流体へのマイクロ波連続照射方法及び装置
【課題】流通する溶液系をマイクロ波加熱するための流通型マイクロ波利用化学反応装置及びその方法を提供する。
【解決手段】流通する被加熱対象物質を高効率にマイクロ波加熱する流通型マイクロ波利用化学反応装置であって、マイクロ波発振装置、シングルモードキャビティ、被加熱対象物質である溶液系の流体を流通させる流通管、該流通管内の一端に位置する流体を送液する送液ポンプを有し、上記キャビティは、金属製で内部に円筒型の空間を有し、上記流通管は、上記円筒型の空間を貫通するようにあるいは該空間の中心軸に沿って貫通するように単数乃至複数本設置されており、上記流通管の内側が、細管状乃至非平滑状の形状及び/又は構造に加工されており、流通管に流通させた被加熱対象物質にマイクロ波が集中して照射されるようにしたマイクロ波利用化学反応装置、及びマイクロ波利用化学反応方法。
【解決手段】流通する被加熱対象物質を高効率にマイクロ波加熱する流通型マイクロ波利用化学反応装置であって、マイクロ波発振装置、シングルモードキャビティ、被加熱対象物質である溶液系の流体を流通させる流通管、該流通管内の一端に位置する流体を送液する送液ポンプを有し、上記キャビティは、金属製で内部に円筒型の空間を有し、上記流通管は、上記円筒型の空間を貫通するようにあるいは該空間の中心軸に沿って貫通するように単数乃至複数本設置されており、上記流通管の内側が、細管状乃至非平滑状の形状及び/又は構造に加工されており、流通管に流通させた被加熱対象物質にマイクロ波が集中して照射されるようにしたマイクロ波利用化学反応装置、及びマイクロ波利用化学反応方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液系の化学反応への適用を可能とする流通型マイクロ波利用化学反応装置及びその流通型マイクロ波利用化学反応方法に関するものであり、更に詳しくは、流通する溶液系の化学反応に適用することが可能であり、極性物質だけでなく、トルエンやベンゼン、ヘキサンなどの非極性物質のマイクロ波加熱の適用を可能とする新しい流通型マイクロ波利用化学反応装置及びその方法に関するものである。本発明は、従来、流通する溶液系の化学反応に適用することは難しいとされていたマイクロ波加熱装置及び方法に関して、そのような流通する溶液系の化学反応であってもマイクロ波加熱の適用を可能とする流通型マイクロ波利用化学反応装置及びそのマイクロ波利用化学反応方法に関する新技術を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
化学反応場にマイクロ波を照射することで、化学反応が促進できることは、学術論文などで数多く報告されている(非特許文献1)。一例として、安息香酸のエステル化反応は、通常、8時間かかるとされているが、反応場にマイクロ波を照射することで、5分で、同様の反応収率が得られる、との報告がなされている(非特許文献2)。
【0003】
したがって、化学反応場にマイクロ波を照射することで、反応時間の大幅な短縮や、溶媒や触媒の使用量の削減が可能になることが期待される。しかし、現在、市販されているマイクロ波利用化学反応装置は、その多くがバッチ式のものであり、工業生産に適したフロー型(流通型)の溶液系化学反応への適用は遅れているのが現状である。
【0004】
更に、電磁波であるマイクロ波の吸収は、物質の誘電率及び誘電損率の大きさに依るため、マイクロ波の利用は、誘電率及び誘電損率の小さい非極性物質のマイクロ波加熱には適していないとされていた。このため、化学反応へのマイクロ波の利用は、物質の誘電率や誘電損率に左右されるため、その適用に制限が生じていた。
【0005】
このように、従来のマイクロ波利用化学反応装置は、バッチ型が主流であり、しかも、工業的な化学物質の製造に適した、フロー系(流通型)の溶液系化学反応へ適用できるものは少ないのが実情である。従来のマイクロ波加熱装置を改良した装置も存在しているが、マイクロ波の利用効率に課題があった。本発明者は、これまで、固体触媒充填型の反応器に適した、電界集中型のマイクロ波照射装置を開発してきており、フロー系の気相反応を、高精度で、かつ高いエネルギー利用効率で実施できることを示してきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−173069号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】C.O.Kappe,Angewandte Chem.,43(2004)6250
【非特許文献2】R.N.Gedye et.al.,Canadian Journal of Chemistry−Revue Canadienne de Chimie,66,1(1988)p.17−26
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、流通する溶液系の化学反応に適用することが可能な電界集中型のマイクロ波照射装置などのマイクロ波利用技術を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、定存波を形成するシングルモードキャビティを用いることにより、マイクロ波を特定部位に集中して照射できるようにすることと、特定の形状又は構造を有する流通管を用いて、流体と流通管壁の接触面積を広くすることにより、流通する溶液系の化学反応へ適用できる流通型のマイクロ波利用化学反応装置を構築することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、流通する溶液系の化学反応に適用することが可能な流通型マイクロ波利用化学反応装置を提供することを目的とするものである。また、本発明は、上記流通型マイクロ波利用化学反応装置を使用して、流通する溶液系の化学反応に適用することが可能なマイクロ波利用化学反応方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)流通する被加熱対象物質を高効率にマイクロ波加熱する流通型マイクロ波利用化学反応装置であって、マイクロ波発振装置、シングルモードキャビティ、被加熱対象物質である溶液系の流体を流通させる流通管、該流通管内の一端に位置する流体を送液する送液ポンプを有し、上記キャビティは、金属製で内部に円筒型の空間を有し、上記流通管は、上記円筒型の空間を貫通するようにあるいは該空間の中心軸に沿って貫通するように単数乃至複数本設置されており、上記流通管の内側が、細管状乃至非平滑状の形状及び/又は構造に加工されており、流通管に流通させた被加熱対象物質にマイクロ波が集中して照射されるようにしたことを特徴とするマイクロ波利用化学反応装置。
(2)上記流通管の内側の細管状の内径が大きくても2.9mmのミリメートルサイズ細長チューブ状であり、流通管の内側の非平滑状の形状及び/又は構造が、扁平状、ひだ状形状、又は多孔構造であるか、あるいは、流通管と同材料又は非同一材料の粒子もしくはロッドを充填した構造である、前記(1)に記載のマイクロ波利用化学反応装置。
(3)電界もしくは磁界が集中している部位において、被加熱対象物質と接触する流通管を細くする、流通管の表面をひだ状にする、流通管内に空隙のある物質を充填する、表面に帯電した物質をコーティングする、表面を帯電した状態に保つことができるよう化学処理する、表面を帯電した状態に保つことができるよう物理処理する、あるいはこれらの組み合わせにより、流体と接する面を増やすように加工された形状及び/又は構造を有する流通管が設置されている、前記(1)又は(2)に記載のマイクロ波利用化学反応装置。
(4)上記流通管の材質が、ガラス、石英、アルミナ、プラスチック、フッ素樹脂、又はポリエーテルケトンである、前記(1)から(3)のいずれかに記載のマイクロ波利用化学反応装置。
(5)シングルモードキャビティの構造として、金属製の円筒状の管壁とその両端を塞ぐ側壁を有する円筒型空胴共振器を有しており、円筒内部の特定部分の電界強度が極大となり、管壁部分では電界強度が0となり、かつ円筒軸に沿っては、電界強度が一様な定在波を形成させる構造を有する、前記(1)から(4)のいずれかに記載のマイクロ波化学反応装置。
(6)電界強度が極大となる特定部位が、円筒の中心部分であり、円筒軸にそっては、電界強度が一様な定在波を形成させる構造を有する、前記(1)から(5)のいずれかに記載のマイクロ波化学反応装置。
(7)前記(1)から(6)のいずれかに記載の装置を使用して、流通管に保持もしくは流通させた溶液系の被加熱対象物質にマイクロ波を集中して照射することで、マイクロ波エネルギーを効率よく加熱に利用することを特徴とするマイクロ波利用化学反応方法。
(8)定在波を形成したマイクロ波照射空間内に、被加熱対象物質を保持もしくは流通させ、マイクロ波照射により加熱する、前記(7)に記載のマイクロ波利用化学反応方法。
(9)電界もしくは磁界が集中している部分に、流通管を設置し、その内部に保持もしくは流通させた被加熱対象物質を、マイクロ波照射により加熱する、前記(7)に記載のマイクロ波利用化学反応方法。
(10)上記マイクロ波利用化学反応方法で、非極性溶媒をも加熱する、前記(7)から(9)のいずれかに記載のマイクロ波利用化学反応方法。
【0011】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、円筒型のマイクロ波照射空間に、適切な波長のマイクロ波を照射することにより、中心部分の強度が強く、中心軸上では均一の電界強度分布を有する定在波を形成すること、そして、その部位に、特定の形状又は構造を有する石英ガラス製などの流通管である反応管を配置して、マイクロ波を照射する構成としたこと、それにより、マイクロ波を反応管の反応部位に集中的かつ均一に照射するようにすることで、内部の流体や触媒をマイクロ波で効率よく均一に加熱することができ、反応管内の電界分布及び温度を自動的に制御することができる、新しい流通型マイクロ波利用化学反応装置を構築することを可能としたものである。
【0012】
誘電率及び誘電損失が小さい物質(非極性物質)は、電磁波の吸収が少ないため、従来、マイクロ波加熱をすることができなかったが、化学反応では、例えば、非極性物質のトルエンやベンゼン、ヘキサンなども多く利用するため、これらの物質へのマイクロ波加熱の適用が望まれている。
【0013】
一般に、物質がマイクロ波によって加熱されるときの発熱は、次式で表される。
【0014】
【化1】
【0015】
この中で、|E|[V/m],|H|[A/m]は、それぞれマイクロ波の電界強度、磁界強度であり、σ[S/m]は電気伝導度、f[1/sec]はマイクロ波の周波数、ε0[F/m]は真空中の誘電率、ε’’は誘電損率、μ0[H/m]は真空の透磁率、μ’’は磁気損率、である。
【0016】
このうち、上記式1の右辺の第2項で表される電界による発熱及び第3項で表される磁界による発熱が、マイクロ波加熱に大きな影響を与えることが多い。ここでは、第2項の電界による発熱を例にとり、本発明の特徴を詳しく説明するが、本発明は、上記式1の第1項や第3項についても、同様に当てはまるものである。
【0017】
マイクロ波加熱による発熱量を大きくするには、誘電損率ε’’が大きい物質を選ぶか、電界強度を大きくすることが有効であることが、上記式1から分かる。このため、誘電損率の小さい物質(非極性物質)のマイクロ波加熱は難しい。このような物質を加熱するには、電界強度Eを大きくするか、物質の誘電損率を見かけ上大きくすることが有効であることが分かる。
【0018】
電界強度Eを大きくするためには、マイクロ波を特定の部位に集中させるように照射すること、見かけ上の誘電損率を大きくするためには、被加熱対象物質と流通管(即ち、反応管壁)との間の相互作用を有効に用いること、を実現することが必要とされる。
【0019】
一般に、電界強度を高めるためには、大型のマイクロ波発生器を利用する必要があるが、そのために、装置の大型化や価格が上がるなど課題があり、また、マイクロ波の漏えいや部分的な異常加熱が起こるなど、装置設計も困難になってしまうなどの課題がある。マイクロ波を集中させ、特定の部位に電界強度が極大になるマイクロ波照射方法を構築することで、上記問題を解決しつつ、電界強度を大きくすることが可能となる。
【0020】
本発明では、マイクロ波を特定の部位に集中して照射できる機構として、定存波を形成するシングルモードキャビティを用いる方法を採用した。シングルモードキャビティ中では、電磁界強度の強い場所と弱い場所の時間変化がないため、強い場所にマイクロ波の被加熱対象物質を配置することで、効果的なマイクロ波加熱が可能になる。
【0021】
本発明では、シングルモードキャビティの空胴共振器として、例えば、TM010シングルモードキャビティの他に、TM110モードキャビティ、TM210モードキャビティ、TM020モードキャビティなどが用いられる。また、流通管しては、内径2.9mm以下のミリメートルサイズの流通管、例えば、1.5mm以上2mm以下、1mm以上1.5mm以下、0.5mm以上1mm以下の流通管が用いられる。
【0022】
本発明では、上述のような、内径がミリメートルサイズの流通管を用いることが重要である。流通管の外径及び長さについては、特に制限されるものではなく、また、キャビティ内に配置される流通管の形状及び構造についても、適宜設計することができる。
【0023】
本発明では、キャビティ内に配置する流通管の本数は、単数に限らず、複数配置することも適宜可能であり、また、複数の流通管を適宜の接続方法で接続して配置することで、流通する溶液に対するマイクロ波加熱効率を向上させることが可能である。後記する実施例に示されるように、単数の流通管を配置する方式に限らず、電界強度が極大となる場所に対応して、2〜4本の流通管を配置する方式や、単数であっても、螺旋型の流通管を配置する方式など、適宜の方式を採用することができる。
【0024】
また、本発明では、流通管の内側が、非平滑形状及び/又は構造に加工されていることが重要である。具体的には、例えば、流通管の内側の形状及び/又は構造が、細長チューブ状、扁平状、ひだ状形状、又は多孔構造に加工したもの、流通管と同材料又は非同一材料の粒子もしくはロッド状物質を充填したもの、などが例示される。
【0025】
更に、本発明では、流通管を細くする、表面をひだ状にする、流通管内に空隙のある物質を充填する、表面に帯電した物質をコーティングする、表面に帯電した状態に保つことができるように化学処理又は物理処理する、あるいはこれらの組み合わせにより、流体と接する面を増やすように加工された形状及び/又は構造を、少なくとも被加熱対象物質と接触する流通管の内側部分に形成することが例示される。
【0026】
本発明では、流通管を2.9mm以下のミリメートルサイズに細くすることにより、所期の効果が得られるが、流通管の内側に対して、上述のような、流通管の内側と流通する溶液との接触面積を拡大できる適宜の加工を施すことで、更にその効果を向上させることができる。
【0027】
図1に、代表的なシングルモードキャビティの構造として、円筒の中心軸に沿って均一な電磁界分布(TM010シングルモード)が形成されるように設計した、円筒型TM010キャビティ及びその電界強度分布を示す。円筒型TM010では、円筒の中心軸部分に電界集中部位がある。この他にも、多くの形式のシングルモードキャビティがあり、本発明は、いずれの形式のシングルモードキャビティについても使用可能である。
【0028】
マイクロ波を特定の部位に集中するもう一つの方法として、電磁波を反射し、特定の位置に焦点を結ぶミラー型の構造も考えられる。先行技術として、例えば、楕円型の反射面を有したマイクロ波照射空間に関して、楕円の一つの焦点から供給したマイクロ波をもう一方の焦点に集中照射することができるマイクロ波照射装置(特許文献1)、が開発されている。
【0029】
本発明では、見かけの誘電損率を大きくする方法として、被加熱対象物質とそれを保持する容器(流通管)壁面とに生じる相互作用を用いることを一つの特徴としている。例えば、帯電した壁面近傍の被加熱対象物質の分子は、壁面の電荷により、誘電分極が生じる。誘電分極は、電荷の偏りが生じる現象であり、この電荷の偏りにより、マイクロ波の吸収が高くなる。
【0030】
前述の現象は、帯電した壁面でなくても起き得る。すなわち、壁面を構成する分子は、その分子内で電荷の分布があり、正電荷の強い場所や負電荷の強い部位などがある。例えば、テフロン(登録商標)は、炭素(C)とフッ素(F)から構成されているが、炭素は正電荷、フッ素は負電荷の分布が強くなっている。
【0031】
被加熱対象物質を保持する容器としては、マイクロ波を透過しやすいものが望ましく、該容器の材質としては、例えば、ガラス、石英、アルミナ、テフロン(登録商標)、プラスチック、PEEKなどがあげられる。しかし、本発明は、これらに限定されるものではなく、これらと同等の材質のものであれば、同様に使用することができる。
【0032】
図2に、本発明で使用される流通管ないし容器の形状例を示す。この図に示されるように、流通管としては、例えば、細長チューブ状や扁平状に形成したもの、流通管の内側をひだ状や多孔質構造に加工したもの、あるいは、粒子やロッド状の物質を充填したもの、が例示される。これらの形状及び/又は構造を組み合わせることも、適宜可能である。
【0033】
本発明では、容器表面による誘電分極を高めるために、被加熱対象物質と容器の接触面積を広くする手段が採用される。例えば、容器を小さくすることにより、被加熱対象物質の体積当たりの表面積を高める方法、また、容器もしくは流通管を、図2に示すように、細長くする方法、扁平にする方法、その他、表面をひだ状や多孔質構造に加工する方法、更に、容器内に粒子やロッドの固体物質を充填する方法、などが採用される。
【0034】
本発明では、前述のように、電界を集中させた部位に、容器もしくは流通管に保持した被加熱対象物質を配置することで、非極性溶媒をもマイクロ波加熱することが可能である。本発明では、溶液系の流体を流通させる流通管が用いられるが、該流通管は、通常の流通管や容器状の流通管であってもよい。本発明では、流通管もしくは容器を含めて流通管と云うが、本明細書では、これを容器もしくは流通管と記載して説明することがある。
【0035】
本発明は、非極性物質を加熱できる特徴を有するだけでなく、マイクロ波の吸収がよい物質であっても、更に、マイクロ波の吸収量を増加させることができる。そのため、本発明では、従来の方法よりも、マイクロ波の持つエネルギーを、高い効率で、物質の加熱に利用することができるという作用効果が得られる。
【0036】
本発明は、マイクロ波を照射することにより、化学反応を促進させる装置及び方法を提供するものである。本発明において、化学反応の促進とは、反応温度の低温化や、反応収率の向上、反応選択性の向上、反応時間の短縮、副生物発生の抑制、溶媒使用量の削減、触媒使用量の削減、原料使用量の削減、使用エネルギーの削減などを含む。本発明を、電界を例にとって説明したが、磁界についても、誘電分極を、磁気誘導に、電荷を、磁荷に、正電荷及び負電荷を、N極、S極に読み替えれば、電界と同様に適用可能である。
【0037】
本発明では、電界集中型のマイクロ波照射装置の電界集中部に、例えば、ガラス細管を配置して、該ガラス細管に、流通する溶媒を通過させることで、エネルギー効率よく、迅速に、溶媒をマイクロ波加熱することができ、また、溶媒に、反応基質や触媒を混合すれば、迅速な化学反応を行うことができる。マイクロ波照射により、収率、選択率の向上や、有機溶媒や触媒使用量の削減が可能な反応系と組み合わせることで、エネルギー及びコストパフォーマンスの高い化学反応器を構築することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明により、流通する溶液系の化学反応に適用することが可能な流通型マイクロ波利用化学反応装置及び方法を提供することができる。
(2)本発明の装置により、例えば、アセトン、トルエン、ヘキサンなどの非極性溶媒をもマイクロ波加熱により加熱することが可能となる。
(3)流通する溶液系の被加熱対象物質を、連続的に、しかも短時間で、マイクロ波加熱することが可能である。
(4)マイクロ波電力を、効率よく、熱エネルギーに変換して、極性物質及び非極性物質を、効率よくマイクロ波加熱することを可能とするマイクロ波加熱装置を提供することができる。
(5)本発明の流通型マイクロ波利用化学反応方法を流通する溶液系の化学反応に適用することにより、従来法と比べて、より低い温度で、同様の化学反応を進行させることができる。
(6)本発明の流通型マイクロ波利用化学反応方法を流通する溶液系の化学反応に適用することにより、従来法と比べて、より高い反応収率で、化学反応を進行させることができる。
(7)本発明の流通型マイクロ波利用化学反応方法を流通する溶液系の化学反応に適用することにより、従来法と比べて、より高い反応選択性で、化学反応を進行さることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】TM010キャビティの一例及び該TM010キャビティ内の電界強度分布を示す。
【図2】容器、流通管の形状及び構造の例を示す。
【図3】実施例1のマイクロ波利用化学反応装置の一形態を示す。
【図4】各種溶媒に対するマイクロ波加熱による到達温度を示す。
【図5】本発明装置と市販装置のマイクロ波加熱による上昇温度の比較を示す。
【図6】各種液体のマイクロ波加熱効率を示す。
【図7】各種液体のマイクロ波加熱と上昇温度との関係を示す。
【図8】本発明のマイクロ波加熱のエネルギー利用率と文献値との比較を示す。
【図9】TM110キャビティ及び該キャビティ内の電界強度分布を示す。
【図10】TM210キャビティ及び該キャビティ内の電界強度分布を示す。
【図11】TM020キャビティ及び該キャビティ内の電界強度分布を示す。
【図12】円筒型空胴共振器を示す。
【図13】円筒型空胴共振器内の電界強度分布を示す。
【図14】出口温度で50℃及び90℃になるように、マイクロ波照射強度をフィードバック制御したときの結果を示す。
【図15】液送速度を変えたときの水の加熱に必要なマイクロ波出力を示す。
【図16】エチレングリコールをマイクロ波加熱したときの昇温特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0041】
本発明の実施例の一形態として、図3に、マイクロ波利用化学反応装置の構成例を示す。図3の装置は、マイクロ波発振器・制御器6、TM010キャビティ2、送液ポンプ3、からなる。キャビティは、内部に円筒型の空間を有する金属製の空胴共振器として構成したものである。この空間は、TM010と呼ばれる定在波が形成できるように、その内寸を適宜設定することができる。
【0042】
円筒空間の中心軸に沿って貫通するように、石英ガラス管から構成される反応管を設置した。流体が、この石英ガラス管を流通できるように、片側に、送液ポンプ3を取り付けた。石英ガラス管の反対側には、流体の温度を計測できるように、温度計5として熱電対を取り付けた。また、内部の電界強度を計測するために、電界モニター4を取り付けた。
【0043】
マイクロ波発振器、制御器6として、周波数を調整できる半導体式マイクロ波発振器を用いた。マイクロ波発振器の発振周波数は、キャビティ内にTM010の定在波が維持できる周波数となるように、電界モニター4からの信号を適切に制御して調整した。
【0044】
反応管としては、内径1mm、外径2mm、長さ200mmの石英ガラス管を用いた。このうち、長さ方向の100mmの部分をキャビティ内に入れ、この部分にマイクロ波が照射されるようにした。
【0045】
本実施例では、溶液系の液体として、図4に示す溶媒を用いた。マイクロ波加熱しやすい例として、エチレングリコール、エタノール、メタノール、及び水を用いた。また、従来、マイクロ波加熱が難しいとされている非極性物質の例として、アセトン、トルエン、及びヘキサンを用いた。図には、本実施例の結果と併せて、文献(越島哲夫著、「マイクロ波の新しい工業利用技術」、株式会社エヌ・ティー・エス、5頁、発行日:2003年11月1日)に示されているマイクロ波加熱の文献値を載せている。
【0046】
ここでは、出力500Wの電子レンジタイプのマイクロ波照射装置内に、それぞれの液体(初期温度20℃)を10ml入れ、マイクロ波照射30秒、及び60秒間で到達した、30秒後、60秒後の到達温度を示している。極性溶媒では、加熱できているが、非極性物質は、初期温度の20℃からほとんど加熱できていないことが分かる。
【0047】
図5に、溶液として水を用い、送液ポンプにより送液したときの、マイクロ波を照射してからの温度上昇の時間変化を示す。図には、本発明装置による結果と、比較のため、市販のマイクロ波加熱装置に、同様の反応管を取り付けた装置(市販装置)による結果を示す。
【0048】
本発明装置では、出力14Wのマイクロ波電力の投入により、20秒で70℃の温度上昇がみられたが、市販装置では、送液速度0.5cc/min、マイクロ波電力200Wの条件でも、26℃にしか到達していないことが分かる。これは、本発明では、反応管部分にマイクロ波が集中し照射されているため、マイクロ波電力を、効率よく熱に変換できていることを示すものと考えられる。
【0049】
各種液体のマイクロ波加熱効率として、図6に、各種液体に対して投入したマイクロ波出力に対して到達した上昇温度を、まとめて示す。
【0050】
これは、各種液体を送液ポンプで2.5ml/minもしくは3.6ml/minで送液し、図3に示すキャビティを利用し、マイクロ波を照射したときの、出口での液体の温度を測定した結果を示すものである。液体がマイクロ波照射空間を通過する滞留時間は、1.3秒から1.9秒ときわめて短いにもかかわらず、液体が加熱できていることが分かる。
【0051】
極性溶媒のエチレングリコールでは、19Wのマイクロ波を1.9秒間のみ照射しているにもかかわらず、164℃もの温度上昇がみられる。また、非極性溶媒のヘキサンでも、16.7Wのマイクロ波照射で49.7℃の温度上昇がみられ、これまで難しいとされていた非極性溶媒でも、本発明装置を用いれば、マイクロ波加熱が可能であることが分かる。
【0052】
各種液体に対して投入したマイクロ波電力に対して到達した温度を、図7にまとめて示す。いずれの液体も、マイクロ波電力に対して、比例的に温度上昇がみられ、マイクロ波電力をコントロールすることで、液体の加熱を調整できることが分かる。
【0053】
図8に、本発明装置で、マイクロ波電力がどの程度液体の加熱に利用されているかを整理した結果を示す。加熱に使われた単位時間あたりのエネルギーは、水の比熱をCw、温度変化をΔT、流速をFとするとの温度上昇から、
Psolvent=Cw×ΔT×F (式2)
と表すことができる。
【0054】
このエネルギーに対して照射したマイクロ波電力Pmwと比較し、マイクロ波エネルギー利用効率
η=Psolvent/Pmw (式3)
を算出した。
【0055】
表1に、各種溶媒の加熱効率について、電子レンジの場合と本発明装置(開発品)を比較した結果を示す。
【0056】
【表1】
【0057】
以上の実施例より、マイクロ波を集中させ、表面積が多くなるように工夫した流通管に液体を流通させることで、マイクロ波エネルギーを、効率よく加熱に利用できることが示された。特に、これまで、マイクロ波加熱が難しいとされていた、非極性溶媒のマイクロ波加熱も可能であることが示された。
【実施例2】
【0058】
本実施例では、TM110モードとなるキャビティを用いた他は、実施例1と同様にして、実験を行った。図9に、本実施例は、電磁波の照射手段として用いたTM110モードとなるキャビティ、及びその電界強度分布を示す。この場合、電界強度が極大となる場所が2か所あり、その部分に2本の反応管を配置することで、同時に2本の反応管による合成反応を実施した。
【0059】
その結果、電磁波の照射手段としては、本実施例に示す形態でも、同様の結果を得ることができること、片側の反応管の出口を、もう一つの反応管の入口に接続することで、反応管を流通する反応溶液に対し、2倍の時間で電磁波を照射することができ、反応溶液の滞留時間を2倍にすることができることが分かった。
【実施例3】
【0060】
本実施例では、TM210モードとなるキャビティを用いた他は、実施例1と同様にして、実験を行った。図10に、本実施例は、電磁波の照射手段として用いたTM210モードとなるキャビティ、及びその電界強度分布を示す。この場合、電界強度が極大となる場所は、4か所あり、4本の反応管に同時に電磁波を照射することができること、また、反応管の接続方法を工夫すれば、反応溶液の滞留時間を4倍とすることもできることが分かった。
【実施例4】
【0061】
本実施例では、TM020モードとなるキャビティを用いた他は、実施例1と同様にして、実験を行った。図11に、本実施例は、電磁波の照射手段として用いたTM020モードとなるキャビティ、及びその電界強度分布を示す。この場合、中心の電界強度が最も強いが、その外周にも、電磁波強度が極大トなる場所がある。この部分に、螺旋型の反応管を配置することで、反応溶液を長い時間電磁波照射することができることが分かった。
【実施例5】
【0062】
(1)実験装置・方法
図12に示す、円筒型空胴共振器(内径84mm、長さ100mm)の中心軸に、外径2mm、内径1mmのガラス管(パイレックス(登録商標)製)を設置し、上部から送液ポンプにより各種溶媒(水、エチレングリコール)を送液した。空胴共振器にマイクロ波を照射すると、図13に示す電界強度分布に示されるように、ガラス管部分に電界が集中し、効率的にガラス管内の溶媒を加熱することができた。
【0063】
ガラス管出口部分に、熱電対(K型、太さφ0.25mm)を挿入し、溶液の温度を測定した。表2に示す実験条件で、溶液を送液し、温度制御をしたときのマイクロ波照射電力(パワー)を調べた。表2に、実験条件及び結果を示す。
【0064】
【表2】
【0065】
(2)水の加熱試験
図14に、出口温度を50℃及び90℃になるように、マイクロ波照射強度をフィードバック制御したときの結果を示す。図より、例えば、50℃の設定温度に対して、±1℃程度で制御できていることが分かる。水の温度上昇から、加熱に使われた単位時間あたりのエネルギーは、水の比熱をCw、温度変化をΔT、流速をFとすると、
Psolvent=Cw×ΔT×F
と表すことができる。
【0066】
このエネルギーに対して、照射したマイクロ波電力Pmwと比較し、マイクロ波エネルギー利用効率(η=Psolvent/Pmw)を算出すると、50℃加熱のとき、η=93%、90℃加熱のとき、η=82%となり、マイクロ波エネルギーが、効率的に水の加熱に利用がされていることが示された。
【0067】
図15に、送液速度を変えたとき、水を加熱するのに必要なマイクロ波出力エネルギーを示す。実線は、エネルギー利用効率100%のときの理論値を示す。理論値を示すプロットは、いずれも実線に近く、本システムのマイクロ波エネルギーの利用効率が高いことが判る。なお、この図より、処理量に対して、必要なマイクロ波電力を計算することができる。例えば、100ml/min(140kg/dayに相当)の速さで流れる水を、90℃まで加熱するのに必要なマイクロ波発振器の容量は、600W程度であることが判る。
【0068】
(3)エチレングリコールの加熱試験
図16に、エチレングリコールをマイクロ波加熱したときの昇温特性を示す。このときの送液速度は、2.5ml/minであり、マイクロ波照射空間を通過する滞留時間は、1.9秒である。目標温度を30秒ごとに、50,120,140,160,180℃とステップ状に変えた。出口でのエチレングリコールの温度が、目標温度に追随しており、制御性が高いことが分かる。2.5ml/minのとき、180℃に昇温するのに、32.6W必要であった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上詳述したように、本発明は、流通型マイクロ波利用化学反応装置及びその方法に係るものであり、本発明により、溶液系の化学反応へ適用することを可能とする流通型マイクロ波利用化学反応装置及び方法を提供することができる。本発明の装置により、例えば、アセトン、トルエン、ヘキサンなどの非極性溶媒をもマイクロ波加熱により加熱することができ、これらを、連続的に、しかも短時間でマイクロ波加熱することが可能である。本発明は、マイクロ波電力を効率よく熱エネルギーに変換して、溶液系の化学反応の溶液自体を効率よく加熱することを可能とする流通型マイクロ波利用化学反応装置及び流通型マイクロ波利用化学反応方法を提供するものとして有用である。
【符号の説明】
【0070】
(図1の符号)
1 円筒型TM010キャビティ
2 マイクロ波照射口
3 TM010キャビティ内に誘起される電界分布(半径方向)
(図2の符号)
1 細長チューブ
2 扁平
3 ひだ
4 多孔質
5 充填(粒子)
6 充填(ロッド)
(図3の符号)
1 マイクロ波照射口
2 TM010キャビティ
3 送液ポンプ
4 電界モニター
5 温度計
6 マイクロ波発振器・制御器
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液系の化学反応への適用を可能とする流通型マイクロ波利用化学反応装置及びその流通型マイクロ波利用化学反応方法に関するものであり、更に詳しくは、流通する溶液系の化学反応に適用することが可能であり、極性物質だけでなく、トルエンやベンゼン、ヘキサンなどの非極性物質のマイクロ波加熱の適用を可能とする新しい流通型マイクロ波利用化学反応装置及びその方法に関するものである。本発明は、従来、流通する溶液系の化学反応に適用することは難しいとされていたマイクロ波加熱装置及び方法に関して、そのような流通する溶液系の化学反応であってもマイクロ波加熱の適用を可能とする流通型マイクロ波利用化学反応装置及びそのマイクロ波利用化学反応方法に関する新技術を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
化学反応場にマイクロ波を照射することで、化学反応が促進できることは、学術論文などで数多く報告されている(非特許文献1)。一例として、安息香酸のエステル化反応は、通常、8時間かかるとされているが、反応場にマイクロ波を照射することで、5分で、同様の反応収率が得られる、との報告がなされている(非特許文献2)。
【0003】
したがって、化学反応場にマイクロ波を照射することで、反応時間の大幅な短縮や、溶媒や触媒の使用量の削減が可能になることが期待される。しかし、現在、市販されているマイクロ波利用化学反応装置は、その多くがバッチ式のものであり、工業生産に適したフロー型(流通型)の溶液系化学反応への適用は遅れているのが現状である。
【0004】
更に、電磁波であるマイクロ波の吸収は、物質の誘電率及び誘電損率の大きさに依るため、マイクロ波の利用は、誘電率及び誘電損率の小さい非極性物質のマイクロ波加熱には適していないとされていた。このため、化学反応へのマイクロ波の利用は、物質の誘電率や誘電損率に左右されるため、その適用に制限が生じていた。
【0005】
このように、従来のマイクロ波利用化学反応装置は、バッチ型が主流であり、しかも、工業的な化学物質の製造に適した、フロー系(流通型)の溶液系化学反応へ適用できるものは少ないのが実情である。従来のマイクロ波加熱装置を改良した装置も存在しているが、マイクロ波の利用効率に課題があった。本発明者は、これまで、固体触媒充填型の反応器に適した、電界集中型のマイクロ波照射装置を開発してきており、フロー系の気相反応を、高精度で、かつ高いエネルギー利用効率で実施できることを示してきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−173069号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】C.O.Kappe,Angewandte Chem.,43(2004)6250
【非特許文献2】R.N.Gedye et.al.,Canadian Journal of Chemistry−Revue Canadienne de Chimie,66,1(1988)p.17−26
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、流通する溶液系の化学反応に適用することが可能な電界集中型のマイクロ波照射装置などのマイクロ波利用技術を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、定存波を形成するシングルモードキャビティを用いることにより、マイクロ波を特定部位に集中して照射できるようにすることと、特定の形状又は構造を有する流通管を用いて、流体と流通管壁の接触面積を広くすることにより、流通する溶液系の化学反応へ適用できる流通型のマイクロ波利用化学反応装置を構築することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、流通する溶液系の化学反応に適用することが可能な流通型マイクロ波利用化学反応装置を提供することを目的とするものである。また、本発明は、上記流通型マイクロ波利用化学反応装置を使用して、流通する溶液系の化学反応に適用することが可能なマイクロ波利用化学反応方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)流通する被加熱対象物質を高効率にマイクロ波加熱する流通型マイクロ波利用化学反応装置であって、マイクロ波発振装置、シングルモードキャビティ、被加熱対象物質である溶液系の流体を流通させる流通管、該流通管内の一端に位置する流体を送液する送液ポンプを有し、上記キャビティは、金属製で内部に円筒型の空間を有し、上記流通管は、上記円筒型の空間を貫通するようにあるいは該空間の中心軸に沿って貫通するように単数乃至複数本設置されており、上記流通管の内側が、細管状乃至非平滑状の形状及び/又は構造に加工されており、流通管に流通させた被加熱対象物質にマイクロ波が集中して照射されるようにしたことを特徴とするマイクロ波利用化学反応装置。
(2)上記流通管の内側の細管状の内径が大きくても2.9mmのミリメートルサイズ細長チューブ状であり、流通管の内側の非平滑状の形状及び/又は構造が、扁平状、ひだ状形状、又は多孔構造であるか、あるいは、流通管と同材料又は非同一材料の粒子もしくはロッドを充填した構造である、前記(1)に記載のマイクロ波利用化学反応装置。
(3)電界もしくは磁界が集中している部位において、被加熱対象物質と接触する流通管を細くする、流通管の表面をひだ状にする、流通管内に空隙のある物質を充填する、表面に帯電した物質をコーティングする、表面を帯電した状態に保つことができるよう化学処理する、表面を帯電した状態に保つことができるよう物理処理する、あるいはこれらの組み合わせにより、流体と接する面を増やすように加工された形状及び/又は構造を有する流通管が設置されている、前記(1)又は(2)に記載のマイクロ波利用化学反応装置。
(4)上記流通管の材質が、ガラス、石英、アルミナ、プラスチック、フッ素樹脂、又はポリエーテルケトンである、前記(1)から(3)のいずれかに記載のマイクロ波利用化学反応装置。
(5)シングルモードキャビティの構造として、金属製の円筒状の管壁とその両端を塞ぐ側壁を有する円筒型空胴共振器を有しており、円筒内部の特定部分の電界強度が極大となり、管壁部分では電界強度が0となり、かつ円筒軸に沿っては、電界強度が一様な定在波を形成させる構造を有する、前記(1)から(4)のいずれかに記載のマイクロ波化学反応装置。
(6)電界強度が極大となる特定部位が、円筒の中心部分であり、円筒軸にそっては、電界強度が一様な定在波を形成させる構造を有する、前記(1)から(5)のいずれかに記載のマイクロ波化学反応装置。
(7)前記(1)から(6)のいずれかに記載の装置を使用して、流通管に保持もしくは流通させた溶液系の被加熱対象物質にマイクロ波を集中して照射することで、マイクロ波エネルギーを効率よく加熱に利用することを特徴とするマイクロ波利用化学反応方法。
(8)定在波を形成したマイクロ波照射空間内に、被加熱対象物質を保持もしくは流通させ、マイクロ波照射により加熱する、前記(7)に記載のマイクロ波利用化学反応方法。
(9)電界もしくは磁界が集中している部分に、流通管を設置し、その内部に保持もしくは流通させた被加熱対象物質を、マイクロ波照射により加熱する、前記(7)に記載のマイクロ波利用化学反応方法。
(10)上記マイクロ波利用化学反応方法で、非極性溶媒をも加熱する、前記(7)から(9)のいずれかに記載のマイクロ波利用化学反応方法。
【0011】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、円筒型のマイクロ波照射空間に、適切な波長のマイクロ波を照射することにより、中心部分の強度が強く、中心軸上では均一の電界強度分布を有する定在波を形成すること、そして、その部位に、特定の形状又は構造を有する石英ガラス製などの流通管である反応管を配置して、マイクロ波を照射する構成としたこと、それにより、マイクロ波を反応管の反応部位に集中的かつ均一に照射するようにすることで、内部の流体や触媒をマイクロ波で効率よく均一に加熱することができ、反応管内の電界分布及び温度を自動的に制御することができる、新しい流通型マイクロ波利用化学反応装置を構築することを可能としたものである。
【0012】
誘電率及び誘電損失が小さい物質(非極性物質)は、電磁波の吸収が少ないため、従来、マイクロ波加熱をすることができなかったが、化学反応では、例えば、非極性物質のトルエンやベンゼン、ヘキサンなども多く利用するため、これらの物質へのマイクロ波加熱の適用が望まれている。
【0013】
一般に、物質がマイクロ波によって加熱されるときの発熱は、次式で表される。
【0014】
【化1】
【0015】
この中で、|E|[V/m],|H|[A/m]は、それぞれマイクロ波の電界強度、磁界強度であり、σ[S/m]は電気伝導度、f[1/sec]はマイクロ波の周波数、ε0[F/m]は真空中の誘電率、ε’’は誘電損率、μ0[H/m]は真空の透磁率、μ’’は磁気損率、である。
【0016】
このうち、上記式1の右辺の第2項で表される電界による発熱及び第3項で表される磁界による発熱が、マイクロ波加熱に大きな影響を与えることが多い。ここでは、第2項の電界による発熱を例にとり、本発明の特徴を詳しく説明するが、本発明は、上記式1の第1項や第3項についても、同様に当てはまるものである。
【0017】
マイクロ波加熱による発熱量を大きくするには、誘電損率ε’’が大きい物質を選ぶか、電界強度を大きくすることが有効であることが、上記式1から分かる。このため、誘電損率の小さい物質(非極性物質)のマイクロ波加熱は難しい。このような物質を加熱するには、電界強度Eを大きくするか、物質の誘電損率を見かけ上大きくすることが有効であることが分かる。
【0018】
電界強度Eを大きくするためには、マイクロ波を特定の部位に集中させるように照射すること、見かけ上の誘電損率を大きくするためには、被加熱対象物質と流通管(即ち、反応管壁)との間の相互作用を有効に用いること、を実現することが必要とされる。
【0019】
一般に、電界強度を高めるためには、大型のマイクロ波発生器を利用する必要があるが、そのために、装置の大型化や価格が上がるなど課題があり、また、マイクロ波の漏えいや部分的な異常加熱が起こるなど、装置設計も困難になってしまうなどの課題がある。マイクロ波を集中させ、特定の部位に電界強度が極大になるマイクロ波照射方法を構築することで、上記問題を解決しつつ、電界強度を大きくすることが可能となる。
【0020】
本発明では、マイクロ波を特定の部位に集中して照射できる機構として、定存波を形成するシングルモードキャビティを用いる方法を採用した。シングルモードキャビティ中では、電磁界強度の強い場所と弱い場所の時間変化がないため、強い場所にマイクロ波の被加熱対象物質を配置することで、効果的なマイクロ波加熱が可能になる。
【0021】
本発明では、シングルモードキャビティの空胴共振器として、例えば、TM010シングルモードキャビティの他に、TM110モードキャビティ、TM210モードキャビティ、TM020モードキャビティなどが用いられる。また、流通管しては、内径2.9mm以下のミリメートルサイズの流通管、例えば、1.5mm以上2mm以下、1mm以上1.5mm以下、0.5mm以上1mm以下の流通管が用いられる。
【0022】
本発明では、上述のような、内径がミリメートルサイズの流通管を用いることが重要である。流通管の外径及び長さについては、特に制限されるものではなく、また、キャビティ内に配置される流通管の形状及び構造についても、適宜設計することができる。
【0023】
本発明では、キャビティ内に配置する流通管の本数は、単数に限らず、複数配置することも適宜可能であり、また、複数の流通管を適宜の接続方法で接続して配置することで、流通する溶液に対するマイクロ波加熱効率を向上させることが可能である。後記する実施例に示されるように、単数の流通管を配置する方式に限らず、電界強度が極大となる場所に対応して、2〜4本の流通管を配置する方式や、単数であっても、螺旋型の流通管を配置する方式など、適宜の方式を採用することができる。
【0024】
また、本発明では、流通管の内側が、非平滑形状及び/又は構造に加工されていることが重要である。具体的には、例えば、流通管の内側の形状及び/又は構造が、細長チューブ状、扁平状、ひだ状形状、又は多孔構造に加工したもの、流通管と同材料又は非同一材料の粒子もしくはロッド状物質を充填したもの、などが例示される。
【0025】
更に、本発明では、流通管を細くする、表面をひだ状にする、流通管内に空隙のある物質を充填する、表面に帯電した物質をコーティングする、表面に帯電した状態に保つことができるように化学処理又は物理処理する、あるいはこれらの組み合わせにより、流体と接する面を増やすように加工された形状及び/又は構造を、少なくとも被加熱対象物質と接触する流通管の内側部分に形成することが例示される。
【0026】
本発明では、流通管を2.9mm以下のミリメートルサイズに細くすることにより、所期の効果が得られるが、流通管の内側に対して、上述のような、流通管の内側と流通する溶液との接触面積を拡大できる適宜の加工を施すことで、更にその効果を向上させることができる。
【0027】
図1に、代表的なシングルモードキャビティの構造として、円筒の中心軸に沿って均一な電磁界分布(TM010シングルモード)が形成されるように設計した、円筒型TM010キャビティ及びその電界強度分布を示す。円筒型TM010では、円筒の中心軸部分に電界集中部位がある。この他にも、多くの形式のシングルモードキャビティがあり、本発明は、いずれの形式のシングルモードキャビティについても使用可能である。
【0028】
マイクロ波を特定の部位に集中するもう一つの方法として、電磁波を反射し、特定の位置に焦点を結ぶミラー型の構造も考えられる。先行技術として、例えば、楕円型の反射面を有したマイクロ波照射空間に関して、楕円の一つの焦点から供給したマイクロ波をもう一方の焦点に集中照射することができるマイクロ波照射装置(特許文献1)、が開発されている。
【0029】
本発明では、見かけの誘電損率を大きくする方法として、被加熱対象物質とそれを保持する容器(流通管)壁面とに生じる相互作用を用いることを一つの特徴としている。例えば、帯電した壁面近傍の被加熱対象物質の分子は、壁面の電荷により、誘電分極が生じる。誘電分極は、電荷の偏りが生じる現象であり、この電荷の偏りにより、マイクロ波の吸収が高くなる。
【0030】
前述の現象は、帯電した壁面でなくても起き得る。すなわち、壁面を構成する分子は、その分子内で電荷の分布があり、正電荷の強い場所や負電荷の強い部位などがある。例えば、テフロン(登録商標)は、炭素(C)とフッ素(F)から構成されているが、炭素は正電荷、フッ素は負電荷の分布が強くなっている。
【0031】
被加熱対象物質を保持する容器としては、マイクロ波を透過しやすいものが望ましく、該容器の材質としては、例えば、ガラス、石英、アルミナ、テフロン(登録商標)、プラスチック、PEEKなどがあげられる。しかし、本発明は、これらに限定されるものではなく、これらと同等の材質のものであれば、同様に使用することができる。
【0032】
図2に、本発明で使用される流通管ないし容器の形状例を示す。この図に示されるように、流通管としては、例えば、細長チューブ状や扁平状に形成したもの、流通管の内側をひだ状や多孔質構造に加工したもの、あるいは、粒子やロッド状の物質を充填したもの、が例示される。これらの形状及び/又は構造を組み合わせることも、適宜可能である。
【0033】
本発明では、容器表面による誘電分極を高めるために、被加熱対象物質と容器の接触面積を広くする手段が採用される。例えば、容器を小さくすることにより、被加熱対象物質の体積当たりの表面積を高める方法、また、容器もしくは流通管を、図2に示すように、細長くする方法、扁平にする方法、その他、表面をひだ状や多孔質構造に加工する方法、更に、容器内に粒子やロッドの固体物質を充填する方法、などが採用される。
【0034】
本発明では、前述のように、電界を集中させた部位に、容器もしくは流通管に保持した被加熱対象物質を配置することで、非極性溶媒をもマイクロ波加熱することが可能である。本発明では、溶液系の流体を流通させる流通管が用いられるが、該流通管は、通常の流通管や容器状の流通管であってもよい。本発明では、流通管もしくは容器を含めて流通管と云うが、本明細書では、これを容器もしくは流通管と記載して説明することがある。
【0035】
本発明は、非極性物質を加熱できる特徴を有するだけでなく、マイクロ波の吸収がよい物質であっても、更に、マイクロ波の吸収量を増加させることができる。そのため、本発明では、従来の方法よりも、マイクロ波の持つエネルギーを、高い効率で、物質の加熱に利用することができるという作用効果が得られる。
【0036】
本発明は、マイクロ波を照射することにより、化学反応を促進させる装置及び方法を提供するものである。本発明において、化学反応の促進とは、反応温度の低温化や、反応収率の向上、反応選択性の向上、反応時間の短縮、副生物発生の抑制、溶媒使用量の削減、触媒使用量の削減、原料使用量の削減、使用エネルギーの削減などを含む。本発明を、電界を例にとって説明したが、磁界についても、誘電分極を、磁気誘導に、電荷を、磁荷に、正電荷及び負電荷を、N極、S極に読み替えれば、電界と同様に適用可能である。
【0037】
本発明では、電界集中型のマイクロ波照射装置の電界集中部に、例えば、ガラス細管を配置して、該ガラス細管に、流通する溶媒を通過させることで、エネルギー効率よく、迅速に、溶媒をマイクロ波加熱することができ、また、溶媒に、反応基質や触媒を混合すれば、迅速な化学反応を行うことができる。マイクロ波照射により、収率、選択率の向上や、有機溶媒や触媒使用量の削減が可能な反応系と組み合わせることで、エネルギー及びコストパフォーマンスの高い化学反応器を構築することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明により、流通する溶液系の化学反応に適用することが可能な流通型マイクロ波利用化学反応装置及び方法を提供することができる。
(2)本発明の装置により、例えば、アセトン、トルエン、ヘキサンなどの非極性溶媒をもマイクロ波加熱により加熱することが可能となる。
(3)流通する溶液系の被加熱対象物質を、連続的に、しかも短時間で、マイクロ波加熱することが可能である。
(4)マイクロ波電力を、効率よく、熱エネルギーに変換して、極性物質及び非極性物質を、効率よくマイクロ波加熱することを可能とするマイクロ波加熱装置を提供することができる。
(5)本発明の流通型マイクロ波利用化学反応方法を流通する溶液系の化学反応に適用することにより、従来法と比べて、より低い温度で、同様の化学反応を進行させることができる。
(6)本発明の流通型マイクロ波利用化学反応方法を流通する溶液系の化学反応に適用することにより、従来法と比べて、より高い反応収率で、化学反応を進行させることができる。
(7)本発明の流通型マイクロ波利用化学反応方法を流通する溶液系の化学反応に適用することにより、従来法と比べて、より高い反応選択性で、化学反応を進行さることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】TM010キャビティの一例及び該TM010キャビティ内の電界強度分布を示す。
【図2】容器、流通管の形状及び構造の例を示す。
【図3】実施例1のマイクロ波利用化学反応装置の一形態を示す。
【図4】各種溶媒に対するマイクロ波加熱による到達温度を示す。
【図5】本発明装置と市販装置のマイクロ波加熱による上昇温度の比較を示す。
【図6】各種液体のマイクロ波加熱効率を示す。
【図7】各種液体のマイクロ波加熱と上昇温度との関係を示す。
【図8】本発明のマイクロ波加熱のエネルギー利用率と文献値との比較を示す。
【図9】TM110キャビティ及び該キャビティ内の電界強度分布を示す。
【図10】TM210キャビティ及び該キャビティ内の電界強度分布を示す。
【図11】TM020キャビティ及び該キャビティ内の電界強度分布を示す。
【図12】円筒型空胴共振器を示す。
【図13】円筒型空胴共振器内の電界強度分布を示す。
【図14】出口温度で50℃及び90℃になるように、マイクロ波照射強度をフィードバック制御したときの結果を示す。
【図15】液送速度を変えたときの水の加熱に必要なマイクロ波出力を示す。
【図16】エチレングリコールをマイクロ波加熱したときの昇温特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0040】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0041】
本発明の実施例の一形態として、図3に、マイクロ波利用化学反応装置の構成例を示す。図3の装置は、マイクロ波発振器・制御器6、TM010キャビティ2、送液ポンプ3、からなる。キャビティは、内部に円筒型の空間を有する金属製の空胴共振器として構成したものである。この空間は、TM010と呼ばれる定在波が形成できるように、その内寸を適宜設定することができる。
【0042】
円筒空間の中心軸に沿って貫通するように、石英ガラス管から構成される反応管を設置した。流体が、この石英ガラス管を流通できるように、片側に、送液ポンプ3を取り付けた。石英ガラス管の反対側には、流体の温度を計測できるように、温度計5として熱電対を取り付けた。また、内部の電界強度を計測するために、電界モニター4を取り付けた。
【0043】
マイクロ波発振器、制御器6として、周波数を調整できる半導体式マイクロ波発振器を用いた。マイクロ波発振器の発振周波数は、キャビティ内にTM010の定在波が維持できる周波数となるように、電界モニター4からの信号を適切に制御して調整した。
【0044】
反応管としては、内径1mm、外径2mm、長さ200mmの石英ガラス管を用いた。このうち、長さ方向の100mmの部分をキャビティ内に入れ、この部分にマイクロ波が照射されるようにした。
【0045】
本実施例では、溶液系の液体として、図4に示す溶媒を用いた。マイクロ波加熱しやすい例として、エチレングリコール、エタノール、メタノール、及び水を用いた。また、従来、マイクロ波加熱が難しいとされている非極性物質の例として、アセトン、トルエン、及びヘキサンを用いた。図には、本実施例の結果と併せて、文献(越島哲夫著、「マイクロ波の新しい工業利用技術」、株式会社エヌ・ティー・エス、5頁、発行日:2003年11月1日)に示されているマイクロ波加熱の文献値を載せている。
【0046】
ここでは、出力500Wの電子レンジタイプのマイクロ波照射装置内に、それぞれの液体(初期温度20℃)を10ml入れ、マイクロ波照射30秒、及び60秒間で到達した、30秒後、60秒後の到達温度を示している。極性溶媒では、加熱できているが、非極性物質は、初期温度の20℃からほとんど加熱できていないことが分かる。
【0047】
図5に、溶液として水を用い、送液ポンプにより送液したときの、マイクロ波を照射してからの温度上昇の時間変化を示す。図には、本発明装置による結果と、比較のため、市販のマイクロ波加熱装置に、同様の反応管を取り付けた装置(市販装置)による結果を示す。
【0048】
本発明装置では、出力14Wのマイクロ波電力の投入により、20秒で70℃の温度上昇がみられたが、市販装置では、送液速度0.5cc/min、マイクロ波電力200Wの条件でも、26℃にしか到達していないことが分かる。これは、本発明では、反応管部分にマイクロ波が集中し照射されているため、マイクロ波電力を、効率よく熱に変換できていることを示すものと考えられる。
【0049】
各種液体のマイクロ波加熱効率として、図6に、各種液体に対して投入したマイクロ波出力に対して到達した上昇温度を、まとめて示す。
【0050】
これは、各種液体を送液ポンプで2.5ml/minもしくは3.6ml/minで送液し、図3に示すキャビティを利用し、マイクロ波を照射したときの、出口での液体の温度を測定した結果を示すものである。液体がマイクロ波照射空間を通過する滞留時間は、1.3秒から1.9秒ときわめて短いにもかかわらず、液体が加熱できていることが分かる。
【0051】
極性溶媒のエチレングリコールでは、19Wのマイクロ波を1.9秒間のみ照射しているにもかかわらず、164℃もの温度上昇がみられる。また、非極性溶媒のヘキサンでも、16.7Wのマイクロ波照射で49.7℃の温度上昇がみられ、これまで難しいとされていた非極性溶媒でも、本発明装置を用いれば、マイクロ波加熱が可能であることが分かる。
【0052】
各種液体に対して投入したマイクロ波電力に対して到達した温度を、図7にまとめて示す。いずれの液体も、マイクロ波電力に対して、比例的に温度上昇がみられ、マイクロ波電力をコントロールすることで、液体の加熱を調整できることが分かる。
【0053】
図8に、本発明装置で、マイクロ波電力がどの程度液体の加熱に利用されているかを整理した結果を示す。加熱に使われた単位時間あたりのエネルギーは、水の比熱をCw、温度変化をΔT、流速をFとするとの温度上昇から、
Psolvent=Cw×ΔT×F (式2)
と表すことができる。
【0054】
このエネルギーに対して照射したマイクロ波電力Pmwと比較し、マイクロ波エネルギー利用効率
η=Psolvent/Pmw (式3)
を算出した。
【0055】
表1に、各種溶媒の加熱効率について、電子レンジの場合と本発明装置(開発品)を比較した結果を示す。
【0056】
【表1】
【0057】
以上の実施例より、マイクロ波を集中させ、表面積が多くなるように工夫した流通管に液体を流通させることで、マイクロ波エネルギーを、効率よく加熱に利用できることが示された。特に、これまで、マイクロ波加熱が難しいとされていた、非極性溶媒のマイクロ波加熱も可能であることが示された。
【実施例2】
【0058】
本実施例では、TM110モードとなるキャビティを用いた他は、実施例1と同様にして、実験を行った。図9に、本実施例は、電磁波の照射手段として用いたTM110モードとなるキャビティ、及びその電界強度分布を示す。この場合、電界強度が極大となる場所が2か所あり、その部分に2本の反応管を配置することで、同時に2本の反応管による合成反応を実施した。
【0059】
その結果、電磁波の照射手段としては、本実施例に示す形態でも、同様の結果を得ることができること、片側の反応管の出口を、もう一つの反応管の入口に接続することで、反応管を流通する反応溶液に対し、2倍の時間で電磁波を照射することができ、反応溶液の滞留時間を2倍にすることができることが分かった。
【実施例3】
【0060】
本実施例では、TM210モードとなるキャビティを用いた他は、実施例1と同様にして、実験を行った。図10に、本実施例は、電磁波の照射手段として用いたTM210モードとなるキャビティ、及びその電界強度分布を示す。この場合、電界強度が極大となる場所は、4か所あり、4本の反応管に同時に電磁波を照射することができること、また、反応管の接続方法を工夫すれば、反応溶液の滞留時間を4倍とすることもできることが分かった。
【実施例4】
【0061】
本実施例では、TM020モードとなるキャビティを用いた他は、実施例1と同様にして、実験を行った。図11に、本実施例は、電磁波の照射手段として用いたTM020モードとなるキャビティ、及びその電界強度分布を示す。この場合、中心の電界強度が最も強いが、その外周にも、電磁波強度が極大トなる場所がある。この部分に、螺旋型の反応管を配置することで、反応溶液を長い時間電磁波照射することができることが分かった。
【実施例5】
【0062】
(1)実験装置・方法
図12に示す、円筒型空胴共振器(内径84mm、長さ100mm)の中心軸に、外径2mm、内径1mmのガラス管(パイレックス(登録商標)製)を設置し、上部から送液ポンプにより各種溶媒(水、エチレングリコール)を送液した。空胴共振器にマイクロ波を照射すると、図13に示す電界強度分布に示されるように、ガラス管部分に電界が集中し、効率的にガラス管内の溶媒を加熱することができた。
【0063】
ガラス管出口部分に、熱電対(K型、太さφ0.25mm)を挿入し、溶液の温度を測定した。表2に示す実験条件で、溶液を送液し、温度制御をしたときのマイクロ波照射電力(パワー)を調べた。表2に、実験条件及び結果を示す。
【0064】
【表2】
【0065】
(2)水の加熱試験
図14に、出口温度を50℃及び90℃になるように、マイクロ波照射強度をフィードバック制御したときの結果を示す。図より、例えば、50℃の設定温度に対して、±1℃程度で制御できていることが分かる。水の温度上昇から、加熱に使われた単位時間あたりのエネルギーは、水の比熱をCw、温度変化をΔT、流速をFとすると、
Psolvent=Cw×ΔT×F
と表すことができる。
【0066】
このエネルギーに対して、照射したマイクロ波電力Pmwと比較し、マイクロ波エネルギー利用効率(η=Psolvent/Pmw)を算出すると、50℃加熱のとき、η=93%、90℃加熱のとき、η=82%となり、マイクロ波エネルギーが、効率的に水の加熱に利用がされていることが示された。
【0067】
図15に、送液速度を変えたとき、水を加熱するのに必要なマイクロ波出力エネルギーを示す。実線は、エネルギー利用効率100%のときの理論値を示す。理論値を示すプロットは、いずれも実線に近く、本システムのマイクロ波エネルギーの利用効率が高いことが判る。なお、この図より、処理量に対して、必要なマイクロ波電力を計算することができる。例えば、100ml/min(140kg/dayに相当)の速さで流れる水を、90℃まで加熱するのに必要なマイクロ波発振器の容量は、600W程度であることが判る。
【0068】
(3)エチレングリコールの加熱試験
図16に、エチレングリコールをマイクロ波加熱したときの昇温特性を示す。このときの送液速度は、2.5ml/minであり、マイクロ波照射空間を通過する滞留時間は、1.9秒である。目標温度を30秒ごとに、50,120,140,160,180℃とステップ状に変えた。出口でのエチレングリコールの温度が、目標温度に追随しており、制御性が高いことが分かる。2.5ml/minのとき、180℃に昇温するのに、32.6W必要であった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上詳述したように、本発明は、流通型マイクロ波利用化学反応装置及びその方法に係るものであり、本発明により、溶液系の化学反応へ適用することを可能とする流通型マイクロ波利用化学反応装置及び方法を提供することができる。本発明の装置により、例えば、アセトン、トルエン、ヘキサンなどの非極性溶媒をもマイクロ波加熱により加熱することができ、これらを、連続的に、しかも短時間でマイクロ波加熱することが可能である。本発明は、マイクロ波電力を効率よく熱エネルギーに変換して、溶液系の化学反応の溶液自体を効率よく加熱することを可能とする流通型マイクロ波利用化学反応装置及び流通型マイクロ波利用化学反応方法を提供するものとして有用である。
【符号の説明】
【0070】
(図1の符号)
1 円筒型TM010キャビティ
2 マイクロ波照射口
3 TM010キャビティ内に誘起される電界分布(半径方向)
(図2の符号)
1 細長チューブ
2 扁平
3 ひだ
4 多孔質
5 充填(粒子)
6 充填(ロッド)
(図3の符号)
1 マイクロ波照射口
2 TM010キャビティ
3 送液ポンプ
4 電界モニター
5 温度計
6 マイクロ波発振器・制御器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流通する被加熱対象物質を高効率にマイクロ波加熱する流通型マイクロ波利用化学反応装置であって、マイクロ波発振装置、シングルモードキャビティ、被加熱対象物質である溶液系の流体を流通させる流通管、該流通管内の一端に位置する流体を送液する送液ポンプを有し、上記キャビティは、金属製で内部に円筒型の空間を有し、上記流通管は、上記円筒型の空間を貫通するようにあるいは該空間の中心軸に沿って貫通するように単数乃至複数本設置されており、上記流通管の内側が、細管状乃至非平滑状の形状及び/又は構造に加工されており、流通管に流通させた被加熱対象物質にマイクロ波が集中して照射されるようにしたことを特徴とするマイクロ波利用化学反応装置。
【請求項2】
上記流通管の内側の細管状の内径が大きくても2.9mmのミリメートルサイズ細長チューブ状であり、流通管の内側の非平滑状の形状及び/又は構造が、扁平状、ひだ状形状、又は多孔構造であるか、あるいは、流通管と同材料又は非同一材料の粒子もしくはロッドを充填した構造である、請求項1に記載のマイクロ波利用化学反応装置。
【請求項3】
電界もしくは磁界が集中している部位において、被加熱対象物質と接触する流通管を細くする、流通管の表面をひだ状にする、流通管内に空隙のある物質を充填する、表面に帯電した物質をコーティングする、表面を帯電した状態に保つことができるよう化学処理する、表面を帯電した状態に保つことができるよう物理処理する、あるいはこれらの組み合わせにより、流体と接する面を増やすように加工された形状及び/又は構造を有する流通管が設置されている、請求項1又は2に記載のマイクロ波利用化学反応装置。
【請求項4】
上記流通管の材質が、ガラス、石英、アルミナ、プラスチック、フッ素樹脂、又はポリエーテルケトンである、請求項1から3のいずれかに記載のマイクロ波利用化学反応装置。
【請求項5】
シングルモードキャビティの構造として、金属製の円筒状の管壁とその両端を塞ぐ側壁を有する円筒型空胴共振器を有しており、円筒内部の特定部分の電界強度が極大となり、管壁部分では電界強度が0となり、かつ円筒軸に沿っては、電界強度が一様な定在波を形成させる構造を有する、請求項1から4のいずれかに記載のマイクロ波化学反応装置。
【請求項6】
電界強度が極大となる特定部位が、円筒の中心部分であり、円筒軸にそっては、電界強度が一様な定在波を形成させる構造を有する、請求項1から5のいずれかに記載のマイクロ波化学反応装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の装置を使用して、流通管に保持もしくは流通させた溶液系の被加熱対象物質にマイクロ波を集中して照射することで、マイクロ波エネルギーを効率よく加熱に利用することを特徴とするマイクロ波利用化学反応方法。
【請求項8】
定在波を形成したマイクロ波照射空間内に、被加熱対象物質を保持もしくは流通させ、マイクロ波照射により加熱する、請求項7に記載のマイクロ波利用化学反応方法。
【請求項9】
電界もしくは磁界が集中している部分に、流通管を設置し、その内部に保持もしくは流通させた被加熱対象物質を、マイクロ波照射により加熱する、請求項7に記載のマイクロ波利用化学反応方法。
【請求項10】
上記マイクロ波利用化学反応方法で、非極性溶媒をも加熱する、請求項7から9のいずれかに記載のマイクロ波利用化学反応方法。
【請求項1】
流通する被加熱対象物質を高効率にマイクロ波加熱する流通型マイクロ波利用化学反応装置であって、マイクロ波発振装置、シングルモードキャビティ、被加熱対象物質である溶液系の流体を流通させる流通管、該流通管内の一端に位置する流体を送液する送液ポンプを有し、上記キャビティは、金属製で内部に円筒型の空間を有し、上記流通管は、上記円筒型の空間を貫通するようにあるいは該空間の中心軸に沿って貫通するように単数乃至複数本設置されており、上記流通管の内側が、細管状乃至非平滑状の形状及び/又は構造に加工されており、流通管に流通させた被加熱対象物質にマイクロ波が集中して照射されるようにしたことを特徴とするマイクロ波利用化学反応装置。
【請求項2】
上記流通管の内側の細管状の内径が大きくても2.9mmのミリメートルサイズ細長チューブ状であり、流通管の内側の非平滑状の形状及び/又は構造が、扁平状、ひだ状形状、又は多孔構造であるか、あるいは、流通管と同材料又は非同一材料の粒子もしくはロッドを充填した構造である、請求項1に記載のマイクロ波利用化学反応装置。
【請求項3】
電界もしくは磁界が集中している部位において、被加熱対象物質と接触する流通管を細くする、流通管の表面をひだ状にする、流通管内に空隙のある物質を充填する、表面に帯電した物質をコーティングする、表面を帯電した状態に保つことができるよう化学処理する、表面を帯電した状態に保つことができるよう物理処理する、あるいはこれらの組み合わせにより、流体と接する面を増やすように加工された形状及び/又は構造を有する流通管が設置されている、請求項1又は2に記載のマイクロ波利用化学反応装置。
【請求項4】
上記流通管の材質が、ガラス、石英、アルミナ、プラスチック、フッ素樹脂、又はポリエーテルケトンである、請求項1から3のいずれかに記載のマイクロ波利用化学反応装置。
【請求項5】
シングルモードキャビティの構造として、金属製の円筒状の管壁とその両端を塞ぐ側壁を有する円筒型空胴共振器を有しており、円筒内部の特定部分の電界強度が極大となり、管壁部分では電界強度が0となり、かつ円筒軸に沿っては、電界強度が一様な定在波を形成させる構造を有する、請求項1から4のいずれかに記載のマイクロ波化学反応装置。
【請求項6】
電界強度が極大となる特定部位が、円筒の中心部分であり、円筒軸にそっては、電界強度が一様な定在波を形成させる構造を有する、請求項1から5のいずれかに記載のマイクロ波化学反応装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の装置を使用して、流通管に保持もしくは流通させた溶液系の被加熱対象物質にマイクロ波を集中して照射することで、マイクロ波エネルギーを効率よく加熱に利用することを特徴とするマイクロ波利用化学反応方法。
【請求項8】
定在波を形成したマイクロ波照射空間内に、被加熱対象物質を保持もしくは流通させ、マイクロ波照射により加熱する、請求項7に記載のマイクロ波利用化学反応方法。
【請求項9】
電界もしくは磁界が集中している部分に、流通管を設置し、その内部に保持もしくは流通させた被加熱対象物質を、マイクロ波照射により加熱する、請求項7に記載のマイクロ波利用化学反応方法。
【請求項10】
上記マイクロ波利用化学反応方法で、非極性溶媒をも加熱する、請求項7から9のいずれかに記載のマイクロ波利用化学反応方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図14】
【図15】
【図16】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図14】
【図15】
【図16】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−207735(P2010−207735A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57155(P2009−57155)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
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