説明

流体圧駆動装置及びそれを用いた屈伸機構

【課題】ピストンの摺動抵抗を増加させることなく軽量且つ小型に構成することができ、構造簡単として高精度な屈伸動作が可能となる流体圧駆動装置及び流体圧駆動装置を用いた屈伸機構を提供する。
【解決手段】シリンダ本体101の内面に摺接するピストン102と、ピストン102に連結されたピストンロッド103とを設ける。ピストンロッド103を金属により形成し、ピストン102を合成樹脂により形成する。ピストンロッド103は、その球部108をピストンの球面受け部106に嵌合することによりピストン102に連結する。ピストン102の外周面に、その周方向に延びる凹部107を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダ本体と、外周面が該シリンダ本体の内面に摺接して流体圧により往復動するピストンと、該ピストンの往復動により伸縮するピストンロッドとを備える流体圧駆動装置、及びこの流体圧駆動装置により屈伸動作が駆動される屈伸機構に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、人間の手を模倣したハンド装置等においては、複数の屈伸機構たる指機構を備えている。各指機構は、複数の関節を備えて各関節毎に屈伸自在となっており、各関節に付設した流体圧駆動装置たる流体圧シリンダのピストンロッドの伸縮により、各関節毎に屈伸動作が行われるようになっている。そして、指機構においては、流体圧シリンダを支持する基部材に揺動軸を介して揺動する部材が連結され、この揺動部材の揺動軸の近傍にピストンロッドが連結されている(例えば下記特許文献参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−126984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のものでは、指機構の基部材と揺動部材との屈伸を円滑に行うために、流体圧シリンダのシリンダ本体が基部材に対して揺動自在に支持されている。このため、シリンダ本体の揺動スペースが必要であると共に、基部材にはシリンダ本体を揺動させる揺動軸等の部品が必要となり、屈伸機構たる指機構を十分に小型化することができない。
【0005】
そこで、ピストンロッドの基端部に球部を形成し、ピストンに球面受け部を形成して、球部を球面受け部に嵌合することにより、ピストンロッドをピストンに対して揺動可能とすることが考えられる。これによれば、ピストンロッドがシリンダ本体に対して揺動するため、シリンダ本体と前記基部材とを一体化することが可能となり、シリンダ本体の揺動スペースや揺動軸等の部品が不要となって、指機構を小型に構成することができる。
【0006】
そして更に、ピストンを熱可塑性を有する合成樹脂により形成すれば、射出成形により小型のピストンの製造が容易となり、しかも、球部を球面受け部に圧入するだけでピストンロッドをピストンに連結することができるので、組立て作業性も良い。
【0007】
しかし、ピストンを合成樹脂により形成した場合には、合成樹脂の成形精度のばらつき等により、球部の大きさに合致する球面受け部を高精度に成形することが難しく、球面受け部に球部を圧入嵌合した際に、球部によって押し広げられた球面受け部の影響により、ピストンの外周面に膨らみが生じることがある。このため、シリンダ本体の内面に対してピストンの摺動抵抗が大きくなり、ピストンを円滑に往復動させることができない不都合がある。
【0008】
本発明は、かかる課題を解決して、ピストンの摺動抵抗を増加させることなく軽量且つ小型に構成することができ、構造簡単として高精度な屈伸動作が可能となる流体圧駆動装置及び流体圧駆動装置を用いた屈伸機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、シリンダ本体と、外周面が該シリンダ本体の内面に摺接して流体圧により往復動するピストンと、該ピストンの往復動により伸縮するピストンロッドとを備え、該ピストンロッドの基端部に形成された球部を前記ピストンに形成された球面受け部に嵌合することによりピストンロッドがピストンに連結された流体圧駆動装置において、前記ピストンロッドは金属により形成され、前記ピストンは合成樹脂により形成され、該ピストンの、少なくとも前記球面受け部に嵌合された前記球部の外面と前記シリンダ本体の内面とが最も近接した部分における外周面には、その周方向に延びる凹部が形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の流体圧駆動装置は、ピストンロッドの球部をピストンの球面受け部に嵌合することによりピストンロッドがピストンに連結されて、ピストンに対してピストンロッドが揺動自在とされる。そして、ピストンロッドが金属により形成されていることによりピストンロッドの強度が高く、ピストンが合成樹脂により形成されていることにより射出成形等により小型軽量のピストンが容易に得られ、しかも、球部を球面受け部へ圧入するだけで嵌合させることができて組立て作業性が高い。なお、ピストンロッドをアルミニウム合金等の軽金属により形成すれば、一層軽量化することが可能である。
【0011】
そして、本発明におけるピストンの外周面には、前記凹部が形成されているので、球部を球面受け部に圧入嵌合させたとき球面受け部が球部によって押し広げられても、その際のピストンの変形を、前記凹部により吸収することができる。これにより、球面受け部に球部を嵌合させたことによるピストンの外周面における膨らみの発生を防止することができ、シリンダ本体内面に対するピストンの摺動抵抗の増加を防止することができる。
【0012】
更に、ピストンの外周面に前記凹部が形成されていることにより、シリンダ本体の内面に対してピストンの外周面の摺接面積が小さく、摺動抵抗を小とすることができるので、シリンダ本体内部におけるピストンの往復動を円滑に行わせることができる。
【0013】
また、本発明は、前記流体圧駆動装置を用いた屈伸機構であって、前記シリンダ本体に揺動軸を介して揺動自在に連結された揺動部材を備え、該揺動部材は、その前記揺動軸から所定の距離を存した位置に前記ピストンロッドの先端部が回動自在に連結され、該ピストンロッドの伸縮により前記揺動軸を介した前記シリンダ本体と前記揺動部材との屈伸動作を行うことことを特徴とする。
【0014】
本発明の屈伸機構においては、ピストンに対してピストンロッドが揺動自在とされた前記流体圧駆動装置を用いることにより、シリンダ本体の揺動スペース等を不要としてシリンダ本体に揺動部材を連結することができ、シリンダ本体と揺動部材とのみで揺動軸を介した屈伸動作が行える。これにより、部品点数も比較的少なく構造簡単とすることができ、スマートな屈伸機構を得ることができるので、例えば、人間の手を模倣したハンド装置等における指機構に本発明の屈伸機構を好適に採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態である指機構を示す説明的断面図。
【図2】本実施形態の要部の説明的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明をロボットハンドの指機構に適用した実施形態を説明する。図示しないが、ロボットハンドは、人間の手を模倣したものであり、手の平を基部として、該基部に拇指、示指、中指、環指および小指に相当する5つの指機構を備える。なお、図1においては示指に相当する指機構1のみを示し、他の指を省略している。
【0017】
指機構1は、本発明の屈伸機構に相当するものであり、図1に示すように、指先側から指基側に向かって順に、末節部2、中節部3、及び基節部4を備え、この配置と長さ寸法は人間の標準的な指に対応している。
【0018】
末節部2と中節部3とはDIP関節5(遠位指節間関節)を介して連結されており、DIP関節5により末節部2が中節部3に対して揺動自在とされている。
【0019】
中節部3と基節部4とはPIP関節6(近位指節間関節)を介して連結されており、PIP関節6により中節部3が基節部4に対して揺動自在とされている。
【0020】
そして、基節部4はMP1関節7及びMP2関節8を介して手の平に相当する基部9に連結されている。MP1関節7及びMP2関節8は2軸で回動する中手指節関節を構成するものであって、MP1関節7は中節部3と同じ方向に基節部4を揺動させ、MP2関節8はMP1関節7に交差する軸線回りに基節部4を揺動させる。
【0021】
以上により、DIP関節5と、PIP関節6と、MP1関節7とは、基部9の手の平側に向かう方向に回動して人間の手の握り動作と同じ屈伸動作を実現し、MP2関節8は、例えば手を広げる動作と同じ動作を実現する。
【0022】
また、指機構1には、MP1関節7を介して基節部4の揺動を駆動する第1の従動流体圧シリンダ10と、PIP関節6を介して中節部3の揺動を駆動する第2の従動流体圧シリンダ11とが設けられている。第1の従動流体圧シリンダ10及び第2の従動流体圧シリンダ11は夫々本発明の流体圧駆動装置に相当するものである。
【0023】
第1の従動流体圧シリンダ10のシリンダ本体101は、人間の中手骨に相当し、MP2関節8を介して基部9に支持されている。第2の従動流体圧シリンダ11のシリンダ本体111は、人間の基節骨として基節部4を構成しており、MP1関節7とMP2関節8とを介して基部9に連結されている。このように第1の従動流体圧シリンダ10と第2の従動流体圧シリンダ11とが指機構1に一体的に収納されるので指機構1がコンパクトに構成される。
【0024】
PIP関節6には、中節部3に中節骨として設けられた連結部材12を介してDIP関節5が連結されている。DIP関節5には、末節部2を構成する指先部材13が回動自在に連結されている。中節部3の連結部材12は、その一端がPIP関節6に回動自在に連結され、他端がDIP関節5に連結されている。更に、PIP関節6とDIP関節5との間には、リンク部材14が設けられている。
【0025】
第1の従動流体圧シリンダ10は、シリンダ本体101内部に流体が供給されることによりピストン102が摺動し、ピストンロッド103が伸縮してMP1関節7を回動させる。これにより、指機構1がMP1関節7を介して屈伸する。第1の従動流体圧シリンダ10への油圧の供給は、配管15を介して図外の油圧供給手段により行われる。
【0026】
第2の従動流体圧シリンダ11は、シリンダ本体111内部に流体が供給されることによりピストン112が摺動し、ピストンロッド113が伸縮してPIP関節6を回動させる。第2の従動流体圧シリンダ11への油圧の供給は、MP1関節7の回動軸に内挿されている配管16を介して図外の油圧供給手段により第1の従動流体圧シリンダ10とは独立して行われる。
【0027】
このとき、PIP関節6とDIP関節5とが、連結部材12とリンク部材14とにより連結されているので、第2の従動流体圧シリンダ11によるPIP関節6の回動に追従してDIP関節5が回動する。このように、DIP関節5は、第2の従動流体圧シリンダ11によるPIP関節6の回動に連動するように構成されているので、人間の指の動きに近い動作が得られるだけでなく、DIP関節5を駆動するためのシリンダ等が不要となり、指機構1を軽量に構成することができる。
【0028】
なお、本実施形態の指機構1において、第1の従動流体圧シリンダ10を本発明の流体圧駆動装置としたとき、第1の従動流体圧シリンダ10のシリンダ本体101に連設されたMP1関節7が本発明における揺動軸に相当し、MP1関節7を介して第1の従動流体圧シリンダ10のシリンダ本体101に揺動自在に連結された第2の従動流体圧シリンダ11のシリンダ本体111が本発明における揺動部材に相当する。また、本実施形態の指機構1において、第2の従動流体圧シリンダ11を本発明の流体圧駆動装置としたとき、第2の従動流体圧シリンダ11のシリンダ本体111に連設されたPIP関節6が本発明における揺動軸に相当し、PIP関節6を介して第2の従動流体圧シリンダ11のシリンダ本体111に揺動自在に連結された中節部3の連結部材12が本発明における揺動部材に相当する。
【0029】
ここで、第1の従動流体圧シリンダ10の構成について説明すれば、図2に示すように、ピストン102は、合成樹脂(例えばポリエーテルエーテルケトン樹脂)により形成されていて、シリンダ本体101の油圧室104を閉塞するガスケット105を備え、その内部に球面受け部106が形成されている。また、シリンダ本体101の内面に摺接するピストン102の外周面には断面視V字状の凹部107が周方向に形成されている。ピストンロッド103は、金属(例えばアルミニウム合金等の軽金属)により形成されていて、その基端部に球部108を備え、この球部108がピストン102の球面受け部106に嵌合されることによってピストン102に揺動自在に連結されている。そして、凹部107は、図2に示すように、ピストン102の、少なくとも球面受け部106に嵌合された球部108の外面とシリンダ本体101の内面とが最も近接した部分(即ち、球面受け部106に嵌合する球部108によって最も変形し易い部分)における外周面に形成されている。
【0030】
第1の従動流体圧シリンダ10は、ピストン102の外周面に凹部107が形成されているので、ピストンロッド103の球部108を球面受け部106に圧入嵌合させたとき球面受け部106が球部108によって押し広げられても、その際のピストン102の変形を、凹部107により吸収することができる。これにより、球面受け部106に球部108を嵌合させたことによるピストン102の外周面における膨らみの発生を防止することができ、シリンダ本体101内面に対するピストン102の摺動抵抗の増加を防止することができる。更に、ピストン102の外周面に凹部107が形成されていることにより、シリンダ本体101の内面に対してピストン102の外周面の摺接面積が小さく、摺動抵抗を小とすることができるので、シリンダ本体101内部におけるピストン102の往復動を円滑に行わせることができる。なお、凹部107の断面視形状は、断面視V字状でなくてもよく、例えば、断面視U字状であってもよい。
【0031】
第2の従動流体圧シリンダ11においても、図2を参照して説明すれば、第1の従動流体圧シリンダ10と同様の構成によって、ピストン112とピストンロッド113とが連結されており、ピストン112の外周面に凹部117が形成されているので、第1の従動流体圧シリンダ10と同様の効果を得ることができる。
【0032】
そして、構成からなる指機構1によれば、第1の従動流体圧シリンダ10及び第2の従動流体圧シリンダ11のピストンロッド103,113を伸長させることにより円滑に折り曲げ動作を行うことができ、ピストンロッド103,113を収縮させることにより円滑に延ばし動作を行うことができる。
【0033】
なお、本実施形態においては、屈伸機構として多関節の指機構1を示したが、それ以外に例えば、ヒューマノイドロボットに採用する場合には、図示しないが、人間の手首に相当する屈伸機構、肘に相当する屈伸機構、或いは、足首に相当する屈伸機構を挙げることができ、これらの屈伸機構にも、第1の従動流体圧シリンダ10(又は第2の従動流体圧シリンダ11)と同様の構成による本発明の流体圧駆動装置を好適に採用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1…指機構(屈伸機構)、6…PIP関節(揺動軸)、7…MP1関節(揺動軸)、10…第1の従動流体圧シリンダ(流体圧駆動装置)、11…第2の従動流体圧シリンダ(流体圧駆動装置)、12…連結部材(揺動部材)、101,111…シリンダ本体、102,112…ピストン、103,113…ピストンロッド、106…球面受け部、107,117…凹部、108…球部、111…シリンダ本体(揺動部材)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ本体と、外周面が該シリンダ本体の内面に摺接して流体圧により往復動するピストンと、該ピストンの往復動により伸縮するピストンロッドとを備え、該ピストンロッドの基端部に形成された球部を前記ピストンに形成された球面受け部に嵌合することによりピストンロッドがピストンに連結された流体圧駆動装置において、
前記ピストンロッドは金属により形成され、前記ピストンは合成樹脂により形成され、該ピストンの、少なくとも前記球面受け部に嵌合された前記球部の外面と前記シリンダ本体の内面とが最も近接した部分における外周面には、その周方向に延びる凹部が形成されていることを特徴とする流体圧駆動装置。
【請求項2】
請求項1記載の流体圧駆動装置を用いた屈伸機構であって、
前記シリンダ本体に揺動軸を介して揺動自在に連結された揺動部材を備え、
該揺動部材は、その前記揺動軸から所定の距離を存した位置に前記ピストンロッドの先端部が回動自在に連結され、
該ピストンロッドの伸縮により前記揺動軸を介した前記シリンダ本体と前記揺動部材との屈伸動作を行うことことを特徴とする屈伸機構。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−58563(P2011−58563A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208929(P2009−208929)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】