説明

流体封入式防振装置

【課題】 受圧室と平衡室をオリフィス通路で連通する一方、受圧室と平衡室を仕切る仕切部材に設けた収容スペース内に微小変位可能に可動板を収容して、可動板の上下両面に及ぼされる受圧室と平衡室の圧力差による該可動板の収容スペース内での変位に基づいて、受圧室の圧力変動を吸収して、オリフィス通路のチューニング周波数域を超えた周波数域の振動入力時における著しい高動ばね化を回避するようにした流体封入式防振装置において、振幅が大きく異なる低周波振動の入力時にも、オリフィス通路のチューニング周波数の変化を抑えて、目的とするオリフィス効果が安定して発揮されるようにする。
【解決手段】 可動ゴム板50において、円環状溝69を挟んだ内外周部分に中央円板部分60と外周円環部分62を形成し、収容スペース49における中央円板部分60の板厚方向での可動距離よりも外周円環部分62の板厚方向での可動距離を大きくして、中央円板部分60が収容スペース49の内面53,55に当接した状態下でも外周円環部分62において更なる変位が許容されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車用エンジンマウント等として用いられる防振装置に係り、特に内部に封入された非圧縮性流体の流動作用を利用して防振効果を得るようにした流体封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に装着される防振連結体や防振支持体の一種として、例えば実公平4−33478号公報(特許文献1)等に記載されているような流体封入式の防振装置が知られている。このような防振装置は、一般に、第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結せしめた防振装置において、本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成された受圧室と、変形容易な可撓性膜で壁部の一部が構成された平衡室を設けて、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入した構造とされている。そして、第一の取付部材と第二の取付部材の間への振動入力時に受圧室と平衡室の間に惹起される相対的な圧力変動に基づいて、それら受圧室と平衡室を相互に連通するようにして形成されたオリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づいて防振効果を発揮し得るようになっている。
【0003】
また、オリフィス通路を通じて流動せしめられる非圧縮性流体の共振作用に基づく防振効果は、予めチューニングされた特定の周波数域でしか有効に発揮され難い。そこで、特にオリフィス通路のチューニング周波数よりも高い周波数域の振動入力時における著しい高動ばね化を回避して防振性能を向上するために、可動板による液圧吸収機構が提案されている。この液圧吸収機構は、一般に、受圧室と平衡室を仕切る仕切部材に収容スペースを形成し、この収容スペースに対して微小変位可能に可動板を収容配置せしめた構造となっている。収容スペースは、受圧室と平衡室にそれぞれ通孔を通じて接続されており、それらの通孔を通じて、可動板の一方の面に受圧室の圧力が及ぼされると共に他方の面に平衡室の圧力が及ぼされるようになっている。
【0004】
そして、受圧室と平衡室の圧力差に基づく可動板の変位によって、オリフィス通路のチューニング周波数よりも高い周波数域の振動入力時における受圧室の微小圧力変動を平衡室に逃がして吸収するようにされている。一方、オリフィス通路がチューニングされた低い周波数域の振動入力時には、かかる振動の振幅が大きいことから、可動板が収容スペースの内面に当接して重ね合わされた状態となって通孔を実質的に閉塞してしまうこととなる。それ故、液圧吸収機構による受圧室の圧力吸収が制限されて、受圧室と平衡室の相対的な圧力変動が有効に生ぜしめられることとなり、それら両室間でのオリフィス通路を通じての流体流動量が十分に確保されて、オリフィス通路による防振効果が発揮されるようになっている。
【0005】
ところで、近年では、自動車のエンジンシェイクに相当する低周波数域の振動に対する防振効果として、段差乗越時等に入力される大きな振幅振動だけでなく、通常走行時の路面凹凸等によって生ぜしめられる比較的に小さい振幅振動に対してまで要求されるようになってきている。具体的に例示をすれば、次の(1)〜(3)のような振動に対して、それぞれ防振性能が要求されるようになってきている。
(1)エンジンシェイク等の低周波振動 (振幅:±0.5mm〜2.0mm)
(2)アイドリング振動等の中周波振動 (振幅:±0.1mm〜0.25mm)
(3)走行こもり等の高周波振動 (振幅:±0.01mm〜±0.05mm)
【0006】
そして、これらの防振効果が要求される各種振動のうち、(1)の低周波振動に対しては高減衰特性が要求されることから、オリフィス通路が利用されている。一方、(2),(3)の中周波数や高周波振動に対しては低動ばね特性が要求されることから、オリフィス通路の実質的な閉塞化に伴う著しい高動ばね化を回避するために、上述の如き可動板による液圧吸収機構が採用されているのである。即ち、かかる可動板は、(2),(3)の中〜高周波数域の振動入力時には、収容スペース内で非拘束のフロート状態に維持されて受圧室の圧力を可及的に逃がす一方、(1)の低周波数域の振動入力時には、仕切板に当接して通孔を閉じて受圧室に圧力変動が有効に生ぜしめられるようにする構造とされている。
【0007】
ところが、近年では、自動車の静粛性や高級化等に伴って、上述したようにオリフィス通路による防振効果が要求される低周波数域の振動が、振幅:±0.5mm〜2.0mmと広い範囲に亘るようになってきた。かかる状況下、従来では認識されておらず、当然に問題視もされていなかったことが、防振性能上、新たな問題となることが、本発明者の研究によって、新たに見出されたのである。
【0008】
その問題とは、オリフィス通路によって発揮される防振性能の向上効果が、目的とする周波数域から外れてしまうおそれがあるということである。即ち、上述の如く、オリフィス通路による防振効果の要求される低周波数域の振動の振幅が大きく異なる場合には、同一のオリフィス通路においても、そのチューニング周波数(液柱共振作用に基づいて高減衰効果の発揮される周波数)が、振幅の変化に伴って変化することが明らかとなったのである。
【0009】
その後の本発明者による多数の実験と検討の結果、このオリフィス通路のチューニング周波数が変化することの大きな原因の一つは、振幅が大きくなるに伴って受圧室の圧力変動幅が増大して、受圧室の壁ばね剛性が大きくなることに起因するものであろうとの知見を得た。要するに、オリフィス通路のチューニング周波数は、オリフィス通路を通じて流動せしめられる流体のマス成分と、オリフィス通路で接続された両液室(受圧室と平衡室)の相対的な壁ばね剛性(液室を単位量だけ容積変化させるのに必要とされる圧力変化量に等しいものとして認識される)からなるバネ成分とによって大きな影響を受けることとなるが、入力振動の振幅が大きく異なると液室(特に受圧室)内の圧力が大きく変化する結果、壁ばね剛性の変化量が大きくなって、オリフィス通路のチューニング周波数が無視できない程に変化してしまうものと推定されるのである。
【0010】
そのために、例えば±0.5mmの低周波小振幅振動の入力時に比して、±2.0mmの低周波大振幅振動の場合には、オリフィス通路のチューニング周波数が高周波数域に移行してしまうこととなる。ところが、振幅が異なっても、低周波数域で問題となるエンジンシェイクの周波数は一定であることから、結果的に、オリフィス通路のチューニング周波数が防振すべきエンジンシェイクの周波数から外れてしまって、目的とするオリフィス通路による防振効果が有効に発揮され難くなってしまうという問題の発生するおそれがあったのである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここにおいて、本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、振幅が大きく異なる低周波数域の各種振動入力時に、何れも、オリフィス通路による防振効果が、略一定のチューニング周波数域で有効に発揮され得る、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することにある。
【0012】
そして、本発明は、例えば自動車用エンジンマウントとして好適に採用され得て、それにより、上述の(1)に記載の低周波振動に対しては、たとえ振幅が±0.5mm〜2.0mm等に亘る広い範囲で変化してもオリフィス通路による防振効果が、予め設定された特定のチューニング周波数域で安定して発揮され得ると共に、上述の(2),(3)に記載の如き中〜高周波の各周波数域の振動入力時には、可動板による液圧吸収機能が有効に発揮されて、オリフィス通路の反共振的な作用に起因する高動ばね化が効果的に回避され得る構造を、新規に提供することも可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載されたもの、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0014】
〔本発明の態様1〕
本発明の態様1の特徴とするところは、第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結せしめ、該本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成されて振動入力時に圧力変動が生ぜしめられる受圧室と、壁部の一部が可撓性膜で構成されて容積変化が許容される平衡室を、該第二の取付部材で支持された仕切部材を挟んだ両側に形成して、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入すると共に、該受圧室と該平衡室を相互に連通するオリフィス通路を設ける一方、該仕切部材に設けた収容スペースに対して板厚方向で所定量の隙間をもって微小変位可能に可動板を収容配置すると共に、該収容スペースを該受圧室と該平衡室にそれぞれ接続する通孔を形成し、該通孔を通じて該可動板の一方の面に該受圧室の圧力が及ぼされ且つ他方の面に該平衡室の圧力が及ぼされるようにして、該可動板の板厚方向への変位に基づいて振動入力時における該受圧室の微小圧力変動を該平衡室に逃がして吸収するようにした流体封入式防振装置において、ゴム弾性体で形成された可動ゴム板によって前記可動板を構成すると共に、該可動ゴム板の径方向中間部分に周方向の全周に亘って連続して延びる円環状溝を形成して、該円環状溝を挟んだ内周側部分および外周側部分を中央円板部分および外周円環部分となし、前記収容スペースにおける該中央円板部分の板厚方向での可動距離よりも該外周円環部分の板厚方向での可動距離を大きくして、該中央円板部分が前記収容スペースの内面に当接した状態下でも該外周円環部分において更なる変位が許容されるようにする一方、該可動ゴム板の可動方向で対向位置する該収容スペースにおける一対の対向内面において該中央円板部分が当接する中央領域と該外周円環部分が当接する外周領域とにそれぞれ開口するように前記通孔を形成した流体封入式防振装置にある。
【0015】
このような本発明の態様1に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、オリフィス通路がチューニングされた低周波数域の振動に比して振幅が小さい中〜高周波数域の振動入力時には、可動ゴム板が収容スペース内で実質的にフローティング状態となり、可動ゴム板の収容スペース内での実質的な自由変位に基づいて受圧室の圧力変動が吸収されることとなる。その結果、オリフィス通路の流通抵抗の如何に拘わらず、低動ばね化が図られて、良好な振動絶縁性能に基づく防振効果が発揮されることとなる。
【0016】
一方、オリフィス通路がチューニングされた低周波数域の振動入力時には、入力振動の振幅が大きいことによって可動ゴム板が収容スペースの内面に当接して変位規制されることとなり、可動ゴム板の変位による受圧室の圧力吸収が阻止される結果、受圧室と平衡室の圧力差が発生して、かかる圧力差に基づいてオリフィス通路を通じての流体流動が積極的に生ぜしめられる。その結果、オリフィス通路を流動せしめられる流体の共振作用に基づく高減衰効果が発揮されて、有効な防振性能を得ることが出来るのである。
【0017】
そこにおいて、本態様の流体封入式防振装置では、可動ゴム板の中央円板部分よりも外周円環部分の方が収容スペース内での可動距離が大きく設定されていることから、低周波数域の振動入力時には、中央円板部分が収容スペースの内面に当接して変位規制された状態下でも、外周円環部分は未だ可動状態とされる。それ故、低周波数域の振動入力時でも、この外周円環部分の変位に基づいて受圧室の圧力の増大が抑えられるのであり、それによって、受圧室の壁ばね剛性の増大が軽減乃至は回避され得ることとなる。
【0018】
その結果、振幅の異なる低周波振動が入力された場合でも、振幅の相違に起因する壁ばね剛性の変化が抑えられるのであり、壁ばね剛性の変化が一つの大きな要因と考えられる、前述の如きオリフィス通路のチューニング周波数の変化が有効に抑えられることとなる。
【0019】
従って、本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置では、比較的に大きな範囲で振幅の異なる同一周波数域の低周波振動に対して、何れも、当該低周波振動の周波数域へのオリフィス通路のチューニング状態が有利に維持されて、オリフィス通路を通じて流動せしめられる非圧縮性流体の共振作用に基づく防振効果が、有効に発揮され得ることとなるのである。
【0020】
しかも、本態様の流体封入式防振装置においては、中央円板部分が収容スペースの内面に当接した状態でも、外周円環部分が収容スペースの内面に当接するまでは、受圧室の圧力吸収が完全に阻止されないことから、衝撃荷重等の大きな振幅振動が入力された場合でも、中央円板部分と外周円環部分が段階的に順次に当接することとなる。これにより、可動ゴム板の収容スペース内面に対する打ち当たりの衝撃が緩和されて、打ち当たりに伴う異音や衝撃の発生も低減されるといった効果も発揮される。
【0021】
〔本発明の態様2〕
本発明の態様2は、前記態様1に記載の流体封入式防振装置であって、前記可動ゴム板において、前記中央円板部分の板厚寸法よりも前記外周円環部分の板厚寸法を小さくすることにより、前記収容スペースにおける該中央円板部分の可動距離よりも該外周円環部分の可動距離を大きくしたことを、特徴とする。
【0022】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、可動ゴム板の形状を適当に設計することにより、中央円板部分と外周円環部分の各可動距離、即ち収容スペースに当接して変位規制されるまでの距離を、相違させて設定することが出来る。
【0023】
〔本発明の態様3〕
本発明の態様3は、態様2に記載の流体封入式防振装置であって、前記収容スペースにおける前記一対の対向内面を、それぞれ、前記中央領域と前記外周領域を含んで、前記可動ゴム板の可動方向に直交する方向に広がる平坦面としたことを、特徴とする。
【0024】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、収容スペースの内面を平坦面として容易に成形することが出来ると共に、可動ゴム板の中央円板部分と外周円環部分の厚さ寸法の差に基づいて、中央円板部分と外周円環部分の可動距離を相違させて設定ことが出来る。
【0025】
〔本発明の態様4〕
本発明の態様4は、前記態様1又は2に記載の流体封入式防振装置であって、前記収容スペースにおける前記一対の対向内面において、前記中央領域の対向面間距離よりも前記外周領域の対向面間距離を大きくすることにより、該収容スペースにおける該中央円板部分の可動距離よりも該外周円環部分の可動距離を大きくしたことを、特徴とする。
【0026】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、収容スペースにおける可動ゴム板の当接面の形状を適当に設計することにより、中央円板部分と外周円環部分の各可動距離を、相違させて設定することが出来る。なお、本態様では、可動ゴム板において、中央円板部分と外周円環部分のそれぞれの肉厚寸法を同一に設定しても良いし、それらの肉厚寸法を相互に異ならせても良い。
【0027】
〔本発明の態様5〕
本発明の態様5は、前記態様1乃至4の何れかに記載の流体封入式防振装置において、前記中央円板部分の板厚寸法を全体に亘って略一定とする一方、前記外周円環部分を、内周縁部から外周縁部に向かって次第に板厚寸法が小さくなる略くさび状の略一定断面で周方向に延びる形状としたことを、特徴とする。
【0028】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、中央円板部分が当接せしめられる収容スペースの内面を略平坦面として、該中央円板部分を確実に当接させて変位規制することが出来る。また、外周円環部分においては、ゴム弾性板の径方向縦断面において、薄肉化されて曲げ剛性が小さくされた円環状溝の形成部位で変形する片持構造での首振り状の変位が生ぜしめられることとなるが、その際、変位量が大きくなる外周縁部に近づくに従って薄肉となるテーパ面とされていることにより、制限された収容スペース内での首振りストロークを一層大きく確保することが可能となる。なお、本態様を含め、本発明において、中央円板部分や外周円環部分には、必要に応じて、周方向や径方向に延びる小さな突起や突条からなるリップを、適当な位置に適当な数だけ形成することが出来る。
【0029】
〔本発明の態様6〕
本発明の態様6は、前記態様1乃至5の何れかに記載の流体封入式防振装置において、前記外周円環部分が、その内周縁部における前記円環状溝の形成部位を略支点として、前記中央円板部分に対して軸方向で略首振り状に相対変位せしめられるようになっており、そのような略首振り状の相対変位によって、該外周円環部分の軸方向両側面が、その外周縁部において前記収容スペースの内面に対して最後に当接するようになっていることを、特徴とする。
【0030】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、外周円環部分が首振り状に変位せしめられた際に、その内周縁部等が収容スペース内面に対して最初に当接してから更に首振り状変位が相当に大きくなった場合にだけ、外周円環部分の外周縁部が収容スペース内面に対して当接せしめられることとなる。それ故、外周円環部分が収容スペース内面に当接した後でも、収容スペースの壁面に開口形成された通孔が、外周円環部分と収容スペース内面との隙間を通じて可動ゴム板の外周側に開口維持せしめられることとなる。これにより、外周円環部分が収容スペース内面に当接した状態下でも、外周円環部分の首振り状変位によって受圧室の圧力変化の抑制効果が発揮されるのであり、受圧室の圧力変動による壁ばね剛性の変化に起因するオリフィス通路のチューニング周波数の変化が、効果的に軽減乃至は回避され得るのである。しかも、衝撃的な大振幅荷重の入力時にも、外周円環部分の全体が一度に収容スペース内面に打ち当たることが回避されることから、外周円環部分の収容スペース内面に対する打ち当たりに伴う衝撃や異音の発生も軽減され得る。
【0031】
〔本発明の態様7〕
本発明の態様7は、前記態様1乃至6の何れかに記載の流体封入式防振装置において、前記中央円板部分が略一定の板厚寸法の平板形状とされている一方、前記外周円環部分が全周に亘って周方向に波打った形状とされていることを、特徴とする。
【0032】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、大振幅の振動入力時には、波状部である外周縁部が収容スペース内面に打ち当たるようにされる。即ち、可動ゴム板が収容スペース内面に打ち当たる際には、波状部に対して、収容スペース内面に対する打ち当たり反力と、通孔を通じて表面に作用せしめられて収容スペース内面に向けて可動ゴム板を押し付ける液圧力とが、作用することとなる。その結果、波状部が全体として弾性変形せしめられることとなり、この波状部の弾性変形に伴う減衰力や弾性に基づいて、大きな衝撃エネルギーの吸収作用が有効に発揮され得る。これにより、有効な衝撃エネルギーの吸収作用が、波状部の弾性変形によって発揮され得て、可動ゴム板の収容スペース内面への打ち当たりに起因する異音等の問題が効果的に抑えられるのである。
【0033】
なお、本態様において、形成される波状部の大きさや形状は特に限定されるものでなく、波状部の形状やピッチ,凹凸の大きさ等は、波状部の肉厚寸法(可動ゴム板の板厚寸法)や材料,及ぼされる液圧の大きさなどに応じて、有効な当接衝撃吸収効果が発揮されるように適宜に設定される。そこにおいて、有効な当接衝撃吸収効果を得るためには、波状凹凸の具体的形状として、例えば鋸歯状の角部を直線で繋いだ形状の凹凸よりも、サイン波状の角部を持たない湾曲形状の凹凸の方が好適に採用される。また、波状部の厚さ寸法:T(表面にリップ状の小突起等が形成されている場合には、かかる小突起等を除いた本体部分の厚さ寸法)は、2mm〜10mmとすることが望ましい。更にまた、波状部の凹凸のピッチ数:Pを周上で2周期以上とすることが望ましく、より好適には、隣り合う凸部と凸部又は凹部と凹部の間の距離が10mm≦P≦50mmとされる。更に、波状部の凹凸の深さ:D(同じ面における凸部の先端部と凹部の底部の厚さ方向の離隔距離)を0.1mm以上とすることが望ましく、より好適には0.2mm≦D≦1mmとされる。
【0034】
〔本発明の態様8〕
本発明の態様8は、前記態様1乃至7の何れかに記載の流体封入式防振装置において、自動車のエンジンマウントを構成するものであって、該自動車のアイドリング振動の入力時には前記中央円板部分が前記収容スペースにおいて実質的にフローティング状態で自由変位が許容される一方、該自動車のエンジンシェイク振動の入力時には該中央円板部分が該収容スペースの内面に当接して変位が規制されるように、該収容スペースにおける前記可動ゴム板の可動距離を設定したことを、特徴とする。
【0035】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置では、エンジンシェイクに対してはオリフィス通路を通じての流体流動に基づく減衰効果が有効に発揮される一方、アイドリング振動や走行こもり音等に対しては、可動ゴム板による受圧室の圧力吸収作用に基づく低動ばね効果が有効に発揮されて、広い周波数域で良好な防振性能を得ることの出来る自動車用のエンジンマウントが実現可能となる。
【0036】
〔本発明の態様9〕
本発明の態様9は、前記態様8に記載の流体封入式防振装置であって、前記アイドリング振動が、前記第一の取付部材と前記第二の取付部材の間に略±0.2mmの振幅で入力される20〜40Hz程度の振動である一方、前記エンジンシェイク振動が、第一の取付部材と第二の取付部材の間に略±0.5mm以上の振幅で入力される略10Hz程度の振動であることを、特徴とする。
【0037】
このような振幅の振動を対象として設定された、本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、一般的な乗用車、特に直列4気筒等の多く採用されているエンジン形式の乗用車に対してより好適に採用され得るエンジンマウントが実現可能となる。
【0038】
〔本発明の態様10〕
本発明の態様10は、前記態様8又は9に記載の流体封入式防振装置において、±1.0mmの振幅と略10Hz程度の周波数で、前記エンジンシェイクが前記第一の取付部材と前記第二の取付部材の間に作用せしめられた場合には、前記可動ゴム板における前記中央円板部分だけでなく前記外周円環部分も前記収容スペースの内面に当接して変位が規制されることにより、前記収容スペースにおける一対の対向内面の前記中央領域と前記外周領域にそれぞれ開口する前記通孔の全てが該可動ゴム板で閉塞されるように、該収容スペースにおける該中央円板部分および該外周円環部分の可動距離が設定されていることを、特徴とする。
【0039】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、一般的な乗用車において一層好適に採用されるエンジンマウントが実現可能となり、特に段差乗越時等に入力される±1.0mm以上の大振幅のエンジンシェイクに対しては、可動ゴム板による受圧室の圧力吸収作用を実質的に発揮させなくして、オリフィス通路を流動せしめられる封入流体の流動作用を利用して十分に大きな減衰効果をより確実に発揮させることが出来ると共に、受圧室の圧力増大を利用してパワーユニットの過大な変位を有利に制限することも可能となる。
【0040】
〔本発明の態様11〕
本発明の態様11は、前記態様1乃至10の何れかに記載の流体封入式防振装置において、前記第二の取付部材を略円筒形状として、該第二の取付部材の一方の開口部側に前記第一の取付部材を離隔配置せしめて、それら第一の取付部材と第二の取付部材を連結する前記本体ゴム弾性体で該第二の取付部材の一方の開口部を流体密に覆蓋すると共に、該第二の取付部材の他方の開口部を前記可撓性膜で流体密に覆蓋せしめる一方、前記仕切部材を該第二の取付部材で固定的に支持せしめて該本体ゴム弾性体と該可撓性膜の対向面間で該第二の取付部材の軸直角方向に広がるように配設することにより、該仕切部材を挟んだ両側に前記受圧室と前記平衡室を形成すると共に、該仕切部材の内部において該第二の取付部材の軸直角方向に広がるように前記収容スペースを形成して、該収容スペースにおいて軸方向変位可能に前記可動ゴム板を収容配置せしめたことを、特徴とする。
【0041】
本態様に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、可動ゴム板の収容スペースを形成した仕切部材の両側に受圧室と平衡室を効率的に形成することが出来、全体としてコンパクトな流体封入式防振装置が実現され得る。その結果、例えば自動車用のエンジンマウント等として特に有利に採用可能となる。
【発明の効果】
【0042】
上述の説明から明らかなように、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置においては、自動車用エンジンマウントを例にあげればアイドリング振動や走行こもり音等の比較的に小さな振幅の中乃至高周波振動の入力時には、可動ゴム板全体が収容スペースでフローティング状態とされて、その変位に基づく受圧室の圧力吸収作用に基づいて高動ばね化が抑えられることにより、良好な振動絶縁性能に基づく防振効果が発揮される一方、エンジンシェイク等の比較的に大きな振幅の低周波振動の入力時には、可動ゴム板の収容スペース内での変位ひいては液圧吸収作用が制限乃至は阻止されることにより、受圧室と平衡室の相対的な圧力変動が有利に生ぜしめられて、オリフィス通路を通じての流体流動作用による高減衰効果に基づく防振効果が有効に発揮されることとなる。
【0043】
そこにおいて、可動ゴム板は、中央円板部分に比して外周円環部分の可動量が大きくされており、エンジンシェイク等の低周波振動の入力時に、中央円板部分が収容スペースの内面に当接せしめられて変位規制されるものの、外周円環部分は未だ変位が許容されることから、この外周円環部分の変位に基づいて受圧室の圧力調節機能が発揮され得る。それ故、入力される低周波振動の振幅が、例えば、振幅:±0.5mm〜2.0mmのように大きな振幅範囲で変化するような場合でも、振幅の相違に起因する受圧室の圧力変化幅が抑えられることとなり、それにより、受圧室の壁ばね剛性の変化が軽減乃至は回避されて、オリフィス通路のチューニング周波数の大きな変化が防止され得る。その結果、振幅が大きく異なった場合でも、略一定周波数で問題となる例えば自動車のエンジンシェイク等の振動に対して、オリフィス通路による防振効果が有効に且つ安定して発揮されるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について説明する。
【0045】
先ず、図1〜2には、本発明の一実施形態としての自動車用エンジンマウント10が示されている。このエンジンマウント10は、第一の取付部材としての第一の取付金具12と第二の取付部材としての第二の取付金具14が本体ゴム弾性体16で連結された構造とされている。また、かかるエンジンマウント10は、第一の取付金具12がパワーユニット側に取り付けられる一方、第二の取付金具14がボデーに取り付けられることにより、パワーユニットをボデーに対して、他の図示しないエンジンマウント等と協働して防振支持せしめるようになっている。また、そのような装着状態下、当該マウント10には、パワーユニットの分担荷重の入力により本体ゴム弾性体16が弾性変形することに伴って、第一の取付金具12と第二の取付金具14が図1中の上下方向に所定量だけ接近して相対変位せしめられると共に、防振すべき主たる振動が、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に対して、図1中の略上下方向に入力されることとなる。
【0046】
なお、本実施形態のエンジンマウント10は、自動車への装着状態下で、図1に示すように、マウント中心軸(第一及び第二の取付金具12,14の中心軸)が略鉛直方向となるようにされる。従って、以下の説明では、鉛直方向となる図1中の上下方向を、単に「上下方向」ということとする。
【0047】
より詳細には、第一の取付金具12は、略円板形状を呈していると共に、その中央部分には上方(図1中、上)に突出する取付ボルト18が固設されている。また、第一の取付金具12の下面には、その中心軸上に保持金具20が固着されている。この保持金具20は、上方開口部に向かって次第に拡開するテーパ状周壁部を備えており、開口周縁部において第一の取付金具12の下面に固着されている。
【0048】
一方、第二の取付金具14は、大径の略円環形状を有しており、第一の取付金具12と略同一中心軸上で下方(図1中、下)に離隔配置されている。また、第二の取付金具14は、略円環板形状のゴム固着部22に対して、その外周縁部から軸方向下方に向かって突出する嵌着筒部23が一体形成された構造となっている。なお、ゴム固着部22の内周部分は、中央に向かって次第に軸方向下方に傾斜したテーパ状の傾斜形状とされている。
【0049】
また、第一の取付金具12と第二の取付金具14の対向面間には、本体ゴム弾性体16が配設されている。この本体ゴム弾性体16は、大径の略円錐台形状を有していると共に、その中央には大きな肉抜状の円形凹所26が形成されている。この円形凹所26は、下方に向かって次第に拡径して本体ゴム弾性体16の大径側端面に開口する有底の逆向き円形穴であって、この円形凹所26が形成されることにより、本体ゴム弾性体16が、全体として厚肉の略逆カップ形状とされている。
【0050】
そして、本体ゴム弾性体16の軸方向上側の小径側端面に第一の取付金具12が重ね合わされて、該第一の取付金具12の下面に溶接固定された保持金具20及び第一の取付金具12に対して本体ゴム弾性体16が加硫接着されている。なお、保持金具20の内部にも、本体ゴム弾性体16が充填されている。また、本体ゴム弾性体16の大径側端部には、第二の取付金具14のゴム固着部22が、外周面から差し入れられたような形態で略埋設状態で加硫接着されている。要するに、本体ゴム弾性体16が、第一の取付金具12と第二の取付金具14を備えた一体加硫成形品として形成されている。
【0051】
なお、本体ゴム弾性体16の厚肉円筒形状とされた軸方向中間部分には、略円環板形状の補強金具24が固着されて、本体ゴム弾性体16のばね特性が調節されている。また、図1にも示されているように、第二の取付金具14には、ゴム固着部22の下面と嵌着筒部23の内周面の略全体を覆うようにして、シールゴム層28が、本体ゴム弾性体16と一体形成されて被着されている。
【0052】
さらに、第一及び第二の取付金具12,14を備えた本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品には、第二の取付金具14の軸方向下方の開口部側から仕切部材としての仕切金具30と可撓性膜としてのダイヤフラム32が組み付けられている。
【0053】
仕切金具30は、厚肉の略円板形状を呈している。また、ダイヤフラム32は、変形容易な薄肉のゴム弾性膜によって構成されており、その外周縁部が略円環形状の嵌着金具34に加硫接着されている。そして、仕切金具30とダイヤフラム32が第二の取付金具14に嵌め合わされて固定されている。
【0054】
具体的には、仕切金具30は、軸直角方向に広がるようにして第二の取付金具14の嵌着筒部23に嵌め入れられている。そして、仕切金具30の外周部分の上面と外周面が、シールゴム層28を介して、第二の取付金具14のゴム固着部22と嵌着筒部23に対して流体密に重ね合わされている。
【0055】
また、ダイヤフラム32は、中央部分に十分な弛みをもたせて変形容易とした略円板形状とされている。更に、ダイヤフラム32の外周縁部において、ダイヤフラム32が嵌着金具34に加硫接着され、嵌着金具34は、円環板形状の支持部33に対して、その外周縁部から上方に突出する円筒形状の固定筒部35が一体形成された構造を有している。そして、支持部33の内周縁部に対してダイヤフラム32の外周縁部が加硫接着されている。また、固定筒部35が、第二の取付金具14の嵌着筒部23に外挿されて、該固定筒部35に対して八方絞り等の縮径加工されている。これにより、嵌着金具34の支持部33が仕切金具30の外周部分の下面に当接されていると共に、嵌着金具34の固定筒部35が嵌着筒部23に外嵌固定されている。なお、固定筒部35と嵌着筒部23の嵌着面間は、固定筒部35に被着形成されたシールゴム層で流体密に封止されている。
【0056】
これにより、本体ゴム弾性体16に形成された円形凹所26における、第二の取付金具14の中央孔を通じて下方に開口せしめられた開口部分が、ダイヤフラム32によって流体密に覆蓋されている。そして、この円形凹所26を利用して形成されて、外部空間に対して密閉された、本体ゴム弾性体16とダイヤフラム32の対向面間の領域には、非圧縮性流体が封入されており、流体封入領域が画成されている。かかる封入流体としては、例えば水やアルキレングリコール, ポリアルキレングリコール, シリコーン油等が採用されるが、特に流体の共振作用に基づく防振効果を有効に得るためには、0.1Pa・s以下の低粘性流体を採用することが望ましい。また、非圧縮性流体の封入は、例えば第一及び第二の取付金具12,14を備えた本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品に対する仕切金具30とダイヤフラム32の組み付けを非圧縮性流体中で行うこと等によって実現される。
【0057】
また、かかる流体封入領域は、その内部に仕切金具30が軸直角方向に拡がるようにして配設されていることによって上下に二分されている。これに伴い、仕切金具30を挟んだ軸方向一方(図1中、上)の側には、壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成されて、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間への振動入力時に、本体ゴム弾性体16の弾性変形に伴って圧力変動が生ぜしめられる受圧室36が形成されている。一方、仕切金具30を挟んだ軸方向他方の側には、壁部の一部がダイヤフラム32で構成されて、該ダイヤフラム32の弾性変形に基づいて容積変化が容易に許容される平衡室38が形成されている。
【0058】
さらに、仕切金具30には、図3〜5に示されているように、外周部分において上面に開口して周方向に連続して延びる凹溝40が形成されており、この凹溝40が、第二の取付金具14のゴム固着部22で流体密に覆蓋されることによってトンネル状の通路形態とされている。なお、本実施形態では、凹溝40が、仕切金具30の周上の略3/4周に亘る部分を周方向に往復して形成されていると共に、凹溝40の形成されていない周上の略四半周に亘る部分には肉抜凹所が形成されており、凹溝40と同様にゴム固着部22で流体密に覆蓋されている。
【0059】
また、凹溝40の一方の端部は、第二の取付金具14のゴム固着部22の内周縁部よりも径方向内方にまで延び出しており、それによって、ゴム固着部22よりも内周側で仕切金具30の上面に凹溝40の端部が開口せしめられて連通孔42が形成されている。そして、この連通孔42を通じて、凹溝40の一方の端部が受圧室36に開口して接続されている。更に、凹溝40の他方の端部は、仕切金具30における凹溝40の底壁部に形成された連通孔44を通じて平衡室38に開口して接続されている。これにより、仕切金具30の凹溝40を利用してオリフィス通路46が形成されており、このオリフィス通路46を通じて受圧室36と平衡室38が相互に連通されている。なお、このオリフィス通路46は、常時、受圧室36と平衡室38を接続する連通状態に維持されている。
【0060】
従って、振動入力時には、圧力変動が惹起される受圧室36と、ダイヤフラム32の変形に基づいて容積変化が許容される平衡室38の間に、相対的な圧力変動が惹起されることとなり、それら両室36,38間でオリフィス通路46を通じての流体流動が生ぜしめられる。その結果、受圧室36と平衡室38の間でオリフィス通路46を通じて流動せしめられる流体の共振作用に基づく防振効果が、防振すべき軸方向(図1中の上下方向)の振動に対して発揮されるようになっている。
【0061】
特に本実施形態では、オリフィス通路46を流動せしめられる流体の共振周波数が、該流体の共振作用に基づいてシェイク等の10Hz程度の低周波大振幅振動に対して有効な防振効果が発揮されるようにチューニングされている。かかる共振周波数のチューニングは、受圧室36と平衡室38の各壁ばね剛性等を考慮しつつ、例えばオリフィス通路46の流路断面積や長さ等を設定変更することにより実現される。
【0062】
さらに、仕切金具30の中央部分には、上方に開口する円形の中央凹部48が形成されており、この中央凹部48内に可動ゴム板50が収容配置されている。なお、本実施形態では、中央凹部48が、全体に亘って略一定の深さ寸法とされている。また、仕切金具30の中央部分には、図6に示されている如き円板形状の蓋板金具52が仕切金具30に設けられた3つの位置決め突起と位置合わせして重ね合わされており、中央凹部48を覆蓋するようにして、位置決め突起をかしめて仕切金具30に固着されている。これにより、仕切金具30の内部には、所定の内径寸法と高さ寸法をもって円板状に広がる中空の収容スペース49が形成されている。
【0063】
可動ゴム板50は、全体として略円板形状を有しており、ゴム材料によって一体成形されている。この可動ゴム板50は、最大肉厚寸法が、収容スペース49の高さ寸法よりも小さくされており、可動ゴム板50を収容スペース49内の中央に位置せしめた状態下で、可動ゴム板50の全周囲には、収容スペース49内面との間に、全体に亘って広がる隙間が形成されるようになっている。そして、この隙間の大きさに対応したストローク分だけ、可動ゴム板50は、収容スペース49内で自由変位が許容されるようになっている。但し、その隙間については、必ずしも可動ゴム板50の全周囲に設ける必要はなく、例えば、図7,8に示されている可動ゴム板50の中央平板部60において部分的であったとしても、弾性変形等に基づく変位が許容できる隙間が収容スペース49内に確保出来れば、他の部分において隙間のない領域があっても良い。
【0064】
また、収容スペース49の上下壁部を構成する仕切金具30の中央凹部48の底壁部と、蓋板金具52は、互いに対向する内面によって、収容スペース49において軸方向で対向する一対の対向内面53,55を構成している。そして、これらの対向内面53,55は、図8に仮想線で示されているように、何れも、マウント中心軸となる仕切部材30の中心軸に対して直交する方向に広がる平坦面をもって形成されている。
【0065】
さらに、これら一対の対向内面53,55を形成する中央凹部48の底壁部と、蓋板金具52には、軸方向(上下方向)に貫通する透孔54,56が形成されている。そして、収容スペース49に収容配置された可動ゴム板50の上面が、蓋板金具52に貫設された透孔56を通じて受圧室36に露呈されている一方、可動ゴム板50の下面が、中央凹部48の底壁に貫設された透孔54を通じて平衡室38に露呈されている。
【0066】
かかる透孔54,56は、一対の対向内面53,55において、その全体に広がるように十分な大きさと領域に亘って形成されている。特に、収容スペース49の内法寸法、即ち中央凹部48の内径寸法は、可動ゴム板50の外径寸法よりも僅かに大きく設定されていると共に、一対の対向内面53,55には、中央部分から外周縁部近くまでの領域に亘って、複数個の透孔54,56が開口するようにして形成されている。
【0067】
これにより、可動ゴム板50には、受圧室36と平衡室38の内圧が上面と下面に及ぼされるようになっており、振動入力時に受圧室36と平衡室38の圧力差に基づいて可動ゴム板50に対して板厚方向の変位が生ぜしめられることとなる。そして、可動ゴム板50の軸方向の変位に基づいて、蓋板金具52や仕切金具30の透孔56,54を通じての流体流動が生ぜしめられることにより、かかる流体の共振作用乃至は受圧室36の圧力変動を平衡室38に逃がすことに基づく液圧吸収作用が発揮されて、入力振動に対する低動ばね効果が奏されるようになっている。
【0068】
また、本実施形態の可動ゴム板50には、図7〜9に示されているように、径方向中間部分を周方向に連続して延びる円環形状の円環状溝としてのえぐれ部70が、可動ゴム板50の上下面で同心的に、且つ上下面で同じ位置で厚さ方向に対向位置する状態で形成されている。そして、可動ゴム板50は、このえぐれ部70,70を挟んで、内周側と外周側に位置するようにして、円形平板形状の中央平板状部60と、外周縁部において周方向に連続して延びる円環形状の外周円環状部62を、備えている。
【0069】
中央平板状部60は、中心軸上で略一定の厚さ寸法で円形に広がっており、その上下両面には、それぞれ、複数の緩衝リップ突起が一体的に突出形成されている。かかる緩衝リップ突起は、(a)径方向中間部分を周方向に連続して延びる円環状の第一の緩衝リップ突起64と、(b)中心軸の近くから径方向外方に向かって放射状に延びる八本の独立した第二の緩衝リップ突起66と、(c)外周縁部を周方向に連続して延びる円環状の第三の緩衝リップ突起68によって構成されている。
【0070】
外周円環状部62は、中央平板状部60の外径寸法よりも大きな内径寸法を有しており、中央平板状部60と同一中心軸上に位置せしめられており、板厚方向の略中央部分において、それら中央平板状部60の外周面と外周円環状部62の内周面が、対向する径方向に延びる薄肉の連結部69によって、相互に一体的に連結されている。換言すれば、本実施形態の可動ゴム板50は、その上下両面において、外周縁部から径方向内方に所定距離だけ離れた部分を周方向に連続して延びる円環凹溝状を有する前記一対のえぐれ部70,70が形成されており、このえぐれ部70,70によって薄肉化された連結部69を挟んで、内周側が中央平板状部60とされていると共に、外周側が外周円環状部62とされている。
【0071】
また、外周円環状部62の上下両面には、それぞれ、内周縁部と外周縁部において、周方向に連続して延びる円環状の第四の緩衝リップ突起72と第五の緩衝リップ突起74が一体形成されている。
【0072】
さらに、外周円環状部62は、第四及び第五の緩衝リップ突起72,74を除いた本体部分の肉厚寸法が、中央平板状部60において第一〜三の緩衝リップ突起64,66,68を除いた本体部分の肉厚寸法よりも小さくされている。
【0073】
また、本実施形態では、外周円環状部62が、外周側に行くに従って次第に薄肉とされており、上下両面76,78が略同じ角度をもった径方向の傾斜面とされている。これにより、外周円環状部62が、図8に示されて縦断面において、略くさび形状とされており、略一定の縦断面形状をもって周方向の全周に亘って連続して延びている。なお、外周円環状部62の板厚寸法(肉厚寸法)は、その最大となる内周縁部においても、中央平板状部60の板厚寸法より小さくされている。
【0074】
そして、外周円環状部62の内周縁部に一体的に形成された連結部69が、外周円環状部62よりも薄肉とされていることで、連結部69を支点とした首振り状に外周円環状部62が中央平板状部60に対して変形変位せしめられた際、収容スペース49の内面53,55に対して外周縁部だけが当接するような態様となることが避けられており、内周縁部から当接して、変形変位量が大きくなるに従って次第に外周縁部に向かって出来るだけ広い範囲で有効に、外周円環状部62が収容スペース49の内面53,55に当接せしめられ得る構造となっている。
【0075】
なお、外周円環状部62が最も大きく変位せしめられた場合には、その外周縁部まで、収容スペース49の内面53,55に対して当接せしめられるように、外周円環状部62の上下面の傾斜角度やシールリップ74,74の突出高さ等が設定されている。
【0076】
さらに、本実施形態では、外周円環状部62が、周方向において板厚方向(図8,9中の上下方向)で波打ったように全体として湾曲形成された波状部とされている。即ち、外周円環状部62は、その径方向断面(縦断面)の形状や大きさは実質的に変化しないで、厚さ方向の中心位置が周方向で上下に振れるように変化せしめられている。特に本実施形態では、図9に示されているように、外周円環状部62の中心線や上下面が略サイン波状に一定周期で周方向に波打った形状とされており、その一周期が周方向で90度とされて、上下面が全体的に滑らかな湾曲面とされている。
【0077】
更にまた、本実施形態では、外周円環状部62において最も下端(下死点)となる位置(図9中の左右両端位置)で、外周円環状部62の下面の内周縁部が、中央平板状部60の下面と略同じ平面上に位置せしめられるようになっている。また、外周円環状部62において最も上端(上死点)となる位置(図9中の中央位置)で、外周円環状部62の上面の内周縁部が、中央平板状部60の上面と略同じ平面上に位置せしめられるようになっている。
【0078】
また、中央平板状部60に突設された第一〜三の緩衝リップ突起64,66,68と、外周円環状部62に突設された第四〜五の緩衝リップ突起72,74の突出高さが略同一とされている。
【0079】
それ故、可動ゴム板50において外力による弾性変形が生ぜしめられていない状態を考えると、その下面においては、中央平板状部60の下面に突設された第一〜三の緩衝リップ突起64,66,68の各突出先端部と、外周円環状部62の下面に突設された第四の緩衝リップ突起72における最も下端(下死点)となる位置(図9中の左右両端位置)での突出先端部が、同一の軸直角平面上に位置せしめられる。また、その上面においては、中央平板状部60の上面に突設された第一〜三の緩衝リップ突起64,66,68の各突出先端部と、外周円環状部62の上面に突設された第四の緩衝リップ突起72における最も上端(上死点)となる位置(図9中の中央位置)での突出先端部が、同一の軸直角平面上に位置せしめられる。
【0080】
従って、可動ゴム板50が収容スペース内で軸方向(上下方向)に大きく変位せしめられると、それら(第一〜三の緩衝リップ突起64,66,68の各突出先端部と、第四の緩衝リップ突起72における周上の特定位置の突出先端部)が、略同時に、収容スペースの下面や上面に対して当接せしめられるようになっている。
【0081】
なお、本実施形態では、外周円環状部62の肉厚寸法が外周側に行くに従って薄肉とされていることと、外周円環状部62が周方向で波板形状で上下に湾曲形成されていることから、外周円環状部62の外周縁部に突設された第五の緩衝リップ突起74は、外周円環状部62の上死点における下面に位置する部分と下死点における上面に位置する部分において、何れも、収容スペース49の内面に当接することが殆どない。そこで、本実施形態では、第五の緩衝リップ突起74,74は、それら外周円環状部62の上死点における下面に位置する部分と下死点における上面に位置する部分において、何れも、突出高さが小さくされて、軽量化やゴム材料の減少が図られている。
【0082】
なお、可動ゴム板50の収容スペース49内での上下方向(板厚方向)での許容ストロークは、防振すべき入力振動の振幅や、エンジンマウント10の受圧室36における有効ピストン径,可動ゴム板50の大きさ等によって適当に調節される。本実施形態では、エンジンシェイクに相当する±0.5〜2.0mmの振幅振動が第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に作用せしめられた際には、中央平板状部60が収容スペース49の内面53,55に当接することで変位量が規制されるが、アイドリング振動や走行こもり音に相当する±0.25mm以下の中乃至小振幅振動の入力時には、中央平板状部60が収容スペース49の内面53,55に対して実質的に当接しないで、即ち収容スペース49の内面への当接によって変位規制されないフローティング状態で変位許容されるように、中央平板状部60の上下面と収容スペース49の内面53,55との対向面間の隙間:α(図10参照)の大きさが設定されている。即ち、この中央平板状部60は、アイドリング振動とエンジンシェイクの中間程度の振幅振動、例えば±0.3〜0.4mm程度の振幅の振動が入力された際に収容スペース内面に当接し、エンジンシェイクに相当する±0.5mmの振幅振動が入力された場合には、確実に収容スペース49の内面53,55への当接によって変位端が規制されるように設定されている。
【0083】
一方、外周円環状部62は、その最も厚肉とされた内周縁部においても、中央平板状部60より薄肉とされている。なお、本実施形態では、外周円環状部62が周方向で波打った形状とされているが、図10に示されているように、軸方向中間部分に位置せしめられた部分でみると、外周円環状部62の上下面において、収容スペース49の内面53,55との間の対向面間の隙間:βが、α<βとされている。しかも、このβの値は、アイドリング振動や走行こもり音に相当する±0.25mm以下の中乃至小振幅振動の入力時には勿論、中央平板状部60が収容スペース49の内面53,55に当接せしめられた状態でも未だ、外周円環状部62が収容スペース49の内面53,55に当接しないように設定される。
【0084】
上述の如き構造とされた本実施形態のエンジンマウント10においては、自動車への装着状態下、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に略軸方向の振動が入力されると、それが±0.1〜0.25mm程度のアイドリング振動や±0.01〜0.05mm程度の走行こもり音に相当する中乃至高周波数域の小振幅振動である場合には、可動ゴム板50の変位に基づく液圧吸収作用が発揮される。即ち、そのような中乃至高周波数域の小振幅振動の入力時には、可動ゴム板50が収容スペース49との間に設けられた隙間で許容される可動範囲内において実質的にフローティング状態に維持されて上下に自由変位せしめられることに基づき、透孔56,54を通じての受圧室36と平衡室38の間での実質的な流体流動が、収容スペース49を介して、許容されることにより、受圧室36の圧力変動が平衡室38に逃がされる。これにより、オリフィス通路46の反共振現象としての目詰まりに起因する著しい高動ばね化が回避されて、良好な防振性能が発揮されることとなる。
【0085】
一方、第一の取付金具12と第二の取付金具14の間に入力される振動が、低周波数域の比較的に大きな振幅の場合、例えば±0.5〜1.0mmの通常走行時シェイクの場合や、±1.0〜2.0mm程度の段差乗り越え時等のシェイクの場合には、可動ゴム板50の中央円板状部60の変位端が収容スペース49の内面53,55への当接によって規制されて、受圧室36の圧力変動が可動ゴム板50の変位によって吸収しきれなくなる。即ち、可動ゴム板50(中央円板状部60)の上下面は、収容スペース49の上下内面に対して当接(打ち当たり)を繰り返すこととなる。そして、このように可動ゴム板50が収容スペース49の上下内面に打ち当たると、そこに開口形成された透孔56,54が可動ゴム板50で狭窄乃至は実質的に閉塞されることとなる。その結果、受圧室36と平衡室38の間には、相対的な圧力変動が有効に惹起されて、かかる相対的な圧力変動に基づいてオリフィス通路46を通じての流体流動が生ぜしめられることとなる。以て、オリフィス通路46を流動せしめられる流体の共振作用に基づく所期の防振効果が発揮されるのである。
【0086】
ここにおいて、可動ゴム板50が収容スペース49の上下内面53,55に当接した場合でも、その振動振幅が未だ比較的に小さい場合、例えば±0.5〜1.0mm程度の場合には、中央円板状部60は全面が収容スペース49の上下内面53,55に当接した状態下においても、外周円環状部62は、未だ、その上下の全面が収容スペース49の内面53,55に当接するには至らない。かかる状態下では、中央円板状部60が当接したままで、外周円環状部62において、連結部69の湾曲変形を伴って、連結部69を略支点として上下に首振り状の弾性変位が許容されることとなる。
【0087】
しかも、収容スペース49の上下内面53,55に形成された通孔としての透孔56,54は、中央円板状部60が当接する領域だけでなく、外周円環状部62が当接する領域にまで開口形成されている。従って、中央円板状部60が収容スペース49の内面に当接して、透孔56,54を閉塞するように重ね合わせられた状態下でも、外周円環状部62が当接する領域では、透孔56,54が開口状態に維持されている。それ故、中央円板状部60が収容スペース49の内面53,55に当接せしめられた状態下でも、受圧室36の更に大きな圧力が可動ゴム板50に作用せしめられると、外周円環状部62が弾性変位せしめられて、それに伴い、透孔56,54を通じて、受圧室36の圧力変動が軽減乃至は解消されることとなるのである。
【0088】
従って、低周波数域の入力振動が、その振幅が大きく異なる複数種類ある場合でも、外周円環状部62の弾性変位に基づいて受圧室36の圧力変動が軽減乃至は吸収され得ることとなり、それによって、受圧室36の圧力変動に起因する受圧室36の壁ばね剛性の変化が抑えられるのである。これにより、オリフィス通路46のチューニング周波数、即ちオリフィス通路46を流動せしめられる流体の共振作用に基づく高減衰効果が発揮される周波数域が、入力振動の振幅によって変化せしめられる現象が抑えられるのこととなり、広い範囲で振幅が異なる場合でも、目的とするエンジンシェイクの周波数域で、有効な高減衰効果が、安定して発揮されることとなるのである。
【0089】
因みに、本実施形態に従う構造とされた流体封入式のエンジンマウントについて、その防振特性を測定した結果を、図11に示す。この測定結果からも、入力振動振幅:Bが、B=±0.5mm,1.0mm,2.0mmと大きく異なる三種類の振動の何れが入力された場合でも、オリフィス通路46を流動せしめられる非圧縮性流体の共振作用に基づく高減衰効果のピーク周波数が、エンジンシェイクに対応して予め設定された略10Hzの周波数域で、固定的に安定して発現されていることを確認できる。
【0090】
また、本実施形態のエンジンマウント10においては、外周円環状部62が、周方向において波状に上下でうねるように湾曲せしめられていることから、その収容スペース49の内面53,55への当接時に、周上の下死点又は上死点の下面又は上面だけが、周上で各合計4箇所において、始めに当接する。その後、可動ゴム板50に対して上面から作用する液圧が更に大きくなると、かかる外周円環状部62は、当接時の運動エネルギーに加えて増大する外力(負圧力又は正圧力)によって次第に弾性変形せしめられて、周上の上下の死点の所期当接位置から周方向両側に向かって次第に当接面積が大きくなる。
【0091】
このような当接状態を生ずることにより、可動ゴム板50の当接時には、外周円環状部62の弾性変形に伴う減衰作用乃至は当接エネルギーの吸収作用に基づいて、可動ゴム板50の当接時の衝撃が効果的に緩和され得るのであり、その結果、可動ゴム板50の収容スペース49内面に対する当接に起因する異音や衝撃の発生が抑えられるのである。
【0092】
特に本実施形態では、可動ゴム板50の収容スペース49内面に対する当接時の小さな衝撃は、第一〜五の緩衝リップ突起64,66,68,72,74の弾性変形によっても吸収されることから、一層効果的な異音や衝撃の緩和効果が発揮され得る。
【0093】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、これはあくまでも例示であり、かかる実施形態における具体的な記載によって、本発明は、何等限定されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様で実施可能であり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【0094】
例えば、前記実施形態では、可動ゴム板50の両面に緩衝リップ突起64,66,68,72,74が一体形成されていたが、これらの緩衝リップ突起は必ずしも必要なものでない。
【0095】
また、外周円環状部62は、必ずしも周方向に波状にうねるような形状とされている必要はなく、例えば図10に示されている縦断面形状のまま周方向の全周に亘って広がる円環形の平板形状としても良い。
【0096】
さらに、可動ゴム板50は、中央平板部分60に比して、外周円環部分62の方が、収容スペース49の内面53,55との対向面間距離(可動距離)が大きく設定されていれば良く、例えば図12や図13に示される態様も採用可能である。
【0097】
特に図12に示された態様では、外周円環状部62が、全体に亘って略一定の厚さ寸法とされている。また、図13に示された態様では、中央平板状部60と外周円環状部62が、互いに略同一の厚さ寸法とされている代わりに、収容スペース49の一対の内面53,55の対向間距離が、中央平板状部60が当接せしめられる中央部分よりも外周円環状部62が当接せしめられる外周部分の方が所定量だけ大きく設定されている。これにより、前記実施形態と同様に、収容スペース49内において、中央平板状部60の可動距離よりも外周円環状部62の可動距離の方が所定量だけ大きくなるように設定されているのである。なお、図12,図13においては、その理解を容易とするために、第一の実施形態と同様な構造とされた部材および部位に対して、それぞれ、図中に、同一の符号を付しておく。
【0098】
また、本体ゴム弾性体の具体的形状や、オリフィス通路の具体的構造および形状等は、マウントに要求される防振特性や配設予定スペース等を考慮して適宜に変更されるものであり、前記実施形態のものに限定されないことは勿論である。
【0099】
加えて、前記実施形態では、本発明を自動車用エンジンマウント10に適用したものの具体例について説明したが、本発明は、自動車用ボデーマウントやデフマウント等の他、自動車以外の各種振動体の防振マウントに対して、何れも、適用可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】本発明の一実施形態としての自動車用エンジンマウントを示す縦断面図である。
【図2】図1に示されたエンジンマウントの平面図である。
【図3】図1に示されたエンジンマウントを構成する仕切部材を示す平面図である。
【図4】図3におけるIV−IV断面図である。
【図5】図3に示された仕切部材の底面図である。
【図6】図1に示されたエンジンマウントを構成する蓋板金具を示す平面図である。
【図7】図1に示されたエンジンマウントを構成する可動ゴム板を示す平面図である。
【図8】図7におけるVIII−VIII断面図である。
【図9】図7に示された可動ゴム板の外周面の四半周に亘る展開図である。
【図10】図1に示されたエンジンマウントにおける可動ゴム板の要部を拡大して示す縦断面説明図である。
【図11】本発明の実施例としてのエンジンマウントについて防振特性の測定結果を示すグラフである。
【図12】本発明に従う可動ゴム板の別の実施形態を説明するための、図10に対応する縦断面説明図である。
【図13】本発明に従う可動ゴム板の更に別の実施形態を説明するための、図12と同様な縦断面説明図である。
【符号の説明】
【0101】
10 自動車用エンジンマウント
12 第一の取付金具
14 第二の取付金具
16 本体ゴム弾性体
30 仕切金具
32 ダイヤフラム
36 受圧室
38 平衡室
46 オリフィス通路
49 収容スペース
50 可動ゴム板
60 中央平板状部
62 外周円環状部
69 連結部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結せしめ、該本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成されて振動入力時に圧力変動が生ぜしめられる受圧室と、壁部の一部が可撓性膜で構成されて容積変化が許容される平衡室を、該第二の取付部材で支持された仕切部材を挟んだ両側に形成して、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入すると共に、該受圧室と該平衡室を相互に連通するオリフィス通路を設ける一方、該仕切部材に設けた収容スペースに対して板厚方向で所定量の隙間をもって微小変位可能に可動板を収容配置すると共に、該収容スペースを該受圧室と該平衡室にそれぞれ接続する通孔を形成し、該通孔を通じて該可動板の一方の面に該受圧室の圧力が及ぼされ且つ他方の面に該平衡室の圧力が及ぼされるようにして、該可動板の板厚方向への変位に基づいて振動入力時における該受圧室の微小圧力変動を該平衡室に逃がして吸収するようにした流体封入式防振装置において、
ゴム弾性体で形成された可動ゴム板によって前記可動板を構成すると共に、該可動ゴム板の径方向中間部分に周方向の全周に亘って連続して延びる円環状溝を形成して、該円環状溝を挟んだ内周側部分および外周側部分を中央円板部分および外周円環部分となし、前記収容スペースにおける該中央円板部分の板厚方向での可動距離よりも該外周円環部分の板厚方向での可動距離を大きくして、該中央円板部分が前記収容スペースの内面に当接した状態下でも該外周円環部分において更なる変位が許容されるようにする一方、該可動ゴム板の可動方向で対向位置する該収容スペースにおける一対の対向内面において該中央円板部分が当接する中央領域と該外周円環部分が当接する外周領域とにそれぞれ開口するように前記通孔を形成したことを特徴とする流体封入式防振装置。
【請求項2】
前記可動ゴム板において、前記中央円板部分の板厚寸法よりも前記外周円環部分の板厚寸法を小さくすることにより、前記収容スペースにおける該中央円板部分の可動距離よりも該外周円環部分の可動距離を大きくした請求項1に記載の流体封入式防振装置。
【請求項3】
前記収容スペースにおける前記一対の対向内面を、それぞれ、前記中央領域と前記外周領域を含んで、前記可動ゴム板の可動方向に直交する方向に広がる平坦面とした請求項2に記載の流体封入式防振装置。
【請求項4】
前記収容スペースにおける前記一対の対向内面において、前記中央領域の対向面間距離よりも前記外周領域の対向面間距離を大きくすることにより、該収容スペースにおける該中央円板部分の可動距離よりも該外周円環部分の可動距離を大きくした請求項1又は2に記載の流体封入式防振装置。
【請求項5】
前記中央円板部分の板厚寸法を全体に亘って略一定とする一方、前記外周円環部分を、内周縁部から外周縁部に向かって次第に板厚寸法が小さくなる略くさび状の略一定断面で周方向に延びる形状とした請求項1乃至4の何れかに記載の流体封入式防振装置。
【請求項6】
前記外周円環部分が、その内周縁部における前記円環状溝の形成部位を略支点として、前記中央円板部分に対して軸方向で略首振り状に相対変位せしめられるようになっており、そのような略首振り状の相対変位によって、該外周円環部分の軸方向両側面が、その外周縁部において前記収容スペースの内面に対して最後に当接するようになっている請求項1乃至5の何れかに記載の流体封入式防振装置。
【請求項7】
前記中央円板部分が略一定の板厚寸法の平板形状とされている一方、前記外周円環部分が全周に亘って周方向に波打った形状とされている請求項1乃至6の何れかに記載の流体封入式防振装置。
【請求項8】
自動車のエンジンマウントを構成するものであって、該自動車のアイドリング振動の入力時には前記中央円板部分が前記収容スペースにおいて実質的にフローティング状態で自由変位が許容される一方、該自動車のエンジンシェイク振動の入力時には該中央円板部分が該収容スペースの内面に当接して変位が規制されるように、該収容スペースにおける前記可動ゴム板の可動距離を設定した請求項1乃至7の何れかに記載の流体封入式防振装置。
【請求項9】
前記アイドリング振動が、前記第一の取付部材と前記第二の取付部材の間に略±0.2mmの振幅で入力される20〜40Hz程度の振動である一方、前記エンジンシェイク振動が、第一の取付部材と第二の取付部材の間に略±0.5mm以上の振幅で入力される略10Hz程度の振動である請求項8に記載の流体封入式防振装置。
【請求項10】
±1.0mmの振幅と略10Hz程度の周波数で、前記エンジンシェイクが前記第一の取付部材と前記第二の取付部材の間に作用せしめられた場合には、前記可動ゴム板における前記中央円板部分だけでなく前記外周円環部分も前記収容スペースの内面に当接して変位が規制されることにより、前記収容スペースにおける一対の対向内面の前記中央領域と前記外周領域にそれぞれ開口する前記通孔の全てが該可動ゴム板で閉塞されるように、該収容スペースにおける該中央円板部分および該外周円環部分の可動距離が設定されている請求項8又は9に記載の流体封入式防振装置。
【請求項11】
前記第二の取付部材を略円筒形状として、該第二の取付部材の一方の開口部側に前記第一の取付部材を離隔配置せしめて、それら第一の取付部材と第二の取付部材を連結する前記本体ゴム弾性体で該第二の取付部材の一方の開口部を流体密に覆蓋すると共に、該第二の取付部材の他方の開口部を前記可撓性膜で流体密に覆蓋せしめる一方、前記仕切部材を該第二の取付部材で固定的に支持せしめて該本体ゴム弾性体と該可撓性膜の対向面間で該第二の取付部材の軸直角方向に広がるように配設することにより、該仕切部材を挟んだ両側に前記受圧室と前記平衡室を形成すると共に、該仕切部材の内部において該第二の取付部材の軸直角方向に広がるように前記収容スペースを形成して、該収容スペースにおいて軸方向変位可能に前記可動ゴム板を収容配置せしめた請求項1乃至10の何れかに記載の流体封入式防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−97823(P2006−97823A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−286181(P2004−286181)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】