説明

洗浄廃液の浄化装置

【課題】
オフセット印刷機などにおいて、印刷作業後にインクで汚れたモルトンの洗浄時に発生する廃液を効果的に浄化する装置を提供する。
【解決手段】
板状フィルタを収納する油分離槽と、陰または陽電極体である2重筒体および筒形フィルタを組み込む帯電濾過槽と、オゾンランプを内部に取り付けるオゾン曝気槽とを備え、濾過ポンプを介して油分離槽、帯電濾過槽およびオゾン曝気槽を接続する。帯電濾過槽は、一方の電極体である外筒体と、他方の電極体である中間筒体と、中間筒体の内方に配置する筒形フィルタとを有し、洗浄廃液は外筒体と中間筒体との間を通過して帯電される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフセット印刷機などにおいて、印刷作業後にインクで汚れたモルトン(水棒)の洗浄時に発生する廃液を浄化する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷機について、1日の印刷作業が終了すると、モルトンがインクで汚れているので、その生地を洗浄しなければならない。モルトンの洗浄作業は手作業が多く、ガソリンまたはモルトン洗浄液を用いて手間と体力が必要である。しかも1台の印刷機には2〜3本のモルトンが取り付けられているので、モルトンの洗浄と水切り作業は重労働であった。特開2002−264303号では、数本のモルトンを同時に回転しながら、その生地の部分に向けてノズルで水を噴射することにより、モルトンの洗浄作業を自動化して作業を軽減化している。
【0003】
従来のモルトンの洗浄作業では、洗浄廃液をそのまま下水道に流しており、これは特開2002−264303号でも同様である。近年、生活環境の改善と河川の水質汚濁防止が図られるとともに、終末処理場からの放流水の水質を規定値以下に維持するために、市条例などによって下水道に排出される排水の水質が厳しく規制されるようになった。モルトンの洗浄時に発生する廃液は、BOD(生物化学的酸素要求量)濃度が常に3000mg/Lを大幅に超えているので、下水道に直接排出することができず、専門の産業廃棄物処理業者に排水処理を委託しなければならず、その年間経費は膨大である。
【0004】
モルトンの洗浄時に発生する廃液は、BOD濃度が300mg/L以下であると、京都市上下水道局では公共下水道使用開始届の届出をする必要もなく、そのまま下水道に放流することができる。この洗浄廃液を現場で処理できる小型の浄化装置は、これまで殆ど提案されておらず、一般的な廃液の処理装置としては、特開平8−192162号や特開2003−126860号などが存在する。特開平8−192162号では、活性酸素を生成させてモノクロやカラー写真用の現像廃液、印刷製版用の現像廃液、湿し水などを電解処理し、COD濃度を300mg/L程度に低減させる。また、特開2003−126860号では、難分解性物質を含むカラー写真現像廃液などを電気分解し、強力な酸化分解作用によって分解・浄化処理している。
【特許文献1】特開2002−264303号公報
【特許文献2】特開平8−192162号公報
【特許文献3】特開2003−126860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開平8−192162号は、電流密度を2.5dm以上に高くするとチタン白金めっき陽極の腐食が生じ、しかもCOD濃度の低減化のために酸性領域で3〜6時間も残留塩素濃度の高い状態で繰り返し電解を行うことが必要であり、実用化するには作業効率が悪すぎる。電解処理で塩素ガスが多量に発生し、トリハロメタンが副成するという問題も生じている。
【0006】
一方、特開2003−126860号は、カラー写真現像廃液の5倍希釈液を循環させて電解処理する際に、電流密度を24A/dmまで上げるとCOD濃度が100mg/L以下に下がるけれども、廃液を5倍に希釈するうえに60分で6回電解処理することを要し、作業効率が実質上それほど高くない。この5倍希釈液には、NaCl:NaBrを混合モル比80:20の混合物を加え、電気伝導度を調整することも必要であるので、処理作業が煩雑である。
【0007】
本発明は、印刷機関連の洗浄廃液について、その処理の作業効率および装置のランニングコストに関する問題点を改善するために提案されたものであり、処理能力が相当に高いうえに処理後の廃液をそのまま下水道へ排出できる洗浄廃液の浄化装置を提供することを目的としている。本発明の他の目的は、小型で搬送が容易であり且つフィルタの交換回数が少ない洗浄廃液の浄化装置を提供することである。本発明の別の目的は、洗浄廃液を希釈したり電解質を添加する必要がない洗浄廃液の浄化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る洗浄廃液の浄化装置は、板状フィルタを収納する油分離槽と、陰または陽電極体である2重筒体および筒形フィルタを組み込む帯電濾過槽と、オゾンランプを内部に取り付けるオゾン曝気槽とを備える。この浄化装置では、濾過ポンプを介して油分離槽、帯電濾過槽およびオゾン曝気槽を接続することにより、印刷機関連の洗浄廃液について、油分離槽および帯電濾過槽において洗浄廃液から油分および着色成分を除去して清澄化し、ついでオゾン曝気槽において洗浄廃液中の有機物を酸化・分解する。
【0009】
本発明の浄化装置において、油分離槽は、板状フィルタを載置する2段の多孔板を有し、洗浄廃液が油分離槽内に滞留すると好ましい。下方の板状フィルタは、洗浄廃液の表面に浮くことによって洗浄廃液表面の油分を吸着する。また、この油分離槽に2台の水位センサを取り付け、一方の水位センサによって油分離槽内の洗浄廃液が最高許容量まで増量すれば濾過ポンプを駆動し、一方、他方の水位センサによって油分離槽内の洗浄廃液が最低許容量まで減量すれば濾過ポンプを停止すると好ましい。
【0010】
本発明の浄化装置において、帯電濾過槽は、一方の電極体である外筒体と、他方の電極体である中間筒体と、中間筒体の内方に配置する筒形フィルタとを有すると好ましい。洗浄廃液は外筒体と中間筒体との間を通過して帯電され、この帯電によって洗浄廃液中のコロイド粒子を凝集し、凝集コロイド粒子を筒形フィルタで濾取することによって洗浄廃液を清澄化する。オゾン曝気槽は、オゾンランプを収納した有底のオゾン管と、槽本体の内部下方部に設置した散気管とを有すると好ましい。曝気ポンプからのエアチューブをオゾン管の内部下端部まで延設し、さらに該オゾン管から散気管まで連通することにより、オゾンランプで発生したオゾンを散気管から泡出して気液接触させる。
【0011】
本発明に係る洗浄廃液の浄化方法は、インクで汚れたモルトンの洗浄時に発生する洗浄廃液について、洗浄廃液の表面に浮上する板状フィルタによって主に洗浄廃液中の油分を吸着し、ついで帯電によって洗浄廃液中のコロイド粒子を凝集し、凝集コロイド粒子を筒形フィルタで濾取することにより、洗浄廃液中の着色成分を除去して清澄化する。さらに本発明の浄化方法では、曝気槽内の洗浄廃液にオゾンを吹き込んで気液接触させ、有機物を酸化・分解してBOD濃度を低減させて下水道へ排出可能とする。
【0012】
本発明を図面によって説明すると、本発明に係る浄化装置1は、図1に例示するように、少なくとも油分離槽2と、帯電濾過槽3と、オゾン曝気槽5とで構成し、所望に応じて別のフィルタやヒータなどの補助装置を付設してもよい。油分離槽2、帯電濾過槽3およびオゾン曝気槽5は、濾過ポンプ7を介して一連に接続されており、個々の槽の前後を変更することも可能である。油分離槽2、帯電濾過槽3およびオゾン曝気槽5は、全体をフレーム内に組み込んで搬送可能としても、図1のように槽2だけを据え付け、槽3,5をフレーム内に組み込んでもよい。
【0013】
油分離槽2は、図2に示すように、公知のモルトン洗浄装置8の排水口下方または近傍に配置すればよい。油分離槽2は、図1および図3に示すように、通常、槽内に2段の透孔棚板10,12を水平に設置し、両棚板上に板状フィルタ14,16をそれぞれ載置する。透孔棚板10,12は、打ち抜き鋼板17、金網、ワイヤラス、メタルラスなどであればよい。油分離槽2の内部側壁には、2台の水位センサ18,20を取り付け(図4参照)、一方の水位センサ18によって油分離槽内の洗浄廃液の最低許容量を検知し、一方、他方の水位センサ20によって油分離槽内の洗浄廃液の最高許容量を検知する。
【0014】
油分離槽2において、下側の板状フィルタ14は、洗浄廃液中の油分を吸着可能な素材であり、例えば、厚さ30〜40mmの比較的粗いポリプロピレン繊維ウェブからなる。板状フィルタ14は、油分離槽2内で常に洗浄廃液の水面21(図3)に位置しており、適宜のフロート部材(図示しない)によって確実に水面に浮くように構成してもよい。板状フィルタ14,16は、上方へ引き出すだけで容易に交換できる。
【0015】
帯電濾過槽3は、図5および図6に示すように、ほぼ円筒形の細長い外観を有する。帯電濾過槽3は、一方の電極体である外筒体22と、他方の電極体である中間筒体24と、筒形フィルタ26を緩く嵌装する細長い内筒体28とを有し、フィルタ26は中間筒体24の内側において内筒体28と同軸状に装着する。図1に概略で示すように、電源つまりトランス30から外筒体22および中間筒体24に電気的に接続することにより、外筒体22および中間筒体24へ直流、交流または直流と交流の重畳電流を定常的に流す。直流を流す場合、外筒体22を陽電極および中間筒体24を陰電極に荷電させ、両筒体を逆の電極に設定することも可能である。
【0016】
外筒体22は細長く、その下方において不純物溜め部32を構成する。外筒体22の上方部には、貫通孔34を設け、該貫通孔を経て洗浄廃液が濾過槽3内の帯電路36に流入する。また、中間筒体24は、外筒体22の底壁38とフィルタ26の底面との中間程度まで下方へ延び、この下方部が通常円形断面の邪魔板に相当する。廃液の陽極側となる外筒体22の内周壁または中間筒体24の外周壁は、イオン化が容易な鉄やアルミニウムなどの金属製であっても、またはその壁面に鉄やアルミニウムの筒状シートを溶接したり、アニオン交換樹脂を添加した合成樹脂を射出成形で積層してもよい。
【0017】
中間筒体24は、図6に示すように完全円筒形ではなく、幅1mm程度の間隙37を有する円形湾曲体であると好ましい。中間筒体24が間隙37を有すると、中間筒体24へ直流や交流電流を定常的に流した際に渦電流が発生しないので消費電力が少なくなり、外筒体22と中間筒体24との荷電状態が安定化する。
【0018】
上方が不純物溜め部32に相当する外筒体22の底壁38は、一方の周壁に向かって傾斜させると好ましい。底壁38上に落下した不純物は、自重によって下方へ次第に移動していく。所望に応じて、底壁38の下端部にバルブ40などを接続し、底壁38上に滞留した不純物を外部へ除去できると好ましい。バルブ40は、マイコン制御によって自動的に開閉したり、タイマで定時的に開放するように設定してもよい。
【0019】
内筒体28は、筒形フィルタ26の内径よりも小径であり、該フィルタを載置する固定ディスク44から上方へ垂直に延設し、筒上端42はフィルタ26の上周端よりもかなり下方に位置する。内筒体28は、ディスク44から垂直下方へ延びる管路46と連通し、該管路は底壁38を貫通して垂直に固定される。この内筒体がフィルタ26の内径とほぼ同じ外径であれば、該内筒体の周壁に複数個の透孔を形成し、各透孔を経て清澄化済み廃液を流出させてもよい。
【0020】
筒形フィルタ26は、例えば、孔径が0.5〜5μm程度である肉厚の積層濾紙からなり、濾取すべき着色インク成分に応じてフィルタ素材を適宜選択することを要する。この筒形フィルタは、繊維ウェブ、フェルト、不織布、織布、合成紙などの多数層から構成し、各フィルタ層における繊維ウェブ、フェルトまたは不織布は、ポリプロピレンのようなポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリ酢酸ビニル、アクリル系、木綿、ビスコース系などの合成繊維からなる。この筒形フィルタとして、ポリプロピレン繊維ウェブ単独、炭素繊維またはその他の導電性繊維ウェブ、MF濾過膜やUF濾過膜のような超精密濾過膜、RO濾過膜などを使用することも可能である。筒形フィルタ26は、所望に応じて2段以上に分けて収納することも可能である。
【0021】
オゾン曝気槽5は、図7に示すように、槽本体50の外部、例えば槽本体よりも上方にソケット52および曝気ポンプ54を配置し、さらにヒータなどを設置してもよい。オゾン管56は、例えば、透明プラスチックまたはガラス製であり、ソケット52から下向きに設置すればよい。オゾン管56内には、ほぼその全長に亘って細長いオゾンランプ58を収納するとともに、エアチューブ60を曝気ポンプ54からオゾン管56の内部下端部まで延設する。このオゾンランプは2本以上使用することも可能である。
【0022】
一方、散気管62は、例えば、セラミックスや通気性フォーム製などの透過性多孔材からなり、槽本体50の内部下方部に水平に配置して固定する。散気管62は、オゾンチューブ64を介してオゾン管56と連通することにより、オゾンランプ58で発生したオゾンが散気管62から放出され、気泡となって槽本体内の廃液66と気液接触する。オゾンランプ58と接触する空気は、エアチューブ60を通ってオゾン管56の下方部から放出され、狭いオゾン管56内を流通するので比較的低速でよい。曝気ポンプ54の送風量を調節すると、オゾン管56内の通風速度を適当に制御できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る洗浄廃液の浄化装置は、印刷機関連の洗浄廃液、例えばモルトンの洗浄時に発生する廃液について、含有する油分および着色成分を確実に除去し且つ有機物を酸化・分解することにより、廃液のBOD濃度、全窒素量、全リン量などを低減化し、処理後の廃液をそのまま下水道へ放流できる。本発明の浄化装置は、洗浄廃液を各槽内へ連続的に流通させて処理していくので、時間当たりの処理能力が高く、洗浄廃液をタンクなどに一時的に貯留する必要がなく、洗浄廃液が発生すれば随時に処理することができ、廃液による悪臭が発生することが解消する。
【0024】
本発明に係る浄化装置は、処理能力が高くても小型であり、小型であるのでモルトン洗浄装置などの近傍に据え付けることが可能であり、随時に搬送することも容易であるので設置場所に困ることがない。本発明の浄化装置では、油分離槽の板状フィルタおよび帯電濾過槽の筒形フィルタの交換は年に2〜3回でよく、電力消費量もきわめて少ないため、年間のメンテナンス費用が安価になるという利点もある。
【0025】
本発明に係る浄化方法では、洗浄廃液を希釈したり規定の電解質を添加する必要がなく、洗浄廃液をそのまま油分離槽へ送り込んで処理でき、未熟な作業員でも容易に廃液処理を行うことができる。本発明の浄化方法により、生活環境および河川の水質汚濁防止を守ることができ、廃液処理を専門の産業廃棄物処理業者に委託する必要がなくなるから、膨大な廃液処理経費を節約することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。図1に例示する浄化装置1は、適宜の場所に据え付ける油分離槽2と、有底角筒のフレーム68内に組み込んだ帯電濾過槽3およびオゾン曝気槽5とで構成する。フレーム68内には、濾過ポンプ7およびトランス30も組み入れ、キャスタ70によって所望の場所に移動することが容易である。図2のように、油分離槽2と濾過ポンプ7は、可撓性を有する管路72によって接続され、該濾過ポンプと帯電濾過槽3とを管路74によって連通させ、および該帯電濾過槽とオゾン曝気槽5とを管路76によって連通させる。
【0027】
油分離槽2は、複数本の支柱材77(図1)によって公知のモルトン洗浄装置8の排水口下方に水平に据え付ければよい。油分離槽2は、図1および図3から明らかなように、有底角筒の槽本体78と、該槽本体上に着脱可能に載置する蓋79付きの矩形上枠体80とからなる。図4に示すように、上枠体80は槽本体78とほぼ同じ幅であり、内方突縁82によって該槽体上で静止可能である。上枠体80の底板は、打ち抜き鋼板17からなる透孔棚板12であり、該棚板を上枠体80とともに取り外すことは容易である。
【0028】
槽本体78は、その内部において、底壁より若干上方で水平に設置した透孔棚板10を有し、該棚板10も打ち抜き鋼板からなる。槽本体78は、下端部に取り付けたニップル83を介して外部管路72と接続する。槽本体78の内部側壁には、2台の水位センサ18,20を取り付け、両センサの上部は槽本体78の上端から突出する(図3参照)。水位センサ18,20は、図2に示すように、導線84を介して濾過ポンプ7のモータと接続する。水位センサ18が油分離槽内の洗浄廃液の最低許容量を検知すると、稼働中の濾過ポンプ7を停止し、一方、水位センサ20が油分離槽内の洗浄廃液の最高許容量を検知すると、停止中の濾過ポンプ7を始動する。
【0029】
板状フィルタ14,16は、棚板10,12上にそれぞれ載置する。板状フィルタ14,16は、例えば、厚さ30〜40mmの比較的粗いポリプロピレン繊維ウェブからなる。油分離槽2において、上側の板状フィルタ16は、注入された洗浄廃液から主にゴミなどの固形物を濾取し、下側の板状フィルタ14は、常に洗浄廃液の水面21に浮くことにより、洗浄廃液中の油分を吸着する。板状フィルタ14は、上枠体80を槽本体78から取り外すと、上方へ引き出して交換することが容易である。
【0030】
図1に示す細長い円筒形の帯電濾過槽3は、通常、ステンレス鋼製であり、支柱材86,86によってフレーム68内で垂直に設置する。帯電濾過槽3は、図5および図6に示すように、一方の電極体である大径の外筒体22と、他方の電極体である中間筒体24と、筒形フィルタ26を装着し且つ中心に位置する細長い内筒体28とを有し、これら筒体をすべて同軸状に配置する。外筒体22の下方は、不純物溜め部32を構成する。上方が不純物溜め部32に相当する外筒体22の底壁38は、一方の周壁に向かって下方へ傾斜させる。
【0031】
外筒体22には、その上周端において、押え盤88および支持盤90付きの円形蓋92を取り付け、環状の帯ベルト94で密に締着する。押え盤88は、筒形フィルタ26の外径とほぼ同じ直径であり、圧縮バネ96によってフィルタ26を下方へ押し付ける。支持盤90は、中間筒体24のフランジ外径とほぼ同じ直径であり、円形蓋92を外筒体22に固着すると、同時に中間筒体24と密接する。
【0032】
外筒体22の上方部において、エルボ98と連通する貫通孔34を設け、該エルボおよび外部管路74を経て濾過ポンプ7と接続することにより、該濾過ポンプを通過して油分離槽2から洗浄廃液が帯電濾過槽3内へ流入する。また、絶縁碍子100を外筒体22および中間筒体24の上方部で連通状に取り付け、電源つまりトランス30からの導線102(図1)を碍子100を通して外筒体22または中間筒体24に接続する。これにより、外筒体22および中間筒体24へ所定の直流電流または交流電流を定常的に流す。
【0033】
中間筒体24は、外筒体22と連結する水平ボルト(図示しない)によって垂直に保持する。中間筒体24は、外筒体22の底壁38とフィルタ26の底面との中間程度まで下方へ延び、この下方部が通常円形断面の邪魔板に相当する。中間筒体24は、外筒体22と電気的に接続されて荷電する。中間筒体24は、図6に示すように、幅1mm程度の間隙37を有する円形湾曲体であり、間隙37を有することにより、中間筒体24へ電流を定常的に流した際に渦電流が発生しない。外筒体22の内周面と中間筒体24の外周面との間が筒形の帯電路36であり、該帯電路は中間筒体24の下方周縁103を経て該中間筒体の内部と連通する。
【0034】
細長い内筒体28は、筒形フィルタ26の内径よりも小径であり、該フィルタを載置する固定ディスク44から上方へ垂直に延設し、筒上端42はフィルタ26の上周端よりもかなり下方に位置する。内筒体28は、ディスク44から垂直下方へ延びる管路46と連通し、該管路は底壁38を貫通して垂直に固定される。固定ディスク44は、筒形フィルタ26の外径とほぼ同じ直径であり、該ディスク表面にフィルタ下端部を嵌める円筒部104を有する。固定ディスク44の高さ位置は、中間筒体24の下方周縁103よりも相当に上方である。内筒体28は、外筒体22の底壁38を貫通する管路46を経てエルボ106と接続し、該エルボはさらに外部管路76(図1)と連通する。
【0035】
筒形フィルタ26は、固定ディスク44上に載置し、円形蓋92を固着すると圧縮バネ96を介して押え盤88で押え込んで垂直に取り付ける。筒形フィルタ26は、孔径0.5〜5μmで積層紙から構成する。筒形フィルタ26の外周面と中間筒体24の内周面との間に所定の筒状間隙を形成し、中間筒体24の下方周縁103を通過した洗浄廃液の流通路108を構成し、該筒形フィルタから濾過済み廃液は内筒体28へ流入する。筒形フィルタ26は、円形蓋92を開くと容易に取り出して交換できる。
【0036】
オゾン曝気槽5は、支柱材109,109によってフレーム68内で垂直に設置した有底円筒形の槽本体50からなる。図7に示すように、支持板48を槽本体50の上端に水平に設置し、該支持板上にソケット52および曝気ポンプ54を載置して固着する。ガラス製のオゾン管56は、ソケット52から下向きに垂直に設置する。オゾン管56は、槽本体50の高さよりも短く、該槽本体の底壁に達していない。オゾン管56内には、その全長に亘って細長い紫外線オゾンランプ58を収納するとともに、エアチューブ60を曝気ポンプ54からオゾン管56の内部下端部まで延設する。
【0037】
一方、細長い散気管62は、セラミックス製の透過性多孔材からなり、槽本体50の内部下方部に水平に配置し、オゾンチューブ64が金属製であるので水平に保持できる。散気管62は、オゾンチューブ64およびソケット52を経てオゾン管56と連通することにより、オゾンランプ58で発生したオゾンが散気管62から徐々に放出され、気泡となって槽本体内の廃液66と気液接触する。
【0038】
オゾン曝気槽5では、曝気ポンプ54によって比較的低速の通風速度で高濃度のオゾンを得ることができる。オゾンランプ58と接触する空気は、エアチューブ60を通ってオゾン管56の下方部から放出され、狭いオゾン管56内を流通して充満されるので比較的低速である。曝気ポンプ54の送風量を調節すると、オゾン管56内の通風速度を適宜に制御して、より多量のオゾンを放出することができる。
【0039】
槽本体50の上方部において、エルボ110と連通する貫通孔112を設け、該エルボおよび外部管路76を経て帯電濾過槽3と接続することにより、該帯電濾過槽から清澄化済みの洗浄廃液が流入する。一方、槽本体50の底壁中央には、エルボ114と連通する貫通孔116を設け、該エルボを通して、BOD濃度が低減した廃液を装置外部へ排出する。
【0040】
浄化装置1において、図2に示すように、油分離槽2は、公知のモルトン洗浄装置8の排水口下に据え付ける。モルトンの洗浄時に発生する水性の洗浄廃液は、油分離槽2の上枠体80内へ注入され、上側の板状フィルタ16によって洗浄廃液から主にゴミなどの固形物を濾取してから、下方の槽本体78内へ流入する。槽本体78内には、常に所定量の洗浄廃液が貯留されている。槽本体78内において、洗浄廃液中の油分は、洗浄廃液の表面に浮上する板状フィルタ14に吸着され、該廃液から除去される。
【0041】
油分離槽2において、洗浄廃液が槽本体78内で最高許容量まで増量すると、水位センサ20が稼動して濾過ポンプ7を駆動する。この際に、主な油分が除去された洗浄廃液は、槽本体78の下方からニップル83および外部管路72を経て濾過ポンプ7へ送り込まれる。一方、槽本体78内の洗浄廃液が最低許容量まで減量すると、水位センサ18が稼動して濾過ポンプ7を停止する。
【0042】
帯電濾過槽3には、油分離槽2から濾過ポンプ7および外部管路72を経て油分除去済みの洗浄廃液が流入する。帯電濾過槽3において、洗浄廃液は両電極体である外筒体22と中間筒体24との間を通過して帯電され、この帯電によって主に洗浄廃液の着色成分であるコロイド粒子を凝集させる。この廃液は、濾過ポンプ7によって加圧され、外筒体22の上方の貫通孔34から槽内へ流入するため、外筒体22と中間筒体24との間つまり帯電路36内で回転しながら下方へ移動する。
【0043】
凝集したコロイド粒子は、洗浄廃液を回転させながら下方の不純物溜め部32へ送り込まれると、図5の矢印で示すように、洗浄廃液は円形の邪魔板に相当する中間筒体24の下方周縁103を通過し、中間筒体24内の流通路108へ流入する。この際に、凝集コロイド粒子が洗浄廃液から分離して落下しやすくなり、着色成分であるコロイド粒子の粒径が比較的大きい場合には、その一部が傾斜底壁38上に滞留することがある。
【0044】
洗浄廃液は、中間筒体24の下方周縁103を経て、図5の矢印で示すように、肉厚の筒形フィルタ26を半径方向に通過する。この結果、洗浄廃液中に残存する凝集コロイド粒子は、筒形フィルタ26を通過することで濾取され、該廃液を清澄化する。筒形フィルタ26について、多少のコロイド粒子が付着しても濾過能力が低下することが少なく、残存のコロイド粒子自体も少ない。筒形フィルタ26は、数ヶ月間以上連続使用することが十分に可能である。清澄化された液は、筒形フィルタ26を通過して内筒体28に流入し、さらに管路46およびエルボ106を通って流出する。
【0045】
清澄化済みの洗浄廃液は、外部管路76およびエルボ110を経てオゾン曝気槽5に流入する。この洗浄廃液は、槽本体50内において、散気管62から吹き込まれたオゾンと気液接触する。この結果、洗浄廃液から有機物が酸化・分解され、BOD濃度が低減して下水道へ排出可能となる。
【0046】
実験例
京都市所在の印刷工場において、オフセット印刷機のモルトン洗浄時に発生した廃液を採取した。この洗浄廃液を図1に示す浄化装置1によって処理する。未処理液を検体1および処理済み液を検体2と検体3に定めると、薄黒い液の検体1に比べて、検体1および2の液は完全に透明であった。次に、BOD濃度をJIS K 0102:1998「工場排水試験方法」に従って分析すると、次の分析試験結果を得た。
【0047】
検体2について
BOD濃度: 48mg/L
全窒素: 0.9mg/L(総和法)
全リン: 0.63 mg/L(モリブデンブルー吸光光度法)
有機燐化合物:検出せず(ガスクロマトグラフ法)
亜 鉛: 0.38mg/L
【0048】
検体3について
BOD濃度: 57mg/L
全窒素: 0.8mg/L(総和法)
全リン: 0.63 mg/L(モリブデンブルー吸光光度法)
有機燐化合物:検出せず(ガスクロマトグラフ法)
亜 鉛: 0.39mg/L
【0049】
この分析試験結果から、モルトン洗浄時に発生する廃液から有機物が十分に酸化・分解されており、BOD濃度が低減することで下水道への放流が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る浄化装置の全体を示す側面図である。
【図2】モルトン洗浄装置から流出した洗浄廃液を浄化する行程を示す説明図である。
【図3】本発明で用いる油分離槽を示す概略縦断面図である。
【図4】図3の油分離槽の概略平面図である。
【図5】本発明で用いる帯電濾過槽を示す概略縦断面図である。
【図6】図5のA−A線に沿って切断した水平断面図である。
【図7】本発明で用いるオゾン曝気槽を示す概略縦断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 浄化装置
2 油分離槽
3 帯電濾過槽
5 オゾン曝気槽
7 濾過ポンプ
10,12 透孔棚板
14,16 板状フィルタ
18,20 水位センサ
22 外筒体
24 中間筒体
26 筒形フィルタ
28 内筒体
54 曝気ポンプ
56 オゾン管
58 オゾンランプ
62 散気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状フィルタを収納する油分離槽と、陰または陽電極体である2重筒体および筒形フィルタを組み込む帯電濾過槽と、オゾンランプを内部に取り付けるオゾン曝気槽とを備え、濾過ポンプを介して油分離槽、帯電濾過槽およびオゾン曝気槽を接続することにより、印刷機関連の洗浄廃液について、油分離槽および帯電濾過槽において洗浄廃液から油分および着色成分を除去して清澄化し、ついでオゾン曝気槽において洗浄廃液中の有機物を酸化・分解する洗浄廃液の浄化装置。
【請求項2】
油分離槽は、板状フィルタを載置する2段の多孔板を有し、洗浄廃液が油分離槽内に滞留すると、下方の板状フィルタは洗浄廃液の表面に浮くことによって洗浄廃液表面の油分を吸着する請求項1記載の浄化装置。
【請求項3】
油分離槽に2台の水位センサを取り付け、一方の水位センサによって油分離槽内の洗浄廃液が最高許容量まで増量すれば濾過ポンプを駆動し、一方、他方の水位センサによって油分離槽内の洗浄廃液が最低許容量まで減量すれば濾過ポンプを停止する請求項1または2に記載の浄化装置。
【請求項4】
帯電濾過槽は、一方の電極体である外筒体と、他方の電極体である中間筒体と、中間筒体の内方に配置する筒形フィルタとを有し、洗浄廃液は外筒体と中間筒体との間を通過して帯電され、この帯電によって洗浄廃液中のコロイド粒子を凝集し、凝集コロイド粒子を筒形フィルタで濾取することによって洗浄廃液を清澄化する請求項1記載の浄化装置。
【請求項5】
オゾン曝気槽は、オゾンランプを収納した有底のオゾン管と、槽本体の内部下方部に設置した散気管とを有し、曝気ポンプからのエアチューブをオゾン管の内部下端部まで延設し、さらに該オゾン管から散気管まで連通することにより、オゾンランプで発生したオゾンを散気管から泡出して気液接触させる請求項1記載の浄化装置。
【請求項6】
インクで汚れたモルトンの洗浄時に発生する洗浄廃液について、洗浄廃液の表面に浮上する板状フィルタによって主に洗浄廃液中の油分を吸着し、ついで帯電によって洗浄廃液中のコロイド粒子を凝集し、凝集コロイド粒子を筒形フィルタで濾取することによって洗浄廃液中の着色成分を除去して清澄化し、さらに曝気槽内の洗浄廃液にオゾンを吹き込んで気液接触させ、有機物を酸化・分解してBOD濃度を低減させて下水道へ排出可能とする洗浄廃液の浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−346511(P2006−346511A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−171792(P2005−171792)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(390021566)株式会社サンエツ (7)
【Fターム(参考)】