説明

流動床ガス化装置及び石炭ガス化複合発電システム

【課題】 ガス化炉の内部に存する流動床の高さ方向における温度差をなくし、ガス化炉の底部における温度を下げることにより、凝集粒子の発生を防止することのできる流動床ガス化装置および石炭ガス化複合発電システムを提供することを目的とする。
【解決手段】 固体燃料と酸素を含むガスが供給され、前記固体燃料をガス化し燃料ガスを発生させるガス化炉2を具備する流動床ガス化装置であって、前記ガス化炉2の底部に、当該ガス化炉2の内部に酸素を含むガスを供給する第1のガス供給手段2aが設けられているとともに、前記ガス化炉2の胴体部に、当該ガス化炉2の内部に酸素を含むガスを供給する第2のガス供給手段2bが少なくとも一つ設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火力発電設備や燃料ガス製造設備等において石炭のガス化に使用される流動床ガス化装置およびこれを備えた石炭ガス化複合発電システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から石炭火力プラントの発電効率向上のために、石炭ガス化複合発電システムの開発が進められており、たとえば、そのシステムの一例として、ガス化炉、脱硫炉、酸化炉、脱塵装置、ガスタービン、蒸気タービン、脱硝装置などから構成されたシステムが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−227205号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような従来の石炭ガス化複合発電システムのガス化炉では、酸素を含むガス(「ガス化剤」ともいう)の供給が、当該ガス化炉の底部に設けられたガス供給路(第1のガス供給手段)を介してのみ行われていた。そのため、図3の右側の図の左側の細い実線(現状)に示すように、ガス化炉の底部(図3において+0の位置)とガス化炉の中間部(図3において+1500mmの位置および+2500mmの位置)とで温度差が生じてしまう、すなわち、ガス化炉の内部に存する流動床の高さ方向(言い換えれば、ガス化炉の高さ方向)に温度差(たとえば、流動床の高さが6mのものでは50℃)が生じてしまうこととなる。
なお、図3の左側の図は図2と同様、ガス化炉の要部断面図であって、図3の右側の図は図3の左側の図に対応した位置におけるガス化炉内の温度を示すグラフである。図3の右側の図において、左側の細い実線の傾きが下側(+1500mmよりも下の領域)と上側とで異なる理由は、下側では、炉の底部から急激に多量の酸素を含んだガスが流し込まれることにより燃焼が促進されるとともに、炉径が上側に比べて小さいので温度差がつきやすく、温度勾配が急になり、一方、上側では、炉径が拡径し、炉の底部から流し込まれた酸素が燃焼に使われて酸素濃度が低くなり、発熱量が少なくなって、温度勾配が緩やかになるからである。
【0004】
現状では、流動床全体の平均温度がガス化の最適温度になるように設定しているため、ガス化炉の底部で流動床の温度が高くなりすぎてしまう。流動床の温度が高くなり、石炭中の灰分の軟化溶融温度以上となると、灰分が、軟化溶融したり、石炭粒子間でバインダーの役目を果たすなどして、凝集粒子(アグロメレーション粒子)が形成される。
ガス化炉内や、石炭、流動床を形成するためのガス、石炭を燃焼させる酸素を含む燃焼ガス等を供給する配管内等に凝集粒子が形成されると、それらの供給や装置内での物質流動がうまくいかず、適正な温度調節や流動床形成、燃料の燃焼等が困難になってしまう。
更に、生成した凝集粒子を除去するために、装置を長時間停止する必要が生じてしまう。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、ガス化炉の内部に存する流動床の高さ方向における温度差をなくし、ガス化炉の底部における温度を下げることにより、凝集粒子の発生を防止することのできる流動床ガス化装置および石炭ガス化複合発電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用した。
請求項1に記載の流動床ガス化装置は、固体燃料と酸素を含むガスが供給され、前記固体燃料をガス化し燃料ガスを発生させるガス化炉と、前記ガス化炉で発生した燃料ガスおよび炭酸カルシウムを含有する脱硫剤が供給され、燃料ガスと脱硫剤中の炭酸カルシウムの接触反応により燃料ガス中に含まれる硫化水素を硫化カルシウムとして除去する脱硫炉と、前記ガス化炉から排出されたガス化残渣、前記脱硫炉から排出された脱硫剤、および酸素を含むガスとが供給され、酸素を含むガスによりガス化残渣を燃焼させるとともに脱硫剤中の硫化カルシウムを酸素との反応により硫酸カルシウムに転換させる酸化炉と、を具備する流動床ガス化装置であって、前記ガス化炉の底部に、当該ガス化炉の内部に酸素を含むガスを供給する第1のガス供給手段が設けられているとともに、前記ガス化炉の胴体部に、当該ガス化炉の内部に酸素を含むガスを供給する第2のガス供給手段が少なくとも一つ設けられていることを特徴とする。
このような流動床ガス化装置によれば、ガス化炉の胴体部、すなわち、第1のガス供給手段よりも鉛直上方に少なくとも一つの第2のガス供給手段が設けられており、この第2のガス供給手段を介して炉内の流動床層内に酸素を含むガスが供給され、燃料ガスが燃焼して、胴体部内部における流動床の温度が上昇する。これにより、流動床層内の温度差が低減される(温度が均一化される)とともに、ガス化炉の底部における流動床の温度を従来よりも低くすることができ、凝集粒子(アグロメレーション粒子)の形成が抑制されることになる。「固体燃料」としては、石炭が好適である。
【0007】
請求項2に記載の流動床ガス化装置は、前記第2のガス供給手段が、前記胴体部の高さ方向において異なる位置に設けられていることを特徴とする。
このような流動床ガス化装置によれば、流動床の高さ方向において流動床層内の温度差が低減される。
【0008】
請求項3に記載の流動床ガス化装置は、前記第2のガス供給手段と略同一の高さに、前記ガス化炉の内部温度を測定する温度センサがそれぞれ設けられているとともに、これら温度センサからの信号に基づいて、前記第2のガス供給手段から前記ガス化炉の内部に供給されるガスの量をそれぞれ制御する制御手段が設けられていることを特徴とする。
このような流動床ガス化装置によれば、第2のガス供給手段に対応して設けられた各温度センサからの信号に基づいて、第2のガス供給手段からガス化炉の胴体内部に供給されるガス量がそれぞれ制御手段により逐一調整されることになり、請求項2のものよりも更に流動床の高さ方向において流動床層内の温度差が低減される。
【0009】
請求項4に記載の石炭ガス化複合発電システムは、請求項1から3のいずれか一項に記載の流動床ガス化装置を具備してなることを特徴とする。
このような石炭ガス化複合発電システムによれば、凝集粒子の発生を防止することのできる流動床ガス化装置を具備しているので、石炭ガス化複合発電システムが常に良好な状態で運転され、システムの稼働率が向上するとともに、運転コストの低減が図られることとなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
ガス化炉の底部とガス化炉の中間部との温度差を低減させることができて、ガス化炉の底部における温度を従来のように上げる必要がなくなるので、凝集粒子の発生を抑制することができて、温度調節や流動床形成、燃料の燃焼等を良好な状態に維持することができる、
また、生成した凝集粒子を除去するために、装置を長時間停止する必要がなくなり、装置の稼働率を向上させることができる。
さらに、流動床の温度を上げるために、多量の燃料を使用する必要もなくなるので、運転コストを低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明による流動床ガス化装置およびこれを備えた石炭ガス化複合発電システムの一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る石炭ガス化複合発電システム1は、ガス化炉(「部分ガス化炉」とも呼ばれる)2、脱硫炉3、および酸化炉4からなる流動床ガス化装置6と、生成ガス冷却器7と、第1のサイクロン8と、精密脱塵装置9と、空気圧縮機10と、ガスタービン燃焼器11と、ガスタービン12と、ガスタービン付き発電機12aと、排熱回収ボイラ13と、煙突14と、復水器15と、蒸気タービン16と、蒸気タービン付き発電機16aと、第2のサイクロン17とを主たる要素として構成されたものである。
【0012】
まず、本実施形態に含まれる主要な構成要素について概説する。
ガス化炉2は、石炭を石炭ガス化ガス(以下、「燃料ガス」という)に転換するためのものであって、このガス化炉2では、石炭と空気および酸化炉4からの燃焼ガスが供給され、石炭のガス化により、COやCHおよびHを可燃成分とする燃料ガスとチャーが生成される。なお、チャーとは石炭をガス化した際に残存する炭素質多孔材(未燃炭素および灰分を含む)のことである。
【0013】
図2に示すように、本実施形態におけるガス化炉2には、酸素を含むガス(たとえば、酸素、ガス(燃焼空気)、空気、蒸気などのいわゆるガス化剤)を炉内底部(この位置を+0とする)に供給するガス供給路(第1のガス供給手段)2aが設けられているとともに、このガス供給路2aから鉛直上方に1500mm及び2500mm離間した炉内の流動床に、ガス供給路2aと同様、酸素を含むガスを供給する、流動材滞留・アグロメ防止の円錐キャップ付きノズル(第2のガス供給手段)2bがそれぞれ設けられている。
また、図2に示すように、ガス化炉2内の、各ノズル2bの先端、すなわち、各ノズル2bのガス吹き出し口と略同じ高さにそれぞれ、炉内の温度(すなわち、流動床の温度)を測定する温度センサ5aが設けられ、かつこれら温度センサ5aからの信号に基づいて各ノズル2bから吹き出されるガスの量を調節(制御)する制御器(制御手段)5bが設けられている。
【0014】
脱硫炉3は、燃料ガス中の硫黄分を石灰石中にCaSとして固定・脱硫するための炉であって、この脱硫炉3では、石灰石を用いて、ガス化炉2で生成した燃料ガス中に含まれるHSの脱硫が行われる。次式に高温乾式石灰石脱硫の反応式を示す。
1)CaCO→CaO+CO(カルシネーション反応)
2)CaO+HS→CaS+H
また、CaSはそのまま排出すると大気中では吸湿しHSを発生するため、酸化炉4で処理される。
酸化炉4はチャーを燃焼させるとともに、CaSを酸化させるものであって、酸化炉4では、ガス化炉2から供給されるチャーの燃焼および脱硫炉3から供給されるCaSの酸化(石膏化(CaCO化))が行われる。燃焼ガスはガス化炉2へ供給され、石炭灰および石膏は酸化炉4から排出される。
【0015】
次に、本実施形態に係る石炭ガス化複合発電システムの作用を説明する。
まず、ガス化炉2に石炭と酸化ガス(空気)を供給すると、ガス化炉2において、石炭が酸化ガス中の酸素と、酸化炉4からの燃焼ガスによりガス化される。これによって、石炭が燃料ガスとチャーとに転換される。生成したチャーは酸化炉4に送られる。次いで、燃料ガスは、脱硫炉3に送られる。脱硫炉3においては、石灰石が供給されて石灰石の流動床が形成され、燃料ガスは、その流動床の流動化ガスの役割を果たす。ここで、燃料ガス中の硫黄分(HS及びCOS)が石灰石中にCaSとして固定され脱硫が行われる。残存する脱硫剤であるCaSを含む石灰石は、酸化炉4に送られる。石灰石の抜き出し量は、図示しない脱硫剤移送装置により調整することができる。
【0016】
脱硫後の燃料ガスは、生成ガス冷却器7で冷却された後、第1のサイクロン8に送られる。第1のサイクロン8では、CaS及び残存するチャーが分離されて酸化炉4に送られる。酸化炉4では、主として石灰石(脱硫剤)により流動床が形成される。この流動床にはチャーと石灰石等が供給される。流動床は、炉底から供給される空気と水蒸気とによって流動化される。流動床内では、チャーは燃焼反応によって速やかにガスと灰分に転換されるのに対して、石灰石中のCaSはゆっくりとCaSOに転換されるので、流動床の流動化粒子は石灰石が主体となる。酸化炉4の流動床には熱交換器4bが設置されており、流動床の熱を吸収することにより、流動床の温度が適正な温度(850℃〜1050℃)に維持される。この温度範囲では、CaSをCaSOとする反応が生じるとともに、副反応で生じたSOをCaOと反応させてCaSOとする反応が進行し、しかも灰や脱硫剤が軟化することがない。
【0017】
酸化炉4から排出される燃焼ガスは、第2のサイクロン17を経てガス化炉2に送られる。第2のサイクロン17では、燃焼ガスから石膏及び灰分が除去される。一方、燃料ガスは、生成ガス冷却器7及び第1のサイクロン8を経て精密脱塵装置(「セラミックフィルタ」とも呼ばれる)9に送られ、この精密脱塵装置9で脱塵(除塵)される。そして、このガスは、ガスタービン12のガスタービン燃焼器11に送られる。ガスタービン燃焼器11は、空気圧縮機10からの空気で燃料ガスを燃焼させ、膨張側のタービンを回転させるとともにガスタービン付き発電機12aを回転させて発電を行う。タービンを回転させた後の排ガスは、排熱回収ボイラ13へ送られて排熱回収が行われた後、煙突14から大気中に放出される。
【0018】
排熱回収ボイラ13では排熱回収により蒸気が発生する。排熱回収ボイラ13で発生した蒸気の一部は、図1において破線矢印で示すように、生成ガス冷却器7→酸化炉4の熱交換器4b→蒸気タービン16→復水器15→排熱回収ボイラ13の経路を循環するようになっている。また、蒸気が蒸気タービン16を通過する際には、上述したガスタービン12と同様、タービンを回転させるとともに蒸気タービン付き発電機16aを回転させて発電を行うようになっている。
【0019】
このように、本実施形態では、ガス化炉2のガス供給路2aよりも上方で、かつ異なる高さにノズル2bが設けられており、これらガス供給路2aおよびノズル2bを介して炉内の流動床層内に酸素を含むガスが供給されることにより、燃料ガスが燃焼し、ガス化炉2の温度が、その上下方向(鉛直方向)において略均一となる。すなわち、図3の右側の太い実線(改善後)に示すように、ガス化炉2の底部(図3において+0の位置)とガス化炉の中間部(図3において+1500の位置および+2500の位置)との温度差を低減させることができる。
これにより、ガス化炉2の底部における温度を従来のように上げておく必要がなくなるので、凝集粒子の発生を抑制することができて、温度調節や流動床形成、燃料の燃焼等を良好な状態に維持することができる、
更に、生成した凝集粒子を除去するために、装置を長時間停止する必要がなくなり、装置の稼働率を向上させることができる。
【0020】
また、温度センサ5a及び制御手段5bが設けられていることにより、ガス化炉2の中間部における温度調節をよりきめ細かく行うことができるようになるので、ガス化炉2の底部とガス化炉の中間部との温度差をさらに低減させることができて、凝縮粒子の発生をさらに抑制することができる。
【0021】
なお、本実施形態では同じ高さ位置にそれぞれ一つずつのノズルを設けるようにしているが、炉径が大きくなった場合には同じ高さ位置におけるノズルの数を周方向に二つ以上配置して、温度差を周方向にも均一化させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による流動床ガス化装置の一実施形態を具備した石炭ガス化複合発電システムの概略構成図である。
【図2】図1に示すガス化炉の要部拡大図である。
【図3】ガス化炉内の底部からの高さと炉内温度(流動床の温度)との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0023】
1 石炭ガス化複合発電システム
2 ガス化炉
2a ガス供給路(第1のガス供給手段)
2b ノズル(第2のガス供給手段)
3 脱硫炉
4 酸化炉
5a 温度センサ
5b 制御器(制御手段)
6 流動床ガス化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体燃料と酸素を含むガスが供給され、前記固体燃料をガス化し燃料ガスを発生させるガス化炉と、
前記ガス化炉で発生した燃料ガスおよび炭酸カルシウムを含有する脱硫剤が供給され、燃料ガスと脱硫剤中の炭酸カルシウムの接触反応により燃料ガス中に含まれる硫化水素を硫化カルシウムとして除去する脱硫炉と、
前記ガス化炉から排出されたガス化残渣、前記脱硫炉から排出された脱硫剤、および酸素を含むガスとが供給され、酸素を含むガスによりガス化残渣を燃焼させるとともに脱硫剤中の硫化カルシウムを酸素との反応により硫酸カルシウムに転換させる酸化炉と、を具備する流動床ガス化装置であって、
前記ガス化炉の底部に、当該ガス化炉の内部に酸素を含むガスを供給する第1のガス供給手段が設けられているとともに、前記ガス化炉の胴体部に、当該ガス化炉の内部に酸素を含むガスを供給する第2のガス供給手段が少なくとも一つ設けられていることを特徴とする流動床ガス化装置。
【請求項2】
前記第2のガス供給手段が、前記胴体部の高さ方向において異なる位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の流動床ガス化装置。
【請求項3】
前記第2のガス供給手段と略同一の高さに、前記ガス化炉の内部温度を測定する温度センサがそれぞれ設けられているとともに、これら温度センサからの信号に基づいて、前記第2のガス供給手段から前記ガス化炉の内部に供給されるガスの量をそれぞれ制御する制御手段が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の流動床ガス化装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の流動床ガス化装置を具備してなることを特徴とする石炭ガス化複合発電システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−91786(P2007−91786A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−279566(P2005−279566)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】