説明

流体軸受装置

【課題】軸受スリーブと、これをインサート部品として射出成形したハウジングとが強固に固定された流体軸受装置を提供する
【解決手段】軸受スリーブ8の外周面8dの一部領域をレーザ加工で除去して凹部8d1を形成し、この軸受スリーブ8をインサート部品としてハウジング7を射出形成する。これにより、軸受スリーブ8の凹部8d1とこの凹部8d1に入り込んだハウジング7の一部とが軸方向で係合し、両部材間の固定力を高めている。また、凹部8d1をレーザ加工で形成することにより、切削粉の発生を回避すると共に、加工時における固定力により内周面8a等が変形する事態を回避することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体軸受装置は、軸部材と軸受部品の間に形成される軸受隙間の流体膜で軸部材を回転自在に支持する軸受装置である。この流体軸受装置は、高速回転、高回転精度、低騒音等の特徴を有するものであり、近年ではその特徴を活かして、情報機器をはじめ種々の電気機器に搭載されるモータ用の軸受装置として、より具体的には、HDD等の磁気ディスク装置、CD−ROM、CD−R/RW、DVD−ROM/RAM等の光ディスク装置、MD、MO等の光磁気ディスク装置等のスピンドルモータ、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、電気機器等の冷却用のファンモータなどのモータ用軸受装置として好適に使用されている。
【0003】
このような流体軸受装置として、例えば特許文献1は、軸部材と、内周に軸部材を挿入した焼結金属製の軸受スリーブと、軸受スリーブをインサート部品として射出成形したハウジングとを備える。このように、軸受スリーブをインサート部品としてハウジングを射出成形することで、軸受スリーブとハウジングとの組み付け工程を省略し、製造の簡略化が図られる。
【0004】
【特許文献1】特開2004−52999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、焼結金属製の軸受スリーブをインサート部品としてハウジングを射出成形した場合、ハウジングの内周面と軸受スリーブの外周面との固着力が問題となる。すなわち、軸受スリーブが焼結金属で形成される場合は、金型による圧粉成形やサイジング等を可能とするために、軸受スリーブの外周面形状は円筒面等の軸方向で一定の形状を成す必要がある。従って、軸受スリーブの外周面とハウジングの内周面とは円筒面同士で固定されるため、軸方向の力に対する抜去力が弱いという問題がある。
【0006】
本発明の課題は、軸受スリーブとハウジングとが強固に固定された流体軸受装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、軸部材と、焼結金属で形成され、内周に軸部材を挿入した軸受スリーブと、軸受スリーブを収容するハウジングとを備え、軸部材の外周面と軸受スリーブの内周面との間のラジアル軸受隙間に生じる流体膜で軸部材を回転自在に支持する流体軸受装置において、軸受スリーブの外周面の一部領域を除去して凹部を形成したことを特徴とする。
【0008】
このように、本発明の流体軸受装置では、軸受スリーブの外周面の一部領域を除去して凹部を形成する。これにより、例えば軸受スリーブをインサート部品としてハウジングを射出成形する場合、軸受スリーブの凹部にハウジングの射出材料が入り込み、この凹部とハウジングの材料とが軸方向で係合して両部材間の固定力が高められる。あるいは、軸受スリーブとハウジングとを接着固定する場合、軸受スリーブ外周面の凹部が接着剤溜りとなって、両部材間の固定力が高められる。
【0009】
このような凹部を機械加工で形成すると、機械加工による切削粉等が軸受内部にコンタミとして混入する事態を回避するため、このような切削粉等を完全に除去することを要し、コストアップを招く。また、機械加工によると、加工時に比較的大きな負荷が軸受スリーブに加わると共に、この負荷に耐え得る力で軸受スリーブをチャック装置等で固定する必要がある。このような加工時の負荷や固定による負荷が軸受スリーブの内周面に達し、この面が変形すると、ラジアル軸受隙間の幅精度が低下し、ラジアル方向の軸受性能が低下することとなる。これに対し、本発明のように凹部をレーザ加工で形成すれば、切削粉の発生がなく、これを除去する工程が不要であるため、機械加工よりも低コストに凹部を形成することができる。また、レーザ加工によると、加工時に軸受スリーブに加わる負荷が比較的小さく、軸受スリーブを比較的小さな力で固定することができるため、加工時の負荷や固定による負荷で内周面が変形する事態を回避することができる。
【0010】
軸受スリーブの外周面に接線方向からレーザを照射すれば、軸受スリーブを固定したまま、円周方向で比較的広い範囲に亘って凹部を形成することができるため、凹部による抜け止め効果を高めることができる。
【0011】
ところで、このような流体軸受装置の運転中、様々な要因によって内部空間を満たす潤滑流体の一部領域が負圧になる場合がある。かかる負圧の発生は、気泡の発生や潤滑油の漏れ、あるいは振動の発生等を招き、軸受性能低下の一因となる。この点に鑑み、軸受スリーブに貫通孔を形成すれば、この貫通孔を介して軸受内部の潤滑流体を循環させることができるため、局部的な負圧の発生を防止できる。また、軸受スリーブを焼結金属で形成する場合、レーザ加工によると、機械加工等と比べて容易に貫通孔を形成することができる。
【0012】
軸受スリーブの凹部と貫通孔とが円周方向同位置に形成されると、これらの形成位置における肉厚が局所的に薄肉となり、この部分の強度が不足する恐れがある。従って、凹部と貫通孔とは円周方向で異なる位置に形成することが望ましい。また、スラスト軸受面の外径端に貫通孔を開口させれば、スラスト軸受隙間の径方向全体に亘って潤滑流体を循環させることができるため、負圧の発生を確実に防止することができる。
【0013】
軸受スリーブに形成される凹部の半径方向深さは、浅すぎると十分なアンカー効果が得られず、深すぎると軸受スリーブの強度が不足する恐れがある。このため、例えばHDD用のスピンドルモータに組み込まれる軸径1mm程度の軸受装置の場合、凹部の半径方向深さを0.1mm以上、0.5mm以下とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、軸受スリーブと、これをインサート部品として射出成形したハウジングとが強固に固定された流体軸受装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は、本発明に係る軸受部品を有する流体軸受装置1(動圧軸受装置1)を組み込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示している。このスピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、軸部材2を回転自在に支持する動圧軸受装置1と、軸部材2に装着されたディスクハブ3と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4aおよびロータマグネット4bとを備えている。ステータコイル4aはブラケット5の外周に取付けられ、ロータマグネット4bはディスクハブ3の内周に取付けられる。動圧軸受装置1のハウジング7は、ブラケット5の内周に装着される。ディスクハブ3には、磁気ディスク等のディスクDが一又は複数枚保持される。ステータコイル4aに通電すると、ステータコイル4aとロータマグネット4bとの間の電磁力でロータマグネット4bが回転し、それによって、ディスクハブ3および軸部材2が一体となって回転する。
【0017】
図2に動圧軸受装置1を示す。この動圧軸受装置1は、軸部材2と、軸部材2を内周に収容した本発明に係る軸受部品としての軸受スリーブ8と、軸受スリーブ8を内周に配置したハウジング7と、ハウジング7の一端開口をシールするシール部材9と、ハウジング7の他端開口を封止する蓋部材10とを主要な構成部品として備える。なお、以下では、説明の便宜上、シール部材9の側を上側、これと軸方向反対側を下側として説明を進める。
【0018】
軸部材2は、例えば、ステンレス鋼等の金属材料で形成され、軸部2aと、軸部2aの下端に一体又は別体に設けられたフランジ部2bとを備えている。軸部材2は、その全体を金属材料で形成する他、例えばフランジ部2bの全体あるいはその一部(例えば両端面)を樹脂で構成し、金属と樹脂のハイブリッド構造とすることもできる。
【0019】
軸受スリーブ8は、焼結金属からなる多孔質体、例えば銅を主成分とする焼結金属の多孔質体で円筒状に形成される。軸受スリーブ8の内周面8aには、ラジアル動圧発生部として、例えば図3(a)に示すようなヘリングボーン状に配列した複数の動圧溝8a1、8a2が軸方向に離隔した2箇所の領域に形成されている。上側の各動圧溝8a1、8a2は、それぞれ環状(円筒面状)の平滑部から軸方向両側にヘリングボーン状に延びた丘部8a10、8a20(図3(a)にクロスハッチングで示す)の間に形成される。上側の動圧溝8a1は、丘部8a10の環状平滑部に対して軸方向非対称に形成されており、環状平滑部より上側領域の軸方向寸法X1が下側領域の軸方向寸法X2よりも大きくなっている(X1>X2)。動圧溝8a1、8a2、及び丘部8a10、8a20を除く軸方向領域は、動圧溝8a1、8a2と同じ外径寸法に形成され、且つ、動圧溝8a1、8a2と連続している。
【0020】
軸受スリーブ8の下側端面8bには、スラスト動圧発生部として、例えば図3(b)に示すようなスパイラル状に配列した複数の動圧溝8b1が形成されている。動圧溝8b1は、環状(中空円盤状)の平滑部から外径側へスパイラル状に延びた丘部8b10(図3(b)にクロスハッチングで示す)の間に形成される。動圧溝8b1の外径端は、下側端面8bの外径端まで達している。
【0021】
軸受スリーブ8の上側端面8cの半径方向略中央部には環状溝8c1が形成され、環状溝8c1よりも内径側の領域には、一又は複数の半径方向溝8c2が形成されている。本実施形態で、半径方向溝8c2は、円周方向の三箇所に等配されている。
【0022】
軸受スリーブ8の外周面8dの軸方向一部領域には凹部8d1が形成される。この凹部8d1にハウジング7の材料が入り込むことにより、抜け止めとして機能する。凹部8d1の形状や数、形成箇所は、抜け止めとして機能する限り限定されず、例えば図3に示す例では、外周面8dの円周方向等間隔の3箇所を、外周面8dの接線方向にレーザ加工で除去した切り欠き状に形成している(図3(b)参照)。この場合、凹部8d1形成領域はレーザ加工で溶融するため、この部分における軸受スリーブ8の表面開孔は封孔されている。また、軸径が1mm程度の場合、十分なアンカー効果を発揮し、且つ軸受スリーブ8の強度を維持するために、凹部の半径方向深さを0.1mm以上、0.5mm以下に設定することが好ましい。
【0023】
軸受スリーブ8には軸方向の貫通孔11が例えばレーザ加工により形成され、本実施形態では、図3(b)に示すように3本の貫通孔11が円周方向等間隔位置に形成されている。貫通孔11は、上側端面8c及び下側端面8bの外径端にそれぞれ開口する。本実施形態では、スラスト動圧発生部としての動圧溝8b1が下側端面8bの外径端まで形成されており、貫通孔11は動圧溝8b1形成部の外径端に開口する。この貫通孔11をレーザ加工で形成することにより、その内面が溶融し、内面の表面開孔が封孔されている。
【0024】
ハウジング7は略円筒状をなし、軸受スリーブ8をインサート部品とした樹脂の射出成形品である。ハウジング7に使用される樹脂材料のベース樹脂には、非晶性樹脂あるいは結晶性樹脂の何れも使用可能である。使用可能な非晶性樹脂としては、例えば、ポリサルフォン(PSU)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニルサルフォン(PPSU)、ポリエーテルイミド(PEI)等を挙げることができる。また使用可能な結晶性樹脂としては、例えば、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等を挙げることができる。上記のベース樹脂には、これに種々の特性を付与する充填材を添加することができる。使用可能な充填材の種類にも特段の限定はないが、例えば、ガラス繊維等の繊維状充填材、チタン酸カリウム等のウィスカー状充填材、マイカ等の鱗片状充填材、カーボンファイバー、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノマテリアル、金属粉末等の繊維状又は粉末状の導電性充填材を用いることができる。これらの充填材は、単独で用いる他、二種以上を混合して使用しても良い。また、樹脂以外にも、例えばアルミニウム合金等の低融点金属でハウジング7を射出成形することも可能である。あるいは、金属紛とバインダーの混合物で射出成形した後、脱脂・焼結するいわゆるMIM成形でハウジング7を形成することもできる。
【0025】
蓋部材10は、例えばステンレス鋼や黄銅等の金属材料で円盤状に形成される。蓋部材10の上側端面10aには、図示は省略するが、例えばスパイラル状に配列された複数の動圧溝が形成されている。
【0026】
シール部材9は、例えば、黄銅等の軟質金属材料やその他の金属材料、あるいは樹脂材料でリング状に形成される。シール部材9の内周面9aは、軸部2aの外周面2a1と所定のシール空間Sを介して対向する。シール部材9の下側端面9bの外径側領域9b1は、内径側領域よりも僅かに軸方向上方に後退させた状態に形成されている。
【0027】
上記の構成部材からなる動圧軸受装置1の製造工程を、軸受スリーブ8及びハウジング7の形成工程を中心に以下説明する。
【0028】
軸受スリーブ8は、以下のようにして形成される。まず、金属粉末を所定形状に圧粉成形した後、焼結することにより、大まかな寸法精度の軸受スリーブ8が形成される。この軸受スリーブ8に1次サイジングを施し、その形状を整える。1次サイジングは、図4に示すように、軸受スリーブ8の内周面8aにコアロッド22を挿入すると共に、軸受スリーブ8を上方及び下方から上パンチ23及び下パンチ24で拘束し、この状態で軸受スリーブ8の外周面8dをダイ21の内周面21aに圧入することにより行われる。このとき、ダイ21の内周面21aにより軸受スリーブ8の外周面8dを内径方向に圧迫することにより、軸受スリーブ8の内周面8aがコアロッド22の真円状外周面22aに押し付けられると同時に、軸受スリーブ8の上下端面8c及び8bが上パンチ23の端面23a及び下パンチ24の端面24aにそれぞれ押し付けられ、これにより軸受スリーブ8が所定の寸法精度に仕上げられる。
【0029】
次に、軸受スリーブ8に貫通孔11をレーザ加工により形成する。具体的には、図5(a)に示すように、軸受スリーブ8を段つき状の固定ピン32に外挿し、軸受スリーブ8の下側端面8bを固定ピン32の肩面32aに当接させて位置決め固定した状態で、軸受スリーブ8の上側端面8cにレーザ照射装置33からレーザLを照射して貫通孔11を形成する。このとき、貫通孔11の下端開口部が軸受スリーブ8の下側端面8bの外径端部に開口するように、レーザLの照射位置を設定する。尚、図示は省略しているが、レーザ照射装置33と軸受スリーブ8との間に、凸レンズや凹レンズを有するビーム径調整手段を配設することも可能である。かかるビーム径調整手段を設けることにより、形成すべき貫通孔11の孔径等に応じてビーム径を簡便に調整することが可能となる。
【0030】
レーザ照射装置33は、放電ランプや半導体レーザ等の励起源を備え、その先端部から軸受スリーブ8に向けてレーザビームLを照射するものであり、軸線と平行なレーザビームLを照射可能に配設される。レーザとしては、炭酸ガスレーザ、YAGレーザ、ファイバレーザ等公知の種々のレーザが使用可能である。また、レーザ照射装置33におけるレーザビームLの照射方式は、連続式またはパルス式の何れであっても良い。
【0031】
貫通孔11を1本形成したら、固定状態を維持したまま軸受スリーブ8の外周面8dの一部領域をレーザ加工で除去し、凹部8d1を形成する。本実施形態では、図5(b)に示すように、軸受スリーブ8の外周面8dのうち、貫通孔11を形成した場所と中心軸を挟んで対称位置に、レーザ照射装置34で外周面8dの接線方向からレーザLを照射し、軸受スリーブ8の一部を除去するようにして切り欠き状の凹部8d1を形成する。このように、凹部8d1を接線方向の切り欠き状とすれば、軸受スリーブ8を固定した状態で、円周方向で比較的広い範囲に凹部8d1を形成することができる。
【0032】
貫通孔11及び凹部8d1を一箇所ずつ形成した後、軸受スリーブ8とレーザ照射装置33とを円周方向に120°だけ相対回転させ、上記と同様にして軸受スリーブ8の別の箇所に貫通孔11及び凹部8d1を形成する。その後、軸受スリーブ8とレーザ照射装置33とを円周方向にさらに120°だけ相対回転させ、別の箇所に貫通孔11及び凹部8d1を形成する。これにより、円周方向等間隔位置の3箇所に貫通孔11を形成すると共に、各貫通孔11の円周方向中間部に凹部8d1が形成される。このように、貫通孔11と凹部8d1との円周方向位置を異ならせることで、軸受スリーブ8の肉厚が局部的に薄くなる事態を回避し、軸受スリーブ8の強度の低下を防止できる。尚、複数の貫通孔11及び凹部8d1の形成方法はこれに限られず、例えばレーザ照射装置33を円周方向の複数箇所に配設することにより、あるいは複数のレーザビームLを照射できるレーザ照射装置を用いることにより、複数の貫通孔11及び凹部8d1を同時に形成することも可能である。
【0033】
次に、軸受スリーブ8に溝サイジングを施し、内周面8a及び下側端面8bに動圧溝を形成する。この溝サイジングは、図6に示すようなダイ41、コアロッド42、及び上下パンチ43、44を用いて行う。コアロッド42の外周面42aには、軸受スリーブ8の内周面8aに動圧溝8a1、8a2(図3(a)参照)を形成するための成形型42a1、42a2が形成される。この成形型42a1、42a2は、図3(a)にクロスハッチングで示す丘部8a10、8a20の形状に対応した凹部で構成される。また、下パンチ44の端面44aには、軸受スリーブ8の下側端面8bに動圧溝8b1(図3(b)参照)を形成するための成形型44a1(図6に点線で示す)が形成される。この成形型44a1は、図3(b)にクロスハッチングで示す丘部8b10の形状に対応した凹部で構成される。
【0034】
溝サイジングは、上記の1次サイジングと同様に、軸受スリーブ8の内周にコアロッド42を挿入し、上下方向から上パンチ43及び下パンチ44で拘束した状態で軸受スリーブ8をダイ41の内周に圧入して行われる。このとき、ダイ41からの圧迫力により、軸受スリーブ8の内周面8aがコアロッド42の外周面42aの成形型42a1、42a2に押し付けられ、これにより軸受スリーブ8の内周面8aに成形型42a1、42a2の形状が転写され、動圧溝8a1、8a2が形成される。同時に、軸受スリーブ8の下側端面8bが下パンチ44の端面44aに形成された成形型44a1に押し付けられ、これにより軸受スリーブ8の下側端面8bに動圧溝8b1が形成される。
【0035】
以上のようにして動圧溝8a1、8a2、8b1を形成した後、洗浄することにより、図3に示す軸受スリーブ8が完成する。尚、以上の説明において、軸受スリーブ8の上側端面8cに形成される環状溝8c1や半径方向溝8c2を省略しているが、これらは、例えば上記の圧粉成形工程、1次サイジング工程、あるいは溝サイジング工程のうちの何れかの工程で、金型に環状溝8c1及び半径方向溝8c2に対応した成形部を設け、この成形部を上側端面8cに押し付けることにより形成することができる。
【0036】
上記のように、1次サイジング工程の後に貫通孔11を形成することにより、1次サイジング工程で寸法精度が高められた軸受スリーブ8の内周面8aに固定ピン32の外周面32aと嵌合させることで、軸受スリーブ8を精度良く位置決めすることができる。この状態で貫通孔11を形成することで、貫通孔11の形成精度を高めることができる。尚、軸受スリーブ8の製造工程は上記に限らず、例えば、貫通孔11の形成精度が十分に確保できるのであれば、1次サイジング工程の前や、あるいは溝サイジング工程の後に貫通孔11を形成してもよい。
【0037】
次に、この軸受スリーブ8をインサート部品として、ハウジング7を射出成形する工程を示す。この工程で使用する金型は、例えば図7に示すように、固定型51および可動型52からなり、両型51、52でハウジング7形状に対応したキャビティ53が構成される。固定型51には、キャビティ53内に溶融樹脂Pを射出するゲート54が設けられる。ゲート54形状は、成形すべきハウジング7の形状に対応させた任意形状のものが選択可能である。尚、本実施形態のゲート54は、円周方向等間隔の3箇所に設けられる。このように、ゲートを円周方向等間隔の複数箇所に設けることにより、キャビティに均等に材料を射出することができるため、射出圧や樹脂の成形収縮等により軸受スリーブ8が不均等に変形する事態を防止することができる。可動型52の軸線上には固定ピン55が設けられる。軸受スリーブ8は、固定ピン55の外周55aに半径方向移動が規制される程度の嵌め合いで嵌合されると共に、可動型52の端面55bに当接することで、可動型52に対して位置決めされる。この状態で、可動型52を固定型51に接近させて型締めする。
【0038】
型締め完了後、ゲート54を介してキャビティ53内に溶融樹脂Pを射出・充填し、ハウジング7を軸受スリーブ8と一体に型成形する。このとき、軸受スリーブ8の外周面8dに形成された凹部8d1にも射出材料が入り込む。一方、軸受スリーブ8の両端面8b、8cに開口した貫通孔11の開口部は、固定型51の端面51a及び可動型52の端面52aで密閉され、キャビティ53から離隔しているため、貫通孔11の内部に溶融樹脂が入り込むことはない。溶融樹脂Pの固化完了後型開きを行うと、ハウジング7および軸受スリーブ8の一体品が得られる。
【0039】
以上のようにして製造されたハウジング7及び軸受スリーブ8の一体品の内周に軸部材2を挿入し、ハウジング7の上端開口および下端開口にシール部材9および蓋部材10をそれぞれ接着、圧入等適宜の手段で固定する。その後、シール部材9で密封された軸受の内部空間に軸受スリーブ8の内部空孔、貫通孔11も含め潤滑油を充満させることにより、図2に示す動圧軸受装置1が完成する。
【0040】
以上の構成からなる動圧軸受装置1において、軸部材2が回転すると、軸受スリーブ8の内周面8aと軸部2aの外周面2a1との間にラジアル軸受隙間が形成される。そして、軸受スリーブ8の内周面8aに形成された動圧溝8a1、8a2の動圧作用によって、ラジアル軸受隙間の油膜の圧力が高められ、この圧力によって軸部材2がラジアル方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2をラジアル方向に回転自在に非接触支持する第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2とが形成される。
【0041】
また、軸部材2が回転すると、軸受スリーブ8の下側端面8bとフランジ部2bの上側端面2b1との間にスラスト軸受隙間が形成されると共に、蓋部材10の上側端面10aとフランジ部2bの下側端面2b2との間にスラスト軸受隙間が形成される。そして、軸受スリーブ8の下側端面8bに形成された動圧溝8b1、及び蓋部材10の上側端面10aに形成された動圧溝の動圧作用によって各スラスト軸受隙間に形成される油膜の圧力が高められ、この圧力によって軸部材2が両スラスト方向に回転自在に非接触支持される。これにより、軸部材2を両スラスト方向に回転自在に非接触支持する第1スラスト軸受部T1と第2スラスト軸受部T2とが形成される。
【0042】
また、軸部材2の回転時には、上述のように、シール空間Sが軸受の内部側に向かって漸次縮小したテーパ形状を呈しているため、シール空間S内の潤滑油は毛細管力による引き込み作用により、シール空間が狭くなる方向、すなわち軸受の内部側に向けて引き込まれる。これにより、軸受の内部からの潤滑油の漏れ出しが効果的に防止される。また、シール空間Sは、軸受の内部空間に充満された潤滑油の温度変化に伴う容積変化量を吸収するバッファ機能を有し、想定される条件変化の範囲内では、潤滑油の油面は常にシール空間S内にある。
【0043】
また、上側の動圧溝8a1は、軸方向中央部に形成された環状平滑部に対して軸方向非対称に形成されており、環状平滑部より上側領域の軸方向寸法X1が下側領域の軸方向寸法X2よりも大きくなっている(X1>X2)。そのため、軸部材2の回転時、動圧溝8a1による潤滑油の引き込み力(ポンピング力)は上側領域が下側領域に比べて相対的に大きくなる。そして、この引き込み力の差圧によって、ラジアル軸受隙間に満たされた潤滑油が下方に押し込まれ、第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間→貫通孔11→シール部材9の下側端面9bの外径側領域9b1と軸受スリーブ8の上側端面8cとの間の環状隙間→軸受スリーブ8の上側端面8cの環状溝8c1→軸受スリーブ8の上側端面8cの半径方向溝8c2という経路を循環して、第1ラジアル軸受部R1のラジアル軸受隙間に再び引き込まれる。
【0044】
このように、潤滑油が軸受の内部空間を流動循環するように構成することで、内部空間内の潤滑油の圧力が局部的に負圧になる現象を防止して、負圧発生に伴う気泡の生成、気泡の生成に起因する潤滑油の漏れや軸受性能の劣化、振動の発生等の問題を解消することができる。また、何らかの理由で潤滑油中に気泡が混入した場合でも、気泡が潤滑油に伴って循環する際にシール空間S内の潤滑油の油面(気液界面)から外気に排出されるので、気泡による悪影響はより一層効果的に防止される。
【0045】
特に、図2に示すように、貫通孔11を軸受スリーブ8の下側端面8b(スラスト動圧発生部形成領域)の外径端部に開口させることにより、第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間の全域において潤滑油を循環させることができるため、第1スラスト軸受部T1周辺における負圧の発生をより確実に防止することができる。
【0046】
また、本実施形態のようにスラスト動圧発生部がポンプインタイプのスパイラル形状の動圧溝8b1である場合は、動圧溝8b1形成領域の内径端(丘部8b10の環状平滑部)で圧力が最も高められ、外径端で圧力が最も低くなる。従って、貫通孔11を下側端面8bの外径端に形成することで、圧力が高められた潤滑油が貫通孔11に抜けて軸受性能を低下させる事態を回避することができる。
【0047】
また、貫通孔11の内面には焼結金属による表面開口が形成されているが、本発明では貫通孔11をレーザ加工で形成するため、レーザ加工により貫通孔11の内面が溶融し、内面の表面開口が封口される。このため、軸部材2の回転により軸受内部の潤滑油が循環する際、貫通孔11の内部を流動する潤滑油が貫通孔11の内面の表面開口から軸受スリーブ8内部へ抜ける事態を防ぎ、効率よく潤滑油を循環させることができる。
【0048】
本発明の実施形態は上記に限られない。以下、本発明の他の実施形態について説明する。尚、以下の説明において、上記の実施形態と同様の構成、機能を有する箇所には同一の符号を付して説明を省略する。
【0049】
以上の実施形態では、軸受スリーブ8の外周面8dに形成した凹部が、外周面8dを接線方向に除去した切り欠き状を成しているが、凹部の形状はこれに限られない。例えば、図8に示すように、軸受スリーブ8の外周面8dに斜め上方からレーザLを照射して、内径へ向けて下方へ傾斜した凹部8d1を形成してもよい。この斜めの凹部8d1にハウジング7の材料を入り込ませることにより、優れたアンカー効果を発揮することができる。この他、例えば、軸受スリーブの外周面に多数の凹部をディンプル状に形成したり、軸受スリーブを回転させながらレーザを照射することにより、外周面の全周に環状の凹部を形成してもよい(図示省略)。また、切削粉の混入や、チャック固定による変形の問題がなければ、凹部8d1を機械加工で形成することもできる。
【0050】
また、以上の実施形態では、軸受スリーブ8をインサート部品としてハウジング7を射出成形する場合を示しているが、これに限られない。例えば、図示は省略するが、円筒面状の内周面を有するハウジングと軸受スリーブとをそれぞれ別途形成し、これらを接着固定してもよい。この場合、軸受スリーブ外周面の軸方向一部領域に形成した凹部が接着剤溜りとなり、両部材の固定力が高められる。
【0051】
また、以上の実施形態では、貫通孔11が、軸受スリーブ8の下側端面8bの外径端部で、且つ、外周チャンファの内径側に開口しているが、これに限らず、例えば貫通孔11の開口部の一部が下側端面8bの外周チャンファにかかってもよい。この場合、外周チャンファにも貫通孔11の形成によるドロス等が付着することがあるが、この部分のドロス等はスラスト軸受隙間に面さないため、スラスト方向の軸受性能を低下させることはない。
【0052】
また、以上の実施形態では、ラジアル動圧発生部としてヘリングボーン形状の動圧溝8a1、8a2が形成されているが、これに限らず、例えばスパイラル形状の動圧溝やステップ軸受、あるいは多円弧軸受を採用してもよい。あるいは、動圧発生部を設けず、軸部材2の外周面2a1及び軸受スリーブ8の内周面8aを共に円筒面としたいわゆる真円軸受を構成してもよい。
【0053】
また、以上の実施形態では、スラスト動圧発生部としてスパイラル形状の動圧溝が形成されているが、これに限らず、例えばヘリングボーン形状の動圧溝やステップ軸受、あるいは波型軸受(ステップ型が波型になったもの)等を採用することもできる。
【0054】
また、以上の実施形態では、動圧発生部が軸受スリーブ8の内周面8a、および蓋部材10の上側端面10aに形成されているが、それぞれと軸受隙間を介して対向する面、すなわち軸部2aの外周面2a1、およびフランジ部2bの下側端面2b2に動圧発生部を設けてもよい。
【0055】
また、以上の実施形態では、ラジアル軸受部R1、R2が軸方向で離隔して設けられているが、これらを軸方向で連続的に設けてもよい。あるいは、これらの何れか一方のみを設けてもよい。
【0056】
また、以上の実施形態では、動圧軸受装置1の内部に充満し、ラジアル軸受隙間や、スラスト軸受隙間に動圧作用を生じる流体として、潤滑油を例示したが、それ以外にも各軸受隙間に動圧作用を発生可能な流体、例えば空気等の気体や、磁性流体、あるいは潤滑グリース等を使用することもできる。
【0057】
また、本発明の方法で製造された軸受部品を有する動圧軸受装置は、上記のようにHDD等のディスク駆動装置に用いられるスピンドルモータに限らず、光ディスクの光磁気ディスク駆動用のスピンドルモータ等、高速回転下で使用される情報機器用の小型モータ、レーザビームプリンタのポリゴンスキャナモータ等における回転軸支持用、あるいは電気機器の冷却ファン用のファンモータとしても好適に使用することができる。
【実施例1】
【0058】
図2に示すように、外周面の一部領域に凹部を形成した軸受スリーブをインサート部品としてハウジングを射出成形した実施品と、外周面が円筒面状である軸受スリーブをインサート部品としてハウジングを射出成形した比較品とを準備し、それぞれについて軸受スリーブとハウジングとの抜去力を測定した。その結果、比較品の抜去力は60Nであったのに対し、実施品の抜去力は270Nであった。これにより、本発明により軸受スリーブとハウジングとの抜去力が向上することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】動圧軸受装置を組み込んだモータを示す断面図である。
【図2】動圧軸受装置の断面図である。
【図3】(a)は、軸受スリーブの断面図、(b)は、軸受スリーブの下面図である。
【図4】焼結体の1次サイジング工程を示す断面図である。
【図5】(a)はレーザ加工で貫通孔を形成する様子を示す縦断面図であり、(b)はレーザ加工で凹部を形成する様子を示す上面図である。
【図6】焼結体の溝サイジング工程を示す断面図である。
【図7】ハウジングの射出成形工程を示す断面図である。
【図8】軸受スリーブの外周面にレーザ加工で凹部を形成する様子の他の例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 流体軸受装置(動圧軸受装置)
2 軸部材
7 ハウジング
8 軸受スリーブ
8d1 凹部
11 貫通孔
9 シール部材
10 蓋部材
13 レーザ照射装置
32 固定ピン
L レーザ
R1、R2 ラジアル軸受部
T1、T2 スラスト軸受部
S シール空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材と、内周に軸部材を挿入した焼結金属製の軸受スリーブと、軸受スリーブを収容するハウジングとを備え、軸部材の外周面と軸受スリーブの内周面との間のラジアル軸受隙間に生じる流体膜で軸部材を回転自在に支持する流体軸受装置において、
軸受スリーブの外周面の軸方向一部領域を除去して凹部を形成したことを特徴とする流体軸受装置。
【請求項2】
前記軸受スリーブをインサート部品としてハウジングを射出成形した請求項1記載の流体軸受装置。
【請求項3】
前記凹部がレーザ加工で形成された請求項1記載の流体軸受装置。
【請求項4】
前記凹部が、軸受スリーブの外周面の接線方向に沿って形成された請求項1記載の流体軸受装置。
【請求項5】
前記軸受スリーブに、レーザ加工で貫通孔を形成した請求項1記載の流体軸受装置。
【請求項6】
前記貫通孔と前記凹部とを異なる円周方向位置に設けた請求項5記載の流体軸受装置。
【請求項7】
前記軸受スリーブの端面にスラスト軸受面を形成し、このスラスト軸受面の外径端に前記貫通孔を開口させた請求項5記載の流体軸受装置。
【請求項8】
前記凹部の半径方向深さを0.1mm以上、0.5mm以下とする請求項1記載の流体軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−79679(P2009−79679A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249318(P2007−249318)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】