説明

活性種発生装置、空気清浄装置、汚水浄化装置、及びスチームクリーナ

【課題】 放電の際に人体に有害なオゾン、NOxをほとんど発生させることなく、除菌作用を持つ酸素ラジカルやヒドロキシルラジカル等の活性種を室内空間へ放出することができる活性種発生装置、空気清浄装置及び汚水浄化装置を実現する。
【解決手段】 本発明に係る活性種発生装置は、水蒸気を発生させる水蒸気発生手段と、発生させた水蒸気を加熱する加熱手段と、放電電極及び対向電極間でコロナ放電を生じさせる放電手段とを備え、活性種発生装置の内部は、水蒸気圧が、活性種発生装置の外部の気圧よりも高いことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電によりイオンや活性種などを発生させ、除菌等を行なう活性種発生装置、空気清浄装置、汚水浄化装置及びスチームクリーナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、建物内や車両内の空気を常に清浄化された状態に維持するために空気清浄装置が広く使用されている。普及している空気清浄装置は、空気中で放電を生じさせることにより、空気中の水蒸気から正負のイオンやヒドロキシルラジカル(OHラジカル又はOH*)などの活性種を発生させる。
【0003】
そして、通常空気中で放電させた場合、窒素イオン(N、N)や、酸素イオン(O、O、O、O)、窒素ラジカル(N)、酸素ラジカル(O*)、などの物質も同時に発生することが知られている。発生したラジカルは、即座に近傍の空気分子と結合する。例えば、空気中での放電ではO→2Oという反応で酸素ラジカルが生成したとき、酸素分子と接触すればO*+O2→O3という反応が起き、人体に有害なオゾンが生成される。また、同じように、N→2Nという反応でNが生成したとき、N+O→NO、N+O→NO、N+O+O→NOといった反応により、悪臭成分を持つNOxが生成される。このように、オゾン及びNOxが空気中では容易に発生してしまうという問題があった。それに加えて、印加電圧増加などにより所望の活性種等の濃度を増加させようとすると、オゾン及びNOxの濃度も増加するという問題もあった。そのため、放電によるオゾン及びNOxの発生を抑制しつつ、所望のイオンや活性種等の濃度を増加させるために、水蒸気を発生させ、その水蒸気中で放電を生じさせる手段が研究されてきた。
【0004】
例えば、特許文献1は、放電によって発生するオゾンや悪臭成分を抑制させた除電装置に関するものであり、図12に除電装置の構成を示す側面図を示す。この除電装置は、水の中に高圧エアーを吹き出して、水をクラスター状態で含んだ、湿度100%前後のエアーを作るエアー発生装置81及び、このエアー発生装置81に連結された送風路82を設けている。この送風路82内には、上記エアーを温めるヒーター85及び、ヒーター85と開口部83との間に上記エアー内のクラスターを単極帯電させる高圧放電電極86を設けて、この送風路82の開口部83を被処理物84に向けている。
【0005】
特許文献1では、高圧放電電極86近傍に、純水のクラスターが存在することで、オゾンの発生が抑制できると記載されている。また、純水のクラスターを利用するため、ホコリ粒子の少ないクリーンルームでの除電に適していると記載されている。
【0006】
特許文献2及び非特許文献1では、大気圧の水蒸気流中にプラズマ流を生成し、そのプラズマ流により滅菌することができるプラズマ滅菌装置に関するものである。図13に示すように、この滅菌装置は、誘電体からなるとともに一端を大気開放され、滅菌の対象となる被滅菌物を内部に配置される管91と、管91の他端に接続され、管91の内部へ流通させるための水蒸気を発生させる水蒸気発生部92と、管91の中途に設けられ、管91の内部で誘電体バリア放電を起こす放電部93を備える。この構成によれば、誘電体バリア放電により、大気圧下において管91内の水蒸気がプラズマ化され、水蒸気のプラズマ流により滅菌することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−115683号公報(平成9年5月2日公開)
【特許文献2】特開2009−22391号公報(平成21年2月5日公開)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】佐藤 岳彦、古居 剛、日本機械学会流体工学部門講演会講演論文集、G605(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に示す技術は、水タンクに高圧エアー噴出させることにより、水をクラスター状態で含んだ、湿度100%前後のエアーを作り出す技術である為、そのエアー中には酸素及び窒素を含むことが前提である。そこで、高電圧による放電により窒素ラジカル及び酸素ラジカルが発生し、その結果、文献1に開示の技術ではオゾン及びNOxを十分に減少させることができないという問題があった。さらに、特許文献1に示す技術では空気を含んでしまうため、水蒸気100%のときと比較して、同一電力ではヒドロキシルラジカルが発生されにくくなる。例えば、空気を含んでいる状態で、放電電極に負電圧を与えたときは、O+e-→Oという電子付着反応が起きる。この反応に必要なエネルギーは0.36eVであるため、空気をわずかでも含んでしまうと、活性種が生成するよりも、先に多くのイオンが生成されてしまう。このため除電装置としては、効果を発揮するかもしれないが、ヒドロキシルラジカルなどの活性種を多く生成しようとすると、水蒸気100%のときと比較して、消費電力が増大してしまう。そのほかにも、通風路を温める温度が30〜90℃と低いため、水蒸気が放電電極に結露してしまい、放電しなくなる恐れもあった。
【0010】
また、特許文献2及び非特許文献1に示す技術では、誘電体バリア放電によって、プラズマ領域を大きくすることができ、管路内においては活性種が多く発生する。しかしながら、放電電極と対向電極の間に誘電体を介しているために、印加電圧を大きく設定する必要がある。このため、高価な電源を必要とし、広く普及させることができない。さらには、誘電体バリア放電では、原料ガスを分解するために、ある一定の周波数を印加することが必要であり、電磁波が発生する。このような滅菌装置は、医療現場などで用いられるが、電磁波により医療機器の誤動作につながる恐れもある。それに加えて、滅菌対象物は管路内に存在する必要が有り、滅菌空間が狭いという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、オゾンやNOxをほとんど発生させずに、除菌作用を持つ酸素ラジカルやヒドロキシルラジカル等の活性種を発生させる、汎用的な装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る活性種発生装置は、水蒸気を発生させる水蒸気発生手段と、発生させた水蒸気を加熱する加熱手段と、放電電極及び対向電極間でコロナ放電を生じさせる放電手段とを備え、活性種発生装置の内部は、水蒸気圧が、活性種発生装置の外部の気圧よりも高いことを特徴とする。
【0013】
更なる本発明に係る活性種発生装置は、放電電極に正電圧を印加する第1の活性種発生装置及び、放電電極に負電圧を印加する第2の活性種発生装置で構成され、第1及び第2の活性種発生装置は水蒸気を発生させる水蒸気発生手段と、発生させた水蒸気を加熱する加熱手段と、放電電極及び対向電極間でコロナ放電を生じさせる放電手段とを備え、第1及び第2の活性種発生装置の内部は、水蒸気圧が、前記第1及び第2の活性種発生装置の外部の気圧よりも高いことを特徴とする。
【0014】
前記活性種発生装置は、空気清浄装置、汚水浄化装置あるいはスチームクリーナに用いても良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、放電部の内部を略100%の水蒸気で充填することにより、放電の際に人体に有害なオゾン、NOxをほとんど発生させることなく、除菌作用を持つ酸素ラジカルやヒドロキシルラジカル等の活性種を室内空間へ放出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1における活性種発生装置の構成例を示した断面図である。
【図2】実施例1における活性種発生装置の構成例を示した斜視図である。
【図3】実施例2における活性種発生装置の構成例を示した断面図である。
【図4】実施例3における活性種発生装置の構成例を示した断面図である。
【図5】実施例4における活性種発生装置の構成例を示した断面図である。
【図6】実施例4における活性種発生装置の構成例を示した斜視図である。
【図7】実施例5における活性種発生装置の構成例を示した断面図である。
【図8】本発明の活性種発生装置による過酸化水素の生成を示したグラフである。
【図9】実施例6における測定装置を示した斜視図である。
【図10】実施例7における汚水浄化装置の構成例を示した斜視図である。
【図11】実施例8におけるスチームクリーナの構成例を示した斜視図である。
【図12】特許文献1に係る除電装置の構成の側面図である。
【図13】特許文献2に係る滅菌装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、空気がほとんどなく水蒸気で満たされている活性種発生装置内部でコロナ放電を生じさせることで、オゾン及びNOxをほとんど発生させずに、除菌作用を持つ酸素ラジカルやヒドロキシルラジカル等の活性種を生成させることを特徴とするが、そのメカニズムについて以下に記す。
【0018】
水蒸気中では、HOしか存在しないため、正の電圧を印加し放電させた場合、
O→H+OH+e-
という反応により、水素イオン及びヒドロキシルラジカルが生成し、さらに、水素イオンは、電子を与えて中和すると、水素ラジカルが生成される。ヒドロキシルラジカルは活性度が高いことが知られており、除菌だけでなく、各種材料を酸化することに利用されている。
【0019】
次に、生成した水素ラジカルが、さらに、水と反応すると、
+HO→H+OH ・・・(1)
の反応により、酸化作用の強いヒドロキシルラジカルが生成する。また、生成されたヒドロキシルラジカル同士で結合した場合、
OH+OH→O+HO ・・・(2)
の反応により、酸素ラジカルが生成される。この酸素ラジカルも、酸化作用が強く、除菌作用がある。
【0020】
一方、負の電圧を印加し放電させた場合、
O+e→OH+H ・・・(3)
という反応により、水酸化物イオン及び水素ラジカルが生成する。水素ラジカルから、除菌作用のあるヒドロキシルラジカル及び酸素ラジカルが生成される反応は式(1)の通りで、水酸化物イオンについても、
OH→OH+e-
の反応により、除菌作用のあるヒドロキシルラジカルが生成される。
【0021】
このように、水蒸気中でコロナ放電を生じさせることで、除菌作用を持つヒドロキシルラジカル及び酸素ラジカルを生成することができる。このように生成したヒドロキシルラジカルは反応性が高いため、一部のヒドロキシルラジカルは(2)の反応を経由した酸素ラジカルとはならずに、
OH+OH→H ・・・(4)
という反応により過酸化水素に変化する。また、水分子と反応し、
OH+HO→H+H ・・・(5)
という反応によっても過酸化水素に変化する。過酸化水素は、ヒドロキシルラジカル及び酸素ラジカルよりも低い除菌作用を持つが、比較的安定しているためヒドロキシルラジカル及び酸素ラジカルよりも長時間存在することができる。
【0022】
さらに、過酸化水素は、活性種とともに放電によって生成されたHやOH等の負イオンと反応することで
+H→OH+OH+HO ・・・(6)
+OH+H→OH+OH+HO ・・・(7)
の反応により再びヒドロキシルラジカルを生成することができる。この式(6)(7)の反応が起こりうるかについて、量子力学第1原理分子動力学法を用いて、見積もった。右辺の物質のトータルエネルギーから、左辺の物質のトータルエネルギーを差分すると、その差分値は、式(6)の場合、−1.48eVで、式(7)の場合、−3.03eVであった。すなわち、式(6)、(7)いずれの反応も、左辺の物質から右辺の物質へと変化する際に、発熱し安定化すると考えられ、Hに、HやOHという負イオンを作用させることで、ヒドロキシルラジカルが容易に生成すると考えられる。
【0023】
また、オゾンがほとんど発生しない理由は、水蒸気中で放電した際に生成する物質からオゾンが生成されるまでの反応経路が複雑となるためである。例えば、正の電圧による放電で生成されたヒドロキシルラジカルから最もオゾンが発生しやすい反応を考えた場合、まず、ヒドロキシルラジカルによる式(2)の反応がおき、酸素ラジカルが生成する。酸素ラジカルが別の酸素ラジカルと反応すれば、
2O*→O2 ・・・(8)
の反応により、酸素分子が生成される。さらに、生成された酸素分子と別の過程で生成された酸素ラジカルとが反応して、
*+O2→O3 ・・・(9)
という反応が起き、初めてオゾンが生成される。したがって、空気中とは違って、水蒸気中では、確率の低い反応を数回経由することが必要である。つまり、大気に比べて非常に酸素分子の割合が低い、略水蒸気100%内で放電することで、オゾンの生成確率が大幅に下がり、オゾンを減少することができる。
【0024】
同様に、負の電圧による放電で生成された水素ラジカルから最もオゾンが発生しやすい反応を考えた場合、
+HO→OH+H ・・・(10)
という反応で生成したヒドロキシルラジカルから、式(2)、(8)、(9)の反応によりオゾンを生成するため、オゾンの生成確率が大幅に下がる。また、NOxに関しても、水蒸気100%であれば、窒素が存在しないため生成しない。
【0025】
このように、窒素及び酸素がない水蒸気中で放電することで、オゾン、NOxをほとんど発生させずに、酸素ラジカルやヒドロキシルラジカル、水素ラジカル等の活性種を生成できる。ヒドロキシルラジカル、酸素ラジカルは、強力な酸化力を有し、菌・カビ菌を除菌し、有機化合物・ニオイを分解することができる。また、水素ラジカルは強い還元力を持つことから、式(10)の反応によりヒドロキシルラジカルを生成することができ、同様の作用を発揮することができる。さらには、水蒸気中であれば、反応性の高いヒドロキシルラジカルは一部、過酸化水素に変化すると考えられるが、その後、負イオンと結合することで、再びヒドロキシラジカルに戻ることができる。したがって、放電空間に限らず、広範囲にわたって除菌力の高い、ヒドロキシルラジカルを作用させることができる。
【0026】
上記のメカニズムを実現するための実施例について図面に基づき説明する。
【実施例1】
【0027】
図1は、実施例1に係る活性種発生装置の断面図であり、図2はこの装置の斜視図である。この活性種発生装置は、蒸発部1、水蒸気通路部2、放電部3から構成される。まず、蒸発部1は容器4から構成されており、その内部に水5を有している。水5は容器4の下部に配置された水蒸気発生手段をしての第1の加熱手段6により加熱され、水蒸気に変化させられる。生成された水蒸気は、容器4と接続されている水蒸気通路部2を経由し、放電部3に搬送される。水蒸気通路部2は、中が空洞の構造であり、熱を伝えやすい材質よりできている。
【0028】
放電部3は、対向電極9と開口部11に囲まれており、その内部に放電電極8が配置される。放電電極8は、ワイヤー状の金属から成り、電圧印加装置10が接続され、対向電極9は、金属から成り、接地される。開口部11は、開放されていても、対向電極9と電気的に接続された、メッシュ状の金属線等で囲われていても良いが、開口部11は開放されている方がより好ましい。
【0029】
放電部3には、蒸発部1で生成された水蒸気が搬送されてくるが、放電電極8付近に空気が存在しないようにするためには、空気が開口部11から装置内へ流入しないように、活性種発生装置の内部の水蒸気圧を外部の気圧以上にする必要がある。例えば、外部の気圧が1気圧であるとすると、活性種発生装置の内部が99.8℃以上であれば、水蒸気圧を1014hPaまで上昇させることができ、1気圧以上とすることができる。つまり、第2の加熱手段12により蒸発部1、水蒸気通路部2、放電部3を加熱し、装置内部を99.8℃以上にすれば、水蒸気は開口部11から放出されるようになり、空気が開口部11から装置内へ流入しないようなる。第2の加熱手段12は、装置全体を加熱するため、例えばリボン状のヒーターで、装置に巻き付けてあると良い。
【0030】
このとき、活性種発生装置の内部の水蒸気圧を外部の気圧以上にすることで、活性種発生装置の内部が水蒸気濃度ほぼ100%の状態になり、放電部3に酸素及び窒素がほとんど存在しなくなる。この構成において、放電電極8に正あるいは負の電圧を印加し、対向電極9との間でコロナ放電を生じさせると、オゾン及びNOxをほとんど発生させずに、除菌作用を持つ酸素ラジカルやヒドロキシルラジカル等の活性種を生成させる。放電電極8に印加する電圧の絶対値は1kV〜10kVが好ましい。1kV以下の場合、放電電極8及び対向電極9間の距離が2mm以下である必要があり、これらの電極間に静電気で埃等が付着して、漏電してしまう危険性があり、10kV以上の場合、装置の安全上の問題が生じる恐れがあるためである。また、低い電圧で活性種を多く発生させるためには、直流電圧が好ましい。この場合、他の医療機器等に電磁波による悪影響を与えることがないため、医療現場等で使用することができる。生成した活性種は、水蒸気の発生による圧力で、開口部11を通り、室内空間へ放出する。
【0031】
また、放電部3での水蒸気の結露を防ぐために、第2の加熱手段12によって放電部3内を100℃以上に保つことが望ましい。結露してしまうと、放電電極8及び対向電極9間でアーク放電や沿面放電が生じ、装置が故障する危険性がある。また、結露により生じた水滴を通じて電極間で漏洩電流が流れてしまい、放電しなくなる可能性がある。
【実施例2】
【0032】
図3は、実施例2に係る活性種発生装置の構成図であり、実施例1の活性種発生装置を2つ並べたものである。第1の活性種発生装置は、放電部に放電電極8及び対向電極9を備え、第2の活性種発生装置は、放電部に放電電極13及び対向電極14を備える。それぞれの活性種発生装置は、実施例1の活性種発生装置と同様に、水を有する容器を備え、その水は容器の下部に配置された第1の加熱手段により加熱され、水蒸気に変化させられる。発生した水蒸気は、放電部に達し、放電部を外部の気圧よりも高い水蒸気圧にする。このとき、放電部を含む活性種発生装置の内部の水蒸気圧を外部の気圧以上にすることで、活性種発生装置の内部が水蒸気濃度ほぼ100%の状態になり、放電部3に酸素及び窒素がほとんど存在しなくなる。この状態の放電部において、第1の活性種発生装置の放電電極8に正電圧を印加し、対向電極9との間で放電させ、第2の活性種発生装置の放電電極13に負電圧を印加し、対向電極14との間で放電させる。これらの構成によって除菌作用を持つ酸素ラジカルやヒドロキシルラジカル等の活性種と共に、第1の活性種発生装置は正イオンを、第2の活性種発生装置は負イオンを生成する。生成した活性種及び正負イオンは、水蒸気の発生による圧力で、開口部11を通り、室内空間へ放出する。また、低い電圧で活性種を多く発生させるためには、直流電圧が好ましい。
【0033】
ここで負の電圧を印加し放電させた場合、式(3)の反応により、水酸化物イオン及び水素ラジカルが生成される。量子力学第一原理分子動力学法にて、水酸化物イオン及び水素ラジカルの合計のエネルギーと、Hのエネルギーを比較した場合、Hの方が1.559eVだけ低く、より安定な物質であると考えられる。したがって、生成した水酸化物イオン及び水素ラジカルが再度衝突することで、
+OH→H ・・・(11)
という反応により、Hが生成し、さらにHが水素イオンと反応することで
+H→H+HO ・・・(12)
という反応により、再度水素ラジカルが生成する。この水素ラジカルが、水分子と反応すると式(10)の反応によりヒドロキシルラジカルを生成することができる。
【0034】
ヒドロキシルラジカルは反応性が高いため、ごくわずかな時間で別物質に変化するといわれているが、この方法によれば、イオンの届く範囲において、ヒドロキシルラジカルを生成できる。したがって、実施例1のように一組の放電電極、対向電極間での放電による除菌方法とは違い、イオンは部屋空間に広がるため、除菌できる空間が広がる。
【実施例3】
【0035】
図4は、実施例3に係る活性種発生装置の構成図であり、実施例1の活性種発生装置と、その開口部11の近辺に電子発生装置15を備える構成である。電子発生装置15は、電気抵抗の大きい電線から成り、高温にすることで熱電子を放出し、放出された電子は、開口部11から放出される水素イオンと反応し、
+e→H
という反応で水素ラジカルを生成する。この水素ラジカルが、水分子と反応すると式(10)の反応によりヒドロキシルラジカルを生成され、除菌効率を高くすることができる。
【実施例4】
【0036】
図5は、実施例4に係る活性種発生装置の構成図であり、実施例1の活性種発生装置の放電電極8と対向電極9の間に、籠電極16を配置した構成である。図6はその装置の放電部の斜視図で、透視した状態を示す。籠電極16は、ワイヤー状の放電電極8の周りを囲うように配置され、対向電極9は、さらに籠電極16の周りを囲うように配置される。放電電極8は、電圧印加装置10に接続され、対向電極9との間で放電が生じるように、正あるいは負の電圧を印加される。また、籠電極16は、電圧印加装置17に接続され、放電電極8に印加された電圧と同極性の数V〜数百Vの電圧を印加される。
【0037】
この構成によれば、放電部3内の電界が、放電電極8から籠電極16の方向へ向いているため、放電電極8から発生したイオンは、籠電極16に向かい、接地された対向電極9に接触し消滅する。このように、放電電極8と対向電極9の間に、放電電極8に印加する電圧と同極性の低電圧が印加される電極を配置することで、効率よく所望のラジカルを放出することができる。なお、本実施例では籠電極16に電圧印加装置17を接続したが、その代わりに籠電極16とアースの間に抵抗を備えてもよい。
【実施例5】
【0038】
図7は、実施例5に係る活性種発生装置の構成図であり、実施例1の活性種発生装置の蒸発部1、水蒸気通路部2、放電部3を一つにまとめたものである。装置内は、水5、放電電極8、対向電極9から構成され、放電電極8は、水5に触れないように先端付近以外を絶縁体18で覆われ、先端部が水面近傍になるように配置される。対向電極9は、放電電極8の先端付近に配置され、接地される。この構成において、第1の加熱手段により水5を蒸発させ、水蒸気中で放電を生じさせる。このとき、水面近傍に放電部を設けることで、空気に流入を防ぎやすくなる。また、水蒸気通路部をなくすことで、装置の小型化を行うことができる。
【実施例6】
【0039】
実施例6では、ヒドロキシルラジカル及び過酸化水素等の活性種とともに負イオンを発生させる活性種発生装置について説明する。実施例1では、放電電極8への印加電圧は、正あるいは負の電圧であったが、実施例6では、放電電極8に負の電圧を印加することに限定していることが異なる。実施例6の詳細について下記で説明する。
【0040】
本実施例の活性種発生装置で発生させるヒドロキシルラジカルは、反応性が高く、菌等を分解することが可能であるが、別の物質と反応しやすい。水蒸気中では式(4)、(5)により過酸化水素に変化してしまう。ここで生成する過酸化水素は、ヒドロキシルラジカルと比較すると除菌作用が弱いが、安定性が高いため、長時間存在することができ、人体への影響も少ない。そのうえ、過酸化水素は、負イオンと反応すると、式(6)、(7)のようにヒドロキシルラジカルを生成する。このため、放電を起こしている付近でなくとも、過酸化水素と負イオンが存在すれば、ヒドロキシルラジカルを生成でき、除菌することが可能になる。
【0041】
上記の反応を利用するために実施例6では、図1の活性種発生装置の放電電極8に印加する電圧V1は、対向電極9に印加する電圧V2よりも低く、対向電極9に印加する電圧V2は、0V以下とする(V1<V2≦0)。この条件を用いて、放電部3にて放電を引き起こすと、各種の活性種とともに水酸化イオンや負の電荷を帯びた水分子Hも生成され、室内空間に放出される。これらの負イオンは、式(4)、(5)により生成された過酸化水素と式(6)、(7)の反応を起こし、ヒドロキシルラジカルを生成する。
【0042】
ここで、上記の現象を実証するための実験を行ったので、説明する。まず、実施例1に係る図1の活性種発生装置において、水蒸気中でヒドロキシルラジカルが生成したときに、式(4)、(5)の反応を経由して生成すると考えられる過酸化水素の濃度を確認するための実験を行った。放電電極8に正あるいは負の電圧を印加して放電を起こし、放電部を通過したガスを凝縮した液体に含まれる過酸化水素濃度を、過酸化水素濃度検査試薬(パックテストWAK−H2O2、株式会社共立理化学研究所製)により評価した。図8は、その実験結果を示す。この実験から、正電圧及び負電圧においてほぼ同量の過酸化水素が生成されていて、印加した電力に比例して、過酸化水素が高濃度化する結果となった。
【0043】
次に、負イオンを同時に発生させた場合の除菌作用の強さを検証するための実験を行った。図9は、実験で使用した測定装置の模式図であり、水蒸気通路部2の形状を変化させた点以外は、実施例1の活性種発生装置と同様の構造となっており、開口部11の先にインジゴカルミン水溶液30を配置する。インジゴカルミン水溶液30は、濃い青色をしているが、ヒドロキシルラジカル、酸素ラジカル、過酸化水素等の活性種との反応によって、分解され、脱色される。この性質を用いて、除菌作用の強さを検証した。
【0044】
まず、放電電極8に正電圧あるいは負電圧を印加した場合について、インジゴカルミン水溶液30の脱色の程度を比較する実験を行った。正電圧の場合、放電電極8に+7.8kVを印加し、対向電極9を接地させ、負電圧の場合、放電電極8に−7.9kVを印加し、対向電極9を接地させて、それぞれ1時間放電を行った。このとき、かかる電力は正負ともに3.8Wである。
【0045】
測定の結果、負電圧を印加したときのほうが、正電圧を印加したときに比べてインジゴカルミン水溶液30がより早く脱色された。これは、負電圧を印加したときのほうが、除菌作用が強いことを示している。負電圧を印加し、負イオンを発生させることで、式(6)、(7)の反応により、除菌作用の強いヒドロキシルラジカルを正電圧印加時より多く生成できることが理由だと考えられる。
【0046】
次に、放電電極8に負電圧を印加する活性種発生装置において、開口部11を開放している場合と、メッシュ状の金属線で囲っている場合について、インジゴカルミン水溶液30の脱色の程度を比較する実験を行った。この実験では、放電電極8に−7.9kVを印加し、対向電極9、及びメッシュ状の金属線を接地させ、1時間放電を行った。
【0047】
測定の結果、開放している場合のほうが、メッシュ状の金属線で囲っている場合と比べてインジゴカルミン水溶液30が脱色された。これは、開口部11を開放している場合のほうが、除菌作用が強いことを示している。開口部11を開放している場合、生成した活性種及び負イオンは効率よく放出されるが、それに対して、開口部11を接地されたメッシュ状の金属線で囲っている場合、負イオンはクーロン力によって金属線に引き寄せられ、電子が奪われてしまうため、負イオンの放出される割合が低くなってしまう。そのため、開放している場合のほうが、負イオンを効率よく放出することができ、除菌作用の強いヒドロキシルラジカルを多く生成することができると考えられる。
【0048】
上記2つの実験結果より、ヒドロキシルラジカル及び酸素ラジカル等の活性種とともに負イオンを放出することで、除菌作用を強められることがわかった。さらに、負イオン及び過酸化水素は、不安定なヒドロキシルラジカルに比べると安定している。このため、活性種発生装置から離れた場所においても、負イオンを作用させることで、ヒドロキシルラジカルを生成し、除菌することができる。このことで、従来は、活性種発生装置近傍しか除菌できなかったが、遠くの対象物に対しても除菌することができるようになる。このとき、例えば、除菌したい対象物あるいは部分をゼロ電位、もしくは正電位にしておけば、負イオンがそこに向かうため、除菌作用を上げることができる。
【実施例7】
【0049】
図10は、本発明に係る活性種発生装置を搭載した汚水浄化装置の構成図である。図10(a)は、活性種が放出される開口部が汚水20に向くように、水蒸気通路部2の形状を変化させた点以外は、実施例1の活性種発生装置と同様の構造となっている。また、図10(b)は、実施例1の活性種発生装置の開口部の先に活性種通路部21を備え、活性種通路部21の一端を汚水20の中に配置させたものである。さらに、第2の加熱手段12を停止させ、活性種発生装置内の圧力が下がったときに起こる汚水の逆流を防ぐために、装置内に空気を送り込むための第1の弁22及び、活性種発生装置の運転開始時に装置内に残存する空気を外部に放出するための第2の弁23を備えている。図10(b)の汚水浄化装置は、直接、汚水の中に活性種を放出させるので、効率の良い浄化効果をもたらすことができる。
【0050】
また、ここでいう汚水とは、雑菌、有機物、金属などを含む水を指す。雑菌及び有機物に関しては、発生させた水素ラジカル、ヒドロキシルラジカル及び酸素ラジカルを放出することより、雑菌や有機物が分解される。金属に関しては、特に重金属が下水汚泥等に含まれることが問題となっているが、この問題は重金属が脂溶性タンパク質に取り込まれていることから、電気分解等により適切に除去できないことが原因である。本発明では、発生させた活性種を脂溶性タンパク質と反応させ、分解し、重金属を含む汚水を適切に処理することが可能となる。
【実施例8】
【0051】
図11は、本発明に係る活性種発生装置を搭載したスチームクリーナの構成図であり、実施例1の活性種発生装置の開口部の先にノズル40を備え、水5を有する容器4の底に移動手段41を備える構造になっている。ノズル40は、放電部3で発生させた除菌作用を持つ酸素ラジカルやヒドロキシルラジカル等の活性種を放出し、床や壁に付着している油、カビ等を取り除く。また、ノズル40は、汚れを拭き取るためのブラシ等を備えても良い。移動手段41は、スチームクリーナ全体を移動させるためものであり、例えばキャスタ等である。移動手段41は、スチームクリーナあるいは容器の大きさや重さに応じて、1つ以上備えれば良い。
【0052】
本発明のスチームクリーナは、強い除菌作用を備える点が従来のスチームクリーナと異なる。従来のスチームクリーナは、高温・高圧の蒸気の力で汚れを浮かして取る掃除用具であり、熱による除菌作用も有する。それに対して、本発明のスチームクリーナは、高温・高圧の蒸気に加え、除菌作用を持つ酸素ラジカルやヒドロキシルラジカル等の活性種を放出するため、従来のスチームクリーナでは除菌出来なかったボツリヌス菌の芽胞や、破傷風菌の芽胞等多種の菌の芽胞までも除菌することが可能になる。
【0053】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0054】
例えば、本発明の実施例では、放電電極8にはワイヤー状の電極を用いているが、針状、球状、鋸歯状であっても良い。
【0055】
また、放電電極8に印加する電圧は、電極の形状、電極間の距離、発生させたい活性種の量等に応じて設定される。電圧波形は、直流が最も好ましいが、直流、パルス、交流であってもよく、指定はしない。
【0056】
また、本発明によれば、活性種だけでなく、イオンも発生させることができるので、イオン発生装置としても使用することが可能である。例えば、実施例1の放電電極8に負の電圧を印加し、負イオンを発生させれば、リラックス効果を生むことができる。また、実施例2の放電電極8に負の電圧、第2の電極13に正の電圧を印加することで、正負両イオンを発生させれば、空気中に浮遊するカビ菌やウィルスの分解、ニオイの除去の効果を生むことができる。
【0057】
また、本発明に係る活性種発生装置は、空気清浄装置に搭載することが可能である。なお、ここでいう空気清浄装置は、空気調和機、除湿器、加湿器、空気清浄機、ファンヒ−タ等であり、主として、家屋の室内、ビルの一室、病院の病室、自動車の車室内、飛行機の機内、船の船室内、無菌環境が必要な室内等の空気を調整すべく用いられる装置である。
【0058】
また、本発明に係る活性種発生装置は、汚水浄化装置に搭載することが可能である。なお、ここでいう汚水浄化装置は、家庭排水だけでなく、レジストを含んだ工場排水などの処理に用いることができる。
【0059】
また、本発明に係る活性種発生装置は、スチームクリーナに搭載することが可能である。なお、ここでいうスチームクリーナは、主として、キッチン、風呂、洗面所といった水まわりや、病院の病室、手術室等の床や壁を洗浄することができる。特に、従来のスチームクリーナから噴出する100℃の水蒸気でも除菌出来なかったボツリヌス菌の芽胞や、破傷風菌の芽胞等、多種類の菌の芽胞までも除菌することが可能になり、院内感染を予防することにもつながる。
【符号の説明】
【0060】
1 蒸発部
2 水蒸気通路部
3 放電部
4 容器
5 水
6 第1の加熱手段
8 放電電極
9 対向電極
10 電圧印加装置
11 開口部
12 第2の加熱手段
13 放電電極
14 対向電極
15 電子発生装置
16 籠電極
17 電圧印加装置
18 絶縁体
20 汚水
21 活性種通路部
22 第1の弁
23 第2の弁
30 インジゴカルミン水溶液
40 ノズル
41 移動手段
81 エアー発生装置
82 送風路
83 開口部
84 被処理物
85 ヒーター
86 高圧放電電極
91 管
92 水蒸気発生部
93 放電部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性種を発生させる活性種発生装置であって、
該活性種発生装置は、
水蒸気を発生させる水蒸気発生手段と、
発生させた水蒸気を加熱する加熱手段と、
放電電極及び対向電極間でコロナ放電を生じさせる放電手段とを備え、
前記活性種発生装置の内部は、水蒸気圧が、前記活性種発生装置の外部の気圧よりも高いことを特徴とする活性種発生装置。
【請求項2】
放電電極に正電圧を印加する第1の活性種発生装置及び、放電電極に負電圧を印加する第2の活性種発生装置で構成される活性種発生装置であって、
前記第1及び第2の活性種発生装置は
水蒸気を発生させる水蒸気発生手段と、
発生させた水蒸気を加熱する加熱手段と、
放電電極及び対向電極間でコロナ放電を生じさせる放電手段とを備え、
前記第1及び第2の活性種発生装置の内部は、水蒸気圧が、前記第1及び第2の活性種発生装置の外部の気圧よりも高いことを特徴とする活性種発生装置。
【請求項3】
前記水蒸気の発生による圧力で外部に活性種を放出することを特徴とする請求項1又は2記載の活性種発生装置。
【請求項4】
前記活性種発生装置は、内側に水を備え、前記水を前記水蒸気に変化させることを特徴とする請求項1記載の活性種発生装置。
【請求項5】
前記活性種発生装置の開口部近傍に電子発生装置を配置することを特徴とする請求項1記載の活性種発生装置。
【請求項6】
前記放電電極と前記対向電極の間に、前記放電電極に印加する電圧と同極性の電圧が印加される電極を備えることを特徴とする請求項1記載の活性種発生装置。
【請求項7】
前記放電電極には、直流電圧を印加することを特徴とする請求項1又は2記載の活性種発生装置。
【請求項8】
前記放電手段は、前記水蒸気が発生する近傍に配置されることを特徴とする請求項1又は2記載の活性種発生装置。
【請求項9】
前記放電電極への印加電圧をV1、前記対向電極への印加電圧をV2としたとき、
V1<V2≦0
であることを特徴とする請求項1記載の活性種発生装置。
【請求項10】
前記第1の活性種発生装置及び前記第2の活性種発生装置は、内側に水を備え、前記水を前記水蒸気に変化させることを特徴とする請求項2記載の活性種発生装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の活性種発生装置を備えることを特徴とする空気清浄装置。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の活性種発生装置を備えることを特徴とする汚水浄化装置。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれかに記載の活性種発生装置を備えたことを特徴とするスチームクリーナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−31827(P2013−31827A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259898(P2011−259898)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(596041995)
【Fターム(参考)】