説明

注型樹脂硬化物及びその製造方法

【課題】 高電圧機器の絶縁材料のために注型用に用いられる注型樹脂硬化物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 液状高分子としてエポキシ樹脂、硬化剤として酸無水物を用い、充填材としてシリカを用い、表面処理剤としてシランカップリング剤を用い、硬化促進剤を用いて熱硬化させた硬化物であって、90〜150℃の範囲でシランカップリング処理してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
高電圧機器の絶縁材料のため、注型用に用いられる注型樹脂硬化物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高電圧機器の絶縁材料および構造材料として、エポキシ樹脂をマトリックスとした高分子複合硬化物、いわゆるモールド品が広く使われている。近年の社会の高度化、集中化に伴い、機器の大容量・小型・高信頼性化が強く要求されており、さらに長期屋外使用による吸水劣化に伴った、クラック発生トラブルが避けられない状態にある。そのためには注型時のシランカップリング剤処理方法の確立が必要不可欠であり、吸水特性に優れたエポキシ注型品を使用する傾向が強まってきている。
【0003】
【特許文献1】特開平11−039947号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながらシリカ充填エポキシ樹脂に関して、吸水劣化加速試験である煮沸試験を行うと、その強度が極端に下がるという問題がある。
このため、吸水特性に優れたエポキシ注型品の出現が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前述した課題を解決するための、第一番目の発明に係る注型樹脂硬化物は、液状高分子としてエポキシ樹脂、硬化剤として酸無水物を用い、充填材としてシリカを用い、表面処理剤としてシランカップリング剤を用い、硬化促進剤を用いて熱硬化させた硬化物であって、90〜150℃の範囲でシランカップリング処理してなることを特徴とする。
【0006】
第二番目の発明に係る注型樹脂硬化物の製造方法は、エポキシ樹脂に無機充填材、シランカップリング剤を順次加え温度90℃から150℃の範囲で混合し、次いで硬化促進剤を添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る注型樹脂硬化物及びその製造方法によれば、シランカップリング剤処理方法を従来の方法から、処理温度を一定に調節することにより従来の一括混合の作業形態を変えることなく、また、Tg・HDT・線膨張率・弾性率を変えることなく、煮沸後強度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る注型樹脂硬化物及びその製造方法の実施形態を以下に説明する。
【0009】
本発明では、エポキシ樹脂に無機充填材、シランカップリング剤を順次加え、温度90℃から150℃の範囲で混合し、次いで硬化促進剤を添加することで、エポキシ注型品を得るものである。これにより、従来法と比べて非常に簡潔にシリカ充填エポキシ樹脂の煮沸後強度向上を図ることができる。
【0010】
すなわち、シリカ充填エポキシ樹脂は吸水特性改善の手法として樹脂混合時にシランカップリング剤を添加する(インテグラルブレンド法)が、その混合条件により効果が左右され、添加順序及び添加温度を特定することで吸水特性に優れたエポキシ注型品を得るようにしたものである。
【0011】
ここで、処理温度が90℃未満であると、吸水特性に優れず、一方150℃を超えて処理しても更なる効果が発現されないからである。
【0012】
ここで、本発明は樹脂と充填材の間の界面を補強する効果のあるシランカップリング剤の新規の処理方法であり、ここで使用されるカップリング剤としては特に限定されるものではない。例えばカップリング剤として用いられるKBM−403(商品名、信越シリコーン社製)等のシランカップリング剤、TTS(商品名:味の素社製)等のチタネートカップリング剤、アルミニウムカップリング剤等の全てのものを使用できる。
【0013】
また、カップリング剤の添加量は充填材に対し0.1〜10wt%で効果が認められる。特に、好ましくは0.4〜3.0wt%の添加量とするのがよい。
【0014】
また本発明で使用される充填材としては、エポキシ樹脂の充填材として用いられるものとして挙げられる、アルミナ、水酸化アルミニウム、シリカ、ホワイトカーボン、石英、ガラス、クレー、タルク、ドロマイト、チタン・鉄・マグネシウム・カルシウムの各酸化物・水酸化物およびハロゲン化物、金属分、ガラス繊維、カーボン繊維、金属繊維に適応でき、これらの充填材が1種または2種以上の混合系でもなんら問題がない。
【0015】
これら充填材の添加量は樹脂硬化物の占有量として10〜80vol%で効果が認められ、特に好ましくは25〜65vol%の範囲とするのがよい。
【0016】
また本発明のエポキシ樹脂については特に限定されるものではないが、例えばCT200(商品名:チバガイギー社製)等のビスフェノールA型のものやエピコート152(商品名:油化シェルエポキシ社製)等のノボラック型のものなど、を用いることができる。また、1種類に限らず、2種以上のエポキシ樹脂混合系にも適応できる。
【0017】
さらにエポキシ樹脂の硬化剤としては酸無水物、アミン、フェノール等が使用されるが、これらの硬化剤に対しても発明の効果に影響はない。
【0018】
さらにエポキシ樹脂には硬化促進剤、可塑剤、沈降防止剤、難撚剤、顔料等の各添加剤が配合されるが本発明に効果は阻害されない。
【0019】
硬化剤の添加量はエポキシ樹脂に対し重量比0.5〜1.5倍量で用いられ、特に好ましくは0.8〜1.2倍量の範囲とするのがよい。
【0020】
エポキシ樹脂と混合する各材料はその混合順により物性に変化はない。
【0021】
上記のものは、硬化温度:常温〜250℃、硬化時間:10分〜48時間の条件で硬化させるが、硬化条件が発明の効果に影響を与えることはない。
【実施例】
【0022】
本発明に係る注型樹脂硬化物及びその製造方法の実施例を以下に示すが、本発明は実施例に用いられた原材料のみに限られるものではない。
【0023】
この実施例での原材料は以下のものを用いた。
エポキシ樹脂:EP4080(エポキシ当量=250、旭電化社製)
酸無水物:HN2200R(酸無水物当量=166、日立化成社製)
シランカップリング剤:KBM−430(分子量=236、信越シリコーン社製

硬化促進剤:L−86三級アミン(三級アミン、化薬アクゾ社製)
アルミナ:FX−4(龍森)
下記の表1に配合量の割合を示す。
【0024】
【表1】

【0025】
以下に示す所定の混合条件で処理した後、脱泡して金型(角柱(5×10×100mm)、20本取り)に注型した。
注型した後は全て、プレキュア80℃−16時間、アフタキュア120℃−7時間で硬化させた。それらの試験片の煮沸前初期曲げ強度と16h煮沸後曲げ強度の測定を行い、シランカップリング剤処理効果を評価した。
測定結果を下記の表2に示す。
【0026】
比較例1
エポキシ樹脂にシリカ、酸無水物、シランカップリング剤の順に加え、70℃で真空撹拌混合した。真空撹拌の途中で一度大気中に戻し、硬化促進剤を投入した。
【0027】
比較例2
エポキシ樹脂にシリカ、酸無水物、シランカップリング剤の順に加え、85℃で真空撹拌混合した。真空撹拌の途中で一度大気中に戻し、硬化促進剤を投入した。
【0028】
実施例1
エポキシ樹脂にシリカ、酸無水物、シランカップリング剤の順に加え、100℃で真空撹拌混合した。真空撹拌の途中で一度大気中に戻し、硬化促進剤を投入した。
【0029】
実施例2
エポキシ樹脂にシリカ、酸無水物、シランカップリング剤の順に加え、105℃で真空撹拌混合した。真空撹拌の途中で一度大気中に戻し、硬化促進剤を投入した。
【0030】
実施例3
エポキシ樹脂にシリカ、酸無水物、シランカップリング剤の順に加え、110℃で真空撹拌混合した。真空撹拌の途中で一度大気中に戻し、硬化促進剤を投入した。
【0031】
実施例4
エポキシ樹脂にシリカ、酸無水物、シランカップリング剤の順に加え、115℃で真空撹拌混合した。真空撹拌の途中で一度大気中に戻し、硬化促進剤を投入した。
【0032】
実施例5
エポキシ樹脂にシリカ、酸無水物、シランカップリング剤の順に加え、120℃で真空撹拌混合した。真空撹拌の途中で一度大気中に戻し、硬化促進剤を投入した。
【0033】
実施例6
エポキシ樹脂にシリカ、酸無水物、シランカップリング剤の順に加え、125℃で真空撹拌混合した。真空撹拌の途中で一度大気中に戻し、硬化促進剤を投入した。
【0034】
実施例7
エポキシ樹脂にシリカ、酸無水物、シランカップリング剤の順に加え、130℃で真空撹拌混合した。真空撹拌の途中で一度大気中に戻し、硬化促進剤を投入した。
【0035】
実施例8
エポキシ樹脂にシリカ、酸無水物、シランカップリング剤の順に加え、135℃で真空撹拌混合した。真空撹拌の途中で一度大気中に戻し、硬化促進剤を投入した。
【0036】
実施例9
エポキシ樹脂にシリカ、酸無水物、シランカップリング剤の順に加え、140℃で真空撹拌混合した。真空撹拌の途中で一度大気中に戻し、硬化促進剤を投入した。
【0037】
実施例10
エポキシ樹脂にシリカ、酸無水物、シランカップリング剤の順に加え、145℃で真空撹拌混合した。真空撹拌の途中で一度大気中に戻し、硬化促進剤を投入した。
【0038】
実施例11
エポキシ樹脂にシリカ、酸無水物、シランカップリング剤の順に加え、150℃で真空撹拌混合した。真空撹拌の途中で一度大気中に戻し、硬化促進剤を投入した。
【0039】
【表2】

【0040】
上記の表2に示すように、本実施例のものは煮沸後の曲げ強度が比較例に較べて高いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る注型樹脂硬化物及びその製造方法は、高電圧機器の絶縁材料用として、産業上、極めて有益に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】煮沸後の曲げ強度特定図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状高分子としてエポキシ樹脂、硬化剤として酸無水物を用い、充填材としてシリカを用い、表面処理剤としてシランカップリング剤を用い、硬化促進剤を用いて熱硬化させた硬化物であって、
90〜150℃の範囲でシランカップリング処理してなることを特徴とする注型樹脂硬化物。
【請求項2】
エポキシ樹脂に無機充填材、シランカップリング剤を順次加え温度90℃から150℃の範囲で混合し、次いで硬化促進剤を添加することを特徴とする注型樹脂硬化物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−51189(P2007−51189A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−236199(P2005−236199)
【出願日】平成17年8月17日(2005.8.17)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】