説明

流体封入式防振装置とその製造方法

【課題】低強度な合成樹脂製の仕切部材を第二の取付部材に容易に嵌着固定することが出来ると共に、仕切部材や第二の取付部材の寸法誤差等に起因する組付け時の不具合を回避出来る、新規な構造の流体封入式防振装置を提供すること。
【解決手段】第二の取付部材14の内周面にシールゴム36を固着して、シールゴム36の内周面に環状の段差38を形成すると共に、シールゴム36の内周面を段差38よりも本体ゴム弾性体16と反対側において本体ゴム弾性体16と反対の開口部側に向かって拡開する内周テーパ面44とする。硬質の合成樹脂で形成した仕切部材50の外周面を内周テーパ面44に対応する外周テーパ面62として、仕切部材50を第二の取付部材14に嵌め入れて仕切部材50の先端側の外周縁部分を段差38に当接させると共に、外周テーパ面62を内周テーパ面44に密着させることで、仕切部材50を第二の取付部材14に位置決めして組み付けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動伝達系を構成する部材間に配設されて、それら部材を防振連結乃至は防振支持せしめる防振装置に係り、特に内部に封入された流体の流動作用に基づく防振効果を利用する流体封入式の防振装置とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、防振すべき部材の間に介装されて、それら部材を防振連結乃至は防振支持せしめる防振装置として、内部に封入された非圧縮性流体の流動作用に基づく防振効果を利用する流体封入式防振装置が知られている。更に、その一種として、第一の取付金具を筒状の第二の取付金具の一方の開口部側に離隔配置して、それら第一の取付金具と第二の取付金具を本体ゴム弾性体で連結することによって第二の取付金具の一方の開口部を閉塞させると共に、第二の取付金具の他方の開口部をゴムダイヤフラムで閉塞させて、内部に流体室を形成したものがある。このような流体封入式防振装置は、例えば、第一の取付金具がパワーユニットに固定されると共に第二の取付金具が車両ボデーに固定されて、自動車用エンジンマウントとして用いられる。
【0003】
また、かくの如き流体封入式防振装置においては、振動入力時に流体流動が生ぜしめられるオリフィス通路を流体室内に形成する必要がある。そこで、一般に、第二の取付金具に固定した仕切部材で流体室を軸方向中間部分で仕切って、本体ゴム弾性体側に受圧室を、ゴムダイヤフラム側に平衡室を、それぞれ形成した構造が採用されている。このような仕切部材を用いると、受圧室と平衡室を連通するオリフィス通路も、仕切部材を利用して容易に形成することが可能となる。
【0004】
ところで、従来の流体封入式防振装置では、かかる仕切部材として、鉄やアルミニウム合金等の金属材料からなる高剛性の部材が用いられており、第二の取付金具に対して圧入によって固定することが可能であった。一方、最近では、仕切部材の軽量化や低コスト化等を目的として、硬質の合成樹脂で形成された仕切部材の採用が検討されている。
【0005】
しかしながら、合成樹脂は金属に比して強度が低いことから、合成樹脂製の仕切部材を、金属製の仕切部材と同様に第二の取付金具に圧入固定すると、仕切部材に対して亀裂や欠け等の損傷が発生するおそれがある。特に合成樹脂の成形では、金属成形程の寸法精度を確保することが難しいことから、合成樹脂製の仕切部材を第二の取付金具に圧入固定する構造では、充分な信頼性が得難く、量産が難しいという問題があった。
【0006】
なお、かかる問題に関して、特許文献1(特開2007−56914号公報)には、合成樹脂製の仕切部材を第二の取付金具に挿入した後で第二の取付金具を八方絞り等で縮径することにより、仕切部材を第二の取付金具に嵌着固定する構造が提案されている。ところが、第二の取付金具に段差があったりブラケットが固設されていたりする等の場合には、第二の取付金具を縮径加工することが困難で採用し難いという問題があった。しかも、第二の取付金具の縮径加工に際しては、縮径部分に予め挿入された樹脂製仕切部材の損傷を避けるために、極めて高度な加工寸法精度を維持しなければならないという問題もあった。加えて、第二の取付金具に挿入した仕切部材が、その後の縮径加工が完了するまでの間に位置ずれしてしまうおそれがあり、修正不可能な組付不良が発生し易いという問題もある。
【0007】
【特許文献1】特開2007−56914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、比較的に低強度な合成樹脂製の仕切部材を第二の取付部材に対して容易に嵌着固定せしめることが出来ると共に、仕切部材や第二の取付部材の寸法誤差等に起因する組付け時の不具合を有利に回避出来る、新規な構造の流体封入式防振装置とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意な組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載されたもの、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0010】
すなわち、本発明は、第一の取付部材が筒状の第二の取付部材の軸方向一方の開口部側に離隔配置されて、それら第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体で連結されており、該第二の取付部材で支持された仕切部材を挟んだ一方の側に壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成された受圧室が形成されていると共に該仕切部材を挟んだ他方の側に壁部の一部が該可撓性膜で構成された平衡室が形成され、更にそれら受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路が形成されている流体封入式防振装置において、前記第二の取付部材の内周面には前記本体ゴム弾性体から延び出すシールゴムが固着されており、該シールゴムの内周面には周方向に延びる環状の段差が形成されていると共に、該シールゴムの内周面が該段差よりも該本体ゴム弾性体と軸方向反対側の部分において該本体ゴム弾性体と反対の開口部側に向かって次第に拡開する内周テーパ面とされている一方、前記仕切部材が硬質の合成樹脂で形成されていると共に、該仕切部材の外周面が該内周テーパ面に対応する外周テーパ面とされており、該仕切部材が該第二の取付部材の該本体ゴム弾性体と軸方向反対側の開口部から嵌め入れられて、該仕切部材における該第二の取付部材に対する嵌め入れ方向の先端側の外周縁部分が該段差に当接されていると共に、該仕切部材における該外周テーパ面が該シールゴムの該内周テーパ面に密着状態で重ね合わされることにより、該仕切部材が該第二の取付部材に対して軸方向で位置決めされて組み付けられていることを特徴とする。
【0011】
このような本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、シールゴムの内周面の一部が本体ゴム弾性体と反対の開口側に向かって次第に拡開する内周テーパ面とされていると共に、仕切部材の外周面が内周テーパ面に対応する外周テーパ面とされていることにより、それら内周テーパ面と外周テーパ面の当接によって案内作用が発揮される。この案内作用は、仕切部材を第二の取付部材に嵌め付ける際に、仕切部材と第二の取付部材が径方向で位置合わせすると共に、仕切部材が第二の取付部材に対して傾くのを防ぐように発揮されることから、仕切部材が第二の取付部材に対して安定して位置合わせされる。
【0012】
それ故、仕切部材をシールゴムが固着された第二の取付部材に押し込んで嵌め付ける場合に、仕切部材のシールゴムに対する押付けの量(締め代)を比較的に小さく設定しつつ、安定した嵌着状態を実現することが出来る。しかも、仕切部材と第二の取付部材の位置合わせが容易に且つ精度良く実現されることから、仕切部材の第二の取付部材への嵌め付けに際して、仕切部材に対して応力が集中的に作用せしめられるのを防ぐことも出来る。
【0013】
したがって、第二の取付部材のシールゴム固着部分に対して嵌め付けられる仕切部材が、比較的に低強度な合成樹脂製とされている場合にも、押し込むだけという極めて簡単な方法で仕切部材を第二の取付部材に対して精度良く組み付けることが出来ると共に、圧入力の偏った作用による仕切部材の破壊(亀裂の発生等)を有利に回避することが出来て、安定した品質の流体封入式防振装置を容易に実現することが出来るのである。
【0014】
このように、本発明に係る流体封入式防振装置では、内周テーパ面と外周テーパ面によって発揮される案内作用を巧く利用することにより、合成樹脂製の仕切部材の破損を回避しつつ押込みによる容易な取付けを実現し、更に、仕切部材の安定した固定(位置決め)状態を維持し得るだけの支持力を内周テーパ面と外周テーパ面の密着によって効果的に実現している。
【0015】
特に、仕切部材の第二の取付部材への押込みによる嵌着固定という組付け方法を採用した場合には、仕切部材の安定した固定状態を維持し得るだけの支持力を、仕切部材を破壊しない程度の比較的に小さな圧入力で実現することが極めて困難であった。そこにおいて、本発明に係る流体封入式防振装置では、かしめ加工や縮径加工を施すことなく、少ない工程数で合成樹脂製の仕切部材の安定した組付け状態を実現することが出来るのである。
【0016】
さらに、シールゴムに段差が形成されており、その段差面に対して仕切部材が押し付けられることによって、仕切部材と第二の取付部材が有利にシールされると共に、仕切部材が軸方向で位置決めされるようになっている。これにより、仕切部材を軸方向の所定位置に容易に位置決めして組み付けることが出来ると共に、内周テーパ面と外周テーパ面の重ね合せ面間を通じて封入流体が短絡するのを一層有利に防ぐことが出来る。
【0017】
また、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、前記内周テーパ面と前記外周テーパ面が何れも軸方向の全体に亘って一定の傾斜角度で広がっていることが望ましい。
【0018】
このように、内周テーパ面と外周テーパ面が、何れも軸方向の全体に亘って一定の傾斜角度とされていることにより、内周テーパ面と外周テーパ面に屈折部が形成されるのを防ぐことが出来る。それ故、仕切部材に対して局所的に大きな応力が作用するのを防いで、仕切部材に亀裂が生じたり、仕切部材が変形する等の不具合を有利に回避することが出来る。
【0019】
また、本発明に係る流体封入式防振装置において、好適には、前記内周テーパ面と前記外周テーパ面の傾斜角度の差が±2度の範囲に設定される。
【0020】
このように内周テーパ面と外周テーパ面の傾斜角度の差が±2度という比較的に小さい範囲内とされることにより、内周テーパ面と外周テーパ面が軸方向の充分に広い範囲で密着せしめられて、組付け時に仕切部材に対して作用する応力が全体に分散して及ぼされる。これにより、応力集中による仕切部材の破壊や変形をより有利に防ぐことが出来る。
【0021】
また、本発明に係る流体封入式防振装置では、前記仕切部材の前記本体ゴム弾性体と反対側の端面には保持金具が重ね合わされて組み付けられていると共に、該保持金具の外周縁部が該仕切部材よりも外周側に延び出す支持部とされており、該支持部が前記シールゴムの軸方向端部と前記可撓性膜の外周部分で軸方向に挟み込まれて支持されていても良い。
【0022】
すなわち、本発明に係る流体封入式防振装置では、仕切部材が内周テーパ面と外周テーパ面の密着によって安定して支持されるが、上述の如く、仕切部材に対して組み付けられる保持金具の外周縁部を、シールゴムと可撓性膜の軸方向間で保持せしめて、補助的に仕切部材を支持させることにより、一層有利に安定した組付け状態の維持を実現することが出来る。
【0023】
しかも、仕切部材の上端面がシールゴムに形成された段差に押し付けられると共に、仕切部材の下端部に組み付けられた保持金具がシールゴムと可撓性膜の間で支持されることにより、仕切部材が軸方向である程度弾性的に位置決めされるようになっている。これにより、仕切部材の軸方向での寸法誤差等をシールゴムおよび可撓性膜の弾性変形によって充分に吸収可能となる。従って、仕切部材の軸方向での寸法のばらつき等に関らず、仕切部材を安定して所定の位置に組み付けることが出来る。
【0024】
さらに、本発明に係る流体封入式防振装置において、上述の如き仕切部材に保持金具が組み付けられた構造を採用する場合には、一方の面に前記受圧室の圧力が及ぼされると共に、他方の面に前記平衡室の圧力が及ぼされる可動ゴム膜が、前記仕切部材と前記保持金具の間で外周縁部を挟持されて変形可能に支持されるようになっていても良い。
【0025】
このように、微小な弾性変形による液圧伝達作用を利用される可動ゴム膜が、保持金具によって仕切部材に組み付けられていることにより、可動ゴム膜を仕切部材に組み付けるための特別な部材を設ける必要がなく、少ない部品点数で可動ゴム膜を仕切部材に組み付けることが出来る。
【0026】
また、本発明に係る流体封入式防振装置においては、前記仕切部材の前記第二の取付部材に対して嵌め入れられる軸方向先端側の端部周縁において外方に突出して全周に亘って連続的に延びるシール突条が一体形成されている構造を採用することも出来る。
【0027】
このようなシール突条を仕切部材に設けることにより、内周テーパ面と外周テーパ面の間がより確実にシールされて、受圧室に封入された非圧縮性流体の短絡を一層効果的に防ぐことが出来る。
【0028】
また、本発明に係る流体封入式防振装置では、前記第二の取付部材には前記本体ゴム弾性体が固着された側と反対側の開口部分に段付部が形成されており、該段付部よりも開口側が大径のかしめ筒部とされて該段付部の開口側の面が環状の段付面とされていると共に、前記可撓性膜の外周縁部に加硫接着された環状の固定金具が該かしめ筒部に挿し入れられて該段付面に重ね合わされると共に該かしめ筒部に対してかしめ固定されており、該第二の取付部材に対してかしめ固定された該固定金具は該段付面よりも径方向内方に突出せしめられて該第二の取付部材に嵌め入れられた前記仕切部材の軸方向端面に重ね合わされて、該仕切部材が該固定金具によって前記シールゴムの前記段差に対して押し付けられていても良い。
【0029】
このように第二の取付部材に対してかしめによって強固に固定される固定金具で、仕切部材をシールゴムの段差に押し当てることにより、仕切部材の軸方向での位置決めを安定して実現することが出来る。
【0030】
また、本発明に係る流体封入式防振装置においては、前記シールゴムの前記段差よりも前記本体ゴム弾性体側には、周上で部分的に内周側に延び出す保持部が一体形成されており、周上で該保持部が形成された部分において該段差が内周側に延び出している構造を採用することも出来る。
【0031】
このような構造を採用することにより、仕切部材が当接せしめられる段差の面積を大きく得ることが出来て、仕切部材の段差への当接による軸方向での位置決めを一層安定して実現することが可能となる。しかも、保持部を周上で部分的に設けたことにより、防振対象荷重の入力時に本体ゴム弾性体の変形による受圧室の内圧変動を有利に惹起せしめることが出来ると共に、受圧室の容積を大きく得ることが出来て、オリフィス通路によって発揮される防振効果を有効に得ることが出来る。
【0032】
一方、本発明は、上述の各態様に従う構造の流体封入式防振装置を製造するに際して、前記第一の取付部材と前記第二の取付部材を前記本体ゴム弾性体で連結すると共に、該第二の取付部材の内周面に前記シールゴムを被着形成した第一の一体加硫成形品を準備する工程と、前記可撓性膜の外周縁部に環状の固定金具を加硫接着せしめた第二の一体加硫成形品を準備する工程と、前記仕切部材を準備する工程と、該第一の一体加硫成形品と該第二の一体加硫成形品と該仕切部材を非圧縮性流体中に浸漬して、該第一の一体加硫成形品を構成する該第二の取付部材に対して該本体ゴム弾性体と反対側から該仕切部材を嵌め入れると共に、該第二の一体加硫成形品を構成する該固定金具を該仕切部材に重ね合わせて該第二の取付部材に嵌着固定する工程と、該第二の取付部材の該本体ゴム弾性体と反対側の開口部を加工して該固定金具を該第二の取付部材にかしめ固定する工程とを、含む流体封入式防振装置の製造方法も特徴とする。
【0033】
このような本発明に従う流体封入式防振装置の製造方法においては、仕切部材を第一の一体加硫成形品に対して挿し入れた状態で、仕切部材に重ね合わされた固定金具を第一の一体加硫成形品に押し込むことにより、仕切部材と第二の一体加硫成形品を同時に第一の一体加硫成形品に対して嵌着固定することが出来る。それ故、仕切部材に外力を及ぼして第二の取付部材に押し込んで組み付ける工程を省略することが出来て、少ない工程数で本発明に係る流体封入式防振装置を実現することが可能となる。
【0034】
しかも、内周テーパ面と外周テーパ面で発揮される案内作用によって、仕切部材が略自動的に第二の取付部材に対して相対的に位置決めされることから、上述の如き仕切部材の組付け方法であっても、仕切部材の傾きや径方向でのずれは問題となり難く、安定した組付けを実現することが出来る。
【0035】
さらに、仕切部材は、その上端面がシールゴムに形成された段差に当接されることで軸方向に位置決めされるようになっていることから、固定金具で仕切部材を段差に押し付けることにより、仕切部材が軸方向でも容易に位置決めされる。特に、仕切部材および固定金具の組付け後に、固定金具が第二の取付部材に対してかしめ固定されることから、シールゴムの反発力による仕切部材および固定金具の軸方向での位置ずれを有利に防ぐことが出来る。
【0036】
さらに、上述の如き流体封入式防振装置の製造方法を採用する場合には、前記固定金具と前記第二の取付部材の前記かしめ筒部の間には周上で部分的に隙間が形成されており、非圧縮性流体中で前記仕切部材および該固定金具を該第二の取付部材に対して組み付ける際に、前記流体室に封入される流体量を該隙間を利用して調節可能となっていても良い。
【0037】
すなわち、本発明に係る流体封入式防振装置の製造方法では、非圧縮性流体中に浸漬された状態で、第一の一体加硫成形品に対して仕切部材と第二の一体加硫成形品を軸方向で嵌め込むことから、弾性変形を許容された可撓性膜の変形状態によっては、流体室(受圧室と平衡室)に封入される非圧縮性流体の量が必要以上に多くなってしまう場合がある。
【0038】
そこにおいて、第二の取付部材と固定金具の間に部分的な隙間を予め設けておくことにより、第二の取付部材に対して固定金具が軸方向で嵌め入れられるに従って、それら第二の取付部材と固定金具の間の隙間から必要以上の流体が排出されると共に、必要量の流体が流体室内に残留して封入されるようになっている。これにより、目的とする防振性能を有効に得ることが出来る。
【0039】
なお、固定金具と第二の取付部材の間に形成された隙間は、固定金具の第二の取付部材に対する組付けにより、流体密にシールされるようになっており、固定金具の組付けの完了によって所定量の流体が封入された受圧室と平衡室が外部空間から隔てられて形成されるようになっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0041】
先ず、図1には、本発明に係る流体封入式防振装置の一実施形態として、自動車用エンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、第一の取付部材としての第一の取付金具12と、第二の取付部材としての第二の取付金具14が本体ゴム弾性体16で連結された構造を有している。そして、第一の取付金具12が一方の防振対象部材である図示しない自動車のパワーユニットに取り付けられると共に、第二の取付金具14が他方の防振対象部材である図示しない車両ボデーに取り付けられることにより、パワーユニットが車両ボデーによって弾性的に支持されるようになっている。なお、以下の説明において、上下方向とは、特に説明がない限り、車両への装着状態における鉛直上下方向である図1中の上下方向を言うものとする。
【0042】
より詳細には、第一の取付金具12は、鉄やアルミニウム合金等で形成された高剛性の部材であって、全体として略円形ブロック形状を有している。また、第一の取付金具12の軸方向中間部分には、全周に亘って径方向外側に向かって突出する環状のフランジ部18が一体形成されている。また、第一の取付金具12には、上端面に開口して中心軸上を直線的に延びるボルト孔20が形成されており、ボルト孔20の内周面には雌ねじが刻設されている。そして、ボルト孔20に対して螺着される図示しない固定ボルトによって、図示しないリバウンドストッパが第一の取付金具12に取り付けられると共に、第一の取付金具12が図示しないパワーユニットに対して固定されるようになっている。
【0043】
また、第二の取付金具14は、薄肉大径の略円筒形状を有しており、第一の取付金具12と同様に、鉄やアルミニウム合金等で形成された剛性材とされている。第二の取付金具14は、軸方向中間部分が軸方向に略一定の直径をもってストレートに延びる筒状部22とされていると共に、筒状部22の軸方向上端部からは、上方に向かって次第に拡開するテーパ状部24が一体形成されて延び出している。更に、テーパ状部24の上端部からは軸直角方向外側に向かって延び出すフランジ状部26が一体形成されて延び出している。
【0044】
一方、筒状部22の軸方向下端部には、環状の段付部28が一体形成されている。この段付部28は、軸直角方向外側に広がるフランジ状を呈しており、その外周縁部からは軸方向下方に向かって延び出すかしめ筒部としての大径筒部30が一体形成されている。この大径筒部30は、筒状部22に比して大径の円筒形状を有している。要するに、本実施形態における第二の取付金具14は、全体として、比較的に小径の筒状部22と比較的に大径の大径筒部30が軸直角方向で広がる段付部28によって相互に連結された段付円筒形状を有している。なお、大径筒部30の下端部には、下方に向かって次第に拡開するテーパ状の内周面を有するかしめ片32が一体形成されている。
【0045】
このような第二の取付金具14の上側開口部に対して、第一の取付金具12が軸方向上方に離隔配置される。そして、図2に示されているように、それら第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に本体ゴム弾性体16が介装されており、第一の取付金具12と第二の取付金具14が本体ゴム弾性体16で相互に連結されている。この本体ゴム弾性体16は、全体として厚肉大径の略円錐台形状を有するゴム弾性体で形成されており、小径側端部に第一の取付金具12が固着されていると共に、大径側端部に第二の取付金具14が固着されている。
【0046】
さらに、フランジ部18の外周面および上面を覆うように本体ゴム弾性体16と一体形成された略環状のストッパゴム33が被着形成されている。そして、第一の取付金具12と第二の取付金具14が軸方向で離隔方向に相対変位せしめられると、フランジ部18が軸方向上方に離隔配置される図示しないリバウンドストッパに対してストッパゴム33を介して弾性的に当接せしめられるようになっており、緩衝的なリバウンドストッパ機構が構成されるようになっている。なお、本実施形態におけるストッパゴム33は、周方向で軸方向上方への突出高さが変化せしめられて、図示しないブラケットに対する当接時に生じる打音や当接状態の解除時に生じる異音が低減されるようになっている。
【0047】
また、本体ゴム弾性体16には、円形凹所34が形成されている。円形凹所34は、本体ゴム弾性体16の大径側端面に開口する凹所であって、開口側に向かって次第に拡開する逆向きの略すり鉢形状を有している。なお、本実施形態では、円形凹所34の開口部が筒状部22とテーパ状部24の境界の内周側に位置せしめられている。
【0048】
さらに、円形凹所34の開口周縁部から軸方向下方に向かってシールゴム36が突出せしめられている。シールゴム36は、薄肉大径の円筒形状を有しており、本体ゴム弾性体16の下端部(大径側端部)の外周縁部から下方に向かって延び出すように一体形成されている。また、シールゴム36は、第二の取付金具14の筒状部22に重ね合わされており、筒状部22の内周面を略全面に亘って覆うように被着形成されている。なお、本実施形態においては、本体ゴム弾性体16とシールゴム36が一体形成されているが、本体ゴム弾性体16の大径側端面である円形凹所34の内壁面を延長した仮想的な面(図2中の二点鎖線)が、本体ゴム弾性体16とシールゴム36の境界として解される。
【0049】
また、シールゴム36の軸方向中間部分には、段差としての段差面38が形成されている。この段差面38は、全周に亘って連続的に形成された環状の面であって、軸直角方向に広がっている。なお、本実施形態では、段差面38がシールゴム36の軸方向中間部分に形成されているが、段差面38は、例えば、シールゴム36の端部に形成されて、本体ゴム弾性体16とシールゴム36の境界を周方向に延びるように設けられていても良い。
【0050】
さらに、本実施形態では、図3に示されているように、周上の複数箇所において、シールゴム36の段差面38を挟んだ上側部分が部分的に厚肉となっており、段差面38が径方向内側に向かって延び出した位置決め用の保持部40が形成されている。この保持部40は、本体ゴム弾性体16と反対側の端面が段差面38と同一平面上に位置せしめられており、周上において保持部40の形成部分では、保持部40の下端面を利用して部分的に段差面38が径方向内方に延び出して広がっている。換言すれば、周上において保持部40の形成部分では、部分的に段差面38の径方向での幅が大きくなっている。なお、本実施形態では、図3に示されているように、保持部40が周上の四箇所に形成されており、径方向一方向で対向する二つの保持部40aが周方向で比較的に狭い幅を有していると共に、他の径方向一方向で対向する二つの保持部40bが周方向で比較的に広い幅を有している。
【0051】
また、シールゴム36において、段差面38を挟んで軸方向下側(本体ゴム弾性体16と反対側に位置するシールゴム36の先端側)部分は、軸方向上側(本体ゴム弾性体16から延び出すシールゴム36の基端側)部分よりも薄肉とされた嵌着部42とされている。
【0052】
さらに、シールゴム36における嵌着部42の内周面は、内周テーパ面44とされている。内周テーパ面44は、本実施形態において軸方向下方となる本体ゴム弾性体16と反対の端部側に行くに従って、次第に拡開するように傾斜せしめられた湾曲傾斜面となっている。このように嵌着部42の内周面がテーパ形状とされていることにより、嵌着部42は、シールゴム36の延出方向先端側に行くに従って次第に薄肉となっている。特に本実施形態では、内周テーパ面44が軸方向で傾斜が変化することなく略一定の傾斜角度で形成されている。また、図2に示されているように、シールゴム36の下端部は、第二の取付金具14の段付部28の下面よりも軸方向下方に向かって突出せしめられている。
【0053】
なお、内周テーパ面44が軸方向で略一定の傾斜角度で形成されるとは、内周テーパ面44のマウント中心軸に対する傾斜角度である図2中のαが、軸方向の全体に亘って略一定値とされることを言う。また、本実施形態では、内周テーパ面44が、全面に亘って、折れ点や折れ線が形成されない滑らかな湾曲面とされている。
【0054】
そして、シールゴム36が一体形成された本体ゴム弾性体16は、その小径側端部に第一の取付金具12の下端部が差し込まれて加硫接着されていると共に、大径側端部外周面に対して第二の取付金具14の上端部分が重ね合わされて加硫接着されている。なお、第一の取付金具12は、略半球形状とされた下端部が本体ゴム弾性体16に埋設状態で固着されていると共に、軸方向中間部分に形成されたフランジ部18の下面が本体ゴム弾性体16の小径側端面に重ね合わされて加硫接着されている。これにより、第一の取付金具12と第二の取付金具14が本体ゴム弾性体16で弾性的に連結されており、第一の取付金具12と第二の取付金具14を一体的に備えた第一の一体加硫成形品46が形成されている。
【0055】
また、本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品46には、仕切部材50が組み付けられる。仕切部材50は、図4に示されているように、硬質の合成樹脂で形成されており、全体として略円形ブロック形状を有している。また、仕切部材50の径方向中央部分には、下方に向かって開口する浅底円形の嵌着凹所54が形成されていると共に、嵌着凹所54の径方向中央部分には、嵌着凹所54よりも小径の中央凹所56が形成されており、嵌着凹所54の底壁面に開口せしめられている。更にまた、仕切部材50には、下端面から突出する複数の係止爪58が一体形成されている。係止爪58は、嵌着凹所54の開口周縁部から下方に向かって突出せしめられており、突出先端部が径方向外方に向かって略直角に折り曲げられている。
【0056】
また、仕切部材50の外周部分には、周方向に所定の長さで延びる周溝60が形成されている。周溝60は、周方向端部で折り返して二周弱の長さで延びる凹溝であって、仕切部材50の外周面に開口せしめられている。なお、周溝60は、全周に亘って略一定の断面積を有している。更に、周溝60の長さ方向中間部分には、径方向で直線的に延びる図示しない連通路が接続されている。この連通路は、一方の端部が周溝60の上段部分の底壁面(内周壁面)に開口せしめられていると共に、他方の端部が中央凹所56の周壁面に開口せしめられており、それら周溝60と中央凹所56が該連通路によって相互に連通せしめられている。
【0057】
さらに、仕切部材50は、軸方向下方に行くに従って次第に大径となっており、仕切部材50の外周面が軸方向下方に向かって次第に拡開する外周テーパ面62とされている。この外周テーパ面62は、シールゴム36における嵌着部42の内周面である内周テーパ面44に対応する傾斜湾曲面とされている。また、本実施形態では、外周テーパ面62の中心軸に対する傾斜角度(図4中のβ)が軸方向で略一定とされており、仕切部材50が全体として略円錐台形状を有している。
【0058】
更にまた、本実施形態では、内周テーパ面44のマウント中心軸に対する傾斜角度:αと、外周テーパ面62のマウント中心軸に対する傾斜角度:βが、略等しくなっている。なお、内周テーパ面44のマウント中心軸に対する傾斜角度:αと、外周テーパ面62のマウント中心軸に対する傾斜角度:βの差は、後述する内周テーパ面44と外周テーパ面62の密着状態での重ね合せを有効に実現するために、充分に小さくされていることが望ましく、好適には±2度以下、より好適には±1度以下とされる。蓋し、傾斜角度:αと傾斜角度:βの差が大きくなると、内周テーパ面44と外周テーパ面62において密着状態で重ね合される部分の面積が比較的に小さくなって、後述する仕切部材50の第二の取付金具14への組付け状態を安定して実現することが困難となるからである。
【0059】
また、軸方向の任意の位置(周溝60の形成位置を除く)における仕切部材50の外径が、マウント軸方向の対応する位置におけるシールゴム36の内径よりも僅かに大きく設定されている。これにより、仕切部材50を嵌着部42が固着された第二の取付金具14に嵌め入れられると、嵌着部42の内周面である内周テーパ面44と仕切部材50の外周面である外周テーパ面62が相互に密着せしめられるようになっている。
【0060】
また、仕切部材50の下端面には保持金具としての保持プレート64が重ね合わされている。保持プレート64は、鉄やアルミニウム合金等の金属材で形成された薄肉の金属板であって、内周部分が外周部分に比して上方に位置せしめられた段付きの円環板形状を有している。また、保持プレート64の径方向中央部分に形成された中央孔66は、保持プレート64を厚さ方向で貫通する円形孔であって、本実施形態では仕切部材50に形成された中央凹所56と略同じ直径を有しており、中央凹所56の開口部と位置合わせされている。
【0061】
さらに、保持プレート64の外周部分には、板厚方向で貫通する複数の係止孔68が形成されている。この係止孔68は、図中では必ずしも明らかではないが、周方向一方の端部が比較的に幅広とされて係止爪58を挿入可能とされていると共に、他方の端部が比較的に狭幅とされて係止爪58の先端に形成された折り曲げ部分を抜出し不能に保持することが可能となっている。
【0062】
そして、保持プレート64の内周部分が仕切部材50の嵌着凹所54に嵌め付けられると共に、係止爪58が係止孔68の幅広部分に挿し入れられた後、保持プレート64を仕切部材50に対して中心軸周りで相対的に回転させて、係止爪58の折り曲げ部分を係止孔68の狭幅部分に係止せしめる。これにより、保持プレート64が仕切部材50の下端面に重ね合わされた状態で固定される。このような仕切部材50に対する保持プレート64の組付け状態下において、保持プレート64の外周縁部は、仕切部材50よりも外周側に張り出す支持部としての挟持部70とされている。
【0063】
また、仕切部材50と保持プレート64の重ね合せ面間には、可動ゴム膜72が配設されている。可動ゴム膜72は、全体として略円板形状を有しており、外周縁部に環状の厚肉部が一体形成されている。そして、可動ゴム膜72は、仕切部材50の中央凹所56の開口周縁部と、保持プレート64の中央孔66の開口周縁部の間で、外周縁部(厚肉部)を挟持されて、外周縁部が固定的に支持されると共に中央部分が弾性変形を許容された状態で仕切部材50に対して組み付けられている。
【0064】
このような保持プレート64と可動ゴム膜72を備えた仕切部材50は、第二の取付金具14に組み付けられる。即ち、仕切部材50が第一の一体加硫成形品46を構成する第二の取付金具14の下側開口部(本体ゴム弾性体16と反対側の開口部)から挿し入れられて、筒状部22に嵌着固定される。また、仕切部材50に固定された保持プレート64は、その外周縁部がシールゴム36の下端面に対して軸方向で重ね合わされる。
【0065】
ここにおいて、仕切部材50が第二の取付金具14の筒状部22に対して嵌め入れられることにより、仕切部材50の上端面の外周縁部分が、シールゴム36に形成された段差面38に対して押し付けられる。これにより、仕切部材50が第二の取付金具14に対して軸方向で位置決めされると共に、仕切部材50の上端面外周縁部が段差面38に対して密着せしめられて流体密にシールされるようになっている。
【0066】
さらに、第二の取付金具14の筒状部22に嵌め入れられる仕切部材50が軸方向上方に行くに従って小径となっていると共に、筒状部22の内周面に固着されたシールゴム36の内径が上側開口部に近付くにつれて次第に縮小している。これにより、仕切部材50の外周テーパ面62と、シールゴム36の内周テーパ面44の案内作用によって、仕切部材50が第二の取付金具14と同一中心軸上に案内されて、径方向で相対的に位置合わせされるようになっている。
【0067】
そして、径方向で第二の取付金具14に対して位置合わせされた状態で、仕切部材50が嵌め入れられることにより、筒状部22に嵌め付けられる仕切部材50の外周テーパ面62が、筒状部22に固着されたシールゴム36の内周面を構成する内周テーパ面44に対して密着状態で重ね合わされて、仕切部材50が第二の取付金具14に対して嵌着されて支持されている。これにより、仕切部材50が第二の取付金具14に対して軸方向で位置決めされて組み付けられている。
【0068】
また、第一の一体加硫成形品46には、可撓性膜としてのダイヤフラム74が組み付けられている。ダイヤフラム74は、図5に示されているように、薄肉のゴム弾性体で形成されており、全体として略円板形状を呈している。また、ダイヤフラム74の径方向中央部分は、上方に向かって凸となる略円形ドーム形状を有している。
【0069】
また、ダイヤフラム74の外周縁部には、略全周に亘って固定金具76が加硫接着されている。固定金具76は、鉄やアルミニウム合金等の金属材で形成されており、全体として略円環板形状を有している。また、固定金具76の外周縁部には、軸方向上方に向かって折り曲げられた圧入部78が一体的に形成されている。
【0070】
また、本実施形態における固定金具76は、図6に示されているように、周上の複数箇所において、平面視で所定長さの直線状に延びる凹み部79が形成されている。本実施形態では、凹み部79が互いに直交する径方向2方向の両側に形成されており、周上の4箇所に設けられている。換言すれば、本実施形態に係る固定金具76は、4つの凹み部79が形成されることにより、互いに直交する径方向2方向において各一組の二面幅を有している。
【0071】
そして、このような固定金具76がダイヤフラム74に加硫接着されていることにより、本実施形態におけるダイヤフラム74は固定金具76を備えた第二の一体加硫成形品80として形成されている。
【0072】
さらに、固定金具76の上面には、ダイヤフラム74と一体形成された上面シールゴム層82が被着形成されている。この上面シールゴム層82は、固定金具76の上面を略全面に亘って覆うように固着されており、その外周縁部には軸方向上方に向かって突出する外周シール突条84が全周に亘って連続的に形成されている。なお、本実施形態では、外周シール突条84の内周側に外周シール突条84に比して小さな突出高さおよび幅で形成された内周シール突条86が全周に亘って連続的に設けられている。
【0073】
また、固定金具76の下面には、ダイヤフラム74と一体形成された下面シールゴム層88が被着形成されている。下面シールゴム層88は、固定金具76の下面において内周部分を覆うように固着されており、その内周縁部と外周縁部には、それぞれ環状の下シール突条90が下方に向かって突出形成されている。
【0074】
このような構造とされたダイヤフラム74の一体加硫成形品80は、本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品46に対して組み付けられている。即ち、第一の一体加硫成形品46を構成する第二の取付金具14の大径筒部30に対して、第二の一体加硫成形品80を構成する固定金具76が圧入される。そして、固定金具76の外周縁部に一体形成された圧入部78の上端面が、段付部28の下面(本体ゴム弾性体16と反対側の面である段付面)に対して当接せしめられるまで圧入されることにより、第二の一体加硫成形品80が第一の一体加硫成形品46に対して固定的に組み付けられている。
【0075】
また、第一の一体加硫成形品46に対して第二の一体加硫成形品80が組み付けられた状態では、固定金具76が仕切部材50に固定された保持プレート64に重ね合わされて、固定金具76に固着された上面シールゴム層82および内周シール突条86が保持プレート64の外周縁部に当接せしめられていると共に、上面シールゴム層82の外周縁部から突出せしめられた外周シール突条84が保持プレート64よりも外周側において第二の取付金具14の段付部28に圧接せしめられている。
【0076】
さらに、保持プレート64の外周縁部に設けられた挟持部70は、その上面がシールゴム36の下端面に重ね合わされて密着せしめられていると共に、下面がダイヤフラム74の外周部分に一体形成された上面シールゴム層82に重ね合わされて密着せしめられている。これにより挟持部70がそれらシールゴム36と上面シールゴム層82の間で弾性的に挟持されている。
【0077】
これにより、仕切部材50の上端部が段差面38への当接によって軸方向で弾性的に位置決めされていると共に、仕切部材50の下端部が、挟持部70のシールゴム36と上面シールゴム層82の間での挟持と、保持プレート64の上面シールゴム層82への重ね合わせによって支持されている。
【0078】
このように第二の一体加硫成形品80が第一の一体加硫成形品46に対して組み付けられることにより、本体ゴム弾性体16で閉塞された一方の側と反対側である第二の取付金具14の他方の開口部が、ダイヤフラム74によって閉塞せしめられている。これにより、第二の取付金具14の内周側において、本体ゴム弾性体16とダイヤフラム74の軸方向対向面間には、外部空間から隔てられて非圧縮性流体が封入された流体室92が形成されている。なお、流体室92に封入される非圧縮性流体としては、特に限定されるものではないが、水やアルキレングリコール,ポリアルキレングリコール,シリコーン油やそれらの混合液等が好適に採用される。特に、後述する流体の流動作用に基づく防振効果を有効に発揮させるためには、粘度が0.1Pa・s以下の低粘性流体を採用することが望ましい。
【0079】
また、流体室92は、本体ゴム弾性体16とダイヤフラム74の軸方向間に配設されて第二の取付金具14で支持された仕切部材50によって軸方向で上下に二分されている。これにより、仕切部材50を挟んだ軸方向一方の側(図1中、上)には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて、荷重の入力によって内圧変動が惹起せしめられる受圧室94が形成されていると共に、仕切部材50を挟んだ軸方向他方の側(図1中、下)には、壁部の一部がダイヤフラム74で構成されて、容積変化が容易に許容される平衡室96が形成されている。なお、これら受圧室94と平衡室96には、それぞれ流体室92に封入された非圧縮性流体が封入されている。
【0080】
また、仕切部材50の外周面がシールゴム36を介して第二の取付金具14の筒状部22に密着せしめられていることにより、仕切部材50に形成された周溝60の外周側開口部が流体密に閉塞せしめられて、周方向に所定の長さで延びるトンネル状の通路が形成されている。更に、周溝60の長さ方向両端部は、一方の端部が受圧室94に連通せしめられていると共に、他方の端部が平衡室96に連通せしめられている。これにより、周溝60を利用して受圧室94と平衡室96を相互に連通する第一のオリフィス通路98が形成されている。なお、本実施形態における第一のオリフィス通路98は、自動車のエンジンシェイクに相当する10Hz程度の低周波数域にチューニングされている。
【0081】
さらに、周溝60の一方の端部が受圧室94に連通せしめられていると共に、中央凹所56の開口部が可動ゴム膜72の弾性変形によって実質的に平衡室96に連通せしめられている。これにより、受圧室94と平衡室96を相互に連通する本実施形態における第二のオリフィス通路100が、第一のオリフィス通路98の一部と図示しない前記連通路と中央凹所56を利用して形成されている。本実施形態において、第二のオリフィス通路100は、第一のオリフィス通路98に比して高周波数域にチューニングされており、本実施形態では、自動車のアイドリング振動に相当する20〜40Hz程度の中乃至高周波数域にチューニングされている。なお、可動ゴム膜72には、その一方の面に対して、第二のオリフィス通路100を通じて受圧室94内の液圧が及ぼされていると共に、他方の面に対して、保持プレート64の中央孔66を通じて平衡室96内の液圧が及ぼされている。
【0082】
なお、オリフィス通路98,100のチューニング周波数は、各オリフィス通路98,100を通じて流動する流体の共振周波数として解される。また、オリフィス通路98,100は、その通路断面積と通路長の比を調節することによって、チューニング周波数を設定することが出来る。
【0083】
また、第二の一体加硫成形品80の下方には、ブラケット部材102が取り付けられる。ブラケット部材102は、全体として浅底の皿形状で開口周縁部に外周側に向かって広がるかしめ部を有する底金具104と、底金具104の径方向中央部分を貫通して下方に突出する取付ボルト106を備えている。このようなブラケット部材102は、底金具104が第二の取付金具14の大径筒部30に挿し入れられて、その外周縁部が固定金具76に下方から重ね合わされると共に、大径筒部30の下端に一体形成されたかしめ片32によって、大径筒部30に対して固定金具76と共にかしめ固定される。これにより、固定金具76が第二の取付金具14に対してより強固に組み付けられると共に、第二の取付金具14に固定されたブラケット部材102を構成する取付ボルト106を図示しない自動車の車両ボデー側にナット等で固定することにより、第二の取付金具14が車両ボデーに固定されるようになっている。
【0084】
なお、固定金具76は、第二の取付金具14への装着状態において、段付部28よりも内周側に延び出しており、保持プレート64を介して仕切部材50の下端面に軸方向下方から重ね合わされている。それ故、固定金具76が大径筒部30に対してかしめ固定されることにより、仕切部材50が段差面38に対してより有利に押し付けられるようになっている。
【0085】
ここで、本実施形態に係る自動車用エンジンマウント10の製造方法について、一具体例を挙げて説明する。なお、以下に説明する流体封入式防振装置の製造方法はあくまでも一例であって、本発明に従う構造の流体封入式防振装置の製造方法は、以下に記載される具体的な製造方法によって限定的に解釈されるものではない。
【0086】
先ず、第一の取付金具12と第二の取付金具14を本体ゴム弾性体16の成形用金型にセットする。そして、該成形用金型のキャビティにゴム材料を充填して本体ゴム弾性体16を形成することにより、第一の取付金具12と第二の取付金具14を備えた本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品46(第一の一体加硫成形品46)を準備する工程が完了する。なお、本体ゴム弾性体16の形成時にシールゴム36およびストッパゴム33が一体形成されることは、言うまでもない。
【0087】
次に、固定金具76をダイヤフラム74の成形用金型にセットする。そして、該成形用金型のキャビティにゴム材料を充填してダイヤフラム74を形成することにより、固定金具76を一体的に備えたダイヤフラム74の一体加硫成形品80(第二の一体加硫成形品80)を準備する工程が完了する。なお、ダイヤフラム74の形成時に上下面シールゴム層82,88や内外周シール突条84,86や下シール突条90も一体形成される。
【0088】
また次に、硬質の合成樹脂材で形成された仕切部材50と、薄肉円形の金属プレートで形成された保持プレート64と、ゴム弾性体で形成された円板形状の可動ゴム膜72を準備する。なお、仕切部材50は、樹脂成形用の金型に合成樹脂材料を充填して成形することにより得ることが出来る。また、保持プレート64は、金属板をプレス加工すること等により有利に得ることが出来る。更に、可動ゴム膜72は、可動ゴム膜72の成形用金型のキャビティにゴム材料を充填して成形することにより得ることが出来る。そして、これら仕切部材50と保持プレート64と可動ゴム膜72を相互に重ね合わせて組み付けることにより、本実施形態における仕切部材50を準備する工程が完了する。
【0089】
また、本実施形態では、更にブラケット部材102を準備する。このブラケット部材102は、金属板にプレス加工を施す等して形成された底金具104の中央孔に取付ボルト106を圧入固定することで得ることが出来る。
【0090】
ここにおいて、準備された第一の一体加硫成形品46と第二の一体加硫成形品80と仕切部材50を、非圧縮性流体で充たされた水槽に浸漬せしめる。そして、非圧縮性流体中で第一の一体加硫成形品46に対して仕切部材50と第二の一体加硫成形品80を嵌着固定せしめる。
【0091】
より詳細には、先ず、図7に示されているように、非圧縮性流体中に浸漬された第一の一体加硫成形品46の本体ゴム弾性体16とは反対側の開口部から、仕切部材50を小径側端部が嵌め入れ先端側となるように挿し入れる。ここで、シールゴム36の大径側開口部に対して仕切部材50が小径側から挿し入れられることから、仕切部材50の小径側端部の外径とシールゴム36の内径が略等しくなる位置まで仕切部材50は容易に挿入される。
【0092】
さらに、仕切部材50の外周テーパ面62がシールゴム36の内周テーパ面44に当接せしめられる位置まで仕切部材50を筒状部22に挿し入れた後に、第二の一体加硫成形品80を第二の取付金具14の大径筒部30に圧入して、固定金具76を仕切部材50に対して下方から重ね合わせる。そして、固定金具76が仕切部材50に対して軸方向で重ね合わされた状態で、更に固定金具76を大径筒部30に圧入して、固定金具76に設けられた圧入部78の先端を第二の取付金具14の段付部28の下面に当接せしめる。これにより、ダイヤフラム74を所定の位置に配置する。
【0093】
また、固定金具76を、保持プレート64を介して仕切部材50に重ね合わせた状態で大径筒部30に圧入することにより、仕切部材50を固定金具76によって軸方向に押し込んで、第二の取付金具14の筒状部22に嵌着固定させる。これにより、第一の一体加硫成形品46に対する仕切部材50と第二の一体加硫成形品80の組付け工程を完了する。
【0094】
特に本実施形態では、固定金具76に4つの凹み部79が設けられており、固定金具76と第二の取付金具14の間に、図8に示されているような隙間が形成されている。そして、固定金具76の第二の取付金具14への嵌付け作業中には、この隙間を通じて流体室92(本体ゴム弾性体16とダイヤフラム74の対向面間の領域)が非圧縮性流体を充たした水槽、換言すれば、外部に対して連通されており、流体室92内の流体量を隙間を通じた流体の排出と注入によって適当に調節することが可能となっている。
【0095】
すなわち、非圧縮性流体中で固定金具76の嵌付け作業を行うと、作業が進行するにつれて、次第に本体ゴム弾性体16とダイヤフラム74の対向面間距離が小さくなり、受圧室94(換言すれば、本体ゴム弾性体16と仕切部材50の対向面間に形成された領域)の容積が次第に小さくなる。それ故、受圧室94に連通されて容積変化が許容された平衡室96(換言すれば、仕切部材50とダイヤフラム74の対向面間に形成された領域)に封入流体が流入する。そこで、固定金具76と第二の取付金具14の径方向間に隙間を形成することにより、流体室92内に必要以上に充填された非圧縮性流体を外部に排出して、ダイヤフラム74を初期の状態(非変形状態)に維持することが、ダイヤフラム74の耐久性や目的とする防振特性の実現のために望ましい。なお、このような液抜きによる流体の封入量の調節は、ダイヤフラム74を拘束した状態で組付け作業を行うこと等により有利に実現される。
【0096】
ここにおいて、シールゴム36の軸方向中間部分には段差面38が形成されており、仕切部材50の上端面をシールゴム36の段差面38に当接せしめることにより、仕切部材50を所定の軸方向位置に容易に位置決めして組み付けることが出来る。しかも、仕切部材50は、内周テーパ面44と外周テーパ面62の摺接による案内作用によって、第二の取付金具14に対して径方向で容易に位置合わせされると共に、傾きが容易に補正されるようになっている。
【0097】
このようにして、仕切部材50と第二の一体加硫成形品80を第一の一体加硫成形品46に対して嵌着固定することにより、非圧縮性流体が充填された受圧室94と平衡室96を有するマウント本体を容易に実現することが出来る。
【0098】
次に、第一,第二の一体加硫成形品46,80と仕切部材50で構成された前記マウント本体を大気中に取り出して、準備されたブラケット部材102を組み付ける。即ち、ブラケット部材102を大径筒部30に対して軸方向で挿入して、底金具104の外周縁部に設けられたフランジを固定金具76に軸方向で重ね合わせる。そして、第二の取付金具14の下端部に形成されたかしめ片32を屈曲せしめて、底金具104と固定金具76を同時にかしめ固定することにより、固定金具76が第二の取付金具14に対してより強固に組み付けられると共に、ブラケット部材102が該マウント本体に組み付けられて、固定金具76を第二の取付金具14に対してかしめ固定する工程が完了する。以上により、本実施形態に従う構造の自動車用エンジンマウント10が実現される。なお、ブラケット部材102の第二の取付金具14への固定は非圧縮性流体中で行うことも可能であり、その場合には、底金具104に液抜き用の孔を形成することが望ましい。
【0099】
このような本実施形態に従う構造とされた自動車用エンジンマウント10では、車両への装着状態において、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に軸方向での振動荷重が入力されると、受圧室94と平衡室96の間で相対的な圧力変化が生ぜしめられて、第一のオリフィス通路98又は第二のオリフィス通路100を通じて両室94,96間での流体流動が生ぜしめられる。
【0100】
すなわち、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に自動車のエンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動が入力された場合には、第一のオリフィス通路98を通じて受圧室94と平衡室96の間で流体の流動が生ぜしめられて、流体の流動作用に基づく防振効果が発揮される。このような低周波大振幅振動の入力時には、可動ゴム膜72が実質的に拘束状態とされて、受圧室94側の液圧が平衡室96側に逃されるのを回避できるようになっている。これにより、第二のオリフィス通路100が実質的な遮断状態とされて、第一のオリフィス通路98を通じて流動する流体量を有利に確保することが出来ることから、第一のオリフィス通路98による防振効果が有効に発揮される。
【0101】
一方、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に自動車のアイドリング振動に相当する中乃至高周波小振幅振動が入力された場合には、第二のオリフィス通路100を通じて受圧室94と平衡室96の間で流体の流動が生ぜしめられて、流体の流動作用に基づく防振効果が発揮される。即ち、中乃至高周波小振幅振動の入力時には、可動ゴム膜72の微小な弾性変形によって、受圧室94内の液圧が平衡室96に伝達される。この液圧伝達作用によって、第二のオリフィス通路100が実質的な連通状態(第二のオリフィス通路100を通じての流体流動が生ぜしめられ得る状態)とされて、第二のオリフィス通路100を通じて流動する流体の共振作用等の流動作用に基づく防振効果が発揮されるようになっている。
【0102】
ここにおいて、本実施形態に係る自動車用エンジンマウント10では、第一の一体加硫成形品46に対して仕切部材50が容易に組み付けられるようになっている。即ち、本実施形態では、仕切部材50が第二の取付金具14の筒状部22に対して挿し入れられて、仕切部材50が筒状部22に対してシールゴム36を介して密着せしめられることにより、仕切部材50が第一の一体加硫成形品46に対して嵌着固定されるようになっている。
【0103】
そこにおいて、シールゴム36の内周面が軸方向下方に向かって次第に拡開する内周テーパ面44とされていると共に、仕切部材50の外周面が内周テーパ面44に対応する外周テーパ面62とされており、内周テーパ面44の大径側(開口側)から外周テーパ面62の小径側が挿し入れられることにより、それら内周テーパ面44と外周テーパ面62の案内作用によって、組付け時に仕切部材50が筒状部22に対して径方向で位置合わせされるようになっている。
【0104】
これにより、仕切部材50を第二の取付金具14に対して絞り加工等を施すことなく少ない工程数で組み付けることが出来ると共に、金属製に比べて強度が小さい硬質の合成樹脂で形成された仕切部材50に対して局所的に大きな応力が作用せしめられるのを防いで、仕切部材50の組付け時における破損を回避することが出来る。
【0105】
しかも、内外周テーパ面44,64による案内作用によって仕切部材50が傾いて取り付けられたりするのを有利に防ぐことも出来て、目的とする組付け状態を容易に且つ安定して実現することが出来る。
【0106】
また、仕切部材50の上端面がシールゴム36に形成された段差面38に軸方向で押し付けられており、仕切部材50の軸方向での位置が段差面38への当接によって設定されていると共に、第一のオリフィス通路98の受圧室94への短絡を有利に防いで、目的とする防振効果を有効に得ることが出来る。
【0107】
しかも、本実施形態では、仕切部材50の下端面がダイヤフラム74と一体形成された上面シールゴム層82に当接せしめられていると共に、仕切部材50を構成する保持プレート64がシールゴム36と上面シールゴム層82の間で弾性的に保持されている。これにより、仕切部材50は、その軸方向上端部と下端部がそれぞれゴム弾性体に当接せしめられて保持されており、仕切部材50の軸方向での寸法誤差等に起因する取付位置のずれ等を有利に防ぐことが出来る。
【0108】
さらに、本実施形態では、シールゴム36の内周テーパ面44と仕切部材50の外周テーパ面62の軸方向全体が、何れも中心軸に対して略一定の傾斜を為している。それ故、仕切部材50に作用する応力が部分的に大きくなるのを防いで全体に略一様な応力が及ぼされる。従って、仕切部材50の破損を有利に防ぐことが出来る。
【0109】
更にまた、本実施形態では、内周テーパ面44の傾斜角度と外周テーパ面62が相互に対応する傾斜面とされており、それらの傾斜角度が略等しくなっている。これにより、内周テーパ面44と外周テーパ面62が全面に亘って略等しい圧力で押し当てられて密着せしめられる。従って、仕切部材50に対して局所的な大応力が作用するのを有利に防いで、仕切部材50の第一の一体加硫成形品46への組付け時に、仕切部材50に亀裂が生じる等の不具合を回避することが出来る。
【0110】
以上からも明らかなように、本実施形態に係る自動車用エンジンマウント10では、金属製の仕切部材を採用した場合に比して、オリフィス通路98,100の設計自由度の高さや仕切部材自体の軽量化や低コスト化等の点で有利となる一方、強度の低下が問題となり易い合成樹脂製の仕切部材50を採用した場合にも、強度の低下による組付け時における仕切部材50の破損を防ぎつつ、簡単な組付け方法で安定した組付け状態を実現することが可能となるのである。
【0111】
また、エンジンマウント10では、シールゴム36の軸方向中間部分に段差面38が形成されており、仕切部材50の受圧室94側端面が段差面38に押し付けられている。これにより、仕切部材50の軸方向での位置決めが実現されると共に、受圧室94と第一のオリフィス通路98の間がより一層有利にシールされて、短絡による防振性能の低下が防がれるようになっている。
【0112】
さらに、本実施形態に係るエンジンマウント10では、シールゴム36の周上の複数箇所に保持部40が形成されており、段差面38が保持部40の形成箇所において内周側に張り出している。これにより、仕切部材50の段差面38への当接による軸方向での位置決めをより安定して実現することが出来る。
【0113】
しかも、保持部40が周上の複数箇所において部分的に形成されていることにより、受圧室94の容積を大きく確保することが出来ると共に、振動入力時に受圧室94に対して圧力を及ぼす本体ゴム弾性体16のピストン断面積を大きく確保することが出来る。これにより、受圧室94内の圧力変動を効果的に惹起せしめて、オリフィス通路98,100を通じての流体流動を有効に生ぜしめることが可能となって、仕切部材50の位置決め固定を有利に実現しつつ、目的とする防振効果を有効に得ることが出来る。
【0114】
以上、本発明の一実施形態について説明してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0115】
例えば、仕切部材50の構造は、前記実施形態に示された具体的な構造によって限定的に解釈されるものではない。具体的には、例えば、前記実施形態では、仕切部材50に対して保持プレート64と可動ゴム膜72が取り付けられているが、金属製の保持プレート64や可動ゴム膜72は必須ではない。
【0116】
また、図9に示された仕切部材108のように、嵌入れ側の端部である小径側端部(図9における上端部)にシール突条110が形成されていても良い。なお、以下の説明において、前記実施形態と実質的に同一の部材乃至部位については、同一の符号を付すことにより、説明を省略する。
【0117】
より詳細には、仕切部材108の小径側端部には、外周側に向かって突出するシール突条110が一体形成されている。このシール突条110は、突出先端側に行くに従って次第に軸方向で狭幅となる略半円形断面を有しており、周方向の全周に亘って連続的に延びている。
【0118】
このような構造の仕切部材108を採用することにより、仕切部材108の小径側端部(本実施形態では受圧室94側の端部)における仕切部材108と第二の取付金具14の間のシール性を向上せしめることが出来る。それ故、本実施形態では、第一のオリフィス通路98の長さ方向中間部分が受圧室94に短絡されるのを有利に防ぐことが出来る。
【0119】
なお、このようなシール突条は、必ずしも一条のみが形成されていなくても良く、径方向外方に突出するシール突条110が並列的に複数条形成されていても良い。また、仕切部材の軸方向端面から軸方向で突出して、段差面38に対して押し当てられるようになっていても良い。
【0120】
また、外周テーパ面は、必ずしも軸方向の全体に亘って一定の傾斜角度で形成されていなくても良い。具体的には、例えば、図10に示されているように、軸方向中間部分で傾斜角度が変化せしめられて、受圧室94側端部の傾斜角度:γが平衡室96側端部の傾斜角度:βよりも大きくされた外周テーパ面114を有する仕切部材112を採用することも出来る。なお、このような仕切部材112を採用する場合には、シールゴムの内周面を構成する内周テーパ面を外周テーパ面114の形状に対応させることにより、内周テーパ面と外周テーパ面114が密着せしめられる。
【0121】
さらに、内周テーパ面と外周テーパ面は、必ずしも等しい傾斜角度で形成されていなくても良い。なお、内周テーパ面と外周テーパ面の傾斜角度が異なる場合にも、仕切部材の嵌入れによるシールゴムの変形によって、内周テーパ面と外周テーパ面が広い範囲で密着せしめられていることが望ましく、より好適には、それらテーパ面が略全面に亘って密着せしめられていることが望ましい。また、前記実施形態にも示されているように、それらテーパ面の密着状態を有利に実現するためには、それらテーパ面の傾斜角度の差が、±2度以下に抑えられていることが望ましい。
【0122】
また、オリフィス通路98,100の具体的な構造は、前記実施形態によって何等限定的に解釈されるものではない。具体的には、例えば、前記実施形態では、第一のオリフィス通路98が外周テーパ面62に開口するように形成されていたが、必ずしも外周テーパ面62に開口するように形成されている必要はない。また、前記実施形態では、低周波数域にチューニングされた第一のオリフィス通路98と、中乃至高周波数域にチューニングされた第二のオリフィス通路100を備えたダブルオリフィス構造のエンジンマウント10が示されているが、例えば、オリフィス通路を一つだけ有するシングルオリフィス構造のエンジンマウント等にも、本発明は適用可能である。
【0123】
また、前記実施形態では、本発明を自動車用のエンジンマウントに適用した例を示したが、本発明は、必ずしもエンジンマウントにのみ適用されるものではなく、サブフレームマウント等、各種の流体封入式防振装置に適用可能である。更に、本発明が適用される流体封入式防振装置は、必ずしも自動車用のものに限定されるものではなく、列車等の各種車両用の他、各種用途に用いられる流体封入式防振装置に対して本発明を適用することが可能である。
【0124】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本発明の一実施形態としての自動車用エンジンマウントの断面図。
【図2】同エンジンマウントを構成する第一の一体加硫成形品の断面図。
【図3】同第一の一体加硫成形品の底面図。
【図4】同エンジンマウントを構成する仕切部材の断面図。
【図5】同エンジンマウントを構成する第二の一体加硫成形品の断面図。
【図6】同第二の一体加硫成形品の平面図。
【図7】同エンジンマウントの液中での組付けを示す図。
【図8】同エンジンマウントの液中での組付け後の要部を示す断面拡大図。
【図9】本発明の別の実施形態としての自動車用エンジンマウントを構成する仕切部材の断面図。
【図10】本発明のまた別の実施形態としての自動車用エンジンマウントを構成する仕切部材の断面図。
【符号の説明】
【0126】
10:自動車用エンジンマウント,12:第一の取付金具,14:第二の取付部材,16:本体ゴム弾性体,28:段付部,30:大径筒部,36:シールゴム,38:段差面,44:内周テーパ面,50:仕切部材,62:外周テーパ面,64:保持プレート,70:挟持部,72:可動ゴム膜,74:ダイヤフラム,76:固定金具,94:受圧室,96:平衡室,98:第一のオリフィス通路,100:第二のオリフィス通路,110:シール突条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の取付部材が筒状の第二の取付部材の軸方向一方の開口部側に離隔配置されて、それら第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体で連結されており、該第二の取付部材で支持された仕切部材を挟んだ一方の側に壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成された受圧室が形成されていると共に該仕切部材を挟んだ他方の側に壁部の一部が該可撓性膜で構成された平衡室が形成され、更にそれら受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路が形成されている流体封入式防振装置において、
前記第二の取付部材の内周面には前記本体ゴム弾性体から延び出すシールゴムが固着されており、該シールゴムの内周面には周方向に延びる環状の段差が形成されていると共に、該シールゴムの内周面が該段差よりも該本体ゴム弾性体と軸方向反対側の部分において該本体ゴム弾性体と反対の開口部側に向かって次第に拡開する内周テーパ面とされている一方、前記仕切部材が硬質の合成樹脂で形成されていると共に、該仕切部材の外周面が該内周テーパ面に対応する外周テーパ面とされており、該仕切部材が該第二の取付部材の該本体ゴム弾性体と軸方向反対側の開口部から嵌め入れられて、該仕切部材における該第二の取付部材に対する嵌め入れ方向の先端側の外周縁部分が該段差に当接されていると共に、該仕切部材における該外周テーパ面が該シールゴムの該内周テーパ面に密着状態で重ね合わされることにより、該仕切部材が該第二の取付部材に対して軸方向で位置決めされて組み付けられていることを特徴とする流体封入式防振装置。
【請求項2】
前記内周テーパ面と前記外周テーパ面が何れも軸方向の全体に亘って一定の傾斜角度で広がっている請求項1に記載の流体封入式防振装置。
【請求項3】
前記内周テーパ面と前記外周テーパ面の傾斜角度の差が±2度の範囲に設定されている請求項1又は2に記載の流体封入式防振装置。
【請求項4】
前記仕切部材の前記本体ゴム弾性体と反対側の端面には保持金具が重ね合わされて組み付けられていると共に、該保持金具の外周縁部が該仕切部材よりも外周側に延び出す支持部とされており、該支持部が前記シールゴムの軸方向端部と前記可撓性膜の外周部分で軸方向に挟み込まれて支持されている請求項1乃至3の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項5】
一方の面に前記受圧室の圧力が及ぼされると共に、他方の面に前記平衡室の圧力が及ぼされる可動ゴム膜が、前記仕切部材と前記保持金具の間で外周縁部を挟持されて変形可能に支持されている請求項4に記載の流体封入式防振装置。
【請求項6】
前記仕切部材の前記第二の取付部材に対して嵌め入れられる軸方向先端側の端部周縁において外方に突出して全周に亘って連続的に延びるシール突条が一体形成されている請求項1乃至5の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項7】
前記第二の取付部材には前記本体ゴム弾性体が固着された側と反対側の開口部分に段付部が形成されており、該段付部よりも開口側が大径のかしめ筒部とされて該段付部の開口側の面が環状の段付面とされていると共に、前記可撓性膜の外周縁部に加硫接着された環状の固定金具が該かしめ筒部に挿し入れられて該段付面に重ね合わされると共に該かしめ筒部に対してかしめ固定されており、該第二の取付部材に対してかしめ固定された該固定金具は該段付面よりも径方向内方に突出せしめられて該第二の取付部材に嵌め入れられた前記仕切部材の軸方向端面に重ね合わされて、該仕切部材が該固定金具によって前記シールゴムの前記段差に対して押し付けられている請求項1乃至6の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項8】
前記シールゴムの前記段差よりも前記本体ゴム弾性体側には、周上で部分的に内周側に延び出す保持部が一体形成されており、周上で該保持部が形成された部分において該段差が内周側に延び出している請求項1乃至7の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか一項に記載の流体封入式防振装置を製造するに際して、
前記第一の取付部材と前記第二の取付部材を前記本体ゴム弾性体で連結すると共に、該第二の取付部材の内周面に前記シールゴムを被着形成した第一の一体加硫成形品を準備する工程と、
前記可撓性膜の外周縁部に環状の固定金具を加硫接着せしめた第二の一体加硫成形品を準備する工程と、
前記仕切部材を準備する工程と、
該第一の一体加硫成形品と該第二の一体加硫成形品と該仕切部材を非圧縮性流体中に浸漬して、該第一の一体加硫成形品を構成する該第二の取付部材に対して該本体ゴム弾性体と反対側から該仕切部材を嵌め入れると共に、該第二の一体加硫成形品を構成する該固定金具を該仕切部材に重ね合わせて該第二の取付部材に嵌着固定する工程と、
該第二の取付部材の該本体ゴム弾性体と反対側の開口部を加工して該固定金具を該第二の取付部材にかしめ固定する工程と
を、含むことを特徴とする流体封入式防振装置の製造方法。
【請求項10】
前記固定金具と前記第二の取付部材の前記かしめ筒部の間には周上で部分的に隙間が形成されており、非圧縮性流体中で前記仕切部材および該固定金具を該第二の取付部材に対して組み付ける際に、前記流体室に封入される流体量を該隙間を利用して調節可能となっている請求項9に記載の流体封入式防振装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−58011(P2009−58011A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224404(P2007−224404)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】