説明

流体封入式防振装置

【課題】大きな打音や衝撃を回避しつつ可動板の変位量が確実に制限されると共に、可動板の小変位が容易に許容され得て、オリフィス通路による低周波数域の振動に対する防振効果と、可動板の変位による高周波数域の振動に対する防振効果とが、何れも良好に発揮され得る、新規な構造の流体封入式防振装置を提供すること。
【解決手段】仕切部材32に周溝58を設け、可動板64から板厚方向両側にそれぞれ突出して可動板64の外周側に向かって延び出す一対の弾性支持片66,68により周溝58を覆蓋し、非圧縮性流体を封入した可動板支持室78を形成すると共に、可動板支持室78における可動板64の外周端面と周溝58の底面60との対向面間において可動板64の変位に伴って流体流動が生じる狭窄流路80を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に封入された非圧縮性流体の流動作用を利用して防振効果を得ることのできる流体封入式防振装置に係り、特に低周波数域と高周波数域との何れの振動に対しても良好な防振効果を得ることの出来る流体封入式防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の車両ボデーに対するパワーユニットやサブフレーム等の連結支持部には、車両ボデーへの振動の伝達を抑えて良好な乗り心地を実現するためにエンジンマウントやサブフレームマウント等の防振装置が配設されている。このような防振装置としては、第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結せしめた簡単な構造のものの他、内部に非圧縮性流体を封入して、振動入力時における非圧縮性流体の流動作用を利用して防振効果を得るようにした流体封入式防振装置が知られている。
【0003】
かかる流体封入式防振装置は、本体ゴム弾性体で壁部の一部が構成された受圧室と可撓性膜で壁部の一部が構成された平衡室とをオリフィス通路で連通して、受圧室と平衡室との相対的な圧力変動に伴ってオリフィス通路を流動する流体の共振作用等を利用して防振効果を得るようになっている。また、オリフィス通路は、チューニング周波数域を超えた高周波数域で流動抵抗が著しく増大することから、高周波数域の防振性能を確保する目的で、受圧室と平衡室の圧力差に基づいて所定量変位可能な可動板を設けた構造も提案されている。例えば実開平2−25749号公報(特許文献1)に記載のものがそれである。
【0004】
ところで、オリフィス通路のチューニング周波数域では、可動板の変位に伴う受圧室の圧力吸収を抑えて、オリフィス通路の流体流動量を確保することが必要になる。それ故、可動板の変位量を制限する規制部材を設けて、この規制部材に対して可動板を当接させることで可動板の変位量を確実に制限するようになっている。
【0005】
しかしながら、衝撃的な大荷重の入力時には、可動板が勢い良く規制部材に打ち当たることから、それに伴う打音や衝撃の発生が問題となり易いという問題があった。なお、この問題に対して、可動板と規制部材との当接部分に緩衝リブを設けることも提案されているが、緩衝リブでは、可動板の規制部材への打ち当りに伴う打音や衝撃に対して低減効果はあるものの、まだ充分に満足できる低減効果を得ることが難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平2−25749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここにおいて、本発明は上述の如き事情を背景としてなされたものであって、その解決課題とするところは、大きな打音や衝撃を回避しつつ可動板の変位量が確実に制限されると共に、可動板の小変位が容易に許容され得て、オリフィス通路による低周波数域の振動に対する防振効果と、可動板の変位による高周波数域の振動に対する防振効果とが、何れも良好に発揮され得る、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様は、第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結すると共に、該第二の取付部材で支持された仕切部材を挟んだ両側に、壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成された受圧室と壁部の一部が可撓性膜で構成された平衡室との各一方を形成し、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入する一方、該受圧室と該平衡室を相互に連通するオリフィス通路を形成すると共に、各一方の面に及ぼされる該受圧室と該平衡室の圧力差に基づいて所定量変位可能とされた可動板を該仕切部材によって支持せしめた流体封入式防振装置において、前記仕切部材に透孔を形成して該透孔の内周面に開口する周溝を設け、前記可動板の外周縁部を該周溝に差し入れて配設すると共に、該可動板から板厚方向両側にそれぞれ突出して該可動板の外周側に向かって延び出す一対の弾性支持片を設けて、各該弾性支持片の外周部分を該周溝に嵌め入れて該周溝の両側壁内面に重ね合わせることにより、該周溝を覆蓋せしめて前記非圧縮性流体が封入された可動板支持室を形成し、該一対の弾性支持片の弾性変形により該可動板の板厚方向への変位を許容する一方、該可動板支持室における該可動板の外周端面と該周溝の底面との対向面間において該可動板の変位に伴って流体流動が生ぜしめられる狭窄流路を形成した流体封入式防振装置を、特徴とする。
【0009】
本態様の流体封入式防振装置では、低周波大振幅振動の入力時に受圧室に大きな圧力変動が惹起されることで可動板が板厚方向に変位せしめられるが、可動板の変位に際して、可動板支持室内で狭窄流路を通じた流体流動が生ぜしめられる。この流体流動により可動板の変位に対して減衰作用が発揮されることとなり、たとえ可動板が仕切部材に当接しても衝撃が緩和されることから、打音や衝撃の発生が抑えられる。また、可動板の変位が、流体流動による減衰作用や仕切部材への当接等で制限されることにより、オリフィス通路を通じての流体流動量が確保され得、低周波大振幅振動に対して流体の共振作用等に基づく防振効果が有効に発揮され得る。
【0010】
一方、オリフィス通路のチューニング周波数を超えた高周波小振幅振動の入力時には、可動板を仕切部材に対して弾性支持する一対の弾性支持片が外周側に向かって延び出す形状とされており、これら一対の弾性支持片の剪断変形を伴って可動板の板厚方向への小変位が許容される。それ故、高周波数域の小振幅振動の入力時には、一対の弾性支持片の低ばね特性に基づいて可動板の変位が容易に許容されることとなり、オリフィス通路の実質的な閉鎖に伴う著しい高動ばね化が回避されて、可動板の変位に伴う受圧室の液圧吸収作用に基づいて良好な防振効果が発揮され得る。
【0011】
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に係る流体封入式防振装置において、前記可動板の外周部分が前記弾性支持片を介して前記周溝の側壁内面に当接することにより該可動板の板厚方向の変位量を緩衝的に制限するストッパ機構が構成されているものである。
【0012】
本態様の流体封入式防振装置では、可動板を弾性支持せしめる弾性支持片を、可動板の仕切部材への当接時の衝撃を緩和する緩衝材としても利用することができる。それ故、別途に緩衝材を設ける必要がなく、構造の簡略化が図られ得る。
【0013】
本発明の第三の態様は、前記第一または第二の態様に係る流体封入式防振装置において、前記可動板の板厚方向の変位に伴って前記弾性支持片が前記周溝の側壁内面に押し付けられて弾性変形することにより、該弾性支持片の前記外周部分の先端縁部において、該周溝の側壁内面から捲れ上がって該可動板に向かって立ち上がり該可動板に当接する緩衝作用部が設けられているものである。
【0014】
本態様の流体封入式防振装置では、弾性支持片の外周部分で構成された緩衝作用部が、周溝の側壁内面から立ち上げられることで自由表面積を増大され、且つ周壁の側壁内面による変形拘束力を解除された状態で、可動板に当接されることとなる。それ故、弾性支持片による可動板の支持機能を充分に確保しつつ、可動板の仕切部材への当接時には低ばね特性による一層優れた緩衝作用を得ることが可能となる。
【0015】
本発明の第四の態様は、前記第一〜第三の何れか1つの態様に係る流体封入式防振装置において、前記一対の弾性支持片を備えた前記可動板が、板厚方向で表裏対称形状とされているものである。
【0016】
本態様の流体封入式防振装置では、一対の弾性支持片を含む可動板が表裏対称形状とされていることにより、製造が容易になると共に、可動板の組付工程で可動板を表裏判定する必要もなくなって可動板の組付作業が容易となる。
【0017】
本発明の第五の態様は、前記第一〜第四の何れか1つの態様に係る流体封入式防振装置において、前記可動板の外周端面を覆う外周保護ゴム層が、前記一対の弾性支持片と一体形成されているものである。
【0018】
本態様の流体封入式防振装置では、可動板の外周端面の保護材が容易に実現されると共に、可動板の外周端面が仕切部材の周溝底面等に接触した場合でも、外周保護ゴム層によって引っ掛かりや異音の発生が防止され得る。
【0019】
本発明の第六の態様は、前記第一〜第五の何れか1つの態様に係る流体封入式防振装置において、前記周溝の両側内面が互いに平行な対向平面とされていると共に、該周溝の両側内面に対して前記一対の弾性支持片がそれぞれ径方向所定長さに亘って密接状態で重ね合わされているものである。
【0020】
本態様の流体封入式防振装置では、弾性支持片の仕切部材に対する接触面積が大きく確保され得ることから、弾性支持片を介して、可動板を仕切部材に対して一層安定して弾性支持せしめることが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置では、振動入力時に受圧室と平衡室との間に惹起される圧力変動差に基づいて可動板が変位する際、一対の弾性支持片によって可動板の外周側に画成された可動板支持室内で流体流動が生ぜしめられる。そして、この可動板支持室内に形成された狭窄流路を通じての流体の流動作用を利用することにより、可動板の変位を制御することができるのであり、例えば低周波大振幅振動の入力時には可動板の高速変位を抑えて仕切部材への打ち当りに伴う打音や衝撃の問題を軽減乃至は回避することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態としての流体封入式防振装置の縦断面図。
【図2】本発明の流体封入式防振装置を車両に装着した際の可動板外周付近の縦断面拡大図であり、(a)が無振動および微振動入力時を、(b)が大振動入力時をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において、上下方向とは原則として図1中の上下方向を言う。先ず、図1に本発明の実施形態としての流体封入式防振装置10を示す。流体封入式防振装置10は、第一の取付部材12と第二の取付部材14を本体ゴム弾性体16によって相互に連結した構造とされている。そして、第一の取付部材12がパワーユニットに取り付けられると共に、第二の取付部材14がブラケットなどを介して車両ボデーに取り付けられることにより、パワーユニットが車両ボデーに対して防振連結されるようになっている。
【0024】
より詳細には、第一の取付部材12は略円柱形状を有しており、金属などで形成された高剛性の部材とされている。また、第一の取付部材12の上端部には外周側に広がるフランジ部18が一体形成されている。更に、第一の取付部材12には上端面に開口して中心軸上を上下方向に延びるボルト孔20が形成されている。
【0025】
一方、第二の取付部材14は薄肉の略段付き円筒形状を有しており、上段が下段よりも大径となっている。第二の取付部材14は、第一の取付部材12と同様に金属などで形成された高剛性の部材とされている。
【0026】
そして、第一の取付部材12が第二の取付部材14の上側開口部に離隔配置されており、それら第一の取付部材12と第二の取付部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性的に連結されている。本体ゴム弾性体16は、厚肉の略円錐台形状を有しており、その小径側端部に対して第一の取付部材12が挿し込まれて加硫接着されていると共に、大径側端部が第二の取付部材14の上段内周面に重ね合わされて加硫接着されている。なお、本体ゴム弾性体16は、第一の取付部材12と第二の取付部材14を備えた一体加硫成形品として形成されている。
【0027】
また、本体ゴム弾性体16の大径側端面には逆すり鉢状の凹所22が開口形成されている。さらに、本体ゴム弾性体16の大径側端面の外周縁部にはシールゴム層24が下方に向かって延びだして一体形成されており、シールゴム層24の外周面が第二の取付部材14の下段内周面に被着形成されている。
【0028】
第二の取付部材14の下端部には可撓性膜26が固定金具28、シールゴム層24を介して取り付けられている。可撓性膜26は上方に凸の略ドーム形状の薄肉のゴム膜であり、軸方向に十分な弛みを有している。可撓性膜26の外周縁部には、環状の固定金具28が加硫接着されており、さらに固定金具28の外周面はシールゴム層24の内周面と密着されている。
【0029】
これにより、第二の取付部材14の上側開口部が本体ゴム弾性体16によって閉塞されていると共に、下側開口部が可撓性膜26によって閉塞されており、本体ゴム弾性体16と可撓性膜26の軸方向対向面間には、非圧縮性流体が封入された流体室30が形成されている。なお、封入される非圧縮性流体としては特に限定されるものではないが、水やアルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油やそれらの混合溶液が好適に採用される。特に流体の流動作用に基づく防振効果を有効に得るために、0.1Pa・s以下の低粘性流体が望ましい。
【0030】
また、流体室30には、仕切部材32が配設されている。かかる仕切部材32は、全体として略円環ブロック形状を有しており、中央を中心軸方向に貫通して延びる透孔34には、この透孔34を塞ぐようにして可動部材36が組み付けられている。そして、この仕切部材32の外周面が、シールゴム層24を介して第二の取付部材14で固定的に支持されている。これにより、流体室30が、可動部材36を備えた仕切部材32で上下両側に仕切られており、仕切部材32の上方に壁部の一部が本体ゴム弾性体16で構成された受圧室38が形成されていると共に、仕切部材32の下方に壁部の一部が可撓性膜26で構成された平衡室40が形成されている。なお、仕切部材32は、シールゴム層24の内周面に形成された段差面42と、固定金具28との間で軸方向に挟まれることにより、第二の取付部材14に対して軸方向で位置決めされている。
【0031】
ここにおいて、仕切部材32は、円環ブロック形状の仕切部材本体44に対して、円環板形状のフランジプレート46が上面に重ね合わされて固着されることによって形成されている。なお、これら仕切部材本体44とフランジプレート46は、何れも、金属や硬質の合成樹脂等で形成されている。
【0032】
仕切部材本体44には、外周面に開口して周方向に所定長さで延びる凹溝48が形成されている。そして、この凹溝48の外周開口部が第二の取付部材14で覆蓋されていると共に、凹溝48の一方の端部が受圧室38に接続されており、凹溝48の他方の端部が平衡室40に接続されている。これにより、受圧室38と平衡室40を相互に連通するオリフィス通路50が形成されている。なお、本実施形態では、かかるオリフィス通路50が、一般に10Hz前後〜数十Hz程度のエンジンシェイク又はアイドリング振動等の低周波大振幅振動に対して流体流動の共振減少が生ぜしめられるようにチューニングされている。
【0033】
また、仕切部材本体44には、下部の内周面上に円環形状で突出する下側フランジ部52が形成されている。一方、仕切部材本体44の上面には、フランジプレート46が重ね合わされて固定ボルト54で固着されている。そして、このフランジプレート46の内周部分が、仕切部材本体44の上部で内周面上に突出することにより円環形状の上側フランジ部56が形成されている。これら下側フランジ部52と上側フランジ部56は、仕切部材32の軸方向で対向位置しており、以て、仕切部材32の透孔34には、内周面に開口して周方向の全周に亘って連続して延びる周溝58が形成されている。特に本実施形態では、かかる周溝58の底面60が仕切部材32の軸方向に延びる円筒形状とされていると共に、周溝58の両側壁内面62,62が、仕切部材32の軸直角方向に広がる互いに平行な平面形状とされている。
【0034】
一方、可動部材36は、略円板形状の可動板64を備えている。この可動板64は、仕切部材32の周溝58の内法(溝幅)寸法に比して充分に小さな厚さ寸法とされている。また、可動板64の外径寸法は、仕切部材32における上側フランジ部56及び下側フランジ部52の内径寸法よりも大きく、且つ、仕切部材32における周溝58の底面60の内径寸法よりも小さくされている。これにより、可動板64の外周縁部を、仕切部材32の周溝58に差し入れて組み付けることができるようになっている。なお、可動板64は、金属や硬質の合成樹脂等で形成されている。
【0035】
さらに、可動板64には、板厚方向両側にそれぞれ突出する上下一対の弾性支持片66,68が設けられている。これらの弾性支持片66,68は、可動板64の径方向中間部分から上方又は下方に向かって立ち上がり、可動板64から上方又は下方に僅かに離れた位置を保ちつつ可動板64の径方向外方に向かって延び出している。
【0036】
特に本実施形態では、可動板64から立ち上がる基端部70が僅かに径方向外方に向かって傾斜していると共に、この基端部70から外周側に向かって延びる先端部72が一定厚さの略円環板形状とされている。また、上側及び下側の弾性支持片66,68は、互いに同一形状とされており、可動部材36に上下の区別が無い構造とされている。更に、かかる弾性支持片66,68の外径寸法は、可動板64の外径寸法と略同じとされており、仕切部材32における上側フランジ部56及び下側フランジ部52の内径寸法よりも大きく、且つ、仕切部材32における周溝58の底面60の内径寸法よりも小さくされている。また、弾性支持片66,68の内径寸法は、仕切部材32における上側フランジ部56及び下側フランジ部52の内径寸法よりも小さくされている。
【0037】
更に、本実施形態では、可動板64の表面に沿って広がる薄肉の被覆ゴム層74が設けられている。この被覆ゴム層74は、上下の弾性支持片66,68と一体形成されて、可動板64に対して加硫接着されており、上下の弾性支持片66,68と協働して、可動板64の表面を全体に亘って被覆している。
【0038】
なお、被覆ゴム層74によって、可動板64の外周端面を全周に亘って覆う外周保護ゴム層76が形成されているが、この可動板64の外周端面を覆う外周保護ゴム層76の外径寸法は、仕切部材32における周溝58の底面60の内径寸法よりも小さくされている。
【0039】
そして、かかる可動部材36は、その外周部分を、仕切部材32の周溝58に対して嵌め入れられて組み付けられている。かかる組付状態下では、可動板64の外周部分だけでなく、上下の弾性支持片66,68の外周部分も、仕切部材32の周溝58に差し入れられている。
【0040】
特に本実施形態において、可動部材36は、仕切部材32への組付前の単品状態で、上下の弾性支持片66,68における軸方向の両端部間距離、即ち上下の弾性支持片66,68を含む可動部材36の最大厚さ寸法が、仕切部材32の周溝58の内法寸法と同一か僅かに大きくされている。これにより、仕切部材32への組付状態では、上下の弾性支持片66,68の各上下外面が、仕切部材32の周溝58の両側壁内面62,62に対して、当接力を持たないゼロタッチの状態で、又は僅かに押し付けられた当接状態とされている。
【0041】
また、上下の弾性支持片66,68は、仕切部材32の周溝58の外部から周溝58内に向かって延び出しており、仕切部材32の上側フランジ部56及び下側フランジ部52の内周端が、上下の弾性支持片66,68の径方向中間部分に位置せしめられている。そして、本実施形態では、上下の弾性支持片66,68が、周溝58に入り込んだ外周部分の略全体に亘って、周溝58の両側壁内面62,62に対して略密接状態で重ね合わされている。
【0042】
これにより、仕切部材32の周溝58が、可動部材36の外周部分によって覆蓋されている。そして、可動部材36の外周側を周方向に延び、受圧室38および平衡室40と同じ非圧縮性流体が内部に封入された可動板支持室78が形成されている。また、かかる可動板支持室78は、軸方向中間部分が可動板64によって狭窄されており、可動板64の外周端面と周溝58の底面60との径方向対向面間に狭窄流路80が形成されている。
【0043】
なお、本実施形態では、仕切部材32の透孔34内で可動板64を同軸上に配置することにより、周方向の全周に亘って略一定の断面形状で連続して延びる環状の狭窄流路80が形成されている。また、狭窄流路80を形成する可動板64の外周端面が外周保護ゴム層76で覆われており、仕切部材32に対して可動板64が径方向に偏倚した際にも、可動板64が周溝58内面に干渉することに起因する異音等の発生が防止されている。
【0044】
要するに、可動板64は、上下の弾性支持片66,68によって、仕切部材32に対して弾性支持されて組み付けられて、仕切部材32の透孔34内の略中央に配設されている。そして、可動部材36の上面に対して受圧室38の液圧が及ぼされると共に、可動部材36の下面に対して平衡室40の液圧が及ぼされるようになっている。それ故、受圧室38と平衡室40の間で相対的な液圧差が生じた場合には、可動板64が両室38,40間の液圧差に基づいて、上下の弾性支持片66,68の弾性変形により、仕切部材32の透孔34内で上下方向への変位が許容されるようになっている。
【0045】
以上のような構造とされた流体封入式防振装置10は、ボルト孔20に螺着される取付用ボルトによって、第一の取付部材12がパワーユニットに取り付けられる。一方、第二の取付部材14が、車両ボデーに対して、ブラケットなどを介してボルト固定されて取り付けられる。これにより、パワーユニットの車両ボデーへの取付部位に流体封入式防振装置10が装着されて、パワーユニットを車両ボデーに対して防振支持せしめることとなる。なお、かかる装着状態下では、パワーユニットを分担支持する静的荷重が第一の取付部材12と第二の取付部材14との間に及ぼされることにより、図1に示す単品状態に比して、本体ゴム弾性体16の弾性変形に基づいて第一の取付部材12と第二の取付部材14が相互に所定距離だけ接近方向に変位せしめられる。
【0046】
そして、このような流体封入式防振装置10の車両装着下、第一の取付部材12と第二の取付部材14との接近・離隔方向に対して、防振すべき主たる振動が入力されることとなる。振動入力に伴い本体ゴム弾性体16が弾性変形すると、本体ゴム弾性体16で壁部の一部が構成された受圧室38に圧力変動が惹起される。一方、壁部の一部がゴムダイヤフラムからなる可撓性膜26で構成された平衡室40は、圧力変動が吸収されて略大気圧に保たれる。それ故、振動入力時には、受圧室38と平衡室40との間に相対的な圧力変動が生ぜしめられることとなる。
【0047】
その結果、例えばエンジンシェイク等の低周波大振幅振動の入力時には、受圧室38と平衡室40との圧力差に基づいて、オリフィス通路50を通じての流体流動が生ぜしめられることとなり、オリフィス通路50を通じて流動する流体の共振作用に基づいて優れた防振効果を得ることが可能となる。
【0048】
また、低周波大振幅振動の入力時には、受圧室38と平衡室40との相対的な圧力変動の振幅が大きいことから、可動板64も板厚方向に大きく変位するが、変位した可動板64は、その外周部分が上下の弾性支持片66,68を介して仕切部材32の周溝58の両側壁内面62,62に当接せしめられる。この当接により、可動板64の変位量を緩衝的に制限するストッパ機能が発揮されることとなり、受圧室38の圧力変動が効果的に確保されることにより、オリフィス通路50を通じての流体流動量ひいては目的とする流体の共振作用に基づく防振効果が充分に発揮され得る。
【0049】
さらに、可動板64が変位すると、可動板支持室78における可動板64を挟んだ上下両側の領域で相対的な容積変化が生じ、それに伴って、狭窄流路80を通じての流体流動が生ぜしめられる。そして、この狭窄流路80を通じての流体流動による流通抵抗や粘性に基づいて及び/又は流体の共振作用に基づいて、可動板64の変位に対して減衰効果や速度の低減効果が発揮される。これにより、上記ストッパ機能が発揮される際、可動板64が弾性支持片66,68を介して仕切部材32に打ち当たる衝撃が効果的に軽減されるのであり、弾性支持片66,68の弾性による緩衝作用と併せて、かかる打ち当りに際しての異音や振動の発生が防止され得る。
【0050】
特に本実施形態では、弾性支持片66,68の先端部72が仕切部材32の周溝58の側壁内面62に重ね合わされており、可動板64の変位に際して、弾性支持片66,68に対する側壁内面62への当接反力が、可動板64に向かって及ぼされる。それ故、図2に示されているように、可動板64の変位に際して、可動板64が接近せしめられる側の弾性支持片66(68)は、外周端が周溝58の内方に捲れ上がるように変形して、可動板64に向かって立ち上がることとなる。この立ち上がった弾性支持片66(68)の先端部72は、変位する可動板64に際して先行して当接する緩衝作用部82とされている。即ち、この緩衝作用部82は、側壁内面62との間に形成された隙間84の存在によって柔らかいばね特性を有しており、可動板64の仕切部材32への当接に際して一層優れた緩衝作用を発揮し得る。
【0051】
一方、走行こもり音等のオリフィス通路50のチューニング周波数を超えた高周波小振幅振動の入力時には、オリフィス通路50が反共振的な作用により実質的に閉鎖される。それに伴い、受圧室38の圧力変動が可動板64に及ぼされることとなる。
【0052】
ここにおいて、可動板64の変位を許容する一対の弾性支持片66,68は、可動板64の径方向に延びており、可動板64の変位方向での主たる変形が剪断変形とされている。それ故、可動板64が弾性支持片66,68に当接するまでの変位領域では、弾性支持片66,68の低ばね特性に基づいて、可動板64の変位が容易に許容されるのである。その結果、受圧室38の圧力変動が、可動板64の変位に伴って平衡室40に逃がされることとなり、受圧室38の圧力増大に伴う著しい防振性能の低下が回避されて、優れた防振効果が発揮され得るのである。
【0053】
なお、本実施形態では、可動板64の外周端面が外周保護ゴム層76で覆われていることから、可動板64の外周端面が周溝58の底面60等に接触した場合でも、外周保護ゴム層76によって、引っ掛かりや異音の発生が防止され得る。
【0054】
また、本実施形態においては、周溝58の両側壁内面62,62が互いに平行な対向面間とされていると共に、周溝58の両側壁内面62,62に対して一対の弾性支持片66,68がそれぞれ径方向所定長さに亘って密接状態で重ね合わされている。これにより、弾性支持片66,68の仕切部材32に対する接触面積が大きく確保され、弾性支持片66,68を介して、可動板64を仕切部材32に対して一層安定して弾性支持させることができる。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はその具体的な記載によって限定的に解釈されない。例えば、狭窄流路80は全周に亘って一定の断面形状である必要はない。可動板64の外径寸法を部分的に異ならせること等により、狭窄流路80の断面積を周上で部分的に異ならせることも可能である。また、可動板64の外周保護ゴム層76の厚さを周上の複数箇所で大きくして、周溝58の周上の複数箇所において、外周保護ゴム層76を周溝58の底面60に当接させることにより、仕切部材32の透孔34内で可動部材36を径方向で位置決めすることも可能である。
【0056】
また、可動部材36は、仕切部材32への組付前の単品状態で、上下の弾性支持片66,68の形成部分における可動部材36の厚さ寸法を、周溝58の内法寸法より小さくしても良い。これにより、仕切部材32への組付状態で、一方の弾性支持片66(68)と周溝58の側壁内面62との間に隙間が生ずるが、可動板64の板厚方向への変位に際して、変位方向前方の弾性支持片66(68)は周溝58の側壁内面62に押し付けられるから、前述の如き狭窄流路80を通じての流体流動作用や弾性支持片66,68による緩衝作用は有効に発揮され得る。
【0057】
更にまた、狭窄流路80の大きさは可動板64や外周保護ゴム層76の大きさを調節することにより、任意に設定することができる。好適には狭窄流路80を通じての流体流動の共振周波数は、防振を目的とする高周波数域の振動周波数よりも更に高い周波数域に設定される。これにより、狭窄流路80を流動する流体の反共振作用による流動抵抗の著しい増大を回避して、高周波数域の振動入力時における可動板64の圧力吸収作用が一層効果的に発揮される。尤も、狭窄流路80を通じての流体の共振作用を積極的に利用して、特定の高周波数域の振動入力時に流体の共振作用による低動ばね化を発揮させることで、可動板64の圧力吸収作用の増大を図ることも可能である。
【0058】
また、周溝58の両側壁内面62,62は互いに平行である必要はない。周溝58の開口側に向かって次第に拡開したり、反対に狭窄されていても良く、そのような傾斜をもった内面を形成してもよい。更にまた、可動部材36における一対の弾性支持片66,68も、互いに平行である必要はなく、外周側に向かって次第に次第に軸方向外方に広がったり、反対に軸方向内方に狭まっていても良く、厚さ寸法も例えば径方向外方に向かって次第に薄肉とする態様等を採用して異ならせることも可能である。なお、周溝58の両側壁内面62,62と一対の弾性支持片66,68の各軸方向外面とは、互いに同じ傾斜角度をもって形成する必要はない。
【0059】
また、可動板64を覆う被覆保護ゴム層74や外周保護ゴム層76は、必ずしも設ける必要はない。例えば、周溝58の内面に保護ゴム層を形成することにより、可動板64が周溝58の底面60へ直接干渉する不具合を回避することも可能である。
【符号の説明】
【0060】
10:流体封入式防振装置、12:第一の取付部材、14:第二の取付部材、16:本体ゴム弾性体、26:可撓性膜、32:仕切部材、34:透孔、38:受圧室、40:平衡室、50:オリフィス通路、58:周溝、64:可動板、66:上側弾性支持片、68:下側弾性支持片、76:外周保護ゴム層、78:可動板支持室、82:緩衝作用部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の取付部材と第二の取付部材を本体ゴム弾性体で連結すると共に、該第二の取付部材で支持された仕切部材を挟んだ両側に壁部の一部が該本体ゴム弾性体で構成された受圧室と壁部の一部が可撓性膜で構成された平衡室との各一方を形成し、それら受圧室と平衡室に非圧縮性流体を封入する一方、該受圧室と該平衡室を相互に連通するオリフィス通路を形成すると共に、各一方の面に及ぼされる該受圧室と該平衡室の圧力差に基づいて所定量変位可能とされた可動板を該仕切部材によって支持せしめた流体封入式防振装置において、
前記仕切部材に透孔を形成して該透孔の内周面に開口する周溝を設け、前記可動板の外周縁部を該周溝に差し入れて配設すると共に、
該可動板から板厚方向両側にそれぞれ突出して該可動板の外周側に向かって延び出す一対の弾性支持片を設けて、各該弾性支持片の外周部分を該周溝に嵌め入れて該周溝の両側壁内面に重ね合わせることにより、該周溝を覆蓋せしめて前記非圧縮性流体が封入された可動板支持室を形成し、該一対の弾性支持片の弾性変形により該可動板の板厚方向への変位を許容する一方、
該可動板支持室における該可動板の外周端面と該周溝の底面との対向面間において該可動板の変位に伴って流体流動が生ぜしめられる狭窄流路を形成した
ことを特徴とする流体封入式防振装置。
【請求項2】
前記可動板の外周部分が前記弾性支持片を介して前記周溝の側壁内面に当接することにより該可動板の板厚方向の変位量を緩衝的に制限するストッパ機構が構成されている請求項1に記載の流体封入式防振装置。
【請求項3】
前記可動板の板厚方向の変位に伴って前記弾性支持片が前記周溝の側壁内面に押し付けられて弾性変形することにより、該弾性支持片の前記外周部分の先端縁部において、該周溝の側壁内面から捲れ上がって該可動板に向かって立ち上がり該可動板に当接する緩衝作用部が設けられている請求項1または2に記載の流体封入式防振装置。
【請求項4】
前記一対の弾性支持片を備えた前記可動板が、板厚方向で表裏対称形状とされている請求項1〜3の何れか1項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項5】
前記可動板の外周端面を覆う外周保護ゴム層が、前記一対の弾性支持片と一体形成されている請求項1〜4の何れか1項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項6】
前記周溝の両側内面が互いに平行な対向平面とされていると共に、該周溝の両側内面に対して前記一対の弾性支持片がそれぞれ径方向所定長さに亘って密接状態で重ね合わされている請求項1〜5の何れか1項に記載の流体封入式防振装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−2456(P2013−2456A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130891(P2011−130891)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】