流体軸受装置の作動流体量検査方法、流体軸受装置およびスピンドルモータ
【課題】 カバー5でスリーブ2が覆われている流体軸受装置において、カバー5とスリーブ2との間に作動流体20が良好に充填されていることを容易に確認したり、カバー5とスリーブ2とを接着する接着剤21が良好に充填されていることを容易に確認したりすることができる流体軸受装置ならびにその作動流体20の量の検査方法を提供する。
【解決手段】 カバー5として透光性を有するものを用いて、カバー5を通して作動流体20の充填状態を容易に視認したり、撮像手段で確認したりする。
【解決手段】 カバー5として透光性を有するものを用いて、カバー5を通して作動流体20の充填状態を容易に視認したり、撮像手段で確認したりする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気ディスク、光ディスクなどを回転駆動するスピンドルモータ、およびこのスピンドルモータなどに使用される流体軸受装置およびこの流体軸受装置に充填される作動流体の量の検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置のスピンドルモータなどに用いられている軸受装置として、従来用いられていた玉軸受装置に代わって、玉軸受よりも回転精度が優れ、しかも静音性にも優れる流体軸受装置が多く採用されつつある。
【0003】
この種の流体軸受装置として、例えば特許文献1に開示された流体軸受装置がある。この流体軸受装置は、図16に示すように、シャフト51と、このシャフト51に対して間隙を介して外周に配置されたスリーブ52と、シャフト51の両端部に設けられ、スリーブ52の両端面に対して間隙を有する姿勢で配置された太径のスラストフランジ53、54とを備えており、シャフト51の外周面とスリーブ52の内周面との間の間隙、およびスラストフランジ53、54の内側の面(スラストフランジ53の下面とスラストフランジ54の上面)とこれに対向するスリーブ52の両端面との間の間隙には潤滑油からなる作動流体が充填されている。そして、シャフト51の外周面に動圧溝56が形成され、図外のモータ回転駆動力などによりシャフト51とスリーブ52とが相対的に回転された際に、この動圧溝56により掻き出される作動流体の力により、シャフト51とスリーブ52とがラジアル方向(半径方向)に所定間隙を介して回転自在に支持されるラジアル流体軸受が構成されている。また、スラストフランジ53、54の内側の面に動圧溝57、58が形成され、前記回転駆動力などによりシャフト51に取り付けられたスラストフランジ53、54とスリーブ52とが相対的に回転された際に、この動圧溝57、58により掻き出される作動流体の力により、シャフト51とスリーブ52とがスラスト方向(軸心方向)に所定間隙を介して回転自在に支持されるスラスト流体軸受が構成されている。
【0004】
また、この流体軸受装置では、スリーブ52における内周面と外周面との間の中間箇所に、軸心を中心として適当角度(例えば180度)おきに、軸心と平行に延びる複数の連通路59が形成されている。そして、これらの連通路59により、スラストフランジ53、54の内側の面とこれに対向するスリーブ52の両端面との間の空間とが連通されている。また、スラストフランジ53、54の外周面に隙間をあけて対向するように、スリーブ52の両端内周部には、それぞれ流体閉鎖部材60、61が嵌め込まれている。流体閉鎖部材60、61の連通路59に対向する箇所には、円錐形状の傾斜面60a、61aが形成され、この傾斜面60a、61aに臨む箇所は、作動流体が溜められる流体貯留空間64、65とされている。一方、スラストフランジ53、54の外周面と、流体閉鎖部材60、61の内周面との間には前記隙間が形成されて外気(大気圧)に連通されているが、作動流体の表面張力を利用して、これより流体軸受装置の内側に作動流体を密封する流体密封部62、63とされている。
【0005】
上記のように、連通路59を形成することで、ラジアル流体軸受が形成されているシャフト51の外周面とスリーブ52の内周面との間の空間や、スラスト流体軸受が形成されているスラストフランジ53、54の内側の面とこれに対向するスリーブ52の両端面との間の空間で、作動流体の圧力が偏り、圧力差を生じた場合でも、前記連通路59を通して作動流体が循環するように構成されている。すなわち、連通路59を設けた構成により作動流体の圧力が偏った場合でも、作動流体間の圧力差がなくなるように調整して、軸受機能を安定させたり、作動流体の外部への飛び出しを防止したりすることが図られている。
【0006】
この種の一般的な流体軸受装置では、ラジアル流体軸受が形成されている隙間やスラスト流体軸受が形成されている隙間は極めて微小であるので、流体軸受装置を組み立ててこれらの流体軸受内に作動流体を充填する作業は、内部まで良好に充填されるように、空気を抜いた領域内で作動流体を供給し、この後外気を導入することで、流体軸受装置内部に作動流体を充填している。しかし、それでも、一部の空気が、ラジアル流体軸受が形成されているシャフト51の外周面とスリーブ52の内周面との間の空間や、スラスト流体軸受が形成されているスラストフランジ53、54の内側の面とこれに対向するスリーブ52の両端面との間の空間に、残ってしまうことがある。また、流体軸受装置が回転している際に、作動流体中に小さな気泡を巻き込んで混入してしまうこともある。このように、空気が気泡となって内部に混入して、ラジアル流体軸受の動圧溝56やスラスト流体軸受の動圧溝57、58に付着すると、動圧溝56、57、58による作動流体の送り量が少なくなり、気泡による軸受剛性の低下や、回転動作時の回転が不安定になるなど、軸受性能が低下する不具合を生じる。
【0007】
上記特許文献1の構成の流体軸受装置では、連通路59を設けて、この連通路59を通して作動流体が、スラスト流体軸受やラジアル流体軸受を循環可能に構成されているので、このように作動流体が循環した際に、動圧溝56、57、58に付着していた気泡が動圧溝56、57、58から離脱し、作動流体とともに流体貯留空間64、65に流れ込んだ際に、空気と作動流体との粘性の差によって空気のみが流体密封部62、63から大気中に放出され、これにより、軸受性能の低下を防止できる利点がある。
【0008】
しかしながら、この流体軸受装置では、正常に回転駆動されて、作動流体の圧力の不均衡を生じていないときには、作動流体が循環しない構成であるため、このような正常な回転駆動時には動圧溝57、58に付着していた気泡がそのまま動圧溝57、58やその近傍箇所に残ってしまう欠点がある。
【0009】
これらの点を踏まえ、本発明者らは、上記のように作動流体内の気泡を排出できる利点を生かしながら、前記欠点を改善するものとして、以下の構造の流体軸受装置を考え出した。なお、以下の説明は、理解し易いように、図17(b)に示すように、スリーブの軸受孔における開口端が上方に、閉鎖端が下方に配置された場合を説明するが、この配置の向きに限らない。
【0010】
この流体軸受装置は、図17(a),(b)に示すように、金属製のシャフト71と、開口する上側の開口端と閉鎖された下側の閉鎖端とを有する軸受孔72aを有し、シャフト71を間隙(空間)を介して回転自在な姿勢で挿入させた金属製のスリーブ72と、シャフト71の一端部(図17(b)においては下端部)に設けられ、スリーブ72の下端部寄り端面に対して間隙を有する姿勢で配置された太径のスラストフランジ73と、スラストフランジ73と間隙を有する姿勢で対向するようにスリーブ72の底部に固定されたスラスト板74とを備えた構成に加えて、スリーブ72の上端面(開口端側端面)を、隙間を有した状態で覆うとともに、一部に外気に通じる通気孔83を有する金属製のカバー75を設けている。そして、この流体軸受装置において、スリーブ72における外周面寄りの箇所に、軸心と平行に延びる1つの循環用連通路76が穿孔されており、この循環用連通路76により、スラスト板74の上面が臨む空間領域(閉鎖端面側の空間領域)と、カバー75とスリーブ72の上端面との間の空間領域とが連通されている。また、カバー75で覆われたスリーブ72とスラスト板74とで囲まれる内部空間(すなわち、シャフト71の外周面とスリーブ72の内周面との間の間隙空間、スラストフランジ73とこれに対向するスリーブ72の下面ならびにその近傍の太径内周面との間の間隙空間、スラストフランジ73とスラスト板74との間の間隙空間、循環用連通路76内の空間、スリーブ72の上端面とカバー75との間の空間(ただし、気孔箇所は除く))に潤滑油などの作動流体90が充填されている。なお、図17(b)における84は、カバー75のシャフト71に臨む内周面に開口側ほど広がるように形成されて、外気に連通して作動流体90を溜める作動流体溜め部である。
【0011】
また、スリーブ72の内周面(またはシャフト71の外周面や、スリーブ72の内周面とシャフト71の外周面との両方に設けてもよい)に上下に2つの動圧溝77、78が形成され、図外のモータ回転駆動力などによりシャフト71とスリーブ72とが相対的に回転された際に、この動圧溝77、78により掻き出される作動流体90の力により、シャフト71とスリーブ72とがラジアル方向(半径方向)に所定間隙を介して回転自在に支持されるラジアル流体軸受が構成されている。また、スラストフランジ73の上面と下面(または、これに対向するスリーブ72の下面やスラスト板74の上面、またはスラストフランジ73の上下面とスリーブ72の下面やスラスト板74の上面との全てに設けてもよい)とに動圧溝79、80が形成され、前記回転駆動力などによりシャフト71に取り付けられたスラストフランジ73とスリーブ72とが相対的に回転された際に、この動圧溝79、80により掻き出される作動流体90の力により、スラストフランジ73とスリーブ72およびスラスト板74とがスラスト方向(軸心方向)に所定間隙を介して回転自在に支持されるスラスト流体軸受が構成されている。ここで、ラジアル流体軸受を構成する動圧溝77、78は、周知のヘリングボーン形状とされ、シャフト72の外周面における上側と下側との2箇所に形成されているが、下側の動圧溝78は、その頂部から斜めに上がる溝と斜めに下がる溝とが同じ長さとされている一方、上側の動圧溝77は、図17(c)に示すように、その頂部から斜めに上がる溝77aが、頂部から斜めに下がる溝77bよりも長めに形成され、回転駆動時にはこの上側の動圧溝77によって、この隙間の作動流体90が積極的に下方に送り出されるように構成されている。
【0012】
また、スリーブ72におけるカバー75に対向する上端面は平面形状とされている。これに対して、カバー75は、その裏面部(スリーブ72の上端面に対向する面)が、スリーブ72の上端面に開口する循環用連通路76の開口部近傍領域では、スリーブ72内周面の軸受孔72aに毛管現象により流入する隙間(導入最小隙間部81と称す)を形成するように配設されており、この導入最小隙間部81は、図17(a)に示すように、循環用連通路76の開口部近傍箇所からスリーブ72の軸受孔72aの開口端に続くように形成されている。カバー75の裏面部における前記導入最小隙間部81以外の箇所は、図17(b)において点線で示すように、外周寄り箇所が大きく上方に窪む流体溜まり用空間部82が形成されるように窪んだ形状とされているとともに、この流体溜まり用空間部82より半径方向中心側に向けてスリーブ72の上端面との隙間が徐々に小さくなるように傾斜するように窪む傾斜面75aが形成され、これらの流体溜まり用空間部82と傾斜面75aに臨む箇所とは、毛管現象が生じない大きめの寸法に形成されて、作動流体90を溜めることができるようになっている。また、カバー75における、平面視して、循環用連通路76の開口部と軸心0を中心に逆となる箇所には、外気に連通する通気孔83が設けられている。なお、図17(a)におけるDは、シャフト71の回転方向である。
【0013】
この構成において、図外のモータ回転駆動力などによりシャフト71とスリーブ72とが相対的に回転されると、ラジアル流体軸受の動圧溝77、78により掻き出される作動流体90の力と、スラスト流体軸受の動圧溝79、80により掻き出される作動流体90の力とにより、シャフト71がスリーブ72に対して所定の隙間を保った状態で支持される。また、上側のラジアル流体軸受の動圧溝77により掻き出される作動流体90の力により、シャフト71とスリーブ72との間の作動流体90が下方に送られ、これに伴って、作動流体90が、スラストフランジ73とスリーブ72との間の空間、スリーブ72とスラスト板74との間の空間、循環用連通路76内の空間、導入最小隙間部81を順に通り、再度、シャフト71とスリーブ72との間の空間に流入し、これらの空間の間で作動流体90が積極的に循環する。また、循環用連通路76から導入最小隙間部81内に導入された作動流体90の一部は、流体溜まり用空間部82にも流入しながら、再度、シャフト71とスリーブ72との間の空間に流入する。
【0014】
したがって、ラジアル流体軸受の動圧溝77、78やスラスト流体軸受の動圧溝79、80などで気泡が付着していた場合でも、前記循環流によって、気泡が動圧溝77、78、動圧溝79、80などから離脱して循環し、循環用連通路76から、導入最小隙間部81を通って、流体溜まり用空間部82に流入した際に、作動流体から分離されて通気孔83から排出される。これにより、この構成によれば、正常な回転駆動時にも作動流体内の気泡が排出され、この結果、気泡による軸受剛性の低下や、回転動作時の回転が不安定になるなどの軸受性能の低下を防止できる。
【0015】
また、この流体軸受装置によれば、カバー75のシャフト71に臨む内周面に作動流体溜め部84が設けられているだけでなく、スリーブ72とカバー75との間に、大きな容積の流体溜まり用空間部82が設けられている。したがって、流体溜まり用空間部82の作動流体90が蒸発などにより減少しても、導入最小隙間部81に作動流体が満たされている限り、循環機能を維持できるため、軸受性能を極めて長期間にわたって良好に維持でき、長寿命化を図れる利点がある。
【0016】
カバー75は、スリーブ72の上面部に接着剤91を介して固定されている。つまり、図17(b)に示すように、スリーブ72の上面部には、カバー75を嵌め込むための段部92が形成され、この段部92の全周に接着剤91を塗布して、カバー75をスリーブ72の上面部に固定した後に、この流体軸受装置を真空室に入れて空気を抜いた状態で、カバー75で覆われたスリーブ72の内部に作動流体90を充填する。
【0017】
作動流体90を充填した後には、顕微鏡やレーザー光などを用いるなどして、作動流体溜め部84における作動流体90の液面(気液境界線)高さを検出し、適正な量の作動流体90が充填されているかどうかを検査している。
【特許文献1】特開平11−82486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、上記図17に示す流体軸受装置では、スリーブ72がカバー75で覆われているので、作動流体90の液面高さが規定通りの値であっても、カバー75の裏面などに気泡が付着している場合には、実際の作動流体90の量が不足することとなり、この場合には、軸受性能の寿命が短くなるおそれがある。
【0019】
これに対処する方法としては、作動流体90の充填前と充填後とにそれぞれ重量を測定して、作動流体90の充填量を推測することも行なわれている。しかしながら、実際には作動流体90の重量自体も極めて小さいものであるので、極めて微量な質量の差を測定しようとすると、多くの手間や時間が取られることとなり、しかも、カバー75の裏面などに小さい気泡が付着していないことを推測するだけであり、実際に確認できるわけではない。このような理由で軸受寿命のばらつきを生じるおそれがあった。
【0020】
また、上記流体軸受装置では、組立時の接着工程において、スリーブ72の上面部とカバー75とを接着する接着剤91がこの接着面である段部92の全周に良好に充填されていない場合があるが、このような流体軸受装置をそのまま使用してしまうと、流体溜まり用空間部82や導入最小隙間部81からの作動流体90が外部に洩れ出してしまう不具合を生じる。
【0021】
また、組立時の接着工程において、接着剤91が段部92から導入最小隙間部81や流体溜まり用空間部82に流入することがあり、この場合には、導入最小隙間部81は特にその隙間寸法が極めて微小であるため、導入最小隙間部81に流れ込んだ接着剤により、循環用連通路76の開口部が封鎖されてしまって、作動流体90が循環できなくなってしまう。このような流体軸受装置をそのまま使用してしまうと、上記した気泡の排除機能が働かない。
【0022】
本発明は、上記課題を解決するもので、循環用連通路を介してカバーとスリーブとの間に作動流体を供給することで作動流体の循環機能を備えた流体軸受装置において、カバーとスリーブとの間に作動流体が良好に充填されていることを容易に確認したり、カバーとスリーブとを接着する接着剤が良好に充填されていることを容易に確認したりすることができる流体軸受装置ならびにその作動流体量の検査方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するために本発明の流体軸受装置の作動流体量検査方法は、スリーブの軸受孔に微小間隙を介して相対的に回転自在な姿勢でシャフトが挿入され、前記シャフトと前記スリーブとの相対向する面の少なくとも一方に動圧溝が形成され、前記微小間隙に作動流体が充填され、スリーブに対してシャフトが相対的に回転自在に支承される流体軸受装置において、前記作動流体の量を検査する流体軸受装置の作動流体量検査方法であって、スリーブの少なくとも一方の端面を空間を有してカバーにより覆い、このカバーとスリーブとの間に、前記微小間隙に作動流体を供給する流体溜まり空間部を形成し、前記流体溜まり空間部における作動流体と空気との気液境界線により形成される面積に基づいて作動流体の量を検出することを特徴とする。
【0024】
この検査方法によれば、作動流体の量が平面上の面積の違いで一目で確認できるようになるため、作業漏れの確認が誰でも可能になり、また、作動流体の量を吸い取りや拭き取りで調整するとき、作業者が直接確認しながら作業できるため微妙な調整も可能になり、生産する軸受の寿命を正確に管理することが可能となる。
【0025】
また、本発明の流体軸受装置は、シャフトと、このシャフトを微小間隙を介して相対的に回転自在な姿勢で挿入させたスリーブと、前記スリーブに固定され、前記スリーブの端面を空間を有した姿勢で覆うカバーとを備え、前記シャフトと前記スリーブとの相対向する面の少なくとも一方に、前記スリーブに対して前記シャフトを相対的に回転自在に支承する動圧溝を形成し、前記カバーと前記スリーブとの間の空間を含むスリーブ内空間に作動流体を充填させた流体軸受装置であって、カバーの少なくとも一部が透光性を有することを特徴とする。
【0026】
また、本発明の流体軸受装置は、シャフトと、開口する開口端と閉鎖された閉鎖端とを有する軸受孔を有し、この軸受孔内に前記シャフトを間隙を介して回転自在な姿勢で挿入させたスリーブと、接着剤により前記スリーブに固着され、前記スリーブの開口端側端面を空間を有した姿勢で覆うカバーとを備え、前記シャフトと前記スリーブとが互いに臨む前記シャフトの外周面と前記スリーブの内周面との少なくとも一方に、前記スリーブに対して前記シャフトをラジアル方向に非接触で相対的に回転自在に支持するラジアル動圧溝を形成し、前記スリーブに、スリーブにおける前記閉鎖端面側の空間領域と、前記カバーと前記スリーブの開口端側端面との間の開口端側空間領域とを連通させる循環用連通路を形成し、前記カバーと前記スリーブとの間の開口端側空間領域を含むスリーブ内空間に作動流体を充填させ、前記シャフトが前記スリーブに対して相対的に回転された際に、作動流体を、前記シャフトと前記スリーブとの間の空間と、この空間に通じる前記閉鎖端側の空間領域と、この閉鎖端側の空間領域と通じる前記循環用連通路と、この循環用連通路に通じる前記カバーと前記スリーブとの間の開口端側空間領域とにわたって循環させるように構成した流体軸受装置であって、カバーの少なくとも一部が透光性を有することを特徴とする。
【0027】
この構成により、カバーとスリーブとの間に作動流体を充填した後、カバーを通して作動流体の充填状態を容易に視認したり、撮像手段で確認したりすることができ、カバーの裏面に気泡が付着していた場合でも、これを容易に検出することができる。
【0028】
また、本発明は、流体溜まり空間部の軸心方向に対する深さが周方向に徐々に変化する形状に形成されていることを特徴とする。
この構成により、最も深さが大きい箇所を中心として気液境界線が広がることとなり、気液境界線を容易に認識することができる。
【0029】
また、本発明は、作動流体が着色されていることを特徴とする。
この構成により、作動流体を認識し易くなるので、特に、作動流体の充填箇所の厚みが薄い箇所などでも良好かつ容易に確認することができる。
【0030】
また、本発明は、カバーが接着剤によりスリーブに固定され、接着剤が作動流体とは異なり、かつ視認できる色のものが用いられていることを特徴とする。
この構成により、作動流体だけでなく、接着剤についても、作動流体と容易に区別しながら充填箇所を容易に確認することができる。
【発明の効果】
【0031】
従来の流体溜まり空間部の液面の高さ方向の測定による管理では、液面の高さは作業者が一目で認識できるものではなく、作業漏れにも十分な注意を払う必要があったのに対し、本発明の流体軸受装置の作動流体量検出方法によると、作動流体の量が平面上の面積の違いで一目で確認できるようになるため、作業漏れの確認が誰でも可能になり、また、作動流体の量を吸い取りや拭き取りで調整するとき、作業者が直接確認しながら作業できるため微妙な調整も可能になり、生産する軸受の寿命を正確に管理することが可能となる。
【0032】
また、本発明の流体軸受装置によると、透光性を有するカバーを用いることで、カバーを通して作動流体の充填状態を容易に視認したり、撮像手段で確認したりすることができ、カバーの裏面に気泡が付着していた場合でも、これを容易に検出することができる。これにより、流体軸受装置への作動流体の充填不足や気泡の混入を、多くの手間や時間をかけたりすることなく、検査することができ、気泡の混入によって軸受性能の寿命の低下した流体軸受装置を出荷することを予め防止できて、信頼性を向上させることができる。
【0033】
また、着色されている作動流体を用いることにより、作動流体の充填箇所の厚みが薄い箇所などでも作動流体を良好かつ容易に確認することができる。
また、カバーを接着する接着剤として、作動流体とは異なり、かつ視認できる色のものを用いることにより、作動流体だけでなく、接着剤についても、作動流体と容易に区別しながら充填箇所を容易に確認することができ、この結果、作動流体が外部に洩れ出すおそれのある流体軸受装置や、循環機能が不良である流体軸受装置を出荷することを予め防止できて、信頼性を向上させることができる。
【0034】
また、流体溜まり空間部の軸心方向に対する深さが周方向に徐々に変化する形状に形成されていることにより、気液境界線を容易に認識することができ、検査を迅速かつ容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態に係る流体軸受装置ならびにその作動流体量検査方法を図面に基づき説明する。この実施の形態では、ハードディスク装置のスピンドルモータにこの流体軸受装置が使用されている場合を説明する。
【0036】
図1は本発明の実施の形態に係る流体軸受装置を備えたスピンドルモータの断面図、図2(a)は同流体軸受装置の断面図、図3は同流体軸受装置の平面図であり、図2(a)は図3のII−II線断面図である。なお、以下の説明は、理解し易いように、図1および図2に示すように、スリーブの軸受孔における開口端が上方に、閉鎖端が下方に配置された場合を説明するが、実際に使用する場合はこの配置に限るものではないことはもちろんである。
【0037】
図1〜図3に示すように、このスピンドルモータの流体軸受装置は、シャフト1と、スピンドルモータのベース15に固定され、開口する上側の開口端2aaと閉鎖された下側の閉鎖端2abとを有する軸受孔2aを有し、シャフト1を間隙(空間)を介して回転自在な姿勢で挿入させたスリーブ2と、シャフト1の下端部に外嵌結合やねじにより固定されているとともに、軸受孔2aにおける閉鎖端側である太径孔部2acに、この太径孔部2acの上面に対して間隙を有する姿勢で配置された太径のスラストフランジ3と、スラストフランジ3の下面と間隙を有する姿勢で対向するようにスリーブ2の底部に固定されたスラスト板4とを備え、さらにこれらの構成に加えて、スリーブ2の上端面(開口端側端面)を空間を有した姿勢で覆うとともに、外気に通じる1つの通気孔13を有したカバー5を設けている。そして、この流体軸受装置において、スリーブ2における外周面寄りの箇所に、軸心Oと平行に延びる1つの循環用連通路6(例えば、この直径は0.2mm〜0.6mm程度)が穿孔されており、この循環用連通路6により、軸受孔2aの閉鎖端2ab側に設けられた太径孔部2ac(閉鎖端面側の空間領域)と、カバー5とスリーブ2の開口端(2aa)側端面である上端面との間の空間領域(開口端側空間領域と称す)とが連通されている。
【0038】
また、カバー5とスリーブ2との間を含むスリーブ2の内部の空間(すなわち、シャフト1の外周面とスリーブ2の内周面との間の空間、軸受孔2aの太径孔部2ac内の空間、軸受孔2aの太径孔部2acと循環用連通路6との間の連通箇所の空間、循環用連通路6内の空間、スリーブ2の上端面とカバー5との間の開口端側空間領域(ただし、通気孔13の箇所は除く))に潤滑油などの作動流体20が充填されている。なお、図2に拡大して示すように、カバー5のシャフト1に臨む内周面には開口側ほど広がるように形成されて、外気に連通して作動流体20を溜める作動流体溜め部23が形成されている。また、スリーブ2とカバー5とは接着剤21で固定されている。
【0039】
また、スリーブ2の内周面(またはシャフト1の外周面、若しくは、スリーブ2の内周面とシャフト1の外周面との両方に設けてもよい)には上下に魚骨状パターンなどの2つの動圧溝7、8が形成され、後述する回転駆動力によりシャフト1とスリーブ2とが相対的に回転された際に、この動圧溝7、8により掻き出される作動流体20の力により、シャフト1とスリーブ2とがラジアル方向(半径方向)に所定間隙を介して回転自在に支持されるラジアル流体軸受が構成されている。また、スラストフランジ3の上面と下面(または、これに対向するスリーブ2の下面やスラスト板4の上面、またはスラストフランジ3の上下面とスリーブ2の下面やスラスト板4の上面との全てに設けてもよい)とには、螺旋状パターンなどの動圧溝9、10が形成され、前記回転駆動力などによりシャフト1に取り付けられたスラストフランジ3とスリーブ2とが相対的に回転された際に、この動圧溝9、10により掻き出される作動流体20の力により、シャフト1とスリーブ2とがスラスト方向(軸心方向)に所定間隙を介して回転自在に支持されるスラスト流体軸受が構成されている。ここで、ラジアル流体軸受を構成する動圧溝7、8は、周知のヘリングボーン形状とされ、シャフト2の外周面における上側と下側の合わせて2箇所に形成されているが、下側の動圧溝8は、その頂部から斜めに上がる溝と斜めに下がる溝とが同じ長さとされている一方、上側の動圧溝7は、図2(b)に示すように、その頂部から斜めに上がる溝7aが、頂部から斜めに下がる溝7bよりも長めに形成され、回転駆動時にはこの上側の動圧溝7によって、この隙間の作動流体20が積極的に下方に送り出されるように構成されている。
【0040】
図1に示すように、シャフト1におけるスリーブ2の軸受孔2aから突出している突出軸部1aには、その外周に例えば磁気記録ディスクが固定される回転部材としてのハブ16が圧入状態で外嵌されている。この実施の形態では、ハブ16のベース寄り部分外周にロータマグネット17が取り付けられている。また、ベース15には、ロータマグネット17に対向するように、ステータコイル18が巻かれたステータコア19が取り付けられている。そして、このロータマグネット17とステータコア19とにより、シャフト1とスリーブ2との間に回転駆動力を与えるスピンドルモータの回転駆動部が構成されている。
【0041】
図2(a)に示すように、スリーブ2におけるカバー5に対向する上端面はほぼ平面形状とされている。これに対して、図2(a)、図3〜図5(図5においては、理解し易いように、カバー5の裏面部とこれに対向するスリーブ2の上端面との離間空間を概念的に示している)に示すように、カバー5は、その裏面部が、スリーブ2の上端面に開口する循環用連通路6の開口部近傍領域と、スリーブ2の軸受孔2a開口端の近傍外周部とは、これに対応するカバー5の裏面部分とこれに対向するスリーブ2の上端面との離間距離が毛管現象を生じる寸法b(図5参照)であり、スリーブ2内周面の軸受孔2aに毛管現象により流入する隙間(それぞれ、導入最小隙間部11、軸受孔外周最小隙間部12と称し、図4においては、カバー5の裏面部分における導入最小隙間部11に臨む導入最小隙間面5bと、軸受孔外周最小隙間部12に臨む軸受孔外周最小隙間面5cとを示している)を形成するように配設されている。また、この導入最小隙間部11は、図3、図4に示すように、循環用連通路6の開口部近傍箇所から軸受孔外周最小隙間部12を介してスリーブ2の軸受孔2aの開口端に続くように形成されている。なお、この実施の形態においては、軸受孔外周最小隙間部12は、略30度の開き角度の略扇形形状とされ、循環用連通路13の開口部よりも広い範囲に形成されている。また、スリーブ2の上端面における軸受孔2aの開口端の直径は例えば、2.8mm〜3.2mmとされ、軸受孔外周最小隙間面5cは、円環形状とされ、軸受孔2aの開口端外周から0.2〜0.6mmの半径方向寸法幅で形成される。また、導入最小隙間部11および軸受孔外周最小隙間部12の離間隙間は例えば0.03mm〜0.15mmである。また、この実施の形態においては、導入最小隙間部11および軸受孔外周最小隙間部12の離間隙間は径方向に対しても一定である。
【0042】
また、カバー5の裏面部における前記導入最小隙間部11、軸受孔外周最小隙間部12以外の箇所は、導入最小隙間部11および軸受孔外周最小隙間部12の隙間よりも大きな空間となるように窪ませて作動流体20を貯留可能な流体溜まり空間部14を、導入最小隙間部11と通気孔13とを周方向に連通させるように形成している。なお、この流体溜まり空間部14は、例えば、内径3.2mm〜3.8mm、外径5.5〜6.3mm、最小隙間は0.03mm〜0.15mm、最大隙間は0.2mm〜0.3mm程度である。そして、通気孔13は、この直径が例えば0.2mm〜1.0mm程度であり、この通気孔13が設けられている箇所には、ざぐり孔により形成された緩衝空間としての凹部22(例えば、直径0.6mm〜1.0mm、深さ0.1mm〜0.3mm程度)が形成されているが、この通気孔13および凹部22に連なる流体溜まり空間部14の箇所(最大空間部14aと称す)が、スリーブ2の上端面との離間距離が最も大きくなり、前記導入用最小隙間部から前記最大空間部14aに近づくほど、スリーブ2の上端面(開口端側端面)からの離間距離が大きくなるように周方向に対して傾斜する形状に形成されている。なお、この実施の形態においては、流体溜まり空間部14の離間隙間は径方向に対して一定である。また、この実施の形態においては、外気に連通する通気孔13は、カバー5における、平面視して、循環用連通路6の開口部と軸心0を中心に逆となる箇所に設けられている。なお、図3におけるDは、シャフト1の回転方向である。また、前記通気孔13に凹部22を形成したことで、作動流体20が満量である状態で流体軸受装置の設置環境の温度上昇などがあった場合でも、作動流体20の界面が凹部22内にとどまり、通気孔13から作動流体20が洩れ出ることがないよう図られている。
【0043】
また、図6に拡大して示すように、カバー5のシャフト1に臨む内周面において開口側ほど広がるように形成された作動流体溜め部23は、下方ほど狭くなるように傾斜する傾斜面により形成され、作動流体20が蒸発するなどして減少して流体溜まり空間部14の箇所での界面(気液境界線)の位置が変化した場合でも、この作動流体溜め部23において、界面が傾斜面内で移動する範囲で釣り合うような形状に設定されている。
【0044】
図2(a),図3に示すように、カバー5の上面外周部には、この流体軸受装置を組み立てた後に作動流体20を注油する際に、作動流体20が、外側に落ちないように防止するための、上方に突出する突条部24も形成されている。この突条部24は、例えば、内径6mm〜8mm、高さ0.03mm〜0.1mm程度である。
【0045】
上記構成に加えて、本発明は特に、カバー5が、透明や半透明などの透光性を有する材料、例えば、合成樹脂製の材料で形成されている。また、作動流体20は、カバー5を通して識別できる色のものが用いられている。
【0046】
また、図6(a)、(b)に示すように、スリーブ2の上部外周には全周にわたって外側に突出する鍔部2fが一体形成されているとともに、これに対応してスリーブ2の鍔部2fに上方から臨むように、カバー5の外周全周は下方に延びる鍔部5fが一体形成されており、これらの鍔部2f、5f同士でスリーブ2とカバー5とが接着剤21で固定されている。なお、スリーブ2の鍔部2fとカバー5の鍔部5fとは、これらの間に比較的多めの接着剤21を充填できるように上下方向に所定の隙間を有するように形成され、流体軸受装置の設置箇所の温度変動などがあった場合でも、接着剤21により接合した箇所の接着機能を良好に維持できるように図られている。
【0047】
また、接着剤供給接着部として機能する鍔部2f、5fが設けられている箇所と、作動流体20が満たされる導入最小隙間部11や流体溜まり空間部14との間の箇所、すなわち、この実施の形態においては、カバー5の周壁部5dの外周箇所には、カバー5の下面全周にわたって上方に窪ませた溝部5gが形成されており、この溝部5g内空間が、鍔部2f、5f間からの接着剤21の流入を許容する接着剤流入許容空間部26とされている。
【0048】
また、図3、図4などに示すように、カバー5における流体溜まり空間部14と接着剤流入許容空間部26とを仕切る前記周壁部5dの一部が切欠かれて連通部27が形成されている。そして、この連通部27は、図6(b)、図7などに示すように、カバー5における流体溜まり空間部14の上面壁部14aよりも少しだけ下方に形成され、カバー5の裏面である流体溜まり空間部14の上面壁部14aと連通部27の上端部27a(図7参照)とに段差hがつけられている。
【0049】
次に、このスピンドルモータに設けられている流体軸受装置の、スリーブ2にカバー5を接着剤で固定する工程、並びに、その後に作動流体20を充填する工程について説明する。
【0050】
図8に示すように、まず、スリーブ2の鍔部2fの上に接着剤21を塗布し、この後、図9に示すように、スリーブ2にカバー5を被せる。ここで、スリーブ2の鍔部2fへの接着剤21の塗布量は、スリーブ2の鍔部2fとカバー5の鍔部5fとの間の容量、すなわち接着剤供給接着部の容量よりも多い量とし、スリーブ2の鍔部2fとカバー5の鍔部5fとの間の隙間の全周にわたって接着剤21を確実に供給できるように図られている。
【0051】
この後、カバー5やシャフト1などを組み付けたスリーブ2を、空気を抜いた真空室内に移送して、図10に示すように、カバー5上に作動流体20を滴下し、その後、真空室内に外気を導入することで、流体軸受装置内部に作動流体20を充填する。この場合に、カバー5における流体溜まり空間部14と接着剤流入許容空間部26とを仕切る前記周壁部5dの一部が切欠かれて連通部27が形成されているので、真空室内に外気を導入してスリーブ2内やスリーブ2とカバー5との間に作動流体20を充填させた際に、流体溜まり空間部14に導入された作動流体20が連通部27を通して、接着剤流入許容空間部26における接着剤21が流入しなかった空間にも作動流体20が充填されるように図られている(図2、図6(a),(b)参照)。これにより、接着剤21を供給した際に接着剤流入許容空間部26における接着剤21が流入しなかった空間に、その後、空気が入ることを防止でき、スリーブ2内やスリーブ2とカバー5との間に作動流体20を良好に充填できる。したがって、接着剤流入許容空間部27に空気が入り込むことによる、温度上昇時の空気の膨張などによる、作動流体20の外部への洩れ出しなどの不具合が生じることを防止できる。
【0052】
スリーブ2内やスリーブ2とカバー5との間に作動流体20を充填させた後は、この流体軸受装置を真空室から取り出し、カバー5を通して、この流体軸受装置内の作動流体20の充填状態を軸心方向に沿って視認して、カバー5内部の裏面などに気泡が入っていないか、また、作動流体の充填量が適正かどうかを検査する。
【0053】
図11(a)は作動流体が満量状態に充填された場合である。この状態は温度上昇による作動流体の膨張や衝撃によって、内部の作動流体が外部に飛散し易い状態にある。寿命の点からは作動流体量が多くて有利だが、他の信頼性項目については不利になり好ましくない。
【0054】
従って、図11(a)の状態から作動流体20の吸い出しや拭き取りによって図12(b)に示すように作動流体20と空気との気液境界線Aが上限値と下限値の間に入る状態に調整する。図12(a)は作動流体20が多すぎ、図12(c)は少なすぎる状態を表している。また、図12(a)〜図12(c)におけるBminは気液境界線Aの下限値のライン、Bmaxは気液境界線Aの上限値のライン、Boは気液境界線Aの目標値のラインである。
【0055】
また、当初、図11(b)に示すように気泡Kが点在していたとしても、内部の流体溜まり空間部14の上壁は傾斜しているので、時間とともに図11(c)に示すように一箇所に集まるようになり、作動流体20中に気泡Kが点在したままになることはない。
【0056】
なお、図11(a)〜(c)、図12(a)〜(c)は、流体軸受装置を上方から目で見た状態を概略的に示している。
これにより、流体軸受装置への作動流体20の充填不足や気泡Kの混入を、多くの手間や時間をかけたりすることなく、検査することができ、気泡Kの混入によって軸受性能や寿命の低下した流体軸受装置を出荷することを予め防止できて、信頼性を向上させることができる。また、軸受性能の寿命を長い期間に安定させることもできる。また、作動流体の量が平面上の面積の違いで一目で確認できるようになるため、作業漏れの確認が誰でも可能になり、また、作動流体20の量を吸い取りや拭き取りで調整するとき、作業者が直接確認しながら作業できるため微妙な調整も可能になり、生産する流体軸受装置の寿命を正確に管理することが可能となる。
【0057】
なお、検査を行う人の目による確認に代えて、撮像装置により画像を取得して、取得画像から、自動的に充填不良や気泡の存在を判別するように構成してもよい。
また、作動流体20として、着色させたものを用いてもよく、この構成により、作動流体20を認識し易くなるので、特に、作動流体20の充填箇所の厚みが薄い箇所、例えば、導入最小隙間部11や軸受孔外周最小隙間部12に、気泡Kが存在していた場合でも良好かつ容易に確認することができる。
【0058】
上記構成において、スピンドルモータの回転駆動力によりシャフト1とスリーブ2とが相対的に回転されると、ラジアル流体軸受の動圧溝7、8により掻き出される作動流体20の力と、スラスト流体軸受の動圧溝9、10により掻き出される作動流体20の力とにより、シャフト1がスリーブ2に対して所定の隙間を保った状態で支持される。また、上側のラジアル流体軸受の動圧溝7により掻き出される作動流体20の力により、シャフト1とスリーブ2との間の作動流体20が下方に送られ、これに伴って、作動流体20が、スラストフランジ3とスリーブ2との間の空間、スリーブ2とスラスト板4との間の空間、循環用連通路6内の空間、導入最小隙間部11および軸受孔外周最小隙間部12を順に通り、再度、シャフト1とスリーブ2との間の空間に流入し、これらの空間の間で作動流体20が積極的に循環する。また、循環用連通路6から導入最小隙間部11内に導入された作動流体20の一部は、流体溜まり用空間部14にも流入しながら、再度、軸受孔外周最小隙間部12を介してシャフト1とスリーブ2との間の空間に流入する。
【0059】
したがって、ラジアル流体軸受の動圧溝7、8やスラスト流体軸受の動圧溝9、10などで気泡が付着していた場合でも、前記循環流によって、気泡が動圧溝7、8、動圧溝9、10などから離脱して循環し、循環用連通路6から、導入最小隙間部11を通った際に、圧力の低い流体溜まり用空間部14に流入する。圧力の低い流体溜まり用空間部14に流入すると、その気泡の大きさも大き目となるので、圧力の高い導入最小隙間部11や軸受孔外周最小隙間部12に再度入ることが少なくなり、流体溜まり用空間部14において気泡は作動流体20から分離されて通気孔13から排出される。
【0060】
このように、この構成によれば、正常な回転駆動時にも作動流体20内の気泡が排出され、この結果、気泡による軸受剛性の低下や、回転動作時の回転が不安定になるなどの軸受性能の低下を防止でき、信頼性を向上させることができる。
【0061】
また、この流体軸受装置によれば、カバー5のシャフト1に臨む内周面に作動流体溜め部23が設けられているだけでなく、スリーブ2とカバー5との間に、大きな容積の流体溜まり用空間部14が設けられている。したがって、流体溜まり用空間部14の作動流体が減少した場合でも、導入最小隙間部11および軸受孔外周最小隙間部12に作動流体20が満たされている限り、循環機能を維持できる。
【0062】
また、本発明によれば、流体溜まり空間部14を、導入用最小隙間部11から通気孔13が設けられている最大空間部14aに近づくほど、スリーブ2の開口端側端面である上面からの離間距離が大きくなるように周方向に対して傾斜する形状に形成したので、流体軸受装置が外部から衝撃を受けたり、姿勢が急激に変化したりした際でも、流体溜まり空間部14における空気と作動流体20との界面が、通気孔13近傍箇所にとどまって、周方向に移動することが防止され、この結果、気泡の移動に伴う作動流体20の外部へ洩れ出しを防止できる利点もある。また、流体溜まり空間部14の軸心方向に対する深さが周方向に徐々に変化する形状に形成されていることにより、平面視して、通気孔13が設けられている箇所を中心として気液境界線Lを容易に認識することができ、検査を迅速かつ容易に行うことができる。
【0063】
また、カバー5の裏面とスリーブ2の上面との間における軸受孔開口端の近傍外周部にも毛管現象を生じる軸受孔外周最小隙間部12を形成したので、導入用最小隙間部11から導入された作動流体20が、この軸受孔外周最小隙間部12を介して、スリーブ2の軸受孔2aへ全周から良好に供給され、スリーブ2の軸受孔2aにおいて安定して作動流体20が満たされる利点もある。
【0064】
さらに、本発明では、連通部27は、図6(b)、図7などに示すように、カバー5における流体溜まり空間部14の上面壁部14aよりも少しだけ下方に形成され、カバー5の裏面である流体溜まり空間部14の上面壁部14aと連通部27の上端部27a(図7参照)とに段差hがつけられているので、循環用連通路6からの気泡が導入用最小隙間部11を通して流体溜まり空間部14に流入し、その後、図7などに示すように、気泡Kが流体溜まり空間部14の上面壁部14aに沿って移動した場合でも、前記段差hにより、気泡が連通部27に流れ込むことを防止でき、これにより、気泡の接着剤流入許容空間部26への侵入を防止できて、温度上昇時の空気の膨張などによる、作動流体20の外部への洩れ出しなどの不具合を防止できる。
【0065】
また、上記実施の形態においては、カバー5の上面外周部には、上方に突出する突条部24が形成されているので、流体軸受装置の組み立て後に作動流体20を注油する際に、作動流体20がカバー5の上面から流れ落ちることが突条部24により阻止され、これにより、作業能率が向上するとともに、スリーブ2内への作動流体20の充填量が少なくなることも防止することができ、信頼性が向上する。
【0066】
また、図12に示すように、突条部24を設ける代わりに、平面視して、作動流体溜め部23や通気孔13を外側から囲むように、撥油剤を塗るための撥油溝25を形成し、この撥油溝25に撥油剤を塗布して、作動流体20を供給する際に、外側に作動流体20が出ないようにしてもよい。
【0067】
また、上記実施の形態においては、組立時の作動流体充填後に、作動流体20の充填状態だけを確認した場合を述べたが、これに加えて、接着剤21として、量が少なくても明確に識別できる色彩や色の濃度を有し、作動流体20に対してもそれぞれ別個に認識できるような異なる色のものを用いて、図14(a)に示すように、接着剤21の充填工程後に、接着剤21の充填状態を確認するように構成してもよい。なお、図14(b)は、接着剤21が、鍔部2f、5f間の一部で不足している場合を示し(不足部をFで示す)、図14(c)は、接着剤21が導入最小隙間部11などに流入している場合を示す。このように接着剤21が導入最小隙間部11に流れ込んだ場合には、循環用連通路6の開口部が封鎖されてしまって、作動流体20が循環できなくなってしまう不具合を生じるが、本発明によれば、このような場合でも、接着剤21の不足や、導入最小隙間部11などへの流れ込みが容易に視認できるため、接着剤21の不足により作動流体20が外部に洩れ出すおそれのある流体軸受装置や、循環機能が不良である流体軸受装置を出荷することを予め防止できて、信頼性を向上させることができる。なお、図14(a)〜(c)は、接着剤21を充填した際の流体軸受装置を上方から目で見た状態を概略的に示している。
【0068】
また、この後に、作動流体20を充填して検査する際には、接着剤21とは作動流体20の色が異なるので、区別して作動流体20の充填状態や気泡の有無などを確認できる。
なお、カバー5としては、樹脂成形や金属プレスで製作してもよいが、これに限るものではない。また、上記実施の形態においては、カバー5全体が透光性を有する場合を述べたが、これに限るものではなく、流体溜まり用空間部14だけが透光性を有する構成としてもよい。また、上記の実施の形態においては、作動流体20が循環用連通路6を通して循環する場合を述べたが、これに限るものではなく、循環用連通路6が設けられておらず、積極的には循環させないタイプのものにも適用可能である。
【0069】
また、上記実施の形態においては、シャフト1の下端部に太径のスラストフランジ3を有した、いわゆるフランジ付きシャフトを備えた場合を説明したが、これに限るものではなく、図15に示すように、スラストフランジ3を有しないで、シャフト1の下端部とスラスト板4との互いの対向面の少なくとも一方にスラスト流体軸受用の動圧溝を形成した構造のものや、図示はしないが、スラストフランジ3を有しないで、シャフト1の下端部に設けたピボット部により、この閉鎖領域を閉鎖する板材に対してスラスト方向に位置規制されたものにも適用可能であり、これらのような、いわゆるフランジレスシャフトの構成においても同様の効果が得られることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の流体軸受装置は、ディスク駆動装置、リール駆動装置、キャプスタン駆動装置、ドラム駆動装置などのスピンドルモータとして特に好適であるが、これに限るものではない。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施の形態に係る流体軸受装置を備えたスピンドルモータの断面図
【図2】(a)は同流体軸受装置の断面図、(b)は同流体軸受装置の1つの動圧溝を示す図
【図3】同流体軸受装置の平面図
【図4】同流体軸受装置のカバーを裏面から見た図
【図5】同流体軸受装置のカバーの裏面部とこれに対向するスリーブの上端面との離間空間を概念的に示している斜視図
【図6】(a)は図3のVIa−VIa線で切断した同流体軸受装置の要部断面図、(b)は図3のVIb−VIb線で切断した同流体軸受装置の要部断面図
【図7】図6のVII−VII線から矢視した同流体軸受装置の要部断面図
【図8】同流体軸受装置の接着剤を塗布した状態を示す断面図
【図9】同流体軸受装置のカバーを被せた状態を示す断面図
【図10】同流体軸受装置の作動流体を塗布した状態を示す断面図
【図11】(a)〜(c)はそれぞれ作動流体および気泡が見える様子を概略的に示す同流体軸受装置の平面図
【図12】(a)〜(c)はそれぞれ作動流体および気泡が見える様子を概略的に示す同流体軸受装置の平面図
【図13】本発明の他の実施の形態に係る同流体軸受装置のカバーの平面図
【図14】(a)〜(c)はそれぞれ接着剤の充填箇所と不足箇所とが見える様子を概略的に示す同流体軸受装置の平面図
【図15】本発明のその他の実施の形態に係る同流体軸受装置の断面図
【図16】従来の流体軸受装置の断面図
【図17】(a)および(b)は本発明者らが考え出した従来の流体軸受装置の平面図および断面図、(c)は同流体軸受装置の1つの動圧溝を示す図
【符号の説明】
【0072】
1 シャフト
2 スリーブ
2a 軸受孔
2aa 開口端
2ab 閉鎖端
2ac 太径孔部
2f、5f 鍔部(接着剤供給接着部)
3 スラストフランジ
4 スラスト板
5 カバー
5d 周壁部
5g 溝部
6 循環用連通路
7、8 動圧溝(ラジアル流体軸受)
9、10 動圧溝(スラスト流体軸受)
11 導入最小隙間部
12 軸受孔外周最小隙間部
13 通気孔
14 流体溜まり空間部
20 作動流体
21 接着剤
23 作動流体溜め部
24 突条部
26 接着剤流入許容空間部
27 連通部
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気ディスク、光ディスクなどを回転駆動するスピンドルモータ、およびこのスピンドルモータなどに使用される流体軸受装置およびこの流体軸受装置に充填される作動流体の量の検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置のスピンドルモータなどに用いられている軸受装置として、従来用いられていた玉軸受装置に代わって、玉軸受よりも回転精度が優れ、しかも静音性にも優れる流体軸受装置が多く採用されつつある。
【0003】
この種の流体軸受装置として、例えば特許文献1に開示された流体軸受装置がある。この流体軸受装置は、図16に示すように、シャフト51と、このシャフト51に対して間隙を介して外周に配置されたスリーブ52と、シャフト51の両端部に設けられ、スリーブ52の両端面に対して間隙を有する姿勢で配置された太径のスラストフランジ53、54とを備えており、シャフト51の外周面とスリーブ52の内周面との間の間隙、およびスラストフランジ53、54の内側の面(スラストフランジ53の下面とスラストフランジ54の上面)とこれに対向するスリーブ52の両端面との間の間隙には潤滑油からなる作動流体が充填されている。そして、シャフト51の外周面に動圧溝56が形成され、図外のモータ回転駆動力などによりシャフト51とスリーブ52とが相対的に回転された際に、この動圧溝56により掻き出される作動流体の力により、シャフト51とスリーブ52とがラジアル方向(半径方向)に所定間隙を介して回転自在に支持されるラジアル流体軸受が構成されている。また、スラストフランジ53、54の内側の面に動圧溝57、58が形成され、前記回転駆動力などによりシャフト51に取り付けられたスラストフランジ53、54とスリーブ52とが相対的に回転された際に、この動圧溝57、58により掻き出される作動流体の力により、シャフト51とスリーブ52とがスラスト方向(軸心方向)に所定間隙を介して回転自在に支持されるスラスト流体軸受が構成されている。
【0004】
また、この流体軸受装置では、スリーブ52における内周面と外周面との間の中間箇所に、軸心を中心として適当角度(例えば180度)おきに、軸心と平行に延びる複数の連通路59が形成されている。そして、これらの連通路59により、スラストフランジ53、54の内側の面とこれに対向するスリーブ52の両端面との間の空間とが連通されている。また、スラストフランジ53、54の外周面に隙間をあけて対向するように、スリーブ52の両端内周部には、それぞれ流体閉鎖部材60、61が嵌め込まれている。流体閉鎖部材60、61の連通路59に対向する箇所には、円錐形状の傾斜面60a、61aが形成され、この傾斜面60a、61aに臨む箇所は、作動流体が溜められる流体貯留空間64、65とされている。一方、スラストフランジ53、54の外周面と、流体閉鎖部材60、61の内周面との間には前記隙間が形成されて外気(大気圧)に連通されているが、作動流体の表面張力を利用して、これより流体軸受装置の内側に作動流体を密封する流体密封部62、63とされている。
【0005】
上記のように、連通路59を形成することで、ラジアル流体軸受が形成されているシャフト51の外周面とスリーブ52の内周面との間の空間や、スラスト流体軸受が形成されているスラストフランジ53、54の内側の面とこれに対向するスリーブ52の両端面との間の空間で、作動流体の圧力が偏り、圧力差を生じた場合でも、前記連通路59を通して作動流体が循環するように構成されている。すなわち、連通路59を設けた構成により作動流体の圧力が偏った場合でも、作動流体間の圧力差がなくなるように調整して、軸受機能を安定させたり、作動流体の外部への飛び出しを防止したりすることが図られている。
【0006】
この種の一般的な流体軸受装置では、ラジアル流体軸受が形成されている隙間やスラスト流体軸受が形成されている隙間は極めて微小であるので、流体軸受装置を組み立ててこれらの流体軸受内に作動流体を充填する作業は、内部まで良好に充填されるように、空気を抜いた領域内で作動流体を供給し、この後外気を導入することで、流体軸受装置内部に作動流体を充填している。しかし、それでも、一部の空気が、ラジアル流体軸受が形成されているシャフト51の外周面とスリーブ52の内周面との間の空間や、スラスト流体軸受が形成されているスラストフランジ53、54の内側の面とこれに対向するスリーブ52の両端面との間の空間に、残ってしまうことがある。また、流体軸受装置が回転している際に、作動流体中に小さな気泡を巻き込んで混入してしまうこともある。このように、空気が気泡となって内部に混入して、ラジアル流体軸受の動圧溝56やスラスト流体軸受の動圧溝57、58に付着すると、動圧溝56、57、58による作動流体の送り量が少なくなり、気泡による軸受剛性の低下や、回転動作時の回転が不安定になるなど、軸受性能が低下する不具合を生じる。
【0007】
上記特許文献1の構成の流体軸受装置では、連通路59を設けて、この連通路59を通して作動流体が、スラスト流体軸受やラジアル流体軸受を循環可能に構成されているので、このように作動流体が循環した際に、動圧溝56、57、58に付着していた気泡が動圧溝56、57、58から離脱し、作動流体とともに流体貯留空間64、65に流れ込んだ際に、空気と作動流体との粘性の差によって空気のみが流体密封部62、63から大気中に放出され、これにより、軸受性能の低下を防止できる利点がある。
【0008】
しかしながら、この流体軸受装置では、正常に回転駆動されて、作動流体の圧力の不均衡を生じていないときには、作動流体が循環しない構成であるため、このような正常な回転駆動時には動圧溝57、58に付着していた気泡がそのまま動圧溝57、58やその近傍箇所に残ってしまう欠点がある。
【0009】
これらの点を踏まえ、本発明者らは、上記のように作動流体内の気泡を排出できる利点を生かしながら、前記欠点を改善するものとして、以下の構造の流体軸受装置を考え出した。なお、以下の説明は、理解し易いように、図17(b)に示すように、スリーブの軸受孔における開口端が上方に、閉鎖端が下方に配置された場合を説明するが、この配置の向きに限らない。
【0010】
この流体軸受装置は、図17(a),(b)に示すように、金属製のシャフト71と、開口する上側の開口端と閉鎖された下側の閉鎖端とを有する軸受孔72aを有し、シャフト71を間隙(空間)を介して回転自在な姿勢で挿入させた金属製のスリーブ72と、シャフト71の一端部(図17(b)においては下端部)に設けられ、スリーブ72の下端部寄り端面に対して間隙を有する姿勢で配置された太径のスラストフランジ73と、スラストフランジ73と間隙を有する姿勢で対向するようにスリーブ72の底部に固定されたスラスト板74とを備えた構成に加えて、スリーブ72の上端面(開口端側端面)を、隙間を有した状態で覆うとともに、一部に外気に通じる通気孔83を有する金属製のカバー75を設けている。そして、この流体軸受装置において、スリーブ72における外周面寄りの箇所に、軸心と平行に延びる1つの循環用連通路76が穿孔されており、この循環用連通路76により、スラスト板74の上面が臨む空間領域(閉鎖端面側の空間領域)と、カバー75とスリーブ72の上端面との間の空間領域とが連通されている。また、カバー75で覆われたスリーブ72とスラスト板74とで囲まれる内部空間(すなわち、シャフト71の外周面とスリーブ72の内周面との間の間隙空間、スラストフランジ73とこれに対向するスリーブ72の下面ならびにその近傍の太径内周面との間の間隙空間、スラストフランジ73とスラスト板74との間の間隙空間、循環用連通路76内の空間、スリーブ72の上端面とカバー75との間の空間(ただし、気孔箇所は除く))に潤滑油などの作動流体90が充填されている。なお、図17(b)における84は、カバー75のシャフト71に臨む内周面に開口側ほど広がるように形成されて、外気に連通して作動流体90を溜める作動流体溜め部である。
【0011】
また、スリーブ72の内周面(またはシャフト71の外周面や、スリーブ72の内周面とシャフト71の外周面との両方に設けてもよい)に上下に2つの動圧溝77、78が形成され、図外のモータ回転駆動力などによりシャフト71とスリーブ72とが相対的に回転された際に、この動圧溝77、78により掻き出される作動流体90の力により、シャフト71とスリーブ72とがラジアル方向(半径方向)に所定間隙を介して回転自在に支持されるラジアル流体軸受が構成されている。また、スラストフランジ73の上面と下面(または、これに対向するスリーブ72の下面やスラスト板74の上面、またはスラストフランジ73の上下面とスリーブ72の下面やスラスト板74の上面との全てに設けてもよい)とに動圧溝79、80が形成され、前記回転駆動力などによりシャフト71に取り付けられたスラストフランジ73とスリーブ72とが相対的に回転された際に、この動圧溝79、80により掻き出される作動流体90の力により、スラストフランジ73とスリーブ72およびスラスト板74とがスラスト方向(軸心方向)に所定間隙を介して回転自在に支持されるスラスト流体軸受が構成されている。ここで、ラジアル流体軸受を構成する動圧溝77、78は、周知のヘリングボーン形状とされ、シャフト72の外周面における上側と下側との2箇所に形成されているが、下側の動圧溝78は、その頂部から斜めに上がる溝と斜めに下がる溝とが同じ長さとされている一方、上側の動圧溝77は、図17(c)に示すように、その頂部から斜めに上がる溝77aが、頂部から斜めに下がる溝77bよりも長めに形成され、回転駆動時にはこの上側の動圧溝77によって、この隙間の作動流体90が積極的に下方に送り出されるように構成されている。
【0012】
また、スリーブ72におけるカバー75に対向する上端面は平面形状とされている。これに対して、カバー75は、その裏面部(スリーブ72の上端面に対向する面)が、スリーブ72の上端面に開口する循環用連通路76の開口部近傍領域では、スリーブ72内周面の軸受孔72aに毛管現象により流入する隙間(導入最小隙間部81と称す)を形成するように配設されており、この導入最小隙間部81は、図17(a)に示すように、循環用連通路76の開口部近傍箇所からスリーブ72の軸受孔72aの開口端に続くように形成されている。カバー75の裏面部における前記導入最小隙間部81以外の箇所は、図17(b)において点線で示すように、外周寄り箇所が大きく上方に窪む流体溜まり用空間部82が形成されるように窪んだ形状とされているとともに、この流体溜まり用空間部82より半径方向中心側に向けてスリーブ72の上端面との隙間が徐々に小さくなるように傾斜するように窪む傾斜面75aが形成され、これらの流体溜まり用空間部82と傾斜面75aに臨む箇所とは、毛管現象が生じない大きめの寸法に形成されて、作動流体90を溜めることができるようになっている。また、カバー75における、平面視して、循環用連通路76の開口部と軸心0を中心に逆となる箇所には、外気に連通する通気孔83が設けられている。なお、図17(a)におけるDは、シャフト71の回転方向である。
【0013】
この構成において、図外のモータ回転駆動力などによりシャフト71とスリーブ72とが相対的に回転されると、ラジアル流体軸受の動圧溝77、78により掻き出される作動流体90の力と、スラスト流体軸受の動圧溝79、80により掻き出される作動流体90の力とにより、シャフト71がスリーブ72に対して所定の隙間を保った状態で支持される。また、上側のラジアル流体軸受の動圧溝77により掻き出される作動流体90の力により、シャフト71とスリーブ72との間の作動流体90が下方に送られ、これに伴って、作動流体90が、スラストフランジ73とスリーブ72との間の空間、スリーブ72とスラスト板74との間の空間、循環用連通路76内の空間、導入最小隙間部81を順に通り、再度、シャフト71とスリーブ72との間の空間に流入し、これらの空間の間で作動流体90が積極的に循環する。また、循環用連通路76から導入最小隙間部81内に導入された作動流体90の一部は、流体溜まり用空間部82にも流入しながら、再度、シャフト71とスリーブ72との間の空間に流入する。
【0014】
したがって、ラジアル流体軸受の動圧溝77、78やスラスト流体軸受の動圧溝79、80などで気泡が付着していた場合でも、前記循環流によって、気泡が動圧溝77、78、動圧溝79、80などから離脱して循環し、循環用連通路76から、導入最小隙間部81を通って、流体溜まり用空間部82に流入した際に、作動流体から分離されて通気孔83から排出される。これにより、この構成によれば、正常な回転駆動時にも作動流体内の気泡が排出され、この結果、気泡による軸受剛性の低下や、回転動作時の回転が不安定になるなどの軸受性能の低下を防止できる。
【0015】
また、この流体軸受装置によれば、カバー75のシャフト71に臨む内周面に作動流体溜め部84が設けられているだけでなく、スリーブ72とカバー75との間に、大きな容積の流体溜まり用空間部82が設けられている。したがって、流体溜まり用空間部82の作動流体90が蒸発などにより減少しても、導入最小隙間部81に作動流体が満たされている限り、循環機能を維持できるため、軸受性能を極めて長期間にわたって良好に維持でき、長寿命化を図れる利点がある。
【0016】
カバー75は、スリーブ72の上面部に接着剤91を介して固定されている。つまり、図17(b)に示すように、スリーブ72の上面部には、カバー75を嵌め込むための段部92が形成され、この段部92の全周に接着剤91を塗布して、カバー75をスリーブ72の上面部に固定した後に、この流体軸受装置を真空室に入れて空気を抜いた状態で、カバー75で覆われたスリーブ72の内部に作動流体90を充填する。
【0017】
作動流体90を充填した後には、顕微鏡やレーザー光などを用いるなどして、作動流体溜め部84における作動流体90の液面(気液境界線)高さを検出し、適正な量の作動流体90が充填されているかどうかを検査している。
【特許文献1】特開平11−82486号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、上記図17に示す流体軸受装置では、スリーブ72がカバー75で覆われているので、作動流体90の液面高さが規定通りの値であっても、カバー75の裏面などに気泡が付着している場合には、実際の作動流体90の量が不足することとなり、この場合には、軸受性能の寿命が短くなるおそれがある。
【0019】
これに対処する方法としては、作動流体90の充填前と充填後とにそれぞれ重量を測定して、作動流体90の充填量を推測することも行なわれている。しかしながら、実際には作動流体90の重量自体も極めて小さいものであるので、極めて微量な質量の差を測定しようとすると、多くの手間や時間が取られることとなり、しかも、カバー75の裏面などに小さい気泡が付着していないことを推測するだけであり、実際に確認できるわけではない。このような理由で軸受寿命のばらつきを生じるおそれがあった。
【0020】
また、上記流体軸受装置では、組立時の接着工程において、スリーブ72の上面部とカバー75とを接着する接着剤91がこの接着面である段部92の全周に良好に充填されていない場合があるが、このような流体軸受装置をそのまま使用してしまうと、流体溜まり用空間部82や導入最小隙間部81からの作動流体90が外部に洩れ出してしまう不具合を生じる。
【0021】
また、組立時の接着工程において、接着剤91が段部92から導入最小隙間部81や流体溜まり用空間部82に流入することがあり、この場合には、導入最小隙間部81は特にその隙間寸法が極めて微小であるため、導入最小隙間部81に流れ込んだ接着剤により、循環用連通路76の開口部が封鎖されてしまって、作動流体90が循環できなくなってしまう。このような流体軸受装置をそのまま使用してしまうと、上記した気泡の排除機能が働かない。
【0022】
本発明は、上記課題を解決するもので、循環用連通路を介してカバーとスリーブとの間に作動流体を供給することで作動流体の循環機能を備えた流体軸受装置において、カバーとスリーブとの間に作動流体が良好に充填されていることを容易に確認したり、カバーとスリーブとを接着する接着剤が良好に充填されていることを容易に確認したりすることができる流体軸受装置ならびにその作動流体量の検査方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するために本発明の流体軸受装置の作動流体量検査方法は、スリーブの軸受孔に微小間隙を介して相対的に回転自在な姿勢でシャフトが挿入され、前記シャフトと前記スリーブとの相対向する面の少なくとも一方に動圧溝が形成され、前記微小間隙に作動流体が充填され、スリーブに対してシャフトが相対的に回転自在に支承される流体軸受装置において、前記作動流体の量を検査する流体軸受装置の作動流体量検査方法であって、スリーブの少なくとも一方の端面を空間を有してカバーにより覆い、このカバーとスリーブとの間に、前記微小間隙に作動流体を供給する流体溜まり空間部を形成し、前記流体溜まり空間部における作動流体と空気との気液境界線により形成される面積に基づいて作動流体の量を検出することを特徴とする。
【0024】
この検査方法によれば、作動流体の量が平面上の面積の違いで一目で確認できるようになるため、作業漏れの確認が誰でも可能になり、また、作動流体の量を吸い取りや拭き取りで調整するとき、作業者が直接確認しながら作業できるため微妙な調整も可能になり、生産する軸受の寿命を正確に管理することが可能となる。
【0025】
また、本発明の流体軸受装置は、シャフトと、このシャフトを微小間隙を介して相対的に回転自在な姿勢で挿入させたスリーブと、前記スリーブに固定され、前記スリーブの端面を空間を有した姿勢で覆うカバーとを備え、前記シャフトと前記スリーブとの相対向する面の少なくとも一方に、前記スリーブに対して前記シャフトを相対的に回転自在に支承する動圧溝を形成し、前記カバーと前記スリーブとの間の空間を含むスリーブ内空間に作動流体を充填させた流体軸受装置であって、カバーの少なくとも一部が透光性を有することを特徴とする。
【0026】
また、本発明の流体軸受装置は、シャフトと、開口する開口端と閉鎖された閉鎖端とを有する軸受孔を有し、この軸受孔内に前記シャフトを間隙を介して回転自在な姿勢で挿入させたスリーブと、接着剤により前記スリーブに固着され、前記スリーブの開口端側端面を空間を有した姿勢で覆うカバーとを備え、前記シャフトと前記スリーブとが互いに臨む前記シャフトの外周面と前記スリーブの内周面との少なくとも一方に、前記スリーブに対して前記シャフトをラジアル方向に非接触で相対的に回転自在に支持するラジアル動圧溝を形成し、前記スリーブに、スリーブにおける前記閉鎖端面側の空間領域と、前記カバーと前記スリーブの開口端側端面との間の開口端側空間領域とを連通させる循環用連通路を形成し、前記カバーと前記スリーブとの間の開口端側空間領域を含むスリーブ内空間に作動流体を充填させ、前記シャフトが前記スリーブに対して相対的に回転された際に、作動流体を、前記シャフトと前記スリーブとの間の空間と、この空間に通じる前記閉鎖端側の空間領域と、この閉鎖端側の空間領域と通じる前記循環用連通路と、この循環用連通路に通じる前記カバーと前記スリーブとの間の開口端側空間領域とにわたって循環させるように構成した流体軸受装置であって、カバーの少なくとも一部が透光性を有することを特徴とする。
【0027】
この構成により、カバーとスリーブとの間に作動流体を充填した後、カバーを通して作動流体の充填状態を容易に視認したり、撮像手段で確認したりすることができ、カバーの裏面に気泡が付着していた場合でも、これを容易に検出することができる。
【0028】
また、本発明は、流体溜まり空間部の軸心方向に対する深さが周方向に徐々に変化する形状に形成されていることを特徴とする。
この構成により、最も深さが大きい箇所を中心として気液境界線が広がることとなり、気液境界線を容易に認識することができる。
【0029】
また、本発明は、作動流体が着色されていることを特徴とする。
この構成により、作動流体を認識し易くなるので、特に、作動流体の充填箇所の厚みが薄い箇所などでも良好かつ容易に確認することができる。
【0030】
また、本発明は、カバーが接着剤によりスリーブに固定され、接着剤が作動流体とは異なり、かつ視認できる色のものが用いられていることを特徴とする。
この構成により、作動流体だけでなく、接着剤についても、作動流体と容易に区別しながら充填箇所を容易に確認することができる。
【発明の効果】
【0031】
従来の流体溜まり空間部の液面の高さ方向の測定による管理では、液面の高さは作業者が一目で認識できるものではなく、作業漏れにも十分な注意を払う必要があったのに対し、本発明の流体軸受装置の作動流体量検出方法によると、作動流体の量が平面上の面積の違いで一目で確認できるようになるため、作業漏れの確認が誰でも可能になり、また、作動流体の量を吸い取りや拭き取りで調整するとき、作業者が直接確認しながら作業できるため微妙な調整も可能になり、生産する軸受の寿命を正確に管理することが可能となる。
【0032】
また、本発明の流体軸受装置によると、透光性を有するカバーを用いることで、カバーを通して作動流体の充填状態を容易に視認したり、撮像手段で確認したりすることができ、カバーの裏面に気泡が付着していた場合でも、これを容易に検出することができる。これにより、流体軸受装置への作動流体の充填不足や気泡の混入を、多くの手間や時間をかけたりすることなく、検査することができ、気泡の混入によって軸受性能の寿命の低下した流体軸受装置を出荷することを予め防止できて、信頼性を向上させることができる。
【0033】
また、着色されている作動流体を用いることにより、作動流体の充填箇所の厚みが薄い箇所などでも作動流体を良好かつ容易に確認することができる。
また、カバーを接着する接着剤として、作動流体とは異なり、かつ視認できる色のものを用いることにより、作動流体だけでなく、接着剤についても、作動流体と容易に区別しながら充填箇所を容易に確認することができ、この結果、作動流体が外部に洩れ出すおそれのある流体軸受装置や、循環機能が不良である流体軸受装置を出荷することを予め防止できて、信頼性を向上させることができる。
【0034】
また、流体溜まり空間部の軸心方向に対する深さが周方向に徐々に変化する形状に形成されていることにより、気液境界線を容易に認識することができ、検査を迅速かつ容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態に係る流体軸受装置ならびにその作動流体量検査方法を図面に基づき説明する。この実施の形態では、ハードディスク装置のスピンドルモータにこの流体軸受装置が使用されている場合を説明する。
【0036】
図1は本発明の実施の形態に係る流体軸受装置を備えたスピンドルモータの断面図、図2(a)は同流体軸受装置の断面図、図3は同流体軸受装置の平面図であり、図2(a)は図3のII−II線断面図である。なお、以下の説明は、理解し易いように、図1および図2に示すように、スリーブの軸受孔における開口端が上方に、閉鎖端が下方に配置された場合を説明するが、実際に使用する場合はこの配置に限るものではないことはもちろんである。
【0037】
図1〜図3に示すように、このスピンドルモータの流体軸受装置は、シャフト1と、スピンドルモータのベース15に固定され、開口する上側の開口端2aaと閉鎖された下側の閉鎖端2abとを有する軸受孔2aを有し、シャフト1を間隙(空間)を介して回転自在な姿勢で挿入させたスリーブ2と、シャフト1の下端部に外嵌結合やねじにより固定されているとともに、軸受孔2aにおける閉鎖端側である太径孔部2acに、この太径孔部2acの上面に対して間隙を有する姿勢で配置された太径のスラストフランジ3と、スラストフランジ3の下面と間隙を有する姿勢で対向するようにスリーブ2の底部に固定されたスラスト板4とを備え、さらにこれらの構成に加えて、スリーブ2の上端面(開口端側端面)を空間を有した姿勢で覆うとともに、外気に通じる1つの通気孔13を有したカバー5を設けている。そして、この流体軸受装置において、スリーブ2における外周面寄りの箇所に、軸心Oと平行に延びる1つの循環用連通路6(例えば、この直径は0.2mm〜0.6mm程度)が穿孔されており、この循環用連通路6により、軸受孔2aの閉鎖端2ab側に設けられた太径孔部2ac(閉鎖端面側の空間領域)と、カバー5とスリーブ2の開口端(2aa)側端面である上端面との間の空間領域(開口端側空間領域と称す)とが連通されている。
【0038】
また、カバー5とスリーブ2との間を含むスリーブ2の内部の空間(すなわち、シャフト1の外周面とスリーブ2の内周面との間の空間、軸受孔2aの太径孔部2ac内の空間、軸受孔2aの太径孔部2acと循環用連通路6との間の連通箇所の空間、循環用連通路6内の空間、スリーブ2の上端面とカバー5との間の開口端側空間領域(ただし、通気孔13の箇所は除く))に潤滑油などの作動流体20が充填されている。なお、図2に拡大して示すように、カバー5のシャフト1に臨む内周面には開口側ほど広がるように形成されて、外気に連通して作動流体20を溜める作動流体溜め部23が形成されている。また、スリーブ2とカバー5とは接着剤21で固定されている。
【0039】
また、スリーブ2の内周面(またはシャフト1の外周面、若しくは、スリーブ2の内周面とシャフト1の外周面との両方に設けてもよい)には上下に魚骨状パターンなどの2つの動圧溝7、8が形成され、後述する回転駆動力によりシャフト1とスリーブ2とが相対的に回転された際に、この動圧溝7、8により掻き出される作動流体20の力により、シャフト1とスリーブ2とがラジアル方向(半径方向)に所定間隙を介して回転自在に支持されるラジアル流体軸受が構成されている。また、スラストフランジ3の上面と下面(または、これに対向するスリーブ2の下面やスラスト板4の上面、またはスラストフランジ3の上下面とスリーブ2の下面やスラスト板4の上面との全てに設けてもよい)とには、螺旋状パターンなどの動圧溝9、10が形成され、前記回転駆動力などによりシャフト1に取り付けられたスラストフランジ3とスリーブ2とが相対的に回転された際に、この動圧溝9、10により掻き出される作動流体20の力により、シャフト1とスリーブ2とがスラスト方向(軸心方向)に所定間隙を介して回転自在に支持されるスラスト流体軸受が構成されている。ここで、ラジアル流体軸受を構成する動圧溝7、8は、周知のヘリングボーン形状とされ、シャフト2の外周面における上側と下側の合わせて2箇所に形成されているが、下側の動圧溝8は、その頂部から斜めに上がる溝と斜めに下がる溝とが同じ長さとされている一方、上側の動圧溝7は、図2(b)に示すように、その頂部から斜めに上がる溝7aが、頂部から斜めに下がる溝7bよりも長めに形成され、回転駆動時にはこの上側の動圧溝7によって、この隙間の作動流体20が積極的に下方に送り出されるように構成されている。
【0040】
図1に示すように、シャフト1におけるスリーブ2の軸受孔2aから突出している突出軸部1aには、その外周に例えば磁気記録ディスクが固定される回転部材としてのハブ16が圧入状態で外嵌されている。この実施の形態では、ハブ16のベース寄り部分外周にロータマグネット17が取り付けられている。また、ベース15には、ロータマグネット17に対向するように、ステータコイル18が巻かれたステータコア19が取り付けられている。そして、このロータマグネット17とステータコア19とにより、シャフト1とスリーブ2との間に回転駆動力を与えるスピンドルモータの回転駆動部が構成されている。
【0041】
図2(a)に示すように、スリーブ2におけるカバー5に対向する上端面はほぼ平面形状とされている。これに対して、図2(a)、図3〜図5(図5においては、理解し易いように、カバー5の裏面部とこれに対向するスリーブ2の上端面との離間空間を概念的に示している)に示すように、カバー5は、その裏面部が、スリーブ2の上端面に開口する循環用連通路6の開口部近傍領域と、スリーブ2の軸受孔2a開口端の近傍外周部とは、これに対応するカバー5の裏面部分とこれに対向するスリーブ2の上端面との離間距離が毛管現象を生じる寸法b(図5参照)であり、スリーブ2内周面の軸受孔2aに毛管現象により流入する隙間(それぞれ、導入最小隙間部11、軸受孔外周最小隙間部12と称し、図4においては、カバー5の裏面部分における導入最小隙間部11に臨む導入最小隙間面5bと、軸受孔外周最小隙間部12に臨む軸受孔外周最小隙間面5cとを示している)を形成するように配設されている。また、この導入最小隙間部11は、図3、図4に示すように、循環用連通路6の開口部近傍箇所から軸受孔外周最小隙間部12を介してスリーブ2の軸受孔2aの開口端に続くように形成されている。なお、この実施の形態においては、軸受孔外周最小隙間部12は、略30度の開き角度の略扇形形状とされ、循環用連通路13の開口部よりも広い範囲に形成されている。また、スリーブ2の上端面における軸受孔2aの開口端の直径は例えば、2.8mm〜3.2mmとされ、軸受孔外周最小隙間面5cは、円環形状とされ、軸受孔2aの開口端外周から0.2〜0.6mmの半径方向寸法幅で形成される。また、導入最小隙間部11および軸受孔外周最小隙間部12の離間隙間は例えば0.03mm〜0.15mmである。また、この実施の形態においては、導入最小隙間部11および軸受孔外周最小隙間部12の離間隙間は径方向に対しても一定である。
【0042】
また、カバー5の裏面部における前記導入最小隙間部11、軸受孔外周最小隙間部12以外の箇所は、導入最小隙間部11および軸受孔外周最小隙間部12の隙間よりも大きな空間となるように窪ませて作動流体20を貯留可能な流体溜まり空間部14を、導入最小隙間部11と通気孔13とを周方向に連通させるように形成している。なお、この流体溜まり空間部14は、例えば、内径3.2mm〜3.8mm、外径5.5〜6.3mm、最小隙間は0.03mm〜0.15mm、最大隙間は0.2mm〜0.3mm程度である。そして、通気孔13は、この直径が例えば0.2mm〜1.0mm程度であり、この通気孔13が設けられている箇所には、ざぐり孔により形成された緩衝空間としての凹部22(例えば、直径0.6mm〜1.0mm、深さ0.1mm〜0.3mm程度)が形成されているが、この通気孔13および凹部22に連なる流体溜まり空間部14の箇所(最大空間部14aと称す)が、スリーブ2の上端面との離間距離が最も大きくなり、前記導入用最小隙間部から前記最大空間部14aに近づくほど、スリーブ2の上端面(開口端側端面)からの離間距離が大きくなるように周方向に対して傾斜する形状に形成されている。なお、この実施の形態においては、流体溜まり空間部14の離間隙間は径方向に対して一定である。また、この実施の形態においては、外気に連通する通気孔13は、カバー5における、平面視して、循環用連通路6の開口部と軸心0を中心に逆となる箇所に設けられている。なお、図3におけるDは、シャフト1の回転方向である。また、前記通気孔13に凹部22を形成したことで、作動流体20が満量である状態で流体軸受装置の設置環境の温度上昇などがあった場合でも、作動流体20の界面が凹部22内にとどまり、通気孔13から作動流体20が洩れ出ることがないよう図られている。
【0043】
また、図6に拡大して示すように、カバー5のシャフト1に臨む内周面において開口側ほど広がるように形成された作動流体溜め部23は、下方ほど狭くなるように傾斜する傾斜面により形成され、作動流体20が蒸発するなどして減少して流体溜まり空間部14の箇所での界面(気液境界線)の位置が変化した場合でも、この作動流体溜め部23において、界面が傾斜面内で移動する範囲で釣り合うような形状に設定されている。
【0044】
図2(a),図3に示すように、カバー5の上面外周部には、この流体軸受装置を組み立てた後に作動流体20を注油する際に、作動流体20が、外側に落ちないように防止するための、上方に突出する突条部24も形成されている。この突条部24は、例えば、内径6mm〜8mm、高さ0.03mm〜0.1mm程度である。
【0045】
上記構成に加えて、本発明は特に、カバー5が、透明や半透明などの透光性を有する材料、例えば、合成樹脂製の材料で形成されている。また、作動流体20は、カバー5を通して識別できる色のものが用いられている。
【0046】
また、図6(a)、(b)に示すように、スリーブ2の上部外周には全周にわたって外側に突出する鍔部2fが一体形成されているとともに、これに対応してスリーブ2の鍔部2fに上方から臨むように、カバー5の外周全周は下方に延びる鍔部5fが一体形成されており、これらの鍔部2f、5f同士でスリーブ2とカバー5とが接着剤21で固定されている。なお、スリーブ2の鍔部2fとカバー5の鍔部5fとは、これらの間に比較的多めの接着剤21を充填できるように上下方向に所定の隙間を有するように形成され、流体軸受装置の設置箇所の温度変動などがあった場合でも、接着剤21により接合した箇所の接着機能を良好に維持できるように図られている。
【0047】
また、接着剤供給接着部として機能する鍔部2f、5fが設けられている箇所と、作動流体20が満たされる導入最小隙間部11や流体溜まり空間部14との間の箇所、すなわち、この実施の形態においては、カバー5の周壁部5dの外周箇所には、カバー5の下面全周にわたって上方に窪ませた溝部5gが形成されており、この溝部5g内空間が、鍔部2f、5f間からの接着剤21の流入を許容する接着剤流入許容空間部26とされている。
【0048】
また、図3、図4などに示すように、カバー5における流体溜まり空間部14と接着剤流入許容空間部26とを仕切る前記周壁部5dの一部が切欠かれて連通部27が形成されている。そして、この連通部27は、図6(b)、図7などに示すように、カバー5における流体溜まり空間部14の上面壁部14aよりも少しだけ下方に形成され、カバー5の裏面である流体溜まり空間部14の上面壁部14aと連通部27の上端部27a(図7参照)とに段差hがつけられている。
【0049】
次に、このスピンドルモータに設けられている流体軸受装置の、スリーブ2にカバー5を接着剤で固定する工程、並びに、その後に作動流体20を充填する工程について説明する。
【0050】
図8に示すように、まず、スリーブ2の鍔部2fの上に接着剤21を塗布し、この後、図9に示すように、スリーブ2にカバー5を被せる。ここで、スリーブ2の鍔部2fへの接着剤21の塗布量は、スリーブ2の鍔部2fとカバー5の鍔部5fとの間の容量、すなわち接着剤供給接着部の容量よりも多い量とし、スリーブ2の鍔部2fとカバー5の鍔部5fとの間の隙間の全周にわたって接着剤21を確実に供給できるように図られている。
【0051】
この後、カバー5やシャフト1などを組み付けたスリーブ2を、空気を抜いた真空室内に移送して、図10に示すように、カバー5上に作動流体20を滴下し、その後、真空室内に外気を導入することで、流体軸受装置内部に作動流体20を充填する。この場合に、カバー5における流体溜まり空間部14と接着剤流入許容空間部26とを仕切る前記周壁部5dの一部が切欠かれて連通部27が形成されているので、真空室内に外気を導入してスリーブ2内やスリーブ2とカバー5との間に作動流体20を充填させた際に、流体溜まり空間部14に導入された作動流体20が連通部27を通して、接着剤流入許容空間部26における接着剤21が流入しなかった空間にも作動流体20が充填されるように図られている(図2、図6(a),(b)参照)。これにより、接着剤21を供給した際に接着剤流入許容空間部26における接着剤21が流入しなかった空間に、その後、空気が入ることを防止でき、スリーブ2内やスリーブ2とカバー5との間に作動流体20を良好に充填できる。したがって、接着剤流入許容空間部27に空気が入り込むことによる、温度上昇時の空気の膨張などによる、作動流体20の外部への洩れ出しなどの不具合が生じることを防止できる。
【0052】
スリーブ2内やスリーブ2とカバー5との間に作動流体20を充填させた後は、この流体軸受装置を真空室から取り出し、カバー5を通して、この流体軸受装置内の作動流体20の充填状態を軸心方向に沿って視認して、カバー5内部の裏面などに気泡が入っていないか、また、作動流体の充填量が適正かどうかを検査する。
【0053】
図11(a)は作動流体が満量状態に充填された場合である。この状態は温度上昇による作動流体の膨張や衝撃によって、内部の作動流体が外部に飛散し易い状態にある。寿命の点からは作動流体量が多くて有利だが、他の信頼性項目については不利になり好ましくない。
【0054】
従って、図11(a)の状態から作動流体20の吸い出しや拭き取りによって図12(b)に示すように作動流体20と空気との気液境界線Aが上限値と下限値の間に入る状態に調整する。図12(a)は作動流体20が多すぎ、図12(c)は少なすぎる状態を表している。また、図12(a)〜図12(c)におけるBminは気液境界線Aの下限値のライン、Bmaxは気液境界線Aの上限値のライン、Boは気液境界線Aの目標値のラインである。
【0055】
また、当初、図11(b)に示すように気泡Kが点在していたとしても、内部の流体溜まり空間部14の上壁は傾斜しているので、時間とともに図11(c)に示すように一箇所に集まるようになり、作動流体20中に気泡Kが点在したままになることはない。
【0056】
なお、図11(a)〜(c)、図12(a)〜(c)は、流体軸受装置を上方から目で見た状態を概略的に示している。
これにより、流体軸受装置への作動流体20の充填不足や気泡Kの混入を、多くの手間や時間をかけたりすることなく、検査することができ、気泡Kの混入によって軸受性能や寿命の低下した流体軸受装置を出荷することを予め防止できて、信頼性を向上させることができる。また、軸受性能の寿命を長い期間に安定させることもできる。また、作動流体の量が平面上の面積の違いで一目で確認できるようになるため、作業漏れの確認が誰でも可能になり、また、作動流体20の量を吸い取りや拭き取りで調整するとき、作業者が直接確認しながら作業できるため微妙な調整も可能になり、生産する流体軸受装置の寿命を正確に管理することが可能となる。
【0057】
なお、検査を行う人の目による確認に代えて、撮像装置により画像を取得して、取得画像から、自動的に充填不良や気泡の存在を判別するように構成してもよい。
また、作動流体20として、着色させたものを用いてもよく、この構成により、作動流体20を認識し易くなるので、特に、作動流体20の充填箇所の厚みが薄い箇所、例えば、導入最小隙間部11や軸受孔外周最小隙間部12に、気泡Kが存在していた場合でも良好かつ容易に確認することができる。
【0058】
上記構成において、スピンドルモータの回転駆動力によりシャフト1とスリーブ2とが相対的に回転されると、ラジアル流体軸受の動圧溝7、8により掻き出される作動流体20の力と、スラスト流体軸受の動圧溝9、10により掻き出される作動流体20の力とにより、シャフト1がスリーブ2に対して所定の隙間を保った状態で支持される。また、上側のラジアル流体軸受の動圧溝7により掻き出される作動流体20の力により、シャフト1とスリーブ2との間の作動流体20が下方に送られ、これに伴って、作動流体20が、スラストフランジ3とスリーブ2との間の空間、スリーブ2とスラスト板4との間の空間、循環用連通路6内の空間、導入最小隙間部11および軸受孔外周最小隙間部12を順に通り、再度、シャフト1とスリーブ2との間の空間に流入し、これらの空間の間で作動流体20が積極的に循環する。また、循環用連通路6から導入最小隙間部11内に導入された作動流体20の一部は、流体溜まり用空間部14にも流入しながら、再度、軸受孔外周最小隙間部12を介してシャフト1とスリーブ2との間の空間に流入する。
【0059】
したがって、ラジアル流体軸受の動圧溝7、8やスラスト流体軸受の動圧溝9、10などで気泡が付着していた場合でも、前記循環流によって、気泡が動圧溝7、8、動圧溝9、10などから離脱して循環し、循環用連通路6から、導入最小隙間部11を通った際に、圧力の低い流体溜まり用空間部14に流入する。圧力の低い流体溜まり用空間部14に流入すると、その気泡の大きさも大き目となるので、圧力の高い導入最小隙間部11や軸受孔外周最小隙間部12に再度入ることが少なくなり、流体溜まり用空間部14において気泡は作動流体20から分離されて通気孔13から排出される。
【0060】
このように、この構成によれば、正常な回転駆動時にも作動流体20内の気泡が排出され、この結果、気泡による軸受剛性の低下や、回転動作時の回転が不安定になるなどの軸受性能の低下を防止でき、信頼性を向上させることができる。
【0061】
また、この流体軸受装置によれば、カバー5のシャフト1に臨む内周面に作動流体溜め部23が設けられているだけでなく、スリーブ2とカバー5との間に、大きな容積の流体溜まり用空間部14が設けられている。したがって、流体溜まり用空間部14の作動流体が減少した場合でも、導入最小隙間部11および軸受孔外周最小隙間部12に作動流体20が満たされている限り、循環機能を維持できる。
【0062】
また、本発明によれば、流体溜まり空間部14を、導入用最小隙間部11から通気孔13が設けられている最大空間部14aに近づくほど、スリーブ2の開口端側端面である上面からの離間距離が大きくなるように周方向に対して傾斜する形状に形成したので、流体軸受装置が外部から衝撃を受けたり、姿勢が急激に変化したりした際でも、流体溜まり空間部14における空気と作動流体20との界面が、通気孔13近傍箇所にとどまって、周方向に移動することが防止され、この結果、気泡の移動に伴う作動流体20の外部へ洩れ出しを防止できる利点もある。また、流体溜まり空間部14の軸心方向に対する深さが周方向に徐々に変化する形状に形成されていることにより、平面視して、通気孔13が設けられている箇所を中心として気液境界線Lを容易に認識することができ、検査を迅速かつ容易に行うことができる。
【0063】
また、カバー5の裏面とスリーブ2の上面との間における軸受孔開口端の近傍外周部にも毛管現象を生じる軸受孔外周最小隙間部12を形成したので、導入用最小隙間部11から導入された作動流体20が、この軸受孔外周最小隙間部12を介して、スリーブ2の軸受孔2aへ全周から良好に供給され、スリーブ2の軸受孔2aにおいて安定して作動流体20が満たされる利点もある。
【0064】
さらに、本発明では、連通部27は、図6(b)、図7などに示すように、カバー5における流体溜まり空間部14の上面壁部14aよりも少しだけ下方に形成され、カバー5の裏面である流体溜まり空間部14の上面壁部14aと連通部27の上端部27a(図7参照)とに段差hがつけられているので、循環用連通路6からの気泡が導入用最小隙間部11を通して流体溜まり空間部14に流入し、その後、図7などに示すように、気泡Kが流体溜まり空間部14の上面壁部14aに沿って移動した場合でも、前記段差hにより、気泡が連通部27に流れ込むことを防止でき、これにより、気泡の接着剤流入許容空間部26への侵入を防止できて、温度上昇時の空気の膨張などによる、作動流体20の外部への洩れ出しなどの不具合を防止できる。
【0065】
また、上記実施の形態においては、カバー5の上面外周部には、上方に突出する突条部24が形成されているので、流体軸受装置の組み立て後に作動流体20を注油する際に、作動流体20がカバー5の上面から流れ落ちることが突条部24により阻止され、これにより、作業能率が向上するとともに、スリーブ2内への作動流体20の充填量が少なくなることも防止することができ、信頼性が向上する。
【0066】
また、図12に示すように、突条部24を設ける代わりに、平面視して、作動流体溜め部23や通気孔13を外側から囲むように、撥油剤を塗るための撥油溝25を形成し、この撥油溝25に撥油剤を塗布して、作動流体20を供給する際に、外側に作動流体20が出ないようにしてもよい。
【0067】
また、上記実施の形態においては、組立時の作動流体充填後に、作動流体20の充填状態だけを確認した場合を述べたが、これに加えて、接着剤21として、量が少なくても明確に識別できる色彩や色の濃度を有し、作動流体20に対してもそれぞれ別個に認識できるような異なる色のものを用いて、図14(a)に示すように、接着剤21の充填工程後に、接着剤21の充填状態を確認するように構成してもよい。なお、図14(b)は、接着剤21が、鍔部2f、5f間の一部で不足している場合を示し(不足部をFで示す)、図14(c)は、接着剤21が導入最小隙間部11などに流入している場合を示す。このように接着剤21が導入最小隙間部11に流れ込んだ場合には、循環用連通路6の開口部が封鎖されてしまって、作動流体20が循環できなくなってしまう不具合を生じるが、本発明によれば、このような場合でも、接着剤21の不足や、導入最小隙間部11などへの流れ込みが容易に視認できるため、接着剤21の不足により作動流体20が外部に洩れ出すおそれのある流体軸受装置や、循環機能が不良である流体軸受装置を出荷することを予め防止できて、信頼性を向上させることができる。なお、図14(a)〜(c)は、接着剤21を充填した際の流体軸受装置を上方から目で見た状態を概略的に示している。
【0068】
また、この後に、作動流体20を充填して検査する際には、接着剤21とは作動流体20の色が異なるので、区別して作動流体20の充填状態や気泡の有無などを確認できる。
なお、カバー5としては、樹脂成形や金属プレスで製作してもよいが、これに限るものではない。また、上記実施の形態においては、カバー5全体が透光性を有する場合を述べたが、これに限るものではなく、流体溜まり用空間部14だけが透光性を有する構成としてもよい。また、上記の実施の形態においては、作動流体20が循環用連通路6を通して循環する場合を述べたが、これに限るものではなく、循環用連通路6が設けられておらず、積極的には循環させないタイプのものにも適用可能である。
【0069】
また、上記実施の形態においては、シャフト1の下端部に太径のスラストフランジ3を有した、いわゆるフランジ付きシャフトを備えた場合を説明したが、これに限るものではなく、図15に示すように、スラストフランジ3を有しないで、シャフト1の下端部とスラスト板4との互いの対向面の少なくとも一方にスラスト流体軸受用の動圧溝を形成した構造のものや、図示はしないが、スラストフランジ3を有しないで、シャフト1の下端部に設けたピボット部により、この閉鎖領域を閉鎖する板材に対してスラスト方向に位置規制されたものにも適用可能であり、これらのような、いわゆるフランジレスシャフトの構成においても同様の効果が得られることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の流体軸受装置は、ディスク駆動装置、リール駆動装置、キャプスタン駆動装置、ドラム駆動装置などのスピンドルモータとして特に好適であるが、これに限るものではない。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施の形態に係る流体軸受装置を備えたスピンドルモータの断面図
【図2】(a)は同流体軸受装置の断面図、(b)は同流体軸受装置の1つの動圧溝を示す図
【図3】同流体軸受装置の平面図
【図4】同流体軸受装置のカバーを裏面から見た図
【図5】同流体軸受装置のカバーの裏面部とこれに対向するスリーブの上端面との離間空間を概念的に示している斜視図
【図6】(a)は図3のVIa−VIa線で切断した同流体軸受装置の要部断面図、(b)は図3のVIb−VIb線で切断した同流体軸受装置の要部断面図
【図7】図6のVII−VII線から矢視した同流体軸受装置の要部断面図
【図8】同流体軸受装置の接着剤を塗布した状態を示す断面図
【図9】同流体軸受装置のカバーを被せた状態を示す断面図
【図10】同流体軸受装置の作動流体を塗布した状態を示す断面図
【図11】(a)〜(c)はそれぞれ作動流体および気泡が見える様子を概略的に示す同流体軸受装置の平面図
【図12】(a)〜(c)はそれぞれ作動流体および気泡が見える様子を概略的に示す同流体軸受装置の平面図
【図13】本発明の他の実施の形態に係る同流体軸受装置のカバーの平面図
【図14】(a)〜(c)はそれぞれ接着剤の充填箇所と不足箇所とが見える様子を概略的に示す同流体軸受装置の平面図
【図15】本発明のその他の実施の形態に係る同流体軸受装置の断面図
【図16】従来の流体軸受装置の断面図
【図17】(a)および(b)は本発明者らが考え出した従来の流体軸受装置の平面図および断面図、(c)は同流体軸受装置の1つの動圧溝を示す図
【符号の説明】
【0072】
1 シャフト
2 スリーブ
2a 軸受孔
2aa 開口端
2ab 閉鎖端
2ac 太径孔部
2f、5f 鍔部(接着剤供給接着部)
3 スラストフランジ
4 スラスト板
5 カバー
5d 周壁部
5g 溝部
6 循環用連通路
7、8 動圧溝(ラジアル流体軸受)
9、10 動圧溝(スラスト流体軸受)
11 導入最小隙間部
12 軸受孔外周最小隙間部
13 通気孔
14 流体溜まり空間部
20 作動流体
21 接着剤
23 作動流体溜め部
24 突条部
26 接着剤流入許容空間部
27 連通部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリーブの軸受孔に微小間隙を介して相対的に回転自在な姿勢でシャフトが挿入され、前記シャフトと前記スリーブとの相対向する面の少なくとも一方に動圧溝が形成され、前記微小間隙に作動流体が充填され、スリーブに対してシャフトが相対的に回転自在に支承される流体軸受装置において、前記作動流体の量を検査する流体軸受装置の作動流体量検査方法であって、
スリーブの少なくとも一方の端面を空間を有してカバーにより覆い、このカバーとスリーブとの間に、前記微小間隙に作動流体を供給する流体溜まり空間部を形成し、
前記流体溜まり空間部における作動流体と空気との気液境界線により形成される面積に基づいて作動流体の量を検出する流体軸受装置の作動流体量検査方法。
【請求項2】
流体溜まり空間部の軸心方向に対する深さが周方向に徐々に変化する形状に形成されている請求項1記載の流体軸受装置の作動流体量検査方法。
【請求項3】
カバーの少なくとも一部が透光性を有する請求項1または2に記載の流体軸受装置の作動流体量検査方法。
【請求項4】
作動流体が着色されている請求項1〜3の何れか1項に記載の流体軸受装置の作動流体量検査方法。
【請求項5】
カバーが接着剤によりスリーブに固定され、接着剤が作動流体とは異なり、かつ視認できる色のものが用いられている請求項1〜4の何れか1項に記載の流体軸受装置の作動流体量検査方法。
【請求項6】
シャフトと、
このシャフトを微小間隙を介して相対的に回転自在な姿勢で挿入させたスリーブと、
前記スリーブに固定され、前記スリーブの端面を空間を有した姿勢で覆うカバーとを備え、
前記シャフトと前記スリーブとの相対向する面の少なくとも一方に、前記スリーブに対して前記シャフトを相対的に回転自在に支承する動圧溝を形成し、
前記カバーと前記スリーブとの間の空間を含むスリーブ内空間に作動流体を充填させた流体軸受装置であって、
カバーの少なくとも一部が透光性を有する流体軸受装置。
【請求項7】
シャフトと、
開口する開口端と閉鎖された閉鎖端とを有する軸受孔を有し、この軸受孔内に前記シャフトを間隙を介して回転自在な姿勢で挿入させたスリーブと、
接着剤により前記スリーブに固着され、前記スリーブの開口端側端面を空間を有した姿勢で覆うカバーとを備え、
前記シャフトと前記スリーブとが互いに臨む前記シャフトの外周面と前記スリーブの内周面との少なくとも一方に、前記スリーブに対して前記シャフトをラジアル方向に非接触で相対的に回転自在に支持するラジアル動圧溝を形成し、
前記スリーブに、スリーブにおける前記閉鎖端面側の空間領域と、前記カバーと前記スリーブの開口端側端面との間の開口端側空間領域とを連通させる循環用連通路を形成し、
前記カバーと前記スリーブとの間の開口端側空間領域を含むスリーブ内空間に作動流体を充填させ、
前記シャフトが前記スリーブに対して相対的に回転された際に、作動流体を、前記シャフトと前記スリーブとの間の空間と、この空間に通じる前記閉鎖端側の空間領域と、この閉鎖端側の空間領域と通じる前記循環用連通路と、この循環用連通路に通じる前記カバーと前記スリーブとの間の開口端側空間領域とにわたって循環させるように構成した流体軸受装置であって、
カバーの少なくとも一部が透光性を有する流体軸受装置。
【請求項8】
流体溜まり空間部の軸心方向に対する深さが周方向に徐々に変化する形状に形成されている請求項6または7に記載の流体軸受装置。
【請求項9】
作動流体が着色されている請求項6〜8の何れか1項に記載の流体軸受装置。
【請求項10】
カバーが接着剤によりスリーブに固定され、接着剤が作動流体とは異なり、かつ視認できる色のものが用いられている請求項6〜9の何れか1項に記載の流体軸受装置。
【請求項11】
スリーブにおける閉鎖端面側の空間領域が、シャフトの先端に固定されたスラストフランジが配設されている空間領域であり、
このスラストフランジが臨む空間に、スリーブにおける前記閉鎖端面側に設けられた循環用連通路の開口部が通じるように構成した請求項7に記載の流体軸受装置。
【請求項12】
スリーブにおける閉鎖端面側の空間領域が、シャフトの先端と閉鎖端面側領域閉鎖板とで形成される空間領域であり、
このシャフトの先端が臨む空間に、スリーブにおける前記閉鎖端面側に設けられた連通孔の開口部が通じるように構成した請求項7に記載の流体軸受装置。
【請求項13】
ラジアル動圧溝を、作動流体に循環する力を与える形状に形成した請求項6〜12の何れか1項に記載の流体軸受装置。
【請求項14】
請求項6〜13の何れか1項に記載の流体軸受装置を備えたスピンドルモータ。
【請求項1】
スリーブの軸受孔に微小間隙を介して相対的に回転自在な姿勢でシャフトが挿入され、前記シャフトと前記スリーブとの相対向する面の少なくとも一方に動圧溝が形成され、前記微小間隙に作動流体が充填され、スリーブに対してシャフトが相対的に回転自在に支承される流体軸受装置において、前記作動流体の量を検査する流体軸受装置の作動流体量検査方法であって、
スリーブの少なくとも一方の端面を空間を有してカバーにより覆い、このカバーとスリーブとの間に、前記微小間隙に作動流体を供給する流体溜まり空間部を形成し、
前記流体溜まり空間部における作動流体と空気との気液境界線により形成される面積に基づいて作動流体の量を検出する流体軸受装置の作動流体量検査方法。
【請求項2】
流体溜まり空間部の軸心方向に対する深さが周方向に徐々に変化する形状に形成されている請求項1記載の流体軸受装置の作動流体量検査方法。
【請求項3】
カバーの少なくとも一部が透光性を有する請求項1または2に記載の流体軸受装置の作動流体量検査方法。
【請求項4】
作動流体が着色されている請求項1〜3の何れか1項に記載の流体軸受装置の作動流体量検査方法。
【請求項5】
カバーが接着剤によりスリーブに固定され、接着剤が作動流体とは異なり、かつ視認できる色のものが用いられている請求項1〜4の何れか1項に記載の流体軸受装置の作動流体量検査方法。
【請求項6】
シャフトと、
このシャフトを微小間隙を介して相対的に回転自在な姿勢で挿入させたスリーブと、
前記スリーブに固定され、前記スリーブの端面を空間を有した姿勢で覆うカバーとを備え、
前記シャフトと前記スリーブとの相対向する面の少なくとも一方に、前記スリーブに対して前記シャフトを相対的に回転自在に支承する動圧溝を形成し、
前記カバーと前記スリーブとの間の空間を含むスリーブ内空間に作動流体を充填させた流体軸受装置であって、
カバーの少なくとも一部が透光性を有する流体軸受装置。
【請求項7】
シャフトと、
開口する開口端と閉鎖された閉鎖端とを有する軸受孔を有し、この軸受孔内に前記シャフトを間隙を介して回転自在な姿勢で挿入させたスリーブと、
接着剤により前記スリーブに固着され、前記スリーブの開口端側端面を空間を有した姿勢で覆うカバーとを備え、
前記シャフトと前記スリーブとが互いに臨む前記シャフトの外周面と前記スリーブの内周面との少なくとも一方に、前記スリーブに対して前記シャフトをラジアル方向に非接触で相対的に回転自在に支持するラジアル動圧溝を形成し、
前記スリーブに、スリーブにおける前記閉鎖端面側の空間領域と、前記カバーと前記スリーブの開口端側端面との間の開口端側空間領域とを連通させる循環用連通路を形成し、
前記カバーと前記スリーブとの間の開口端側空間領域を含むスリーブ内空間に作動流体を充填させ、
前記シャフトが前記スリーブに対して相対的に回転された際に、作動流体を、前記シャフトと前記スリーブとの間の空間と、この空間に通じる前記閉鎖端側の空間領域と、この閉鎖端側の空間領域と通じる前記循環用連通路と、この循環用連通路に通じる前記カバーと前記スリーブとの間の開口端側空間領域とにわたって循環させるように構成した流体軸受装置であって、
カバーの少なくとも一部が透光性を有する流体軸受装置。
【請求項8】
流体溜まり空間部の軸心方向に対する深さが周方向に徐々に変化する形状に形成されている請求項6または7に記載の流体軸受装置。
【請求項9】
作動流体が着色されている請求項6〜8の何れか1項に記載の流体軸受装置。
【請求項10】
カバーが接着剤によりスリーブに固定され、接着剤が作動流体とは異なり、かつ視認できる色のものが用いられている請求項6〜9の何れか1項に記載の流体軸受装置。
【請求項11】
スリーブにおける閉鎖端面側の空間領域が、シャフトの先端に固定されたスラストフランジが配設されている空間領域であり、
このスラストフランジが臨む空間に、スリーブにおける前記閉鎖端面側に設けられた循環用連通路の開口部が通じるように構成した請求項7に記載の流体軸受装置。
【請求項12】
スリーブにおける閉鎖端面側の空間領域が、シャフトの先端と閉鎖端面側領域閉鎖板とで形成される空間領域であり、
このシャフトの先端が臨む空間に、スリーブにおける前記閉鎖端面側に設けられた連通孔の開口部が通じるように構成した請求項7に記載の流体軸受装置。
【請求項13】
ラジアル動圧溝を、作動流体に循環する力を与える形状に形成した請求項6〜12の何れか1項に記載の流体軸受装置。
【請求項14】
請求項6〜13の何れか1項に記載の流体軸受装置を備えたスピンドルモータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2006−170230(P2006−170230A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−359262(P2004−359262)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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