説明

浮力室を有する浸水式水力発電タービン

ステータハウジングの内部にロータが配置され、このロータが、ステータハウジングのチャネルによって収容された環状の外側リムを有する水力発電タービンにおいて、ロータの内部に浮力室を設け、ロータに浮力を持たせる。この浮力室は、環状の外側リム、ブレード若しくは環状の内側リムに形成し、又はこれらのうち複数に形成することができる。好ましくは、浮力室を1以下の比重を有する素材で充填し、最も好ましくは、この充填材として、ロータに剛性を付加するポリマーフォームを採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概していえば、水の流れを利用して電気を生成するタービン又は発電所の分野に関する。この水の流れには、河川又は海流に見られるような一方向性のものや、潮流等の双方向性のものが含まれる。より詳細には、そのような装置のうち、大型の環状ハウジング内に配置された、環状の外側リムを有する大型のプロペラ式ロータを備え、このロータの回転を流体の流れによって生じさせる装置に関する。更に詳しくは、本発明は、タービンを水中に浸漬させる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水力発電タービンを用いた電気の生成は、よく知られている。一般的にタービンは、制御下に置かれた流体の流れによってプロペラ式ロータ又はブレードの回転を生じさせるダムに設置される。このような水の流れが比較的に急となる条件は、高ヘッド条件として知られるところである。また、タービンを、潮流によって湾内、河口又は沖合に形成される低ヘッド条件のもとで配置することも知られている。
【0003】
大方のタービンの構成が中央回転シャフトを備えるものであり、このシャフトにブレード又はランナーが取り付けられる一方、タービンの中央部を開放させることも知られており、このタービンは、リムマウントタービンとしても知られている。中央開放ロータを有するタービンは、低ヘッド条件、即ちより緩やかな流れにおいて特に有効であり、このタービンでは、内側及び外側の環状リング又はリムの間にブレードが取り付けられ、ロータを保持する環状ハウジングに対し、外側リムを通じてエネルギーが伝達される。
【0004】
中央部が開放されたリムマウントタービンの例は、1997年1月14日に発行され、2003年12月2日にRE38336号として再発行された米国特許第5592816号、2003年11月18日に発行された米国特許第6648589号、2004年5月4日に発行された米国特許第6729840号、及び2005年2月10日に公開された米国特許出願公開US2005/0031442号(米国特許出願第10/633865号)に見出すことができる。低ヘッド(潮流)条件に用いられる水力発電タービンの例は、Heuss等の米国特許第4421990号、Vauthierの米国特許第6168373号及び同第6406251号、Susman等の英国特許出願GB2408294号、ならびにDavis等の国際公開WO03/025385号に見出すことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
流体駆動タービンは、化石燃料又は原子力エネルギーを利用する発電所に代わる、環境的に安全な設備と考えられている。工業コンビナート、市街地又は都市部等での電力供給を可能とする、風力又は水力を利用した大規模発電では、多数のタービンを設置することが必要であるとともに、それらのタービンは、各タービンによって生成される電力量を最大限とするため、現実的である範囲で大型のものでなければならない。これらのタービンのロータブレードは、その長さが多様であり、実験上の設計として50メートルを超える長さのブレードを有するものも存在する。
【0006】
ロータブレードの長さの増大に伴い、より小型のタービン又は発電機では直面することのなかった構造上及び製造上の問題が生じている。シャフトマウントタービンでは、強固、かつ軽量の長ブレードを設置することが困難である。リムマウントタービンによれば、ブレードの各端部に対する環状サポートとして外側サポートリムを設けることによってこの問題が解決され、このサポートリムは、環状のスロット又はチャネルを有するハウジングの内部に保持される。発電のため、多数の磁石が環状サポートリムに沿って間隔を空けて配置され、多数のコイルがステータハウジングの収容チャネルに沿って間隔を空けて配置される。ロータ界磁によって形成される磁場が、ロータとステータとを隔てたギャップを横断する。ロータの回転によってコイルとの磁束リンクに変化が生じ、コイルに電磁力が発生する。
【0007】
リムマウントタービンには、中央支持部のシャフト又はアクスルが存在しないため、ロータの重量は、ハウジングの下側半分の部分にかかる。大型のタービンでは、ハウジング内でのロータの始動と、回転を開始させた後のタービンの全体的な効率との双方について、このような負荷及び結果として生じる摩擦の影響が顕著となる。ロータ重量の増大は、回転に対する抵抗の増大を意味し、固有の慣性及び摩擦を克服するために流体のより強い流れが必要とされることを意味する。このことは、低ヘッド条件で使用される水力発電タービンについて、特に問題となる。
【0008】
本発明は、水力発電タービンについて、ロータに浮力が働くようにそのロータの重量を低減する改良された構造を提供することを目的とする。更に、水中に浸漬させたロータについて、ロータの大きな重量から生じる重力の悪効果がロータ浮力の増大によって軽減又は打ち消されるように、重力の低減がロータに浮力室を設けることによって達成されるタービンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ロータブレードが外側リムによって支持される形式の改良された流体駆動タービンであり、外側リムは、これを受けるチャネルを有するハウジングの内部に保持されるか又はハウジングによって収容される。典型的な構成において、このタービンは、ロータの外側リムに磁石が配置され、ハウジング又はステータのチャネルにコイルが配置された発電機であり、ステータ内でのロータの回転によって電気を生じさせる。特に、このタービンは、水中に浸漬させる形式のものである。
【0010】
本発明の改良には、浮力を持たせたロータをハウジングの内部に設けることが含まれる。好ましい形態において、タービンのロータは、環状の外側リム及び/又は内側リム及び/又はブレードに1以上の浮力室を備え、ロータの全体的な重量が低減されるとともに、ロータの浮力が増大される。この浮力室は、空気及び他の気体、液体、フォーム、固体、ならびに1以下の比重を有する他のあらゆる素材で満たすことが可能である。浮力室をポリマーフォームで満たし、これによってロータに構造的な一体性、及び剛性を付加することとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】外側リムを有するロータと、このロータの外側リムを受けるチャネルを有するステータハウジングとを備える代表的な中央開放式のリムマウントタービンを、軸方向に見た状態で示す図である。
【図2】ステータハウジングの透視図である。
【図3】ロータの透視図である。
【図4】ロータの環状外側リムの部分断面図である。
【図5】ステータハウジングの部分断面図である。
【図6】ロータの環状内側リムの部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、最良の及び好ましい形態の観点から本発明を詳細に説明する。本発明は、その最も広い意義の1つにおいて、水中に浸漬させる形式の水力発電タービンであり、このタービンは、ステータハウジングの内部に設置されたロータを備える。ロータは、ステータハウジングの環状チャネル又はスロットによって収められ又は保持された環状の外側リムを有し、浮力が働くように構成される。他の発電手段を採用してもよいが、ここに示された発電手段は、ロータの環状リムに配置された多数の磁石と、ステータハウジングの内部、好ましくは、ロータの環状リムを収めるチャネルに配置された多数のコイルとを組み合わせて構成される。説明のため、タービンは、図面において中央開放式のリムマウントロータとして示され、ロータに対する全ての支持構造は、ステータハウジングによって形成されるが、本発明は、環状の外側リムを有するシャフトマウントロータを備えるタービンに適用することも可能である。「浮力が働く」との用語は、ここで用いられるように、記載された要素が、真水であろうと海水であろうと、その要素を浸漬させる種類の「水」に沈まないことを意味するものとする。比重が1以下であるとの「浮力」の科学的な定義に関し、ここでは、「水」の密度が純水のそれとは異なる状況を説明する際に、その拡張範囲を包含するものとして解釈されるものとする。
【0013】
図1〜3にその概略が示されるように、本発明は、略環状のステータハウジング30を備えたタービン又は発電機10である。ここに示されたハウジング30の構成は、限定を意味するものではなく、他の構成を採用して、ハウジング30により、他の目的において軸に沿ったいずれの方向への望まない移動に対しても回転部アッセンブリ又はロータ20を保持し、ロータ20をその回転軸周りで回転させることが可能である。ハウジング30は、ロータ20を収容及び保持するチャネル32を形成する一対の保持フランジ31を備えている。
【0014】
回転部アッセンブリ又はロータ20は、内側に位置する環状のリム部材23と、外側に位置する環状のリム部材22とを備えている。内側リム23及び外側リム22の間を延伸させて複数のプロップ、即ちランナー又はブレード部材21が設けられており、これらのブレード21は、軸方向の及びステータハウジング30に沿った流体の移動がロータ20の回転を生じさせるように、公知の態様で角度が付され又は捻りが加えられている。ブレード21の個別の数、構成及び材料組成は、変更することが可能であるが、ブレード21は、構造的な一体性を過度に損なうことなく、できるだけ軽量であるように構成されるのが好ましい。
【0015】
ハウジング30及びロータ20は、電気の生成のための発電手段をこれらの組み合わせとして構成している。具体的には、外側リム22の外周部に複数の磁石41を配置するとともに、ハウジング30又はハウジングチャネル32の内周面34付近に複数のコイル42を配置して、ハウジング30を発電機のステータとしている。ロータ20の回転によって磁石41がコイル42の間を通過することで、公知の方法に従って電気が生成される。
【0016】
タービン10は、その寸法の大きさから、比較的に軽量であるが構造的には強い素材によって構成されるのが望ましい。この目的のため、ポリマー、エポキシ、樹脂及び強化繊維等の、ロータ20及びハウジング30の主要構成要素としての使用が、タービンの構成に適することが判明している。典型的には、ロータ20は、磁石41及び他の要素を埋設することのできる上記軽量素材から主に構成される。ロータ20は、浸水させた状態で浮力が働くように構成されている。
【0017】
一実施形態では、ロータ20の内部に、例えば、図4のように環状の外側リム22の内部に1以上の浮力室60が設けられる。好ましい実施形態では、1つの環状室60が外側リム22の全周に亘って延伸形成されるが、複数の室60を互いに隣り合わせ又は縦方向に連続させた関係で形成してもよい。この複数の室による場合は、ロータ20の回転に悪影響が及ばないように、周方向に平衡を保たせて配置される。浮力室60に補強材等の図示しない構造要素を設けることで、外側リム22の剛性を向上させることも可能である。浮力室60には、空気若しくは他の気体、液体、軽量の固体要素、又は1以下の比重を有する他の素材を充填させることが可能であるが、最も好ましくは、ポリマーフォーム等の実体性のある構造的特徴を有する浮力材61を充填させる。ポリウレタン等によって例示されるこのポリマーフォームは、予め成形したうえで浮力室60に配置するか、又は浮力室60の内部に射出することができ、後者については、硬化の過程で浮力室60の内面に対する接着力が形成される点で好ましい。フォーム自体の剛性及び浮力室60の壁との接着した境界部により、ロータ20の全体としての剛性及び構造的な一体性が増進される。浮力室60の寸法及び浮力材61の選定は、個別の条件に応じた所望の大きさの浮力が働くようにしてなされる。例えば、ある条件ではロータ20を僅かに軽くする程度とするのが好ましいであろうし、他の条件ではロータ20の重量を浮力に関する中立点にまで減少させるのが好ましいであろうし、更に別の条件では、ロータ20がステータチャネル32の上方に浮いて、あらゆる摩擦の影響がこのチャネル32の上側部分に生じるように、ロータ20が水に対して正の浮力を有するまでその重力を減少させるのが好ましい場合もある。
【0018】
環状の外側リム22に設けられる浮力室60に代え又はこれに加え、図6のように浮力室60を環状の内側リム23及び/又はブレード21の内部に設けることも可能である。以上で述べたように、内側リム23及びブレード21の浮力室60には、空気若しくは他の気体、液体、軽量の個体要素、又は1以下の比重を有する他の素材を充填させてよいが、最も好ましくは、ポリマーフォーム等の実体性のある構造的特徴を有する浮力材61を充填させる。
【0019】
このようにして、ロータ20が有する際立った重量に起因してロータ20及びステータハウジング30の間で生じる摩擦の悪影響が軽減又は解消されるので、始動がより円滑に達成されるとともに、より効率的な回転が可能となる。
【0020】
状況に応じ、例えば、水上タービンが望まれるような場合は、ステータハウジング30の重量も減らすのが好ましい。図5のように、ステータハウジング30の内部に1以上の浮力室60を設け、この浮力室60を、硬化後配置されるポリマーフォーム又は以上で述べた他のあらゆる素材等の浮力充填材61で充填させ、好ましくは、ハウジング30に剛性及び構造的な一体性を付加する素材で充填させる。ステータハウジング30がタービン10の静止要素であることから、水中でのタービン10の安定性を増大させるため、浮力室60は、ハウジング30の最上部に位置させるのが最も好ましい。
【0021】
以上で述べた要素に対する均等物又は置換物が当業者にとって明らかであると理解されることから、本発明の範囲及び意義は、添付の請求の範囲に述べられるところに従って定められる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと、
前記ロータを収めるステータハウジングと、
電気を生じさせる発電手段と、
を含んで構成され、
前記ロータは、ブレードに取り付けられた外側リムを備え、
前記外側リム及び前記ブレードの少なくとも一方に、1以上の浮力室が設けられた浸水式流体駆動タービン。
【請求項2】
前記ロータが前記ブレードに取り付けられた内側リムを備え、前記1以上の浮力室がこの内側リムに設けられた請求項1に記載のタービン。
【請求項3】
前記1以上の浮力室に設けられた浮力充填材を更に備える請求項1又は2に記載のタービン。
【請求項4】
前記浮力充填材が1以下の比重を有する請求項3に記載のタービン。
【請求項5】
前記浮力充填材として空気又は他の気体を有する請求項3又は4に記載のタービン。
【請求項6】
前記浮力充填材としてポリマーフォームを有する請求項3又は4に記載のタービン。
【請求項7】
前記1以上の浮力室が前記ロータの全周に亘って延伸する請求項1〜6のいずれかに記載のタービン。
【請求項8】
前記1以上の浮力室として互いに隣り合わせて形成された複数の室を有する請求項1〜7のいずれかに記載のタービン。
【請求項9】
前記1以上の浮力室としてその縦方向に連続して形成された複数の室を有する請求項1〜8のいずれかに記載のタービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−543970(P2009−543970A)
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−519840(P2009−519840)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【国際出願番号】PCT/EP2007/006234
【国際公開番号】WO2008/006601
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(509014010)オープンハイドロ グループ リミテッド (9)
【氏名又は名称原語表記】OPENHYDRO GROUP LIMITED
【Fターム(参考)】