも判るように、非対称マッハツェンダ干渉計を複数用いる方法では、波長フィルタの透過波長間隔Δλは、アーム長差ΔLで設定可能であるが、透過波長の絶対値を設定することができない。このため、非対称マッハツェンダ干渉計を複数用いる方法では、Δλ間隔で任意の波長を透過するフィルタ特性を発現することができない。
【0014】
これに対し、複屈折を持つ光導波路と1/4波長板と偏光子とを組み合わせて用いる方法では、以下に説明するように、透過波長と透過波長間隔とを任意に設定することが可能である。この方法では、複屈折を持つ光導波路にこの固有偏波面に対して偏波を45°傾けた光を入射すると、入射光の波長により偏波状態が異なる光が出射されるので、この出射端側に、1/4波長板及び偏光子を挿入することで、波長フィルタが実現できる。この方法において、直交する2つの偏波に対する群屈折率の差をΔng、複屈折を持つ光導波路の導波路長をLとすると、透過波長間隔Δλとの間に以下の式(2)の関係が満たされている。
【0015】
【数2】

【0016】
また、上述した出射端における直交する2つの偏波間の位相差は、波長λによって異なり、出射端での偏波状態は、一般には楕円偏波となる。ここで、1/4波長板による回転で直線偏波に調整し、この偏波面と偏光子の透過面との角度を合わせれば、透過波長を決定することができる。このように、複屈折を持つ光導波路と1/4波長板と偏光子とを組み合わせて用いる方法では、透過波長を透過波長間隔Δλとは独立に設定することができる。例えば、複屈折を持つ光導波路として偏波保持光ファイバを用いた波長フィルタが提案されている(非特許文献1参照)。
【0017】
【非特許文献1】C.Yu, Z.Pan, T.Luo, Y.Wang, L.Christen, A.E.Willner, "40-GHz RZ and CS-RZ Pulse Generation using a Phase Modulator and PM Fiber", ECOC 2004 Proceedings Vol.3, pp.718-719, (2004).
【非特許文献2】T.Tsuchizawa, K.Yamada, H.Fukuda, T.Watanabe, J.Takahashi, M.Takahashi, T.Shoji, E.Tamechika, S. Itabashi, and H.Morita, "Microphotonics Device Based on Silicon Microfabrication Technology", IEEE Journal of Selected Topics In Quantum Electronics, Vol.11, No.1, pp.232-240, 2005.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
ところで、上述した高速光信号を形成するための短パルス成形に必要となるΔλの値は、次のように考えられる。低速光信号を2.5GbpsのRZ信号とすると、一般に2.5GbpsのRZ信号をチャープ型マッハツェンダ光変調器で変調する場合、立ち上がり時間は100ps程度であり、5GHz(1550nm付近の波長間隔で0.04nm)程度のチャープδλがある。従って、変調前の波長λの光は透過せず、λ+0.04nmあるいはλ−0.04nmの帯域を透過するΔλ=0.08nmのフィルタであれば、100psのパルス成分を抽出することができる。
【0019】
複屈折を持つ光導波路として従来の偏波保持ファイバ(Δng=10-4程度:非特許文献1参照)を用いてこれを実現しようとした場合、上記式(2)よりL=300m程度の長さが必要になり、小型化にはほど遠い。なお、非特許文献1においては、DGD=25psのPMF(偏波保持ファイバ)の長さは、明示されていないが、代表的な市販品のビート長5mmを仮定すると、上記PMFの長さは24mとなる。この値は、40GHzに対応したものであり、5GHzに換算すると、192mとなる。
【0020】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、急峻な波長特性を持つ波長フィルタを、より簡易な構成でより小型化できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明に係る波長フィルタは、導波方向に直交する断面が長方形とされたシリコンよりなるコアから構成されてフィルタ対象の光がシングルモード条件を満たして導波する光導波路と、光導波路を出射する出射光が透過する1/4波長板と、1/4波長板を透過する透過光が透過する偏光子とを少なくとも備え、フィルタ対象の光は、光導波路の固有偏波面に対して偏波を45°傾けた状態に入射されるようにしたものである。入射された光は、光導波路において偏波回転を受け、1/4波長板を透過することで直線偏波に調整され、偏光子を透過することで一定偏波のみが透過される。
【0022】
また、本発明に係る短パルス成形装置は、上記波長フィルタを用いた短パルス成形装置であって、チャープ特性を持つ光変調器を備え、この光変調器より出力された変調光が前記光導波路に入射されるようにしたものである。短パルス成形装置より出射されたパルス光より、より短パルスの光が得られる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、断面が長方形とされたシリコンよりなるコアから構成されてフィルタ対象の光がシングルモード条件を満たして導波する光導波路に、この光導波路の固有偏波面に対して偏波を45°傾けた状態にフィルタ対象の光を入射し、光導波路を出射した光を、1/4波長板及び偏光子に透過させるようにしたので、急峻な波長特性を持つ波長フィルタがより簡易な構成でより小型化できるという、優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。はじめに、本発明の概要について説明する。本発明は、複屈折を持つ光導波路としてシリコン細線をコアとした光導波路(シリコン細線光導波路)を用い、この出射端側に1/4波長板,及び偏光子を組み合わせて急峻な波長特性を持つ波長フィルタを構成するようにしたものである。なお、シリコン細線光導波路の入射端側には、フィルタ対象の光が、シリコン細線光導波路の固有偏波面に対して偏波を45°傾けた状態で入射(結合)されるようにする。また、シリコン細線光導波路は、フィルタ対象の光に対してシングルモード条件が満たされているものである。
【0025】
以下、図を用いて説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態に係る波長フィルタの構成例を示す構成図(a)及び部分断面図(b)である。なお、以下では、チャープ特性を持つ低速光変調器と組み合わせた短パルスを成形するパルス成形装置に適用した場合について説明する。図1に構成を示す短パルス成形装置は、光源111,入力用光ファイバ112,チャープ型光変調器113,導入用光ファイバ114,シリコン細線光導波路115,出射用光ファイバ116,1/4波長板117,及び偏光子118から構成されている。チャープ型光変調器113は、チャープ特性を持つ低速光変調器であり、例えば、ニオブ酸リチウムの電気光学効果を用いたマッハツェンダ型光変調器などの従来の光変調器を用いることができる。
【0026】
図1(a)において、シリコン細線光導波路115,1/4波長板117,及び偏光子118により波長フィルタが構成されている。この中で、シリコン細線光導波路115は、図1(a)の断面図に示すように、例えば酸化シリコンよりなる下部クラッド101と、この上に形成されたシリコン細線コア102と、下部クラッド101の上にシリコン細線コア102を覆うように形成された酸化シリコンよりなる上部クラッド103とから構成されたものである。例えば、SOI(Silicon on Insulator)基板を用い、このSOI層をよく知られたフォトリソグラフィ技術とエッチング技術とにより加工してシリコン細線コア102を形成し、この後、よく知られたCVD法などにより酸化シリコンを堆積することで、上部クラッド103を形成すればよい。この場合、埋め込み絶縁層が下部クラッド101となる。
【0027】
この第1の実施の形態において、シリコン細線光導波路115は、フィルタ対象の光がシングルモード条件を満たすように、シリコン細線コア102の導波方向に直交する断面の寸法や、クラッドとの屈折率差が設定(設計)されている。また、シリコン細線コア102は、例えば、導波方向に直交する断面形状が下部クラッド101の平面方向の長さ(幅)460nm,下部クラッド101の平面の法線方向の長さ(高さ)200nmの長方形に形成されている。このように、シリコン細線コア102の導波方向に直交する断面が長方形(扁平)に形成されていることが特徴である。このように形成されたシリコン細線コア102(シリコン細線光導波路115)によれば、以下に説明するように、導波路長が2.2cm程度に形成されていれば、透過波長間隔Δλ=0.08nmのフィルタが構成可能である。
【0028】
このように構成された波長フィルタの動作例について説明すると、先ず、光源111より所定の波長の光源光を出射させ、この光源光を入力用光ファイバ112を通してチャープ型光変調器113に入射させる。チャープ型光変調器113に入射した光は、ここで変調を受け、変調を受けた変調光は、導入用光ファイバ114を通し、シリコン細線光導波路115の結合面115a(入射端)に結合される。結合面115aにおいては、入射する変調光は、この偏波面がシリコン細線光導波路115(シリコン細線コア102)の固有偏波面に対して45°の傾きを持って結合されるようにする。これは、例えば、導入用光ファイバ114を光軸中心に回転させることで行えばよい。また、チャープ型光変調器113とシリコン細線光導波路115との間に1/2波長板を設け、この1/2波長板を光軸中心に回転させることで上記の偏波面の調整を行うようにしても良い。
【0029】
このようにして結合(入射)された変調光は、シリコン細線光導波路115において波長毎に異なる量の偏波回転を受け、出射端115bに光結合する出射用光ファイバ116を通して1/4波長板117に入射し、波長毎に異なる偏波状態の直線偏波に調整される。直線偏波に調整された変調光を、偏光子118を透過させることにより一定偏波(設定した直線偏波成分)のみが透過される。この結果として、一部の波長成分を選択的に透過するフィルタが構成される。このとき、シリコン細線光導波路115,1/4波長板117,及び偏光子118よりなる波長フィルタによる透過波長間隔Δλは、シリコン細線光導波路115の長さ及び複屈折で決定される。また、透過波長λn(λn+1−λn=Δλ、nは整数)は、偏光子118を透過させる直線偏波の偏波面における角度で決定される。
【0030】
言い換えると、光源111より出射される光源光の波長をλsとしチャープ型光変調器113で得られるチャープによる波長変化をδλとすると、先ず、透過波長間隔Δλ=2δλが満たされるように、シリコン細線光導波路115の長さ及び複屈折を設定すればよい。また、透過波長λn=λs−δλを満たすように、偏光子118の(直線)偏波方向の角度を設定すればよい。このように設定することで、透過波長λn=λs−δλ+(n−1)Δλを有するフィルタを構成し、伝搬する変調光のチャープ成分(チャープにより波長が変化した成分,λn=λs−δλ及びλn=λs+δλ)を選択的に透過し、結果として短パルスを成形することができる。
【0031】
これらは、図6(a),図6(a’),及び図6(b)を用いて説明した2つの短パルス成形に同様であり、シリコン細線光導波路115,1/4波長板117,及び偏光子118により、フィルタXが構成されたことになる。一般に、チャープ型光変調器113は、出力するパルスの前段(立ち上がり)と後段(立ち下がり)において±δλのチャープを伴う。従って、上記構成では、チャープ型光変調器113より出力されてシリコン細線光導波路115に入力(光結合)される変調光の1つのパルスに対し、偏光子118より2つの短パルスが出力されることになる。
【0032】
ここで、シリコン細線光導波路115について説明する。シリコン細線光導波路115は、シリコンコア102の断面形状を長方形とすることで、大きな複屈折を容易に得ることができ、直交する2つの偏波に対する群屈折率の差を大きくすることができる。長方形とした断面の長辺と短辺との比率(扁平率)を大きくすることで、直交する2つの偏波に対する群屈折率の差Δngをより大きくすることができる。このように、直交する2つの偏波に対する群屈折率の差Δngを大きくすることができれば、上記式(2)から明らかなように、短い導波路長Lであっても、波長フィルタの透過波長間隔Δλを小さくすることができ、より急峻な波長フィルタを構成することができる。
【0033】
例えば、以下の表1に例示すように、断面を短辺280nm,長辺320nm(扁平率0.875)としたシリコンコアを用いれば、直交する2つの偏波に対する群屈折率の差Δngが0.070となり、Δλ=0.08nmのフィルタを構成するためには、上記式(2)より、光導波路の長さLは、42.9cmとなる。また、断面を短辺180nm,長辺420nm(扁平率0.429)としたシリコンコアを用いれば、差Δngは1.726となり、Δλ=0.08nmのフィルタを構成するためには、Lは1.7cmでよいものとなり、小型化が容易である。なお、下部クラッド101の平面に対し、平面方向に短辺が配置され、高さ方向に長辺が配置されるようにしても同様である。
【0034】
【表1】

【0035】
また、シリコン細線光導波路は、前述したように、SOI基板のSOI層をチャネル型に加工することで形成可能な光導波路であり、微小光回路の作製に有利である(非特許文献2参照)。このようなシリコン細線光導波路は、製造工程において、よく知られているシリコン集積回路の作製技術及び製造装置などが適用可能であり、大量生産によるコストの低減が見込め、小型で安価なデバイスの提供が可能である。
【0036】
次に、図1に示したシリコン細線光導波路115,1/4波長板117,及び偏光子118よりなる第1の実施の形態の波長フィルタにおける透過スペクトルの測定結果を、図2に示す。図2に示すように、Δλ=0.08nmの透過波長間隔が実現されている。また、第1の実施の形態の短パルス成形装置による短パルスの成形を行った結果を、図3に示す。先ず、チャープ型光変調器113より図3(a)に示すような1Gbpsに変調された変調光を出力し、この変調光の偏波面がシリコン細線光導波路115の固有偏波面に対して45°の傾きとなるように光結合させる。このことにより、偏光子118を透過した光は、図3(b)及び図3(c)に示すように、短パルスに成形される。図3(c)は、図3(b)を拡大して示したものである。
【0037】
図3(c)に示すように、入射した変調光(1Gbps)のパルス幅1nsに対し、パルス幅が100ps以下の短パルスが得られている。これは、シリコン細線光導波路115,1/4波長板117,及び偏光子118よりなる波長フィルタは、急峻なフィルタ特性を備えていることを示している。これらのように、図1に例示するシリコン細線光導波路115,1/4波長板117,及び偏光子118よりなる第1の実施の形態の波長フィルタによれば、シリコン細線光導波路115の長さが2.2cmと非常に短い状態であっても、上述したように、所望とする急峻なフィルタ特性が得られる。このように、図1に構成例を示す第1の実施の形態の波長フィルタによれば、急峻な波長特性を持つ波長フィルタが、より簡易に小型化できる。
【0038】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る波長フィルタについて説明する。図4は、本発明の第2の実施の形態における波長フィルタを用いた図1同様のパルス成形装置の構成例を示す構成図(a),部分を示す斜視図(b),及び部分断面図(c)である。なお、図4(c)は、図4(a)のcc線の断面を示している。図4に示す第2の実施の形態に係るパルス成形装置では、シリコン細線光導波路115の結合面115aの部分及び出射端115aの部分に、テーパ型導波路401を設けるようにしたものである。
【0039】
テーパ型導波路401は、図4(b)に示すように、入射端(出射端)に近づくほど細くなるシリコン細線テーパコア411と、これを覆うように設けられ、シリコン細線テーパコア411と上部クラッド103との間の屈折率を有する中間層412とから構成されている。例えば、中間層412を酸窒化シリコンから構成することで、屈折率の大小を、シリコン細線テーパコア411>中間層412>上部クラッド103とすることができる。
【0040】
また、シリコン細線テーパコア411は、シリコン細線コア102に連続して一体に形成され、入射端(出射端)に近づくほど幅が狭くなるように形成されている。言い換えると、テーパ型導波路401は、シリコン細線コア102の入射端及び出射端を先細りに形成し、この先細りの領域に、中間層412を挿入したものである。このような構成としたテーパ型導波路401を用いることにより、よく知られているように、導入用光ファイバ114及び出射用光ファイバ116との光結合の効率を向上させることができる。
【0041】
次に、本発明の第3の実施の形態に係る波長フィルタについて説明する。図5は、第3の実施の形態における波長フィルタを用いたパルス成形装置の構成例を示す構成図である。図5に示す第3の実施の形態に係るパルス成形装置は、図1を用いて説明した第1の実施の形態に係るパルス成形装置の偏光子118の出力側に、新たに波長フィルタを追加したものである。追加された波長フィルタは、1/2波長板501とシリコン細線光導波路503と1/4波長板505と偏光子506とから構成されたものである。シリコン細線光導波路503の出射端503bの側には、出射用光ファイバ504が設けられ、1/4波長板505に光接続されている。シリコン細線光導波路503は、シリコン細線光導波路115と同様に形成され、所定の導波路長とされている。また、1/4波長板505及び偏光子506は、1/4波長板117及び偏光子118と同様である。
【0042】
図5に示す波長フィルタにおいては、図1に示す波長フィルタと同様に、先ず、光源111より所定の波長の光源光を出射させ、この光源光を入力用光ファイバ112を通してチャープ型光変調器113に入射させる。チャープ型光変調器113に入射した光は、ここで変調を受け、変調を受けた変調光は、導入用光ファイバ114を通し、シリコン細線光導波路115の結合面115aに結合される。結合面115aにおいては、入射する変調光は、この偏波面がシリコン細線光導波路115の固有偏波面に対して45°の傾きを持って結合されるようにする。
【0043】
このようにして結合(入射)された変調光は、シリコン細線光導波路115において波長毎に異なる量の偏波回転を受け、出射端115bに光結合する出射用光ファイバ116を通して1/4波長板117に入射し、波長毎に異なる偏波状態の直線偏波に調整される。この後、直線偏波に調整された変調光は、偏光子118により一定偏波(設定した直線偏光成分)のみが透過され、結果として、透過する偏波状態とされた一部の波長成分が透過する。このようにして偏光し118を透過した光は、1/2波長板501を透過した後、中継用光ファイバ502を導波し、シリコン細線光導波路503の結合面503a(入射端)に結合される。結合面503aにおいては、入射する光は、この偏波面がシリコン細線光導波路502の固有偏波面に対して45°の傾きを持って結合される。
【0044】
この結果、波長がλs±δλを満たす2つの短パルスに成形された変調光は、偏光子118を出射して1/2波長板501を透過することで、偏波面が回転され、偏波面がシリコン細線光導波路502の固有偏波面に対して45°の傾きとなるように調整される。このようにしてシリコン細線光導波路503に入射した上記変調光は、シリコン細線光導波路503において偏波回転を受けて出射端503bより出射し、出射用光ファイバ504を通して1/4波長板505に入射し、直線偏波に調整される。この後、直線偏波に調整された変調光は、偏光子506により一定偏波(設定した直線偏光成分)のみが透過され、結果として、透過する偏波状態とされた一部の波長成分が透過する。
【0045】
このときの、1/2波長板501とシリコン細線光導波路503と1/4波長板505と偏光子506とから構成された追加された波長フィルタの透過波長間隔Δλ’は、シリコン細線光導波路503の長さ及び複屈折で決定され、透過波長λ’n(λ’n+1−λ’n=Δλ’、nは整数)は、偏光子506の設定角度で決定される。ここで、Δλ’=4δλを満たすようにシリコン細線光導波路503の長さ及び複屈折を設定して形成し、λ’=λs−2δλを満たすように偏光子506の角度を設定すれば、入力された変調光のλs±δλを満たす2つの短パルスの内、λs−δλを満たす1つの短パルスを透過させることができる。なお、図5に示す構成においても、シリコン細線光導波路115及びシリコン細線光導波路503の入射端/出射端に、図4に示したテーパ型導波路401を設けるようにしても良い。
【0046】
なお、上述した実施の形態では、下部クラッド101及び上部クラッド103を酸化シリコンから構成するようにしたが、本発明はこれに限られるものではなく、酸窒化シリコン、窒化シリコンから構成しても良い。また、これらのクラッドとして、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂などから構成しても良い。要するに、シリコン細線コアよりなる導波路が構成されていればよく、例えば、酸化シリコンよりなる下部クラッド層の上にシリコン細線コアを形成し、この上を空間としても良い。この場合は、下部クラッド層及びシリコン細線コアの上方の空間が、上部クラッドとして機能する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態における波長フィルタの構成例を示す構成図(a)及び部分断面図(b)である。
【図2】図1に示したシリコン細線光導波路115,1/4波長板117,及び偏光子118よりなる波長フィルタにおける透過スペクトルの測定結果を示す特性図である
【図3】第1の実施の形態に係る短パルス成形装置による短パルスの成形を行った結果を示す特性図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態における波長フィルタを用いた図1同様のパルス成形装置の構成例を示す構成図(a),部分を示す斜視図(b),及び部分断面図(c)である。
【図5】本発明の第3の実施の形態における波長フィルタを用いたパルス成形装置の構成例を示す構成図である。
【図6】チャープ特性を持つ低速光変調器からの変調光信号を、急峻な波長特性を持つ波長フィルタに透過させることで、短パルスに成形することを説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0048】
101…下部クラッド、102…シリコン細線コア、103…上部クラッド、111…光源、112…入力用光ファイバ、113…チャープ型光変調器、114…導入用光ファイバ、115…シリコン細線光導波路、115a…結合面、115b…出射端、116…出射用光ファイバ、117…1/4波長板、118…偏光子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導波方向に直交する断面が長方形とされたシリコンよりなるコアから構成されてフィルタ対象の光がシングルモード条件を満たして導波する光導波路と、
前記光導波路を出射する出射光が透過する1/4波長板と、
前記1/4波長板を透過する透過光が透過する偏光子と
を少なくとも備え、
前記フィルタ対象の光は、前記光導波路の固有偏波面に対して偏波を45°傾けた状態に入射される
ことを特徴とする波長フィルタ。
【請求項2】
請求項1記載の波長フィルタを用いた短パルス成形装置であって、
チャープ特性をもつ光変調器を備え、この光変調器より出力された変調光が前記光導波路に入射される
ことを特徴とする短パルス成形装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−46404(P2008−46404A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−222429(P2006−222429)
【出願日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】