説明

流動性食品材料の連続通電加熱方法

【課題】 流路内を流れる流動性食品材料に通電して連続加熱する方法において、電極表面の温度上昇を抑え、よって加熱ムラや電極表面での突沸の発生、さらにはスケーリング、スパークの発生を抑える。
【解決手段】 流路における流動性食品材料に接する位置に、間隔を置いてTiまたはTi合金製の2以上の電極を設けておき、流動性食品材料を連続的に流動移送させながら、電極間に1〜50kHzの高周波電流を通電して、流動性食品材料を連続的に通電加熱する方法において、通電電流値I(アンペア)と各電極における流動性食品材料に接触する面の面積S(mm2)との比I/Sが0.8以下となるように通電電流値を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、連続的に流動移送可能な程度の流動性を有する食品材料、例えば液状食品材料、固体−液体混合食品材料、ゲル状食品材料などについて、殺菌や調理などのために流路内で連続的に流動移送させながら通電加熱する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流動性を有する食品材料を殺菌や調理等のために加熱する方法の一つとしては、その流動性食品を、ポンプ等の圧力によって管路などの所定の流路内を連続的に流動移送させつつ、その流路内で連続的に加熱する方法がある。このように流路内を連続的に流動移送させつつ流動性食品材料を連続加熱する方法によれば、流路内で連続的に加熱された食品材料をそのまま連続的に容器に充填することができるため、加熱から充填までの作業を完全連続化することができる。
【0003】
従来前述のように流路内を連続的に流動移送される食品材料を連続的に加熱するための方法として、食品材料の有する電気抵抗を利用して、食品材料に直接通電して発熱させる通電加熱(ジュール加熱)を利用する方法が実用化されている。このように通電加熱を適用して流路内を連続的に流れる流動性食品材料を連続的に加熱する装置は、いわゆる対向電極を用いたものと、環状電極を用いたものとに大別される。
【0004】
前者の対向電極を用いた連続通電加熱装置は、例えば流路を横断面矩形状(方形状)に作っておき、その流路の相互に対向する平行な内側面にそれぞれ平面状の電極(対向電極)を設けたものであり、この場合、通電電流は流動性食品材料の流れを横切るように流れる。一方後者の環状電極を用いた通電加熱装置は、例えば特許文献1に示されているように、流路の上流側から下流側へ向けて所定間隔を置いて少なくとも2以上の部分に、流路内の流動性食品材料を取囲むような環状をなす電極(環状電極)を設けておき、流路内を流れる流動性食品材料に対して流路の上流側の環状電極と下流側の環状電極との間で流動性食品材料の流れ方向に沿って通電するものである。
【0005】
なおこれらの通電加熱装置における電極としては、食品衛生上の観点や耐食性、耐久性等の観点から、Ti(チタン)もしくはTi合金を用いることが好ましく、また通電電流としては1kHz〜50kHz程度の高周波電流を用いることが好ましい。
【0006】
【特許文献1】特公平5−33024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のような流動性食品材料の連続通電加熱装置では、流路内を流れる流動性食品材料自体の抵抗発熱によって流動性食品材料を加熱しているため、本来は流路内を流れる流動性食品材料のみが温度上昇する筈であり、電極には流動性食品材料からの熱が加わることはあっても、電極それ自体は本来はさほど温度上昇しない筈であるが、実際には電極の温度、特に電極表面の温度が著しく上昇する場合がある。このように電極表面が著しく温度上昇すれば、加熱対象である流動性食品材料の加熱ムラが生じるばかりでなく、流動性食品材料の品質低下をもたらしたり、装置の寿命や保守などの問題などが生じる。
【0008】
具体的には、電極表面の温度が異常に高くなれば、その電極に接している部分で流動性食品材料が局部的に著しく温度上昇し、そのため突沸が生じたり、電極の表面にスケーリング(食品材料の凝着等)が生じたり、さらには電気的なスパークが生じたりして、流動性食品材料の品質の低下(香り、色、味の低下、スケールの混入等)を招くおそれがある。そしてまた上述のようなスパークの発生により電極の寿命が短くなるとともに、スケーリング除去のための洗浄や保守の間隔も短くせざるを得ない等の問題も生じる。
【0009】
ここで、前述のような対向電極や環状電極を用いた連続通電加熱においては、流路内を流れる流動性食品材料は、流路の内面に沿った位置(したがって対向電極の表面や環状電極の内面に沿った位置)で、流路内面に対する粘性抵抗により、その流速が流路内中心位置より遅くなるのが通常であり、そのため流路内の流動性食品材料の温度は、流路の内面に沿った位置の温度が管路内中心位置よりも高くなりやすく、このことが電極表面の温度上昇を助長することとなっている。
【0010】
またさらに通電加熱の場合、流動性食品材料はその温度が高くなるほど電気抵抗が小さくなって電流値が増大し、発熱しやすくなるのが通常であり、そのため電極の表面に接する位置で流動性食品材料が温度上昇すれば、その位置では電流値の増大により発熱量がさらに多くなって、一層温度上昇してしまい、電極表面も温度上昇しやすくなる。
【0011】
したがってこれらの要因が相俟って、流動性食品材料の連続通電加熱においては、電極表面の温度が異常に上昇して、前述のような問題を引き起こすことが多かったのである。
【0012】
なおもちろん実際の連続通電加熱装置においては、電極をその背面もしくは内部から冷媒により冷却することも行なわれているが、このように電極の背面や内部から冷却しても、流動性食品材料に接する電極表面部位の温度上昇を確実かつ安定して抑えることは困難であった。
【0013】
この発明は以上の事情を背景としてなされたもので、流動性食品材料の通電加熱方法において、電極表面の温度上昇を抑え、これにより前述のような流動性食品材料の品質低下や、電極の寿命や保守上の問題が生じないようにした方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述のような課題を解決するべく、本発明者等が流動性食品材料の連続通電加熱時における電極表面の温度上昇の状況と、通電加熱条件や電極の寸法等との関係について鋭意調査・検討を重ねたところ、通電電流値を、電極における流動性食品材料に接触する部分の面積に応じた特定の値以下に抑えることによって、電極表面の温度上昇を適切に抑え、前述の課題を解決し得ることを見出し、この発明をなすに至った。
【0015】
具体的には、電極としてTiもしくはTi合金を用い、また通電電流として1kHz〜50kHzの範囲内の周波数の高周波電流を用いた場合、通電電流値I(アンペア)と電極における流動性食品材料に接触する部分の面積S(mm2)と比I/Sが、0.8以下となるように通電電流値を制御することによって、電極表面の温度上昇量をわずかな量に抑え得ることが判明したのである。
【0016】
したがって請求項1の発明は、流動性食品材料を連続的に流動移送させるべき流路における流動性食品材料に接する位置に、間隔を置いてTiもしくはTi合金からなる2以上の電極を設けておき、流動性食品材料を、流路内において連続的に流動移送させながら、電極間に1〜50kHzの範囲内の周波数の高周波電流を通電して、流動性食品材料を連続的に通電加熱する流動性食品材料の連続通電加熱方法において、通電にあたって、高周波電流の通電電流値I(アンペア)と各電極における流動性食品材料に接触する面の面積S(mm2)との比I/Sが0.8以下となるように通電電流値を制御することを特徴とするものである。
【0017】
また通電電流値は、上記の範囲内でも特にI/Sの比が0.3以下となるように制御することが好ましく、これを請求項2において規定している。
【0018】
さらに請求項3、請求項4の発明は、それぞれ上述のような通電加熱方法を対向電極、環状電極に適用する場合について規定したものである。
【0019】
すなわち請求項3の発明は、請求項1に記載の流動性食品材料の連続通電加熱方法において、前記2以上の電極として、流路内を流れる流動性食品材料を挟んで相互に対向する電極を設けておき、その相互に対向する電極間で通電させることを特徴とするものである。
【0020】
また請求項4の発明は、請求項1に記載の流動性食品材料の連続通電加熱方法において、前記2以上の電極として、流路内を流れる流動性食品材料を取囲む環状の電極を用い、その環状の電極を、流路の流れ方向に所定間隔を置いて設けておき、流路の流れ方向に沿って通電させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
この発明の連続通電加熱方法によれば、通電加熱時における電極表面の温度上昇を最小限に抑えて、電極表面の異常な温度上昇に伴なう流動性食品材料の加熱ムラの発生や突沸の発生、さらには電極表面でのスケーリングやスパークの発生を抑えることができ、そのため流動性食品材料の品質低下、あるいは電極の寿命や装置の保守上の問題が生じること有効に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1、図2にこの発明の通電加熱方法を実施している状況の一例を示す。
【0023】
図1、図2において、管路1は流動性食品材料3を連続的に流すための流路2を区画形成するものであり、図示の例では横断面が矩形状、したがって全体として角筒状に作られている。ここで管路1は、全体的な形状は合成樹脂等の電気絶縁材料からなる角筒状管壁部材5によって作られ、その管壁部材5の適宜の箇所における相互に対向する面(平行な面)に、TiもしくはTi合金からなる電極7A,7Bが配設されており、これによって管路1内の流動性食品材料の流れを横切るように電極7A,7Bが対向するような構造となっている。なお図1では、説明の簡略化のために電極7A,7Bとして2個(1対)設けた部分を示しているが、2対以上の電極を、流動性食品材料の流れ方向に間隔を置いて設けても良いことはもちろんである。
【0024】
電極7A,7Bには、高周波電源9から電源制御装置11を介して1〜50kHzの周波数の高周波電圧が互いに逆相で印加されるようになっている。そして管路1内に流動性食品材料3を流し、かつ高周波電圧を電極7A,7B間に印加すれば、電極7A,7B間において流動性食品材料3に高周波電流が流れ、これによって流動性食品材料3が発熱する。すなわち流動性食品材料3が連続的に加熱される。
【0025】
ここで、この発明の方法の場合、各電極7A,7Bにおける流動性食品材料3に接する面の面積(図示の例では各電極7A,7Bの流路側の表面71A,71Bの面積に相当する)をそれぞれS(mm2)とすれば、高周波電流I(アンペア)が、次の(1)式
I/S≦0.8 ・・・(1)
を満たすように制御する。すなわち電極7A,7Bの寸法に応じて、(1)式が満たされるように電極7A,7B間に流すべき高周波電流の電流値Iを電源制御装置11によって制御する。
【0026】
本発明者等の実験によれば、電極における流動性食品材料に接する面の面積Sに対する高周波電流の電流値Iの比I/Sを変化させたときの電極表面の温度上昇量ΔTは、後に改めて実施例で説明する図3に示すようにI/Sの比が大きくなるにつれて大きくなり、特にI(アンペア)/S(mm2)の値が0.8を越えたときに急激に増大することが判明した。そしてI(アンペア)/S(mm2)の値が0.8以下ではI/Sの低下に伴なう温度上昇量ΔTの低下度合(傾き)は少なくなり、特にI(アンペア)/S(mm2)が0.3以下ではΔTの低下度合いが著しく小さくなることが判明した。
【0027】
したがってこの発明では、I(アンペア)/S(mm2)の比を0.8以下、好ましくは0.3以下となるように制御することとした。このようにI/Sの比を0.8以下、好ましくは0.3以下となるように制御することによって、電極自体の温度上昇を抑制することができる。
【0028】
なお上記の実験において、電極表面の温度上昇量は、電極表面の温度T1と管路内の中心位置における流動性食品材料の温度T2との差(T1−T2)として求めた。これは、流動性食品材料の温度の影響を除外して考えるためである。
【0029】
なおまた、図1、図2に示す例は、電極として対向電極を用いた場合について示しているが、環状電極を用いた場合にも適用できることはもちろんである。その場合の例を図4、図5に示す。図4、図5において、流動性食品材料3が流れる流路2を区画形成するための管路1は、断面円形のパイプ状に作られている。そしてこの管路1は、合成樹脂等の電気絶縁材料からなる円筒状の複数の管壁部材5を軸線方向に沿って配列し、かつ各管壁部材5のそれぞれの間に、TiもしくはTi合金からなる環状の電極7A,7Bを配した構成とされている。したがって環状の各電極7A,7Bは、管路1内を流れる流動性食品材料の周囲を取囲むことになる。そしてこの場合、上流側の環状の電極7Aと下流側の環状の電極7Bとの間において、電流を流動性食品材料の流れ方向に沿って流すことになる。
【0030】
このような環状の電極を用いた場合においても、既に述べた場合と同様に、電流値I(アンペア)と電極7A,7Bにおける流動性食品材料3に接触する面、すなわち各内周面72A,72Bの面積S(mm2)との比I/Sを、0.8以下、好ましくは0.3以下に規制することによって、電極表面の温度上昇を確実に抑制することができる。
【実施例】
【0031】
図1、図2に示すような対向電極を用いた場合の実施例を以下に示す。
【0032】
実施例1
電極として、表面が1mm×6mmの寸法の長方形状をなす角型のものを用いた。したがって電極表面積Sは6mm2である。このような角型電極の一対のものを、管路中にその管路の長さ方向と平行に相互対向するように、かつ対向電極間距離が1mmとなるように配置した。なおここで上記電極としてはTi製のものを用い、かつその表面に温度センサを設けておいた。そして流動性食品材料として粘度が10cp(於20℃)のオレンジジュースを用い、流量60l/hrで連続的に流しながら、20kHzの高周波電流を種々の電流値Iで電極間に流し、電極表面の温度T1を測定した。同時に管路1内の中心位置における流動性食品材料の温度T2も、温度センサにより測定し、電極の温度上昇量ΔTを、
ΔT=T1−T2
として求めた。その結果を、電流値Iと電極表面積Sとの比I/Sに対応して表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
実施例2
電極として、表面が直径2.8mmの円形をなす丸棒状のものを用いた。したがって電極表面積Sは約6.2mm2である。電極形状以外は実施例1と同様にしてオレンジジュースの通電加熱を行ない、前記同様に電極の温度上昇率ΔTを求めた。その結果を、電流値Iと電極表面積Sとの比I/Sに対応して表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
さらに、以上の実施例1の表1に示す結果および実施例2の表2に示す結果をグラフ化して、図3に示す。
【0037】
図3に示すように、実施例1、実施例2のいずれの場合でも、I/Sの比が0.8以下では電極表面の温度上昇量ΔTを100℃(“A温度”)以下に抑えることができ、特にI/Sの比が0.3以下では温度上昇量ΔTを2℃(“B温度”)以下に抑えることができた。
【0038】
そして、電極表面の温度上昇量が上述のような100℃(“A温度”)以下であれば、電極の表面における流動性食品材料の突沸現象発生や、スケーリング、スパークの発生を少なくすることができ、特に2℃(“B温度”)以下では、これらの突沸現象、スケーリング、スパークの発生をほぼ完全に抑制し得ることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明の通電加熱方法を実施するための装置の一例を模式的に示す縦断面図である。
【図2】図1のII−II線における横断平面図である。
【図3】通電電流値Iと電極における流動性食品材料に接する面の面積Sとの比I/Sが、電極の温度上昇量ΔTに及ぼす影響を示すグラフである。
【図4】この発明の通電加熱方法を実施するための装置の他の例を模式的に示す縦断面図である。
【図5】図4のV−V線における横断平面図である。
【符号の説明】
【0040】
2 流路
3 流動性食品材料
7A,7B 電極
11 電源制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動性食品材料を連続的に流動移送させるべき流路における流動性食品材料に接する位置に、間隔を置いてTiもしくはTi合金からなる2以上の電極を設けておき、流動性食品材料を、流路内において連続的に流動移送させながら、電極間に1〜50kHzの範囲内の周波数の高周波電流を通電して、流動性食品材料を連続的に通電加熱する流動性食品材料の連続通電加熱方法において、
通電にあたって、高周波電流の通電電流値I(アンペア)と各電極における流動性食品材料に接触する面の面積S(mm2)との比I/Sが0.8以下となるように通電電流値を制御することを特徴とする、流動性食品材料の連続通電加熱方法。
【請求項2】
請求項1に記載の流動性食品材料の連続通電加熱方法において、
前記比I/Sが0.3以下となるように通電電流値を制御することを特徴とする、流動性食品材料の連続通電加熱方法。
【請求項3】
請求項1に記載の流動性食品材料の連続通電加熱方法において、
前記2以上の電極として、流路内を流れる流動性食品材料を挟んで相互に対向する電極を設けておき、その相互に対向する電極間で通電させることを特徴とする、流動性食品材料の連続通電加熱方法。
【請求項4】
請求項1に記載の流動性食品材料の連続通電加熱方法において、
前記2以上の電極として、流路内を流れる流動性食品材料を取囲む環状の電極を用い、その環状の電極を、流路の流れ方向に所定間隔を置いて設けておき、流路の流れ方向に沿って通電させることを特徴とする、流動性食品材料の連続通電加熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−50941(P2006−50941A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−234322(P2004−234322)
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【出願人】(000136642)株式会社フロンティアエンジニアリング (30)
【Fターム(参考)】