説明

流水検知装置における軸のシール構造

【課題】パドルの揺動で流水を検知するようにしたパドル式の流水検知装置において、シール性を損なうことなく、パドルが容易かつ円滑に揺動できるようにする。また、故障が生じ難いシンプルな構造とし、メインテナンスの手間と費用を削減し、かつ、その動作信頼性も向上させる。
【解決手段】パドル式の流水検知装置1において、消火配水管4からの水漏れを防止するシール部材15を、軸6に挿着可能な鍔付き略円筒形状のものとした。そして、この鍔部15aを、消火用水が充填される前の水圧がかからない状態で、座金17との間に空隙Sが形成されるように、中心に向かって下向きに傾斜、あるいは階段状に段付きした形状とした。このことで、消火用水が充填された際に、水圧で軸の周りの鍔部に撓みが生じるようにし、この撓みによる寸法的な余裕により軸が円滑に揺動できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプリンクラー消火設備に用いられるパドル式の流水検知装置に関し、詳しくはパドルが取り付けられた軸のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
スプリンクラー消火設備に用いられる流水検知装置は、大きく分けて自動警報弁型、流水作動弁型、パドル型の三種類がある。
【0003】
このうち、自動警報弁型は、高価で構造が複雑であり、かつサイズも大型で設置し難いため、一般には殆ど採用されることがなく、近年は構造が簡単でコンパクトに設置できる流水作動弁型やパドル型が主流になりつつある。
【0004】
この流水作動弁型やパドル型は、弁やパドルを流水配管中に回動可能に設けておき、流水で弁やパドルが押動されると、その動きが軸を介して配管の外部に伝えられ、マイクロスイッチを作動させることにより、流水を検知するようになっている。したがって、弁またはパドルの軸を配管外部に出す貫通部には、水漏れを防止するためのシール部が設けられている。(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
ここにおいて、このシール部は、長年にわたって軸廻りからの水漏れを防止すると共に、万一の場合には、弁やパドルが円滑に作動するように、軸の動きを妨げないものでなくてはならず、その機能を維持させるための保守点検作業が欠かせず、その手間と費用が嵩むという問題点があった。また、この構造のものは、シールの摺動抵抗により作動流量が一定にならなかったり、場合によっては、シール部が固着して、機能しなくなるおそれもあり、信頼性に欠けるという問題点があった。
【0006】
この点を改善した従来のものとしては、例えば、流水配管内に回動可能に設けられたパドルにマグネットを装着し、配管の外部に、このマグネットの磁力で作動するリードスイッチを設けることにより、軸とスイッチを機械的に連係させることなく、スイッチを作動させるようにしたものがあった。(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
しかしながらこのようにマグネットを流水配管内に配置した場合、長期間消火用水中に浸漬されることにより、水中の鉄分が吸着され、場合によっては、パドルと配管との隙間が鉄錆で塞がれ、その機能が妨げられるおそれがあった。また、スプリンクラーの作動時に高圧の流水にさらされることにより、マグネットが脱落するおそれもあり、このようにマグネットが脱落すると、スプリンクラー配管末端のスプリンクラーヘッドへと流され、詰りを生じて散水機能を妨げるという重大な問題を生じるおそれがあった。
【特許文献1】特許第3607180号公報(第3頁、図5)
【特許文献2】特開平8−196658号公報(第2頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来のパドル式流水検知装置が有していた問題点を解決すべくなされたものであり、パドル型流水検知装置において、シール性を損なうことなく、流水時には、パドルが速やか、かつ円滑に揺動するようになし、このことで、流水検知が速やか、かつ誤報無く、確実になされる信頼性の高いスプリンクラー消火設備の流水検知装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の問題点を解決するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、スプリンクラー消火設備の消火配水管の内部に、流路と直交する方向に配置された流水感知用のパドルを、該消火配水管の外側に設けられた取付部において、揺動可能に吊り下げ支持した軸のシール構造であって、この軸には、弾性材で鍔付き略円筒形に形成されたシール部材が挿着され、シール部材は、周縁部が座金を介して中空の取付部の内周側に圧接されることにより、軸と取付部との間を水密に塞ぐものであり、かつ、周縁部内側の鍔部が、配水管内部からの水圧がかからない状態において、座金との間に空隙が形成されるように、中心に向かって傾斜あるいは段付き状のものとした。このことで、消火配水管内に充填された水からの圧力を受けた際に、軸の周囲の鍔部に撓みが生じ、この撓みでシール性を損なうことなく、軸が円滑に揺動できるようにしたことを特徴とするものである。
【0010】
請求項2記載の発明は、上記請求項1記載の発明の構成に加えて、シール部材と座金との間に、前記座金より小径の座金を遊動可能に、軸に挿着して設けたことを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明は、上記請求項1または2記載の発明の構成に加えて、シール部材をその鍔部の他方側の端部が、軸に取り付けられた座金、あるいは軸に設けられた段部と当接することにより、パドル側に移動不可に規制されるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のうち、請求項1記載の発明では、パドル式の流水検知装置において、パドルを支持した軸の周囲からの水漏れを防止するシール部材を、軸に挿着された状態で、周縁部が座金を介して取付体に圧接される鍔付き略円筒形状のものとし、かつ、鍔部をその上側に空隙が形成されるように、中心に向かって傾斜あるいは段付き状のものとしたので、作動時の水圧により軸の周囲の鍔部に撓みが生じ、この撓みでパドルが容易に揺動できる。よって、流水が生じた際、その検知が正確、かつ迅速に行え、この種のスプリンクラー消火設備の動作信頼性が向上するという効果がある。
【0013】
また、請求項2記載の発明では、鍔部と座金との間の空隙に、前記座金より小径の座金を遊動可能に設けることとしたので、水圧がかかった際に鍔部が不規則に撓むことが防止され、また、水を抜いた点検などの際に、鍔部が原状に復帰しなくなるということが防止される。よって、シール部材の変形、復帰が確実となり、その動作信頼性の一層の向上が図られるものである。
【0014】
請求項3 記載の発明では、シール部材がパドル側に移動しないように、その下端を位置決めしているので、点検作業などで水を抜いた際に、シール部材が位置ずれを起すことが防止される。よって、その後、水を充填した際、シール部材は、所望の機能を発揮するように元の状態に復帰し、このことで、点検作業などに伴う不慮のトラブルが防止されるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を図示した実施の形態に基づき詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の軸のシール構造を備えた流水検知装置の要部縦断面図、図5は、そのA−A線の断面図である。
【0017】
図示したように、この流水検知装置1は、流水圧を受けて揺動するパドル2を有し、このパドル2の動きに後述するマイクロスイッチ3の作動を連係させることにより、スプリンクラー消火設備の消火配水管(チーズ管)4における流水の発生を、電気信号として報知するようにした所謂パドル式と称されるものである。
【0018】
ここにおいて本発明のシール構造を備えた流水検知装置1では、パドル2は、回転軸を有さず、ピン7を支点として揺動可能に吊り下げ支持された軸6の下端に取り付けられている。この軸6は、消火配水管4(図ではチーズ管を示している)の側面に、該消火配水管4の内部と連通するように設けられた中空の取付部5を、上下方向に貫通するように設けられている。
【0019】
上記軸6は、上端が引っ張りばね8で一方に傾動するように引っ張られ、図7に示すように、その上位に位置したロッド10に取り付けられた移動子11の端面と当接して、このロッド10が、図7において右方向に移動することを阻止するようにしている。
【0020】
ロッド10は、一端(図7において左側)が軸線方向(図7において左右方向)に移動可能に支持され、他端(図7において右側)が、ダイヤフラムとばね(図示せず)が内装された遅延駆動装置9に連結されている。また、このロッド10の途中には、上述した円筒形の移動子11と、先端がテーパー状になった略円筒形の遊動子12が、それぞれCリング13,14で移動規制されるようにして挿着されている。
【0021】
また、ロッド10の左右両側(図8において上下両側)には、それぞれ図8に示すように、上述したマイクロスイッチ3,3が配置され、このマイクロスイッチ3のスイッチ端子3aがローラー3bを介して上記遊動子12の表面に接している。
【0022】
ここにおいて、上記軸6は、パドル2と連続するように垂直な方向に取り付けられており、その中程には、本発明が要部とする鍔付き略円筒形のシール部材15が、上下方向に貫通するようにして設けられている。このシール部材15は、ゴムやエラストマー系の樹脂などの弾性材(シリコーンゴムが望ましい)で、鍔付きの略円筒形に形成されたものであり、鍔部15aは、図5並びに図6の拡大図に示すように、周縁部分を除いて薄肉で、かつ、中心に向かって下向きに傾斜した形状に形成されている。
【0023】
そして、このシール部材15は、下端が段部6aで係止された座金16により、軸6の中程に下方移動不可に保持され、その上端は、周縁部15bが取付体5の中心孔5aの上端周囲の段部5bに嵌った状態で、上面を穴開き円板状の座金17を介して止水板18で押えられることにより固定され、取付部5の中心孔5aを水密に塞ぐようになっている。この時、このシール部材15の鍔部15aは、上述した通り、中心に向かって下向きに傾斜しているので、配水管4内に水が充填されず、下からの圧力を受けない状態では、図2の拡大断面図に示すように、軸6の周りに空隙Sが形成されるようになっている。
【0024】
また、軸6の揺動支点となるピン7は、シール部材15に座金17を被せた後、軸6のピン孔(図6に符号6bで示す)に挿入することにより、図5並びに図6に示すように、取り付けられ、この座金17で下方移動不可に支持されるようになっている。
【0025】
なお、座金17上に取り付けられる止水板18の裏面には、軸6を横方向に貫通したピン7の両端が嵌まり込む溝18aが設けられており、ピン7が回転自在、抜脱不可に保持されるようになっている。
【0026】
また、図2並びに図6において、符号19は、シール部材15の傾斜した鍔部15a上に位置するように、軸6に遊挿された小径のワッシャーを示す。
【0027】
本発明の流水検知装置1における軸のシール構造は、上記の構成を有している。そして、この流水検知装置1は、消火配水管14内に消火用水を充填した状態で、常に作動可能な状態として、待機するものである。
【0028】
ここにおいて、本発明の軸のシール構造では、上述したように軸6に挿着されたシール部材15の鍔部15a上には、座金17との間に空隙Sが形成されるようになっているので、配水管4内に水が充填され、下からの圧力を受けると、この鍔部15aは、図3に示すように軸6の周りに撓みを生じるように変形し、流水を感知する待機状態では、常にこの状態が維持されるようになっている。
【0029】
次に、火災発生時の各部の動きを順を追って説明すると、まず、火災が発生し、その熱を受けて消火配水管の末端に接続されたスプリンクラーヘッド(図示せず)が分解して、止水状態が解除されると、配管及びこの配管に接続された圧力タンク内の圧力が低下し、この圧力の低下を圧力スイッチ(図示せず)が検知することにより、図示しないポンプが起動する。このことで、火災が生じた箇所に通じる消火配水管4に水流が生じる。
【0030】
そして、このように水流が生じると、消火配水管4の水路中に設けられたパドル2は、その流水圧を受けて、図1に矢印で示す方向へと、ピン7を支点として揺動するものであるが、この時、パドル2が取り付けられた軸6の周囲を水密に塞いだシール部材15は、図3に示すように、軸6の周囲の鍔部15bに撓みがあるので、この撓みにより軸6は、抵抗を受けることなく、図4に示すようにピン7を支点として容易に揺動することができる。
【0031】
そして、パドル2が取り付けられた軸6は、引っ張りばね8の引張力に抗して傾動し、ロッド10に取り付けられた移動子11と当接したロッド10の係止状態が解除される。このことで遅延駆動装置9に連結されたロッド10は、一定の時間を経てゆっくりとこの遅延駆動装置9に引き込まれる方向に移動し、このことで、ロッド10に挿着された遊動子11と接してOFF状態が維持されていたマイクロスイッチ3のスイッチ端子3aは、やがて、遊動子12との接触状態が解除されることにより、ONとなり、防災センター等の警報盤へ電気信号を送り、火災警報が発報されるものである。
【0032】
以上のようにして本発明に係る流水検知装置1は、消火配水管4内の流水を検知し、スプリンクラー消火設備の作動を検知するものである。
【0033】
なお、上記流水検知装置1では、地震による振動や水圧の変化などで一時的にパドル2が揺動したとしても、遅延駆動装置9でロッド10が引き込まれるまでに一定のタイムラグがあるため、直ちにマイクロスイッチ3がONになることはなく、流水で定常的にパドル2が傾動して初めて作動するようになっており、このことで誤報が防止されるようになっている。
【0034】
また、図示した実施の形態では、シール部材15の鍔部15aを中心に向かって下側に傾斜させたものを例示したが、この鍔部15aは、下からの圧力を受けない状態において、その上側の座金17との間に空隙Sが形成されるようになっていれば良く、例えば、中心に向かって段付き状に下降した形状のものであっても良い。
【0035】
なお、図示した実施の形態では、シール部材15の傾斜した鍔部15a上に小径のワッシャー19を設けているが、このワッシャー19は、軸6が揺動した際にシール部材15の鍔部15aが不規則に撓んだり、あるいは原状に復帰しなくなるようなことを防止し、その動作信頼性を高めるためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明のシール構造を示した流水検知装置の要部縦断面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】シール部材が変形した状態を示した説明図である。
【図4】軸が揺動した状態を示した説明図である。
【図5】図1のA−A線の断面図である。
【図6】鍔部が水圧を受ける前の状態を示した要部断面図である。
【図7】流水検知装置の要部縦断面図である。
【図8】図7に示した流水検知装置の上面透視図である。
【符号の説明】
【0037】
1 流水検知装置
2 パドル
3 マイクロスイッチ
4 消火配水管
5 取付部
5a 中心孔
6 軸
7 ピン
8 引っ張りばね
9 遅延駆動装置
10 ロッド
11 移動子
12 遊動子
15 シール部材
15a 鍔部
16,17 座金
18 止水体
S 空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプリンクラー消火設備の消火配水管の内部に、流路と直交する方向に配置された流水感知用のパドルを、該消火配水管の外側に設けられた取付部において、揺動可能に吊り下げ支持した軸の周囲を水密に塞ぐ、軸のシール構造であって、
上記軸には、弾性材で鍔付き略円筒形に形成されたシール部材が挿着され、該シール部材は、周縁部が座金を介して中空の取付部の内周側に圧接されることにより、軸と取付部との間を水密に塞ぐようになされ、かつ、周縁部内側の鍔部が、配水管内部からの水圧がかからない状態において、座金との間に空隙が形成されるように、中心に向かって傾斜あるいは段付き状に形成されたものとし、このことで、消火配水管内に充填された水からの圧力を受けた際に、軸の周囲に位置した鍔部に撓みが生じ、この撓みでシール性を損なうことなく、軸が円滑に揺動し得るようになされたことを特徴とする流水検知装置における軸のシール構造。
【請求項2】
シール部材と座金との間に、前記座金より小径の座金が遊動可能に、軸に挿着して設けられたことを特徴とする請求項1記載の流水検知装置における軸のシール構造。
【請求項3】
上記シール部材は、鍔部の他方側の端部が、軸に取り付けられた座金、あるいは軸に設けられた段部と当接することにより、パドル側に移動不可に規制されたものであることを特徴とする請求項1または2記載の流水検知装置における軸のシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−29584(P2007−29584A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−219884(P2005−219884)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【出願人】(591274129)アイエススプリンクラー株式会社 (7)
【Fターム(参考)】