説明

流延装置、溶液製膜設備及び溶液製膜方法

【課題】裏面層と表面層との膜厚差を抑えつつ、フィルムを製造する。
【解決手段】ピン96bは、周面にドープ39bを通す第1溝部を有する。ピン96cは周面にドープ39cを通す第1溝部を、この第1溝部の底部上、幅方向中央部には、ドープ39cを通す第2溝部を有する。駆動部98b、98cにより、ピン96b、96cの向きを調節し、ドープ39b、39cの流量を調節する。内壁面127cを方向B1に沿うように、内壁面127bを方向B1と交差するように設ける。ドープ39aが合流部95へ流れる。ドープ39bが、ピン96bの第1溝部を介して合流部95へ流れる。ドープ39cが、ピン96cの第1及び第2溝部を介して合流部95へ流れる。合流部95では、各ドープ39a〜39cが方向Yに層を成す積層ドープ61が生成する。積層ドープ61は、第2縮流スロット部127を経て、吐出口115から吐出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流延装置、溶液製膜設備及び溶液製膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフィルム(以下、フィルムと称する)は、優れた光透過性や柔軟性および軽量薄膜化が可能であるなどの特長から光学機能性フィルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレートなどを用いたセルロースエステル系フィルムは、強靭性を有し、低複屈折率であることから、写真感光用フィルムをはじめとして、近年市場が拡大している液晶表示装置(LCD)の構成部材である偏光板の保護フィルムまたは光学補償フィルムなどの光学機能性フィルムに用いられている。
【0003】
フィルムの主な製造方法としては、溶融押出方法と溶液製膜方法とがある。溶融押出方法とは、ポリマーをそのまま加熱溶解させた後、押出機で押し出してフィルムを製造する方法であり、生産性が高く、設備コストも比較的低額であるなどの特徴を有する。しかし、フィルムの膜厚を高い精度で調整することが難しく、また、フィルム上に細かいスジ(ダイライン)ができるために、光学機能性フィルムへ使用することができるような高品質のフィルムを製造することが困難である。一方、溶液製膜方法は、ポリマーと溶媒とを含む樹脂溶液を、流延ダイを用いて支持体上に流延し、支持体上に形成した流延膜が自己支持性を有するものとなった後、これを支持体から剥がして湿潤フィルムとし、さらに、この湿潤フィルムを乾燥させてフィルムとする方法である。溶融押出方法に比べて、光学等方性や膜厚の厚み均一性に優れるとともに、含有異物の少ないフィルムを得ることができるため、光学機能性フィルムは、主に溶液製膜方法で製造されている。
【0004】
膜厚方向に層構造を有するフィルムを製造する場合には、特許文献1のように、流延ダイの上流側にフィードブロックを設ける。フィードブロックには、相対的に高い粘度の樹脂溶液(以下、高粘度ドープと称する)及び相対的に低い粘度の樹脂溶液(以下、低粘度ドープと称する)が供給される。そして、供給された各ドープは、高粘度ドープ流路及び低粘度ドープ流路を介して、フィードブロック内の合流部へ送られる。合流部では、各ドープが層をなす積層ドープが生成する。そして、この積層ドープは、流延ダイに送られる。流延ダイの拡幅スロット部では、ドープの積層方向への圧縮により、積層ドープを積層方向と直交する拡幅方向に拡幅する。拡幅された積層ドープは、流延ダイの吐出口から支持体上に吐出され、各ドープが膜厚方向に層を成す流延膜となる。その後、上述した溶液製膜方法と同様にすることで、膜厚方向に層構造を有するフィルムを得ることができる。
【0005】
こうして得られた流延膜やフィルムは、低粘度ドープからなる1対の表層と、高粘度ドープからなり1対の表層の間に設けられる基層と、が膜厚方向に層をなす構造を有する。そして、高粘度ドープとして、フィルムに求められる物性を有する組成のものを、そして、低粘度ドープとして、製造中に発生する面状の悪化、剥ぎ取り性の低下などを改善する組成のもの、または、製造後のフィルムのハンドリング性を向上させる組成のものを用いることにより、所望の光学的特性を有し、膜厚が均一で、面状に優れたフィルムを製造することができる。
【特許文献1】特開2005−279986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、積層ドープが流延ダイに設けられるスロット等を通過する際、積層ドープに含まれるポリマー分子の歪が生じる。そして、この歪が残留したままの積層ドープを吐出口から吐出すると、吐出後にこの歪が緩和する。吐出後の積層ドープにおいてこの歪が緩和すると、積層ドープの流れが非定常な流れとなる結果、流延膜に厚みムラが発生してしまう。したがって、この歪をドープの吐出前に緩和させるため、吐出口の上流側のスロットに、この積層方向における流路幅が吐出口の流路幅よりも広い広スロット部やポケット部を設けている。
【0007】
しかしながら、この広スロット部等を有する流延装置を用いることにより、フィルムの厚さムラを抑えることができたものの、幅方向中央部における2つの表層の厚さの差が大きくなることがわかった。図14に、この溶液製膜方法により製造されたフィルムについて、1対の表層である裏面層及び表面層の膜厚の幅方向における変化のプロファイルを示す。縦軸は、各層の膜厚を表し、横軸は、フィルムの幅方向における位置を表し、Peは、フィルムの幅方向における両側端部を、Peはフィルムの幅方向における中央部を表す。また、実線C1は裏面層の膜厚を、破線C2は表面層の膜厚をそれぞれ表す。このフィルムにおいて、フィルムの両側端部Peでは、裏面層の膜厚と表面層の膜厚との差がほとんど見られないが、中央部Pc近傍では、裏面層の膜厚と表面層の膜厚とに、裏面層や表面層の平均膜厚の5〜15%程度の差が生じていた。
【0008】
この表層にはレターデーション制御剤等、フィルムの光学特性に寄与する添加剤が含まれていることが多い。この場合には、幅方向における2つの表層の厚さの差が大きくなるに従い、フィルム全体としての光学特性のばらつきが大きくなってしまう。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであり、2つの表層の厚みの差が略等しいフィルムを効率よく製造することができる流延装置、溶液製膜設備及び溶液製膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、フィードブロックにポリマーと溶媒とを含む第1ドープ及び前記第1ドープよりも低い粘度の第2ドープを送り、前記フィードブロックの合流部に設けたディストリビューションピンの切欠部により前記第2ドープの流量を調整して、前記第1ドープ及び該第1ドープを挟むように前記第2ドープが第1方向に層を成す3層の平行流を形成し、前記フィードブロックを出た前記平行流を流延ダイに送って、前記平行流を前記流延ダイのスロットにより前記第1方向と直交する第2方向に拡幅して支持体上に流延し、前記第1ドープと前記第2ドープが膜厚方向に層をなし、少なくとも表面層と中間層と裏面層とを有する流延膜を形成する流延装置において、前記スロットに形成され、前記平行流の流れ方向に直交する流路断面において、前記表面層となる前記第2ドープが通過する表面層内壁面及び前記裏面層となる前記第2ドープが通過する裏面層内壁面による前記第1方向の隙間が変化するとともに、前記スロットにおける前記第1方向中心を通る流路中心面を対称面として、前記表面層内壁面と前記裏面層内壁面との前記流路中心面を含む断面形状が非対称形状となるポケット部と、前記ディストリビューションピンの前記切欠部に形成され、前記流延膜の幅方向における厚みプロファイルを変化させ、前記表面層及び前記裏面層の厚みを略均一にする流量変化部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
前記表面層内壁面は平坦面から構成され、前記裏面層内壁面は傾斜面を有する段差面を有し、前記流量変化部は前記表面層を形成する側の前記ディストリビューションピンに形成されることが好ましい。また、前記流量変化部は前記切欠部の幅方向中央部に形成される流量増加溝であり、前記切欠部の幅をW1、前記流量増加溝の幅をW2としたときに、W1/W2の値が10以上40以下であり、前記切欠部の深さをD1、前記流量増加溝の深さをD2としたときに、D1/D2の値が1以上5以下であることが好ましい。
【0012】
本発明の溶液製膜設備は、上記の流延装置と、エンドレスに走行する前記支持体と、前記支持体から剥ぎ取った前記流延膜を乾燥して、フィルムとする乾燥装置と、を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の溶液製膜設備は、上記の流延装置を用いて、エンドレスに走行する記支持体上に吐出し、前記支持体上に長尺状の前記流延膜を形成し、前記流延膜が自己支持性を有した後に剥ぎ取り、剥ぎ取られた前記流延膜を乾燥して、フィルムとすることを特徴とする。
【0014】
前記ポリマーがセルロースアシレートを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、流延ダイのスロットの1対の幅方向内壁面の形状の差異に応じて、第2ドープが合流部へ流れる流量を調節するため、この形状の差異に応じて生じる、1対の表層の厚さの差異を抑え、結果として、2つの表層の厚さが略等しいフィルムを製造することができる。
【0016】
この1対の表層の厚さの差は、流延ダイのスロットをなす1対の内壁面の形状が、スロットの第1方向中心を通る面に対し、非対称であることに起因する。したがって、1対の内壁面をこの面に対して対称になるように加工することで、2つの表層の厚さの差が略等しいフィルムを製造することも可能である。しかしながら、この内壁面の形状や表面の加工には、極めて高い精度が要求されるため、手間がかかり、非常に高価なこと、更に、この加工のみで、1対の内壁面の形状を理想的な形状に形成することが困難である。本発明は、このように、1対の内壁面の形状の差異に起因する弊害を打ち消すように、低粘度ドープの流量を調節するため、2つの表層の厚さの差が略等しいフィルムを容易に、安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施態様に限定されるものではない。
【0018】
(溶液製膜方法)
図1に、本実施形態で用いるフィルム製造ライン10の概略図を示す。フィルム製造ライン10は、流延室12とピンテンタ13とクリップテンタ14と乾燥室15と冷却室16と巻取室17とを有する。
【0019】
ストックタンク20は、後述する流路を介して流延室12と接続する。ストックタンク20には、モータ20aで回転する攪拌翼20bとジャケット20cとが備えられており、その内部には、溶媒とフィルム22の原料となるポリマーとを含むドープ24が貯留されている。ストックタンク20は、常時、その外周面に設けられているジャケット20cにより、ドープ24の温度が略一定となるように調整されるとともに、攪拌翼20bの回転により、ポリマーなどの凝集を抑制しながら、ドープ24を均一の状態に保持する。
【0020】
ストックタンク20と後述するフィードブロックとの間には、中間層用ドープ流路30aと裏面層用ドープ流路30bと表面層用ドープ流路30cとが接続されている。ドープ24は、それぞれの流路30a〜30cに設けられているポンプ31a〜31cにより送液される。ポンプ31a〜31cは、図示しない制御部に接続する。この制御部により、ポンプ31a〜31cは、所定の流量で各ドープを送り出す。ポンプ31a〜31cとしては、ギアポンプを用いることが好ましい。このギアポンプとしては、公知のギアポンプであればいずれでもよい。
【0021】
中間層用ドープ流路30aには、配管を介してストックタンク33aが接続する。ストックタンク33aには、中間層用添加液34aが貯留する。流路30aとストックタンク33aとを接続する配管には、ポンプ35aが設けられる。ストックタンク33a中の中間層用添加液34aは、ポンプ35aにより中間層用ドープ流路30aに送液され、中間層用ドープ流路30a中のドープ24に添加される。その後、ドープ24と中間層用添加液34aとは、中間層用ドープ流路30aに設けられる静止型混合器(スタティックミキサ)38aにより攪拌混合されて均一となる。以下、このドープを中間層用ドープ39aと称する。中間層用添加液34aには、例えば紫外線吸収剤,レターデーション制御剤や可塑剤などの添加剤が予め含まれた溶液(または分散液)が入れられている。
【0022】
裏面層用ドープ流路30b及び表面層用ドープ流路30cも、中間層用ドープ流路30aと同様に構成されており、対応する液、各装置には、枝番b、cを付し、その詳細の説明を省略する。裏面層用添加液34bや表面層用添加液34cには、支持体である流延バンドからの剥離を容易とする剥離促進剤(例えば、クエン酸エステルなど)、フィルムをロール状に巻き取った際にフィルム間での密着を抑制するマット剤(例えば、二酸化ケイ素など)や劣化防止剤などの添加剤が予め含有されている。なお、裏面層用添加液34bや表面層用添加液34cには、可塑剤,紫外線吸収剤やレターデーション制御剤などの光学特性制御剤などの添加剤が含まれていても良い。以下、裏面層用ドープ流路30bで攪拌混合されたドープを裏面層用ドープ39bと称し、表面層用ドープ流路30cで攪拌混合されたドープを表面層用ドープ流路30cと称する。
【0023】
これらのドープ39a〜39cを用いて、後述する方法を行うことにより、厚さ方向に層構造をもつフィルムを製造することができる。中間層用ドープ39aとしては、製造するフィルムの強度や光学的機能に適したドープを用い、裏面層用ドープ39b及び表面層用ドープ39cとしては、光学機能性フィルムの平面性や滑り性を良くするためのドープを用いる。また、上記に加え、裏面層用ドープ39b及び表面層用ドープ39cとして、中間層用ドープ39aよりも粘性が低いものを用いることが好ましい。これにより、後述する流延膜や湿潤フィルムの表面におけるスジやムラ等の欠陥の発生や、厚さムラの発生等を防ぐことができる。
【0024】
(ドープ濃度)
なお、中間層用ドープ39aに含まれるポリマー濃度は、15重量%以上30重量%以下であることが好ましく、20重量%以上25重量%以下であることがより好ましい。裏面層用ドープ39b及び表面層用ドープ39cに含まれるポリマー濃度は、10重量%以上25重量%以下であることが好ましく、15重量%以上25重量%以下であることがより好ましく、19重量%以上22重量%以下であることが特に好ましい。
【0025】
流延室12には、3種類のドープ39a〜39cから、後述する積層ドープをつくるフィードブロック51と、積層ドープを流出する流延ダイ52と、支持体であり、積層ドープから流延膜53を形成するキャスティングドラム(以下、流延ドラムと称する)54と、流延ドラム54から流延膜53を剥ぎ取る剥取ローラ55と、温調装置56、57と凝縮器(コンデンサ)58と回収装置59とが備えられている。また、制御部60は、流延ドラム54、温調装置56、57、回収装置59と接続する。
【0026】
また、凝縮器58は、流延室12内に気化する溶媒を凝縮液化する。制御部60の制御の下、回収装置59は、凝縮器58により凝縮液化した溶媒を回収し、流延室12内の雰囲気のガス露点TRを、所定の範囲に保つ。ガス露点とは、流延室12内の雰囲気に気化する溶媒の凝縮液化が開始する温度である。回収された溶媒は再生装置で再生された後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。制御部60の制御の下、温調装置57は、流延室12内の雰囲気の温度を所定の範囲に保つ。
【0027】
(流延ドラム)
図1及び図2のように、流延ドラム54は、制御部60の制御の下、図示を省略した駆動装置により軸54aを中心に、方向Z1へ回転する。流延ドラム54の回転により、周面54bは方向Z1へ所定の速度ZVで走行する。温調装置56は、制御部60の制御の下、所望の温度に調節された伝熱媒体を、流延ドラム54内に設けられる流路中を循環させる。この伝熱媒体の循環により、流延ドラム54の周面54bの温度を所望の温度TSに保つことができる。
【0028】
流延ドラム54の幅は特に限定されるものではないが、ドープの流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。周面54bの表面粗さは0.01mm以下となるように研磨したものを用いることが好ましい。周面54bの表面欠陥は最小限に抑制する必要がある。具体的には、30μm以上のピンホールが無く、10μm以上30μm未満のピンホールは1個/m2以下であり、10μm未満のピンホールは2個/m2以下であることが好ましい。流延ドラム54の回転に伴う周面54b上下方向の位置変動は200μm以下であることが好ましい。流延ドラム54の速度変動を3%以下とし、流延ドラム54が一回転する際に生じる幅方向の蛇行は3mm以下とすることが好ましい。
【0029】
流延ドラム54の材質は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。流延ドラム54の周面54bに施されるクロムメッキ処理はビッカース硬さHv700以上、膜厚2μm以上、いわゆる硬質クロムメッキであることが好ましい。
【0030】
フィードブロック51は、流路30a〜30cから送られる各ドープ39a〜39cを合流させて、積層ドープ61(図2参照)をつくり、所定の流量の積層ドープ61を流延ダイ52へ送る。そして、流延ダイ52は、回転する流延ドラム54の周面54bに向けて、積層ドープ61を吐出する。その後、流延ドラム54の周面54b上の積層ドープ61から流延膜53が形成される。そして、流延ドラム54が約3/4回転する間に、冷却ゲル化によって自己支持性を流延膜53が持つに至り、流延膜53は剥取ローラ55によって流延ドラム54から剥ぎ取られる。
【0031】
また、図1のように、減圧チャンバ63を、流延ダイ52に対し方向Z1の上流側に配置してもよい。減圧チャンバ63は、流延ビードの背面(後に、流延ドラム54の周面54bに接する面)側を所望の圧力まで減圧する。図示しない制御部の制御の下、減圧チャンバ63は、流延ビードの背面側を−10Pa以上−2000Pa以下の範囲で減圧することができる。流延ビードの背面側の減圧により、流延ドラム54の回転により発生する同伴風の影響を少なくし、流延ダイ52と流延ドラム54との間に安定した流延ビードを形成し、膜厚ムラの少ない流延膜53を形成することができる。
【0032】
流延室12の下流には、渡り部65、ピンテンタ13、クリップテンタ14が順に設置されている。渡り部65は、剥取ローラ55によって剥ぎ取られた湿潤フィルム68を、ローラ66により、ピンテンタ13に導入する。ピンテンタ13は、湿潤フィルム68の両側縁部を貫通して保持する多数のピンプレートを有し、このピンプレートが軌道上を走行する。ピンプレートにより走行する湿潤フィルム68に対し乾燥風が送られ、湿潤フィルム68は乾燥し、フィルム22となる。
【0033】
クリップテンタ14は、フィルム22の両側縁部を把持する多数のクリップを有し、このクリップが延伸軌道上を走行する。クリップにより走行するフィルム22に対し乾燥風が送られ、フィルム22には、フィルム幅方向への延伸処理とともに乾燥処理が施される。なお、クリップテンタ14は省略しても良い。
【0034】
ピンテンタ13及びクリップテンタ14の下流にはそれぞれ耳切装置70a、70bが設けられている。耳切装置70a、70bはフィルム22の両側縁部を裁断する。この裁断した両側縁部は、送風によりクラッシャ71a、71bに送られて、粉砕され、ドープ等の原料として再利用される。
【0035】
乾燥室15には、多数のローラ75が設けられており、これらにフィルム22が巻き掛けられて搬送される。乾燥室15内の雰囲気の温度や湿度などは、図示しない空調機により調節されており、乾燥室15の通過によりフィルム22の乾燥処理が行われる。乾燥室15には吸着回収装置76が接続されており、フィルム22から蒸発した溶媒が吸着回収される。
【0036】
乾燥室15の出口側には冷却室16が設けられており、この冷却室16でフィルム22が室温となるまで冷却される。冷却室16の下流には強制除電装置(除電バー)80が設けられており、フィルム22が除電される。さらに、強制除電装置80の下流側には、ナーリング付与ローラ81が設けられており、フィルム22の両側縁部にナーリングが付与される。巻取室17には、プレスローラ83を有する巻取機84が設置されており、フィルム22が巻き芯にロール状に巻き取られる。
【0037】
次に、フィードブロック51及び流延ダイ52の詳細について説明する。図2のように、以下の説明において、フィードブロック51の幅方向をX方向とし、このX方向と直交する方向をY方向とし、高さ方向をZ方向とする。
【0038】
(フィードブロック)
図3に示すように、フィードブロック51内には、主流路93と、この主流路93に対し合流部95を介し合流する副流路94b、94cとが形成されている。主流路93はフィードブロック51の中央部の高さ方向Zに貫通するように形成されており、フィードブロック51の上面に第1流入口91aが、下面に流出口92が開口している。この主流路93は、内部において、主流路93に直交する断面形状がX軸方向に長い矩形状に形成されている。
【0039】
副流路94b、94cは、方向Yの両側からフィードブロック51の内部に向けて形成されている。副流路94b、94cは合流部95で主流路93と合流する。主流路93のドープ流れに対して、副流路94b、94c内のドープ流れが円滑に合流するように、主流路93に対して、副流路94b、94cは鋭角に交差している。
【0040】
上記合流部95において、主流路93と副流路94b、94cとの間には、仕切り板としてのベーン97b,97cが取付軸98b、98cを介して揺動自在に取り付けられている。合流部95において、副流路94b、94cの出口95b、95cには、ディストリビューションピン96b、96cが方向Xに配置されている。なお、ベーン97b,97cは省略しても良い。
【0041】
ディストリビューションピン96cとディストリビューションピン96bとは、フィードブロック51に設けたときに、主流路93に対し対称となるように、配置される。
【0042】
図3及び図4に示すように、ディストリビューションピン96bの周面には、周方向に第1溝部100bが形成される。第1溝部100bは、出口95bを介して、副流路94bと合流部95とを連通する(図3参照)。
【0043】
図5及び図6のように、第1溝部100bの方向Xにおける幅W1は、主流路93の方向Xの流路幅よりも小さい。そして、第1溝部100bは、幅W1が周方向に向かうに従い大きくなるように設けられる。第1溝部100bは、周面101bまでの径方向における深さD1が方向X、周方向において略一定となるように、設けられる。
【0044】
図7及び図8のように、ディストリビューションピン96cは、第1溝部100cを有する。第1溝部100cは、第1溝部100bと略同一の構造を有するため、同一の部材等には同一の番号に枝番を付した符号を用いて表す。第1溝部100cは、出口95cを介して、副流路94cと合流部95とを連通する(図3参照)。
【0045】
更に、第1溝部100cの底面102c上の方向Xの中央部には、第2溝部103cが、周方向に伸びるように設けられる。第2溝部103cは、方向Xにおける幅W2が周方向において略一定となるように、底面102cまでの径方向における深さD2が方向X、周方向において略一定となるように、設けられる。
【0046】
(流延ダイ)
図3及図9のように、流延ダイ52は、リップ板110b、110cと側板112、113とから構成され、フィードブロック51の流出口92と連通する流入口114と、積層ドープ61を流出する吐出口115と、流入口114と吐出口115とを連通するスロット116と、を備える。吐出口115は、流延ダイ52の先端に設けられる。
【0047】
吐出口115近傍のスロット116内には、必要に応じてインナーディッケル板118、119が設けられている。インナーディッケル板118、119を、方向Xに対し、スロット116の両側端部に設けることが好ましい。
【0048】
スロット116の形状は、積層ドープ61がスロット116中を流れる方向B1に直交する断面において、方向Xに伸びるように形成される1対の内壁面116b、116cと、方向Yに、内壁面111b、111cよりも短く伸びるように形成される1対の内壁面118a、119aとにより、スリット状の矩形に形成される。なお、方向B1に直交する断面におけるスロット116の形状は、矩形のものに限られない。
【0049】
スロット116は、流入口114から吐出口115に向かって順に形成される、第1スロット部116aと拡幅スロット部116bと第2スロット部116cとから構成されている。吐出口115は、方向Xに長い矩形状とされる。
【0050】
スロット116には、流入口114から吐出口115に向かって、第1スロット部121と、第2スロット部122と、第3スロット部123とが設けられる。また、第1スロット部121と第2スロット部122との間には、第1縮流スロット部126が設けられ、第2スロット部122と第3スロット部123との間には、第2縮流スロット部127が設けられる。
【0051】
第1スロット部121は、方向Xの流路幅が、方向B1の下流に向かうに従い次第に広くなるように形成される。第2スロット部122は、方向Yの流路幅が、第1スロット部121の方向Yの流路幅よりも狭くなるように形成され、第2スロット部122の方向Xの流路幅が、第1スロット部121の方向Xの流路幅と略同一になるように形成される。第3スロット部123は、方向Yの流路幅が、第2スロット部122の方向Yの流路幅よりも狭くなるように形成され、第3スロット部123の方向Xの流路幅が、下流に向かうに従い次第に広くなるように形成される。
【0052】
第1縮流スロット部126は、方向Yの流路幅が、第1スロット部121側から第2スロット部122側に向かうに従い次第に狭くなるように形成され、方向Xの流路幅が、第1スロット部121の方向Xの流路幅と略同一になるように形成される。第2縮流スロット部127は、方向Yの流路幅が、第2スロット部122側から第3スロット部123側に向かうに従い次第に狭くなるように形成され、方向Xの流路幅が、第2スロット部122の流路幅と略同一になるように形成される。
【0053】
ここで、方向Xの流路幅とは、一対のディッケル板118の内壁面118aとディッケル板119の内壁面119aとの距離であり、方向Yの流路幅とは、一対のリップ板110bの内壁面116bとリップ板110cの内壁面116cとの距離である。
【0054】
第2縮流スロット部127における内壁面116b、116cには、内壁面127b、127cが設けられる。内壁面127cは、第2スロット部122の内壁面122c及び第3スロット部123の内壁面123cと交差せずに接続するように設けられる。一方、内壁面127bは、第2スロット部122の内壁面122b及び第3スロット部123の内壁面123bと交差するように設けられる。内壁面127bと内壁面123bとの交差角度θ1は90°以上180未満であり、140°以上170°以下であることが好ましく、150°以上170°以下であることがより好ましい。
【0055】
フィードブロック51及び流延ダイ52を構成するリップ板110b、110cとインナーディッケル板118、119の材質は析出硬化型のステンレス鋼を用いることが好ましい。その熱膨張率が2×10−5 (℃−1 )以下の素材を用いることが好ましい。また、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有するものを用いることもできる。さらに、その素材はジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有するものを用いる。さらに、鋳造後1ヶ月以上経過したものを研削加工して流延ダイ52を作製することが好ましい。これにより流延ダイ52のスロット116内を流れる積層ドープ61の面状が一定に保たれる。
【0056】
スロット116並びに、主流路93及び副流路94b、94c(図3参照)の内壁面の仕上げ精度は表面粗さで3μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下のものを用いることが好ましい。方向Yにおけるスロット116の流路幅の平均値が、自動調整により0.5mm〜3.5mmの範囲で調整可能なものを用いる。リップ板110b、110cの先端に設けられる接液部の角部分のRは方向X全域に亘り50μm以下のものを用いる。また、スロット116内でのドープ39a〜39cの剪断速度は1(1/秒)〜5000(1/秒)となるように調整されているものを用いることが好ましい。
【0057】
製膜中は、所定の温度に保持されるように温度調節機(例えば、ヒータ,ジャケットなど)を取り付けることが好ましい。また、流延ダイ52にはコートハンガー型のものを用いることが好ましい。さらに、厚み調整ボルト(ヒートボルト)を所定の間隔で設けてヒートボルトによる自動厚み調整機構を取り付けることがより好ましい。ヒートボルトは予め設定されるプログラムによりポンプ(高精度ギアポンプが好ましい)31a〜31c(図1参照)の送液量に応じてプロファイルが設定されることが好ましい。また、フィルム製造ライン10(図1参照)中に、図示しない厚み計(例えば、赤外線厚み計)のプロファイルに基づく調整プログラムによってフィードバック制御を行っても良い。流延エッジ部を除いて任意の2点の厚み差は1μm以内に調整し、幅方向厚みの最小値で最も大きな差が3μm以下となるように調整することが好ましい。また、厚み精度は±1.5μm以下に調整されているものを用いることが好ましい。
【0058】
次に、図1を用いて、フィルム製造ライン10によりフィルム22を製造する方法の一例を説明する。ストックタンク20では、ジャケット20cの内部に伝熱媒体を流すことによりドープ24の温度を25℃以上35℃以下の範囲で略一定となるように調整するとともに、攪拌翼20bの回転により常に均一化している。
【0059】
ストックタンク20に貯留するドープ24と所定の中間層用添加液34aとから中間層用ドープ39aが調製される。調製された中間層用ドープ39aは、流路30aを介して、フィードブロック51へ送られる。同様にして、ドープ24と所定の添加液34bとから裏面層用ドープ39bが、ドープ24と所定の添加液34cとから表面層用ドープ39cが、それぞれ調製される。調製された裏面層用ドープ39bは、流路30bを介して、調製された表面層用ドープ39cは、流路30cを介して、フィードブロック51へ送られる。各ドープ39a〜39は、フィードブロック51にて積層ドープ61となり、流延ダイ52へ送られる。フィードブロック51、流延ダイ52における積層ドープ61の詳細については後述する。
【0060】
温調装置56は、流延ドラム54の周面54bの温度TSが、−20℃以上0℃以下の範囲で略一定になるように調節する。流延ドラム54は、軸54aを中心に回転する。これにより、周面54bは、速度ZVで方向Z1へ走行する。速度ZVは、30m/分以上200m/分以下であることが好ましく、40m/分以上150m/分以下であることがより好ましい。流延ダイ52は、積層ドープ61を流延ドラム54へ流延し、流延膜53を形成する。流延膜53は、周面54b上で冷却され、ゲル化により、自己支持性が発現する。その後、剥取ローラ55は、自己支持性が発現した流延膜53を、流延ドラム54から湿潤フィルム68として剥ぎ取り、渡り部65を介して、ピンテンタ13へ案内する。
【0061】
図10のように、流延膜53には、表面層用ドープ39cからなる表面層53cと、中間層用ドープ39aからなる中間層53aと、裏面層用ドープ39bからなる裏面層53bとが、膜厚方向に層をなすように形成される。裏面層53bは、流延膜53の裏面(流延ドラム54の周面54bに接する面)側に形成される層である。表面層53cは、流延膜53の表面(裏面と反対側の面)側に形成される層である。中間層53aは、流延膜53を構成する層のうち表面層53cと裏面層53bとの間に形成される層である。また、中間層53aは、前述したフィルムの基層となり、表面層53c及び裏面層53bは、前述したフィルムの表層となる。これらの各層の厚さの割合は、積層ドープ61やフィルム22におけるものと略同一である。
【0062】
ここで、流延膜53の中間層53aの厚みをDa、流延膜53の表面層53cの厚みをDc、及び裏面層53bの厚みをDbとするとき、Dc/Daが0.01以上0.5以下であることが好ましく、0.04以上0.3以下であることがより好ましい。Dc/Daが0.01未満である場合には、流延ダイ52のスロット116を通過する際、積層ドープ61に発生するせん断応力が増大する。そして、せん断応力の増大により、積層ドープ61では、表面層用ドープ39cと中間層用ドープ39aとの界面が不安定になり、結果として、厚みムラとして発現するため好ましくない。一方、Dc/Daが0.5を超える場合には、表面層の厚さ分布を制御することが困難になるため好ましくない。同様の理由から、Db/Daが0.01以上0.5以下であることが好ましく、0.04以上0.3以下であることがより好ましい。
【0063】
ピンテンタ13では、多数のピンを湿潤フィルム68の両側端部に差し込んで固定した後、この湿潤フィルム68を搬送する間に乾燥を促進させてフィルム22とする。そして、まだ溶媒を含んでいる状態のフィルム22をクリップテンタ14に送り込む。このとき、クリップテンタ14に送られる直前でのフィルム22の残留溶媒量は、50〜150重量%であることが好ましい。なお、本発明では、フィルム中に残留する溶媒量を乾量基準で示したものを残留溶媒量とする。また、その測定方法は、対象のフィルムからサンプルを採取し、このサンプルの重量をx、サンプルを乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出する。
【0064】
クリップテンタ14では、チェーンの動きによりエンドレスで走行する多数のクリップによりフィルム22の両側端部を挟持した後、このフィルム22を搬送する間に、乾燥を促進させる。このとき、対面するクリップ間距離(フィルム幅)を拡げてフィルム22の幅方向に張力を付与することでフィルム22を延伸する。このように、フィルム22の幅方向への延伸処理により、フィルム22中の分子が配向し、所望のレターデーション値をフィルム22に付与することができる。
【0065】
ピンテンタ13及びクリップテンタ14を出たフィルム22は、耳切装置70a、70bによって両側端部が裁断される。両側端部が切断されたフィルム22は、乾燥室15と冷却室16とを経由し、巻取室17内の巻取機84によって巻き取られる。また、耳切装置70a、70bによって切断された両側端部はクラッシャ71a、71bにより粉砕されて、ドープ調製用チップとなり再利用される。
【0066】
巻取機84で巻き取られるフィルム22は、長手方向(流延方向)に少なくとも100m以上とすることが好ましい。また、フィルム22の幅が600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、2500mmより幅広の場合にも効果がある。さらに、フィルム22の厚みが20μm以上または80μm以下の薄いフィルムを製造する際にも本発明は適用される。
【0067】
図3及び図9のように、駆動部98b、98cは、ディストリビューションピン96b、96cを、軸を中心に周方向へ回動し、ベーン97b、97cをその軸を中心に回動する。これにより、副流路94cを通過したドープ39cは、第1溝部100cを介して、合流部95へ流れ、副流路94bを通過したドープ39bは、第1溝部100bを介して、合流部95へ流れる。また、ドープ93aは、主流路93を経て、合流部95へ流れる。こうして、合流部95では、ドープ39aがドープ39b、39cの間に位置するように、各ドープ39a〜39cが方向Yに層を成す積層ドープ61がつくられる。この積層ドープ61は、流出口92及び流入口114を介して、スロット116へ流れ、吐出口115から周面54bに向けて吐出され、流延膜53となる。
【0068】
積層ドープ61が第2縮流スロット部127中を流れる際、ドープ39bは内壁面127bを沿うように流れ、ドープ39cは内壁面127cを沿うようにして、積層ドープ61が流れる。内壁面127cは、内壁面122cや内壁面123cと交差せずに接続するように設けられ、内壁面127bは内壁面122b及び内壁面123bと交差するように設けられているため、内壁面127bを沿って流れるドープ39bは、内壁面127cを沿って流れるドープ39cに比べて、方向Yに圧力がかかる。そして、この圧力は方向Xへ緩和する結果、ドープ39bは、ドープ39cに比べて、方向Xの中央部から両端部へ流れやすくなる。したがって、積層ドープ61が第2縮流スロット部127中を流れると、図13に示すように、方向X中央部でのドープ39bの厚さ及び方向X両端部でのドープ39bの厚さとの差は、方向X中央部でのドープ39cの厚さ及び方向X両端部のドープ39cの厚さとの差に比べて相対的に小さい。ここで、実線Lbはドープ39bの方向Yの厚さを、破線Lcはドープ39cの方向Yの厚さをそれぞれ表す。このように各ドープ39b、39cの方向Xにおける厚みプロファイルが異なる積層ドープ61は、この厚みプロファイルを維持したまま、流延膜53となる。
【0069】
本発明では、第1溝部100cの底面102c上、方向X中央部に第2溝部103cを有するディストリビューションピン96cを用いて、方向X中央部における合流部95へのドープ39cの流量が方向X中央部における合流部95へのドープ39bの流量よりも大きくなるように、ピン96b、96cの向きを調節したため、各ドープ39b、39cの方向Xにおける厚みプロファイルが略等しい積層ドープ61を吐出口105から吐出することができる。したがって、表面層53cの膜厚方向の厚みと裏面層53bの膜厚方向の厚みとの差が、方向Xにおいて略等しい流延膜53やフィルム22を得ることができる。
【0070】
また、裏面層53bや表面層53cにはレターデーション制御剤や紫外線吸収剤やマット剤などの添加剤が含まれていることが多い。したがって、本発明によれば、方向Xにおける裏面層53bと表面層53cとの膜厚のプロファイルを略等しくすることができるため、フィルム全体としての光学特性が略均一であり、フィルムの表面が平滑のフィルムを効率よく製造することができる。
【0071】
W1/W2の値、D1/D2の値は、流延膜53の裏面層53b及び表面層53cの膜厚の大小に応じて決定すればよい。たとえば、裏面層53bの厚さが表面層53cの厚さよりも厚い場合には、第2溝部103cを有するディストリビューションピン96cを、ドープ39cが通過する出口95cに設ければよい。そして、第1溝部100c及び第2溝部103cは、W1/W2の値が10以上40以下であることが好ましく、D1/D2の値が1以上5以下であることが好ましい。一方、裏面層53bの厚さが表面層53cの厚さよりも薄い場合には、同様にして、第2溝部を有するディストリビューションピンを副流路94b側に設ければよい。
【0072】
第1溝部100b、100cの径方向R1の深さD1は、0mmより大きく5mm以下であることが好ましく、より好ましくは0mmより大きく4mm以下であることが好ましい。深さD1が5mmを超えると、最外層の膜厚分布が確保することが困難となるため好ましくない。
【0073】
上記実施形態では、第1溝部100b、100cの幅を共にW1としたが、本発明はこれに限られず、それぞれ異なる値にしてもよい。また、上記実施形態では、幅W1が周方向に向かうに従い大きくなるように、第1溝部100b、100cを設けたが、本発明はこれに限られず、幅W1に代えて深さD1を、或いは、幅W1とともに深さD1を、周方向に向かうに従い大きくなるように設けても良い。同様にして、第2溝部103cの幅W2や深さD2のうち少なくとも1つを、周方向に向かうに従い大きくなるように設けても良い。
【0074】
上記実施形態では、スロット116に第2縮流スロット部127が設けられた流延ダイ51を用いたが、本発明はこれに限られず、スロット116にポケット部が設けられた流延ダイ51を用いても良い。上記実施形態と同一の部材や同一の部品などには、同一の符号を付し、その詳細の説明は省略する。
【0075】
図11のように、流延ダイ52は、第2スロット122に、ポケット部を有する。ポケット部は、方向B1の下流側から、縮流ポケット部131と、本体ポケット部132と、拡流ポケット部133とを有する。縮流ポケット部131は、方向Yの流路幅が、方向B1の下流から上流に向かうに従い広くなるように設けられる。本体ポケット部132は、方向Yの流路幅が、方向B1の下流から上流に向かうに従い略一定となるように設けられる。拡流ポケット部133は、方向Xの流路幅が、方向B1の下流から上流に向かうに従い狭くなるように設けられる。
【0076】
縮流ポケット部131を構成する内壁面131b及び拡流ポケット部133を構成する内壁面133bは、内壁面122b、内壁面132bと交差するように設けられる。一方、縮流ポケット部131を構成する内壁面131c及び拡流ポケット部133を構成する内壁面133cは、内壁面122c、内壁面132cと交差せずに接続するように設けられる。
【0077】
上記実施形態では、ディストリビューションピン96cを用いて、方向X中央部における合流部95へ流れるドープ39cの流量を、方向X中央部における合流部95へ流れるドープ39bの流量よりも大きくしたが、本発明はこれに限られず、上記ディストリビューションピン96bに代えて、図12に示すディストリビューションピン96bを用い、方向X中央部において、合流部95へ流れるドープ39bの流量を、合流部95へ流れるドープ39cの流量よりも小さくなるようにしても良い。
【0078】
図12のように、ディストリビューションピン96bは、周面101b上に、周方向(図4参照)に沿って伸びるように設けられる第1溝部100bを有する。更に、第1溝部100bの底部102b上の方向Xの中央部には、突条140cが、周方向に沿って伸びるように設けられる。突条140cは、底部102bからの高さH及び方向Xの幅Whが、方向X及び周方向において略一定となるように設けられる。ここで、高さH、幅Whの決め方は、幅方向中央部における各層53b、53c厚みの差を相殺するような流量となるように決定すればよく、例えば、上述した第2溝部103cの深さD2、幅W2の規定を、高さH、幅Whについて適用しても良い。
【0079】
上記実施形態では、軸を含む断面における形状が矩形の第2溝部103cを設けたが、本発明はこれに限られず、U溝、V溝や角溝のものでもよい。同様に、軸を含む断面における形状が矩形の突条140を設けたが、本発明はこれに限られず、円弧状や角状のものでもよい。
【0080】
上記実施形態では、フィードブロック51を流延ダイ52の上流側に設けたが、本発明はこれに限られず、フィードブロック51と流延ダイ52とが一体となったものを流延ダイとして用いてもよい。
【0081】
複数層のフィルムを製造するために複数のドープを流延する方法としては、前述の同時積層共流延でも良いし、逐次流延でも良いし、双方を組み合わせても良い。同時積層共流延を行う際には、本実施形態のように流延ダイ52にフィードブロック51を取り付けても良いし、マルチマニホールド型流延ダイ(図示しない)を用いても良い。複層構造のフィルムは、共流延により多層からなるフィルムは、空気面側の層(エアー面層)の厚さ及び/又は支持体側の層の厚さがそれぞれ全体のフィルム厚さ中で0.5%〜30%であることが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合に、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープを低粘度ドープで包み込まれることが好ましい。また、同時積層共流延を行う場合に、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に内部のドープは、そのドープよりもアルコールの組成比が大きなドープで包み込まれることが好ましい。なお、本発明は、1つの種類のドープを流延する流延工程や溶液製膜方法に用いることができる。
【0082】
上記実施形態では、流延ダイ52にフィードブロック51を取りつけて、同時積層共流延を行ったが、本発明はこれに限られず、フィードブロック51を用いずに、1種類の流延ドープから流延膜を形成する形態にも適用することができる。
【0083】
なお、本実施形態では、ポリマーフィルムとしてフィルム22を用いて説明を行ったが、本発明は各種ポリマーフィルムに適用可能である。
【0084】
上記実施形態では、支持体として、流延ドラム54を用いたが、本発明はこれに限られず、ローラに掛け渡され、ローラの回転により、エンドレスに走行する流延バンドを用いてもよい。
【0085】
上記実施形態では、冷却により流延膜53に自己支持性を発現させたが、本発明はこれに限られず、流延膜53に含まれる溶媒の乾燥により流延膜53に自己支持性を発現させてもよい。
【0086】
(ポリマー)
以下、本発明においてドープ24を調製する際に使用する原料について説明する。
【0087】
本実施形態では、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、AおよびBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。ただし、本発明に用いることができるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0088】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位および6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
【0089】
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、2位のアシル置換度と称する)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、3位のアシル置換度と称する)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下、6位のアシル置換度と称する)である。
【0090】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位および6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位,3位および6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
【0091】
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは、0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、より溶解性に優れた溶液(ドープ)を作製することができる。特に、非塩素系有機溶媒を使用すると、優れた溶解性を示し、低粘度で濾過性に優れるドープを作製することができる。
【0092】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター,パルプのどちらから得られたものでもよい。
【0093】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定はされない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどが挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0094】
(溶媒)
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)およびエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明においてドープとは、ポリマーを溶媒に溶解または分散させることで得られるポリマー溶液または分散液を意味している。
【0095】
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度および光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対して2〜25重量%が好ましく、より好ましくは、5〜20重量%である。アルコールとしては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0096】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶媒組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合して用いる場合もある。例えば、酢酸メチル,アセトン,エタノール,n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン,エステルおよびアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン,エステルおよびアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−および−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶媒として用いることができる。
【0097】
セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶媒および可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【実施例1】
【0098】
次に、本発明の実施例を説明する。なお、以下の各実施例において、実施例1〜4は本発明の実施様態の例であり、比較例1は、実施例1〜4に対する比較実験である。また、各実施例の説明は実施例1で詳細に行い、実施例2〜4及び比較例1については、実施例1と同じ条件の箇所の説明は省略する。
【0099】
次に、本発明の実施例1について説明する。フィルム製造に使用したポリマー溶液(ドープ)の調製に際しての配合を下記に示す。
【0100】
[ドープの調製]
ドープ24の調製に用いた化合物の処方を下記に示す。
セルローストリアセテート(置換度2.8) 89.3重量%
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 7.1重量%
可塑剤B(ビフェニルジフェニルフォスフェート) 3.6重量%
の組成比からなる固形分(溶質)を
ジクロロメタン 80重量%
メタノール 13.5重量%
n−ブタノール 6.5重量%
からなる混合溶媒に適宜添加し、攪拌溶解してドープ24を調製した。なお、ドープ24のTAC濃度は略23重量%になるように調整した。ドープ24を濾紙(東洋濾紙(株)製,#63LB)にて濾過後さらに焼結金属フィルタ(日本精線(株)製06N,公称孔径10μm)で濾過し、さらにメッシュフイルタで濾過した後にストックタンク20に入れた。
【0101】
[セルローストリアセテート]
なお、ここで使用したセルローストリアセテートは、残存酢酸量が0.1重量%以下であり、Ca含有率が58ppm、Mg含有率が42ppm、Fe含有率が0.5ppmであり、遊離酢酸40ppm、さらに硫酸イオンを15ppm含むものであった。また6位水酸基の水素に対するアセチル基の置換度は0.91であった。また、全アセチル基中の32.5%が6位の水酸基の水素が置換されたアセチル基であった。また、このTACをアセトンで抽出したアセトン抽出分は8重量%であり、その重量平均分子量/数平均分子量比は2.5であった。また、得られたTACのイエローインデックスは1.7であり、ヘイズは0.08、透明度は93.5%であった。このTACは、綿から採取したセルロースを原料として合成されたものである。以下の説明において、これを綿原料TACと称する。
【0102】
フィルム製造ライン10を用いてフィルム22を製造した。フィードブロック51に、第1溝部100bを備えるディストリビューションピン96bと、第1溝部100c及び第2溝部103cを備えるディストリビューションピン97cとを設けた。第1溝部100b及び100cは、方向Xの幅がW1となるように、径方向の深さがD1となるように設け、第2溝部103cは、方向Xの幅がW2となるように、径方向の深さがD2となるように設けた。このとき、W1/W2の値が10、D1/D2の値が5であった。
【0103】
積層ドープ61の温度を略34℃で略一定となるように調整するために、流延ダイ52にジャケット(図示しない)を設けてジャケット内に供給する伝熱媒体の温度を調節した。制御部60の制御の下、軸54aの駆動により、周面54bの走行方向Z1における速度ZVを、略30m/分とした。制御部60の制御の下、温調装置36は、流延ドラム54の周面54bの温度TSを、−10℃で略一定になるように調節した。流延ドラム54上での乾燥雰囲気における酸素濃度は5vol%に保持した。なお、この酸素濃度を5vol%に保持するために空気を窒素ガスで置換した。減圧チャンバ63は、流延ビードの背面側を減圧し、流延ビードの長さが20mm〜50mmとなるように流延ビードの前面側と背面側との圧力差を調節した。
【0104】
ポンプ31a〜31cは、ストックタンク20内のドープ24を、流路30a〜30bを介して、各ドープ39a〜39cとして、フィードブロック51へ送った。フィードブロック51は、各ドープ39a〜39cから積層ドープ61をつくり、積層ドープ61を、流延ダイ52へ送った。流延ダイ52は、フィルム22の厚みが100μmとなるように、積層ドープ61を周面54b上に流延し、Dc/Daの値が18であり、Db/Daの値が18の流延膜53(図10参照)を周面54bに形成した。
【0105】
冷却により、流延膜53が自己支持性を有するものとなった後、剥取ローラ55を用いて、流延ドラム54から流延膜53を湿潤フィルム68として剥ぎ取った。剥取不良を抑制するために流延ドラム54の速度に対して剥取速度(剥取ローラドロー)は100.1%〜110%の範囲で適切に調整した。
【0106】
剥取ローラ55は、湿潤フィルム68に渡り部65に案内した。渡り部65では、温度が略60℃の乾燥空気を湿潤フィルム68にあてて、湿潤フィルム68を乾燥させた。渡り部65に設けられるローラ66は、湿潤フィルム68をピンテンタ13に案内した。
【0107】
ピンテンタ13では、湿潤フィルム68に乾燥空気をあてて、湿潤フィルム68を乾燥した。この乾燥により湿潤フィルム68からフィルム22を得た。その後、ピンテンタ13は、フィルム22をクリップテンタ14に送った。クリップテンタ14では、フィルム22に乾燥空気をあてて、フィルム22を乾燥しながら、幅方向に延伸処理を施した。
【0108】
ピンテンタ13、クリップテンタ14から送られたフィルム22の両側縁部を、耳切装置70a、70bにて、切断した。NT型カッターを用いて、幅が略50mmの両側縁部をカットし、カットされた側縁部はカッターブロワ(図示しない)によりクラッシャ71a、71bに風送して平均80mm2 程度のチップに粉砕した。このチップは、再度ドープ調製用原料としてTACフレークと共にドープ製造の際の原料として利用した。
【0109】
耳切装置71bを経たフィルム22を、乾燥室15に送った。耳切装置71bから送り出されたフィルム22の残留溶媒量が乾量基準で略10重量%であった。乾燥室15では、フィルム22に温度が略140℃の乾燥空気をあてて、フィルム22を乾燥した。フィルム22の幅は、3000mmであった。
【0110】
そして、フィルム22を巻取室17に搬送した。巻取室17は、室内温度28℃,湿度70%に保持した。巻取室17の内部には、フィルム22の帯電圧が−1.5kV〜+1.5kVとなるようにイオン風除電装置(図示しない)も設置した。最後に、プレスローラ83で所望のテンションを付与しつつ、フィルム22を巻取室17内の巻取ローラ84で巻き取った。
【実施例2】
【0111】
W1/W2の値が40、D1/D2の値が1の第1溝部100b、100c及び第2溝部103cを設けたこと以外は、実施例1と同様にして、フィルム22を製造した。
【実施例3】
【0112】
W1/W2の値が8、D1/D2の値が0.8の第1溝部100b、100c及び第2溝部103cを設けたこと以外は、実施例1と同様にして、フィルム22を製造した。
【実施例4】
【0113】
W1/W2の値が45、D1/D2の値が5.5の第1溝部100b、100c及び第2溝部103cを設けたこと以外は、実施例1と同様にして、フィルム22を製造した。
【0114】
(比較例1)
幅W1、深さD1が等しい第1溝部のみを有する1対のディストリビューションピンを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムを製造した。
【0115】
〔評価〕
各実施例及び比較例における製造条件及び評価結果を、表1に纏めて示す。なお、表1中の評価結果は、裏面層と表面層との膜厚差の評価結果であり、評価方法は次のとおりである。
【0116】
【表1】

【0117】
得られたフィルムのうち、フィルム全体の膜厚THx、裏面層の膜厚THb及び表面層の膜厚THcを測定し、フィルムの幅方向に沿って、ΔTH(=100×|THb−THc|/THx)の値の変化を調べた。そして、各実施例及び比較例で得られたフィルムについてのΔTHの最大値を、以下基準で評価した。
ΔTHが1.5%未満・・裏面層と表面層との膜厚が略等しい(◎)。
ΔTHが1.5%以上3%未満・・裏面層と表面層との膜厚に若干の差が生じている(○)。
ΔTHが3%以上・・裏面層と表面層との膜厚に、大きな差が生じている(×)。
【0118】
フィルム全体の膜厚Txは、次のようにして測定した。フィルムを25℃,60RH%下でアンリツ電気社製、電子マイクロメーターを用いて、幅方向に沿って、40箇所を測定した。そして、これらの測定値の平均値を、フィルム全体の膜厚Txとした。また、裏面層の膜厚THb及び表面層の膜厚THcは、次のようにして測定した。蛍光X線分析装置を用いて、幅方向に沿って40箇所について、裏面層及び表面層におけるマット剤(二酸化ケイ素)の含有濃度をそれぞれ測定した。そして、所定の膜厚に形成された裏面層や表面層のマット剤の含有濃度を基準として、マット剤の含有濃度の測定値から裏面層及び表面層の厚みを換算した。
【0119】
上記実施例より、本発明により、合流部の幅方向中央部において、裏面層用ドープと表面層用ドープとの流量を適宜調節するため、スロットの内壁面の形状に起因する、裏面層と表面層との厚さの差異を抑え、裏面層と表面層との膜厚が略等しいフィルムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】フィルム製造ラインの概要を示す説明図である。
【図2】フィードブロック、流延ダイ及び流延ドラムの概要を示す斜視図である。
【図3】フィードブロック及び流延ダイのIII−III線断面図である。
【図4】ディストリビューションピン及びベーンの概要を示す斜視図である。
【図5】第1のディストリビューションピンの平面図である。
【図6】第1のディストリビューションピンのVI−VI線断面図である。
【図7】第2のディストリビューションピンの平面図である。
【図8】第2のディストリビューションピンのVIII−VIII線断面図である。
【図9】流延ダイのIX−IX線断面図である。
【図10】方向Xに直交する断面における流延膜の断面図である。
【図11】方向Xに直交する断面における第2の流延ダイの断面図である。
【図12】第3のディストリビューションピンの断面図である。
【図13】積層ドープの幅方向における、裏面層用ドープ及び表面層用ドープの厚みの分布を示すプロット図である。
【図14】フィルムの幅方向における、裏面層及び表面層の膜厚の分布を示すプロット図である。
【符号の説明】
【0121】
10 フィルム製造ライン
12 流延室
13 ピンテンタ
14 クリップテンタ
15 乾燥室
16 冷却室
17 巻取室
20 ストックタンク
22 フィルム
24 ドープ
51 フィードブロック
52 流延ダイ
53 流延膜
61 積層ドープ
93 主流路
94b、94c 副流路
95 合流部
95b、95c 出口
96b、96c ディストリビューションピン
100b、100c 第1溝部
103c 第2溝部
127 第2縮流スリット部
127b、127c 内壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィードブロックにポリマーと溶媒とを含む第1ドープ及び前記第1ドープよりも低い粘度の第2ドープを送り、前記フィードブロックの合流部に設けたディストリビューションピンの切欠部により前記第2ドープの流量を調整して、前記第1ドープ及び該第1ドープを挟むように前記第2ドープが第1方向に層を成す3層の平行流を形成し、前記フィードブロックを出た前記平行流を流延ダイに送って、前記平行流を前記流延ダイのスロットにより前記第1方向と直交する第2方向に拡幅して支持体上に流延し、前記第1ドープと前記第2ドープが膜厚方向に層をなし、少なくとも表面層と中間層と裏面層とを有する流延膜を形成する流延装置において、
前記スロットに形成され、
前記平行流の流れ方向に直交する流路断面において、前記表面層となる前記第2ドープが通過する表面層内壁面及び前記裏面層となる前記第2ドープが通過する裏面層内壁面による前記第1方向の隙間が変化するとともに、前記スロットにおける前記第1方向中心を通る流路中心面を対称面として、前記表面層内壁面と前記裏面層内壁面との前記流路中心面を含む断面形状が非対称形状となるポケット部と、
前記ディストリビューションピンの前記切欠部に形成され、前記流延膜の幅方向における厚みプロファイルを変化させ、前記表面層及び前記裏面層の厚みを略均一にする流量変化部と、
を備えることを特徴とする流延装置。
【請求項2】
前記表面層内壁面は平坦面から構成され、
前記裏面層内壁面は傾斜面を有する段差面を有し、
前記流量変化部は前記表面層を形成する側の前記ディストリビューションピンに形成されることを特徴とする請求項1記載の流延装置。
【請求項3】
前記流量変化部は前記切欠部の幅方向中央部に形成される流量増加溝であり、前記切欠部の幅をW1、前記流量増加溝の幅をW2としたときに、W1/W2の値が10以上40以下であり、
前記切欠部の深さをD1、前記流量増加溝の深さをD2としたときに、D1/D2の値が1以上5以下であることを特徴とする請求項2記載の流延装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のうちいずれか1項記載の流延装置と、
エンドレスに走行する前記支持体と、
前記支持体から剥ぎ取った前記流延膜を乾燥して、フィルムとする乾燥装置と、
を備えることを特徴とする溶液製膜設備。
【請求項5】
請求項1ないし3のうちいずれか1項記載の流延装置を用いて、エンドレスに走行する記支持体上に吐出し、
前記支持体上に長尺状の前記流延膜を形成し、
前記流延膜が自己支持性を有した後に剥ぎ取り、
剥ぎ取られた前記流延膜を乾燥して、フィルムとすることを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項6】
前記ポリマーがセルロースアシレートを含むことを特徴とする請求項5記載の溶液製膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−184136(P2009−184136A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−23663(P2008−23663)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】