説明

流体軸受装置と、それを用いたモータ、情報記録再生装置および流体軸受装置に用いるシャフトの製造方法

【課題】ハードディスクドライブ等に使用されるスピンドルモータ用の流体軸受装置に関し、シャフトと被固定部材の締結強度と締結状態がよい流体軸受装置を提供することを目的とする。
【解決手段】円柱状の主軸部9aを有するシャフト9と、主軸部9が回転可能な状態で挿入される軸受孔を有するスリーブ14と、シャフト9に固定される被固定部材であるフランジ13と、シャフト9の少なくとも一端側に設けられたフランジ13が固着される主軸部9aより小径の固定部9bを具備し、主軸部9aには窒化層が形成され、固定部9bには酸化被膜層が形成されていることにより、シャフト9と被固定部材の締結強度と締結状態がよい流体軸受装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスクドライブ(以下、HDDと示す。)等に使用されるスピンドルモータ用の流体軸受装置に関し、特に硬度や耐摩耗性を向上するために窒化処理されたシャフトにフランジやハブを固定する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、HDDを搭載した各種情報記録再生装置は携帯に便利なように軽薄短小化が図られている。その一方で、小型ながら大記憶容量を維持向上し、耐衝撃性を上げることも必要とされている。このようなHDDに使用されるスピンドルモータの軸受として、回転精度が高く耐衝撃性に優れた流体軸受装置が使用されている。
【0003】
流体軸受は、モータが薄型になるにつれて、シャフトと被固定部材であるフランジやハブとの固定部の長さが短くなっており、より強度のある締結が必要とされている。固定部の締結方法としては、主に接着と圧入の併用やレーザ溶接などが行なわれている。
【0004】
また、流体軸受装置に使用されるシャフトは、例えば、線膨張係数がスリーブの材質に近いオーステナイト系ステンレス鋼が用いられており、特許文献1には、シャフトの表面に窒化処理層を形成して硬度と耐磨耗性を向上する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平10−89345号公報
【特許文献2】特開2004−291851号公報
【特許文献3】特開平3−237278号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の構成では、窒化処理がなされたシャフト面で、例えば、被固定部材であるフランジなどとの嵌合部をレーザ溶接すると、窒化処理部は硬く延性が低いため、溶接部で割れが発生して溶接がうまく出来ない問題が生じている。また、接着剤で固定する場合は、線膨張係数の異なる窒化層がシャフトとフランジの間に介在する為に温度変化などで接着性が劣化する問題がある。更に圧入やカシメやネジ止めで固定する場合は、表面が塑性変形されるので表面の窒化層が剥がれる可能性があり汚れや異物付着の要因になりやすい。
【0006】
そこで、本発明はシャフトと被固定部材の締結強度と締結状態がよい流体軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そして、この目的を達成するために、本発明の流体軸受装置は、円柱状の主軸部を有するシャフトと、前記主軸部が回転可能な状態で挿入される軸受孔を有するスリーブと、前記シャフトに固定される被固定部材と、前記シャフトの少なくとも一端側に設けられた前記被固定部材が固着される前記主軸部より小径の固定部を具備し、前記主軸部には窒化層が形成され、前記固定部には窒化層非形成膜が形成されていることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0008】
以上のように本発明によれば、軸受孔に挿入されるシャフトの主軸部には窒化層が形成され、被固定部材が固着されるシャフトの固定部には窒化層非形成膜が形成されていることにより、シャフトと被固定部材の締結強度と締結状態がよい流体軸受装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明に係る実施の形態を図面に基づき説明する。
【0010】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における流体軸受装置1を含むスピンドルモータ2が搭載されたHDD(情報記録再生装置)3を示すものである。
【0011】
[HDD3全体の構成]
本実施形態に係るHDD3は、図1に示すように、複数の記録再生ヘッド4aを含むヘッド部4と、スピンドルモータ2とを内部に搭載している。そして、それぞれの記録再生ヘッド4aによってディスク(記録媒体)5に対する情報の書き込み、あるいは既に書き込まれた情報の再生を行う。
【0012】
ヘッド部4は、2つの記録再生ヘッド4aを搭載しており、ディスク5の表裏面に近接するように配置される。
【0013】
ディスク5は、HDD3に取り付けられる直径が、例えば、0.85インチ、1.0インチ、1.8インチ、2.5インチ、または3.5インチ等の円板状の記録媒体である。
【0014】
ベース6は、磁性を有するステンレス鋼材または鋼板によって形成されており、表裏面は無電解ニッケルメッキを施して形成されて、スピンドルモータ2の静止側の部分を構成している。なお、ディスクサイズが大きいものは、非磁性材料であるアルミ系合金によって形成され、ロータマグネット7と対向しているベース6の表面上にロータマグネット7を吸引する磁性板(図示せず。)が取り付けられている場合もある。そして、ベース6は、HDD3の密閉筐体の一部を構成している。また、ベース6は、その中心部分付近に、軸受部1が接着やカシメなどによって固定されている。
【0015】
ロータハブ8は、磁性を有するステンレス鋼によって略逆カップ状に形成されており、円柱状のシャフト9の上端部に嵌合され、接着、カシメやネジ止めなどによって固定されてシャフト9と一体となって回転する。また、ロータハブ8は、シャフト9の上端部が挿入される中央孔8aと、ロータマグネット7が取り付けられる円筒状垂下壁であるマグネット保持部8bと、円板状のディスク5が載置される円形段状のディスク載置面8cとを有している。
【0016】
スピンドルモータ2は、ディスク5を回転駆動するための回転駆動源となる装置であって、ロータマグネット7、ステータコア10、ステータコイル11、磁気シールド板12および軸受部(流体軸受装置)1等を備えている。
【0017】
[スピンドルモータ2を構成する各部材の説明]
ロータマグネット7は、隣接する磁極がN極、S極と交互に配置された、円環状の部材であってNd−Fe−B系樹脂マグネット等によって形成されており、ステータコア10の内径側に一定の隙間を介して、ロータハブ8のマグネット保持部8bに対して装着され、接着やカシメなどによって固着されている。
【0018】
ステータコア10は、径方向に沿ってほぼ等角度間隔で配置された複数の突極部を有しており、この突極部に対してそれぞれステータコイル11が巻回される。そして、ステータコア10は、ステータコイル11に電流を流すことで発生する磁場によって、ロータマグネット7に対して、回転力を付与する。
【0019】
磁気シールド板12は、ステータコア10の上方を覆うように取り付けられており、ステータコア10に発生する磁場に対して、スピンドルモータ2の外部への磁気漏れを防止するための、厚さ約0.1mmの磁性を有する円板状のステンレス鋼材である。
【0020】
軸受部1は、スピンドルモータ2に含まれる流体軸受装置であって、スピンドルモータ2における中央部付近に配置されている。
【0021】
[軸受部1を構成する各部材の説明]
軸受部1は、シャフト(回転軸)9、フランジ13、スリーブ14、スラストプレート15、ロータハブ8、ベース6を含むように構成されている。
【0022】
シャフト9は、軸受部1の回転軸となる部材であって、円柱状の主軸部9aと、その両端には主軸部9aよりも小径の円柱状の固定部9bおよびハブ固定部9cが形成され、下方側の固定部9bは、例えば、レーザ溶接などによって被固定部材であるフランジ13と結合されている。
【0023】
シャフト9およびフランジ13は、スリーブ14に対して相対回転可能な状態で嵌め込まれている。そして、フランジ13におけるスラストプレート15との軸方向の対向面には、動圧を発生させる例えば魚骨状のスラスト動圧発生溝(図示せず。)が形成されて、スラスト動圧発生部を構成している。同様に、シャフト9とスリーブ14との径方向対向面間には、動圧を発生させる例えば魚骨状のラジアル動圧発生溝(図示せず。)が形成されて、ラジアル動圧発生部を構成している。そして、スリーブ14は、真鍮等の銅合金によって形成されており、表面には無電解ニッケルメッキが施されている。
【0024】
シャフト9の材質は、例えば、オーステナイト系ステンレス鋼であるASK8000が用いられている。
【0025】
ここで、シャフト9の製造方法について図2を用いて説明する。
【0026】
図2はシャフト9の製造工程を示しており、まず、ブランク加工工程S1で、棒状のブランク材料を、旋盤加工により、最大外周に軸受部となる円柱状の主軸部9aと、その一端側に図1に示すフランジ13を嵌合して固定するための主軸部9aより小径の固定部9bを形成する。ここで、シャフト9の被加工部の硬度は加工硬化などの影響もあり、例えば、Hv400〜450のような硬度となる。(なお、ここで述べるHv硬度は100g荷重で測定したビッカース硬度であり以降の硬度はこの測定によるものである。)
次に、酸化被膜形成工程S2により、シャフト9の全面に窒化層非形成膜である酸化被膜層16を形成した後、1次センタレス研磨工程S3を行う。センタレス研磨は、回転する2つの砥石の間にシャフトを通して研削を行う工程で、最大外周の円柱状の主軸部9aでは片側20μm〜30μmの研削が行われ、酸化被膜層16が取り除かれる。しかし、主軸部9aより小径の固定部9bでは研削が行われず、酸化被膜層16が形成されたまま残る。
【0027】
その後、窒化処理工程S4を行なう。窒化処理は、例えば、約500℃の窒素ガス雰囲気中において約5時間の処理を行なうことで主軸部9aに厚さ22〜50μmの窒化被膜層17を形成する。窒化被膜層17の硬度は高く、主軸部1aの硬度はHv1100〜2000まで高くなる。ここで、シャフト9において固定部9bなどの主軸部9a以外の部分には、酸化被膜層16が形成されており、酸化被膜層16の上には窒化被膜がほとんど形成されないので、硬度はHv400〜650の低い値を維持している。
【0028】
最後に、2次センタレス研磨工程S5で片側18μm〜20μmのセンタレス研磨加工によって窒化被膜層17の研削を行う。これは、精度が要望される軸受部の寸法精度を確保するために窒化処理後の窒化被膜層17の厚みに対して仕上げ加工を施す必要があるためである。仮に、窒化被膜層17の厚みが最小の22μmの部分を20μmの研磨を行った場合でも少なくとも2μmの窒化被膜層17は残ることになる。2μmの窒化被膜層17があると、硬度としてはHv750以上あることが実験的に確認されており、軸受部の強度と耐磨耗性をよくすることが出来る。
【0029】
なお、図7に比較例のシャフト9の製造工程を示しているが、この工程でも窒化処理前にも精度の高い加工が必要なために窒化処理工程の前に1次センタレス研磨工程を行い、窒化処理後にも窒化処理のバラツキを補正する為に仕上げとして2次センタレス研磨をおこなう工程が必要であった。
【0030】
次に、図3(a)、(b)を用いてシャフト9とフランジ13の締結について説明する。フランジ13の材質は、例えば、SUS304Lであり、図3(a)のように円板状のフランジ13の中央に形成された円形孔の内径をシャフト9の固定部9bに嵌合して嵌合部にレーザを照射して、シャフト9とフランジ13を溶接によって締結する。溶接は、例えば、シャフト9の固定部9bの円周方向に対して120°の等しいピッチ角度の間隔の3箇所から同時にYAGレーザを照射する。照射は0.8Kwの出力で8ショット/秒の間隔で3ショット行う。また、ショット時はシャフト1とフランジ2をレーザ照射部と相対的に回転速度4秒/revで回転させる。その結果、図3(b)のように全周に均一な溶接が行われる。このときに、シャフト9のレーザが照射される固定部9bは酸化被膜層16が形成されているので硬度の高い窒化被膜層17がなく延性があるので良好な溶接状態を得ることが出来る。
【0031】
図4はそれぞれ図4(a)がシャフト9の固定部9bに酸化被膜を形成することにより窒化被膜層が無い場合、そして図4(b)がシャフト9の固定部9bに窒化被膜層がある場合の溶接後の状態を表している。図4(a)のように酸化被膜により図2に示す窒化被膜層17が無い場合は溶接部9dに割れがなく均一なスポット溶接状態を得ることができる。しかしながら、図4(b)のように窒化被膜層があって、そこを溶接した場合は溶接部9dに割れ9eが生じるだけでなく、溶接状態も汚れが目立ち、不均一なものとなる。
【0032】
以上のように、シャフト9に酸化被膜を形成し、センタレス研磨により外周の主軸部9aだけの酸化被膜層16を除去してから、窒化処理を行なうことにより、容易に、主軸部9aに硬度や耐摩耗性のよい窒化被膜層17を形成しながら、かつ、固定部9bは酸化被膜層16が形成されているので窒化被膜層17の形成を防止することが出来る。これにより窒化被膜層17の形成を防止するためにマスキング用のリングなどが不要となるだけでなく、リングの取り付けと取り外しの工程等が不要となるので、生産効率が高い流体軸受装置を提供することができる。そして、主軸部9aは硬度と耐磨耗性に優れた軸受部となり、固定部9bは窒化被膜層17がなくなっているのでシャフト9と被固定部材であるフランジ13の締結強度と締結状態がよい流体軸受装置1を提供することが出来る。さらに、この工程で製造されたシャフト9を用いた流体軸受装置1は、起動停止時の耐摩耗性に優れて耐衝撃の強い軸受となる。また、この流体軸受装置1を用いたスピンドルモータ2は耐衝撃性に強く、長寿命のモータとなる。さらに、このスピンドルモータ2を用いたHDD3としても耐衝撃性に強く製品寿命の長い製品とすることが出来る。
【0033】
[他の実施の形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0034】
(A)
上記実施形態では、図1に示すようにシャフト9とフランジ13の締結方法として溶接で固定する構成を開示したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
例えば、シャフト9とフランジ13を接着、圧入、カシメ、ネジ止めのいずれかあるいは複数の組み合わせで固定部9bに固定したものであってもよい。接着剤で固定する場合は、温度変化による接着性の劣化が改善され接着強度の劣化が防止でき、圧入やカシメやネジ止めで固定する場合も、塑性変形時に窒化被膜層17が剥がれることがなく汚れや異物付着を防止することができる。
【0036】
このようにシャフト9とフランジ13を接着、圧入、カシメ、ネジ止めのいずれかあるいは複数の組み合わせで固定部9bに固定したものでも、軸受部である主軸部9aの硬度や耐摩耗性に優れて、かつ、固定部9bの締結強度や締結状態が良好なシャフト9となり、実施の形態1と同様の効果を得ることが出来る。
【0037】
(B)
上記実施形態では、図1に示すスリーブ14の材料として真鍮等の銅合金の表面に無電解ニッケルメッキを施した材料を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0038】
例えば、スリーブ14がステンレス鋼や鉄系の材料であってもよい。
【0039】
この場合も軸受部1の硬度と耐磨耗性を向上させながら、固定部9bの締結強度や締結状態をよくすることが出来るので、実施の形態1と同様の効果を得ることが出来る。
【0040】
(C)
上記実施形態では、シャフト9とフランジ13の締結について開示したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0041】
例えば、被固定部材がロータハブ8や抜止め(図示せず)のようなシャフト9と嵌合する部材であってもよい。
【0042】
この場合も軸受部の硬度と耐磨耗性を向上させながら、固定部の締結強度や締結状態をよくすることが出来るので、実施の形態1と同様の効果を得ることが出来る。
【0043】
(D)
上記実施形態では、図2に示すように最大外周の円柱状の主軸部9aにセンタレス研磨を行うことで酸化被膜層16を取り除いたが、これに限定されるものではない。
【0044】
例えば、主軸部9aの径より固定部9bの径が大きい場合でもシャフト9両端のセンターを支持して回転させて、主軸部9aのみを砥石で研磨したり、精密切削加工することで酸化被膜層16を取り除いてもよい。
【0045】
この場合も主軸部9aの酸化被膜層16が取り除かれ、固定部9bは酸化被膜層16が残るので窒化処理を行なった場合に、実施の形態1と同様の効果を得ることが出来る。
【0046】
(E)
上記実施形態では、シャフト9とフランジ13がスリーブ14に対して回転するシャフト回転の軸受のレーザ溶接の締結を開示したが、これに限定されるものではない。
【0047】
例えば、図5に示すようにスリーブ18がシャフト19に対して回転する軸固定の軸受であってもよい。この場合もシャフト19に対して上フランジ20bや下フランジ20cをそれぞれ固定する上固定部19bと下固定部19cに酸化被膜層を形成することにより軸受部である円柱状の主軸部19aの硬度と耐磨耗性を向上させながら、固定部の締結強度や締結状態をよくすることが出来るので、実施の形態1と同様の効果を得ることが出来る。
【0048】
(F)
上記実施形態では、窒化層非形成膜として酸化被膜を形成することで説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0049】
窒化処理を妨げる効果を有する表面処理であれば、図2に示す外周主軸部9aに硬度や耐摩耗性のよい窒化被膜層17を形成しながら、かつ、固定部9bは酸化被膜層16が形成され窒化被膜層17がなく締結強度や締結状態をよくすることが出来て実施の形態1と同様の効果を得ることが出来る。
【0050】
(G)
上記実施形態では、シャフト9の材料としてASK8000について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
硬度Hv180〜650のオーステナイト系ステンレス材料であれば、図2に示す外周主軸部9aに硬度や耐摩耗性のよい窒化被膜層17を形成しながら、かつ、固定部9bは酸化被膜層16が形成され窒化被膜層17がなく締結強度や締結状態をよくすることが出来て実施の形態1と同様の効果を得ることが出来る。
【0052】
(H)
上記実施形態では、窒化処理の条件として、約500℃の窒素ガス雰囲気中において約5時間の処理を行なうことについて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0053】
窒化処理の条件として300℃〜800℃の窒素ガス雰囲気中において4〜6時間の処理を行えば酸化被膜層16の形成されていない固定部9bに窒化被膜層17が形成され軸受の硬度と対磨耗性が確保できるものであり、実施の形態1と同様の効果を得ることが出来る。
【0054】
(I)
上記実施形態では、シャフト1の主軸部9aと固定部9bの被膜処理について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0055】
図6に示す円錐軸受のように、例えば、シャフト21に取り付ける上軸部材22の被膜処理であってもよい。上軸部材22に酸化被膜層(図示せず)を設けて軸受部22aの酸化被膜層を取り除いた後に窒化処理を行なうことで固定部22bは窒化被膜層の形成を防止できる。
【0056】
その為、軸受部22aは硬度や耐摩耗性のよい窒化被膜層(図示せず)を形成しながら、かつ、固定部は酸化被膜層が形成され窒化被膜層がなくシャフトとの締結強度や締結状態をよくすることができるという効果を得ることが出来る。
【0057】
(J)
上記実施形態では、図1に示すように、情報記録再生装置としてHDDに用いられるスピンドルモータの締結について、本発明を適用した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0058】
例えば搭載する装置としては、HDD以外にも、光磁気ディスク装置、光ディスク装置、フロッピー(登録商標)ディスク装置、レーザプリンタ装置、レーザスキャナ装置、ビデオカセットレコーダ装置、データストリーマ装置等に対して搭載することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係る流体軸受装置と、それを用いたモータ、情報記録再生装置および流体軸受装置に用いるシャフトの製造方法はシャフトと被固定部材の締結強度と締結状態がよい流体軸受装置を提供することができ、ハードディスク装置等に代表される情報記録再生装置に搭載される流体軸受装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施の形態における情報記録再生装置の断面図
【図2】本発明の実施の形態におけるシャフトの製造工程図
【図3】(a)(b)は本発明の実施の形態におけるシャフトとフランジの締結状態の断面図と平面図
【図4】(a)(b)は本発明の実施の形態におけるシャフト固定部の平面図
【図5】本発明の他の実施の形態におけるスピンドルモータの断面図
【図6】本発明の他の実施の形態における流体軸受装置の断面図
【図7】比較例のシャフトの製造工程図
【符号の説明】
【0061】
1 流体軸受装置
2 スピンドルモータ
3 HDD
4 ヘッド部
4a 記録再生ヘッド
5 ディスク
6 ベース
7 マグネット
8 ロータハブ
8a 中央孔
8b マグネット保持部
8c ディスク載置面
9 シャフト
9a 主軸部
9b 固定部
9c ハブ固定部
10 ステータコア
11 ステータコイル
12 磁気シールド板
13 フランジ
14 スリーブ
15 スラストプレート
16 酸化被膜層
17 窒化被膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状の主軸部を有するシャフトと、
前記主軸部が回転可能な状態で挿入される軸受孔を有するスリーブと、
前記シャフトに固定される被固定部材と、
前記シャフトの少なくとも一端側に設けられた前記被固定部材が固着される前記主軸部より小径の固定部を具備し、
前記主軸部には窒化層が形成され、
前記固定部には窒化層非形成膜が形成されている流体軸受装置。
【請求項2】
前記被固定部材は溶接、接着、圧入、カシメ、ネジ止めのいずれかあるいは複数の組み合わせで前記固定部に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の流体軸受装置。
【請求項3】
シャフトと、
前記シャフトに嵌合して固定される貫通孔を有する軸部材と、
前記軸部材の外周に形成され、前記貫通孔の中心軸を回転軸としてなる円錐状の側壁部と、
前記側壁部が回転可能な状態で挿入される円錐状の凹部を有するスリーブを具備し、
前記側壁部には窒化層が形成され、
前記貫通孔には窒化層非形成膜が形成されている流体軸受装置。
【請求項4】
前記軸部材は溶接、接着、圧入のいずれか一つ、あるいは複数の組み合わせで前記シャフトに固定されている請求項3に記載の流体軸受装置。
【請求項5】
前記窒化層非形成膜は酸化被膜である請求項1から請求項4のいずれか一つに記載の流体軸受装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一つに記載の流体軸受装置を搭載するスピンドルモータ。
【請求項7】
請求項6に記載のスピンドルモータと、
前記スピンドルモータに取り付けられる付加部材としての記録媒体とを備えている情報記録再生装置。
【請求項8】
請求項1に記載の流体軸受装置に用いるシャフトの製造方法であって、
まず、前記シャフトに酸化被膜層を設ける酸化被膜形成工程と、
次に、前記シャフトの軸受部の酸化被膜層を取り除く酸化被膜除去工程と、
その後、前記シャフトに窒化処理を行なう窒化処理工程と、
を備えているシャフトの製造方法。
【請求項9】
前記酸化被膜除去工程はセンタレス研磨である請求項8に記載のシャフトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−108949(P2009−108949A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−282705(P2007−282705)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】